正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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ロジャー海賊団

 海の上は落ち着くし、好きだ。そう思えている私はもう海賊として馴染んでいるのだと思えてもっと好きである。

 ただ……乗る船と気分が違うだけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………むー」

 

「わはははは!! ぬえ! 何むくれてんだ? 一緒に飲もうぜ!! そんでお前の能力のこともっと教えてくれ!!」

 

「……敵に教えることなんてないもん」

 

「わはははは!! そりゃそうだ!! 一本取られたな!! じゃあ飲め!!」

 

 そう言って、ぐいぐいと酒瓶をほっぺに押し付けてくる酔っぱらい親父に、それと一緒になって騒ぐ男達……私はそれらを見て、思わず抵抗するようにほっぺたを膨らませてしまう。

 というのも何を隠そうこの船……敵となる予定の一味の船であり、その船で騒いでいる男達は皆敵の海賊──ロジャー海賊団の面々である。

 そして私の隣で騒いでる親父こそ、ゴール・D・ロジャー。このロジャー海賊団の船長であり、かなり強そうで、悪名高く……そして話の通じないメチャクチャな親父だ。

 なんというか……その……結局、私はこのロジャーの押しというか強引さに負けて、船に乗せられてしまったのだ。だってロックス船長のおつかいを達成出来ないとか……ロックス船長に何を言われるかもちょっと怖いけど、それ以上に私が嫌だ。私に任された仕事だし、ちゃんと出来るところを見せて海賊として褒めてもらいたい。夜にでも連絡しないとなぁ……ちょっと憂鬱だけど、仕方ない。仕事は早めの報告が大事なのだ。そして、確実に遂行することも。

 だから少ししたら行くという発言を信じて船に乗った。後はまあ、これも理由としては大きいのだが、

 

「──それにしても、よく乗ってきたな? 断っても良かったんだぞ?」

 

「……一応、命を助けてもらったってのもあるし、借りをどこかで返せればなって思っただけよ! というかあなた達の船長が強引過ぎ!!」

 

「まァ……ロジャーはそういう奴だからな。すまんが諦めてくれ」

 

「ははは! おれ達がロジャーを止められたことなんてねェからな! 諦めて飲めよ!」

 

 と、レイリーの冷静な質問と返しを受け、ギャバンに笑われながら酒を注がれる。一応飲む……飲むけど……こう……乗せられた感じがちょっと引っかかる……それが無ければもうちょっと楽しめたかもなのに。

 

「わはは、いいじゃねェか! 何もウチに入れとは言ってねェんだからよ! ちょっとの間船に乗っててくれってだけだ!!」

 

「……ちょっとってどれくらい?」

 

「──知らん」

 

「知らんってどういうことなの!!? というかそれ、そっちの気分じゃない!!」

 

「わはは、そんなには長くならん。ということで色々見せてくれ!! 7400万の賞金首なんだってな? 大したもんだが、本当に強ェのか? どうなんだ?」

 

「くっ……バカにして……!!」

 

 相変わらず私を前に酒を飲みながらバカ笑い。そして子供扱いをしてくるロジャーにイラッときてしまう。……こうなったら……ちょっとぐらい、私の力を見せつけて私のことを認めさせてやろうか。そりゃ絶対勝てないし、何も通じない可能性は高いけど、それでも、おそらくやられても殺されない程度の甘い相手だ。それでいて強者だし、ロジャーの強さを見てみたいという好奇心もある。面白そう。そうやって一度思ってしまえば、その欲求を跳ね除けることは難しい。気がつけば、私は三叉槍を手にとっていた。

 

「……なら見せてやるわ!!」

 

「──お、本当か!?」

 

 私がそう言うと、ロジャーが期待に満ちた目で私を見てくる。勿論、私はニヤリと笑みを浮かべて頷き、

 

「ええ……その身を以て味わいなさい!! ──“ブルーUFO”!!」

 

「!! うおおおっ!? すげェ~~~!! UFO出しやがった!!」

 

「うおっ!? マジかよ!!」

 

「というかやる気か……?」

 

 私は戦意をロジャーに向け、ブルーUFOを生み出す。ブゥン、と耳慣れた不思議な音と共に現れるブルーUFOは、ここ2年で出せるようになったものの1つだ。私の成長の証でもある。ふふん、ロジャー海賊団の面々もびっくりしている。もっと恐れ慄け! このブルーUFOは凄いのだ。

 レッドUFOと何が違うのかと、これを知る白ひげなんかは聞いてきたものだが、違うのは攻撃手段だ。

 レッドUFOは普通の赤い光弾であったが、ブルーUFOは──青い……()()()()()()()

 

「む……ロジャー、来るぞ」

 

「うおっ!? 危ねェ!?」

 

「今のは……もしかしなくてもレーザーか!!」

 

「御名答! そしてよく躱したわね!!」

 

 そう、ギャバンが言った通り、これはレーザーであり、私の攻撃手段の中でも、今の所結構な主力とも言えるものだ。

 何しろレッドUFOが撃ち出すような普通の弾よりは速いし、食らった時のダメージもそこそこ入る。レーザーだから貫通しやすいし、それだけで倒せはせずとも一定のダメージは入れられるのだ。……まあレイリーには見聞色なのか、普通に察知されたし、ロジャーにも難なく躱されたが、めげない。一定以上の強さを持つ奴等は普通に躱してくるからしょうがない。新世界は最低でもハードなシューターしかいないのだ。

 だがこれだけが私の力という訳ではない。私は浮かびつつ、ロジャーに向かって次の技を発動する。

 

「──“平安のダーククラウド”!!」

 

「うおわっ!? 今度は黒い雲か!?」

 

「わはは!! すげェな!! 視界が利かねェ!!」

 

「笑ってる場合か……そこそこ厄介だぞ。この雲」

 

「目で見えないってことは、見聞色を使えない奴はかなり不利だな……しかしマジでなんの能力だ? 正体が掴めねェぞ」

 

「そう! 正体不明!! 正体不明は人間を怖がらせるのよ!!」

 

 周囲に撒き散らした黒い雲に、ロジャー海賊団が多少ざわつく。ロジャーは笑ってるし、レイリーは冷静だし、ギャバンも冷静だが、それでもこうやって少しは驚いてくれると気分が良い。妖怪の血──は入ってないが、血が騒ぐ。能力の正体にも気づいてないし、こうなるのもあって戦いにも張りが出てくる。

 

「そして、正体不明は戦いにおいても有利! 得体の知れない相手と戦う恐怖を知るがいい!!」

 

「へェ? 何をして──うお! またレーザーか!!」

 

「今度は変な弾付きだな」

 

「なるほどな。雲からも弾とレーザーが発射されると……」

 

「ふふん! だけどそれだけじゃないんだから!!」

 

 と、得意気に言って私は黒雲の中を真っ直ぐに進む。“平安のダーククラウド”という2年程前に覚えた私の技によって、黒雲とそこから生じる弾とレーザーが相手を攻撃するが……何も、私はここに留まっている必要もないのだ。

 当然だが、技があればそれを応用する術が存在する。これは幻想ではない。現実の世界なのだ。決められた動きなんてものは存在しない。

 だからこそ、私は黒雲に紛れて槍を構え、敵を討ち取る。

 しかもUFOによる支援もあれば、普段はカイドウだって前線で暴れている。そうしながら私も近寄って戦うことで、中々に相手を撹乱させ、傷を与えることが出来るのだ。

 いわゆる、勝利の為の黄金パターン。集団戦でもタイマンでも使えるお得意の戦法だ。これを用いながら、見聞色の覇気で相手の動きを読み取り、武装色の覇気を纏って攻撃すれば、そこそこの相手は倒せる。まあロジャーは倒せないけど!! ロジャーの強さを見る為の威力偵察みたいなものとはいえ、こっちは本気じゃないと実力の一端も見えないだろうしね!! という訳で勝負!! 

 

「自由過ぎる人間よ! 正体不明の飛行物体(だんまく)に踊らされて死──」

 

「わはははは!! 面白ェ!! それじゃ次はこっちの番だな!!」

 

「っ──……!!」

 

 ──あっ、やばっ。

 黒雲と弾幕に紛れた私の槍の一撃をあっさりと躱してみせるロジャー。あ、ちょん避け上手い──とか言ってる場合じゃない! 

 私の見聞色で嫌なものを感じてしまう。ヤバい。わかってても躱せない。実力差がありすぎて。出来ることは槍を構えて、武装色を込めて防御することだけ……ほ、本気じゃないよね? 手加減するよね? 私、痛いのは平気だけど、こういういきなりなのはちょっと──

 

「──“神避(かむさり)”!!!」

 

「!!?」

 

 ──その時、ロジャーが剣を横一閃。衝撃波として飛んでいく程の斬撃が私の槍に当たり、そのまま私の意識を刈り取る。ほ……本気じゃない……筈なのに……!! ロジャーにとってはきっと軽い小手調べのような一撃。それを喰らって気を失う私の弱さと、想定以上のロジャーの強さに私は苦笑いしつつ、意識を闇に落とした。

 

 

 

 

 

「──あーあー……派手にやったな、ロジャー」

 

「子供にやることではないな……」

 

「わはは、ちょっと強すぎたか!!」

 

「ちょっとじゃねェっての。あれくらいなら簡単に取り押さえられただろ」

 

「でも結構面白かったぞ? 将来有望だな!!」

 

「ああ……まさかこの歳にして覇気まで使うとはな。これで見習いという事実が本当なら、心して掛かった方がいいかもしれんぞ、ロジャー」

 

「ああ、ロックスって奴との戦いが俄然楽しみになってきた!!」

 

 ──ふと、そんな声が私の意識に届いた。

 

 私は意識の覚醒を自覚する──その前に、身体を跳ね上げるようにして立ち上がり、槍を手に取った。

 

「……!!」

 

「うおっ! 起きた!?」

 

「って、なんだァ!? いきなり槍なんか取って!」

 

「起き上がって早々にまだやるつもりか?」

 

「つーかタフだな……まだ気絶して10分も経ってねェぞ?」

 

「いやいや落ち着けって! どうせ戦っても敵わねェし、そもそも相手する気ないんだからよ!!」

 

 と、私は周囲にいる海賊達とその声を聞いて、ようやく状況を理解する。槍を構えていたが、周りにいるのは──うちの連中ではない。

 

「……あっ、そういえば今私……うちの船にいないんだった」

 

「? 何? どういうことだ?」

 

「あー……いや、ごめん。癖みたいなものだから気にしないでいいよ。私ももう戦る気はないから」

 

 と、戦闘態勢を解いて息を入れる。すると私を気絶させたロジャーが笑みのまま私に尋ねてきた。

 

「わはは、さっきまで気失ってたのにいきなり立ち上がって槍を構えるとかすげェな! だが寝てる最中に襲うなんてこと、おれ達はしねェぞ。戦う気のない相手を襲ってもつまらねェからな!!」

 

「……ま、普通ならそうよね」

 

「あ? 普通なら……?」

 

 と、ギャバンや他のクルー達が不思議そうに私の発言に首を傾げていたので、私は言っておく。少し悩んだが、まあ別に話しても構わないことだと笑みを浮かべ、

 

「ウチの船だと、寝てる間に殺しにくる奴とかも0とは言えないから気が抜けないのよね。まあ殆どは起きてる時に襲いかかってくるけどさ」

 

「……は? そりゃどういうことだ? 猛獣でも船で飼ってるのか?」

 

「猛獣か。それはいいな。よし、レイリー。おれ達も飼おう。クマとライオン、どっちがいい?」

 

「飼うかバカヤロウ。何だその二択は……」

 

 ロジャーとレイリーの会話が──というか、ロジャーが絡むやり取りが基本自由過ぎて私は何とも言えない気分になる。この人達、緊張感とかないなぁ……うちの船とは大違いだ、と。私は気にしないようにその猛獣でも飼ってるのかというギャバンの質問に淀みなく答える。

 

「襲ってくるのは“仲間”ね。猛獣じゃない」

 

「──は?」

 

 私がそう答えると、ロジャー達の空気が一瞬凍った。あ、予想してた反応だ。驚いてる。面白い。私は続く彼らの声を聞いて楽しむことにする。

 

「いやいやいや、なんで仲間が襲ってくるんだよ。仲間だろ?」

 

「酔った勢いで喧嘩ってことか? まあそれくらいなら──」

 

「──そんな生温いものじゃなくて、普通に殺しにかかってくるわ。うちの船だと……仲間殺しは日常茶飯事だからね」

 

「……!!?」

 

 疑問の言葉に答えるようにそう言えば、今度こそロジャー海賊団の面々は一様に驚きの表情を浮かべる。うーん、わかってたけど、やっぱそういうのが横行してる一味って中々ないよね。さすがに引いちゃったか。

 絶句し、言葉を紡げないクルーが多い中、冷静なレイリーは尋ねてくる。真剣な表情のままで、

 

「……仲間同士で、殺し合ってるのか?」

 

「うん。別に普通だよ。ウチは皆凶悪だし船員同士の仲も悪いからね。弱かったり、間の抜けた奴は直ぐに死んじゃうかなー……あ、でも、最近はだんだんと面子が固定されてきたというか、残ってる仲間達はさすがに皆強いから簡単には死なないけどね。だから最近は少なめ。旗揚げして最初の頃は1日に何十人って死んでたし、今は結構過ごしやすいよ?」

 

「な、なんだそりゃ……とんでもねェ一味だな……」

 

 ギャバンがそう言う通り、確かに改めて考えるととんでもない一味だよね。それはそう思う。嫌ではないけど、私も、さすがに仲間同士で殺し合いまくる一味は、自分で作るとしたらどうかと思うしね。……というか、ここまで言って思ったけど、既に断られてるとはいえ、これじゃウチの印象最悪じゃん……絶対入らないよ……それこそ、勝ち馬に乗りたい人や、よっぽど腕に自信があって何か目的がある人しか入らないと思う。とはいえ、海賊って殆どがそれらに当て嵌まる人ばかりだから人材にはそれほど困らないんだけどね。好き勝手暴れられることをメリットとして捉える人も多いしさ。

 ──しかしやはりと言うべきか、この男はその在り方が嫌いな様だ。

 

「なんだそりゃあ!!! 仲間だろ!? 仲間同士で殺し合うなんてどうかしてるぜ!!」

 

 と、言い放ったのはロジャーだ。予想はしていたが、聞いただけで気に入らないようで、明らかな怒気を滲ませている。……まあ、その意見はご尤もだが、

 

「んー……私らって別に同じ船に乗る仲間でも、仲の良い相手以外はどうでもいいって思ってる連中だらけだからねー。ロックス船長も止めないし、私は毎日戦って強くなれるからいいけど」

 

「仲間同士で殺し合っていい訳ねェだろうが!!! そのロックスって奴、おれがぶっ潰してやる!! おいぬえ!! お前、やっぱウチに入れ!!」

 

「いや、だから私には不満は無いって言ってるじゃん……それに……こんなこと言っといて言うのもなんだけど、ロックス船長は部下には結構寛大だしね。敵には容赦ないけどさ」

 

 ロジャーの怒りに私は淡々とそう言う。実際、別に何とも思ってないのだ。そりゃあ仲の良い一部の人達が死ぬのは嫌だし、そういう人達とは殺し合うことはないけどさ。別にそれ以外ならどうだっていい。海賊なのだ。殺したい人がいるなら殺すのも自由だと思ってるし、それで負けて死ぬなら、それは弱かったそいつのせいでしかない。強ければ防げたのだから。

 だから私やカイドウは強くなろうとしている。海賊として自由にやるのは、何よりも強さが必要不可欠なのだ……後、実際ロックス船長も配下には優しい。私やカイドウにも良くしてくれるし、特に嫌う理由はないし、むしろ好ましい。──まあ、それが善人には理解し難いことだというのは分かっているけども。だからロジャー達が怒ったり、理解出来ないと言った面持ちなのもわかる。

 

「うるせェ!! ロックスはおれが倒す!!!」

 

「……ん~~~……いや、まあ……無駄だとは言わないけどさぁ……」

 

「──そしてお前は仲間になれ!!!」

 

「だからならないっての!!! というか!! 私はいつかカイドウと一緒に独立するんだから!!」

 

「……ん? カイドウ?」

 

 と、その時。私がロジャーのムチャクチャっぷりに全力で言い返した言葉の内容を拾ってレイリーが反応する。あ、知りたい? 教えるつもりはなかったけど、それくらいなら教えてやってもいい。勧誘がしつこいしね! という訳で私は懐から私のとは別の手配書を取り出して言った。

 

「そうよ! 私の姉弟分(きょうだいぶん)のカイドウ!! 私と同じロックス海賊団の見習いで、1億1110万ベリーの賞金首!!」

 

「へェ……どれどれ……って、これ見習いってことはガキか!? ガキって面構えじゃねェんだが……」

 

「見習いで1億か。大したものではあるが……」

 

「! そうでしょ! ふふん、カイドウは強いんだからっ! いつかカイドウが船長、私が副船長で海に出て、最強の海賊団を作り上げるんだからね!!」

 

 と、私は自慢気にそれを宣言する。私だけじゃなくカイドウの才能を見抜くとはさすがだ。褒められたし嬉しい。私は自分の事のように胸を張る。するとレイリーが顎に手を当て、

 

「……なるほど。つまり、2人は独立するまでの間、修行も兼ねてロックスの船に乗っていると」

 

「そんな感じ!! ロックス船長は世界最強だし、他の人達も強い人ばっかりなんだから! 戦いも毎日あるし、海賊としても楽しいし、強くなるにはもってこいの環境だよ!!」

 

「ふむ……危険だが、強くなるには自ら窮地に自分を追い込むか……確かに納得は出来るが……」

 

「よし!! それならロックスを倒して、お前らを独立させてやる!! そしたら強くなっておれを倒しに来い!!」

 

「!」

 

 レイリーは頷く中で、その話を聞いていたロジャーがそんなことを私に言う……が、私は少し驚いてしまった。生じた疑問を直ぐに口にする。

 

「……ロックス船長を倒せるかは置いといて……いいの? そんなこと、私はともかく、カイドウに言ったら本気で殺しにくるよ? あなたもメチャクチャだけど、カイドウはもっとメチャクチャなんだから」

 

「大丈夫だ! 簡単には死なねェぞ、おれは!! だから安心して殺しに来い!! わはははは!!」

 

「……私もかなりの悪党になって、あなたの仲間を苦しめるかもだけどいいの? そんな応援しちゃってさ」

 

「わはは……そりゃ自由に生きる海賊同士。自由に生きた結果、譲れねェもんがあるなら戦りあうだけだ。おれにはお前達の──いや、誰にも、人の“夢”を止める権利はねェんだからよ!!!」

 

「……!」

 

 私はそのロジャーの言葉に、思わず言葉を無くしてしまう。──それは何故なら……その夢を語るロジャーの姿と……野望を語るロックス船長の姿が、重なって見えたからだ。

 似ている。見た目ではない。その生き様と……おそらく、()()()

 受け止めたこちらが言葉に迷うほどの強い意志は、まさしくロックス船長を相手にした時と同じもの。……そしてだからこそ、相容れないだろうな、と私は感じてしまい、

 

「……ま、それならいいけど……それじゃロックス船長のところに向かう?」

 

「よし!! 行こう!!」

 

「待てや船長コラ!!!」

 

 あ……駄目だった。この勢いだと今言えばロックス船長のところに舵を切ってくれるんじゃないかと思ったし、まさしくその通りだったが、他の仲間達が全力で止めていた。

 

「もうすぐで次の島に着くってんだから我慢しろ!! そろそろ買い出しも必要なんだよ!!」

 

「コロコロと針路変えんな!! 航海士舐めてんのか!?」

 

「宴で結構食料も減ったからな……ロックスが何処にいるのかは知らんが、このままだと餓死するぞ、ロジャー」

 

「うっ……それは大変だ。さっそく次の島に向かうとしよう! 君たち!」

 

「む~……もうちょっとだったのに……」

 

 仲間達の猛口撃を喰らった挙げ句、食料も底をつきそうということで、結局針路を変えることは出来なかった。あーあ……ほんと、いつになったら帰れるのかなー……。

 ……まあでも、ロジャーと一緒にいるのは……それはそれで面白いかもしれないし、少しくらいならいいかな。

 興味が尽きないロジャーという海賊をしばらく観察するのもいいかと思い、私はどうせまだ掛かるからと、一先ず近くにあったお酒と料理を摘むことにするのだった。

 

 

 

 

 

 ──同時刻、“新世界”、とある海。

 

 その部屋で1人、本を読み耽る男は……世界の王を目指す男だった。

 

「…………」

 

 逆巻く髪を持つ悪魔の如き凶相の男の名は──ロックス海賊団船長、ロックス・D・ジーベック。

 自身の名を冠する最強の海賊団を率い、世界政府の転覆を狙う最悪の海賊である。

 彼は今、こうして情報と知識を蓄えながら……自身が送った使者1人と……()()()()()の連絡を待っていた。

 無論、今日来るとは限らない。特に前者は、まだしばらく時間がかかると予想している。

 だが後者については……そろそろ一度、連絡が来る頃と見ていた。

 長い間鍛え上げられ、極めた見聞色の覇気は遠く離れた人物の気配すら予見する。彼は察知した場所から船への距離的に、そろそろ自分の部下の2人がここにやってくることを読み取り、ニヤリと笑みを浮かべた。

 そうして数分後。ロックスの予想通り、船長室のドアを叩く音が鳴り響いた。

 

「──船長。ただいま戻りました……!」

 

「戻りました……」

 

「おお……待ってたぜ、入りな」

 

 はっ、と短い声が2つ。どちらもしわがれた老人の声であり、実際に現れたのも2人の老人だった。1人は老婆で1人は老人。どちらもあまり見ない格好であり、1人は頭に2本の蝋燭を巻いた山姥に似た老婆。1人は琵琶を持った和服の老人。

 長らく船を離れていた2人。それはまさしく、ロックスの部下の2人であった。

 

「ギハハ……それで? おれの前に姿を現したからには、ちゃんと良い報告を聞かせてくれるんだろうなァ……? ええ? どうなんだ──ひぐらし、せみ丸」

 

「はっ……それはもう……」

 

「キョキョキョ……!! 勿論で御座います……!! あなた様の世界の王になるという野望を叶えるため……! 我ら2人、故郷にて、国盗りの準備を進めておりまする……!!」

 

 ひぐらし、せみ丸。老婆と老人は暗い部屋の中で椅子に腰掛けるロックスに向かって、深々と床に両膝を突いてお辞儀をする。

 それは普通ではない作法、あまり外では見られない独自の作法であり、2人がとある鎖国国家の生まれである証でもあった。

 だがそれを知っているロックスはとくにそのことを気にすることはなく、その報告の言葉だけを聞いて笑みを深めた。凶悪な男の悪い声が木霊する。

 

「ギハハハハ……! 国盗りか、面白ェが……見込みはあるんだろうなァ?」

 

「キョキョキョ……はい。今は国に恨みのある“復讐の芽”を見つけ、力と方法を教授したところ……しばらく時間は掛かりますが、これが成功した暁には、多くの武器をあなた様に提供できますぞ……!!」

 

「我らが故郷は荒れ狂う海流と滝に阻まれた要害であります故……いずれ来る政府との戦い……その拠点としてもお使い頂けるかと」

 

「ギハハ……ああ、10年、20年程度なら時間を使っても構わねェ。だが必ず手に入れな……!! おれは気は長ェが、我慢は好きじゃねェんだ……! 分かってるよなァ?」

 

「はっ、それはもう……」

 

「はい……そして、あなた様が世界の王となった暁には──」

 

 と、ひぐらしと呼ばれる老婆が顔を上げて告げようとすると、その言葉を横取りするようにロックスが言った。

 

「ああ……お前らの望み通り、その故郷の国をくれてやるさ。おれの言った儲け話に嘘は何一つとしてねェ。おれが世界の王になったら部下には欲しいものを幾らでも……それこそ、国を1つずつくれてやるさ……!! ギハハハハ……!!」

 

 普通は不可能と思われるような野望と気前の良い話を笑って話すロックスに、再びひぐらしとせき丸は平伏した。

 

「ははっ……その言葉、有り難く頂戴します……ですが──」

 

「キョキョキョ……! ()()()()()()には、“ワノ国”1つだけで充分……! それさえくだされば、後は何も望みませぬぞ……! ロックス船長……!!」

 

「……ギハハ。そうか、欲のねェ奴等だ……まあいい。それなら引き続き進めておきな。こっちはこっちでやることもあるからよォ……!!」

 

「ほう? 何かなさるので?」

 

 ひぐらしが丁寧な口調で悪どい顔を浮かべたロックスに問いかける。野望を秘めた男の顔だ。覇気にも満ちている。たとえ言葉がなくとも察せない筈はない。

 そして実際に、ロックスは言った。机の上に並べられた幾つかの赤いばつ印のつけられた海図に、また幾つかの地名。それらを一瞥して、

 

「大したことじゃねェさ……これまでとやることも変わんねェ……ただその火の粉を、能天気にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にも向けてやるだけさ……!! ギハハハハ……!!!」

 

「……!」

 

 そこで、黒炭ひぐらしは見た。

 幾つかの地名の中で偶然か、不思議と視線を惹きつけられた聞いたことのない地名。彼が狙う候補を示す赤いばつ印がつけられたその場所の名は――“()()()()()()”……と、そう書かれていた。

 




 という訳でまた次回なんですが、ちょっとした考察というか補足を載せておきます。

 最後に例の人達が出てきて、「ん? 武器を下ろして後ろ盾を頼もうとしてたのってカイドウじゃないの?」って思うかもしれませんが、そういう感想が来るかもと見越して補足。最初に呼び寄せようとしてたのはカイドウじゃなくてロックスじゃないかと。
 何故かと言うと、オロチがババアと初めて会ってその趣旨の言葉を発したのはオロチが小間使いになる前。つまり、最低でも41年前です。
 41年前と言うと、まだロックス海賊団が暴れていたであろう時期であり、この頃のカイドウはまだ見習いです。見習いでしかないカイドウに後ろ盾を頼むのはおかしな話。ババアが若い頃のシキをマネマネのメモリーに入れてる以上、ロックス海賊団の一員だったか、もしくは関係があったかはある訳で、そうなってくると、国を手に入れるための後ろ盾に頼もうとしてたのは、世界の王を目指すため、政府と戦うための大量の武器を欲するロックスなんじゃないかなと。鎖国国家でもあるし、拠点にすることだって出来る。だけどそうなる前に、ゴッドバレーでロックスが亡くなってロックス海賊団が解散したと。これがババア達にとっては予想外で、しかし今更国盗りを諦める訳もなく、ロックスの代わりの後ろ盾を誰にするかと色々吟味した結果、カイドウになったんじゃないかなと、まあそんな考察で本作はこうなりました。
 まあ色々と推測は出来るなって。大物たちがワノ国に関わる理由とかもそうだし、そもそもロックスがワノ国に何かあると睨んでたか、何かを知っててワノ国に関わろうとしてた可能性もありますし――という訳で補足終わり。

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