正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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オーガマン

 パンクハザード研究所C棟に、クイーンの悲鳴が鳴り響き──その巨体が壁に激突する。

 

「…………!!!」

 

「く、クイーン様!!?」

 

「あの野郎!! まさか氷鬼で強くなったのか!!?」

 

「大丈夫ですか!! クイーンさん!!」

 

 百獣海賊団の兵隊達は焦った様子で瓦礫の中で倒れたクイーンに駆け寄る。

 ここまで何をしてもクイーンが10秒以上、床に倒れていることはなかった。それも当然。クイーンは泣く子も黙る百獣海賊団の“大看板”にして動物(ゾオン)系古代種の能力者。

 たとえ相手が同じ四皇幹部であろうと──ましてや“最悪の世代”の海賊“麦わらのルフィ”ではダウンを奪うことすら出来ないと高をくくっていた。

 そしてそれはクイーンも同じだった。

 

「ぐ……!! (あの野郎……!! まさか氷鬼を利用するとは……!! いや、それよりもこのパワーは何だ!!? このおれにここまでダメージを与えるとは……!!)」

 

 瓦礫の中から立ち上がり、氷鬼によって変形──オーガマンとやらになってパワーアップしたルフィを見て、クイーンは自身の受けたダメージからルフィの強化の具合に驚く。

 強化されたこと自体に驚きはない。疫災(エキサイト)弾“氷鬼”は他ならぬクイーンが作ったものであり、その使用用途は敵を殲滅するためのもの。そのために理性を失い敵味方を問わずに襲いかかる狂暴化の効果と接触感染。そして肉体の強化の効果が出るように調整したのだ。幾らでも替えが利く弱い味方が──()()()()()()()()

 今や名実共に世界最強の海賊団となった百獣海賊団。2年前に比べて戦力は強化されてはいるが、ろくに敵を倒すことも出来ない弱い味方がどれだけ増えたところで肉壁以上の価値はあまりない。

 人造悪魔の実“SMILE(スマイル)“によってギフターズになる可能性を秘めてはいるものの、今後の計画。その時期を考えればウェイターズの大半はギフターズになれないのは明白。プレジャーズに至ってはその賭けにすら負けた廃棄要員だ。いざとなればいつでも使い捨てることが出来る。

 それだけにクイーンは実験を繰り返してきたため、分かる。氷鬼の症状は個人差があり、やはり強い奴ほど理性を維持し、強化の具合も高いものになると。

 氷鬼は寿命と引き換えに潜在能力を引き出す効果がある。故に雑魚でも感染すればそれなりに使い物になるのは分かっていたし、強者が感染すればそれなりに厄介な怪物になるのは分かっていたが……それでもこの“麦わらのルフィ”の強化の具合は──はっきり言って異常の一言だった。

 

(これが麦わらの潜在能力だってのか……!!?)

 

 結論を頭に浮かべ、内心で歯噛みする。確かにこの強化されたルフィの攻撃はクイーンをもってしても無視出来ない。1時間とまではいかないだろうが、それでもこの“オーガマン”と長々と戦い続ければ、麦わらの潜在能力ならばあるいは……。

 

「ハァ……ハァ……寒い……!!」

 

「!」

 

 ──と、そこまで考えクイーンはしかし思い直し、表情を変化させた。

 

「……ムハハハハ……!!! 成程……確かに強くなったじゃねェか“麦わら“!! おれ様の“氷鬼”で強化されたパンチ!! 中々上等だ!! 悪くねェ!!」

 

「ゼェ……ゼェ……!! ウゥ……!!」

 

 クイーンはそこで敢えて麦わらを褒め称えて見せる。余裕の表れ。それが復活した理由は単純明快。

 “氷鬼”には──時間制限があるからだ。

 

「──だがバカな事をしたな!! 氷鬼に感染したお前の命はもって1時間!!! お前がどれだけ強くなろうともウイルスによる症状には勝てねェ!!! 背水の陣だ!!! 寿命と引き換えに最期の力を振り絞って戦ってんだ……!! もうお前に助かる道はねェ!!! ムハハハハハ!!!」

 

 そう、もはや麦わらのルフィが何をしようともその死は絶対だ。

 強化されたとはいえ、この程度の強さでは残り1時間でルフィはクイーンを倒すことなど出来ないし、ましてや抗体を奪って接種することなど出来ないだろう。

 ゆえにこの戦いの勝敗は重要ではない──否、戦うまでもなくクイーンの勝利と言えた。なんならクイーンが手を出す必要すらないくらいだ。逃げたってもいい。……“大看板”という肩書とプライドを背負っているため、逃げやしないが──何にせよ残り1時間でクイーンを倒すことが出来ないという結果は変わらない。

 それがクイーンから見たこの戦いの見解だった。ルフィが氷鬼に感染した時点でこの戦いは終わったのだと。

 

「ムハハハハ!!! さあどうする麦わら!!! お前が土下座してウチに入りてェって言うなら助けてやっても──」

 

「……!! うるせェよ!!!」

 

「!?」

 

 ──だがルフィはそう思ってはいない。

 

「勝った気でいるんじゃねェぞクイーン!!! おれはまだ死んでねェ!!! こんな病気になんか負けるか!!!」

 

「……!! 病気じゃなくてウイルスだ!!! だが……ああ……そうだな。今は死んでねェ──だがこれから死ぬのさ!! お前も……お前の仲間もなァ!!!」

 

「おれの仲間は死なねェ……!! ハァ……ハァ……そしておれも負けねェ……!!! どうしても殺したいって言うんなら──お前の手でやってみろよ!!! クイーン!!!」

 

「……!!」

 

 互いの啖呵を共に──麦わらのルフィの拳が迫る。

 鬼となったルフィの拳は再びクイーンの横っ面を殴って吹き飛ばし、クイーンに傷を負わせた。

 

「……!! クイーン様!!」

 

「……!! ああ……どうやらそうらしいな……!!!」

 

 部下達の心配の声を無視してクイーンは即座に立ち上がって告げる。余裕の笑みは崩さないままで。

 

「鬼になったてめェを放置すると無駄に被害がでかくなるのは明白だ……!! こうなりゃあおれの手でさっさとお前を仕留めちまった方がいいに決まってる……お前の言う通りだぜ“麦わら”ァ!!!

 

 “麦わらのルフィ”を放置してこれ以上、研究所や実験動物、部下達を壊されるのはたまったものじゃない。

 それにあえて言いはしないが……麦わらのルフィが必ずしも1時間きっかりに死ぬと決まった訳でもないのだ。

 この男の精神力と潜在能力ならあるいは多少の誤差が出ることもありうる。その不確実性を考えるとクイーン自身の手で再起不能にしてやるのが手っ取り早い。

 

「ここじゃあおれの発明の()()を見せることは出来ねェが……」

 

「何をブツブツ言ってんだ!! こっちも時間がねェ!! さっさと終わらせてやる!!! “ゴムゴムの”……!!」

 

「!」

 

 クイーンが得難い実験の機会、発明品を試してみせることが出来る場に、ここでは全てを試すことは出来ないと残念に思った直後──ルフィの拳撃の雨がクイーンを襲った。

 

「“鬼拳乱打(オーガガトリング)”!!!」

 

「ぐおおおお!!!」

 

 再びクイーンが悲鳴を上げながら殴られるが、しかし今度は踏ん張ってみせた。吹き飛ばず、多少下がるだけで耐えたクイーンは右手の拳に武装色の覇気を纏わせてニヤリと笑う。

 

「ぐ……ムハハ……!! 麦わら……てめェがやりたい技ってのはこれの事だろ……? ──“ブラッド”……!!」

 

「!?」

 

 そう、クイーンはルフィの狙いに気づいていた。

 何度も受けたルフィの武装色の攻撃。それとルフィが呟いていた言葉。それを思えば推測出来る。

 ルフィが習得しようとしている覇気の技術。それは“大看板”にとって──とっくに習得しているものだ。

 

「“弾拳(ブレット)”!!!」

 

「!!!」

 

 ──武装色の覇気を纏った拳。内部破壊の効力を持ったクイーンの拳がルフィの腹に直撃する。

 その破壊力は先程までの比ではない。血を吐き出し、床を跳ねさせられたルフィは体勢を立て直しながら食らった感覚からそれが習得したい覇気の技術であることに思い至る。

 

「グ……ハァ……ハァ……痛ェ……!! クソ……!! それだってのは分かってるのに……!! まだこれじゃ駄目か……!!」

 

「ムハハハ!! 諦めろ!!! お前じゃ無理だ!!! おれ達ですらこれを習得するのにはそれなりの時間と経験を必要とした!!! 殴り合いでおれ達に勝てると思ってんじゃねェよ!! オラオラオラ~~~!!!」

 

「アガ!! ブッ!! グ……オオオオオ!!!

 

 痛がるルフィにクイーンは容赦なく武装色の覇気を纏った拳のラッシュを行う。ルフィも負けじと殴り返し、クイーンもそれなりに血を流すが、止まることはない。ノーガードの殴り合いだ。

 その勢いは氷鬼から避難しようとしていたクイーンの部下達や、理性を失った筈の氷鬼ですら近づけない。クイーンのパワーと氷鬼で強化されたルフィのパワーはとっくに人外の粋に達している。

 まさに“鬼”だ。だが、クイーンはこの程度、まだまだなんてことないと殴り、殴られながらもほくそ笑む。

 武装色の硬化よりも更に上位技術である纏う覇気を習得するため、クイーン達“大看板”は一時期地獄を見たのだ。“災害”と呼ばれる大海賊達が、どうあっても逆らえないし逆らう気もない2人の“最強”と“最恐”に呼び出され──地獄を見させられた。

 ……そう、()()()()()()のだ。

 

『──第2回!! 百獣海賊団強化計画!! チキチキ!! 覇気を鍛えろ!! 無人島でサバイバル鬼ごっこ~~~!!! ……ってことでこれからあなた達大看板には覇気を鍛えるためにこの島でサバイバル生活をしてもらいまーす!! 期間は上位技術を習得するまで!! ……え? 仕事はどうするのかって? そりゃ重要な仕事の時は帰してあげるよ!! でもそれ以外はこの島で生活すること!! この島なら生活するだけでも結構鍛えられるからね!! 私とカイドウのパワーにも耐えられるくらいだし!! 自然界のあらゆる環境で生存出来る料理上手なキングもいるし、何なら協力してもいいから──え? 鬼は誰かって? そりゃあ私とカイドウに決まってるでしょ。あなた達だと島の生物くらいじゃあんまり消耗しなさそうだし、たまーに私とカイドウがしばきに行くから──って、あ!! まだスタートって言ってないのに!! もしかして……待ちきれない? そんなに修行出来ることが嬉しいのかな? そういうことなら……よーし、ぬえちゃんも張り切っちゃうぞ♡ 行くよカイドウ!!!』

 

『ウォロロロ!!! ヒック……おう、行くぞお前ら!!!』

 

『あ、言い忘れてけど、どうしてもどうしてもギブアップしたくなったり、何か用事があったら“カワイイぬえちゃ~~~ん♡”って大声で言ったら駆けつけてあげるからちゃんと覚えといてね!! よーし、それじゃあサバイバル鬼ごっこ開始~~~♪』

 

 ……そう、この世における“最強生物”と“最恐生物”による直々の特訓だ。クイーンはそれを思い出し、ルフィに殴られたことが原因ではない頭痛を感じる。

 その思い出すだけで頭が痛くなる修行は時折“最恐生物”の方が気まぐれに起こすイベントのような形で強制的に行われた。大看板に……いや、百獣海賊団に所属する者であれば誰も断れない。そもそも昔から海賊団の絵を描くのは最恐生物の仕事だった。

 最強生物が掲げた野望を、最恐生物が実現させるためにあれこれ考えて、時折相談もしながら補強する。大看板も2人の懐刀としてそれを補佐する。

 幹部の実力向上は昔から行われてきたことであり、百獣海賊団の根底にある弱肉強食の理──実力、暴力主義に準ずることであるため、強くなれと言われれば断れないし断る理由もない──ないのだが、2人の怪物が考えた修行は基本的にメチャクチャなのでクイーンとしてはあんまり頻繁にやりたいことではない。

 とはいえ、だ。力を貪欲につけることはクイーンも好むところであるし、実際にその修業が実を結んだ今となってはやはり悪い気はしない。やはり自分は天才だと自尊心が更に補強されるのが分かる。

 そして……だからこそ自信を持ち、敵対者をバカだと思う。

 

「ムハハハ!! やるな!! だが──」

 

「!!? 消えた!!? どこだ!!」

 

 クイーンは更に新たな機能──自らの身体を透明化し、ルフィの攻撃の狙いを外す。

 そしてルフィの横に回り、アームを振り上げながら思った。こいつらだろうと、誰だろうと──

 

「足りねェんだよ!! おれ達に勝つには圧倒的に──実力がなァ!!!

 

「!!!」

 

 ──()()()()には、百獣海賊団には、大看板に勝つには……誰だろうと足り得ない。

 

「何度だって言ってやる──死ぬんだよ!! お前らは1人ずつなァ!!!」

 

「……!! うるせェ!! おれの死に場所は……おれが決める!!!」

 

「ムハハハハ!!! そうやって粋がってきた奴を全員、おれ達は殺してきたんだ……!!! 気合と根性だけで生き残れるほど──おれ達は甘くねェってとこを見せてやる!!! 死なねェってんなら見せてみろ!!! このおれの……世界一の“科学”を相手になァ!!!」

 

「お前らの……胸糞悪い科学はもう沢山だ……!!! 終わらせて、仲間も返して貰うぞ!!! クイーン!!!」

 

 クイーンとルフィの拳が激突する。

 科学の島の決戦──多くの弱者を殺してきた最悪の科学の結晶に、ルフィは死なない目で立ち向かった。

 

 ──ローの作戦終了時刻まで……残り──30分!! 

 

 

 

 

 

 ──パンクハザード研究所B棟……ゾロVSササキ。

 

 破壊の跡があちこちに残る研究所B棟、西の外れ。

 三刀流の剣士と三本角の恐竜の死闘は未だ続いていた。

 

「随分と頑丈だな……!! 恐竜ってのは……!!」

 

「お前もただの人間にしては大したもんだ……!! 鬱陶しい……!! さっさと死ね!!!」

 

「……!!」

 

 飛び六胞のササキの持つ恐竜の力──トリケラトプスの代表的な特徴である首のフリルがプロペラのように回転し、ゾロを斬り刻もうと襲いかかる。

 だがその刃を前にして、ゾロは3本の刀を構えたまま息を整えた。気を落ち着け、見聞色の覇気でその回転と攻撃の軌道を読み取る。その攻撃はもはや何度も見ていた。

 

「“大刀狼流し”!!!」

 

「!!?」

 

 ゆえに躱し、流し、同時に斬りつける。

 新世界レベルの戦闘において重要な“覇気”。その中で武装色の覇気のレベルアップのため、試行錯誤を繰り返しているゾロではあったが、見聞色の覇気とて蔑ろにしていい訳ではない。見聞色もまた強大な敵を倒すために必要な技術だ。

 そして戦っていて気づくことがゾロにはある。

 それは相手は……武装色や身体能力では自分の上をいくものの、見聞色の方はそれほど差はないということだ。

 武装色の覇気が得意であり、その技術を鍛えようとしているゾロではあるが、海賊の戦いの中でそのアドバンテージを活かさないなどという舐めた真似が出来よう筈がない。

 既にササキの攻撃は何度も見ている。見切ることに支障はない。斬撃は確かにササキに当たった。

 だがそれでも──相手は倒れない。

 

「グ、ウゥ……!! おれの攻撃を見切るとは……!!」

 

「……!! まだ足りねェか……!!」

 

 腹に刀傷を負いながらも、ササキはゾロをギロリと見下ろす。人獣型の巨体はゾロの5倍以上の大きさだった。

 その大きさは関係あるのか分からないが、そのタフさはゾロも敵ながら感心してしまうほど。

 だがそれ以上に自らの未熟に苛立ったため、ゾロは口に咥えた刀の鞘を軋ませる。その姿を見たササキは再びフリルを回転させ始めながら告げてやる。

 

「てめェの狙いは分かってる……おれにダメージを与えてェんだろうが……その成長を待ってやるほど、おれは気が長くねェ!!!」

 

「……!! また突進か……!!」

 

 ササキがゾロの戦闘における狙いを看破しながら、首のフリルの回転を速める。

 そのプロペラ音というべき音に悪寒を感じたゾロは防御と回避の構えを取った。ササキの高速の突進は真正面から勝負すればゾロであっても防げない。ダメージ不可避の必殺技だ。

 それだけにゾロも防ごうと試みているが、中々上手くいかないし、見切れてもササキに致命的な手傷を与えるには至らない。だからこそゾロは防御とそれに続く反撃を試みつつも躱すことも念頭に置いて“待ち”の構えを取った──が、次にササキが取った不意の行動に、ゾロは思わず面食らう。

 

「あ」

 

「え?」

 

 ササキが間の抜けた声を出して、後方に高速で下がっていく。ゾロがそれに釣られて不意の声を出し、ササキが慌ててフリルの回転を止めたが、今の行動はなくならない。

 

(え……? あいつ、回転方向間違えやがったのか……?)

 

「──助走距離、確保」

 

「うそつけ!!! 今明らかに回転方向ミスっただろ!!」

 

 ──誤魔化そうと咄嗟に言い訳をかましたササキにゾロはツッコミを入れる。ドジな敵だった。緊迫した空気の中でこういうことをされると調子が崩れそうになるのでやめてほしいが、不本意ながら味方も敵もそういう奴が多いために慣れてしまっているゾロはササキの即座の行動にも対応出来る。ササキが今度は間違えずにフリルを回転させた。

 

「黙れ!! 知らねェのか!!? 助走は長ェ方が威力は増す!!!」

 

「ならその助走段階で止めてやる……“二刀流”……!!」

 

「!!」

 

 遠距離で攻撃の気配を強めたゾロに、ササキは警戒する。その瞬間にゾロは遠距離に攻撃するための飛ぶ斬撃を放った。

 

「“七百二十煩悩鳳”!!!」

 

「!!? ぐ……!!」

 

 ゾロの斬撃がササキに命中し、ササキは苦悶の声を上げる。

 大したダメージにはなっていないが、重要なのはそこではない。ササキの突進の勢いが弱まったことだ。

 

「“二刀流”……“居合”……!!」

 

「! 勢いの弱まったおれを迎え撃つつもりか!! させん!! ──“ミサ”!!」

 

(何をするつもりか知らねェが無駄だ……!!)

 

 勢いが弱まり、しかし急に止まることは出来ないササキをゾロが居合で迎え撃とうとする。ゾロの方からも踏み込んで前進し、螺旋刀が振るわれるより先に懐に潜り込む。

 その狙いをササキもすぐに見破ったが、見破ったところでもう遅いとゾロは居合を放とうとする。遠距離攻撃でもなければ対応は出来ないだろうと、そう思った直後。

 

「“イルケラトプス”!!!」

 

「……は!!?」

 

 ──()()()()()()()

 訳が分からない。そう思いながらも身体は反応し、ササキの顔面から放たれた3本の角を二刀流の居合で後方に斬り捨てる。角が後方で爆発し、そちらにも気を取られて隙が出来たのを見てササキは加速装置を起動して突っ込んだ。

 

「“ジェット弾丸(タマ)ケラトプス”!!!」

 

「!!!」

 

 ササキの高速の突進がゾロの身体を掠める。

 それだけでもササキの突進は少なからずゾロに出血を強いる。ここまでの戦闘でササキも手傷を負ってはいるが、ゾロもそれ以上の傷を作っていた。

 

「トリケラトプスの勉強不足だな……!!! トリケラトプスの角はこうやってミサイルのように飛び、激突すると爆発する……!!!」

 

「くそ……!! そうだったのか!!」

 

 トリケラトプスの能力を得たトリケラトプス本人に言われてしまっては是非もない。ツッコミを入れることをやめてゾロは自らの不覚を戒める。昔、太古の島で遭遇したトリケラトプスはササキが言う通り幼体か何かだったのだろう。そう思うことにする。現実として、自分の目の前でトリケラトプスがそうなっているのだからそうなのだ。トリケラトプスのササキ自身が言うトリケラトプスの知識は全て正しいに決まっている。

 

「トリケラトプスの常識だ!! 冥土の土産にお前にトリケラトプスの更なる生態を教えてやる!! 今放ったトリケラトプスの角は…………!! 爆発した後も散らばった破片がその場に残り続け──踏むと爆発する!!!

 

「何だと!!?」

 

 空中で弧を描いで旋回し、再びゾロに狙いを定めたササキが口にした知識に、ゾロは戦慄する。辺りを見てみれば確かに爆発した角の破片が散らばっており、それはゾロの足元──それもちょうど今まさに踏んでしまったところだった。

 

「く……!! しまった……!!」

 

 爆発する!! そう思い、少しでもダメージを軽減しようと武装色の覇気を纏って防御した。

 が──

 

「…………え?」

 

 ──爆発しない。ゾロが呆気に取られた直後、ササキが突っ込んできた。

 

「バカめ!! 冗談に決まってるだろう!!! “ジェット弾丸(タマ)ケラトプス”!!!」

 

「分かるかァ!!! ──うおおお!!!」

 

 まさかの冗談。トリケラトプスの知識がないゾロはササキの冗談に騙されてしまい、攻撃の回避が遅れる。

 不幸中の幸いだったのはササキ自身も冗談を真に受けると思っていなかったのか、攻撃が若干遅れた。そのせいでゾロは横っ飛びが間に合い、致命傷を回避することに成功する。

 

「くっ……まさかあんな冗談に騙されるバカがいるとは……おかげで突撃のタイミングがズレた……!! おかげで命拾いしたな……この常識知らずが!!」

 

「黙れ!! くそ……付き合ってられねェんだよ!!!」

 

 トリケラトプス知識を常識のように語ってゾロを罵るササキにゾロはキレた。ツッコミを入れた後、床に顔を埋めて逆さになっている状態のササキを狙って距離を詰める。ササキもそれを察知した。

 

「フン!! 自分の知識不足を棚に上げやがって……!! 返り討ちにして……ん!!? 抜けねェ!!」

 

「バカはお前だ……!! 悪く思うなよ……!!」

 

 研究所の硬い床に、フリルまで深く埋まってしまったササキにゾロは遠慮なく近づく。刀を抜き、比較的柔らかい部位に狙いをつけた。

 だがフリルの回転だけで抜けないなら別の方法で脱出するだけだ。そう思ったササキが即座に行動に移す。自身の身体を──そう、()()()()回転させ、

 

「!!? 床……地中に!!?」

 

「くく……そういうことだ──くらえ!!」

 

「……!!」

 

 パンクハザード研究所の床下。地中や地下を含めた床下を掘り進み、ササキは地中から告げる。フリルだけじゃない。自分の身体ごと回転させるその攻撃こそが──現在のササキの本気とも言える技。

 

「──“ドリケラトプス”!!!」

 

「!!!」

 

 地中から、ゾロの足元を破壊して現れたササキがゾロを削り切る。

 そのササキの姿はドリル──掘削機にも似ていた。その地中を進むメカニズムも……人体に当てた時の危険性も。

 勢いに撥ね飛ばされ、それほど深く削り切れることはなかったものの、ゾロは意識を保ちながらも白目を剥き、身体の表面から大量の血を流していることからかなりのダメージを受けたことは明らかだ。

 

「ハァ……ハァ……ウグ……まさか地中まで移動出来るとは……」

 

「当然だ!! 太古の時代!! 装甲のような硬い皮膚と鋭い3本の角!! 場所を選ばない機動力で世界を支配した実在する最強生物!!!」

 

 空中を更に高速で飛翔しながら、ササキは言う。

 だがその旋回運動はもはや場所を選ばない。空中から地下にも掘り進んで時折身を隠しながら、ゾロの周囲を囲むように移動する。

 

「地上!! 空中!! 地中!! “悪魔の実”のデメリットさえなければ水中すら自在に移動し、獲物を仕留める!!! これこそがトリケラトプスだ!!!」

 

 そう、ササキは自身の能力が最強だという自負と誇りを持っている。

 少なくとも動物(ゾオン)系古代種の中では最強の能力であり、同じ恐竜の能力であれば負ける筈がない。他の恐竜の能力ではここまでの機動性能は得られない。

 ゆえに“大看板”に最も近いのは自分だとも思っている。同じ“飛び六胞”の面々や他の“真打ち”よりも自分の方が強く、“大看板”を相手にしても負けることはない、と──今でもそう思っている。

 

 ──()()()()()()()()()()()()

 

『これで終わりか?』

 

『はいはいそこまで~!! それ以上やったら死んじゃうよ~ってことで勝者は~~~~……キングでした~~!!! わー、ぱちぱちぱち~!!!』

 

『フン……』

 

『……!!』

 

 それは約半年前の“昇格戦”。

 1年前の“金色神楽”……“百獣杯”の優勝商品だった大看板への挑戦権は有耶無耶になってしまったものの、その後手柄を立てた数人は大看板の挑戦権を与えられ、挑戦することを認められた。

 そしてササキが挑んだのは──“火災のキング”。百獣海賊団“大看板”の筆頭であり、カイドウとぬえを除けば最強の呼び声高い男である。

 実力に自信はあった。新たな絡繰兵器を得て覇気の練度も高めた今なら大看板相手にも遜色ない。キングを攻略する上での空中戦の対処も、自分なら可能だと。

 

 ──しかし通用しなかった。

 

 結果は惨敗。こちらの攻撃は一切キングに通じなかった。

 機動力は完全にあちらが上。こちらの飛行や突進は細かい動きが出来ないが、相手はそれも容易にこなし、速さでも上を行く。

 こちらの防御は相手の攻撃に対して機能しない。ある程度は耐えられても、一撃一撃が決して無視できないダメージを与えられる。

 そしてこちらの攻撃は相手の速さや技術、パワーの前に凌がれ……当たっても効果がない。

 トリケラトプスはプテラノドンとの空中戦に勝てなかった。地上でもそれは同じ。

 終わってみればキングは無傷であり、ササキは一方的に半殺しにされた。大看板の名が変わることはなく、他の戦いにおいても挑戦した者達は全員敗北した。

 つまるところそれが“大看板”のレベルであり、大看板とそれ以下の差なのだ。カイドウとぬえに信頼される懐刀。災害と称され、恐れられる怪物達。逆らう者を圧倒的な強さで屈服させる百獣海賊団きっての暴力装置。

 自分達はまだそこまで達していない。それを認めるしかなかった。

 ……だが今後もそこに達しないと認める訳にはいかない。

 

「おれはこのトリケラトプスの能力でいずれこの世界最強の海賊団で最高幹部……“大看板”にまで上り詰める!!! お前らはそれを得るための手柄でしかねェんだよ!!!」

 

「……ハァ……ハァ……奇遇だな……」

 

 そう、いずれはそうなる。だから負ける訳にはいかない。

 “海賊王”になる野望は諦めた。だが野心が消えた訳ではない。カイドウとぬえという2人の怪物に勝てないのはしょうがないとしても──それ以外に負けることを簡単に認める訳にはいかないのだ。

 だから目の前の男を轢き殺す。少なくとも再起不能にして連れて行く。相手が何を言おうと、何をしようと関係ない。

 そのための攻撃を放とうと狙いを定め──そこでゾロの言葉をササキは聞いた。

 

「おれもお前は……ただの通過点だ……!!!」

 

「!!? 何……!!」

 

 その発言に眉を吊り上げる中──ゾロはササキに告げる。

 野望を持つのは──負けられない理由を持つのは……お互い様だと。

 

「おれは世界一の大剣豪になる男だ……!!! “飛び六胞”だか“大看板”だか知らねェが……おれ達は誰にも負けやしねェ……!!!」

 

「!!」

 

 ササキはその発言に目を見開く。

 新世界にやってきたばかりの新人(ルーキー)海賊にありがちな過信に満ち溢れた言葉だ。戯言に過ぎる。何の根拠もない大言壮語。

 だが本気で言っていることだけは伝わる──だからこそ、ササキはそれを真っ向から否定する。

 

「言うだけならタダだな……!!! 悪いがてめェらの望みは何1つ叶えさせねェ……!!! お前らの船長も仲間もクイーンの野郎か……おれに殺される……!!! それが嫌なら服従しろ!!! 臣従するなら水に流す!! それが百獣海賊団だ!!!」

 

「ハッ……願い下げだ……!! おれはお前に勝つ……!!! 何度も攻撃を食らった()()()()……そろそろ感覚が掴めてきた……!!!」

 

 ゾロは3本の刀を構え、尋常ではない覇気を纏わせながら言う。

 

「負けたくなけりゃ次の攻撃は躱すんだな……!!!」

 

「……!! 上等……!! ならこっちも一思いに一撃で終わらせてやる……!!!」

 

 ゾロの3本の刀が黒刀化し、ササキの顔面が黒くなった。互いに武装色の覇気を己の最も得意とする武器に込めている。

 それだけに互いの一撃は今まで相手に放ったその比ではないだろう。食らえばタダじゃ済まない──互いにそれを理解した。

 

「この攻撃はカイドウさんとぬえさんにすら褒められた技だ!!! お前に耐えられる道理はねェ!!! 死ね!!!」

 

 そして刹那──先に動いたのはササキ。

 旋回運動を終えて限界まで加速したササキは一直線にゾロへと飛来する。

 攻撃した自分すら大きなダメージを負う自爆覚悟の技だが、それでも構わない。飛び六胞であれば……大看板であれば、そんなことは恐れない。

 敵を倒すためならどんなことでもする──それが百獣海賊団だ。

 

「自爆上等!!! “ジェット”……“マグ”!! “ナムケラトプス”!!!」

 

 ササキの身体がゾロに向かって急降下。重力すらも攻撃力に加算し、ゾロを地面の染みにしてやろうと凶悪な破壊力を秘めた一撃が迫る。

 そしてほぼ同時にゾロも動いた。

 

「九山八海……一世界……!! 斬れぬ物なし……!!」

 

 右手と左手の刀を前に。腕を真っ直ぐ伸ばした状態で構える。

 

「“三刀流”──“奥義”」

 

 二刀を車輪のように回転させ、敵を待ち構える。

 それはゾロの我流剣術である三刀流の奥義にして最大の技。

 3本の業物を黒刀化し、新たに獲得しつつある技術を用いて強化した──どんなに硬いものでも斬り裂く斬撃。

 

「千集まって“小千世界”……!! 三条結んで……!!」

 

 ササキが目の前までに迫り、ゾロの刀と激突する。

 ゾロの足元の床がササキの突進に耐えきれずに崩壊した──が、ゾロは()()()()()()()()()

 

「!!?」

 

「“一大・三千・”──」

 

 驚愕したササキは瀕死の筈のゾロが、それを用いていることに気づいて更に表情を変えた。

 一瞬の判断で構わず押し潰そうとする──その数瞬先にゾロの身体はササキの背後に移動していた。

 

「“大千・世界”!!!!」

 

「!!!?」

 

 斬撃がササキの身体に深手を負わせ、白目を剥いて落ちていく。

 研究所B棟に大きく亀裂が走り、そして()()()()

 

 

 

 

 

 ──パンクハザード研究所C棟……ルフィVSクイーン。

 

「ググ……ウギギ……!!」

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 既にC棟は研究施設の様相を成していない。

 身体の半分を氷鬼と化し、身体を凍りつかせ狂暴化させるウイルスと戦いながら、その力を全力でクイーンにぶつけるルフィ。

 その攻撃は確かにクイーンに通じ、人外のタフネスを持つクイーンに荒い息を吐かせるまでに体力を削っていた。

 

「……!! “火花(スパーキング)”!!」

 

「!!?」

 

 ──しかし……まだそれでも優勢なのはクイーンだった。

 

「“QUEEN(クイーン)”!!!」

 

「!!!」

 

 クイーンの目が突如として発光し、その数瞬後にはそこから無数のレーザーが放たれる。

 ルフィがその攻撃を掠らせるだけでどうにか凌ぎ、爆発した床から離れて攻勢に出ようとするが、それを見てクイーンは再び自らの身体を透明化させる。

 

「……!! くそ……!! レーザーに……今度はまた消えた……!! グルル……!!」

 

「“起電(ヘンリー)”……!!」

 

「!!」

 

 そして背後に回ったクイーンは今度は自らの身体に電気を纏わせると、高速で首を伸ばしルフィに向かって頭突きを行う。

 

「“QUEEN”!!!」

 

「!!! ……“ゴムゴム”のォ……!!」

 

「うお!!?」

 

 だが電気はゴム人間であるルフィには通用しない。クイーンのその攻撃は覇気を纏ったただの頭突きだ。

 それでもそれなりのダメージはあるが、ルフィは根性でそれを耐え、反撃の拳をクイーンの顔面に放つが、クイーンもまたそれに合わせるようにして拳を振り被った。

 

「“(オーガ)”……“回転弾(ライフル)”!!!」

 

「“風来拳(ブライパン)”!!!」

 

 ルフィとクイーンの顔が殴られて同時に歪む。両者共にダメージを負い、後ろに吹っ飛ぶ。

 だが立ち上がるのが早いのはクイーンだ。クイーンは苦しそうに呻くルフィを見て未だ笑みを崩しはしない。

 

「ムハハ……!! そういやゴム人間に電気は無効だったか……おれとしたことがうっかりしてたぜ……!! だがそれでも効くだろう……!! ここまでおれに攻撃されて耐えられる筈がねェ!!!」

 

「グ……ウゥ……!! ゼェ……ゼェ……まだ、まだ……!!! オオオオオ!!!」

 

「!?」

 

 だが雄叫びを上げて再び立ち向かってくるルフィにクイーンは内心だけで静かに驚く。攻撃の対応のために複数のアームを動かしルフィの攻撃に対処しながら歯噛みする。

 

「……!! (この野郎……!! いつになったら倒れる!!? もう死んでいてもおかしくないくらいに痛めつけてるぞ!!)」

 

「“鬼拳銃(オーガピストル)”!!!」

 

「ぐ……!!」

 

 そう、戦いが始まってそろそろ2時間に届こうとしているが、ルフィは未だ倒れない。

 氷鬼の制限時間が迫っており、もはやいつ死んでもおかしくないというのに、意識を手放すことなくクイーンだけを正確に狙ってきているのは……はっきり言って正気の沙汰ではない。常識ではありえない結果だ。

 

(氷鬼のせいか!? それともこれが“麦わら”の潜在能力か!? しかも……!!)

 

「“ゴムゴムの”ォ!!!」

 

「……!!」

 

 そして更にクイーンが驚くべきことがある。ルフィの攻撃は確かに氷鬼になるよりも破壊力を増しているが、それでもクイーンに致命的な傷を負わせる程ではなかった。しかし──

 

「“(オーガ)・バズーカ”!!!」

 

「ゲフゥ~~~~!!?」

 

 ルフィの両手を用いた攻撃がクイーンの腹に激突し、クイーンが声を上げる。たまらず、威力を軽減させるためにクイーンは自ら後ろに下がった。

 戦闘が始まって以来、クイーンが自らの意思で後退することはなかった。“大看板”であれば誰もが真正面の戦闘で敵を押し潰す。その進撃は止まることはない。その筈だったが、

 

「……!! (間違いねェ!! この痛み!! ダメージ!! こいつ……()()()()()()ことに成功してやがる!!!)」

 

 武装色を纏った打撃を加えられれば、どれだけ表面が硬くとも内部にダメージを負わせられる。

 動物(ゾオン)系古代種の能力者であり、全身を絡繰化したクイーンであってもたまらず下がってしまう程には、ルフィの攻撃力は劇的に高まっている。

 その技術を万全に用いれば、カイドウやぬえにすらダメージを通すことが出来るのだからクイーンの反応は無理ないことだ。それだけにその技術を用い──なおかつ高いレベルで使いこなすことが出来るのは世界でも数えるほどしかいない。

 それほどに難しい技術なのだ。それを……海賊になって2年かそこらの新人(ルーキー)が使いこなせる筈がない。

 

「……ムハハハ……!! おれの氷鬼のせいか……? 急に成長しやがって……!!」

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 見ろ。足がガクガクと震えている。

 氷鬼の冷気に加え、クイーンの攻撃。身体が限界に近づいている証拠だ。こいつは放っといてもここで死ぬ。だが──

 

「だとしてもだ!! 将来の禍根は確実に潰しとくに限るよなァ!!!」

 

「ウ!!」

 

 体重と覇気を乗せた拳でルフィの身体を殴りつける──ここで()()()始末するために。

 

「ジャックの奴がお前を始末させてくれと願い出た理由が分かったぜ……!! 決死のパワーアップも悪くねェ!! さすがだ!! ──でもなァ!!!」

 

「……!!」

 

 クイーンはルフィの潜在能力を認めつつ、しかしそれを恐るるに足らないと口端を歪めた。

 確かにルフィは新人(ルーキー)にしてはかなり強い。将来的にどうなるか分からないというのも認めてやろう。

 

「それでもおれ達には敵わねェんだ!!! おれ達は“災害”!!! ただの人間に勝てるように出来てねェんだよ!!!」

 

「!! ハァ……ハァ……オェ……!! やめろ……離せ……!!!」

 

 クイーンの左手のアームがルフィを掴む。

 その力はクイーンの怪力に加え、とある勢力の科学まで詰め込まれている。鬼となって力が増したルフィでさえ抜けることが出来ない。

 

「“巻力(ウインチ)”!!!」

 

「……!!」

 

 ルフィはクイーンのアームに掴まれたまま、ぐるぐると投げ縄のように回る。クイーンが跳躍し、ルフィを掴んだアームを床に目掛けて──

 

「“QUEEN(クイーン)”!!!」

 

「!!!」

 

 思い切り叩きつけた。

 ルフィが白目を剥いて血を吐く──だがそこで攻撃は終わらない。

 

「ウアアアア!!!」

 

「“大看板”のレベルを思い知って……死ね!!! “麦わら”!!!」

 

 クイーンの巨体が床に向かって急降下する。

 大看板の中で最も重いその体重。あらゆる動物(ゾオン)系古代種の能力の中で最も重いブラキオサウルスの能力。

 それに武装色の覇気を纏わせ、絡繰人間の機能で加速する。そうして放つ頭突きは小規模な地震を引き起こし……あらゆるものを押し潰す。

 

「“無頼男爆弾(ブラキオボムバ)”!!!」

 

「!!!」

 

 怪力によって床に叩きつけられ、クイーンの全体重とパワーを乗せた頭突きを食らったルフィは──身体をくの字に曲げ、口から大量の血を吐き出す。

 ゴム人間でなければ、全身の骨が折れてしまう程の破壊力を秘めた一撃は、研究所の床に亀裂を走らせ、地面ごと陥没させてしまう。

 

「……ムハハ……!!」

 

 そしてそれを放ったクイーンは静かに笑い、立ち上がる。骨が折れずとも、全身の臓器が潰れて即死だ。自分の攻撃の強さは分かっている。耐えられる筈がない。

 そう思い、クイーンは葉巻を懐から取り出そうとした。戦いは終わりだ。後は研究所内の暴動を沈めるだけ。ただの流れ作業であると──

 

「──何度も……言わせんな……!!!」

 

「……!!? な……はァ!!?」

 

 ──土煙の中でゆらゆらと……幽鬼のように立ち上がったのは──麦わら帽子を被った1人の男。

 氷鬼となり、“災害”の一撃をその身に食らい……それでも立ち上がり、啖呵を切る。

 

「おいおいおい……!! なぜ立ち上がれる!!? なぜ死んでねェ!!? 身体はもう限界の筈だぞ!!!」

 

「……おれは……“海賊王”になる男だ……!!!」

 

「……!!?」

 

 ──“麦わらのルフィ”の目は未だ死んではいなかった。

 全力の覇気を纏わせ、鬼となった箇所を黒く変色させ、全身から血を流しながらも……その目はクイーンを睨み続けている。

 

「ハァ……ハァ……“災害”だろうと関係ねェ……!!! 海賊なら……乗り越えていく……!!! 倒れろ!!! クイーン!!!」

 

「……!! フザケんじゃねェ!!! 何度やろうと同じだ!!!」

 

 ルフィの鬼の拳が、更に大きく、強くなり、引き伸ばされる。

 目の前の嵐の如き“災害”を打ち倒すために。

 

「“ゴムゴムの”……!!!」

 

「お前に俺たちは……倒せねェ!!! さあ触れるもんなら触れてみろ!! “桃色(ピンク)”……」

 

 対するクイーンも迎え撃とうとした。身体の表面に毒を流し、触れた相手を殺す猛毒でルフィを確実に殺す手段を取る。

 “災害”は人間に倒せないからこそ“災害”。“大看板”は負けないからこそ“大看板”なのだ。

 どれだけ攻撃しても無意味。耐えきって殺す。何度だって立ち上がる。立ち上がって敵を服従させる。

 それが百獣海賊団の“暴力”の象徴──“大看板”だ。

 

「──“鬼神銃(デーモンガン)”!!!」

 

「……!!!」

 

 ──クイーンの巨体に、巨大な鬼の拳が炸裂する。

 

 拳は研究所C棟の壁を幾つも突き破り、クイーンの身体を何度も打ち付け運んでいく。

 闇の科学の拠点が。

 新世界で多くの人を殺す最悪の実験場が。

 海賊帝国の重要な拠点の1つ。

 ()()()()()()()()歯車の1つが。

 

「ハァ…………ハァ…………」

 

 鬼神の拳が引き戻った時。その全ては崩壊し──

 

「ウ…………」

 

 静寂がその場を支配した。

 麦わら帽子の男が地面に伏し、三刀流の剣士が刀を鞘に収め、多くの人々が研究所のその先に辿り着く。

 全てが救われたかに思えた──()()()()

 

「……ぐ……あの野郎ォ……!!!」

 

「待ちやがれ……!!!」

 

「!!?」

 

 ほぼ同時に、百獣海賊団の()()()()()()()()()()()()()()

 その光景にB棟にいたゾロは驚き、C棟では誰も反応が出来なかった。

 

「随分と派手にやってくれたな……」

 

「この程度で……勝ったと思ってんじゃねェぞ……!!!」

 

 C棟にいたクイーンはゆっくりとルフィに近づいていき、B棟のササキは刀を再び構えたゾロとの戦いを継続しようとする。

 恐怖も暴力もまだ終わってはいない。世界を破滅に導く百獣の軍勢はまだ終わらない。

 研究所もまだ残っている。その大部分が破壊されようとも、完全に破壊されるまでは闇の科学による悲劇はなくならない。

 そうしてクイーンがルフィにとどめを。ササキがゾロに向かって行こうとした──だが、

 

「“()()()()()()”」

 

「!!?」

 

「な……!!?」

 

 裏切り者は闇の中で静かに嘯いた──()()()()()、と。

 ルフィとゾロの身体がその場から消える。直後。

 

「!!!?」

 

 ──研究所が爆発した。




クイーンの科学力→原作通り、ジェルマすら吸収してる。
クイーンの武装色→纏える。
修行→地獄。大看板は全員経験済み。武装色を纏って防御しないと大変なことになる。
トリケラトプス→角はミサイルのように飛ぶ。自分ごと回転して地中にも潜れる。プテラノドンとの空中戦が出来る(ただし負ける)。
昇格戦→行われた。ササキはキングを指名して対戦したけど完敗しました。天ぷらうどん()の食べ放題には耐えられませんでした。
ゾロ→瀕死状態で強くなるやつ。結構ボロボロにされたけどまだ戦えます。
ゾロの武装色→一応纏えるように。まだ完全には習得してないけど取っ掛かりは掴んだ。
オーガマン→クイーンとほぼ互角だけど時間制限とタフネスの差で負ける程度。時間制限がなければ勝てるかもしれない。(※寿命減りました)
ロー→パンクハザード編MVP。
ぬえちゃん→アップを始めました。大看板に修行をつけたり昇格戦を仕切ったりと可愛い。

今回はこんなところで。次回で後始末って感じでパンクハザード編は終了。次の話に行く前に百獣海賊団パートやら世界情勢もします。パンクハザード崩壊で色々動きます。お楽しみに。

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