正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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鬼札

 ──どうしてこうなった? 

 

 かつて己の一族が支配していた王国を乗っ取り、天竜人を脅して王下七武海になったまでは良かった。

 その後、彼の元天竜人という隠された立場と七武海、ドレスローザ国王という表向きの立場を利用し、新世界の大物達や世界政府、加盟国の間に入り、仲買人(ブローカー)としての立ち位置を確立した。

 これにより新世界の闘争の手綱は彼が握っていた筈だった。争いや陰謀の糸を引き、それらをコントロールする。そうしていつかはこの世界を破壊し、世界の実権を握る。そのための計画は順調に進んでいた筈だった。

 

 ──だが……()()()追い詰められている。

 

「若様!!」

 

「若様~~!! 町で連中が暴れてます!!」

 

「どうか指示を!!」

 

「国王様~~~!!!」

 

 ドレスローザの王宮。そこに響くファミリーの下っぱ達や国民の声。

 それを耳にしながらも、国王であるドフラミンゴは目を向けることはしない。幹部ではないファミリーの部下やましてや国民など幾らでも替えが利く物でしかない。

 今重要なのは奴らをどう抑えるかだ。そのために思考を回し、即座に判断してドフラミンゴは動いた。

 

「ドフィ……!! どうする……!?」

 

「……! ピーカ……!! お前らはしばらく足止めに徹しろ……!! トレーボルが交渉に出向く……その間におれは──」

 

 突如として甲高い声がドフラミンゴの耳に届く。振り返ればそこにはドンキホーテファミリーの最高幹部である大男──ピーカが指示を仰いで来ていた。

 ドフラミンゴにとって幹部以上のメンバーは全員家族だ。替えの利く下っぱとは違い、彼らは簡単に失っていいものではない有用な駒。この事態を収束させるのにも役に立つ。

 ゆえに指示を出し、自分の動きも伝えた。そう、幹部達には連中を足止めしてもらい、その間にドフラミンゴは元凶を叩く。その相手は──

 

「ローと“麦わら”を生け捕りにする……!!!」

 

「……!! ……了解だ、ドフィ……!! 問題ない……どうやら相手にカイドウやぬえはいない……!! 暴れていいならばおれ1人で十分食い止められる……!!!」

 

「ああ、頼んだ……!!」

 

 ドフラミンゴの怒りに満ちた言葉を受け、ピーカは了承する。彼はイシイシの実の“岩石同化人間”。その能力を用いればこの王宮の大地そのものが彼の武器となり、とてつもない破壊力と攻撃範囲を誇る兵器となる。

 時間稼ぎにも向いている能力であり、もしトレーボルの話が通じなくても彼やファミリーの他の幹部の力があれば足止めはなんとか叶うだろう。

 ドフラミンゴはピーカの自信に満ちた返答を聞くと彼らを信じて窓から飛び出た。そして即座に指先から出した目に見えない程に細い糸を空を浮かぶ雲に張り付ける。そうすることで“空の道”──雲がある限りドフラミンゴは単身、空を飛んで移動することが出来る。これならば海を渡って他の島に行くことも可能だ。海に浮かぶ相手の元へ行くことも。

 

「あのクソガキ共……!! 許さねェ……!! 麦わらは捕らえて差し出す前に拷問してやる……!! ローにも躾が必要だな……!!」

 

 裏切っていないことを示すためにはあの“最悪の世代”の2人を捕らえる必要がある。2人の口から真実を話させれば確実だ。

 だが麦わらのルフィは差し出せてもローは差し出す訳にはいかない。今は窮地だがドフラミンゴの目的を考えるとある意味チャンスでもある。

 何しろローを捕まえる正当な名目が出来たのだ。事が収まれば上手く交渉してローだけは確保したい。ローのオペオペの実はドフラミンゴの計画に必要不可欠なものだ。そのためにも今はとにかく海に出て──

 

「──あら……どこに行くつもりかしら?」

 

「!!?」

 

 ──ドフラミンゴの頭上から女性の声が響く。

 

 ドフラミンゴは驚き、背筋を震わせた。声に聞き覚えがある。見聞色の覇気で姿も気配も見た。

 相手は間違いなく、百獣海賊団の大看板──“戦災のジョーカー”だ。

 

「ジョーカー……!!」

 

「フフフ……そうね。その本物のジョーカーがわざわざ会いに来たのに……代理に過ぎないあなたは何故空なんか飛んでるのかしらね?」

 

「……!!」

 

「部下を足止めにしてその間になにかするつもり? でも──私から逃げられると思わないことね♡」

 

 背後からの攻撃の気配を感じ、ドフラミンゴは焦る。役割上、他の大看板よりは話が通じるとはいえ、ジョーカーもまた“災害”と呼ばれる怪物だ。自身の手を下さず敵を破滅させる悪趣味な女。

 そしてその強さもまた──遙か怪物だ。

 

「“嵐脚”──」

 

「……!! “蜘蛛の巣がき”!!!」

 

 ドフラミンゴは糸を蜘蛛の巣状に張って防御の構えを取る。イトイトの実の防御技。並の蹴り、六式ならこの防御を破ることは出来ないが──

 

「“紅涙”!!!」

 

「!!!」

 

 ──ドフラミンゴは地面に叩き落される。

 通常の六式の嵐脚ではない。一点に集中させた斬撃。相手を貫く突きともいえるジョーカーの足の先がドフラミンゴに激突する。

 その叩き落された衝撃で下にあった建物は倒壊し、道路はひび割れた。民衆が騒いでいるがドフラミンゴはそちらに意識を向ける余裕はない。

 

「フフ、()で良かったわね。夜だったら無傷じゃ済まなかったわ」

 

「ぐ……待て!! おれはお前達と事を構えるつもりはない!!」

 

「あらそう? パンクハザードの1件は麦わらの一味とあなた達が引き起こしたものだって聞いてるけど」

 

「それはあいつの……ローの陰謀だ!! おれは麦わらと組んだ憶えはない……!! パンクハザードの崩壊はあいつと麦わらの一味がやったことだ!!」

 

 瓦礫の中から立ち上がったドフラミンゴは防いだ腕から感じる鈍痛を無視し、()()()()()()()()ジョーカーに必死に弁明を行う。戦闘は悪手。実際に戦うとなったらドフラミンゴは負けるつもりはない。厳しい戦いにはなるだろうが大看板1人ならまだ戦闘を成立させることは出来る。

 しかし戦闘はあくまでも他に打つ手がなくなった時の最終手段だ。戦うということは裏切りを認めることになる。加えて百獣海賊団との戦争の始まりを意味するのだ。そんなことになれば自分達は消されてしまう。抗う程度ならともかく害意を見せてはならない。

 となれば取れる手はやはり疑いを晴らすこと。そのためにローと麦わらを捕らえることを目論んだのだが、その手が取れないとなると弁解するしかない。だが──。

 

「言い訳は後で聞くわ。とりあえず……()()()()()()()しようかしら」

 

「……!! フザけんなァ!! モルガンズの飛ばし記事を真に受けてるワケじゃねェだろう!! メアリーズの……ましてやお前が何も掴んでねェハズがねェ!! おかしいと思わねェのか!!?」

 

「フフ……随分と余裕がないみたいね。“天夜叉”ともあろう海賊が……いつもの笑みはどうしたの?」

 

「…………!!」

 

「なんて……ごめんなさい。何年も掛けて積み上げたものが潰れる瀬戸際に笑える筈がないわよね。ましてや相手はあなたがずっと恐れて顔色を伺っていた……百獣海賊団なんだから♡」

 

 ──やはり話は通じないのか……!? 

 ドフラミンゴはジョーカーの反応が変わらないことに更なる焦りを憶える。百獣海賊団の情報を司るジョーカー。それもジョーカーの素性から考えて全く疑いを持っていない訳がない。

 だがこうまで話が通じないとなると……最悪の可能性が頭に浮かび上がる。もしそうならドフラミンゴに選択肢は存在しない。それほどに生き残る道が見えない可能性が。

 

「……まァあなたの言い分も分かるけれど……生憎とこれは命令なの。話し合いはこれから()()()()にすることね」

 

「これから来る相手だと……!!?」

 

「ええ、きっと驚くわよ。その相手と……私が今、何を持っているのかと聞いたらね♡」

 

 言って、ジョーカーは右手に持った日傘の陰から手品のように箱を取り出す。そこそこの大きさの宝箱だ。ジョーカーはその箱を開き、その中身をドフラミンゴに見せた。

 瞬間、ドフラミンゴの顔が驚きに染まる。

 

「……!! そいつは……!!!」

 

「フフフ……驚いてるみたいね♡ ──でもまだよ。世界をメチャクチャにするにはこれだけじゃ足りないわ」

 

「……ここで……一体なにをする気だ……!!?」

 

 汗を流し、顔色が悪くなったドフラミンゴがジョーカーに問いかける。

 宝箱の中身は確かに爆弾だった。それも特大の力を持つ。それだけでも嫌な予感しかしない。

 だがジョーカーは更にドフラミンゴの度肝を抜いてみせた。宙から地面に降り、ドフラミンゴにゆっくりと歩み寄る。ヒールの音がドフラミンゴの耳にもっとも近づいたその時に……ジョーカーはここに誰が来るかと、その目的を告げた。

 

「…………何だと……!!?」

 

「──これでわかったかしら? あなたにはもう道はないの。観念しなさい♡」

 

「……!! そうか……どうやら……()()みてェだな……!!!」

 

 ドフラミンゴが歯を噛みしめる。ジョーカーの言葉はそれほどに衝撃を受けるものだった。

 そして同時に気づく。ジョーカーの言うように──もはや選択肢などないことを。

 

「……!!」

 

「!!」

 

 それに気づいた瞬間、ドフラミンゴは戦闘態勢を取ってジョーカーの攻撃を弾いてお互いにまた距離を取った。

 するとその好戦的な姿勢を見てジョーカーは笑みを浮かべる。

 

「あら、慎重なあなたらしくないわね? やる気?」

 

「選択肢がねェってだけだ……!! それなら……フッ……フッフッフッ……!! 腹を決めるしかねェ……!!」

 

「フフフ……そ。ならそれぞれの目的のためにも……ここで少し──私と踊って貰うわ!!!

 

「!!!」

 

 ──ジョーカーとドフラミンゴ。表と裏のジョーカーが激突する。

 同時にドレスローザは戦乱に包まれた。そしてその様子を──

 

「……………………」

 

 ──誰かが見ていた。

 

 

 

 

 

 ──“新世界”、“新鬼ヶ島(旧ワノ国)”

 

 現在の世界の中心地。それはもう“聖地マリージョア”ではない。

 世界中の正義の軍隊の本拠地、“海軍本部”でもないし、その聖地まで運ばれた海軍本部とマリージョアの跡地。戦火の激しさが垣間見える()()()()()()()土地に出来た海賊帝国の前線基地“プロクシマ基地”でもない。

 かといって旧革命軍、新政府の本拠地である“バルティゴ”でもない。

 現在の世界の中心は海賊帝国。その1つはビッグマム海賊団の本拠地である“ホールケーキアイランド”。

 そしてもう1つが旧ワノ国。百獣海賊団の本拠地──“新鬼ヶ島”だ。

 

「おい聞いたか……? クイーンさんがしくじった話」

 

「ああ。パンクハザードが崩壊したらしいな……」

 

「さすがにマズくねェか? あの人、ブチ切れるぞ。そうなったら何をするか分からねェ……!!」

 

 海賊の楽園。無法地帯でありながら力を絶対とする海賊達が楽しく暮らすその新鬼ヶ島は──しかし今は騒然としていた。

 新鬼ヶ島の中心にある巨大な都やその更に中心にある屋敷の中で百獣海賊団に所属するウェイターズやウォリアーズが口々にパンクハザード崩壊の事件とその後に起きるであろう影響を話し合う。

 だが影響とは言っても世界情勢を話し合っている訳ではない。そんなことは自分達の身に比べればどうだっていいことだった。明日世界が滅びたとしても自分達が生きていれば御の字だと考えるような連中である。世界のどこで凄惨な事件が起きても自分達に関係がなければ──もっと言えば自分達に害がなければそれを笑い飛ばす。酒の肴になるだけだろう。

 つまり彼らが恐れている影響とは自分達の身が危ないこと。絶対に怒らせてはいけない彼らの上司達。2人の内の1人がどんな反応をするか──それを彼らは恐れていた。

 

「でも早く知らせねェと……後から聞いたらそれはそれで余計ブチ切れるぞ!!」

 

「だがどこにもいねェ!! あの人、どこに行っちまったんだ!!?」

 

「屋敷のどこにもいねェ!! 後はどこを探せばいいんだ!!? ──なァ、ドレークさん!! 指示をくれよ!!」

 

「…………」

 

 そして彼らは悪い報告を早く済ますべく、屋敷中を駆けずり回っていた。

 だがどこを探しても見つからない。下っ端達は焦り、現在都に詰めている真打ち達をまとめている(ディエス)・ドレークに指示を仰ぐ。

 しかしドレークもまた居所を掴めないでいた。例の事件が載った新聞を片手に、ドレークは思考を回す。その内容は勿論、昨夜まで屋敷にいた筈の百獣海賊団の総督──“百獣のカイドウ”がどこにもいないことだ。

 

(……突拍子もない行動は珍しいことじゃない。特に酔ってる時は……だがこうまで見つからないとなると、まさか……報復か? だとしたら……)

 

「ドレークさん!? どこへ行くんです!?」

 

「……厠だ。お前達は捜索範囲を都の外にも広げろ。各郷にも連絡しておけ」

 

「はい!! わかりました!!」

 

 部下に求める指示を出しながら、ドレークは屋敷の外へ足を向ける。理由は勿論……報告だ。

 

(今ここには飛び六胞も大看板もいない。メアリーズの大半も出払ってる。いるのはヤマトぼっちゃんにムサシお嬢様。厄介なのも数名いるが……今なら問題ない)

 

 “最悪の世代”の海賊X・ドレーク。元海兵で海賊の父親と同じ経歴を持つ彼の立場は、海軍がなくなった今も……変わってはいなかった。

 

 

 

 

 

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”、白土の島“バルティゴ”

 

 現在、世界の覇権を握るのは“海賊帝国”でありその両翼である百獣海賊団とビッグマム海賊団に間違いない。

 だが彼らは世界の全てを完全に支配した訳ではない。2年前の頂上戦争。その結果で百獣海賊団とビッグマム海賊団の海賊同盟は海軍本部と白ひげ海賊団に勝利し、800年以上続いた世界政府の体制を“力”で滅ぼした。

 白ひげ海賊団は船長である大海賊“白ひげ”を失い、傘下の海賊と直参の隊長を含む9割の構成員が戦死。

 世界政府側は大将2名が死亡し、中将数十名、少将以下9万人以上の海兵が死亡し、聖地マリージョアでは天竜人がほぼ全員死亡し、全軍総帥であるコング含む衛兵や政府の役人、CPも壊滅した。

 加えて王下七武海が1名死亡、3名が裏切った。更には海賊同盟側についていた金獅子海賊団も聖地にて壊滅。

 これにより、世界の大半は“暴力の世界”に堕ちた。幾つもの国が倒れ、秩序が崩壊し、何千万人という“弱い”人間が暴力によって死んだ。

 だがそれでもまだ海賊帝国の支配が完全になった訳ではない。海賊帝国に表立って逆らうことが出来る抵抗勢力が2つ存在した。

 1つは海賊帝国の支配に逆らう海賊。四皇“赤髪のシャンクス”と同じく四皇“千両道化のバギー”率いる海賊同盟。

 もう1つは世界中の幾つもの国を新たにまとめ、生き残った海兵らと合流して作り上げた唯一の秩序“新政府軍”。

 その2つに海賊帝国を含めた3つが謂わば今の世界の“三大勢力”である。

 無論、勢力としても戦力としても上なのは海賊帝国だ。抵抗する2つの勢力は積極的に敵対しないこともあり、どうにか各地の戦線を一進一退の状況に持ち込んでいる。それぞれの勢力には独自の強みもあり、それが海賊帝国が攻めきれない理由にもなっている。

 その三大勢力の1つ。新政府軍が今日まで体制を維持出来ている最たる理由──それは本拠地であるその島にあった。

 

「──ドラゴンさん。もうすぐ会議が始まります」

 

「ああ、すぐ行く」

 

「急いでください。クザン元帥も先に会議室の方に」

 

「サボの方は?」

 

「参謀長は到着が少し遅れるとのことで……後30分は掛かるかと」

 

「……仕方ない。ならば先に始めるか」

 

 バルティゴの新政府軍本部。旧革命軍の本部をそのまま使用した建物の一室で部下に呼ばれ、新政府軍の代表である顔に入れ墨のある男は席を立つ。

 

『新政府代表(元革命軍リーダー) ドラゴン』

 

「……今回は初めての会議だ。態々来てくれた者達を待たせる訳にはいかない」

 

「ええ、そうですね!!」

 

「スパイのチェックは?」

 

「問題ないとの事です!!」

 

「そうか……了解を得ていたとはいえ、首脳陣には悪いことをした。だが“メアリーズ”や裏の情報屋に嗅ぎ取られるワケにはいかないからな……」

 

「ええ、勿論です!! 今回の会議のために最大限の注意を払ってます!! チェックは万全かと!!」

 

「なら構わない」

 

 革命軍のリーダーであったモンキー・D・ドラゴン。

 “世界最悪の犯罪者”として世界会議の議題にも挙げられた程のお尋ね者である彼は今や確かな法と秩序を以て罪なき民衆を守る体制側、新政府の代表だ。

 彼には自分の意志でそれを務め上げる覚悟がある。民衆を虐げる相手を討ち倒し、民衆が不当な支配によって自由を妨げられないように守る。

 そのためには力が必要だ。だからこそ、彼は革命軍を組織し、天竜人の支配を終わらせようとした。

 ……そしてその目的は叶ったが、目的の達成は自分達の手によるものではない。海賊帝国の手によって結果的に叶えられた。

 だが民衆は余計に苦しむことになった。海賊帝国が──その片翼である百獣海賊団が提唱する暴力の世界では力なき民衆が虐げられる。

 他人を害する覚悟を決め、罪を犯すことを決めた民衆だけが生き残り、その覚悟が持てない者。あるいは覚悟を持っても相対した相手より弱い者が死に絶える。

 かつての生まれや立場、種族だけで虐げられるようなことは確かになくなった。が、虐げられる相手を決めるルールが変わっただけでこんなものはドラゴンの目指した世界ではないのだ。こんな無法な世界を認める訳にはいかない。

 そのためにもまだ戦わなければならない。そのために新政府も組織した。

 ……だが新たな体制を運営することは志を同じくした軍組織を導くのとは訳が違った。

 だからこそ今回──本拠地“バルティゴ”での初の“世界会議”を行うことになった。

 

「議題はやはり……海賊帝国についてだな……」

 

「そうだろう。そのために集まったのだからな」

 

「世界政府崩壊から2年……戦況は押されっぱなしだ。それぞれの領地で血を流す我々の犠牲を……さて、どう説明してくれるか」

 

「ああ……かつての“天上金”よりはマシとはいえ、戦費を賄っている我々の余力はさほど残ってはいない」

 

「“西の海(ウエストブルー)”ではあの“西の五大ファミリー”がとうとう全てビッグマム海賊団の傘下になったらしい……更にはジェルマ王国も海賊帝国と繋がりを持ったという情報も……」

 

 広々とした部屋に置かれた大きな丸いテーブルと椅子。それはかつての“世界会議”のように置かれたものであり、その用途もまた同じ。

 今回、会議を行うにあたって集まった各国の王や島の代表は口々に現在の世界情勢について話し合う。

 今や対岸の火事などという言葉は存在しない。今の世界の状況は想像以上に悪く、王たちは多かれ少なかれ不安を抱え、新政府に対する不満を持っていた。

 今回の顔を突き合わせての会議が開かれた理由も、不満を持った国々が迫ったのが原因だ。新政府はバルティゴの場所が漏れる危険性を考えて今までそれを拒否していたが、不満の声があまりにも多かったため結局は折れるしかなかった。

 何しろ彼らは“民衆の意志”を謳う組織。民意には逆らえない。必要最低限の人員──各国の王とその供数名のみで新政府軍の船を使うという条件を呑ませることは出来たが、話し合いを拒絶することは出来なかった。海賊帝国に本拠地の場所が漏れるリスクを冒してでも。

 ……が、そのリスクを理解し、更には新政府の懸念や意志を共有する国も幾つかある。彼らは他の国々のような海賊というだけで拒否反応を示すような“海賊アレルギー”もなく、新政府の考えに理解を示していた。

 

「……ンマー、でも良いニュースもある。魚人島の解放に……パンクハザードの崩壊。多少は状況が良くなったと言えるだろうな」

 

「ええ、自分もそう思います。予断を許さないのは確かですが、何も悪いニュースばかりではない」

 

「確かに。ルフィく……ゴホッゴホッ!! ……失礼。“麦わらのルフィ”と新政府軍。それに協力者のおかげで“楽園”の治安は以前より良くなっている」

 

 議場に良い意見も飛び出す。それを放っているのは水の都“(ウォーター)(セブン)”の市長であるアイスバーグやサクラ王国の国王であるドルトン。アラバスタ王国のコブラ王などだ。

 新政府や一部の海賊を擁護する彼らの意見はどちらかというと少数派だ。とはいえ民意を重んじるこの席においては確かな発言力が存在する。発言が蔑ろにされることはない。

 

「一理はある。だが魚人島は解放されたとはいえ、それまでに国王や多くの国民が犠牲になっている!! そうなってからでは遅いだろう!!」

 

「そうだ!! 新政府発足当初にいた加盟国も幾つも犠牲になっている!! そして今なお海賊帝国の支配は留まることを知らない!!」

 

「新政府軍の采配が悪いせいではないのか?」

 

「自分の息子だからと海賊を見逃したという噂も聞いたぞ。それは如何なものだろうか? 公約通り、海賊ならばきちんと捕らえるなり殺すなりして取り締まって貰いたい」

 

「クザン元帥!! あなたはどう思っておられる!? その海賊に対するぬるい対応が今の世界を引き起こしたとは思わないのかね!!」

 

「おい!! そこを蒸し返してもどうにもならん!! 少しは落ち着け!!」

 

「落ち着いてられるか!! 我が国は既に海賊を中心とした革命勢力に国土の半分を落とされたんだぞ!! だというのに新政府は──」

 

「静粛に!! 静粛に!!」

 

「…………」

 

 ──だが、議場は紛糾していた。

 新政府に強い不満を持つ加盟国の代表達は攻勢を遅らせるばかりで煮え切らない新政府軍の働きに強い苦言を呈する。その勢いは代表であるドラゴンや軍のトップであるクザンに責任を取らせる勢いだ。

 

『新政府軍元帥(元海軍大将青雉)クザン』

 

「……そいつは申し訳ありませんね。でも……あー……ほら、アレだ。こっちも怠けてるばかりじゃなくてね……一応海賊帝国に大打撃を与える手をもう打ってんのよ」

 

「!!?」

 

「それは……」

 

「それは一体……どういう……?」

 

 だがクザンは不満にもいつもの調子を崩さず頭をカリカリ掻きながら平然と彼らを驚かす事を口にする。

 海賊帝国に大打撃を与える手。その言葉を各国の代表達が追求するのは当然だった。

 

「……情報漏洩の可能性があるもんで詳しくは言えねェんだが……まァ、大将を2名動かしてるとだけ言っときましょうか……海賊帝国の()を攻め落とすために」

 

「!!?」

 

 クザンはその作戦を大まかに説明する。各国の代表者を黙らせるためにも、これ以上罪なき人々を傷つけさせないためにも、自分の正義を貫くためにも──今現在の状況は好機なのだ。

 

「更にそれが上手くいけば……世界の風向きは一気に変わる……だから各方、色んな不満があるでしょうが……一日、様子を見ちゃあくれませんか」

 

「一日……」

 

「そんな僅かな時で……状況がより好転すると……?」

 

「ええ。上手くいけば……ですがね」

 

 クザンは頷き、覚悟を決める。

 ──ここからは化かし合い。分の悪い勝負ではあるものの、上手くいきさえすれば状況は進展する……いや、させなければならない。

 この好機を逃せば再び希望のない泥沼に嵌ってしまう。そうなれば後は破滅まで沈みゆくのみだ。

 可能性は低いが……それでも以前よりは決して分の悪い賭けではない。場を引っ掻き回す“鬼札”も既に現場に向かっている。

 

(魚人島にパンクハザード……海賊帝国の支配に穴を空けたあいつらならまた……あるいは……)

 

 クザンは議場の机の上に置かれた手配書──麦わら帽子の男が写ったそれを見て思う。

 ──幾ら体制側の身内とはいえ、表向き便宜を図ることは出来ない。現場ではお目溢しが可能とはいえ、百獣海賊団の大幹部を退けた彼らの手配を取り消すことは出来ないし、ましてや脅威度も下げることも出来ない。ゆえに幾つか更新された手配書にはこう書かれていた。

 

『“麦わらのルフィ” 懸賞金8億ベリー』

 

『“海賊狩りのゾロ” 懸賞金4億2000万ベリー』

 

 

 

 

 

 ──“新世界”、“カライバリ島”

 

 現在の世界の中心は新鬼ヶ島とホールケーキアイランド。海賊帝国の2つの本拠地に違いない。

 だが最も技術力に優れ、文化を育み、裕福な場所は──この“カライバリ島”であろう。

 島を囲むのは堅牢かつ最新の科学兵器が搭載された要塞と同じく最新鋭の海洋兵器群。この島を本拠地に置く海賊──科学帝国の虎の子である軍艦や潜水艦を含む艦隊だ。

 そして国土を防衛し、あるいは上陸作戦の際に使われる最新鋭の陸上兵器──“戦車”部隊が科学帝国の領土全てに配備されている。

 索敵にも隙がない。電伝虫やビッグマム海賊団で用いられているナワバリウミウシを解析して作り上げた各種レーダーやソナーが各基地。要塞には実装されている。

 

「おいもうすぐだぜ。総帥の演説の時間だ」

 

「おお、そりゃいけねェ。電伝虫をつけねェとな」

 

「もうすぐ総帥の乗った車が到着するぜ」

 

「ママ~。肩車して~!!」

 

「おいおい押すんじゃねェ!!」

 

 そして街並みはこの暴力の時代に似つかわしくないほどに整備されていた。

 街行く人々にも文化的な様相が見て取れる。身につけた小綺麗な洋服や軽食やお菓子を売る出店の屋台。警備の海賊達の装備は自動小銃に自動拳銃。防弾チョッキや人によってはヘルメットや刃物の類も装備している。

 圧倒的な防衛力を誇るこの国は新世界各地から移住希望が相次いだ。それにより不足していた人手が集まり、技術の発展、開発を促進した。更には悪ブラックドラム王国や幾つかの国々に兵器を卸すことで金も集まった。そしてその金が更なる技術の発展を促す。

 そして“バギー科学帝国”は世界一の技術大国となった。

 

「ぎゃはははは!!! 親愛なる国民諸君!!!」

 

「あっ、バギー総帥だ!!!」

 

「総帥~~!!」

 

「バギー船長~~!!」

 

「キャプテン・バギー!!」

 

 そしてそのバギー科学帝国を治めるその男こそ、この国の“総帥”でありバギー海賊団の“船長”でもある“四皇”。あのロジャー海賊団の元船員であり、四皇“赤髪のシャンクス”の兄弟分である伝説の男。

 彼は科学帝国の首都であるこのカライバリ島の広場。総帥邸が置かれるその場所で車から降りると足下につけた浮遊装置で浮かび上がり、国民と部下達に向かって盛大かつハデに語りかけた。

 

『“四皇”バギー海賊団及び科学帝国“総帥” “千両道化のバギー” 懸賞金30億1500万ベリー』

 

「どうもごきげんよう!!! 今日も楽しんでるか!!?」

 

「当然だぜ!! バギー総帥~~!!!」

 

「総帥~~~!!!」

 

「ぎゃ~はっはっはっ!! そうかそうか!! ならもっと働け!! そして楽をしろ!! 技術が発展すりゃあより良い思いが出来る!! 戦争にだって勝てる!! パンクハザードの崩壊で兵器市場もおれ達の一人勝ちだ!!! そしてその技術を与え、お前らを導くこのおれ様──“四皇”!! “千両道化のバギー”様に感謝しろ!!!」

 

「ウオ~~~!!!」

 

「バギ──!!」

 

「総帥!! 総帥!!」

 

「キャプテン・バギー万歳!!!」

 

「バギー総帥万歳!!!」

 

「総帥万歳!! バギー科学帝国万歳!!!」

 

 バギーの部下だけではない。老若男女問わず、この国に住み着いた全ての者達がバギーに感謝し、声を上げる。その熱量、熱狂ぶりは一種の宗教にも似ていた。この地獄とも言える世界においてバギーという男がもたらす恩恵。そのカリスマ性は彼らを盲目的に熱狂させるのに十分だった。その経歴からも信頼性は十分。もし科学でどうにもならないことがあっても大勢の海賊達を率いる大海賊である彼がいれば安心だと誰もが思っている。

 事実、海賊帝国の攻勢すら防ぎきってみせる科学帝国の防衛力は三大勢力の中でも群を抜いていた。四皇本人やそれに準ずる最高幹部が同盟相手である赤髪海賊団や他の勢力にかかりっきりになっており、科学帝国には攻めて来ないのが大きいとはいえ、その最新鋭の兵器群と装備による圧倒的な火力と制圧力は脅威であり、一定の実力と物量がなければ攻めきることは不可能である。四皇本人や最高幹部が直接対峙しなければ手に余る相手──それが科学帝国だった。

 無論、四皇クラスの相手──たとえばカイドウやぬえが攻め入ればぬえの知る怪獣映画のような絵面で一気に滅ぼされるとはいえ、その気配があれば赤髪海賊団が出張ってくることもあり、今日まで科学帝国は最も文明的な生活を営み、幸福を享受していた。

 

 ──が、そんな幸運な彼らとて世界のうねりからは逃れられない。

 

「あ、バギー総帥。Dr.ベガパンクが呼んでましたよ」

 

「あァ!? なんだベガパンクの野郎。また変な金の掛かる発明をさせろって言ってくんじゃねェだろうな?」

 

「たまにはいいんじゃないかい? ベガパンクの発明は私達の生活も楽になるだろう?」

 

「ふむ……まあ今更国民が文句を言うことはないだろうが、労働を促進し、取引相手から金を引き出すには人の役に立つ発明品を売り出すのも悪くないガネ。生活を豊かにすれば生産力も高まり、愛国心も生まれ、戦意高揚の効果もある。移住者が増え続け、兵士を希望する国民が増え始めていることから鑑みても、国民感情を軽視するべきではないガネ」

 

「まあ勝ってるうちはどうにかなるんじゃねェか?」

 

 ──演説が終わった後のバギー総帥邸。そこの豪奢かつ機能性に満ちた会議室にバギー科学帝国の幹部達がおおよそ揃っていた。

 戦車部隊や歩兵部隊を指揮する陸軍卿のモージ。

 科学帝国の経済を管理する財務卿のアルビダ。

 事務方や外交。内務卿と外務卿を兼任するギャルディーノ。

 主戦力である艦隊を指揮する海軍卿のカバジ。

 国獣。聖獣リッチー。

 彼らこそが四皇“バギー科学帝国”の最高幹部。後1人はその場にはいない。常に研究室に籠もっている変人であり世界一の科学者である。

 そしてその人こそが科学帝国躍進の立役者であった。そんな彼が、突如部屋に入ってきた部下によると──

 

「──バギー総帥!! Dr.ベガパンクが島を出ました!!!」

 

「はァ!!? 何だってんだあの野郎!! おれ様を呼んでたんじゃねェのか!!?」

 

「いやそれが……何でも後から付いてきて欲しいと……“時は一刻を争う”とのことで……」

 

「フザケんなァ!! あの派手バカ野郎!! 船を出してすぐに連れ戻すぞ!!!」

 

「は、はい!!」

 

 ──独断で島から脱走した。

 

 

 

 

 

 ──“新世界”、“ホールケーキアイランド”。

 

 その島は40以上の島々からなる“万国”という国の首都にあたる島であり、海賊帝国の片翼“ビッグマム海賊団”の本拠地だった。

 そしてその中心、“ビッグマム”の居城たるホールケーキ城では例の1件についての報告をパンクハザードにいた内通者から受けているところだった。

 

「確かなんだな?」

 

『ああ!! 新聞はウソじゃねェ!! ドフラミンゴが本当に裏切ったかどうかは分からねェが……麦わらの一味が“クイーン”を出し抜いたのは確かだ!!』

 

「……そうか……なら迎えを寄越す。お前はこっちに戻って来い」

 

『了解だ!! フォスフォスフォス……!! あ、そういや見返りのゾンビの件は──』

 

 電伝虫からの報告。情報の裏が取れたと判断するやいなや、通信を切ったのはビッグマム海賊団の幹部にしてチーズ大臣であるシャーロット・モンドールだ。

 彼はビッグマム海賊団の参謀役として働くシャーロット家きっての頭脳派であった。19男というビッグマムの子供達の中ではそこそこの序列ではあるが、シャーロット家は決して年功序列の組織ではない。血縁主義ではあるものの実力がある者は兄妹の上下関係とは別に当然、組織で重要な役や地位を得る。ビッグマム海賊団の最高幹部“将星”が実力で選ばれていることからもそれは明らかだ。

 

「本気かよ!! ママ!!」

 

「──ハ~ハハマママママ……ああ。カイドウやぬえに任せっきりじゃこっちの面子が立たないからねェ……!! ペロスペロー!! 軍隊を編成しな!! 船を出すよ!!!」

 

「! ああ……分かったぜ、ママ!!」

 

 そしてホールケーキ城のその玉座。そこに座るのは家族内の序列でも実力でもビッグマム海賊団の頂点に立つ一匹の怪物だった。

 今やこの世界で彼女を知らない者などいない。体長8メートルを超える巨大な体躯を持つ彼女は60年以上のキャリアを持ち、40年以上もの間、この海で最強の一角として君臨してきた“四皇”の1人。

 

『“四皇”ビッグマム海賊団船長“ビッグマム”シャーロット・リンリン 懸賞金50億8800万ベリー』

 

「そろそろこっちも“石”を回収してやらないとねェ……!!!」

 

「でもママ。プリンはまだ……」

 

「分かってるよ。だがプリンの真の開眼を待たなくてもカイドウ達は読む手段を持ってるようだからねェ。──勿論、お前が目覚めてくれるのが1番だよ♡ プリン♡」

 

「──もうママったらまたそれ!! 私にそんな能力が眠ってる保証はないんだからね!!」

 

「ハ~ハハハ!! 悪かった!! ──ところで()()()()はどうだい? 仲は順調かい?」

 

「問題ないわよ、勿論。あの人はちゃんと私達の()()()()になってるわ。仕事もとっても前向きに取り組んでくれてる」

 

「マママママ……!! そうかい。そりゃあ良かった!! プリン、お前の旦那になる人は戦力を得るために重要な相手だからね。仲良くするんだよ♡」

 

「……わかってるわ、ママ」

 

 世界中の海賊達の頂点たる大海賊の1人“ビッグマム”。民衆どころか実の家族にすら恐れられる彼女も、子供達の前では母としての顔を覗かせる。

 娘の1人であるシャーロット・プリン──彼女の婚約者との仲を心配してみせる程には。

 

「ハハハ……それにしても思わぬ拾い物だ。まさかあれほど料理の腕前があるなんてねェ♡ おまけに弱くはない。ぬえの提案を受けて良かったよ。正式な結婚式はまだだが、あいつを手放す気はないよ。この件が終わったら準備をしないとね。盛大にやるよ!!」

 

「ああ!! 了解だ、ママ!!」

 

 そして子供達もまた家族への情に厚い。

 兄妹達の結婚はビッグマム海賊団にとって何よりもめでたいイベントだ。新しい家族が増える。シャーロット家は新しい家族の誕生を何よりも喜ぶ。

 ──そして家族が増えるということは……ビッグマム海賊団の戦力が強化されることを意味する。

 

「ハハハ……マ~ママママ……!!! 巨人族にマフィア……そして次はジェルマ……!! そろそろ準備が整ってきたねェ……!!!」

 

「そういやァ、ママ。()()()は──」

 

「ああ。そっちはカタクリに任せてあるからね。上手くやるハズさ」

 

 そして忘れてはならない。

 海賊帝国は百獣海賊団だけじゃない。ビッグマム海賊団もまた、この海に君臨してきた海の皇帝の一角であり決して甘くみてはならない。

 彼女もまた虎視眈々と“海賊王”を目指す者の1人なのだ。

 

 

 

 

 

 ──“新世界”、“とある海域”。

 

 “麦わらの一味”に“ハートの海賊団”。加えて何人もの協力者を乗せた船はドレスローザへと針路を取りながらローの作戦を聞いていた。

 

「ドフラミンゴの裏切りは許されないだろう。百獣海賊団に正式に加わるとでも言えば戦争は回避出来るだろうが……ドフラミンゴの性格上、それはない。遅かれ早かれ……いや、あるいは既にドレスローザには百獣海賊団が攻め入ってるかもしれない。ドフラミンゴが消されるのも時間の問題だ」

 

「じゃあ私達はチョッパーを洗脳した能力者と……サンジ君の情報をこっそり得るためにそこに行くワケね」

 

「ああ。未だ裏切りがバレてないおれなら情報を得ることは可能だ。加えて“SMILE(スマイル)”の工場も破壊する。そして状況次第ではあるが……戦いが終わって弱っているなら幹部を討ち取るのもありだ。敵の戦力は強大。減らせるなら減らした方がいい」

 

「それってまた“大看板”か? さっき言ってたジョーカーって奴ならおれに任せろ!!」

 

「その可能性は高いが……甘くは見るな。奴は強さも勿論そうだが、更に厄介なのはその諜報能力。破壊工作や情報操作。扇動に離間工作に同士討ち……暗殺まで何でもありだ。お前らが戦ったジャックやクイーンとはまた別の意味で危険な女……“戦災”の異名を持つ怪物だ」

 

「“戦災”ってどういう意味だ?」

 

「戦闘員や軍事的施設以外の戦争被害……つまり、戦いに関係ない民間人が戦争の被害を受けることよ」

 

「カタギだろうが関係なく手を出すってことか……またとんでもねェ悪党みてェだな」

 

 ローの口からはこれからのドレスローザでの行動。そして敵となるであろう大看板“ジョーカー”についての情報が共有された。ルフィなどは“戦災”の意味が分からずに仲間に質問するが、それにはロビンが答える。フランキーや他の仲間も含めて正しくその脅威を認識したところでローはまとめるように続けた。

 

「とにかく気をつけろ。もうすぐドレスローザだ。島についたら隠れて行動しろ。騒ぎは決して起こすな。敵の行動に注意して何かあればまず疑え。いいな、騒ぎは起こすなよ?」

 

「おう!! チョッパーとサンジの事、頼むな!!」

 

「……ならいい。もうじき島が見えてくる。おれはおれの船に戻って姿を隠す。おれの事は話すなよ──よし、作戦開始だ」

 

「はい船長!!」

 

 最後に注意をしてローは自らの船である潜水艦ポーラー・タンク号に乗り込み、部下達に指示を出して海面下に潜る。

 今回の作戦は隠密行動が鍵だ。そしてローの裏切りもまだバレてはならない。ルフィ達とローが一緒にいれば明らかにおかしいのだ。

 

「…………」

 

「ん? どうかしましたか日和様。もしやあの者に何かされたとか?」

 

「……お黙りなさい、錦えもん。貴方も、ついてくるなら私や彼らの邪魔はしないように」

 

「む、むぅ……それは……いや、しかし……」

 

「いいですね?」

 

「……しょ、承知しました……」

 

 そしてそのローを何か思うところがある表情で見ていた日和に、錦えもんは気になって声をかけたものの返ってきたのはそっけない言葉。未だに日和と錦えもんの間には微妙な空気が流れていた。麦わらの一味の手前、激しく追求することこそないものの錦えもんは何か言いたげであり、逆に日和は毅然とした対応を貫き続けている。

 

「しゅ、シュロロロ……お、おいお前ら。悪いことは言わないからやめとけ。今からでも逃げないか? そして心臓を返しておれ様を解放──」

 

「大人しくしておれ」

 

「おい、戦争が起きてるって……ご主人様は大丈夫なんだろうな!?」

 

「それにしても……動かねェな、くま。まさかもう壊れて──」

 

「!! 何だと長っ鼻ァ!!!」

 

「ギャア~~~!!? わ、悪い!! 悪かった!! だから銃は引っ込めてくれ!!!」

 

「おいてめェ……ウソップ先輩に何するっぺ!! “バリア”!!!」

 

「つーかお前誰だよ……」

 

 そして船の上には麦わらの一味以外にも侍2人にシーザーにくま、ジュエリー・ボニーら。──そしていつの間にか船に乗り込んで感動しまくり、ウソップの危機にバリアを張って駆けつけたバルトロメオがいた。ゾロが呆れ気味に指摘する。

 気づけば呉越同舟。協力者は多いが、曲者揃いでまとまりがあるとは言えない面々。作戦を共有し終わって船の上が再び賑やかになるが、いつまでも呑気に騒いではいれない。

 

 ──しばらくして島が見えてくると……誰もが驚くことになる。

 

「うほーっ!! なんだあの島!! ぴかぴかに輝いてるぞっ!!」

 

「ほんと……それに奥にも島がある。ドレスローザってそういう島なの?」

 

「!! いや、違う……!!」

 

 麦わらの一味の殆ど。新世界の島々や情報に詳しくない面々は見えてきた光り輝く島に驚き、奥にある島と合わせて巨大な島なのかと思う。

 だがジンベエやシーザー。ボニーや光月日和。はてはバルトロメオでさえその島に気づいた。

 日中でさえその綺羅びやかさに目を奪われてしまうその巨大な移動島。それは新世界で有名な世界一のエンターテイメントシティ。

 動力源である2体の巨大カメ“ギガントタートル”が船首の先で休み、普段はその動力源で天候や波に左右されず自由に航海することが出来る。

 加えて海賊帝国の所属ということもあり、海賊の被害もほぼ皆無。安全が担保されたその島は世界中の金持ちがその富とともに集まり、日夜問わず楽しみ続ける。誰も手を出さない絶対聖域。その夢の街。島の名は──

 

「“グラン・テゾーロ”……!!!」

 

 その黄金船がドレスローザに着港していた。

 

 ──プルルルル。

 

「!」

 

「!?」

 

 そして麦わらの一味とハートの海賊団。両船が島を確認すると同時に、2つの電伝虫が同時に鳴り響く。

 

「もしもし!! 誰だ!!?」

 

「(このタイミングでの電話……?) ……おれだ」

 

 両船長が受話器を取る。その相手が誰だか分からず。

 だがそれはすぐ分かった。相手は当然、それぞれ別の者。

 

『──フッフッフッ……“麦わらのルフィ”……!! お前……今近くまで来ているんだってな……?』

 

『──ハハハ……トラファルガー・ロー。“麦わらの一味”の追討任務中に失礼する』

 

「ん? お前、誰だ?」

 

「! お前は……」

 

 相手は2人とも男だった。

 その声にルフィは気づけない──が、ジンベエや日和が知っていたおかげで知ることは出来た。

 その声にローはすぐに気づく。目の前にある島の支配者。このタイミングで掛けてくることを訝しみながら。

 そして両者共に相手の続く言葉。用件を聞いた。

 

『相談があるんだ。すぐに島に来てくれ……港で待ってるぞ』

 

『少々提案があってね。私の街にまで来てくれないか? 手を貸して貰いたい』

 

「何だと!!?」

 

「何……?」

 

 用件はどちらも似たようなものだった。互いの支配する島──そこへの招待。

 当然、含みはある。両者共に警戒した。

 だが既に島に近づいたことは気づかれている。その上、続く彼らの言葉は表向き、断りにくいものだった。

 悪魔が囁くように──

 

『おれ達は……()()パンクハザードを崩壊させた“同盟”だろ……? フッフッフッ……!!! 待ってるぞ……!!!』

 

『なに、君の上司から頼まれてね。警戒する必要はない。我々は共に海賊帝国の仲間だろう? VIP席を用意している。待っているぞ……!!!』

 

「……!!」

 

 そして──また一方では、別の声が交わされる。

 

『首尾はどう?』

 

「ええ、こちらは問題ありません。例の()()()()も、他の情報もしっかりと裏に流しておきましたわ」

 

『そう。それじゃあ私も動き始めるからよろしくね? 麦わらの一味や彼らについてはあなた達に任せるわ』

 

「はい、お任せを♡ ──それでは始めましょうか」

 

『ええ、始めるわよ♡』

 

 告げる。欲望と狂気に満ち溢れた──

 

「さあ、ショータイムよ♡」

 

 ──“戦災(ショー)”の幕が開いた。




ドレスローザ→攻められ中。
カイドウ→新鬼ヶ島にはいない。どこかへ移動中。
ドレーク→お留守番。こそこそと厠に。
バルティゴ→場所がバレないように徹底してる。世界会議中。
世界会議→参加してるのは40カ国程度。国だけじゃなくてW7みたいな島単位の自治体もあり。参加者は数名で新政府の船で送迎。
W7→アイスバーグ。護衛にパウリー
サクラ王国→ドルトン。同行者でドクトリーヌ。
アラバスタ王国→コブラ王。ビビにペルにイガラムがいる。
クザン→元帥になってからだらけてる暇があんまりない。作戦中。
懸賞金→ルフィはジャックとクイーンを倒した訳ではないけど出し抜いた+解放と崩壊加算。ゾロは同じくササキ相手の戦闘による加算です。相手が高いので上昇幅が大きい。後新政府側の事情もあります。
科学帝国→絶賛産業革命中。ワンピ世界は地味に自動小銃とかも既にあるけど量産化はされてない。でも量産化に成功しました。原作と違い海賊だけじゃなくて普通に民衆がいます。防衛力は高いですが、カイドウやぬえちゃんが来たらゴ○ラみたいな怪獣映画みたいに蹂躙されます(幸運)
ギャルディーノ→頭脳労働出来るのが1人しかいないので地味に科学帝国の要の1人。意外な政治センスを発揮してます。
ベガパンク→脱走? 言うまでもなく科学帝国が出来たのは彼のおかげ。
バギー→多分、将来歴史の教科書に乗る。
ホグバック→ビッグマム海賊団に。
プリン→式は上げてないけど内々的には結婚済み。
ビッグマム→最近来た料理人がお気に入り。どこかへ行きます。
麦わらの一味→サンジがいない代わりにハートの海賊団にボニーにくまにシーザーに日和に錦えもんにバルトロメオ。結構な戦力。
ドフラミンゴ→ジョーカーに蹴られる。覚悟を決めて何か企み中。
テゾーロ→こっちも何か考えてる。
ジョーカー→今回の大ボスになるかもしれないしならないかもしれない。
ぬえちゃん→行方不明のぬえちゃんもかわいい。

今回はこんなところで。あけましておめでとうございます。新年一発目にしては遅いけどご容赦ください。
今回は匂わせ策謀回です。どの勢力も動きがあります。で、とんでもないことになるかもしれません。ならないかもしれません。四皇が全員遠征します。誰がどこに行くか。ぬえちゃんがどこに行くか。あるいはいるか。情報戦で騙し合いのドレスローザ&グラン・テゾーロ編、次回から始まります。

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