正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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はじめてのおつかい

 ──“新世界”。とある島。

 

 その島に停泊しているのは、世間でも有名な力ある海賊であり、とある理由から、この“偉大なる航路”を逆走し、冒険を大きくやり直すことを決めた一味であった。船の大きさはそこそこ。新世界の名のある海賊にしては船員は30名を超える程度しかおらず、かなり少ない方と言える。

 だが、彼らの強さは海賊の中でも、海軍の中でも有名であり、先程も、3倍以上の人数を誇るとある海賊団と一戦交え、軽々と勝利してしまった、骨のある一味である。

 そんな海賊団のその船長こそが、戦いの勝利を仲間達と共に、大量の酒で祝うこの男、

 

「──わっはっはっは!! レックスだかルックスだか知らねェがおれ達の勝ちだ!!」

 

「おい、ロジャー名前違うぞ。ロックスだロックス。ったく、普通あんな有名な奴の名前間違うかよ」

 

「バカだからな」

 

「何ィ!? うるせェぞギャバン! レイリー! 大体会ったこともねェ奴の名前なんて憶えられるか!!」

 

 ブラッドレッドのコートに自身の海賊団のシンボルが描かれた海賊帽を被り、大きな口髭を蓄えた精悍な顔つきのこの男。

 勝利の美酒を手に笑う彼こそが、この“ロジャー海賊団”船長──ゴール・D・ロジャー。

 世間からはゴールド・ロジャーの名で知られた凶暴な海賊であり、“鬼”とも称される程の強さを持つ新世界の強豪である。

 そして同じく、そのロジャーに対して遠慮のない口調で声を交わすのは新世界においても名うての海賊。

 豪快に笑い、肩に斧を担ぐサングラスの男──スコッパー・ギャバン。

 ロジャー海賊団副船長の肩書を持ち、ロジャーの右腕、一味でも最古参の金髪の剣士──シルバーズ・レイリー。

 その他にも骨のある仲間達が数十人。彼らが、度々世間を賑わせるロジャー海賊団。

 ──だが、そんな彼らでも、目の前に倒れる海賊達の悪名には敵わない。

 

「ロジャーが考え無しなのはいつものこととして……ここ最近、ロックスの旗を掲げる海賊が増えたな」

 

「ああ。おれ達が初めて傘下入りを拒否し、傘下の海賊団を叩き潰してから数年。あれから随分と勢力を拡大し続けている。ロックス本人と衝突するのも時間の問題かもな」

 

 ギャバンとレイリーが近年勢力を拡大し、既に盤石の布陣を整えた“ロックス海賊団”についての懸念を口にする。

 新聞にこそロックスの名は載らないが、その脅威だけはどこの島に行っても聞こえてくる。海賊団を結成する前から最悪の海賊と称されていたロックスの噂を聞くレイリーは真剣な表情で地面に落ちている、今しがた叩き潰した傘下の海賊達が掲げていたロックスの旗印に視線を向けた。

 

「今やこの海はロックス海賊団の時代。どの海域に行っても奴等の手がある以上、“歴史の本文(ポーネグリフ)”の捜索は難航するやも──」

 

「ロックスの時代ィ!? ふざけんな!! おれの方が強ェ!! ロックスなんておれがぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 

 だがレイリーや他の船員の懸念とは裏腹に、ロジャーはいつも通り好戦的で自信に溢れ、楽観的に相手を倒してやると構えている。

 その性格は仲間の皆が知るところであり、ロジャーがそう言うことは誰もが予想していたし、そもそもこれまでも同じ様なことは言っているし、出来ないとも思っていない。仲間達はロジャーに絶大な信頼を寄せている。

 だがそれはそれとして、ギャバンは告げた。レイリーもそれに追随する。

 

「親玉と直接対峙出来たらな」

 

「問題はそこだな。政府ですら、ロックス海賊団の居場所を正確に知ることは出来ていない。これだと向こうから出向いてくるか、偶然遭遇でもしない限り、そもそも戦わせて貰えないな」

 

「え~~~!! それじゃあ戦えねェじゃねェか!!」

 

「どんだけ戦いてェんだよ。まあこれまで通り、邪魔する奴等だけ叩き潰せばいいんじゃねェか?」

 

 ロジャーが不満の声を上げるが、ギャバンは今まで通りの方針でいいんじゃないかと軽く口にする。

 ──だがそんな時、先程までは話を聞いていたレイリーが遠くの空を見上げたまま無言となり、それに気づいたロジャーが、

 

「ん? どうしたんだ、レイリー?」

 

「…………おいお前ら……()()……何に見える?」

 

「は? あれって……どれだ?」

 

「あそこだ」

 

 と、レイリーは自身もよく分からないといった面持ちで遠くの空を指差す。ロジャーやギャバンも含めたロジャー海賊団のクルーは皆、レイリーが指し示す一点を見た。

 するとそこには……不思議な羽で空を飛ぶ少女の姿があり、

 

「……女の子?」

 

「鳥?」

 

「UFO?」

 

「新種の何かか?」

 

「わはははは!! 面白ェ!! なんだありゃ!! おいレイリー!! あれ捕まえよう!!」

 

「捕まえてどうすんだ……む」

 

 皆が注目するその海の上の空飛ぶ何か。それは真っ直ぐこちらに向かってきているようだったが……今度は海の中から出てきたものにも目を奪われる。それは、

 

「うおっ! 海王類!!」

 

「ありゃでけェな……イカ……か?」

 

「つーか襲われてねェか? あれ」

 

「おーおー……なんか頑張って避けてるな……あ、叩き落された」

 

「やばくねェか?」

 

 運悪くも海王類に襲われているその少女らしき何かを見て、ロジャー海賊団は判断に困る。だが、レイリーが迷いながらも相棒でありこの船の船長であるロジャーに向かって一応、

 

「……助けるか?」

 

「おう!! ありゃ珍しいし子供だ!! 死なせたくはねェ!! 早く行くぞレイリー!!」

 

「そうするか」

 

 と、そう言ってロジャーとレイリーは揃って海に飛び込み、海王類に挑みかかった。ロジャーが剣を抜いて海王類の腹に一閃。レイリーが海に落ちてきた少女を拾って引き上げる。

 そうして助け出された少女は──

 

「はーっ……ハァ……し、死ぬかと思った……! 助けてくれてありがとう……」

 

「わはははは!! 気にするな! ありゃでかかったし強かったな!!」

 

「まさかカナヅチとは……もしかしなくても能力者か?」

 

 島にまで戻ってくると、その助けた黒髪の少女は相当焦っていたのか、息を荒くしながらも2人に向かって助けてくれた礼を言う。それに対しロジャーは大笑いだったが、レイリーの方はその少女の特徴から、能力者ではないかと濡れた服を脱ぎながら真面目な質問を投げかけた。

 すると少女はようやく、2人や周囲の者達を見て、

 

「そうだけど……そっちは……もしかして、ロジャー……海賊団?」

 

「ん? おれ達のこと知ってるのか?」

 

「バカ、ロジャー。お前もおれ達も手配書出てんだろ? そりゃ知ってる奴は知ってるさ」

 

「それもそうか! わはははは!!」

 

 ギャバンがロジャーにそう指摘する──が、少女はそれに対して待ったを掛けた。

 

「ええ、知ってる。だって……私は、あなた達に会いに来たからね!」

 

「! それはどういう意味だ?」

 

 鋭く言い放ったその言葉に、レイリーが率直に問う。すると少女は得意気に、ふふん、と笑みを浮かべ、

 

「私の名は封獣ぬえ! ロックス海賊団の海賊……見習い……!」

 

「……は?」

 

 え? と誰もがその予想外の言葉に驚きを見せる。こんな少女が? という思いと、結局何をしに来たんだ? という疑問が海賊達に渦巻く。

 そんな中で、少女は言い放った。クルー全員に聞こえるように、はっきりとした口調と大振りな仕草を見せながら、

 

「そして私はロックス船長の言葉を持ってきた使いの者よ!! 船長の言葉はこう──ロジャー海賊団……傘下に入るか、戦って死ぬか……!! それを今すぐに選べってね!!」

 

「!!」

 

 ぬえという謎の少女はそう言い放ち、ロジャー海賊団のクルー達に沈黙の空気を作った。

 

 ──そして……このような状況になった理由は、数日前に遡る。

 

 

 

 

 

「ロジャーのところに……? それってどういう……」

 

 その日、船長室まで呼び出された私は、予想外の言葉に困惑した。

 その様子を、ロックス船長は相変わらず凶悪と言っていい笑みで見ている。傍らの机には本。どうやら先程まで本を読んでいたみたいだが、これはいつものこと。

 意外かもしれないが、ロックス船長の部屋は割と普通だ。そこまで大きくないベッドや本棚、海図や球儀の置かれた机、お宝などを入れているのか、宝箱や金庫。酒瓶が詰まった棚やドクロの旗、銃……まあ海賊としては普通の部屋だ。

 もっと大量のドクロが置かれていたり、床や壁が血で滲んでいたり……なんてことはない。世間的なイメージだとそんな感じかもしれないが、ロックス船長だってご飯は食べるし酒も飲む。睡眠だって取る普通の人間だ。──ただ物凄く強くて恐ろしいってだけで。

 だからこうやって目の前で困惑しても、ロックス船長は怒ったりしない。ちゃんと私にその言葉の意味を説明してくれる。

 

「いやなに……ちょっとしたおつかいを頼まれて欲しいってだけさ……!! ギハハ……! ロジャーの奴、最近随分と暴れてやがるみてェだからなァ……!」

 

「あ、そういう……確かに、傘下の海賊を次々と倒したとか……」

 

「そうだ。おれァ別に今まで、ロジャーを狙えとも傘下に入れとも直接は言ってこなかったし、全部やられたバカ共が勝手にやったことではあるがよォ……おれの兵力をこれ以上減らされても困るんでな。そろそろ選択させてやるのさ……傘下に入るか……それとも戦って無惨に死ぬかをな……!!」

 

 口の端を吊り上げてそう言うロックス船長に頷く。なるほど。確かに、傘下の海賊なんてどこで暴れようがくたばろうが基本的に関与しないロックス船長でも、あんまり潰されすぎると困るだろう。その目的の為には多くの兵力が必要だからだ。

 その為に落とし前をつけさせる。傘下に入ればそれで良し。直接誘って、それでも断るなら叩き潰す。分かりやすい、いつもの船長のやり方だ。

 

「だからお前には今の言葉を伝えて、ロジャーの奴をおれの前まで連れてこい」

 

「……えっと……傘下に入るにしても、入らないにしても連れてきて、うちに入れるか潰すかするってこと?」

 

「そういうことだ。ギハハ、相変わらず物分かりが良くて助かるぜ。説明する手間が省けるからよォ……!」

 

 良かった。あってた。そして褒められる。ロックス船長ほどの人に認められるのは中々嬉しいものだ。

 まあでもこれまでのやり方を見ていればさすがにわかる。ロックス船長は使える人材は手元に置いておきたいタイプなのだ。

 だから傘下に入りたいと言う海賊は全部迎え入れ、そして基本的には放置するが、その中でも実力のある海賊は直接ロックス海賊団に引き抜くのだ。それは船長のタイプもあるけど、まあ、うちの船って入れ替わりが激しいからね。仲間殺しが横行してるせいもあって、普段は減るばかり。なのでちょっとずつ補充しているのだ。

 そういう訳でロックス船長は普段から何気に手配書や新聞、傘下や取引相手からもたらされる情報などで、実力のある海賊をいつも調べていたりするらしい。ロジャーも当然、その網には前から引っかかっていたが、中々巡り合わせが悪くこれまでは傘下が時折ロジャーと衝突するだけでロックス海賊団本体とは出会うことはなかった。

 だがとうとう放置は出来なくなったのだろう。ロックス船長は、従うなら引き抜き、従わないなら直接会って殺すつもりだ。

 それはわかる。わかるが……わからないことも、またあった。

 

「でもどうして私に?」

 

「お前は空が飛べるから船もいらねェし、頭も回る。1人で使いをするくらい訳ねェだろ。カイドウの奴なら絶対無理だろうからな!! ギハハハハ!!」

 

「あー……それはまぁ……」

 

 うん、確かに。カイドウには無理だ。その場で喧嘩を売りそうだし、もし酒が入ったら話すら通じない可能性がある。

 それに私1人なら船とかもいらないしね。カイドウもそうだけど。うん……確かに、この二択なら私だよね。

 

「必要なもんは揃えてある。“記録指針(ログポース)”に“永久指針(エターナルポース)”、連絡用の“電伝虫”、それにおれの“ビブルカード”も渡しておく。誰かに渡したりはすんじゃねェぞ。帰りはこれを使いな」

 

「……わかったわ船長! 私に任せて!!」

 

「ギハハハハ……頼んだぜ? きっちりと仕事をこなしておれの下まで連れてきな!!」

 

 ロックス船長から頼まれた仕事、それも結構責任重大……な気がする。まあただの使者だけど、それでも仕事は仕事。私に任された仕事だ。──これはやり遂げなければ、と張り切ってしまう。

 そういう訳でその日のうちに荷物を纏めて、早速出発。カイドウからは『カチコミか!? おれにも行かせろ!!』と的外れな見送りをされた。というか、見送りとかうちの連中がやる訳ない。声を掛けてくれたのは白ひげくらいだ。割と真面目に『気をつけろよ』っていう一言だけだったけど、さすがツンデレ。私のことが心配でしょうがないんだと思う。そのことを言ったら殴られた。それと、私が少しの間居なくなることをどこかで知ったのか、カタクリとかペロスペローとかのちびっこ達が喜んでたので、出かける前に思いっきり遊んでおいた。UFOと蛇を出してあげたら奇っ怪なダンスを踊って喜んでくれたので、これで良いだろう。続きはまた帰ってきてからでいいや、と。そう言ったら下の子達が震えてたけど、そんなに怖がることないのに。あくまで遊びなんだから。もうちょっとおっきくなったら交ぜてあげないとね。

 ──まあそういう訳で初めての一人旅。正確には初めてではないが……まあ海賊になってから初めて1人で海に出る。船じゃないから海賊って感じはしないけどね。

 そういう訳で数日掛けて私は船長から指し示された海域を回り、ロジャー海賊団を探して幾海里。

 

「ん? あれって、もしかして……」

 

 と、とある島にて海賊船を発見。私の見聞色もやたら強い人の気配がするってことでその島に近寄っていったところで──油断した。

 

「!? か、海王類!?」

 

 水面近くにまで高度を下げたところで海王類に襲われた。しかもかなり大きいイカみたいな奴。戦おうと思ってブルーUFOや蛇を出そうとしたが、その前にその大きな触手ではたき落とされ、正直終わったかと思った。海に落ちたら終わりだ。悪魔の実の能力者は泳げないし、浮いたりもしない。沈んでしまうので、誰かが引き上げなければそのまま溺死してしまうからだ。

 だが、水面で誰かに受け止められ、そのまま近くの島まで運んでもらった。助けられた訳で感謝したが、そこで気づく。──あ、ロジャー海賊団じゃん、と。

 

 ──そういう訳で私はお仕事を遂行するべく、船長からの言伝を言い渡し、現在に至る……訳なのだが、

 

「それにしても見れば見るほど変な羽だな……なんの能力だ?」

 

「一応鳥じゃねェか?」

 

「よく見りゃ蛇みてェなのも付いてんぞ?」

 

「ガキの癖によく1人でこれたな……アメでも食うか?」

 

「わーい! 舐めるー! ころころ──じゃない!! 舐めてるのはあなた達でしょ!?

 

「ノッてきてんじゃねェか……」

 

 部下になるか死ぬか。結構ヤバいこと伝えた筈なのに、ロジャー海賊団の連中、どいつもこいつも緊張感ゼロで私の羽やら容姿を無遠慮に観察していた。興味深いのは分かるけど羽を弄るのはやめてほしい。ちゃんと神経通ってるから鬱陶しいのだ。明らかに子供扱いまでされてるし。

 だが予想はしていた。なので秘密兵器の出番だ。

 

「あなた達……私がロックス海賊団の一員だって信じてないのね?」

 

「いやまあ……だって……なあ?」

 

「こんなガキがロックスの一員って言われても何かの冗談としか思えねェよ」

 

 くっ……言ってくれるなぁ……さすがの私も傷つく。だけど、こういう時の為にこれを持ってきたのだ。

 私は敢えて余裕を持って笑みを浮かべる。そして荷物の中からあるものを取り出し、

 

「ふふん。これを見てもまだそんなことが言えるかしら?」

 

「ん? これって……手配書か?」

 

「“正体不明”のぬえ……7400万ベリー。これがお嬢ちゃんだって言うのか?」

 

 そう、手配書。斧を持ったサングラスの男――ギャバンが言うように、これは私の手配書である。

 それを見て、皆がざわついているタイミングで私は言った。近くの樽の上に乗って、

 

「そう! ロックス海賊団の見習い! 世間で騒がれる正体不明の大型ルーキーがこの私! 封獣ぬえ様よ!!」

 

「ほー……マジかよ。ガキの癖に大したもんだな」

 

「そうそう! 私って凄いんだからね! もっとこの正体不明のぬえ様を怖れなさい! そして、ロックス海賊団の傘下に入るか、それとも死ぬか──」

 

「わはは! 面白い少女だな! よし、わかった!! おれの船に乗れ!!」

 

「全然わかってないじゃない!! 乗らないわよ!!」

 

 良い感じに話が進んでるかと思ったが、船長のロジャーがいきなり船に乗れとかいうとんちんかんな勧誘をしてきたので私は全力で断る。くっ、話が通じないのは酔ったカイドウで慣れてるんだけど、こっちは別のベクトルで話が通じないというか進まない……なんというか、自由過ぎる……! 

 しかし1人だけ比較的冷静な男がいた。眼鏡を掛けた金髪の風格漂う剣士──レイリーだ。さっき助けてもらった時に感じたけど、この中でも中々に化け物そうな気配がする……ロックス海賊団で強者には慣れてはいるけど、この人はロックス海賊団の中に交じっても上位5人に入れそうなくらいだ。

 ロジャーもそれ以上に強そうだし、他の船員達も……ロックス海賊団ほど数は多くはないが、中々強そうな奴等ばっかり……

 

「おいロジャー。子供だが一応ロックスの見習いを誘うとか何考えてやがんだ」

 

「む……そうか、既に他の船に乗ってんのか。くそ、残念だ。こんなにへんてこな能力持ってて面白くて可愛い少女なら楽しくなりそうだったんだがな。わはは」

 

「ははは! レイリーの言う通りだぜ、ロジャー。第一嫌がって──」

 

「──え……か、可愛い? そう? やっぱり?」

 

「揺らいでんじゃねェよ!!」

 

 ──はっ!? ギャバンのツッコミで我に返る。ふー、危ない危ない。可愛いという言葉に乗せられるところだった。うちの船だと私のこと可愛いって言ってくれる人、まったくいないからね……そもそも子供嫌いが多いし、そういうことを言うような輩もいない。可愛いって言ってくれるのはリンリン。でも彼女の場合はなんか悪意ある。後は船長。船長はまだいいとして、後は、ちょっと前に海賊から足を洗ったシャッキーくらいだ。そういう訳でメチャクチャ少ないのもあって褒められるのに飢えているのでちょっと喜んでしまっただけだ。

 

「危ない危ない……ま、私が可愛いのは当然だから良いとして……それで、返答は!? まあどちらにせよロックス船長のところまでは来て貰うけどね!! それがロックス船長の命令であり伝言よ!!」

 

「……らしいが、どうする? ロジャー」

 

 改めて言えば、レイリーがロジャーに目配せし、他の船員達も静かになる。やっと聞いてくれた、と僅かに喜んだのも束の間、ロジャーはこちらを見て、船長にも似た不敵な笑みを浮かべると、

 

「わはははは!! 悪いが──断る!! おれは“自由”にやりてェんだ!! 誰かの下につくのも、誰かを下につけるのもまっぴらだ!!」

 

「……!」

 

 私はその、予見していた筈のロジャーの返答に、少しだけ怯んでしまう。というのも、そのロジャーの迫力や、言葉の中に潜む覚悟というか……“意志”なのか、それを強く感じ取ったからだ。

 まるでロックス船長を相手にしているかのようである──言っても無駄だ、というのが直ぐに理解出来る。たとえ、ロックス船長が同じことを目の前で言ったとしても、ロジャーはその要求を突っぱねるだろう。

 だが、それはロックス船長も同じこと。敵対し、傘下入りを拒んだ海賊の辿る道は決まっている。あの人は今までどんな強敵、本物の海賊であっても敵対する者は殺してきた。

 相容れることのない2人……だと思う。そして、そうであるなら道は1つしかない。

 

「……だったら、ロックス船長に会って直接伝えて。ロックス船長は、あなたと会いたがってる」

 

 ──拒否するだろうな、とそう内心で諦めながらも言葉を紡ぐ。このロジャーが、私達の意志に従って態々出向いてくる筈などないと。

 だがそれは、私がまだロジャーのことを知らなかったが故の間違いだった。ロジャーは、笑みを深めてその言葉にも返答する。

 

「いいぞ。会えばいいんだな?」

 

「えっ?」

 

 私は思わず、その言葉に間の抜けた声をあげてしまう。えっ、本当に会いに来るの? 

 

「……え、いや……ほ、本当に? 会いに来たら殺すって言ってるのよ? 意味分かってる?」

 

「わはは、殺されるのは困るが、そういうことならこっちも戦りあうだけだ」

 

 ロジャーは楽しそうな笑みを浮かべてそう言う。い、いやいやいや……来て欲しいのは来て欲しいけど、そんなにあっさり頷かれると……何かあるのでは? と思ってしまう。

 私は何とも言えない複雑な気持ちで聞く。もう一度、

 

「……本当に言ってるの? あなた達、確かに強そうだけど……こっちはそっち達とは比べ物にならないくらいの化け物揃いよ? ロックス船長だけでもヤバいのに、“白ひげ”に“リンリン”、“金獅子”とかヤバい奴しかいないんだけど……ひょっとして死にたがり?」

 

「わはは! すげェ面子で面白そうだ!!」

 

「…………バカ?」

 

「端的に表現されたな……でもロジャーはこんなもんさ」

 

 ははは、と笑ってこちらの困惑振りを見て楽しんでるギャバンや他の船員達。えー……笑ってる場合じゃないと思うんだけど……幾らロジャー海賊団って言っても、ロックス船長やうちの怪物達に勝てる未来が見えないんだけどな……。

 だけどこれで、ロックス船長の任務を達成は出来る。私にとっては喜ばしい結果だ。何も問題はない。

 

「……ま、いいけどさ。それじゃ私が案内するから船を出してついてきて」

 

「──ああ、()()()()()

 

「…………は?」

 

 二度目の唖然。私は言葉を失う。ん? 意味が分からない。今来るって言ったよね? 

 

「……え? ちょっと……意味が分からないんだけど……結局来る気はないってこと?」

 

「いや、会う!! おれは世界一の海賊団を目指してるんだ!! だから邪魔する奴は戦って勝つ!!」

 

「そ……それじゃあついてくるってこと?」

 

「──それは嫌だ!!!」

 

「もうやだこの人!! 嫌い!!!」

 

「いやァ……なんか……すまん……」

 

 意味が分からなすぎて振り向いてレイリーやギャバンなどのロジャーの仲間達に叫ぶように言うが、皆微妙な顔で謝罪してきた。いやほんともう、なんでそんな堂々と支離滅裂な事を言えるのか。言っている意味が分からないし、我儘過ぎる。

 

「おれの航路を他の奴等に決められる筋合いはねェ!! おれはもう次の冒険は決めてんだ!! 戦うのはその後だ!!」

 

「さっきまでは戦いてェからって会う方法探してた癖に……」

 

 仲間の呟きを拾って余計に困惑する。それじゃあ今から来て欲しいものだ。それなら嫌でも戦えるのに……というか、ほんとどうしよう。迷いながら、私はロジャーに向かって言う。

 

「……じゃあ、どうすればいいのよ。私がいないと辿り着けないわよ? 船長のビブルカードはあるけど、他人には絶対渡すなって言われてるし、行く先は分からないから私が案内するしか……」

 

「む、それは困ったな。どうするか……あ、いや、良いことを考えたぞ!!」

 

 私がいないとロックス船長には会えないことを告げると、ロジャーは一瞬頭を捻ったが、直ぐにいい考えがあると言って、ニヤリと笑う。なんだろう……嫌な予感しかしないのは気のせい? 

 そうやって、私は軽く身構えてしまう。するとロジャーは一瞬言葉を溜めてから、私に向かって、

 

「ぬえだったな!! やっぱりお前、おれの船に乗れ!!!」

 

「…………え、え~~~……?」

 

 強引な二度目の提案に、私は引き攣った笑みを浮かべてしまう。……ごめんなさい、ロックス船長……カイドウ……私のはじめてのおつかい……時間かかりそう……。




お気に入り6000件突破、ありがとうございます。
という訳ではじめてのおつかいでロジャー海賊団へ。ぬえちゃん、苦労します。とはいえ2、3話くらいで帰れると思うよ……作中時間はどうだか知らないけど()
という訳で次回をお楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。
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