正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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神の大地

 ──その日、2つの島は長年の“地獄”から解放された。

 

「人間に戻れたァ~~~!!!」

 

「海水だ!! これで金の支配から抜け出せるぞ!!!」

 

 ドレスローザとグラン・テゾーロ。2つの島はこれまで、それぞれ異なる地獄を作り出し、その島とそこに住まう人々を支配していた。

 その支配は盤石で、今まで誰1人として抜け出すことの出来なかった鉄壁の牢獄。どんな猛者も善人も悪人も……彼らの罠に掛かって人権を失った。

 しかしその支配は突如として綻びを見せる──1人の能力者の気絶と、地下から吹き出す海水によって。

 

「ドフラミンゴ出て来い~~~!! 殺してやるー!!!」

 

「これでもうお前には従う必要はねェ!! ざまァみろテゾーロ~~~!!!」

 

 ドンキホーテファミリーの幹部であるシュガーのホビホビの能力から解放されおもちゃから人間に戻った人々と、テゾーロのゴルゴルの実の能力によっていついかなる時も黄金に固められる生殺与奪の権利を奪われていた人々──その両者の怒りが2つの島に幾度となく鳴り響く。

 

「どういうことだ!!? 何でおもちゃが人間に!?」

 

「みんな騙されるな!!! ドフラミンゴは悪魔だ!!!」

 

「お前らもう戦う必要はねェ!! あいつらはおれ達を騙してたんだ!!」

 

「金の支配がなくなった!! もういつでも逃げ出せるぞ!!」

 

 2つの島の混乱は、戦乱の最中にあっても止まらない。グラン・テゾーロでは海水による金の支配がなくなったことによる純粋な喜びの声が大きいが、おもちゃになっていたことで忘れていた記憶が戻り、見知った人間や見知らぬ人間や動物が目の前に現れたドレスローザは怒り、悲しみ、喜びとその住民の感情は複雑である。

 

「……!!」

 

「おい!! どうしたんだ!? 急に泣き出して……!!」

 

 そしてその余波は、ドレスローザだけではない。隣のグラン・テゾーロにも広がっている。

 

「私には……お父様がいたの……!!! ()()()()()……!!!」

 

「どういうことだ!?」

 

 グラン・テゾーロの地上へ、見事脱出を果たしたルフィ達は、突如として泣き出す剣闘士の女、レベッカの言葉を聞いて驚いた。

 そう、このおもちゃからの解放は、ドレスローザにいる人々だけではない。おもちゃになっていた人々を知る──世界中の人々の記憶を解放した。

 今までおもちゃになっていた人々の記憶は忘れ去られ、誰にも思い出すことは出来ない。どんな記録や痕跡を見ても。どれだけ大切な人であったとしても。

 

「うおォ!!? お前、誰だァ!!? 急に現れて……!!」

 

「おもちゃから人になったように見えたわ!! あちしびっくり!!」

 

「……!!? お前は……どこかで見たことある出すやん!!」

 

「!! 確かあいつは……バッファロー!! 気をつけて!!」

 

 そう。たとえ──かけがえのない肉親であったとしても。

 どれだけの強者であったとしても、記憶に残ることはない。……だからこそ、ドレスローザの王宮でローの監視と護衛の任についていたドンキホーテ・ファミリーの幹部、バッファローとベビー5は油断した。

 敵はフランキーとMr.2ボン・クレーの変態2人。おもちゃの兵隊など取るに足らないものと見ていた。

 それゆえにおもちゃが人間に戻っても、それを思い出すのは時間がかかる。ましてや若い彼らにとっては子供の時の記憶だ。

 

「──10年越しの因縁だ……ようやく解放することが出来る……!!」

 

「!!? こいつ……片足のくせに!!」

 

 だからこそ──

 

「どけ!!」

 

「!!!」

 

 その人間が、かつて闘技場で無敗を誇った伝説のチャンピオンであった事を思い出すことが出来ない。

 いや正確には、思い出す直前で手遅れになった。

 

「バッファロー!!? ──うっ!!」

 

「な、な……何なのよーーう!!? その強さ!!」

 

「とんでもねェ腕だ……!!」

 

 ドンキホーテファミリーの幹部2人。決して弱くはない2人を一蹴したことに、ボン・クレーにフランキーも驚く。

 その名を知る者は、その場には誰もいない。王宮のスートの間。そこのハートの席に捕らえられていたトラファルガー・ローでさえも。

 

「お前は……?」

 

「私の名は……キュロス。安心しろ。敵ではない。私は──」

 

 キュロス。そう名乗った男は、ローに近寄り、その鎖を椅子から外しながら告げる。

 彼の目的。それは、ローやその仲間。協力者達と同じだと。

 

「──真のドレスローザを!!! 取り戻しに来た!!!!」

 

 嘘偽りのない。力の籠もった言葉でキュロスはそう宣言する。

 

 ──ドレスローザの王宮でそのようなやり取りがあったこと。

 

 そして2つの島で起きた出来事を見聞きしていた者達は、その情報を主に送る。

 

「……!! ジョーカー様!! やはりドレスローザの方でも、おもちゃの呪いが解けた模様です!!」

 

「……!! そんな……まさか、ドレスローザとこのグラン・テゾーロ。2つの支配が同時に……!?」

 

 目の文様が描かれた御札を顔の前に張る彼らメアリーズの主人。それはメアリーズを取り仕切る百獣海賊団の大看板“戦災のジョーカー”だ。

 グラン・テゾーロの誇る最高級ホテルの上層部分。スイートエリアよりも更に上の塔の1つ。その中の巨大金庫の中で部下のメアリーズからの報告を次々に受け取るジョーカーは、信じられない事態を前に思考を乱される。

 その場からも聞こえる外の騒ぎは、その意識を外と共有される各地の視界と音に向けられていた。

 

「──今よ!!」

 

「!!?」

 

 それゆえに、一瞬の隙を突いた飛び出し。足音も声も聞こえないその動きを、ジョーカーもその部下達も反応が遅れる。

 物陰から飛び出した彼女の目的は最終的に手に入れるつもりのテゾーロマネーではなく、1人の子供であり能力者だった。

 

「凄腕の泥棒を前に隙を見せるなんてダメじゃない♡ ウシシ、この子は頂いたわよ!!」

 

「やんす!!?」

 

「カリーナ!! ナイス!!」

 

「……!!」

 

 そう、カリーナが盗んだのは百獣海賊団の重要人物──キビキビの実の能力者のお玉。

 彼女の能力が百獣海賊団が戦力として使役する動物達の手綱を握っていることはカリーナもとある筋からの情報で掴んでいる。ゆえにずっと隙を伺っていたのだ。お玉を奪い、この戦争を有利に進めれば、カリーナにとっても目的の達成に繋がる。目的のための遠回り。

 だがそれこそが最短の道だとカリーナは理解していた。だからこそ、その絶好の機会を逃す筈はなく、カリーナはお玉を奪ってナミ達の元へ戻る。

 そしてその結果にナミは喜び、更にその全ての結果に“海賊女帝”ボア・ハンコックは頬に手を当てて喜んだ。

 

「さすがはルフィじゃ……海賊帝国の重要拠点の2つ。その支配をこうも容易く揺るがすとは……♡」

 

 恋する乙女の顔でハンコックは呟く。実際にはルフィだけの功績ではないのだが、彼女の頭の中ではルフィの仲間とルフィの協力者がやったことは全てルフィの魅力と天運がもたらした結果だと惚れ直していた。

 だが一方で、冷静な思考も持ち合わせている。多少有利にはなったが、それでもまだ終わった訳ではないと。

 

「──さあどうするのじゃジョーカー!! そなたにとってもこの結果は予想外であろう!! わらわの愛しき人を見くびりすぎたのではないか!!?」

 

「…………」

 

 それでも優勢になったことは確か。ハンコックは今のこの結果を以てジョーカーに啖呵を切る。

 それを受けたジョーカーは、目元を隠す目の文様の布の中で眉間を険しくし、そして内心でそれを認める。確かにハンコックの言う通り、この状況はジョーカーにとって予想外のものだ。それは認めよう。確かにジョーカーは、この結果になるとは思ってもいなかった。完全に予想外だ。

 

 ──だが、あの人の予想外ではないとジョーカーは思い出す。それはこの作戦に向かう前に言っていたことだ。

 

『いい? ジョーカー。麦わらの一味をナメたらダメよ』

 

『ええ。それは勿論……麦わらの一味の情報は知りうる限り全て頭に入れました。プロファイリングも終わっています』

 

『うんうん、それは良いことだね。……ま、それでも完全に仕留めきるまでは油断しないことだよ』

 

 ──眼の前で百獣海賊団の恐怖の象徴がくるりと回り、そのにこやかな笑みをジョーカーに向けて来る。

 

『だってあの“麦わらのルフィ”なら……こっちが想定する()()()()()に辿り着く可能性があるからね♡』

 

 そうして最恐生物であり百獣海賊団の頂点の片割れである彼女は──“妖獣のぬえ”は、その赤い獣のような瞳を爛々に輝かせ、そう口にするのだ。

 ジョーカーはその妖怪の如き瞳を知っている。それは正体不明の彼女が本気の愉しみを得ている時の瞳だ。

 ジョーカーの記憶が正しければ、その本気の瞳を向けた相手はそう多くはない。

 

 ──古くは“海賊王”ゴール・D・ロジャーやモンキー・D・ガープ。

 

 ──かつての四皇にして世界最強の海賊“白ひげ”エドワード・ニューゲート。

 

 ──元ロジャー海賊団の船員、光月おでん。

 

 ──百獣杯にて襲いかかってきた“鬼の跡目”ダグラス・バレットと“孤高のレッド”。

 

 ──現在の新政府代表にして“世界最悪の犯罪者”。“反逆竜”モンキー・D・ドラゴン。

 

 ──元海軍大将“黒腕のゼファー”に海軍大将“黄猿”ことボルサリーノ。

 

 ──現在も海賊帝国と勢力争いをする四皇の1人。“赤髪のシャンクス”。

 

 いずれも伝説の海賊や海兵。四皇やそれに準ずる強者のみ。その多くは今はもう故人であり、現在も生きている“赤髪のシャンクス”と“反逆竜”ドラゴンを除けば、その瞳を向ける相手は同盟相手である“ビッグ・マム”シャーロット・リンリンと、ぬえの同格の兄妹である最強生物“百獣のカイドウ”しかいない。

 彼らは皆ぬえと戦い、その実力を認められている者達だ。ジョーカーもその錚々たる面々には納得する。疑問を挟む余地もないとはこのことだ。

 

 ──だがその中に……“麦わらのルフィ”がいることは、ジョーカーにとってありえないことだ。

 

『楽しみだなぁ。早く会いたいなぁ。会って()()()みたいなぁ……!!!』

 

 しかも戦う前からこれほど期待している相手など……それこそほんの一握りだ。

 何十年も前から世界政府であらゆる情報を集め、百獣海賊団においてもかなりの古株となったジョーカーは、ぬえがこれほど楽しそうに話す相手が限りなく少ないことを知っている。

 

 それこそカイドウを除けば……今となっては全員故人だ。ロジャーに白ひげ……そしてぬえとカイドウにとってのかつての船長──“海の悪魔”ロックス・D・ジーベック。

 いずれも伝説であり、ぬえと親しく、強い影響を受けたという伝説の海賊達。その中に──あろうことか“麦わらのルフィ”が入っている。

 それはジョーカーにとって不可解であり、最大の疑問だった。

 

『ふふふ……そういうわけだから、油断しないで頑張って来てねー。くれぐれもおもちゃの呪いや黄金の呪いを解かれないようにね!! もしどっちも解かれたりしたらさすがに苦戦するだろうしさ』

 

『……ええ、分かりました』

 

 ぬえの楽しそうな忠告をジョーカーは不可解に思いながらも心に留めた。“麦わらの一味”が意外性に長けていることは分かっている。その驚異的な成長の早さも。仲間や友人を大切にし、“自由”を愛するロジャーのような海賊であることも。

 だが実力に関しては……ジョーカー達“大看板”に敵う程ではないと見切ってもいた。

 如何に成長が早かろうと地力はまだまだ浅い。能力をよく使いこなしているようだが、パワーアップには時間制限もある。三種の覇気もまだ上の段階には届いていない。

 結論として、どれだけ多目に見積もっても……ぬえが本気で期待するほどの強さは持っていないと判断した。おそらくぬえが期待しているのはその成長性だろうと。

 あるいは……ジョーカーが長年疑問に思っているぬえの得体の知れない知識の源泉。ぬえだけが知るそのナニカが、そう判断させているのかもしれない。

 だとしたら考えても無駄なことだ。いつも通りにやるだけ。ぬえの忠告を留意しつつ、作戦を滞りなく進めるために準備を整え、多少の変更を加えた後──保険としてそれが万が一起きた時のための“許可”を取るだけだ。

 

『……ぬえさん。それでしたら、もしそれが起きた時には……』

 

『まあもしそうなったら余裕もないだろうしねぇ──ま、やっちゃっていいよ』

 

『……よろしいので?』

 

『うん、いいよいいよ。だって──』

 

 ジョーカーはその時の会話を思い出し、現在の状況を冷静に分析する。

 戦況はやや不利。新政府軍が上陸し、大将も接敵している今、麦わらの一味やトラファルガー・ロー。その協力者達に優しくする余裕はない。

 つまり完全にしてやられたのだ。ジョーカーはそれをまず認め、ハンコックへ言葉を返す。

 

「…………ええ、確かに……少し見くびっていたわ。このままじゃちょっとまずいわね……」

 

「……! ほう? ならどうするつもりじゃ?」

 

「──メアリーズ。拡散モード」

 

 ジョーカーが何かをしようとしていることに、その様子にハンコックは気づく。その視線を受けながらジョーカーは、自身のその取り付け式の機械から、全てのメアリーズに“拡散モード”に切り替えるように命令すると、その上で新たな命令を聞く者達に命令した。

 

『百獣海賊団──及び、ドンキホーテファミリーとテゾーロ海賊団……海賊帝国傘下の全構成員に告ぐ』

 

「!」

 

「!」

 

「ジャックさん!! ジョーカーの姉御から……!!」

 

「…………」

 

「これは……ジョーカーの奴か」

 

「あら、何かしら?」

 

 その声は、各地にいるメアリーズを介して全ての部隊に届けられた。ドレスローザにいるドンキホーテ・ドフラミンゴやグラン・テゾーロにいるギルド・テゾーロ。そして大看板のジャックや飛び六胞のフーズ・フーやブラックマリア。

 その他の幹部達。そして下っ端まで全ての構成員に対し、ジョーカーは予め通達していた方針の1つを覆す──ぬえの許可通りに。

 

『だって──私やカイドウ以外に殺されるような”麦わらの一味”に……興味なんてないから♡』

 

「百獣海賊団大看板“戦災のジョーカー”の名に於いて……現在のこの事態を引き起こした“麦わらのルフィ”及び“麦わらの一味”に対し──“完全抹殺指令”を言い渡すわ」

 

「!!!」

 

 それはこれまで、生け捕りの命令が出ていた“麦わらの一味”に対する殺しの許可だ。

 強者であれば捕らえて心を折ることを基本方針としている百獣海賊団においても、「最初から殺さずに生け捕れ」という命令は珍しいもの。殺す気で戦って、それでも結果的に生き残った、死ななかった強者だけが百獣海賊団において最初の入団試験をクリアしたとも言える。

 それでもなおその命令が出ていた理由は他ならぬ、百獣海賊団の2トップ。副総督であるぬえからの命令だからこそ。

 だがそれはたった今、ぬえの許可を受けたジョーカーの口から解かれた──奇しくもかつて麦わらの一味と戦った政府の殺し屋“CP9”が出すものと同じ“完全抹殺指令”という言い方で。

 

『ぬえさんの許可も出てるわ。もう少しで次のフェイズに入るけれど……これでもう敵に手加減する必要もない……新政府でも麦わらの一味相手でもお好きに。存分にやりなさい……!!』

 

「“完全抹殺指令”か……懐かしい響きだな」

 

「如何しましょう?」

 

「フン……せっかくだ。報告ではムサシの奴も麦わらと一緒にいるようだし、両方とも仕留めるぞ」

 

「はっ!!」

 

 メアリーズ越しのジョーカーの指令を耳にしたフーズ・フーはその指令内容に懐かしい響きを感じつつも、部下達に命令して移動を開始する。部下の“CAT'S”はフーズ・フーの船長時代からの部下で彼に忠実。行動も早く、統率の取れた群れとして動きを行っていた。

 

「…………」

 

 だがその中で1人だけ、異分子は存在する。それが元海軍本部の海兵である真打ち……たしぎだった。

 

「……おい。何突っ立ってやがる。お前もついて来い」

 

「! あ……はい……了解しました」

 

「…………」

 

 心が折れて百獣海賊団に入団してから、その命令には忠実だったたしぎ。

 だがその表情が、先程から憂いを帯びており、どこか迷いのようなものを覗かせていた。ここ最近は心を殺して、出来る限り表情に出さないようにしていたにも拘わらずだ。

 だがたしぎ自身はその原因に気づいている。この島で再会した、かつての自身の宿敵──ロロノア・ゾロのせいだ。

 

『……弱く……なりやがって……!!』

 

 百獣海賊団に捕まったあのロロノア・ゾロが、たしぎに言い放ったその言葉が、たしぎは頭から離れない。

 その言葉は的外れなものの筈なのに、だ。たしぎは昔より格段に強くなった。

 覇気を習得し、六式を習得し、人造とはいえ悪魔の実の能力さえ得た。甘さすら捨てて昔なら勝てなかった多くの敵を屠ることが出来た。

 そしてその過程で……百獣海賊団と敵対する相手の剣士から、刀を奪うことだって出来た。

 それらは百獣海賊団に回収されるとはいえ、間違いなくたしぎは強くなっているし、結果も出ている。悪に加担していることは理解しているが、それでも逆らってもしょうがない。逆らったところで、何も成すことも出来ずに死ぬだけだ。

 だからこそ、命令には忠実に従うまで。それが正しい。生き残るためには、それが賢い生き方だと分かっている。

 だからたしぎは前に進んだ。フーズ・フーの言うままに。麦わらの一味を抹殺するために。正しいことだと自分に暗示を掛けながら。

 

「…………待て」

 

「! ……はい。何でしょう?」

 

 ──が、その心に迷いがあることを、フーズ・フーは見逃さなかった。

 だからこそ、フーズ・フーはニヤリと笑みを浮かべ命令を変更することにした。躾も兼ねたその命令を。

 

「やっぱり狙いは“麦わらのルフィ”じゃねェ──ロロノア・ゾロに変更だ

 

「はっ!!」

 

「……えっ……?」

 

 部下達の忠実な声に反し、たしぎは間の抜けた声を上げてしまう。それを目敏くフーズ・フーは指摘した。

 

「何だ? 何か文句でもあるのか?」

 

「い、いえ……分かりました。ロロノア・ゾロを……仕留めます」

 

 迷いを捨て去るように、あえて言葉にする。そして表情を隠すように、早足でその場から移動を開始した。

 そのたしぎを見て、フーズ・フーは真顔になる。それは元諜報員としての洞察力。そして長年心が折れた連中を見てきたがゆえの観察力でそれを察したからだ。

 

「どうやら……殺しに行くのは1人じゃ済みそうにねェなァ……」

 

 フーズ・フーは煙草の煙を蒸しながらそう呟き、標的の元へ部下達と同じように移動を開始する。今は海賊とはいえ元諜報員、元殺し屋として──裏切り者は許さないと、そう殺意を滾らせながら。

 

 ──そしてその元諜報員は、彼だけではない。

 

「何だ、結局殺していいのかよ」

 

「ふむ……ならリベンジが叶いそうじゃな」

 

「標的は麦わらの一味だけじゃないがな。敵は全員殺すだけだ」

 

 元CP9の3人はジョーカーの命令を聞いて、やはりやる気を見せる。彼らにとって麦わらの一味の完全抹殺指令は、果たそうとして果たせなかった命令であり、彼らが政府から見放される原因となった指令だ。今更それをどうこう言う気はないが、かつての汚名を返上出来るならそれも悪くないと、誰もがその場にいる麦わらの一味に目を向ける。

 

「結局……また狙われるってワケね……!!」

 

「CP9……!! でも、おれは……」

 

「……え、おらは……」

 

 ナミとチョッパーが殺気を見せてくる3人を警戒して一筋の汗を流す。彼らの実力は理解している。幾らナミ達が成長していようと、それは彼らとて同じでありその実力は甘く見れるものではない。

 自然とナミは、お玉を庇うように位置取り、同じようにチョッパーも……迷いを見せながらも対峙する。

 そして庇われたお玉もまた、その状況に困惑する。彼女の心もまた迷っていた。幾ら自分を助けようとしているとはいえ……このまま百獣海賊団を裏切っていいものかと。

 

「……お玉。何をしているの? あなたもさっさと戻って来なさい」

 

「!! あ……う……」

 

 そしてその迷いを、ジョーカーは見過ごさない。

 威圧するように声を僅かに低くし、ジョーカーはお玉に命令する。裏切ることは絶対に許さないと、そう言うように無慈悲な命令を。

 

「そこのたぬき……チョッパーに命令しなさい。“麦わらの一味に攻撃を加え、自身を取り戻すように”。そうすれば隙くらい作れるでしょ?」

 

「!!?」

 

「! ダメよお玉ちゃん!!」

 

 その言葉にお玉が驚き、ナミがそれを止めようとお玉の名を呼ぶ。

 だがそれでもジョーカーの声がお玉に届くことを止めることは出来ない。チョッパーを裏切らせ……そして麦わらの一味を殺すために最適な行動をジョーカーは取る。

 

「あるいは自害するように命令なさい。どうせ彼女達はあなたを害せない……まあ何もしなくても戻ってもらうことには変わりないけど……自分でこちらの味方だって意思を見せないと──分かってるわよね? あなたの家族や、住んでいた村の人々がどうなるか……!!」

 

「っ……!!」

 

 お玉はそれを聞いて、悲壮な表情で顔を歪める。

 思い返すのは彼女の家族や村の人々。百獣海賊団によって捕らえられた人質。お玉が百獣海賊団に協力する見返りとして命を救われている彼らのことを。

 だからお玉は裏切ることが出来ない。それがなくとも力がないため、裏切ることは難しいが、その人質の存在がお玉の心を縛っており、ジョーカーはそれを再び思い起こさせたのだ。

 

「──フザケんじゃないわよ!!!」

 

「!」

 

 ──が、その一連のやり取りを見て怒りを見せた……ナミの一喝が部屋に響く。

 

「さっきから黙って聞いてればこんな小さな子供を脅して……!!! 私はね!! そういう奴が1番許せないのよ!!!」

 

 子供を傷つけるような行為。その良心につけこむような行為は、彼女の逆鱗に触れる行為だ。

 特に、ナミにとってお玉のその状況は──海賊に大切な人々を人質にされ、悪事に加担させるような行為は──自分のかつての境遇と同じで、どうにもダブって感じてしまう。

 どれだけ痛かったか。辛かったか。苦しかったか。それが分かる。だからより許せない。

 

「あんた達みたいな最低な連中にこの子は渡さない!! そして……チョッパーに、サンジ君も返してもらう!!!

 

「……フフ、フフフ……!!! また威勢が良いわね……さっき死にかけたことを忘れたのかしら。悪いけど、今度は手加減しないわよ♡」

 

 ナミが譲れない想いでその場に立ち塞がり、ジョーカーはそれを薄ら笑いで嘲笑しながら、背後の部下達に手で指示を出した。

 

「──その子供は返してもらう」

 

「──同情せんこともないが、これも仕事だからのう……」

 

「──あんまり逃げ回るなよ? 痛いのが長引くぞ」

 

「……!! くっ……!!」

 

 ルッチ、カク、ジャブラ──元CP9の3強が、お玉を奪い返そうとナミに高速で迫る。

 ナミはそれから逃れようと身を翻した。その手に武器を持ち、攻撃を何とか躱して一撃を入れることを試みようとする。

 

「ご主人様……!!」

 

「チッ……ガキを助ける義理はないが、相手にしない訳にもいかねェな!!」

 

「ちょっと!! 戦いは得意じゃないんだけど……!!」

 

 そしてチョッパーやボニーもまた動き出すメアリーズに対し、戦闘態勢を取って迎え撃つ。お玉を抱えるカリーナは、どうにかその場から脱しようと隙を伺っていたが、メアリーズという連携を駆使して襲いかかってくる相手に抜け出すことは出来ない。

 

「あら、あなたは助けてあげないの?」

 

「馬鹿を言うでない。ジョーカー……貴様を前に背中を見せるほど、わらわは間抜けではない……!!」

 

「フフ、賢明な判断ね……!!」

 

 そしてこの場にいる百獣海賊団の敵で、最大の戦力であるハンコックはジョーカーから目を離さずに対峙し続ける。

 言うまでもなく、この場で最も危険な存在はジョーカーだ。その実力をハンコックは知るゆえ、他の敵に目を向けることはしない。他の敵に反応するのは襲いかかってきた時で十分だ。ジョーカー1人に注視しなければ、ルフィの仲間達はあっさりと殺されてしまうだろう──と、ハンコックが構えを取るのとほぼ同時に。

 

「でもその判断も同じことよ。この私を止められなきゃね……!!!」

 

「……!! 出たな……その姿を見るのは久しぶりじゃ……!!!」

 

 ジョーカーの姿が変わっていく。

 身長が、身体が大きくなり、細身の5メートル程の体躯となったジョーカーは、黒い翼と長く赤い爪。そして鋭い牙を併せ持つ人型の怪物へと変貌していく。

 

「!!? 何よあの姿……!!!」

 

「──“バンパイア”じゃ……!!!」

 

 変身したジョーカーの姿にナミは恐れ慄き、その答えをハンコックは口にする。

 そう、まさしくバンパイア。ジョーカーの姿は、伝承や創作に登場する夜の怪物。

 人の生き血を吸い、怪力と様々な特殊能力で恐れられる存在しない筈の生物。

 

『百獣海賊団大看板“戦災のジョーカー” バットバットの実(幻獣種)モデル“バンパイア”』

 

「そう……!! 私は古より語られる夜の王──“吸血鬼”よ……!!!」

 

「……!!」

 

 悪魔の実の3つの系統の中で、最も貴重と言われる自然(ロギア)系。それを超える希少性を持つ動物(ゾオン)系幻獣種の能力。その人獣型。

 つい先程元CP0を瞬殺したその力が、遂にそのベールを脱ぎ、ナミ達へと襲いかかる。

 

「あなた達が起こしたトラブルの損害は、あなた達で贖って貰うわ……全身の血を吸い尽くすことでね……!!!」

 

「!! えっ……?」

 

 瞬間、その言葉と共に、目の前に現れたジョーカーにナミは恐れではなく戸惑いの声を漏らした。

 それはナミから見て、まるで瞬間移動だった。一味の怪物陣とは違って肉体的な強さを持たないナミとはいえ、六式の剃のような高速移動を──見えないとはいえ──高速移動だと認識することくらいは出来る。

 だがジョーカーのその動きは、まるで瞬間移動だった。先程立っていた場所から消えた瞬間、ナミの目の前に立っている程の高速の移動。

 ゆえにナミは瞬間移動──ワープのような何かを使われたように感じ、驚きの表情を見せたが……それは間違いで、ジョーカーのそれは純然たる肉体の力と鍛え上げた体技、技術によって行われた高速移動。

 CP9の者達が使う六式の剃よりも更に速いその移動で、ジョーカーはナミを一撃で葬り去ろうと狙う。それはナミ如きには防ぐことも躱すことも不可能な攻撃だ。

 ──が、しかし防がれることはすぐに分かった。この場には、ジョーカーの戦闘速度についてこられる存在がいる。

 

「“嵐脚”!!!」

 

「“芳香脚(パフューム・フェムル)”!!!」

 

「!!!」

 

 再び──ジョーカーとハンコックの美しく長い、それでいて覇気を纏った凄まじい威力を秘めた脚が交差する。

 

「ぐお!!?」

 

「金庫に亀裂が……!!」

 

 その攻撃の衝撃波は、周囲で戦っていた者達を物理的に怯ませ、黄金で出来た金庫の壁に斬撃の痕を刻み込む程だった。

 その結果を見て、ジョーカーは笑みを浮かべる。対するハンコックは、短く舌打ちをした。

 

「さすがね……!! やっぱりあなたは無視出来そうにないわ、ボア・ハンコック……!!!」

 

「っ……当然じゃ!! わらわを誰だと思っておる……!!!」

 

 その攻撃の結果は、ジョーカーの動きをハンコックが見聞色の覇気で察知し、ジョーカーに迫る程の恐ろしい脚力で同様に回り込み、ナミを守るようにして防いだことによるもの。

 それが出来るのはかつて七武海に選ばれ、戦闘民族“九蛇”で女王になる程の強さを誇るハンコックだからこそ出来た芸当には違いない。

 だがそれでもハンコックが舌打ちをした理由は、ジョーカーの身体能力が、僅かにハンコックを上回っていたからに他ならない。

 

「(力が以前より強い……速さも、わらわより……)……!! そういえば、貴様と決着をつけたことはなかったな……!!!」

 

「(覇気がまた上がってるわね……面倒な……)……フフ……!! 確かに。でもそれはあなたが弱かったから手加減してあげたのよ……!!! 世界最強の百獣海賊団、その“大看板”に名を連ねる私が──七武海如きに倒せると思ってるのかしら!!?

 

 そしてジョーカーもまた、以前より強くなっているハンコックを内心で面倒に感じながら、再び脚に覇気を込めて蹴りを放つ。

 

「!!!」

 

「!!!」

 

 それをハンコックは同じように覇気を込めて迎撃。同時に反撃の蹴りを放ち、それをジョーカーが防ぎ、反撃し、攻撃し、防ぎ──それが連続する。

 

「っ……おいおい……!!」

 

「ジョーカー殿!! このままでは部屋が持ちません!!」

 

 そしてその衝撃の連続はジョーカーとハンコック達がいるこの金庫の部屋を揺らし、塔にダメージを入れることになる。

 ジャブラが部屋の振動でマズい予感を感じ、福ロクジュがその予感を具体的な言葉にして叫んだ。

 だがだからといって戦闘を止めることも手加減することは難しいものだが……しかしそれでもジョーカーは問題ないと判断していた。その未来を察知して、ジョーカーはハンコックと再び脚を交差させながら笑みを浮かべる。

 

「問題ないわ……!! 何しろ、私達が拮抗しても他がそうじゃない……!!」

 

「……!!」

 

 その言葉に、ハンコックもまた忌々しい表情を浮かべて同意せざるを得ない。この場でジョーカーとハンコック。2人が勝負になっていても、他が傾いているのだ。

 

「……強くはなったようだが……」

 

「!! ──ナミ!!」

 

 そのマズい状況を見て、思わずチョッパーが声を上げる──その視線の先には、今まさにナミを殺そうと指銃の構えを取るルッチの姿があり、

 

「──悪いがおれの敵ではない」

 

「うっ……!!」

 

「ナミ~~~!!」

 

 そしてその無慈悲な殺意が、その殺しの技術がナミへと放たれる──少ない味方が減っていくことで、この場の趨勢は一気に百獣海賊団側へと傾く──そういう計算だった。

 足掻いても、ナミやチョッパーやカリーナでは元CP9であり成長した彼らやメアリーズの真打ちには勝てない。少なくとも、最低限肉体の力が超人レベルのものでなければ、近距離での戦いは難しかった。

 ゆえにその戦場での平等かつ無慈悲な不条理が、ナミへと襲いかかろうとし──

 

「──死ね」

 

「──させねェよ!!!」

 

「!!?」

 

 ──だが、すんでのところでそれは防がれる。

 

 同時に他のCP9やメアリーズの攻撃も。

 

「おわっ!!」

 

「……!! おぬし達は……!!」

 

「……ぐぬ!!?」

 

 CP9史上最強と噂されるロブ・ルッチを含めたメンバーの攻撃を防ぎ、加勢したのは階段を駆け上がり、部屋へと飛び込んできたナミの仲間やその協力者達。

 

「──久しぶりだな化け猫野郎……!!! そっちのキリンに狼男も……揃って海賊に鞍替えか?」

 

「──間一髪ね」

 

「──ゾロ!!! ロビン!!!」

 

 獰猛な笑みを浮かべ、ロブ・ルッチの攻撃を二刀の刀で防ぐゾロと──福ロクジュをその能力で動きを止めるロビン。

 

「“大看板”ジョーカーにメアリーズ……思ったより数が多いですね……」

 

「……!! そっちの侍は、20年前に見た……!!」

 

「くっ……光月日和に……“狐火の錦えもん”……!!?」

 

 2人の侍。その名を、ロビンに固められている状態の福ロクジュが口にする。

 そして更に、麦わらの一味の2人を解放した──

 

「あ……」

 

「──よう。久しぶりだな……たま」

 

「──大きくなったみたいだな」

 

 その者達の顔と姿を、お玉は知っていた。

 それはお玉にとって、数年前の……幼い頃に出会った、とある海賊達。

 

「はは……だな。まあ“妖艶なくノ一”にはまだほど遠いみたいだが」

 

「それでももう1つの約束は果たしに来たぞ」

 

 かつて飢えに困っていた自分達の村に、わざと捕まって食料と水を提供し、滞在した……そしてお玉が約束を結んだ彼ら。ずっと心の拠り所にしていた者達。

 21人と1匹の海賊達の名前を、お玉は一度足りとも忘れたことがない。震える声で、その名を呼ぶ。

 

「デュースに、イスカ……!!」

 

「おう。……まああいつは来てないし、随分と遅くなっちまったけどな……でもおれ達は約束を忘れた訳じゃない。あいつから伝言を預かってきた」

 

 ──元スペード海賊団のデュースにイスカ。

 彼らはお玉と約束をしていた。貧困に喘ぐお玉達を助けるため、その原因を取り除くと。

 その約束を、もう一度デュースは口にする。伝言として──

 

「“もう一度、改めて約束だ。次におれ達が来た時には──お前が腹いっぱいメシ食える国にしてやる。お前の住む国を支配する……百獣海賊団を倒してな”」

 

「…………!!」

 

 それはかつて交わした約束であり、それを更に具体的にしたもの。

 お玉やワノ国の人々を苦しめる海賊帝国──百獣海賊団を打ち倒すという新たな約束だ。

 それを他ならぬ彼らから耳にし、お玉は涙を流す。

 

「おら、は……!!」

 

「……あまり無責任なことは言えねェけどよ。それでも安心しろ、たま。おれ達がお前を救ってやる。だから気に病む必要はねェ」

 

「エースは言っていたぞ。“妖艶にはまだなってないだろうが……百獣海賊団に渡すくらいなら、おれ達が迎え入れる”と」

 

「だからこっちに来い!! お前の不安はおれ達が必ず取り除いてやる!! ──って、結局言っちまった……百獣海賊団を倒す作戦はまだ思案中だってのに……」

 

「私は知らんぞ。参謀様と船長が考えてくれ」

 

「おい!! お前も考えろよ3番隊隊長!!」

 

「……うっ……うう~~~~!!」

 

 デュースとイスカ。お玉が待ち望んでいた海賊──エースの仲間である2人の言葉やそのやり取りに、お玉は涙と嗚咽が止まらない。

 それは地獄のような日々でようやく訪れた希望だ。

 根拠もないことだが、彼らがいれば大丈夫だと。どうにか出来る筈だと希望を持てる。

 無論、それは難しいことだろうが……それでも一緒に戦う覚悟だって、持つことが出来る。

 だからお玉は言った。百獣海賊団に着せられた高級着物の袖が濡れることも構わず涙を拭い、息を吸い込んで。

 

「──チョパえもん!!」

 

「!!」

 

「……!! まさか……!!」

 

 お玉のやろうとしている事を察知し、ジョーカーは眉間に皺を寄せた。出来れば止めたいところだが、ジョーカーはハンコックと現在進行形で肉薄しており、もう遅い。

 

「元の仲間の下に戻るでやんすよ!!! もう百獣海賊団の言う事は聞かなくていいでやんす!! 敵は……百獣海賊団の方でやんす!!!」

 

「!!」

 

「お玉……!!」

 

 その追加の命令。未だキビキビの実の影響下にあるチョッパーに対するその発言にメアリーズは反応し、ナミ達はそれぞれ嬉しそうな表情を浮かべた。

 そしてその命令を受けたチョッパーは──

 

「……かしこまりました……ご主人様……!!!」

 

 何かを堪えるように命令を受理した後、ややあってその堪えていた感情を爆発させた。

 

「──ウオオオオオ~~~~!!! み、みんなごめ~~~~~~~ん!!!」

 

 号泣。そして謝罪の叫び。

 チョッパーが最初に取った行動はそれだった。お玉の命令で思想すら変わっていたチョッパーが、能力の解除はまだとはいえ、正常な、普段のものに戻ったことによって今までの自身の言動を思い返して謝罪したのだ。

 

「お、おれェ……!! 皆の敵になって……!! 酷いこと言ったり、ウイルスばら撒いたりして……!! 沢山迷惑かけて……!! 傷つけて……!! ウッ、ウウウウウ~~~!!!」

 

「チョッパー……」

 

「…………」

 

 その様子に、その言葉に、ナミやロビンは何も言えない。

 敵に操られていた。仕方のないことだと言うのは簡単だ。

 しかしたとえそうだとしても仲間を裏切り、多くの人を傷つけたのは確かだ。

 麦わらの一味の船医であり、万能薬になるという夢を持つのにも拘わらず、病原体をばら撒いた。

 それは医者として最も恥ずべきことだ。

 ゆえに海賊としても医者としても、チョッパーは自分自身が許せない。

 その号泣と謝罪。懺悔は自分自身に対するやるせないもの。だからこそ簡単に言葉を掛けてやることが出来ない。

 

「……過ぎたことはどうにもならねェ」

 

「……!!」

 

 ──だがゾロは言葉を掛ける。

 仲間として、1人の男として。自分の矜持に傷をつけられ、自分自身に怒りと失意を覚える男に対し、ゾロは慰めではない言葉を送った。

 

「お前の中のことはお前の問題だ。おれ達にはどうすることも出来ねェ」

 

「ぞ、ゾロォ……!!」

 

 それは一見、厳しい言葉だ。

 しかし今のチョッパーに優しい慰めの言葉を送ったところで、惨めになるだけ。それをゾロは理解していた。

 

「だが……船員(クルー)を奪われたことはおれ達の問題だ」

 

「!」

 

 そう。だからゾロは慰めではない──発破をかける。

 

「ちょうどいい時に戻ったな、チョッパー……おれ達は今から、こいつらにウチの大事な物を奪った落とし前をつけなきゃならねェ。だから……手伝え」

 

「っ……でも、おれは……!!」

 

 ゾロのその言葉に、チョッパーは仲間として失格なことをしたと続けようとする。

 仲間に戻る資格すらないんじゃないかと、そう言おうとして──

 

「──お前も海賊なら……やられたことは自分でやり返せ!!!」

 

「!!」

 

 ──ゾロに一喝される。

 男として海賊として。自分自身が許せないというなら、その解決の仕方は自分の中にしか存在しない。

 

「おれ達は、こいつらに今から反撃する……!!! あのアホコックも……抜けるにしろ、挨拶が足りねェからどの道一度は連れ戻さなきゃならねェ……!!!」

 

 だからゾロは言った。その解決の道筋を、教えてやることでチョッパーに発破をかける。

 

「そのためには、お前の力も必要だ……!! お前がおれ達に許しやケジメを迫るんなら後にしろ……!! 何をするにもまず──」

 

 一息入れ、力を刀に込めながら。

 

「──全部こいつらに……()()を済ませてからだ!!!」

 

「!!!」

 

 怒りと覇気を込めた一撃。

 それで鍔迫り合っていたロブ・ルッチを押し返し、ゾロは気迫を滾らせて敵と対峙する。

 

「ゾロ……」

 

「ふふ……」

 

「ハッ!! ただのバカ助野郎じゃなかったか!!」

 

「さすがはルフィの船員じゃな……!!」

 

「エースの弟も、良い仲間を揃えてるな……!!」

 

「…………」

 

「むぅ……あの男……何という気迫……!!」

 

 そのチョッパーに対する発言と敵に対する気迫は、その場にいる味方の士気を高める。

 

「フフ……!!」

 

「わはは……以前よりも凶暴になっておるわい」

 

「あの時仕留め損ねたのがマズかったな」

 

 そして敵もまた、そのゾロの覇気に楽しみや恐れを覚える。

 2年前で船長に次ぐ億超え。そして現在では更に強さを増し、パンクハザードでは決着にケチがついたとはいえ、“飛び六胞”のササキと戦い、その高い実力を見せつけた。

 外部からは“麦わらの一味”の実質的な副船長として囁かれ、船長“麦わらのルフィ”に次ぐ精神的支柱。

 その彼のチョッパーに対する激励は、その場の空気を気勢あるものへと取り戻した。

 

「~~~っ……!! わかった……!!!」

 

 そしてチョッパーもまた、そのゾロの言葉で涙と自責の念を一旦引っ込め、代わりになる戦意を引き出す。

 

「ゾロ!! 皆!! おれ……やるよ!!! ルフィにも皆にも……合わす顔がないと思ったけど……!!! やっぱりおれ……皆の仲間でいたいんだ!!!」

 

「チョッパー……!!」

 

「へっ……!!」

 

 チョッパーの本心が、ナミやロビン、ゾロ達の表情に笑みを取り戻させる。

 そうして再びチョッパーが改めて、戦闘態勢を取れば──残った問題は味方ではなく敵だけだ。

 

「フフ……何だか随分と盛り上がってるみたいだけど……あなた達にとっての脅威はまだ1つも片付いていないわよ?」

 

 この島にいる敵の首魁である“大看板”ジョーカーが、水を差すように彼らにそう告げる。

 

「地の利も数も戦力の質も……!! 何もかもが私達の方が上回っている……!! 多少支配が緩んだところであなた達の未来は“死”しかない……!!! あなた達の頼みの綱の麦わらのルフィも私に血を吸われて老人となっているわ……!!!」

 

「!! 何じゃと!!?」

 

 麦わらの一味やその協力者が解放されたところで、その絶望的な戦力差は何も変わってやしない。希望は何もないのだと。

 特に麦わらのルフィがジョーカーの能力によって老いているという情報はそれをまだ知らない者達を動揺させた。ハンコックなどは、驚きの後に怒りを覚えているようで、ジョーカーを強く睨みつけている。

 だがそれを聞いてもゾロは不敵な笑みを崩さない。

 

「“麦わらの一味”はルフィだけじゃねェ……それにその老いって奴も、お前を倒せばどうにかなんだろう?」

 

「さて、どうかしら? その情報は私を実際に倒してから確かめることね♡ ──まあそんなこと出来やしないけれど……!!!」

 

 ゾロの生意気な発言にはジョーカーも挑発染みた煽りで返す。

 そうして再び一触即発。再び戦いが始まる。そう思った直後。

 

「でもあなた達を叩き潰すにしても、ここじゃ少し手狭ね……ちょうどいいわ。そろそろ場を整えましょうか」

 

「何……?」

 

 だが、そこで戦いは始まらなかった。

 ジョーカーはそこで声を掛ける。相手はその場にいる誰でもない。メアリーズ越し。別の場所にいる2人の男に対し。

 

『ドフラミンゴ、テゾーロ。場を整えるわ。予定より状況は悪いし少し早いけれど……始めなさい』

 

「……!! フッフッフッ……確かに……この状況じゃしょうがねェ……!! 始めろ、ピーカ」

 

「ええ……分かりました。早急に作りましょう……!! 我々の大地を……!!!」

 

 ドフラミンゴとテゾーロ。海賊帝国の傘下。2つの海賊団のトップである2人に、ジョーカーは指示を出すと、2人は揃ってその指示に従って動き始めた。

 

 ドフラミンゴはピーカに命令して大地を動かし──テゾーロは自分自身の能力で大量の黄金を動かし──それぞれを島と島の間へと動かして練り上げていく。

 

 ──その振動は、2つの島の全域に伝わった。

 

「おわっ!!? 何だ!!?」

 

「“ゴッド”・ウソップ!! 大地が動いて……!!」

 

「何が起きてるれすか!?」

 

 ──ドレスローザの地下交易港。おもちゃから解放された人々からなんやかんやで“ゴッド”と呼ばれているウソップとそこにいた人々は、地下にあった工場が地上へと持ち上げられ、地形が大きく変わっていくところを見た。

 

「これは……!!?」

 

「どうなってんのよ──う!!?」

 

「ピーカの能力だ……!!」

 

 ──そしてドレスローザの王宮では、ローがその能力の正体を看破する。

 地上にいる者達は、巨大な大地がドレスローザの西側に山なりの地形となって出来ていくのを見ていた。

 

「金が動いてるぞ!! 何だこれ!!?」

 

「テゾーロの能力の支配下にある金が……東の方に集められていく……!! 一体何を……!!」

 

「ルフィさん!! ムサシさん!! 目的地のホテルが運ばれていきますよ!!?」

 

 ──グラン・テゾーロの地上では、ルフィやムサシ達が大量の金と目的地であった最高級7つ星ホテルである“THE() REORO(レオーロ)”が土台となる黄金と一緒に東に運ばれていくのを垣間見る。

 

「……!! これは……マズい!! そなたら逃げろ!!! 急いで飛び降りるのじゃ!!!」

 

「え!!? ──きゃあっ!!?

 

 ──そしてそのホテルの内部。上層の金庫の中にいたナミ達は、ハンコックが突如何かに気づいたことで、移動するホテルから飛び降りて離脱することを強い口調で指示される。その理由を殆どの者達が不可解に思ったが、しかしゾロは先んじて気づきそれを口にした。この状況は数時間前のそれに似ていると。

 

「チッ……成程な。このままじゃ敵に囲まれる……!! お前らそこのガキ連れて一旦離脱しろ!! 飛び降りろ!!!」

 

「ええ~~~!!? またァ!!?」

 

「ちっ……しょうがねェ!!」

 

「──あなた達

 

「はっ!!」

 

 ゾロの言葉にナミがまた飛び降りなきゃならないのかと躊躇するが、目の前ではジョーカーの命令を受けたメアリーズがナミ達をその場に留めようと動き出している。一刻の猶予もないと、ナミとカリーナ。ボニーとロビン。そしてチョッパーとお玉。日和や錦えもんは金庫の亀裂から外へと飛び出そうとし、それをメアリーズが食い止めようとするが──

 

「いかせるか!!」

 

「……!!」

 

 ゾロやハンコック。そしてデュースやイスカらがそれを食い止める。

 その僅かな時間により、味方が無事に飛び降りることに成功すれば、ゾロ達もその場に残る理由はない。

 

「デュース!!」

 

「分かってる!! だが……マルコさんなら大丈夫だ!!」

 

 飛び降りていく中でイスカとデュースはホテルの中に残ったもう1人の仲間を心配するが、マルコであれば逃げようと思えば逃げられるし、簡単にはやられないと信頼してその場を脱する。

 

 そうして僅かな時間差で百獣海賊団の敵である彼らがそれぞれ違う場所に落下していくのを──ジョーカーは必死に止めることなく、不敵に笑って見送った。ここで殺せるならそれでもよかったが、別に出来ないなら出来ないでそれでも構わないと。

 

「……海賊達はともかく……お玉ちゃんだけは回収しないとね──福ロクジュ。部下を率いてお玉ちゃんを捕らえて来なさい」

 

「はっ」

 

 だがそれでも早めに取り返しておきたいものは取り返すように指示し、福ロクジュと部下達がそこから消えるのを見届けるとジョーカーは涼しくなった金庫の外の夜空や月を見て、口の端を歪める。

 

「せっかくこんな良い夜なんだから……楽しまないと損よね♡」

 

 

 

 

 

 ──ジョーカーの下からゾロ達がそれぞれ脱した先。地上では、組み上がっていく大地を見る人々が大勢いた。

 

「はぁ……はぁ……!! 一日で2回も飛び降りることになるなんて……」

 

「だ、大丈夫ですか!!?」

 

「姉ちゃん達、お願い聞いてくれたんだな!!」

 

「……! あなた達!!」

 

 ナミは本日二度目のノーバンジージャンプで──着地はまたしても日和の能力で──乱れた息を整えながら息も整えるが、ナミ達が落ちてきた場所。グラン・テゾーロの街中に当たるその場所には偶然、先程お玉を救うように頼んできた子供達6人がいてナミとお玉に近寄ってきた。

 

「あ……さっき会った……!!」

 

「良かったね……!!」

 

「助けられて良かったよう……!!」

 

「おれ達も海水のおかげでもう固められることもないし、これで逃げられるぞ!!」

 

「……!! はい……!! そっちも良かったでやんすね!!」

 

 お玉はこの島にやって来た時に偶然出会った同年代の子供達に──1人はほんの少し年上だが──囲まれ、一先ず逃げ出せたことを喜ばれ、そのことに感動してまたしてもうるうるとしながらも頷き、同じように喜んで見せる。

 だがそれでもまだ完全に逃げ出せた訳ではないことは確かだ。その証拠に──

 

「……安心しきるにはまだ早いですよ」

 

「あれは……」

 

「!!? 何あれ……!!?」

 

 日和とロビンが、東側を見ながら呟くその声に反応し、ナミもまた視線をそちらに向けると……そこにあったものに愕然とする。

 

『さあ見るがいい!! 愚かな貧乏人共……!! これが私の“神”の姿……!!! そして──』

 

『フッフッフッフッフッ……!!! お前らを迎え撃つ──“神の大地”だ……!!!』

 

 “黄金帝”ギルド・テゾーロと“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴの声が2つの島に鳴り響く。

 電伝虫を使った全島放送。両方の島で行われるそれは、今2つの島に出来た巨大な岩の大地と黄金の建造物のことを伝え、眼下の挑戦者達を迎え撃つ“宣戦布告”も兼ねたものだ。

 

『──……“新政府軍”に……二代目白ひげ海賊団……そして“麦わらの一味”に、その協力者達……この島にいる全ての人に告ぐわ』

 

 そして最後に声を出したのは“戦災のジョーカー”。この戦争を主導する百獣海賊団の大看板だ。ジョーカーは自分の声が島中に、この鳥カゴの中の全ての場所に聞こえていることを確信し、これから起きる出来事を説明してみせる。

 

『これから始まるのはこの世の縮図、すなわち……私達が作り上げた“暴力の世界”を表す戦争のゲームよ……!!!

 

「!!?」

 

 民衆も新政府軍の兵士も、その言葉には不穏なものを感じて驚愕する。

 だがジョーカーの声が止むことはない。ジョーカーは彼らにゲームの説明をするため、電伝虫に向かって声を送り続ける。

 

『あなた達の勝利条件は簡単よ。私達……この“神の大地”にいる私達を殺せばいい。それだけでこのゲームは終了よ』

 

 “神の大地”と呼ばれるそこ。2つの島を繋げるように跨るその大地の頂上。黄金に輝くそのホテル──塔の頂点に、ジョーカーやドフラミンゴはいる。

 そしてその塔の横には、黄金で出来た巨大な身体を身に纏うテゾーロもいた。その3人こそ、この戦争における海賊帝国側の指揮官であり、“頭”である。

 その首を取ればこのゲームは終わる。単純明快で誰にでも理解出来るルールではあるが、当然、ゲームというからにはそれだけでは終わらない。ルールは他にも存在した。

 

『だけど他にもゲームを終わらせる方法はあるわ……!!』

 

 ジョーカーは言う。今のこの世界の縮図だと豪語する、この悪趣味なゲームの2つ目のルールを。

 それもまた、極めてシンプルなものだ。何しろこのゲームは“暴力の世界”を模したもの。そこに複雑なルールは存在しない。

 

『これは私達を殺したくても弱くて殺せない……その実力がないと言う人達のためにも優しい……誰にでもクリア出来る簡単なルールよ。それは──』

 

 ゆえにこのゲームのクリア条件は、やろうと思えば一瞬で、すぐにクリア出来るものなのだ。それは本当に、出来る者にとっては生温いといっても過言ではない程に優しい。

 だが一方で──出来ない者にとっては過酷な、覚悟を決めなければいけないものであった。それをジョーカーは少し間を置いて口にする。その、最悪でありながら簡単で優しいゲームのクリア条件とは──

 

『誰でもいいわ。家族でも友人でも他人でも強者でも弱者でも縁もゆかりもない人でも誰でもいい──人を1人……()()()()()

 

「!!?」

 

「なっ……!!?」

 

「……えっ……?」

 

 ──人を殺すこと。

 そのクリア条件を耳にした誰もが耳を疑う。その条件は確かに、ジョーカー達を討ち取るよりは遥かに簡単で優しいゲームだ。

 だがそれは……絶対に一線を越えなければクリア出来ない悪魔のゲームでもあった。

 

『人間1人を殺し、その首を持ってこの“神の大地”の麓に集まっている私の部下にその強者の証であり暴力を振るった証となる首を見せれば……晴れてその人はゲームクリア。海賊帝国の住民として受け入れてあげるわ』

 

「!!!?」

 

 それはまさしく悪魔の契約で……まだ手の汚れていない民衆が、この“暴力の世界”へ足を踏み入れる──第一歩となるゲームだった。

 

 

 

 

 

 ──その放送はドレスローザとグラン・テゾーロ……その全域に届く。

 

『人類の歴史は……“戦争”の歴史』

 

 その(ルール)に例外はない。

 

『資源を……土地を……富を……権利を……!! あらゆる価値のあるものを人間は奪い合い、進歩を遂げ、その歴史を紡いできた……!!!』

 

 それは彼らが信ずるたった1つの理念であり、“正義”だ。

 

『争いには人種も性別も年齢も身分も関係ない。生きている人間全てに与えられる平等な権利であり、人の抱える全ての問題を解決する唯一無二の方法』

 

 戦争。戦い争うこと。

 それだけが、この世の中で唯一の平等だとジョーカーは伝える。

 

『生きるためには戦い、勝利するしかない……!! 自らの手で他者を害し、強者としての産声を上げなさい……!!!』

 

 その理を体現する2人の化身。彼らの目指す世界の形を、ジョーカーは代理として人々を教え導くのだ。

 

『弱者はただ死ぬだけ。戦う意思も持たず、人を害することが出来ない弱い存在は平等に死にゆくだけよ!!!』

 

 死ぬも生きるも自分次第。弱者は死に、強者は生き残る。

 

『勿論、戦う相手は誰を選んでも構わない……私達の首を取ることを選ぶのも自由よ。その勇気ある選択を、私達は讃えましょう』

 

 暴力だけが、平等であり自由。それこそが自然な姿だ。

 その理からは誰も逃げることが出来ないし、逃げることは許されない。

 

『ただ私達と敵対するなら……支配され、生き延びることは出来ないと思いなさい……!!!

 

「……!!」

 

 強者の理は弱者に対し、平等に死と恐怖を与える。

 そしてその絶対強者からのお触れに、弱者は抗えない。

 

「おい……何するんだ……!! やめてくれ……!! 」

 

「おれ達は騙されたんだ!! 敵はドフラミンゴと、海賊帝国で──」

 

「うるせェ!! 分かってんだそんなことォ!! でもやるしかねェじゃねェか!!」

 

「おれはやるぞ……!! たった3人……!! 家族を守るためには()()()()()、おれが手を汚すだけでいいんだ……!!」

 

「生き残るんだ……!!」

 

「ギャアアア!!」

 

「やめろ~~~!!!」

 

 ドレスローザとグラン・テゾーロの全域で、弱き人々が武器を取り、他者との争いを始める。

 そこには自分の意思ではないものもいた。ドフラミンゴの“寄生糸(パラサイト)”によって操られ、他者に斬りかかった人々を発端に、各地で次々と争いは生まれていく。

 そしてその瞬間に新たな強者と弱者も生まれていった。新政府軍が、一部の暴れる民間人を取り押さえようとも、その全ての動きまでは止まらない。

 

「グルル……!!」

 

「何だ!!? 動物!!?」

 

「ぐわああ~~~!!!」

 

「凶暴な動物達が暴れてるぞ!!」

 

 更に、一部では檻から放たれた動物達──百獣海賊団が戦力として使役する凶暴な動物達が街に放たれ、そこにいる民達を襲ってゆく。

 

『迷っている時間はないわよ。今こうしている間にも、首の数はどんどん減っていく……!!』

 

 じっくりと考え、決心を固めている余裕は残されていない。

 

『誰かが殺した首を奪うのも、大切な誰かのために代わりに首を取るのも好きにすればいいわ。とにかく強者の証となる首を持ってきなさい!!!』

 

「……!! やるしかねェ……!! 戦うしかねェんだ……!!」

 

 その言葉に騙され、人々は次々と自ら争いの輪に加わっていく。

 殺しても良心の痛まない他人。この島の住民ではない海賊や新政府軍の兵士。人々は自分と繋がりの薄い相手を率先して狙っていく。

 

「海賊帝国を……百獣海賊団を狙う手も……!!」

 

「無理だ!! 勝てる訳ねェ!! 相手はドンキホーテファミリーとテゾーロ海賊団も含めた3万人の軍団だ!! あの世界政府を滅ぼした世界最強の海賊団だぞ!!?」

 

 だがその中に、百獣海賊団を、海賊帝国を狙う者は民衆の中に存在しない。

 おもちゃや黄金から解放された海賊達でさえ、敵の強大さに恐れ慄き、楽な道を選ぼうとする。

 おもちゃであった彼らが聞いた、この戦場にいる海賊帝国の構成員の数は、ドンキホーテファミリーが2千人。テゾーロ海賊団が3千人。

 そして百獣海賊団が2万5千人。計3万人の軍団だ。

 対して彼らと敵対すると思われる新政府軍は1万人に届かない程しか存在しない。

 おまけに地の利は海賊帝国側にある。これでは勝ち目はない。彼らに逆らうより、従った方がどう考えても利口であり賢い選択だった。

 

「悪く思うな……!! 海賊達……!!」

 

「!!」

 

「くっ……2つの国中の人間全員が敵か……!!」

 

 ゆえに百獣海賊団以外の余所者は狙われる。グラン・テゾーロ、神の大地にほど近いその場所では、ナミとカリーナ、お玉やチョッパー、錦えもんに日和といった者達が住民達に囲まれていた。

 そこには今、ゾロもロビンもデュースやイスカやボニーにハンコックもいない。移動していたホテルから飛び降りたのが少し遅かったため、彼らとは逸れてしまっていた。

 恨みもなければ敵でもない民相手とはいえ、襲われてじっとしている訳にはいかないと、ナミ達は応戦しようとする。お玉や子供達も守らなければいけなかった。

 

「よし!! 一斉にかかるぞ!!」

 

「おう!!」

 

「──うおおおおお~~~~……!!!」

 

「は?」

 

「ん?」

 

「! この声……!!」

 

 ──だがその瞬間。遠くの方から声が、物凄い勢いで近づいてくると。

 

「ウ……!!」

 

「──ゼェ……ゼェ……悪いな。少しの間大人しくしといてくれ……」

 

「──ルフィ!!」

 

 ──その瞬間、ナミ達を囲んでいた人々は、物凄い勢いで走ってきた“麦わらのルフィ”から放たれた覇王色の覇気によって気を失った。

 

「“眠り歌・フラン”!!」

 

「ブルック!!」

 

 そして同じく仲間のブルックも、その不可思議な眠くなる曲によって何とか気を保っていた者達をも眠らせていく。

 だがやってきたのはその2人だけではなかった。

 

「この集団は……もしかして、地下で捕まってた人達!!?」

 

 そう、カリーナがその集団の正体に気づく。

 捕まったルフィやブルックが落ちた“黄金の牢獄”。そこには少なくない囚人が捕らえられていた筈だ。

 

「“麦わらの一味”の仲間か……!!」

 

「海賊……“白馬のキャベンディッシュ”!!?」

 

 億超えの海賊。キャベンディッシュがナミ達を見つけると、カリーナがその名を口にする。

 

「おお!! 錦えもんではないか!!」

 

「錦えもん!!」

 

「……!! か、カン十郎!!? そ、それに……モモの助様まで!!?」

 

「……!!」

 

 ワノ国の侍、カン十郎とやんごとなき身分であるモモの助が錦えもんを見つけて駆けてゆくと、錦えもんもまた驚いた。まさか彼らがここにいて合流出来るとは、と。

 そして少し遠くで日和がモモの助の姿を見て、目を見開く。その表情は驚きと、また別の何かが複雑に絡み合っていた。

 

「ハァ……ハァ……急がなきゃ……!!」

 

 その他にも女剣闘士──の格好をしているドレスローザの元王族であるレベッカなど、その囚人達はひとかたまりの集団となって神の大地を目指している。その目的を、先頭に立つ2人が口にした。

 

「思ったよりも高いな……!! ジョーカー達はあの頂上か……!!」

 

「ゼェ……ハァ……よし、苦しいのが収まった……!!! ──待ってろジョーカ~~~~!!! ドフラミンゴ~~~~!!! テゾーロ~~~~!!!」

 

 鬼のような2本の角が特徴的な二刀流の剣士、ムサシと老人となり、走ると胸が苦しくなり、息切れするため、何とか息を整えたルフィが一旦そこで立ち止まり、神の大地を見上げる。

 

「お前らは、必ずおれがブッ飛ばす!!!」

 

「……!!!」

 

 ルフィのその叫び。その意思は、その場にいる者達の鼓膜を震わせるだけでなく──遥か高い神の大地の頂上にいる標的にも届いていた。

 

「…………ジョーカー様。たった今、麦わらのルフィとムサシお嬢様が……」

 

「……ええ、聞こえているわ」

 

 神の大地の頂上で、黄金の玉座に腰掛けるジョーカーは部下のメアリーズからの報告でそれを見聞きすると、目元を据わらせて戦意の混じった覇気を昂ぶらせる。

 

「そんなに私達と戦いたいなら、ここまで来てみなさい。麦わらの一味でも新政府軍でもムサシお嬢様でも誰でも……挑戦する権利は誰にでもあるのだから好きにすればいい。……でも──」

 

 ジョーカーは言う。ドフラミンゴやテゾーロも共にいる、その場所で、眼下の敵。弱者共を見下ろし──

 

「──誰が相手でも、踏み潰してあげるわ……!!!」

 

 ──そしてその言葉と共に、海賊帝国と新政府軍、そして海賊にその協力者、裏切り者……その全てがぶつかり合う本物の戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 ──だが、その同時刻。

 

「ハァ……ハァ……やっぱり現れやがったな……!!!」

 

「てめェ……よくもノコノコと……!!!」

 

 神の大地の頂上へと移動したそのホテルの上層。スイートエリアで横やりの入らないタイマンの勝負をしていたビッグマム海賊団の“将星”カタクリと白ひげ海賊団1番隊隊長のマルコは、両者共にタイマンの相手ではない別の一点を睨みつけていた。

 一対一の勝負の最中によそ見をする理由はない。その余裕も、相手が相手なだけに存在しない。

 だがそれでもよそ見をする理由があるとすれば、その勝負に横やりが入れられた時や無視出来ない存在が現れた時だろう。

 事実、2人にとってその横やりの相手は、到底無視出来る存在ではなかった。

 何しろその、先程逃げた筈の九尾の能力を持つ女が持ってきた巨大な鏡から出てきたのは、カタクリとマルコ。その両人にとって──

 

「「遂に見つけたぞ……“黒ひげ”ェ!!!」」

 

「──ゼハハハハ!!! 久しぶりだなァ……マルコォ~……!! でも生憎と、今はお前にゃ用はねェんだ……!!!」

 

 ──決して許すことの出来ない……()()()()()()

 

「──カタクリィ!!! その実をよこせ!!! “グラグラの実”はおれの物だァ!!!!」

 

「……!!!」

 

 ──その戦いもまたこの戦争と同じく……今後の世界を左右する出来事に違いなかった。

 




キュロス→フランキーとMr.2と共にローを救出。バッファリーとベビー5を撃破
ぬえの認めた者達→順番は適当
フーズ・フー→裏切りに敏感
たしぎ→迷い中
ハンコック→この女は強いぞ……!! 神の大地のどこかに落ちました。
お玉→キビキビの能力の解除はまだ出来ないので命令を追加することでチョッパーを解放。
ナミ→子供傷つける奴絶対許さないウーマン
チョッパー→自分が許せない。曇り中。でもゾロの言葉で立ち上がる。
ゾロ→デュースとイスカらによって解放されチョッパーを発破をかけた。神の大地の近くにいる。
ロビン→ゾロと同じ場所にいる。
デュースとイスカ→同上。
ボニー→空気気味だけど許せ。ゾロ達やナミ達とも別の場所に飛び降りた。
日和と錦えもん→遂にカン十郎()とモモの助と合流。でも日和は……。
しのぶ→忘れてる訳じゃなくて日和の命令で別行動。
ウソップ→おもちゃから解放された海賊達やトンタッタ族と一緒に逃走中。
神の大地→ドレスローザとグラン・テゾーロの間に大地を作って無理矢理作りました。原作王宮の大地みたいに1段2段と分かれてる。1番上にホテルもある。
暴力の世界→百獣海賊団の理念。始まりは2人から。
ルフィ達→ナミ達と合流。
マルコとカタクリ→一対一で戦っている内にホテルが移動したので神の大地の頂上よりも高い場所に。
黒ひげ→鏡の中から遂に登場。グラグラの実が何が何でもほしい。
ぬえちゃん→話す時に特に楽しそうな人物はカイドウにロックスに白ひげにロジャーにルフィ。可愛い。

今回はこんなところで。ようやっとバトル回が次から出来そうです。今回の章で出さなきゃならない奴らは大体出せた気がする。リク王とかは流す可能性あるけど。
そして次回は遂に原作で話題のあの人や楽しんでそうなあの人や長らく出番のなかった我らが主人公が登場します。お楽しみに。

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