正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
新世界に浮かぶ黄金の町、グラン・テゾーロ。
海賊帝国が世界政府を滅ぼし、世界を暴力の世界に塗り替えた現状で、その街は最も平和を保っていた場所だった。
だが……そんな街にも今は──“戦争”の空気が漂い始めている。
停泊した、同じく戦争を知らない国──ドレスローザと同様に。
「さて……そろそろ始まるわ。私達も行きましょう」
「はっ。ブラックマリア様」
徐々に人の気配がなくなっていくホテル。その一室に巨大な遊女がいた。
百獣海賊団の飛び六胞の1人にして百獣海賊団の遊郭などの管理、運営を行う幹部ブラックマリアだ。彼女は大勢の配下──遊女や下男の様な格好の部下達を引き連れて部屋の外へ向かっていく。
その理由はつい先程メアリーズを介して伝えられた連絡。作戦開始の時が迫ったからだ。
つい先程までは捕らえた相手を弄んでいたものの、その続きはまた作戦が終わってからだとブラックマリアは部屋の中心に縛られているその女を見る──麦わらの一味の考古学者“悪魔の子”ニコ・ロビンを。
「っ……!! (ダメね……やっぱり抜け出せない……!!)」
「あらあら、往生際が悪いのね。無駄よ。あなたの能力も調査済み……“
ロビンを部屋の中心で捕らえているのはブラックマリアの能力で生み出した粘着性の糸だけではなかった。普通の相手であればそれだけで十分だが、能力者相手では身体の動きを止めるだけでは不十分だと予め用意していた海楼石の錠がその手には嵌められている。
ゆえにロビンには自力で抜け出す術がない。海楼石で能力を封じられ、力も抜けている。仮に力が抜けていなくともこの蜘蛛の糸の縛めから抜け出せるとは思えない。
未だ冷静であり、希望を捨てていないとはいえ、この状況はかなり追い詰められていると言えた。ロビンはブラックマリアの舌舐めずりや責めの言葉からただ耐え凌ぐ。
「まあ精々大人しくしていることね。新鬼ヶ島に着いたらまた可愛がってあげるわ♡ あなたの頭の中の知識は貴重……他の勢力に渡すワケにもいかないわ。あなた達の知識は私達が独占させてもらうの♡」
「……何をされたところで私は何も喋らない。あなた達が何の目的で“
ロビンは毅然と告げる。どうやら百獣海賊団は“
かつてロビンはその古代兵器の復活のためにクロコダイルに用いられ、あるいはその知識のために政府に狙われた。“暴力の世界”を地上に作り上げることを目的とする百獣海賊団であれば古代兵器を欲しがっても不思議ではない。
そしてそうだとすれば決して教えることはない。それは自分を生み、育て、救った母やオハラの学者達……サウロや彼らの意志を無下にする行為だ。彼らの意志に報いるなら歴史の真実を知り、古代兵器を悪しき誰かに渡さないこと。
そしてそれは自分が口を割らない限り、達成出来る──そう思っていた。だが、
「ふふ、おめでたいわね。どうやらあなたは何も知らないみたい。私達海賊が“
「!? どういうこと?」
ブラックマリアのその言葉にロビンは聞き捨てならない──海賊が“
古代兵器の復活だけが理由じゃないというのか。確かに、空島の
それは“
だが思考を冷静に回せたのはそこまでだった。ブラックマリアの次の言葉には、ロビンも素直に驚きの反応を見せるしかない。
「それに“
「!!? え……!!?」
その言葉にロビンは顔色を変える。
オハラの生き残りが……自分1人だけじゃない。その意味を考え、心臓の鼓動を強くする。
「ブラックマリア様。そろそろ……」
「ふふ、お喋りの時間はもう終わりね。それじゃあまたね……“悪魔の子”」
「! 待って!! 生き残りって……!!」
その言葉の意味を半ば汲み取った時、ブラックマリアとその部下達はロビンの声にも応えず部屋を出ていく。
必然的にロビンは部屋の中で1人、その意味を頭の中で反復させることになった。オハラの生き残りが自分1人だけじゃない。その意味は──
「誰かが……生きている……?」
──オハラには自分以外の生き残りがいる。
自分の生まれ育った土地の育ての親とも言える大好きな学者達。自分の実の母を含む古代文字を読める誰かが生きている。
その可能性を示唆され、ロビンはしばらく呆然と同じことをただ考え続けた。
──とある場所。
グラン・テゾーロのその場所は広いドーム状の空洞のような密室だった。
周囲は黄金によって固められ、外からの侵入を許さないその場所に、今は百獣海賊団の大幹部が集まっていた。
「──来たわね、ジャック」
「──ジョーカーの姉御」
部屋の中心。赤いテーブルと椅子に座り、紅茶を飲む背後にメアリーズの真打ちを控えさせたその美女は百獣海賊団の大看板“戦災のジョーカー”。
そしてその部屋にやってきた鉄仮面の巨漢が同じく百獣海賊団の大看板“旱害のジャック”。
構成員20万人を超える百獣海賊団の中でたった4人しかいない最高幹部。共に懸賞金は15億を超える“災害”と称される怪物達。カイドウとぬえの懐刀である彼らは謂わば兄弟分のようなものだ。
ゆえに大看板で最も若く、比較的新参であるジャックの合流をジョーカーは歓迎した。
ジャックもまた真面目に名を呼んで敬意を表して見せる──が、その挨拶に続く言葉は仕事の話だった。
「“麦わらの一味”は?」
「あら、もう仕事の話? 相変わらず真面目ね、フフ……心配せずとも“麦わらのルフィ”や“海賊狩りのゾロ”を含む一味の主力とその大半は捕らえたわ。トラファルガー・ローもドフラミンゴに預けてある。残ってるのは“狙撃の王様”そげキングに“鉄人”フランキー。後は“わたあめ大好きチョッパー”くらいね」
「……居場所は分かってるのか? ジョーカーの姉御」
「勿論。それに刺客も向かわせてるわ。“狙撃の王様”はグリーンビットに逃げ込んだという情報があったから土地勘のあるダウトに。“鉄人”はドレスローザで今も暴れ回ったり隠れたりしながら逃げ回ってるわ。そして“わたあめ大好きチョッパー”は船にいるようだけど……そういえばそろそろ向かわせた刺客が仕事を終える頃ね。そっちはどうなっているかしら? ──ルッチ」
「はい。ちょうど繋がったところで……どうぞ」
ジャックの質問にジョーカーは余裕を持って答えていく。“麦わらの一味”の大半は既に捕らえ、残った者達についても刺客を向かわせている。
そして最も苦戦している様子だった船の方も、増援によって解決の見込みが立っていた。ジョーカーが声を掛けたルッチが小電伝虫の受話器の先をジョーカーとジャックの方へ向けると──そこから賑やかな男の声が聞こえてきた。
『──アッパッパッ~~!! ちょうどこっちも終わったところだぜ!!』
──少し前。ドレスローザ、北東の海岸。
「おい!! どうなってんだ!!?」
「無敵のバリアじゃねェのかよ!!? おい、頼むから頑張って防げ!! 捕まっちまったらおれもやべェ!!」
「ゼェ……ゼェ……うるせェ……チョッパー先輩はともかく……おめェは黙ってろっぺ……!!」
“麦わらの一味”の船であるサウザンド・サニー号が浮かぶその海岸で、百獣海賊団とドンキホーテファミリーの軍勢が苦戦し、憎まれ口を叩くのみだったその戦況は──新たな増援によって形勢が逆転していた。
無敵のバリアに包まれた船の甲板の上で、ボロボロになっているバルトロメオにチョッパーとシーザーが焦った様子で声を荒らげる。先程まであらゆる攻撃を防ぎ続けていた鉄壁のバリバリの実の能力だが──その攻撃は防げない。
「──“
「!!!」
指を結び、バリアを変わらず張り続けていたバルトロメオの身体が──愉快な音が鳴ると同時に爆発する。
白目を剥き、甲板に向かって倒れていくバルトロメオと共に、バリアが消えていくとチョッパーやシーザーが顔面を衝撃と悲嘆のものに変え、百獣海賊団とドンキホーテファミリーが歓声を上げた。
それと同時に、サニー号へと乗り込んでくる海賊達。その一番乗りはやはり、バルトロメオに一方的に攻撃を与え、倒してしまった増援。百獣海賊団の情報屋にして“最悪の世代”の1人である海賊。
『百獣海賊団情報屋(オンエア海賊団船長)“海鳴り”スクラッチメン・アプー 懸賞金5億5000万ベリー』
「アッパッパッ!! 制圧完了だぜ!! 相性が悪かったな~~~!!? アパパパパパ!!!」
「ウッ……ちく……しょう……!!」
バルトロメオの頭を足で押さえつけ、手長族特有の長い手で胸や頭を叩きながら笑うのはスクラッチメン・アプー。
悪名高い百獣海賊団に最も早期から近づいていたその男は新たにドレスローザとグラン・テゾーロにやってきた増援──ジャックの軍勢達と共に訪れ、ジョーカーの指示でこの海岸に派遣された刺客だった。
能力の相性もあるとはいえ、その強さには百獣海賊団やドンキホーテ・ファミリーの戦闘員も舌を巻くしかない。特に百獣海賊団はアプーが連れてきた怪物達の存在もあって士気をかなり高めていた。
「さすがはアプーさんだ!!」
「アパパパパ!! よーしお前ら!! さっさと運んじまえ!! 船ごとグラン・テゾーロに持ってくぞ!!」
「イビビビ!!」
「フガガ!!」
「ザギギギギ!!」
「何だあの大きさ……!! おっかねェ……!!」
「あれが百獣海賊団のナンバーズざますね……!! パンクハザードの実験の失敗作……!!」
アプーが乗り込んだサニー号を持ち上げる巨大な人影──巨人族を遥かに超える大きさを持つ怪物達の存在にドンキホーテファミリーは恐れる。
それはアプーと共に増援としてやって来た百獣海賊団のれっきとした戦闘員達。最低でも40メートル以上の巨躯を持つ古代巨人族の“ナンバーズ”達だ。
『百獣海賊団“ナンバーズ”
「ザギギ!! ザギギ!!」
『百獣海賊団“ナンバーズ”
「フガガガガ!!」
『百獣海賊団“ナンバーズ”
「イビビ~~!!」
「よし急いで帰るぞお前ら!! もうすぐ敵が来ちまうぜ!! 全部終わったら腹いっぱい食わしてやるから気張れYO~~~!!」
「イビビビ~~!!」
「フガガ~~!!」
「ザギギ~~!!」
「アプーさん!! シーザーを捕らえました!!」
「こっちは……報告にあったたぬきですかね? 確か麦わらの一味の……」
「よしよ~し!! バッチリだ!! それじゃジョーカーの姐さんに連絡するぜ~~~!!!」
「ウオ~~~!!!」
アプーの指示によって動く3体のナンバーズがズシンズシンと地面を鳴らしながら歩くと、それに続いて百獣海賊団もまた雄叫びを上げた。
その雄叫びと地響きにドレスローザの国民は慄き、遠巻きに眺めていることしか出来ない。西の街から入ってきた話で百獣海賊団が味方だと知れたとしても、彼らが怪物であることに変わりはないのだ。
「うおおおお!!? ちょっと待て!! おれ様は裏切ってねェ!! ただ捕まってただけだ!! 信じてくれ!! 悪いのは全部“麦わら”と“ロー”だ!!!」
「YOYO!! シーザー・クラウン!! それを決める権利はおれ達にはねェんだ!! “新鬼ヶ島”に帰ってから直接、カイドウさんかぬえさんに説明するんだな!!」
「そ、それは……!!」
「…………」
そしてサニー号の甲板ではアプーと百獣海賊団が捕らえたシーザーやくまを囲み、運び出す準備を始めていた。
当然、その中にはチョッパーの姿もあり、彼は百獣海賊団に“ご主人様”がいるため大人しくしている。
だがふと気になって、チョッパーはこの中で1番偉いであろうアプーへと声を掛けた。
「……なあお前……ご主人様はどこにいるんだ?」
「あァ? そんなこと聞いてどうする気だ?」
アプーはチョッパーの質問に一度質問で返し、答えを渋るもチョッパーは気にせず問いかけ、自分の訴えを口に出す。
「ここにいるんなら……すぐに新鬼ヶ島でもどこでもいいから避難させてくれ!! これから戦いが始まるんだろ!!? こんなところにいたらご主人様は危険だ!! だから……」
「…………ああ!! わかってるぜェ~~~♪ ちゃんともう新鬼ヶ島には送ってあるから安心しな!! お前もそっちに送ってやるYO♪」
「!」
「だからしばらくは待機だ!! ご主人様からは“おれ達の言う事を聞いて協力するように”って言伝も貰ってるぜ!!」
「……わかった」
陽気なアプーの答えに考えた上でチョッパーが頷くと、チョッパーを縛っていた縄が解かれる。再びシーザーやくまの方へ身体を向けたアプーから少し離れ、チョッパーは歯を噛み締めた。心の中でチョッパーは先程とは逆の言葉を思い浮かべる。
(嘘だ!! ご主人様の匂いは確かにする!! ご主人様はドレスローザかグラン・テゾーロのどっちかにはいる筈だ!! こいつらは嘘をついてる!!)
アプーの答えは嘘。チョッパーの現在の主人であるお玉は新鬼ヶ島にまだ送られてはいない。まだどちらかの島にいる筈。
彼らがチョッパーに嘘をつく確かな理由は分からないが、おそらくはお玉をこの戦いで利用するつもりだろう。あるいはチョッパーを利用するつもりか。
だがチョッパーはそのどちらであってもご主人様が納得するのであればそれでも構わない。ご主人様の口から直接命じられれば、今のチョッパーは心から喜んで何でもするだろう。パンクハザードの時はそうだった。
しかし、今はそうではない。だったら、チョッパーのやるべきことは1つだ。
(ご主人様を探さなきゃ……!! ここは危険だし、ご主人様にここから避難して貰おう!! それかご主人様をおれが守るんだ!! それに、ご主人様も帰りたいって言ってたんだ……!!)
チョッパーは思い出す。
パンクハザードで最初に出会って命令を与えられ、島から離れる僅かな間に、チョッパーはお玉と少しだけ話したのだ。
『ご主人様!! 何なりとご命令を!!』
『……チョパえもん。おら……』
『おれの名前はチョッパーだ!! でもチョパえもんでもいいぞ!!』
そう、その時にお玉は確かに言った。顔を俯かせ、耳を澄まさなければ聞こえないほどの声量で。
『“ワノ国”に……帰り……お師匠様……』
『え?』
チョッパーはその言葉に聞き返すように反応する。それは命令なのか、と。命令ならもう一度ちゃんと聞こえるように言ってほしいと、確認する意味合いも込めて。
だがその俯いた表情も一瞬。ハッとしたお玉はチョッパーに向かって笑顔を向けた。
『あっ……い、いや、なんでもないでやんすよ!! チョパえもん!! 今のは何でもないでやんす!! 今のおらは百獣海賊団の“真打ち”!! 頑張って働くでやんすよ!! ほら、美味しいご飯も沢山あるけろ!! これ食べて元気に働くでやんす!!』
『あっ、お、おう!! わかったぞご主人様!!』
パンクハザードの個室。ちょうど食事時に、お玉はチョッパーとそんな会話を行った。
飯を持ってきた百獣海賊団の下っ端もその場にはいて、どこか居心地の悪い空間だった。
とはいえ待遇は良く、滞在する島でもきちんと個室を与えられ、サンジの飯に慣れていたチョッパーから見ても美味しい“新鬼ヶ島”産だという食事を与えられる。おかわりだって自由で、寝る場所もふかふかだ。着ているものも、子供用だがきちんと仕立てられた良い着物を身に着けている。しかも欲しいものを言えば何でも部下が持ってきてくれるらしい。
そんなことを教えられ、チョッパーは当然だという思いと共に、何も不満を抱く筈がないと思った。あんな表情を一瞬でも浮かべる理由も見当がつかない。
もしかしたら病気なのかもしれないと思うも、身体の方は至って元気そうに見える。熱もないし、特に痛そうにもしていないし、本人もそれを否定していた。
だからチョッパーは心がざわついたのを無視して、ご主人様の命令を遂行することに集中した。百獣海賊団のために働く。そうすれば百獣海賊団に所属するお玉も喜ぶし、待遇ももっと良くなる。何より、それがご主人様の意思だ。
なら自分はその意思を叶えるために全力を尽くすだけ。かつての仲間すらも裏切ることに何の躊躇もないし、その気持ちは今なお全く揺らいでない。
だが……ご主人様の身の安全は、ご主人様の命令と同じくらい重要だった。
そのご主人様の身の安全に関わることで、百獣海賊団は嘘をついている。
(確かめよう……!! ご主人様に会って、次は何をしてほしいのかを……!!)
チョッパーは密かに、動くことを決める。百獣海賊団に逆らう意思をもって──ではない。
ご主人様の身の安全を守り、その意思を叶えるためにチョッパーは動き始めた。
『──ということでよ!! 今から船やら色々届けにそっちに戻るぜ!!』
「わかったわ、アプー」
アプーの報告を聞いたジョーカーは事が上手く進んでいることを確信し、傍らのルッチに電伝虫を下げさせるとテーブルの上に置かれた茶菓子を1つ摘んで口に放り込んだ。
「これで船とくまにシーザーも捕らえて……残りは2人で、直に0。ローの仲間も加えたらもっと増えるけど、沖に逃げてしまったみたいだし、そっちは後回しね」
「主だった港や岸には見張りを。海中も一応捜索させています」
「ええ、それでいいわ」
ジョーカーは福ロクジュからのその言葉に頷き、麦わらの一味の問題はこれで一通り片付いたとの認識を取る。
残り2人の居場所も分かっているし、捕らえるための戦力や人手もきちんと派遣した。“麦わら”や“海賊狩り”、あるいは“海侠”などの主力の戦闘員であればジョーカーもまた違った認識を取るが、残りの“鉄人”や“狙撃の王様”程度であれば今更何をしようがこちらは揺るぎもしないし、逃げることも不可能で、ましてや仲間の解放なんて出来る筈もない。そう思っていた。
「……ジョーカーの姉御。居場所が分かっていてまだ暴れてるのは“鉄人”でいいのか?」
「! あら、もしかしてジャック。あなたが直接行くつもり?」
「……必要なら」
──が、もう1人の大看板はどうやらそうは思っていないようだった。
ジョーカーの目の前でアプーの報告を聞き、仕向けた戦力や作戦を理解するジャックは未だ逃げ続けている麦わらの一味の事を聞いて、“必要なら自分が始末をつける”と提案する。
それは暗にジョーカーの認識と手管に異を唱えるようなものであったため、ジャックは控えめにそう口にした。残った麦わらの一味がジョーカーの言う通り、何か出来るとは思えないというのもある。魚人島で麦わらの一味と戦ったジャックにはジョーカーよりも更に正確な戦力の分析が出来ていた。
その分析で考えるならジャックもまた、ジョーカーの判断に賛同出来るが……しかし、ジャックは麦わらの一味のこれまでの戦いの経歴や自分でも体験したあの意外性を思い、そこに待ったをかけてしまう。
──麦わらの一味の問題を完全に解決しないまま……本当に次の作戦に進んで良いのか?
今回の作戦は百獣海賊団にとっても重要なもの。失敗は考えられないものの、それでも最良の結果を勝ち取る必要がある。
その作戦の大筋に“麦わらの一味”が関与してくることは考え辛い。仮に今から麦わらの一味が全員解放されたところで作戦が失敗に終わるとも思えない。
だがそれでもなお……ジャックには喉に刺さった小骨のようにそのことが気になってしまった。
「わかってるわよ、ジャック。あなたの懸念は」
「!」
そして、そのジャックの真面目で慎重過ぎるほどの懸念を読み取って、ジョーカーもまた答えてみせる。
「“麦わらの一味”はこれまで、幾度となく奇跡を起こしてきた海賊……魚人島やパンクハザードであなたやクイーンを出し抜いたことからもそれは理解る。舐めてかかってはないわ──ああ、そういえばあなた達も“麦わらの一味”には痛い目を見たのよね。フフ、せっかくだから発言しなさい。あなた達はどう思うの?」
「いやァ……そいつはまァ……仕事上の因縁ですんで特には」
「わしも特に思うところはないのう……まあ出来れば
ルッチ、カク、ジャブラ──とジョーカーが傍らに控える3人に声を掛けると、ジャブラとカクは特に憎々しい表情を見せることもなく、真面目なまま普通に答える。
彼らは元CP9として麦わらの一味と一度戦い、辛酸を嘗めている。その情報を知るがゆえにジョーカーはからかうように彼らにも水を向けたが、彼らは海賊になった今でも殺し屋であり諜報員だ。興味深い敵ではあったが、それ以上に思うところはない。
「そう。ルッチ、あなたは?」
「…………いえ、私も特に思うところはありません。…………ただ──」
そしてそれはルッチもまた同じだが──彼もまた、過去に彼らと対峙した敵と共通する思いを浮かばせていた。それは、
「“意外性”は確かに否定出来ませんね。良くも悪くも、奴らは……
「……成程ね」
ジョーカーはルッチのその言葉に頷く。それはジョーカーもまた同じ感想を抱くものだった。
確かにこれまでの経歴や顛末を思えば、麦わらの一味は意外性という能力を確かに持ち合わせているだろう。周りの人間の協力や純粋な運のおかげである部分も多々あるが、それも含めての意外性。これで勝ったと相手に思わせといて、逆転する。成程。確かにそれは“麦わらの一味”の勝利の方程式と言えるだろう。
逆に言えば、彼らの首を取ってそれを見届けるまでは勝利とは言えないのかもしれない。生きている限りは負けてはいない。そう捉えることも出来るだろう。ジャックの懸念も頷けるが、
「でも作戦は必ず成功するし、成功させるわ」
──だがそれでもだ。この期に及んでジョーカーは、この作戦が成功することを微塵も疑ってはいない。
懸念を承知の上でジョーカーは言う。紅茶とは別のカップに入った赤い液体に指で触れ、一瞬で飲み干した上で。
「その理由は、あなたにも分かってるわよね? ジャック。私達はこの作戦を絶対に成功させるし、失敗することは絶対にありえない」
「──ええ、勿論」
そしてジャックもまた、ジョーカーの質問に迷いなく答える。
その部分についてはジャックも疑ってはいない。それを疑うことは百獣海賊団の大看板としてあり得ないことだからだ。
だがジャックもまたそれでもだ。作戦の成否は疑う余地もないが、問題はそこではないと続けて口を開く。
「しかしジョーカーの姉御……!! “麦わらの一味”の捕縛は失敗しましたでは済まされねェ……!!」
「ええ、それも分かってるわ。彼らは私達の看板に泥を塗った大罪人で、麦わらの一味の捕縛はぬえさんに任された大事な仕事よ。万が一にも失敗は許されない」
ジャックの声にジョーカーも頷き、答える。互いに同じ認識を持っているからこそ、そこは揺るがない。
ただでさえ百獣海賊団を、それも大看板を二度も出し抜いたのだ。一度目はまぐれ。二度目は運が悪かったで済まされても、三度目は許されない。
だからこそジョーカーは細心の注意を払って彼らを待ち受け、罠に嵌めたのだ。その成果もあってその任務は9割方達成して完璧な任務完了も間近だ。残りは時間の問題とも言えるだろう。
だがその時間や、あるいはこれからやって来る連中が彼らに味方しないとも限らない。それは分かっている。だからこそ、その前に始末をつけておきたいというジャックの考えも分かった。
作戦を妨げる要因は、どんな小さな芽でも排除する。仮にその作戦が、既に確約された成功の上にあったとしてもだ。
「ジャック。元々あなたには細かい命令を与えるつもりはないわ。作戦が始まれば新政府軍と戦ってほしいけど、それが始まるまでは……いえ、それが始まったとしてもあなたの判断でその時の最も厄介な敵を潰して貰えればそれでいい。だから……そうね。後1時間。それまでに麦わらの一味が全員捕まらないようなら……あなたも現場に向かってちょうだい。そこからは麦わらの一味を追うなり、新政府軍を蹴散らすなり……好きに動いてちょうだい♡」
「──ありがとうございます。ジョーカーの姉御」
「フフ、いつも通り、気を利かせて頑張ってちょうだい♡」
ゆえにジャックにも麦わらの一味の捕縛に加わることを許可する。
ジャックは仕事に忠実で真面目だ。元よりこう言い出すことをジョーカーは予想していたし、作戦の大元まで全て理解しているジャックに細かい指示は必要ない。ジャックの実力も彼が大看板になった時から信頼している。ジャックならば、麦わらの一味だろうと新政府軍だろうと誰だろうときっちり仕事をこなしてくれるだろうと。
「それまではここで一緒にお茶でも楽しみましょうか、ジャック」
「……いや、せっかくのお誘いですが、おれにはやることが……」
「? そうなの?」
「ああ……すまねェ、ジョーカーの姉御」
そして普段から頑張っているジャックを労おうとジョーカーがメアリーズに新しい紅茶を淹れさせたが、断られたことでジョーカーは頭に疑問符を浮かべる。
刺客が麦わらの一味を捕まえられるかどうか。あるいは作戦開始が近づくまではジャックも手持ち無沙汰になるだろうと予想していたのだが、当てが外れた形だ。しかもやることがあると申し訳なさそうに謝りながらジャックは言う。基本的にキング、クイーン、ジョーカーの頼みは断らないあのジャックが。
「別にいいけれど……やることって?」
「──
「え?」
その質問の答えを聞いて頭の上に更に疑問符が追加された直後、まっすぐに答えたジャックは懐から何枚かの紙とペン、そして定規などを取り出し、用意された机の上に置き始める。
それもジャックの巨体からするとびっくりするくら小さい紙やペンだが、普通の紙にしては厚くそれなりのサイズのものだ。それも細々としたものも何枚も。
「…………」
そしてジャックは無言で、黙って型紙に定規とペンを使って器用に、テキパキと線を引き始め──そこまで見てジョーカーは思い出した。
「ああ……
「ぬえさんが次のイベントで使う衣装を、次に会う時までに完成させなきゃならねェので……」
「……成程。納得したわ」
同時にジャックの答えで得心する。型紙とは洋服を作る時の身体のサイズなどを基に計算し、幾つかの図形や線を引いて型を作ること──つまり、洋服を実際に縫う前の作業工程の1つだ。ジョーカーもドレスや衣装を着ることもあるし、有名なファッションショーに招かれたこともモデルとして参加したこともあるから知っている。なんなら洋服のデザインも少し書ける。歓楽街の女王として、CP0として、知識と経験は少しだけあった。
問題は何故、ジャックがその型紙を引いているかだが……それもジャックから返ってきた“ぬえ”という名称の時点で納得する。よくよく考えればジャックが大看板の頼みを断る時は、よっぽどのこと以外だとカイドウやぬえのどっちかの頼みが先行している時しかない。
そしてぬえは世界一のアイドルであり、ライブやイベントをこなしてきた数も数え切れないし、ジョーカーが把握する限りでも確かに近々ぬえが参加する予定のイベントもある。そのイベントのための衣装作成のためということであれば、ジャックが僅かな空き時間にせっせと型紙を引くのも無理ないこと。衣服を作る時に於いて、型紙がほんの僅か1ミリでもズレれば服の出来が変わってくるというのは高級衣装の世界では常識であり、型紙を引くプロとしてのパタンナーという職業もあるくらいだ。
だからジャックがその巨体を縮こまらせて至って真剣に型紙を引いていても何の不思議もない。少なくとも、百獣海賊団に慣れた者にとっては日常的な風景だ。ジョーカーの背後でまだ日の浅い元CP9のメンバー達がなんとも言えない顔をしていそうだが、それでも慣れて貰う他ない。
「……私の伝手でプロのパタンナーを呼んでもいいわよ、ジャック」
「いえ、ぬえさんが是非おれにやってほしいと言うんで」
「……それならしょうがないわね」
見かねた助け舟もどうやら通用しない。ジョーカーは思い出す──そういえばジャックは昔からぬえさんに連れ回されてライブの手伝いやらカメラマンやら色々やらされていたな……と。
味方の行動も情報からある程度は予想出来るジョーカーだが、相変わらずぬえだけは予想出来ないなと、ジョーカーは驚異の集中力と器用さで型紙を引いていくジャックを横目にティータイムを楽しんだ。
グリーンビットの地下はドレスローザの地下に繋がっている。
それはトンタッタ族とごく一部の者だけが知る秘密の通路であり、ドレスローザを治める国王であるドフラミンゴやファミリーの幹部ですらそれを知らない。
もっとも、知る必要がないというのもあった。元々トンタッタ族は国民から好きなだけ生活に必要なものを盗んでいってもいいとされているし、その小ささやすばしっこさからどこにでも忍び込める。別にその通路がなくても地下には忍び込めるだろうし、忍び込んだところで問題はない。
何しろトンタッタ族というのは──世界一、騙されやすい種族なのだから。
「さあ着いたれすね!! ここがドレスローザの地下交易港!! 新世界の闇の流通拠点
「……何だコリャ……!! ──もう巨大な港町じゃねェか……!!!」
トンタッタの秘密の地下通路を通り、1人の男とトンタッタ族達が交易港に足を踏み入れると、そこに広がる景色に驚く。
その巨大な地下空間はドンキホーテファミリーが新世界で闇の取り引きを行う重要拠点であり、今となっては海賊帝国にとっては奴隷や武器──そして“SMILE”の仲介や受け渡しに使われる重要拠点でもある。
だがそこに今はあるべき船の姿はない。普段は多くの海賊船や、海賊船に見せかけたどこかの国の船が沢山停まっているそこには、今は全て百獣海賊団の船が泊まっていた。
「こ、これ全部百獣海賊団の船か……!!? 海軍の軍艦くらいでけェぞ!!?」
「勿論れす!! ウチの戦艦は優秀な元ワノ国の──もとい新鬼ヶ島の職人製!! 海軍からもその技術を盗んで改良した最新鋭の戦艦
「さ、最新鋭の戦艦ってことだな……」
「
「そ、そうか……」
男はそのトンタッタ族のダウト──百獣海賊団真打ちの説明にゴクリと喉を鳴らす。ここにいる全部が敵で、ここにある全てが敵を殺しうる武器や兵器なのだ。もしバレたら蜂の巣じゃすまない。そのことを危惧したのか、ウソップの耳元で味方側のトンタッタ族であるレオが囁く。
(ウソランド、これで大丈夫なのれすか?)
(あ、ああ!! 問題ねェ!! これで潜入出来る!! おれ達の仲間の居場所も聞き出せるし、シュガーって幹部を気絶させる作戦もこの方が上手くいく!! おれを信じろ!!)
(分かったれす!!)
「? 何をコソコソしてるれすか? 早く行くれすよ!! ウソランド!!」
「ああ~~!! 何でもねェ!! よし、それじゃ案内してくれ」
こっそりとやり取りする男とレオにダウトが見かねて声を掛けるも、ダウトは特に怪しんでいる様子はない。これなら大丈夫そうだと男は胸を撫で下ろす。変装も上手くいっているし、これならレオ達から聞いたドレスローザ解放作戦も上手くいくだろうとダウトの案内に従って足を進める……その男の名はウソップ──ではない。
『百獣海賊団真打ち(おそらく内定)モンブラン・ウソランド』
「それにしても本当に広いな……」
「工場も
「あるんだな……」
ダウトのバレバレ過ぎる嘘を即座に見破るウソランドはあの探検家モンブラン・ノーランドの子孫であり、百獣海賊団副総督のぬえの友人でもある──ということに何故かなっている。
その原因が自分にないため、ウソランドとしてサングラスをかけ、鬼っぽい角を身につけたウソップは困惑しながらも仲間を助け、この状況を打破するためにその嘘に乗っかって内部に潜入することにしたのだ。
(とりあえず仲間のところに案内してもらうか……いや、それよりシュガーってのを気絶させるのが先か? こいつらもいるし、今なら先手を取れる)
ウソップは背後についてくる味方側のトンタッタ族をちらりと見て思考を回す。彼らもまたウソップの嘘と作戦に乗っかるため、百獣海賊団に入団した──ということになっている。
彼らの目的はシュガーというドンキホーテファミリーの特別幹部を気絶させ、ドレスローザのおもちゃ達を解放すること。何でも、シュガーはホビホビの実の能力者であり、手に触れただけで生き物を絶対服従のおもちゃに変え、人の記憶から消し去ってしまう恐ろしい能力者であるという。
ドフラミンゴはそのシュガーを使って不都合な人間も悲劇も全て闇に葬ってきた。この国で働く生きたおもちゃ達は全員、人の記憶からも忘れられた元人間であり、それゆえに恨みを持っているだろうということも、全て聞いた。レオ達がその話を聞いた“片足の兵隊”とやらは何やら別行動中であるらしく、ウソップは見ることも話すことも出来なかったが、実際に生きたおもちゃやこの国の過去やこの地下交易港を見ればそれを与太話とすることも難しい。
それに何より、彼らが嘘をつけないことはこの短時間でもよく分かっている。トンタッタ族1の嘘つきだというダウトですらこんな有様なのだ。彼らが自分を騙しているということはないだろうとウソップは見ていた。
「そ、そういやァ今は麦わらの一味ってのが捕まってるって聞いたけどよ。どこに捕まってるんだ?」
「? 何でそんなこと知りたがるれすか?」
「(やべっ、怪しまれないようにしねェと!!)いや、その……そいつらって百獣海賊団に逆らった連中なんだろ? そいつらの顔が拝んで見たくてな!! 後でほら……ぬえの奴にも話してやろうと思ってな!!」
「!!?」
ウソップの突然の質問に首をかしげたダウトに対し、ウソップは誤魔化そうと適当な理由を作って威勢よく話す。
だがそれがマズかったのか、ダウトの表情が驚愕に染まった。見れば周囲のダウトの部下達ですらちょっと引き気味になっている。
「え? な、何だ? ハハ、どうしたんだお前ら……?」
「……ウソランド……あなた……」
ウソップの前でわなわなと震えるダウトを見て、ウソップが焦る。まさかバレたか? と、戦々恐々としていると、ダウトはややあって顔を上げ──
「──すごいれすね!! ぬえさんを呼び捨てにするなんて!! さすがはぬえさんの友人れす!! ぬえさんを呼び捨てに出来るのなんてカイドウさんやビッグマムくらいれすよ!!?」
「え? ……ああ~~……そうだな!! ま、おれ様にとっちゃ普通の事よ!! おれとぬえは友人……いや、マブだからな!!」
「!!? そんな……マブダチ……!!? 普通の友人では飽き足らず……!! さすがはウソランド!! ノーランドの子孫はやっぱりすごいれすね!!」
「思い出すぜ……そう、あれはいつだったか……2人でどっちがより多くの海王類を倒せるかやりあった。おれとあいつの覇王色に大型の海王類も慄いてよ……狩りをしようにも海王類が逃げ回るもんで大変で……」
「覇王色!!? ウソランドも覇王色を!!? しかも大型海王類の狩り勝負だなんて……け、結果が!! 結果が気になるれす!!」
「引き分けってところだな」
「ぬえさんと引き分け!! さすが過ぎるれすウソランド!!」
(あいつら何騒いでんだ……?)
(ダウト様に……新入りか? なんかぬえさんのこと呼び捨てにしてるぞ)
(まだぬえさんに会ったことないんじゃねェか? 可哀想に……見た目で油断してるとすぐに分からされることになるってのによ)
ウソップの呼び捨てにダウトが感動し、目をキラキラとさせるとウソップもまた遅れてバレた訳ではないことに気づき、ノリノリで嘘を披露する。周囲のドンキホーテファミリーや百獣海賊団はその騒ぎを一瞥したり聞き耳は立てるものの、特に怪しんだり話しかけに行く者はいなかった。
何しろ今は大事な作戦前で忙しい。下っ端の多くは任された仕事をこなすべく動いているし、待機している者も真打ちであるダウトに態々絡みに行くことはしない。ダウトと絡むウソップも、入ってきたばかりの新人だろうと気に留めなかった。百獣海賊団で新入りが増えることは珍しいことじゃない。今の世界では毎日のように新入りが増えるため、1人見たことのない顔が増えたところで気に留める必要はなかった。
だがそのおかげでウソップは怪しまれない。この調子ならいけると確信を持った、そんな時──
「おい!! 奴隷が逃げたぞ!! 捕まえろ!!」
「何やってんだ馬鹿!!」
「檻を移す瞬間に……!! クソ……!!」
「ハァ……ハァ……邪魔だ!! どけェ~~~~!!!」
怒声が響き渡る。奴隷が逃げたという声を皮切りに周囲の人間達が騒ぎ、地面がズシンズシンと響いた。
積み上げられている箱や兵器が倒れるのを見たウソップ達は、船に向かおうとするその奴隷の姿を見上げて驚いた。その種族は、人間より遥かに巨大な身体を持つ種族。
「巨人族!!? そんな奴隷もいんのかよ!!?」
「エルバフの反逆者から調達した戦闘奴隷れすね……!! こんな時に……それもぬえさんの友人ウソランドの案内を邪魔するなんて…………許さない──いや、
「あ、おい!!?」
その奴隷の詳細はダウトの口から説明される。新世界にある巨人族の国“エルバフ”が海賊帝国の手に落ちたのは新世界や裏の間では常識であり、彼らは今や海賊帝国の尖兵──主にビッグマム海賊団に支配され、戦っている。
彼らが降った理由には色々と事情があるものの、それでも全ての巨人族が従っている訳ではなく、今なお海賊帝国に弓引く者達が多くおり、その奴隷はその反逆者達の1人である。人間を遥かに超えるパワーと巨躯を持つ彼らは戦いだけでなく労働においても役に立つ。世界政府治世下においても海賊帝国の世界になってもその用途はあまり変わらない。
だからこそ普通の人間では止めるのは難しい。ドンキホーテファミリーや百獣海賊団の下っ端達が右往左往とし、ウソップもまたただ見上げることしか出来なかった。
だが──“真打ち”ともなればその限りではない。
「船を寄越せ……!! おれ達はエルバフの誇りを取り戻したい……!! 国に帰りたいだけなんだ……!!!」
「うるさい大大人間れすね……!! ぶっ殺してやるれす!!!」
「! ダウト様が変型を……!!」
突如として怒りを見せたダウトが巨人族に真っ向から向かっていく。その声は小人族であるがゆえに、相手が巨人族であるがゆえに届かず、多くの者達もその姿に気づかない。小さくてすばしっこい、隠密に長けた小人族である彼女を同じトンタッタ族である彼女の部下とレオ達、そしてウソップだけが最初から見ていた。
百獣海賊団の真打ち200人はほぼ全てが能力者。それゆえに、真打ちに名を連ねるダウトもまたその能力を用い、その手を鋭い鎌に変形させる。
「“トンタッタ”……“コンバット”……!!」
「?」
だが巨人族はその攻撃が到達するまで気づくことが出来ない。体長20メートル程の巨人族に対し、ダウトは30センチ程度しかなく、とてもではないが気づくことは難しい。
そしてそこから放たれるのはトンタッタ族の兵士達が用いる戦闘術“トンタッタコンバット”。それに悪魔の実の能力を加えた技の威力は──巨人族すら一蹴する。
「“
「!!!?」
巨人族が血を吐き、白目を剥いて倒れる。
その胸には深い斬撃の跡を残し、そして近くにあった新鬼ヶ島製の兵器や積荷を運ぶための巨大クレーンを真っ二つにした。
「巨人族が止まった!!」
「いや倒れるぞ!!!」
「クレーンも倒れる!!」
「うわああああ~~~!!?」
「……!!」
巨人族とクレーンが倒れ、轟音と共に地面が揺れ、土煙が舞う。
それを引き起こしたダウトを、ウソップは引き攣った笑みで見て固まっていた。その横では、同じトンタッタ族で1番の兵士であるレオや兵士達が険しい表情を浮かべている。
「ウソランド……気をつけるれすよ。この国を支配するドンキホーテファミリーの幹部もまた手強いれすが……更にその上に立つ百獣海賊団の真打ちも同等以上に厄介れす!!」
「それにダウトは元々レオと同じ“トンタ兵長”……!! 嘘つきで問題児だったため、すぐに辞めさせられたとはいえ……その実力はトンタッタ族でも随一れした!!」
「それが百獣海賊団に入って鍛えられたその強さは私達では止められないれす!! だからウソランド!! 私達も頑張るけどもしもの時はよろしくお願いするれす!!」
「……こ……小人族ってこんなに強かったのか……」
「さすがにあれは出来ませんけど普通の大人間くらいなら一撃れす!!」
ウソップは驚愕する。彼にとって、巨人族とは自身が目指す勇敢な海の戦士像に最も近い種族であり、どこか強い戦士の象徴として見ていただけに。
だが新世界ではそれは常識だ。小人族はパンチ一発で人間の家を破壊出来る程度の怪力を持っており、その上人間の目に止まらぬ程の速さで家の物や所持品を盗むことが出来るすばしっこさを持つ。
並の小人族でそれだ。グリーンビットとドレスローザを繋ぐ橋の周りに住む闘魚漁を行うこともあるし、兵士であれば普通の小人族よりも当然強い。
だがその小人族──トンタッタ族の中で最も強いのが百獣海賊団の真打ちであり、今なおウソップが騙し続けているダウトだ。
「お前達!! 何をしているれすか!!」
「!! だ、ダウトさん!!? いらしてたんですか!!」
「いるに決まってるれすこのアンポンタン!! 大事な作戦前に奴隷を逃がすなんてヘマするんじゃないれす!!! しかもこっちは大事な客を迎えている最中じゃないんれすよ!!」
「だ、大事な客……? す、すみません!! すぐに片付けます!!」
「早くしないとお前から
「りょ、了解です!!」
そして百獣海賊団にとってもトンタッタ族の強さは常識だ。
彼らは真打ちのダウトに率いられており、一応はウェイターズに属するものの、当然並のウェイターズでは相手にならない程に強いし、
「よし、お待たせしましたれすウソランド!! それじゃ行くれすよ!!」
「あ、ああ……そ、それより……どこに行くんだ? まさかとは思うが……ぬ、ぬえのとこじゃないよな?」
下っ端に刃を見せて脅していたダウトが、一転してウソップに笑顔を見せる。
先程の所業を見て恐怖するウソップだが、今更引くことも出来ないし、引いてバレた時が怖すぎる。もうこのまま乗り切るしかないと、声を震わせながらも質問すると、快くダウトは答えた。
「連れていって差し上げたいのは山々れすけど、ぬえさんの居場所は私にも分からないれすし、そもそもこの島にいるかも分からないのれす」
「(ホッ……)そ、そうか……だったらしょうがないな」
「ええ!! れすので、代わりに大看板のジョーカー様のところに連れてって紹介してあげるれす!!」
「!!?」
大看板に紹介するというダウトの言葉にもう何度目かも分からない驚愕の表情を浮かべるウソップ。大看板といえば敵の最高幹部である怪物だ。そんなところに連れて行かれたらたまったものじゃないと、必死に言葉を尽くす。
「い……いやいやいや、気持ちはありがたいけどよ……その……そう!! せっかくだからサプライズしたいんだ!!」
「さ、サプライズれすか?」
「ああ!! 久し振りの再会だし、せっかくだから驚かせたいだろ!!? それに今が大事な作戦前なら、あまり時間を使わせるのも申し訳ねェ!! だからもうちょっと見学というか隠れて案内してくれねェか!?」
「……!! 成程!! 確かに、ぬえさんはサプライズも好きれす!! さすがはぬえさんの友人のウソランド!! ぬえさんの好みまで分かってるんれすね!!」
「お……おうよ!! 当然だ!!」
再びの言いくるめに騙されてくれるダウト。偶然言い放った言葉が嘘を本当に思わせるようなものであった運も含めてウソップは内心で戸惑いつつも息を入れる。一先ず、このままダウトに案内してもらって作戦を進めようと。
そうして再び歩みを進めようと一歩地面を踏みしめたその時。
「おい!! 来たぞ!!!」
「!!」
──
──ドレスローザ及びグラン・テゾーロ沿岸。
その沿岸部に不自然に出来た高台に集まったドンキホーテファミリーやグラン・テゾーロの用心棒、そして百獣海賊団の兵達は、肉眼でその艦隊を捉えた。
「若様……来ました……!!」
「テゾーロ様……!!」
『…………』
それぞれの勢力の手下がその親玉へと報告を行う。沿岸部にいるドフラミンゴやテゾーロには直接声で。その場にはいないジョーカーにはメアリーズの視覚共有で、敵が来たことを報告する。
「……!! 何の音だ……?」
「おそらく……敵襲だ。我々にとっては
ドレスローザの物陰。民衆達が騒ぐ大通りの側で話す改造人間とおもちゃの兵隊もまたそれを確認した。
彼らもまた傷だらけになりながらも何とか逃げて隠れ潜み、このドレスローザに関わる裏の事情を聞いた上で行動の時を待っている。
「敵襲ってやっぱり……」
「言ったでしょ。それよりナミ、準備しましょ。この好機を逃す手はないわ」
グラン・テゾーロのホテルの一室にもその報告は届いた。2人の泥棒が盗みの計画を立て終えたその直後のこと。
「くそォォ……!! 出せェ……!! ゲホッ、ゲホッ……痰が絡む……喋りにくい……!! 腰が、身体の節々が痛ェ……!!」
「ルフィさん!! お身体を大事に!!」
「ゼェ……ゼェ……くそ……こんな金しかねェとこに……閉じ込めやがって……!! とにかく……出口を探さねェと……!!」
──そして黄金の街の地下にある黄金の牢獄以外は。
2つの島にいる者達は、一部の例外を除いてその音を聞く。
波をかき分け、やってくるその艦隊が掲げるのは──“民衆の正義”。
“暴力の世界”となった今の世の秩序と弱き人々を守るための最後の防波堤。
現在の世界における3大勢力のその1つの名を、誰かが叫んだ。
「──“新政府軍”の艦隊だ……!!!」
「敵襲だァ~~~!!!」
「戦争が始まるぞォ~~~~!!!」
水平線を越えて海賊帝国に所属する肉眼に映るのは“新政府軍”の艦隊が10隻と、そこに乗っている意志を秘めた将兵の数々。
罪なき民衆を苦しめ、正義を汚す海賊を徹底的に粉砕せしめんと決意し、自らが犠牲になることも辞さない覚悟を決めた秩序の軍隊だ。
「フッフッフッ……えらいやる気じゃねェか……!!」
「ハハハ、成程……今回は向こうも本気という訳か……!!」
島の沿岸部。そこから軍勢を見たドンキホーテ・ドフラミンゴ。並びにギルド・テゾーロは不敵に笑みを浮かべる。
新政府軍の編成した軍団。その陣容は軍艦が10隻というだけでなく、居並ぶ将の面々でもその本気度が伝わってきていた。ざっと見る限りでも。
大将が2名。
軍隊長が1名。
それらの副官と思われる者が数名。
そして中将からその下の将官、佐官の数は……もはや数え切れない。
兵力はともかく、戦力としては新政府軍全体の半数以上を揃えてきている。
海賊や無法者であればその陣容を見ただけで震えが止まらない程の布陣。
「──さて……それじゃ始めるわよ」
──だが海賊帝国は恐れない。
最強にして最恐の軍団。世界一の戦力を誇る海賊帝国。戦争が跋扈し、暴力が全てを決める世界を渇望する彼らが、戦いを忌避する筈もない。
ましてや自分達とまともに戦える相手であれば尚更だ。誰であろうと自分達が最強なのだから多少戦える相手であってもそれを恐れる理由にはならない。
「モモンガ中将!!」
「どうした? 敵が動いたか?」
「いえ……あれを……」
「! あれは……民間人の船か……?」
「ええ。どうやら避難船のようで……如何しましょう?」
「……一応監視しつつ放っておけ。ただ敵が潜んでいる可能性もある。動きには注意しろ」
「はっ!!」
そう、彼らに正義はない。
暴力こそが信条。強さこそが正義。
ゆえにこそ弱者の味方である新政府軍と海賊帝国は相容れない。
「むっ……何やらよくない気配が……!!」
「イッショウさん!!?」
「へェ、お気をつけなすって。奴さんから……とんでもない
そしてその信条が浮き彫りになるそれを、盲目の大将だけは察知していた。
だが戦場で、用意周到に用意された悪意の罠を──彼らは最善でも防ぐことは出来ない。
「まさか本当にドレスローザで戦争が起きるとは……」
「島を出ていくことになるなんて……」
「大丈夫なのか? もしかして撃たれたり……」
「新政府軍は民衆の味方だろ!! きっと大丈夫さ!! おれ達はただ避難するだけで武器も持ってない。大砲1つ船に載せてないんだからな……!!」
ドレスローザから出発する避難船。希望する国民だけを乗せていくその救いの船は、新政府軍の危惧に反して、敵が乗っていることもない、正真正銘民間人だけが乗る船だった。
「──“
「え……?」
だがそれも──“戦災”の前には敵を貶めるための非情な罠と化す。
「!!!?」
新政府軍の軍艦の一隻から、大砲が一発。
そしてそこからほんの僅かに遅れて……避難船が爆発した。
「お……おい……」
「う、嘘だろ……」
「あ……あの船には……つ、妻と……娘が……」
そしてその光景を、中継された映像でドレスローザの国民達は見ていた。
誰もが絶句し、言葉を失う。
先程まで生きていた善良な人々を。
自分達の同胞を。
民衆の正義を謳う筈の新政府軍が。
撃ったのだ。
「馬鹿者ォ!!! 貴様、何をやっている!!?」
「ち、違います!! 突然、身体が勝手に動いて……!! それに砲弾は船に当たってません!!!」
「!!? く……謀られたか……!!」
そう、撃った。間違いなく、新政府軍の軍艦が、兵士が、大砲を船に向けて撃ったのだ。そしてその直後に、船が爆発した。
民衆にはそれだけが見えていた。中継された映像。海賊帝国側が映している映像。映すところを選ぶことが出来る映像で、その場面だけを都合よく収めてみせた。
彼らには自分の目に見えているそれだけが真実だ。新政府軍の船の上の詳細な様子は伝わらない。急に身体が動いたと訴える兵士の姿も見えない。砲弾が実際に当たったかどうかも検証出来ない。避難船の底に実は
「新政府~~~!!!」
「何を……!! お前らは民衆の味方じゃねェのかよ!!!」
「敵国の国民なら兵士じゃなくても殺すべき敵なのか!!?」
「あの船にどれだけの人が乗ってたと思ってるんだ……!!?」
「うわああああん!!」
「最低だ……!!」
「お前らの正義は嘘っぱちだったんだな……!!」
瞬間的に、民衆に感情が沸き上がる。
それは奇しくも10年前の事件に似ていた。片足の兵隊が“鉄人”に語ったかつての
「──目を覚ませ!! 親愛なる国民共!!!」
「!!?」
そしてその光景もまた10年前に似ていた。
国民達の前で、ドンキホーテ・ドフラミンゴは大きく手を広げて演説する。彼らが“暴力”を讃えたその日のように、もう一度──
「これでおれも含めて……思い知った筈だ!!! 新政府軍の正義は建前……ただ自分達が世界を好きにしたいがための方便だってことを!!!」
ドフラミンゴはドレスローザ全国民に向けて告げる。
「奴らは弱者を葬った!! 戦いたくないと避難する弱者を無抵抗に殺した!!! 交渉すらなく!! 無惨に海の藻屑とした!!! なァ、思い出すだろう!!!」
新政府軍とそこに掲げる理念が、ただの欺瞞であることを──大仰に、過去の出来事となぞらえて喧伝する。
「まるで10年前のあの日のリク王のようだ!!! あえて……あえてだ!! おれはその話をしよう……!! 10年前も、そして今も!! 連中は平和を信念に掲げながらお前達弱者の命を平然と踏みにじった!!!」
「ウ、ウゥ……!!」
そしてそれはドレスローザの国民にとって何よりも苦しい記憶。禁忌に等しいたった10年前の出来事だ。
それを憶えている者は誰もがその時の恐怖や痛み、苦しみ、憎しみに悲しみも抱えて生きてきた。10年の豊かな生活の中で少しずつ払拭出来ていたトラウマ。それを今の出来事で思い出させる。思い出してしまう。
「あの時はおれ達が乱心するリク王軍を力でねじ伏せてお前らを守った!! 今回も、出来ることならそうしてやりたい!! だが……お前達は本当にそれでいいのか!!?」
「え……?」
そしてそれこそがドフラミンゴの狙いであり、海賊帝国の……ひいてはジョーカーの狙いだ。
「家族を……友人を……隣人を……!! 消された怒りや悲しみはどこへ向かう!!? 自分の中でやりきれねェまま払拭するか!!? 何もせずに許すか!!? ──いいや、違うだろう……!! その怒りも悲しみも正当なもの……!! その仇にぶつけるべきだ!!!」
「敵に……」
「そうだ!!! 奴らはお前らの大切なものを全て奪おうとしている!!! 戦おうが戦うまいが関係なしだ!! 連中はおれ達の何もかもを奪い尽くすまで止まることはねェ!!!」
ドレスローザの国民を扇動し、戦争に参加させる──そのためにドフラミンゴは熱弁を国民達に向けて口にする。
「金も……物も……大切な人間も……そして自分の命すらもだ!!! それでもお前達は戦わずにただ逃げ惑うか!!? ただ黙って殺される時を待つか!!?」
「…………嫌だ……」
そして国民達は追い詰められ、感情が沸騰していく。
自分達が殺される恐怖。全てを奪われる恐怖。ただ理不尽に虐げられるだけの未来を、より近い現実のものだと認識する。
「嫌か? 嫌なら……戦うしかねェ!!! 理不尽な暴力に対して力なき言葉も意志も無力だ!! 平和や愛を説いたところで振り下ろす刃を止めることは出来ねェ!!!」
「嫌なら……戦うしか……」
「ああ、そうだ!!! おれは言葉を選ぶことはしねェ。はっきりと言ってやる!! お前らが戦わねェなら……この国は滅ぶ!!!」
「……!!」
──国が滅ぶ。
それはこの国を愛している者ほど効く言葉だ。その言葉で揺さぶられるのは、国民達の愛国心。
これまでの人生をその国で過ごしてきた多くの国民にとって、国が滅ぶというのは耐え難いものだ。人によっては──己の命が失われることよりも耐え難いと思わせる程の。
それをはっきりと言葉にされ、彼らの心に焦燥感が湧き上がる。戦わなければ国が滅ぶ。殺される。全てが奪われる。
実際に攻めてきて、実際に弱者の命が奪われた現実を前に、彼らの目の前の道は驚くほど狭まる。
船で逃げることは出来ない。隠れ潜んでも戦いに負ければいずれは殺される。交渉も命乞いも通用しない──
そして何もせず座して死を待つくらいなら──
「戦う……」
──戦う。
「そうだ……おれは国を守る……戦うぞ……!!」
──暴力を振るう。
「家族を死なせたくない……!!」
──暴力に堕ちる。
「おれ達の手で敵を滅ぼし……平和を勝ち取るんだ……!!!」
──暴力を讃える。
「──そうだ!!! 自分達の身の安全を……平和を勝ち取るに必要なのは不服従の言葉や平和の誓いじゃねェ!!! 現実的な力……!! “暴力”だけだ!!! 大切なものを奪おうとする理不尽な敵は全て滅ぼすしかねェ!!! 自らを害する敵を全て滅ぼした先にあるもの……それが“平和”だ!!!」
──そしてその集団の熱は伝播していく。
「戦う……!! おれは戦うぞ……!!」
「新政府軍をこの手で蹴散らすんだ……!!」
「この国を奪わせはしない……!!」
「国王様!! 教えてくれ!! おれ達は、どうやって戦えばいい!!?」
そしてそれこそが──海賊帝国の策の1つだ。
「フッフッフッフッフッ……!! ああ、勿論だ……!! おれ達はお前らの戦う意志を歓迎する……!! 武器や大砲は幾らでも用意してあるから好きに使え……!!! だが……当然、おれ達も国を治める者としての責務を果たし……おれ達も共に戦う!!!」
「!!? 地面が……!!」
「島の岩場の形が変わって……!!?」
ドフラミンゴの言葉と同時に、ドレスローザ沿岸部の岩場の形が変わっていく。
その不可思議な現象を引き起こしているのは当然、悪魔の実によるもの。
「さァ……要塞を作ってやる……!!!」
岩の中から甲高い声が聞こえる。
その声はドンキホーテファミリーの最高幹部“ピーカ♠”のものだった。
イシイシの実の岩石同化人間。石の中に潜み、石を操る彼の能力はドレスローザを囲む岩場を全て操り、それを“要塞”の形に作り変える。
「おお……これは……!!」
「なんて頼もしい……!! これなら……」
そしてそれは国民が矢面に立っても安全に戦えるようにするためのものだ。
大砲や銃を撃つことも、この要塞の中なら安全に行うことが出来る。そう国民達に思わせるのに十分なもの。
更には──
「ウハハハ!! さて、おれ達の勝利と馬鹿な国民共のために……おれもやってやるか……!!!」
地下交易港に繋がる水路で1人の男が笑みを浮かべながら海水に手をつける。
その手足の細長い長身の男はピーカと同じく、ドンキホーテファミリーの最高幹部にしてコロシアムの英雄“ディアマンテ♦”。
彼もまた悪魔の実の能力者。ヒラヒラの実の“
ゆえにそれは──“海水”にも作用した。
「“
「!!!」
「何だ!!?」
「急に波が荒々しく……!!?」
「沖ならともかく……!! 島にここまで近づいているのに、海がここまで荒れる筈が……!!」
ディアマンテが能力を発動した瞬間、ドレスローザ近海の海が突然荒れ始める。
無論、それは海がひらひらとはためいていることにより起きている現象であり、嵐が来た訳ではない。新政府軍でも対応出来ない程でもない嫌がらせ程度の能力の行使ではあるものの、その嫌がらせは海に浮かぶ新政府軍の軍艦全てに機能している。
そしてドレスローザ国民にとっても、その僅かな有利を伝えられ、士気が上がる。それらだけで十分だった。
「さあ……始めようか……おれ達の戦争を……!! フッフッフッフッフッ……!!」
「うお!!」
「ありゃ若様の……!!」
「2年前の戦争で見た……」
「──“鳥カゴ”だ……!!!」
だがそれだけでは終わらなかった。ドフラミンゴは最後の詰め、作戦開始の合図も兼ねたものとして天に糸を伸ばし、その糸が2つの島とその近海を覆っていくと、声が上がる。部下だけじゃない、新政府軍もまたその技を知っていた。
2年前の戦争で使われた“鳥カゴ”が再び、2年前と同じ用途で使われる。すなわち──中にいる人間を逃さず、外との連絡を取らさず、
ここまでやってようやく布陣は整った。要塞で島の周りを固め、海を揺らし、鳥カゴで逃さない。
国民を扇動し、士気を高めたことで彼らを矢面に立たせることも出来る。無論、石の要塞や海を揺らした程度では新政府軍の攻撃を防ぐことも、それだけで勝つことも出来ないだろうが、それでも構わない。
こうなった時点でもう新政府軍はドレスローザの国民を傷つけずに上陸することも、勝つことも不可能となる。彼らが民衆を傷つける組織だとより深く分からせることになるし、仮に出来るだけ傷つけずに戦おうとすれば、それはそれで新政府軍のリソースを割くことに繋がり、こちらが有利になる。
それに民間人が戦って、あるいは新政府軍に近づいてくれるなら“戦災”の罠によって幾らでも新政府軍を傷つけることが出来る。民間人に罠が仕掛けられていることに怯えて疑心暗鬼にでも陥れば、より有利になる。ここまでやってこその──“戦災”だ。
「さて……戦争の始まり……そして作戦開始ね……!! では、こちらはお任せを。武運を祈ります──」
その策を用意し、敷いたジョーカーは鳥カゴが完全に張られる直前まで電伝虫で誰かと通話し、そして通信が切れる瞬間にその名前を口にした。
「──
──“
空の上は翼を持つ者達だけの世界だ。
世界には空島というものも存在するが、彼らもまた翼を模したものを身に着けている。
能力を用いた人間以外では到達することの難しいその上空の雲の中に──その男は存在した。
「あァ~~~……ようやくだ……」
間延びした声で呟き、男は後悔する。
この日を迎えるまで随分と苦労をした。
その原因は自分や自分の兄妹分の所為だった。あの時に自分達が失敗した所為で、こんなに長引くことになった。
あの時失敗しなければ。もっと上手くやっていれば──と、そう後悔する日はこの2年間で少なくない。
酒を飲んだ時はいつも思い出すのだ。あの時……もっと上手くやっていれば、自分は後悔せずに済んだのだと。
その苛立ちのために兄妹分と喧嘩したり、適当な島を幾つも滅ぼしたりして気を紛らわせていたが、それでもあの時の失敗は取り戻せない。
──だがその後悔も……ここでなら少しは解消出来る。
そのために男はここにやって来たのだ。他ならぬ、自らの贖罪と──野望を叶えるために。
「さて……始めるか……こういうのはあいつの得意分野だが……おれだって使えねェ訳じゃねェ……ぬえの弾幕技を1番食らってるのはおれだからよォ……おれだって幾つか
そうして男は雲の中から眼下を見下ろし、そして力を溜めると──
「──“龍神の怒り”」
──災害の如き弾幕を、眼下の目標に向けて放った。
──その攻撃の予兆に気づけたのは、僅か1人……いや、2人だけだった。
「!!?」
「! ど、どうしたのですかな?」
「急に立ち上がって……それより説明していただきたい!! 何故先程からクザン元帥が頻繁に中座を繰り返しているのですか!?」
「それどころか先程から会議を進めているのに全く戻ってこないとは……一体何をしているのですか? 何かあるなら我々にも説明していただきたい」
1人は新政府軍本部の建物の中で、世界会議の席についていたモンキー・D・ドラゴン。
そしてもう1人は──
「……何だ?」
「あれ……? 何か急に空が……」
「!!」
新政府軍本部の建物の外でビビやコアラ、ハック達と会話をしていたサボ。
その2人は不自然に曇った空と、その風を感じて即座に叫んだ。その場にいる者達に向かって──
「全員建物の外へ!!!」
「建物から離れろ!!!」
「!!?」
その直後に、攻撃は空から来た。
曇天の雲から雷が──否、
龍の形をした雷。その数は雨のように膨大であり、見る人の目を奪い、そして畏怖させる。
人間1人を容易に殺すことの出来るその雷の龍の雨は、正確かつ無造作にこのバルティゴの新政府軍の総本部を狙い、降り注ぐ。
「反応が良いな……だが、それで止められると思うな……!!!」
「!!?」
──だが、真に危険なのはその龍の弾幕ではない。
弾幕と共に飛来する一匹の巨大な龍。その龍が、人と龍が混じった姿へと変わり、巨大で無骨な金棒を握って降下していく。
その落下速度は重力に従って加速し続ける、まるで隕石の様だった──
「“降三世”……!!!」
だが隕石とは違うのは、彼が強大な意志を持つ1人の生き物だということ。
そして彼らに対し、しっかりとした殺意を持っていることだった。男は金棒を振り被り、新政府軍の建物に向けて力を溜める。男の筋肉が、武装色の覇気が、そして殺意が雄叫びを上げ、自然落下の速度を加えて真っ直ぐに、雷の龍達と共に落下し──そして着弾する。
「──“
「!!!!」
着弾。轟音。地震。土煙。
その順番で起きた現象の中で、新政府軍の総本部は一瞬で崩れ去り、そして幾人かの人々が悲鳴を上げる暇もなく土に還っていった。
──だがそれすらもまだ……前座に過ぎない。
「まだだ!! 油断するな!! コアラ!! ハック!! ビビを守れ!!」
「応!!」
「分かってる!!」
「……!!」
偶然建物の外にいたサボは空から降り注ぐ弾幕を躱しつつ、ビビを守りながらどうにか現状を整理し──そして最悪の事態に陥っていることを程なくして理解する。
「総長!! 沖に……百獣海賊団の艦隊が!!!」
「死傷者多数!! 現在確認を急いでいます!!」
「総員戦闘準備……!! 居場所がバレた……!! 早急に戦力を整える……!!」
新政府軍の総本部が海賊帝国に──百獣海賊団に襲撃を受けた。
沖に見えた船や、現在の状況は全てそれを意味している。居場所がバレたことも、そこから襲撃に至る速さも何もかもが、
「──待ちやがれ……!!!」
「!!?」
だが、その何よりも最悪なのは……この場に現れ、サボ達の目の前に現れたその男だった。
「お前……確か新政府の参謀総長……サボだな? あの目障りな“火拳”や“麦わら”の兄弟分……!! お前ら三兄弟は随分とおれ達を苛立たせるのが得意みてェだな……」
「!! コアラ、ハック!! ビビを連れてここから離脱しろ!!!」
「っ……でも……!!」
「よせコアラ!! サボの覚悟を無駄にするな!!」
サボは即座に判断し、参謀総長として部下に命令を下す。この場は自分が足止めし、貴人であるビビをコアラとハックに任せて逃がす。
この場は自分が足止めするしかない。今の攻撃でドラゴンが死んだとも思えない。ドラゴンが来たら2人でこの男を食い止め、何とかこの場を離脱するしかないと。
「待て……そっちはネフェルタリ・ビビだな……? アラバスタの王女……
「!!?」
──そう思っていた。
だがその男はそんな甘い話を許しはしない。何故かビビのことを名指しし、その上で逃さないと改めて宣言してみせる。
「そもそもだ……ハァ~~……お前ら……全員……ヒック……今度こそ……そう、今度こそだ……」
そしてそれを成せるだけの力が──そう、圧倒的な力が、男にはあった。
そしてそれをサボや、ビビですら理解している。
今の世界でこの男を──いや、この生物を知らない者など存在しない。
何しろ男は……世界政府を滅ぼした海賊帝国を構成するその両翼。その片翼たる百獣海賊団総督である“四皇”の1人にして……あの最恐生物“妖獣のぬえ”の兄妹分である最強生物と呼ばれる海賊。その名は──
『百獣海賊団総督“百獣のカイドウ” 懸賞金54億1110万ベリー』
「──おれから逃げられると思うなァ~~~~~~~~~!!!」
「……!!!」
──“百獣のカイドウ”。
生きとし生ける全ての生物の中で最強の生物と呼ばれる海賊の来襲。全てを終わらせる“暴力”の頂点。その絶望の時を以て──彼らの作戦は始まる。
「さて……我もそろそろ動かねばな」
「
「ああ、分かっている──行くぞオワリ」
そしてまた別の場所でも救いの可能性となりえる者達が動き出す。
だがその可能性はまだまだ極小のそれだ。未だ、1人の存在で全てひっくり返されてしまう程に。
加えてその世界中を巻き込むうねりは──
「──いいなぁ~~~。今頃カイドウは向こうで楽しんでる頃だろうし……私も早く表に出て暴れたいなぁ」
──
ブラックマリア→ホテルでロビン拘束。
ロビン→ゾウ未到達なのでまだロード歴史の本文のことを知りません。
サニー号→アプー及びナンバーズに回収される。くまとシーザーも同様。
バリバリの実→オトオトとは相性最悪。
ナンバーズの3体→ようやく登場。
アプー→ジャックの軍団に合流して増援に来ました。
チョッパー→お玉は不安よな。たぬき、動きます。
ジャック→真面目なのでぬえちゃんの衣装製作を空き時間にする。麦わらの一味が気になってます。
ウソランド→覇王色の覇気を持つ百獣海賊団の新人らしい。
ダウト→真打ちの中でも実力は高い方。ちなみに普通のトンタッタ族よりちょっと大きいです。
鉄人とおもちゃの兵隊さん→ドレスローザのどこかで隠れてる。出会って事情説明パートは原作と同じになる上にめちゃくそ長いんで割愛。原作見て。
黄金の牢獄→ルフィ、ブルック他色んな人が捕まってます。
避難船爆破→前例あり
ドレスローザ国民→流されやすい民衆。扇動され、暴力に手を染めることに……。
ドフラミンゴ→演説には色々と匂わせ要素。鳥カゴ&寄生糸のコンボは禁止カード級。
ピーカ→ドレスローザ外周部の岩場を動かして要塞を形成。防衛だとこいつ強すぎる。
ディアマンテ→地面を揺らせるなら海面も揺らせるよね? こいつの能力も地味に強い。
戦災のジョーカー→ある意味で1番えげつないというかワンピでやっちゃいけないような生々しい策を使うお人。
バルティゴ→最強生物来週。
龍神の怒り→元ネタは堀川雷鼓の雷神の怒り。ぬえちゃんとの喧嘩でカイドウが盗人上戸で盗んで改良した弾幕技。龍符。
ぬえちゃん→早く暴れたいけど我慢してるのかわいい。
今回はこんなところで。遂に戦争が始まりますが、まだドレスローザの重要人物やら、参戦キャラが出揃ってないというヤバさ。今回も登場人物がめちゃくちゃ多いです。
次回は戦争の模様やルフィ達や侍が誰かと出会ったり、隠れてる奴らも出てきたり、カイドウさんが酔ってたりします。お楽しみに。
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