正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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UNKNOWN

 “神の大地”の麓。

 多くの民衆と新政府軍、そして海賊帝国が小競り合う中でその男の登場は一方の士気を大きく盛り上げた。

 

「おい見ろ!! クザンさんだ!!」

 

「クザンさんが来てくれりゃあ百人力だ!!」

 

「厄介な幹部共が消えた!! このまま押し込めるぞ!!」

 

『ウオオオオ~~~~~!!!』

 

 新政府軍の元帥、クザンの参戦は海兵達を勢いづかせ、海賊帝国の兵を薙ぎ倒し、民衆達を次々と取り押さえていく。

 街の至るところで氷の塊や壁が出来上がり冷え込むが、彼らの熱気はそれを感じさせない。

 

「凄い勢いじゃのう……!! 上はまだこちらの優勢じゃが……麓の方は怪しくなってきたわい」

 

「そりゃ大将や元帥は雑兵じゃ止められんだろう。元々民衆の盾で時間稼ぎにする作戦だっただろうが……」

 

 そしてそれらを神の大地の一段目、その縁から見下ろして口々に所見を述べるのは髑髏の手袋をつけたスーツ姿の男達。百獣海賊団、メアリーズの真打ちであるカクとジャブラ。そして──ルッチだった。

 

「…………」

 

「俺達もそろそろサボってられんぞ」

 

「そうじゃルッチ。どうする?」

 

 無言で新政府軍と海賊帝国の戦いの見物をし続けるルッチに、残りの2人は判断を仰ぐ。彼らに先程与えられた命令──『クザンを足止めしろ』──を思いながら。

 至るところにあるメアリーズの目と耳に彼らは繋がっている。十分な実力を示したことで海賊帝国に重用されているとはいえ、元政府の裏切り者というだけで彼らを用いる“大看板”ジョーカーからは多少の注意を向けられているのが彼らの実情だ。少しでも信用を得るために。そして更に上の地位を得るためには任務を愚直にこなしていくしかない。

 それを理解している──だからこそ、ルッチは最初から迷わずにどう動くかを決めていた。

 

「……決まってるだろう」

 

 カクとジャブラに、当然の判断を告げる。

 

「“上”の命令に従うだけだ」

 

「……まあそうなるか」

 

「かなりの無理難題じゃが……やるしかないのう」

 

「ああ──行くぞ」

 

 交わす言葉は少なく。結論を得た3人はルッチの合図と共に“剃”でその場から消える。

 彼らにとって上の命令は絶対。“怪物退治”を命令されたなら、それがどれだけ難しいことでも従うのみ。

 だからこそ彼らは命令通りに麓へ下りながら改めて気を引き締めた──この先の流れは自分達もまた予測がつかない。戦いの結果によって臨機応変に動く必要があるだろう、と。

 

 その目には“神の大地”の壁を上る()()()()()()()()姿()()()()()

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”3段目。

 

 激震に揺れるその大地で、上へと上がることは簡単なことではない。

 上がるには1段目と2段目に布陣する海賊帝国の兵や幹部を突破しなければならない。

 だからこそ3段目以降に到達する者は極僅か。未だこの神の大地を支配する者達の打倒には程遠い状況にあった。

 

 ──が。

 

「ゼェ……ゼェ……ここが3段目か……?」

 

 その場所に、人知れず気づかれずに到達した老人の姿。

 麦わら帽子がトレードマークのその海賊はモンキー・D・ルフィ。その人であり、彼は呼吸を大きく乱しながらも洞窟から出て広がった光景に、案内してくれた人物に感謝を告げようと横を見る。

 

「ハァ……ありがとな……!! お前のおかげで──って……あれ……? いねェ……」

 

 だが、そのルフィを案内してくれた人物の姿が消えていた。

 ルフィはそのことを不思議に思い、辺りを見渡すが気配すら感じないと分かるとすぐに切り替えて更に上を目指そうとする。

 

「礼言おうと思ったのに……だけどいねェなら仕方ねェ……!! ゼェ……早く上に……」

 

 目指すのは自分が倒すべき相手のいる頂上だ。そのためにルフィは老化した身体に鞭打ち息を乱しながらも走り出す。

 

「おわっ!!? 何だ!!?」

 

 だがその足はすぐに止まることになった。

 上から落ちてきた飛来物によって。

 

「!! ゾロ!!?」

 

「ゼェ……ゼェ……ルフィ……やっと来たのか。遅ェぞ」

 

 吹き飛んできたその相手を意図せず受け止めその相手がゾロであることに気づいて驚くルフィ。

 彼はルフィが一味の中でも特に信頼の高い船員だ。

 特にこういう鉄火場、戦闘における信頼は「ゾロがいるなら安心だ」と絶大なものであり、この戦場においてもルフィはゾロの心配はあまりしていなかった。

 ──が、そのゾロが苦戦している、

 息を乱し、負傷こそそれほど多くはないかすり傷程度ではあるものの、いつもの手ぬぐいを頭に巻いて本気状態のゾロをこうして吹き飛ばしていることからも敵の強さは尋常ではない。

 やはり四皇の一味。世界最強の海賊団と称される百獣海賊団、及び海賊帝国は半端ではないということ。ルフィもまたゾロに向けて()()()心配の言葉をかける。

 

「大丈夫か? ゾロ」

 

「ああ……問題ねェ。厄介だが……ここはおれに任せろ。お前はさっさと上へ行け!!」

 

「──ああ!! わかった!!!」

 

 ──だがゾロから返ってくる言葉は「問題ない」というルフィの一応の心配を杞憂だと一笑に付すもの。

 その言葉を、ルフィもまた無条件で信頼する。あるいはゾロの強がり。意地であり、苦戦して分が悪いのが真実であるとしても──ゾロならば絶対に勝つし何とかするであろうという信頼がルフィの足を前に進める。

 そしてそれはゾロも同じ。ルフィを上に送りさえすれば、必ずなんとかなる──いや、何とかなってもらわなければ困る。

 海賊王になろうという男。世界一の大剣豪になろうという男の上に立つ男が、こんなところで負けてもらっちゃ困る。互いに、野望を追う上での相棒同士。その強さは必要不可欠で、自分への自信と同等の信頼を相手に預けている。

 だからルフィは走った。そして、それをゾロが援護しようとする。──見聞色の覇気で感じた。敵がルフィの存在に気づき、追いすがってくる。

 

「──麦わら……!! この先へは行かせん……!!!」

 

「!!? 何だ!! 石が動いて……!!」

 

「そいつは岩石人間……!! 周りの石や大地を動かす……!! 本体のいねェとこに攻撃しても無意味だ!! そのまま走り抜けろルフィ!!!」

 

「! わかった!! それにしても……」

 

「?」

 

 ルフィが先に向かおうとするその地面が山なりに盛り上がり、行く手を阻む。人の顔の形に盛り上がったその岩石を操るのはドンキホーテファミリー最高幹部のピーカ。イシイシの実の岩石同化人間。

 攻撃しても無意味だからと説明を行いながら同じく走るゾロに、ルフィは頷きながらもピーカを見上げた。ゾロが頭に疑問符を浮かべる中、ルフィはピーカのその声を聞いて。

 

「声高ェ~~~!!! 変な声~~~~~!!! だ~~はっはっはっ!!!」

 

「言ってる場合かァ!!! ()()()()!!!」

 

 涙を流すほどの大笑いをするルフィに、ゾロがツッコミを入れる。ピーカの変な声をおかしく感じる気持ちは分かるが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。

 

「…………!! 麦わらァ……!!!」

 

「うお!!? なんか怒ってるぞ!!」

 

「言わんこっちゃねェ!!」

 

 その反応はピーカの殺意にさらなる燃料を投下するもの。巨大な岩の、もはや大地とも呼べる拳を振り上げルフィ達に向かって振り下ろそうとする。

 それをゾロは防ぐべく刀を構えた。刀を口にも咥えて三刀流。斬撃を飛ばし、ルフィの進路を切り開くべく。

 

「“三刀流”……“千八十煩悩鳳”!!!」

 

「!!!」

 

「グ、オォ……!!!」

 

 ピーカの石像を、真っ二つにする。

 その際に中にいるピーカにも狙いをつけた。見聞色の覇気を研ぎ澄まして試していけば、位置を掴むことはそう難しくない。致命傷を与えるには至らないものの、多少の手傷を与えることは出来る。

 

「今だ!! 行け!!!」

 

「ああ!!」

 

 ピーカの能力の制御から僅かに離れた大地の上をルフィは走る。このまま行けば頂上はすぐだ。

 

「──イェェェス!!!」

 

「!!?」

 

 ──だが敵はピーカだけではない。

 ピーカの操っていた大地の上に、回転するようにして体当たりを仕掛けてきたその大男もまたゾロ達の戦ってきた強敵の1人だ。

 

「“麦わら”ァ~~~……!! よくもテゾーロ様の黄金の支配を解いてくれたなァ……!!!」

 

「……! ダイヤ!!? 白ひげのおっさんのところで見た能力……!!」

 

「奪ったんだとよ……!!」

 

「そういうことだ……!! さァ麦わら……お前もここで一緒に楽しもうぜ~~!!!」

 

 自身の身体をダイヤモンドに変えるキラキラの実の能力を使用し、立ち塞がるのはグラン・テゾーロにおける最高幹部。VIPディーラーのダイスだ。

 そのダイスが立ちふさがったことで、再びゾロが。そしてルフィ自身も己の武器である拳と刀を構えて突っ込んでいく──が、それより先に横から援護が来た。

 

「よそ見してんじゃねェ!!」

 

「お前の相手は私達だ!!」

 

「……!! ンン……!!」

 

 ダイスの左半身を狙うようにして武器を振るったのはルフィ達の味方側についているその2人。二代目白ひげ海賊団の幹部であるデュースとイスカだった。

 その攻撃はダイスの身体をぐらつかせ──しかしダイスが傷を負うことはなく──その道を切り開く。

 

「行け!! “麦わらのルフィ”!!!」

 

「この場は私達“白ひげ海賊団”が請け負う!!!」

 

「……!! エースの……!! ああ!! ありがとう!!!」

 

 その2人の姿にルフィは兄の姿を思い浮かべ、笑みを浮かべてお礼を言う。死地であってもその嬉しさは変わらない。ルフィは背中を頼れる兄の仲間へ任せ、そのまま先へ進もうとする。

 

「──進めると思うな……!!!」

 

「!!? ──ウ!!」

 

 そのルフィの眼の前に高速で現れ、“指銃”を放ったのは動物(ゾオン)系の能力者。しかも古代種であるサーベルタイガーの人獣型で唸り声を鳴らす百獣海賊団の恐怖の象徴。“飛び六胞”フーズ・フー。

 指銃で身体を穿たれ、仰向けに倒れルフィの腹を片足で踏み潰し、フーズ・フーは神の大地3段目の最後の砦として立ち塞がる。

 

「ぐえっ!!」

 

「ハァ……ハァ……くそ……離せ……!!」

 

「逃れたきゃ自分で振りほどいてみるんだな……!! チッ……続々と上に来やがって……!! 下の連中は何をやってやがる……!!!」

 

 フーズ・フーはルフィを抑え、右手にもたしぎを捕まえながら同僚や傘下、部下達への愚痴を呟く。

 一定レベルの強者なら乗り越えてくるだろうという推測はあるとはいえ、この老化した状態の麦わらのルフィすら足止め出来ていないという事実はフーズ・フーを苛立たせた。

 

「ルフィ!!」

 

「っ……女海兵まで捕まって……マズいな……!!」

 

「他の連中も直に追いついてくるぞ!!」

 

 そしてフーズ・フーにルフィとたしぎを止められたことで、ゾロやデュース、イスカが状況の悪さを示す声を口にした。ただでさえピーカやダイスがいて、フーズ・フーの部下である百獣海賊団のギフターズ“CATS”もいるのだ。元から押され気味ではあったが、1人離脱すれば状況は更に悪くなる。

 どうにかしてルフィとたしぎを救い出さなければならないが、それをするにもピーカやダイスが邪魔だった。

 

「だが“麦わら”さえ仕留めちまえば多少は戦意も挫けるだろう……!! まずはお前から死んでもらうぞ、“麦わらのルフィ”……!!!」

 

「グ、ギギ……!! ハァ……ハァ……くそ……力強ェ……!! せめて……普段通りだったら……!!」

 

「……!! (間に合うか……!!?)」

 

 フーズ・フーの、動物(ゾオン)系古代種の能力者のパワーに踏みつけられた状態から抜け出すのは今のルフィでは難しい。せめて老化がなければここまで後れを取ることもなかったかもしれないが、それを言っても仕方がない。

 ゾロが何とかピーカとダイスの間を切り抜け、フーズ・フーに肉薄しようとする──が、タイミングとしてはギリギリ──いや、一歩足りない。

 

「死ね……!! “牙銃(ガガン)”!!!」

 

「……!!」

 

 フーズ・フーの口から、その長く鋭い牙を活かした体術が飛ぶ。大地や黄金すら削り取り、武装色の達人のガードすら貫通するその体技をまともに食らえば、いかにルフィと言えどひとたまりもない。

 まさに絶体絶命の状況。死が近づいてくる。その極限の状況で──いや、だからこそ──周囲の者達はその彼を救おうと死力を尽くす。

 

「“梅花皮”!!!」

 

「!!!」

 

「……!!? てめェは……!!」

 

「──ジンベエ!!!」

 

 ルフィを庇うように、空から落ちてきて武装色を纏った腕でフーズ・フーの攻撃を防御したのは麦わらの一味の操舵手である元七武海──“海侠のジンベエ”だった。

 

「遅くなった……!! ここからはわしも加勢するぞ!!!」

 

「……!! 面倒な……──!!?」

 

 その実力者の参戦にフーズ・フーが警戒をしながらも戦意を向ける──その隙を更に狙って、横から鳥の鉤爪がフーズ・フーの顔を蹴り飛ばした。

 

「“鶴爪(オングル)”!!!」

 

「!!!」

 

「グオオオ~~~~!!?」

 

「! ──マルコさん!!」

 

 空から現れたその男に、デュースとイスカが名を呼んで頼もしい助っ人の参戦を喜ぶ。白ひげ海賊団の一番隊隊長“不死鳥のマルコ”。

 ここまでジンベエを運んで下りてきて、フーズ・フーに攻撃を加えてルフィやたしぎも救い出したその男は、しかし負傷しており息を乱して辛そうだった。

 

「ハァ……ハァ……お前ら、無事で良かったよい……!!」

 

「マルコさん……!! どうしたんですかその傷……!! あんた程の人が……一体誰に……!!」

 

「それは後で話す……今はとにかくこっちが優先だよい……!! ジンベエ!!」

 

「ああ!! ──ルフィ!!

 

「へ? ──おわっ!!?」

 

 空を飛ぶマルコがジンベエに声を掛けると、ジンベエもまた頷き、起き上がりつつあったルフィを軽く投げてマルコにキャッチさせる。そのために、マルコはここまで下りてきたのだ。

 

「麦わら……おれがこのまま上まで送ってやる……しっかり掴まってろよい……」

 

「本当か!!? 助かる!!」

 

「いいってことよい……!! 本当はもっと力になりたかったんだが……」

 

 完全な不死鳥の形態になってルフィを背中に乗せて上昇しながら、マルコは自らの不甲斐なさを自嘲する。今の自分はまだ回復しきれていない。体力をかなり削られてしまっており、戦闘で力になることは難しい状態なのだ。

 だからこそ、ルフィを運ぶ役目を行うことにした。この戦いに勝つには麦わらのルフィの力が必要不可欠だと、今はマルコもまた信じている。かつて白ひげが、エースが、周りの人間がルフィを死なせちゃならないと感じた時よりも更に信頼を預ける。

 この戦況においても、麦わらのルフィならばあるいは“奇跡”を起こすかもしれないと。

 

「……!! クソ……マルコの野郎!! 麦わらを行かせちまった……!!!」

 

「へへ……残念だったな、化け猫野郎」

 

「!」

 

 ──そしてそれはゾロ達も同じ。

 たとえ今は老化していても、ルフィならそれを成し遂げるのだと信じている。

 

「チッ……まあいい。あんな老いぼれた麦わらじゃ何も出来やしねェ。ジョーカーに傷一つ負わせることすら出来ねェだろう」

 

「好きに思ってな。賭けの結果は直に出る……朝になる頃には、全部終わってるはずだ……!!!」

 

「ハッ、そうかよ!! だったらまずは──お前らから先に終わらせてやる!!!」

 

 敵がどれだけ侮っていても関係ない。周りに分の悪い賭けだと笑われても関係ない。

 今までそれで何度も勝ってきたように……今回も勝つだけだ。その意気を戦意に変え、ゾロは再び周囲の味方と共に敵との死闘に飛び込んでいく。

 

 ──そして頂上では……その分の悪い賭けに挑み、勝利を信じる海賊たちが集結する。

 

「ルフィ……♡ (年老いた姿も素敵じゃ……♡)」

 

「ハァ……ハァ……遅ェぞ」

 

「ああ……悪い……!!」

 

 そこは“神の大地”の頂上。

 弱き人々を支配する強者達の殿堂であり、決戦の地。

 “海賊女帝”ボア・ハンコック。

 “死の外科医”トラファルガー・ロー。

 そして──“麦わらのルフィ”

 

 支配者達と対峙し、激しい戦いを繰り広げるその黄金の円形都市。黄金のフィールドの中心で、ルフィはそれを見た。

 左に、巨大な黄金の像──“黄金帝”ギルド・テゾーロと対峙するハンコック。

 右に、宙に浮く夜叉──“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴと対峙するロー。

 そして中心。マルコに乗って辿り着いたその中心で、ルフィは倒れる2人の影を見る。

 百獣海賊団の“大看板”。吸血鬼の姿となっている“戦災のジョーカー”の前で倒れ伏すのは──

 

「!!? ボニー!! それに……くま!!?」

 

「ハァ……ハァ……麦わら……!!」

 

「…………」

 

 最悪の世代の海賊でありルフィと一時的な同盟関係にある“大食らい”ジュエリー・ボニーと、元七武海である麦わらの一味とも縁のある自我のない人間兵器“暴君”バーソロミュー・くま。

 ボロボロになった彼らの前で、ジョーカーは愉快に笑みを浮かべてその情報を告げる。

 

「あら……遅かったわね、“麦わらのルフィ”。でもちょっと待ってなさい。あなたの相手は後──この()()の処刑が終わってからよ……!!!」

 

「……!!?」

 

 ──親子。その言葉に驚愕し、ルフィは表情を一変させた。

 

 

 

 

 

 ──新世界“カライ・バリ島”。

 

 “四皇”に数えられる海賊達の頂点同士のぶつかり合いは、まさしく国同士の戦争となり得る。過去幾つかの例を見てみてもそれは明らか。大海賊同士の争いは天を割り、地を裂き──島そのものを揺るがすような嵐のような戦いとなる。

 バギー海賊団とビッグマム海賊団という2つの四皇勢力が激突するこの場所もまた例外ではない。

 

「うわァ~~~~~!!!」

 

「チェス戎兵がゴミのように……!!」

 

「クソ!! あのぬえ、本人ほどじゃねェが強ェぞ!!」

 

「さすがにママが押してるとはいえしぶとい……!!」

 

 片方の四皇が戦場に出て来ないその戦いは、しかし防衛側のバギー海賊団が辛くも凌ぎきっている状態だった。

 ビッグマム海賊団の戦闘員。ビッグマムの子供たちは様々な科学兵器を持つ兵士達を相手にしながらその中心で巻き起こる災害の如き戦いを遠巻きに眺めるしかない。あるいはこの場にいる3将星のスムージーやクラッカーであれば交ざることは出来るだろうが、そもそもそこで戦うビッグマム本人が戦いに横槍を入れられることを好まないため、彼らは防衛壁を突破することに注力していた。

 ──が、それでも戦いを左右するのはその中心の戦いである。

 

「──マ~マママハハハハハ!!! お前、ただの劣化品かと思えば結構やるじゃないか!! 気に入ったよ!! ウチに来ねェか!!?」

 

「──()()()()()()()!! あなたおっかないもん!!」

 

 ビッグマム海賊団の船長である“ビッグ・マム”シャーロット・リンリンがゼウスとプロメテウスを従え、ナポレオンを手にしたままその小さな空飛ぶ少女に向かって勧誘する。

 そしてその少女は表情豊かに──口を「い~っ!」と嫌そうに形作った上で断った。黒い翼に背中で燃える炎。褐色の肌。かの大海賊と瓜二つな姿を持ちながら、身体のサイズは3メートル近い。

 既に傷を幾つか負いながらもその明るさは損なわないその少女──人間兵器は三叉槍を手にしながら再びビッグ・マムに向かって吶喊する。

 

「私はいつか海に出て自分の海賊団立ち上げるんだから!! 海賊の世界なら海賊にならなきゃねっ!! そして海賊なら“自由”じゃなきゃダメでしょ!!」

 

「ハハハ!! 夢があって結構なことだね!! だがそれがしたきゃあまずおれから逃れてみなァ!!!」

 

「言われずとも!!」

 

 ビッグ・マムの言葉に答えた少女が自らの身体の一部、様々な部位を様々な動物のものに変化させながら運動能力を高めて攻撃する。

 その能力はまさしくオリジナルが持つ“バケバケの実”に見られる力。動物(ゾオン)系幻獣種。鵺の力を振るうこの世で最も恐ろしい能力の発現であり力なき者にこの恐怖に抗うことは難しい。

 

「マママママ!!! その程度かい!!?」

 

「!!? きゃっ!!」

 

 だが──相手は“ビッグ・マム”だ。

 この大海賊時代の頂点に数えられる大海賊。大海賊時代以前からこの海に君臨する怪物。百戦錬磨のモンスター。それが“ビッグ・マム”という名を持つ女海賊だ。

 少女の攻撃は何度も見た──ビッグ・マムによって防がれ、地面に叩きつけられる。左手で握られるようにして捕らえられた少女にビッグ・マムは威圧的な笑みを向けた。

 

「手こずらせてくれたが……ハハハ!! 能力の方は未熟だねェ。それともそこまでは再現出来なかったのか? あいつの能力はもっと色んなことが出来たはずだが……」

 

「うぐぐ……!! はーなーせー!!」

 

 手の中でじたばたと暴れる人間兵器、新たなパシフィスタであるセラフィムだというその少女を見て、ビッグ・マムは少しだけそのことについて考える。

 この戦闘において、この少女は一度もUFOを生み出したりすることもなく、また不可思議な弾幕を放ってくることもなかった。

 そしてやることといえば身体を様々な獣のものに変化させての攻撃。それもまた“バケバケの実”の能力ではあるが、オリジナルのそれに比べれば少しばかし種別は少なく単調であるもの。

 ルナーリア族特有の身体の硬さなどの厄介な部分はあったものの、それでもオリジナルと比べれば劣った実力もあり、ビッグ・マムは少女をこうして捕らえることに成功していた。──が、聞いていた情報とは違う。

 Dr.ベガパンクの作る新たなパシフィスタは、その能力すら十全に再現して使ってみせるという。だからビッグ・マムは期待したし警戒もした。あのぬえの能力を完璧に再現出来ているなら、かなり厄介だと。

 何しろ長年この海で生きるビッグ・マム自身、あの能力がどこまでのことが出来るのか完全には分かっていないのだから。悪魔の実の図鑑にすら載っていないあの能力のことを、ビッグ・マムは不思議に思っていた。

 そしてそれを思えばこのセラフィムが能力を再現出来ない理由もまた謎だ。分からない。ぬえがその能力をあれだけ使いこなせて、このセラフィムが使いこなせない理由は一体なんだ? 

 

「マママ……“正体不明”とはよく言ったものだねェ……!!! だがそれも……お前とベガパンクさえ手に入れられりゃあ全部分かることだ!!!

 

「っ~~~!!」

 

 少女が苦痛に喘ぎ、声にならない声を出す。

 その可哀想にも思えるその表情を見て、ビッグ・マムは告げた。

 

「安心しな。殺しはしないよ。気絶させて連れ帰るだけさ!!!」

 

「……!!」

 

 そうしてビッグ・マムがゼウスを手に、少女に向かって技を放とうとする──その瞬間。

 

「ママ!! 危ねェ!!」

 

「ん? ──!!!」

 

 ビッグ・マムの子供達の声に反応し、防御壁の奥から飛んできたその斬撃にビッグ・マムが何とか反応する。左手に覇気を纏わせて防御を行った。

 だがそれも。

 

「ぐ……!!」

 

「!!? 嘘だろ……!!」

 

「ママに傷を負わせた!!?」

 

「一体誰が……!! いや、まさか……!!」

 

 防御したビッグ・マムの腕から、僅かに血が流れたことで子供達は驚愕する。鋼鉄を誇るママの肉体に傷をつけるなど、ビッグマム海賊団の誰もが出来ないことだ。

 それゆえに彼らはその攻撃を行ってきた人物に、同格の人物を思い浮かべる。“四皇”に並ぶのは──やはり“四皇”。

 そしてこの島にいる“四皇”といえば奴しかいない。四皇一の策略家であり、海賊王ゴールド・ロジャーの系譜を受け継ぐその男が、もしやついに出てくるのかと。

 そう思い、誰もが視線を向ける。ビッグ・マムも、その攻撃で救い出されたセラフィムの少女も。誰もが歩いてくる男を見て、そして──その予想が違っていたことをすぐに理解した。

 

「──こんな夜更けにまで攻めてくるとは……落ち落ち寝てもいられん……!!」

 

「──!! “鷹の目”!!!」

 

 ──『元“王下七武海”現バギー科学帝国最高幹部“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク』

 

 現れた世界最強の剣士──その男の登場にビッグ・マム海賊団は「また強敵が出てきた」と酷く恐れることはなくとも警戒と脅威を感じる。

 不敵な笑みを浮かべるのは“ビッグ・マム”のみ。ミホークがやってきたのを見て、やはりバギーという男は厄介だと評価を上げる。ミホークに対しても問いただしながら。

 

「ハ~ハハハ……!! 噂では聞いてたが……やはりお前もこっちについたのか!! バギーってのはそれほどの男なのかい?」

 

「…………さてな。だがやるというならおれもねぐらを守らねばならんのでな。この“黒刀”を抜く必要がある……」

 

「!」

 

 ──ジャキン、と。ミホークが背負うその世界最強の黒刀。最上大業物“夜”が抜かれ、戦う構えを見せる。

 それに警戒し、歯噛みしてみせたのはビッグ・マム海賊団の戦闘員であり、士気を上げたのはバギー海賊団の荒くれ者達だった。

 

「ウオ~~~!!! ミホークさんが出てきたぞ!!!」

 

「こっちの優勢だ!! ビッグ・マムがなんぼのもんじゃ~~~!!!」

 

 船長に似て調子の良い海賊たちが息を吹き返す。セラフィムがやられそうになった時は瓦解しそうだった集団がより強固になって団結する。

 だがそれだけで引き下がり怖気づくようなビッグマム海賊団ではない。

 

「また勢いづいてきたねェ……こっちも気合い入れなァ!!!」

 

「オオオオ!!!」

 

 子供達に向かってリンリンの檄が飛べば、それに応じるようにビッグマム海賊団の猛者達も雄叫びを上げる。元より今日はチャンスと見て戦果を手に入れに来たのだ。ミホークが出てきたところで止まることはない。

 ゆえにその激突は必然であり、戦いは止まらなかった。ミホークの黒刀が、セラフィムのレーダーが。ビッグマムの雷や炎が。カライ・バリ島の夜を激しく照らし、戦いは更に激化していく。

 

 

 

 

 

 科学帝国の首都であるカライ・バリ島の中心にあるその城は研究棟と併設して作られた巨大な要塞だ。

 様々な科学兵器が設置され、それらを装備した兵士達が警備している。兵器だけではない科学の道具などもそこら中にあり、科学帝国のその光景に見慣れていないものが見れば未来にタイムスリップしたと錯覚するほどの異常な光景が広がっていた。

 そしてその研究棟の中。科学帝国になくてはならない企業連合体。その研究所が周囲に所狭しと建つその建物の一角で、外の戦闘を監視しながら会話するのは2人の男だった。

 

「──どうだ。連絡は取れたか?」

 

「…………いや、ダメだ。赤髪海賊団の本船も新政府軍の本部も……そしてドレスローザかグラン・テゾーロにいる協力者とも連絡が取れない。海賊帝国め……!! やってくれたな……これは明らかな二正面……いや三正面作戦だ……!!」

 

 部屋に備え付けられた未来的なソファーに腰掛けず、電伝虫やその映像を見ながら会話する2人はそれぞれ見た目に特徴的な部分があった。

 1人は左手の鉤爪。1人は頭部をフルフェイスマスクで覆っている。2人の関係は同じ勢力に属する研究者とそれに必要な金銭や物資の提供者であり、現在は互いの目的のために互いを利用しあっている関係にある。

 そしてそれは、外部にいる他勢力に属する協力者や先程外に出て参戦した“鷹の目”もまた同じ。

 

「少々、状況が悪くなってきたな……やはり“S-キメラ”では“ビッグ・マム”は止められないか。他のセラフィムを呼び戻すにも少し時間がかかる。“鷹の目のミホーク”……彼がビッグ・マムに勝利するようなことがあればよいが、さすがに決着まで持ち込むには厳しいか」

 

「フン……なら次はどうする?」

 

「……時間をかけて退かせるだけならばあるいは可能だろう。だが問題は()()()()()

 

 事態は急を要するが、あくまで冷静に。葉巻を吸いながら映像の中で暴れる“ビッグ・マム”を険しい目で見続ける男と、表情の分からないフルフェイスマスクの男は対応策を講じながらもより先のことを思考する。

 

「おそらくバルティゴとドレスローザではカイドウとぬえがそれぞれ奇襲をかけたのだろう。無事ならばいいが、戦力が多少削がれれば我々の包囲網に一時的に隙が出来る。この隙を突いて敵は大きく動くだろう。それをどう止めるか……」

 

「全滅してなきゃいいがな」

 

「その時は無論──詰みだ。海賊帝国を止める術はない」

 

 最悪のケースの時に陥る事態を断定する。その研究者の言葉にはさすがの男も軽く鼻白んだ。

 

「ハン……世界一の科学者が聞いて呆れるな」

 

「そちらの策とてある程度の戦力がなければ実現しえないものだろう。もっとも……軍事学……いや、戦闘というものは数字やデータで完全に計ることは難しく、またそれだけで決まるものではない。悪魔の実の解析が進んだところで覇気の分野はまだまだ計測が難しい。あるいは……人間の意志というものは数字で表すことは出来ないのか……」

 

 段々と、後半は独り言のように口にする研究者の男。

 その様子を見て葉巻の煙を揺らめかせながら、もう一方の指摘する。

 

「悪魔の実の解析か……そう言う割りにあのセラフィムに搭載した能力の再現は難しいようだが?」

 

「……“バケバケの実”か……確かに、あの能力は再現出来ていない。あるいは、“S-キメラ”では引き出しきれないというべきか」

 

「? どういうことだ?」

 

 映像の中。ビッグマム海賊団と戦う一体のセラフィムのことを目にしながら研究者は出資者への質問に答える。今まで悪魔の実から様々な発明品のことについて話をしてきたものだが、その質問の答えを口にするのは初めてのことだった。

 

「……“動物(ゾオン)系”の悪魔の実は……“超人系(パラミシア)”のように、能力者の血統因子がなくても莫大な金と時間をかければ製造可能だ」

 

 そう。それは研究者である彼らが悪魔の実を研究した上で実現した結果だ。

 目の前の男のような“自然(ロギア)系”でもなければ、その能力を再現することは可能。超人系(パラミシア)には能力者の血統因子が必要という条件はあるが、動物(ゾオン)系はそれがなくとも製造出来る。

 それは百獣海賊団のギフターズのような……シーザー・クラウンの作るSMILEよりも更に高度な科学の結晶だ。この世で彼らにしか作ることの出来ない科学の最高峰。世界一の頭脳を持つ者達にしか、その科学は実現出来ない。

 

 ──だが……科学には時として“例外”が生まれる。

 

「バケバケの実もその例に漏れない筈だった……だが、その能力は実際に用いれば不完全であり不安定だった。過去に一度、その製造したバケバケの実を食べた者は……食べた瞬間から発狂し、その身を獣に取り込まれてその自我を消失させた……!!」

 

「!」

 

 その現象は動物(ゾオン)系悪魔の実の覚醒における事例と似ていた。過去の数少ない事例を見ても動物(ゾオン)系能力者の覚醒はその能力に人格を取り込まれてしまうことが多い。

 インペルダウンにおける獄卒獣などがその代表だろう。研究者から話を聞く男もまたその存在を思い出して発言する。

 

「……食べた瞬間から人格を取り込まれたってのか……?」

 

「判らない。ただ……その現象は異常だったのを()()()()()()

 

 例外になる原因は必ず存在する筈。科学というのは分からないことを分かるようにするものなのだ。原因不明の現象が起きてからもしばらく、彼はその能力の研究をやめなかった。分からないものを分からないままにすることは研究者にとっての敗北だ。彼は1人の研究者として、その“正体不明”を解明すべく戦いを挑んだ。

 しかし、だ。その彼の研究を嘲笑うかのように、その能力はその実態を掴ませなかった。

 

「そして原因を究明すべく、長年の研究の結果……特定の人物の血統因子を取り込み、特殊な血液……“グリーンブラッド”を生成してそのセラフィムに通すことでその能力が得られることだけが分かった……!! その血統因子の持ち主は──」

 

「…………“妖獣”か」

 

「ああ──()()()()。バケバケの実のオリジナルの能力者である彼女の血統因子しか、その能力は受け付けなかった」

 

 彼らが敵対する海賊帝国。百獣海賊団。その中心人物の1人であるその怪物だけが、バケバケの実に適合した。

 能力は人を選ぶという伝承もある──が、特定の人物以外受け付けないというのは数ある悪魔の実の中でも異常である。あるいは動物(ゾオン)系悪魔の実に宿る意思がそうさせているのかという仮説は立てられるが……真実は分からない。

 

「……ならあのセラフィムが能力を引き出しきれないのはオリジナルじゃねェからってことか?」

 

「……それも分かりかねる。能力を得た以上、オリジナルが出来ることは全て出来る筈だ。“覚醒”はまだ未確認だとしても……正体不明という力を使ったUFOや弾幕の生成や認識の偽証。肉体の変化。それら全てを使用可能な筈だ」

 

 バケバケの実がどういうことが出来るかというのはおおよそ理解していた。幸いなことに、ぬえがこれまでに起こしてきた事件は事欠かず、それについてはさほど難航はしなかった。

 

「その能力は数ある動物(ゾオン)系の能力の中でも強力で変幻自在……複数の動物を模することに留まらないバケバケの実は……“覚醒”すればおそらく……この世で最も恐ろしい能力と化すだろう……!!!」

 

 それは彼の推測。そう、あくまで推測にすぎない。

 だが大きく違ってはいないだろうと彼はその脅威を常に頭の片隅に置いている。

 正体不明の能力とは言ったもので、彼の研究の優先順位には、常にそれが上位に位置している。

 

「……だったらその恐ろしい化け物と対峙する前に、問題は解決しておかねェとな」

 

「! ……君も出るのか?」

 

「ああ。おれの目的のために、まだまだこの国もお前らの頭も必要なんでな」

 

 ──だがその話を聞いて、それを必要以上に恐れず、しかし脅威として情報として頭に置いて動いたのは海賊であるその男だ。

 表に出る扉へと歩く男に──その未知を恐れることない海賊という生き方をする人間に、研究者である1人の男は同じく未知を恐れず探究する研究者として、利害が一致する協力者として幸運を祈る。その名前を互いに呼びながら。

 

「ならば武運を祈っておこう──()()()()()()()()()

 

「計画の変更に対する話はこれが終わってからだ、()()()()()。いや……“シャカ”だったか」

 

「どちらでも構わない。()()()()()()()()()()()

 

 元“王下七武海”にして科学帝国の中枢を握る企業連合体の“会長”を務めるサー・クロコダイルと。

 世界一の頭脳を誇るDr.ベガパンクの“(サテライト)”の内の1人。PUNK-01“(シャカ)”。

 彼らと各地にいる協力者による包囲網。その企みは未だ道半ばであり……しかしながら頓挫することなく緩やかに進行していた。

 

「…………そう。我々が挑むのは……“未知なるもの”だ」

 

 そしてクロコダイルがいなくなり、1人となったその部屋で──シャカは1人その事実を改めて言い聞かせるように呟く。

 クロコダイルには──いや、ベガパンク以外の誰にも教えていないその情報を思えば、シャカはその挑む相手が得体の知れないものだと強く、何よりも警戒に値するのだと。

 あるいは……そう。“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”以上に正体不明なものかもしれないと。

 それはあるひとつの実験結果が物語っている。

 

「……“妖獣のぬえ”の血統因子……それを基に作り上げた“S-キメラ”が持っていた知識は……我々がインプットした訳でもなく……オリジナルのぬえすら()()()()()()()()()()()……」

 

 数年前に“S-キメラ”を生み出し、その成長過程において発見出来たその事実に、ベガパンクは衝撃を受けた。

 今現在確認出来るあらゆる悪魔の実の能力の力を持ってしても、そのようなことはありえないし、魚人島にいると言われる凄腕の占い師のような不可思議な力を持ってしても、ここまで具体的な情報は見えない。

 ならばその事実は……未来の情報を知るというその事実は、一体何を意味しているのか──

 

「封獣ぬえ……貴様は一体何者だ……? ──そして、そのぬえが気にする“麦わらのルフィ”とは一体……」

 

 監視モニター前の机。その上に置かれた2つの手配書を目にしながら、与太話にも思えるその事実について考察を続ける。

 あるいはバカバカしいと投げ捨ててしまうのが正しい行いなのかもしれない、が……シャカはこの研究の果てにあるものが──()()()()()()()()()()()()()()()()である気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 空に煌めく星々のように割れた鏡やその破片が散らばる闇の中で──更に深い闇。

 いや、“判らない”を凝縮したような黒い靄。周囲が闇となっている空間の中でもはっきりと分かる靄が晴れる。

 そしてその中から出てきた人物の姿を、“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチは見た。鬼のような2本の角を額から生やし、犬歯を鋭く伸ばしたような牙を持ち、美少女ではなく美女と言える長身となり、黒い羽衣のようなものを纏わせたその姿を見た。

 顔立ちから先程まで戦っていた人物であることは明白だが、その姿は先程までの人獣型とは違う。これでは鵺というより──

 

「……ゼハハ、ゼハハハハ!!! 何だその姿は!! まるで……地獄の鬼じゃねェか……!!!」

 

 ──そう、鬼だ。

 獣の特徴よりも、鬼に近い姿となったぬえがそこにいた。黒い三叉槍に黒い炎を纏った──大男である黒ひげの倍近い体躯を持つ鬼に。

 

「“羅刹の化身(ラークシャ・アヴァターラ)”……!!! さァ“黒ひげ”……!! ここからはより一層……気をつけて戦うことね……!!!」

 

「ゼハハハ……!! ああ……どうやらただの変化じゃねェようだ……!! “覚醒”か……それにしても、だ。その変わりっぷりは──普通じゃねェだろ!!!」

 

「!!」

 

 しかし“黒ひげ”は、恐れずに行った。

 得体の知れない形態を見せつけてきたぬえに対し、先手を取って闇の力を振るう。先手必勝。前進あるのみ。勝つしかない、勝てば大きく野望に近づく戦いに怯まず進む黒ひげの精神は確かに常人離れしているものだ。

 そしてそれは不意打ち気味にぬえへ向かって襲いかかる。その攻撃の狙い自体は悪くなかった。当たれば次の攻撃に繋がる。威力も十分。

 

「“化身対応(かみたいおう)”!!!」

 

「!!?」

 

 だがそれを──ぬえは予め読んでいたかのように身軽に、前進しながら躱してみせる。

 その姿は心なしか、一瞬だけ姿が薄くなったようにもぼやけたようにも見えた──が、黒ひげにはそれを思って考察している余裕はない。前進しながら躱したぬえの腕の筋肉が、血管が浮き出るように一瞬にして盛り上がり硬くなると、その槍に黒い覇気と雷を込めていた。

 

「“終修羅(トリシューラ)”!!!」

 

「!!!」

 

 その槍が、黒ひげの回避と闇の引力によって致命傷から僅かにズレる右肩に直撃する。

 肩を穿たれた黒ひげは地面にもんどりを打って転がり、苦痛に喘いだ。

 

「グ、アアァ……!! 痛ェ!! 熱い!! ちくしょう……!!!」

 

 その威力は凄まじいものであり、直撃すれば黒ひげの体に間違いなく大穴が空いていたであろうもの。

 ──が、それを正真正銘理解したのは黒ひげが転がりながらも背後を確認し、ぬえの攻撃の余波を確認した時だった。

 

「……!!」

 

 ヤミヤミの実の覚醒で闇へと変えた鏡世界の柱と壁。

 その黒に染まった巨大な壁に──大穴を開けて、天井と地面にまで亀裂を走らせる。

 

「あー……久しぶりすぎて力の制御間違えた。すっごい遠くまで飛んじゃったよ。失敗失敗……!!」

 

 そしてぬえ自身は、黒ひげの覚醒範囲から外れるほどの壁まで激突し、闇に空いた大穴と覚醒の範囲内に入っていない鏡世界の光景を見て凶悪な笑みを見せる。

 悪魔の実の能力によって生み出されたこの空間だが、あるいは破壊されてしまうのではないかというその威力に、黒ひげは汗をかいて引き攣ったような笑みを浮かべる。ぬえがこちらを見ている。こちらに狙いをつけている。それを感じ、すぐさま対応しようと腕を構えた。休んでいる余裕はない。

 

「さて……そんじゃもう一回……!! 狙いをつけて──……終修羅(トリシューラ)”!!!

 

「!!!」

 

 もう一度。今度は戻ってくるついでに、ぬえが黒ひげに向かって一直線に落ちる流星のように──その槍を構えて突撃してくる。

 

「ぐ、オオ!!!」

 

「お!」

 

 そしてそれを、黒ひげは地震の力をもって対抗した。パワーや破壊力では“グラグラの実”は負けていない。いや、この世で最も強い筈。だからこそ黒ひげはこの実を欲した。その最強の攻撃力が負ける筈がない。負けてたまるかと腕に膂力を、全力で能力と覇気を込める。

 

「あはははは!!! やるねー!! まさか受け止めてくれるなんて思わなかったよ!!!」

 

「ぐあァ!! クソ……!! 地震のパワーと張り合うだと……!!? どんな馬鹿力だ……!!! ありえねェだろ……!!!」

 

「鬼ってのは怪力乱神!!! 怪力無双!!! 鬼のパワーを常識で測れるなんて思わないことね……!!!」

 

「ぐ……!!」

 

 黒ひげの足元がジリジリと後退る。故意的ではない。力負けしている証拠だ。このままではマズい。正面からの押し合いは得策ではないと黒ひげは即座に手段を切り替える。反対の手に別の力を込めて。

 

「ならその力も引きずり込んでやる!! 闇水(くろうず)”!!!」

 

 そうして引き放つのは闇の力。あらゆるものを引き寄せる無限の引力でもってぬえを抑えようとした。触れればぬえであっても能力が使えなくなる。

 

「“暗黒の化身(クリシュナ・アヴァターラ)”」

 

「!!? 何!!?」

 

 ──だがそれならば、と。

 ぬえは再びその姿を変えて黒ひげの闇から逃れた。ぬえがよく用いる漆黒の靄。それに隠れるように──いや、ぬえの姿が完全にその黒い靄によって掻き消え、その姿を見失う。

 

「クソ……見えねェ……!! どこに行きやがった……!!?」

 

「──あははは!!! ここだよ!!!」

 

「!!」

 

 辺りを見渡し、見聞色の覇気を用いてぬえを発見しようとした黒ひげを、ぬえはあえて自分から声を掛けてその姿を晒して見せる。

 そして黒ひげが背後を振り返れば、宙に浮いたぬえが──再び別の姿で現れ、黒ひげを楽しげに見下ろしていた。その姿は、今度は小さい。普段のぬえと同等程に縮んだ小柄で華奢な少女の姿。それでいて、猿のような尻尾と耳。肘から手首、膝上からくるぶしまでに茶色の体毛を生やし、羽衣も赤に変わったその姿で、ぬえは爛々とした瞳を黒ひげに向けている。

 

「“猿神の化身(ハヌマン・アヴァターラ)”!!! この私を捉えられるかな!!?」

 

「……!! しゃらくせェ真似を……!! 一体幾つ変身を隠し持ってるか知らねェが、闇の力の前には全て無力!!!」

 

 意識を闇に、黒ひげ自身が掌握するこの空間の闇全てに向ける。真っ黒の闇。壁や天井、床であった闇が引き伸ばされるように伸びてぬえへと襲いかかる。まるで触手のように。

 

「闇に呑まれて死ね!!! ぬえ!!!」

 

 そしてそれは全方位から襲いかかる。黒ひげがコントロールするそれは複雑な動きにも対応するように、ぬえをどこまでも追いかけていく。幾らぬえでも捕まれば大きなダメージを負う。その攻撃を──

 

「キキーッ!!」

 

「──!!? (速ェ!!)」

 

 ──いともたやすく躱していく。

 いや、実際にはそれほど容易いことではないかもしれないが、そう見える。一瞬の最高速。あまりにも気軽に動いたように見える加速が、黒ひげの目からはそう見えてしまっていた。

 闇の触手。それらが次々に襲いかかる複雑な軌道の連撃を、空中を跳ぶようにしてぬえは躱していく。

 

「ぐ……!! 何故だ……何故捕まらねェ!!?」

 

「バーカ!! 人間如きがお猿さんに鬼ごっこで勝てる訳ないでしょ!!!」

 

 あらゆるものを引きずり込む筈の闇の包囲網はたった1人の少女を捕まえられない。引力が発生する力場を未来視をも組み合わせて見切り、全てを紙一重で潜り抜けていく。

 それでもあるいは──先程までの巨大な姿や最初の人獣型くらいの大きさであれば捕まったかもしれない。

 だがその小柄さは、闇の隙間から零れ落ちていく。“月歩”にも似たその技術を用い、空中を器用に跳び回る。

 捕まらない。捉えられない。あまりにも──身軽。

 そして何より──読めない。黒ひげが追いつきつつあった未来視の予測でも、その何が出てくるか分からない変身を読むことは出来ない。

 

(ただの変型とは訳が違う!! 変型点を弄るどころの話じゃねェ!! こいつの能力の変型に限界はねェってのか!!?)

 

 黒ひげは気づけば焦り、心の中でそのぬえの能力の異質さに畏怖を抱いていた。能力は使いよう。あらゆる能力は強さへの可能性を持っている。

 だがそれでも無敵の能力は存在しない。必ず攻略法は存在する。それぞれ違ったものだとしても──黒ひげにとっては関係ない。ヤミヤミの実こそが、全ての悪魔の実に勝利することが出来る唯一の力。

 

「──もう射程距離だよ」

 

「!?」

 

 ──だから分からないことなど関係ない筈だ。

 だというのにその分からないことが、自分自身を追い詰めているということ。その事実を黒ひげは理解した。やはり得体の知れない。情報不足。かつて殺した義理の親父に言われた過信と軽率が自らの首を締めている。

 

「……!! それがどうした!!! 受け止めてやる……!! おれの野望はこんなとこじゃ終わりはしねェ!!!」

 

 しかし、だからといって諦める訳がない。

 まだ死んだ訳でも負けた訳でもない。生殺与奪の権利を奪われてはいない。絶体絶命の状況に陥ってもいない。まだ戦える。まだ望みはある。

 ならば進むだけだ。どんな手を使ってでも勝ちに行く。それが“黒ひげ”の信念。

 

「お前はここで終わりよ!!」

 

 そしてそれを理解し、改めて理解したからこそ──ぬえは手心を加えない。

 

「“斉天大聖”──」

 

 覇王色の覇気を両の拳に纏わせて、肉薄した。黒ひげの全身。受け止めてみせると腕を広げて構える黒ひげに──ぬえは無慈悲の連撃を与えた。

 

「“如意猿星群”!!!」

 

「!!!」

 

「ぐァあああああああああああ~~~~~~~!!!」

 

 ──闇の中で、拳の嵐を食らう男の絶叫が木霊した。




前回のネタバラシ→ぬえちゃんのポーズはいわゆるヴィシュヌ神のポーズです。
ぬえちゃん→色んな変型を持ってるぬえちゃんは可愛い。

今回は未知がテーマなのであえて補足説明はほぼ無しで。年末で忙しいとも言う。次回はまたドレスローザとグラン・テゾーロでの戦闘が続きます。ぬえちゃんVS黒ひげもまだ終わってません。今回はこんなところで。
来年もよろしくお願い致します。

感想、評価、良ければお待ちしております。
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