正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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氷鬼

 パンクハザード収容所から研究所への連絡通路。

 その地下で裏切り者の汚名を被って撃破されたのは元七武海の海賊団。ドンキホーテファミリーの幹部──モネ。

 この時点で真の同盟が百獣海賊団に露見する可能性はグッと下がった。

 だがそれは彼らが危機に陥る可能性が減ることと同義ではない。

 

「ぐわあァァ~~!!」

 

「やべェぞ!! ササキ様がブチ壊した穴から鬼が……!!」

 

「触らず撃ち殺せ!! 仲間でも容赦するこたあねェ!! どうせ新入りのウェイターズ共だ!! 連中は無差別に襲ってくる!!」

 

「グオオオオ!!!」

 

 収容所からはチョッパーが放ったクイーンの最高傑作の1つ疫災(エキサイト)弾“氷鬼”に感染した鬼達が次々に雪の壁の中に侵入して正常な人間に襲いかかる。

 既に気を失ったか死亡したか。どちらにせよ脱落したモネのユキユキの実の能力で作り上げた巨大カマクラと降り積もった雪のフィールドはその場から脱しようとする人々を平等にその場に留めていた。

 ゆえに氷鬼に対してはどちらの勢力も平等の対処を行っている──が、この場において最も脅威なのは氷鬼ではない。

 

「お前ら邪魔だ……!! 伏せてろ……!!」

 

 カマクラの中心で周囲の部下達にそう告げた直後。首元のフリルが高速回転。

 そして腰に差していた“絡繰螺旋刀”を抜き放ち、そのギミックを作動させるとフリルと共に周囲の鬼と敵を同時に斬り裂く技を放つ。

 

「“ヘリケラトプス”!!!」

 

「!!!」

 

「ぎゃああ~~~!!」

 

 回転する斬撃の嵐がその男を中心に周囲の敵を斬り刻む。敵だけではなく、僅かに味方さえも斬ることにはなってしまうが、この状況ではそうも言ってられない。出来る味方、強い者であればそれを回避している。無能な味方はこの状況においてそれほど重要視するものではない。

 重要なのは敵の排除──それのみだ。

 

「……!! あいつ、触れてるってのに感染してねェ……!!?」

 

「馬鹿が……!! 当然、おれ達幹部は既に抗体を接種済み……!! 触れたところで問題にはならねェ……!!」

 

 そう言って驚愕する敵だけを見据え、百獣海賊団の“飛び六胞”ササキは降り積もった雪の上に着地する。

 厄介な人獣型のトリケラトプス。その予想外過ぎる能力と幹部だけは“抗体”を既に摂取しているという理不尽を思いながら、この場において最も厄介な敵であるゾロは既に三刀流を解放して同じく敵だけを見据える。

 

「成程な……つまりおれ達は周りの鬼に対処しながらヘンテコなトリケラトプスを相手にしなきゃならねェってワケだ……!!」

 

「言うじゃねェか!! だったら見たことあんのかよ──本物のトリケラトプス!!!

 

「!!」

 

 トリケラトプスを馬鹿にされたことに怒りを見せたササキが、再び首元のフリルを回転させて宙に浮かび、凄まじい軌道を描きながらゾロに回転する刃を向ける。

 ゾロはそれを刀で受け止め、絡め取られて弾かれないように受け流して逆に弾いた。回転する刃は一度受け止めたことがある。その対処は既に確立済みであり、考えることはこの厄介な状況で如何に相手に勝利し、味方を守るかだ。

 

「……! 確かに見たことは──」

 

 そんな中、戦いの中の舌戦。それですらも相手に言われっぱなしでは終われない性質のゾロはササキの言葉に痛いところを突かれたと言わんばかりに呟く──が、そこで思い出す。

 2年前。太古の自然を再現したかのような島で、恐竜を……もっと言えばトリケラトプスを見たことがあったと。

 

「……いや、ある……!!」

 

「何!!?」

 

 え、とゾロが予想外の返答をしたことでササキを含む百獣海賊団の海賊達が驚愕する。

 何を馬鹿な事を。本物の恐竜を直に見たことがあるなんてウソに決まっている──そう思ったがゾロの背後からも同様の言葉が届いた。

 

え!!? ……あー、そういやリトルガーデンで見たことあったな……恐竜……」

 

「え~~!!? そうなのかお前ら!!? 羨ましい!!」

 

 ウソップの懐かしむような言葉に思わずヴェルゴ(の皮を被ったベポ)が演技を忘れて羨ましがる。

 その光景に口からでまかせを言っている訳ではないと理解したササキだが、しかし動揺したのは一瞬。すぐに調子を取り戻して彼らに言い返す。

 

「……!! そうか……どうやらそのトリケラトプスはまだ未熟だったみてェだな……!! だがおれはそんな弱いトリケラトプスとは一味違う!! おそらく……そう、成体になったトリケラトプスは飛行する……!! 今のおれみたいにな!!」

 

「なんなんだお前のその謎の自信!!」

 

「黙れ!! 現におれがそうなっているだろうが!! ──弾丸(タマ)ケラトプス”!!!」

 

「ぐ……!! (一理ある……!!)」

 

 トリケラトプスという生き物を完全にそうだと信じ切っており、現にその能力を披露しているササキにゾロが苦悶の声を漏らした。言い返せないと思った直後、弾丸のように突進してきたササキをゾロは何とか受け止め、背後の味方への被害を防ぐ。

 

「このカマクラ中々壊れねェ!! 硬すぎる!!」

 

「ぎゃあ~~!! 鬼が迫って来てる~~~!!!」

 

 ベポやウソップ。逃げ遅れた囚人達が研究所側の連絡通路の出入り口を防いでいるカマクラの壁を壊そうと何度も攻撃を試みるが、中々その壁を打ち壊せないことに焦りを見せる。

 こうしている間にも氷鬼の感染は少しずつ広がり、押し寄せて来ているのだ。収容所の人間。百獣海賊団の下っぱ。

 そして──()()()()()()()()()()()でさえ。

 

「ゴキキ……!!」

 

「ブモモ……!!」

 

「え……」

 

「おい、ウソだろ……!!?」

 

 収容所でゆっくりと立ち上がる2つの影を見て、逃げ遅れた者達は戦慄する。

 最初に麦わらの一味によって倒され、気絶していた2体の怪物を氷鬼達は踏みつけ、感染させてしまった。元より驚異的なタフさを誇る2体は頭に更なる角を生やし、瞳孔を開かせながら連絡通路に向かって押し寄せる。

 

「マズいですササキ様~~~!!」

 

「……!! どうした!!?」

 

「それが……!!」

 

 ゾロと対峙しているササキは振り返ることなく部下の報告を耳にする──ゆえに背後の影に気づかない。

 そしてササキや氷鬼と対峙しているからこそ、ゾロ達は気づいた。連絡通路に入ってくる怪物の姿に。

 ササキの部下達は抗体を摂取していない。ゆえに氷鬼は脅威だが、たとえ摂取していたとしても脅威であることには変わらないと、進撃してくる怪物に恐怖を覚えながら告げた。

 

「氷鬼に……五鬼(ゴーキ)と獄卒獣が感染しました~~~!!!」

 

「!!?」

 

「ゴキキ~~~!!!」

 

「ブモモ~~~!!!」

 

 同じ氷鬼や逃げ遅れた者を踏み潰し、叩きのめし──古代巨人族であるナンバーズの五鬼(ゴーキ)と覚醒した動物(ゾオン)系能力者である獄卒獣のミノタウロスが雄叫びを上げながら現れる。

 クイーンの作り上げた“氷鬼”は皮膚の異常冷却と凶暴化。そして筋力上昇などによる戦闘力の上昇などの効果がある。ゆえに普通の人間であっても感染すれば脅威だが、それが元より強い生き物であればより強い脅威となる。

 ゆえに氷鬼に感染した彼らはどの氷鬼よりも脅威だ。

 

「駄目です!! ササキ様!! 止めきれません!!!」

 

「うわァ~~~!! 駄目だ!! 早く逃げねェと!! 壁を壊せェ!!」

 

「ゾロ~~~!! どうにかしてくれ~~~!!!」

 

「やべェぞ“海賊狩り”~~!!!」

 

「っ……確かに、アレはマズいな……!!」

 

 背後から徐々に迫り、カマクラの壁の中へと追い詰めてくる氷鬼達。

 その災害の如き惨状に百獣海賊団も麦わらの一味も囚人達も、誰もが同様に危機を感じ、この場をどうにか脱しようと必死に動き始める。

 そしてそれは、この場で唯一抗体を持つササキであっても例外ではない。

 

「……!! チッ……おれはともかく、このままじゃ部下共が氷鬼にやられてくたばっちまうようだな……!! それは避けてェ……!!」

 

「なら協力でもしてくれんのか……!!?」

 

 ゾロとササキは互いに刀と角で鍔迫り合いをしながら至近距離で同じ事を思う。自分はまだしも、このままこの状況を続けていれば味方が全滅してしまうと。

 だからどうにか目の前の敵を排除して味方を逃してやることを考えたが、その時間はあまり残されていない。

 

「そうだな……だったら協力して逃してやるよ……!!」

 

「!?」

 

 と、そこまで考え、先に動いたのはササキだった。

 ゾロが目を見開く中、ササキは告げる──逃がすことには逃がすが。

 

「だがタダでは逃さねェ……!! 場所を変えるのは賛成だが、お前にはダメージを負って貰う……!!!」

 

「!! (さっきの謎の音……!! この気配は……マズい!!)」

 

 そしてササキは足元のギミックを作動させる。モネの作り上げた強固な雪の壁を一撃で粉砕したササキの突進。その要因となる絡繰を作動させ、一気に加速。鍔迫り合いをしていたゾロごと、空中へ飛翔すると一直線にカマクラに向かって更に速度を上げて迫る。

 ゾロはそれから逃れようと試みたが、ほんの僅かに遅かった。ササキの巨体に運ばれ、背中に迫るのはカマクラ。それに挟まれるようにして──

 

「“ジェット弾丸(タマ)ケラトプス”!!!」

 

「!!!」

 

 ──カマクラの壁に激突する。

 先程と同じように一撃でカマクラの壁は壊れ、しかし、それでもまだ飛翔して運ばれ続けるゾロをウソップ達は見送るしかない。

 

「壁が壊れた!!」

 

「これで逃げられるぞ!!」

 

「壊れたが、今の大丈夫かゾロの奴……!! 心配だ……!!」

 

「ゴキキ~~!!!」

 

「ブモモ~~!!!」

 

「うおお!!? 人の心配してる場合じゃねェ~~!!! お前ら逃げるぞ~~~!!!」

 

「分かりやした!! 長っ鼻の兄さん!!」

 

 いつの間にか、囚人達を率いることになっているウソップ達が急いで壁を越える。百獣海賊団もそれを追いかけるようにして研究所に入り、氷鬼はそれを追いかけるようにして遂に研究所に到達して暴れ始めた。

 

 ──そして一足早く研究所B棟に到達したゾロとササキは。

 

「骨が砕けて死んだか!!?」

 

「死んでねェよ……!! よくもやりやがったな……!!」

 

 空中を高速で飛び続け、そろそろ再び壁か床にでも激突してゾロを葬ろうとするササキに、ゾロが口から血を吐きながら刀に覇気を纏わせ、今度はこの体勢から抜け出すことを試みようとする。

 

「無駄だ!! お前はおれの攻撃から逃げられねェ……!! このまま何度も壁に叩きつけて殺してやる……!!!」

 

「出来るといいな……!!」

 

 強気の憎まれ口を叩きながら、しかしゾロは空中から中々逃げられない。

 最高速にまで達したササキの速度と空中で掛かる重力はゾロを自由にはさせず、鍔迫り合いを強制的に継続させている。

 刀を引いて敢えて吹き飛ばされることも考えたが、それはそれで大きなダメージを受ける。いよいよとなればそれもありだが、まだそれを行う程余裕がない訳ではない。

 とはいえ余裕がそれほどある訳でもない。このまま何度も叩きつけられればいよいよもって無視出来ない大傷を負うことになるだろう。それは負けが近づいていることと同じだ。

 ゆえにゾロは覇気を強く纏い、今までよりも更に強い一撃を放つことでどうにかすることを考えた。限界を超えて成長する。その取っ掛かりは魚人島で僅かに得ている。それを行えばいいだけだ。

 

 ──しかしそれもまた、ゾロはほんの僅かに遅かった。

 

「“鬼怒川”!!!」

 

「!!?」

 

 突如、下方向からの斬撃が飛来し、ササキに直撃する。

 

「グ、オオ……!!」

 

「!」

 

 認知外からの不意の一撃。

 それはササキに少なくない傷を負わせ、その飛行を失速させる。隙を突いてゾロはササキから逃れるように下向きに力を込めてササキを床に激突させるべく方向転換させる。

 そしてササキを押し出した力で自身はササキの鍔迫り合いから逃れた。床に向かって落ちるが、それくらいは覚悟の範囲内。大したダメージにはならないと甘んじてそれを受ける。

 

「ぐっ……着地失敗……」

 

「……大丈夫ですか?」

 

「ああ……問題ねェ。それより……よく助けてくれたな」

 

「同志であれば当然でしょう」

 

「…………」

 

 頭から落ちてしまったことで頭にたんこぶを作りながら立ち上がったゾロが、助けた相手に意外という言葉を送る。ゾロとしては、正体に()()勘付いているからこそここで手を出してくるとは思っていなかった。

 

「……!! 邪魔を……一体誰が……!!」

 

 そして失速し、床へと叩き落されたササキもまた、腹に一文字の斬り傷を受けながらも問題なく立ち上がる。動物(ゾオン)系古代種の能力者であり、百獣海賊団の飛び六胞ともなればこのくらいで戦闘不能になるほど柔ではない。

 だがその目の色は立ち上がり、ゾロの隣に立つ者を見て変わった。敵に対する殺気が、より色濃くなる。

 

「……誰かと思えば……“小紫”……いや、光月日和じゃねェか……!!!」

 

「……!!」

 

 麦わらの一味と協力関係にある日和──その名をまず小紫と呼び、ササキは自身に刃を向けた怒りをそのまま視線に乗せる。

 日和はその言葉に応えず、僅かに歯を噛み締めた。

 

「少し見た目が変わってるようだがおれの目は誤魔化せねェぞ……お前まで裏切る気か……!!? それとも、仇討ちでもしに来たか……? このおれが殺した──“狂死郎”の仇を!!!

 

「!」

 

「…………」

 

 ササキの口から狂死郎なる人物の名を出され、日和の表情が更に強張る。隣に立ち、無言のままのゾロに情報を与えないためか、言葉を返さないが──たとえ沈黙していても表情が物語っている。その言葉は、半ば真実に近いものであると。

 

「それとも家族の仇か? ……だが何でも構わねェ……!! 元々お前は()()()()()だからな……!! おれもそろそろ、内部の裏切り者は皆殺しにするべきだと思っていたところだ……!!!」

 

「……貴方に……私が殺せると?」

 

「お前こそ、出来ないとでも思ってんのか? 昔のおれとは違う……!! そしてお前は弱くなった!! そして裏切り者だ!! おれは裏切り者は絶対に許さねェ……!!」

 

 ササキと日和だけが理解出来るやり取りを行う。しかし事情を知らないゾロであっても因縁があるのはわかった。それも、穏やかなものではない。互いに互いを憎み、殺したいと思う程のそれが。

 

「ぬえさんからは、次に挑んでくるようなことがあれば全力で殺していいと言われてる……!! もうお前を生かしておいてやる理由は……1つもねェんだ!! “小紫”!!!」

 

「!!」

 

「……!? おい、来るぞ!!」

 

 敢えて“小紫”という名で日和を呼びながら、ササキはフリルを回転させ、日和目掛けて真っ直ぐに突進する。ゾロは気づき、日和に声を掛けるが、日和は僅かに反応が遅れていた。

 

「おれが殺してやる!! お前が見捨てた“狂死郎”や……お前の家族のようにな!!!」

 

「っ……!!」

 

 絡繰螺旋刀が日和に向かって振るわれる。

 日和は刀を構えたが、本来の日和より身体能力や覇気が落ちていることは本人は一番よく理解している。きっと今戦えば──死ぬ。

 ササキの強烈な殺気も相まって、日和は身体を震わせながらも、しかし立ち向かった。ゾロに注力していた今だからこそ、不意を突いて討てると思ったからこそ、ササキに斬撃を見舞った。

 しかし逆に言えば、それで討てなければ厳しい。やはり命令に従っていれば良かったのかもしれない。今ここで欲をかいてまるで味方のようにゾロを助け、ササキに手を出すべきではなかったと。

 

 ──だがこうなった以上はやるしかないと、日和は無理矢理に心を定める。

 

 見かねたゾロが同じく刀を構え、手を出そうとしているが、そんなことは全く眼中になく日和はササキに向かっていった。負ける可能性が高いと分かってはいても……そうするべきだ。

 

「死ね!! “小紫”!!!」

 

「……!」

 

 ──だが、()()が頭に浮かんだ瞬間に再び身震いする。

 

『姫やおでん様と過ごした時間が……拙者にとって──何よりも楽しい一時でありました』

 

『どうか貴方だけは……お逃げ下さい……日和様……!!!』

 

 ──多くの命を目的の為に切り捨ててきた記憶。

 

『あなたの命は私達のものだよ♡』

 

 ──己の心に植え付けられた恐怖の種。

 

 諦める訳にはいかない。

 しかし、その先には“絶望”しか存在しない。

 そう、だからこそ──

 

「!!!」

 

「!!?」

 

「え……?」

 

 ──自分を助けるように割って入って螺旋刀を受け止めた侍の姿に、心は一瞬の驚きの後にささくれ立った。

 

 ササキの前に飛び出るように立ち塞がったのは、20年前にいなくなった1人の侍。

 

「……立ち聞きするつもりはなかったが……まさか、偶然にも訪れたこの島でこのようなことがあろうとは」

 

 顎髭を蓄えたその男は日和の家に──いや、日和の父に仕えていた家臣の1人でありその筆頭。

 

「幼少の頃より成長し、声や姿が多少変わろうとも……その面影とその名を忘れる筈がない。話にはよく分からぬ事や、本当だとしたら悲しむべきことはあるが……まずは主君の忘れ形見との再会に喜び、その身を守ることに全力を注ぐ次第!!!」

 

「! お前……まさか……!!」

 

 この場にて、その姿に覚えがあるのは日和のみ。

 だがササキは察していた。情報とも一致する。つい先日、新鬼ヶ島から逃げ出した侍──20年の時を超えて現れたという男達。

 

「左様──“赤鞘九人男”が1人……“狐火の錦えもん”。亡き主君の形見である日和様を……この身に代えてもお守り致す!!!」

 

 ──かつてワノ国“九里”の大名に仕えた九人の男達がいた。

 その侍達は主君“光月おでん”と共にワノ国を支配するカイドウやぬえに挑み、激しく戦い、その命を散らしたと言われる。

 だがそれは真実ではない。“赤鞘九人男”は生きていた。

 ある者達は現代に残ることなく、光月おでんの妻である光月トキの能力……トキトキの実の能力で20年後に逃げ込んだ。主君の最後の願い──ワノ国に夜明けをもたらすために。

 

「……錦……えもん……」

 

「……! ええ……!! お久しぶりでござる……!! 日和様……!!」

 

 ワノ国の男児は、侍は軽々しく涙を見せてはならないとされている。

 だが錦えもんは涙を流した。ササキと相対し、日和に背を向けながら立派に成長した主君の忘れ形見の姿にどうしようもなく感情が湧き上がった。

 そしてそんな後ろ姿を日和は見ていた──同じく、どうしようもなく湧き上がる感情に胸を掻き乱されながら。

 

「…………っ……!!」

 

 歯が軋む音が、人知れず鳴り響く。

 誰も気づかない。まして20年の時を知らない者には。その20年を平穏無事に乗り越えてきた者には。

 日和はその再会に──()()()()()()()()()()()()()、20年の時を超えてきた錦えもん達はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 パンクハザード第3研究所C棟は研究設備だけでなくシーザーやそこに滞在する者達が生活するための部屋などが存在し、人と会う際にも使用されるため何か問題が起きた時の司令室としてよく使われていた。

 ゆえに現在も騒ぎを収拾するためにクイーンとその部下達がその広々とした部屋の1つに詰めており、時折出入りする部下の報告を受けている。

 それによると現在の状況は概ね、悪くはないと言ったところだ。

 

「クイーン様!! ササキ様がドンキホーテファミリーのモネを仕留め、現在は海賊狩りのゾロを含む麦わらの一味を狙っている模様!!」

 

「ムハハ!! そうか、おれ様の氷鬼はちゃんと広がってるか?」

 

「はい!! 収容所は既に地獄絵図です!! 研究所B棟にも侵入し、逃げ出した囚人達に次々に感染を広げていると」

 

「よ~~し!! どうやら何も問題はねェようだな!!」

 

 モネを仕留め、氷鬼の感染が広がっているとの報告にクイーンは上機嫌になる。騒ぎを起こされた時はやってくれたと思ったが、的確に対応してしまえば後はもう時間の問題でしかない。

 

「シーザーにくまはD棟の例の設備。ローは万が一にも海に出られねェようにR棟の出入り口を守ってる。A棟の入り口は動物共。B棟は氷鬼で塞いでやった。後は連中を追い詰めるだけだ」

 

「おお……」

 

「さすがはクイーン様!!」

 

「ウオ~~!! QUEEN~~!!」

 

 クイーンが葉巻の煙を吐き出しながらそう呟くと、クイーンのノリの良い部下達がクイーンを称える声を上げる。それによって悪くない気分になったクイーンだが、こうなってしまえば後は連中の誰かが捕まるか脱落するか死ぬか、そういった報告を受けるまで暇なものだ。

 何しろ麦わらの一味もヴェルゴも多少は厄介だが、クイーンが直々に出向いて仕留めなければならない程厄介とは言い難い。

 麦わらの一味は“最悪の世代”の一味でヴェルゴは元七武海であるドンキホーテ海賊団の最高幹部であり、実力はその程度。魚人島で麦わらの一味は弟分であるジャックを出し抜きはしたものの、それはジャックを倒した訳ではなくジャックを海に沈めることで無力化しただけだ。

 つまるところそれはジャックのいつものやつ(ズッコケ)。ちょっとドジをしただけであり、ジャックの実力を上回るものでは決してないことをクイーンは正しく理解している。ジャックは末席とはいえ“大看板”であり、その彼が真正面の戦闘で倒されることなどありえない。

 ゆえにクイーンもまた、この程度であればどうにでもなると楽に構えている。どうしても飛び六胞や氷鬼で手に負えない──粘るようであれば軽く捻ってやるが、まだそこまでの状況にはなっていない。それをするのは奴らをもっと追い詰めてからでも遅くはないのだ。

 

「うわ~~~~~~~~~!!!」

 

「!」

 

 と、そう思っていた直後のことだ。

 クイーン達のいる部屋の中に勢いよく駆け込み、そのままクイーンすら無視して必死に逃げようとする者達を見て、クイーンは訝しむ。見ればそれは氷鬼を託してやったダイフゴーとチョッパーだった。

 

「? おい、何をそんなに慌ててる。誰から逃げてんだ? 氷鬼か?」

 

「うお~~~~!!! あいつを何とかしてくれ~~~!!!」

 

「す、すまねェクイーンさん!! ハァ……ハァ……あいつを振り切れなかった!!」

 

「あいつ?」

 

 ダイフゴーの頭にしがみついて大声を上げているチョッパーと、相当必死に、ここまでの距離を全力疾走してきたのか息を荒くしているダイフゴーが出入り口を指して言う。クイーンは頭に疑問符を浮かべながら視線をそちらに向けた。すると──

 

「ゼェ……ゼェ……やっと追いつい──あ」

 

「ん?」

 

 ちょうど部屋に辿り着いた麦わら帽子の男と目が合い、互いに思考を一瞬止める。

 クイーンも含めた部屋の中の空気が静かになったその直後。最初に動き出したのはその“麦わらのルフィ”だった。

 

「ようやく見つけたぞ!! クイーン~~~!!!」

 

「ぎょえ~~~~~~~~!!?」

 

「え~~~~!!? クイーン様~~~~~!!?」

 

 麦わらのルフィが武装硬化した拳を伸ばし、クイーンの顔面を殴り飛ばす。

 突然の出来事に不意を突かれて無防備に食らってしまったクイーンは大きくリアクションを取りながら数メートル程背後によろけた。クイーンの部下達も突然現れ、攻撃を仕掛けてきたルフィに驚き、クイーンの名を呼ぶ。

 

 ──が、その場の誰もクイーンを本気で心配する者はいない。殴った本人であるルフィは当然として、クイーンの部下でさえも。

 

「……! ムハハ……麦わらァ……!! まさかノコノコとおれの前に姿を現すとは……!!」

 

「お前も風船みたいな癖して魚人島のヤツみたいに硬そうだな!! おい、チョッパーとサンジを返せ!!! そんであの鬼になる病気も止めろ!!!」

 

「風船!?」

 

 その証拠に、クイーンはルフィが現れたことに驚きはしたものの、殴られても全くのノーダメージといった様子で口端を愉快そうに歪める。

 ルフィの自身の呼び名にまたしてもショックを受けたものの、その要求を聞けばすぐ調子を取り戻す。そして気づいた。この生意気な新人(ルーキー)がなぜ呑気にこの場に姿を現したのかを。

 

「ムハハ……成程。確かにおれならジャッジの息子の居場所も知ってるし、あの氷鬼の抗体も持ってる。大方おれの持つ情報と抗体を奪いてェってところだな?」

 

「ん? 抗体? そんなのがあるのか!! よし、ならそれを寄越せ!!! それとおれが返せって言ってんのはサンジだ!! そのジャッジってのはどうでもいい!!」

 

「違うのかよ!!! しかも考え無し!! 馬鹿かお前!!?」

 

 ──と思ったが違った。どうやら本気でチョッパーやサンジを直接奪い返し、そしてクイーンをブッ飛ばすためにこの場に現れたと思わしき麦わらのルフィにクイーンのツッコミが炸裂する。

 しかもサンジの生まれた家の事も知らないようで、クイーンはすぐに目の前の馬鹿で身の程知らずな船長を馬鹿にするような笑い声を上げる。

 

「ムハハハハハ!!! 信じられねェなァ!! 本物の馬鹿じゃねェか!!」

 

「うるせェ!! おれの仲間を返せ!! あの鬼の病気も止めろ!!」

 

「ムハハハハ……!!! 何だ、お前の仲間でも感染したか? だとしたら傑作だぜ!! それとも見ず知らずの囚人でも助けようってのか!!?」

 

 氷鬼の抗体が是が非でも欲しいのか、強く要求するルフィを見てバカ笑いをするクイーン。まさか海賊が何の得にもならない人助けをするとは思っていない。後半の言葉はからかい交じりであり、仲間の1人でも感染したのかとクイーンは考えたが──そうではない。

 

「チョッパーの夢は万能薬になることなんだ……!!!」

 

「あ?」

 

 不意に、クイーンの質問にそぐわない答えが返ってきたことにクイーンは間の抜けた声を上げる。

 だがルフィにとって、それは確かな答えであり、仲間と仲間の夢を守る──船長として、当然の要求であり信念。

 

「あいつが正気に戻った時……自分の手で病気を振りまいて人を殺したって分かったら、あいつはきっと悲しむし、自分を責める……!!! だからおれはお前をブッ飛ばして、あの病気を止めなきゃならねェんだ!!!」

 

「!!!」

 

 それはルフィが時折見せる……仲間を守るための本能。

 ルフィが相手にしなければ仲間に深刻な害を与えるであろう強大な脅威を感じ取り、それに対処するために無意識に行動する。

 今までの航海でも対峙する敵の中で最も強い敵を自然と受け持ち、仲間を守ってきたその本能のままに──ルフィはクイーンの前に現れた。

 ここでクイーンをどうにかしなければ、クイーンは麦わらの一味に決して消えない傷を残すだろう。ともすれば、仲間を失ってしまうかもしれない。それを防ぐためにはこの場で何としてでもクイーンを倒すしかないと。

 

「……!! ムハハ……!! あのたぬきの夢なんざどうでもいいが……確かにこのおれを倒せば全部救えるしどうにかなるかもなァ!!」

 

 そしてクイーンはルフィが自分しか見ていないことに気づいて獰猛かつ不敵な笑みを浮かべる。

 新人(ルーキー)とはいえ最悪の世代。ある程度は名を挙げた一端の海賊ではあるらしい。この若造は自分の部下である真打ちや飛び六胞など眼中になく、この島で最も強い存在である自分だけを仕留めるべく目の前に立っているのだと。

 あまりにも無謀な馬鹿げた、そして生意気な言動と意志ではあるが、さすがに活きは良い。そこらの海賊とは違うことは確かだ。

 ──が、それでもクイーンは目の前の男を下に見て馬鹿にする。

 

「だがそりゃあ到底、無理な願いってもんだ……!!」

 

「!」

 

 クイーンは能力を解放し、自らの姿を徐々に変化させながら目の前の若造に告げる。

 この海に出たからには誰しも自分の実力に自信を持ち、大きな野心を抱いているだろう。どんな相手であれ邪魔をするなら薙ぎ払う覚悟と意志を持っているに違いない。

 しかしこの“新世界”でもそれを貫き通そうとするなら……()()()()との戦いはどうあっても避けきれない。

 

「麦わらァ……!! お前、魚人島じゃジャックを倒せなかったんだろ……?」

 

「……!! うるせェ!! 次はあいつもブッ飛ばす!!」

 

「ムハハ!! 口が減らねェのはさすがだが根拠のねェ自信だ……!! お前もジャックと戦って分かってんだろ? 何も効いちゃいねェんだと……!!!」

 

「……!! 恐竜の能力か……!!」

 

 そして現在のこの海の王者とは他でもない──“百獣のカイドウ”と“妖獣のぬえ”率いる百獣海賊団。

 そしてクイーンは自身を完全なる恐竜の姿である獣型に変えて、自分達の立場と強さを誇る。

 

「倒せるつもりになっちゃいけねェ……!! “旱害”、“戦災”、“疫災”、“火災”!! おれ達はカイドウさんとぬえさんを守る四つの災害!!!」

 

 そう、自分達こそが百獣と妖獣の誇る最強の牙。

 大勢の獣達の群れを率いる百獣海賊団の振るう“暴力”の象徴。

 その役目は──邪魔者を率先して排除する矛となり盾となり……百獣と妖獣が巻き起こす暴力と恐怖の嵐に追随し、決して倒れることなく……あるいは何度倒れても起き上がり……最後の最後まで付き従うこと。

 

『百獣海賊団大看板“疫災のクイーン” リュウリュウの実(古代種)モデル“ブラキオサウルス”』

 

「倒せねェから“大看板”よ!!!」

 

「この海に倒せねェ相手なんていねェよ!!! おれは“海賊王”になる男だ!!!」

 

 そう、倒せない。ゆえに“大看板”。

 この海の皇帝──四皇クラスの実力者でもなければ決して倒れない怪物に、ルフィは遂に単身で挑む。

 

 ──氷鬼の限界は発症から1時間。ローの作戦終了時刻まで残り……1時間30分。




ササキ→親友のせいで更に裏切り者嫌い。トリケラトプスは飛行する。そういう生き物だ。
恐竜パワー→素の力比べはルフィでさえ飛び六胞の方が強いのでゾロでも力比べは結構キツい。
氷鬼→筋力上昇どころかヒョウ五郎の例を見るに潜在能力すら引き出してる可能性のある恐ろしいウイルス。本作ではより猛威を振るいます。
ゾロ→タフさは恐竜並み。
錦えもん→満を持して登場。でもワノ国は詰んでる(気がする)。
日和→心がささくれてる時に更にささくれる要因が登場。まだまだ荒れそう。
チョッパー→どこまでも逃走中。
クイーン→ジャック以上の理不尽。恐竜パワーと絡繰人間の合せ技は次回以降で。
ルフィ→考えなしだけど一応止めないとヤバい相手は止めに行く。ローの作戦と違う? 次からはルフィを理解して真っ直ぐに突き進む役目だけを与えるでしょう()
大看板→倒せないから大看板。クイーンの口上好き。
ぬえちゃん→日和ちゃんの心にはいつもぬえちゃん。可愛い。

今回はこんなところで。文字数的には1万文字超えだけど場面的にはいつもより少ない2場面なので感覚が麻痺して薄味に感じますが、次回が戦闘&戦闘&戦闘なのでキリは悪くないかなって。
ということで次回は戦闘回です。古参ファンも出るかもしれない。そろそろくまに挑む組やローも動くかもねって。次回は早めに投稿したい。お楽しみに。

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