正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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因縁の再会

 

 

 魚人島の街中で問いかける声が響く。

 

「答えなさい!! アーロン!! 何でアンタがここにいるのか!!!」

 

「…………」

 

「何だ……? 人間……?」

 

「人間がアーロンさんに何か問いかけてるぞ……」

 

「本当だ……しかも捕らえられてねェ……百獣海賊団の人間か……?」

 

 その驚きと怒り。そしてどこか苛立ちの含んだ疑問の声はその場にいた鎖に繋がれた魚人達の注目を集める。

 だが駆けつける者はいない。幸運にも今この場には監視の兵が離れており、奴隷だけが蔓延っている。

 だからこそその場は成立した。アーロンとナミ。因縁の相手。忘れられる筈もない相手との邂逅。それが居ても立っても居られなかったナミの行動によって実現する。

 しかし当然、感動的な再会とはならない。ナミにとっては親を殺され、村を人質に取られて10年……人生の半分を彼に支配され、奴隷のように働かされてきた。

 そしてアーロンにとっても自身の野望を打ち砕いた相手──厳密に言えば打ち砕いたのは“麦わらのルフィ”とその仲間だが、ナミもその仲間となっているので因縁の相手には違いない。

 ゆえにその再会は剣呑とした……物騒なものになると思えた。少なくとも、ナミはそう予想していた。自身の疑問に対し素直に答えるような相手ではない。きっと恐らく、突っぱねられ怒りを向けられるだろうと。

 だからこそナミは腰の“天候棒”──空島“ウェザリア”の技術を組み込んだ新たな武器“魔法の天候棒”に手をかけていた。アーロンが襲ってきても対処出来るように。腕前にも自信はある。必要以上の恐怖もない。いざとなれば自分でも打ち倒してみせると。

 

「…………うるせェな」

 

「え?」

 

 だが──そのナミの絶対と思えた予想は外れる。

 

「魚人島に……魚人のおれが居て何が悪い……さっさと失せろ。ナミ……てめェに話すことなんて何もねェ……」

 

「……! 私が言いたいのはそういう事じゃ……!! 何でアンタは奴隷として……!!」

 

「──うるせェ!!!」

 

「!?」

 

 低く沈んだ声のまま答え、ナミに背を向けようとしたアーロンに、なおもナミが突っかかるとアーロンは一転して大声を上げる。

 過去に何度も大声で吠えられた事を思い出してナミの体が一瞬ビクつくが、それはすぐに収まった……が、それには理由がある。

 昔のままであったならもう多少は昔を思い出して恐怖を感じたかもしれない。左腕のタトゥー。今はもう残っていないが、その肌の下が疼いたのかもしれない。

 だがそれを感じるには今のアーロンは……あまりにも覇気がなく……弱々しかった。

 

「このおれが……お前を虐げたこのおれが奴隷として惨めに虐げられるのをそんなに見てェのか!!? それで満足か!!? ハッ!! そりゃ満足だろうな!! 何せ仇が奴隷になってんだ!! お前にとっちゃあこれほどに気持ちのいいことはねェだろうナミ!! なんならてめェも虐めてみるか!!? クソッタレな人間なてめェも魚人を虐げて楽しむ趣向を持ってんだろう!! やりたきゃやりゃあいい!! おれは抵抗しねェからよ!!!」

 

「っ……!! 何を……!!」

 

 まくし立てるアーロンの言葉は強い。少なくとも表面上は。

 だがその声には怒りよりも恐怖が宿っていた。汗を掻き、顔を青褪めさせながら言うアーロンの様子は怒っているように見えてもどこか余裕のない……精神を追い詰められた狂人。あるいは病人のようにしか見えない。

 その証拠に医者であるチョッパーはそれを見抜いていた。突然飛び出したナミとその魚人を心配して声を出す。

 

「あの魚人……相当弱ってる……!! ヒレもないし、身体もボロボロで……!! 精神がよっぽど衰弱してるんだ……!!」

 

「つーかどうしたんだナミの奴……」

 

「……そういえば以前、サンジさんが言っていました。ナミさんの故郷は、魚人によって支配されていて、それをルフィさん達が救ったとか……会話から察するに、あの魚人はナミさんの仇の様ですね」

 

「えっ……!! じゃあナミはあの魚人に復讐を……!?」

 

「成程な……でも復讐って感じでもねェだろうあれは……」

 

 そう。フランキーの言うようにナミは今更復讐など考えてはいない。既に故郷のことは解決した。自分自身の心にも決着をつけた。ルフィ達のおかげで既にナミはその過去を自分のものとして受け入れ、乗り越えている。

 だがかといってナミはアーロンへの怒りを忘れた訳でもない。

 アーロンは自分の親を殺した仇。自分達を苦しめた恨むべき存在。解決したとはいえ、今更何があろうとアーロンを可哀想だとか同情することもない。

 だがしかし、かつて自分達を苦しめた相手に対し、ナミはどこか複雑な気持ちを浮かばせる。

 

「さあどうしたナミ!! このおれに復讐してみろ!! 怒りを向けろ!! 殺せ!!! かつておれがお前の親を殺ったように──!!」

 

「!!」

 

「え……?」

 

 だが──ナミはその自分の気持ちに整理がつかず、その言葉に何かを返すこともない。

 その暇もなく、アーロンは鉛玉に足を撃ち抜かれる。

 

「ウ……グアアァア……!!!」

 

「──ったく……うるせェなァ……!! 魚風情の分際でよく喚く……!!」

 

「! 何か来たぞ……!!」

 

「あの連中は……!!」

 

 アーロンの痛みに喘ぐ声と周囲がざわつく中、チョッパーやフランキー達がそれに気づく。奴隷のいる街の真ん中をかき分けてやってくるのは魚人でも人魚でもない。人間の海賊達だ。それも統一性のある革の服やマントを身に着けた者達。そして銃を撃ったのはその先頭に立つ黒い2本の角を持つ男で、その姿に奴隷達は誰もが恐れる。

 その2本の角は幹部の──“真打ち”の証。この島をナワバリにしている最強にして最悪の海賊。百獣海賊団の戦闘員だった。

 

『百獣海賊団“真打ち”シープスヘッド』

 

「ハハハ……探したぞ“麦わらの一味”……!! まさかアーロンなんかと一緒にいるとはなァ……!!」

 

「……!! 何なのよあんたら!!」

 

「何なのよ、だと……? お前らおれ達のことを知らねェのか?」

 

「ギャハハハ!! とんだお上りさんだぜ!!」

 

「ゲーヘッヘッヘッ!! 田舎もんにも程がある!!」

 

 サングラスを掛けた黒い角の男──シープスヘッドという百獣海賊団の真打ちがナミの疑問に笑い、背後の者達も過剰な程にその言葉に笑う。馬鹿にされてると感じたナミがムッとするが、そんなことを意に介さずシープスヘッドは言葉を続け、そしてナミ達も次の言葉には無視できなくなった。

 

「ハッハッハッ!! こっちは色々と知ってるってのによ!! 寂しいじゃねェか“泥棒猫”ナミ……!! ──“ココヤシ村”だったか……()()()()()()()を見つけて頭が回らねェか?」

 

「!!? 何であんた達がその事を……!!」

 

「ギャーハッハッハッ!! おれ達の情報網を甘く見るなァ!!」

 

「そうだ……!! おれ達はお前達の事なら何でも知ってるぜ……!! このアーロンがお前達の故郷“東の海(イーストブルー)”でお前に海図を描かせていたこともなァ!!!」

 

「……! まさか……アーロンから……!?」

 

 シープスヘッドや笑う戦闘員達の言葉に静かに驚き、戦慄しながらもナミはアーロンから聞いたのかと口にする。それが1番可能性としてはありえた。何しろこの場にいる。何でも知っているかはともかく、ナミの過去くらいはアーロンから聞き出せていてもおかしくない。

 だがそれはシープスヘッドによって否定された。アーロンに近づき、足を撃たれたことで苦しむ彼を踏みつけることで。

 

「おれ達がこの魚から!? バカ言ってんじゃねェよ!!」

 

「ウッ……!!」

 

 アーロンが痛みに苦しむ。その様を見て複雑な表情を浮かべながらナミはシープスヘッドのバカにするような台詞を聞いた。

 

「確かにこのサメ野郎はずっと昔からおれ達の奴隷だ!! 12年前だったか……!! 当時、おれ達に逆らった罪でこのバカは相当拷問されたと聞いてるぜ……!! 可哀想に……ヒレを切り落とされてから聖地マリージョアに送られ、天竜人に1年以上奴隷として虐げられてたんだってなァ!!」

 

「! 天竜人の奴隷に……!!?」

 

 そして衝撃の事実にナミは顔を歪ませる。天竜人の酷さはナミも知っている。2年前のシャボンディ諸島ではその酷さを目の当たりにし、ルフィがキレて追いかけ回される切っ掛けにもなった一件で。

 奴隷になればおよそ人としては生きられない。一生そのトラウマに苛まされることになる。──アーロンがその奴隷に? 

 ナミは思い出す。確かにアーロンは最初に見た時から魚人にしてはヒレもなかったし、身体も古傷だらけだった。その痛々しい傷は昔は海賊として暴れ回った戦いの傷として、むしろ村の皆は恐れていたものだったが……あれは全て奴隷の時に受けた傷だった? 

 

「……もしかして、だから人間を……?」

 

「だがおれ達はこんな食用ザメに頼っちゃいねェ!! このバカがここにいるのはこの魚人帝国の統治に異を唱え、逆らったからだ!!! お前達の情報を手に入れるために一々この魚を拷問に掛けやしねェ……!!」

 

「え……?」

 

 ナミは聞こえない程度の声量でアーロンの人間を恨む理由を推察したが、しかし次のシープスヘッドの言葉に一瞬、訳が分からなくなる。アーロンがこの魚人帝国に逆らった? 

 

「バカな野郎だぜ。せっかく新しく生まれ変わった魚人島に迎え入れられるところだったのによ!! 同じ魚人が虐げられてるからとホーディに逆らった!! それで怒りを買って奴隷に逆戻りだ!! 笑えるぜ!! ハハハハ……!! それとも奴隷に戻りたかったのか? だとしたら申し訳ねェ……もっと痛めつけてやらねェと……なっ!!」

 

「グ……アアア……!!!」

 

「ギャハハ!!」

 

「…………」

 

 成程、とナミは心の中で納得する。

 アーロンは人間を虐げる気性の荒い無法者ではあるが、同胞にだけは決して手を出さない種族主義者だった……が……まさか人間を奴隷とする国に逆らう程とは思わなかった。ナミにとっては納得は出来るが、信じられないこと。

 だが現実としてアーロンはここにいて奴隷に落とされている。そして最も弱い立場で苦しんでいた。

 

「さて……そういうワケだ。おれ達は別の情報でお前達の事を知ってる……!! そしてお前達を探していたのはお前達を魚人島から追い出せとのジャック様からの命令だ!!! 招待を受けねェなら魚人島には立ち寄るなってこった……だが捕らえろとも始末しろとも言われてねェ……!! へへ……良かったなァ?」

 

「! …………それで?」

 

「大人しく出ていくならそれで良し!! だが出て行かねェなら少し痛い目に遭って貰うが……さあどうする? おれ達は任務をこなせりゃそれでいい!! 少しくらいは融通を利かせてやってもいいが……何ならこの奴隷でも買っていくか? 特別価格で1匹100ベリーで売ってやるぜ!!」

 

「ギャーハッハッハッ!! そりゃあいいぜ!!」

 

「痛めつけて良し!! 売りつけても良し!! 楽しみ方は人それぞれだ!!」

 

「何ならレクチャーしてやろうか姉ちゃん!! 魚人や人魚の奴隷の楽しみ方ってやつをよォ!!」

 

「……! うああ……やめてくれ……!!」

 

「イヤだ……拷問は、もう……!!」

 

 そしてシープスヘッド達はアーロンを含めた魚人の奴隷達を蹴りつけ、暴力を振るって笑う。ナミ達麦わらの一味はどうやら見逃す命令が出ているらしい。ソノの招待を断ったため、その次に出た命令だろうか。どうやら彼らに自分達を特別狙って害する気はないらしい。

 ゆえにこのまま彼らの要求に従えば安全に島を出れるだろう。魚人帝国の方は一味を捕らえる気のようだが、傘下である彼らが百獣海賊団に逆らってどうこう出来るとも思えない。

 

「……おい、どうするんだナミ」

 

「……そう、ね」

 

 そしてアーロンを救う気もない。フランキーに問われ、心を決めるがナミはアーロンに同情する気もなければ可哀想とも思わない。自業自得だろうと。そのままくたばっても何も思わない。それほどにナミにとってアーロンは許せない相手だ。

 だがしかし。他の魚人達は──

 

「それとも……切り身をご所望か?」

 

「ヒッ……イヤだ……!! やめて──」

 

「ギャーハッハッハッ!! 何逃げてんだ!! 逃げる奴は──死ねブッ!!?」

 

「──“突風(ガスト)ソード”」

 

「あァ!!?」

 

 ──ナミの“魔法の天候棒”の先から一点に集中した突風は放出され、魚人の奴隷に刃を突き立てようとした百獣海賊団の戦闘員の1人を吹き飛ばす。

 それに反応したシープスヘッドが眉を立てた。

 

「お前……何しやがる!?」

 

「……私はお人好しでもなければ……魚人を救う義理もない」

 

「あァ!? 何言ってやがる!!」

 

 そう、別にこれは魚人を救うつもりでやったことじゃない。

 ただナミも周囲の仲間達も……海賊だ。

 海賊なら気に入らないことを受け入れる必要はない。自分の意志で動く。

 つまり──自分の心に従っただけ。

 

「でもね……アンタ達みたいな胸クソ悪い連中の言うことは、もっと聞きたくないのよ!!!」

 

「何だと……!!?」

 

 言ってナミは百獣海賊団と対峙する。仲間達も同様に。

 

「ハッハー!! よく言ったぜナミ!!」

 

「ええ。私達はルフィさんの言うことしか聞きません!!」

 

「やるなら相手になるぞ!!」

 

 ナミに並び立つフランキー、ブルック、チョッパー。2年の修行で強くなった彼らが恐れずに最強の海賊団に立ち向かう。

 冒険の邪魔をする彼らをルフィは許さないだろうし、関係のない一般市民を奴隷として虐げるような相手は気に入らない。気に入らない相手はブッ飛ばす。それがルフィであり、その気質は仲間にも通じている。百獣海賊団の申し出を受ける筈がない。

 

「チッ……大人しくしてりゃ図に乗りやがって……!! そんなに痛い目見たいなら見せてやるよ……!!!」

 

「死なない程度に痛い目見せてやる!!!」

 

「ギャーハッハッハッ!!!」

 

「下っ端共が来るぞ!!」

 

 フランキーが注意を呼びかける。いくら四皇の海賊団とはいえ下っ端に負けはしないと自信を持ってはいるが、一応相手が相手だ。注意はする必要がある。

 とはいえ2年後の修行の後、初めての実戦で一味の誰もが戦いに少なからず飢えていた。誰もが自信を持って戦闘に望むが……それでも相手は世界最強の戦力と称される海賊団で、当たり前のように能力者も存在する。

 

「反逆者には容赦しねェ!!」

 

「!? 身体が変型を……!!?」

 

動物(ゾオン)系の能力だ!!」

 

 真打ちの1人、シープスヘッドが自らの身体を変型させるとブルックとチョッパーがそれに反応する。2本の巻角と背中がモコモコとしたその動物の人獣型になったシープスヘッドが自らの能力を誇りながらナミに襲いかかる。

 

「そうとも!! おれはウシウシの実!! モデル“羊”の能力者!! 本物の悪魔の実の能力者だ!!!」

 

「手強いですよこれは!!」

 

「……! (本物の悪魔の実……?)」

 

 ブルックが剣を抜いて応戦する構えを見せる。ナミがその言葉の一部に違和感を覚えるが、戦闘の最中では考えがまとまらない。襲いかかる戦闘員を撃退しながら、今度は素早く踏み込んでくるシープスヘッドに視線を向けると、同時にシープスヘッドが技を放ち、ブルックがそれを受け止めた。

 

「“シープスホーン”!!!」

 

「“魂の(ソウル)パラード”!!!」

 

 シープスヘッドが頭突きで角を、ブルックが黄泉の冷気を纏わせた剣を放ち、激突する。

 ブルックのそれは2年の修行で会得したヨミヨミの実の応用だ。冷気を纏った斬撃はより強力な一撃となるとブルックもまた確信している。

 事実前半の海で2年の修行の最中に出くわした相手などは尽く倒してきた。

 ──しかし、僅かにでも押されたのはブルックだ。

 

「……! 中々ですね……!!」

 

「覇気も使えねェ雑魚共が調子に乗ってんじゃねェ!!」

 

「ブルック!!」

 

 ブルックの無い筈の腕の筋肉が軋みを上げる気がする。僅かに押されたブルックは相手の身体能力と覇気を舐めていたと少し気を引き締め直した。

 何しろ相手は動物(ゾオン)系の能力者。元が雑魚だとしても新世界の海賊で世界最強の海賊団の幹部をやっている男。純粋なパワーでは相手に分があり、覇気を使えないブルックではそこでも劣る。

 もっともそれでも拮抗するだけブルックは強い。それとも動物(ゾオン)系の能力と覇気を組み合わせて拮抗する程度の相手が弱いのか。あるいは分からないが、少なくとも一対一で一蹴出来る程の相手でないことは確かだった。

 

「ギャハハ!! 痛ェ……!!」

 

「何だこいつら……!! 笑いながら戦いやがって!!」

 

「それに変な能力持ってる奴も……!!」

 

 そして下っ端達もまた一筋縄ではいかない。

 倒れようが何をしようが笑う戦闘員に、通常の悪魔の実の能力とは違った能力を持つ戦闘員達にフランキーとチョッパーも不気味に思う。

 戦うことを決めたのはいいが、少し時間は掛かるかもしれないし、あんまり時間を掛けると増援が来てより厄介になるため、早く終わらせなければならないと誰もが思う。

 

「さあやっちまえ野郎共!! 百獣海賊団に逆らった愚か者共に罰を与えろ!!!」

 

「オオ!!」

 

 だが麦わらの一味の目算は少し甘い。

 とめどないゾンビの軍団とも言われる百獣海賊団。特に一定の階級以上の戦闘員は皆タフで中々倒れない者達だ。

 この場にルフィやゾロ、サンジがいればまた違ったかもしれないし、敵地でなければ、もっと味方が多ければもっと楽に終わらせられたかもしれない。

 かといって窮地という程ではないが、それでも戦闘を早々に終わらせるには相手も強く、地の利も悪く……そして状況も悪かった。

 しかし彼らは挑んでしまった。最早後戻りは出来ないし、何も知らない彼らは後戻りする気もない。

 

 ──この島に直に……“災害”が訪れるとしても。

 

 だが、

 

「“魚人空手”……!!」

 

「……あ?」

 

「!」

 

 幾つもの縁を持つ彼らには救いの手が差し伸べられる。

 

「“三千枚瓦正拳”!!!」

 

「!!!」

 

「し、シープスヘッド様~~~!!?」

 

 突如、横から割って入った1人の少女が羊の人獣と化したシープスヘッドの横顔を殴り飛ばす。その技は聞こえたように魚人空手。魚人が主に用いる武術であり、人間の武術ではない。

 だが割って入ってきた少女は人間だった。

 

「──こっち!! 走って!!」

 

「え、でも……!!」

 

「早く!! ここで戦ったらキリがないよ!!」

 

「……!」

 

 そして割って入り、シープスヘッドを吹き飛ばすなり一味に逃げるように促す。

 ナミ達は一瞬戸惑ったが、ここで戦ったらキリがないという言葉に頷き、少女についてこの場を脱する。

 百獣海賊団も追いかけてこようとしていたが、フランキーが後ろに銃弾を放ちながらの撤退だ。それにシープスヘッドがぶっ飛ばされたため、戦闘員達が動揺している。逃げることは容易で、ナミ達は少女に連れられてその場を後にする。だが、

 

「……!」

 

「……?」

 

 その少女が魚人の奴隷達、アーロンがいる場所を見て僅かに表情を苦しいものにしたことにナミは気になるが……単に奴隷達の惨状に心を痛めているだけだと解釈する。その理由は島の外れ。建物の陰まで逃げ込み、彼女の自己紹介を聞いたからだ。

 

「どうにか撒けたみたいだな……」

 

「はい。多分、ここまで来ればもう大丈夫です!! 皆さん楽にしてください!!」

 

「ハァ……ハァ……ありがと。それで、あなたは……?」

 

 少女は一味に向かって名乗る。

 

()()()って言います。新政府軍の一員で……今は“魚人島解放作戦”のため、ここで斥候をしていました」

 

 

 

 

 

 魚人島の激戦は続いていた。

 

「ゼェ……まだ、まだ……!!」

 

「チッ……まだ立ち上がんのかよ……!!」

 

「当然です……!! ハァ……敵が目の前にいるなら……死ぬまで戦うことはやめない……!! それが百獣の理……!!」

 

 人魚の入り江。武器工場でのゾロと小紫の戦いは周囲のサンゴを倒壊させ、幾つもの斬撃痕を残す程に熾烈な戦いであった。

 戦闘が始まって1時間以上が経過し、しかし決着はつかない。互いの実力がある程度近いことから、一瞬で決着をつけることは不可能である。

 だがそれでも長時間の戦闘で決着がつかない理由は互いのスタミナによるもの。特に小紫はゾロに何度も吹き飛ばされ、地面に倒されながらも起き上がっては戦闘を継続する。

 その女にしてはタフ過ぎるとも言えるスタミナにはゾロも舌を巻くしかない。新世界の海賊。それも四皇の幹部ともなるとこの実力が標準なのかと思い、今後の激戦を想像して不敵な笑みを浮かべてしまうが……一方で、ゾロはやる気がなくスタミナ任せの戦いを続ける相手にうんざりしていた。

 元々女を相手に戦うのはあまり好きではないことも重なれば、刀を引かせるのに十分な理由ともなる。ゆえにゾロは溜息と共に刀を鞘に収める。

 

「──もういい」

 

「!? 何を……」

 

「もういいって言ったんだ。おれはぼちぼち仲間を追いかけなきゃならねェ。お前も疲れただろう、見逃してやるから引け」

 

「……!! 何を戯言を……!! 私はまだ戦えます……!!」

 

 小紫にとっては不可解な言葉を聞かされ眉を立てる。自分はまだ戦えるし、見逃してやるという上からの不遜な言葉も看過出来ない。自分はまだ負けてないのだからそんな事を言われる筋合いもないと。

 だがゾロは取り合わなかった。戦意を消して普段通りの表情で告げる。勝敗は決まりきっていると。

 

「言わなきゃ分からねェか? ……()()()()()()相手と戦っても勝負は見えてる」

 

「なっ……!!」

 

「そんな奴を斬ってもしょうがねェだろう。だから勝負は終わりだ。おれはもう行く」

 

「……くっ……!!」

 

 その言葉には思う節があったのだろう。小紫は歯噛みして実力を出し切れない自らを恥じる。

 確かに先程から押されてばかりで不甲斐ない戦いが続いている。このまま勝負を続けても長引きはするだろうが、それだけだ。緩やかに敗勢に持っていかれるのみだというのは理解出来る。

 

「そこまで言うなら……!!」

 

「あ?」

 

 だがかといって──そこまで愚弄されて引き下がれるほど牙をもがれてはいない。

 ゆえに小紫は自らの能力を解放した。人型から変化し、獣の特徴を持つ人獣型に。一角と鱗を持ち、馬にも似た脚先で身体も大きくなる。

 その姿は既存の動物ではありえない幻獣であり、ゾロもまたその姿に驚愕を得た。瞠目する相手に小紫は堂々と自らの能力を喧伝する。

 

「……!! その姿は……!!? 能力者か!!」

 

「ええ……!! 幻獣種の麒麟……その力を思い知らせて上げます……!!!」

 

「って、また麒麟かよ……!!」

 

「!!? は……? また……?」

 

 畏怖するか警戒するか。そのどちらかの反応が返ってくると思っていた小紫はそのどれでもないゾロの反応に虚を突かれて純粋に驚く。一方でゾロも自らの反応に少し遅れて反省した──しまった、ついツッコんじまったと。麒麟には縁がある。だがこれとあれは違う。ゾロはややあってその事を謝罪した。

 

「いや、悪い……麒麟には変な思い出が……」

 

「……!! 誰の事だか知りませんが、あまり舐めてかかると痛い目を見ますよ……!!!」

 

 ゾロの謝罪に小紫は一瞬、その思い浮かべたであろう麒麟が誰の事か理解しかけたが、それよりも緊張感のない相手に対して憤った。能力を解放してなお敵はこちらを舐めている。ならばその認識を正してやろうと小紫は焔をゾロに向かって放った。

 

「“焔鳴”!!!」

 

「……!! うおっ!!?」

 

 雷の如く襲いかかる焔がゾロのいたところを薙ぎ払う。

 ゾロはそれを察知して身体を屈めて躱した。見聞色の覇気は攻撃の気配を感じ取る。武装色の方が得意とはいえ、ゾロもまた2年の修行で覇気を習得している。習得出来ていなければ躱すことの難しい攻撃だ。

 だが続く攻撃の気配には見聞色を習得していなくても感じ取れるのではないかと思う程に妖気に満ちた気配だった。背筋に冷たいものが走る。小紫が先程まで鞘に収めたままで一度も使ってこなかった刀に手を掛けたからだ。

 

「抜くつもりはありませんでしたが……致し方ありませんね……!!!」

 

「……!! (何だあの刀……覇気が膨れ上がった……!!)」

 

 人獣型の小紫が刀を抜く。途端に上昇する覇気の強さにゾロは戦慄し、ここまでほぼ全ての攻撃を、特に斬撃は剣士の矜持から全て受け止めていたゾロに回避を選択させるに至った。小紫の横一文字の斬撃を察知して跳び上がる。

 

「──“鬼怒川”!!!」

 

「!!!」

 

 瞬間、過剰に鋭すぎる斬撃がゾロのいた空間とその進行上のおよそ数キロを襲う。

 人魚の入り江のサンゴ。建物。水の通路。武器工場の煙突。

 それらを横一文字に一刀両断せしめた凄まじい斬撃にゾロは表情を険しいものに戻す。思うのはこの目の前の女侍の実力だ。

 

(とんでもねェ斬撃だ……!! この女、やっぱ今までのは小手調べだったってことか……!!?)

 

 実力を見誤った、と己を戒める。小紫の言葉は嘘ではない。まだまだ勝負はここからなのだと。

 だが解せない。なぜここまで実力を隠していたのか。手を抜いていたのかと疑問は残るが……しかしその疑問を考えて解消するよりも今は目の前の膨れ上がった覇気の持ち主を。世界最強の海賊団の幹部である侍を倒す方が先だとゾロは再び刀を抜いた。

 

「……!! やっぱり手を抜いてやがったのか……!! なんで今更やる気を出したのかは知らねェが……そこまでするなら相手になってやるよ!!」

 

「ハァ……ハァ……望む……ところ……です……ウッ!!」

 

「!? 何だ!?」

 

 だがしかし、勝負を再開しようとゾロが対峙した瞬間。なぜか小紫は激しい発汗と共に顔を青褪めさせ、腕を押さえて膝を突く。

 何事かと小紫を見たゾロは人型に戻った小紫の腕を見て自らの目を疑った。

 

「腕が……!! いや、刀が……!!?」

 

「ハァ……ハァ……!! 言うことを……聞きなさい……“閻魔”……!!」

 

 小紫の腕が痩せ細り、刀身が黒くなる。

 後半の事象さえ見ればただの武装硬化。武装色の覇気を纏わせることで武器や物を硬くして攻撃力を増す技術だ。

 だが前半の事象を合わせてみれば只事ではない。小紫が腕を抑えて苦しんでいるとこからも──刀が覇気を吸っていることは明らかだ。

 

「何で……!! 何で……!! やはり……私じゃ……!!」

 

「……!! おい!! 刀から手を離せ!! 干乾びちまうぞ!!!」

 

「私じゃ……()()()を……成し遂げること、は……!!」

 

「おい!! 聞いてんのか!!?」

 

 思わず敵だというのに刀から手を離せと身を案じてしまう。それで敵が復活してしまえば自らの首を締めることになりかねないが、そうはならなかった。

 

「ごめん……なさい……ごめん……なさい……!!」

 

「……!!」

 

 ふっと、身体から力が抜けたのか小紫が刀から手を離す。

 覇気を吸っていたと思われる刀は地面に落ち、小紫も少し遅れて地面に崩れ落ちる。

 うわ言のように何かに謝りながら──後悔しているかのような悲壮な表情を見せて。

 

「……! 何だってんだ……」

 

 その様子は尋常ではない。ゾロは倒れた小紫に近づき、落ちた刀を手にとってそれを確かめる。

 手に取ってみると……今はおとなしい。だが使おうとすれば先程のようになるのかとほぼ確信を持ってその刀のヤバさを感じ取る。

 

「妖刀か……弱けりゃ扱えねェ……が、先程の様子から察するに、こいつは……」

 

 と、思ったことを言語化しようとして──しかしゾロは気配を察知して小紫の前に立ち塞がり、刃でそれを防ぐ。

 飛んできたのは鎖付きの分銅。それが刀に巻き付いた……が、それは自分ではなく倒れて気絶している小紫を狙ったものだった。

 

「……倒れた女を狙うとは趣味が悪ィじゃねェか。誰だ?」

 

「ほう、気づいたか……小紫を押していたことと言い、人間にしては中々やるようだな……!!」

 

 ゾロが刀を軽く振って鎖を外すと分銅ごと戻っていく。その先、根本にいたのは保護色で隠れていた1人の魚人だった。

 

『新魚人海賊団幹部 ゼオ (オオセサメの魚人)』

 

「だが人間如きが、我ら崇高な魚人の邪魔をするな……!!!」

 

「……こいつは仲間なんじゃねェのか?」

 

「フン。利用してやってるだけだ!! あの鬱陶しいタイヨウの海賊団の相手をしてもらうためのな……!! ──だが!! ()()その必要はなくなった!!!」

 

「?」

 

 姿を現した新魚人海賊団の幹部ゼオの大仰な言葉に話が見えないゾロは険しい顔のまま頭に疑問符を浮かべる。仲間を攻撃しようとしたことに対して気になっただけでゾロにとってはその先の話はどうでもいい事の……筈だった。

 

「先程!! 我ら魚人帝国の幹部全員に“(エネルギー)(ステロイド)”の使用許可が下りた!!! それと同時に……遂に我々魚人の崇高な野望を果たすべく作戦が発令されたのだ!!!」

 

 と、ゼオは言葉に溜めを作り、両手を広げながら告げた。その手に、謎の薬を掴みながら、

 

「魚人帝国の戦力を結集し!! タイヨウの海賊団の殲滅を開始すると同時に!! 魚人島にいる全ての奴隷を皆殺しにして永遠の別れを告げる!!! ()()()と合流し──世界を獲るために!!!」

 

「!!」

 

 ゾロも看過出来ない程の──地獄の宣誓を行った。

 

 

 

 

 

 魚人街“ノア”の空気で満たされた空間ではハチからの報告で麦わらの一味と百獣海賊団が交戦した情報をもたらされ、それを切っ掛けに目的を果たすための方策を考える時となっていた。

 

「早く行かせろよ!! ジンベエ!!! もう敵対しちまったんだろ!? だったらもうブッ飛ばした方が早いじゃねェか!!」

 

「むう……困ったのう……百獣海賊団と敵対してしまうとは……ルフィ君。こうなりゃ一刻も早く島を出んといかんぞ!!」

 

「なんでだ?」

 

「だから散々言っとるじゃろうが。百獣海賊団の戦力が差し向けられればお前さんの仲間らもわしらも危ない。魚人島で奴らに暴れられては……今度こそ何もかもなくなってしまう!!」

 

 どれだけ時間が経ち、言葉を尽くそうともルフィの結論は変わらない。仲間と船が魚人島にあるならそこに向かうだけ。邪魔をするならブッ飛ばす。気に入らないことをするならブッ飛ばす。つまり、魚人帝国だろうが百獣海賊団だろうがブッ飛ばすということだ。

 だがジンベエはそれを許可出来ない。魚人帝国だけならば、なんなら一緒になって抵抗を始めていただろうが、そうはいかないのだ。この2年間、ジンベエ達タイヨウの海賊団がいながらも手をこまねいていた理由こそが背後に控える百獣海賊団。

 2年前に彼らが暴れたことで多くの同胞が死に、島は荒らされた。その時は何とか島民を逃し、犠牲をある程度は抑制することが出来たが、2度目も助かるなどという楽観的な考えには至れない。当然、動くならそれなりの準備と計画がいる。

 

「このまま話していても埒が明かん。ルフィ君、お前さんらを納得させるために話すが……わしらは今、時を待っておる」

 

「? どういうことだ?」

 

「四皇の戦力は強大じゃ。わしらも2年前相対したゆえにわかっておるとは思うが……幾ら防衛には有利な地形があるとはいえ、わしらだけじゃ魚人島を守り切ることは出来ん」

 

 そしてルフィを納得させるためにジンベエは更に詳細を話す。彼我の戦力差。それを覆すための計画。島民を守るための方策。それらを理解させてルフィの行動を止めるために。

 

「一時的に島を奪還してもまた奪い返されては意味がない。奴らを追い返したところで防衛の為の戦力がいる。わしらや魚人島に奴隷として捕らえられておる元リュウグウ王国の兵士だけじゃ足りぬし……ルフィ君達もずっと魚人島にいるワケにもいかぬじゃろう?」

 

「うっ……それは……」

 

「そうじゃ。奪還は出来ても守りがない。だからこそ、わしらは支援者と共に計画を練り、そのための準備と方策を重ねてきた……!!」

 

「……支援者?」

 

 ああ、とジンベエが頷く。仲間達もそこが気になるようで一様に無言の問いかけを行ってきたため、ジンベエはその組織の名前を答えた。

 

「──“新政府”じゃ。元“革命軍”と海軍の残党が集まった新しい組織……確かリーダーのドラゴンは……ルフィ君の父親じゃった筈じゃな?」

 

「!! 新政府が……!?」

 

「あー、父ちゃんか。でもおれ、あんまり知らねェんだよなァ」

 

 ウソップやサンジが驚く中、ルフィは気の抜けた声を上げる。ルフィにとってはあまり縁のない相手なのだ。父親ではあるが、接した記憶はないため特に何とも思ってはいない。助けてくれたことには感謝もあるが、その度合で言うならジンベエの方が勝っている程。そして新政府という組織のこともあまり知らないため、驚きは少ない。

 だが元革命軍。新政府と関わってきた者達からすればそれは驚きでもあり得心が行くことでもある。特に、中枢で関わってきたロビンは思考を回しながらも頷いた。

 

「成程。確かに新政府なら支援するにも納得ね。彼らは海賊帝国の横暴を許さないスタンスを掲げているから」

 

「そうじゃ。それにリュウグウ王国は……新政府に加入するつもりでもあった。業腹にもその前に百獣海賊団によって滅ぼされたが……わしらも新政府も、魚人島の解放と海賊帝国の打倒を諦めてはおらん!!」

 

「……つまり、新政府の準備が整うのを待ってるってことか」

 

「ああ。今この場所には新政府から派遣された者がおる。魚人島にも潜伏しておるし……む、噂をすれば」

 

「ジンベエ、今戻ったぞ!!」

 

 サンジの結論に頷いたジンベエが再び入り口の方を見てやってきた魚人に声を掛けられる。

 ルフィ達もその魚人を見ると、そこには空手着を身に着けた中年の魚人がいた。ロビンだけは早い再会となる相手。新政府の兵士であるその男。

 

『新政府軍 魚人空手師範魚人柔術武道家“百段ハック” (エビスダイの魚人)』

 

「ふむ、もう来ていたか。そちらは“麦わらの一味”だな。──ロビンは、久し振りだな」

 

「ええ、こっちに来ていたのね」

 

「ロビン、知ってんのか?」

 

「新政府で修行していたの。その時に世話になったわ。……シャボンディ諸島で別れた後、任務があると言っていたけど……魚人島絡みの任務だったのね」

 

「ああ。魚人島は我が故郷。我が友ジンベエや多くの同胞の手助けになりたくてな。新政府の方でも2年前の魚人島襲撃を防ぐことが出来ずに気を病んでいた……力を貸さぬ理由などない」

 

 魚人空手の師範であるその男はロビンの知り合いでもあったらしく、ルフィがそれを尋ねる。聞けばロビンは新政府軍で修行を行ったため、ハックを含む新政府軍の者達には知り合いが多い。ルフィの父親や縁のある相手もまたロビンはルフィに先んじて交友があった。

 そしてジンベエにとっても当然のように友である。もう1人、こちらに派遣されている少女もまたジンベエにとっては縁のある相手だ。おそらくそちらからの報告だろうとジンベエはハックに尋ねる。

 

「それでハック。魚人島や百獣海賊団の方はどうじゃ?」

 

「ああ、そのことで来た。麦わらの一味については約一名、“海賊狩りのゾロ”以外は合流し、潜入拠点で一緒にいるらしい」

 

「ナミさん達は無事だったのか……良かった」

 

「じゃがそのもう1人は……」

 

「まあゾロなら平気だろうな……」

 

「どうせ迷子だろ、あのマリモ野郎。心配するだけ損だ」

 

 麦わらの一味についての報告に安堵するサンジやウソップだが、ゾロだけは合流出来ていないらしい。そのことをジンベエが少し心配するが、ウソップとサンジは心配していなかった。ルフィやロビンも同様だ。ゾロの強さなら大抵のことは何とかするだろうと誰もが信頼していた。

 だが一味はともかく、ジンベエは心配事が多いらしい。ハックからの報告を真剣な表情で受け取る。

 

「新魚人海賊団や百獣海賊団については幾つか怪しい動きがあるらしいが……詳細は分かっていない。内地では2人の真打ちが確認出来たが……ソノはどうやら確認出来なかったらしい」

 

「それは気がかりじゃな……」

 

「ん? ソノ? ソノってあの人魚の?」

 

 出てきた名前に聞き覚えがあったためウソップが確認を取ると、ジンベエ達は頷いた。

 

「そうじゃ。奴は今の魚人島で新魚人海賊団と百獣海賊団の橋渡し役をしておる。()()()()()()竜宮城や魚人島の視察もしており、異常があれば上に知らせてしまう……注意せねばならん人物じゃ」

 

「ああ。戦ってもかなり強い。出来れば魚人島にいる間だけでも、その動向は常に把握しておきたかったが……」

 

「?」

 

 ジンベエとハックは何か思うところがあるのか、詳細に説明をしながらも何か言葉を濁らせる。それが知り合いであるからなのか、それとも彼女が魚人や人魚達にとって大切な何かを握っているからなのか、それはルフィ達には判断のつかないことであった。

 

「というか、合流出来たんなら電伝虫は使えないのか?」

 

「ああ、そうじゃな。本来なら通常の電伝虫だけなら盗聴される危険性もあるが、新政府から支給された盗聴防止用の白電伝虫もある。試してみよう──大丈夫か?」

 

「ああ、早速試してみよう……ん?」

 

「うおっ!!? 映像電伝虫!!」

 

 サンジが仲間の無事と確認し、意思疎通を図るために通信出来ないかを尋ねるとジンベエとハックがすぐに通信をしようと電伝虫を持ってくるように部下に目配せで伝える。部下はすぐに頷いて動くが、それよりも早く──部屋の中の映像電伝虫が動き出した。ウソップが驚き、そしてモニターが作動する。そこに映っていたのは──

 

『──ごきげんよう、魚人帝国の国民、兵士達にゴミ以下の奴隷共……!!! ホーディ・ジョーンズだ……!!!』

 

「ホーディ!!!」

 

「あいつが……」

 

 ──新魚人海賊団の船長にして魚人帝国の国王を称するホオジロザメの魚人……ホーディ・ジョーンズ。

 映像電伝虫越しに見る仇敵にジンベエやハックは剣呑とするが、ルフィ達は冷静にそれを見定めた。どうやら国王として行う国営放送のようなものでこの2年で慣れているのだろう、話す言葉に淀みはない。不敵で凶悪な笑みを浮かべながら挨拶を行い、用件を口にする。

 

『今日はまた魚人達の未来のため、新たな“改革”を発動する……!! そのための許可が遂に今日、下りた……!!!』

 

「何だ……?」

 

「改革じゃと……!?」

 

 それを聞いて嫌な予感を感じるのは全ての魚人、人魚達。

 この2年でホーディ達新魚人海賊団のやり方は味方の兵士ですら誰もが理解している。魚人を至高の種族として人間の上に君臨するため。人間を苦しめるためには何でもする。その慈悲のない凄惨なやり方を。

 

『おれ達はこれより……全ての反乱分子……魚人街に住む元リュウグウ王国の住民とタイヨウの海賊団……魚人島にいる全ての奴隷共の……()()を開始する……!!!』

 

「!!!?」

 

 ──血の気が引く発言を行い、しかしホーディは血気盛んにそれを伝える。その命令の主を。自分達の崇める王を、王にするための計画を。

 

『全てはおれ達……全種族の頂点に立つ魚人族の真なる最強の王……!!! ()()()()()()を今こそ迎え、天まで押し上げるために……!!!』

 

「!!!」

 

「ジャック……!!?」

 

 ──百獣海賊団“大看板”……“旱害のジャック”の名の下に。全てを破壊する宣言を行った。




アーロン→100ベリー食用サメその1。食用としての役目を終えて奴隷人生を謳歌中。牙はもげました。
ナミ→アーロン絶許。でもそれはそれとして気に入らない相手はやる。それが麦わらメンタル。
シープスヘッド→本物の悪魔の実の能力者。真打ちだから覇気も使える。やっぱ麦わらの一味は全員覇気覚えててよかったんじゃないかなって。
コアラ→人間にして唯一の魚人空手使いの師範代。シープスヘッドはちなみに、まだやられてません。
小紫→能力解放。閻魔まで抜けばかなり強いですが、今はどうやら……
ゾロ→麒麟とやたら縁がある。小紫を撃破? 1人行動中。閻魔と小紫が気になる。
ゼオ→新魚人海賊団の中だと見た目が1番良い(好き)強さは全員お察しなのでノーコメント。
新政府→革命軍時代と同じ様にレジスタンス支援。派遣されたのは3名。
ハック→魚人空手師範。原作だとあんまり活躍してないけど結構強い筈。
ジンベエ→魚人の上澄み。判断力もある。
ホーディ→フカヒレはまだ無事。
新魚人海賊団→E・Sが使えるようになった。勝利条件は全員倒すことです。

今回はこんなところで。地味に遅くなってすまんなって。次回戦闘開始。何とかしないと皆殺しですが、問題は時間制限があることです。頑張れ! 麦わらの一味!

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