正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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裏切り

 長らく“闇の科学”の拠点として機能し、2年前からは海賊帝国の実験施設として新たに稼働を始めていた島──パンクハザード。

 かつては政府の実験施設として兵器や薬物の研究を秘密裏に行っていたその島は、今や表立って大規模に研究を行い、そのための実験動物を海賊帝国の支配に逆らった人々から調達している。収容所などはその大量に抱えている実験動物を収容する施設であり、そこにいる人々は度重なる実験に身体や心を蝕まれ、あるいはいつ実験に使われて死ぬかを恐れていた。

 だがそんな中にも反骨心のある者達もいる。多くは海賊や、海賊帝国に逆らう気概を持つ戦士だが、そんな彼らの心を折るべく、2年前からは百獣海賊団から科学に長けた“大看板”が視察や実験がてらに見せしめを行っていた。

 

『さァいよいよ始めるぜ♪ “QUEENプレゼンツ”ゲームライブ!! “パシフィスタ in 鬼ゴッコ”ォ~~~!!!』

 

 研究所の入り口のモニター。映像電伝虫が映す映像の中で“疫災のクイーン”が観客とゲストに向かって大声でゲームの始まりを告げる。

 観客は収容所に捕まっている実験動物。そしてゲストはゲームに参加する“麦わらの一味”だ。

 

「あいつ……見たことあるぞ!!」

 

「“疫災のクイーン”……!! 百獣海賊団の最高幹部、“大看板”の1人じゃな……!!」

 

「あいつもか!! ──おい風船!! サンジとチョッパーを返せ!!」

 

「こっちの声は聞こえてないみたいよ、ルフィ!!」

 

「ああ。それにあいつは2年前にシャボンディでおれ達を飛ばした……」

 

「ええ。元革命軍の幹部にして王下七武海……“暴君“バーソロミュー・くま……」

 

「…………」

 

 ルフィが映像に向かって思わず要求を告げる中、ナミやフランキー、ロビン達は入り口から現れたくまを見て警戒の色を強める。

 ──既に一味の誰もがくまが“恩人”であることを知っている。真意は今なお不明だが、2年前にシャボンディ諸島でくまに飛ばされていなければ一味は全滅していただろうし、2年の修行を行うこともなく、今この時もなかった。

 ゆえに恨みはないが、それでも目の前にこうして現れるとあの時感じた恐怖を思い起こされるようで身を固くした。この場にこうして現れたということは敵にも違いない。あの場に立ち会った一味の誰もがくまの強さを知っているし、ジンベエもまた同じ七武海としてくまの噂やその強さは知っていた。

 そしてこの状況のマズさも。

 

「マズいな……クイーンが何をする気かはわからんが、くまから逃げることは難しい。ただでさえ足踏みしとるというのに……」

 

「ええ。ゾロ達は大丈夫かしら……」

 

 一応、自分達は陽動班。

 潜入組が収容所から研究所に侵入出来ていればいいが、もしかしたら既にバレて刺客を送られている可能性もある。

 それにこちらはローに足踏みしている状況で、更にくまというこちらも逃げるにも倒すにも難しい相手が現れたし、仮に彼らを倒したとしても敵にバレている状況では幾らでも増援を送られるだろう。そうなればどうしてもジリ貧だ。体力もいずれは尽きる。

 ──わかってはいたことだが、たった二桁にも満たない数で巨大な海賊帝国に反旗を翻し、仲間を取り返しに行くというのは至難の技だった。

 

『ルールは簡単だ!! お前ら麦わらの一味はローやくま!! パシフィスタや獣の群れ!! こちらの刺客から逃げ続ければいい!! お前らが全員捕まるか、うちの海賊団に入るって誓えばそれで終了だ!!!』

 

 麦わらの一味が戦闘を中断して警戒を強める中、クイーンは彼らに向かってゲームのルールを説明する。

 それは単純な鬼ごっこである。普段のクイーンの“絡繰公演”のように仕掛けが凝っている訳でもない。せいぜい刺客が特殊というだけだ。

 だがこの程度で充分だとクイーンは高をくくっていた。10人にも満たない弱小一味など、本気を出せばいつでも捕まえられるが、それでは面白くない。

 どうせなら囚人達が絶望し、自分達が楽しんで得をするための──見せしめを含めたゲームを行い、彼らを捕まえる。

 だからこそただの鬼ごっこに、クイーンは趣味の悪い追加ルールを加えた。

 

『だが~~~!! お前ら実験動物共には弱小ルーキーがどうなろうと興味ねェだろう!? だがそれじゃあ盛り上がらねェからな!! 嫌でも興味持って貰うぜ!!!』

 

 言って、クイーンは指を鳴らして別の映像を画面の中で映す。ルフィ達の見上げる先にもクイーンのいる場所とは別の映像が映った。

 そしてそこにいたのは鎖に縛り付けられ、地面に仰向けで寝かせられる老若男女問わず集められた実験動物達と、怯える彼らを見て下卑た笑みを浮かべるクイーンの部下達。

 

「何をする気だ……!?」

 

『ムハハ!! 口で説明するよりも先に、まずは見ろ!! ──打て!!!』

 

『はい!!』

 

『……!! やめろ……!! やめてくれ……!! ああああァァァ……!!』

 

「!!?」

 

 一味の面々は突然映った囚人達に、嫌な予感を感じ──そしてそれがすぐに的中すると誰もがギョッとする。嫌な予感は的中したが、実際に起こった出来事は予想を遥かに超えていたからだ。

 映像の中でクイーンの部下によって腕に注射を打たれ、囚人の1人が実験台の上で藻掻き苦しみながら咆哮を上げる。

 よっぽどの劇薬を打たれたのか、しばらく暴れていた囚人はしかし──突如として身体が左右非対称に、歪に膨張し、体毛が伸び、獣のような爪や牙を生やし、目の瞳孔が開く。

 

『グウウゥゥ……!! ガアアアアアア!!! グルルル!!!』

 

「……!! 何だ!? 獣になったぞ!!?」

 

「人狼!? いや獣人か!? なんだありゃあ!!? 人間が獣の化け物になりやがった!!!」

 

 ルフィやフランキーが端的に起こった結果を口に出す。ナミやジンベエもその結果には絶句するしかない。

 そんな一味の反応を見てか、クイーンは画面の中で馬鹿笑いした。そう──彼らこそが時間と共に増え続ける“鬼”なのだと。

 

『ムハハハハ!!! 見たか!! この“獣人薬”を打ち込めば、人間は理性のない獣の化け物に成り下がる!!! こいつらは近くにいる生物を見境なく襲う──つまるところ、こいつらが鬼だ!!!』

 

 そしてクイーンは言う。“麦わらの一味”に関係のない実験動物達を、ただ見せしめとゲームを盛り上げるためだけに使い捨てにすることを。

 

『YO麦わらの一味!! お前らはその場から逃げるもどうするも自由だが……全員が捕まるまで、3分に1体!! この獣人達を島に解き放つ!!!』

 

「!!?」

 

 その発言には一味だけでなく、その映像を見ていた収容所の囚人達も戦慄した。

 つまり、麦わらの一味が全員捕まるまで……囚人達は次々と消費され、あの醜い化け物に姿を変えてしまうということで。

 

「……!! ふざけんな!! そいつらは関係ねェだろう!!」

 

『つまり30分で10体!! 1時間で20体だ!! 24時間逃げ回ってもたった480体!! 実験動物共!! よっぽど運が悪くなけりゃあ自分がそうなる可能性はねェんだから安心しな!! ……ま、もし当たったら“麦わらの一味”を恨むんだな!! ムハハ!!!』

 

「おい聞けよ!!!」

 

 ルフィの声を無視して、クイーンは実験動物に恐怖を与える。1日逃げ回ったとしても480人しか投薬はされないが、当然自分がそうなる可能性は充分にある。楽観出来る筈もない。

 そしてルフィ達もそのルールには動揺させられた。悪逆非道な、あるいはそうでなくても海賊らしく自分や仲間以外には冷徹であればそこで動揺することはないだろうが、あいにくとルフィ達は違った。

 

『ああ、それと鬼は殺そうが何をしようが構わねェぜ!! 素材があれば幾らでも増やせるし、そもそもこれは失敗作だ!! それにどれだけ殺そうと気に病む必要もねェ!! そいつらは人間をやめた畜生だからなァ!!」

 

「……!!」

 

『──まァ、だが海賊には必要ねェ気遣いだったか!! 何にせよ、お前らは精々逃げ続けろ!!! 全員倒すようなことがあればゲームはやめてやってもいいぜ!! まあ無理だろうがなァ!!!』

 

「フザけんな!! だったらお前が相手しろ!! お前をブッ飛ばしてすぐに終わらせてやる!!!」

 

 ルフィは完全に舐めてかかり、関係のない人々を虐げるクイーンに向かって啖呵を切る。──が、クイーンは無視してローに向かって言葉を飛ばした。

 

『聞いてるな、ロー!! お前が“鬼”の総大将だ!!! すぐに終わらせるんじゃねェぞ!! 存分に盛り上げてから捕まえろ!!! ムハハハ~~~!!!』

 

「……フン……また趣味の悪ィことしやがって……」

 

 ローに指示を出し終えると、研究所の入り口に映し出されていた映像は消える。──そしてローやくま、森から現れる獣達と対峙するルフィ達の映像に切り替わった。

 そしてそれがゲームの始まりであり、戦闘の再開だ。ローは鼻を鳴らしてぼやくと、何かを考え込みながら向かってくるルフィをじっと見つめる。

 

「っ……!! だったらすぐに終わらせれば良いんだろ!!」

 

 ルフィがローに向かって腕を伸ばし、拳で殴りつけようとする。

 だがローはそれに対処せず、隣の兵器に任せた。そう──政府の人間兵器から、百獣海賊団の人間兵器となった海賊……バーソロミュー・くまに。

 

「う!!?」

 

「弾かれた!!?」

 

「マズい……!! ありゃあやっぱり本物だ!!」

 

「ニキュニキュの実の能力じゃ!! 気をつけろルフィ!!!」

 

 くまが手袋を外し、ルフィの拳に自身の掌を合わせると、ルフィの拳があらぬ方向に飛んでいってしまう。

 そしてその能力を見て、フランキーやジンベエもそれが本物だと──あるいは偽物であって欲しかった願望を打ち砕かれ──知った。超人系悪魔の実“ニキュニキュの実”の“肉球人間”。あらゆるものを弾き飛ばす能力。それが“暴君”とまで呼ばれた元王下七武海の凶悪無比な力。

 

「!?」

 

「!!」

 

 一瞬にしてルフィの後方へ移動したくまが、掌をぶつけようとその手を接近させる。

 異様な圧力を感じ、見聞色の覇気もあってルフィはそれを躱したが、くまの猛攻はそれで止むことはない。

 

「“圧力(パッド)砲”」

 

「!!」

 

 今度は大気を高速で弾き、衝撃波を放つ。

 肉球の形をした空気の塊が背後の木々を貫き、破壊をもたらしたが、それに見向きすることなくルフィも反撃を返す。量産型にさえ手も足も出なかった2年前とは違い、武装色の覇気を纏ってくまの身体を攻撃した。

 

「……!!」

 

「っ……! ハァ……ハァ……!! クソ……覇気を使いすぎてる……!!」

 

「ルフィ!!」

 

 攻撃はくまに通用し、くまの足裏を引きずって後ずらせることに成功する。

 が、このくまは量産型ではなく、その装甲はくまの肉体を元にしているためより頑丈であり、たとえ成長したルフィの一撃であっても容易く機能停止に追い込める程ではない。

 加えてルフィは既にローとの戦いもあって覇気を消耗していた。

 既に肩で息をしている有様であり、少し休まなければ覇気がいずれ尽きる。体力はどうにか出来るとしても覇気切れだけは休まなければどうにもならないのだ。

 そしてだからこそルフィと戦っていたローもルフィの対処をくまに任せた。思考を優先したい事情もあるが、仮に戦いを続けるとしたら回復は必要である。

 ゆえにルフィ達を視界に収めながらも思考を続けた。……“麦わらの一味”を誘うか否か──その判断をローは迷わせる。

 

「“五千枚瓦正拳”!!!」

 

「!!」

 

「ジンベエ!!」

 

 そしてそうして考えている間も戦いは止まらない。密林から出てくる獣達の対処を他の面々に任せ、とうとうジンベエが前に出てきた。

 正拳突きがくまの肉球と激突し、周囲に衝撃波が拡散する。ルフィと並び立ち、ジンベエはルフィを激励する。

 

「こうなればローとくまを突破して逃げるしかないぞルフィ!! わしも手伝う!! 何とか踏ん張るんじゃ!!!」

 

「ああ!! わかってる!!!」

 

「…………」

 

 構えを取り、ここを突破する決意を再び固める2人に──いや、背後を守る他の麦わらの一味の面々をローは眉間に皺を寄せた表情で見続ける。

 本気でこちらを倒す気であれば、ロー自身もまたやはり決めねばならないと息を吐く。

 “麦わらの一味”の力は大体分かった。その意志の強さも。

 その上で引き入れる上でのメリットとデメリット。計画がどれだけ楽になるか、それらを冷静に判断し──ローは帽子を目深に被り直し、ルフィに向かって口を開く。

 

「……呆れたな……仲間のためとはいえ……よくもそれだけ真正面から無謀な戦いに挑めるもんだ」

 

「誰が相手だろうと関係ねェ!!! 仲間を取り返す邪魔するなら誰が相手でもブッ飛ばす!! そこをどけ!! トラ男!!」

 

「…………残念ながらそいつは無理な相談だ。──“タクト”」

 

「!!?」

 

 ルフィの覚悟の決まりきった発言に否定を返し、ローは人差し指を下に向けて、先程の戦いの中で切り取った大岩と木々のオブジェをルフィ目掛けて落とす。

 ルフィとジンベエはそれを躱したが、地面に落ちた巨大な飛来物に土煙が辺りに舞った。

 

『おいおいローの野郎……派手にやりやがって!! せっかくのゲームなのに見えねェじゃねェか!!』

 

 研究所の入り口の映像を見てクイーンが笑う。これじゃ何も見えないし、盛り上がらないだろうと軽く窘めるように。

 だがそれだけ激しい戦闘を行っているということに違いない。事実、土煙の中で次はどんな攻撃が来るかとルフィは警戒していたが──

 

「く……!!」

 

「──このままじゃ終わりだな、麦わら屋」

 

「! いや、終わらねェ!! おれはサンジとチョッパーを必ず取り戻す!!! そのためなら“四皇”だろうと何だろうと──」

 

「……なら1つ、()()がある」

 

「!? え……?」

 

「声を抑えろ」

 

 ふと、ローが背後に現れて“提案”という言葉を口に出したことでルフィは虚を突かれた。思わず大声を出しそうになったのをローは抑え、土煙の中で一方的にその続きを口にする。

 

「おれもお前も、今は時間がない……詳しい話は後だ。呑むなら一旦捕まれ」

 

「……!! え~~!!? そんなの……」

 

「静かにしろ!! 聞け……!! おれはお前の仲間の行き先を知ってる。1人はもうこの島にはいねェ……!!」

 

「……! ……そうなのか?」

 

 そこでようやくルフィも話を聞く気になったのだろう。声を潜めてローに問い返すと、ローは静かに頷いた。その上で、ローは更に続きを口にする。

 

「だが今はそれを話してる余裕もない。お前も、ここでおれ達と戦ってたら時間も労力も無駄だ」

 

「……! ならどうするんだ?」

 

「だから一度捕まれ。提案を呑むなら後で出してやる」

 

「その提案ってなんだ!?」

 

「──“同盟”を結べ。おれは……いや、()()()は今、“海賊帝国”を崩壊させるための協力者を集めてる……」

 

 ローはルフィに攻撃を繰り出し、万一にも怪しまれないようにしながらその計画を告げ、ルフィを誘う。

 そう、それはあまりにも大それた壮大な計画だった。今、この世界を支配していると言っても過言ではない、海賊帝国を……百獣海賊団を──

 

「“四皇”を()()……引きずり降ろす策がある」

 

「!!?」

 

 到底、信じることの出来ないその言葉を口にしたその瞬間──歯車が軋む音がどこかで聞こえた。

 

 

 

 

 

「──よし、先に進むぞ」

 

「あ、ああ……それにしてもなんなんだよ、ここの生き物は」

 

「ええ。首を斬られたのにそれが元に戻るなんて……信じられません!!」

 

「お前が言うな!!」

 

「…………」

 

 パンクハザード島の密林の中で始まった巨大な竜と鵺との戦いは、ゾロの脇腹に僅かな傷を負ったのみで勝利を収めた。

 ゾロが血を流した一時はどうなることかと思ったが、ゾロが改めて気合いを入れて竜を一刀両断し、日和も二刀の刀を抜いて鵺の心臓を突き刺して無事仕留めることが出来た。

 とはいえ空想上の生物と出くわした気味の悪さは変わらない。なんでこんな生物がいるんだと疑問に思う麦わらの一味の疑問に、協力者のボニーが答えた。

 

「……多分、ベガパンクの実験生物だろ。ここは昔、政府の研究施設だったからな」

 

「それを海賊帝国が奪ったってことか……」

 

「なるほど……ところで、ベガパンクってどなたです?」

 

「聞いた憶えはあるな」

 

「はァ!? 嘘だろベガパンク知らねェのかよ……!!」

 

「そういうのはおれの役目じゃねェ」

 

「フランキーやロビンか……ナミなら知ってるかもな。後はチョッパー……」

 

「後で聞いてみましょうか」

 

「マジかよ……組んだの、早まったか……?」

 

「…………っ……(やはり、今の私では“閻魔”は……!!)」

 

 2体の空想上の生物の死体を後にし、歩みを進める潜入班一行。ベガパンクの事をよく知らない麦わらの一味の3人にボニーが呆れ、日和が腰に収めた刀の内の一本を見て、歯噛みするような表情を浮かべているが、今のところは順調である。精々、ゾロが少し怪我をしたくらいだ。一応、チョッパーがいないため持ってきていた応急処置セットから包帯を軽く巻いたが、少しは心配ではある。そのことをウソップが歩きながら指摘した。

 

「それよりゾロ。さっきの怪我、平気か?」

 

「かすり傷だ。問題ねェ」

 

「お、おお……さすが。でもあんまり大きな怪我すんなよ? 今はチョッパーがいねェからな。応急処置以上となると診れるのがいねェんだ」

 

「わかってるよ……それより、収容所の入り口はこっちで合ってるか?」

 

「逆側だ!! こんのバカ助!!!」

 

 相変わらずの方向音痴を発揮するゾロにボニーがツッコミを入れる。

 収容所まではもう少しだが、果たしてこんな調子で潜入が成功するのだろうかと心配するが、ボニーはなんとしてでも潜入し、大事な人を助けなければならない。

 そして麦わらの一味も同じ。仲間を2人も奪われた。それらは必ず取り戻さなければならないし、お礼参りもしなければならない。

 普段はその攫われた仲間の1人と喧嘩しているゾロも、その行動指針に迷うところや疑うべきようなところはない。

 そう思っていた。だが──

 

「うおお!!?」

 

「おい!! 大袈裟に驚くな!! こっちは潜入してんだぞ長っ鼻!!」

 

「い、いや、悪い……でも今茂みから…………ん? あれ……」

 

「!!」

 

 ウソップが突如揺れた茂みと、そこを横切った何らかの生物の気配に大袈裟に驚き、ボニーが声を荒げる。ウソップは謝りながらも今のはなんだと茂みの方を見て、そこに見えた見覚えのある生き物の姿に目を細め……そして徐々に表情を驚きに。そして最終的に喜びへと変えて声を上げる。

 

「──チョッパー!!!」

 

「ああ? だから大声を──」

 

「おれ達の仲間だ!! おい、ゾロ!! ブルック!! 見えたろ!!?」

 

「ええ、間違いありません!! チョッパーさんです!!」

 

「捕まってたところから逃げ出して来たのか……それに比べてあのぐるマユは……」

 

 茂みをかけ分け、駆け寄っていきながら仲間同士で喜びの言葉を交わし合う。サンジの悪態をついているゾロもチョッパーの姿が見えたことに口元をニヤリと小さい笑みへ変えていた。

 

「やっぱりそうだ!! おいチョッパー!! 迎えに来たぞ!!!」

 

「……ウソップ……ゾロ……ブルック……」

 

 だがその喜びの表情も長くは続かなかった。

 確かに見つけたのはチョッパーで、茂みの先の原っぱのような場所でチョッパーはその声に反応して立ち止まり、振り返る。

 そして再会した3人の仲間の名前を口に出し、次に彼らの脳が理解出来ない言葉を紡ぎ出す。

 

「悪いけど……おれはもうお前らの仲間じゃない」

 

「!!?」

 

「え……!!?」

 

「……チョッパー!!?」

 

 一味の3人が信じられないものを見たように驚愕し、そしてややあって困惑する。──こんな時にそんな冗談を言い出したことに。

 そんなことをチョッパーが言い出す筈がないのだ。ゆえに、絶対に何かの冗談だと思った。

 特に嘘つきでありウソに慣れているウソップの対応は早かった。戸惑い、なぜか汗を流しながらも笑みを浮かべて口を開く。仲間を迎えるために。

 

「お……おいおい!! こんな時にやめろよそんな冗談!! それよりサンジも捕まってるんだろ!? どこにいるかわかるか!?」

 

「それは……教えられないし……今の言葉は冗談じゃない」

 

「え……?」

 

 そしてその幻想を打ち砕くかのように問いを拒絶し、言葉が真実であることを告げる。

 今度はウソップもブルックも唖然とし、ゾロもまた表情を真剣なものに──それでいてゾロにしては珍しく、動揺して額にほんの僅かに汗を掻いていた。

 

「……!! どういうつもりだ……?」

 

「言った通りだ。おれはもう……お前らの敵なんだ。ゾロ」

 

「!!?」

 

 再び、その真意を確かめるための質問に答えたチョッパーの表情に、ゾロは歯を口の中で噛みしめる。チョッパーの表情は真剣そのものであり、嘘や冗談を言っている風ではない。

 だからそれだけにゾロは疑念を心に浮かべた。チョッパーが真面目にこんなことを言う筈はないと信頼しているから、それだけに分からない。

 

 ──仮に脅迫されて言わされてるにしろ、何らかの事情があるにしろ、あのチョッパーがここまではっきりと拒絶を口にすることが果たしてありえるのだろうかと。

 

「な……何言ってんだよチョッパー!! バカな事言ってんじゃねェ!!!」

 

「そ、そうですよチョッパーさん!! 一体どうしちゃったんですか!!? もしかして、何か病気とか……!!」

 

「ここに別れを言いに来たのは……筋を通しに来た訳じゃない。そう命令されたからだ。命令を聞かなきゃ()()()()()()に、“かつての仲間に別れを言え”って……だから言いに来た!!!」

 

「意味が分からねェよ!!! 何なんだよそれ!!!」

 

「そんなの納得出来ません!!」

 

 ウソップとブルックが酷く動揺して憤りにも近い感情を声に乗せる。どうしていいか分からない、理解が出来ない現実に脳と心がそれを受け止めることを拒んでいた。

 

「おれはご主人様のいる百獣海賊団に入る!! 海賊王になるのはルフィじゃなくてカイドウだ!! それだけ言いに来た!!!」

 

「!!? 何、を……!!」

 

「冗談ですよね!!? チョッパーさん!!」

 

 だが繰り返される残酷な言葉。まるで一味の心を折ろうとするかのように、チョッパーが執拗に一味に対する決別の台詞を、チョッパーが決して言いそうにない言葉を彼らに届けていく。

 ウソップとブルックが面白いように動揺し、表情を歪ませる中。しかしゾロだけは険しい表情をずっと浮かべており、

 

「……1つ聞かせろ、チョッパー」

 

「!」

 

 そしてついにゾロが口を開く。

 麦わらの一味にとって、ゾロとはルフィの相棒であり、鉄火場や修羅場、重大な決断の場においては誰よりも頼りになる男である。

 時には緩んだ一味の空気を引き締め、あえて厳しい言葉を口にする。

 普段は仲が悪く、同調することのないサンジですらそういった時のゾロの意見には賛同を示すことが多い。ルフィも、あえて言うことこそないものの──自分がいなくても大丈夫だと思うほどに信頼しているのがゾロだろう。戦力としてはルフィと同等かその次に強く、世間からも“最悪の世代”の1人としてルフィ以外では唯一億超えルーキーとして名を知られ、実質的な副船長ではないかと思われてすらいる。

 そしてこういう時のゾロの厳しさを仲間は誰よりも知っているからこそ、ウソップもブルックも──チョッパーも緊張した。

 その次の言葉によって決まると、そう誰もが思い、

 

「それは……()()()()()で決めたのか?」

 

「……! うるさい!! おれはご主人様のいる百獣海賊団の子分だ!! 余計な質問には答えないぞ!!」

 

 そしてチョッパーはゾロのことを知っているため、身を固くしながらも、ご主人様のためにはっきりと敵意を含めた拒絶で答えた。

 今のチョッパーにはそのことが最優先だ。それと関係がないのであれば麦わらの一味のことは大切だが、敵対する相手であればそんなことは関係なく、むしろ嬉々として彼らを傷つけることが出来る。勿論、自分の意志で。

 

「……そうか、わかった」

 

 そしてゾロもまた、その答えを聞き届けて了解した。

 刀を抜き、ゾロが前に出る。それを見て、ウソップが思わず止めた。

 

「お、おい!! 何を……!!」

 

「──聞いただろ。今はおれ達の敵で邪魔するために目の前に立ってるんだ。だから……()()

 

「馬鹿やめろ!! 仲間だぞ!!?」

 

「正気じゃないようには見えないのに……!! チョッパーさんに、一体何が……!!?」

 

「……! (もしかしたら……)」

 

「……(改造、ではないでしょうね……おそらくは──)」

 

 ゾロが落とし前をつけようと刀を抜き、それをウソップが止める。ブルックは何が起きたらチョッパーがこんなことを言い出すのかと困惑し、ゾロを止めることもなく立ち止まっていた。

 そんな中で状況を理解したボニーが裏切ったのはもしかしたら……という想像を働かせ、日和の方もより正確な推測でチョッパーの身に起きたであろう事を思い浮かべる。

 しかしそうやってその場で立ち止まっているだけの状況は長くは続かなかった。チョッパーが背を向けて駆け出す。

 

「──! おい待て!! チョッパー!!!」

 

「!!? だ、誰が待つか!! おれはゾロには勝てねェ!! 悪いけど逃してもらう!!」

 

「そうだゾロ!! 落ち着け!!」

 

「お前はどっちの味方だ!! どけ、ウソップ!!」

 

「お、追いかけますか!?」

 

 ゾロには勝てないと分かっているのと、ゾロと戦う必要はないと思っているチョッパーは言うだけ言って、一目散に逃げ出す。

 不思議なことに、その様子は普段のチョッパーそのものであったが、一味の方はそれを見て余計に混乱するしかない。裏切った負い目があったり、もうちょっと思いつめたりしているのかとも思ったが、あの様子ではまるで素の状態のまま寝返ったようだ。まるで大切なものが麦わらの一味から別のものに置き換わったかのように。

 そして一味が方針を決めかねて揉めている間に、チョッパーは茂みの奥へ駆けていき、やがて姿が見えなくなる。

 が、その直後だ。

 

「!!?」

 

「うわァっ!!」

 

「ウ……何だ、このガス……!!?」

 

「頭が回って……!!?」

 

「ねむい……ろれつも回らなく……」

 

「っ……しまった……!」

 

「これは……酒精……!!」

 

 彼らの足元に何か砲弾のようなものが着弾し、破裂する。

 が、破裂したのは火炎や爆発ではなくガスであった。それを5人は吸い込み、一斉に酒に酔い潰れる時のような激しい眠気に襲われる。

 誰もが薄れゆく意識の中で、巨大な人影と防護服を着た集団の姿が微かに見え、そして理解する。“麦わらの一味”のチョッパーが現れたこと自体が罠だったのだと。

 

「──回収しろ」

 

「はい」

 

「……! く……そ……」

 

 おそらくは特殊な催眠ガスであり、それを受けてしまった以上はどんな力も無力だ。

 ゾロ達は自分達が枷に捕らえられ、運ばれていくのを最後の景色にして意識を手放した。──その時には陽動班もまた、自分達と同じように捕まって……収容所に送られているとは知らずに。

 

 

 

 

 

 パンクハザードの一室。実験動物を一時的に捕らえておく檻や実験台。くつろぐための椅子や机のあるその一室で、映像を見て実況していた大看板、“疫災のクイーン”はその結果を見て肩透かしを食らった。

 

「おいおいマジかよ……あっけねェな“麦わらの一味”……!!」

 

 百獣海賊団に逆らい、弟分であるジャックを退けたと聞いて、余興として少しは楽しませてくれると期待していた“麦わらの一味”。

 飛び六胞のローや元七武海のくまを始め、様々な怪物や兵器を使って追い詰めてやろうと準備していたが……それらの殆どが無駄に終わり、映像に向かって叫ぶ。

 

「せっかく遊んでやろうと思ったのによォ……これじゃあ余興にもならねェぜ!!! なァ“麦わら”ァ!!!」

 

『…………!』

 

 映像の中──“麦わらの一味”は船長のルフィや元七武海のジンベエも含めて全員が海楼石の鎖によって捕らえられていた。

 それはクイーンが用意したゲームの終わりを意味している。よっぽど消耗していたのだろうか、ローとくまの能力で隙を突かれ、捕らえられた麦わらの一味はあまりにも呆気なかった。

 これでは見せしめにもならないし、記録した映像を見せて楽しませることも出来ないだろうと、それを先んじて報告しようとしていたクイーンは繋いだ電伝虫の向こうにいる相手の確認に再度答える。

 

『あれ? もう終わったの?』

 

「ああ、()()()()!! 口ほどにもなかったぜ!!」

 

「…………」

 

 クイーンの呼んだ名前に同じ室内で控えていたヴェルゴやモネは思わず唾を飲み込む。

 新世界広しと言えど、その電伝虫から聞こえる声の持ち主ほどに恐ろしい相手はいない。建前としては対等な取引関係を結んではいるものの、現実として、彼らがもし彼女を怒らせれば、即座にその上司ごと彼らは破滅する。

 大看板も恐ろしい相手には違いないが、比較してしまえば大したことないと思ってしまう。どんな気まぐれで弄ばれるか分からないのだ。ゆえに“麦わらの一味”のように目をつけられることを避けるために、無言のままクイーンと相手の会話を聞くしかない。

 

『もしかしてクイーンが直接潰した?』

 

「いや、おれはやってねェぜ!! ローとくまを向かわせただけで終わっちまった!!」

 

『……ふーん……?』

 

「……って、なんか反応悪くねェか? 何か気に入らないことでも──」

 

『だって結果がつまらないんだもん。──どうせならクイーンがやられた報告だったら良かったのに』

 

「ええ!!? いや、任務達成したんだから喜んでくれよ!!」

 

『冗談よ』

 

「冗談すか……いや、わかるけどよ。あいつら、ジャックを退けたって聞いたからどれほど耐えられるかと思ったら、全然大したことなくて拍子抜けだったぜ!!」

 

『んー……それだけど、まさかローとくまに全員ノックアウトされた訳じゃないよね? 隙を突いて捕まえたって』

 

「? ああ、その通りだぜぬえさん。間抜けにもあっさり捕まりやがったんだ!!」

 

『……なるほど』

 

「?」

 

 質問に答え、任務完了の報告をするクイーンだが、どうやら相手の方は釈然としていないのか、何かを考え込んでいるのか、意味深に間をおいて頷く。クイーンが頭に疑問符を浮かべている間にも、相手は何かを思考し、そして結論が出たのか先程までの残念そうな声色を一変させ、明るい声でクイーンを労った。

 

『よくわかったわ、クイーン。お疲れ様~~♡ それじゃ明日にでも島を出て“新鬼ヶ島”に帰ってきなさい』

 

「ああ、了解だ!!」

 

『良い? ちゃんと“麦わらの一味”を連れて帰ってくるまでが任務だからね!! 気を抜いて妙な失敗したりしないように!!』

 

「ムハハ!! そりゃ無用な心配だぜ!! ……ああ、それとぬえさん。()()()()の件だが──」

 

『あ、ジョーカーから聞いてないんだ。んーと、それはね~……──』

 

 それからクイーンは自分が気にかけている女の一件について確認し、幾つかのやり取りを交わす。

 会話の内容は“悪意”の塊で、それを訳も分からず聞いていたヴェルゴ達ですら趣味が悪いと感じてしまうもの。

 そんな話が幾つか終わり、報告が終わる。その直後に任務を終えた2人が部屋に戻ってきた。

 

「──戻ったぞ」

 

「! おお、ご苦労だったなロー!! 麦わらの一味はどうした?」

 

「収容所の牢に入れた……悪いが警備までは出来ねェ。麦わら達にやられた傷を癒やさねェとならねェからな……」

 

「ムハハ!! 何だ、音を上げんのが早ェな!?」

 

「うるせェ……“麦わらの一味”にあのジンベエまでいたんだぞ。体力も消耗する……」

 

 飛び六胞のローが背後にくまを引き連れて部屋に入ると、すぐさま休息を願い出る。ルフィやジンベエ達と戦ったことで少なからずダメージを負ったローは見るからに疲労している様子だった。

 クイーンはその体力の無さを軽く揶揄したが、本気でそう思っている訳ではない。むしろあの面子を相手によくやったと思っているし、今回の一件は間違いなくローの手柄となる。

 だからだろう。少しでも点数を稼ごうと、野心あるもう1人の飛び六胞が代わりを名乗り上げるのも当然だった。

 

「──ならおれが代わってやるさ」

 

「……ササキ……」

 

 ローに近寄ってきたのは身長3メートル程のバンカラ風の服装を身に着けた大男で、右手に酒瓶を持っていた。もし研究所に侵入してきた時のために控えて、その時まで軽く酒でも飲んでいたのだろう。酔っている様子はないが。

 そしてその男であれば万が一、“麦わらの一味”が脱出を企てて暴れても取り押さえることが出来ると──クイーンや本人はそう思っていた。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ササキ 懸賞金8億7200万ベリー』

 

「明日まで何も起きねェよう見てりゃあ良いんだろう? 逃げ出せる筈もねェが……仮にもジャックを退け、お前と互角に戦ってた連中だ。おれがいりゃあ万が一もなくなる」

 

「なら頼んだ……おれは先に部屋で休んでる」

 

「おいおい、一杯やんねェのか? 少しくらい飲んでけよ。おれの酒は美味ェぞ」

 

「悪いが疲れてる。それより監視の件は頼んだぞ……」

 

 もう1人の飛び六胞であるササキが、任務成功の祝いに酒を勧めるが、それをローは素気なく断り、さっさと部屋を出ていってしまう。それを見て、ササキは肩をすくめて息を吐いた。

 

「真面目で可愛げのねェ新入りだぜ」

 

「ムハハハハ!! そりゃお前もだろう!! 生意気な“飛び六胞”!!」

 

「ハッ……好きに言ってろ。ジャックがしくじったんだ……“大看板”の椅子にも、そろそろガタが来てるかもしれねェぜ?」

 

「お前には無理だ!! ムハハ」

 

 “大看板”と“飛び六胞”。百獣海賊団の最高幹部とその次の幹部である両者が軽く言葉での応酬を行う。

 元々外様であり海賊船の船長をしていたササキやフーズ・フーといった者達は生え抜きの他の面々とは違って特に“大看板”に反抗的で、その席を狙っているのは今や百獣海賊団の外でも有名な話だ。

 だがそれでもこの場で共に任務を行っているのは他ならぬ百獣海賊団の副総督。ぬえの命令だからである。

 念の為に夜通しで、飛び六胞が直々に警備を行おうとするのもぬえが“麦わらの一味”に拘りを見せているのを知っているからこそだ。飛び六胞以上の面子はぬえが“麦わらの一味”を気に入って部下にしたがっているのは知られている。

 しかもジャックがしくじったこともあり、そうでなくても彼らを捕らえて差し出すのは充分な手柄となり得るのだ。ゆえに任務にいつも以上に力を入れるのは必然。

 仮にぬえの直々の命令でクイーンと飛び六胞2名が派遣されていなければ、他の飛び六胞や敗北の汚名をそそいで“仕返し”を願うジャックが追討を行っていただろう。それくらいに今回の一件は重要だった。

 

「しかし本当に呆気ない……!! 警戒してたが、あれならおれの兵器の実験がてら始末してやっても良かったぜ!! シュロロロロ……!!」

 

「──ムハハハ!! 節穴かよ!! お前には無理だろ、クズ!!」

 

「あァ!!? 誰がクズだ!!」

 

「…………」

 

 だがしかし、その力の入れように反して、相手は呆気なく捕まってしまった。“麦わらの一味”がジャックを退けたと聞いて僅かに怯えていたシーザーが調子に乗るのも無理がない程に。

 とはいえ正面から戦えば他の飛び六胞でもそう簡単にはいかなかっただろう。あっさりと捕らえられたのはローの能力とくまを動かしたからこそだった。

 が──

 

「! おい、ヴェルゴ!! どこへ行く!?」

 

「……いや、そこまで大事な捕虜なら念の為におれも控えておこうと思ってな……任せっきりでこちらが誰も動いていないというのも面子が立たない」

 

「! 成程……」

 

「ムハハハ!! 悪かったな!! おれ達だけで始末つけちまってよ!! なら後はササキとヴェルゴに任せて~~~!! おれ達は騒ぐぞォ!!」

 

「了解です!! クイーン様~~!!」

 

「ムハハハハハ!! 酌を頼むぜ!! モネちゃ~~ん♡」

 

「ええ、わかりました」

 

「こっちはご心配なく……こう見えて、おれは監視のプロで凄腕の剣士だ」

 

「あなた、監視のプロでも剣士でもないでしょ……」

 

「──そうだ。おれは監視のプロでも剣士でもなかった。──念の為、何も起きねェように見張っておくとしよう……!!」

 

 そうしてパンクハザードで起きた侵入者の騒ぎは終息し、いつも通りの凄惨な実験場としての日々に戻っていく。

 “麦わらの一味”は全員収容所に捕らえ、後はもはや朝まで待って彼らを船で護送するのみ。

 

 ……だがしかし、その手柄を立てた男を知るヴェルゴは、先程のクイーンの電伝虫の相手と同じく疑念を抱いていた。

 

 ──果たしてローが、くまや獣達の助力があったとはいえ……こうも簡単にあの“麦わらの一味”を捕らえられるものなのか。

 

 もしかしたら何かがあるのかもしれないとヴェルゴは警戒し、部屋を出て収容所の方へ向かっていき、ササキも少し遅れて同じく向かっていく。

 クイーンとシーザー。そしてモネやクイーンの部下達が、シーザーの呼び寄せたガールズシップの女の子も含めて騒ぐ中、夜は更けていった。

 

 ──そして時刻は23時30分。

 

「ぐごー……!」

 

「すぴー……」

 

 何時間もどんちゃん騒ぎを行い、クイーンやシーザー。その部下達が眠りにつく。

 実験や研究が行われず、密林に住まう獣達も寝静まる静かな夜に紛れ──作戦は静かに動き出す。

 

「……異常はない、か」

 

 パンクハザードの収容所。

 大量の実験動物を収容する大きな牢や、物理攻撃を完全吸収する特別な部屋など、幾つもの部屋がある広く高い廊下を歩くヴェルゴ。

 麦わらの一味も檻の中で大人しくしており、特に何かが起きる気配もない。そんな中で突如──

 

「──“シャンブルズ”」

 

「!!?」

 

 ──異常が起きる。

 

 突如として身体に異変を憶えたヴェルゴは、移り変わった目の前の景色と縛られている己の違った身体の感覚に混乱し、しかしすぐにその正体を看破した。

 

「! (これは……!! ローの能力……!!)」

 

「──悪いが、少し眠っていて貰うぞ」

 

「っ!!? くっ……何を……!!」

 

 背後から刀を振り下ろされ、密室の中で身体をバラバラにされるヴェルゴ。

 身体を動かすことも出来ずに気絶させられ、口も封じられるとその白くて大きなクマは動かなくなる。

 そうして代わりに動いたヴェルゴが動き出す中──ローは再び能力を行使して動き出し、1つの檻の中に移動する。

 そして中にいた者達と話し、互いの理解と納得を終えた……その30分後。

 

「よし……作戦を始めるぞ。予定通りに動け」

 

「ああ!! わかった!!! 行くぞお前ら!!!」

 

「あたしに命令すんな!!」

 

 檻の中で3人の船長が声を出し合い……そして始まる。

 

「!!!」

 

「!!? な、何だ!!?」

 

 突如として島内に鳴り響く爆音。

 それによって強制的に目覚めたクイーンやシーザーは、部屋を見渡し、何が起こったのかと状況を把握しようとする。

 見たところ、この部屋で何かが起きた訳ではない。部屋の中は酒瓶や料理の皿が散らばり、部下や女の子達が爆音によって同じように身を起こしているところだった。

 

「──クイーン様!! 大変です!!!」

 

「! 何だってんだ!! 何が起こった!!?」

 

「は、はい!! 研究所の正面入口で爆発が起こった模様!!」

 

「爆発だァ!!? 一体どこのどいつだ!! そんなことしやがったのは!!」

 

「わかりません!! ですが爆発の影響で研究所の扉が壊れ……!! 更に植林していた“ダフトグリーン”が倒れて島の獣達が研究所に侵入しています!!!」

 

「何だとォ!!?」

 

 やや遅れて、慌てた様子でやってきた部下の報告を聞いてクイーンが怒り、シーザーも驚愕する。

 “ダフトグリーン”と言えば島の凶暴な獣達が研究所に入らないように植林していた毒性の植物であり、かつて金獅子海賊団から奪ったものだ。シーザーが作り上げた獣人薬で獣の化け物になった者達も、この植物には近づかなくなるし、“S・I・Q”という動物を戦闘進化させる薬で変異した獣や、竜や鵺も同様。人間以外には嫌な匂いの成分を発するもの。

 それが爆発でなくなったとなれば、獣達が研究所の中に入ってくることもあるだろう……と、そこまで考えてそれだけならそこまで問題はないとクイーンは考えた。問題はその爆発を起こしたであろう誰かが、この島にいるということである。

 

「(“麦わらの一味”か……? チッ……)……とにかく動物を追い返せ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

「それと檻の中の麦わらの一味はどうしてる!?」

 

「はっ!! そのことでも報告が……!!」

 

「! やっぱり抜け出したか……!! それで、そっちはどうなってる!! ササキやヴェルゴが対処してんだろうな!?」

 

 そして部下の報告の続きを聞いて、やはり、と思う。一体どうやって抜け出したのかわからないが、あれだけの面子が大人しく捕まってる訳がない。

 かつてのワノ国──新鬼ヶ島の兎丼で囚人採掘場を取り仕切り、億超えの海賊達がどういうものなのか知っているクイーンはそれが起こった事には驚かなかった。驚いたのは方法と、そして同時に爆発が起きたことによる衝撃とノリである。逃げ出したこと自体は大したことない。もう一度捕まえて、今度は念入りに叩き潰せばいいだけの話だ。

 なのだが……部下に聞き返すとその歯切れが悪い。

 

「……? おい、どうした?」

 

「い、いやそれが……ササキ様は“装甲部隊”を率いて即座に鎮圧に動かれましたが……」

 

「ん? なんだ、ヴェルゴの野郎はもしかしてもう伸されたのか? ムハハ、使えねェ!!」

 

 “麦わらの一味”やジュエリー・ボニーといった億超えの海賊達がいればそれもさもありなんとそれを笑い飛ばすクイーン。だが手が少なくなったのは問題だと、くまを動かすか、あるいは“疫災弾”を使おうかと思い立つクイーンだったが──

 

「そ、それが…………どうやら()()()()模様で……!!」

 

「…………は?」

 

 その言葉をすぐには飲み込むことが出来ずに……間の抜けた声を漏らす。

 そうしてクイーンが固まっている間に、また別の部下が報告に現れ、クイーンに告げる。

 

「島内の電伝虫!! 及びに映像電伝虫、復旧しました!! 今、収容所の映像を映します!!」

 

「! (電伝虫の復旧……? いや、それよりも……!!)早く映せ!!」

 

「はいっ!!」

 

 電伝虫の復旧という、今までは繋がらなかったのかという疑問を覚えながらも、それよりも状況を把握する方が先決だと収容所の映像を目の前に映させる。

 するとそこには、部下の言った通り確かに──

 

『どういうつもりだ……!!? ヴェルゴ!!』

 

『見ればわかん……分かるだろう。悪いがお前達にはここで秘密裏に消えて貰う……“若”のためにな……!!』

 

「な……!!」

 

 映像はちょうど、不意を突かれたのか僅かに怪我を負い、逃げ出す実験動物達と“麦わらの一味”を追いかけるササキと装甲部隊。それに対して決別の言葉を送るヴェルゴの姿。

 その隣には“麦わらのルフィ”やジュエリー・ボニー。“海賊狩りのゾロ”や他の麦わらの一味の仲間といった閉じ込めた筈の海賊の姿もある。

 

『クイ~~~~~~ン!!! どこだァ~~~!!?』

 

『さっさと倒して切り抜けるぞ……!!』

 

『くっ……!! 待て……!!』

 

『わっはっはっ!! 誰が待つかよ!! お前らなんて怖くねェぞ!! なんたって……こっちには“若”がバックについてんだ!!! “若”がいればカイドウやぬえなんて全く怖くねェぜ!!!』

 

『ワハハそうだぜー!! 全くだぜー!!』

 

『どこだァ~~~~!!! チョッパーを返せ!! クイ~~~~ン!!!』

 

「え~~~~~~~~~!!!?」

 

 クイーンは映像の中で“若”の名を出して暴れ回る麦わらの一味の部下達が──特に長っ鼻の男がメチャクチャ言っていた──百獣海賊団に敵対の意志を示す言葉を吐き、人々を解放しながら突き進むのを見て、大きくリアクションを取った。

 一瞬、ありえないと頭に過ぎったのもつかの間。映像には確かに“若”の重要な腹心であるヴェルゴが麦わらの一味と協力してクイーンやササキの部下や、シーザーの部下を格闘で殴り飛ばしているし、麦わら達もそれを疑問に思った様子はないし、眠る直前まではいた筈のモネがこの場にいないことも不審に思う。

 それにクイーンはジョーカーから目の前の光景の、()()()()()()()()()を聞いている。ここまで馬鹿な事をする奴だとは思ってもいなかったが──それでもありえない事ではない。

 

「クイーン様!! 外部に通信が繋がりません!!」

 

「どうやら電波妨害の“ツノ電伝虫”を設置されているようで……!!」

 

「パンクハザードは通信途絶状態になりました!!!」

 

「……!!」

 

 それに……この用意周到さ。

 外部に情報が漏れて援軍が送られたり、事が露見して裏切りがバレないようにするために、通信を封じている。

 確かにこれなら、通信が復旧するまで島で何が起きても外部に漏れる心配はなく、この後も先んじて動けるだろう。──戦力の見積もりの甘さだけは苛立ちを覚えるものの、逆に言えばこのガキ共と組めば、自分程度はやれると軽く見られているに過ぎないということで──

 

「……!! 舐めやがって……!! とうとう決定的に裏切ったな……!!? ()()()()()()……!!!」

 

 そして“若”が示す人物の名前──ドンキホーテ・ドフラミンゴの名前を出し、怒りを見せた。

 腑に落ちないことは当然ある。本当に裏切ったのかという疑念も尽きない。

 だが現実にモネがこの場から消え、ヴェルゴが麦わらの一味と共に暴れているのなら……やることはどちらにせよ1つだ。

 

「野郎共、武器を取れ!! “麦わらの一味”にヴェルゴとモネ……!!! 暴れてる奴らを全員叩き潰せ!!! 裏切った奴にも脱走する奴にも逆らった奴にも……最強の百獣海賊団の恐怖を教えてやれェ!!!」

 

「オオオオ~~~~!!!」

 

 部下達の闘志に火をつけ、クイーンは自ら指揮を取って動き出す。

 これが真実だろうが、陰謀でどんな理由があろうと今は考えても分からないし、どうだっていい──全員叩き潰して捕らえてから拷問でもして全て聞き出せば良い話だ、と……クイーンは自らの異名の由来である()()を取り出しながら部屋を出ていった。




獣人薬→S・I・Qの技術を応用したシーザーの新薬。人間を獣の化け物に変える。
くま→量産型よりも頑丈だし、当然強い。今でもニキュニキュの実はかなり強いと思う。
ローの提案→詳しいことは次回以降で。お察しの通り、ローの本命はそれじゃないけど。
チョッパー→曇らせ展開の犠牲に。
ゾロ→こういう時は頼りになる。
日和→閻魔はごく限られた状態の短時間しか使えない。理由は当然ある。
シーザー→クイーンと女の子と騒いだだけ。書いてないけどホグバックもいます。
ササキ→お酒はササキ酒造から。次回、実在した最強生物の活躍さ……!!
ヴェルゴ→シャンブルズ。覇気は強くなったローに更に大差で負けてます。
ツノ電伝虫→電波妨害とかいうクソ強い効果持ってるけど希少なのか中々出てこない。原作の結婚式でベッジが設置してた奴。
クイーン→起こったことは大変でもまだ余裕がある。
ドフラミンゴ→裏切ったな……殺してやるぞドフラミンゴ(とばっちり)
ウソップ→ドレスローザの最高賞金首が確定。
ジンベエ→演技下手
ルフィ→いつもの。
ぬえちゃん→ガッカリか予想を超えてくるかは朝起きてからのお楽しみってことで睡眠中。可愛い。

今回はこんなところで。ということで裏切りの回でした。海賊は裏切るぞ……(最強生物の格言)。
ローの作戦が始まってやっとパンクハザードで事が起きたということで次回からはわちゃわちゃします。原作よりもかなり卑怯というかアレな作戦だけど海賊の勝負に卑怯なんてないからしょうがない。遂に百獣海賊団のビブルカードや100巻が出たりで情報が8、9割くらい出揃ったと思うので、これで存分に百獣海賊団を書けるねって。とりあえず、今回の章は“疫災”や実在した最強生物の活躍をお楽しみに。

それと良ければビブルカード発売記念にぬえちゃんのプロフィールを公開しておりますので良ければどうぞ→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=266980&uid=206423

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