正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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パンクハザード

 魚人島を乗り越え、攫われたサンジとチョッパーを救うべく、“新世界”最初の航路を“パンクハザード”に決めた“麦わらの一味”。

 だが島に上陸しようと船を近づけようとしたその直前、船内からもつれ合うようにして出てきたのは謎の子供と“最悪の世代”の紅一点──ジュエリー・ボニーだった。

 

『“最悪の世代”ボニー海賊団船長“大食らい”ジュエリー・ボニー 懸賞金2億9400万ベリー』

 

「仲間が殺されたくなきゃ船の航路をパンクハザードに向けな!! 島についたら解放してやる!! それまではアタシに近づくな!!!」

 

 だがそのボニーはどこか焦燥した様子で、子供に銃口を向けて麦わらの一味に脅しと要求を口にする。

 甲板の上に緊張が走るが、同時に一味は困惑している。本当に仲間を人質に取られたならボニーに敵意を向けるだけで済むだろうが、人質に取られているのはどこの誰とも知らない子供だ。なぜこの船に乗っているのかも分からない。要求を飲む義理はないが、知らないとはいえ子供が殺されるのは寝覚めが悪いため、誰もが一定の距離を保ったままそこに留まっている。どう言うべきか、一味の皆が迷う中、真っ先に声を上げたのは直情的な一味の船長だった。

 

「何言ってんだお前!! お前の事は知ってるけど……!! そっちの子供の事は知らねェぞ!!」

 

「あァ!? 何だと……!! じゃあこいつは何だってんだ!!?」

 

「知らねェよ!!」

 

「それに……パンクハザードならすぐそこよ。ここから見えるあの島」

 

「何……!?」

 

 ボニーの脅迫にルフィが端的に子供の事を知らないと答えると、続けてロビンが問題の解決のために割り入る。船首の方を指差し、そちらに見える島がパンクハザードだと告げると、ボニーは驚き、そこでようやく少し落ち着いたようだった。そしてややあって冷静に一味に要求を告げる。

 

「……なら、あの島まで連れてけ。そうすりゃ後は何もしねェし、お前らにも関わらねェ」

 

「おう、いいぞ!! おれ達もあの島に行くところだったんだ!!」

 

「よかねェよ!! 密航してんだぞ!!?」

 

 ボニーと対峙し、腕を組んでいたルフィが細かいことを気にせずに要求を飲む。表情は毅然としているが、対応は軽かった。そのことにウソップがツッコミを入れる。それで良いのかも知れないが、疑問がありすぎる。そもそも密航しているのかとか、じゃあその子供は何なんだとか。その事を、一応は顔見知りであるゾロが険しい目つきで尋ねる。

 

「……そっちの子供はお前の知り合いじゃねェのか?」

 

「あ、てめェはいつぞやのバカ助!!」

 

「…………どうなんだ? 魚人島で船に忍び込んだのはほぼ確定だろうが……目的が見えねェな」

 

「……! 船を間違えただけだ!! 本当は百獣海賊団の船に密航するつもりだったってのに……積荷がお前達の船に運ばれてたから……」

 

「あー……そういや島を出ていく時に食料とか色々積み込んだな」

 

「島に残されてた魚人帝国の積荷じゃな。王子達や新政府の厚意もあって宝と食料を少し貰った。その中に入っておったのか……」

 

「! お前……元七武海のジンベエ!!? 何で“麦わらの一味”に……!!」

 

「……今は麦わらの一味の操舵手じゃ。そういうことでよろしく頼む」

 

 ボニーの答えに、今度はフランキーとジンベエが頷く。魚人島から出港する際に、これからの航海で先立つ物が必要だろうと食料やら財宝やらを船に積み込んだ。多くは崩壊した魚人帝国の……おそらくは百獣海賊団に納めるアガリの入った積荷だったのだろうが、それにボニーは忍び込んでいた。ルフィ達とボニーは同時にこの状況に陥った原因を理解する。──元七武海のジンベエがその場にいることにギョッとしたボニーだったが、麦わらの一味に入ったことを告げられると納得する。いや、厳密にはあまり納得出来ていないが、他ならぬ本人に言われ、この状況なのだから頷くしかない。どういう経緯なのか他者から見れば理解に苦しむものの現に一緒にいるのだから飲み込むしかない。

 それに困惑している場合でもなかった。ボニーが意図せずしてサニー号に密航していたのはわかったが、となれば気になるのはもう1人の幼い少女の存在。

 

「それならこっちの子供の事は知らないんですか?」

 

「知らねェよ!! 積荷から出たらこいつもいて──ああ、そうだ。()()()()()()()分からない可能性もあるな」

 

「……? 元に戻す?」

 

 ボニーが思い出したかのように呟くと、麦わらの一味の面々は頭に疑問符を浮かべる──が、その言葉の意味はすぐにわかった。少女に近づくボニーと、抵抗しようとした少女が、

 

「……!!」

 

「おらっ!! 大人しく……しろ!!」

 

「!!?」

 

 少女の抵抗虚しく、ボニーの手が少女に触れる。すると、少女の姿が変わった。

 いや、正確には成長した。6歳程度だった少女の姿は、ボニーに触れられたことで急成長し、14歳程度の少女に変化し、そこで止まる。

 その不可思議な現象に誰もが驚愕するが、全員の頭によぎるのは当然──悪魔の実の能力に違いない、ということ。そして真っ先に声を発したのは、以前に会った時にその能力を行使していたことを思い出したゾロだった。

 

「……! それがお前の能力か……!!」

 

「ああ。“トシトシの実”の“年齢自在人間”。自分と他人の年齢を自由に操作出来る……っと、こうすりゃ分かるだろ。このガキはお前らの……」

 

「すっげー!! 成長したぞ!!」

 

「子供から大人まで自由自在なのか……!!」

 

「自分も他人も操作出来るとなると実質不老ですね!! ……あ、私、骨なんですけど若返りとか出来ますかね?」

 

「……その反応だと仲間じゃねェみたいだな」

 

 能天気にも能力の凄さに感動しているルフィやウソップ、ブルックらの反応にボニーが微妙そうな反応を見せる。元々バカな一味だと思っていたが、よくこの能天気さで今まで生き残ってこれたなと頭を抱え、むしろ感心してしまう程だ。やはり“最悪の世代”はどいつもこいつも一筋縄ではいかない。同期として誇らしいやら恥ずかしいやらだが、あの魚人島を乗り越えたことを察して僅かに感心が勝る。……とはいえバカには違いないだろうと微妙な表情のままではあるが。

 

「そうだな……それじゃあ今度はこっちに聞く。──お前は何者だ?」

 

「! 私、は……」

 

 そして今度はゾロが少女に直接尋ねる。その凄みに、僅かに言葉を迷わせた少女だったが、ゾロの威圧にも負けず、やがてゆっくりと素性を口にした。

 

「私は……日和。“ワノ国”から逃げ出した……流れ者です」

 

「! “ワノ国”……!!?」

 

「……“ワノ国”と言やあ……ブルック」

 

「ええ。余所者を受け付けない鎖国国家。世界政府にも加盟していませんでしたが……侍という剣士達が強すぎて……海軍も近寄れないだとか……ですよね? ジンベエさん」

 

「ああ、それで合っとるが……既に“ワノ国”は滅んだハズじゃ。百獣海賊団によって滅ぼされたと……そう聞いておる」

 

「ええ、私も新政府軍でそう聞いたわ」

 

「じゃあその滅んだ国から逃げ出して……?」

 

 ワノ国と聞いてその場の面々がそれぞれ反応を見せる。世界的にも有名な新世界の国であるその名を知らない者の方がこの場には少ない。ゾロは2年前にワノ国出身の伝説の侍と──ゾンビではあるが──戦っているし、ブルックもまた剣士の端くれとして知っている。淀みなくその国の情報を口にしたが、それに補足を入れたのは元七武海で政府関係者としての情報を持つジンベエと新政府軍で修行していたロビンだ。彼らはワノ国は既に滅んだと、その情報を口にする。

 するとその少女は僅かに苦い顔を浮かべ、それを見たナミが少女の事情を推測した。もしかしたら、この少女は滅ぼされた故郷から逃げ出し、百獣海賊団によって捕らえられ、奴隷にでもされていたのではないかと。魚人島にいた奴隷達は全員解放した。そこにいて、何か理由があって密航したのではないかと、子供に甘いナミならではの推測を思う。そして、日和と名乗った少女はそれを肯定した。

 

「ええ……国が滅ぼされた後、武器を作るための労働力として期待出来ない奴隷は、皆海外に売り飛ばされました。そうして魚人島に出荷されたところ、貴方達が百獣海賊団を追い出し……そして……」

 

「それで? この船に密航した理由は?」

 

「…………“復讐”です……!!!」

 

「!」

 

 暗い静かな声で、ゆっくりと身の上を口にする日和。その話に、涙もろいフランキーなどは涙を流して同情する。他の一味の面々も息を呑んでその話を聞いていたが、唯一、ゾロだけが何かを見定めるような表情で淀みなく追加の質問を寄越した。

 そしてその質問の答えに、誰もが瞠目する。そこまで静かに語っていた少女は、それを訊かれると胸に秘めた強い感情を覗かせる声と表情で答えたのだ──“復讐”だと。

 それはおおよそ、子供のする表情でもなければ、子供が決意するべきものではない。が、それでもやらなければならないという強い想いが、少女にそれを決意させているようにも思えた。

 

「成程……百獣海賊団への復讐、か……じゃがそれは……」

 

「……!! 私は……親を……彼らに実の親を殺されました……!!」

 

「……!」

 

「あなた方の活躍は見ていました。だから、ついていけば仇討ちが果たされるのではないかと思い……密航し……ですが乗り込んだ先でそちらの方に襲われて……」

 

「それで子供にされて、抵抗しながらも私達の前に姿を現したってこと……?」

 

「ええ……私も少しばかり剣の腕には自信はあります。戦う覚悟も出来ている……だからもし百獣海賊団と敵対するなら、同じ相手と敵対する縁として、加勢させて頂ければとそう思った次第。ですから、もしそうする気なのでしたら……何卒、よろしくお願い致します」

 

「ん~~……!! よし、良いぞ!!」

 

「早っ!! 決めんの早ェんだよ!! もうちょっと考えろ!!」

 

「確かに、百獣海賊団と戦うなら同志はどれだけいても困りはせんが……」

 

「…………」

 

 日和は目的を口にし、ルフィ達と共に戦いたいと頭を下げてお願いする。ジンベエはまだ一応は子供と言える年齢の相手が、百獣海賊団相手の復讐という茨の道に進もうとすることに唸ったが、しかし親を殺されたという十分過ぎる動機を聞いて他の皆と同様に言葉を失う。日和の言葉は真に迫ったものであり、とても嘘をついているようには思えない。

 そして自分で言うように、そこそこ戦えるというのもこの場にいる戦える面子から見ても嘘ではないことがすぐに分かる。侍の子だからなのか、同じく侍なのだろう。覚悟も決まっている。仮にルフィ達が加勢を断ったとしても、日和は1人でも復讐へ向かって突き進むのだろうと誰もが察せられる。

 だからなのか、ルフィはほんの少し悩んだだけで、すぐにそれを認めた。やはり慎重派のウソップがそれを止め、ジンベエが大人の合理的な判断として呉越同舟は悪くないと口にする。相手が相手なだけに少し悩んではいるものの、他の面々も同様に気になるのはその部分だけなようだ。

 

 ──だがゾロだけは違う。ゾロだけは、違う事を考えていた。それは、

 

(こいつ……()()()……じゃねェ、のか……?)

 

 ゾロが頭の中で思い浮かべるのは──魚人島で戦った真打ちの“小紫”という人物。

 その小紫と日和が似ていることに、ゾロは疑問を感じながら、しかしそうではないのかと思考して判断を迷わせる。

 何しろ年齢が違う。ボニーの能力は既に「元に戻す」とボニー自身が言っていた──で、あるならこの少女はゾロが見た“小紫”という人物の見た目になっていなければおかしい。

 だがボニーの方に嘘を言っている様子はなく、また日和の方もその言葉は既に真に迫ったものだ。どちらもとんでもない女優で、ボニーが嘘をついている可能性もあれば、日和が嘘をついている可能性もある。が、ゾロにはそれが分からない。ゾロには、2人が()()()()()()()()()()()()()どうしても思えない。

 だが日和と小紫は似ている。似ているだけなら他人であってもおかしくない。世の中には似た人間くらいいるものだ。死んだ幼馴染と瓜二つの人間を一度見ているため、そういうことがあっても何ら不思議ではないと日和が小紫ではないという説を少し後押ししている。

 ──しかし、どうしてもゾロが日和と小紫の関連性を無視できない理由が、その腰に差しているものにあった。それを、ゾロは最後の質問として日和に尋ねる。

 

「……()()()はどうした?」

 

「……刀、ですか?」

 

「ああ。見たところ……かなりの業物だ。どこかで拾ったり奪ったりでもしたのか?」

 

「…………それは」

 

 そう、それは日和が腰に差しているその刀──“小紫”が持っていた筈の二振り。

 それをなぜ日和が持っているのか。その疑問が解消されない限り、ゾロは警戒を怠ることは出来ない。味方のつもりが、後ろから刺されるなんてことは笑い話にもならないものだ。

 ゆえにその答えの如何によってゾロは対応を決める。もしそうであるなら、ルフィに物申してこの場で縛り上げると、そう決めて──

 

「…………この刀は……どちらも……親の形見です」

 

「! 親の……?」

 

「ええ……どちらも……()()()によって……殺されました」

 

「…………」

 

 ──だが、その答えにまたしてもゾロは何かを思うように沈黙するしかない。

 何しろだ。この答えもまた真に迫ったものであり、嘘をついているようには見えない。

 ここでゾロが先んじて言ったように、拾ったり奪ったという答えであれば……あるいは嘘を見抜けたり、見抜けずとも対応を決めていたかもしれない。

 だがこの目を僅かに伏せた日和の表情は、どう見ても演技で出せるようなものではなく──

 

「……そうか」

 

「……すみません。辛気臭い空気にしてしまい……」

 

「気にするな。()()()動機はわかった」

 

 そして、ゾロは日和の言葉を全て嘘ではないと判断し──しかし警戒を怠らずに今は何もしないことを決める。

 そも船長であるルフィの決定に、一船員であるゾロが異を唱えることはしない。普段はおちゃらけたりもするし、明らかなバカな判断には苦言を呈することはあれど、ルフィが真面目に決めたことには逆らわない。彼の船に乗った一船員としてのケジメだ。

 だからゾロは誰にも告げずに自分の考えと判断を隠した。この日和という女を、今は受け入れる。何も話さず。

 でももしもの時は──自分が責任を持って始末をつけると。

 そう決めて、再びゾロは意識を別のところに向けた。今は敵地の目の前。何が起こったとしても不思議ではないと島の方を見やる。

 

「おい!! んなことより……お前達、パンクハザードに行くのか?」

 

「ああ!! 仲間が攫われたんだ!!」

 

 そしてゾロが密かに心を決めた一方、日和という少女に色々と質問を重ねているのを聞いて、ボニーがルフィ達にその質問を重ねる。ルフィが端的にそこに向かう理由を答えると、ボニーは何かを考えるように間を置き、そしてややあってやはり最初に要求したことをもう一度口にした。

 

「……そうか。だったらアタシも連れてけ。アタシもあの島には……百獣海賊団には用があるんだ……!!」

 

「……お礼参りか? それとも──」

 

「ああ、その通りさ──」

 

 ジンベエの問いに、ボニーは頷きながら一味に背を向け、島の方をみながら答える。誰にもその表情を見せないようにしながら──

 

「アタシもお前らと同じだよ……!! アタシもあの島に──助けたい奴がいる……!!!」

 

「!!」

 

 ()()()()を思い、目の端に涙を滲ませながら──その目的を告白した。

 

 

 

 

 

 ──“パンクハザード”。

 

 緑溢れる自然豊かな島……それがかつてのこの島の姿だった。

 

「ヒュオオオ!!」

 

「グオオオオ!!」

 

 だがその島にあった政府の研究所。そこで行われていた化学兵器の実験に失敗し、島は有毒物質で覆われる死の島となったことで政府は島全体を立入禁止にした上でその島を廃棄した。

 しかし、それから数年経った今でもその島では研究と実験は続けられており、“海賊帝国”という新たな支配者の管轄になってからはより様々で大規模な実験が盛んに行われることになり、島の植物は異常繁殖。新たに放たれた動物達は戦闘的な進化を遂げ、捨てられた獣達は獣同士で食い合い、進化した動物に食われ──更にその進化した動物は密林に住まう巨大な二匹の怪物の食い物にされる。

 そしてその唸り声を聞いて、収容所に閉じ込められる実験動物(モルモット)達は怯えていた。

 

「まただ……化け物の声……!!」

 

「もう嫌だ~~~!! 助けてくれ~~~!!!」

 

「おい騒ぐな……!! ガス室送りにされるぞ……!!」

 

「どうせ生き延びても実験体にされるだけじゃねェか!! 化け物になって死ぬくれェなら、もうこのまま──」

 

 研究所の中に作られた実験動物(モルモット)達の部屋。そこに閉じ込められた元海賊や海兵、海賊帝国の支配に逆らった人々は、誰もが闇の科学の犠牲になり、無残な姿になることを恐れている。

 

「ブモ~~……!!」

 

「ゴキキ……!!」

 

「!!?」

 

「あ……!!」

 

 だが──誰もそこから逃れることは出来ない。

 

『ミノタウロス、五鬼(ゴーキ)……そいつらは見せしめだ。“獣の部屋”に入れろ……!!』

 

「ブモ……!!」

 

「ゴキキ!!」

 

「い……イヤだァ~~~!! 離せ!!」

 

 外の密林に生息する怪物よりも恐ろしい獣の怪物、古代巨人族、人間兵器──闇の科学の中心地に配備された戦力は並大抵の者達では突破することも叶わない……正に鉄壁。

 

「助けでくれ~~~~~!!」

 

 悲鳴が木霊し、恐怖が蔓延するこの島は新世界を地獄に染め上げるための巨大な実験場──“地獄の研究所”だ。

 海賊帝国の支配下にある今、誰もこの島で行われている非道な実験を止める者はいない。島に入ることさえ。

 だが許可ある者であれば入ることは当然出来た。

 

「──“(マスター)”!! ()()()()の船が北の港に!!」

 

「! シュロロ……来やがったか!! ──通せ!!」

 

「はい!!」

 

 パンクハザード研究所“R塔”。その北側に位置する港に許可を得て入港してくるのは船にして国土になる不思議な船の船団。その船もまた、“科学”によって作られたものだ。世界的にも悪名高い“戦争屋”。世界経済新聞に載せられた物語“海の戦士ソラ”でソラと戦う悪の軍隊“ジェルマ66(ダブルシックス)”。

 その組織は実在する“ヴィンスモーク一家”によって治められる元世界政府加盟国。“北の海(ノースブルー)”を武力で制圧した“ジェルマ王国”。

 

 ──そして現在のジェルマ王国の総帥は現在の自分の娘、息子達を血統因子を操作した改造人間に仕立て上げた優秀な科学者だった。

 

「ムハハハハ!! 久し振りだな~~……!! ヴィンスモーク・ジャッジ~~……!!」

 

「──クイーン。シーザー・クラウン。貴様達のアホ面は相変わらずだな。見苦しい」

 

「そりゃてめェもだろ!! 高飛車は変わらねェな!! ジャッジ!!」

 

 ゆえにこの場にいる科学者とは旧知の間柄だった。部屋に入ってきた初老に差し掛かったであろう屈強な大男はそれ以上に大柄な巨漢の男やガス状の身体を持つ男を見て悪態をつくと、それを聞いた2者もまた憎まれ口を叩き──そして部屋の中心で数十年振りに彼らは再会し、対峙した。

 

『ジェルマ王国 国王(ジェルマ66 総帥)ヴィンスモーク・ジャッジ』

 

「出来れば貴様らのような海のクズ共と再会などしたくなかったが……取り引きと息子の事がなければな」

 

「ムハハ!! 言葉には気をつけな!! “北の海(ノースブルー)”の征服が進まねェからとそんなクズ共の力を当てにしてんのはどこのどいつだ?」

 

「ここにあいつがいねェのが救いだな……!! 昔を思い出して腸が煮えくり返るぜ……!! シュロロロ……!!」

 

 ──ジェルマ王国の総帥。“怪鳥”ヴィンスモーク・ジャッジ。

 

 ──百獣海賊団の大看板。“疫災のクイーン”。

 

 ──海軍科学班の元No.2。“M”シーザー・クラウン。

 

 その3人が立ち並び、言葉を交わす姿は事情を知る者からすればちょっとした事件である。──サンジが縛られた台の横で天才外科医であるシーザーの助手、Dr.ホグバックは軽く汗を掻きながら小声でそのそうそうたる面子に感嘆していた。

 

「すげェな……!! とんでもねェ面々が集まっちまった……」

 

「……!! てめェ……何か知ってんのか?」

 

「あん? 知らねェのか? 全員“MADS(マッズ)”に所属してた科学者だ。かつてはあのベガパンクも所属してたって話で、血統因子の発見やら極悪な化学兵器……様々な発明をしてきたイカれた連中だぜ」

 

(“MADS(マッズ)”……“ベガパンク”……)

 

 縛られていたサンジはホグバックに3人がどんな関係なのかを問いかけ、返ってきた言葉を頭の中で反復する。ベガパンクという名は聞いたことがある。確か元政府の科学者だった筈だ。

 だがサンジも知る、今しがたやってきた人物がその関係者だとは知らなかった。何しろサンジの家に対する記憶や知識は遥か昔で止まっている。勿論、今更知りたくもなかったが。

 

「! ……サンジ……久し振りだな──我が息子よ」

 

「……!! 気安く呼ぶんじゃねェよ……!! 誰がお前の息子だ……!! おれに親がいるとしてもお前じゃねェんだよ!!」

 

 そして遂にその男が実験台に縛られたサンジを見て言葉を掛ける。そう、ヴィンスモーク・ジャッジはサンジの──血を分けた実の父親。

 そしてサンジはヴィンスモーク家の三男。本物の王子だ。幼い頃に家を出てからその縁は切れたとサンジ自身も思っていたし、それはジャッジも承知だと思っていたが──しかし、それをなかったことにしたような態度にサンジは憎々しく言葉を返す。

 だがジャッジはその言葉を取り合わなかった。縛られたサンジを見て、検査の痕跡を見たジャッジはクイーンとシーザーにじろりと視線を向ける。

 

「……サンジに何かしたのか?」

 

「! シュロロロ……! さてな……検査くらいはしたかもしれねェが……!!」

 

「何だ? 息子が心配か!? ムハハ」

 

「フン……別に構わんがな。失敗作を調べたところで何も得られるハズもない。それに何か分かったところでお前達には何も出来やしないだろう」

 

「あァ!? 何だと!!?」

 

「おいおい……元研究者仲間だってのに酷ェ事言うじゃねェか……!! お前の息子を捕らえたのはウチだぜ!? 少しは感謝したらどうだ?」

 

「…………そうだな、息子を捕らえてきてくれたことには感謝しよう。これで我が一族の悲願の成就に、また一歩近づいた……」

 

 サンジを見下ろして、ジャッジは息子が帰ってきたことに心底ホッとする。一見するとそれは、家出した息子が帰ってきたことに喜ぶ親のようだが、そんな普通の親のような感情を持ち得ていないことは、実の息子であるサンジが1番よく理解している。

 

「やっぱりてめェがおれ達を捕らえるように指示した張本人かよ……!! 何を企んでるかは知らねェし聞きたくもねェが、おれとチョッパーを解放しろ!! もうおれはお前らと縁を切った赤の他人だ!!!」

 

「チョッパー……? そっちは知らんな。私の目的は()()()()()、サンジ」

 

「何……!!?」

 

 ジャッジを睨みつけ、自分とチョッパーを解放しろと凄むサンジだったが、ジャッジはチョッパーの名を聞いて頭に疑問符を浮かべ、再度目的は息子であるサンジだと告げる。

 サンジは驚き、ジャッジの後ろに立つクイーンやシーザーを見やると、クイーンが勘違いをしているサンジを見て笑った。確かに、攫ったのは百獣海賊団で、サンジの方はジェルマが関係しているが、もう一方は別件だと。

 

「ムハハハ!! 言っただろ!!? 引き渡すのはお前だけだヴィンスモーク・サンジ!! あのたぬきの方は──ウチに入って貰うことになってる!!!」

 

「!!?」

 

「優秀な船医としてな……!!!」

 

「……!! 何だと……!!?」

 

 予想外の言葉をクイーンから突きつけられ、サンジが一瞬困惑し、言葉を飲み込んだ後はやはり怒りを向ける。仲間を奪われるなどありえない。絶対に許せない事だし、今すぐにでも目の前の男を蹴りつけて仲間を救い出したい思いだ。

 だがそれ以前にサンジは言葉を返す。そもそもだ。その要求が受け入れられる訳がないと。

 

「フザけんな……!! チョッパーがてめェらの仲間になるだと……!!? ウチの船医を……海賊王の船員をナメんじゃねェよ!!!」

 

「ム~~ハハハ!!! 面白ェ事を言いやがる!! 海賊王の船員? だったらウチに入るので正解じゃねェか!! 海賊王になるのはお前らの船長でも他の誰でもねェ──カイドウさんなんだからよ!!!」

 

「……!! ルフィは海賊王になる男だ……!!!」

 

 サンジの発言がツボに入ったのか、馬鹿笑いをして認識が間違ってると言うクイーンに対し、もう一度はっきりとサンジは告げる──ルフィこそが海賊王になる男だと。

 だが海賊同士。互いの船長が1番になると思うのは当然の事だ。身の程知らずも良いところだが、“四皇”の──“最強生物”の強さと恐ろしさを知らないルーキーにはよくあることだ。

 ゆえにクイーンはその発言には本気で取り合わない。これがジャックならキレるだろうが、相手は多少名を挙げてるだけの小物でしかない。対等な相手ではない格下。バカな事を言っていると指を指してそのアホな夢を笑う。同じ四皇の船員が言うならまだしも、相手が相手なだけに怒りを覚える必要はない。

 

「随分と自分のとこの船長と仲間を信頼してるようだが……その仲間はあっさりと鞍替えしてるかもしれねェなァ?」

 

「……!! 拷問でもしてんのか……!!」

 

「拷問なんてする必要ねェな!! あんなペット風情にはよ!! ──ほら、出てこい()()()!!」

 

「!!? ──チョッパー!!」

 

 ゆえにクイーンは目の前のルーキーを分からせるために、既に事を終えたサンジの仲間を呼び寄せる。

 通路を通って部屋に入ってくる小さいマスコットのような不可思議な生物。それはサンジが見慣れた仲間。“麦わらの一味”の船医。他ならぬ──トニートニー・チョッパーであった。

 

「うるせェ!! おれはたぬきじゃねェ!! トナカイだ、()()()()!!!」

 

「ムハハ!! そりゃ悪かったなチョッパー!! ──さて、かつての仲間との感動の再会だ!! 何か言うことがあんだろ!!? 言ってやれ!!」

 

「…………ああ」

 

「!? おいチョッパー!! 大丈夫か!? こいつらに、何かされて──」

 

「……おれは……」

 

 クイーンに促されて拘束もなくサンジに近づいていくチョッパーに、サンジは心配の声を掛ける。その様子がおかしいことには気づいたが、しかし仲間が裏切るとは微塵も思っていない。次に返ってくる言葉はどんな言葉であれ、“仲間”としての言葉が返ってくるとサンジは信じていた。

 しかし、チョッパーは毅然とした表情でサンジを見つめ、そして告げる。

 

「──おれは……もうお前らの仲間じゃない。()()()()()……百獣海賊団の船医だ」

 

「!!!? は……!?」

 

 ──()()()()()()

 

 それを聞いたサンジの表情が驚愕に染まった。言っている意味が分からない。そんな、仲間が言うはずのない言葉を、他ならぬ仲間から聞いた。

 しかもチョッパーの表情は何かを強制されているような──例えば脅迫や拷問を受けて無理やり従わせられているようにも見えない。

 だが聞き間違えかも知れないと、サンジは震える声でもう一度問いかける。何かの間違いだろと、そう信じて──

 

「お、おい……何言ってやがんだお前……笑えねェ冗談は──」

 

「冗談じゃねェ。おれは百獣海賊団の船医!! トニートニー・チョッパーだ!! ()()()!! おれはもうお前らの仲間じゃねェ!!!」

 

「……!!」

 

 しかしその淡い希望は即座に打ち砕かれる。

 再度の決別の言葉にサンジが絶句し、言葉を失う中、それを見ていたクイーンはニヤニヤとしながらも更に意地の悪い命令をチョッパーに与える。

 

「ムハハハハハ!! これで分かっただろ!? ほら、もっと言ってやれチョッパー!! 海賊王になるのは誰だ!!? なれねェのは誰だ!!?」

 

「海賊王になるのは……カイドウだ。ルフィは海賊王にはなれねェ」

 

「……!! てめェ……チョッパーに何しやがった!!?」

 

 一線を越える言葉。それを吐かせたクイーンに、サンジは怒りを向け、拘束具を外そうとガシャンガシャンと実験台の上で暴れる。すぐにでも目の前のデブを蹴り飛ばし、チョッパーに何をしたのかを吐かせ、その仕返しをしてやるために。

 

「いや、何もしてねェなァ……精々食事を与えてゆっくりと説得しただけだぜ。ちっぽけな海賊団と最強の海賊団……どっちに付くのが利口かってなァ!!」

 

「黙れ!!! チョッパーはそんな事でルフィを裏切る男じゃねェ!! 洗脳か!!? それとも拷問か!!? 何かしやがっただろ!! 今すぐチョッパーを元に戻しやがれ!!! さもねェと蹴りおろすぞクソデブ!!!」

 

「ムハハ、まだ分かんねェようだな……おい、ちょっと一発、()()()()()()()

 

「わかった」

 

「おい、チョッパー!! お前──ウッ!!?」

 

 クイーンが命令すると、今度はチョッパーが大きく変形し、拳でサンジの腹を思い切り殴りつける。油断していたところに食らったその一撃でサンジが悶絶し、脂汗を掻く。歯噛みし、躊躇なく暴力を振るってきたチョッパーとこんなことを強制させたクイーンに視線を向けた。

 しかし一体どんな方法を使えば、ここまでの裏切りが成立するのか──サンジには、どれだけ考えても分からない。

 まさか本当に裏切った筈もない。だから何かされた事は確定だが、その何かが分からずサンジは怒りだけを抱える。チョッパーに殴られたことで心に痛みを抱えながらも、どうにか枷を外してこの場を脱せられないかと何度も試した。

 ──だがその試みを実の親が邪魔をする。

 

「フン……そんなペットの事など放っておけ。お前はジェルマの王子。むしろ不必要な縁が切れたと喜ぶべきだ」

 

「黙れ!!! まさかとは思うがてめェが何かしやがったのか……!!? だとしたらおれはてめェを許さねェぞ!!!」

 

「諦めろ。出来損ないのお前には何も出来やしない。──行くぞ」

 

「はっ!!」

 

 枷に繋がれた状態のまま、ジャッジの命令に従ってサンジを運ぼうとするのはジェルマの兵士達。暴れて抵抗を続けるサンジを鎖で縛り付け、運ぼうとするがサンジは必死にそこに留まろうとしながらチョッパーやクイーンに声を掛け続ける。

 

「おいやめろ!! クソ……!! チョッパー!! 正気に戻れ!!!」

 

「正気に決まってんだろ? ムハハ!!」

 

「てめェには聞いてねェよ!! クソが……!! どうなってやがんだてめェ~~~~!!!」

 

「教える義理はねェなァ!! だが安心しな!! こっちとはまた別の方法だが……てめェも直に仲間の事は忘れる!! そうすりゃ怒りを覚える必要もなくなるんだからよォ!! ム~~~ハハハハハ!!!」

 

「……!! フザけんな!!!」

 

「シュロロロロ!! 面白い見世物だぜ!!」

 

 しかし無情にもサンジはジェルマの兵士によって連れられ、チョッパーとの距離を離していく。そして、その怒りようにクイーンやシーザーは大口を開けて笑った。それもまた屈辱だ。サンジはただそれらを見ていることしか出来ない。仲間が何かされても、嫌っていた実の父から逃げ出すことも、目の前の自分達をあざ笑う相手を蹴ることも、何も──そう、何も出来ない。

 ただ鬱憤と怒りだけを募らせて──サンジは喉を震わせて獣のように咆哮することしか出来ない。

 

「クッソォ~~~~~~~~~~!!!」

 

「さて……次はここに来る“麦わらの一味”を対処しなきゃなァ!! もしかしたら一味全員、ウチの仲間になるかもだぜ!! そうなりゃ寂しくねェだろ!!? ム~~~~~ハハハハハハ!!!

 

「…………」

 

 サンジの咆哮とクイーンの馬鹿笑いが研究所の中に木霊する。

 徐々にジャッジに連れられたサンジの声が小さくなり、やがて聞こえなくなるとクイーン達はやがて次のショーの準備を始めた。

 ──そしてサンジが去っていった通路を見て、チョッパーは何かを思おうとして……しかし優先順位からその思考を遠ざける。もはやチョッパーには命令でもなければ“麦わらの一味”の為に何かをする必要は……一切なかった。

 

 

 

 

 

 ──“パンクハザード島”。

 

「さあ、上陸するわよ!!」

 

「なんか毒々しい植物が多いな……おい、ウソップ。何か分かるか?」

 

「おれの飛ばされた島にも変な植物は多かったが、こんなもの見たことねェ……!!」

 

「ふむ。パンクハザードは4年前の事故で生物の住めない環境になったと聞いておる……ガスなどはないようじゃが、そこにあった植物などが突然変異したのかもしれんな……」

 

 密航していたジュエリー・ボニーと日和と、一時共闘することになった麦わらの一味は、無事にパンクハザードに船をつける──どこかの可能性では、あったであろう炎も氷もないその島は毒々しい植物や獣の鳴き声が聞こえる密林の島となっていた。

 政府の事情に詳しいジンベエがかつてこの島で起こった事故の事を口にし、推測を話すが、それが正しいかどうかは分からない。

 とにかく彼らはパンクハザードに足を踏み入れ、どうにか仲間を救い出す他ないのだ。サンジとチョッパーという頼れる仲間がいなくても。

 だが幸いにもジュエリー・ボニーという“最悪の世代”の船長と年若き女侍が味方にいることだけが幸いだったが──

 

「おい、そんなことよりこの船に飯はねェのか!?」

 

「そうだ!! おれも腹減った!! サンジ!! メシ~~~!! ──あ……今いねェんだった」

 

「あァ!? コックいねェのかよ!!?」

 

「食材はあるけど……はあ。しょうがないわね……私が作るしかないか……有料だけど」

 

「金取んのかよ!!」

 

 まずはコックがいないため、問題が出てきた。魚人島を出てから、ルフィ達は何も食っていないし、ボニーも何も食べていない。島に入る前に腹ごしらえを済ませた方が良いと“大食らい”の異名を持つボニーとそれに負けない大食漢のルフィが飯を要求するが、それに対応出来るサンジは今この場にはいない。精々、ナミが少しだけ料理を出来るくらいだがナミはぼったくりレストランよろしく金を取る──まあ半ば冗談ではあるのだが、半ば本気でもある──ので男達がツッコミを入れた。

 すると、それを見ていた日和とボニーがそれぞれ溜息と舌打ちをして、

 

「…………はぁ、仕方ないですね……少しだけなら私も作れるので手伝います」

 

「チッ、しょうがねェ……飯の代金だ。アタシの分を作るついでに作ってやるよ」

 

「本当か!? お前ら作れんのか!!?」

 

「ええ、まあ……以前、無駄に料理に厳しい人に教えて貰ったので……ええ、本当に()()()()()()()()()()に……」

 

「ちょっとくらいは出来る。本当はウチの仲間がいりゃ良いんだけどな……ウチの仲間も今はとっ捕まってる」

 

「ヨホホホホ!! 不幸中の幸いですね!! サンジさんがいたらめちゃくちゃ喜びそうです」

 

「間違いねェな」

 

「無駄に料理が出来る人ってなんだよ……」

 

「食える時に食うておくことじゃ。島に入れば次にいつ食えるかは分からん」

 

 厨房に入っていくのはナミだけでなく、日和とボニーも少しばかり世話になる身として手伝いを申し出てきた。幸いにも料理には少しだけ覚えがあるらしい。ボニーは自身が沢山食べるからなのか、日和はどうやら昔教わったらしい──なぜかそれを語る時は思い出したくないのか頭を抱えていたが、とにかく料理を最低限作れる3人が料理を作ったことで一味は腹ごしらえを終えることが出来た。サンジがいれば悩むことはなく、間違いなくこの状況に喜んでいただろうがいないためそうはならない。特に何事もなく食事を終えると、一行は島の中へと足を踏み入れる。

 だが、その際に作戦としてボニーの案が採用された。

 

「──研究所の入り口は確か2つあったハズだ。関係者用の入り口と、収容所に繋がってる方の出入り口。二手に分かれて研究所に潜入するぞ」

 

「そうなのか!! 詳しいな、お前!!」

 

「以前、捕まってた時に調べた……アタシなら収容所の方は比較的怪しまれずに潜入出来る。こっちは確か子供が捕まってたハズだ」

 

「……子供も捕まってるの?」

 

「子供だろうと老人だろうと関係ねェよ。海賊帝国に逆らった奴は死ぬか、死ぬより酷ェ目に遭わされる……今の新世界の常識だ」

 

「…………」

 

 ボニーが紙に簡易的なパンクハザード地図──とはいえ内部の構造までは描かれたものではないが、入り口の場所を示した地図を描き、研究所と収容所の方の2つの入り口にそれぞれ向かうことを説明しながら提案する。仲間が閉じ込められているなら、おそらくは収容所の可能性が高い。

 とはいえ研究所の方は無視出来ず、ボニーの方も目的は研究所にあると見ていたが、内部で合流も出来るため、正面入り口から入る陽動班と収容所から怪しまれずに入る潜入班の二手に分かれることにした。どちらかと言えば、正面の方が危険も多く、敵に見つかる可能性も高いため、戦闘の可能性が高い。そのため班は、

 

 陽動班──ルフィ、ジンベエ、ロビン、フランキー、ナミ。

 潜入班──ボニー、ゾロ、ウソップ、ブルック、日和。

 

 という分け方になった。ゆえに少し密林の中を進み、ある程度のところで二手に分かれてそれぞれ入り口を目指す。

 

「おいルフィ!! 下手に触るな!! 毒じゃぞ!!」

 

「あ、そうなのか? でも平気だ!! おれ、マゼランに毒食らってから毒効かなくなってんのかな!!」

 

「今のところ敵がいる気配はねェな」

 

「でも獣の鳴き声は聞こえるわ」

 

「何も出てこなければいいけど……」

 

「おい!! 何か見えてきたぞ~~~!!」

 

「止まらんかルフィ~~~!! 1人で先走るな!!」

 

 ルフィ達は毒も構わず突っ走るルフィについていく形で正面入り口に向かい、

 

「何か変な鳴き声が聞こえるな」

 

「頼むから迷子になるなよ……こんな密林で迷子になられたら探しようがねェ」

 

「その間に敵が来ると困りますしね。あるいは凶暴な獣とか……」

 

「ならねェよ!!」

 

「緊張感のねェ奴らだな……本当に大丈夫か?」

 

「…………」

 

 ゾロとボニー達は一応隠れるようにして収容所の方の入り口を目指す。

 有毒性の毒物や凶暴な獣が潜む密林だが、二組とも大きな問題はなく、その道程は順調であった。

 

 ──が、程なくして障害に激突する。

 

「……!! え!!? ええ~~~~~!!?」

 

「マズいですよこの大きさ!! いや、というかこの怪物は実在するんですか!!?」

 

「どっちも空想上の生物だ!! 存在するわけねェ!!!」

 

「でもいるんだからしょうがねェだろ!! おそらくここの実験で作られた生物だ!!」

 

「……!! これは……!!」

 

 そしてそれに先に当たったのはゾロ達だった。

 木々を薙ぎ倒し、唸り声を上げて現れるのは喧嘩をしている二匹の化け物。実在しない筈の空想上の巨大生物であり、麦わらの一味もボニーも同様にその巨体を見上げて驚きを浮かべる。

 だが日和だけはそれに加えて更に青褪めていた。その恐ろしい生物を、日和は知っている。ゆえにその2匹の生物の名を、誰よりも早く口にした。

 

「“(ドラゴン)”と……“鵺”!!?」

 

「グルルルル……!!!」

 

「ヒュルル……!!!」

 

 空想上の最強生物と最恐生物──その2体がゾロ達を視界に捉えた。

 

 

 

 

 

 ──そして一方で、ルフィ達は研究所の入り口に到達し……そこで見知った相手の姿を視界に捉える。

 

「あ、お前は……!!」

 

「……久し振りだな……麦わら屋」

 

「──トラ男!!!」

 

 研究所の扉の前。そこに立ち塞がるようにして立っていたその青年は、ルフィ達全員が一度顔を合わせている海賊だった。

 2年前とは違い、ロングコートに身を包んだその人物は2年前と同様にファー状の帽子を被り、長い刀を肩に抱えていた。身につけている物も容貌も同じ。ルフィ達が見間違える訳がないその相手。ルフィにとっては恩人でもある人物に、ルフィは警戒なく近づこうとするが……それをジンベエが止める。

 

「久し振りだな~~~!! おれだよおれ~~!! あん時ゃありがとなー!!」

 

「…………」

 

「待つんじゃルフィ!!」

 

「え!?」

 

「……賢明な判断だな」

 

 ジンベエの注意によりルフィの足が止まり、青年がその判断を褒める。もう少し近づいていたら、対処せざるを得なかったと。

 

「……麦わら屋。お前の用事は分かってる。取り返すべき物を取り返しに来たんだろう」

 

「え、何で知ってんだ? そうなんだよ!! サンジとチョッパーが攫われちまって……それを取り返しに来たんだ!! トラ男、何か知らねェか!!?」

 

「……知っているが……悪いがそれを教えることは出来ない。2年前とは違って、今のおれには()()()()()

 

「え……? どういうことだ?」

 

 恩人の冷静な対応とその言葉の意味を計りかねてルフィが疑問を思う。それを教えるようにして答えたのはルフィの背後にまで追いついたロビンやジンベエだ。

 

「そうよ、ルフィ。今の彼は……私達の敵」

 

「ああ。確かに、戦争の時は恩人じゃったが……今の奴は──」

 

 言う。ルフィにとってはシャボンディ諸島の天竜人の一件で協力し、頂上戦争の後にはジンベエ共々治療してもらった恩のあるその相手は、今や百獣海賊団の真打ち。その中でも最強の6人と呼ばれる幹部。

 

「──百獣海賊団の“飛び六胞”じゃ!!!」

 

『“最悪の世代” 百獣海賊団“飛び六胞” “死の外科医”トラファルガー・ロー 懸賞金7億ベリー』

 

「…………そういうことだ。もしお前達の目的がこの研究所の中にあるなら……おれは任務に従い、お前らを──切り刻むことになる

 

 ジンベエの言葉を肯定するように、ローはルフィ達に警告する。この中に進もうとするなら、ローは百獣海賊団の幹部としてルフィ達を止めなければならないと。

 そしてルフィもその言葉を聞いて理解した。今の彼は、恩人ではあるが戦わなきゃならない相手だと。

 しかしそれでも笑みを浮かべたまま、

 

「……そっか。お前は嫌いじゃねェけど……ブッ飛ばせば中に入れてくれるんだな?」

 

「それで合っているが……そうか、やる気か。ならしょうがねェ──」

 

 不敵な表情を浮かべるルフィに対して、感情の読めない冷酷な表情を浮かべていたローが、やれやれと言わんばかりに少し顎を下げ、そしてタトゥーの刻まれた右手を身体の前に上げる。

 

「“ROOM(ルーム)”!!!」

 

「!!?」

 

「何だ、この円!!?」

 

「気をつけろ、ルフィ!!」

 

 そしてローが言葉を口にし、能力を解放した──半透明の膜で出来た円がローとルフィ達を包むように生成される。

 それだけでは何も被害は及ぼさない。だが、ルフィ達がこの円の中に入った今、ローにとって彼らは手術台に乗せられた患者も同然。

 

「戦うつもりなら容赦はしねェ。ちょうどこっちも……()()()()()()を退けたお前の力を試したかったところだ……!!」

 

「……そうか!! よし、なら戦うぞ!!! 行くぞトラ男!!!

 

「ああ、来い──麦わら屋!!!」

 

 ルフィが腕を伸ばし、真っ直ぐにローへ突っ込み、ローは左手に持っていた大太刀──妖刀“鬼哭”を抜いて待ち構える。

 最悪の科学の島で──“最悪の世代”の船長同士の対決が始まった。




ボニー→日和ちゃん(少女)を幼女にした。協力者に。情報少なすぎるから色々と推測した独自設定です。インチキサポート能力その1。
日和→少女から幼女になって少女に。色々と秘密があるようだが……?(バレバレ)
サニー号エンゲル係数→(ルフィ×ボニー)-サンジ=ヤバい
パンクハザード→過去回想だと南の島っぽい木々が見えたから密林になった。色々いるし、建物も増えてる。
ジャッジ→毒親系クズ。
シーザー→生々しいクズ。
クイーン→歌って踊れるクズ。
ホグバック→ストーカー系クズ。
チョッパー→洗脳済み。
サンジ→可哀想。
竜と鵺→どこかの最強兄妹の血統因子から生み出されたのでやたらと喧嘩する。でも協力すると強い。
トラファルガー・ロー→飛び六胞。インチキサポート能力その2。
ぬえちゃん→マスコットをカートに入れて速達で。

パンクハザード編の始まりということで今回はこんなところで。ボニーと日和ちゃんが仲間になった! やったね! サンジ虐めは酷いと思った。
次回は原作ではもう無さそうなルフィVSローだったり色々。お楽しみに。

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