正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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コール

 ──ドレスローザ近海。

 

 突如、2つの船の上で同時に届いた通信の内容。その一方に対し、“麦わらのルフィ”は反射的に声を上げた。

 

「お前……何言ってんだ!!?」

 

『フッフッフッ……!! 何って……お前こそ何を言ってんだ? おれ達は“同盟”だろう。こうやって連絡を取り合うことに何か不自然があるか?』

 

「おれはお前と同盟を組んだつもりはねェぞ!!!」

 

「コラコラコラ!! 待てルフィ!! ──いや~、そ、そうだな。おれ達は同盟を組んだ仲だもんな!! 連絡してきても何もおかしくないぜ、うんうん」

 

 電伝虫の相手は──ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 ルフィ達がこれから上陸するドレスローザの国王にして元七武海。海賊帝国傘下の海賊。そして……ルフィ達、麦わらの一味の表向きの同盟相手であり、ローの策によって陥れた一味の首魁。その張本人だ。

 既に船はドレスローザが見えるところまで近づいている。電伝虫も繋がっている。誰が聞いているかもわからない。ゆえに正直に同盟を組んだ憶えはないというルフィの口を塞ぎ、ウソップは代わりにそんなことを白々しく口にする。ないとは思うが百獣海賊団に聞かれていたらまずいと、そう思ったが──

 

『──ああ、勿論冗談だ……おれの方もお前らと同盟を組んだ憶えはない……!! フッフッフッ……!! よくもやってくれたな……!!!』

 

(メチャクチャ怒ってらっしゃる~~~~!!!)

 

「おい、何の用なんだ!! 用がないなら掛けてくんな!!」

 

「ちょ、ルフィ……!! そんな火に油を注ぐようなマネは……!!」

 

 電伝虫越しでも感じるドフラミンゴの圧にウソップやナミが白目を剥くが、ルフィは喧嘩腰のまま用件を問う。ナミが小声でルフィを諌めようとしたが、その必要はなかった。最後まで言い終える前に、ドフラミンゴの方から返答がくる。

 

『まァそのことについても色々言いてェことはあるが……今はいい。それよりもおれは“提案”したいんだ。“麦わらのルフィ”……!!』

 

「提案?」

 

『フッフッフッ……ウソを本当の事にする。つまり──ウチとお前達の本当の“同盟”さ……!!!』

 

「!!?」

 

 サニー号の甲板に衝撃が走る。ウソをウソだと理解した上での──本当の同盟。

 ドフラミンゴの口から出た提案は一味が予想だにしなかった言葉だった。

 

「嫌だ!! お前はアホシーザーのボスだから嫌いだ!!」

 

『まァ落ち着け……ウチはお前らのせいで散々でな。戦いの音がそこからでも聞こえるか? 今おれの王国には百獣海賊団とテゾーロの野郎の兵が攻め込んで来ている』

 

「!」

 

 反射的にルフィはドフラミンゴの提案を蹴ったが、構わず話し続けるドフラミンゴの言葉に耳を傾けてしまう。一味も思わず島の方を見た。──確かに、微かに鋼と鋼を打ち合わせるような音や人々の咆哮や悲鳴。銃声や大砲の音が聞こえている。

 ドフラミンゴは僅かな間に一味がそれを確認したと判断して話を続けた。

 

『お前らのせいでウチの兵士もなんの罪もない国民も苦しんでる……!! このままじゃ、おれもおれのファミリーも国民も全員破滅だ。海賊帝国に皆殺しにされる……!!』

 

「……!! それはお前が何とかすればいいだろ!! 王様なんだろ!!?」

 

『フッフッフッ!! ああ、勿論おれも無抵抗でやられるつもりはねェ……!! おれは家族想いでな。大切な“ファミリー”と親愛なる国民共を守らなきゃならねェ』

 

 ドフラミンゴは言う。自身の海賊団であるドンキホーテ・ファミリーとドレスローザ国民を船長として、王として戦うことで守らねばならないのだと。

 相変わらず笑みは崩しはしないが、ドフラミンゴはドフラミンゴなりに真実を口にしていた。ドフラミンゴと接したことのない麦わらの一味にはその真偽は分からない。

 

『だが相手は強大だ……!! おれ達がどれだけ戦ったところで海賊帝国……百獣海賊団に勝てるかどうか……まァ、可能性は限りなく薄いだろう。それでも戦わなきゃならねェなら……どんな手段でも取るしかない……!! たとえ、おれを嵌めたガキ共相手であっても……!! 下手に出て“交渉”しなきゃならねェってことだ』

 

「!! さっきから何が言いてェんだ!!?」

 

 回りくどいドフラミンゴの語りにルフィが焦れて本題を促す。──が、その時点でルフィ達はドフラミンゴのペースに嵌っていた。取引のプロである仲買人(ブローカー)、ドフラミンゴのペースに。

 

『フッフッフッ!! おれはお前らの仲間を元に戻す“手段”を持っている』

 

「!!?」

 

「え……!!?」

 

 そして今度こそ、ルフィ達の口が止まる。ドフラミンゴのペースに呑まれないようにと注意しようとした一味の面々もさすがにその言葉は無視出来なかった。

 

『“わたあめ大好き”チョッパー……百獣海賊団に洗脳されたお前らの仲間を元に戻してェんだろ? おれはその能力者を確保している……!! 百獣海賊団の真打ち……戦闘能力のないただのガキだが“キビキビの実”の能力で動物を意のままに操る凶悪な能力者だ。加えて……“黒足のサンジ”。そいつがどこにいるかの情報も、おれは持っている……!!!』

 

「!! 本当か!!?」

 

「え、ご主人様がそこにいるのか!! おい、ドフラミンゴ!! ご主人様を返せ!!」

 

『ああ……仲間の洗脳を解く能力者と仲間の居場所の情報……!! 同盟話を受けるならその2つをお前らに渡す準備は出来ている』

 

「……!!」

 

 そこまで聞いて、ルフィ達はついぞ言葉を失う。返答は軽々しく出来ない。チョッパーは主人がドフラミンゴのところにいると聞いて電伝虫越しに食ってかかろうとする。

 ここまでの忠誠心を見せるチョッパーを元に戻し、連れ攫われたサンジを取り戻すのは一味にとって急務だ。なんなら海賊帝国を倒すことよりも重要なこと。仲間がいなければ作戦も何もない。

 ゆえにこそなんとしてでも取り返したいが、かといってドフラミンゴと同盟を組んで良いものか。ローに相談しなくていいのか。そんな迷いや動揺が一味に生まれる。

 

『フッフッフッ……!! さァ、今すぐにに返事を──と、言いてェところだが……お前らもすぐには決められねェだろう。そこで時間を設け、改めて話し合おうじゃねェか』

 

 そしてその動揺の隙を突いたドフラミンゴの言葉が甲板に響き渡る。何を考えているのか、ドフラミンゴは敢えて彼らに時間と相談の機会を与えてみせた。

 

『これから30分後……港に迎えを寄越す。電伝虫越しじゃ言葉の真意や誠意ってもんが伝わらねェだろ? 互いに面と向かい合う場を設け、そこで話し合う。おれの狙いもお前達の答えもそこで聞こうじゃねェか』

 

「……!! おい、ちょっと待──」

 

『美味い酒と料理でも用意して待ってるぜ……!!!』

 

 その提案に対してもルフィ達は否とは言えなかった。代わりにドフラミンゴが電伝虫を切ろうとしている気配を察して制止の言葉を口にしたが、直後にルフィ達の言葉を待たず電伝虫の通信は切られてしまった。

 甲板に静寂が訪れる。仲間を取り返せるかもしれない。罠かもしれない。近くにいることはバレている。これからどう動くべきか。一味の頭の中に様々な考えが浮かび上がる──そんな時。

 

「──おい、作戦会議だ。少し状況が動いた」

 

「ウギャアアアア~~~~!!? もう迎えが──って、お前かよ!!! 急に現れて驚かすんじゃねェ!!!」

 

「トラ男!! 今ドフラミンゴから連絡が……!!」

 

「!!?」

 

 サニー号の甲板に瞬間移動──オペオペの実の能力を使ってローが現れ、ウソップが大げさに驚く。それを無視してナミが今しがた起こったことをローに説明する。

 それを聞いたローはややあって頷いた。

 

「……成程。タイミングは同じか」

 

「え、どういうこと!?」

 

「こっちでも連絡があった。相手はお前らとは別の相手だがな」

 

 言ってローは互いに情報を共有しておくために自分のところに来た通信の内容も“麦わらの一味”に話した。

 

 ──それは遡ること数分前。ドフラミンゴの通信がルフィ達に届いたのと同じ時間。

 

「……提案? 何の話だ。そんな話、おれは聞いていない」

 

『だろうな。私から君に伝えるように頼まれた』

 

「……誰にだ?」

 

『──ジョーカー殿さ。既に見えていると思うが……今、私はジョーカー殿のエスコートの任を任され……ジョーカー殿の率いた兵と共にドレスローザに上陸している』

 

 ハートの海賊団の船“ポーラー・タンク号”の船内。海中を航行する船内でローは電伝虫の相手──“黄金帝”ギルド・テゾーロと言葉を交わし合う。

 ローとしてはテゾーロなど無視してすぐにでも目的のために動きたいが、連絡を無視する訳にもいかない。今はまだローの立場は百獣海賊団の“飛び六胞”のままだ。大看板であるジョーカーの伝言と言うなら受け取る他ない。

 ──とはいえこのタイミングの連絡はきな臭いものを感じる。ゆえにローは警戒しながら、それでいてボロを出さないように慎重に、言葉を選んで会話を行った。

 

「……成程。ドフラミンゴへの制裁か」

 

『ああ。パンクハザードの件を追及……もとい彼を始末するためにぬえさんから命令された。今ジョーカー殿と兵はドレスローザに攻め込み、現在進行形で戦闘の真っ最中だ』

 

「! ジョーカーが直接戦場に出てるのか?」

 

『ハハ、珍しいだろう。まァ海賊帝国から見ればドフラミンゴなど取るに足らないものとはいえ……厄介な男には違いないからな。さしものジョーカー殿もいつものように手を下さず彼を始末するのは難しいらしい』

 

 ローはテゾーロから得た情報に僅かだが意外性を感じる。ドフラミンゴを始末しに来た“大看板”ジョーカー。彼女が攻めて来ることは想定内だが、ジョーカーと言えば自分の手を下さずに敵を始末する謀殺のスペシャリストだ。あるいは秘密裏に敵を消す暗殺のプロ。ジョーカーが正面から戦場に乗り込んで暴れるというのは珍しい。“災害”と呼ばれる“大看板”の中でもジョーカーだけは異質な存在。

 無論、戦うことが0という訳ではない。大看板でも随一の戦闘技術を誇る殺しの達人という顔も持つジョーカーだ。相手がドフラミンゴなら正面から叩き潰した方が早いと判断したのか。確かに、それはそうかもしれないが……ローとしては少し疑問を覚える。

 

『まァもっともいつも通り、ドフラミンゴが百獣海賊団に正式に下ることを了承すれば今すぐにでも戦闘は止まるのだろうが……フッ、奴には無理な話だろう』

 

「……確かにな。ドフラミンゴが下ることはないだろう。……だが……ならお前は今何をしている? ジョーカーのドフラミンゴ討伐の手伝いをしているんじゃないのか? ジョーカーがお前程の“戦力”を遊ばせて自ら出張ってるのはどういう理由だ?」

 

『ハハハ……だから言っただろう。提案があるんだ。それに……私からの個人的な相談もね』

 

「? だったら早く言え。こっちは“麦わらの一味”の追討任務で忙しい」

 

 ローは本題を早く口にしろと急かす。表向きの意味でも裏向きの意味でもローに遊んでいる余裕はない。テゾーロの──ジョーカーの提案次第ではあるが、テゾーロにこちらを動かす正当性はない。大抵のことは無視出来る。テゾーロは海賊帝国傘下。その立場にしては強い権限を持つ相手ではあるものの、“飛び六胞”であるローには彼に従う理由はないし、ジョーカー相手であってもそれは同じ。

 “大看板”と“飛び六胞”は明確な階級差があるものの、飛び六胞の中には大看板の命令は聞かない。あるいは聞いても渋々など緊急時以外ではそういう態度を取る者も珍しくはないのだ。彼らの言い分はカイドウとぬえに屈したのであって大看板に屈した訳ではない。いつか大看板の座を奪ってやるという上昇志向、反骨精神、自らの実力に対する自信から来るものであり、それは認められている。ただの真打ち程度ならともかく……飛び六胞まで上り詰めた者にはそういった態度を取れるだけの実力の証明が出来ているし、“大看板”自身もそれを認めているからこそジョーカーはローに“提案”という言葉で指示を出そうとしているのだ。

 だからこそどんな命令だろうと今は無視するつもりでいた。適当な理由を──麦わらの一味の始末という大義名分を理由に命令を突っぱねる。これなら大看板も強くは言えないし怪しまれることはない。だからこそ──

 

『ジョーカー殿は──“ドフラミンゴの始末”を君に任せたいと言っていた

 

「!!? ……え……?」

 

 ──だから()()()()()()()()が来るとは思ってもみなかった。

 正確には……断る意味のない提案。

 何しろローの目的は他でもない──ドフラミンゴへの復讐だったからこそ。

 

「…………どういう、ことだ?」

 

『ハハハ……いやいや、私に聞かれても理由までは分からない。ジョーカー殿がなぜそういう提案をロー氏に行ったかどうかはジョーカー殿に直接聞いて貰わなければ。……とはいえ……私個人としてはそんな理由はどうでもいい』

 

「何だと?」

 

 口の中が乾く。ローにとってドフラミンゴへの復讐の動機は誰も知る筈のない──それこそドフラミンゴ以外には知らないことだからだ。

 

(まさか……ジョーカーがおれの過去を知っていた……? いや、だとしたらおれの裏切りは既に察している筈。おれが近くにいることが分かってるなら何も言わずに刺客を送るか、呼び寄せて不意をつけばいい。こんな怪しまれることをテゾーロに頼んで伝える意味がない。……だが何も知らないなら、どういう理由で……?)

 

 ローの思考が回る。ジョーカーの真意が分からない。ローの過去を知るならローの裏切りは露見してもおかしくないが、そうなるとローに怪しまれるようなことを告げる必要はない。

 だが過去を知らないなら一体どういう理由でドフラミンゴの始末を任せるのか。単純に戦力を増やすためなのか。それとも──“罠”なのか。

 そしてまだ気になることもある。テゾーロが気になることを口にした。“どうでもいい”と。それは一体どういう理由なのか──ローはその答えを耳にする。

 

『私としては……君が助力してくれるならドフラミンゴの始末が楽になる。ドフラミンゴを邪魔者と感じる私としては、君が参戦してくれれば助かるのだがね?』

 

「……! そういや……お前はドフラミンゴの商売敵だったな」

 

『ハハハ……!! それは逆だ。彼が私のビジネスの邪魔なのだよ……!!!』

 

 ローはその敵愾心を感じる声を聞いてテゾーロについては得心する。確かに、テゾーロとドフラミンゴは昔から互いに新世界で活動し、時には利用しあいながらも取引の覇権を争っていた者同士だ。テゾーロとしてはこの機会にドフラミンゴが消えてくれるなら何よりと言ったところだろう。

 

『だからこそ今は好機だ……!!! トラファルガー・ロー……私と君は協力出来るとは思わないかな? この際だ。君が()()()()()()()()()()……私に協力してドフラミンゴを消してくれるなら──私はそれに目を瞑ろう』

 

「!? おい、それはどういう……!!」

 

『ハハ……この続きは直接会ってから話そう。少々、込み入った理由もあってね。電伝虫では話しづらい。私の下まで来てくれ。待っているよ……!!!』

 

 ローの言葉を無視し、話の途中でテゾーロは電伝虫を切る。テゾーロが何を考えているのか、ジョーカーが何を考えているのか、どちらも不明なまま。

 

 ──そうしてローはルフィ達の下に現れた。そのことを話し終え、ローはルフィ達に向かって告げる。

 

「……作戦と布陣を少し変えるぞ」

 

「おう!! どうするんだ!!?」

 

 しばしの間考えたローは、ルフィ達の意見を聞きながら動きを変える。罠の可能性もある。だがそれも見越して動くならば──この状況を利用出来るかもしれないとして、虎穴に入る覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 ──ここは愛と情熱とオモチャの国“ドレスローザ”。その港町“アカシア”。

 

「おい、聞いたか? 西の町の戦況……!!」

 

「ああ、避難してきた奴から聞いたよ……結構押されてるらしいな……」

 

「この国……どうなっちゃうのかな……」

 

「バカ!! 国王様を信じろ!! ドンキホーテ・ファミリーが何とかしてくれる!! ファミリーの幹部はまだ西の町で戦ってんだ!!」

 

「でも相手は百獣海賊団だぜ……!? 世界政府すら滅ぼした海賊帝国に、幾らお強い国王様やファミリーの幹部でも勝てるってのか……!?」

 

「こんにちは兵隊です!! 現在、避難警報が発令中!! 住民の皆様は指定の避難経路に従うか、建物の中に避難をお願いします!!」

 

 ──普段は人々とオモチャが行き交い、活気ある町は……今や島を襲おうとしている戦乱の影響で騒然としていた。

 西の港に上陸した“グラン・テゾーロ”。その街から攻めてくる百獣海賊団を相手にドンキホーテ・ファミリーは立ち向かい、西の街に住んでいた人々は足早に別の町へと避難する。

 その影響で南の港町──ルフィ達が上陸し、最初に足を踏み入れた“アカシア”でも人々は半ばパニック状態となっていた。

 

「ん~~~……殆どの店、しまってんな。こんなに美味ェのに。料理」

 

「無理もない。戦争が起きとるんじゃ。それも百獣海賊団……どんな国でもこうなる」

 

「サンジさんの料理が恋しいですねー。ヨホホ、それに女性もお美しい♡ サンジさんがいればさぞ喜んだでしょうに……」

 

「迎えがいるって言っていたけれど……この騒ぎで遅れてるのかしら」

 

「あんたら……旅行者か? こんな時によく食えるな……」

 

 アカシアの街の人々が忙しなく移動し、避難する者や閉じこもる者。外に出て周りの人々とどうするか相談している者など、騒然としている有様を見るのはドフラミンゴとの交渉に挑む“麦わらの一味”の交渉チーム──ルフィ、ジンベエ、ブルック、ロビンだ。

 彼らは仲間と一度別れ、街に足を踏み入れると迎えを待つ──ルフィが店を閉めようとしていたレストランに入り、半ば強引に料理を頼んだことで全員で食事をしながら待つことになった──彼らは店の人の呆れた視線を受けながらもしっかりと食事を取っていた。

 

「おいあんた!! ドンキホーテファミリーだろ!? 戦況はどうなってるんだ!? 教えてくれ!!」

 

「うるせェ!! あんな化け物共と戦えるか!!」

 

「!」

 

 そんな時、住民とファミリーの一員──おそらく下っぱであろう男が口論しているところをルフィ達は見つける。

 ドンキホーテ・ファミリーの下っぱの男はにわかに汗を流しながら、戦況を尋ねた住民に向かって悲観的に逆上した。

 

「お前らは海賊でもねェから分かんねェんだよ!! 海賊の世界で百獣海賊団に逆らうなんざありえねェ!! 戦っても無駄死にするだけだ!! クソ……若様も何考えてんだ……!! 戦いになった時点で終わりに決まってんだろ!!」

 

「……!! そんな……!!」

 

 その言葉を聞いていた街の人は露骨に表情に影を落とす。下っ端とはいえ彼の言う通り、海賊の世界を知らない街の人には百獣海賊団の恐ろしさを実感として知らない。心の底から恐怖している下っ端の言葉は真に迫るものがあり、絶望に叩き落される。

 

「わかったか!? もう終わりなんだよ!! この国は……──ぶっ!!?

 

「──黙れ腰抜け野郎。戦う前から怖気づいてんじゃねェぞ。ドンキホーテ・ファミリーの面汚しが……!!!」

 

「! 何だ?」

 

「あっ……あの人は……!!」

 

 だが住民を怯えさせる言葉を吐く前に、下っ端は殴られ、気絶させられた。

 一部始終を見ていたルフィ達も町民達も反応する。より驚きを見せたのはルフィ達よりも、彼を知る町民達の方だった。

 それもその筈。彼はドレスローザにおいてファミリーの幹部に準ずるほど有名な海賊だ。

 

『元ベラミー海賊団船長“ハイエナのベラミー” 懸賞金1億9500万ベリー』

 

「フン……待たせたな。おれが“迎え”だ。“麦わら”……!!」

 

「あ……お前は!! ひし形のおっさんをひでェ目に遭わせた……!!」

 

「ベラミーだ~~~~~~~!!!」

 

「キャ──♡」

 

「ベラミ~~~!!!」

 

「誰ですか?」

 

「海賊よ。空島に行く前に色々あってね」

 

「ふむ、どういう男かは知らんが……すごい人気のようじゃな」

 

 その男──ベラミーは下っ端を跨ぎ、そのままルフィ達に声を掛ける。ルフィは咄嗟に名前を思い出せなかったが、街の人々が歓声を上げたことで名前を思い出した。

 かつてはルフィ達の空島へ行くという目的を笑い、ルフィ達に喧嘩を売ったことで殴られたベラミーのことをロビンは話だけは聞いている。直接目にはしてないものの、そういうことがあったと聞いているため情報の共有をブルックとジンベエにも行った。

 そしてベラミーが現れたことで不安が充満していた街の空気が変わるが、残念ながらそれだけでは終わらなかった。

 

「おい、さっきベラミーが“麦わら”って……」

 

「! あ……よく見たら……もしかして……」

 

「──“麦わらのルフィ”!!?」

 

「あ、やべェ」

 

 ベラミーが“麦わら”の名を口にしたことが人々の耳にも入っていた。彼らはベラミーと対峙するルフィを見て、すぐにルフィのことを思い出すとベラミーの時のように一斉に声を上げた。

 

「うお~~~!!! やっぱり“麦わらの一味”もいんのか!!?」

 

「新聞に載ってた……!! “ドンキホーテ・ファミリー”と同盟を組んだっていう“最悪の世代”の海賊!!」

 

「マジかよ……!! もしかして参戦してくれんのか……!!?」

 

「頼むぜ“麦わら”~~~~!!!」

 

「──おい!! お前のせいでバレちまったじゃねェか!!」

 

「──知ったこっちゃねェな」

 

「味方と思われとるせいか、こっちもすごい人気じゃな……」

 

 歓声が上がる。少なくとも表向きにはドンキホーテ・ファミリーと同盟を組んでいることになっている麦わらの一味はドレスローザにおいて“救世主”にも等しかった。ファミリーの幹部達と同じく、世間で名を挙げる有名な海賊同士、手を組んでいるならもしかしたら海賊帝国の侵攻も防げるかもしれない。一時的にとはいえ、彼らが実際に現れたことで新聞に載っていたことは事実だと思い、士気は上がる。同盟も──両海賊団でパンクハザードを崩壊させたことも真実なのだと。

 

「それで、どうするの?」

 

「こっちだ。ついてこい」

 

「というかお前、何でここにいるんだ!?」

 

「別に……ジャヤの住人じゃねェんだからどこにいようが勝手だろ」

 

 そして迎えだと言っていたベラミーの言葉にロビンが先を促すと、ベラミーは先導するように先に歩き始める。ルフィ含め4人はベラミーの後に続くが、ルフィはベラミーに食って掛かるように声を掛ける。

 だがベラミーはそれを笑って流した。その上で理由を口にする。

 

「ドフラミンゴはガキの頃からおれの憧れの海賊だった……ドフラミンゴの敵はおれの敵だ」

 

「じゃあまた戦うのか!!? いいぞ、やるなら掛かってこい!!」

 

「ハッ……昔なら喧嘩を買うところだが、今のおれは違う……!! “麦わら”……おれは“空島”へ行ったんだ」

 

「!?」

 

 ベラミーのその発言にルフィが驚く。空島をバカにしてルフィを笑ったベラミーが、空島へ行ったというその行動にも。

 

「仲間は失ったが……おれの中の世界はひっくり返ったぜ」

 

「“スカイピア”か!? お前!! 空島の奴らに何もしてねェだろうな!!」

 

「……!! ……さァな」

 

 もしそうだとしたら許さない──そんな意志を込めた眼差しでベラミーを見つめるが、ベラミーはそれを真っ直ぐに受け止めた上で答えを曖昧にした。その凶悪な顔つきは空島の人間に害を為していても何もおかしくはないもの。

 だが……ルフィは気づく。その顔つきとは裏腹に、ベラミーは落ち着き、肝が据わっていた。ルフィの言葉に苛つくこともなく、まだ敵ではない海賊として自然体で話すそのベラミーの態度を見て、その心配はないと確信する。その証拠にベラミーの次の言葉はまた吹っ切れた落ち着いたものだった。

 

「──ともあれおれはもうお前を恨んじゃいない……やがて来るデカイ波を越える為に、おれはドフラミンゴの船に乗る!! そのためには百獣海賊団だろうが誰だろうが負けられねェ。──もうお前を笑わない」

 

「…………」

 

 そしてルフィは無言でそれを受け止めた。よく見れば、ベラミーの脇腹や肩には包帯を巻かれており、血が染み出している。直近で出来た傷。それが出来る理由は……つい先程まで戦っていたからに他ならない。

 その覚悟が言葉だけでないのを感じ取り、ルフィは食って掛かるのをやめてベラミーについていく。ルフィもまた、もうベラミーには何の恨みもない。

 今敵視し、警戒するのはベラミーではない。百獣海賊団に、これから会う──ドンキホーテ・ドフラミンゴだった。

 

 

 

 

 

 ──その街は全てが“黄金”で出来ていた。

 

「すごい……これが……!!」

 

「ああ。世界最大のエンターテイメントシティ──“グラン・テゾーロ”だ」

 

 海上を進み、船を引く2匹の“ギガントタートル”の間を抜け、船首にある巨大な門をくぐればまず見えるのは金粉の舞う巨大なステージ。その上で踊りだす演者達。

 聞こえるのは幾つもの楽器の音。観客の歓声。そして──

 

『1、2、3、数えて 始まるよ♫』

 

『シュビドゥビダー♪』

 

『素敵なショー♫』

 

『5、6、7、準備はOK? あなたを待つ♫』

 

『ダビドゥビダー♪』

 

『扉の中♫』

 

 ──華麗な歌声。

 世界でも有数のステージショー“GOLD STELLA SHOW”。そのステージで歌い出す歌姫の座はただ1人だけ。

 そして現在の歌姫は紫色の長髪を持つ彼女。男を惑わす魅惑のスタイルをステージドレスに収め、リズムを取る彼女こそがこの街の支配者が認めたただ1人の歌姫。

 

『“グラン・テゾーロ歌姫”カリーナ』

 

『悪魔と天使が囁く罠 耳をすませば見えてくるわ♫』

 

「ウオ~~!! カリーナ~~♡」

 

『──そうよlife is roulette♫ あなたを待つ♫』

 

『シュビドゥビダー♪』

 

『グラン・テゾーロ♫』

 

 欲望の街に誘われた観客達が腕を振り上げ、歓声を上げる。狐形のイヤリングや豪奢で色気のあるドレスを身に着けた彼女の踊りも歌も全てが一級品。見る者聞く者全てを楽しませる最高のエンターテイメント。

 

 ──だが。

 

「なんと綺羅びやかな……!!」

 

「! 何だ!? 水の中からまたステージが出てきたぞ!!」

 

「──出てきたな……」

 

 そう、だが──このステージの主役は彼女ではない。

 カリーナはあくまでもパートナー。間違いなくヒロインではあるが、主役ではない。

 港となるステージの湾内に船ごと足を踏み入れた“潜入チーム”──ローやゾロ。ナミ、ウソップ、日和、錦えもんらは中央に現れた塔に視線を向ける。

 そしてローは目を細めた。中央の塔が開き、星形のステージとなるそこにはピンク色のスーツを着た長身の男がいた。

 会うのは初めてではない。

 この黄金の街──いや、国であるグラン・テゾーロの支配者には。

 

『Ohhh──』

 

 そして彼もまた一流のエンターテイナー。

 マイクに自らの声を張り上げ、彼は歌う。観客を楽しませ──否。

 自らの欲望を満足させるために。

 

『“グラン・テゾーロ”オーナー “黄金帝”ギルド・テゾーロ 懸賞金9億7700万ベリー』

 

『金で 買えない モノなどない!!!』

 

『シュビドゥビダー♪』

 

『誰かの声♫』

 

 その男──テゾーロを形容する言葉は1つや2つでは足りない。

 元海賊でありながら世界の20%の富を持ち、かつては世界政府と天竜人を動かすほどの力を得た“新世界の怪物”。

 

『善人ぶる奴ァ馬鹿を見るぜ♫』

 

『ダビドゥビダー♪』

 

『背中を刺す♫』

 

 膨大な財力で多くの海賊を従え、意のままに操る“黄金帝”。

 

『悪魔と天使が囁く罠♫ 俺はすべてお見通しさ!』

 

 そして裏社会では“仲買人(ブローカー)”ドフラミンゴと共に裏取引で名を挙げ──今では海賊帝国で最も力を持つ3国の1つとして多大な影響力を持っている男。

 

『ゴールド&ジャイヴ♫ 何もかも忘れて♫』

 

 そして現在では更に富を増やし──世界の40%の富を掌握するに至った金の亡者。

 “暴力の世界”であっても変わらない豊かさを誇る独立国家の王は、金に目が眩んだ観客達の前でカリーナと共に歌い上げる。

 

『ただ 楽しむのさ!!!』

 

「……お……おいおい!! ショーはすげェけど大丈夫なのか? あいつも海賊帝国の──」

 

「堂々としてろ、鼻屋。問題ない。作戦通りに動く。お前らは捕虜としての態度を崩すな」

 

「へっ……“黄金”か……そりゃあまた斬りがいがありそうだな」

 

「って、おォい!! ゾロ君!? 捕虜らしくしろって言ってるのが君には聞こえないのかね!!?」

 

「く……なぜ捕虜など……日和様。やっぱりこやつは信用なりませぬ。やはり拙者達はここから離れて……」

 

「黙りなさい錦えもん。黙って従いなさい」

 

「これ、全部黄金……世界一のカジノ船……みんな!! 油断しちゃダメよ!!」

 

「って、お前は目が金になってるじゃねェか!! しっかりしろ!!」

 

「キャプテン……こいつら、本当に大丈夫っすか?」

 

「……問題ない」

 

 ハートの海賊団の船員が緊張感のない麦わらの一味を見て軽く呆れるが、ローは心を乱さない。麦わらの一味の性格や特徴は分かった。布陣に間違いはない。

 だが問題は……相手がどう出るかだとローは考える。

 ドフラミンゴも厄介だが、テゾーロも厄介だ。一体何を考えているのか。相手の手の打ちようによっては──()()()()()()()()必要もあると、ローは左手に握った“鬼哭”の鞘を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 ──ドレスローザ。とある建物。

 

「若様!! 麦わらの一味が到着しました!!」

 

「──フッフッフッ……!! 来たか……!! よし、ここに通せ」

 

「はっ!!」

 

 その建物はドレスローザの中央。王宮やコリーダコロシアム近くに建てられたホテルのような建物の一室だった。

 低く長いテーブルに最高級のソファ。ドレスローザで造られた色鮮やかなカーペットや調度品が部屋を彩る会議用の部屋に、この国の王1人の側近をソファの後ろに控えさせて腰掛けていた。幹部の殆どは戦場に出ていたり、とある事情でこの場には呼ぶことは出来ないし、呼ぶべきではない。

 それは交渉のテクニックだった。これから来る相手に対する意思表示。害する意志はないと示すための。

 

「──ここか、ミンゴ~~!!!」

 

「!」

 

 そして部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

 大声を上げて部屋にいたドフラミンゴの名を呼ぶのは“最悪の世代”の海賊──モンキー・D・ルフィ。

 

「成程……そちらはお主と1人だけか」

 

「……フッフッフッ!! ああ……大勢で囲んだらお前らが警戒しちまうだろ? だから王宮もコロシアムも避けた……!! これでもちゃんと気を使ってるんだぜ?」

 

「べへへ!! ドフィが若造相手にここまでやるのは珍しいんね~~!!」

 

 そしてルフィの後ろに続くのはルフィの仲間であるジンベエにロビンにブルック。彼らはドフラミンゴとその背後にいた鼻水を垂らした大柄なねちっこい男を見て目を細める。彼の名──ファミリーの最高幹部である“トレーボル”の名を知るのはジンベエのみで他の者達は彼を知らない。ドフラミンゴとトレーボル。その2人に警戒しながらルフィのみがソファに座り、他の者達は立ったまま話を聞く姿勢を取る。

 

「で、話ってのは何だ!! 仲間のこと本当なんだろうな!?」

 

「──ああ、そうだな。ゆっくり酒でも飲みながら話してェところだがあまり時間もねェ……!! さっさと本題に入らせて貰おうか……!!」

 

 ドフラミンゴの正面に対峙し、真正面から疑問をぶつけるルフィに対し、ドフラミンゴは笑みを崩さぬままそれに答えることで“交渉”は始まった。

 

「改めて言うが……おれの要求は1つ!! おれ達と同盟を組み……おれ達と共にこの国を守るために戦ってくれ!!!」

 

「──嫌だ!! 仲間を返せ!!」

 

「って、ルフィさん!!? それじゃ交渉になりませんよ!!?」

 

「だってトラ男が──」

 

「ちょ、ちょちょちょ!!! 待って下さい!!」

 

「~~~~っ!!!」

 

 ドフラミンゴの要求。電伝虫でも聞いたその言葉を聞いたルフィの第一声は──取り付く島もない拒否だった。

 それを見かねたブルックがツッコミを入れ、更にルフィに“ドフラミンゴのペースに呑まれるな”と言ったローの名前を出そうとした口を無理やり塞いでみせるものの、当然それは相手にも聞こえていた。

 

「フッフッフッ!! “麦わらのルフィ”……お前に入れ知恵したのがローだってのは分かってる……!! 今更隠す必要はねェ。腹を割って話そうじゃねェか……!!」

 

「あ、バレてるのか。ならいいか。──おいミンゴ!! トラ男がお前のことは信用するなって言ってたぞ!! だからおれはお前を信用しねェ!!」

 

 だがドフラミンゴは既にそんなことは分かっていたのか、怒ることはしない。あるいは内心で怒ってはいてもその感情を表には出さない。腕を広げて腹を割って話そうと嘯くドフラミンゴに、ルフィは素直に受け取ってドフラミンゴを信用出来ないと口にした。ローはルフィにとって恩人でもあるし友達でもある。逆にドフラミンゴはシーザーの親玉として認識しており、ルフィが敵愾心を抱くのに十分な相手だった。

 

「フッフッフッ!! 随分と嫌われたもんだな。おれのことを敵視しているようだが……それでもお前達はここに来た……!! それはつまり、話を聞く価値はあるとお前も……あるいはローもそう思ったからだろう。それとも、話を聞かずに帰るか?」

 

「それもそうじゃ」

 

 しかしそんな敵意もドフラミンゴは意に介さなかった。交渉の場に来たルフィ達を揺さぶりつつ、ペースを全く乱さない。揺さぶりに乗らずに話をさっさと進めるためにジンベエが頷いたのを見ると、ドフラミンゴは話を続ける。

 

「信用出来るかどうかは話を聞いてからでも遅くはねェ。おれはお前らにメリットのある話を持ってきたんだ……!!」

 

「それを判断するのはこっちじゃ」

 

「フッフッフッ……もっともだな。なら言ってやるが……そもそもお前らの目的は海賊帝国……いや、カイドウとおれをぶつけて戦力を削ることだろう?」

 

「!」

 

 いとも容易くドフラミンゴはルフィ達の作戦を看破する。ルフィ達が僅かに反応を見せ、図星なのを確認したドフラミンゴはゆっくりとその作戦の詳細を口にした。

 

「パンクハザードという海賊帝国の重要拠点を破壊し、シーザーを奪うことで百獣海賊団を怒らせる。その怒りの矛先をおれに向け、カイドウに消させる。そうすれば海賊帝国はおれ達という戦力を失い、海賊帝国も少なからず戦力を削ることが出来る……!! フッフッフッ!! 四皇の首を取るためとはいえ、えげつねェ作戦だ……!!」

 

「……そうだとして、あなたはどうするつもり? 私達と組んだところでそちらの状況が改善するとは思えない」

 

「フッフッフッ……!! ああ、そうだな。おれ達の置かれた状況を何とかするならお前らの首を取って……いやァ……生け捕りにして奴らの前で自白させるのが手っ取り早い……!! 連中は話が通じない。疑いを晴らすにはそれくらいしなきゃ……いや、したところで失態は消せねェだろうなァ」

 

 つまり、ルフィ達の作戦は大成功だとドフラミンゴは言う。この状況でドフラミンゴが取れる選択肢は多くない。従うか、戦うか──つまりどちらを選んでもドフラミンゴは今までのような独立は望めず、失墜する。

 だが……ドフラミンゴの様子は明らかにこれから地獄が待っている男の顔ではない。余裕を保っており、ジンベエらはその様子を訝しむ。

 

「それにしては落ち着いとるようじゃのう……」

 

「そりゃあ腹を括っただけさ……!! 言っただろう、おれはお前らと組むと決めた……!! つまり、おれは連中と戦うつもりなのさ……!!!」

 

「……成程。じゃがわしらは今回、戦う気はない。それをわかっておるのか?」

 

「七武海の実力は知ってるけれど、相手はあの“百獣海賊団”。正面から戦っても勝ち目は薄い。何か策でも?」

 

「どうするつもりなんですか?」

 

 戦うことを選択した──そう告げるドフラミンゴにジンベエにロビン、ブルックも純粋に疑問を口にする。七武海の中でも取引のプロ、“仲買人(ブローカー)”として裏社会でならしてきたドフラミンゴが正面から戦うとは思えない。そんな無謀な、一か八かの賭けに挑むような男ではないことはローからも聞いている。

 そしてルフィ達の作戦を知ってるならその交渉が通じる可能性は低い筈だ。幾ら仲間の情報を持っていたとしても組むメリットは薄い。こっちはカイドウにドフラミンゴが潰されるのを待って、隙を突いてそれを奪えばいい。

 それらを理解した上で要求するということは、よっぽどの何かがあるのだろうと一味の大人組は判断した。ルフィは無言のまま聞きに徹している──そんな中でドフラミンゴは答えを口にした。

 

「──フッフッフッ……確かに、おれ達だけじゃ勝算は薄いかもしれねェな。だがこれからこのドレスローザは更なる戦乱に巻き込まれる!! それを利用すりゃあ──おれ達が天下を取れる好機が巡ってくるのさ……!!!」

 

「更なる戦乱?」

 

「天下を取るじゃと?」

 

 疑問符を頭に浮かべたロビンらにドフラミンゴは告げる。そう、この島でこれから起きる騒乱。それは今この島にいる勢力だけに留まらない。

 

「これからこの島に客人がやってくるのさ──“新政府軍”が、大将を引き連れてな……!!!

 

「!!?」

 

「新政府軍……!!?」

 

「それって……サボの!!?」

 

 驚きが一味の間に走った。百獣海賊団がドレスローザに攻め入ってるこの状況で、新政府軍がやってくる。その意味が分からない訳がない。ルフィだけはサボのことに反応しているが、他の者達は気づいた。

 つまり新政府軍もまた──この機会に百獣海賊団を、海賊帝国を削ろうとしているのだと。

 

「フッフッフッ……ああ、お前の義兄、それに実の父のドラゴンが率いる新政府軍……!! 連中はおれ達ドンキホーテ・ファミリーと百獣海賊団の抗争を察知し、このドレスローザと……グラン・テゾーロを攻め落とすつもりだろう……!!!」

 

「サボが来るのか!!? ここに!!」

 

「それは分からねェが、相当な戦力を引き連れてくる筈だ。向こうは漁夫の利とはいえ、海賊帝国の拠点を攻め落とそうとするんだからな……!! 消耗した隙を突くとはいえ、生半可な戦力じゃそれは出来ねェ……!! 大将の1人や2人、連れてくるのが妥当だろう」

 

「……その話がウソじゃないという証拠は?」

 

「フッフッフッ……その情報をおれにもたらした男──ヴェルゴはもう死んだ。お前らのせいでな……!!!」

 

「! ヴェルゴ……!!」

 

「ん? 誰だ? おれ、知らねェぞ」

 

 ドフラミンゴが僅かに怒りを滲ませながらその名を口にする。ジンベエ達はそれを聞いてハッとした。ルフィは憶えていないようだが、パンクハザードでローがハメた男。その名はヴェルゴだった。

 そしてジンベエはその男の名を憶えている。確か、元海軍G-5支部の支部長、海軍中将だった筈だと。

 そのヴェルゴはドフラミンゴの部下であり、相棒でもあった。最高幹部の1人でもあるその男の秘密を、ドフラミンゴは暴露する。

 

「奴はおれの指示で海軍に潜入していた。世界政府が滅び、海軍の残党が新政府軍と合流した後も、新政府軍の将兵としておれに情報を送っていたんだ……そのヴェルゴが、死の間際に連絡を寄越したんだ。お前らが起こした事件と、新政府軍の動きを伝えるためにな……!!」

 

「それは……」

 

「フッフッフッ!! だがそれはいい……!! 今更お前達やローに恨みをぶつけたところで奴が生き返るワケじゃない……重要なのはこれからの事だ!! ヴェルゴのもたらした情報がなかろうと新政府軍がこの状況を見逃すとは考えにくい。今連中は世界会議の真っ最中で結果を出せないことを加盟国から相当に叩かれてるだろう。戦略的にも政治的にも奴らは動かざるを得ないとなれば奴らは必ずここに来る!! だがそうなった時におれ達にとっての問題が2つある。1つは百獣海賊団がおれ達を消そうとしていること……!! そして2つ目は新政府軍がそのおれ達ごとドレスローザとグランテゾーロを攻め落とそうとしているってことだ……!!!」

 

「……成程。つまり、お主がわしらに同盟を組めと交渉の場を用意する理由がそれか」

 

 ジンベエらは得心する。相棒を消された恨みは確かにドフラミンゴにはあるが、それよりも先のことが大事だから遺恨は水に流すという。そうしなければ今度は相棒どころではない。自分を含めた身の破滅。それを防ぐために、ドフラミンゴはルフィ達に手を組めと誘うのだと。

 

「そうだジンベエ……!! 海賊帝国に新政府軍……!! おれ達はそのどちらも相手にしなきゃならねェ……!! それはこれ以上ないほどに危機ではあるが……逆にこの状況を利用すれば、2つの勢力に大打撃を与え、勢力を拡大することが出来る!!!」

 

「……わしらのメリットは?」

 

「海賊帝国の戦力を削れる……!! それに……新政府軍だってもはや味方とは言えねェだろう。“麦わらのルフィ”に“海賊狩りのゾロ”……お前達の手配書が更新された」

 

「え?」

 

「うお~~~~!!? おれ、8億だ!! やった~~~~!!!」

 

「ゾロさんもすごい上がってますね……!!」

 

 ドフラミンゴが部下から手渡された手配書を机の上に置く。それを見たルフィは喜び、仲間も驚いた。海賊にとって手配書の額が上がるのは喜ぶべきことでもある。海賊としての箔がついたと。それは世界政府が滅び、発行しているのが新政府軍になっても変わらない。

 だがそれは危険度を認められたということだ。それもまた変わらない。ルフィ達は新政府軍にとって、変わらず──捕らえるべき海賊だと見られているということだ。

 

「“麦わらのルフィ”……!! お前達は以前、魚人島で新政府軍と協力したらしいが……それはお前の義兄、サボがいたからに過ぎない……!! 現場の将兵にとって未だにお前は凶悪な無法者で何としても捕まえなきゃならねェ相手だ……!!」

 

「──そん時は戦うだけだ!!」

 

 新政府軍の事情とそのスタンスをドフラミンゴは説く──が、ルフィの意に介さない。思考は至ってシンプルだった。そうなったなら相手がサボであっても戦う。何も互いに殺し殺されなきゃいけない訳じゃない。戦いたくない時は逃げればいい。

 それでもどうしても戦う時が来たなら……かつて互いに誓ったように──互いの誇りを懸けて戦うだけなのだ。

 ゆえにルフィは新政府が相手でもやることは変わらない。目指すは“海賊王”。そのためなら新政府の大将だろうと海賊帝国だろうと乗り越えていく。それがルフィの海賊としての“覚悟”だ。

 ──だが、ドフラミンゴにとってそんなことはどうだっていい。重要なのは、“麦わらの一味”が使えるかどうかだ。

 

「……フッフッフッ……!!! 頼もしいな……!! なら、改めて言おう。お前達のメリットは仲間の洗脳を解き、仲間の情報を得て、海賊帝国の戦力を削れることだ……!!! もはやおれを消さずとも、おれが裏切った時点で目的は半ば達成されている。おれ達と手を結べばほぼ確実にここに来ているジョーカーとその部下は消せる!!! お前らは……欲を言えばこっちに加勢してほしいところだが……それほど多くは望まねェ。僅かな間、新政府軍の横槍が入らねェように──連中からこのドレスローザを守ってくれりゃそれでいい……!!! たったそれだけの話だ!! それだけでお前らを取り巻く状況は格段に良くなる……!!!」

 

「……成程……じゃが向こうにはあの“黄金帝”もおるじゃろう。そっちはどうするつもりじゃ?」

 

 ジンベエらは頷く。組むと決めた訳ではないが、ドフラミンゴの目的と要求は大体理解した。確かにこっちにもメリットがある──いや、むしろメリットしかないと言うべきだろう。

 ドフラミンゴの言うように、ドフラミンゴが海賊帝国を裏切った時点で彼を消さずとも海賊帝国の戦力は削れたと同義だ。ドンキホーテ・ファミリーを丸々海賊帝国から切り離し、その戦力を海賊帝国にぶつけることが出来る。ドフラミンゴが疑いを晴らすためにルフィ達を捕らえようと動くより遙かに楽だ。その対処をせずに済む。

 しかし勝てるかどうかまではまだ判断がつかない。敵は多い。特に今回は魚人島やパンクハザードと違って敵の戦力は更に桁違いだ。“大看板”のジョーカーだけではない。あのテゾーロまでも敵にいるというなら──

 

「──ああ、()()は問題ねェ」

 

「! 何じゃと?」

 

 ──だが、ドフラミンゴはそれを問題ないと一笑に付す。理由を後に、付け加えながら。

 

「言っただろう。()()()と組まないかと。つまり……奴もまた、この作戦の賛同者──()()()()()

 

「!!?」

 

 ──テゾーロとドフラミンゴは手を組んでいる。そして……この隙を突いて海賊帝国に反旗を翻すつもりなのだと、“天夜叉”は口端を歪めて言葉にした。

 

 

 

 

 

 ──ルフィとドフラミンゴの交渉が始まったのとほぼ同じ頃。

 

「──と、いう訳だよ」

 

「何だと……!?」

 

 世界一のエンターテインメントシティ“グラン・テゾーロ”。

 ロー達は招きに応じ、カジノのVIPルームに無事、足を踏み入れていた。途中、ナミが目をベリーにしてカジノについ誘われそうになったり、訳ありっぽい6人の子供達に花を買ってほしいと言われ、それを迎えに出てきたテゾーロの部下が追い払ったりということはあったものの、特筆すべきことはない。

 問題はこれからだ。ルフィ達と同様、こちらでもまた交渉の席が用意され、2人の男が向かい合っていた。

 1人はトラファルガー・ロー。百獣海賊団の飛び六胞でありながら海賊帝国を倒すために麦わらの一味と手を組み、背後に捕虜として一味と協力者を控えさせている“最悪の世代”の海賊。

 そしてもう1人は今しがた、百獣海賊団を裏切ってジョーカーを倒し、新政府軍も撃退する作戦を口にしたグラン・テゾーロのオーナー“黄金帝”ギルド・テゾーロ。

 テゾーロから聞いた話を耳にしたローは眉をひそめる。──話が違う、と。

 

「どういうことだ。おれはドフラミンゴを消すつもりだと聞いてここに来たんだが……おれの聞き間違いだったか? ジョーカーを裏切るだと……?」

 

「ハハハ……!! 確かに、ジョーカー殿の伝言というのは呼び出すための方便だが……もう1つのそれは間違いではないとも。今語った話は、あくまでドフラミンゴ視点での話でね」

 

「奴の視点の……?」

 

 グラン・テゾーロのVIPルーム。テゾーロの部下の能力がなければ入ることも出来ない扉のない部屋を、人払いをした上で交渉の席に用意したテゾーロは一本を除いて全ての指に嵌められた黄金の指輪を撫でながら鷹揚に話の続きを口にする。

 

「その“麦わらの一味”を招き入れてジョーカー殿を裏切る話を持ちかけたのは実のところ私の方だ。奴はそれを信じ切っている。都合のいいことに自身の部下の報告もあってね──だが本当の作戦はここからだ」

 

 ワイングラスを傾け、喉を潤しながら言うテゾーロ。そのグラスもワインも全てが何百万ベリーとする最高級の品物だ。ローにしてみれば成金趣味と切って捨てるだけのものだが、この金の亡者の策謀はドフラミンゴに匹敵するだけのものがあると知っている。ただの金の亡者ではないのだと。

 

「協力して新政府軍を蹴散らし、ドフラミンゴはジョーカー殿率いる百獣海賊団と戦う。ここまでは同じだ。だがその後──私達は更にその消耗した隙を突いてドフラミンゴを闇に葬る

 

「! 裏切りの……更に裏切りだと?」

 

「ああ。戦いの中で奴と奴のファミリーには消えて貰う。その後は……好きにしたまえ。私からぬえさんに取りなそう。“麦わらの一味”のやったことを水に流してもらう。トラファルガー・ロー、君の裏切りも私は知らなかったことにしようじゃないか」

 

「ええ!? マジかよ!!」

 

 ウソップが思わず驚きの声を上げる。こちらのやったことがバレていたというのは肝を冷やしたが、その後の対応はこちらにとって都合が良すぎる。にわかには信じられない。

 

「……そんな都合のいいことが本当に出来るのか? お前をここで消して口封じする方が楽だと思うが」

 

「ハハハ……怖いことを言ってくれる!! だが問題ない。私とぬえさんには()()()()()()縁があってね……その縁もあって、私はあの人を尊敬し、仲良くさせて貰っているし、あの人も私に良くしてくれている。話を通すくらいはワケないことだ。それに……」

 

 と、テゾーロは一度間を置いて言ってみせる。懐から1つ1000万ベリーのカジノのチップを取り出しながら、

 

「魚人島の損害も、パンクハザードの損害も幾ら掛かるかは知らないが──まあ精々何十億か何百億といったところだろう。全て私が代わりに弁償してやれば、矛も収まる……そうは思わないか?」

 

「……!!」

 

 ナミ達が絶句する。一生遊んで暮らしてもお釣りが来るレベルの大金をはした金のように語り、全て支払ってみせると語るテゾーロは正に“黄金帝”。世界一の金持ちに相応しい口ぶりだ。実際、払えと言われればそれくらい払えるし払ったところで痛くも痒くもない。掃いて捨てるほどに金を持っているからこそ“新世界の怪物”だ。

 だがローとしては訝しいにも程があった。警戒心を強めながらローは指摘する。

 

「……どういうつもりだ? “麦わらの一味”に恩赦を与えるためだけにそれだけの金を払うだと? お前に何のメリットがある?」

 

「ハハハ!! 何、ドフラミンゴを消せればそれこそお釣りが来るというものだ!! ──つまりこれは先行投資だよ。トラファルガー・ローに“麦わらの一味”。君達が協力してくれれば商売敵が消えて私はもっと潤うことになる。私の街を守り、ドフラミンゴを消す。それだけのことをジョーカー殿の目を盗みながらやるのは骨が折れるのでね……ジョーカー殿の異名は知っているだろう?」

 

「……ジョーカーについて戦うだけじゃ、被害が出るってことか」

 

「そういうことだ。“戦災”──確かにドフラミンゴを消すだけならこのまま彼女について戦うだけでいいが……どうにも彼女にも裏があるようでね。十中八九ドレスローザとこのグラン・テゾーロは戦火に見舞われる。ドレスローザがどうなろうと知ったことではないし、貧乏人がどれだけ死のうとも興味はないが……私の黄金の街が傷つくのは出来れば避けたいんだよ……!! ハハハ……!!」

 

 何が可笑しいのか、悪どい笑みを浮かべながらテゾーロは言い切る。ウソップ達はその酷い言いように唾を飲み込んだ。

 だがゾロや日和は無言のままで、ローもまた表情を動かすことなく思考を回転させ疑問を口にする。

 

「……シーザーやくまについてはどうする。後……侍もこっちは匿っている」

 

「そんなものはそれこそ誰かに罪をなすりつけてしまえばいい。シーザーを攫ったのはドフラミンゴを誘い出すためだろう? 海賊帝国に被害を出すためならさっさと処理してしまった方がいい。くまも君が確保しているなら何も言われないハズだ。協力者と共に機でも伺うといい。それと……侍についてはどうでもいいだろうな」

 

「何だと!!?」

 

「だから黙りなさい錦えもん。一々声を荒げないで」

 

 テゾーロはローの質問に淀みなく答えを返していく。全て問題ない。バレることはないといった態度だ。侍はどうでもいいだろうと予想を口にしたところで錦えもんが憤慨したが、やはり日和に制される。それを尻目に、ローはテゾーロの言葉を吟味していた。

 

「…………ここでおれ達を逃し、麦わらの一味を見逃して貰ったところでおれ達は動き続ける。バレたらお前の身も危ないハズだが?」

 

「ハハ、確かに。だがバレなければいいのだろう? 問題はない。それに……そうだな。受けてくれるなら今後も良い関係を築こうじゃないか。代金さえ払えばこっちも適時情報を提供しよう。──どうだ? 悪い話ではないだろう」

 

「…………」

 

 ローは一度口を噤む。そして内心で思った──こいつ、何を考えている? と。

 テゾーロの狙い……いや、スタンスが分からない。言ってることはそれらしいが怪しいことこの上ない。

 だがローの耳元に口を寄せる部下の報告では、

 

(船長。やっぱりジョーカーにその部下もドレスローザの西で戦ってます。ドフラミンゴやテゾーロの部下も……)

 

(……そうか)

 

 だが、実際にこの場にジョーカーやその部下の姿は確認出来ない。ドフラミンゴやテゾーロの部下──幹部達もだ。

 元々怪しすぎる誘いにローが乗った最大の理由がこれだ。交渉の場で囲まれてしまうほどバカなことはないのだ。ここで仮に交渉が決裂してもジョーカーやドフラミンゴ、テゾーロの部下はいない。強硬手段を取られてもローなら逃げることが出来る。ルフィ達もそれは同じだ。拒否しても逃げるだけ。そのために麦わらの一味の船は別の場所に向かわせているし、後で落ち合うことになっている。

 そしてこの部屋にメアリーズや電伝虫などの盗聴の心配はない。初めにローの能力で調べたし、ルフィ達の方もその手のことに鼻が利くロビンに任せた。何かがあればルフィに知らせてくれるだろう。

 なんならここで──テゾーロの首を取ることも出来るかもしれない。戦力はテゾーロとその部下であるタナカさん──グラン・テゾーロ警備主任の男のみ。対してこちらはローにゾロにウソップにナミ。侍も加えるなら日和に錦えもん。多勢に無勢だ。要求を断っても手段はある。

 ……だが断ってもいいのかという問題もある。確かに受ければ労せずドフラミンゴを刺せる。それも自分の手で。

 ローにとってはその部分は重要。他の誰も知らない事だが、それが叶うのならば何もかも投げ捨てる覚悟はある。

 

「さて、どうするか決まったかね?」

 

 テゾーロがローに再度、問いかける。

 

 ──一方でドレスローザでも。

 

「さァ、どうする? 答えを聞かせて貰おうか」

 

 ドフラミンゴがルフィに答えを問う。時間にしてほぼ同じ時。選択の時はやってきた。

 ルフィもローも話を聞いて考えた。そしてメリットがあることも理解した。多大なメリットだ。これを断る方が損だと確信出来るほどの。それをしっかりと理解する。

 そしてそこまで分かれば答えは決まっていた。2人はほぼ同時に、目の前の男に対して──

 

「「断る!!!」」

 

「!!」

 

 “否”を突きつけた。

 ドフラミンゴとテゾーロ。両者共に答えを聞いて顔から笑みが消えると、少しの間を置いてもう一度、確認の意味を込めて問いかけた。

 

「……何故かね? 話を受けるメリットは十分に語ったつもりだが」

 

「……確かにな。メリットはある。麦わら屋の仲間を取り戻せることも、労せずドフラミンゴを討てることも、リスクも少なく出来ることもわかった。お前らの話はもっともだ」

 

 だが、とまずはテゾーロの問いにローが答える。そこで初めてローが笑みを見せた。悪どい笑みを、そしてテゾーロに向かって──その先のドフラミンゴに向かって──中指を立てながら、

 

()()()がおれのことを条件に盛り込まないワケがない。どっちの入れ知恵かは分からないが、つまらない浅知恵だな。おれが言えた義理じゃねェが……裏切りを促してくるような奴の言うことをおれが信用すると思うのか?」

 

「…………!」

 

 テゾーロの目が僅かに細くなる。VIPルームの空気が凍るもののローに彼の機嫌を伺う理由はない。構わず言いたいことを口にした。

 

「交渉がしたいならもっと良い条件を出すんだったな。おれ達にとっちゃ、ここに来たのは麦わら屋の仲間の洗脳を解く能力者を含めて、情報を得るため。それが叶っただけで十分収穫はあった。それもお前らから交渉で奪い返す必要もない。全部お前らが死んだ後で勝手に奪ってくよ……だから追い詰められながら勝手に死んでろ……!!!」

 

「!!」

 

 瞬間、ゾロ達はいつどうなっても構わないように戦闘態勢を取る。その動作が淀みなかったのは予め、決められていた行動だからだ。ドフラミンゴやテゾーロの行動は予想がつく。だからこそ強気にこの場に出てきたのだ。

 

「ハハハ……!!! 成程、そこまで言うなら仕方ない。諦める他ないが……そうなると困ったなァ。私がお前達を無事に帰す理由がない……!!」

 

「何をおれ達が逃げる前提で話してやがる。お前、おれ達を追い詰めたつもりか? 状況をよく見ろよ──この成金野郎」

 

「!!」

 

 ローの強気な、そして侮蔑の言葉にテゾーロの額に青筋が立つ。VIPルームに殺気が充満し、ウソップとナミが気持ち後ろに下がったが、ローやゾロは一切揺らぐことはない。

 そしてテゾーロも──怒りによって生まれた笑みを浮かべ、立ち上がった。

 

「──ハハハ、ハハハハハ!!! 良いだろう!! 教えてやる……この街でこの私に逆らう愚かさを……!!!」

 

「!」

 

 テゾーロもまた余裕を崩さない。自分が負けることはないという絶対の自信を浮かばせながら能力を発動する。動いた者から順に──動きを止めるように。

 このグラン・テゾーロにおいてテゾーロが負けることはない。その能力の支配力は圧倒的であることは、グラン・テゾーロにいる者なら誰もが知っている。

 そう、だからこそ──

 

「バカなのはてめェだ」

 

「!!?」

 

 ローもまた、()()()()()調()()()()()()()

 半透明の円がロー達やテゾーロを包むように生み出され、同時にローはテゾーロの背後にある調度品と入れ替わって右手を構える。

 その動きはオペオペの実の能力であり、入れ替われることは不思議ではないが、それでもテゾーロは驚いた。なぜここまで動けるのかと。

 

「何……!!?」

 

「──お前の能力は知っている。ゴルゴルの実の能力者。触れた金を自在に操ることが出来る能力」

 

 そう、テゾーロの持つ悪魔の実の能力。超人系(パラミシア)ゴルゴルの実。黄金を生み出し、触れた黄金を操ることの出来る──この街では絶対無敵の能力。

 全長10キロを誇るグラン・テゾーロにある金は無数。テゾーロでさえ数え切れぬほどの金が惜しみなく使われているが、普通ならこの全ての金がテゾーロの武器になる訳ではない。重要なのはテゾーロが“覚醒”した能力者であるということ。

 

「ステージで使う金粉……グラン・テゾーロに足を踏み入れた者に平等に降りかかるそれはお前が一度触れたものでお前の意思でいつでも自由に固めることが出来る」

 

 そう、あの金粉こそテゾーロの支配を維持する絶対的な枷だ。

 この街で逆らう意思を見せてもすぐに固められる。あるいはあちこちにある金を操って捕われ、あるいは殺される。それが分かっているからこそグラン・テゾーロにいる従業員や奴隷は彼に逆らうことは出来ない。逆らっても無駄。戦うことすら出来ないからだ。

 それは外から訪れた海賊や海兵でも変わらない。ギャンブルで大敗し、借金を背負った者や騒ぎを起こした者は例外なく固められる。

 

「だが、予めそれを知っているなら幾らでも対策出来る……!! 海水を持ち込むなり……おれの能力で金粉を取り除くことでな……!!!」

 

「!!」

 

 しかしローはそれらを既に知っていた。百獣海賊団の飛び六胞という地位を利用し、テゾーロに近づくことなく情報を得た。

 ローのオペオペの実の能力で既にローを含めたこの場の面々は金粉を取り除いている。態々堂々と正面から乗り込んだのは金粉を浴びたことをテゾーロに確認させ、そう思い込ませるためだ。

 後は隠れて手術(オペ)をして金粉を取り除けばいい。たったそれだけ。それだけのことで不意を討てる。

 

「お前の敗因はおれの実力と能力を甘く見たことだ……!! ジョーカーやお前の部下がここにいないなら好都合……!! ここでお前の首を取らせて貰う……!!!」

 

「……!!」

 

 ローは右手にエネルギーのナイフを作り出し、テゾーロの背中に向かって突き刺す構えを見せる。狙うは心臓。一撃で決める。長々と戦ってはいつジョーカー達が戻ってくるか分からない。連絡を取られる前に決める。

 

「心配するな。ドフラミンゴの奴も望み通り、後で地獄に送ってやる……!!!」

 

 ──ガンマナイフ、とローが技名を口にしようとした。

 後数秒後にテゾーロの背中にはローの刃が刺さって致命傷を負う。テゾーロが何かしなければ──いや、何かしたとしてもそれなりのダメージを負い、戦闘はロー達の有利になる。その未来はほぼ確定的だった。

 

「!! ──おい!!」

 

「!!! ──!!?

 

 だが──その未来は訪れなかった。

 

「何だ!!?」

 

「トラ男が捕まった!!?」

 

「あれも黄金でござるか……!!?」

 

「……!! お前ら、下がれ!!!」

 

「え……うわっ!!?」

 

 数秒の間に状況が動く。

 その起きたことをゾロは見聞色で一瞬前に察知し、見ていた。その視点で言うと、起きたことはこうだ。

 まずテゾーロの背後を襲おうとしたローが、横から伸びてきた()()()に捕われ──。

 

「……!!」

 

「ゾロ!!」

 

 皆が驚く中、危険を察知した皆を守るために前に立ち塞がったゾロを黒い拳が吹き飛ばした。

 

「……!! (誰だ……!!? 強い……!!!)」

 

「この能力……!! 黄金じゃない……これは……!!」

 

 そして壁から抜けてきた者達が続々と現れ、ゾロ達を取り囲む。

 

「──……ハハハ……中々に驚かせて貰ったよ……!! 確かに、今のは少し危なかったな……!!!」

 

「くっ……何故……!!?」

 

 ──そして()()()()()()()()()()()男がテゾーロやローより先んじて口を開く。

 

「……『何故お前がここにいる』……と、お前は言うが──()()()()()()()()()()()、と判断するその理由は何だ?」

 

 壁から最初に抜けてきた男はローに黒い塊──自らの腕を伸ばした張本人であり、ゾロを同時に吹き飛ばした者でもあった。

 ゾロは刀で何とかそれを防いだが、その感じる強さに警戒して顔を険しくする。ゾロにはその相手が誰だか分からない。分かるのはローに日和くらいだが、少しでも海賊の世界に詳しいものであれば驚いただろう。

 特にローは目を見開き、歯を噛み締めて驚く。ここにいるとは聞いていない。壁からタナカさんの能力で続々と百獣海賊団の見知った幹部が入ってくるが、そちらはまだ予想がつく──もっとも、部下の報告からこの場にはいない筈の──相手だ。

 だが先頭に立つ男はそもそも百獣海賊団ではない。その身体の大きさこそ“大看板”に匹敵する長身を誇ってはいるが、男は百獣海賊団の幹部ではない。“大看板”では決してない。

 だが……その実力は“大看板”に勝るとも劣らないもの。それだけの強さを誇る海賊帝国の両翼、その1つ──その最高傑作と呼ばれる男。

 

「何故お前がここにいる──“将星”カタクリ!!!

 

『ビッグマム海賊団“スイート3将星”(シャーロット家次男)シャーロット・カタクリ 懸賞金15億5700万ベリー』

 

「……味方ならいざしらず……()()()()のお前が知る必要があるのか? ──トラファルガー・ロー」

 

 “四皇”ビッグマム海賊団の最高戦力“将星”。その中でも最強と呼ばれる男が、百獣海賊団の幹部を引き連れてロー達の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 ──一方、その頃。

 

「……え……?」

 

「何と……!!?」

 

「何故……ここに……!!?」

 

「え、誰ですかあの人!!? 有名なんですか!!?」

 

 ドフラミンゴに否定を突きつけたルフィ達もまた、突如として現れた人物に言葉を失っていた。

 特にルフィの驚きようは他の誰とも違った。ジンベエやロビンは単純にこの場にいることに驚いているが、ルフィは驚きと共に──幾つもの感情が胸の中に渦巻いている。

 

「フッ……フッフッフッフッ!!! さァ、どうする“麦わら”……? もう一度言ってやれよ……!! この同盟を断るって──おれ達の()()()に向かってな……!!!」

 

「ねェ!! だから誰なんですかあの人!! お知り合いですか!!?」

 

 もはやドフラミンゴやブルックの声も届かない。意識出来ない。ルフィは部屋の奥から出てきた1人の男から目を離せない。

 だが……それも無理からぬことだ。ルフィを知る者なら誰もがそう思うだろう。

 何しろその男はルフィの旅の目的の1つ──いや、ルフィが海賊を目指す──いや、ルフィが海賊というものを知るきっかけとなった──

 

「………………………………()()()()()……?」

 

 ──()()()()()()()()()

 

「──よう、ルフィ。やっと会えたな」

 

「……!!!」

 

 ──ルフィの頭の麦わら帽子が……揺れた気がした。




ドレスローザ→西の街で戦闘中。ローの部下(ベポ、シャチ、ペンギン)の報告だとジョーカーとその部下達やドフラミンゴとテゾーロの部下もほぼ全員ここにいる。
ベラミー→ついさっきまで戦ってきた。ちょっと傷ついてる。
ドフラミンゴ→ルフィ達と組んで新政府軍と百獣海賊団を蹴散らしたい(?)
テゾーロ→グラン・テゾーロを守りつつ、ドフラミンゴを騙し討ちしたい(?)
ジョーカー→ドフラミンゴと麦わらの一味と新政府軍を消すつもり(?)
ルフィ→仲間を取り返したい。嫌いな奴は嫌い。
ロー→バレていたとしてもバレてなかったとしても今のうちに情報を持ち帰って出来ればテゾーロを先に消しておきたい。罠でも逃げられるように計画を立てているが……。
新政府軍→大将2名率いる部隊がドレスローザとグラン・テゾーロを落とそうとしているらしい(?)
サニー号→別の場所に。残りのメンバーが乗ってる。
百獣海賊団→誰がどれだけ来ているかは次回。
カタクリ→目的不明。
シャンクス→ドフラミンゴの後ろ盾(?)
タイトル→ポーカー用語。
ぬえちゃん→今回も可愛いことしてますね。

今回はこんなところで。それぞれの思惑がありつつ情報が錯綜していますが、何が本当のことなのかはまあ適当にお察しください。
次回は交渉の続きと戦闘に逃走。逃げ切れるかどうか。このシャンクスは本当にシャンクスなのか。お楽しみに。

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