正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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海賊帝国副総督編
新世界からの招待


 人の集まる酒場は情報の宝庫だ。

 

「“海賊帝国”って……国を築いてるの?」

 

「何だ、知らねェのか? 2年前の頂上戦争で勝利した金獅子海賊団を除く“百獣海賊団”と“ビッグマム海賊団”の“四皇”同盟……この両勢力を総称して“海賊帝国”と呼ぶんだ」

 

 いつの時代も酒は人の下を離れない。時勢が荒れ、人々が荒んだその時代にこそ酒を人は求める。

 海賊に無法者が溢れるこの時代に酒場が賑わい、情報が集まるのは当然のことだった。──“新世界”を目指す海賊達の前線基地となるこの“シャボンディ諸島”であれば尚更のこと。

 酒場のカウンターでは店主らしき巨大な刀と銃を背負った荒くれ者がカクテルを差し出しながら情報を求めてきた美女に向かって饒舌に語る。屈強な無法者を相手に商売する店主にとって目の前の美女は恐れるに足らず。代金と僅かなチップをくれるのならば誰にだって口は軽くなる。

 オレンジ色の美しい髪──昔と違ってゆるいウェーブがかかった長い髪を持つ美女も情報のためにあえて無法者で活気づくこの酒場を選んだ。

 もっとも、今のシャボンディ諸島で無法者がいない酒場など存在しないのだが。

 

「“白ひげ”が死に、世界政府が倒れて世界中の秩序が崩壊しただろ? 当然それによって勢力を拡大したのが海賊帝国。今や“新世界”はほぼ海賊帝国のナワバリさ」

 

「……でも“新政府”は抵抗してるんでしょ?」

 

「まァな。とはいえ海賊帝国の勢いを止める程ではねェ。“赤髪”に“千両道化”のこっちの“四皇”同盟もな。こっちの前半の海はまだ新政府の影響が強いが、“凪の帯(カームベルト)”を挟んで新世界と隣接する“北の海(ノースブルー)”や“西の海(ウエストブルー)”はかなり侵攻が進んでるって話だぜ」

 

「なら“南の海(サウスブルー)”や……“東の海(イーストブルー)”は?」

 

「“南の海(サウスブルー)”は少し混沌としてるって聞くな。“東の海(イーストブルー)”は“新政府”の影響も強いからな。他の海に比べれば平和なもんさ……時間の問題だとは思うがね」

 

「成程ね……」

 

 店主の言葉を聞いてほんの僅かに不安を解消する美女。彼女の故郷である“東の海(イーストブルー)”には大切な家族がいる。知り合いも多い。酒場の店主から得た確実ではない情報ではあるが、今はまだ平和と聞けば胸を撫で下ろせる。

 しかしやはりと言うべきか“世界政府”が滅んだ影響はかなり大きいらしい。予想以上に世界は終末染みている。酒場の外では子供を抱えた母親とまた別の子を連れ歩く父親が銃や刃物を携えて道を歩いていた。父親が被る帽子には髑髏が描かれている。それを見て美女は眉根を寄せた。

 

「……!」

 

「子連れの海賊だ。初めて見たか? 最近はもう珍しくもないぜ」

 

「……どの島でも増えてるの?」

 

「ああ。何しろ真っ当な仕事じゃ食っていけねェ奴が増えた。戦争や略奪で真っ先に路頭に迷うのは力のない“弱者”だ。そういう奴が生き延びるには自分達も武器を手に取って無法者になるしかねェ。ガキや女房を食わすために海賊に身を落とすのも今は生きるための立派な選択だな。今の時代は……“力”が全てなんだからな」

 

 まあ元々海賊相手に商売してたりすれば話は別だが、と店主は言う。その発言に美女は何も言わずに小さく鼻白む。

 店主が悲観的でないのはその海賊相手に商売をして潤っている者の1人だからだろう。海賊が増えたことでより懐が温まって良い思いをしている人物。海賊を相手に商売をしたり、海賊の悪行に加担することを全く悪びれない者達は容易に海賊と手を組んで今の世界でも生き残る。

 だがその一方で善良な多くの人々は“弱者”として路頭に迷うしかない。

 海賊や犯罪者に身を落とせればまだ幸せであり、それすら出来ない力のない者や不運な者、善良な者は生きるために必要な何もかもを奪われて死ぬ。

 ここ1年で“世界経済新聞”──2年前までは幾つも存在した新聞社で唯一残っている新聞でも飢餓や紛争を大々的に報じなくなった。どれだけ死亡者が出ようと片隅に小さく載るのみ。時勢的に重要でなければ、あるいはよっぽど酷いものでなければ一面に載ることはない。

 そして人々もまたそれを見て大きく驚くことはない。この2年で人が死ぬことはより身近で日常になったのだ。人々が驚かない情報を大々的に載せることを世界経済新聞(モルガンズ)はしない。

 

「──あァ!? おれの聞き間違いか!? “麦わらのルフィ”だと……!?」

 

「!」

 

 パン、と酒場の中で乾いた銃の音が鳴り響く。

 店内にいる者達が音の鳴った方を見ればそこには鉛玉で腹を撃ち抜かれて倒れる大柄な麦わら帽子の男がいた。

 喧嘩や流血沙汰、殺人などは最早珍しくもない。本来なら酒場にいる者達も多少注意するくらいで特に驚くこともないのだが、今回は話が別。銃を撃った相手が問題であった。

 

「おいおい!! まさかと思って試したが違うじゃねェか!! “麦わらのルフィ”は“ゴムゴムの実”の能力者だろう」

 

「ええ!! 本物なら銃なんて効く筈がありません、ポーカー様!!」

 

「そうだよな。チッ、せっかく任務完了かと思ったのによ!!」

 

「ウアァ……!! ま、待ってくれ……おれは本当は“麦わらのルフィ”じゃ……!!」

 

「知ってんだよバカ野郎。死ね」

 

「やめ──ギャアアアア!!!」

 

 酒場に麦わら帽子の大男の断末魔が木霊する。

 麦わら帽子の男よりも大きい銃を撃った身長3メートル程の大男は命乞いを全く聞かずに男に向かって何度も引き金を引く。

 目元を隠す長い前髪の大男は蛇のような舌を出しながらニヤニヤと男を見下ろした。そしてその彼の頭の2本の角と彼の部下達を見て酒場の客がざわつき、しかし声を潜めるようになる。

 店主も例外ではなかった。彼らを見て訝しんだ美女がひそひそ声で店主に尋ねる。

 

「……あいつら、何なの?」

 

「し、知らねェのか!? ひゃ、百獣海賊団だよ……!! ありゃしかも“真打ち”……!! 何でウチの店に……!?」

 

「! あれが……!!」

 

 酒場内の流血沙汰に顔色1つ変えなかった美女が初めてそこで顔色を変える。それもそうだろう。何しろ彼女も海賊。あの“麦わらの一味”の航海士である“泥棒猫”ナミだ。そこらのチンピラ同士の流血沙汰は恐れずとも、それが“四皇”の一味ともなれば汗を掻くのも致し方ない。

 緊張する店内の雰囲気と、修行を終えて仲間との合流を控えていることもあってか昔のように大きく狼狽えることは我慢したが、それでも固唾を呑んで見守るしかない。何よりそのやり取りの内容が気になった。気を失い、大量の出血で死を待つのみとなった男に腰掛ける“ポーカー”と呼ばれた大男は懐から取り出した手配書を指差して部下に声を掛ける。

 

「見ろ。人相もよく見りゃ全然似てねェ。こりゃとんだまがい物だな」

 

「ならどうします? この自称“麦わらの一味”」

 

「ヒィ……!!」

 

「た、助けてくれ!! お、おれ達はそのデマロの奴に言われて……!!」

 

「全員殺そう。偽物なら手を出しても問題ねェ。首を持ち帰って見せりゃ()()()も面白がって喜ぶかもしれねェしな」

 

「ギャハハ!! 了解!!」

 

「そ、そんなァ……!!」

 

「い、嫌だ~~!! だ、誰か助けてくれ~~~~!!」

 

「…………」

 

 偽物の麦わらの一味と思われる複数の男女が百獣海賊団の手によって捕らえられる。彼らは必死に命乞いをし、周りに助けを求めるが誰も応じようとはしない。当然のことだ。百獣海賊団に手を出せば待っているのは“死”だ。今の世界での常識。“生きたければ海賊帝国、とりわけ百獣海賊団には手を出すな”。逆らって滅んだ国や島はごまんとある。そのどれもが死が救いとなる程の地獄を見て死んでいったか、終わらない生き地獄に今も囚われているという。

 酒場の客は揃って彼らから目を逸らした。例外は彼らの会話が気になった本物の麦わらの一味であるナミだけで。

 

「……(()()()?)」

 

「……どうやら帰るみてェだな……話を聞く限りあの麦わらの一味の偽物が機嫌でも損ねたのか……余計なことしてくれる。寿命が縮んだぜ」

 

「……あいつら、よくこの島に来るの?」

 

「あいつらって……ひゃ、百獣海賊団か? ……言われてみりゃよく島に来てるって聞くな。この辺で見たのは初めてだが……武器や奴隷でも卸してんのかもしれねェな……」

 

「……そう、わかったわ。ありがとねマスター」

 

「お、おう嬢ちゃんも気ィつけてな」

 

 ナミは礼を言うとお代をカウンターに置いて足早に酒場を後にする。

 仲間が全員集合するまでに多少は時間を要するだろうが、それでもこんな物騒な連中がいる場所では飲めない。一刻も早く離れた方が良いと判断し、ナミは船へと戻っていく。

 

 ──だがその直後に百獣海賊団に動きがあった。部下の報告の声がポーカーへと届く。

 

「ポーカー様!! 船の方で“麦わらの一味”を確認したと報告が……!!」

 

「やっとか。だったら任務は終了だな。報告してさっさと“新鬼ヶ島”に帰るぞ」

 

「はい!!」

 

 部下に指示を出してポーカーは偽物の麦わらの一味を連れて酒場を出ていく。お代は払わず、酒場には鮮血と硝煙だけが残ったが、力ある彼らに物申す者はこの場に誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 シャボンディ諸島、33番GRは無法者達の天国となったシャボンディ諸島内でも唯一治安が良い地区だ。

 有数の観光名所であるシャボンディパークにライブ会場であるシャボンディドームがあるのがその根本の理由だが、犯罪を犯す者が少ないのはここにはとある海賊の旗が掲げられているからである。

 特にシャボンディドームは顕著だった。楽屋に張られたポスターを見て約束を果たすためにこの島にやってきた音楽業界の大スター“ソウルキング”ブルックは手長族のマネージャーにそのことを尋ねる。

 

「マネージャー!! ここが他の島や地区より荒れてないのはどういうことだぜ!!?」

 

「え? ……ああ、それは前にもお話した通り“四皇”のナワバリであるからでして!! 音楽業界は特に庇護を受けてるんですよ!! 何しろTDセールスランキングの不動のNo.1が()()()()ですからね!!」

 

「……成程だぜ!!」

 

 ブルックは楽屋に張られたとあるポスターの片隅に描かれた髑髏を見て納得する。そこには“二本角の髑髏”が描かれていた。

 シャボンディドームやシャボンディパーク内、33番GRにはその髑髏が幾つも掲げられており、諸島の無法者達もこの場所では決して騒ぎを起こすことはない。騒ぎを起こせばどうなるか、誰もが理解している。この海に生きる者であれば誰でも。

 音楽業界でこの2年を過ごしてきた海賊ブルックはその海賊の恐ろしさを時折耳にした。TDの売上で唯一抜くことが出来なかったとあるアーティスト……アイドルは何を隠そうこの髑髏を掲げる怪物だ。

 

「いずれ関わることになりますよ!! この島でのライブが終われば次は新世界でのツアーです!! フェスでの参加も予定しておりますのでお願いしますよ!!」

 

「……悪いがそれは出来ないんだぜ!!」

 

「え?」

 

 だがブルックは既に覚悟を決めていた。いや、彼ら一味の誰もがそうだろう。

 2年の修行はこの先の海を越えるため。海の皇帝である彼ら“四皇”を打倒し……船長を“海賊王”にするためだと。

 

 

 

 

 

 新世界に向かう海賊達の寄港地であるシャボンディ諸島には毎年、少なからず前半の海のサバイバルを勝ち抜いてきた大型新人──億超えルーキーが現れる。

 

「おい聞いたか!?」

 

「ああ!! あの“麦わらの一味”が今この島に現れたらしいな!!」

 

「船長の首は“4億”だぞ!! こりゃ放っておけねェな!!」

 

 そして賞金稼ぎや名を上げたい海賊は高い懸賞金を懸けられた彼らを狙って襲撃を掛けようとする。

 今は奪い合うことが正義の時代だ。元々海賊から何を奪おうが罪を問われることはないが、大手を振って殺人や略奪を行えるのが今の時代の良いところである。

 貧困に喘ぐ者達であればたった100ベリーのために人を殺すこの時代で億を超える首がそこにあれば狙わない手はない。より高みを目指すのならばなおのこと。

 だが今このシャボンディ諸島で最も高額の賞金首は……普段やってくる新人とは“格”が違った。

 

「──ケヒヒヒヒ!! ようやく見つけたぜ“麦わらの一味”ィ~~~!!! お前さんらを全員ブゥチ殺して~~~!!! その首を手土産に新世界に乗り込むぜェ~~~~!!! 行くぞコリブー!! 野郎共!!」

 

「わかった兄助!! 殺して埋める!!!」

 

 カリブー海賊団の両船長。億超えルーキーの2人は部下達を引き連れてその海賊の首を取るために号令を掛け、一斉に襲いかかる。

 カリブーは最強種、自然(ロギア)系悪魔の実“ヌマヌマの実”の能力者であり、前半の海では無敵を誇り、弟のコリブーも決して弱くはない戦闘力の持ち主だ。その部下達も戦闘に慣れた凶悪な者達。

 

「──“ギア(セカンド)”」

 

 だがそんな前半の海で名の知れた海賊でも。

 

「“ゴムゴムの”……」

 

 新世界レベルの強者には──敵わない。

 

「“JET(ピストル)”!!!」

 

「!!!」

 

 自分を無敵と勘違いしてきた“自然(ロギア)系”の寿命は短い──新世界ではそう言われるように。

 麦わら帽子の青年は拳に覇気を纏い、自然(ロギア)系能力者であるカリブーの実体を捉えて一蹴する。それに動揺するコリブーや部下達もまた、三刀流の剣士と金髪のコックによって容易に伸される。

 

「おれの方が多く斬った!!」

 

「おれの方が多く蹴り倒しただろ!!」

 

 “海賊狩りのゾロ”に“黒足のサンジ”──麦わらの一味の主力である2人は互いに襲撃を掛けてきた有象無象の海賊達を蹴散らし、それを無視してどっちが多く倒したと張り合うように喧嘩を始める。

 だがそれも見慣れた光景であり、しかし懐かしい光景だ。船長である青年はそれを見て大声を出して再会を喜ぶ。

 

「ゾロ!!! サンジ~~~~!!! 2年振りだ!! 久し振りだな~~~~!!!」

 

 ──海賊“麦わらの一味”船長”麦わらのルフィ”。

 懸賞金4億ベリー。“最悪の世代”に数えられる大物海賊がその凶悪な経歴とは裏腹に屈託のない笑顔で仲間を迎える。一見すればその人相、風貌は旧・政府の三大機関で暴れまわった海賊にはとてもではないが見えない。

 だがカリブーを一撃で倒したその実力は本物だ。彼らを狙う海賊、賞金稼ぎ達はその強さに恐れをなす。

 

「あれが麦わらの一味……!!」

 

「強ェ……!! だが、討ち取れば一生遊んで暮らせ……」

 

「怖気づいてんじゃねェ!! 一筋縄じゃいかねェことはわかってただろ!!」

 

「ああ……!! 何せ“麦わらのルフィ”はかつて“四皇”の“バギー”と対等に渡り合ったと言われる程の海賊……!!」

 

「怯むな!! 数で押せばどうにかなる!! 賞金はおれの物だァ~~~!!!」

 

 しかし金に飢えた無法者達は恐れをなしても怯むことはなく麦わらの一味の3人に襲いかかることを止めはしない。その勢いにはさすがの3人も反応した。

 

「2年前より随分島が荒れてるな」

 

「どうする? かなり多いが準備運動がてら蹴散らすか?」

 

「ん~~~!! でも騒ぎを起こすなってハンコックに……」

 

 ゾロとサンジが船長であるルフィに判断を仰ぐが、ルフィの方はあまり騒ぎにしないという約束をこの島に来る時に結んでいるため首を捻って渋る。

 だがそんな彼らに助け舟が来た。

 

「フフフ……随分追われてるが……問題はなさそうだな」

 

「あ! レイリー!!!」

 

「おい!! 何をこんなとこでグズグズしてんだ!!?」

 

「げっ……まだいたのかお前!!」

 

「サンジキュ~~~~ン♡ 助けに来たわよォ~~~~♡」

 

「来んな!! 呼んでねェよ!!!」

 

 麦わらの一味の2年の修行。その際にそれぞれが世話になった者達は一味をこの島に送り届けて見送りと手向けを行う。

 サンジに修行をつけたカマバッカ王国のオカマ達にサンジが中指を立て、ゾロに修行をつけたミホークと同じ島に飛ばされていたペローナを見たゾロが苦い顔をし、ルフィに修行をつけた海賊王の右腕“冥王”シルバーズ・レイリーが他の者達と同様に麦わらの一味を狙う無法者達を足止めした。

 そしてその世話になったレイリーに。他の者達や襲撃者も含めて皆に聞こえるようにモンキー・D・ルフィは両手を挙げて宣言する。

 

「“海賊王”に!!! おれはなるっ!!!!」

 

「……ああ……頂点まで行って来い!!!」

 

 世界で最も偉大な海の王になるという宣言を、レイリーは今までの思い出と過去を思い出し、僅かに涙と微笑を浮かべると最後の激励を行って送り出す。

 彼らの海賊船“サウザンドサニー号”のコーティングを終え、縁ある大勢の人々に助けられて──麦わらの一味は遂に再出発する。

 

「出航だァ~~~~~~~~!!!」

 

「オオオオオオ~~~~~~!!!」

 

「行くぞォ!!! 魚人島ォ~~~~~~!!!」

 

 一味はかつて海底の楽園と呼ばれた“魚人島”へ向かって出航する。

 その船出は仲間との2年振りの再会の喜びもあり──未来への希望へ満ちていた。

 

「行っちゃったわね」

 

「……ああ」

 

 だが──先人達は出航を喜びながらも、この先の海の厳しさを知っている。

 今の“新世界”はまさしく新時代の中心地。すなわち“暴力の世界”を最も体現する地獄。世界最強の海だ。

 如何に2年の修行を終えた才能ある若者達であっても……無事に夢を果たせるかは未知数。いや、その可能性は限りなく低い。

 

()()()……言わなくて良かったの? レイさん」

 

「……必要ないだろう。聞いても聞かなくても彼らの行動は変わらない……それに彼女は彼らではなく私に借りを返しただけだ」

 

 煙草を咥えたシャッキーの言葉にレイリーはそう答え、しかし思い出す。ルフィ達には語らなかった──彼らが無事である事情を。

 それは約1年前の事だ。

 

『──君達が船を守ると?』

 

『ええ。良いでしょ? 放っておいたらそろそろあの“トビウオライダーズ”とかいう面白い護衛達もやられちゃって船を守る人がいなくなりそうだしさ』

 

 レイリーの持つ連絡用の電伝虫にある日、連絡が来た。

 相手は数年以上会っていないとある海賊で、レイリーにとっては弟子とも言える相手。

 しかしもうずっと昔に袂を分かった人物であり、凶悪な海賊である彼女の申し出にレイリーは神妙な顔つきで答える。

 

『……何が狙いかね?』

 

『ん~? いやいや狙いなんてないってば!! ちょっとした親切だよ親切!! ファンの1人としては修行前に船壊されてゲームオーバーなんてエンディングは求めてないからね!!』

 

『……悪いが信用出来ん。昔の君ならともかく……今の君が面白半分で彼らを破滅させないとは言い切れんからな』

 

『しないってば!! 今潰しても面白くないし!! ……それにこれはあなたへの借りを返す意味でもあるんだよ?』

 

『何?』

 

 借りという言葉にレイリーは訝しむ。電伝虫の先の少女はにっこりとした笑顔で頷いた。

 

『そう、借り♡ だってあなたには昔戦い方を教えて貰ったでしょ? よくよく考えれば命を助けて貰ったのとは別にそっちの借りもあるな~って思ってね』

 

『……確かに。そんなこともあったが……だがこちらは貸したとも思っていないぞ?』

 

『私が返したいんだからいいの!! ()()終わる前に貸し借りは全部清算したくてね!! これを逃すと返せる機会もなさそうだもん。それに……返す前に死なれちゃうと困るしね』

 

『! ……そうか』

 

 レイリーはその相手の言葉に何とも言えない苦い顔を浮かべる。正直、彼女がこれまでにしでかした事を考えると引退した身とはいえあまり仲良くもし辛いのが心情だ。色々と思うところはある。

 彼女の評判を考えれば借りを返したいという申し出も罠の可能性はあった──が……とはいえレイリーの知る彼女の性格を考えるとこれは嘘ではないのだろう。言葉の端からもそれは読み取れる。

 だからこそレイリーは息をついた。弟子の為もあって警戒していた空気をほんの少しだけ弛緩させる。

 

『昔と違って可愛げもなくなったと思っていたが……律儀なところは変わらないな』

 

『それは聞き捨てならないなぁ。今も可愛いでしょ?』

 

『褒め言葉だとも。良くも悪くも君は昔のような可愛げのある見習い海賊ではない。凶悪で人々から恐れられる……本物の海賊だ』

 

『ふふん、ありがと。それじゃそのうち部下を向かわせるね。ちょうどライブ会場の保護をしたかったところだからさ!!』

 

『ああ、助かる。ハチやデュバル君達ではそろそろ守りきれず、どうしたものかと思っていた……』

 

 正直なところ、船を守るための手段が尽きて悩んでいたところであったため、思うところはあるがレイリーはそれを受け入れる。彼女の手があるなら問題ない。このご時世に彼女達を敵に回すような無法者は中々いない。シャボンディ諸島にいるような海賊ならば皆無と言っていいし、いたとしても彼女の部下であればそれも跳ね除けられるだろうと。

 だが礼を言いつつもレイリーの表情は目を伏せたままだ。思うところは変わらない。最早自分すらも超えたであろうかつての知り合いに、レイリーは敢えて予言めいた言葉を告げた。

 

『──ルフィ君はいずれ……君達を討ちに行くぞ』

 

『! ……あはは!! そうなったらいいね!! もしその時が来たら()()()として……全力で叩き潰してあげるよ♡』

 

 相手の返答は余裕のものだった。まだ本気で期待している訳でもなければ、そうなったとしても負けるとは微塵も考えていない自信に満ちた返答。

 もしかしたら慢心とも取れる発言だが、しかし──だからこそ強い。自分を信じ切っている。その意志の強さは覇気の強さにも比例するのだ。

 そして実際に2年の修行を終えても……彼女達に“一対一”で勝てる可能性はほぼないと言っていい。そこからどれだけ成長したとしても、頂点と並び立つにはまだまだ時間が掛かるだろう。

 

 ──だがそれでも。

 

「……ルフィはまた一段と……あの帽子が似合う男になった……!!」

 

 その未来をレイリーは信じる。

 “支配”ではない。この海で最も“自由”な男こそが“海賊王”だと2年前、レイリーの質問にルフィは答えた。

 最強になることが“海賊王”の条件ではない。ロジャーも全ての敵を倒してそうなった訳ではない。

 

「長生きして良かったと……そう思わせてくれよ。ルフィ君……!!」

 

 まだ完全に終わった訳ではない。

 どれだけ低い可能性でもその希望は確かに残っている。レイリーはそう信じて、出発したルフィ達のことを思い、言葉にして一味の旅の無事を祈った。

 

 ──だが海中を航海する麦わらの一味は早速“新世界”からの刺客を迎えていた。

 

「おい、十二時の方角になんかいるぞ!!! あれは……人魚!!?」

 

「人魚!!?」

 

 双眼鏡を使って海中を観察していた狙撃手のウソップが船の進行方向にヒラヒラした着物のような衣服を身に着けた人魚を発見し、一味に伝える。すると一味は全く同じ言葉で反応した。女好きのサンジだけは目をハートマークにして声にもそれが見える程だったが、美しい種族として有名な人魚がいると聞けば見惚れるのは珍しいことではない。

 しかし一味全員にとって人魚と聞けば2年前に出会った友達のケイミーを連想する。案内してくれるという約束通り来てくれたのかと彼らは思ったが──その人魚は彼らの知るケイミーよりも大人で何倍も大きい8メートル程の長身を持つ美しい人魚だった。

 

「はぁ……やっと来ましたか……“麦わらの一味”……」

 

「うお!! 船に乗り込んできたぞ!!?」

 

「う、美しい人魚のお姉様~~~~♡ 一体何の用で!!?」

 

 そしてその人魚は麦わらの一味を見つけるなり、大きく溜息をついて船のシャボンの中に入って甲板へ降りてくる。やはりサンジがその美しい容姿にデレデレになるが、他の一味は人魚がなぜ船に乗り込んできたのか、驚きつつも半ば歓迎しつつ疑問していた。

 だがその人魚の言葉にすぐ彼らの思いは疑問一色になる。ダウナーな様子でその女人魚は自己紹介をした。

 

『百獣海賊団“真打ち”ソノ リュウグウノツカイの人魚』

 

「私はソノ。百獣海賊団の“真打ち”で……皆様の案内役を仰せつかって来ました」

 

「え……!!?」

 

「案内役!!?」

 

「海賊って言ったか!!?」

 

「いや、それよりその名前……!!」

 

「はい。“四皇”カイドウ様とぬえ様の名の下に……あなた方麦わらの一味を──“新世界”へご招待致します」

 

「!!?」

 

 ソノと名乗ったその人魚は一味に向かって慇懃に礼をして告げる。一味はその名前と“四皇”という名称、そして招待するという言葉に誰もが驚いた。

 海賊“麦わらの一味”の再出発は早速“四皇”の一味との邂逅を果たし、早くも妖しい暗雲が立ち込めていた。

 

 

 

 

 

 海底の楽園“魚人島”を目指す船の7割はそれを目にすることなく沈没するというのが通説だ。

 海の中は危険が多い。海獣や海王類、深海の生物や海底火山などの海難事故も多く、生半可な航海術ではその航路を攻略出来ず、運が悪ければ航海術を持っていても辿り着くことは叶わない。

 しかし魚人や人魚の案内があれば航海はずっと楽になる。海獣に船を引かせればより安全に航海が出来る。それらはよく知られた事実でありながら人魚や魚人の協力を得ることや海獣を捕まえることの難しさから中々取られない方法であった。──だからこそこの人魚がやってきたのかとウソップは甲板に寝転がる人魚に確認を取る。

 

「……つまり、おれ達を安全に魚人島に送り届け、“新世界”まで案内するためにやってきたってことか!?」

 

「はぁ……そうなんじゃないですかね……」

 

「なんで自分のことなのに曖昧なんだよ……そ、それよりお前……さっき“四皇”って聞こえたが……嘘だよな?」

 

「いや、嘘ではないですが……私は百獣海賊団の幹部の“真打ち”です」

 

「──ルフィ!! こいつは危険だ!! 今すぐお帰り願おう!!!」

 

「へェ~~“四皇”かァ……2年前にも会ったなァ」

 

「やっぱお前らの船長は強ェのか?」

 

「はい。それはもう怪物で……」

 

「お姉様♡ お食事をどうぞ♡」

 

「ってオイ!! なに普通に仲良く談笑してんだよ!!!」

 

 頭の帽子から2本の角が生えているその人魚が“四皇”の一味の幹部と分かると、ウソップが直ぐに船長に関わらないことを直訴するが、ルフィ、ゾロ、サンジと言った一味の怪物3人組は特に狼狽えることもなくソノと話をしていた。サンジに至っては食事とドリンクを出す始末で思わずウソップがツッコミを入れる。しかも出した食事はさっき一味が仕留めた魚。それに気づいたロビンが指摘する。

 

「人魚って魚は食べないんじゃなかったかしら?」

 

「あ!! こいつはいけねェ……!! すぐに取り替えるよソノちゃん」

 

「いえ、問題なく。魚は好物です。特に好きなのは生の魚で……寿司やカルパッチョが特に好みですね」

 

「オォイ!! 魚は友達じゃねェのかよ!!!」

 

「友達ですよ。友達が無駄死にするのを見過ごせません……おや、この魚は前に食べた時よりも脂が乗っていて美味しいですね。そういえば今が旬の季節でしたか……」

 

「なんてファンキーな人魚だ……」

 

 魚と話が出来る特殊能力を持つ人魚族は魚を食べずに貝類を食すことで知られるため、サンジが慌てて取り替えようとしたがその時にはソノはサンジの料理を次々と口にしていた。寝転がったまま。その口ぶりとも合わせて船大工のフランキーが呆れたように呟く。

 サンジの料理や大半の一味が動じず出迎えたことで半ば歓迎ムードが漂う船内だが、一味の大人組であるロビンやフランキー、ブルックは冷静であり、航海士のナミなども警戒はしていた。ソノから敵意こそ感じないが、“四皇”の一味というだけで警戒はどれだけしてもし足りない程。その目的もまた理由が不明だ。

 

「……ソノ、だったかしら。案内に来てくれたことは分かったけど理由は? 何で私達を“魚人島”に……“新世界”に案内するの?」

 

「そうね。一応は敵だもの。罠という可能性も否定は出来ないわ」

 

「ヨホホホホ!! 我々を案内するメリットがありませんからね!!」

 

 ナミ、ロビン、ブルックが続けて疑問を口にする。するとソノは顔色をすぐに変えた。

 

「ウ……」

 

「ど、どうしたんだ? やっぱり罠……」

 

「いえ……喋り疲れました……はぁ……後は適当に推察を……それとベッドを貸してくれませんか?」

 

「え~~~~!!? 案内は!!?」

 

 船医のチョッパーがソノの適当さと緩さに大声でツッコむ。悪名高い“四皇”の幹部であり、仲間から罠かもしれないと聞いてチョッパーも怖がっていたがソノによってペースを乱されていた。甲板の芝生に寝転がって今度は横になるソノは喋り疲れたと言って一味の質問に答えない──かと思われたが、ソノは気怠そうにしながらも返答する。

 

「魚人島は今……我々百獣海賊団のナワバリであり傘下の新魚人海賊団……いえ、“魚人帝国”が治めておりますので……」

 

「! ……魚人帝国?」

 

「はい……魚人帝国は人間の入国を認めていませんので人間の船が魚人島に入ることは出来ません。今や9割以上の船は新世界に到達することなく深海の藻屑となってしまうので……そのため皆様がきちんと新世界に来れるように私が派遣されました……」

 

「人間は入国出来ない!!?」

 

「オイオイ……どんな法律だ? 魚人島は海底の楽園じゃねェのかよ」

 

 新魚人海賊団に“魚人帝国”。その単語を聞いたナミが目の色を変え、ソノの説明に一味が驚愕する。魚人島の噂をよく知るサンジもまた食べ終わった皿を片付けながら疑問を口にした。

 魚人島は百獣海賊団の傘下であるその新魚人海賊団が治めている。それを聞いたゾロは目を細めて結局は分からない理由を問う。

 

「それに……解せねェな。“敵”を懐に呼び込む理由は何だ? おれ達を助ける理由が見当たらねェ。何か貸しがある覚えもねェしな」

 

 恐れてはいないがそれでも“四皇”というビッグネームを相手に警戒は怠らずにゾロが素面で問うとソノはやはり気怠そうに答えた。警戒色の強くなった一味を前に──

 

「ああ……その点はご心配なく……我々百獣海賊団は麦わらの一味を──“敵”とはみなしておりませんので」

 

「!!」

 

「……!」

 

 大胆にもそう言ってのける。

 侮辱であり挑発とも受け取れる言葉だ。完全にナメられていると分かって一味の表情が僅かに険しくなり、空気がピリつく。だがそれすらも構わずにソノは言うべきことだけを淡々と口にした。

 

「“麦わらの一味”は大切なお客様として“新世界”へ迎えるように言付かっております。どうぞ海底の地獄と言われる魚人島を思う存分観光し、新世界の旅をお楽しみ下さいと……」

 

「……つまりおれ達程度の格下海賊団は“四皇”の眼中にないってことか」

 

「随分余裕振ってくれるな……」

 

 そしてさすがにその言葉には女性を大事にするサンジも真面目な表情となり、ゾロもまた“四皇”の驕りっぷりに剣呑としつつも内心でさもありなんと納得する。いずれその慢心を後悔させてやると静かに意志を燃やした。

 

「気に障ったのであれば申し訳ありません。ですがあなた方を送り届けることは上からの命令で──」

 

「そんなことよりよ!! “四皇”の部下だって言うなら伝えてくれ!!」

 

「……? はぁ……何でしょう?」

 

 そしてなおもソノが任務を遂行しようと口を回したそれを差し止めるように、一味の船長であるルフィがソノに向かって言い放つ。大胆不敵にもその宣言を──

 

「“海賊王”になるのはおれだからな!!! “新世界”でブッ飛ばしてやるから覚悟しとけ!!!」

 

「!」

 

 “海賊王”を目指す“四皇”の1人に向かって。宣戦布告とも取れる言伝を頼む。

 それを聞いたソノは僅かに動揺して無言の時間を思わず作った。本気なのか。それともイカれているのか。怖いもの知らずにも程があると。

 世界最強の海賊である自分達のボスに向かってそれを口にするなど──まともな神経をしていたら口が裂けても言えない言葉だ。ましてやそれを伝えては死んでも文句は言えない。仲間が地獄を見る羽目になる。そのことをこの船長は分かっているのだろうかと。

 

「……いいんですか?」

 

「おう!! 頼む!! そのためにおれ達は2年間修行したんだからな!!!」

 

「はぁ……やめといた方がいいと思いますが……伝えろと言うなら伝えます。何なら今から電伝虫で……」

 

「だったら直接言うぞ!! おれに代わってくれ!!」

 

「やめろバカてめェ!!!」

 

「いきなり何言おうとしてんのよ!!?」

 

「ベフゥ!!?」

 

 話が進み、伝えるのが面倒だと感じたソノがさっさと終わらせようと電伝虫でも繋ごうかと口にし、それにルフィが応じて直接伝えると自信満々に言ってのけた瞬間、ウソップやナミなど仲間の殴打を食らってルフィは甲板に沈む。チョッパーも含めた3人は後先考えない船長に焦りから来る怒りを見せる。

 

「あんたバカ!!? これからその“四皇”のナワバリに入るってのに宣戦布告してどうすんのよ!!!」

 

「新世界にまだ着いてすらいねェのに出発していきなり“四皇”に喧嘩を売る奴がいるかてめェ!! 戦争でもする気か!!?」

 

「……繋ぎますか?」

 

「やめてくれ!! ルフィはバカなんだ!! “四皇”と会話なんかしたらすぐに余計な事言って怒らせちまう!!!」

 

「はぁ……わかりました……繋ぐのはやめときます」

 

 頭にタンコブを作って沈むルフィに怒るナミとウソップ。電伝虫を繋ぐか迷うソノに必死に懇願するチョッパーを見てさすがのソノも呆れながらそれを取りやめる。どうやら船長はともかく仲間にはまともな思考が出来る者が数名いるらしいと。彼らならば話が早そうだとソノは改めて目的をどうするか口にする。

 

「なら案内は……」

 

「いらねェ!! ウチの航海士は優秀なんだ!! 案内なんてなくても大丈夫だ!!」

 

「い、いやルフィ……私はそれほどでも……まああるけど……!!」

 

「……はぁ……ならどうします? 出ていけと言うなら出ていきますが……このまま帰ると私も立つ瀬がないので出来れば魚人島に着くまで見届けさせて貰えれば助かるのですが……私は特に口出しも邪魔もお節介もしないので……」

 

「おう、それくらいならいいぞ!!」

 

「ありがとうございます。それなら行きましょう。あ、料理のお代わり貰っていいですか? そちらのビーチウェアで寝ながら待っていますので……お願いします」

 

「仰せの通りに~~♡ お姉様~~~♡」

 

「厚かましい人魚だな……」

 

「よ~~し!! 気を取り直して野郎共!! 魚人島へ向かって下舵いっぱ~~~い!!!」

 

 ルフィの拒否と許可を得てソノは麦わらの一味を見送るために改めて快適な場所に寝転がる。サンジのデレデレした返事とウソップの呆れ気味のツッコミ。そしてルフィの号令が掛かり、一味は魚人島へと改めて舵を切った。

 

 

 

 

 

 深海1万メートル。そこにあるのはその昔は海底の楽園と言われた魚人島“リュウグウ王国”。

 陽樹イヴが照らす太陽の光の下、魚人や人魚達が伸び伸びと暮らす“偉大なる航路(グランドライン)”有数の観光スポットは──今や海底の地獄として……人間にとって最悪の島となっていた。

 

「──おらさっさと働け奴隷共!!!」

 

「ハァ……ハァ……休みを……くれ……ウッ!!」

 

「人間!! 働かねェてめェらに価値はねェ!! 動けなくなったら死ね!! てめェらは消耗品なんだよ!!」

 

「人間と仲良くする魚人に人魚共!! てめェらも同罪だ!! ネプチューンやオトヒメの意志を継ぐお前達はこの“魚人帝国”の反逆者!! 重罪人として強制労働の果てに死罪だ!! 死ぬまで働け!! 武器を作れ!! おれ達の崇高な使命を果たすための武器をよォ!!!」

 

 その名も──“魚人帝国”。

 リュウグウ王国が滅び、新たに島を支配した新魚人海賊団が建国したその国は魚人を至高の種族と定義し、人間と人間と仲良くする思想を持つ魚人、人魚達を奴隷以下の身分として強制労働を行わせる最悪の国であった。

 魚人島の各所には工場が建てられ、そこから吐き出される煙や汚染水が海を汚す。

 それらが立ち込める空の上には、かつてのリュウグウ王国のシンボルでもあった竜宮城があり、今は魚人帝国の王の居城となっていた。

 

「お頭。ソノの奴が“麦わらの一味”を迎えに行きましたが……どうします?」

 

 その謁見の間。玉座に座る魚人に魚人帝国の兵士が報告する。

 兵士は元海賊。いや、今も海賊だ。新魚人海賊団に所属する魚人であり、魚人帝国建国前から国王に従う魚人街の荒くれ者。

 その証拠に“お頭”という呼称を今でも使っている。謁見の間に居並ぶ新魚人海賊団の幹部もまた船長を王としながらも同志という間柄か同じ呼称を使っていた。国王自身もそれを注意することはなく、報告を聞いてただニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「──ジャハハハハ……歓迎してやるさ……!!! ここに連れて来いよ!!!」

 

「すぐに!! 国王様!!」

 

「…………」

 

 唯一、この場で国王である魚人に敬称を付けないのは彼らから少し離れた場所で佇む魚人でも人魚でもない者──甲冑と鬼面を身に着けた侍とその部下だけであったが、新魚人海賊団の面々もまた彼らを邪険にはせず、かといって尊重もしない。

 

「おい……どこへ行くんだ?」

 

「……島の見回りに行ってきます。この隙に反乱者が侵入してこないとも限りませんからね。──行きますよ、貴方達」

 

「あ、はい!!」

 

 二本角の兜の下から響く声は素っ気なく、端的に自身の行動の報告と部下への催促を行ってさっさと謁見の間を出ていく。その部下である黒い革パンとマントを身に着けた海賊達もまたそれに続いた。彼らの任務は島を守ることであり、命令の主は魚人帝国の誰でもない。ゆえに彼らからも命令される筋合いはなく、とある海賊の幹部であるその武者は指示を仰ぐこともなかった。

 だがそれは魚人帝国の彼らもまた同様で──

 

「……生意気な奴だ」

 

「ムッヒ!! ムカつく奴だッヒ!!」

 

「始末するかドスン!!」

 

「キャッキャッ!! 何ならすぐに肉を食いちぎってやる!!」

 

「ジャハハハ……!! やめとけ……今はまだあの目障りな“タイヨウの海賊団”を相手にしてくれる。おれ達の準備が整うまでは利用してやればいいのさ……!! 始末するのは()()()だ……!!!」

 

 謁見の間で新魚人海賊団の──海賊帝国の幹部達は笑う。狂った野心と目的を抱える彼らの暴走は未だ留まることを知らず……“麦わらの一味”もまたその野心に組み込まれようとしていた。

 

 ──だがそれを防ぐ勢力もまた存在する。

 

「──ジンベエ。部下からの報告だ……来たってよ……“麦わらの一味”が……」

 

「…………そうか」

 

 光の届かない深海の街の奥で、1人の魚人は仲間の報告に深い息を吐くと腰を上げて答える。

 

「どうにかせんといかんな。きっとまた連中は船を襲うじゃろう……わしらも向かうぞ。戦闘準備じゃ!!!」

 

「おう!!」

 

「待っておれよ……ルフィ君……!!」

 

 仁義を背負う1人の魚人は縁ある少年を思って僅かに焦りながらその名を呼び、海中を猛スピードで泳いでいった。




シャボンディ諸島→諸島全体が大荒れ。各GRを海賊とかがナワバリにしてたりする。海賊相手の商売は昔以上に儲かってるが危険も多い。33番GRだけ治安が良い。
デマロ・ブラック→偽麦わらの一味は全員死亡。脱落。
カリブー海賊団→手土産にするために麦わらの一味を狙うも負ける。
サウザンドサニー号→レイリーへの貸しのために守られる。ポーカーの任務はそれ。交代で真打ちが守りに来てましたが、襲う奴はほぼいない模様。
ソノ→魚人島ツアーガイド。魚人島にいる真打ちの1人。
魚人帝国→新魚人海賊団。人間と人間と仲良くする魚人と人魚は重罪人として処される。百獣海賊団傘下。
武者→魚人島にいる真打ちの1人。
タイヨウの海賊団→拠点はあの場所。
麦わらの一味→修行を終えた。それぞれ変更点があったりします。世界情勢を聞いてる人もそれなりに。難易度ルナティックRTA始まります。
あの人→名前を大声で呼んでオタ芸していいあの人は可愛い。当然招待状(ソノ)を送った張本人。

ということで新章であり終章の始まり。色々と悩みましたが飛ばす訳にはいかないのでルフィ達の冒険も描写します。ほぼワンピースIF。ただし説明しなきゃいけないけど原作で同じなのは飛ばして必要な描写をしていく感じで。なので今回も深海の話とか塩分濃度の話は裏でしてると脳内補完しててください。重要じゃない話は飛ばしていくので。
そして主人公はしばらく出ません。というか出れません。最低でも10話くらいは出ないかも。欠乏症になるかもしれませんがご了承下さい。
次回から魚人島編。魚人島編は5話くらいで終わらす予定。ホーディ達との戦闘とかあんまり書く必要ないので、書かないといけない部分だけ書きます。主に百獣海賊団関連。

ということで完結に向けて書いていきますのでこれからもよろしくお願いします。次回もお楽しみに。

感想、評価、良ければお待ちしております。

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