正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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疫災

 1億年前に確かに実在し、世界を支配していた太古の生物──恐竜。

 その中でも最大級の大きさと体重を誇るブラキオサウルスに変形した百獣海賊団“大看板”のクイーンに、“麦わらのルフィ”は怯えることなく果敢に攻め入った。

 

「ギャハハ!! 無謀な事はやめとけよ“麦わら”ァ~~!!」

 

「お前みたいな新人如きがクイーン様に敵うワケがねェ!!」

 

「外野は黙ってろ!! “ゴムゴムの”ォ!!」

 

「!」

 

 親指から骨に空気を入れ、巨大化した右腕を武装硬化させたルフィはクイーンとクイーンの周囲の部下を巻き込むようにして拳を放つ。

 

「“象銃(エレファントガン)”!!!」

 

「なっ!!? でけェ!!?」

 

 それを見たクイーンの部下達は巨人族の拳並みになったルフィのパンチに驚くと同時に、その破壊力が凄まじいものであることを想像する。少なくとも、自分達では敵わない。一発KOされてしまうであろうその必殺パンチ。

 真正面から受ければ“パシフィスタ”でも余裕を持って破壊されるであろうその一撃は……しかし、“大看板”には通用しない。

 

「うお!!」

 

 クイーンの胴体にルフィの“象銃”が直撃する。政府の人間兵器を一撃で破壊し、七武海レベルであればダメージは免れないその攻撃が。

 だがそれを真正面から食らったクイーンの反応は多少の驚きでしかなかった。苦悶の声を上げることもなく、多少のたたらを踏ませてクイーンを下がらせる。ほぼノーダメージ──それがルフィの攻撃の結果だ。

 

「ムハハハハ!! 中々面白ェ能力だ“ゴムゴムの実”!! その分使い手の弱さが際立つなァ!!!」

 

「くそ……!! もっと威力を上げねェと……!!」

 

 攻撃を受け止めた結果を思い、クイーンは改めてルフィを下に見て笑う。ゴムゴムの実の能力。それ自体は面白いし、使い方も中々考えられているが、とはいえクイーン自身には大してダメージを与えられない。特殊な能力の多い超人系(パラミシア)の中でも戦闘に向いた良い能力ではあるが、その分自分の肉体が物を言う能力だ。

 つまり、逆を言えばゴムゴムの実でどれだけ攻撃力を上乗せしたところでルフィ自身の膂力や覇気が弱ければ大したことはない。

 ゴムゴムの実の強化にも限界はある。耐久力に優れる動物(ゾオン)系古代種。その中でも極まったスタミナと身体能力を持つ“大看板”の1人、クイーンを打ち崩すには些かルフィの攻撃は弱すぎた。

 だがそれにはルフィも気づいているため、大した動揺はない。“大看板”が強いのは魚人島でジャックと戦った時に既に分かっている。

 故にルフィがやることは攻撃力をより高めるために集中し、戦い続けることだ。ここで負ける訳にはいかないと、やはりルフィは攻め続けるべく再び踏み込んでいく。

 

「ムハハ!! お前がどれだけ出来るか、しばらく遊んで確かめてやる!! “ブラ~~~~ック”!!

 

「!?」

 

 クイーンへと再び肉薄しようと迫ったルフィだが、クイーンが開いた口の中から科学的な光が煌めいたことで驚き、咄嗟に回避を選択する。

 

「“光火(コーヒー)”!!!」

 

「!!?」

 

 瞬間、クイーンの口から飛び出て先程までルフィがいた床へ着弾して爆発を起こしたのはルフィにとってもそれなりに経験のある攻撃──レーザー。

 ピカピカの実を食べていた海軍大将の黄猿やUFOを生み出す能力を持つぬえが主に使用するその攻撃方法は、政府の科学者であるベガパンクやそのベガパンクの研究資料などを盗み見たフランキー以外ではあのシーザーですら再現出来ない高度な科学力によるもの。それをクイーンは自分の身体から発射する。

 

「レーザー!!? どうなってんだ!!?」

 

「ムハハハハ!!! この程度はまだまだ序の口だ!! 驚いてる暇はねェぜ~~~!!」

 

「おわ!!?」

 

 クイーンの科学技術。そのルーツを知らないルフィを嘲笑い、クイーンはブラキオサウルスの長い首を更に長く伸ばしてルフィに噛みつこうとする。

 その歯にも鋭い針が浮き出ていて、明らかに普通のブラキオサウルスの能力ではない。攻撃を躱しながらルフィはそれを理解する。

 

「やっぱ出し惜しみしてる場合じゃねェな!! ──“ギア4”!! “弾む男(バウンドマン)”!!!」

 

「!!」

 

 一筋縄ではいかない相手。それもルフィの方は時間制限がある。

 ゆえにルフィは早々に切り札である“ギア4”の使用に踏み切った。一度のギア4の使用で倒しきれない場合のことを考えると、10分間覇気が使えないというデメリットがある以上ギア4は早めに使って回していかないと間に合わないと、ルフィも本能で気づいていた。

 

「“ゴムゴムの”ォ……!! “猿王群鴉砲(コングオルガン)”!!!」

 

「ぶへェ~~~!!?」

 

 今度は骨ではなく筋肉を直接膨らませ、武装色の覇気で固めることで手に入れた弾力と張力。

 それによってギア3の比ではない破壊力を秘めた必殺の拳のラッシュ。七武海クラスでは手も足も出ずにやられてしまう程にパワーアップしたギア4のルフィの戦闘力は七武海上位クラスや四皇上位幹部と比べても遜色ないほどに高まっている。

 その証拠に今度はクイーンも悲鳴を上げた。真正面からルフィの攻撃をボコボコと食らい、今度は背後に向かって思い切り吹き飛ばされる。

 

「クイーン様!!?」

 

「クイーン様を吹き飛ばした!!?」

 

「なんて野郎だ!!」

 

 そしてクイーンの部下達もそれに驚く。クイーンに多少でもダメージを与えられる相手はこの海では数少ない。

 ルフィもまた手応えを感じてはいた。少なくとも先程よりは、クイーンにダメージを与えられたと。だが──

 

「……!! 成程……痛ェじゃねェか……!!!」

 

「!」

 

 戦塵が舞う中、クイーンはあっさりと起き上がってくる。

 パワーアップしたルフィの攻撃を「痛い」と称し、身体が多少汚れ、擦り傷もある。全くのノーダメージではない。

 ──が、それだけだ。

 

「新人にしちゃ上等だ!! もっとも、これでもおれ様を倒すには全然足りねェが……その変身は面白ェ!!」

 

 ルフィの攻撃は確かに強い。覇気の練りも中々。悪魔の実の応用も含めて、とても海賊になって数年の新人とは思えない強さだ。

 だが、それでもクイーンは余裕を持って相対する。与えられたダメージは時間の経過と共にすぐに回復する程度でしかないし、そうでなくても今の攻撃を100回繰り返したところでクイーンは倒れない。

 横たわるのは圧倒的な地力の差。それを自覚しているクイーンはしかし、ルフィの面白さを理解してその返礼に自身も手の内という名の研究成果を明かす。

 

「!!? 何だ……その姿!!?」

 

「ムハハ……麦わらァ!! お前もパシフィスタやヴィンスモークのせがれやら鉄人やら色んな“サイボーグ”を見てきただろうが……その誰もがおれには敵わねェ!!!」

 

 クイーンの姿がブラキオサウルスの獣型から、人型のものに戻っていき、その中間くらいの姿に変化する。

 それは動物(ゾオン)系の真骨頂である人獣型。ルフィも知る動物(ゾオン)系の戦闘に長けた形態だが……しかしその姿は異様に過ぎた。

 

「うお~~!! 出た!! クイーン様の最高の戦闘形態!!」

 

「クイーン様の人獣モード!!」

 

「終わったな麦わらァ!!」

 

 クイーンに腕が増える。

 生身の右腕に機械化した左腕のアームに、ブラキオサウルスの長く伸ばした尻尾の先とクイーンの纏まった髪の毛の先に機械のアーム。

 そして空中にUFOのように浮いている一機のアームが現れ、フロアが沸き上がった。ルフィが驚く中、クイーンの部下達はその恐ろしさを知るゆえに盛り上がる。この状態のクイーンに勝った者は──四皇を除けば1人もいない。

 

「お前もサイボーグか!!?」

 

「そう!! “絡繰人間(サイボーグ)”だ!!! ムハハ、せっかく戦うんなら無駄にはしねェ──実験も兼ねて、最強の絡繰人間となったおれ様の研究成果をお前にも見せてやる!!! 行くぞ!!!」

 

「……!!」

 

 そう、それが人獣型ならぬクイーンの人獣モードであり“大看板”であるクイーンの独自の強みの1つ。

 その怪物染みた強さの真骨頂が解き放たれる。

 

「“ブラック光火(コーヒー)”!!!」

 

「!!? ──おわ!!?」

 

 再び放たれるレーザー。

 だが今度のレーザーはクイーンの口からだけでなく、それぞれのアームから別々に発射された。

 口、左腕、尻尾、髪の毛、()()()()()()──それぞれのアームはルフィに狙いを定め、回避するルフィを更に狙ってレーザーを撃つ。

 その攻撃は2年の修行を経た今となっても変わらない脅威だ。何しろレーザーはレーザー。誰が撃とうと同じものであり、出力の差以外で威力が変動することはない。力を込めて威力が上がるものではないが、レーザーであるというだけでどれだけ硬い相手にも一定のダメージを与えられる威力の保証がある攻撃方法。

 フランキーが“ラディカルビーム”という名で放つ必殺のそれも、パシフィスタのそれも変わらない。ルフィやクイーンであってもダメージは免れない威力を持っている。

 ゆえに黄猿やぬえのように何百発、何千発とレーザーを雨のように放つことが出来ずともレーザーは脅威だった。

 しかもクイーンはその()()も再現しつつある。

 

「危ねェ!!?」

 

「ムハハハハハ!! どうだ“麦わら”!! 懐かしいだろうレーザーの雨!!! 2年前の“戦争”じゃぬえさんと黄猿がめちゃくちゃにぶっ放してたそれには劣るが……再現の第一歩!! 取っ掛かりは掴んだ!! 見ろ!! この宙に浮くアーム!!!」

 

 レーザーを撃ち続けながら、クイーンは機嫌良く自身の発明の紹介をする。クイーンの傍らでふわふわと浮かび上がり、移動するそれはまさしく──ぬえのUFOの動きに酷似していた。

 

「長年、ぬえさんの協力を得てぬえさんのUFOを科学的に解析した結果──おれ様はその再現に成功した!!!」

 

「……!!」

 

 ルフィもそれはよく覚えている。2年前の頂上戦争では空を埋め尽くすほどのUFOの群れはレーザーを含む弾幕の雨が降る地獄であり、そのUFOを操るぬえの脅威は理解している。その唯一無二の力も。

 だがクイーンは同じ百獣海賊団としてカイドウとぬえに付き従ってきた古株。UFOを見た数も多く、ぬえの協力すら得ることが出来た。その長年の研究の成果こそが、たった一機のその浮遊するアーム。

 ルフィの拳を左手で難なく受け止めながら、クイーンはその成果を誇る。

 

「今はまだおれが操るしかねェこの一機が限界だが、いずれはより多くの浮遊する“絡繰兵器”を作り上げてやる!! それが叶った時には……お前の故郷の“東の海(イーストブルー)”で実験するのも良いかもなァ!!!

 

「……!! フザけんな!! そんなことはさせねェ!!! お前はここでおれがブッ倒す!!!」

 

「ムハハハ!! 出来もしねェことを言うもんじゃねェぜ!! ──“ブライダル熱拳(グラッパー)”!!!」

 

「!!? 熱ィ!!」

 

 故郷を実験場に使うという最悪なクイーンの言葉に激高したルフィが迫る。

 しかしクイーンは炎を纏わせたアームでルフィを殴るようにして攻撃し、ルフィは驚きながらもそれを防ぐ。拳で防いでしまったため、炎に触れて熱さに呻いた。

 

「休んでる暇はねェぞ!!!」

 

「……!!?」

 

 ルフィが熱さに耐えながらもクイーンの熱拳を防いでる間に、宙を移動するアームがルフィの横に移動し、ルフィ目掛けてレーザーを発射する。

 発射の予兆となる発射光を察して顔を背けて躱したルフィだが、そこにクイーンの右手に握った剣の刃が迫る。

 

「オラオラどうした!!? ジャックを退けた底力を見せてみろよ~~~!!!」

 

「ぐ……!! “ゴムゴムの”……!!」

 

「!」

 

 前進しながらの刃にアームにレーザーと攻撃の連続。クイーンの進撃にたまらず飛び退き掛けたルフィだが、そこで何とかこらえたルフィは前に出ることに成功する。両腕に覇気と力を込め、がら空きになったクイーンの腹に狙いを定めた。

 

「“獅子(レオ)・バズーカ”!!!」

 

「うおおお!!!」

 

 直撃。決して弱くない、ルフィの一撃がクイーンの腹に直撃し、クイーンを床に転がすことに成功する。

 それに巻き込まれたクイーンの部下が悲鳴を上げたが、クイーンはそれを無視して起き上がりながらルフィの攻撃力を精査する。

 

「……!! おいおい!! 痛ェがそんなもんかよ!! せっかく人獣モードで遊んでやってんだ!! もっと力を出してくれねェと張り合いがねェぜ!!!」

 

「ハァ……ハァ……!! まだだ……!! ()()()()()()……!!!」

 

「あァ?」

 

 ギア4を使っているにも拘わらず押され、攻撃を直撃させてもむしろこちらが消耗する状況の中、ルフィが呟いた言葉にクイーンは疑問符を頭に浮かべる。

 だが分かる筈もない。クイーンだけではない。ルフィもまた──新たな戦闘技術の確立のために、クイーンを利用していることに。

 

 そう、思い出すのは魚人島やこのパンクハザードで見て味わった……“武装色の覇気”の上位技術。

 

「これじゃねェ……!! お前らが使うそれは、もっと痛いハズだ……!!」

 

 既に味わった攻撃。今までの旅で見知ったその技術をより近くで感じた。

 まるで鎧のように──覇気を纏った攻撃が、より深いところに到達する感覚。

 百獣海賊団の“大看板”──ジャックやクイーンが体得し、使用しているその技術があれば、どれだけ硬い相手にもダメージを通すことが出来る筈だとルフィは思い至っている。

 これから先、百獣海賊団を含む四皇勢力を相手にし、それを倒していくためにはそれが必要だと。目の前のクイーンを倒すにはそれが必須だと。

 

「おれにも出来るハズだ……お前らのやってること……!!」

 

「あァ!? 何ブツブツ言ってんだ“麦わら”ァ!!」

 

 ルフィは思い出す。

 2年間の修行の日々。自分に修行をつけてくれたレイリーの言葉を。

 それによれば──覇気は実戦の極限状態にこそ更に開花する。

 ただ修行と稽古を繰り返すだけでは大きな成長は見込めない。特に意志の力である覇気は、より強い力と相対した時にこそ、その意志が問われる。

 

『強敵と向き合う程に……お前は──ますます強くなる!!!』

 

 レイリーはそう言っていた。だからルフィは疑うことなく、強敵と真正面から向かい合い、それを打ち倒すことを出来る限り目指す。

 時間はまだある──否、あってもクイーン相手に長期戦は不利でしかないが、手段を選べる時間はまだある。

 ならやはり、やるべき理想は……クイーンを真正面の戦闘で倒すことだ。

 

「おれはお前を超えていく……!!! お前がどれだけ強くても関係ねェ!!! おれは海賊王になる男だ!!!」

 

「……!! バカの一つ覚えみてェに何度も……!! そろそろ冗談じゃすまねェぞ……!! 海賊王になるのは──カイドウさんに決まってんだろうが若造!!!」

 

 敵は懸賞金19億超えの怪物。

 懸賞金は必ずしも強さを表すものではないとはいえ、ルフィとは実に14億分の差がある。

 だがルフィはその差をこの約2時間で埋めようという無謀な挑戦へ挑もうと、再びクイーンの放つレーザーの弾幕の中に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 ──パンクハザード第3研究所B棟。

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

「うあァアアアアアア!!! やめろ~~~!!!」

 

 幾つもの研究設備が建ち並ぶ工場のような通路に、悲鳴とも雄叫びともどちらとも取れる叫びが走り抜ける。

 だが走る彼らの背後を見れば、それが助けを求める類の悲鳴であることは一目瞭然だ。背後の収容所に繋がる連絡通路。並びにA棟に繋がる通路から次々に出てくるのはこの世の者とは思えない怪物達。

 

「ウオオオ!!」

 

「ブモ~~~!!」

 

「ゴキキ~~~!!!」

 

「ぎゃああああ~~~~!!?」

 

「やべェ!! 避けろ~~~~!!!」

 

 この島に収容されていた荒くれ者の囚人達が危険を感じ、注意を呼びかける声を発した直後──巨大な影がその場に凄まじい勢いで飛びかかる。

 

「うわああああ!!?」

 

「後続がやられた!!」

 

「また鬼が増えるぞ!!」

 

「放っとけ!! 足を止めるな!! おれ達まで鬼になるぞ!!」

 

 足を止めず、背後を首だけで確認する囚人達は、背後で鬼にやられた囚人達が同じように鬼になっていく様を確認してゾッとする。少しでも逃げ遅れれば怪物達のお仲間となり、囚人達を同じ鬼に引きずり込もうとする敵となる。

 そしてそれこそが収容所に放たれた“疫災のクイーン”製の疫災弾“氷鬼”の恐るべき症状だ。

 接触感染によって加速度的に感染者を増やし、パンクハザード内に未曾有の生物災害を引き起こしているそのウイルスの脅威に、囚人達もウソップ達も逃げるしかない。

 再び感染者を増やしながら追ってくる鬼達を見て、ウソップは思わず切羽詰まった泣き言を漏らした。

 

「チクショウ!! 普通の人間だけじゃなくて他の生物にも感染すんのかよ!!」

 

「ハァ……ハァ……そういうことだ……!! クイーン特製の氷鬼は感染する生物を選ばねェ……古代巨人族だろうがこの島で生まれた獣だろうが獣人薬で変異した化け物だろうが等しく氷鬼になっちまう……!!」

 

「そうなのか──って、何でお前がここにいるんだよ!!!」

 

 横から的確な解説が聞こえてきた事にウソップはやや遅れてツッコミを入れる。逃走するウソップの横で荒い息を吐きながら同様に逃げている男はウソップの知る男──ドクトル・ホグバックに違いなかった。

 

「ゼェ……ゼェ……クソ……!! 今のおれはシーザーの助手だ……この島にいるのは当然……だが、騒ぎに乗じて安全なところに逃げようと思ったのに……巻き込まれちまった……!!」

 

「何!? だ、だったらあの鬼の止め方分かんのか!!?」

 

「わからねェ」

 

「わからねェのかよ!! おい!!」

 

「仕方ねェだろう……!! おれはシーザーの助手であってクイーンの部下じゃねェ……!! ゼェ……ゼェ……分かるのは……アレに感染したら最後──死は免れねェって事だけだ……!!」

 

「……!! じゃあどうしようもねェってのかよ!!」

 

 ウソップは八つ当たりのように、誰に向けるでもなく叫ぶ。現状をどうにも出来ないこともそうだが、洗脳されていたせいとはいえ、チョッパーが放ったウイルスで人が大勢死んでしまうことがやるせなかった。

 仲間の為にも──それに今現在危険な自分の為にも背後の鬼をどうにかしたい。切実な問題を思いながらウソップは必死に走る。

 

「このままじゃキャプテ──R棟にまで連れていっちまうぞ!!」

 

「く、クイーンの奴なら抗体を持ってるだろうがな……とはいえ奪えるワケがねェし、感染しちまった連中は諦めるんだな…………そ、それよりお前らのどっちか、おれをおぶってくれねェか?」

 

「自分で走れ!!」

 

「こっちもいっぱいいっぱいなんだよ!!」

 

 ヴェルゴの身体を持つベポとウソップがホグバックの願いを無慈悲に突っぱねる。彼もまた、百獣海賊団に捕らえられ、従うしかなかった被害者といえば被害者だが非道な実験や研究に加担してきたことには違いない。自業自得だ。

 だがこのままではウソップ達もまた追い詰められる。B棟に入ってからは内部が更に入り組んではいるものの、最終的にはR棟を通って出口に向かうしかないし、他に行き場がない以上、鬼達もそれは同じ。仮にここである程度撒いたとしても無差別に生物を襲う性質上、生物の気配を感じて彼らは最終的にR棟に殺到するだろう。それまでに鬼達が死ねば助かるといえば助かるが……それはチョッパーの心に傷をつける事でもある。どうにかしてやりたい気持ちはある。

 

「ブモ~~~!!!」

 

「!? うおおお~~~!!?」

 

 ──しかし状況はそうも言ってられない。

 

 背後から牛の様な雄叫びと共に、猛スピードで金棒を振るってきた氷鬼──獄卒獣の攻撃をウソップは何とか飛び退くことで回避する。

 破壊された床を見て、パワーもスピードも他の氷鬼とは段違いだ。このままじゃマズいとウソップは獄卒獣目掛けて反撃のために狙いをつける。

 

「これでもくらえ!! 必殺!! “緑星”!!」

 

「!」

 

 ウソップが2年の修行期間で手に入れた不思議な植物の種。その1つを“黒カブト”で打ち出す。

 

「“ドクロ爆発草”!!!」

 

「!!?」

 

「うおおお~~!!?」

 

「爆発した!!?」

 

 獄卒獣の顔面に当たった種が爆発し、ドクロの形の爆煙を浮かび上がらせる。

 その威力は囚人達やベポも驚くほど。ウソップとしてもそれなりに威力の保証された技だと自信を持っていたが──

 

「ブ……ブモ~~!!!」

 

「げっ!!? ウソだろ!! 効いてねェのか!!?」

 

「当然だ……!! 氷鬼は感染者の力を極限まで引き出す……!! 感染者が強ければ強ェほどより強力な鬼になり……!! 止める術のねェ脅威となる……!! そんな爆薬が効くハズもねェ……!! ゼェ……ゼェ……」

 

 爆煙の中から特に怯むこともなく出てきた獄卒獣を見てウソップは驚く。

 だが氷鬼の効力だけは知っているホグバックからすればそれは当然の結果だった。氷鬼とは感染者の戦闘力を寿命と引き換えに引き出す効果もある。敵だけでなく、無能な味方に罹っても有益なクイーンの最高傑作の1つ。

 想定されたのは雑魚に対するものとはいえ、獄卒獣やナンバーズのような元々強い力を持つ者達に感染すればより強い鬼となることは分かりきったもの。

 

「ゴキキ!! ゴキキ~~~!!!」

 

「!!? ジャンプした!!?」

 

「金棒を振り上げてるぞ!! 退避しろ~~~!!!」

 

「あんなもん食らったら死んじまう!!」

 

「ぎゃあああ~~~~~!!!」

 

「逃げろ~~~~~~!!!」

 

 古代巨人族の戦闘員。ナンバーズの五鬼が機敏な動きで金棒を振り上げ、それをウソップ達を中心に囚人達を叩き潰そうと狙いをつけている。

 ウソップは力自慢ではないし、ヴェルゴの身体を持つとはいえベポもそれを受け止めることは到底無理だ。当然、選択肢は避けること以外ありえないが──相手は予想以上に速い。

 

「ぎゃああ~~!! 当たる~~!!」

 

「……!!」

 

 ウソップが全速力で走りながらも回避が間に合わないと察した。

 その直後、五鬼の金棒が振り下ろされる。

 

「!!!」

 

「…………え?」

 

「ゴキ!?」

 

 ガン、と金棒がウソップ──ではなく、見えない何かに当たって止められる。

 

「ゴキ!! ゴキキ~~!!」

 

「ブモ~~!!」

 

「ガルル……!!」

 

 だがそれだけではない。

 金棒が止められてしまった五鬼や非感染者を追いかけようとした獄卒獣や他の鬼達の攻撃も同様に、見えない壁に止められ、その壁を叩き壊そうとしていた。

 が、その壁はびくともしない。

 

「何だ……助かった……? 鬼達が止まって……?」

 

「おい!! 誰かいるぞ!!」

 

 ウソップ達もその不可思議な現象に頭に疑問符を浮かべるが、その正体はすぐに分かった。

 囚人達が指差す先、1人の男が腕をクロスさせ、人差し指と中指を絡めて見えない壁の前に立っている。

 ──だがその男は泣いていた。

 

「そ……狙撃の王様……!! ()()()()()先輩……!!」

 

「え!!? お前……何でその名を……!!」

 

「や、()()()()……!! お、おで……麦わらの一味の……ずっとパンで……!!」

 

「??」

 

 その男は泣きながら、癖のある口調で、何かを伝えようとしていたが、感極まった様子で上手く言葉を口に出来ない様子だった。ウソップは会話にならない相手の、しかし敵でもないような相手の言葉に更に疑問を覚える。

 だが男は構わず何かを伝えようとしていた。ボロボロに泣きながら、噛み噛みでウソップに対して感涙の理由とお願いを口にしようとする。

 

「こ、この場はおべが……なんどかすっから……!! ほいたらサイン……!!」

 

「ブモ~~~!!!」

 

「サイン一枚……」

 

「ゴキキ~~~!!!」

 

 しかし、見えない壁をガンガンと叩く鬼達の雄叫びに男の声はかき消される。

 瞬間──男は泣くのをやめてその反対……激しい怒りの表情を見せて、拳を振りかぶる。

 

「──うるさいっぺ!!!」

 

「!!!」

 

 男が拳でその見えない壁──バリアを殴りつけると、先程までびくともしていなかったバリアが五鬼や獄卒獣を含む鬼達に激突し、攻撃を押し返した。

 囚人達が驚愕するが、それは男にとってなんてことのない当然の結果だ。何しろそのバリアは男が生み出したものであり、それ以外がどんな力を加えようが壊すことも動かすことも出来ない無敵の盾。

 

「せっかくの神との遭遇に……いや、そもそもてめェら、誰を気安く狙ったっぺ……!!」

 

 指を結べばバリアが張れる。それが超人系(パラミシア)悪魔の実“バリバリの実”の能力。

 その能力者である男は新世界に入ったばかりの悪名高いイカれたルーキーであり……しかし、とある海賊を信仰する生粋のファン。

 

「“麦わらのルフィ”先輩は……いずれこの時代を背負って立つ未来の“海賊王”だべ!! その偉大な船員に手を出す奴は……!!」

 

 再び指でバリアを発生させ、彼は言い放つ。

 

『海賊“バルトクラブ”船長“人食いのバルトロメオ” 懸賞金1億5000万ベリー』

 

「このおらが許さねェっぺ!!!」

 

 

 

 

 

 ──パンクハザード研究所D棟。

 

 幾つもの研究設備があるパンクハザード第3研究所の中で、D棟中央にある工場は数年前より変わらない新世界の“闇”を司る最重要施設が存在する。

 現在のパンクハザードの所長であるシーザー・クラウンやその背後にいるドンキホーテファミリー。

 更にその背後にいる百獣海賊団。その彼らが重要視する人造悪魔の実“SMILE(スマイル)”の原料を製造する施設。

 その名を──“SAD製造室”と言った。

 

「──“ガスティーユ”!!!」

 

「! 避けろ!!」

 

 そして現在。SAD製造室では幾つもの狙いを持つ麦わらの一味とそれを防ごうとする者達との激しい戦闘が繰り広げられていた。

 百獣海賊団の“大看板”クイーンに防衛を命じられたシーザー・クラウンは口の中から極太のガスバーナーを発射して敵を消し飛ばそうとする。

 当たれば鉄すら溶かしてしまう科学の攻撃。世界でも有数の科学者であるシーザーの頭脳と自然(ロギア)系悪魔の実“ガスガスの実”の能力を用いた戦闘はただの科学者とは思えない一定の戦闘力を保持していた。

 

「せいっ!!」

 

「ぶべっ!!?」

 

 ──だがその攻撃は見聞色の覇気で予見した相手には当たらない。

 そこいらの海賊であれば正面からの戦闘でもシーザーは負けることはない。覇気を使えない者では自然(ロギア)系能力者にダメージを与えることは出来ないため、戦闘にすらならないものだ。

 しかし今シーザーが相手にしているのは“麦わらの一味”であり、その中でも新入りではあるが怪物並みの戦闘力を持つ元“王下七武海”──“海侠のジンベエ”。

 ジンベエは仲間に指示を出してシーザーの攻撃を躱させると、自身は前へ踏み込んでシーザーの顔面を拳で殴りつける。

 拳の形に顔面を歪め、無視出来ないダメージを受けてしまったシーザーだが、意外にもそれでKOされることはない。科学者にしてはタフという感想をジンベエが抱くが、倒すことが目的ではないため仲間に「今じゃ!!」と声を掛ける。その合図を聞いてフランキーとナミが海楼石の錠を手にシーザーに迫る。

 

「ぐ……クソ……!! ──PX0!! おれを守れ!!」

 

「……!! また……!!」

 

 だがそう簡単にシーザーを捕らえることは叶わない。

 シーザーが命令を告げるとこちらも元“王下七武海”──“暴君”バーソロミュー・くまが一瞬でシーザーの前へ現れ、意志を持たない瞳でその凶器たる掌の肉球をナミ達に向けてくる。

 その肉球はナミ達……2年前の崩壊を経験した麦わらの一味にとっては少なからずトラウマなものだ。今は既に乗り越えているとはいえ、その恐るべき能力は理解しているため背筋がゾッとする。ナミ達では躱すしか防ぐ方法がないことも。

 

「“四千枚瓦正拳”!!!」

 

「!!!」

 

 だが今回は躱す必要はなかった。

 ジンベエとくまの肉球が激突し、衝撃波が周囲に撒き散る。空気を弾く肉球の能力と空気中の水分を伝って衝撃を伝える魚人空手の真髄。どちらも王下七武海を務めていたほどの実力者の攻撃は、ジンベエが相手の能力分、僅かに下る結果となった。

 

「ジンベエさん!! 大丈夫ですか!?」

 

「むう……ニキュニキュの実の能力は単純じゃが強力でこれといった弱点がない。攻略が難しい能力じゃ……!!」

 

 ブルックに心配され、ジンベエはくまの実力に舌を巻く。意思を持たないサイボーグとなっても噂に聞いていた“暴君”としてのくまの強さは健在だった。

 同じ七武海同士。数の利もあって遅れをとることこそないが、純粋に倒そうとすれば困難な敵だ。

 加えてシーザーを捕らえる狙いもある。覇気を用いてダメージを与えることの出来る者がこの場にはジンベエしかいないため、その部分もまた彼らの苦戦する要素だった。

 

「畜生!! 情けねェ……!! 覇気が使えねェと触れることすら出来ねェってのは……!!」

 

「せめてサンジ君がいれば……」

 

 麦わらの一味の中で2年の修行を経て、覇気が使えるようになったのはルフィ、ゾロ、サンジの怪物三人組のみだ。

 ジンベエが新たに加わって4人になったとはいえ、サンジが敵の手に落ち、ゾロは強敵である飛び六胞を食い止めている最中で、ルフィもまた“大看板”に挑んでいる。

 

「ハァ……ハァ……くま……!!」

 

「…………」

 

 更に一時的な同盟を組んでいる“最悪の世代”の海賊、ジュエリー・ボニーがいるため、この場においては有利な状況だ。

 だが、かといって一方的に押し切れる戦力差ではない。今もシーザーは顔面から血を流し、くまも身体の各所に細かい傷を作りながらも戦闘に支障はない状態だ。

 もっとも、シーザーにとっては不利な状況であり、自業自得とはいえたまったものではない。理不尽すら感じて麦わらの一味に対して強い口調で文句を口にする。

 

「ゲホっ……!! クソ!! てめェら正気か!!? この島を襲うってことは百獣海賊団とビッグマム海賊団の同盟──“海賊帝国”に喧嘩を売ってんだぞ!!?」

 

「無論、百も承知じゃ」

 

「てめェ、ジンベエ!! 話を聞いてんのか!!? わかってたらそんな言葉が返ってくるハズもねェ!! 聞いてねェんだろ!! 真面目な話だ!! 聞きやがれ!!」

 

 シーザーの警告にも動じず、言葉を返すジンベエにシーザーは更に言葉を荒げる。必死になるのは今現在の状況が、麦わらの一味だけではなくシーザー自身にとっても危険な状況だからだ。

 

「このSAD製造工場を破壊し、おれを捕らえたところで火に油を注ぐだけだと気づけ!! 相手は“四皇”だぞ!! この新世界の──いや、今となっては世界中の闇を支配する伝説の怪物達!!! “カイドウ”!! “ビッグマム”!! “ぬえ”!! あの怪物共を怒らせたらどうなるか……!!」

 

「…………」

 

 身体を震わせながらシーザーは説得の言葉を必死に紡ぐ。彼の脳裏には大海賊時代以前よりこの新世界に君臨する化け物達が不気味な笑みを浮かべている──そのシルエットが浮かんでいた。

 考えるだけで、思い返すだけでぞっとする話だ。想像もしたくない。自分が彼らに捕らわれて破滅する様など。

 

「お前なら分かるだろうジンベエ!! 元七武海……!! あのイカれた海賊共……ドフラミンゴやテゾーロ、ハンコックやこのくまですらただの傘下に過ぎねェ!!! そいつらの何倍もイカれた化け物共が“四皇”だ!!!」

 

 その四皇が、四皇クラスの怪物が手を組み、君臨しているのが海賊帝国。世界を手中に収めんとする怪物達の帝国だ。

 それも同じ四皇に数えられる“赤髪”や“千両道化”とは訳が違う。純粋な実力も、保有する戦力も……それに何より、敵に回した時の恐ろしさも。

 

「喧嘩を売れば破滅だぞ!! 確実に死ぬ……!! いや、ただ死ぬだけじゃ済まさねェのがあの怪物共のやり方だ!!! ここでやり過ぎれば……おれもお前らも怪物共の餌にされる!!!」

 

 そう、シーザーは憶えている。

 2年前の頂上戦争後。百獣海賊団とビッグマム海賊団の同盟と戦争の勝利。とある2人の結婚も含め──それらを祝った大宴会に呼ばれた時にそれを垣間見たのだ。

 

「おれ達を倒しても意味ねェぞ!! 研究所内にもまだ怪物がいる!! クイーンだ!! お前らが挑んでも決して勝てやしねェ!! ササキやローもいるぞ!! あいつらも怪物だ!! そいつら全員を倒して生き延びることは出来ねェだろう!! なァおい!!!」

 

 シーザーは純粋な武人でもなければ戦闘に長けている訳でもないが、優れた頭脳を持ち、戦力比を計算することくらいは出来る。

 “大看板”が1人に飛び六胞が2人。それだけでも麦わらの一味やヴェルゴにモネ。囚人共が手に負える相手ではない。

 

「今ならまだ間に合うぞ!! ここで降伏すればそれなりに実力を見せたお前らは命までは取られねェ!! おれもここを守り通すことが出来て失敗を咎められねェ!! どちらにとっても利のある賢い選択だ!! そうだろ!!? ならどっちを選ぶか……賢いお前なら分かるハズだ!! ジンベエ!!!」

 

「……成程……確かに利がない選択ではないな」

 

「そうだろう!! なら降伏しろ!! そうすりゃあ──」

 

 ジンベエはシーザーのその口ぶりを完全には否定しなかった。ジンベエにも理解出来る。確かに、安全を買うだけならその選択は確かに賢いものだろうと。

 シーザーはジンベエの反応が悪くないものだと見て、笑みすら浮かべて降伏を促す。これ以上痛い思いはしたくないし、この切羽詰まった状況で命じられた仕事をこなせないなど考えただけで背筋が凍る。

 互いの為にもここで海賊帝国に弓引く行為は止めた方が良い。そう思い、シーザーは一度、攻撃をやめたところで──

 

「……そうじゃな。じゃが……悪いが既にその道は()()()()()

 

「!!? なっ……てめェ!!?」

 

 しかし、ジンベエはそれを拒否する。

 シーザーが目を見開く中、ジンベエは近づいてきた気配を感じて彼らに通告した。

 

「観念してもらおう。わしらには、わしらの目的がある」

 

「……!! そうかよ!! 魚野郎の頭脳に期待したのが間違いだったぜ!! ──おい、PX0!!」

 

「いや、もう()()()じゃ」

 

「何──」

 

 シーザーの言葉は最後まで紡がれなかった。

 

「!!!」

 

「は……!!?」

 

「……!! 不明なダメージを確認……行動不能……」

 

 瞬間、シーザーのガス状の身体とくまの特殊な合金の肉体が──真っ二つに分かたれる。

 シーザーはその結果の理由が分からず、答えを探した。ジンベエではない。他の麦わらの一味でもボニーでもない。完全に認識外からの不意の一撃。

 だがガス状の身体が元に戻らない。この能力は──と答えに至りかけた時、シーザーは耳でそれを聞いた。

 

「“ラジオナイフ”」

 

「……!! そうか……本当の裏切り者はてめェ──ウブッ!!?

 

 その言葉を最後に、海楼石の錠を掛けられ、シーザーは力が入らずに捕らえられる。

 くまもまた、身体が切り刻まれたことで行動不能に陥る。本物のくまの意思を未だ持っていれば、その状態でも的確な行動が取れただろうが──意思を持たない人工頭脳のくまにとって、その能力の最適解を咄嗟に出すことは難しかった。

 そしてそれすら計算していたからこそ、不意打ちに全力を込めたその刺客は、刀を収めてジンベエ達に話しかける。

 

「悪い。映像電伝虫と部下の処理に手間取った」

 

「いや、問題ない。助かった。出来ればお前さんが来る前に片付けておきたかったがのう……トラファルガー・ロー」

 

「…………」

 

 ジンベエ達はシーザーとくまに不意打ちを食らわせた相手──飛び六胞のトラファルガー・ローを見て、ようやく気を落ち着かせる。

 なぜかボニーだけはくまを切り刻んだローを見て、微妙な表情を向けていたものの、結局は何も言うことはない。彼女が視線をくまに向けている間に、麦わらの一味とローは軽いやり取りを行う。

 

「結局時間稼ぎになっちまったな」

 

「後は工場を壊して逃げるだけかしら」

 

「ああ……まだある程度、連中の目を誤魔化す必要はあるがな。とりあえず、お前達の仲間は捕まえて船に放り込んでおいた……麦わら屋はどうした?」

 

「ああ。それが……」

 

 作戦終了まで残り約1時間。それまでに後やるべきことを質問する麦わらの一味に、それに答えるロー。

 だがそのローの視界の中にルフィがいないことに気づき、ローは居場所を尋ねる。ジンベエは頭を掻きながら、少々バツが悪そうにそれを伝えた。

 するとローは一瞬呆気に取られた後──表情を一変させて勝手な行動に憤慨した。

 

「あの野郎!! 勝手なことしやがって!! あれほどクイーンとは戦うなって言っただろうが!!」

 

「むう……すまん」

 

「クソ……だが仕方ねェ……おれが隙を見て麦わら屋を捕まえてくるからお前らは先にR棟の出口に迎え。後1時間以内にだ」

 

「ええ、わかったわ!!」

 

「急げ。自爆装置のタイマーを入れた。最初に説明した通り、作戦終了時刻を過ぎても研究所に残ってる奴には命の保証は出来ねェ!!」

 

 それだけ口にすると、ローは再び“ROOM”を張り、SAD製造室から移動する。

 既にR棟に出張っていたクイーンの部下達はローが気絶させ、自由に出入りが可能。シーザーとくま。そして麦わらの一味の仲間を捕らえ、工場の破壊も直に終わる。

 後は──“飛び六胞”のササキと“大看板”のクイーン。ローもその処理に悩む古代の王者達と、それに相対する者達をどうにかするだけだ。

 だが、それもまた簡単にはいかないだろうとジンベエは思う。

 

(……日中に手合わせした時も思ったが……トラファルガー・ローの実力は2年前と比べると驚異的に高まっておる。不意打ちとはいえ一撃でシーザーとくまを同時に倒すとは……これが“飛び六胞”のレベルじゃとすると……)

 

 ルフィにゾロもまた、2年の修行で飛躍的に実力が向上した2人だ。恐らく大看板のクイーンを相手にしているルフィはともかく、飛び六胞ならゾロならどうにかすると思っていたが……もしかしたらどちらも苦戦は免れないかもしれない。

 乗り越えることを信じつつも、ジンベエの胸のざわつきは収まってくれなかった。

 

 

 

 

 

 ──パンクハザード研究所B棟。

 

 ウソップ達が囚人達を引き連れて移動している位置から更に奥。左に位置するその場所はゾロを含めた3人の剣士が“飛び六胞”のササキと相対しているところだった。

 だがその空気は……否、正確にはゾロを除く2人の剣士、“侍”の間には異様な空気が流れていた。

 

「お久し振りです……!! 日和様……!!」

 

「…………()()……」

 

「? 日和様……?」

 

「……?」

 

 光月日和と“狐火の錦えもん”。互いに知り合い──ゾロから見てもお互いの反応や話を聞くにそれは間違いない。錦えもんの方は日和と会えたことに感涙しているし、先程ササキが日和に向かって言っていた事も、総合するに百獣海賊団が滅ぼしたと噂のワノ国の関係者なのだろうと。

 そしてその見解は間違いではない。日和と錦えもんは間違いなく知り合いで、それも大名の娘とその大名に仕えていた侍という浅からぬ仲だ。

 ゆえにこそ20年振りの再会に相応しい反応を見せたのは錦えもんの方だ。錦えもんの認識としても、第三者であるゾロから見てもそうだと思われる。

 だが……日和から見れば、それは違った。

 

「日和様……? 一体どうし──」

 

「──今更!! 何をしに来たというのですか!!? 錦えもん!!!」

 

「!!? え……!!?」

 

 激高。錦えもんの恐る恐るの問いに、被せるようにして返ってきた答えはそれだった。

 突然の日和の怒りに満ちた言葉。それに錦えもんは面食らい、戸惑いを見せる。一体なぜ日和が怒っているのか、錦えもんには分からない。その理由が、見当つかない。

 だが少し、やや考えて推測する。推測し、その理由が怒って然るべき理由だということを認識すると、錦えもんは敵と相対している最中ではあるものの、床に額をぶつけて謝罪する。ワノ国が発祥の謝罪方法。いわゆる土下座で。

 

「……!! 申し訳ありませぬ!! 日和様!! 長らく……長らくお待たせしてしまいました!!!」

 

「!」

 

「日和様のお怒り……ご尤も!! 20年もの間、ワノ国から逐電の如く、行方を晦ませておった次第!!」

 

 錦えもんは心の底から謝る。

 おそらく心細かったであろう。寂しかったであろう。最後に別れた時、日和はまだ幼かった。なぜ家臣の半数以上が突然いなくなったのか、よく理解出来なかったであろう。突然の悲劇を受け止めきれなかったであろう。

 後に残った家臣にそれを説明されようとも、ずっとしこりが残っていたのかもしれない。そしてそれを突然返ってきた家臣にぶつけるのも当然だろうと。

 だがそれでも──

 

「しかし、恥を忍んで戻って参りました!! その理由は日和様もおそらくご存知の通り……!! 今はまだ、こんな場所ゆえ口にすること叶いませんが──我らが為すべき務めを果たしに戻って来た次第!!!」

 

「……!!」

 

 それでも……やらねばならない使命がある。

 ゆえに許しを請う。きっと、立派に成長したこの方であれば分かってくれるだろうと。

 

「しかしここで再会出来たのは望外の喜び……!! 果たすべき使命はあれど……我ら“赤鞘九人男”……あなたを死んでもお守り──」

 

 錦えもんは誓う。今度こそ、主君を守り通してみせると。

 今度は死に場所を失いはしない。死んでも願いを果たし、誓いを守ると。

 だが、()()()()()──

 

「──黙りなさい!!!」

 

「!!?」

 

 ──彼女はそれを許すことが出来ない。

 一喝。錦えもんの侍としての誓いに、日和は怒りを覚える。

 否、それを通り越して憎しみすら滲ませて、鬼気迫った悲しい表情を浮かべる。

 

「あなたは……あなた達は……!! まだ、そんな……そんなことを……!!!」

 

「日和……様……?」

 

 感情が強すぎて、思いを言葉にすることに苦労する。そんな日和の様子に、錦えもんは驚くしかない。

 いや、正直に言えば困惑してしまっていた。なぜ日和がこんな、怒りと悲しみがないまぜになった様な表情でこちらを見るのか分からないのだ。

 その思いが身体に表れてしまったのだろう。錦えもんは床に片膝をつけたまま、両手を広げて日和に「何故」と問いかけるように近寄ろうとする。だが、

 

「!!? ──触るな!!!」

 

「う!!」

 

 その手を日和は思い切り拒絶する。

 日和にその手を思い切り叩かれ、錦えもんの手の甲がじんと疼いた。大した痛みではない……が、それ以上に心に対する衝撃は強かった。

 

「何が……何が為すべき事……!! 何が待たせて申し訳ない……!! 知ったような口を……!! 今更……どの口で私を守るなどと……!!」

 

「ひ、日和様……せ、拙者が何か無礼を……機嫌を損ねさせてしまったのであれば──」

 

 錦えもんの言葉。そのどれもが日和の心には逆の意味で響く。

 最初は悲しみ。そしてそれが引いて、怒り。

 

「……錦えもん」

 

「! は……はっ!!」

 

 理由は分からず。しかし何か地雷を踏んでしまったことに気づいた錦えもんが謝ろうとするものの、日和に呼びかけられて臣下として返事をする錦えもん。

 今度の表情は打って変わって能面のような、冷たい表情だった。悲しみは見えない。だが、その奥底に強い感情を秘めた表情で。

 

「そんなに私の助けになりたいというなら……金輪際──私に関わらないで下さい

 

「なっ……!!? そ、それは……!!」

 

 信じられない命令を聞く。

 錦えもんは先程から驚愕しきりだが、今度もまた胸に衝撃が来た。日和の命令は、自分達家臣を徹底的に遠ざけようとし、その使命を否定するもので。

 

「それと、あなた達が果たそうとしていた使命……父上の願いについても……もはや果たす必要はありません。全て不要です。全てを捨ててどこか辺境の島でもどこでも構いません。私の目が絶対に届かない場所に消え失せなさい」

 

「お……お待ち下さい!!! そんな……そんなこと!! 如何に日和様の命令と言えど、聞く訳には……!!!」

 

「……父の無茶な命令をあれだけ聞いておいて……私の命令を聞く忠義は持ち合わせていないと?」

 

「……!! ……恐れながら……言いたくはありませぬが……」

 

 苦悶の表情を伏せながら錦えもんは亡き主君の一人娘に告げる。

 確かに侍は家に仕えるもの。侍の忠義。武士道を貫くなら、日和の命令は聞いて然るべきだとも言えるし、たとえそんなものがなくても、少なくとも錦えもんとしては可能な限り、日和の希望には沿いたい。

 だが……それでも亡き主君よりは優先順位は下だ。言葉を選ばずに言えば、彼ら“赤鞘九人男”は亡き主君である“光月おでん”に仕えていたのであって“光月家”に仕えていたのではない。

 形として光月に仕えていたとしても、本音としては皆“おでん様”に仕えているのだ。無論、その家の縁者も尊重するし、仕えるつもりもあるが……その思いもまた、おでんの願いより優先すべきものではない。

 しかしかといって錦えもんは日和や……その兄であるモモの助を蔑ろにするつもりもない。おでんの命に反する願いを言いつけられても、可能な限り対話で説得したいと思うし、それは可能だとも思っている。

 なぜならおでんの願いを死んでも果たすのは自分達“赤鞘九人男”だけ。貴人であり、復興したワノ国を引っ張っていくのに必要なおでんの忘れ形見である2人は、危険な目に遭わすつもりも死なせるつもりもないのだから。モモの助がどれだけ怖がったとしても、絶対に守り切って生かすと心に決めている。

 それは赤鞘の侍達にとって共通認識である。残っている同志達も同様の筈だと錦えもんは見ていた。

 ──だがそれは()()()()()()()()

 

「……ならば私に関わらないという願いだけは聞けますね? 父の願いと私の願いは関係ありません。私に関わらずとも願いは果たせるでしょう」

 

「いえ!! 日和様を放置するなど……!! お父上の願いのその先には、日和様が必要です……!! 命をお守りするためにも、関わらないという願いを聞く訳には……!!」

 

「……私に仕えている訳ではない。私の願いを聞くつもりもない。だというのに私に付き纏うつもりでいる……と?」

 

「付き纏うのではなく!! お守りすると申しておりまする!!」

 

「……成程」

 

 錦えもんが日和の反感を承知で言い切ると日和は息を吐いた。

 先程までの感情に満ちた表情は消え、まるで人形のように冷たい表情のまま、錦えもんを上から見据え、日和は告げる。声もまた、冷たい声で。

 

「……全く……いつまでも亡き主君の願いに縛られ、今を生きる主君の忘れ形見の願いは聞くつもりもないとは……」

 

 言う。侮蔑の色を込めて。

 

「まるで少し前にオロチが言っていたような……亡霊ですね

 

「……!!」

 

 光月家の亡霊。

 20年後に現れるという今は亡きオロチが部下に語っていたその例えを、日和は敢えて用いて言葉にする。

 錦えもんの表情が歪んだ。苦しそうに。その言葉に対して何かを言うことも出来ず、ただ黙って日和の変わりきった態度を耐える。無言を貫く。それを黙って聞いていたゾロもまた、何かを言うことはない。

 だが沈黙を破ったのはそれを聞いていたもう1人。

 

「くくく……そろそろ茶番は終わりか?」

 

「!」

 

 事情を知る飛び六胞のササキは、くつくつと面白い見世物を見たという風に笑い、3人に対して殺気をぶつける。

 

「ワノ国の歴史には興味はねェが……中々面白い見世物だったぜ。なァ小紫……赤鞘の侍……!!」

 

「見世物だと……!!?」

 

 怒りを見せて反応する錦えもん。それを更に不敵な笑みで返しながらササキは言う。

 

「ああ。お前ら2人の道化っぷりは悪くなかったぜ……!! くく……だがそろそろお開きだ。3人を相手にするのは手間だが、見逃す選択肢はねェ。3人まとめてここで潰してやるよ……!!!」

 

「……!! (この者……出来る……!! 日和様を守りながら戦うのは少々……!!) ──日和様!!

 

「!!? 何を!!」

 

 ササキが覇気を角を含めた顔や首のフリルに纏った瞬間、錦えもんの判断は速かった。即座に日和の身体を抱え、その場から脱しようと駆け出す。

 

「失礼します日和様!!」

 

「錦えもん!! 離しなさい!! 私に関わるなと言っています!!」

 

「申し訳ありません!!」

 

「……!! この……!!」

 

 抱えられた日和は錦えもんに再び怒りを見せ、放すように命令するが錦えもんは耳を貸さない。何にせよ、まずはこの場から脱して落ち着いた場所で話すべきだと判断した。

 そして日和は錦えもんから逃れようと暴れるものの、身体能力が本来の自分の肉体より劣っているのもあって上手く逃れることが出来ず、結果として錦えもんと共にササキから離れていく。

 

「おいおい……おれに背中を見せるとは……そんな逃げ足じゃこのおれからは逃げられねェぜ!!!」

 

「!!?」

 

 ──が、それを見逃すササキではない。

 ササキは再び首のフリルを回転させ、速度を上げて錦えもんと日和に狙いをつける。ササキの人獣型の巨体とパワー。硬さとスピード。加えて覇気の強さがあればまとめて2人を轢き殺す事は訳ない。そもそも百獣海賊団の飛び六胞──それも大看板を目指すのであれば、多少数で負けていようが不利だろうが逃げることはありえない。

 ゆえに3人まとめて掛かってきても倒すつもりではあったが、背中を見せてくれるなら好都合だとササキは踏み込む。単純な突進もササキの手に掛かれば必殺の一撃となる。

 そして錦えもんがそのササキの能力を見誤り、高速で飛来するササキに危険を感じた直後──

 

「──おれを無視すんじゃねェよ、トリケラ野郎」

 

「!!」

 

 ──ササキと錦えもんらの間に躍り出て、突進を刀で受け止めたのはゾロだった。

 腕に力を込め、汗を掻く。振り返る余裕はなく、しかしそれで十分だとゾロは背後の侍に声を掛ける。

 

「おい、ワノ国の侍」

 

「むっ……お主も侍……か?」

 

「いいや、侍じゃねェが……剣士で──海賊だ。悪いが、その女は今ウチと同盟を組んでる協力者でな。今は戦えねェようだから先に連れていっちゃくれねェか?」

 

「何と!! 貴様、海賊であったか!! 道理で野蛮そうな顔つきでござる!! 拙者、海賊は吐くほど嫌い!! そんな輩の頼みなど……!!」

 

 錦えもんは海賊と聞いて憤慨する。彼にとって海賊は一部の例外を除いて仇とも言える忌むべき存在だ。ゆえにゾロを敵視するが……構わずゾロは告げる。

 

「R棟ってとこの先が出口だ。逃げるならそこ以外ねェらしい。その女にも伝えてある」

 

「何を……!! 貴様の言うことなど信用出来るか!!」

 

「信じるか信じねェかは勝手だが……まァいい。とにかくそいつ連れて逃げろ。こいつはおれが仕留めておいてやるからよ……!!!」

 

「!!」

 

 錦えもんはゾロのその背中。いや、その全身──特に刀から湧き出る流桜に目を見開く。

 

(何と荒々しい気……!! それにこの男の風貌……侍ではないと言っていたが、()()()()()……!!)

 

 海賊は信用出来ない錦えもんだが、ゾロの剣の腕は確かで、どうやら嘘を言っている様子もない。

 それに錦えもんも知る誰かにどこか似ているともあって、錦えもんは不思議と二の句をしばらく継げなかった。ややあって、その言葉を吟味し、ゆっくりと判断を言の葉に乗せる。

 

「……ふん……!! 貴様に言われずとも、このお方は拙者の大切なお方……!! 安全な場所に連れて行く……!!」

 

「そうしろ……!! こいつはおれの獲物だ……!! その方が気が散らずに助かる……!!!」

 

「…………行きましょう!! 日和様!!」

 

「待ちなさい!! 何を勝手な……!!」

 

 ゾロの言葉を無言で受け止め、錦えもんは日和を抱えて奥に向かって走り出す。日和は怒っていたものの、錦えもんの腕から逃れることが出来ずに為されるがまま、その場から脱することになる。

 そして残ったのはゾロとササキの2人のみ。

 

「おい、どけ!! あの2人は死ななきゃならねェ連中だ!!!」

 

「だったらどかしてみな……!! ご自慢の突進で……な!!!」

 

「!!?」

 

 ゾロの三刀流と鍔迫り合いの力比べをしていたササキは、突如としてパワーが増して顔面をかち上げられたことに驚愕し、追撃を受けないように僅かに下がって体勢を立て直す。

 

「……!! (こいつ……急に力が……!!)」

 

「お前の能力なら飛んで追いかけることも出来るだろうが……お前と同じで、()()()()()背を向けることはおすすめしねェな……!!」

 

「……!! どうやらそうみてェだな……!!」

 

 そしてここに来て、圧力を増したゾロの迫力にササキはその評価を上方修正する。

 赤鞘の侍の生き残りに日和。その2人もそれなりの強さだが、この男はその2人よりもおそらく強く、厄介だと。

 つまりあの2人よりもゾロ1人を逃がす方が厄介だということだ。こいつをここで逃せば、いずれより強くなって百獣海賊団に被害を与えるかもしれない。

 加えてこの男をここで倒して捕まえれば、いずれは百獣海賊団の有益な戦力となることもありえる上、そうなればササキの手柄にもなり得る。

 どちらにしてもササキにとっては利となるものだ。ここでゾロを倒すことは。

 

「船長でもねェのに“最悪の世代”に数えられてるだけはある……!! お前をカイドウさんの下に連れてけば、良い戦力になりそうだ……!!」

 

「そいつはお前がおれを倒して連れて行ければの話だろ。……もっとも、連れて行ったところでおれを従わせられるとは思えねェが……!!!」

 

「言ってろ……!! お前はまだトリケラトプスの真の怖さを知らねェ……!! 見せてやる!! 他のどんな恐竜も敵わねェ──実在した“最強生物”の力!!!」

 

「来い!!!」

 

 ササキが絡繰螺旋刀を振るい、ゾロも三刀流をぶつけて張り合う。

 力と力。そして……覇気と覇気。

 ゾロはその部分にこそ、この戦いに1人で挑む理由があるとより一層の気合を入れる。

 何しろ今の自分はまだ劣っているのだ。魚人島で四皇の部下でしかないジャックと戦い、この島で目の前のササキと相対し、それを理解した。

 

(おれはまだまだ強くなる……!! この程度の相手で足踏みしてられねェ!!!)

 

 窮地にこそ力は開花する。そのためには、周囲の力を借りて戦うのではなく、自分1人の力と技で強敵を打倒する必要がある。

 それで負ければ自分はそこまでの男。これに勝ちきれないようじゃ、“四皇”に挑むのも“世界一”も夢のまた夢。

 2年の修行を経て、下地は手に入れた。後は自分がどこまで昇れるかだ。

 だからこそ一対一で相手を倒す。2年前よりずっと変わらないゾロの行動原理を以て、ゾロは四皇幹部との戦いに挑んだ。

 

 

 

 

 

 ──パンクハザード研究所C棟。

 

 そこは現在のパンクハザード島の中で、最も激しい戦闘の音が鳴り響く場所だ。

 

「ムハハハ!! どうした麦わらァ~~!!?」

 

「……!!」

 

 レーザーの発射音に硬い金属同士がぶつかり合う音。爆発音に炸裂音。

 それらを鳴らしているのは百獣海賊団の大看板“疫災のクイーン”であり、その音の元となる攻撃を受けているのは“麦わらのルフィ”。

 ルフィがギア4を使用したことで多少なりともクイーンにダメージを与え、その余波で研究所C棟内はあちこちで火花が散り、爆煙が立ち込め、壁や床に破壊の跡が残る惨状となっている。

 ──だがそれでも、勝っているのはクイーンだ。

 

「“風来拳(ブライパン)”!!!」

 

「う!!」

 

 クイーンが各種アームを駆使した拳撃の嵐をルフィに見舞う。その拳は重い。クイーンの重量とパワーが乗ったパンチは鋼鉄を容易にひしゃげさせ、人体を破壊する。

 打撃に耐性を持つルフィとはいえ、覇気を用いられればダメージは免れないが……それでもルフィがギア4状態であれば受けることは叶った。

 だが既にギア4には時間制限が訪れ、変身は解かれている。今は10分間の覇気の使用が出来ない状態であり、ルフィは回避と逃げに徹していた。

 

「オラオラ!! 逃さねェぜ~~~!!!」

 

「!!!」

 

 しかしそれを許すほどクイーンは甘くない。

 研究所C棟内を走り回り、結果的に破壊を撒き散らしたが、それだけだ。戦場が変わっただけで追い詰められていることには変わらず、ルフィはクイーンの拳を受けて壁に激突する。

 ギア4が使えないだけでなく、覇気も使用出来ず、為す術がない。そんな無様を晒すルフィを見てクイーンは笑った。

 

「ムハハハハ!!! さっきのは面白ェ技だったが……時間制限付きのパワーアップじゃあなァ!! おれを倒すには時間が足りないんじゃねェか!!?」

 

「……!! ゼェ……ゼェ……くそ……逃げられねェ……!!」

 

 遠距離からも攻撃が可能なクイーンの身体に仕込んだ兵器群に加え、丸々太った体躯にしては機敏な動きから逃げることが出来ないとルフィは息を荒くしながらクイーンの厄介さを思う。

 選択肢が1つしかないのが厳しい。クイーンを相手にするのはどうしても覇気が必要だし、ギア4だって必要だ。

 だがギア4一度の使用ではクイーンの体力を削り切ることは出来ない。魚人島で戦ったジャックと同様に、クイーンのタフさは人外の域に達していた。

 

「戦闘で重要なのは時間と数だぜ、麦わらァ!! さっきの戦闘力がずっと維持出来るならまだしも、そんな休み休みの戦闘じゃあどれだけ経ってもおれを倒すことは出来ねェなァ!!!」

 

「……!!」

 

 再度のレーザー攻撃の連続。距離を取っても決して休まることのない怒涛の攻めにルフィは喋る余裕すらない。

 反対にクイーンは未だ喋り、相手を嘲笑う余裕がある。クイーン自身が語るように、ルフィが休み休みでギア4を使用し続けたところでクイーンの体力は決して尽きることはない。

 動物(ゾオン)系古代種の売りは通常の動物(ゾオン)系を凌駕する圧倒的なパワーとタフネスであり、後者のタフネスの中には回復力も含まれており、だからこそルフィの10分間の休みはクイーンにとっても回復の時間となってしまう。

 必要なのは継続的なダメージ。あるいは圧倒的な──それこそ四皇クラスの攻撃力だ。それがあればクイーンをダウンさせることは出来る。

 だがそれでも体力が尽きることと同義ではない。一撃で体力を大きく削るような攻撃を食らってダウンすることはあれど、その程度のダメージならクイーンは数分もあれば立ち上がることが出来る。たとえ四皇であっても“大看板”を倒すなら多少の時間と攻撃が──手間が必要だ。

 それでも四皇なら苦戦することはないが……“最悪の世代”のような新世界に入りたてのルーキーに倒せるほど甘くはない。

 

「“ブライ~~~~ンド”!! “捕獲(キャプチャー)”!!!」

 

「うわ!!?」

 

 クイーンの兵器を何とか回避するために横っ飛びし、転がるようにして躱すことに成功したルフィの頭上から、クイーンの浮遊アームがルフィの頭と顔を捕らえて覆い隠す。

 クイーンの上司であるぬえが言うところの“UFOキャッチャー”のように拘束されたルフィは空中でジタバタと暴れるが、抜け出すことは出来ない。その間にクイーンはルフィとの距離を詰め、左腕のアームでルフィの身体を掴む。

 

「ムハハ!! 麦わらァ!! 空島の絶滅種!! “排撃貝(リジェクトダイアル)”を知ってるか!!? これはその10倍の威力を持つおれ様の最高傑作の1つ!!!」

 

「!!?」

 

 聞き覚えのある単語。それも信じ難い言葉の羅列にルフィの表情が驚愕と焦りで歪む。

 だがそれは事実だ。クイーンの左腕に仕込んであるその兵器はかつて、百獣海賊団が空島を探索した際に見つけた絶滅種“排撃貝(リジェクトダイアル)”。それを利用し、クイーンが改造したもの。

 “衝撃貝(インパクトダイアル)”の10倍のエネルギーを持ち、常人が放てば使用者の命まで奪うほどの反動を持つその兵器だが、クイーンの身体能力であれば反動は問題にならない。

 だが“排撃貝(リジェクトダイアル)”の威力そのままではまだ不十分だと考えたクイーンは、その衝撃をより密度を高めて圧縮し、撃ち出すように改造した。

 

「“ブラ~~~~ンニュ~~~”!!!」

 

 その兵器の開発には発案としてぬえが関わり、使用された科学技術は2年前に発見した古代の技術や、鹵獲したパシフィスタに詰め込まれたベガパンクの技術も利用されている。

 

「“(ビッグ)”!!」

 

 それにより撃ち出すのは空気の弾。それを“排撃貝”のエネルギーを利用して、一点に放つ。

 そして奇しくもそれは、麦わらの一味の“鉄人”フランキーが開発した“風来砲”や“将軍砲”“ガオン砲”に近い設計である。

 

「“排撃(リジェクト)”!!」

 

 だがその威力はフランキーのそれの比ではなく──立ち塞がる何もかもを破壊した。

 

「“(キャノン)”!!!」

 

「!!!」

 

 パンクハザード研究所が激震する。

 クイーンのその一撃はルフィに白目を剥かせ、背後の壁を粉砕し、研究所の外の木々まで薙ぎ倒し……研究所全体に鳴り響くほどの振動を伝えた。

 

「何だ!!? 地震!!?」

 

「爆発でも起きたのか……!!?」

 

「何だか分からねェがヤバそうだ。R棟に急ぐぞ!!」

 

 ──B棟やD棟にもその衝撃は届き、ルフィの仲間達や囚人を焦らせる。

 よもや戦闘音。それもクイーンの兵器がルフィ目掛けて放たれた音とは誰も思わない。

 

「く、クイーン様!! 今のクイーン様の攻撃で、研究所内がメチャクチャに……!!」

 

「ムハハ……!! そんなもんはどうにでもなる!! それより見たか!!? おれ様の傑作兵器の威力!!」

 

「え、ええ!! 見ました!!」

 

「凄ェだろう!! 麦わらは木っ端微塵になっちまったかもしれねェが……まあそれはしょうがねェ。後は麦わらの仲間を──」

 

 報告に現れたクイーンの部下達は、研究所に穴を空けたクイーンの兵器の威力に戦慄する。あんな、建物どころかちょっとした城ですら一撃で破壊するような兵器。人間に向けて放つものではないことは明らかだ。

 だがクイーンは嬉々としてそれを放ち、多くの物を破壊することが出来た結果を楽しみ、自慢する。

 クイーンもクイーンの部下も、これで麦わらのルフィは死んだか、あるいはダウンしたと思った。次は麦わらの一味を順番に捕らえていこうとクイーンが背を向けようとする。

 だが──

 

「待て……!!」

 

「!」

 

 研究所に出来た穴の前。破壊の戦塵の中から“麦わらのルフィ”は……ボロボロになりながらも立ち上がって見せる。

 

「うお!!? 生きてやがったぞあの野郎!!」

 

「化け物か!!?」

 

「ムハハ……何だ、まだ生きてやがったか!! さすがだ!! 褒めてやるぜ!!」

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 血を流し、肩で息をしながらも立ち上がってみせたルフィにクイーンの部下達は口を大開きにして驚き、クイーンは驚きはしたもののその結果を喜ぶ。生きているのならそれはそれで良い。ぬえさんに良い報告が出来ると。

 

「だがもう戦うことは出来ねェだろう!!? ムハハ!! そのザマじゃ、おれを倒すことも仲間を救うことも出来ねェなァ!! 抗体を奪って鬼になった奴らを救うことも出来ねェ!!」

 

 そう、この状態のルフィがクイーンに勝つことは不可能。

 そのことはクイーンも、ルフィ自身でさえ分かっている。

 覇気は未だ開花せず。そして、体力も限界に近い。

 

「もはやおれが戦うまでもねェよなァ!!? おい、野郎共!! 麦わらを捕まえろ!!」

 

「ウオ~~!! 了解だぜ!! クイーン様!!」

 

「観念しろ麦わらァ!! ──ん?」

 

 ゆえにもはや戦闘を楽しむことすら出来ないだろうとクイーンは判断し、部下に命令してルフィを捕らえるように告げる。クイーンの部下達が武器を取って一斉にルフィに向かって殺到した。

 ──が、その彼らはルフィの背後の穴……クイーンが開けた穴から迷い込んできた影を見て、血相を変える。

 

「グルル……!!」

 

「げ……!! こ、氷鬼!!?」

 

「とうとうこっちのフロアまで来やがった!!」

 

「クイーンさん!! あれじゃ近づいたらおれ達までやられちまう!!」

 

 そう、現れたのは氷鬼になった囚人の群れ。鬼になっていない者を探して研究所内を徘徊していた鬼の1人が、クイーンの空けた穴を通ってルフィの背後に現れた。

 視界の中にそれを見たクイーンの部下達は途端に二の足を踏む。ボロボロのルフィは恐れずとも、クイーンの製作した“疫災弾”の恐ろしさは誰もが知っているため、クイーンに命令の撤回を頼んだ。

 

「……(別にこいつら雑魚共なら死んでも構わねェが……まあ今はいいだろう)……ムハハ!! ならここで待て!! ここで見てりゃあ氷鬼は距離の近い麦わらを狙う!! それから逃げてこっちに来る麦わらと氷鬼を狙え!! 動く力が残ってんならこっちに来るしかねェハズだ!!」

 

「成程……了解です!! クイーン様!!」

 

 クイーンが頭の中で計算を終え、指示を出すと部下達が武器を構える。近づいてきた者から攻撃すればいい。周囲を無差別に襲う氷鬼でもそうだし、麦わらでも逃げようとするならこちらに来るしかないのだ。

 

「さあどうする麦わら!! 氷鬼に感染しちまったら助かる道はねェ!! こっちに来れば一思いに引導を渡してやるぜ!!?」

 

「ハァ……ハァ……ああ……そうだな……このままじゃ……ダメだ」

 

 クイーンが選択をルフィに突きつける。どちらを選んでも地獄。氷鬼にやられるか、クイーンにやられるか。道は2つに1つしかない。

 しかしルフィはまだ……勝利を諦めてはいなかった。道を選び取ったルフィは迷わずそちらへ赴く。

 

「ムハハ!! まだ動く力があったか!! 氷鬼から逃げ──って、え~~~~~!!?」

 

「飛び込んだァ!!?」

 

 ゆえに選び取った道を見て、クイーン達が大仰に驚く。

 動く力が残っているのならこちらに来ると思っていたクイーン達の予想に反して──ルフィは氷鬼の群れの中に飛び込んだ。

 

「馬鹿なのか!!?」

 

「イカれてやがる!!」

 

「これで死亡確定だぞあいつ!!」

 

 クイーンの部下達が口々にルフィの選択を愚かだと恐れる。愚かすぎていっそ恐怖すら覚える光景だ。

 氷鬼の群れに飛び込んだルフィは当然、氷鬼達に噛みつかれ、瞬く間に感染してしまう。

 

「ぐ……オオ……!!」

 

「おいおい……狂ったのか!!? 動けるならもう少し遊んでやろうと思ったのによォ!! 自ら死を選ぶとは……!!」

 

 そしてその結果にクイーンは興醒めする。氷鬼に掛かれば死は免れない。それは製作者であるクイーンが誰よりも知っている。

 それでもクイーンなら抗体を打ち込んで助けることは出来るが……こうなれば助けるかどうかは迷うところだ。出来れば生きて捕らえるように命令されてはいるものの、自分から死を選ぶような腑抜けを捕まえて喜ぶかどうかは微妙なところである。クイーン自身としても、この結果はバカバカしくて面白いと言えば面白いかもしれないが、逃げる麦わらを追い詰める楽しみがなくなったという意味でガッカリさせられた。

 もうこうなれば麦わらはしばらく放置して、他の船員に狙いを定めようかと──そう思った時。

 

「ハァ……ハァ……おれは死なねェよ……!!」

 

「あァ!!?」

 

 ルフィは正気を保ったままクイーンに向けて減らず口を叩く。

 そこに驚くべき点はない。氷鬼は精神力によって多少は正気が保てる。完全に鬼になるまでの時間は様々な条件の他に、精神力の差という個人差があるのだ。

 ゆえに“麦わらのルフィ”が未だ正気を保って話しかけてくることに驚きはない。だが──

 

「お前を倒すためなら……鬼になるくらい何でもねェ……!! どうせ時間がねェなら……鬼になってでもお前を倒してやる!!!」

 

「……!! 何を言ってやがる……!! てめェはもう死ぬんだよ!!! 抗体を持ってるおれには氷鬼は感染しねェ!! お前が多少動けたところで……万全の状態でおれに勝てなかったお前が、後1時間以内におれを倒すことは不可能だ!!!」

 

 そう。クイーンの言は正しかった。

 万全のルフィで倒せなかったクイーンを、多少まだ動けるからと1時間以内に倒すことは不可能と言っていいし、クイーンを氷鬼に感染させて相打ちを狙うことも出来ない。

 ──だがそれでも、ルフィは勝利を狙っているし……その根拠も存在したのだ。それは、

 

「鬼になれば……力が引き出されて……強くなるんだろ……?」

 

「!!? てめェ……いや、まさか……!!」

 

 ──そう、ルフィが……()()()()()()()()()()

 クイーンの言はその条件ならば正しい。

 しかし、ルフィが万全の状態より強くなるならば──

 

「10分経った……これなら変身出来る……お前を倒す“鬼”に……!!」

 

「!!」

 

 ギア4使用後の10分間、覇気が使えないデメリットが経過したことで、ルフィは再び“ギア4”を発動させる。

 だがその姿は通常の“ギア4”とは異なるものだった。

 

「“ギア”……“4”!!!」

 

 氷鬼によって身体の各部が凍結し、爪や牙が鋭く伸びて、角が生える。

 正気を失わせ、凶暴化させる氷鬼の効力を強靭な精神力で耐え、身体強化の効力だけを利用して、通常のギア4よりも強く……そして恐ろしい姿に変化する。

 その姿はまさしく──

 

「“オーガマン”!!!」

 

「!!!」

 

 ──()だった。

 

「“ゴムゴムの”……!!」

 

「は……!!?」

 

 そしてクイーンが呆気に取られる中、ルフィはクイーンに狙いをつけ──

 

「“鬼拳銃(オーガピストル)”!!!」

 

「ぐゥえ~~~~~~!!!」

 

 ──鬼の拳が炸裂した。




人獣モード→アーム1つ増えて強化。ぬえちゃんのUFOを参考にしました。イメージはUFOキャッチャーのアームが浮いてる感じで。
五鬼→身体が大きいので実は1時間で死ぬかは微妙なところ。
古参ファン→ずっと心の準備をしてた。
シーザー→海賊帝国怖い。
くま→まだまだ出番も活躍もあります。
ロー→原作より強くなってるし、能力の使い方も上手くなってる。原因は世界のアイドル。
日和→ノーコメント。
錦えもん→20年の重みをまだ実感出来ていない。
モモの助→どこかにいます。
ササキ→次回、トリケラトプスの知られざる生態が明らかに……!?
ゾロ→いつもの「死ねばそれまでの男」精神で挑みます。
クイーン→実は実力だけじゃなくて科学技術も原作より上がってる。
氷鬼→ヒョウ五郎みたいに潜在能力を引き出します。詳しくは次回。
オーガマン→ギア4の限定形態。強い。より深刻な時間制限あり。

お待たせした分、かなり長く詰め込みました。今回はこんなところで。
次回はササキVSゾロとクイーンVSルフィの殴り合いです。後2話でパンクハザード編は終わるかなって。そろそろぬえちゃん出したいね。お楽しみに。

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