正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──それは数日前の事だ。
私は幹部達が集まる場でとある提案をした。
「──サプライズですか?」
百獣海賊団の大看板。“火災のキング”が私の提案に対して聞き返してくる。
その若干の困惑の気配を感じ取りながら、私はその企みを説明した。
「そうしないと戦ってくれないし、それどころか戦いの場に出てもくれないと思うんだよね。どいつもこいつも、私やカイドウとの正面対決は避けたがるし」
私はこの2年の戦争を振り返りながら告げる。新政府軍や赤髪、千両道化らとの戦争は取って取り返されの陣取り合戦だ。
私達の主力が侵攻すれば向こうはそれを少しでも遅らせようと遅滞戦闘を行う。その戦場での勝利は目指さない。
代わりに私達がいない隙を突いて別の戦場に戦力を投入し、そこで勝利することで全体的な勝利を勝ち取ろうとしてくるのだ。
加えて二代目白ひげ海賊団や隠れ潜んでる黒ひげ海賊団もまた陰でこそこそと空き巣を狙ってくるし、中々捕まえられない。私やカイドウ、大看板や飛び六胞などの主力が出向く戦場での勝利は勝ち取れるものの、相手の主力もまたこちらの薄いところを突破してくる。
結果、いつまでも戦いが終わらないイタチごっこだ。戦争が続くことは私達の望むところとはいえ、煮え切らない戦闘ばかりじゃ面白くはない。どうにかして敵の主力と当たって叩き潰したい。
となると情報戦で勝利し、こちらの優位に持ち込むしかない訳だが──ようやくその好機が訪れてくれた。
「そこで“サプライズ”よ。ようやく判明した新政府の本拠地の場所にようやく手に入れたグラグラの実。そして魚人島が落ちて向こうの追い風となってる今なら──敵をこちらの戦場に引きずり込める。これでもしパンクハザードまで落ちるようなら尚更ね」
「……成程」
私の提案にキングが得心したといった様子で頷いてくれる。
そして部屋の中心で真面目な表情でそれを聞いていた私の相棒もまたそれに頷いた。
「決まりだな。なら奴を殺すのは──」
「そりゃ私でしょ。あんたじゃ隠れられないじゃん」
「…………それはそうだが」
痛いところを突かれたのか、自分が行く気満々だった私の相棒──“百獣のカイドウ”は私の指摘に不満そうにして抗議してくる。だがそれを私は許さない。
「あんたはスパイにバレないようにこっそり軍隊率いてバルティゴに強襲をしかけてドラゴンとか大将とか討ち取ればいいじゃん。そっちを譲ってあげるんだからこっちは私に譲りなさいよ」
「チッ……しょうがねェな。なら失敗するんじゃねェぞ。確実に殺してこい」
「そっちこそ、また逃げられたりしないようにね」
私達は互いに発破をかける。まあどっちも失敗するとは思ってない。戦いが成立しさえすれば誰が相手だろうと負ける訳がないのだ。私達は。
「裏切り者への対応はジョーカーに任せてあるし、クイーンとジャックも動いてくれてるし、邪魔になりそうな
「ええ。“
「おう、頼んだぞキング」
「ええ。ガキ2人を連れてすぐに回収してきます」
「さーて、久し振りに暴れる準備しなきゃね!! 結婚式とフェスの準備も予めソノちゃんとリンリンのところの担当者とウチのスタッフに頼んでおかなきゃ!! えーと、それから──」
──そうして私達は今回の作戦に臨んだ。
目的は新政府軍の壊滅と裏切り者を炙り出し、それらも始末すること。残りの“ロード歴史の本文”の奪取。そして──。
「──黒ひげ海賊団の殲滅……!! ようやく叶いそうで何よりだね……!!!」
“鏡世界”。
ミラミラの実の能力者が生み出すその世界の中で、私は目の前にいるその連中に戦意と喜びを顕にした。
黒ひげ海賊団。及び、その船長“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチ。かの頂上戦争で私達から白ひげの首を掠め取った憎き相手。私とカイドウがずっと殺したくて仕方なかった相手だ。
「ハァ……ハァ……すまねェ。ぬえ……グラグラの実は……奪われちまった……!!」
「!」
──そしてそれは、この男にとっても。
私の横で息を乱すビッグマム海賊団の将星。シャーロット家次男であり、私にとっても昔から知る相手であるシャーロット・カタクリが、自らの不甲斐なさを恥じるようにそう侘びてくる。
実際、彼にとっても黒ひげ海賊団は妹の──ブリュレの仇だ。
ビブルカードが燃え尽きたと聞いたのは随分前の話。それからカタクリもまたブリュレの仇を取ろうと黒ひげ海賊団のことを血眼になって追い続けていたし出来れば誰の手も借りずに自分の手でその首を取りたかったことだろう。
……だがそれが叶わず、挙句の果てに私達に託されたグラグラの実さえ奪われてしまったのだ。おそらくそのことが何よりも悔しく不甲斐なく思っている。同盟相手とはいえ別の海賊団に所属し、対抗心を燃やしている私にさえ謝るのだからよっぽどなのだろう。カタクリの心中は察して余りある。
そしてそれはカタクリが“弱いから悪いのだ”と。私達の理念としてはそう言える。弱者の泣き言なんかに、私達は耳を貸さない。それが私達が推し進める“暴力の世界”での理だ。
だが──私はそうは言わない。
「……あなたは悪くないわよ、カタクリ。あなたが弱いんじゃない。私達の想定以上に……黒ひげ海賊団が強かった。ただそれだけのことよ……!!」
「……!!」
視線をカタクリに向けないまま「ムカつくことだけどね」と私は一言そう添えてカタクリを慰める。
そう、私はカタクリが強いことを知っている。2つの意味で、カタクリの強さをよく知る私としてはカタクリは十分に強いとそう言える。
黒ひげ海賊団の強さの正確なところを私は知らないが、それでもこの数を相手に善戦しただけでも十分だろう。
「むしろたった1人でここまで持ち堪えたのはさすがね。おかげで助かったわ」
捕まえたドクQをカタクリに渡しながら礼を言う。カタクリのモチモチの実の能力なら拘束も容易だ。それにまだそれくらいの体力は残っているだろうと見ての判断。
私の方は戦いに集中するために黒ひげを見据える。その手に槍を持って、改めて黒ひげの戦力を推し量る。
そうして分かるのは……私が実際に見た所見。
「──さて、“黒ひげ”。ようやく会えたわね」
「……!!」
カタクリよりはおそらく強いと言えるということと──
「カタクリ相手には通用したみたいだけどね。私相手に通用するかどうか──試させてあげるわ」
「!!」
──私よりは弱いだろうということだけだ。
「……!! ゼハハハ……そいつはおっかねェな……だが、こうなったら仕方ねェ。目当てのもんも手に入れた……!! おれの力を、お前相手に試すのも悪くねェ……!!」
「そう。ならさっさとかかって来なさ──……!!」
私はその攻撃の気配を感じ取り、言葉を途中で差し止める。感じるのは目の前じゃない。背後からの強襲だ。
「!!」
「何より……状況なら悪くはねェからな……!!! ゼハハ……!!!
私がいた地面。そこに巨大な質量を持った一撃が叩き落される。
まるで巨人族やそれ以上の大きさの古代巨人族の一撃にも思えるその巨体とパワーだが、その人物の大きさはそれ以上。
「──お? もう潰しつった?」
──“巨大戦艦”サンファン・ウルフ。
インペルダウンのレベル6に捕まってた元囚人で、黒ひげ海賊団の1人。
最大身長180メートルという圧倒的な巨体を作り出す能力を持つその怪物が、私がいた場所に起きた破壊の痕。派手に舞い散った瓦礫と塵を見てそう口にする──だが幾ら何でも舐めすぎだ。
「──どこ見てんのよデカブツ」
「!!?」
私はサンファン・ウルフの顎の下。攻撃を見聞色で読み取り、跳躍して移動するとそのままの勢いで足に力を込めて思い切り蹴り上げる。
「!!!」
「っ……!!!? ォ、ウッ……!!」
苦悶の声を上げたウルフの巨体が持ち上がる──が、さすがに重い。ウチのナンバーズの体重が100トン以上あるし、その3倍以上に大きいウルフは雑に計算しても300トン以上はあるだろうし、この重さは納得だ。
とはいえ全然持ち上げられない程じゃない。この大きさと重さの生物は脅威だが……私の敵じゃない。
──それは大きさでも同じことだ。
「このっ……!!」
「!!? おい!! 避けろウルフ!!」
「グルル……!!」
「!!?」
黒ひげが見聞色でも発揮したのか、先に気づき注意を声にする。さすがだが、ウルフの方はそれに素早く対応出来ない──私は能力で変型し、ウルフに上から飛びかかるようにして襲いかかる。
「ほら……力比べがしたいなら付き合ってあげるわよ……!!!」
「うおおおおっ!!? い、痛いっ!! やめろォ~~~~!!!」
「……!! 鵺の能力……!!」
「なんという大きさだ……!!」
獣型に変型し、牙と爪でウルフに血を流させる。首元に噛みつき、肩に両手の爪を突き立ててみせれば、熊や虎に襲われる普通の人間のようにウルフも悲鳴を上げた。
背後では黒ひげの一味が私の獣型の大きさに驚き、戦闘態勢に入っている。このままウルフを食い殺したいところではあるが、こちらも無視は出来ない。私の身体に撃ってくる飛び道具。その中の1つに覚えがあり、私は驚きの目をその1人に向けた。
「……!! その能力は……」
「フフ……」
光のレーザー。私も使うことのあるその攻撃を行なったのは“音超え”の異名を持つ黒ひげ海賊団の狙撃手ヴァン・オーガー。
だが今のはただの銃弾ではないレーザーだ。それが意味するところはつまり──
「ゼハハハハ!! 驚いたか!!? 大将黄猿の能力!! 最強種
「──“雷咆”」
「!!? ──おわァあああ~~~!!!」
私は黒ひげの言葉を無視して、口に溜めた雷のエネルギーを黒ひげ海賊団に向けて放つ。
雷獣としての一面を持つ鵺にとって雷を起こすことは造作もないこと。カイドウの“
……まあこれでやられてくれるなら楽なのだが、さすがにそれほど楽な相手じゃないよね。
「ゲホッ!! ゲホッ!! ハァ……ハァ……ゼハハ……!! さすがの力だ……!! バケバケの実……!! このおれのヤミヤミの実は、悪魔の実の歴史上最も凶悪と言われる能力だが……お前のその能力は悪魔の実の図鑑にすら載ってねェ正体不明の能力!! 謂わば歴史の存在しない能力だ……!!! さすがに得体が知れねェな……!!」
「ああ……そういえば悪魔の実図鑑に載ってる実のことは全部覚えてるんだっけ? 眠れない体質やその身体の事や出自といい……あなたの得体の知れなさも中々だと思うけどね」
「! ……ゼハハ……そのことを知ってるお前もな。そりゃお互い様だ……!!!」
私は過去の知識を思い出してそう口にしただけだが、黒ひげからすれば能力といい、知る筈のない自身の秘密を知ってる私自身のことといいさぞ気味が悪いことだろう。
でも私からしたら黒ひげも中々に正体不明だ。黒ひげの思ってるより、私は黒ひげのことを知らない。
とはいえ今までの海賊人生。自分自身で調べたことやジョーカーらから上がってきた情報から過去の私よりは色々知っているが。それでも全貌はまだ知らない。ある程度予測はしているものの、過去の私じゃない私では黒ひげのことを細かいところまで知ることは難しいんだよね。
「だがどんなに得体の知れない能力だろうと!! 悪魔の実の能力である以上、闇の引力からは逃れられねェ!!! ──“
「!!?」
黒ひげが左手をこちらに向けて能力を発動する。
それは
無論、それは知っている。もう1つの隠し玉についても。だが……成程。経験して初めて理解る。この引力からは逃げようとしても逃げられない。
もしかしたら力技でこの引力から逃げたり踏みとどまれるものかと試してみたが、これは力とか速さでどうにか出来るものじゃない。引力を躱してしまうならともかく、一度捕まってしまえば多少は抵抗出来ても引き寄せられてしまう。少しマズい。これは食らっちゃうなとダメージを負うであろうことを予見する。
「そしてこれが……!! お前達のおかげで手に入れた最強の攻撃力!!!」
「!」
見覚えのある構えを黒ひげが取り、引き寄せた私目掛けてそれを振るう。これも知っている。やはりと言うべきか、黒ひげの異形の身体は2つの能力をその身に宿すことを可能にしていた。
「!!!」
「!!?」
黒ひげの右手からその力が──グラグラの実の能力が放たれる。
その地震の能力。かつて“白ひげ”が持っていた世界最強の代名詞とも言えるその力が。私の身体を打撃する。
「っ……!! さすがに……痛いわね……!!」
「……!! 信じ難いな……予め聞いていたとはいえ……まさか本当に2つ目の悪魔の実を口にするとは……!!」
「何だ、事前にカタクリにまで話してるってことはこれも知ってやがったのか……!! やっぱり解せねェが、知っていたところでどうしようもねェだろう!! ゼハハハ!! 全てを無に還す“闇の引力”と全てを破壊する“地震の力”!!! これを手に入れたおれに敵はいねェ!!! おれこそが最強だ!!!」
「……!!」
私は黒ひげの地震パンチを食らい、獣型から人型に戻りながら下がって口から軽く血を吐き出す。思ったよりは痛い。一応覇気でも防御したが、当然だが黒ひげの方も覇気を使っているし、さすがに舐めて一蹴出来る攻撃力ではない。ヤミヤミの能力も厄介だし、確かに言う程はあるだろう。戦えるステージには上がっている。七武海や白ひげの隊長格みたいなレベルじゃ荷が重いのも納得した。エースが負けるのも赤髪が傷をつけられるのも納得した。過去の私の長年の疑問が氷解したのは良かったよ。黒ひげは、思ったよりも強かった。
だが、だからといって──
「……最強、ねぇ」
「ゼハハハ……!!! そうさ!! 最強はお前でもカイドウでもどちらでもねェ!!! 勿論他の四皇でもなァ!!! ここからは……そう──おれの時代だァ!!!!」
──
「……そう豪語する度胸だけは認めてあげるけど……そういうのは勝ち取り、世情から認められて初めて得るものよ」
「ゼハハ……!! つまり?」
「つまり──」
私は右手に持っていた槍を軽く、まるで弄ぶように私の手と身体を中心にしてくるりと回してみせる。
もう40年以上の付き合いになる私の愛槍“無表業”。名だたる剣豪や強者の持つ業物のような位列はないが、
それこそ私がまだまだ弱く、能力も未熟だった頃から片時も離したことはないし、ほぼ毎日のようにカイドウの金棒と打ち合ってきた私の戦いの歴史の結晶のようなもの──それを構え、最強を自称する忌々しい敵に向かって私はアイドルじゃなく海賊として言ってやる。
「能力者に多少強い程度で、この私を超えたなんて舐めた態度を取るのは許せない。最強を名乗るってんなら──せめてこの私を倒して奪い取ってみろ!!! 青二才が!!!」
「ゼハハハハ!!! 確かにそうかもなァ!! ならそうさせてもらうぜ!!!」
「この世に私達を倒せる奴はいないってことを教えてやる!!!」
怒りと覇気を槍に込め、私は地震と闇の力で対抗しようとする黒ひげに向かって吶喊する。こいつだけはここで殺す。私達の獲物を掻っ攫った罪を償わせてやらなければならないし、そろそろ掃除の時間だ。そして、その大掃除の最初に消す邪魔者はこの“黒ひげ”だと──その意志を携え、海賊“黒ひげ”との戦いの幕は開いた。
ドレスローザとグラン・テゾーロにそびえ立つ“神の大地”の1段目。
最も人の数が多く、激戦区となっているその大地の片隅。建物の陰で、2つの国に似つかわしくない2人の異国人が再会を喜んでいた。
「無事であったか! カン十郎~~~~!!!」
「錦えもん!! よく戻ってきてくれた!!!」
──ワノ国の侍。狐火の錦えもんに夕立のカン十郎。
共に“赤鞘九人男”に数えられる2人は古くから光月家に仕える親友であり、共にワノ国を支配する黒炭オロチと百獣海賊団を討ち倒さんとする同志である。
「随分と待たせた!!」
「カッカッカッ! 信じておったゆえヘチマの皮とも思うておらぬわ水くさい!!」
ゆえにこの喜びは必定。自然なものであり、彼らにとって今のこの状況はまだ仇討ちの道半ばにあって不幸中の幸いとも言うべき幸運だった。
「錦……」
「おお!! モモの助様も!! ご無事で……!!」
そして親友との再会も然ることながら……守るべき主君の忘れ形見。モモの助とも合流出来たことに錦えもんは喜ぶ。
ワノ国の侍。光月家に仕える者達にとって、モモの助の生存は何よりの希望なのだ。おでんの嫡子であり、正統なワノ国の後継者であるモモの助さえ生きていれば、多くの侍達が立ち上がるだろう。戦いの先に希望を見るだろう。自分達が死んだ後も、きっと大丈夫なのだと後を託せるだろうと。
そうして戦いの中に。冥府へ向かう道の中に光を見出すことが出来るのが侍だった。ワノ国の多くの民が誇るべき生き様だった。
──ただそうでない者もいる。
「錦えもん……そちらの女子は……」
「!」
「…………」
そのワノ国の同志達が再会を喜ぶ中で──ただ1人。少し離れた場所で背を向ける女侍の姿があった。
その姿に、モモの助は気づく。気づいてしまう。
「う、む……こ、こちらの方は……」
錦えもんはその問いに答えるべきか迷う。
答えて2人して再会を、生きていたことを喜びあってほしいというのが錦えもんの偽らざる本音だ。この世に生きているたった1人の肉親。実の兄妹である2人には共に手を取り合い、自分達の旗印となってほしい。
──だがそれを日和が望んでいないことを、さすがの錦えもんも気づいている。
その証拠に日和はモモの助の問いに対して錦えもんの代わりにこう答えた。
「……お初にお目にかかりますモモの助様。私は“小紫”と申す者。今はこの侍達と同じ海賊達に世話になっている流れ者で御座います」
「!?」
「小紫……流れ者……?」
素性を明かさない。その答えに錦えもんが驚愕し、そして胸の内を痛ませた。
たった1人の肉親さえも拒絶しようとする頑なな日和のその態度に。その言動を取らせようとするその根本。負の想いの強さに。
その言葉を信じ、妹であるということに気づかないモモの助の様子を見て反射的に素性を明かしてしまいそうになるのをすんでのところで堪える。唇を噛み、言葉を迷わせ、やや間を置き、そうしてようやく絞り出した言葉は……さらなる疑問だった。
「ひ……小紫殿。貴方はどれほどの想いで……この20年で……一体何を見てきたのだ……?」
「…………特別なことは何も。ただ強いて言うならば……“現実”を見てきたというだけのこと」
「現実……?」
日和はその錦えもんの絞り出した問いに小紫として答える。日和として、ではない。日和という人物をこの場で、モモの助のいる場で出すことはない。
たとえそのうちバレるにしても、日和は日和としてモモの助に会うことはないと、そう決めている。
だからこそその意志を示すためにも──そして、錦えもんに現実を教えてやるという意味でも日和はその答えを口にする。
「そう。あの怪物達には……決して勝てはしない。人類の限界。旧時代の怪物達に、今を生きる人々では敵わないという現実を」
「……!!」
それは──絶望に満ちた、そして諦めに満ちた表情だった。
錦えもんはその漆黒の闇とも言える、壊れた人間だけが見せるそのがらんどうな日和の目に恐怖を覚える。
加えて“怪物達”というその言葉が誰を指すのかを推測し、脳裏に思い浮かべる。思い出すのは20年前の戦いで自分達が立ち向かった2人の怪物。海外からやってきた暴力と恐怖の化身。
その連中であれば、確かに日和が恐れることも絶望することも頷ける。
だが、今になって何故?
錦えもんは日和の抱える絶望を推し量りながらも、思考を回す。カン十郎とモモの助が訝しむが、錦えもんの抱える日和への悩みに気づくことは出来ない。
──だが一方で日和のその恐れの理由は単純だった。
(……現れた……!!)
日和は言葉に出さず、心の中だけでその恐れを口に出す。身体が震え、動悸で胸が痛み、背筋に嫌な汗が流れる。
(私にだけ一瞬向けられたあの覇気……あれは間違いなく……)
他の者達は気づかない。気づけない。日和だけが気づけるそれは、指向性のある一瞬の覇気の顕現。
それが意味するところは、あの怪物が動き始めたということだろう。どこにいるかは分からないし、感じたのは一瞬だけだがそれでもあの気配を自分が間違える筈がない。今までは隠れ潜んでいた筈だが、強者に気配を察知されるリスクを犯してまでその覇気を放出したのは、もはやバレてもいい。そろそろ掃除を始めるという意思表示に他ならない。
そして日和にその覇気を向けてきた理由も、日和には分かる。
そしてそのことが何よりも恐ろしいのだ。
(時期が来たと……そういうことですね……)
日和は震えを表に出さないように必死に耐えながら、その終わりの時が近いことを悟る。あの時に掛けられた言葉を思い出しながら。
『あなたにしばらく“自由”をあげる』
『
『逃げるにしても戦うにしても……あるいは最後まで私達に従い続けるにしても都合がいい。彼らの寝首をかくのも彼らに頼んで別の島に連れていって貰うのも彼らに協力するのも好きにすればいいわ』
ああ──と、日和は今の状況とその言葉を照らし合わせて思う。
自分が彼らの手筈で麦わらの一味に忍び込んだ意味。パンクハザードの事件にドレスローザとグラン・テゾーロのこの騒乱。この巨大な戦争の中に私を泳がせている意味を。
そこで私は何をしても構わない。麦わらの一味を裏切ってもいい。これを機に麦わらの一味と協力して百獣海賊団に戦いを挑んでもいい。
あるいは何もかもを投げ捨てて逃げ出しても構わない。そのための自由を私は与えられている。
『あなたはこれから“自由”よ。もう私達に従わなくたって構わない。あなたがどんな選択をしようと私はそれを讃えてあげる』
そう、何をしたって構わない。もう従う必要もないし、従うことを選んでも構わない。
“自由”とはそういうことだ。もう彼らの“支配”を受ける必要はない。彼らに支配される多くの人々が望む“自由”を、私は手に入れたのだ。
『だから、次に会う時は──』
──だがその“自由”が必ずしも幸せに繋がるとは限らない。
自由になるということは、支配からは逃れるということ。
それはすなわち、支配者の作った檻から出ていくということを意味する。その庇護を受けることが出来ないことを意味する。
それがどういう意味を孕むのか、自由を望む多くの人々は愚かにもそれに気づかない。どれほどの暴君であっても支配されていれば、少なくとも恭順し、役に立つところを見せることでなんとか生きることが出来るのだ。
私にはもう、それは出来ない。
つまるところ私の運命は、自由になったことで──唐突に終わりを告げたのだ。そう、敵対しようがこれまで通り従う意志を見せようが必死に逃げようが、自由を得た私の運命はもう決まっている。
『──あなたが死ぬ時よ』
支配者の敵として……ただ死ぬだけだ。
──
──数時間前。
ドレスローザとグラン・テゾーロで騒乱が始まり、新政府軍が襲撃された直後であるその時に、百獣海賊団の本拠地である“新鬼ヶ島”でも騒ぎは始まっていた。
「ハァ……ハァ……おい……どういうことだ……!!! これは……!!!」
新鬼ヶ島の首都ともいえる旧“花の都”。
今では“鬼の都”と謳われるその街の中心にそびえ立つ旧鬼ヶ島の屋敷内で、男は膝を突いて血を流していた。
その男の名は──X・ドレーク。
百獣海賊団の真打ちにまで昇りつめた“最悪の世代”の海賊であり、現在は幹部達の多くが出払った新鬼ヶ島の警備を任されている男だった。
だがその彼は今、新鬼ヶ島の屋敷内にて“敵”に囲まれ、窮地に陥っている。その理由をドレークの目の前に立つ巨漢は口にした。
「そりゃあ自分の胸に聞いてみろドレーク!!!」
「……!! 何の話だ……!!」
その相手は真打ちの中でも上澄みであるドレークでも敵わぬ難敵。
カイドウとぬえの懐刀である“災害”。百獣海賊団の大看板──“疫災のクイーン”であった。
彼はドレークを不意打ちとはいえ一蹴し、周囲を自身の部下達に囲ませた上でとぼけるドレークを問い詰める。
「とぼけんじゃねェ!! ネタは上がってんだ……!!! てめェが新政府に情報を流してるってことはなァ!!!」
「!!!」
そう、既にその事実は露見していた。
百獣海賊団内にいる裏切り者の1人。彼らの動きを新政府などに流しているスパイ。それがドレークの正体だとクイーンは突きつける。
そしてその理由こそが、クイーンがこの新鬼ヶ島に戻ってきた理由にもなるとドレークは気づく。
「……成程。お前が戻ってきた理由がそれか……!!」
「ムハハ!! それだけじゃねェがなァ!!! お前を地獄に叩き落すのもその1つだ!!!」
クイーンはドレークを見下ろしながら笑い、鷹揚にタネ明かしをしてみせる。この状況の大部分は自分達の計画の内だと。
そして対するドレークは状況を冷静に俯瞰し、逃げることも弁解することも不可能だと悟る。
自分がスパイであることはバレている。目の前にはクイーン。周囲にはクイーンの兵器達。寸分違わず同じ姿をした戦闘服に身を包んだ女達。服の胸の部分に“SLAVE”と書かれたその兵器の群れの囲いを抜けるのは厳しい。
それを知ってかクイーンは余裕の表情を見せている──こいつらを連れて行ってれば“麦わら”やトラファルガー・ローも逃がすことはなかったと内心で苦々しく思い出しながら。
「だがメインはお前じゃねェんだ……!! カイドウさんやぬえさんが出払ってるこの隙を狙って……今とんでもねェ大物がこの新鬼ヶ島に襲撃をかけようとしてやがるからな……!!!」
「何だと……!!?」
その情報はスパイとして新政府側の情報を持っているドレークすら知らぬもの。
だからこそ、次のクイーン達の会話にドレークは目を見開いて驚愕した。
「ムハハハ……!! せっかくだ。これから面白ェモンを見せてやるドレーク。──おいソノ!! そっちはどうなってるか報告しろ!!!」
『──ええ、目視しました。現在、新鬼ヶ島近海にて……』
クイーンの横にいた部下の持つ電伝虫。ドレークも知るその真打ちソノとの会話を聞いて。
『──赤髪海賊団の船を確認しました』
──新鬼ヶ島近海。
荒れ狂う波の上。幾つもの船の残骸が沈むその海域に、“四皇”の船があった。
「お頭!! そろそろ見えてくるぜ!! “ワノ国”が!!」
「──ああ。分かるさ……何せ
その四皇の一味の名は“赤髪海賊団”。
ロックスの残党達が台頭するロジャーの後の時代において、星の数ほど生まれた海賊達の中で唯一成り上がったロジャーの系譜である大海賊。
その甲板には幹部達の姿とその船長である“大頭”の姿もあった。
『赤髪海賊団大頭“赤髪のシャンクス” 懸賞金45億4890万ベリー』
「そろそろ向こうも本腰を入れて迎撃をしてくるだろう……全員、上陸と戦闘の準備を」
『オオオ~~~!!!』
「まァここまでもUFOが襲ってきて大変だったけどな!!」
「全くだ。いい加減UFOを撃ち落とすのも疲れたぜ。この数年でどれだけのUFOと戦ったか……もう未知でも何でもねェよ……」
「違いない」
左目に傷のある精悍な男。“赤髪のシャンクス”は今は新鬼ヶ島と名前を変えられたワノ国が近づいてきていることを確認し、部下達に命令を下す。
それに色めき立つ好戦的な船員に幹部達だが、とはいえここまでも全く問題ない順風満帆の航海だったかと言えばそうではないことを幹部達は愚痴のように毒づく。
かの百獣海賊団のナワバリは悪名高い“ぬえ”のUFOが出没することで有名だ。ゆえにここまで来るのにも少なくない数のUFOと百獣海賊団の傘下とも戦い、それを沈めてきた。
特にその戦いで活躍した赤髪海賊団の狙撃手である“追撃者”ヤソップは疲れた様子でそう言い、副船長であるベックマンがそれを首肯する。百獣海賊団と何度も戦っている彼らにとってUFOはもはやもう見たくない程にも見慣れたものとなっていた。
とはいえそうも言っていられない。ここまで近づいた今、戦闘はここからが本番。
カイドウやぬえが本当にいないにしても、幹部の誰かしらは出てくるだろうし、世界一とも言われる膨大な兵力が待ち構えていることは想像に難くない。
だからこそ幹部達に油断はないが──とはいえ負けるとも思っていない。
仮にカイドウやぬえが出てきて大看板や飛び六胞が勢ぞろいしていたとしても負けるつもりはないと誰もが戦意を見せている。
特に船長であるシャンクスがその先を見据えている。
その意を汲み取って副船長であるベン・ベックマンが傍らに立ち。
狙撃手であるヤソップが再び銃に弾を込め。
コックのラッキー・ルゥも肉を齧りながらそれを待ち。
音楽家のボンク・パンチとモンスター。船医のホンゴウや航海士のビルディング・スネイク。ライムジュースやハウリング・ガブも。幹部ではないロックスター等の船員でさえ、百獣海賊団に恐れをなす者はいない。
彼らはここで百獣海賊団に大打撃を与え、可能なら“あるもの”を奪い去ろうとしている。
そのためにとある筋からの情報を得てこの機に動いた。世界中で巻き起こる戦乱をもはや止めることは出来ない。ならば自分達は自分達に利のあるように動くしかない。
そのために新鬼ヶ島襲撃──いや、ワノ国の奪還。
赤髪海賊団はそのための覚悟を既に決めてきた。まず間違いなく激戦になる。仮に勝ち取っても戻ってきたカイドウとぬえを含む遠征していた百獣海賊団の本隊との決戦になるだろう。
だがそれも征してこの“暴力の時代”を赤髪海賊団は終わらせる気でいた。
海賊としてそうしなければならないというだけじゃない。シャンクスを含む幹部達にとっては大切なものすらかかっている。
それに気づいたのは昨日のこと──海賊帝国の主催で行われるとある
「…………」
シャンクスは先日見たその告知ポスターの内容と、それに出演するとある界隈の人気者達──あの悪名高いぬえを含む参加者の中にいた、
ここ数年でぬえに次ぐ人気を得るに至ったその人物が笑顔で写っているそのポスターを見て……シャンクス達は否が応でも動かざるを得なかった。
──このイベントの開催を止めるには“海賊帝国”にここで打撃を与えるしかない。
ゆえにこの戦いの流れを止めることはしない。この流れが途絶え、海賊帝国が一息つくような事態になれば、このイベントは予定通り決行される。
そしてイベントが決行されれば……おそらく、その人物は破滅する。
海賊帝国の主催でこの大規模なイベントを行うということに嫌な予感がする。そして、それはおそらく当たっているのだろう。シャンクス達が持つ情報を海賊帝国が持っていないという楽観的な考えは出来ない。まず間違いなく知っていて、悪用するつもりだと考えていいだろうと。
だからこそ、海賊帝国は──特に、百獣海賊団はここで止める。
赤髪海賊団の幹部は……特にシャンクスは、その決意に満ちていた。
『──シャンクス!』
──記憶の中で自身の名を呼び、楽しそうに歌う少女の為にも。
──そしてシャンクスの目指す
決して負けることは出来ない。
「……! お頭!!」
「! どうした?」
──だが、結果として。
「おい……海が……何か……」
「潮の流れが急に止まって──!!?」
──彼らはワノ国に……“新鬼ヶ島”に入国出来なかった。
「!!? おい、これは……!!?」
「この気配……!! それにこの数は……!!!」
「──!! 全員、海面に注意しろ!!!」
──シャンクスの判断も、幹部達の気づきも、船員達の行動も、早く的確だった。
「…………クイーン様」
『──どうなった?』
──だがそれでもなお。
「……報告します。赤髪海賊団の船“レッド・フォース号”並びに“赤髪のシャンクス”と幹部達。その全員の──
──彼らはその日、新鬼ヶ島近海にて……消息を絶つことになった。
旧革命軍の本拠地。新政府の拠点である白土の島“バルティゴ”は普段から少し風が強い島だった。
「ドラゴンさん!! サボさん!!」
「ダメだ!! 近づけねェ!!」
「あの人達をおいて逃げなきゃならねェのか!! 本当に……!!」
「頂上戦争の時と同じだ……!! 戦いが激しすぎて……!!!」
だが現在はその風が強いという程では収まらない程に──
「──誰も近づけねェ!!!」
「!!!」
──その戦いは、嵐を巻き起こしていた。
敵による襲撃を受けた新政府の本部は既に跡形もなく、島とその沖合で激しい戦闘が繰り広げられている。
だがその中心はもはや“天災”と化している。
「ゼェ……ゼェ……!!」
「ハァ……ハァ……!!」
そしてそこで戦っているのは新政府軍の参謀であるサボと新政府の代表であるモンキー・D・ドラゴン。
世界でも屈指の強者が揃って息を乱して身体から血を流し、多くの傷を負っている。その傷を負わせた原因。対するは──
「──ウォロロロ……まだ立つか」
──“最強生物”。百獣海賊団総督“百獣のカイドウ”。
「さすがだな。ガープに“火拳”に“麦わら”といい……お前らにはおれ達も随分と手を焼かされた……!!」
カイドウは目の前で膝を突くドラゴンとサボを見下ろし、彼らの血がついた金棒を持つ手とは反対の手で瓢箪を傾け、酒を呷る。
だがそれは余裕の表れという訳ではない。カイドウにとって、戦闘中に酒を呑める相手というのは限られた強者の証だ。
「お前らはよくやった……!! “非暴力を掲げる弱者共”……!! その割には楽しませてくれた……!! だから安心して死ね!!! お前らのこともおれ達が讃えてやる!!!」
「そんなもの……願い下げだ……!!!」
「ああ……おれ達はまだ負けちゃいねェ……!!!」
人獣型に“酒龍八卦”。かなり本気に近い力を出しているカイドウに対し、しかしその目は未だ死なない。
だからカイドウはその力を認め、彼らを称賛する。“暴力の世界”において強者はそうあるべきなのだ。たとえ敗者になったとしてもその強さだけは讃えられる。尊厳や人権の何もかもが奪われようとも、強者であったという事実だけは最強を冠する彼らがその名を記憶に留める。
だからこそ勿体ないとも感じている。彼らの掲げる“正義”を、カイドウは下らないものだと切って捨てる。
「……勿体ねェな。弱者なんぞ切り捨てればお前らがここまで苦労することもなく……おれ達にここが強襲されることもなかった……!! お前らが守ろうとした力なき民衆と平和ボケした権力者共……!! それがお前らを破滅させたんだぜ……!!?」
「…………」
カイドウの指摘は事実。新政府の本部であるこのバルティゴの場所がバレた理由こそ、新政府に加盟する国の権力者。その我が身可愛さから出たものだ。
彼らは海賊帝国に新政府を売った──『居場所を教えるから自分達だけは見逃してくれ』と。自らの権力と身の安全だけを守ろうとして愚かにもこの状況を招いた。新政府は劣勢。このままいけば敗戦は濃厚。権力者達は例外なく皆殺しだ。情報を売った権力者? ──生かす訳がない。力もなく欲だけは人一倍あるだけの小賢しい権力者などカイドウやぬえが最も嫌う存在だ。強者の足を引っ張るだけの馬鹿共を、百獣海賊団は生かしてはおかない。
「……我々の正義は人を差別しない……!! 罪はその当人だけが負う者……一括りにして語ることなど最も愚かな行為だ……!!!」
「……心は折れねェか……ならしょうがねェ」
だがそれでもドラゴンは折れない。意志は曲がらない。それを改めて確認させられ、カイドウは金棒を再び強く握った。
もはや戦いを楽しむ段階は通り過ぎた。ドラゴンとサボという敵はカイドウを多少消耗させたし、今もまだ粘ってはいる。
しかしもう長くはないだろうとカイドウは2人の状態を見て勝負を終わらせることを決める。
「ウォロロロ……」
「!!」
カイドウの人獣型とその様子がまた少し変化する。その状態にドラゴンとサボは強く警戒し、限界に近い身体に鞭を打って何とか構えた。
「お前らを殺せば、後はクザンにもう1人の大将だ……!!! さァ、最後に精々楽しませてみろォ──!!!」
「……!! 来るぞ、サボ……!!!」
「ええ……!!」
──“殺戮上戸”。
カイドウの身体から凶悪な殺意と覇気が奔流する。
先程までの“酒龍八卦”の上戸に翻弄され、かなりのダメージを負った2人。
対するカイドウはまだまだ体力が有り余っている。
勝敗の予想はいとも容易い。誰がどう見ても、この後の結末はもう決まっている。
諦めていないのは──当の2人だけ。
(
サボは内心で加勢に来る筈だったもう1人の大将のことを思い浮かべる。やはりカイドウだけじゃない。敵の数も質も相当なもの。彼を責めることは出来ない。
ならばせめて時間が稼げれば……!! とサボは決意する。この戦いはまだ終わっていない。終わらせない。仮にここで自分とドラゴンが負けてもまだ新政府は終わっていないのだと。
「“咆”……“雷”──!!」
「……!!!」
──そう信じていた。
──バルティゴ、近海。
百獣海賊団の艦隊によって包囲されたその島の一角。
そこは新政府軍の船によってこじ開けられていた。
「うァ……!!」
「ぐ……うゥ……」
百獣海賊団の船。そして新政府軍の船に乗り込んだ海賊達は一様にその触手のような蔦によって刺し貫かれ、そして干からびた状態で倒れていた。
そう、正確には包囲をこじ開けたのは新政府軍の船ではなく、その人物。
「──あァ……まったく面倒くせェ……どこもかしこもメチャクチャでよォ……!!!」
煙草を口に咥え、サングラスをかけた男がそう呟く。
腰に刀を差し、胸に“死川心中”と墨を入れているその長身の男はその身体から伸ばした蔓で襲ってきた海賊達を吸い尽くしていた。
明らかにそれは悪魔の実の能力であり、しかもその強さは百獣海賊団の真打ち程度では相手にならない程に強いが……それもその筈。彼こそが新政府軍の3人の大将の1人である
『新政府軍“大将”アラマキ モリモリの実』
「これじゃもうどうしようもねェな……ドレスローザは音信不通……こっちはあのカイドウが来てる……これじゃおれが加勢したところで……」
サングラスを外し、沖合からバルティゴの新政府軍の建物があった場所を見て小声で呟く。その声色は半ば諦めが見て取れるものであった。
この遠距離からでも感じるカイドウの覇気の凄まじさにアラマキはその世界最強という肩書は、大将という肩書すら寄せ付けないものであることを悟る。
なまじ強いからこそそれがわかった。そして、この状況に陥ったという事実がやはり新政府という組織の限界ということなのだろうと。
「……出来りゃあ……外れて欲しかったけどな」
「アラマキさん!! 早く指示を!!」
「このまま加勢に戻りますか!?」
慌てた様子の一部の部下の指示を求める声を聞いて、アラマキはようやく思考から現実へ意識を戻す。そう……現実にだ。
「…………このまま逃げるぞ」
「……え?」
そしてその決断を口にすれば、呆気に取られたように間の抜けた声を出す兵士が続出する。ややあって、気を取り直した兵士達の困惑気味の声も。
「な、何を言ってるんですか大将!!」
「そうですよ!! このままじゃ新政府は壊滅です!!」
だからどうにか加勢して何とかしようと──兵士達の言うことは要するにそういうことだ。
だがその提案をアラマキは否とする。動じることもなく。
「……じゃあよォ……お前ら勝てんのか? あのカイドウによォ……!!」
「……! そ、それは……でも……!!」
「でもじゃねェだろう……!! 人間ごときが“龍”には勝てねェ……!!! それによ……もう限界だって分からねェか……!?」
「え?」
そう、勝てない。それが現実。
アラマキはモリモリの実の森人間。海に次ぐ自然そのものだ。その力は人間を歯牙にもかけずに倒すことが出来る。大自然に、人間は勝てない。それが現実。
──だが、カイドウはもはや人間じゃない。“四皇”という怪物達はもはや人類という枠組みを超えた超越者だ。
アラマキはその現実を理解している。“四皇”を倒せるのは同じ“四皇”のような化け物だけ。その化け物に、アラマキは敵わない。
「新政府って組織はよォ……!! 現実的じゃねェってこった……!!! 加盟国も非加盟国も分け隔てることなく人権を与え、守る“民衆の意志”!! そりゃあそれが叶えば万々歳だがよ……!! そんなものが叶うような世界はどこにもねェんだよ!!!」
「……!!」
アラマキは前々から懐疑的だった新政府の方針。掲げる正義に対する想いをその場でぶちまける。
そりゃ叶うならいい。勝てるならいい。怪物退治もそれに見合う戦力や戦略を用いて、それで全ての問題が解決するなら決死の覚悟で挑むこともありだろう。
だが、現実として新政府はそうじゃない。
「お前は確か元海兵だったな……なら分かるだろ? 以前の世界政府は……そりゃ上は腐ってたが、それでも多くの民衆を守りきってた……!!! 救えない奴らもいたが、その犠牲があってこその人類で……“差別”があってこその平和だ!!! 全人類皆平等……!! そんな叶いもしねェ夢を掲げる組織に、平和を作ることなんて出来やしねェ!!!」
「!!」
仁義で政治は出来ない。人の感情や夢を切り捨て、犠牲を是とするからこそ人は生きていける。そうして人間を守り、悪を消す。その徹底的なまでの現実主義こそがそれがアラマキの信念であり正義だ。
「全員が自由で平等の世界なんてのはそれこそ今の“暴力の世界”みたいなもんだ……!! 無法で力だけが正義の世界……そっちの方がまだ理解が及ぶ……!!」
ゆえに賛同出来やしないものの、百獣海賊団の掲げる“弱肉強食”の方が認められる。
それは確かに自然なものだ。人間が法や秩序を築いた以上、そこに回帰するのは多くの悲劇や死を招くだろうが、その残酷さは自然だと認めざるを得ない。
「今まではそれでも多少はマシにはなるかと力を貸してきたが……結果こうなっちまった以上、もう新政府は限界だ……!!! ここでおれやお前らがカイドウにカチコんだところで犬死にするだけで何も出来やしねェんだよ……!!!」
「……!! じゃ、じゃあどうすると……?」
一通りアラマキがその想いを吐き出したところで、兵士はその疑問を口にする。そう、そこに戻るのだ。それもまた現実。カイドウに特攻をかけたところで何も守れないというのが現実なら、ここからどうすればいいのか。他の支部と合流するのか。そうして再起を図るのか。
そしてその答えもまたアラマキは決めていた。妥協ではあるが、新政府がこうなった以上は仕方のないことだと。妥協もまた現実的な判断だと。
「……軍事組織ってのはそれを適切に扱う雇い主が必要だ……」
「?」
アラマキはその決断を、そしてその内情をどこまで事情を知らない兵士達に聞かせるべきかを迷い、結果自分では口にしないことを選ぶ。アラマキの派閥と言うべき部下達は既に知っているし、知らない者達もいつかは知るだろうが、それでも自分から話すべきことではない。知らないことにしておいた方が良いこともこの世の中には沢山ある。だからこそ今はまだ曖昧に口にする。
「“元鞘”に戻るだけだ……差別や犠牲を是とする……現実的な組織に合流する」
「! それは……」
「嫌なら戻りゃいい。もう1つの船に乗ってな。残ってついてくる奴は船を出せ。行き先は──」
行き先を告げれば、兵士達は困惑するがそれはそうだろうとアラマキは心情に理解を示す。
アラマキの部下には元海兵が多い。意図的にそうなったものではあるが、元革命軍の兵士だとしても困惑するのは同じだろう。何せ、敵対する組織のナワバリに出向こうというのだ。しかも海兵であればより抵抗感はあるだろう。
だがそこにこそ、アラマキの求めるマシな雇い主がある。以前からの誘いでそれを知っていたアラマキは、その意味を徐々に理解して動き始めた兵士達によって動き出す船の縁からバルティゴの方を見て心の中で言い捨てる。
(……海賊帝国に新政府……お前らは勘違いしてんだ……)
思い出すのは2年前の頂上戦争。それによって多くの組織が壊滅し、世界は“暴力の世界”へと堕ちたこと。
海賊達はその事実に喜び、民衆は絶望したことだろう。多くの国々や生き残った海兵達も同様に。
──だが、まだ終わってないのだ。何しろ……。
(悪ィがクザンさん……おれァ
──多くの人々が滅びたと思っている
そのことを思い、アラマキは自分を新政府に誘った人物に心の中で謝ると荒れ狂うバルティゴに背を向けて新政府と決別した。
「作戦は今のところは順調ね……」
神の大地の頂上となる4段目でそう呟くのは百獣海賊団の大看板“戦災のジョーカー”だ。
彼女は今日行われる作戦、計画のことを思い浮かべる──今日は至る所で戦乱が巻き起こっている。百獣海賊団が世界を支配するその計画が大きく前進する記念日と言ってもいい。
今回の作戦が理想的に終われば、“ひとつなぎの大秘宝”に大きく近づく。この一日、この夜が明ける頃には多くの敵対者が滅び、海賊帝国は──いや百獣海賊団の勢力はまた更に増すことになるだろう。
「私もそろそろ掃除をしないとね♡ そうは思わない?」
そしてその計画の重要な場所の1つがこのドレスローザとグラン・テゾーロだ。
この場にいる裏切り者や敵対者を尽く叩き潰す。その先に待っているのが栄光であり勝利だ。戦争は勝った者が全てを勝ち取る。富も名声も力も何もかもをだ。
それゆえにこちらも勝たなければならない。負ける訳がないとも思っているが、油断すれば足をすくわれる可能性もある。プロとして油断はしない。海賊になってからもCP0としての徹底さはジョーカーの中に残っている。余裕のある時であれば多少の遊びは元から許容するが、任せられた仕事を失敗したことはない。
だからこそそろそろ掃除に動かないとね、とジョーカーは眼下にやってきた人物に視線を向けた。愚かにも百獣海賊団という世界最強の海賊団に逆らい、その大幹部である大看板の自身に敵意を向ける馬鹿な反逆者に。
「──ジュエリー・ボニー……!!! まさかここに最初に辿り着くのがあなたとは思わなかったわ……!!」
「──お前んとこの部下がザルなだけだ……!!!」
最悪の世代の海賊“大食らい”ジュエリー・ボニーがそこに立っていた。
その敵意に満ちた視線。その表情にジョーカーは微笑を以て答える。
彼女の情報についてもジョーカーは把握している。かつての上司である世界政府の犠牲者。とある海賊──いや
「一応聞いておくけど……用件は何かしら? 仲間になりたいって言うなら歓迎するけど?」
「わかってんだろ……!! ──父親を取り返しに……!! お前を倒しに来た……!!!」
「──フフフ……やっぱりおバカさんね……!!!」
その決意を聞いてジョーカーは玉座から立ち上がる。ここまでの敵意を向けられ、言葉でも意志を示されて許してやる程甘くはない。
今は夜。吸血鬼の能力を十全に発揮出来る今のジョーカーの強さは昼間のそれよりも増している。傘だって必要ない。吸血鬼の人獣型を解放してジョーカーは更に視線を下に下ろしてボニーに言い放つ。
「さっきは邪魔が多くて仕留めきれなかったけど……次はないわ。吸血鬼の恐ろしさを存分に味わいなさい……!!!」
「……!!! 抜かせ!!! 仕留められるのはお前の方だ!!!」
そしてその言葉を皮切りに戦いが始まり、狂乱の夜は更けていく。
日が昇る頃に誰が立っているか、誰が倒れているか──今はまだ、誰にも分からない。
──そして戦いのうねりは最後の四皇のナワバリでも巻き起こる。
新政府軍本部で。ドレスローザやグラン・テゾーロで。
世界各地で戦乱が巻き起こる中、そのとある“四皇”の海域もまた例外ではなかった。ナワバリに侵入したその巨大な本船を旗艦とする艦隊は、とある島を沖合から目視し、その艦隊の長からの号令を待つ。
「ママ!! 見えました!! 科学帝国の島です!!」
「──ハ~ハハハマママママ……!!! そうかい。ならこっちも始めるとしようかねェ……!!!」
それは長というより──母だった。
この海賊の世界で、最も有名かつ悪名高い母親。それは85人の子供を持ち、百数十人の血縁関係者のいる大家族の頂点に君臨する大海賊。
「警報だ!!」
「何だ、敵襲か?」
「慌てるな。いつも通り、艦隊を向かわせて迎撃する、ぞ……」
その姿を、そのナワバリに住む人々を確認した。
──そして誰もがその怪物の姿に恐れる。
「なんでここに……!!?」
「せ、船長に!! 総帥に連絡を!!!」
「こちらエリア13!! 沖合に──ウッ!!!」
──“LIFE or DEAD? ”と魂への言葉が告げられる。
「マママママ……!!! お前ら雑魚はお呼びじゃねェんだ……呼びたきゃ呼びな。さもなきゃこっちから出向いてやるよ……!!!」
戦艦の砲撃で傷一つ負わず、艦隊を沈め、要塞を破壊し、進撃してくるのは普通の人間の数倍はデカい巨大な人間。
だが誰もがその怪物を人間として見ることはない。
喋る帽子に炎の塊に雷雲。それらを含む多くの非生物の生命を従え、息子達と娘達の先頭に立つその女海賊の覇気には科学の法則も力も通用しない。
その生命を与え、生命を奪う能力によって人々は倒れていく。抵抗する者は死ぬ。抵抗しない者は何かを奪われる。
その怪物の名を知らぬ者などいない。今世界を席巻する海賊帝国を構成する片翼。あのカイドウとぬえに並ぶ今の時代の象徴。その名を、人々は震える声で口にする。
『“四皇”……“ビッグマム”が現れました!!!』
「ハ~ハハハマママママ!!! 出て来なァ!! バギ~~~~!!! “ロード
──“ビッグマム”シャーロット・リンリン。
この世界に何十年と君臨し続けてきたその大海賊が、科学帝国を襲う。要求するのは海賊王になるのに必要なロード
「おいどうすんだ!!?」
「グ、グルル……」
「バギー船長にベガパンクの奴も今はいねェぞ!!?」
「お、落ち着くのだガネ!! ひ、一先ず
「パシフィスタも全員出しな!! 新型含む全員だよ!!!」
バギー科学帝国の幹部陣。モージにリッチー。カバジやギャルティーノ、アルビダと言った人物達が慌てて対抗策を講じようとする。ギャルティーノは別の誰かに連絡を取り、アルビダは兵器を全て出そうとなりふり構わない采配を指示する。
「ほら、
「…………」
そうして偶然、近くにいた護衛役のその兵器にもまたアルビダは命令を出すとその少女はコクリと頷いて幹部達の集まる部屋から出ていき、そのまま飛行してビッグマム海賊団の迎撃へ向かっていく。
それは子供であり、兵器でもある存在。ベガパンクの作り出した現在の科学帝国の主力。新型パシフィスタの内の1体である。
「ママ!! 敵が出てきた!! しかもあれは……!!?」
「ママママ!! PX……パシフィスタか!! だがその姿は……!!」
そしてその姿をビッグマム海賊団の将星スムージーの報告によって視認したビッグマムは、その新型パシフィスタの姿を見て悪どい笑みを浮かべる。
報告では既に聞いていたが、
だがそれでも実際に見てみるとやはり面白いし、欲しい。ビッグマムにとってその科学力は自分の夢を叶えるために必要な力だった。
「白い髪に褐色の肌。黒い翼に炎を噴出するその特徴……話には聞いてたが、本当だったのか!! ハハハ、マママママ!!! 良いじゃないか!!! お前も欲しいねェ……!!!」
「…………」
「う、嘘だろ……!!? あの姿は……!!?」
ビッグマムは喜び、そしてペロスペローやクラッカーといった息子達の一部はその姿を見て恐れと焦りを抱く。
だが彼らはその兵器の特徴を恐れているのではない。無論、脅威ではあるがこの場合、彼らが恐れているのはその個体の見た目の方だった。
彼らにとっては子供の頃に植え付けられ、今なお残るそのトラウマを見間違える筈もない。その髪の長さや顔立ち。小柄な体躯のその個体。そのモデルになった人物は──
「──
「…………」
──
黒ひげ→能力が厄介。素の実力は旧四皇程ではないと思うけどそれもあってきちんと四皇クラスではあると思う。シリュウ以外の一味勢ぞろいでぬえちゃんと勝負。
雷咆→カイドウで言う熱息で獣型の時に使う雷ビーム。
モモの助→初見でさすがに気づかない
錦えもん→さすがに日和に色々あったことに気づく(遅い)
カン十郎→??
日和→麦わらの一味の船に乗り込んだ理由は自由でした。なおその自由の代償は……。
ドレーク→スパイバレ。クイーンとクイーンの兵器に囲まれる。
赤髪海賊団→海賊帝国から告知された“イベント”を阻止するために(その他諸々の理由もあるが)新鬼ヶ島に。
バルティゴ→カイドウさんとドラゴンとかサボが大暴れでもうほぼ壊滅。
カイドウ→酒龍八卦解禁中
ドラゴン&サボ→カイドウさんの体力を削って楽しませてはいるが……。
アラマキ→最後の大将。初登場でいきなり離反。考察だけどまあこういう現実主義者というか仁義なき正義を掲げるようなキャラなんじゃないかなって。行き先は……。
ビッグマム→バギー科学帝国襲撃。ペロスペローやクラッカーとかもいるよ。
ボニー→ジョーカーへの最初の挑戦者
科学帝国→バギーとベガパンクは不在。他の幹部はいます。VSビッグマム海賊団。
ぬえちゃん→満を持して登場で海賊としてVS黒ひげです。かわいい
もうひとりのぬえちゃん→キングとぬえちゃんの子供かな?(すっとぼけ)かわいい
今回はこんなところで。原作での新情報も踏まえて本作の展開でも絡められるように新キャラや新情報や後の話のための布石と世界情勢回でした。ちゃんと全員活躍させたいなって。
次回からはまたぬえちゃんVS黒ひげやらドレスローザとグラン・テゾーロでの戦いです。お楽しみに。
感想、評価、良ければお待ちしております。