正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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化身

 

 ──“鏡世界(ミロ・ワールド)”の激闘。その火蓋は互いの覇気の激突によって切られた。

 

「ぬぐっ……!!」

 

「……!!」

 

 “黒ひげ”マーシャル・D・ティーチと“妖獣のぬえ”。

 両者の覇気を込めた拳と槍が合わさり──しかし黒ひげはそれを止めながらも苦悶の声を僅かに漏らす。

 歯を食いしばったその表情は、地力の部分でぬえに劣っていることを意味しており黒ひげ自身もまたそれを理解しており改めて思い知る──この怪物相手に、正面対決を挑むことの分の悪さを。

 

「……!! ゼハハハ……!! やっぱ覇気が強ェな……!!」

 

「降参するなら早い方が余計に苦しまずに済むわよ!!」

 

「バカ言え!! それで諦めるくらいなら最初から挑みやしねェよ!!!」

 

 だがその力の差に対し、黒ひげはすぐに口元の笑みを戻す。

 それは野心の笑みだ。勝てば野望に大きく近づく。万全以上、怪物達に勝負を挑むための欠片は揃った。条件は悪くない。運も向いている。

 ならば後はそれらを駆使して勝つだけなのだ。これで勝てなければ、どのみち野望を果たすことなど出来やしない。だからこそ黒ひげはそこで一歩踏み込むことを躊躇しない。

 

「前進あるのみだ……!! 地力で不利なら能力でその差を埋めりゃあいい!!! ──“闇水(くろうず)”!!!」

 

「!!」

 

 黒ひげがその言葉と共に左手を前に突き出し、闇の渦を発生させる。全てを吸い込み、飲み込む闇。その引力がぬえに向かって放たれる。

 だがぬえもまた動いていた。

 

「そう何度も当たるとは思わないことね……!!!」

 

「ゼハハ!! 無駄だ!! 闇の引力からは何者も逃れられねェ!!! 闇穴道(ブラックホール)”!!!

 

「!?」

 

 飛行して宙へ浮き上がり、闇の引力の範囲から逃れたぬえを、鏡世界(ミロ・ワールド)の大地に広がった闇の引力が真下に引きずり下ろす。

 広範囲に広げたゆえか、先程よりは引力が弱い。力を強めてすぐに抜け出そうとしたぬえだが──その僅かな隙を黒ひげは見逃さずに襲いかかる。

 

「ウッ!!」

 

「ゼハハハハ!! 捉えたぞ!!! これでてめェは動け──」

 

 高度を下げたぬえの頭上に飛びかかり、ぬえの首を掴んだ黒ひげはもう片方の手に地震の力を溜めて振りかぶる。ヤミヤミの力を持つ黒ひげに触れたことでぬえは能力の発動を封じられ、変型や正体不明の力を生み出すことが出来ない。

 このまま黒ひげの攻撃に為す術もなく直撃すると、黒ひげ自身がそう思ったが──そうはならなかった。

 

「ぐあァ~~~~~!!!」

 

「! 船長!!?」

 

 突然、黒ひげが上げた悲鳴に戦いを見ていた黒ひげ海賊団が驚く。見れば黒ひげの身体が、不自然に浮き上がっていた。

 

「!!?」

 

「……確かに……能力を封じられるのは厄介だけど……それだけで私を完全に封じたと思われちゃ心外ね……!!!」

 

 そしてそれを為しているのはぬえだった。ぬえの手が、自身の首を掴む黒ひげの左手を掴み、そのまま持ち上げている。黒ひげの腕を掴んだぬえの指、爪が黒ひげの腕から血を流すほどに食い込んでいた。

 首を締められた側のぬえが平然とし、締めようとした黒ひげが苦しんでいるのはそれが原因だった。その尋常ならざる膂力。それを発揮しながらぬえは言う。痛がる黒ひげを無視して。

 

「能力がなくても……私は十分に強い……!!!」

 

「痛ェ~~~!! クソ!! 離せ!!」

 

「勿論、能力も研ぎ澄ましてるけどね。これからたっぷりと見せてあげる……!!! 最高に意味不明で正体不明な力をね!!!」

 

「!!」

 

 黒ひげの腕を掴み、遂に位置を逆転させたぬえが黒ひげを地面に向かって投げる。

 

「ぐあァ!! ゼェ……クソ……!! なんて馬鹿力だ……!!」

 

 地面が割れ、破壊の跡を撒き散らしたその中心で黒ひげは血を流しながらも立ち上がる。土煙の舞い、視界が悪くなった上空を見上げてぬえの姿を確認し──攻撃の予備動作が整っていることを確認するとすぐさまその場から退避しようとした。

 

「“スピア・ザ……グングニル”!!!」

 

「……!! ぬォォ!! 危ねェ!!?」

 

 放たれたのはぬえの槍──稲妻が迸る程に強力な覇気が込められたその槍が、黒ひげの居た地面を更に割り砕き、周囲に衝撃波を発生させる。

 黒ひげの回避は必死だった。余裕を持って優雅に躱すとは程遠い。地面を転がり、衣服や身体を汚しながら息を乱して回避する──その黒ひげの顔の横。視線の端に──黒い影が現れた。

 

「!!?」

 

「──遅い」

 

「!!!」

 

 ──ぬえの足先。それを見たと思った瞬間に、黒ひげは顔を蹴り飛ばされ一直線に壁に向かって吹き飛ばされる。

 

「ぐわァア──っ!!!」

 

「ふん……油断が過ぎるんじゃない? どんなに強い能力も……それを扱う当人の力が未熟じゃ宝の持ち腐れでしかない……!!!」

 

「……!! 人獣型……!!」

 

 黒ひげを蹴り飛ばし、晴れた土煙の中から現れたぬえ。その姿が既に人獣型となっているのを見て黒ひげ海賊団の面々は慄く。その力の強さを、黒ひげ海賊団は知っている。かつてその力を振るっているところを彼らは覗き見していたことがあるのだ。

 

「──っと」

 

「……!」

 

 ──が、かといって彼らも躊躇はしない。多勢に無勢。一対一でやる必要もないし、海賊の戦いに卑怯もクソもないし、海賊でなくとも不意打ち騙し討ち上等な彼らは黒ひげの方を向いていたぬえを背後から襲うが……ヴァン・オーガーの狙撃があっさりと躱されたのを見て彼らは焦った。次の瞬間にまたぬえは高速で移動し──

 

「!!? 馬鹿な……!!?」

 

「読みやすいのよ……!!」

 

「!!!」

 

 ──光速で逃げたヴァン・オーガーの前方に現れ、蹴り飛ばした。

 

「くっ……オーガーの野郎も……!!」

 

「全員でかかりますよ……!!」

 

 そしてそのぬえに今度はバージェスやラフィット、黒ひげ海賊団の面々が襲いかかる。相手がどんな化け物であってもこの数から狙われ続けながら黒ひげと戦うのは厳しい筈。そうすれば最後に勝つのは自分達だと。そう思い──

 

「──おれもいることを忘れるな……!!!」

 

「!!? “将星”カタクリ……!!!」

 

 ──しかしその奇襲は割って入ってきたカタクリによって防がれる。

 先程までの戦いで消耗しながらも、彼の戦意は未だ消えていなかった。せめて幹部共だけでも始末してやると──強く彼らを睨みつけ、槍を構える。黒ひげと戦う……ぬえの背中を守るように。

 そしてそれに気づいたぬえは、同じく槍を構えて口元に笑みを浮かべた。黒ひげの方だけを見据えてカタクリや黒ひげ海賊団の方を見ることなく。

 

「──別に休んでてもいいけど?」

 

「──抜かせ……!! これは、おれの戦いでもある……!! お前1人に任せっきりは御免だ……!!!」

 

 互いに言葉を応酬し、

 

「……それじゃあ任せてあげる。助力は期待しないでね?」

 

「ああ……それでいい……!! お前は黒ひげ1人に集中しろ……!!!」

 

「……了解♪」

 

 三叉槍を構え、互いに互いの敵だけを見据えた。

 

 

 

 

 

 黒ひげ海賊団。ティーチ以外の連中を一旦、カタクリに任せ、私は立ち上がってくる黒ひげと対峙しながら考える。

 カタクリのその気概や意志を汲み取って、黒ひげ海賊団の面々を任せることにしたものの……おそらく、カタクリ1人で彼ら全員を倒すことは難しいだろうと。

 体力も消耗しているし、何より敵の数が多い。仮に押し切れても逃げられる可能性もある。

 万全ならともかく──既に黒ひげの一味に痛めつけられたカタクリが、1人でティーチ以外の面々を倒すことは出来ない。

 そしてカタクリもそれを理解しているだろう。それでもなお、カタクリは黒ひげを確実に仕留めるために背中を守ることを買って出た。言葉は遠回しなものだが、それでも分かる。相変わらず素直じゃないなと思いながらも、それを指摘することはしない。後でからかってやるのも悪くないが、今はその気概に報いて茶化すことはしない。

 

 ──それにこっちも……あまり愉快な気分ではないのだ。黒ひげや彼の一味に……その能力をお粗末に使われていると。

 

「ねぇ……ヴァン・オーガー?」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 背後でカタクリが黒ひげ海賊団の面々と対峙している──それを任せ、黒ひげの方へ歩いていき……その道中で血を吐いて倒れているヴァン・オーガーの元に辿り着くと、私は彼の背中を踏みつけて念のために逃さないようにする。

 

「ぐあァ!!」

 

名の知れた能力者の強い能力を得て……まさかその能力者に、強さが追いついたとでも?

 

 そして言ってやる。この強い能力を手に入れただけの弱者に──前任は弱くなかったと。

 

「ボルサリーノは、そんなに弱くなかった。光の速さは確かに、誰が使っても脅威。でもその速さを過信することはなかった。能力を鍛え、能力の弱点を戦い方で補って、覇気も鍛えてその強さを完成させていた……!!!」

 

 そう、ボルサリーノは強かった。強かったのだ。それは何度も戦った私がよく知っている。

 あの頂上戦争で、私達に有利となった戦場でこの私と戦い、あそこまで戦い抜いた実力は本物だった。

 舐めていたつもりはないが、一対一の戦いならもっと簡単に、もう少し早く討ち取れると思っていたその首は、予想に反して手強かった。

 こちらもそれなりに傷つけられたし、時間も食った。人獣型や奥の手を使わなかったとはいえ、手を抜いて戦ったつもりはないのにも関わらず。

 ……あの戦いは楽しかったなぁ。

 そう、予想以上に手強くて楽しい戦いだった。

 まさか本当に私の手をあれだけ煩わせるとは思わなかったし……さすがだった。海軍もあれだけの強者を持って幸運だったと思う。ボルサリーノがいなかったら私を止められる人間がおらず、海軍はより蹂躙されてもっと人が死んでいただろう。

 いや、それどころか全滅していた可能性だって高い。革命軍や赤髪海賊団が助けに来た時には生き残りがもう誰もいないという未来もありえた。

 そう考えれば今のこの情勢はボルサリーノが作ったとも言えるだろう。私達の目的が遠のいたことを考えれば何とも小憎たらしいことだが……それでも私個人としてはあれだけの強者と死闘を繰り広げ、目的を阻止されたことに笑みが浮かんでしまう。かつての“海軍大将”という肩書は──伊達ではなかったと。

 

「ボルサリーノは強かったよ。光速移動をする直前の溜めは狙い目なんだけどね。それを見聞色や戦術、時にはあえて能力を使わず自前の動きでその隙を潰して戦い、そして光の能力を活かして戦ってた──お前なんかとは違ってね

 

「……!!」

 

 そう──こんなたまたまボルサリーノと同じ能力を得ただけのチンピラとは違う。

 そしてそれは……もう1人に対しても同じことが言える。

 

「白ひげだって……そう。そりゃ今の私達に比べれば劣ってたかもだけどね。実際晩年の白ひげも、ボルサリーノも私達には敵わなかった」

 

「……ゼハハ……!! そりゃあそうだ。大将如きが……それに老いたオヤジがお前らに敵う筈もねェ……!! だからこそ、おれ達もあの時に事を起こした……!!!」

 

「ぐ……そうだ……あの時黄猿や白ひげが死ぬのは“運命”だった……それだけのこと……」

 

「そう、弱者が死ぬのは仕方のないこと。この海では……どんな理屈や道理を並べ立てようと関係ない。強者だけが正義で弱者が悪よ。──だけど」

 

「?」

 

 黒ひげとオーガーの言葉。それに一部は同意しながらも、私は一部を強く否定する。怒りを込めて。右手に振りかぶった槍を、オーガーの背中、心臓めがけて振り下ろしながら──

 

「敗者から全てを奪うのは……実際に戦って、勝った奴だけに与えられる“権利“よ。戦ってもない、ただ横から掠め取っただけのお前ら如きが──()()()()()敗者共を貶めるな!!!

 

「!!!」

 

 ──その生命を奪い、消し去りながら言い放つ。

 これでボルサリーノの能力を得たヴァン・オーガーという黒ひげの一味の1人は始末し終えた。

 

「私の見える範囲で私の認めた敗者達を嘲笑うようなことは私が許さない……!!!」

 

 ボルサリーノの尊厳を奪った馬鹿を始末し終え、次は黒ひげだ。白ひげの命を横から奪っていった……憎い敵。

 動かなくなったオーガーの身体から槍を引き抜き、彼の血がついたその槍を今度は黒ひげへと向ける。

 

「お前達は生かしておけないのよ、黒ひげ……!!! 白ひげの命だけを私達から奪い、私達の戦いの邪魔をしたお前は、この手で殺してやらなきゃ気が済まない……!!!」

 

「……ゼハハハ!! 成程、相当お冠だな……!! だがそれでも勝てば正義だ……!!! 虎の尾を踏んで痛い思いをしようが最後に野望を叶えられるんならそれでいい……!!! おれはお前の首を掲げてこの海の覇権争いに盛大に名乗り出てやる!!! 海賊王になるのは──このおれだァ!!!

 

 ──そして互いに勝手な理屈を押し付け合う。

 黒ひげも海賊だ。だから私のことを口で否定して強く論破しようとしないし私もしない──しても仕方がないと覇気を込める。海賊の戦いはエゴの押し付け合いでそこに当たり前の理屈や道理は通用しない。あるのは人それぞれ。個々人の“意志”。自分勝手なそれだけだ。

 だから結局、意志を相手に向けて口にしながらも矛を合わせて勝者を決めるしかない。勝てば全てを得て自分の思い通りにする。負ければ人権も希望も全て失う。この“争い”だけが、あらゆる問題を平等に解決する万能の手段なのだ。

 

「その言葉は見過ごせない……!!! 海賊王になるのはカイドウよ!!!」

 

「ゼハハハ!!! 互いに邪魔ならもう殺し合うしかねェな!!!」

 

 互いの意志を言い放ち、相手のことが邪魔だと感じたなら後はもう戦って決着をつけるだけ。

 私は背後のカタクリ達を意識から排除し、黒ひげだけに意識を向ける。黒ひげも他の仲間や、亡くなったオーガーにすら目もくれず、私だけに集中していた。その手が構えを取る。今までに何度も見たことある構え。白ひげがグラグラの実の能力を解放する時に使う構え。

 それが放たれる瞬間に私は動いた。人獣型の身体能力。脚力を以てして跳躍する。

 

「“震波(グラッシュ)”!!!」

 

「!!!」

 

 空間そのものを震わせ、打撃する地震の力が私がいた場所を──“鏡世界(ミロ・ワールド)”を震わせる。

 周囲一帯の鏡もその力に耐えられずに破壊されていく。その力を回避しながら、私は能力を発動した。

 

「まだ使い方がなってないね……!! 本気の白ひげと戦う時のために何十年も考えた戦術に対策……!! ヤミヤミの能力があるとはいえ、お前にも同じ戦術が使えそうね!!!」

 

「……!! UFO……!! 弾幕か……!!」

 

 黒ひげの周囲。全方位を取り囲み包囲するようにUFOを生み出す。

 かつての白ひげならこれも布石程度にしかならなかっただろうが、力を使いこなせていない黒ひげには十分通用する。その確信を持って、私は全てのUFOの狙いを黒ひげに集中させた。

 

「“恐怖の虹色UFO襲来”!!!」

 

「!!!」

 

「……!! ぐ……!! 躱しきれねェ……!!」

 

 あらゆる角度から放たれる弾幕の雨。UFOの不規則な動きに黒ひげは翻弄され、身体のあちこちに細かい傷を作る。こうして遠距離から弾幕技を放っているだけでも、大抵の相手は何も出来ずに屍になる。

 

「雑な地震攻撃は私には当たらないわよ!!! そのまま嬲り殺しにしてやる!!!」

 

「ウ!! チクショウ!! 出し惜しみしてる場合じゃねェな……!!! ──まだ完全に慣れてはねェが……!! 見せてやる!!! 究極の闇の力!!!

 

「……? 何をするつもり……?」

 

 飛行も浮遊も出来ない黒ひげに、高く飛び上がった私を捉えることは出来ない。そうして遠距離からの攻撃で黒ひげの体力を削ろうとした私に対し、黒ひげもまた汗を掻き、血を流しながらも吠えて両手を鏡世界(ミロ・ワールド)の地面に押し当てた。

 その間に私の弾幕攻撃が何発と黒ひげの身体に当たって傷を負わせるが、黒ひげはじっと耐えて動かない。──こうなれば、肉薄して致命傷を当ててやると力を込める。

 

 ──だがその瞬間、見聞色の未来視が()()()()を捉えて私は立ち止まる。

 

「まさか……!!」

 

「ゼハハ……未来でも見たか!? そのまさかだ……!! 見ろ!! 悪魔の実の()()()()()()に到達してるのはお前らだけじゃねェ!!!」

 

 私が驚愕し、黒ひげが私の反応を見て不敵に笑う。

 その瞬間に広がったのは一面の闇の世界。黒ひげの闇の力だけが生み出すことの出来るその世界──

 

「──“暗黒銀河”!!!!」

 

「!!!?」

 

 悪魔の実の……覚醒。鏡世界(ミロ・ワールド)全体に広がる──“闇”の空間だった。

 

「……!! 覚醒か……!! どうやら手に入れたばかりでお粗末なグラグラとは違って、そっちは研ぎ澄ましてきたみたいね!!!」

 

「ゼハハハ!! 使えるようになったのはついこの間のことだ!! お前程じゃねェが中々()()()をぶっ殺して経験を積ませて貰ったぜ!!!」

 

「! やっぱり、あの事件もお前が……!!」

 

 黒ひげの言葉を聞いて、私は先日行方不明になったという()()()()()()のことを思い出す。誰かに殺されたか暗躍でもしたのかと思っていたが、真実はやはり黒ひげに殺されていたのだと。

 あの人も弱くなかったし、黒ひげもかなり苦戦した筈だが……それでも勝利したということは黒ひげがそれほどに強く、そして黒ひげがその死線を超えて更に強くなったことを意味する。その戦いの最中か、その後に“覚醒”を果たしたということだろう。

 

「チッ……!! これじゃ迂闊に地面や壁に触れる訳にはいかないわね……!!」

 

「ゼハハ……!! 安心しな……!! このおれの身体から離れた闇に触れたところで能力が封じられることはねェ!!! ──だが」

 

「!!?」

 

 黒ひげが闇の力を伸ばし、一点の球体を作り出す。

 そして宙に浮いた暗黒球は、周囲に引力を発生させ──UFOの放つ弾幕を吸い寄せて次々に飲み込んでいった。

 

「……!! 何でも引きずり込む性質は同じってことね……!!」

 

「そうさ!! 闇穴道(ブラックホール)”!! これで引きずり込んだお前の弾幕も……!! そのままお前に返してやる!!!」

 

 ──来る。黒ひげの怒涛の攻撃が。

 私はそれを未来視でほんの少し早く察知して驚きながら、それに対処するべく動いた。──まさか私の弾幕が、しかも私と同じように()()()()()()()()()()()()()!! 

 

「“解放(リベレイション)”!!!」

 

「!!!」

 

 地面、壁、天井──闇へと変化した鏡世界(ミロ・ワールド)のあらゆる場所から、私の弾幕が私に向かって放たれる。

 それが意味するところは、この闇と化したこの空間全てが黒ひげの支配下であり、繋がっているということだ。どこからでも引きずり込めるし、どこからでも解放出来る。元から闇の力を伸ばして似たようなことは出来た筈だが、その範囲と自由度が一気に広がった。周囲一帯が闇となったことで距離感も分かりにくい。まるで宇宙空間にいるようで、黒ひげ相手の戦いじゃなければもう少し楽しめそうなのに。

 

「でもこの程度じゃまだまだ……!! 私を倒すには全然足りないよ!!!」

 

「だろうな!! 戦いはまだまだこれからだ!!」

 

 私の弾幕。黒ひげから跳ね返されてきたそれを難なく対処しながら言い放つ。自分の弾幕を返されたところで私には通用しない。それは黒ひげも分かっている筈。

 だからこそ黒ひげもまた新たな攻撃を放ってきた。黒ひげの手から生み出された闇が、先程よりも更に大きな球体となってこちらに向かってくる。

 

「“大闇塊”!!!」

 

「!!」

 

 大質量の闇の塊が、私目掛けて飛んでくる。

 ただ飛んでくるだけなら躱すことは容易だが、厄介なことにそれもまた闇の性質を持っていて、

 

「これも引力……!! 面倒ね……!!」

 

「ゼハハハ!! やるな!! これも躱すか!! だが隙が出来てるぜェ!!!」

 

「!?」

 

 だがその闇の塊を何とか躱す。動きが制限されて面倒だが、それでもまだ危なくはない。面倒なのはその次──黒ひげが跳躍し、闇の力に引き寄せられて私に向かって突撃してきたことだ。

 

「自分を引力で引き寄せて!?」

 

「ゼハハ!! ここまで来りゃコントロールも関係ねェ!!」

 

 こちらの背後の闇に、黒ひげ自身もまた引き寄せられて私との距離を詰める。その引力に逆らわず、むしろそれに向かっていったことで加速した黒ひげの地震の力と覇気を拳が、私の首目掛けて振るわれた。

 

「“震波(グラッシュ)”!!!」

 

「!!!」

 

 ──凄まじい衝撃。内部まで浸透する地震の力と能力を打ち消す闇の力。それと覇気が合わさった打撃が私の身体に少なくないダメージを与える。

 ただの覇気や能力による攻撃なら私の肉体や覇気の力でどうとでもなるし大したダメージにはならないが……さすがに地震の力と闇の能力無効化と覇気の合せ技はかなり痛い。私は地面に激突しながら、口元から僅かに流れ出た血を吐き出す。

 

「っ……!! 中々に調子が狂うわね……!!」

 

「ゼハハハハハ!!! どうだ!! お前の待ち望んだオヤジの力は!! 中々に効くだろう!!」

 

「……冗談キツいっての。この程度……全盛期の白ひげに比べたらまだまだよ……!!!」

 

 黒ひげから挑発じみた感想を求められた私は半分煽り、半分本気でそう言う。黒ひげの力は確かに強い。まさかこうも容易く攻撃を当てられ、攻撃を通されるとは思っていなかった。

 

「ゼハハ!! ならオヤジの力量に達するまで何度だってお前で試してやる!!! ──“闇水(くろうず)”!!!

 

「……!!」

 

 だが一方で……この程度じゃまだ白ひげには届いていないとも思う。

 少なくとも、ある一点においては──

 

「……とはいえ……ここまでやるなら認めざるを得ないかな……!! あははは……!!! 憎い敵とはいえ……楽しめそうね……!!!」

 

「!!?」

 

 私は口端が吊り上がるのを自覚しながら、黒ひげの闇の引力に逆らわずその身を任せる。それどころかむしろ──黒ひげに向かって行き加速した。

 

「“雷獣八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 槍に覇気を──王の資質を意味するその覇気を纏わせ、黒ひげの身体を突き刺す。

 それは箇所によっては致命傷になりえる必殺の一撃。カイドウの“雷鳴八卦”と同じく、高速で踏み込み、相手を覇気を纏った自らの得物で攻撃するという単純かつ強力な攻撃だ。

 

「グ、あァ……!!」

 

「……あはは、何とか致命傷は避けたみたいね……!! やるじゃない……!!!」

 

 黒ひげの背後まで一瞬で移動した私は、背後でのたうち回りながら悶絶する黒ひげの姿を見て感心する。脇腹が抉れているが、大したものだ。完全に不意を突いたつもりだが、あの状態から致命傷を避けるとは。黒ひげの地力、戦闘技術や読みも悪くはないということだろう。

 

「さっさと終わらせて外の掃除に戻ろうと思ってたけど……この分じゃ間に合わないかもね……!!!」

 

「ゼェ……ゼェ……ハァ……ハァ……!! ゼハハ……!! やっぱ簡単にはいかねェか……カイドウと並んで“最強”の称号に偽りはねェようだ……!! 正直キツいが……この機を逃せばおれに次はねェ!!!

 

 脇腹と口から血を流す黒ひげが、呼吸を乱しながらも立ち上がる。この程度じゃ全く致命傷にはなり得ないのは黒ひげの情報からも実際に見た力量からも分かっている。その異形っぷりからして……殺るなら頭か首を狙うのが確実だろう。

 私は再びUFOを幾つも生み出しながら、宙へ浮き上がる。黒ひげによって変貌したこの闇の世界でさえ──私の恐怖に勝るものではない。

 

「奪ってやる……!! お前を殺し……カイドウを殺し……“四皇”の席をなァ!!!」

 

「“妖獣”の恐怖にひれ伏せ!!! この正体不明の妖怪(ぬえ)が本当の恐怖ってものを教えてやる!!!」

 

 黒ひげもまた闇の力を幾つも生み出す。もはや互いに油断はない。

 

「!!!」

 

 そして一瞬の溜めの後──闇の力と正体不明の力が激突した。

 

 

 

 

 

 ドレスローザ、グラン・テゾーロの境界──“神の大地”の1段目。

 

 激戦の続くその大地の上は、戦いのない場所がない程に騒然としていた。海賊も海兵も民衆も……その誰もが武器を手に取り、戦っている。

 

「待つれす~~~~~!!! ウソランド~~~~~!!!」

 

「うぎゃああああ~~~~~~!!!」

 

 ──そんな中で、海賊でありながら敵から逃げる一団があった。

 先頭に麦わらの一味の狙撃手であるウソップを置き、百獣海賊団の“真打ち”ダウトから逃げるトンタッタ族の一団である。

 

「逃げ足が速いれすね!! ウソランド!!」

 

「でもそろそろ逃げる場所がなくなって来たれすよ!!」

 

「どっちに行くれすか!?」

 

「う……上だ!! 上に行け!! とにかく距離を取ってくれ……!!」

 

「了解れす!!」

 

 シュガーを気絶させる一連の作戦の最中に負傷したウソップをトンタッタ族が運び、ひたすらに逃げる。

 だがそこは既に戦場。激戦区。どこにいっても敵の方が多い。

 

「おい!! ありゃ確か麦わらの一味だ!!」

 

「メアリーズから報告があった!! そげキングの中身だ!! 確か3000万!! 仕留めりゃそこそこ戦果になるぞ!!」

 

「! ウソランド!! 前方からも敵が!!」

 

 神の大地の1段目にいた多くの海賊帝国の兵士達。主に百獣海賊団の戦闘員達がウソップの姿を見るなり武器を構えて襲いかかってくる。

 既にそげキングの中身がウソップであることは周知され、更にはシュガーを気絶させてドレスローザを解放した主犯であることもバレている。

 それゆえに警戒対象──特にドンキホーテ・ファミリーからはドフラミンゴの命によって優先的に抹殺するように指示が出されていた。

 

「ハァ……ハァ……ようやく追いついたれすよ!! ウソランド!!」

 

「ちくしょう!! 逃げ場が……!!」

 

「戦うれすか!!?」

 

「こっちは狙撃手だってのに……!! それにこの数……どうすりゃいいんだ!!」

 

 背後からはダウト率いる百獣海賊団側のトンタッタ族も追いつき、周囲も海賊帝国の兵だらけ。

 数や戦場の不利もあり、ウソップ達はまさに窮地に陥っていた。

 ──だが。

 

「!!!」

 

「うおォ~~~~~~!!? 何だ!? 敵の攻撃か!?」

 

「! 誰れすか!!?」

 

「……!! おい……あいつは……!!」

 

 ──その数や地の利を覆す程の強者もまた、味方側に存在する。

 ウソップが敵の攻撃と勘違いする程の勢いで目の前に落ちてきたその人影に、周囲の海賊帝国の兵達が気づいて二の足を踏んだ。それほどに、警戒すべき人物。海賊帝国を裏切った反逆者であるその女傑の姿がそこにはあった。

 

「……!! 随分と遠くに飛ばしてくれたな……!!!」

 

「──ボア・ハンコック!!!」

 

「うお!!? 海賊女帝~~~~~~!!?」

 

「すっごい美人が現れたれす!!?」

 

 百獣海賊団を裏切った元“七武海”。九蛇海賊団の船長であるボア・ハンコックが、周囲には目もくれずに片膝を突いて上を見上げている。

 額から僅かに血を流し、戦塵でその身を汚しながらもその姿は美しい。誰もが見惚れるその美貌は健在で、彼女を見ていた全ての男が──あるいは女でさえも魅了させる。

 だが彼女の視線は未だ上を見ていた。ほんの僅かに、ちらりと横を見て近くにいるのが麦わらの一味のウソップであることを確認すると、視線をすぐに戻して一言だけ投げかける。

 

「ルフィの仲間じゃな……!! 死にたくないならさっさと離れよ!!」

 

「え……お、おう!! おれは確かにルフィの仲間だが──ん?」

 

 ウソップがその言葉に反応した直後。ウソップ達のいる場所に光が──そしてその光源によって生じる影が差したことで上を見上げると……そして目を見張った。

 

「うぎゃああああ~~~~~~!!! 黄金の巨人~~~~~!!?」

 

「──テゾーロ様!!?」

 

 ──神の大地の一段目に降りてきたのは、まさしく黄金の巨人だった。

 これだけの黄金を操れる者は世界にただ1人しかない。その姿もその男のことを模していることもあって、多くの者はすぐに気づいた。

 ハンコックを追いかけてきたその黄金の巨人こそ、グラン・テゾーロの支配者である“黄金帝”ギルド・テゾーロだと。

 

「しぶといな……だがいい加減目障りだ!! さっさと我が黄金の力に屈しろ!!!」

 

「しぶといのは貴様の方じゃ!!! 黄金など……わらわの美しさの前には塵に等しいもの!!!」

 

「え?」

 

「おい、まさか……!!」

 

 そしてそのテゾーロもまた、ハンコックだけを見下ろし、標的としてその黄金の拳を──古代巨人族に匹敵する巨躯を以てハンコックを叩き潰そうとしている。周囲の雑兵は敵味方問わず、気にしてもいない。

 ゆえにウソップを筆頭に、その場にいる誰もが気づいた。──あ、こいつらここでも戦う気だ……と。

 そしてこのままこの場所にいれば、その戦いに否応なく巻き込まれて死にかねないと──そう気づいたのとほぼ同時に。

 

「お前の力は私には届かん!! 潰れろ!!」

 

「うお~~~~!!? 待て待て待て!!! ここで戦うな~~~~!!!」

 

「逃げろ!! テゾーロさんとハンコックの戦いに巻き込まれるぞ!!!」

 

 一斉に、敵味方問わずその場から逃げ出した。

 奇しくもそれによってウソップ達も包囲から逃れられる──などと考えている余裕は本人達にはない。彼らに見えているのは、テゾーロの身に纏うその巨大な黄金の巨人の拳が、ハンコックのいる場所に振り下ろされようとしているという身の危険だけ。

 

「おい!! お前も危ねェぞ!!」

 

 それに加えてウソップ達もハンコックの身を僅かに案じる。あれだけの巨体の攻撃をまともに食らえばひとたまりもない。少なくとも常人なら即死でそうでなくとも重傷は免れないだろうと。

 だが当然、ハンコックは逃げない。それどころか向かっていった。その凄まじい脚力で跳躍し、そのままその長い足に覇気と石化の力を込めると──両者の攻撃が激突した。

 

「“黄金の業火(ゴオン・インフェルノ)”!!!」

 

「“芳香脚(パフューム・フェムル)”!!!」

 

「!!!」

 

「うおっ!!? 止めた!!?」

 

 互いの攻撃が拮抗し、衝撃波が周囲に広がった。

 周囲の者達はその衝撃波に身をかがめてやり過ごし、その戦いのレベルの違いに戦慄する。元“七武海”とそれに匹敵する“新世界の怪物”の戦いはただの戦闘員が交ざれるレベルではなかった。

 

「さすがは元“七武海”だな……!! よしお前ら!! 今のうちに……!!」

 

「! なるほどウソランド!! 今なら敵に隙が……!!」

 

「──逃げるぞ!!!」

 

「え~~~~!!? また逃げるんれすか!!?」

 

「! また逃げて……!! 待つれす!! 地の果てまで()()()()()()れすよウソランド~~~~!!!」

 

 そのレベルの高さにウソップは放っておいても大丈夫だと判断すると再び踵を返してその場から逃げる。それを遅れてトンタッタ族とダウトとその部隊が追いかけていった。

 

 ──そしてハンコックとテゾーロは戦場を気にせずに戦いを続行する。

 彼らにとって戦場の移動は戦いを止める理由になり得ない。

 

「……!! さっきのも麦わらの一味か……!! 分からんな。あんな者達のために裏切るなど……!! あの弱小海賊共に勝算などない!!! 君なら理解していると思ったが……!!」

 

「ふっ……馬鹿馬鹿しい!! わらわは勝算のあるなしで付く方を決めたのではない!!!」

 

 テゾーロの黄金の巨体が、その巨躯に反してスピーディにハンコックへ攻撃を次々と繰り出していく。

 それを躱し、時に受け流したりしながら移動しつつ戦いながらハンコックはテゾーロのその言葉に反論した。

 

「わらわが裏切った理由は……ひとえに愛じゃ!!! わらわはあの人以外の何者の物にもならん!!!」

 

「……!! 下らないことを……!!」

 

 その自身に満ち溢れたハンコックのその言葉を聞き、テゾーロは苦々しい表情を浮かべて下らないと切り捨てる。歯を噛み締め、忌々しさも多く混じるその表情には様々な感情が隠れていた。

 

 ──だが、それを口にすることはない。それを口にすれば、テゾーロもまた自身の秘密に……何よりも隠したいトラウマと同じものを指摘することになる。

 だからハンコックに対してそれを口にすることはしない。そして、だからこそハンコックに強い怒りを抱いていた。

 

『よく這い上がってきたね』

 

『あの時の借りを返しに来た? ──あはは!! いやいや、気にしなくていいって!!』

 

『確かに傘下に入ってくれるなら助かるけどねー。とはいえここまで這い上がってきたのはあなたの実力よ。その強さをどう使おうがあなたの自由だし、好きにすればいい』

 

『あなたにとっても利になる、か……まさかそこまで積極的に売り込んでくるとは思わなかったなぁ……でもつまり本気ってことだね? ──それじゃあ、これからよろしくね!!』

 

 ──テゾーロにとって、何よりも重要視するのが“金”。金の力だ。

 だが金を絶対と考える価値観を持つテゾーロにとっても、一線は存在する。

 その恩義を忘れていないからこそ、テゾーロは自身の欲や野望を満たしながらも彼女に協力し、もう1人の恩人の種族を虐げることはしてこなかった。

 だからこそテゾーロは分からない。裏切ることも、裏切れることも。

 口には決して出さないが、怒りを抱く。彼女には、どこか同じ気持ちを共有していると思っていたからこそ。

 

「……裏切り者には“牢獄”すら生温い……!! 死を以て贖ってもらう……!!!」

 

 テゾーロはそのことを決して口には出さず、ただ海賊帝国を裏切った敵に対しての言葉を発する。

 どの道やることは変わらない。そこにどんな理由や背景があろうが、裏切り者は処するしかない。

 

「ボア・ハンコック……!! 君では“四皇”にも……!! この“黄金の巨神(ゴールデン・テゾーロ)”にも敵わない!!! カイドウさんやぬえさんに代わって……!! この私が永遠にも等しい美しい死をくれてやる!!! 君の黄金像は高く売れそうだ……!!!」

 

「そんなものは必要ない!!! たとえどれほどの暴力や恐怖に晒されようと……!! わらわはもう……誰にも従わぬ!!!」

 

 テゾーロの奥の手である“黄金の巨神(ゴールデン・テゾーロ)”。彼が信ずる金の力を、神と称するその大技がハンコックに神罰を与えるべく迫り来る。

 その鮮烈な戦いの火花と輝きは、島全体にすら届き、神の大地を震わせた。

 

 

 

 

 

 ──そして一方。世界中のあらゆる場所で大きな戦いが起こる中……一足早く、その戦いは決着が付こうとしていた。

 

「惜しいな……」

 

 白土と瓦礫。そしてそよ風だけが吹くその島。ほんの少し前までは新政府の本部は跡形もなく崩れ去り、そこにはたった1人の男だけが立っていた。

 その男こそ、最強生物と謳われる百獣海賊団総督──“百獣のカイドウ”。

 彼は自身の身体に刻まれた細かい幾つもの傷や周囲の叫び声に反応することなく、気絶して目の前に倒れた()()()()を見下ろす。先の言葉は、この2人に対してのものだった。続く言葉も。

 

「お前ら程の強さがあれば……世界を変えれただろうによ……おれ達と敵対しなきゃあな……」

 

「ドラゴンさん!! サボさ──ん!!」

 

「おいバカ行くな!! 殺されるぞ!! 逃げるしかねェ!!」

 

 それはカイドウにとっての賛辞。称賛の言葉だった。

 自身と戦える強者はそれほど多くはない。故人を含めても、カイドウとある程度戦える相手というのは両手の指に満たない程だ。

 それを自覚しているからこそ、カイドウは勿体ないと思う。これほどの強者が、弱者を救うなどという甘い理想を掲げていなければ──あるいは自分達と轡を並べて世界を取りに行くことだって出来ただろうと。

 

「だが仕方ねェ……お前たちも……“ジョイボーイ”にはなれなかったってことだ……!!!

 

 この世界が待ち望む者。大昔の人物の名と同一の者を指して、彼にはなれなかったのだとカイドウは確信を持って口にする。

 自分達とは別のやり方で世界を変える。それを目指すのならば、それになるしかないのだとカイドウは知っている。だからこそ、カイドウにとってその名は自身の最大の敵として相応しいものでありながら、同時に──自身が()()()()()()()()()()()()()だとそう確信していた。

 

「後は向こうのぬえかジョーカーが始末をつけるだろう……お前らはここで終わりだ……!! 新政府……!!!」

 

「……!!」

 

 世界を自分達の望む姿へと変える──そのための大きな一歩としてこの日、新政府という秩序を保つ組織を徹底的に破壊する。

 ドラゴンとサボを倒した以上、残りは雑兵の掃除をするだけだった。各支部にいる残党の掃除もまだ残っているとはいえ、本部を破壊し、ドラゴンとサボを始末し、ドレスローザに向かった戦力を撃滅すれば後は作業でしかない。

 そう、ここからは掃除なのだ。蹂躙という名の、カイドウの一方的な虐殺劇。周囲を囲む新政府軍の兵士達に視線を向けるカイドウの表情は、それを行うことを物語っていた。ただの1人も逃さない。ここにいる者は全員殺すか、あるいは奴隷にする。

 その巨大な金棒を手に、カイドウは兵士達の方に一歩踏み出す。そうして龍に変型し、彼らを塵のように吹き飛ばしてやろうとした──その時だ。

 

「“氷河時代(アイス・エイジ)”!!!」

 

「!!!」

 

「!?」

 

 ──カイドウを狙って、地面を一瞬で氷結させるその技がその一帯とカイドウを包んだ。

 それを見ていた新政府軍の兵士。そして何とか逃げようとしながらそれを見たビビは瞠目する。

 

「おい、やったぞ!!」

 

「いや……ダメだ……!! 早く逃げろ!!」

 

「あれって……!!」

 

 兵士達は当然、そして加盟国の王女やそうでない者も、誰もが知るその能力は有名なとある男のもの。

 そしてその力によって氷漬けになったカイドウを見て、一部の兵士はカイドウをやったと一瞬でも思った。その一瞬、カイドウがその氷を中から強引に割り砕いて出てくるまでは。

 

「……!!! この技は……」

 

 内部から自身の肉体の力でその氷漬けから脱出したカイドウは、その能力を見て奴がいるのかと少しの間警戒する。周囲を見聞色の覇気で探り、そしてその気配が全く見当たらないのを見て。

 

「いや……違う……!! クザンじゃねェな……!! 覇気を全く感じねェ……!! てめェは一体誰だ!!?」

 

「……!!」

 

 カイドウが視線を向けた先──そこに立っていた、クザンの姿を見てカイドウは吠える。姿形はクザンそのものだが、そこから全く覇気を感じないことでカイドウはそのクザンを一瞬で偽物だと見抜いた。そのまま、その偽物だと確信するクザンに向かって駆け金棒を振り抜く。何者だろうと偽物如き、一瞬で叩き潰してやると──

 

「!! 幻影……!!?」

 

 ──だが、そのクザンはカイドウの金棒に振り抜かれるとあっさりと消えてしまう。その幻影に惹きつけられ、僅かに時間を取られている間に多くの兵達がその場から逃走していく。それを見て、カイドウは自分がおちょくられたのだと理解した。

 

「……!! ぬえみてェなことをしやがって……!! 隠れてんじゃねェ!! 出てこい!!」

 

「!!!」

 

 カイドウが龍の姿に変型し、その口から即座に“熱息(ボロブレス)”を建物の瓦礫に向かって撃ち込む。声はここから聞こえたとカイドウの見聞色は位置を見抜いた。

 そしてそれは正確で、

 

「ハァ……ハァ……!! 時間を稼げた……!! 今のうちに逃げなきゃ!!」

 

「ああ!! モタモタすんな!! ドラゴンさんとサボも回収してお前ら逃げろ!!」

 

「……!! まだ幹部がいたか……!!」

 

 カイドウの“熱息(ボロブレス)”を何とか瓦礫から飛び出すことで回避し、姿を現したのは1人の少女とミンク族の男。

 1人は元革命軍で新政府軍の中将、南軍の支部長も務めるリンドバーグだ。彼は周囲の兵士達に指示を出しながら、カイドウの戦闘力の凄まじさに表情を引き攣らせている。一緒にいる少女の名前を出しながら。

 

「くそ……!! アンの“ビジョビジョの実”の能力の幻影とはいえ、もう少し足止めが叶うと思ったが……すぐにやっちゃうんだもんな……!!」

 

「ごめんなさい……リンドバーグさん……!!」

 

「! 新政府軍のリンドバーグ……!! それに……そっちは確か歌姫のアン、だったか……!! ぬえが名前を出してやがったが……まさか新政府軍に合流してるとは……」

 

 “歌姫”のアン。この“暴力の世界”においても一定の振興がある音楽業界において、メジャーなアーティストの1人であったことをカイドウは思い出す。リンドバーグと共にこの場から脱しようとするその少女の顔は確かにその人物だった。

 カイドウ自身は興味はないが、ぬえがその手の話をするのでおおよそのことは覚えてるしそれなりに詳しくはなった。“ソウルキング”や()()()()()()()のような爆発的人気こそないものの、彼女もまたぬえの主催する祭典に招かれる程の歌手。悪魔の実の能力者であることも聞かされており、その能力は触れたものの幻影を生み出す“ビジョビジョの実”。その人物の写真や絵を触れただけでも生み出すことが可能なその能力は、短時間とはいえ強力なものだと。それゆえに、得心が行くし謎も生まれる。カイドウが逃げる彼らを見ながら不可解に思ったのは──

 

「……成程。ここにいたというクザンはずっと幻影だったか……!! なら本物はどこにいやがる……!!? ここじゃねェとすると……まさか」

 

 ──本物のクザンがこの場にいない。内通者からの報告で聞いていた筈のそれが誤情報であることを理解すると、すぐにどこにいるのかを思考し、可能性が高い場所をカイドウは思い浮かべた。それを口に出そうとしたその瞬間、地面から別の声が、掠れるような声が耳に届く。

 

「……お前たちの……襲撃、は……予想していた……」

 

「! ドラゴン……まだ意識があったか……!!」

 

 新政府軍の兵士。彼らに肩を担がれて運ばれる。その最中にドラゴンは、朦朧とする意識の中で負け惜しみを口にした。

 だがそれは、負け惜しみでありながらカイドウ達百獣海賊団。そして海賊帝国の作戦を覆す1手なのだと。ドラゴンは、その受け継いだ意志を口にする。

 

「だからこそ……!! 我々はもしもの時に備え……海賊帝国の牙城を切り崩すための戦力を……この本部から切り離した……!! 全てはお前達の作戦を上回り……!! 確実にその牙を折るために……!!!」

 

「……!!」

 

「とはいえその襲撃が、これほど迅速に行われるまでは読めなかったが……おかげで王達や、サボ達を逃がす時間は作れなかった……」

 

 そこまで聞いて、カイドウもまた理解する。

 この目の前の男は、元より──()()()()()を持っていたのだと。

 世界を変革し、その障害となる最大の敵の戦力を少しでも削り、次代を残すことで──その革命の灯火を次に残そうと企んだ。

 もっともそれは結果的なものであり、上手くいくなら本部を移転し、自身が率いてその反攻作戦をまだまだ継続するつもりであっただろうが……それでも、ここに至った以上、彼にはその意志を消さないために全力を尽くす必要があった。

 たとえそれが──自らの命であったとしても。世界を変えるためなら犠牲にするのに……何のためらいもない。

 

「その時間はまた自分で作り出す……サボ達は消させやしない……!!!」

 

「……!! ドラゴンさん!!」

 

「何やってんですか!!」

 

「一緒に逃げましょう!! おれ達にはまだあんたが必要です!!」

 

 その決意の言葉と共に、ドラゴンは再び自らの力で大地に立ち、カイドウを前に立ち塞がる。背後に風の、嵐の壁を作り、サボ達を含む若い兵士達を守りながら。

 

「さァ、どうだ? カイドウ……元帥に大将、参謀に軍隊長達も健在だ……!! お前達が計画した我々新政府の殲滅作戦は、これで失敗に終わる……!!」

 

「……お前が死んでもか?」

 

「ああ、当然だ……おれが死んでも、その“意志”は決して消えやしない……!!!」

 

 据わりきった、それでいて何かを思いじっと見下ろすカイドウの視線と言葉に対し、ドラゴンは言った。

 

「たとえお前達が、どれほどの“暴力”を振るい、人々を“恐怖”で震え上がらせようとな……!!!」

 

「…………!!」

 

 ニヤリと若い頃のような笑みを浮かべ、ドラゴンはカイドウを挑発するように宣言する。──お前達の野望は叶わないと。

 それを聞いたカイドウは、龍から人獣型に戻った。その上でドラゴンを見下ろし、そして告げる。

 

「……よく分かった。最期に言い残すことはあるか?」

 

「そんなものはない……!! おれは諦めが悪いんでな……!! この期に及んでも、お前に勝つ奇跡を信じて戦い抜くだけだ……!!!」

 

「……()()()()()。だが、いいだろう──」

 

 満身創痍の状態でなお、戦う意志を強く秘めた瞳で敵を射抜くドラゴンにカイドウもまた同じ名を冠する龍の力を持つ者として全力でその挑戦に応えた。

 もはや周囲の人間には眼中にない。そんなことをすればこの男の死に泥を塗ることになる。

 百獣海賊団の総督として、この後は敵を掃除をしなければならない。それは変わらないが──それでも、この男が息絶えるその時までは、この場にいる周りの人間に手を出さないでいてやると。

 それが海賊と武人の狭間で生きるカイドウとして出来る精一杯の称賛と冥土への手土産だった。

 

「────」

 

「来い……!!!」

 

 ──全力で叩き潰してやる、と。覚悟の決まった男の頭上目掛け、カイドウは金棒を振り上げる。

 

 ──そして。

 

「!!!!」

 

「ドラゴンさァ~~~~~ん!!!」

 

 ──何かが潰れる音と、それをかき消す音の轟音。それと同時に……1つの嵐が鳴り止んだ。

 

 

 

 

 

 ──そして、その男は動き始める。

 

「…………」

 

 ドレスローザに着陸した新政府軍の軍艦。大将であるイッショウが船を浮かせ、そうして街の真ん中に着陸したその船から、1人の長身の男がゆっくりと這い出てくる。

 街全体が──いや、島全体が戦場。神の大地だけでなく、2つの島全てに鋼を打ち合わせる音や火薬の音。人々の咆哮が聞こえてくる。

 

「ん? おい、人が出てきたぞ……!!」

 

「新政府軍の船か? だったら敵だ!! さっさと仕留めろ!!」

 

 そこにいた海賊帝国の兵士達。主にドンキホーテファミリーの下っ端達が、新政府軍の船から出てきた男を敵と判断し、即座に斬りかかる。

 その判断は迅速で、間違ってはいなかった。その男は確かに、海賊帝国にとって敵で間違いない。ただし──

 

「!!!?」

 

 ──その敵が、大将級であったこと。それだけが彼らの間違いだった。

 

「フゥ~~……ちょいとごめんよ、お兄さん達……こっちもちょっと……気が立ってるもんで……」

 

「……!!? あの男は……!!」

 

 雑兵を一瞬で氷結させ、戦闘不能としたその男を、近くに配置された飛行能力を持つメアリーズが確認していた。

 そのメアリーズは札で隠れた顔を青褪めさせ、すぐに自分の上司でありこの戦場を統括する“大看板”のジョーカーに緊急連絡を入れる。

 

『ジョーカー様!! た、大変です!!』

 

「! あら、どうしたの? こちらは今取り込み中なのだけれど」

 

『申し訳ありません!! しかし新たな敵が……!!』

 

「? 増援? 一体誰かしら?」

 

『それが……相手は──』

 

 神の大地の頂上で戦闘中のジョーカー。しかし、余裕のあるジョーカーは戦闘中であるにも関わらず、その連絡を取って報告を耳にする。焦った様子のメアリーズの声。その尋常ではない様子を訝しんだ。

 ──だがその理由はすぐに理解した。メアリーズの震えた声。その意味。新たな敵の増援。その相手の名を聞いて。

 

『──クザンです……!!! 新政府軍元帥の……!!!』

 

「!! 何ですって……!!?」

 

 その名を聞いて、そして視界をメアリーズから送られてくるものと共有した途端──ジョーカーの表情が驚きに染まった。

 

『……どうせ見てるか……あるいは聞いてるんだろ? 元CP0のねーちゃん』

 

「……!!」

 

 そして、その声がジョーカーに向けて届けられる。近くにいるメアリーズ。その存在を察知し、あえてクザンがジョーカーに向けて言葉を口にした。

 

『急で悪いんだが……ここからはおれも参戦する。ぼちぼちそっちに向かうんで……覚悟しとけ

 

「……!! フ、フフフ……!! 上等……!! そっちこそ、死ぬ覚悟は決めて来ることね……!!!」

 

 そしてジョーカーは繋がっていた通信を切ると、目の前にいたボニーを強く蹴り飛ばし、そして戦意を昂ぶらせながらその気持ちを口にした。

 

「ぐっ!!?」

 

「フフフ……!! 大将や元帥にビビってちゃ“大看板”は務まらない……!!! 来るなら来なさい!!! 叩き潰してあげるわ!!!」

 

 人獣型の姿。吸血鬼として存分に力が振るえる夜の月の下で、ジョーカーは戦域にいる全ての配下にその報告を伝える。

 

 ──新政府軍元帥。元海軍大将“青雉”……クザンが、参戦したことを。

 

 

 

 

 

 ──“鏡世界(ミロ・ワールド)”。

 

 全てが闇に染まり、まるで宇宙空間のようになったその戦場で、私は“黒ひげ”と殺し合っていた。

 

「“闇水(くろうず)”!!!」

 

「……!!」

 

「ぐあ!!」

 

 正面に見えた黒ひげの発する闇の引力──それを躱し、黒ひげの肩を槍で刺す。

 堪らずたたらを踏んだ黒ひげを追撃しようと距離を詰めるが、黒ひげもまた自身を闇の引力で引き寄せて距離を取り、そして今度は突撃してきた。地震の力。それを私に向かって振るおうと拳を振り上げる。

 

「“震波(グラッシュ)”!!!」

 

「ふん!!」

 

「ぶへェ!!」

 

 地震の力を受け止め、その間に背中の羽を急激に伸ばし、その覇気を込めた羽で黒ひげを貫く。これもまた、少なくないダメージがあるだろう。血を多く流し、私よりも多く負傷する黒ひげの体力は私よりも確実に削れている筈だ。

 ──だが。

 

「!?」

 

「ゼハハ……!! 捉えたぞ……!!」

 

 自らの手。そこに私の羽を貫かせ、黒ひげは私を引き寄せる。

 そうして私を引き寄せ、覇気と地震の力を再び拳に込めるとそれを私の腹に叩き込んできた。

 

「“震撼撃(グラッツェ)”!!!」

 

「!!!」

 

 凄まじい衝撃とパワーが私の身体。その内部までもを震わせ、打撃する。

 さすがに堪らず私は下に生んだUFOの上に落ちながらも即座に立ち上がった。黒ひげもまた、地面に降りて体勢を立て直す。

 

「ゼハハ……!! また一発だ……!! だんだん分かってきたぜ……!! やろうと思えばやれるもんだな……!! ゼハハハハ……!!!」

 

「……!!」

 

 その黒ひげの台詞。不敵な表情を睨みつけながら、私はそのしぶとさと成長性に感心し、そして脅威を感じる。

 戦いは基本、見聞色の未来視を使う私が有利で、身体能力でも勝る私が攻め立てて封殺する展開が続いていた。

 ──だが途中から、黒ひげが徐々に私に攻撃を当ててくるようになったのだ。まるで同じように、()()()()()()()()()()()()()

 それが意味するところは黒ひげの急激な成長だ。戦いの中で、黒ひげは成長している。私の動きを学び、私の動きに押されながらも致命傷だけはギリギリのところで避け続け、耐え続けながら少しずつ攻撃を当ててくる。

 そのタフさ、しぶとさはまるで私達動物系の能力者や──()()()()()()()()()()()()

 持ち前の機転や工夫。持って生まれた力を使い、時には敵に学び、時には運にも助けられ、いつやられてもおかしくないギリギリの戦いを演じ続ける。そうしていつしか、敵を乗り越える。昔読んだそういう王道少年漫画のような、そういうものを感じる。

 

「……まるで……生かされてるようね……“運命”に……」

 

「あ?」

 

 私は小声で、独り言を呟きながらその黒ひげの強さと天運の──いや、悪運の強さに感嘆した。

 いつしか、あの麦わら帽子の男に、この世界の中心ともいえる男にも感じたそれと似たようなものを黒ひげにも感じる。何故立てるのか。何故立ち上がれるのか。何故立ち向かえるのか。その理由が分からない。

 普通ならもう倒れてもおかしくない。いつ死んでもおかしくない。何かひとつでも間違えれば即座にデッドエンド。戦いは、常にこちらが優位で実力的にもこちらが格上。

 だというのに勝負が中々決まらない。思い通りにならない。分からない。その理不尽に、私はどうしようもなく。苛立ちを通り越して──

 

「……あはは、あはははは……!!!」

 

「!」

 

 愉快さから来る──()()()()()()()

 この高揚は強敵と戦った時に得るそれだけでなく、私だけが理解出来るそこからもやって来る。

 何しろ“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチという敵は、判らなかったし、判ってきた今でも判らない部分がある。未知数の強敵。底知れない。この私でも、あるいは──と思わせるものがある。

 

「いいわ……私も楽しくなってきたし、ノッてきた……!!!」

 

「……!! チッ……そんなに覇王色を垂れ流しやがって……!!! 迂闊に近寄れねェ……!!」

 

 おっと。いけないけない。昂りすぎて覇気も昂ぶっていたみたいだ。

 だがそれでもいい。その覇気を抑えることなく、私は黒ひげに楽しい気持ちを抑えることなく言ってやる。

 

「認めてやる……あなたは強い……!! そして、私が戦うに値する敵だってね……!!!」

 

「……ゼハハハ……!! 舐めていて貰ったほうがこっちはやりやすいんだがなァ……!!!」

 

 黒ひげ相手に抑える必要はない。白ひげを殺した憎い敵だが、楽しめる強敵だ。この勢いのある未知数の強敵に、誰が“最強”で“最恐”なのか分からせてやる必要がある。

 だからこそ、私は賛辞を込めて──掌からそれを取り出す。

 

「“バヤナカ”」

 

「!!?」

 

 私の掌から取り出したそれを見た黒ひげの表情が驚きに変わる。

 驚きの中に僅かな恐れに不安、好奇心を感じる私の好きな表情だ。それに気分を良くしながら、私はお約束に従って敢えて説明してあげる。

 

「……!! 何だそれは……!!?」

 

「これは私のバケバケの実の力の源である“恐怖”。人間の負の感情。妖怪にとって必要不可欠な生命力。この恐怖があるからこそ、妖怪という存在は成り立っていた──どう? とっても綺麗で……惹かれるでしょ?」

 

「……!!」

 

 黒ひげが言葉を、二の句を継げない。黒ひげなら忌憚ない感想が聞けたかもしれないが、さすがに初見だとキツいかもしれないなと私はその反応に喜ぶ。

 この恐怖をエネルギーとして抽出したこの黒い靄のような塊。バスケットボールサイズのそれは、この周囲一帯が闇の中にあっても一際強く存在感を示し、輝いている──蠢き続ける人の顔のような斑点はまるで生きているかのようで、これを生み出している私から見てもとても恐ろしくて笑みが溢れる程だ。

 

「黒ひげ……あなたにだけは教えてあげる。この私のバケバケの実が……何故そういう名前なのか……そして、何故歴史に名前が残っていないのか……!! 私がこれから見せる戦いを見て、精々考察することね……!!!」

 

「……! 何を……!!」

 

 私は黒ひげの返事を待たずに、その塊を掌で掴めるサイズにすると──それを思い切り握りしめて潰した。

 

「見せてあげる……!! バケバケの実の真骨頂……!! 私の──

 

 ──“無数の化身(コーティ・アヴァターラ)”を」

 

「!!!?」

 

 左足を上げ、右手を天に。左手を地に。右足だけで立つような不思議なポーズを取ったまま宙で漆黒の靄に包まれる──さあ、久しぶりの全力の戦いだ。

 

 見せてもらうよ黒ひげ。私の無数にある“化身(アヴァターラ)”を前に──どこまで食い下がれるのかをね!!!




ウソップとトンタッタ族→ダウト達から逃走中。また上段へ
テゾーロ→ハンコックの来歴を知っている。ハンコックには似たものを感じていた。
ハンコック→愛
オーガー→DEAD END
黒ひげ海賊団→1名以外は戦闘。
カタクリ→ぬえだけには任せておけない
ボルサリーノ→ぬえちゃんからかなり高評価。ぬえちゃんが1番戦ってる海兵なので
黒ひげ→ヤミヤミの方は覚醒済み。未来視にも覚醒しつつあり、戦いの最中に成長中。
カイドウ→真面目
ドラゴン→DEAD END?
アン→劇場版にも出てくるビジョビジョの実という超人系チート能力者の1人。地味に歌姫としてはこっちが先輩
クザン→ドレスローザ側に参戦。
ぬえちゃん→人獣型で戦うぬえちゃんは可愛い。全力中の全力解放。ちなみに発動時のポーズは色々調べれば分かりますが、神のヨガ的なアレです。

今回はこんなところで。ぬえちゃんは可愛い。原作で色々あって二次創作が捗るなって。
次回はぬえちゃんと黒ひげの戦いがまだ続きます。今回はあとがき少なめで。あえて情報を渡さない方向で。あ、でもバケバケの実の本当の名前とかはないよ。バケバケのみはバケバケの実です。

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