正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──海賊が新しい島についてやることと言えば、概ね2つ……“冒険”か“略奪”だろう。
いやまあ実際には積荷を買い入れたり、取引を行ったり、普通に島に滞在することもあるのだが、大体はその2つに違いない。
そもそも海賊はその2つを行わないと食い扶持が稼げないのだ。まっとうに働くのが嫌な、もしくはそれが出来ない無法者が海賊になり、敵船や民間人から略奪を繰り返したり、訪れる島々で財宝を求め回る。それで得た物を換金したりしてお金を手に入れ、それで食料などの必要なものを買い入れる。全部が全部略奪……って海賊もまったくいない訳ではないが、手に入れた金は使いたいものだ。略奪は騒ぎを引き起こすし、面倒も起こる。だから大体の海賊は普通に街の店や商人を利用するのだ。商人や街を潰しすぎれば流通も止まるから良いことばかりとも言えないしね。海賊とはいえ取引はする、取引はきちんと守ることが多い。
まあとはいえだ。それでも海賊なんてものは悪党に違いない。
幾ら略奪や殺戮を行わず、冒険がメインの“ピースメイン”な海賊とはいえ、法を犯す犯罪者であることには変わりない。海賊同士で戦うし、海軍相手にも戦うし逃げる。気に入らない相手は殺しはせずとも殴る。こういうのだけでも犯罪だ。一般人は暴力を振るうことだってしないものなのだから。
だから海賊は善人ではない。人助けも普通はしない。自分のやりたいことを押し通すのが海賊。他者なんて二の次。人の決めたルールを守らないからこその海賊だ。
そう……だからこそ、海賊がこんなことをするのは……普通じゃない。
「ハァ……ハァ……くそっ……!! なんで同じ海賊が……おれ達の邪魔をする!? てめェらには何の損得もねェだろうがァ!!?」
「……あ~~~……うん。そうよね。それは、うん。確かに、そう」
街の中で私は、相手の海賊から怒声をぶつけられ、歯切れの悪い言葉を発した。ちょっとバツが悪いので視線を横に外す。気まずい。だって相手の言葉に納得してるし、実際邪魔したかった訳でもない。むしろ放置してもいいと思ってる。私の意思ではない。
つまりこうなったのは……はっきり言って、ただの成り行きである。
ただ、一度手を出してしまった以上は、やりきらなければならない。私からやったことではないので知ったことではない気もするけど、途中でやめるのはそれはそれで気持ちが悪くて面白くない。
「ん~~~……まあ……
「っ……!! やめろ──ぐあああああああああっ!!!」
だから私は追い詰めた海賊にお詫びを込めて可愛くウィンクを飛ばし、それから三叉槍でぶっ叩いて相手を倒す。普段なら刺してるし、そうでなくとも殺してる。生かしても面白みのない敵なんて殺そうが何しようがどっちでもいいと思うのだが、そうすると怒られるので今はしない。郷に入っては郷に従えだ。
そうして相手を倒したところで、周囲から人々の声があがる。海賊の戦闘、その決着を見た一般人の声。それは普通は悲鳴だが……今はそうではない。悲鳴ではなく──
「うおお~~~~!!! すげェあの少女、海賊を倒しやがった!!」
「助かった!! ありがとな!!」
「お姉ちゃんありがとう!!」
「……あはは……いや~……どうもどうも……」
周囲から上がる老若男女問わない喜びと感謝の言葉に、私は何とも言えない表情でそれらを受け止める。というのも、こういった感謝に慣れてないからむず痒いのだ。
そりゃあまあ持て囃されるのは悪い気分じゃないし、むしろ好きだから別にいいのだが……ぶっちゃけ、周囲の人達にヒーローみたいな感じで騒がれるのはどうも……性に合わないというか……どうせなら恐れられたくもあるというか……私としては、恐れを持て囃される的な、海賊としての悪名が欲しい訳で……、
「──どうやら助けはいらなかったようだな?」
「! レイリー」
と、私がそんなことを考えながらいそいそと街の人達の目から逃れるように空へ飛び上がると、建物の屋根の上まで上がったところで声を掛けられる。金髪に眼鏡の貫禄のある剣士──シルバーズ・レイリー。私が今お世話になっている海賊団の副船長を務める男の人だ。何しに来たのか。どうも微笑ましい感じの笑みをしていてちょっとムカつきながらも声を返す。
「……べっつに~~~? あんな新世界に入りたての雑魚海賊の1人に、私が負ける訳ないも~ん」
「フフ、随分とご機嫌斜めだな。そんなに人助けが気に食わないか?」
「……海賊が何の得もなく人助けなんて普通はしないし。慈善事業でもないんだからさ」
「確かにな。おれもそう思う……だが──ロジャーはそんなことを気にする男じゃない」
レイリーが苦笑いをしながら追随し、そう返してくる。やはりロジャー海賊団の最古参で船長の相棒、右腕と呼ばれているだけはあるのか、ロジャーのことをよく理解しているようだった。私に同意しながらも行動はきっちりとロジャーの意を汲み取ってるしね。……そこの路地裏にそこそこ手強そうな男が斬撃を受けて倒れているのはきっとレイリーの仕業だろうし。おそらく敵の海賊の最高幹部とかその辺りだろう。きっちり役目を果たしてから、私の様子を見に来たということだ。ちょっぴりその分かってます感がイラッとくるので、私は槍を構えて、
「──隙あり!!」
「おっと。今の攻撃は甘いな。感情が昂ぶって見聞色を乱したか? それと、武装色を武器に纏わせる時は、もう少し──」
「躱しながら冷静にアドバイスするな!!! 助かるけどムカつく!!」
私なりに頑張った攻撃をあっさりといなされ、しかもその上でアドバイスをされてしまい、私は大声をあげてしまう。レイリーとかロジャーには度々こうやって不意打ちをかましているのだが、全然効かない。いつも躱される。ある意味修行になるので私にとっては好都合だが、その度に子供扱いされるのでそこは大いに不満だ。くそう……私だって、年齢的には子供で見習いだけど、そこらの海賊よりは強いのに……。
「フッ……それより、もう終わったみたいだぞ」
「え? ──あっ」
そんなことを考えている間に、気がつけば街の中心地に。そして、そこに仰向けに倒れている海賊と、相手を倒して勝ち誇ってる海賊の2人がいる。その立っている方は、やはり、レイリーの相棒その人であり、
「──おれ達の…………勝ちだァ!!!」
「うおおおおおおお~~~!!!」
「やりやがった!!」
「本当にあの凶暴な海賊達を……!!」
街の人達が先程私に発したそれよりも大きな歓声をあげる。
その先にいるのは──ゴール・D・ロジャー。ロジャー海賊団の船長であり、この島をナワバリにしていた海賊達に喧嘩を売った張本人だ。
……まあ簡単な話。この島に到着したロジャー海賊団は、島の人達がその海賊達に苦しめられていることを知り、さらにはこの島を案内してくれた親切な人が目の前でその海賊達に傷つけられた結果、ブチギレて喧嘩を売り、見事勝利した、と……言ってしまえばそれだけだ。
別にナワバリを奪おうという気もなければ、相手を倒して金品を奪おうとか、何か狙いがある訳でもない。単純に義憤にかられた結果だ。友達や島の人達を救うためだけに、ロジャーとその一味は、1000名を超えるそこそこの大型の海賊団に喧嘩を売り、実際に救ってみせたのだ。
……だが救ったロジャー本人やその仲間達はその行動とは矛盾して、
「──よし野郎共!! 逃げるぞ!!! ヒーロー扱いはごめんだ!!」
「またかよ!! ちょっとくらい滞在してもいいんじゃねェか!?」
「ははは、まったくだ! いつもいつも、戦いの後だってのに忙しなくて困るぜ!! うちの船長は!!」
と、ロジャーの言葉を皮切りに、ロジャー海賊団の面々は港に走っていく。誰も彼もがやれやれと言わんばかりで、そしてそれを見聞きした民衆は、
「な!!? ま、待ってくれ!!!」
「せめてお礼を……!!」
「せっかく助けてくれたのに……!!」
そうやって口々にロジャー達を引き留めようとする。うーん……やっぱりこの逃げ方というか、やり方はちょっと訳が分からないというか慣れないなぁ……純粋に感謝されながら、しかも無償というか何も貰わずに船出って……どうせなら、何か御礼の品とか貰っていったほうが良い気がする。1番良いのは、予め助ける代わりに何かを要求することだけど、それが出来ないならせめて……。
「──おいぬえ!! お前もあいつら倒したんだってな!?」
「……一応ね! 一応!! 何もしないのも気持ち悪いから一応よ!! ほんとはやりたくなかったんだからね!!」
私とレイリーも逃げるロジャー海賊団に合流したところで、ロジャーからそう声を掛けられたので、私はそっぽを向きながらそう答える。別にそんなつもりじゃないし。船で世話になってる分もあれば、早く終わらせたほうが私の仕事も完遂に近づくからという理由だ。別に人助けがしたい訳じゃない。本意でもない。だというのに、この男は、
「それでもありがとな!! わはは!!」
「っ!! ~~~っ……!! こいつ……!! って頭触るなぁ!! こんなことで、しかも敵に褒められても嬉しくない!!」
「そう言うな!! 友達だろ!!?」
「──違う!! 案内人!! ただ一時的に船に乗ってるだけ!!」
「そうロジャーやおれ達に言い続けてもう数ヶ月経つけどな!! ぬえは変わらねェな!! ははは!!」
「うっさいギャバン!! ばーか! ばーか!」
ロジャーやギャバンにからかわれ、私はムキになって言い返す。くぅ……ムカつく……でも私より遥かに強くて挑んでも遊ばれるだけだから何も出来ない……!!
結果、私は口で文句を言うことしか出来ないのが歯痒い。たまに手も出すが、やはり軽くいなされるし。何がムカつくって、それで若干覇気が上達してるのがムカつく。冷静になった時に凄い複雑な気持ちになるのだ。地味に覇気の成功率や強さが上がってて。これもロジャー海賊団についていって無駄に大冒険してるせいだろう。なにせこの一味、島一つ一つで必ず何か起こさなきゃいけない呪いにでもかかってるんじゃないかってくらい、何かを起こすし起きる。そのせいで散々私も苦労して……くっ……なんでクルーでもないのに私が協力を……! 改めて思い返すと頭が痛くなる。自由過ぎるこの男達の行動と、それに馴染んでしまっている私自身に。
「それで? 船ではまた宴か?」
「おお!! 当然だ!! 野郎共!! 船を出したらしこたま飲むぞ!!」
「よっしゃ!! さすがロジャーだ!! おいぬえ! 飲み比べするか?」
「ふふん。何度挑んだって無駄よ! 私に勝てるとは思わないことね!」
そうそう──戦いの後は大体宴があるので、そこで好き勝手飲み食いするのはやはり楽しく…………いや、まあ……そういうのは楽しいんだけどさあ……冷静になると微妙な気分になるというか……いつまで続くの? って疑問が浮かび上がってくる。だから、その度にロジャーに聞くのだが、
「……まあ宴はいいんだけど……それで? いつ来てくれるの?」
「ん? そうだな……次は一度偉大なる航路を出て4つの海を回って……それで、もう一度偉大なる航路に戻ってくるつもりだ!!」
「──大冒険か!!! ちょっといい加減にしなさいよ!! もうなんだかんだ言って結構経ってるんだけど!? この島ももう出るんだから今から来なさい!!」
「ええ~~~!! だが次に行く島ももう決まって──」
「いい加減にしないと、ロックス船長に言うわよ!! ロジャーはロックス船長が怖くて戦うことを避けてる腰抜けでしたって!!」
「む!! それは困る!!! それは困る……が……ん~~~~……」
ロジャーが一度は怒って、しかし直ぐに顎に手を当てて悩み始める。何を悩んでいるのか……いやまあ何となくは分からなくもない。ロジャーはアレを探してる訳だし、おそらくそれの捜索を優先したい気持ちで悩んでるのだろう。多分。いや、普通に行きたい島があるだけかもしれないが。それだったら絶許。
しかしそうやってロジャーが悩んでるところに、意外にも仲間達が援護する。ロジャーではなく、私のことを思ってか、
「だがロジャー。確かに、あまり時間を掛けてはそういう風評が出回るかもしれないぞ」
「それにぬえもそろそろ返してやらねェと。こんだけ兄妹分と離れ離れだと、寂しくて泣いちゃうかもしれないしな!」
「泣かないわよ!!!」
「……よし!! それもそうだな!! そろそろ──ロックスの奴に喧嘩売りに行くか!!」
「おお!! 遂にか!!」
「腕が鳴るな!!」
「え!? 決め手が私が泣くからなの!? 納得いかないんだけど!!!」
「わはは、細かいことは気にするな!! さっさと案内してくれ!!」
「っ……! 元はと言えばあんた達が~~~!!」
私は怒ってロジャーに攻撃を仕掛ける──が、やはり躱される。その様を見て笑うクルー達。あーもう!! こいつら……ロックス船長やウチの海賊団と一戦やって、ボロボロになっても知らないんだから!! 目に物見せてやる!!
──そうして、ようやく私は数ヶ月という長い長い……もう、凄く長く感じた時間を経て、ようやく任された仕事を遂行出来る目処が立ったことにホッと息を入れた。
……筈だったのだが、
「──ロジャー!! 今日こそはお前を倒して牢屋にブチ込んでやる!! さあ、観念しろ!!」
「わはは!! 悪いなガープ!! 今は急いでんだ!! これからぬえを送り届けるついでにロックスの奴をぶっ倒しに行くところだからよ!!」
「──何!? ロックスだと!? お前──って、そこにいるのは……!!」
「ちょっ! 何で言うのよ~~~!!? バレちゃったじゃない!!」
「ん? 駄目だったか?」
「駄目に決まってんでしょ!!! 海軍に情報与えるな!!! このままじゃ居場所が──」
「わはは、まあ、心配するな! 逃げればいいんだろ? ──ということでガープ!! 殺し合いはまた今度だ!!」
「待て!! 何を企んでるロジャー!! 逃さんぞ!!」
……ということで、海軍に……しかもガープと海で遭遇し、ロックスとロジャー。2つの海賊団がこれから接触するということを情報として与えてしまっていた。いやほんともう……このロジャーという男は……メチャクチャ過ぎて私じゃコントロール出来ないんだけど!! 面白くないとは言わないけど、面白さより苦労が勝ってそれどころじゃない!!
「あ~~~もうっ!! ――“グリーンUFO”!!」
私は仕方なく、海軍の追跡を振り切るために新しくこの戦いで使えるようになったUFOを飛ばして援護しつつ、電伝虫でロックス船長に現状を報告することにした──助けて船長!!!
正義の軍隊。その本拠地のとある一室では、過去最高レベルの緊迫感が漂っていた。
その理由は今しがた、その場にいる男達の同僚からもたらされた速報によるもの。あまりにも衝撃的な報告であったため、彼らはそれを処理するべく、一旦は自分の口で発してしまう。
「ロジャーとロックスが接触を……!!?」
「情報は確かなのか!!?」
その部屋は1人の海軍中将の男のもの。筋骨隆々で尖った髪を持つ男──名をコングと言い、この場にいる海軍中将らの中では軍歴が1番長い年長者である。
そして次に、報告の電伝虫の受話器に言葉を発したのは、同じく、海軍本部中将──“仏”のセンゴク。彼は受話器の向こうから聞こえる戦闘音と聞き慣れた男の声を血の気の引いた表情で聞いた。
『だからそう言っとるだろ!! どういう訳か知らんが、ロジャーの奴がそう言ってる!! あいつは嘘をつける性格ではないし……後──、ロジャーの船に、ロックス海賊団で見た顔が乗っとる!! おそらく使者か何かだ!!』
「っ……!! まさか……そんなことが……!」
受話器の向こうにいる男──同じく、海軍本部中将、“ゲンコツ”のガープ。センゴクとこの場にいるもう1名の同期であり、一中将でありながら、海軍でも屈指の実力を持つ男だ。
しかし普段なら遠慮のないやり取りを行うことの出来る間柄であっても、その報告には二の句を継げない。ただの海軍中将の身で受け止めるには重すぎる報告だった。
だが僅かに歴が長いコングが声を発する。歯噛みした口を無理やり開き、
「くっ……ガープ!! どうにかして奴等の接触する場所を──」
『ぐっ!? すまんがもう切るぞ!! だが安心しろ!! おれが必ず、あいつら2人をとっ捕まえて──』
プツッ、とその切羽詰まった会話の途中で、電伝虫は切れてしまった。
「おいガープ!! ガープ!! ……くそっ!!」
受話器に何度か声を発し、再度電伝虫を掛けてみるも繋がらない。向こうもそんな余裕はないのだろう。相手はロジャーだ。むしろロジャーを追いかけながらも一度は報告してきただけ、ガープにしては良い判断だったと言える……が、それでもなお伝えられた現実に自然と拳に力が籠もる。
「……コングさん……今のガープの話が本当だとしたら……」
「……ああ。おそらくは事実だろうが……目的は従属か同盟、もしくは……戦争だろうな」
センゴクが一度気持ちを落ち着けて冷静にコングへ声を掛ける。するとコングも立ち上がった身体を一度自分の席に戻し、現実として今後起きる出来事の想定を口にした。
最強の海賊団として知られるロックス海賊団と、ロックス以外の海賊の中では“鬼”とまで称される程の強さを持つロジャーのロジャー海賊団が接触する──こんなこと、上層部の連中が聞いたら卒倒することだろうと。
だが現場で対処をするのは自分たちで、何か対策を講じなければならない。だからこうして集まっている。政府の役人からもせっつかれているのだ。それと他ならぬ──天竜人からも。
「──ロジャーは……誰かに従う様な海賊じゃない。それはロックスも同じ……傘下か同盟を呼びかけたのだとしても交渉は決裂し、結局は……戦争になるでしょう」
「……お前もそう思うか──ゼファー」
一度沈黙した部屋の中で、最初に声を発したのはセンゴクの隣で先程の報告を黙して聞いていた男──海軍本部中将、“黒腕”のゼファー。
ガープやセンゴク……そしてこの場にはいない“おつる”も合わせて同期の出世頭である彼もまた、ロックスに対抗するための戦力の1人であった。
だが海兵の鑑として知られ、いついかなる時も海兵として正しいことを冷静に熱く為す男も、今の報告には額に汗を流してしまう。それだけロックスという怪物は怖ろしく、ロックスとロジャーの接触というのは世界を揺るがす程の事件になりかねないことでもある。その懸念を口にし、コングから返ってきた言葉に頷き、ゼファーは再度考えを口にする。
「ガープからもたらされた情報は貴重で、これから新たな情報が手に入ることも見込めます。もしかしたら……」
「──居場所も分かるかもしれない……か。確かに、そうなればいいが、そうだとしてもまた厄介だな……」
コングがゼファーの考えを汲み取り、頭を抱える。するとその悩みを、今度は智将とまで呼ばれる男が汲み取った。
「……“バスターコール”の発動を認められてるとはいえ、ロックスの居場所が分からなければ発動は出来ず……仮に発動したところでロックス海賊団には敵わない可能性が高い……そして、それにロジャーが加わるとなれば、中将5人程度では荷が重いかもしれませんな……!」
悔しさを滲ませるように拳を強く握りながら、センゴクは眉間に皺を寄せた表情で言う。そう──この場にいる3名は“バスターコール”に加わる為の戦力だった。
海軍中将5人に、軍艦が10隻──国をも滅ぼす戦力の集中攻撃は、島一つを地図から消してしまうほどの圧倒的な力。それが3人の海軍大将と海軍元帥だけが発動できる“バスターコール”である。
ロックス海賊団という脅威に対してバスターコールをかけることは既に会議でも認可されていることだが、そもそもバスターコール程度でロックスが破れるのかという疑問はある。
この場にいる──コング、センゴク、ゼファー。そしてこの場にはいないが、おつる、ガープ。この5人で軍艦10隻を指揮することは決まっているが、それでもロックスに対する戦力としては弱い。
それに……海軍にとっては、悩ましい命令もある。それは世界貴族の意向だ。
「情報操作を行ってなお、人々の耳に届くロックス海賊団の脅威……それほどの連中が海で暴れ回っているというのに……! 奴等は一体何を考えて──」
「おいよせセンゴク!! ……誰が何処で聞いているか分からない。あまり余計なことは喋るな」
「! ですがコングさん!! おれは納得出来ません!! こんな時だって言うのに、そんな無茶な命令を聞いて戦力を分散させるなど……!!」
コングの机を叩き、自分の気持ちを訴えるセンゴク。普段はガープのストッパー役たる彼も、今回の上層部の理由を知らされない指示には納得が出来なかったのだ。
そしてそれはゼファーも同じで、それに……コングも同じだ。
だがコングはそのセンゴクの訴えを聞いて、苦渋の表情を浮かべると、それでもなおこう言った。
「……政府が指定した、幾つかの島。
「! っ……民衆は……どうなっても構わないと?」
「……最優先なのは……それではない……」
コングのはっきりと言及はしない力なき言葉に、センゴクも押し黙るしかない。──なんと無力なのだと。
ロックスを倒せもしなければ、それによって苦しめられる人々を守ることも救うことさえ出来ない。守るのは世界の創造主達の末裔──“天竜人”とその持ち物だけ。それらに危害を与える時のみ、自分たちは個別で奴等に挑み、それらを守らなければならない。
それまではロックスを追いかけることすら出来ないのだ。
命令違反は出来ない。彼らは思うところがありながらもそうする他ない。
だが、ふと……ゼファーが自嘲するような笑みでいった。彼もまた、その命令に従う他なく……そして、同期の性格を羨ましく思っていた。
「……こういう時……ガープの自由さが羨ましくなるな……あいつは命令があっても聞かんだろう……おそらく、このままロジャーやロックス達を追って、奴等を捕まえるつもりの筈だ……」
「ゼファー……」
「……そう、だな。今は……ガープの奴に任せるしかない。我々は……やれることをやるしかないのだ……!!」
ガープというたった1人の男に任せることしか出来ない自分たちの不甲斐なさを恥じながら、彼らは再び、己の任務に戻る──混沌と乱れる世では、正義の在り方すら、はっきりしない状態であった。
──“新世界”。とある島。
「──おう、ぬえ……そろそろ帰ってくんのか……? ──そりゃあいい……! ギハハ……そろそろカイドウの奴もイラついてやがるしなァ……それと、おれの方もちょうどロジャーの奴に言いてェことが出来てな──」
と、世界の王を目指す男はある島で、部下からの電伝虫を取り、ニヤリと口端を歪める悪い笑みを浮かべた。その視線の先には──
「──ロジャーに、こう言ってやんな。お前の欲しい石もちょうど……
──そこにあったのは……古代文字が記された、
今回はワンピ的なテンプレ冒険をするロジャーと仲間達(withぬえ)という訳で、次回はとうとうDの2人が顔を合わせます。ゴッドバレーはまだですが、その時も刻一刻と近づいてきてます。といったところで今日のところはここまで。次回はまた明日、味濃いめでお送りしていきます。
感想、評価、良ければお待ちしております。