正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
魚人島の名所、ギョンコルド広場に荒くれ者達の号砲が響く。
それは先程までの魚人帝国に属する魚人や奴隷の兵士のものと似て非なるものだ。声の性質は一緒だが、それを放っている軍勢の強さと凶暴性、意志の強さが違う。
「おれ達に喧嘩を売るとはバカな奴らめ!! 目に物見せてやる!!」
「ギャハハ!! 戦闘だァ~~~!!」
「新世界の洗礼を与えてやる!!」
「ウオオオ~~~~!!!」
20万人の魚人帝国を物ともせず立ち向かった“麦わらの一味”とその支援者に、恐れず好戦的に向かっていくのは黒い革のズボンやマントを身に着け、階級ごとに一本角や二本の黒い角を生やした無法者達。
その数1万人。魚人帝国の兵士の僅か20分の1にしか満たない数であり、先程20万人を相手にしたばかりもあって麦わらの一味は雑兵であれば先程よりも楽にいけると思っていた──がその推測はすぐに間違いだったと気づく。
「皆さん!! 気をつけてください!! 先程の兵士達よりも手強いですよ!! 彼ら!!」
一味最年長である“ソウルキング”ブルックが仕込み杖の刃で敵の攻撃を受け止めて一瞬で斬り伏せる。雑兵相手に劣る程、麦わらの一味は弱くない。戦闘を得意としないメンバーでも優に数人、数十人に囲まれても何とか戦うことは可能で、それぞれ周囲の雑兵を難なく相手をしていたが──しかしよく見れば敵を倒すのに先程よりも時間が掛かってしまっている。
「“
「ギャアア~~~~!!」
「ギャハハ……!!」
「っ!! 何だコイツら……やられながら笑ってやがる……!! 気味が悪ィな……!!」
“フランキー将軍”に搭乗したまま戦闘を開始したフランキーは集団戦であっても流れ弾や不意打ちをある程度無視することが可能で、範囲攻撃を行うことの出来る各種兵器も内蔵している。2年の修行で得たその技術の結晶で周りを助けようと火力で制圧を試みる……だが、敵の戦闘員の中になぜかやられながらも笑う者達がおり、フランキーはそれに対して何とも言えない不気味さを覚えた。
だが現実的な脅威はあまりない。むしろ問題なのは彼らのような一本角の者達ではなく──黒い角を生やす者達だ。
「“ウルフグリップ”!!」
「!? ──“竹ジャベリン”!!!」
「!!」
そしてその能力が解放されるのをウソップは見た。黒い角の兵士の1人が左手を狼の顔に変え、殴るようにしてウソップを襲おうとする。
ウソップはそれを何とか横っ跳びで回避し、転がりながらも“緑星”──ウソップが修行の地で手に入れた各種植物の玉をパチンコで飛ばし、急速に伸びる竹で狼の手を持つ男を吹き飛ばす。
だがそれだけで倒れてはくれない。
「ぐ……やりやがったな……!!」
「ハァ……ハァ……何だあの能力!?
傷つきながらも立ち上がる不思議な能力を持つ戦闘員に不可思議さを感じるウソップ。もっとも、その疑問は答えにまで辿り着けない。ウソップを含む彼らの知識ではその不思議な能力の正体に当たりがつく筈もないし、一味の中に薬の効果で幾つもの変形を行うチョッパーがいるのもあって、ただの
「──触ったぞ」
「え……!? うおおお!!? 敵!!?」
だが本当に手強いのは彼らではない。横に転がって立ち上がろうとするウソップに触れた四本脚の男は、後ろ足で立ったまま前足に取り付けた刃でウソップの喉笛を串刺しにしようとそれを放つが、逃げ足や回避に定評のあるウソップは再び後ろに飛び退くようにしてそれを避けた。
「ほう……すばしっこいな」
「危ねェ!! 今度は魚人か!? それとも能力者か!?」
「バホホホホ!! そのどっちもだ……!! ──さァ、
「!!」
返答の言葉と共に魚人が手斧を投げる。ウソップは攻撃を回避しようと思い──しかし見当違いの方向に投げられた手斧を見て思わず油断する。
「? 何だ全然違う方向に投げて……」
「……!! 違う!! 避けろ!!」
「え……? うおお!!?」
ウソップがその手斧から視線を外し、それを無視しようとしたところにジンベエの注意の言葉が届く。鬼気迫るそれを聞いたウソップが再び視線を戻すと、手斧はなぜか回転しながらウソップの背中を切り裂こうと間近に迫っていた。
だがそれもまた回避する。直前で身体を倒したのが幸いし、再び物理法則に則って手斧がウソップの前方に飛んでいった。
──だがその手斧は一定の距離まで飛んだ後、今度は物理法則を無視して再び円を描いてウソップを追ってくる。それを見たウソップはぎょっとし、その場から走って追いすがる手斧から逃げた。
「何だこれ!!? どうなってんだァ~~~~!!? どこまで追いかけてくるんだよこれ!!」
「バホホホホ!! そう!! それがこのおれが先祖から受け継いだ“マトマト”の呪い!!」
「! アイツは……!!」
そしてその様を見て笑うのはウソップを的にして手斧を投げた張本人である魚人。その姿を魚人である者達は知っている。ジンベエやアーロン、ハチといった者達は反応した。
頭のハットに新たに両角を付けたその男は深海では知らない者のいないあの“フライング・ダッチマン号”の船長であるバンダー・デッケン。その子孫であり、あの人魚姫に何年も手紙と武器を送り込み続けた執念深い男。
『百獣海賊団“真打ち” バンダー・デッケン9世 (ネコザメの魚人)』
「バホホホホホ!!! ホーディの奴は馬鹿な男ギャった……!! 人間だろうが魚人だろうが“四皇”に敵う筈がねェ!! あいつは新世界のレベルを甘く見やがったんだ!!」
「デッケン……!!」
「知ってんだろうジンベエ!! お前も“四皇”の強さをしってるハズだ!! だからこそおれはさっさと強い方に付いた!! それで手柄を立てまくればいずれは“しらほし”との結婚をカイドウさんに許される──のハズだ!!!」
死んだホーディを嘲笑するデッケンは自らの変わり身とそれによって得た安全な地位に笑い、そして逆らう麦わらの一味もまた愚かだと馬鹿にする。彼の目的は相変わらず“しらほし姫”ではあるのか、手柄を立てて結婚をしようとするところは全く変わっていない。
だが誰かの下につかないと豪語していた筈の男だ。それを手下にする上の度量が凄まじいのか、あるいは圧倒的な暴力と恐怖によって心が折れたのか──どちらにせよ今のデッケンは手強い敵の1人。
「そのために麦わらの一味!! お前達にはおれの手柄になって貰うぞ!! おれの結婚の為にまずはそこの長っ鼻!! 死ねェ~~~~!!!」
「!」
身勝手な言葉と共に再び今度は剣や斧、矢など傷つけるものを大量に放つデッケン。それにウソップは恐れるが、しかしどこまでも追いかけてくる飛び道具を相手にいつまでも逃げていても仕方ない。
だからこそウソップは“鉄人”の後ろに隠れた。そして一息ついて額の汗を拭う。
「ふぅ~~~……助かった」
「おい!! おれを盾にしてんじゃねェ!!!」
「仕方ねェだろ!! そうしなきゃおれの方が串刺しだ!!」
「それもそうだ。ならあいつをぶっ飛ばしゃ良いんだろ!! ──“フランキ”~~~~~!!!」
「──ナギギギギ!!!」
「!!?」
フランキー将軍の鋼鉄の身体を盾にし、デッケンの飛び道具を防いだウソップとスーパーボディを盾にされたフランキーがちょっとしたやり取りを行うが、戦闘中で予断を許さない状況にあるのは確かだ。ウソップの言に即座に納得したフランキーは先程魚人帝国の幹部に放ったレーザーを使ってデッケンを倒そうとする。
しかしそれを放つより前に、敵の集団の中から凄まじい巨体が奇怪な鳴き声と共に現れた。その姿に誰もが驚く。一見巨人族かと思うが、それの何倍も大きい。2年前に見た“オーズ”に匹敵する巨体の生物の登場に、フランキーの攻撃も躊躇される。攻撃を回避しなければ危ない。
「よし!! 踏み潰せ!! “
『百獣海賊団“ナンバーズ”
「ナギギギ!!」
「……!! おわ!!」
童話や昔話に出てくるような鬼の姿をした巨人が、敵の声に応えてフランキー将軍を金棒で叩き潰そうとする。フランキー将軍は横から飛んでくるそれにレーザーを中断し、ウソップと共に横っ跳びで回避したが、それで相手の攻めが終わる訳ではない。幸いにも七鬼の攻撃は味方すら巻き添えにするもので、即座に追撃は飛んでこないが──それでも数秒後にはデッケンの飛び道具が飛来し、十数秒後には敵兵が武器を構えて突撃してきた。
厄介極まりない敵だが、それで終わりではない。他の一味もまた決して弱くはない相手とその数に苦戦を強いられている。
「さっきはよくもやってくれたよなァ……女ァ……!! 麦わらの一味はともかく……新政府に命の保証はねェ!! 全身串刺しにして殺してやる!!!」
「“真打ち”……!! 気をつけて下さい皆さん!! 彼らは他の雑兵とは違います!!」
“真打ち”シープスヘッドに睨まれたコアラは一味に注意を呼びかける。
だがそれを耳にする頃には誰もが言われずとも敵の手強さを実感している頃だった。そして、誰もが理解する。
敵は1万人──魚人島にやってきた船が10隻であり、それを指揮する真打ちが5人。ソノにシープスヘッド、バンダーデッケンに倒れてる小紫と……後1人。
それは海軍の“バスターコール”にも匹敵する数と戦力であり、国を滅ぼすことも出来る恐怖の軍団である。
だがその海軍よりも今の彼らはより強く……恐ろしい。
今や世界最強の海賊にして“四皇”の一角。かの海賊帝国を構成する──“百獣海賊団”の戦力は、今や単独では決して敵う筈のない程に高まっている。
この1万人の軍団でさえその一端に過ぎない。対する麦わらの一味は今広場にいる支援者を含めても100人に満たない。その圧倒的な戦力差を魚人島から百獣海賊団に鞍替えした人魚は指摘する。
「魚人帝国の兵士と同じ様に考えていては痛い目を見ますよ? ウチの兵士は他の四皇と比べてもタフで“ゾンビの軍団”と呼ばれてるくらいですから……」
「そんなことは百も承知じゃ……!! じゃがお前達を追い出さねば魚人島に未来はない……!!」
真打ちのソノ。元人魚柔術師範の放った“撃水”を同じ技で撃ち落とし、ジンベエは覚悟を持って言い返す。
無論、覚悟があるからといって楽な戦いで済む筈もない。ソノの言うように百獣海賊団の戦力はたった1万人でもこちらや魚人帝国とは雲泥の差だ。
大部分を占める戦闘員“ウェイターズ”は最下級ではあっても新世界の海賊達であり、誰もが並の魚人よりも強い。
その次に多い笑う戦闘員“プレジャーズ”は戦力としてはウェイターズと同じでも、どんな状況でも笑う彼らの事情を知らない敵には不気味に映る。
そして能力を持つ戦闘員“ギフターズ”は劣化とはいえ確かに強化された身体能力とタフさ、動物の能力で敵を倒す。特異な能力と強化された迫撃の強さは確かな脅威だ。
この3つの階級の戦闘員の他にも元ワノ国の侍達で構成された“ウォリアーズ”や、復活した古代巨人族の怪物達“ナンバーズ”。そして諜報、偵察部隊である“メアリーズ”が存在する。
だがその中でも選ばれた者達──“真打ち”は百獣海賊団の幹部である猛者達であり、そのほぼ全員が悪魔の実の能力者。億超えの実力を持ち、“
だが、ジンベエは思う──それらですら
「まったく……支配される救いもあるというのに……やっぱり気に入りませんね。ジンベエ親分、フィッシャー・タイガーの意志を継ぐあなたが今更オトヒメ王妃や王族の意志を汲もうとするなど……」
「お頭の願いを継いだからこそじゃ!! 支配され、苦しみ、魚人と人間が憎しみのままにいがみ合う未来など、誰も望んじゃおらん!!!」
「血が流れなければそれでも平和ですよ。下等種族である魚人や人魚が救いを得ようとするならば、人間にお願いするしかないでしょう?」
「……! その考えを、ずっと隠して仕えておったのか……!!」
「否定出来ますか? 出来ないでしょう。歴史が証明しています。たった一度でも魚人や人魚が人間を上回ったことがありますか? 平等に扱われたことがありますか? 200年前に世界政府が与えたそれですら平等は建前。現実では魚人や人魚の多くが差別され、奴隷に落とされ、人間と一緒に奴隷を解放した者でさえ、その人間を敵に回したくないからと体の良い生贄としてその罪を一身に被った。魚人が人間と対等な立場に立つことなど不可能なんですよ……!! ──“
「! “
ソノの長い尾ビレが払われ、斬撃が発生する。ソノが地上であるにも拘わらず人魚の状態のまま戦っているのはそれを駆使するためだろう。ジンベエはそれを武装色硬化で硬めた腕で防御したが、なおも互いの口撃は止まらない。
「百獣海賊団でそれが得られると言うつもりか!!? あの獣共に!!」
「獣だからこそ、ですよ。獣の下であれば少数ではあっても、利用価値がある限り差別はない。力を用いて支配するならより強く、聞こえの良いだけの平等を叫ぶ人間などより──獣の方が何倍もマシです」
再びジンベエとソノの肉弾戦が始まる。魚人空手を用いるジンベエは打撃で相手を打ち倒そうとし、人魚柔術を用いるソノはジンベエの打撃をいなしながら相手を捕らえようと何度も当身を行う。ジンベエはそれを回避する。その至近距離で再びソノが──ジンベエの意志を否定しようと言葉を尽くした。
「そもそもこうして力を用いながら“融和”を叫ぶことこそが片腹痛い……本物の“タイヨウ”の意志とは……オトヒメ様が語ったそれは、暴力を用いず対話を以て行うもの……!!」
「……! 話の分からん者には拳で語る他ないじゃろう……!!」
「言い訳ですね。オトヒメ様はどんな相手であっても……それこそ天竜人を相手にしても対話を行い、成果を持ち帰った……だというのにあなた達、タイヨウの海賊団は今も昔も力を用いてオトヒメ様の語った
ソノは言う。ジンベエ達魚人の無法者共に正当性など何もないと。
「──結局、難しいからと諦めているのでしょう? だからフィッシャー・タイガーに加担して、タイヨウの海賊団に参加した……どうせ無駄だと諦めて暴力に走る……その程度でオトヒメ様の意志を継ごうなど──反吐が出ます」
「……!」
ジンベエはソノの言葉に昔を思い出す。確かに、若い頃はジンベエもまた人間との融和など無駄でオトヒメの思想は絶対に叶わないものとして見ていた。兵士でありながらもオトヒメの演説を鼻白み、正当性もなく奴隷を解放したタイガーに筋があるとして兵を辞めて海賊になった。その過去は確かで、少しでも魚人島が人間に近づくために意志を改めてからも今も力を用いていることは確かだ。
だからこそソノの言葉には反論しなかった。ここに来て得心する。
つまるところソノはオトヒメの意志を誰よりも理解し、尊重しながらも──その意志を継がないことを選んだ者。
だからソノはジンベエにこう言っているのだ──暴力を振るう自分達に、その意志を継ぐ大義はない──と。
「ずっと苛立っていたんですよ、ジンベエ親分……あなたや革命軍に参加していたハックにも……人間との融和と種族の平等を叫びながら暴力を振るい、まるでオトヒメ様の意志を代弁しているかのように振る舞うあなた達に……!!」
「……!! ……百獣海賊団になったお前さんがそれを言うか……!!」
「ええ、だから私はそれを望まない。ここまで否定しておきながらなんですが……言葉であなたを納得させたり、思想を押し付けようとは思っていませんよ。私も今や無法者。無法者には無法者の流儀がある……」
言って、ソノは尾ビレを武装色で硬めてジンベエを打ち払う。覇気は意志の力。怒りや感情もまた覇気であるがゆえに──ソノの攻撃はより苛烈になっていた。
「ホーディの馬鹿をこの手で殺せなかった分は……あなたに払って貰いますよ、ジンベエ。カイドウ様とぬえ様に忠誠を誓わないなら死んでも文句は言わせません」
「……! 望むところじゃ……!!」
普段やる気のないソノがやる気を見せてジンベエに立ち塞がる。ただの真打ちに甘んじているとはいえ、ソノは“飛び六胞”候補として何度も挙げられ、それを断っている程の猛者だ。ジンベエとて片手間で倒せる相手ではない。抑えなければ周囲に被害が広がる。
「ですがまあ……こちらの決着が付く前に、他が倒れてあなたが諦める可能性も否めませんね」
「!」
──だがそうやってジンベエがこの場に掛かりっきりになっているのもまた問題だった。
そう、ジンベエは思考する。ソノもまた強敵だが、敵の中で最も脅威であるその男をどうにかしなければ、未来はないと。
広場に進撃する百獣海賊団の軍勢。その真正面で戦い、魚人島を滅ぼそうと地響きを鳴らす怪物が1人。
彼こそが百獣海賊団の最高戦力。カイドウとぬえの懐刀である大看板。災害の1人。その暴威は、広場を揺るがす。
「“雷雲=ロッド”!!!」
「ギャアアアア!!!」
麦わらの一味の1人、ナミが“
雷は相手がどれだけ硬くとも少なからずダメージを与えることもあり、百獣海賊団を相手にしても一定の戦果を得ることが出来た。
「──“泥棒猫”だな……?」
「!?」
──ただ1人の怪物を除いて。
ナミの足元に巨大な影が差す。言葉に驚き、後ろを見るとそこには巨大な鼻を振り上げたマンモスの姿──百獣海賊団の大看板“旱害のジャック”の姿があり、ナミは青褪める。マンモスの能力を持つこの怪物の攻撃を喰らってしまえば痛いじゃ済まないことは明白だ。
「やめろこのクソマンモス!!!」
「!!」
ゆえに“騎士道”を魂に誓う“黒足のサンジ”がそれを黙って見ている筈はない。彼は既に発動している“
「……!! どけ!!!」
「“コリエ”……“ストライク”!!!」
だがジャックは一歩もそこから動かない。サンジの蹴りを耐え、即座に攻撃に転じたジャックはナミに向けようとしていた鼻をサンジに向け、薙ぎ払うように振る。
サンジはそれを防ぐような形で二撃目の技を放った。覇気を用いた両者の攻撃が衝撃波を生み出し、一瞬だけ拮抗する。が──
「ぐ……!!」
「サンジ君!?」
サンジは地面を転がり、片膝を突き体勢を立て直しながらも冷や汗をかく。その苦しそうな声にナミが心配した。一味の怪物3人組の1人として戦闘力に定評のあるサンジだが、その自慢の蹴りはジャックを押し返すことが出来ずに止めるだけが精一杯で、なおかつダメージを負ってしまっていた。
(クソが……!! どんなパワーだ……!! あんなの、何発も足に食らったら足がイカれちまう……!!)
心の中でサンジは相手の尋常ではない攻撃力に悪態をつく。ただの鼻の一振り。相手にとっては技ですらないその攻撃は、サンジの足にヒビを入れてしまう程に強力で、何発も受け止めることが容易ではない。
「くたばれ……!! “黒足”……!!」
「っ……!!」
そしてその破壊の一撃が再びサンジを狙った。鼻を振り下ろし、サンジを叩き潰そうとするジャック。
「“極”……“虎”……狩り”!!!」
「!!」
だが今度もまた邪魔を受ける。サンジに振り下ろそうとした一撃を防いだのは“最悪の世代”の1人であり、一味の主力でもある“海賊狩りのゾロ”の三刀流。
こちらも既に魚人帝国相手の戦い以上に気合いを入れ、頭に黒い手拭いを巻いてジャックを相手に攻撃を繰り出す。外からは麦わらの一味の“副船長”格だと噂される男のパワーはやはり並ではなく、ジャックの一撃を止めることが出来た。
「ウギ……!!」
「鬱陶しいハエ共が……!!」
だがそれでも単純なパワーでは敵わない。鍔迫り合いを行うが、その状態ではゾロはジリジリと地面を削りながら押されてしまう。
いや、そもそもその状態に持ち込まれたことがゾロにとっては不服であり、そして相手への警戒を更に引き上げるものだ。
(硬ェ……!! 刃が刺さらねェとは……どんな皮膚してんだ……!!?)
本気で覇気を込めて斬撃を繰り出しているゾロだが、それでもただの相手の皮膚を斬ることが出来ずに歯噛みする。いや、厳密には切れてはいる。薄皮一枚、刀の先の1センチ程度が埋まるくらいだが、しかし血液が流れない。マンモスの分厚い皮膚の内側まで刃を届かせることが出来ないでいた。ジャックの覇気も原因だろう。攻撃の際、明らかにこちらを超える覇気が流れてくるとゾロは現状、相手が自分よりも強いことを認めるしかない。
だが、超える。世界一の大剣豪になるにはこんなところで止まってはいられないとゾロは更に気合いを入れて反撃の手を放った。
「ウ……オアア!!」
「!?」
硬いのならばそれなりにやりようはある。ゾロは相手の鼻を受け流す──豪剣ではなく柔の剣で鼻を自分の少し横に流し、懐に入った。ジャックの鼻が地面を叩き、局所的な地割れを引き起こす。
「“三刀流”……!!」
そしてその間にゾロは覇気を高めた。刀に覇気を流し、刀の周囲にオーラが見えてしまう程の鬼気迫る技を頭上のジャックに向かって放つ。
「“黒縄大龍巻き”!!!」
「!!!」
周囲を斬り裂く鎌風──竜巻を起こすゾロの大技が炸裂し、ジャックの巨体が僅かに浮き上がる。僅かに顔が驚きに染まったジャックだが、追撃は止まない。今度はその浮き上がったジャックの上から、麦わら帽子の青年が腕を伸ばして飛びかかる。
「“ゴムゴムの”~~~~!!!」
船長である“麦わらのルフィ”がそこにいた。腕を“ギア3”で巨大化させ、“ギア2”との併用で身体能力を上げ、それでも純粋なパワーでは敵わない相手に覇気を用いた攻撃を放とうとする。
「“
「!!!」
武装硬化した巨人にも匹敵するゴムの腕がジャックを地面に叩きつける。
その破壊力はジャックに匹敵するもの。更に地面を破壊して攻撃を放ったルフィは土煙の中、既に立ち上がっていたサンジやゾロの近くに並び立ち、構えを解くことなく警戒する。
「どうだ!!? 効いただろマンモス!!!」
「いや……まだ覇気が消えてねェ……!!」
「まだまだ元気いっぱいみてェだな……!!」
そしてやはりルフィらの警戒とサンジとゾロの言葉通り、ジャックは再びゆっくりと体勢を戻し、今度はジャックが前足を振り上げて彼らをまとめて踏み潰そうと攻撃を放とうとする。散々蹴られ斬られ殴られ──ダメージは少ないが、それでも苛立つものはある。覇気をかなり込めて彼らを踏み潰すそれはホーディを踏み潰したそれと比較にならない威力を誇る。
「──“震象脚”」
「! 避けろ!!!」
「!!?」
見聞色に長けたサンジの声を聞き、ルフィとゾロはその攻撃を回避することを選択する。受けることも不可能ではないだろうが、ルフィとゾロもまた回避する方が受けることより容易いと見てそれを躱した。そして、それは正解だった。
「うわァ!!」
「……!! 広場が揺れた……!!」
「どんなパワーしてんだクソッタレ……!!」
広場全体が激震する。ジャックの獣型、マンモスの巨体と重量。パワーと覇気が合わさり、重力を利用した一撃は広場にマンモスの足跡を作り、あるいはクレーター状の穴ぼこを作るよりも凄まじい破壊の余波を撒き散らす。“白ひげ”の能力で放つ地震──島全体や近海を揺らす地震とは比べ物にならない程小規模な揺れだが、地面を割り、広場を揺らしたそれは間違いなく普通の人間に受けきれるものではない。
仮にルフィやゾロ、サンジ以外の面々が受ければ全身の骨や内臓が粉々になりかねないもので、彼らは一様にこの怪物は自分達で相手にしなければならないと更に警戒を上げる。先程のようにナミに攻撃が行くようなことがあってはならないと。
そしてそれは──ジャックも同じだった。
「埒が明かねェな……!!」
「そりゃこっちのセリフだろうがクソマンモス野郎……!!」
「! おい、身体が変化したぞ!!」
ジャックもまた、この3人の戦闘力は他の真打ちの手に余ると感じていた。連れて来ている真打ちの中ではソノか、あるいは小紫であれば相手に出来るだろうが、小紫は何故かいないため、頼りに出来る部下はいない。上位の真打ち、あるいは“飛び六胞”でもいれば話は別だったが──一先ずジンベエはソノに任せてこの3人をまずは叩き潰すとジャックは獣型から人型に戻る。
「へっ……やっと人間らしい姿になりやがったな……!!」
「それでも十分でけェが……!!」
ゾロとサンジが人型に戻ったジャックを見てそれでも脅威を感じる。当然だ。能力はあくまで能力。幾ら能力が強かろうと能力を得た本人が弱ければあそこまで強さを得られる筈がない。
人型のジャックは顔の下半分を隠す鉄のマスクを被りながらも凶悪な人相が分かり、巨体の威圧感は人型になっても変わらない。8メートル超えの巨漢であり、鍛え上げられた肉体は戦わずとも並の人間を戦意喪失させるのに十分なものである。
肩に掛けた象牙型の曲刀の鞘を抜き、再びルフィ達に襲いかかるジャック。その瞬間にゾロはその場に留まって剣士の性か、その刃を受け止め、サンジとルフィはそれぞれ左右と上に跳ぶことでそれを回避した。
「ぬえさんはお前らを評価してる。生かしてやってるのはそのおかげだ」
「何だ、生かして帰してくれんのか……!?」
「──殺さなきゃ
ジャックが静かで低い──それでいて狂気を感じさせる声で正面のゾロに向かって言い放つ。
剣戟の連続は収まらず、その巨体に似合わず確かな技量を持っていた。ゾロはそれを少しずつ後ろに下がりながら受け止めて、時には流していく。技量は確かだが、剣術の勝負になればゾロが有利だ。どうやらそれに関しての化け物っぷりはゾロの方が上のようで、ゾロは先程よりは楽に──それでも気を抜けば危機に陥るものであるが──ジャックの進撃を捌いていく。
「マリモ野郎に助けられてちゃ世話ねェぜ……!!」
だが止めているだけでもいい。ジャックを相手にしているのは1人ではない。
頼りにしてはいないが、その戦闘力だけはゾロも信頼しているサンジが脚に炎を──先程よりも強い炎を溜めて空中を駆けてジャックに迫る。
──そして思い出すのはこの2年間の地獄の修行の苦しみと怒りだ。
(なぜおれがあんな目に……!!)
サンジは思い出したくないものを思い出す。そう、サンジは2年の間、カマバッカ王国というオカマだらけの島で修行を行った。
その島は拳法が盛んで、世界中を見渡しても例のない攻めの料理のレシピを持っていて、確かに修行にはなった。感謝もしている。自分がこうも強くなって、仲間達を助け、喜ばせる料理を学べたのはオカマ達のおかげだ。
──が、嫌なものは嫌だ。サンジは女の子が大好きだった。野郎だらけ……というならまだしも、それが全員オカマで、女子が1人もいない環境など誰が好き好んで行きたいものか。一度は行ったが、もう二度と行きたくはない。あんな体験は人生に一度だけで十分──いや、なくたっていいくらいだ。
そう、サンジは2年もの間、美女を見れず、美女の声を聞けず、美女に触れることも同じ空気の中にいることすら出来ない──そんな地獄の日々を送った。その怒りがサンジの脚に溜まる。怒りの炎になって。
(だってのにウチの船長やマリモ野郎ときたら……!!!)
そして更に、サンジの怒りを燃え立たせるものがある。
2年の修行を決める新聞。それはサンジにとって、まずは別の意味で衝撃だったものだ。
何しろ世界的に美女であることで有名な、あの“海賊女帝”とルフィの結婚のニュース。あのボア・ハンコックがルフィの腕に抱きつき、嬉し恥ずかしそうに頬を染めながら写るその写真を見て、サンジは吠えた。獣のように。その時の羨ま妬ましい怒りは相当なものだった。
サンジはそれもまた糧にして修行に燃えたものだったが、2年の修行を得て再会した時に更に聞いた。半ば分かってはいたが、ルフィは“偉大なる航路”有数の男のロマンである女だらけの女ヶ島に飛ばされたという。海賊女帝との結婚は否定していたが、それでもそんな女性だらけの島なんて幸せに決まっている。ルフィはどうでもいいのかもしれないが、少なくともサンジだったらそこを“心のオールブルー”と名付けて将来の移住先の候補に上げるくらい幸せだろう。
そんな環境にルフィが──と怒りに燃え、しかしルフィだけならまだ収まりはついたが、よりによってマリモヘッドもまたスリラーバークで見たプリティーな美少女と2年間を過ごした──“鷹の目”はいたようだが──らしい。そして送り迎えの時にはそれなりに親交のあるやり取りを見せていた。
ルフィは世界一の美女と結婚未遂で女ヶ島パラダイス。ゾロはキュートな美少女に甲斐甲斐しく世話を焼かれながらの修行。
だが自分はオカマだらけの島でオカマに追いかけられ、隙あらばオカマに襲われ、オカマにさせられ、愛されかねない地獄。
「なぜおれだけがあんな目にィィィ!!!」
怒りの炎が全身を包む。そして覇気も高まる。
覇気とは意志の力。感情の力。怒りもまた覇気。すなわち嫉妬もまた覇気。それらを込めた炎の脚は、ジャックの巨体目掛けて──そういえばこの野郎も魚人で、あっちのソノちゃんは美人でこの野郎と同じくらい大きい人魚で……まさかこいつらも良い仲だったりするのか? だとしたら許せねェ──その怒りの蹴りが放たれる。
「──“
「!!!」
理不尽な八つ当たりがジャックを襲った。先程までの蹴りならジャックも涼しい顔で受け止めただろうが、その蹴りはサンジの妙な迫力と込められた覇気の大きさに僅かに痛みを訴えてたじろぐ。
「てめェ……!!」
「どうだ!! クソマンモス野郎!!」
ジャックが蹴られた怒りをサンジに向けるが、ゾロもまた目の前にいるため、無視出来ない。蹴りの威力は確かに高いが、それでもジャックはゾロの方が脅威は上だと思っていた。
「お前は強ェから……おれも本気でいくぞ……!!!」
「!?」
だが、更に強く厄介な男がいる。
「“ギア”……“
ジャックは横約10メートル先にいる地面に立つことの出来ない男の姿を見た。声は“麦わらのルフィ”のものだが、先程よりも身体が大きく丸くなり、それでいて跳ねている。
よく見れば身体の大部分を武装硬化して固めているような変形を行っていた。ジャックは2年前、ルフィと出会っており、その戦闘を知っているが……その変形は見たことがない。
だがそれもその筈。ルフィのその変形は2年の修行で得たもの。修行先の凶暴な猛獣達や、この先の海にいる強者達をねじ伏せるために得たルフィの新形態。
「──“
“ギア
筋肉を武装硬化し、強力な弾力を得たがゆえに地面に立つことが出来ず、跳ねているルフィにジャックだけではない一味の仲間や周囲でそれを見た者達が一様に驚いた。
間違いなくルフィの秘策──だが、跳ね続けているというのは些かシュールであり、ジャックもまたその形態に茶々を入れる。
「何だ、そのフザけた身体は……!!」
「フザけてなんかいねェ!! おれは2年間、お前みてェにデカイ猛獣達と戦い続けてきたんだ!! あいつらをねじ伏せる為にこの“巨体”と“弾力”が必要だった!!!」
「ねじ伏せられるものならやってみろ……!!」
「ああ!! やってやる!!」
弾力で跳ねていたルフィがジャックの言葉に奮起し、ジャックに向かってまっすぐに跳ぶ。ジャックはそれを身体で受け止めようと注意をそちらに向けたが、拳を放とうとするルフィの手が腕に埋まって陥没したのを見て目を見開いた。
「“ゴムゴムの”!!」
「……!」
「“
限界まで拳を引き絞り、放ったそのパンチは、ジャックに当たる直前で解放され、押し出し、跳ね返すようにしてジャックの巨体を殴りつける。
「“
「!!!?」
そしてジャックの身体がギョンコルド広場の丘にまで凄まじい速度で吹き飛ばされ、激突した。
丘を破壊し、岩が落ち、地面を引き摺る。
だがジャックはそれを受けて、確かなダメージを負いながらも──やはり健在だった。
「……!! 今のは……!!」
「──タフだな……!! だけどまだこんなもんじゃねェ……!! 一気に倒してやる!!!」
「言ったハズだ……!! やれるものならやってみろ……!!!」
言葉と共に向かってくる新形態のルフィを見て、ジャックはしかし恐れることはなく、真正面からそのパワーに張り合う。
確かに攻撃力は上がった。ジャックもその攻撃は決して無視できない。食らい続ければいずれはどうなるか分からない。
だがとはいえそれだけなら問題ない。ジャックが2年前も含めてここまでルフィを見た上で警戒し、問題とするのは──その成長速度だ。
(たった2年の修行でこの成長速度……こいつは危険だ……!!)
「“
ルフィの両足での一撃を食らい、それに反撃しながらジャックは思う。2年前であの弱さ。それからたった2年でこの強さなら、今はこの程度でもこれから先はどうなるか分からないものだ。
それはまだ28歳。四皇の幹部としては若い部類に入り、周囲から怪物だと言われてきたジャックでさえ思う事である。ジャック自身はその強さを認められながらも、自分が大したものだと思っていない。カイドウとぬえの役に立つために頑張ってきただけであり、目標はこの程度ではなく、大看板の兄御、姉御達に追いつくためにはまだ強さは足りていないと判断している。それでもそれ以外の面々には引かない、同格を相手には絶対に負けないという自負はあるが……とはいえ客観的に見た強さを確かに知っている。
それで言うなら麦わらのルフィの強さは未だ脅威ではない。彼がカイドウやぬえを相手に万が一を起こせる程の強さは持っていないが……それでも10年後、5年後になった時、彼が百獣海賊団の脅威にならないということは決してない。
その考えはもしかしたら不敬ではあるかもしれないし、ジャックもカイドウやぬえが負ける筈がないと強く信頼はしている。
が、だからといってそれを頼りにして何もしないのであれば自分達の存在意義などない。可能性が万が一でもあるのなら、その可能性の芽を出来るだけ潰すこと。カイドウとぬえの手を煩わせないこと。天下を獲るためにやれることはやり、強くなってやれることを増やすこと。それが大看板の役目だとジャックは考えている。
そしてだからこそまだ1日どころか数時間も経っていない戦闘の中でルフィの将来の危険を予感したジャックは、この場で心を折ることを決める。殺すことは残念ながら出来ないが、それでもいつもやっているようにして心を折って、服従を促すことは出来る。
だがそのためにはジャックがこのルフィを含めて、麦わらの一味を蹴散らさなければならない──となればジャックのやることはやはりシンプルだ。カイドウとぬえ。百獣海賊団の為に──
「……従わねェなら──潰すだけだ」
──“災害”として、全力でやるべきことを為すだけだった。
「オオオオオオ!!!」
「っ……!!」
“麦わらのルフィ”の新形態。“ギア4”は今までのルフィより格段に強い。劇的なパワーアップに成功していた。
通常状態のルフィの強さは、身体能力は新世界の海賊レベルとはいえ“四皇”の幹部には及ばない。耐久力と素早さは百獣海賊団の上位幹部と比べても遜色ないか、後者であれば上回っている可能性がある。だが力に関しては露骨なパワー不足だ。純粋な力比べでは劣り、敵を倒そうにも攻撃力が不足している。覇気を合わせたところでそれは変わらない。
だが“ギア4”は大量の覇気を用い、ゴムの特性を強化した決死の大技。パワーも耐久力も素早さも、その全てが四皇幹部や七武海レベルに達している。
ゆえにジャックとの戦闘はルフィが押しているように見えた。ジャックはタフネスとパワーは圧倒的だが、速さはそこそこ。無論、反応は出来るがルフィとの戦いで後手に回るのは避けられず、周囲の横やりもあって何度も攻撃を食らう。
「ハァ……ハァ……どうだ!! これで……!!」
「……!!」
“ギア4”の攻撃力はジャックも無視出来るものではなく、仮に相手が七武海レベルであれば手も足も出ず、KOされてしまいかねないもの。
──だがそれを問題にしないのが“大看板”でありジャックだった。
「! あの野郎……!! あれだけやってまだ立ち上がんのかよ……!!」
ルフィの猛攻を受けたジャックが瓦礫の中から立ち上がるのを見て、サンジは驚愕する。自分達も含めて、どれだけダメージを与えても倒れる気配がない。四皇の最高幹部とはこうまでにしぶといものなのかと。
「それならもう一発!!」
と、ルフィもまたジャックに攻撃を加えようとする。これだけやって効いていない筈はない。後少しで押し切れる筈だとルフィは腕を引き絞った。
──だが、そこで限界が訪れる。
「あ……!」
「!?」
「おい、ルフィ!!?」
突如、ルフィの身体が萎んでいく。
口から空気を吐き出し、地面へと落ちて普段のルフィの姿に戻ってしまった。それを見たゾロは只事ではないと近寄ってきた雑兵を斬り捨て、ルフィの元へと走る。
「立てねェのか!?」
「……!! ハァ……ハァ……いや、大丈夫だ……でも“バウンドマン”をやったら10分間、覇気が使えなくなる……覇気無しじゃあいつに敵わねェけど……どうにか止めねェと……!!」
「……!! 分かった、なら少し休んでろ!! ──おい、ぐるマユ!!」
「……! 話は聞いた……!! つまり、おれ達でこの化け物を抑えなきゃならねェってことだな……!!」
“ギア4”の問題点。長時間使用をすると覇気が10分間使えなくなることを説明され、ゾロは即座にそれを理解、飲み込んで戦力として信頼するサンジに声を掛けた。サンジもまた話を聞いて、自分達のやるべきことを理解する。ルフィが戦えない間、自分達でジャックを抑える必要がある。
ルフィの凄まじい猛攻を耐えきった怪物。時間制限がやってきたのはルフィの技の問題もあるが、この場合は相手の強さを褒めるしかないだろう。大体の相手であれば“ギア4”、1回の使用で片がつく。それが出来ないのは……相手がそれだけの猛者である証左だ。
「何だ……もうダウンか……? “麦わら”……!!」
2年前の時点で何度も死地を乗り越え、数多の強敵を驚愕させたタフネスを持つルフィの──それ以上のタフネスを持つジャックが、覇気が使えなくなり、息を荒くしているルフィに迫るが、今のルフィでは止めることは出来ない。代わりに立ち塞がるのはゾロとサンジだ。
「おれ達を無視してんじゃねェ……!!」
「お前の相手はこっちだクソマンモス……!!」
「──ならお前らから先に潰れろ」
叩き潰す宣言を行い、人型のジャックが右手を振り上げる。曲刀を逆手に持ち、拳で殴りつける構えだ。サンジはそれを足で受け止めようと試みる。問題ない筈だ。苦しくても止められればいい。相手もそれなりに消耗している筈で、加えてただのパンチであれば──それでも強力だが──受け止めきれる筈。
そう思い、サンジは攻撃を読み違えた。ジャックの構えは今までとは違うもの。この場にいる者達であれば見覚えのある
「……!? まさか……!!」
「え……!?」
ジンベエ、そしてコアラが瞠目する。ジャックのそれは彼らにとって馴染み深いもの。まさかの行動に顔が青くなる。
──が、ジャックにとっては当然のものだ。奥の手の1つとはいえ、手こずる相手に対して自らの強みを出さない訳がない。
そう、ジャックは思う。これはさらなる力を……自分なりの強みを得ようとして得た力だ。
百獣海賊団の大看板。“災害”の名を冠する者達には、悪魔の実の能力や覇気とは別に、戦闘の主軸となる強みがそれぞれ存在する。
“火災”であれば種族的な特徴からもたらされる、全てを燃やし尽くす炎とあらゆるものを斬り裂く剣術。空中戦の強さ。
“疫災”であれば全身に改造を施すことで得た各種兵器による火力と病原体。それらを作り出すことの出来る技術力。
“戦災”であれば大看板で最も優れているとされるその戦闘技術。卓越した体技。殺しの技の数々。
物心ついた時より百獣海賊団に所属していたジャックは“大看板”の強さをよく知っている。その上に君臨するカイドウとぬえは更に規格外だが、大看板もまた人外の強さを持つ怪物には違いない。
ゆえにそれらを目標とし、実際に大看板となったジャックは自らの力に満足していなかった。タフネスやパワーがあるが、それらは他の大看板も持ち合わせているもの。個人的なジャックだけの強みとは言い難い。
これから先、百獣海賊団が世界を支配するに当たって“お荷物”になるようなことがあってはならないのだ。任務はどんなに難しいものでも達成する。そのためには今以上の強さがいる。
──ゆえに得たのが自身の種族に関係するその技。ジャックは今まで、正直言って種族などどうでも良く、種族に拘ったり差別がどうのと言い出す自分の同族をくだらないと白けた目で見ていた。人間に差別されているから何だと言うのかと。種族を馬鹿にされたからと憤る気持ちはジャックにはないが、怒りがあるなら力で黙らせれば良いだろう。そもそも種族の優劣など百獣の頂点に立つ最強生物と最恐生物に比べれば全員、蟻のようなものだ。五十歩百歩。大して変わらない。あるとすれば個人の優劣だけだ。種族に拘り、差別に憤ってる時点でそれを認めている負け犬に他ならない。本当に他者より優れている自覚があるのならば何者にも憚らず全てを破壊してしまえばいいのだ。それが出来ない時点で同族もまた、他の種族と同様に獣の手で支配されるべき存在なのである。
だが一方でジャックは種族特性で行うことが出来るそれの優位性は理解している。種族にこだわる精神性は理解出来ないが、技術は有用だ。
──だからこそジャックはそれを学んで会得した。
「“魚人空手”……」
「!」
「マズい……!! 受けてはならん!!」
ジンベエが確信し、サンジに危険を伝えるが──もう遅い。
ジャックは“タマカイ”の魚人。幼い頃から悪魔の実の能力者であり、魚人として過ごしてきた訳ではないものの、人間でも修行をすれば使えない技術ではない……で、あるならばジャックに使えない道理はなかった。
「──“一万枚瓦正拳”!!!」
「!!!?」
大気中の水分。そして人体の中の水分を振動させ、衝撃を発生させる正拳突き。
それにジャックのパワーと重量が加わり、駆け抜けた衝撃はサンジの足から全身に伝わり──それから少し遅れてサンジを広場の外周部まで吹き飛ばした。
「……!! サンジ君!!」
「──落ち着け!! あの程度じゃ死なねェよ、ぐるマユは……!!」
派手に攻撃を食らって吹き飛ばされたサンジをナミが心配するが、ゾロはそちらを向くことなく、気を張ったままジャックと相対する。その一喝は仲間の危機に心配して気を抜く仲間を引き締めるもの。それぞれの役割を果たすことがこれから先の戦いで必要になることだ。
「おれが見てくるよ!!」
「ああ、頼むチョッパー!!」
攻撃で吹き飛んだ先にも敵はいるだろう。あるいは、重傷になっていたとしても問題ない。船医であるチョッパーが敵を殴り飛ばしながらサンジが吹き飛んだ方向に駆け出し、ルフィがそれを正式に指示する形で頷いた。覇気の使えないルフィだが、雑兵を蹴散らすくらいは訳ない。“ギア2”と“ギア3”なら覇気がなくても使うことが出来る。
だがサンジが戦線から離れた今、ルフィもまたジャックと相対しようとしていた。周囲の仲間達は真打ちやナンバーズを相手にそれなりにやれている。
ジャックを相手に期待出来るのはジンベエだが、ジンベエはソノに止められ、そしてジャックが魚人空手を用いたことに対してそれを問いかけていた。
「ソノ!! 貴様!! 魚人空手を教えたのか!?」
「ええ、まあ……お願いされたので。優秀な弟子ですよ。あのパワーに魚人空手の技術が加わり、破壊力が跳ね上がっています。技術は粗くても、あなたを凌駕する程には」
「……! なんという事を……!!」
人魚柔術の師範であったソノは魚人空手の技の原理、仕組みを理解しており、ジンベエやハックに敵わずともそれを使うことも教えることも出来る。ゆえに数年前にジャックに教えを請われたソノはあっさりとそれを教えてしまった。憚ることは何もないとソノはどこ吹く風だが、危険人物にそれを教えたことをジンベエは歯噛みして冷や汗をかくしかない。
「大丈夫か!? ゾロ!!」
「問題ねェ……!! ここでやられるようなら、おれはそこまでの男……!!」
「……!!」
ルフィの心配にゾロがジャックから目を離さずに答える。そうして再び戦闘を──ジャックが暴れ回り、ゾロが何とかそれを止める戦闘が続くが、それもまた続けば10分という時間があっさりと過ぎる。
「よし、もう一度だ!! ──“ギア4”!!!」
「戻ったか……!!」
そして2度目の“ギア4”。自身に無視出来ないダメージを与えたその形態を前に、ジャックは警戒し、今度は拳でそれを撃退することを決める。
「“一万枚瓦正拳”!!!」
「“
ジャックとルフィの拳が激突し、拮抗する。パワーとパワー。覇気と覇気のぶつかり合い。衝撃は広場に散って駆け抜け、尋常ではない戦闘の気配を多くの人々に伝える。
ルフィとしては驚くべきことに攻撃を止められ、ジャックとしても驚くべきことに攻撃を止められた。先程まではルフィが押しており、ジャックの人型での全力を出せばそれを押し返せるとジャック自身が思っていたが、それは見積もりが甘いことに気づく。
殴り殴られ、あるいは止められ──その戦闘を行いながら、ジャックはもう1段階本気を出すことを考えた。出さずともこのまま続ければスタミナの差で十中八九、自分の勝利だが……その僅かな相手の勝機を消すならばその方が良い。
ならば次の“ギア4”が解除された時にジャックも3つ目の形態を解放することを決める。そうすればルフィ以外の誰もジャックを止めることは出来ず、麦わらの一味を1人1人叩き潰せばそれで終わりだ。
──ゆえにジャックがそう決めた時点で、“ギア4”の時間制限は一味のタイムリミットともなった。それが過ぎれば……犠牲が出かねない。
それを理解せずに一味は戦闘を行っていく──ルフィだけは本能から戦闘を急いだ。全力でジャックを倒そうと力を振り絞る。
「ゼェ……ゼェ……!! これで……倒れろ!! “ゴムゴムの”ォ……!!!」
何とかジャックの懐に入ったルフィが、両腕に覇気を込めて大技を放つ。これで終わるつもりはないが、これでブッ飛ばすと力を引き絞り──
「“
「!!!」
白目を剥き、身体をくの字に折ったジャックの口から血が吐き出される。
その一撃は確かに強力で凄まじい威力を秘めていた。“飛び六胞”であればこれで倒れていたかもしれない。
が──
「ハァ……ハァ……!! まだ、か……!!」
「……!!」
それでも倒れないのが“大看板”──“旱害のジャック”。
地面を引き摺り、とうとう血を流す程のダメージを受けようとも、それではやられない。立ち上がり、厳しい表情を浮かべるルフィにニィと凶相を浮かべて一味を恐怖させる。
「そろそろ疲れたか……? ハァ……ならもう終わりだな……!!」
「ゼェ……それは、お前もだろ……!! ハァ……おれはまだやれる……!! ハァ……もう少しで、おれ達の勝ちだ!!!」
「……お前は真打ちや“飛び六胞”じゃ手に余る……ここで折らなきゃ後々面倒だ……!!!」
「……!?」
未だに折れず啖呵を切るルフィに、この先、敵対し続ければ“飛び六胞”以下の幹部ではこの男を始末出来ないと考え、ジャックは本気の姿を解放しようと力を入れた。
ルフィの目の前で、ジャックの姿が変わっていく。
そしてそれこそが
「そろそろ楽にしてやる……“麦わら”……!!!」
「……!!」
──
その姿を解放し、マンモスよりは小さいが、通常のジャックよりも巨大な人型の獣となってジャックはルフィを潰すべく踏み込んだ。巨体の圧力が間近に迫る。両腕に加えて、鼻の攻撃がルフィを襲おうとしてルフィはその対応を誤った。地面へ叩きつけられる。
「ウアアアアア!!!」
「潰れろ……これが世界最強の海賊団……!! 百獣海賊団“大看板”の力だ……!!!」
「マズい……!! ルフィ!!!」
追撃の踏みつけの動作を行うジャックに、ゾロがマズいと声を出す。その攻撃は死にかねないものだ。あるいは死にはせずとも、その一撃でルフィが気絶してしまう可能性を感じ取った。つまり、敗北。そうなればルフィは起き上がるのを待たねばならないが、その間にジャックは他の仲間を蹂躙するだろう。
そしてそれも危険だが──何よりルフィの身を案じてゾロはそれを止めようとしたが……間に合わない。
「これで……!!!」
ジャックの足の影がルフィを覆う。そしてそれが正に振り下ろされる──その時。
「!!!」
衝撃はルフィではなく……ジャックの横っ面を吹き飛ばした。
「ジャック様!!?」
「え……!? おい、あいつは……!!」
百獣海賊団がジャックが乱入者によって殴り飛ばされ、再び血を流したことに声を上げる──が、それよりも彼らは恐る恐るとその相手を確認した。見覚えのあるその顔に戦闘中であるにも拘わらずざわつく。
そしてそれらはマイナスな意味でのざわつきだったが、対するその敵側──ルフィ達の方は違う。
とりわけすぐにそれに反応したのは、やはり同じ組織に属するコアラで、
「悪い。遅くなっちまった」
「……まったく、本当に大遅刻よ──
彼からの謝罪にコアラが苦笑気味に名前を呼んだ。彼女にとってはほぼ幼馴染のような間柄である。立場としては上でもへりくだることのない気安い関係だ。
──そしてそれはルフィにとっても同じ。立場は相容れずとも……その幼い頃に結んだ義兄弟の絆は、決して消えることはない。
「さ……サボ~~~~~~~~~~~~!!!!」
「──待たせたな、ルフィ」
──“新政府軍”参謀総長……サボ。
ルフィとエースの義兄弟。ルフィのもう1人の兄が、広場に遅れて突入してくる装備を整えた集団──新政府軍と共に彼の前に姿を現す。
頼もしい増援の到着にルフィ達は喜び、百獣海賊団は苦い顔を浮かべた……とはいえ、再会の言葉もそこそこに、サボはジャック達に向き直ってその戦意が衰えていないことを確認し、気を引き締める。
「さて……このまま勧告したいところだが……これくらいで百獣海賊団が……それも“大看板”が引き下がるワケがないな」
「当然だ……!! このままお前達もまとめて叩き潰してやる……!!!」
「ま、そうなるか……ルフィ、まだやれるか?」
「ああ!! 大丈夫だ!!」
だがルフィ達もまた士気を向上させている。
特に義兄弟の助けを得たルフィは痛みの蓄積や疲労など知ったことではないという風に頼もしく頷いた。そして息のあった様子で構え、ジャックを倒す算段を口にしながら駆け出す。
「よし、なら行くぞルフィ!! あいつがいる限り、百獣海賊団はどうあっても引くことはない……!! お前の力であいつを吹き飛ばせ!!! おれも手伝う!!!」
「! ──ああ、サボ!! わかった!!!」
そしてその言葉にルフィは即座に理解して頷く。意図にはすぐ気づいた。義兄弟ゆえか、あるいは戦闘に関するルフィの優れた本能が導き出したのか、戦闘を長引かせては不利だという共通認識から、行動は即座に決まる。
「援軍が来たからと怯むな……!! 数はまだこちらが多い……!!! 踏み潰せ!!!」
「オオオオ~~~~!!!」
「了解です、ジャック様~~~~!!!」
そしてジャックの行動は変わらない。部下達の士気を上げ、戦闘を促しながら自身もまた敵を叩き潰そうと待ち構えた。
──そうして戦闘は再開され……しかし時間は味方ではない。
否、厳密にはジャックが味方にさせない。
「ハァ……クソ……何を食らったら倒れるんだ……!!」
「いい加減に倒れて欲しいな……!!」
「こっちの台詞だ……!!!」
戦闘が始まり……半日。
5度目の“ギア4”を用いたところで、ルフィとサボは呼吸を荒くしながらジャックと対峙し続ける。
体力は削られる一方。ジャックもまた消耗しているが、それはルフィ達と比べるべくもない。最初は押してるように見えたものの、戦闘は徐々にジャックの手によって盛り返されていた。
そう、盛り返されていた。つまり、麦わらの一味にとっての朗報は他の真打ちや戦闘員をそこそこ削れていること。
「ハァ……敵が多すぎる……!! いつになったら……ハァ……途切れんのよ……!!」
「倒しても倒しても敵が……!!」
ソノとジンベエだけは未だ拮抗した戦いを演じているが、デッケンやシープスヘッドはウソップやフランキー、ブルック。ナミやロビン、コアラの手で──苦戦はしたものの──既に地面に伸びており、新政府の援軍もあって戦いは確かに麦わらの一味に傾いていた。戦闘員を倒し続けているため、中々加勢は出来ないものの、遠距離攻撃が出来る一味の面々は時折ジャックにも攻撃を加える。
「いつになったら倒れるんだ!! ハァ……タフさがこの世のものじゃねェ!!」
「クソ……コーラが切れた……!! どうなってんだあの野郎のしぶとさは!!」
「相手はあの“大看板”……!! 話には聞いてたけど……とんでもない相手ね……!!」
「……! わしも加勢したいが……!!」
「悪いですが、あなたは私で止まっていて貰いますよ……!! あまりジャック様の手を煩わせる訳にはいきませんからね……!!」
──が、それでもただ一点、崩れない怪物がジャックだ。
「ウアアアアアアアアア!!!」
「! 危ねェぞ!! 避けろルフィ!!」
「ああ……!!」
ジャックを倒せないがために、敵は次々と襲いかかってくる。倒れてもいずれは起き上がり、戦いに戻っていく部下達もまた脅威。
だが何よりも、戦いを続けていくに連れてスタミナの差から攻撃を重く感じ──実際にも、何度も攻撃を与えられ、傷よりも苛立ちを、怒りを溜めて凶暴な唸り声を上げながら真っ直ぐに進撃をしてくるジャックのその迫力に、たまらずルフィやサボ、ゾロも避けるしかない。
「“象木林”!!!」
「!!!」
ジャックの鼻の一撃が地面を粉砕し、周囲に破壊を撒き散らす。攻撃の1つ1つで何かが壊れ、地面が砕け、建物が倒壊し、轟音が響き渡るその破滅的な戦い振りは正に──
「確かに……こりゃ“災害”だぜ……!! ハァ……ハァ……!!」
ゾロがそんなことを口ずさむ。先程から何度も斬撃を加えているのに、膝を突く気配もない。
さすがのジャックもそれなりに消耗はしているようだが、タフネスは異常。パワーと武装色の覇気もこちら以上の上手。倒すともなればもう少しルフィ達が力をつけて何か打開策を見出すか、更に時間を掛けるしかない。
何よりだ。このままでは仮にジャックの軍団を全て倒しても……ジャック1人だけでも戦闘を続け、そしてこちらに誰かしらの犠牲を出しかねないものだ。
事実、その予想は当たっていた。ジャックは任務であればどんな相手だろうと怯まずに突撃するイカれた怪物。新政府軍のNo.3であるサボが軍勢を引き連れてやってきても戦いを止めないのがその証拠であり、仮にここに大将だろうが誰が来ても戦いを止めないだろう。気絶して倒れるまでは。そんなことをされては勝てても被害は甚大で、島だって保たない。このままじゃ異名通りの“旱害”に──島が滅んでしまう。
それに加えてそろそろ、戦うこっちの身も持たないと、そう考えたサボはルフィに目配せし、ジャックが攻撃後に隙を見せたのと先ほどよりは消耗しているのを見て今が好機だと突っ込む。
──そしてジャックはその義兄弟の意図が分からない。ゆえに勝敗を分けた。
「そろそろ限界だ……!! 出ていって貰うぞ……この魚人島から!!!」
「!」
サボは右手をまるで竜の鉤爪のような形に変え、覇気を込めてそれを打ち出す。
「“竜爪拳”……“竜の鉤爪”!!!」
「……!!」
衝撃と衝撃が激突する。
ジャックはサボの攻撃に対し、自身もまた拳を放つことでそれを防いだ。パワーではやはり、サボもまたジャックに敵わない。サボが歯噛みし、きつい表情を浮かべるが、その間に別の仲間がジャックの隙を突く。
「おれも交ぜろよ、その企み……!!」
「ゾロ!!」
「“海賊狩り”……!!」
一味の主力であるゾロが、素早くジャックの足元に潜り込む。ルフィの声とジャックの声が重なった。どちらもゾロを差す言葉だが、込められた意味は真逆のもの。ジャックはそれを躱すことが出来ず、ルフィは何をするかを理解して先んじて上空で腕を限界まで引き伸ばす。
「“黒縄大龍巻き”!!!」
「!!! グ……!!」
先程も放ったゾロの大技を再びジャックに放ち、そして今度はジャックの巨体を上空に浮かせた。肌を斬り裂き、薄く手傷を負わせるが、それでゾロは満足することは出来ない。自身の至らなさを自覚し、吹き飛ばしたジャックに向かってゾロは宣言する。
「次に生きて会った時は……こんなもんじゃねェ。リベンジさせてもらうぜ……!!」
「何だと……!?」
まるで勝負が終わったかのようなその言い草に、ジャックの頭に怒りと疑問が同時に湧く。この程度でジャックは倒れない。飛ぶことは出来ないため空中で為すがままではあるが、落下如きでくたばる筈もない。むしろこのまま下敷きにして叩き潰してやろうかと、そんな思いを視線に乗せて睨みつける。
「お前がいたら魚人島は解放されねェ……!!! お前が邪魔だ……!!!」
「……! “麦わら”……!!」
が、空中で腕を長く、それこそ島の端まで届くのではないかと思う程に伸ばし、その腕を巨大化させていたルフィはジャックに向かって自らの意志を告げる。
魚人島を、仲間の故郷を救う。そのためにはこの目の前のジャックが邪魔なのだ。
だからこの一撃で倒す。そしてもし倒れなくても──吹き飛ばしてしまえば関係ない。
「深海の底まで飛んでいけ~~~~~~~~!!!」
「! まさか……!!」
そしてそこでようやくジャックは気づく。ルフィ達の狙いに。
空中で身動きの取れないジャックはルフィの攻撃を受け止めるしかない──気づいてはいても、止められないなら意味はない。
「“ゴムゴムの”ォ……!!!」
ルフィが言う。果てまで飛んでいけと、無論、倒すつもりで。
「“
ジャックはそんな攻撃でやられるつもりはない。死ぬつもりも。
だがそれを食らってしまったら──詰みだということを理解して。
「“
「!!!」
──しかしそれでも食らうしかなかった。
ルフィの最大の一撃はジャックの仮面を破壊し、一度は気絶させる程のダメージを与えながら魚人島の空を飛んでいく。
それはどこまでも飛んでいくように思われた。が、しかし、そうはならない。魚人島の周りにはそれを覆う空気の層であるシャボンがある。
「……!!」
そしてその外は──海だ。シャボンが引き伸ばされ、1つ目の層からジャックの身が投げ出される。
だがそれでも止まらず2つ目の層もまたジャックの身体を引き伸ばし──それが限界まで到達した時、ジャックの身体は海水の中に投げ出された。ルフィ達が船での突入を行った時とは真逆。魚人島からの
(クソ……こんな手で……!!!)
海に呪われ、カナヅチになる悪魔の実の能力者であるジャックは全身から力が抜けるのを感じて憤り、心で悪態をついた。自分の情けなさに怒りが沸き立つが、身体は動かすことは出来ない。
しかし魚人であるため、呼吸は出来る。ゆえにジャックはただ深海の中に沈んでいき、そして麦わらの一味に怒りを抱いた──次はこうはならない。陸に上がればまだ戦えるなど言い訳にすらならない。完全に失態だ。今回は自分の不徳。大看板の兄御達、姉御……カイドウやぬえに顔向けが出来ないと。
だがこれで終わるつもりはなく、ジャックは彼らへのリベンジを誓った──奴らを海の果てまで追いかけてやると。頭上の魚人島を見上げてそれを誓い、ジャックは深海の底へと沈んでいった。
──そして魚人島での戦いは“麦わらの一味”の勝利で終わる。
「やべェぞ!! ジャック様が!!」
「どうします!! ソノさん!!?」
「……撤退します。私達では彼らの相手は少々、手に余りますからね」
百獣海賊団はソノの指示で魚人島から撤退する。戦いで減りはしたものの、残っていた元魚人帝国の兵士を連れて。
「勝負は預けますよ、ジンベエ」
「ソノ……しらほし姫は無事なんじゃろうな!?」
「ええ、丁重に扱っていますよ。あなたには会えないかと思いますがね……それでは」
「……!!」
別れ際にソノとジンベエが視線を交わし合う。ジンベエは言外にソノの言葉を否定し、ソノはそれを読み取って言葉を返さずに無視をした。
その撤退を、ジンベエや麦わらの一味は背後から狙うことも出来なくはない。だが、それを行うと更に泥沼の戦いと化すのは目に見えていた。
「サボ君!! 百獣海賊団が……!!」
「ああ……だが追いかけるのはやめとけ。やぶ蛇になる」
そして海中での追撃となると厳しいと判断し、サボ達新政府軍も追撃は出さなかった。ジャックは撃退したが、まだ数は向こうの方が多く、追いかけたところでより強い怪物と遭遇する可能性もあるし、何より魚人島での防備やらを固めるのが優先だ。
だが魚人島を解放することは出来た。完全勝利には違いないと──この時はルフィ達もサボ達もそう思っていた。
「サボ~~~~~!!! 宴だ!!! 宴をしよう!!!」
「あ……ちょっと待って!! ルフィ!!」
しかしそれに気づいたのは戦いが終わって少し後。ナミが続々に集まってくる仲間を見て、違和感に気づく。
そう、普段ならば真っ先に自分とロビンに駆け寄って来る相手。
普段ならば怪我人が多いこの状況で、怪我人の治療をしていない筈がないその相手。その両者。一味の仲間の2人──
「サンジ君とチョッパーが──
「!!?」
──その姿がどこにも……魚人島の
バンダー・デッケン→真打ち。しらほし狙い。しらほしとの結婚をカイドウに認めて貰いたい。
七鬼→ナンバーズは一味それぞれ相手に出来るみたいな事言ってたけど、ぶっちゃけナミとかウソップ、チョッパーなら苦戦するんじゃなかって思ってます。
ソノ→暴力を振るいながらオトヒメの意志を継ぐとか絶許。
ジンベエ→ソノさんに止められてますが、ソノさんの実力は原作フーズ・フーくらいなので数時間くらいの戦闘なら拮抗します。本作フーズ・フーはもっと強いです。
ギア4→攻撃力はドフラをボコボコに出来ますが、それ以上のタフさのジャックくんは結構キツイ。
地獄の思い出→嫉妬の分、原作より強い。
魚人空手→ジャックくんが習得。力が強い奴が技そこそこでゴリ押ししてる感じなので、ジンベエ程達人ではないです。でもパワーがヤバいので単純な技の威力はヤバい。奥義までは習得してない感じ。
サボ→新政府軍援軍到着。出会いあっさりめなのは原作と似たような感じで、ルフィとの再会で会話色々とかめんどかったからです。原作見て。
麦わらの一味→今は正直援軍込みでジャック軍団のこれくらいが限界。真打ちがシープスヘッドとデッケン、ソノの3人とナンバーズ1体くらいだったから何とかなりましたが、ここに飛び六胞がいたりすると大変なことになります。幹部に多対一を強いれる分には大丈夫。一対一だと死人が出るかもしれない。ジャックに掛けられる人員が減るので。ジャックは1対3で邪魔が全く入らなければ勝てるくらいです。
ジャック→ズッコケジャック。ということで落とし所はこんなところで。海に沈まなきゃ少なくとも後半日は戦闘続きます。怒りポイントが溜まってます。
サンジ&チョッパー→死んではないです。行方不明。
小紫→空気。でも次回は目立つかもしれないね。
ぬえちゃん→少女悪巧み中……
今回はこんなところで。かなり長くなりました。これにて魚人島編は終わりです。でもVSジャックはこんなもんじゃないです。前哨戦みたいなもん。百獣海賊団との戦争の序盤ってことでこんなところで手心を加えておきました。
次回は行方不明になったサンジ&チョッパーの捜索。不穏な感じから新世界編が本格的に始まります。そして遂にあの世界的的人気を誇る皆のアイドルが……!?
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