正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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ショーダウン

 

 ──その戦争の始まりは、予想されてはいたものの外部へその詳細が伝わることはない。

 

「うわあああああ!!」

 

「新政府軍を討ち倒せ~~!!」

 

「おれ達の国を守るんだ!!」

 

 情熱の国と呼ばれるドレスローザ。その国民達は皆、激情に支配され、赴くままに暴力に身を任せていた。

 ピーカの作った要塞から大砲の弾を込め、新政府軍の船へ向かって撃ち続ける。そこにドンキホーテ・ファミリーや海賊帝国側の誰かの指示など必要なかった。誰もが勝手に、自らの意思でその行動を行う。

 その熱狂ぶりはその行動を見ていたファミリーの下っ端や百獣海賊団の新入りのウェイターズですら僅かに引いてしまう程。彼らは要塞の比較的内側からドレスローザ国民が戦うのを眺めている。彼らを盾にしながら、新政府軍の迎撃に備えるために。

 そう、新政府軍が大砲を撃ち返したり、あるいは何らかの能力による攻撃を行ってもまず傷つくのはドレスローザの罪なき国民達や戦いに駆り出されているおもちゃ達。

 つまり彼らを殺さなければ海賊帝国側の戦力を減らすことは出来ない。

 あるいは上陸すればそれは可能になるかもしれないが、熱狂し、死にものぐるいで戦うドレスローザ国民を殺さずに制しながら上陸するのは至難の業だった。

 

「…………始まったか」

 

 そして何百万という国民達の獣の如き雄叫びは、大砲を発射する空気の振動と折り重なってドレスローザ中に……そしてグラン・テゾーロにも届く。

 グラン・テゾーロのとある建物の一室で足を組んで座っていた大男──シャーロット・カタクリは先程まで通話していた電伝虫が切れるのを数秒前に察知して作戦の開始を予感していた。

 その瞬間、ドレスローザもこのグラン・テゾーロも……そして、()()()()()もまた地獄になったのだと。

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)、新政府軍本部“バルティゴ。

 

 新政府による初の世界会議の最中。

 各国の王族や代表が集まるそのバルティゴの建物は、とある海賊の襲撃で崩れ落ち、多くの負傷者を出していた。

 

「アイスバーグさん……!! 大丈夫ですか……!?」

 

「ああ……何とかな……!!」

 

「これはマズいことになりましたね……!!」

 

「……ドルトン。凄腕の医者からのありがたい忠告をしてやるがね。間違っても戦おうとするんじゃないよ。新政府軍に従ってさっさと逃げな」

 

「Dr.くれは……」

 

「あんたもちょっとは腕に覚えがあるだろうけどね。遠目からでも分かる。あそこにいるのは人間じゃない。ただの世界最強の──怪物さ」

 

 だが直前の呼びかけが功を奏したのか、各国の護衛や新政府軍の兵士などの一定以上の実力を持つ者達は何とか致命傷を避けて瓦礫となった建物の上で生き残った者達は助けを求める声に応じたり、各国の貴人の傷を確かめていたりする。

 新政府軍の本部にいた兵士の数は少なくなく、その兵士のほとんどがまだまだ生き残っている現状は決して悪いものではない。先程の襲撃で全滅という最悪の事態だけは避けられた。

 しかしそれは……これから起きる“最悪”を回避出来たことと同義ではない。

 

「グビグビ……ぷはぁ……ウィ~~……ヒック」

 

 その襲撃を単身で行ったその男は、4人の男女の前で酒を呷っていた。明らかに酒を飲んで酔っ払っているように見える。

 が、その威容はただの酔っ払いには到底見えない。

 通常の人間の4倍程もあるその巨体。筋骨隆々という表現では不足と言えるであろう鍛えられたその肉体。

 左腕に刻まれた髑髏の入った入れ墨は彼が海賊であることを意味し、その手に持った巨大な金棒は人を害する殺意の塊であり。

 

「ウィ~~~……まだ生き残りがこんなにもいるってのか……」

 

 そして頭部から生えた巨大な二本の角は鬼を連想させ、見る者を恐怖させる。

 事実、彼を肉眼で初めて見る者達は恐怖していた。戦いの場には普段出ることのない各国の代表などは特に。

 

「あ、あれが……か、カイドウ……!!?」

 

「世界政府を滅ぼした……世界最強の海賊……!!!」

 

「嘘だろ……!! なんでこんなとこに……!!?」

 

 彼らはその瞬間、思い知る。

 今まで何故、その男の台頭を止められなかったのかを。世界政府や新政府軍がその男を殺すことが出来なかったのかを。

 4つの海や偉大なる航路(グランドライン)前半の海にいる悪党などその男に比べれば可愛いものだった。新世界の海に君臨する海賊達の頂点──“四皇”。

 その四皇の中で一対一なら最強と言われるその海賊──カイドウ。

 その格は誰が見ても分かる程に違っていた。世界でもトップクラスの名医がその肉体を見て「あれは人間じゃない」と言い張る程には。

 彼を知る実力者達が口を揃えて最強だと言わざるを得ないその男はこの瞬間、いつでも自分達を殺すことが出来るのだと。

 そう思えば思う程身体は中々瓦礫の陰から動いてくれない。隠れていても、見聞色の覇気によって“声”が聞こえているのだから無意味と知っていても。

 そしてそのカイドウは今──

 

「う…………うおおおお~~~~ん!! おれのせいだァ~~~~~~!!!

 

「……!!」

 

 ──何故か泣き始めていた。

 

「──ビビ様!!」

 

「ペル!!」

 

 その間に、アラバスタ王国の護衛として追随していたペルがビビに駆け寄る。

 

「パパは!?」

 

「何とかご無事です。イガラムさんが付いていますが……それよりビビ様も早くお逃げを!! ここは自分が……!!」

 

「……!! 駄目よ!! そんなの──」

 

「死ぬと仰りたいのですよね。分かっています。それも承知の上……!! 1秒でもビビ様達が逃げる時間を稼げるなら……!!」

 

「……!!」

 

 ビビは護衛としてのペルの覚悟を見て何も言う事が出来ない。有無を言わせずにビビの前に守るように立ち塞がったその姿は正に護国の戦士そのものであり、称賛されるべきものだった。

 

「アア……最悪だぜ……!!!」

 

「っ……!!」

 

 そしてこの男の前なら尚更だ。

 カイドウは酔っ払いながらも目の前の獲物から注意を外してはいない。この場にいる殆どの者達が、酔って注意散漫になっているのではないかと思う中、カイドウはしっかりと目の前のサボやビビ達の事が見えていた。

 

「せっかく世界政府も海軍もぶっ潰して……後はお前らを殺してラフテルに向かうだけのハズだったのによォ……!! お前らを逃しちまったせいで……暴力の世界も何もかも中途半端になっちまった……!!」

 

 そしてその上でカイドウは酔っ払い、自分の気持ちを口に出して吐露する。

 その言葉は彼にとって素直なもので嘘偽りはないものだ。

 

「おれのせいだ……!!! ハァ~~……おれやぬえがお前らと遊んでたせいで失敗しちまったんだ……!! お前らや赤髪が思ったよりやるもんで……楽しくて……本気を出し惜しみした……!! お前らとの戦いを楽しまず……最初から本気を出してお前らをあそこで殺してりゃ2年も待つことはなかったんだぜ……!?」

 

 深い深い溜息を吐きながら気持ちを口にする。

 その表情は心底沈んでおり、そのカイドウの様子は知る者なら“落込上戸”だと思っただろう。“泣き上戸”から“落込上戸”に変わったと。

 

「ウィ~~……でもあの時はあの時なりに精一杯やったんだ……なら褒めるべきはお前らなのかもな……ヒック」

 

「──サボ」

 

「ドラゴンさん!!」

 

 そしてその間に新政府の代表──モンキー・D・ドラゴンがどこからともなく現れてサボと合流する。

 

「状況はどうなってます?」

 

「何とか各国の代表達の一命は取り留めた……最悪の事態にはなっていないが……沖には百獣海賊団の艦隊。そして目の前には──」

 

「“最強生物”……ですね」

 

 ドラゴンとサボ。新政府のトップとNo.3が揃いながらも、その緊張が緩むことはない。

 新政府軍の本拠地で周囲に新政府軍の兵士が大勢いる中にあって、未だ主導権はたった1人の男にあった。

 

「ドラゴンも来たか…………うおおおおおん!! それでよォ!! 今度は最初から本気出せってぬえが言うんだ……!!」

 

 ドラゴンが目の前に現れてなお酔っ払ったまま。再び泣き上戸になりながら、カイドウは言う必要のない本気を出す理由を情報を添えて口にする。

 

「そもそも本気で殺してェのは()()()の方だってのによォ!! でもおれじゃ隠れられねェし、お前らを放置も出来ねェからやるしかなかったんだ!!!」

 

「殺したいのは向こうの方……?」

 

「……気になる発言だがそれより……やはり我々を逃がすつもりはないようだな……!!」

 

「ええ、全軍が撤退するまでの時間をおれ達で稼がなければならない……そういうことですよね? ドラゴンさん」

 

「──ああ、その通りだ」

 

 ドラゴンがサボの言葉をカイドウから目を離さないまま肯定する。それと同時にサボも戦う姿勢を見せた。

 2人の見上げる目は揺るぎはなく、強い意志に染まっている。最強生物の奇襲にも彼らは動じない。

 

「ああ……なんだ、今度は全員で逃げねェのか……そうか……!! お前ら2人はおれの足止めで……フフフ……」

 

 しかしそれが──

 

「フヒャヒャヒャヒャヒャ!! ホホホ!! ウィ~~~!! 本気でおれと戦ってくれんのか!! ヒック!! ウォロロ、ハハハハ!!!」

 

 ──カイドウを喜ばせる。

 今度は突然笑い始め、“笑い上戸”となったカイドウは覚悟が決まった強者達を歓迎する。

 元よりカイドウはそれを求めているからこそ。

 

「お前を相手に手加減している余裕などないものでな。それに、お前が酔っ払って多対一に持ち込める状況なら、前回よりは分の悪い状況ではあるまい……!!」

 

「ウォロロロ!! そうか!! しかもまたおれ達を止める気で……アァ~~……てめェら……本当に……!!」

 

 ──だが……彼らは知らない。

 

 カイドウという世界最強の怪物の情報の深いところまで、彼らは握っていない。

 ゆえに酔っ払っている今の状態であれば条件は悪くないと常識的に思い込む。カイドウ本人の本気を出すという言葉を信じ切れない。

 カイドウがスロースターターであり、本気を出すのに時間をかける傾向にあることを知っていた。無論、それを信じきれる訳ではないが、それでも酔いが醒めてからが本番だと。

 そう思った。そのことを──カイドウに悟られる。

 その瞬間、カイドウは咆えた。

 

「──いい加減!! 目障りなんだよォ~~~~~~!!!」

 

「……!!?」

 

「覇王色!!」

 

 ──“笑い上戸”から“怒り上戸”に変わり、その怒りの咆哮と共に覇王色の覇気を周囲に放出する。

 周囲にいた少なくない兵士や戦闘力のない者達が泡を吹いて気絶する──それだけでなく、その圧倒的な覇気の威圧は咆哮の空気の揺れと合わさって物理的な圧──黒い雷のような衝撃となって風を起こし、周囲の土や砂、石や建物の瓦礫を吹き飛ばした。

 

「これが……カイドウの覇王色の覇気……!!」

 

「っ……!!」

 

 そしてその瞬間、誰もが自らの間違いを即座に訂正する。

 酔っ払っていても、怪物は怪物。弱くなる訳ではないのだと。

 そしてそれは正しかった。知る人ぞ知るカイドウの本気の本気とは、その状態でこそ振るわれるもの。

 

「……!! メチャクチャだな……!!」

 

「どうやら腹を決める必要がありそうだ……!! 逃げるためではない……ここで倒すつもりでやらねば、一気に押されるぞ!!! サボ!!!」

 

「ええ……!! 分かっています!!!」

 

 ドラゴンとサボが気合を入れ直し、戦闘態勢を取る。

 それに呼応して新政府軍の兵士達もカイドウと沖の百獣海賊団に応戦する構えを見せた。

 

「今度は逃がさねェ!!! 全員ここで殺してやる!! せめて最期はおれを楽しませろォ!!!」

 

「来るぞ!! 迎え撃て!!!」

 

『おお!!!』

 

 敵は世界最強の海賊──“百獣のカイドウ”。

 それと矛を交える新政府軍とその地、バルティゴはその日──“最強生物”が暴れ回る地獄を見ることになった。

 

 

 

 

 

 ドレスローザ、西の沿岸部──グラン・テゾーロ。

 

 新政府軍と海賊帝国の戦争が始まり、国民達の雄叫びや砲弾の音が鳴り響く中、その黄金の町の外周部にも大勢の兵隊が集まっていた。

 

「ん? あいつら、ウチの兵じゃねェな。なんだ?」

 

「バカお前、知らねェのか? ありゃテゾーロが金で雇った“傭兵”達だ」

 

 その中の後方には、新政府軍が上陸した後に備えている百獣海賊団の兵達が控え、前方に布陣する統一感のない連中を指して噂する。

 新入りではない、訳知りのウェイターズが言うには彼らはテゾーロが金で雇っている海賊達であり、今回の戦争でテゾーロの指示に従って戦う尖兵であった。その彼らの表情に、おおよそ不満はない。

 彼らはテゾーロから多額の報酬を約束されている。その上海賊帝国側という勝ち馬に乗れることにほくそ笑んでいた。

 金のために戦う彼らは時流を見極め、先を見ている。如何にこの先、美味しい思いをするか。そのことしか彼らの頭にはなく、どちらが正義で悪かなんてことには興味もない。

 そんな彼らから見てもこの戦争は海賊帝国側の有利であり、勝ち戦だった。実際に開戦が有利な形で行われたことで彼らは苦悩する新政府軍を見て口端を歪めている。

 

 しかし中には表情の優れない者……テゾーロによって“金”で支配された兵隊達もいる。

 

 彼らはテゾーロに背き、またはテゾーロに騙されて借金を負い、“奴隷”になった者達。見える枷はないものの見えない黄金の枷が彼らを縛り付け、逃げることも逆らうことも不可能にしている。

 金で雇われた兵隊は“利”から。そして金に支配された奴隷は“能力”で。逆らう選択肢をなくしている。

 

「──始まったか」

 

「はい、テゾーロ様。作戦は順調なようで。新政府軍の動きに迷いが見えます」

 

「そうか。ドフラミンゴめ。随分と張り切ってるな、ハハハ……!!」

 

 ゆえにこそ、その兵達の中心──彼の能力で作った即席の黄金の玉座にテゾーロはいた。

 周囲にはテゾーロの側近であるバカラやタナカさん、ダイスが控えている。側近の中ではカリーナのみがその場にいないが、テゾーロは特に気にした様子もなく、頬杖を突きながら余裕綽々といった様子で戦況を眺めていた。

 

「テゾーロ様、こちらからも撃ちますか?」

 

「もうしばらくは放っておけ。せっかく向こうの国民が骨を折り、血を流してくれているんだ。手を出すのは無粋だろう?」

 

「……!! はっ、了解です」

 

 そんな中、傭兵の中からこちらからも攻撃することを進言した男がいたが、その言葉もテゾーロの笑み交じりの言葉に止められる。

 無論、その言葉は本意ではない。テゾーロにしてみれば、そこらの貧乏人の、ましてやドフラミンゴの国の民の覚悟など心底どうでもいいものだ。ゆえにテゾーロが考えるのは、戦況と自分の利のみである。

 

「もっとも、こちらへ来るつもりなら相手をしてやるがな」

 

「するるるる、連中にそんな度胸がありますかな?」

 

「さてな。それよりタナカさん。鼠の方はどうなっている?」

 

「はい、そちらについても抜かりなく……ジョーカー様が協力してくれているおかげで、楽を出来ています」

 

「そうか。なら──麦わらの一味は?」

 

「ドレスローザへと逃げ込んだ2名を除けば、全て問題ありません」

 

「…………そうか」

 

「? 何か気になることでも?」

 

 配下のタナカさんへ幾つか確認を取ったテゾーロ。その様子は普段と変わるところは何もない──ように思えたが、麦わらの一味について聞いたところで、僅かに思案するような表情になったことでタナカさんが訝しむ。

 麦わらの一味の問題は概ね解決した。捕らえた者達については言わずもがな。ドレスローザへ逃げ込んだ者達も捕まるのは時間の問題だと報告を受けている。

 仮に何かを起こそうとしたところで、テゾーロの能力なら即座にそれを止めることが出来た。万が一にも彼らがここから復活を遂げることはありえない。

 

 ──が……それでもテゾーロにはある人物から言われた言葉が気にかかる。

 

『麦わらの一味を甘く見ちゃ駄目だよ。幾らあなたでもね──テゾーロ』

 

「…………」

 

「テゾーロ様?」

 

 それはテゾーロの尊敬する人物にして、彼の人生において最も恩を受けた大恩人とも言える相手からの忠告だ。

 彼女からそう聞いていたからこそ、テゾーロは麦わらの一味に対して注意を払い、ジョーカーやドフラミンゴとも協力して彼らを罠に嵌めた。その甲斐あって、彼らは容易にこちらの手に落ちたが……あまりにもあっさりと片付いたため、拍子抜けしたというのが正直なところだ。

 もしかしたら、今泳がせている1人や、逃げた2人が何かをしでかす可能性も0ではないが……目の前の新政府軍を無視して、そちらの対応に力を割く程ではない。

 

「……何でもない。それより、大将の動きに注意しておけ」

 

「……? ええ、承知しております」

 

 ゆえにテゾーロはしばし考え……やはりその懸念は考え過ぎだと結論付けた。

 何をしようと自らが作り上げたこの黄金の牢獄からは──黄金の支配からは逃れられない。麦わらの一味だろうと新政府軍だろうと……そうに決まっていると、テゾーロは自らが絶対と信ずる金の力への自信を思い、その忠告を「済んだ問題だ」と頭の片隅へと追いやった。

 

 

 

 

 

 ドレスローザ全域とグラン・テゾーロ全域が新政府軍と海賊帝国の戦争によって慌ただしくなり、ざわつく中、その影響を唯一受けない場所があった。

 外部の音は一切聞こえず、外と連絡を取ることも出来ず、当然そこから逃れることも出来ない。

 

「ウゥ……水と食料をくれ……」

 

「金……金ならあるんだ……!! だから水と食料を……!!」

 

 黄金の街の甘い香りに誘われ、そして騙され──金の亡者達はその場所に落とされる。

 そこは辺り一面が金で出来たグラン・テゾーロの地下空間──“黄金の牢獄(ゴールド・プリズン)”。

 そこに落とされた罪人達は辺りからかき集めた金や宝石を新たに落ちてきた罪人に差し出し、水や食料を買い取ろうとする。それ以外に水や食料を得る手段はなく……彼らは昼も夜も分からない輝く空間で飢餓に苦しみ、この街を訪れたことや支配者に逆らったことを後悔する。

 

「ハァ……ハァ……くそォ~~……!! 出れねェ……!!」

 

 ──だが中には例外もいた。

 

 黄金の牢獄(ゴールド・プリズン)の端。やはり黄金で出来た壁に攻撃を幾度となく繰り返し、その場から脱しようとしながらも黄金を破壊出来ずに膝をつくその老人は、麦わら帽子を被った男である有名な海賊──“麦わらのルフィ”その人だった。

 

「でもまだだ……こんなことじゃおれは諦め──ウッ!! 腰……腰が痛ェ……!! 何だこれ……!!」

 

「ルフィさん!! ぎっくり腰ですよそれ!!」

 

「よく分かんねェけど……うぐぐ……腰が……」

 

 そしてその傍らにはアフロの骸骨──麦わらの一味の音楽家“ソウルキング”ブルックがその身体を労っている。

 皮膚にシミなどの肌荒れ。髪も白く艶がなくなり、筋肉は衰え、声もしわがれた──普通の老人よりはまだ若々しいものの──どう見ても立派な身体の弱い老人になったルフィは腰を押さえて地面に蹲ってしまう。

 今のルフィは若々しかった頃のルフィとは、身体の調子もまるで違っていた。

 

「うっ……ウウ……!!」

 

「ルフィさん、あまり暴れたらお体に障りますから安静に──ルフィさん!? 今度はどこが痛むんですか!!?」

 

「腹が……!!」

 

「お腹が痛むんですか!!?」

 

「減った……」

 

「って、ええええ~~~!!? そっちィ~~~!!?」

 

 ……とはいえルフィらしいところは変わってはいない。

 突然腹が減ったと言い出すルフィにブルックが頬に両手を当てて大袈裟に驚いてみせた。お腹が空いただけなら何も──問題ないこともないが、痛まないならまだマシだ。

 しかし何にせよここから出ないと何も始まらない、が出口はどこにも見つからず、壁を壊すことも出来ないとなれば、どうすればいいのかとルフィもブルックも壁際でしばし休憩する。

 

「随分と元気な老人だな……気持ちは分かるがやめときたまえ」

 

「ゼェ……ゼェ……ん? 誰だ?」

 

 人が話しかけてきたのはそんな時だった。

 黄金の砂を踏みしめてルフィ達に近づいてきたのは、周囲の黄金にも負けない程に輝くブロンドの髪と整った顔立ちを持つ1人の青年であり、ルフィ達と同じく──海賊だった。

 

『美しき海賊団船長“白馬のキャベンディッシュ 懸賞金2億8000万ベリー』

 

「この周囲の黄金はこのぼくの美しい攻撃でもビクともしない程に堅牢だ。その輝きだけはまるでこのぼくのようだが……全く憎らしいものだよ」

 

「へ? よく聞こえねェ。ぼくが憎らしい? へェ……大変だな」

 

「どんな聞き間違えだ!!」

 

 老いて耳が遠くなったのか、その海賊キャベンディッシュの言葉を聞き間違えたルフィが怒りのツッコミを受ける。老人相手に遠くから声を掛けたらこういうことが起こりうると学習したキャベンディッシュはルフィとの距離を詰めると近くの黄金の柱に腰を落ち着かせた。

 

「そういうところは普通の老人なんだな……さっきまでの暴れっぷりは只者ではなかったが。一体何者だ、キミ達は」

 

「いや……ハァ……ダメだ。いつもより全然力が出ねェし、すぐ息切れする……!!」

 

「へェ、あれでいつもより調子が悪いのか。大したものだな…………それにしてもキミは先程までそっちの髑髏に“ルフィ”と呼ばれていたようだが……」

 

「ああ……おれはルフィだ」

 

「…………」

 

 キャベンディッシュはどうやら先程まで黄金の壁を攻撃していたルフィのことを見ていたらしいが、しかし口ぶりは意味深で、ルフィに対して興味を持った理由はそれだけではないらしい。ルフィと改めて名乗ったルフィをじっと見つめて──ちなみに髑髏と呼ばれたブルックはさり気なく「あ、ブルックです」と自己紹介をして──いたが、すぐにふっと笑みを浮かべて表情を元に戻す。

 

「フフ……そんな訳ないか。麦わらのルフィは2年前……ぼくの人気を邪魔したあの“最悪の世代”の1人!! 手配書も見たことあるが、キミのような老人ではなかった。つまりただの同名か……キミがボケているだけだろう」

 

「お前……結構失礼だな」

 

「人気の邪魔? “最悪の世代”が何かしたのですか?」

 

「ああ……その名の通り最悪だよ。あいつら生意気な後輩共は……ぼくが得る筈だった人気を掻っ攫っていったんだ!!」

 

 ブルックの質問に答えてキャベンディッシュは語る。

 キャベンディッシュは3年前に“新世界”入りした2億を超える賞金首。新進気鋭の“美しき”ルーキーだったこと。

 その人気は新聞にも連日登場し、手配書という名のブロマイドも全て女性達に盗まれる程の人気だったこと。

 だがその人気は1年後、海賊帝国の勝利した“頂上戦争”で全て掻き消され、湧き出てきた“最悪の世代”はこの暴力の世界にあっても大立ち回りを演じたこと。

 だから海賊帝国もそうだが、最悪の世代も同時に恨んでいる──つまるところ彼の言い分はそういうことだった。

 

「記者達はもうぼくに見向きもしないし、それどころじゃない!! だから全員殺すんだ!! 生意気な後輩達と、ぼくの人気を奪っていった連中を全員!!」

 

「見かけに寄らず過激思想だった!!」

 

「それは逆恨みって言うんだぞ……」

 

 そしてとんでもない事を言い出すキャベンディッシュにブルックは驚き、ルフィですら引き気味でツッコミを入れる。が、キャベンディッシュは極めて真剣な様子で怒りを見せている。

 

「そしてその力を得るために裏の世界で密かに流れた()()()()()を頼りにこの“グラン・テゾーロ”にやってきたのだが……罠に嵌ってしまってこのザマだよ。ふん、全く気に入らない」

 

「裏で流れた情報……ですか?」

 

 気になる単語にブルックが反応する。するとキャベンディッシュは憚ることなく答えてくれた。周囲に視線を向けながら、

 

「ああ。そのせいか、ぼくと同じように騙されてきた人や……まあそれとは関係ないかもしれないが、今日は君達以外にも結構な数がここに落ちてきたよ──ほら、そっちにいる女剣闘士もその1人だ」

 

「!」

 

 キャベンディッシュが視線を向けた先をルフィ達も見ると、確かにそこには普通とは違う格好の女剣闘士がそこにいた。

 

「…………」

 

「おお!! 確かにあれは女剣闘士!! お美しい……♡」

 

「? 何か……落ち込んでるな……」

 

「ああ、どうやら彼女は相当な訳アリのようでね。落ちてきてすぐは尋常ではない様子で泣いていた。落ち着くのを待ってぼくも話しかけてみたが、その後はあの通り、じっと俯いて黙りこくっている」

 

「……そうなのか……」

 

 キャベンディッシュの説明を聞き、ルフィ達はその地面に座り、膝を抱えている桃色の髪の女剣闘士を不憫そうに見る。

 そしてどうやらやはり、ここに落ちてきた人間は全員訳ありの様だった。ただ借金をしただけではここに落とされるようなことはない。それほど反感を買ったか、あるいは利益の出ない反乱者か。あるいはルフィ達のように絶対に閉じ込めておきたい人物をここに落としているのか。

 

「変わり種で言うなら……そっちの侍達もそうだな」

 

「え?」

 

 キャベンディッシュがその女剣闘士とは反対の方向に視線を向けながら告げた単語に、ルフィ達は間の抜けた声をつい出してしまう。

 その視線の先……そこにいたのは1人の派手な男と1人の男児だった。

 

「ハァ……ハァ……()()()()……腹が空いたでござる……」

 

「はっ!! では()()()()様、拙者の描いたこの魚をどうぞご賞味あれ!!」

 

「うっ……せめて火を通してはくれぬか?」

 

「申し訳ありませぬがモモの助様、ここに火を起こすものはなく、拙者の妖術にも限界があります。ご不便おかけしますが、これで我慢して頂きたく……」

 

「さ、左様か……まあ仕方あるまい……」

 

 そこにいる男と男児は、キャベンディッシュや女剣闘士よりも更に変わった風貌をしていた。

 カン十郎と呼ばれた男は、旧ワノ国の衣装を身に纏い、白化粧をして長く伸ばした髪、そして左手に大きな筆を持った──分かる人には分かる旧ワノ国の歌舞伎役者のような見た目の派手な男。

 そしてもう1人──モモの助と呼ばれた男児は、派手さはないが上質な旧ワノ国の衣装と、ちょんまげという特徴的な髪型をしているだけの、普通の幼い少年だった。

 どうやらその2人はこれから食事を摂るところのようで、カン十郎が右手に持つ、不安定でよく分からない魚を串に刺して食べようとしている。その様子だけでもこの2人は明らかに異様で目を引くものではあったが──

 

「んん? 侍? カン十郎にモモの助様……? ……ルフィさん、もしかして彼らは、錦えもんさんが探していた──」

 

 それよりも、聞き覚えのある名前にブルックが反応する。侍というのもドンピシャだ。間違いないと、ブルックは気づいた事実をルフィに伝えるべく、横を見て口にしようとしたところで、

 

「──飯~~~~……!!!」

 

「うわあああああ!!? 何だお主は!!?」

 

「む、曲者か!!? モモの助様!! お下がりを!!」

 

「ってもう行っとる~~~!!? ルフィさん!! そうじゃなくてですね、彼らは──」

 

 老人とは思えないダッシュ力でモモの助達の下に──正確には飯のある方へ駆けていったルフィを、ブルックがツッコミと共に焦った様子で説明するべく追いかけていく。

 

「……何なんだ彼らは」

 

「…………」

 

 そしてそのおかしな緊張感のない様子を、キャベンディッシュや膝を抱える女剣闘士、そしてルフィ達と一緒に落とされた男は見ていた。

 未だこの現状を抜け出す心算は何もない。

 しかし彼らがやってきたことでこの“黄金の牢獄(ゴールド・プリズン)”は、にわかに慌ただしくなり、ほんの僅かに明るい空気が流れ始めていた。

 

 

 

 

 

 グラン・テゾーロの一角。

 そこは麦わらの一味ではない──2人の人物が捕らえられた部屋だった。

 

「ぐぬううゥゥ……無念……またもや捕らえられてしまうとは……申し訳ありませぬ……ハァ……ハァ……日和様……」

 

「……別に。何でもありませんよ。これくらい。このくらいの縛めや拷問は貴方達がいない20年で慣れましたから」

 

「っ……!! それ、は……っ……くっ……!!」

 

 縄で縛られ、手足を海楼石の錠で囚われた錦えもんと日和は、このような状態にあってなお最悪の空気を漂わせていた。

 ここまで言われ、態度に表されればさすがの錦えもんでも分かる。自分達は日和から、蛇蝎の如く嫌われているのだと。

 そしてこの20年間で想像を絶する苦労をしてきたのだろうと。20年。そう、20年だ。

 錦えもんにとって20年前のあの日はまるで昨日のように思い出せる。実際にたった数週間前の出来事であるから当然だが……しかし日和は違う。

 20年の月日という時間の重さを、錦えもんは知らなかったし、今も想像でしか感じることが出来ない。

 一体何故、光月おでんの娘である光月日和が百獣海賊団としての名を持ち、以前は彼らの仲間であったかのように語られるのか。それが真実だったとして、どのような思いで、経緯でそのようなことになったのか、錦えもんには何も、そう、何も分からない。

 おそらくそのことが、自分が嫌われてることに関係してくるのだろうと思う。錦えもんには分からないが、何も分からない現状ではそのくらいしか思いつかないと。

 

「……!! 日和様!!」

 

「……何です?」

 

 だから今はとにかく──知る必要がある。

 ゆえに錦えもんは意を決して口にした。謝罪の言葉と共に。

 

「申し訳ありませぬ!! 日和様を苛立たせてしまい、誠に申し訳なく……!!」

 

「……また適当なことを……そのような謝罪は必要ありません。そもそも私が貴方に苛立っているとして……その理由も理解らぬまま謝罪を口にするなど……不躾だとは思わないのですか?」

 

「ええ!! それは重々承知……!! ですが……恥ずかしながら、拙者にはその理由に皆目見当が付きませぬゆえ……!! 失礼を承知で謝罪し、聞くことしか出来ませぬ……!!!」

 

「…………」

 

 錦えもんは腹から声を出し、必死に謝罪しながら口にする。日和にぞんざいに扱われながらもその理由を、教えてほしいと。

 そのことに対して日和からの返答はない。だがその沈黙は続けていいのだと解釈し、錦えもんは思いを言の葉に乗せた。

 

「日和様が拙者に苛立ちを抱く理由……!! そして……!! この20年間で日和様の身に何が起きたのか……!! どうか、拙者に教えてはくれませぬか!!!」

 

「……教えたところで、今更何を……」

 

「拙者が、拙者達が背負いまする!!! 日和様がこの20年で体験したもの……!! 仮に何か罪があろうとも、それは決して日和様のせいではありませぬ!! 全てはオロチとカイドウの──いえ、不甲斐なき我らのせい!!!」

 

「!!」

 

 錦えもんは心の底からの言葉を、心の底から日和を慮って、本音を口にした。

 おそらく日和は何かを抱えている。単純に辛い思いをしただけでなく、何か複雑な日々をも耐え忍んできたのだろうと。

 そしてそれは幼く、何の力もなかった日和に抗えるものではなかったのだろう。

 ならばそれは決して日和のせいではない。それを強いた者達と、それを防げなかった者達のせいだ。

 だからこそ錦えもんは口にした。それをも背負うと。それは日和のせいではないと。

 日和の表情が錦えもんの言葉で揺らぐ。それを目にし、錦えもんはその先を口にしようとした。

 教えてほしいと……その表情の揺らぎが、錦えもんの想像するものとは全く異なるものであるとは知らずに。

 

「ですからどうか……!! 教えて頂きたく──」

 

「──もう、いいです」

 

「! 日和様……」

 

 錦えもんが期待を込めて日和を見る。その据わりきった横顔を。

 

「分かりました、錦えもん。やっぱり貴方達、侍とは──分かりあえないことが」

 

「……え……?」

 

 そう、日和にとってそれは決定的な言葉だった。

 錦えもん達赤鞘の侍が、何も変わっていないことを示すもの。その証明となる言葉を耳にし、日和は話を打ち切るように錦えもんから視線を切る。

 

「錦えもん、私には貴方達のことが理解出来ません。そして……貴方達もまた、私の気持ちを理解することは出来ません」

 

「……!! そんなことは──」

 

「話は終わりです。ちょうど……迎えも来たようですし」

 

「!!? ──お、お主は……!!?」

 

 そして視線を前にやった日和と、その言葉と視線に釣られて前を向いた錦えもんらの目の前に──ひとつの人影が降り立つ。

 その顔を、姿を見て錦えもんは目を見開いた。その顔を、錦えもんは知っている。

 

「──お迎えに上がりました、日和様。……そして……」

 

 日和を見て恭しく膝を突き、臣下の礼を取ったその人影は、手に鍵を持って日和へと近づきながら、途中、錦えもんにも顔を向け、()()()()()()()を一つだけ寄越す。

 

「お久しぶりですね……()()

 

「……!!」

 

 そして、懐かしい呼び名を複雑そうに口にするのだった。

 

 

 

 

 

「──いい? テゾーロ達が出払ってるとはいえ、この先は警備が厳重よ。気をつけて」

 

「大丈夫よ。そっちこそ、腕が鈍ってるんじゃないでしょうね?」

 

「言うじゃない。それじゃ見せてあげるわ。“女狐”の華麗な盗みのテクニック♪ 準備はいい? “泥棒猫”さん♡」

 

「ええ、問題ないわ。それじゃ──行くわよ!!」

 

 夕暮れに差し掛かるグラン・テゾーロの七ツ星ホテル“THE() REORO(レオーロ)”に潜入した2人の美女は、物陰から軽く頭を出して周囲の様子を確認しながら、同時に駆け出した。

 その彼女達の正体は──腕利きの泥棒。“女狐”カリーナと“泥棒猫”ナミ。

 実に6年振りとなる2人の共同作戦。その目的は、麦わらの一味の仲間を助け出すことと、このホテルの最上階の更にその上にある金庫に保管されている“テゾーロマネー”を盗み出すことだった。

 そしてその作戦の概要を、ナミは思い出す。先程カリーナと行った打ち合わせ。それによれば、まず行うべきことは仲間の救出であると。

 

『──あなた達が来てくれたことは好都合だったわ。普段はタナカさんのヌケヌケの実の能力がなければ入ることの出来ないスイートエリアも、今はあなた達と百獣海賊団が起こした騒ぎのおかげで壁や床が壊れて行き来が可能よ』

 

『成程ね……そこまでの侵入は容易ってワケか……それじゃ“テゾーロマネー”のある場所は聞いたけど、肝心の私の仲間の居場所は分かってるんでしょうね?』

 

『そっちも抜かりはないわ。麦わらの一味は、スイートエリアの部屋に別々に囚われてるみたいよ。細かい部屋の場所までは聞いてないけど……そっちは警備さえどうにかすればすぐに見つかる筈。彼らを助けたら次は“テゾーロマネー”よ』

 

 まず最優先すべきは仲間を助けること。カリーナとしても、ナミの心情だけでなく、味方が増えた方が作戦の成功率が高まると判断してまずは麦わらの一味を解放することを優先した。

 だからこそまずはカリーナの案内に従って、ホテルのスイートエリアの入り口まで辿り着いたナミ達だったが──どうにも様子がおかしい。

 

「どうかしたの?」

 

「あっ、カリーナ様!!」

 

「いえそれが……先程スイートエリアに侵入者がありまして……」

 

「──侵入者?」

 

 カリーナが“歌姫”の顔で警備に声を掛けると、警備の兵はカリーナに畏まり報告を行ったが……その内容はナミ達にとって意外な内容だった。

 

「(私達以外に侵入者?)……その侵入者の詳細は?」

 

「それが……目撃した兵士は銃弾のようなもので喉を撃ち抜かれており……」

 

「コントロールルームのホスト電伝虫も応答がなく……!!」

 

「現在、警備の兵を総動員して捜索中です!!」

 

「……そう。わかったわ」

 

 カリーナは警備の視線をさり気なく誘導させて物陰に隠れているナミをフロアに招き入れながらその事を頭に入れる。このタイミングでの侵入者は、カリーナにとっても予想外であり、更には状況が状況なだけに正体を絞りきれない。

 

「あ、部屋に戻るなら護衛を──」

 

「いらないわ。それよりあなた達は向こうを探して」

 

「ええ、分かりました」

 

 警備の兵は侵入したナミに気づくことなくその場を後にしていく。カリーナが予め、ナミにナギナギの実の能力で音を消していることもあってか、侵入自体は思ったよりも簡単だった。

 

「侵入者って……一体誰が?」

 

「分からない。今このグラン・テゾーロと隣接するドレスローザは新政府軍と戦争の真っ最中。新政府軍もそうだけど……どこの誰が忍び込んでいてもおかしくないわ」

 

 だがこの状況はナミ達にとって必ずしも良いように働くとは限らない。

 警備が混乱しているのはいいが、侵入者が入ったことでその警備の目も活発になっており、企みが露見する確率も上がってしまう。

 

「……とりあえず、あなたの仲間を探しましょう」

 

「……わかったわ」

 

 しかしかといってこの場でじっとしている余裕はない。そのことを頭の片隅に入れながらも、2人は仲間を探すため、スイートエリアの廊下を進んでいく。

 それに加えて、ナミは先程の少女から頼まれた“お玉”という子供のことも気にかかっている。

 このホテルに連れて行かれた百獣海賊団の幹部。だがその幹部は子供でどうやら訳ありだ。ナミとしてもその部分は気にかかるが……それよりも、お玉がここにいるという情報が本当なのであれば、予想だにしない危険が孕んでいる可能性がある。ローの話によれば──

 

「! (ナミ!)」

 

「!」

 

 だがそのナミの思考はカリーナの口の動きで中断された。

 声を出すことなくナミに注意し、カリーナは曲がり角から現れた相手に自然に対応する。同時に、ナミは物陰に隠れた。

 

「カリーナ様? 何故こちらに? 今このフロアは侵入者の捜索で──」

 

「ええ、分かってるわ。でも大したことないでしょう? それより私は捕まった麦わらの一味の顔でも見に行こうと思ってね。部屋はこっちであってるかしら?」

 

「それは……ええ。ですが護衛を付けずに歩くのは……」

 

「大丈夫よ! (ナミ……!!)」

 

「! (カリーナ……わかったわ)」

 

 やってきたのは警備の兵が1人。護衛も連れていないカリーナを心配して護衛に付こうとするその男に自然に対応しつつ、カリーナはナミにアイコンタクトを行った。

 この先は一本道で置物もあまりなく、隠れられる場所がない上、思った以上に警備の兵がしつこいこともあってカリーナはこの警備の兵を排除することに決めた。その判断を見て、物陰から出たナミが天候棒を構えて警備兵の背後に周り、振りかぶる。

 

(しばらく寝ててちょうだいっ!!)

 

 そしてナミは自らの得物を警備兵の頭目掛けて振り下ろす。警備兵はカリーナとのやり取りに気を取られて気づけなかった。その直前まで──

 

「!?」

 

「え……止められ──きゃあっ!!

 

 ──だがそのナミの攻撃を、警備兵は腕一本であっさり止めてみせた。

 ナミの天候棒を左手で掴み、そのまま前方へナミを転がすとカリーナは警戒する。

 

「おやおや……一体何をするのですかカリーナ様。それにそちらは……確か麦わらの一味」

 

「っ……何こいつ……!!? ここの警備兵ってこんなに強いの……?」

 

「くっ……いやそんな筈は……あなた、一体何者!!?」

 

 幾らナミが一味の中では非力な方とはいえ、ただの一警備兵が背後からのナミの一撃を軽く止めていなしてみせるなどという芸当を出来る筈がない。

 ゆえにカリーナは床に倒れたナミを片膝を突いて助け、ナミも即座に体勢を立て直しながらもその警備の男の顔を見た。何の変哲もないサングラスを掛けた警備の黒服。その真面目な表情が、ニヤッと口端を歪めると──

 

「フッフッフッ……ムルンフッフッフッ……!!!」

 

 警備の男がその場で跳躍し、狐のような鳴き声と共に空中で前回りを行うと、その背に9つの狐の尾が現れる。

 そして次に着地した時には、警備の男の姿はどこにもなく、代わりにその男に化けていた鼻の長い長身の女の姿がナミ達を見下ろしていた。その姿は、海賊の世界では知らない者がいない程に趣味の悪い、残虐な海賊。その人であり、

 

『“若月狩り”カタリーナ・デボン イヌイヌの実(幻獣種)モデル:九尾の狐』

 

「ムルンフッフッフッ!! 待ち伏せしてる最中でまさかこんな可愛い侵入者が見つかるなんて……私ったら幸運ね♡」

 

 ──史上最悪の女囚とまで呼ばれたカタリーナ・デボン。

 その顔は、ナミとカリーナを前にして凶悪に歪んでおり、

 

「ねえ“泥棒猫”に“女狐”……!! ムルンフッフッフッ……!! 久しぶりに、疼いてくるわ……!! せっかくだし、1人2人くらいつまみ食いしてもいいわよねェ?」

 

『……!!』

 

 悪寒を感じたナミとカリーナはその表情を険しいものへと変えた。その右手に握られた槍の煌めきを見て、海賊としての経験値があるナミは先手必勝で攻撃を繰り出そうと“魔法の天候棒”を振るう。

 

「……!! “雷雲”──うっ!!?」

 

「あら駄目よお嬢さん。そんな危ないもの振り回しちゃ……!!」

 

「っ……(こいつ……強い!!)」

 

 が、その攻撃は放つ直前でデボンの槍で止められてしまう。

 それだけでなく、棒と槍を合わせた瞬間にナミはそのパワーの差を感じて思ったよりも状況が悪いことに汗を掻く。このデボンが何故ここにいるのか、何の目的でここにいるのかは分からないが、デボンが自分達を狙ってきているのは明白。味方ではない。明らかに……敵だった。

 

「お嬢さん達知ってる? 私の異名……“若月狩り”って言うのよ……!!」

 

「! ──カリーナ!! 避けて!!」

 

「!?」

 

 ナミの棒をあっさりと払ってみせたデボンは、その槍の狙いを唐突にカリーナの方へと向ける。ナミが先んじてそれに気づき、カリーナに声を上げたが、カリーナは虚を突かれて反応が遅れていた。

 

「あなた達みたいな可愛い娘が大好きなの。好きすぎて……ずっと手元に置いておきたいくらいにはね♡」

 

「……!!」

 

 美女の首を狩り取ってコレクションにする“若月狩り”。その魔の刃がカリーナへと迫る。

 カリーナが懐に忍ばせていた銃を手に取ろうとするが、その判断は少し遅く、また早くとも見聞色の覇気でそれを察知しているデボンには無意味だった。

 

「ムルンフッフッフッ……!! まずひとつ……!!!」

 

「──!!」

 

「カリーナ!!」

 

 その場において、ナミもまた力不足だった。

 デボンの容赦のない攻撃がカリーナの首元に触れる。その攻撃を止める手段を、ナミは持っていない。助けてくれる仲間もこの場にはいない。ここは敵地であり、何もかもが不利に働く。力のない弱者への理不尽が蔓延る“暴力の世界”。

 ゆえにこの場においても、その理がただ粛々と適用された。力のない者は、力ある者から全てを奪われるしかなく──

 

「──待て!! デボン!!」

 

「!?」

 

「え……?」

 

 それを防げる者は──

 

「──“鶴爪(オングル)”!!!」

 

「!!!」

 

 ──同じく、()()()()()()()()()

 

 その瞬間を、ナミ達は見ていた。横合いから、青い炎を纏った男が飛来し、その勢いのまま鳥の足での蹴りを──デボンにお見舞いした瞬間を。

 

「危ねェ……何とか間に合ったよい」

 

「大丈夫か!?」

 

「……! ありがと……って、それよりあなた達は……!!」

 

 デボンを蹴り飛ばした男がその足を人間のものに戻して着地し息をつくと、床に倒れたカリーナを後ろから走ってきた女剣士が助け起こす。

 そのことに礼を言うカリーナとナミだったが、その姿を冷静に見て改めて驚いた。その先頭に立つ男は有名だからこそ。更に背後からやってきたもう1人の青年も含めてその3人は、有名なとある海賊団だったからこそ。

 そしてナミにとっては──その海賊団が、自分達の船長と関係しているからこそ。

 

「──ああ、初めましてだな。“麦わらの一味”の“泥棒猫”……だったか?」

 

「まさか侵入した先にお前達がいるとは……」

 

「麦わらの一味は捕まってると聞いたが……何か手伝えることはあるかよい?」

 

 その3人──背後からマスクをした青い髪の青年が2人と並び立ち、彼らはその誇り高き海賊団の名を名乗る。

 

『二代目白ひげ海賊団参謀“マスク・ド・デュース”』

 

「おれ達は“白ひげ海賊団”……!! 悪いがウチの船長から“弟を頼む”って頼まれてるもんでね……勝手ながら助太刀させてもらう」

 

『二代目白ひげ海賊団3番隊隊長“釘打ちのイスカ”』

 

「そういうことだ。こちらにも目的があるとはいえ……船長の家族は私達にとっても家族。見過ごすことは出来ない!!」

 

「……!! ルフィのお兄さん……エースさんの仲間……!!」

 

 ナミがその言葉を聞いて喜びを顔に表す。アラバスタで一度出会ったルフィの兄であるエース。

 そのエースが、あの頂上戦争を経て新たな白ひげ海賊団の船長となったことは新聞で知っていたが、まさか助けに来てくれるとは思いもしなかった。

 それに驚いたのはナミだけではない。カリーナもまた、新世界で話題のあの白ひげ海賊団がグラン・テゾーロにやってきているとは思わなかったし、その中でも特に有名なこの男に助けられるとは思わなかった。

 

『二代目白ひげ海賊団1番隊隊長“不死鳥”マルコ』

 

「それにしても……まさかお前がここにいるとはな、デボン。お前は黒ひげ海賊団に加入していた筈……ティーチの命令か? 狙いは()()()()()かよい?」

 

「……!! ムルンフッフッフッ……さあ、どうかしらね……“不死鳥”マルコ……!!」

 

 マルコの一撃を食らい、ダメージを負いながらも立ち上がるデボンが、未だ目を離さずに睨みつけてくるマルコの問いをはぐらかす。

 そしてその警戒はマルコだけではない。白ひげ海賊団にとって、黒ひげ海賊団という連中は、“白ひげ”を殺した仇敵とも言える連中だ。あのティーチについていくような連中だ。何をするか知れたものではないと、警戒するのは当然のこと。彼らの目的を考えれば、ここで目的を問い質すか、倒しておく必要すらあるものだ。

 そしてしばらく睨み合うマルコとデボンを見て、判断を下したのはデュースだった。

 

「マルコさん、ここは任せていいか?」

 

「ああ。そっちは2人を助けてやれよい!!」

 

「よし、それじゃ行くぞ!!」

 

「え、でも……」

 

 その判断にナミが僅かに逡巡する。それは論理的なものではなく、反射的なものであり、少ししてすぐにその判断に頷く程度のものであったが……そのナミの迷いを不安と受け取ったマルコは、不敵な笑みを浮かべながら口にする。

 

「こっちは1人で問題ねェよい。それに……助けてくれる味方は()()()()()()()()()

 

「え?」

 

 マルコは言う。ここに来る少し前に受けた連絡。その情報から基づく現在の状況。絶望の中でも僅かに輝いている希望の光──助けてくれる味方のことを。

 

「“海賊帝国”を敵に回してるのはお前らだけじゃねェってことだよい!! さあ行け!!!」

 

「……!! わかった!!」

 

「よし、行くぞ!!」

 

 マルコの激を受けたナミが頷き、カリーナやデュース達と共にその場から駆けてゆく。

 1人残ったマルコは、眼前で対峙するデボンに、海賊として啖呵を切った。

 

「さて、デボン……大人しく目的を話して降参するなら見逃してやってもいいが……話さねェなら痛い目を見てもらう……!! どうするよい……?」

 

「…………」

 

 デボンが笑みを崩さぬまま、汗を一粒床へと落とす。

 その口が開かれたのは僅か数秒後で、それと同時に両者は再度動き始めた。

 

 ──そしてナミが白ひげ海賊団と出会ったのとほぼ同時刻。タイミングを合わせるようにして、“味方”は動き始めた。

 

「──見つかったか?」

 

「駄目です!! どこにも見当たりません!!」

 

「確かにこっちの道に逃げていくのを見たのに……!!」

 

「も、申し訳ありません!! ──ジャック様!!」

 

「…………」

 

 ドレスローザの街中。戦争で港へ集まる者達や、反対に避難しようとする者達が行き交うその中に、普通の人間の数倍の体躯を誇る巨漢。百獣海賊団の大看板“旱害のジャック”がいた。

 部下からの報告。麦わらの一味の船大工である“鉄人”フランキーがこの辺りに逃げ込み、今なお逃走中という報せを受けたジャックは部下を引き連れてその場所へと訪れた。

 だがしかし……いざその場所に着いてみれば目標を見失ったと部下達は言う。

 

「おいフザけてんじゃねェ!! なんであんな変態を見逃せる!! サボってたんじゃねェだろうな!?」

 

「ち、違います!! 本当に消えたんです!! そこの角を曲がったらぱったりと!!」

 

「信じてください!! 本当に消えたんです!!」

 

 ジャックの部下の真打ちが新入りのウェイターズ達を相手に怒りの声をぶつけ、ウェイターズの方は粛清されることを恐れながら必死に言い訳を──もとい、見失った時の状況を説明している。

 それが嘘か本当かは現場にいなかったジャックには分からないし、どうでもいい。大事なのは結果だ。目標を追いかけていたが見失ったという結果だけが彼らの評価である。

 

「……見失ってからまだそれほど時間は経ってない。まだこの辺りにはいるかと思いますが……どうしますか、ジャックさん。まだ探しますか?」

 

「それとこいつら……どうしましょう?」

 

「…………」

 

「ひいっ!?」

 

 ジャックは部下の言葉を受けて考える。普段ならこんなふざけたことを抜かしてくるバカは懲罰をして当然である。

 だが今は戦争中。いたずらに兵をここで死なせるより、敵にぶつけてしまった方が賢い消費の仕方だ。うまくいけば敵の数を減らせるし、うまくいかずとも役立たずを手を汚さず始末出来る。

 なら気になるのは“鉄人”フランキーの行方だが……これ以上捜索に時間をかけている場合ではない。沖合には既に新政府軍が来ているし、より厄介な鼠が入り込んでいる可能性もある。そちらを始末する方が、優先順位は高い。

 

「……もういい!! それより港へ向かうぞ」

 

「はっ!! ──おいお前ら!! 失態を帳消しにしたきゃ戦場で敵の首を取れ!!」

 

「新政府軍の奴らを血祭りに上げてやるぞ!!」

 

「ウオオオオ~~~~!!!」

 

「…………」

 

 部下達の号砲を耳にしながら、ジャックはその場を後にする。喉に小骨が刺さったような気持ち悪い状態ではあるが、今はそれを無視する他なかった。

 

 ──そうしてジャック率いる百獣海賊団が去ってしばらく。

 

「……もう行ったみたいねい」

 

「もう大丈夫そうだな……助かったが……おれ様のスーパーな姿を真似るお前さんは誰だ!!? クローンか何かか!?」

 

「いや……ドッペルゲンガーかもしれん」

 

「んなワケあるかァ!!」

 

 街の裏路地。そこには先程まで百獣海賊団が探していた“鉄人”フランキーが……2人に、おもちゃの兵隊がいた。

 摩訶不思議な光景であるが……そう、フランキーが百獣海賊団の追手を撒くことが出来たのはそのもう1人のフランキーのおかげだった。

 先程まで町中で百獣海賊団の兵隊との追いかけっこ。逃げて隠れて応戦しての大立ち回りをしていたフランキーは、ふと現れ顔を触ってきた老婆に助けられた。

 

『ちょっとそこの人……』

 

『ん!? なんだ婆さん!! ここは危ねェぞ!! ここから離れるか、建物の中に──んぶっ!?』

 

『──これでいいわ。それじゃそっちは適当に隠れてなサイ──()()()()()()()()!! 鉄人フランキーはここよ~~~ん!!!』

 

『って、えええええ~~~~!!? おれ様が2人!!? どうなってんだァ!!?』

 

 ──と、そういう訳である。気がつけばもう1人のフランキーはフランキーの代わりに百獣海賊団に追いかけられ、そしてあっという間にそれを撒いてしまった。

 そしてフランキーはその行いに助かったものの……とはいえそのもう1人のフランキーの正体が気にかかってしょうがない。姿や声はそっくりだが、中身は変態っぽいし、明らかに自分じゃないことは明らかだった。

 

「それで、お前は誰なんだ。なんでおれ達を助ける?」

 

「あちしの正体? なんで助けるか? ──そんなの決まってるじゃな──い!!」

 

 そしてもう1人のフランキーは自らの正体を明かす。

 自らの左手を、自らの頬に触れさせて元の姿へ戻りながら、

 

「あちしは……麦ちゃんの友達(ダチ)!! あんたを助ける理由は、あちしが麦ちゃんの友達(ダチ)で、あんたが麦ちゃんの仲間だからよ──う!!!」

 

 その正体は……フランキー達は知る由もないが、アラバスタで戦ったルフィ達なら縁深いその人物。

 

『新政府軍中将“Mr.2ボン・クレー”(元B・Wエージェント 本名ベンサム)』

 

「つまり……麦ちゃんの仲間であるあんたは……友達!! さあこの手を取って!! 一緒に麦ちゃんの仲間達を助けに行きましょう!!!」

 

 元は敵でありながらも、ルフィ達のことを何度も助け出したその友情に厚いオカマが、フランキー達に手を差し出した。

 

「うおっ!!? オカマ!!? やっぱり変態じゃねェか!!」

 

「クォラァ!! 変態言うな!! あんたこそ変態じゃないのよ!!!」

 

「オカマ……初めて見た」

 

 ……オカマと変態とおもちゃが集まり……彼らもまた動き出す。

 

 ──そしてグラン・テゾーロの地下。“黄金の牢獄(ゴールド・プリズン)”では……また不可思議な再会と出会いを果たしていた。

 

「何です!!? 急に目の前に美人さんと子供が……!!?」

 

「次から次へと曲者が……!!」

 

「何だ……? んん……あれ……? お前、どっかで見たような……」

 

 ルフィが侍の生み出した飯へと飛びつき、その素性や事情を明かしたその直後──突如目の前の空間から現れたのは、おそらく親子と思われる大人と子供。

 どちらも女性であり、似たような二本の角を頭に生やした黒髪の人物。更にはどちらも旧・ワノ国風の衣装を身に着けており、親の方は2本の刀を腰に差している。

 その突然の謎の人物の登場にその場にいる者達は驚いたが、ルフィだけは目を細めてその人物を見たことがある気がすると反応すると、相手もまた笑みを浮かべて再会の挨拶を行った。

 

「──久しぶりだな、ルフィ」

 

「え? どっかで会ったことあったか? やっぱり」

 

「忘れたのか? ムサシだよ。ほら、インペルダウンや戦争では一緒に戦っただろう?」

 

「え、ムサシ? ──ああ~~ムサシか!! 久しぶりだな!! お前、ちょっと大きくなったか?」

 

「少しな。身長が伸びた」

 

「ムサシさん……と言うとそういえば以前に聞いたような……ゾロさんの娘だとか何とか……って、にしては成長しすぎじゃないですか!!?」

 

「そんなことも言っていた時もあったな。忘れてくれ」

 

 ムサシだとそう名乗り、ルフィはすぐにその顔を思い出す。確かに少し身長やらが変わっていて思い出せなかったが、確かにルフィの知るムサシであった──なおブルックは、ムサシは見た目が子供だとかゾロの娘だとか聞いていたのもあってルフィとムサシのやり取りにツッコミを入れていた。

 

「お前もここに……ゲホッ、ゲホッ……ハァ……落ちてきたのか?」

 

「いや、少し協力してもらって……それより苦しそうだな。ジョーカーの“吸血”か。それもどうにかせねばな……」

 

「だいじょぶでしゅか? ()()()()

 

「ああ……大丈夫……飯を食えばもうちょっと元気に……ん? 何だ? 子供?」

 

 だがルフィとムサシはブルックや周囲の反応を無視して話を進める──が、そんな時、咳き込んだルフィを労るように、近寄って声を掛けてきた子供──見たところ4、5歳に見える──その幼女を見てルフィは首をかしげる。ムサシもその反応で思い出した。

 

「! ああ、そういえば紹介していなかったな。──()()()、おじさんに自己紹介しろ」

 

()()

 

「オワリ? お前の子供か?」

 

「ムサシさん。確かに今のルフィさんはおじさんどころかお爺さんと呼ばれるような見た目ですが、実年齢はおじさんと呼ばれるような歳では……」

 

 ムサシがその子供──オワリに自己紹介するように言うと、オワリはルフィ達の前に進み出た。ブルックなどはムサシの“おじさん”という言葉に違和感を覚えて口に出していたが、自己紹介を止める程でもなく、オワリがルフィを、その大きなくりくりの赤い瞳で見上げて笑う。

 

「はじめまちて、わたしはオワリです!! ()()()()()()()()()!! おじさん、よろしくおねがいしましゅ」

 

「…………え?」

 

「は……?」

 

 ──だが……その名乗りは周囲の時を止めてしまう。

 誰もが、側で聞いていたキャベンディッシュですら飲み込むことに時間が掛かる。当然、オワリの子供にしては立派な自己紹介に感嘆した訳ではない。思考を停止させたのは……その姓のせいだ。

 

「ポートガスって……あれ? いやいや、まさかそんな……なんか聞き覚えがある名ですけど……」

 

「おい!! ポートガスって言えばあの“火拳のエース”と同じ苗字だろう!? どういうことだ!?」

 

「エースと似た名前かー。へぇー……奇遇だな」

 

 ブルックやキャベンディッシュがまさか、と思う中、ルフィは変わらずマイペースにそれを受け止める。確かに、偶然同じ姓というのはないことではない。

 それを聞いてブルック達も落ち着いたが、その希望を打ち砕き、今度はルフィすらも絶叫させたのは、次のムサシの言葉だった。

 

「ああ、オワリは()()()()()()()()。つまりルフィからすれば姪っ子ということになるな!! はっはっは!!」

 

「あい!! そーゆーことれしゅ」

 

「────」

 

 今度こそ、ルフィも含めて時を止める。

 声を出そうとして声が出ない。しかし、その数秒後。ややあって声を揃え、彼らは絶叫した。

 

「えええええええええ~~~~~~~~~~!!!?」

 

 

 

 

 

 ──グラン・テゾーロ、とある部屋。

 

「──ジョーカー様」

 

「何かしら?」

 

「下のスイートエリアで侵入者です。白ひげ海賊団……“不死鳥”のマルコを含む隊長格3名を確認しました」

 

「そう。……まったく……せっかく招待状付きのパーティだっていうのに……飛び入りの参加者が多くて困るわね」

 

 その部屋はグラン・テゾーロにおいて最も重要な部屋であり、現在は百獣海賊団の大看板。この地での戦争と作戦の指揮を取る“戦災のジョーカー”の座する部屋となっていた。

 密閉され、日の光が差さない空間。積み立てられて巨大なオブジェのようになったそれを背後に、ジョーカーは傍らのメアリーズの報告を受け、紅茶の最後の一滴を口にする。

 そうして一息入れると、その空間の入り口の方へ目を向けた。ジョーカーの目の前には、元CP9の3名がジョーカーを守るようにして立ち、その間からジョーカーは予期せぬ来訪者へ向けて出迎えの言葉を掛ける。

 

「あなた達もそう。それで……用向きは何かしら? ()()()()()()()が、しがない海賊の私を訪ねてどうするつもり?」

 

「──とぼけるな……!! 貴様が政府を裏切ったことはもう知れている……!! “戦災のジョーカー”……いや、元CP0……ステューシー」

 

 ジョーカー達の眼前。対峙するその3人に、ジョーカーや元政府の諜報員であるルッチ達にも見覚えがあった。

 白いスーツを身に着け、仮面で顔を隠したその3人は、世界政府の諜報員。天竜人の直轄であり、全てのサイファーポールの中で最上位に位置する機関。世界最強の諜報機関と呼ばれる“CP0”のメンバー達である。

 ゆえにルッチ達が見覚えがあるのも──同じく元CP0であり、元は同僚であったジョーカーことステューシーが知っているのは当然であった。

 

「……フフ、その名で呼ばれるのは久しぶりね。それで? 裏切りの糾弾をしに来ただけ? それとも思い出話がご所望かしら」

 

「分かっているだろう。我々が目的を話すと思うか?」

 

 3人のCP0の真ん中に位置する男。かつてのCP0のリーダー格であり、白塗りの仮面を被っている男が毅然とした、それでいて怒りを滲ませた声でジョーカーに暗に告げる。

 そしてそれだけで元同僚であるジョーカーには用向きは伝わった。

 

「……成程。つまり私を始末したいのね。呆れた忠誠心と言うべきかしら。もうなくなった組織のためにそこまでするなんて、相変わらず苦労してるわね。一抜けしておいて良かったわ」

 

「……貴様こそ、よくそうあっさりと裏切れたものだな。それも海賊に成り下がるとは……」

 

「成り上がったと言ってもらいたいわね。それに、今のあなた達が言えることかしら? あなた達が()()()()()()()()()()()()──こっちは知っているのよ」

 

「……!!」

 

 元同僚同士の舌戦。それを制したのはジョーカーのその言葉だった。

 CP0の男はその言葉に黙る他ない。何のことだととぼけることも出来るが、元CP0であるジョーカーを前にそれをすることは無意味だ。長年CP0として活動していたからこそ、持っている機密は膨大。当然その機密という材料さえあれば、今のCP0が誰の下にいるのか推測するのは難しいことではない。

 そしてその内心を読み取り、嘲るようにジョーカーは笑う。

 

「フフフ……どうせ海賊に付くなら勝ち馬に乗る方が賢いと思わない? どう? こっちに寝返ればより良い待遇で扱われるわよ」

 

「……!! 黙れ……貴様はここで始末する」

 

「あら、諜報員は常に冷静でなきゃ駄目って教わったでしょ? そんなに感情を見せて……やっぱりあなたでも同僚を……修行時代からの仲間の仇を目の前にしては抑えきれないかしら♡ フフフ……!!

 

「貴様!!」

 

 CP0の男が抑えきれず、声を荒げる。

 仮面の奥から見える瞳には強い怒りと殺意がみなぎっていた。他の2人もそれは同様で、その手はほんの僅かに震えている。

 ギリギリのところで挑発に乗るのは愚かだと我慢しているが、分かってはいてもジョーカーのその言葉には心が拒否反応を起こす。──よりによって、お前がそれを言うのかと。

 

「呆気なかったわよ。背後からの不意打ち一発……まあまともにやれば私でも少しは手こずったかもしれないけど、同僚の私ならそんなことをする必要もなかったわ」

 

「……!!」

 

 そう、ジョーカーはCP0の、元同僚を殺している。

 ジョーカーが戦争で決定的に世界政府を裏切るその前日に、ジョーカーはCP0数名を暗殺した。

 そのことに彼らは怒りを覚えている。政府の諜報員。それもCP9やCP0に選ばれるような者達は幼い頃から政府によって養われ、厳しい修行を経て育った。

 身寄りのない彼らにとって、同じ島で育ち、厳しい修行を共に行い、命を懸けた職務につく同僚は幼馴染であり、肉親にも近い存在だ。

 いかに厳しい訓練で感情を無くし、冷静にいるように訓練を受けていても、その情を全て消し去ることは難しい。

 だからこそ彼らは同僚の裏切りを考えることはあまりない。政府によって育てられ、裏切ることのないように刷り込まれているというのが要因としては大きいが、同時に同僚に対する一定の信頼も持ち合わせている。

 ──だがそんな中で、ステューシーという女だけはいっそ鮮やかな程に裏切ってみせた。

 

「……裏切り者は何としてでも消す。それが諜報員の鉄則だ」

 

「へぇ? あなた達にそれが出来るかしら?」

 

「舐めるなよ。数はそちらが多いが……貴様以外は大した手間じゃない」

 

 ──ゆえに許すことは出来ない。

 諜報員としても同僚としても、CP0は目の前の裏切り者を殺すべく、指令だけでなく私情でもジョーカーを始末する。

 世界最強の諜報機関と呼ばれたのは伊達ではない。事実、ルッチ達やメアリーズの真打ちであるジョーカーの側近でさえ、彼らが戦闘態勢を取ったことに警戒した。舐めてかかれば痛い目を見るのはこちらだと、彼らもまた理解する。

 だがそんな中、ジョーカーは。

 

「……そろそろ日が落ちるわね」

 

「何?」

 

 ジョーカーは、手元の懐中時計を確認し、直に日没であることを確認するとゆっくりと椅子から立ち上がる。

 その様子に未だ焦りは見えない。部下のメアリーズから渡された日傘を断り、ジョーカーは彼らへ向けた笑みを深めてみせる。

 

「そう。そんなに戦いたいなら見せてあげるわ。私が、あなた達を裏切ったことで得た──圧倒的な力を……!!!」

 

「!!?」

 

 CP0が警戒し、腰を落として身構えたその直後。

 立ち上がったジョーカーの身体は、変化していき、彼らの視線が徐々に見上げるものへと変わっていく。

 

「……!! その能力は……やはり、()()()……!!」

 

「怯むな……分かっていたことだ」

 

 さすがに元CP0の3人は、その姿を見ても怯えることはなく、冷静に身構える。

 だがメアリーズの中にはその姿を初めて見る者もおり、畏怖を覚える者もいた。

 彼らはその日、ジョーカーが“大看板”である理由を改めて思い知る。

 徐々に大きくなり、他の大看板にも匹敵する威圧感を醸し出すジョーカーのその姿は、まさしく空想上の生物で、生きた人間に恐れられる怪物そのもの。

 5メートルを超える長身でありながら、より大きく感じるのは横に広がるその黒い羽のせいか。それでいながら美しさを損なわず、見る者をどこか魅了してしまうような雰囲気がある。

 

 ──そしてそのジョーカーの変型とほぼ同時に……日は落ちていく。

 

「夜の戦いか……やりにくいな……!!」

 

「明かりのある場所を狙え~~~!!」

 

 ドレスローザとグラン・テゾーロの戦いは夜戦へと移行していき、昼間とは違った趣の戦いが展開されていく。

 だが総じて日の光がある日中よりは戦いにくいもの。それは夜の目を持たない人間であれば当然のことだ。

 

 ──しかしジョーカーの場合は……夜の方が、より強くなる。

 

「さて……始めましょうか……!! ショーダウンよ……!!!」

 

「……!! 来るぞ!!!」

 

 空想上の怪物へと変化した“災害”が牙を剥く。

 

 そうして始まるのは戦いの一日。戦いの夜。

 次に日が明ける頃にはそれまでの世界が()()()()──“異変”の夜の幕開けだった。

 




カタクリ→待ちの姿勢崩さず。
新政府軍本部→倒壊。戦場に。
カイドウ→体力満タン。酒龍八卦。
ドラゴン、サボ→VSカイドウへ。
テゾーロ→島自体が黄金の要塞みたいなものなのでまだ待ち。周囲には百獣海賊団の兵もいます(フーズ・フー、ブラックマリア等)
黄金の牢獄→ルフィ、ブルック、キャベンディッシュ、レベッカ、カン十郎、モモの助、ベラミー、その他大勢。
錦えもん→ちょっとだけ前進。しかしまたしても地雷を踏む。
日和→侍嫌い。
ナミ&カリーナ→ホテルへ。
デボン→目的不明。陣営不明。
白ひげ海賊団→マルコは単独。デュースらはナミ達と行動。
フランキー&ボンちゃん→CV同。
片足の兵隊→空気。
ムサシ&オワリ→ルフィ達と再会。オワリは成長がおでんやリンリン並に早いです。
CP0→出てきた人達は原作の鬼ヶ島にいたおじさん達です。
ジョーカー→能力解放。人獣型披露は今回が何気に初。

今回はこんなところで。ここ一ヶ月で環境変えたり、身体壊したり、原作がとうとう決着したりと色々ありましたが私は元気です。
次回はまた色々と動いて混沌とします。真の意味での開戦は次回かその次。隠れていた人達もどんどん出てきました。ということで次回をお楽しみに。

感想、評価、良ければお待ちしております。
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