正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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戦災

 

 ──“鏡世界(ミロ・ワールド)”。

 

 黒ひげの放ったその一撃が直撃し、破壊の余波が大地を穿つ。

 

「ゼハハハハ!!!」

 

「……!!」

 

 耳に聞こえる耳障りな笑い声。それと共に──私は過去を思い出していた。

 

 ──41年前。“新世界”。

 

『──てめェ!! ぬえこの野郎!! おれの宝を置いてきただと!!?』

 

 若々しい金髪の変な眉毛の男──“金獅子のシキ”が私に怒っている。

 それを周囲の懐かしい顔ぶれ達──はいつものことのように眺めていた。

 

『だ、だからごめんって言ってるでしょ!!』

 

『ごめんで済むか!! 今すぐ取ってこい!!』

 

『どんだけ離れてると思ってるのよ!! 嫌よ!! 今まで気づかなかったそっちも悪いでしょ!! 変な眉毛!!』

 

『眉毛は関係ねェだろ!!』

 

『おいシキ!! おれの兄妹に喧嘩をしかけるってんならおれが相手になってやる!!』

 

『てめェまでしゃしゃり出てきてんじゃねェよカイドウ!!』

 

『ママハハハ……!!! 子供に怒鳴ってみっともないねェ!!』

 

『まったく……宴会の最中くらい殺し合うのやめらんねェのか?』

 

『今日こそは下剋上だ!! 行くぞぬえ!!』

 

『こなくそー!! 勝てる気しないけどこうなったらヤケよ!!』

 

 逃げる私に追いかけてくるシキ。金棒を持って参戦してくるカイドウ。それを見守る白ひげや笑うビッグマム。

 かつての世界最強の一味──“ロックス海賊団”の面々がその船上に揃っていた。

 

『ギハハハハ!!! その辺にしといてやれ!!』

 

『!』

 

 いつものように始まる殺し合いの最中。頃合いを見てそのロックス海賊団を束ねる最強最悪の海賊もまた顔を出す。

 “海の悪魔”と恐れられた大海賊──ロックス・D・ジーベック。その彼が、いつものように凶悪な笑みを携えながら殺し合いを仲裁した。

 

『お頭……でもこいつら……!!』

 

『宝を忘れてったんだろ。聞いてたぜ……だがなシキ。確かにてめェの宝もそれなりに価値があるもんだろうが……このガキ共は()()()()の価値に成るかもしれねェぜ?』

 

 怒りが収まっていないシキに、ロックスは私たちを見下ろしながらそう告げる。大勢の海賊、海兵、民衆を震え上がらせる凶悪な人相をそのままに。

 

『ガキってのは可能性の塊だ!! こいつらは将来有望な海賊の卵!! お前にもそれがわかってんだろ? なにせこいつらを懐柔しようとしてたくらいだからなァ……!!』

 

『!? それは……』

 

『ギハハハ!! まァそれを咎めるつもりはねェ。だがこいつらはまだおれの船の見習いなんだ。そのくらいで許してやれ……お前がやりすぎると死んじまうかもしれねェからなァ』

 

『……ああ、わかったよ。元々殺す気はねェ』

 

 殺し合いが終わり、シキが少し離れて樽の上に腰掛けるとロックスもまた踵を返して甲板にある自らの席に戻った。

 その一部始終を見て、船員たちは噂する。

 

『船長って意外とガキに甘ェよな』

 

『バカ。そりゃカイドウとぬえだからだろ。普通のガキを殺すのを止めたことなんてあるか?』

 

『むしろ嬉々としてやるからな。女に子供に老人、容赦なし!』

 

『いやー……でも案外あれでガキには甘ェし意外と子供好きだったりして……』

 

『まだ言ってんのか!』

 

『酔っ払ってんのか?』

 

『ギャハハ!! 案外どっかの港にガキがいたりしてな!!』

 

『…………』

 

 ──その会話を起き上がりながら耳にする。

 

 そんな記憶。それを思い出し、そして別の笑い声が重なる。

 

「ゼハハハハ……!! ゼェ……ゼェ……!! どうだ化け物!! さすがに効いただろ!!! そろそろお陀仏か!!?」

 

 この私に無視できない一撃を食らわせ、満身創痍ながらも笑みを絶やさない海賊“黒ひげ”。マーシャル・D・ティーチがダウンした私を挑発する。

 その姿、海賊らしさとも言うべき振る舞い、言動は確かにそうであってもおかしくないもの。

 また、私だけが持つ視点から考えてもそうであってもおかしくはない。その可能性は決して否定できないものであり、だからこそ私は一瞬の隙を晒した。

 

 ……だが。

 

「──“終末の化身(カリユガ・アヴァターラ)”」

 

「!!」

 

 自らの不覚を反省し、私はまた姿を変える。

 肌も黒くなり、可愛らしさを残しつつも更に恐ろしい姿になった私はその腕で弓を引いて弾幕を天に放った。

 

「“恨弓”……!! “源三位頼政の弓”!!!」

 

「!!? チッ……やっぱまだ倒れねェか!! しかもこの技は……!!」

 

 天に放った一線の弾幕の矢はある一定の高さまで昇り終えると幾千にも分かたれる。

 そうして雨の如く激しく降り注ぎ、その一帯を破壊し尽くすのだ。

 

「うごおおおォ!!? か、躱しきれねェ!! 痛ェ!! チクショウ!!」

 

「この技は私が止めるまで永久に降り注ぐ……!! 受けきれるもんならやってみろ!!!」

 

 黒ひげの闇の引力すら全ての弾幕を吸い切ることは不可能なほどの圧倒的な物量。躱せるように作っていない弾幕技は黒ひげの身体を、あらゆるものを削り続ける。

 例外は私だけ。その弾幕の洪水の中で、私は勢いよく宙へと浮き上がると強襲を予測し、我が身に雷を纏った。

 

「……!! だったらやられる前にやるのみだ!!! お前も嬉しいだろぬえェ!!! お前を育てた親の実の息子に殺されるんだからなァ!!!」

 

「……あんたが誰の子供だろうと知ったことじゃない。私たちの道を邪魔する者は殺す。たとえ目の前にいるのが──()()()()()()()()()殺すわよ私は……!!!」

 

 手加減をするつもりはない。全力を以てこの敵を殺す。

 そこに邪念はない。ただ力を込めて槍を握りしめる。

 

「……!! さすがに手加減はしてくれねェか……!!」

 

「むしろ全力で殺してあげる……!!!」

 

「いいややられねェ!!! お前を殺しておれはおれの夢を叶える!!!」

 

「これが最後よ……!!! “真羽(マハー)”──」

 

 カイドウとの戦い以外では使ったことのないその最強の一撃。

 迎え撃つ黒ひげに対し、私は全身を矢に見立てて飛来した。

 

「──“闇人震波(クロームクラッシュ)”!!!!」

 

「──“修羅鵺終(シヴァラートリー)”!!!!」

 

「!!!!」

 

 その激突で生じた破壊と轟音が、その戦いの決着のゴングとなった。

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”、1段目。

 

 ドレスローザとグラン・テゾーロ。2つの島の戦線は僅かに反海賊帝国側が優勢になる中、黄金の大地の上は未だ大勢の海賊帝国側の兵士がひしめき合っていた。

 

「ウオオオオオ!!!」

 

「くっ……せっかくここに辿り着いたというのに!!」

 

「ギフターズが多すぎる!! まさかこれほどとは……!!」

 

 神の大地の麓を抜け、何とか1段目に上がってきた海賊たちや新政府軍の将兵はしかし、その場で立ち止まるしかない。麓にいた大勢の民衆に海賊帝国の兵隊は厄介ではあるが、そこにいたのは百獣海賊団のウェイターズやプレジャーズといった最下級の兵士達が大半を占めている。

 

「当然だ!! おれ達は選ばれし者!!」

 

「雑兵を乗り越えた程度でイキがるんじゃねェよ!!」

 

「ギフターズを舐めんじゃねェ!!」

 

 だが、ここで立ち塞がるのは百獣海賊団の主戦力であるギフターズ達だ。

 その数およそ500人。真打ちの数も合わせれば550人程になるその軍団は容易に打ち倒すことの叶わない強力な壁となって敵対者の道を阻んでいた。

 

「ゼェ……ゼェ……いい加減にするべ!! これじゃいつまで経ってもキリがねェ!!」

 

「そりゃこっちの台詞だ!! 面倒臭ェ……!! その女の能力さえなきゃ……!!」

 

 とはいえ中にはそれを乗り越えうる戦士もいたが──そういった者達もまたより強い相手に行く手を阻まれていた。

 無敵のバリアを貼って相対するバルトロメオもまたその1人。その相手は“最悪の世代”の海賊であるスクラッチメン・アプーであり、バルトロメオはサポートに徹する協力者のおかげもあって何とかアプーを止めていた。

 

「ちょっと!! まだ倒せないの!?」

 

「うるせェ!! くそ、あの野郎……!! 能力を封じれば楽にやれると思ったが……それでも手強いべ!!」

 

「ったりめェだアホンダラ!! 能力が通じなくてもお前ら如きに負けやしねェんだよ!!」

 

 カリーナのナギナギの実でアプーのオトオトの実の力を防ぎ、死角のなくなったバリアの中でバルトロメオとカリーナは声を荒げる。確かに能力を封じることは出来たが、それでも“最悪の世代”の船長たるアプーの強さは並大抵の物ではない。

 だが一方でアプーもまた能力を封じられ、無敵のバリアの中で防戦する2人を仕留められなかった。

 

「(チッ……とはいえこれじゃただ時間と力を浪費するだけだな。こうなりゃ……)行け!! “三鬼(ザンギ)”!!」

 

「ザギギ~~~~!!!」

 

「おわァ~~~!!?」

 

 アプーの命令を受けたナンバーズ“三鬼”が金棒をバルトロメオ達に向かって振り下ろす。

 それでもバリアは壊れることはなかったが、突然の攻撃に驚き声を上げるバルトロメオ。

 

「あんの野郎……!! こうなりゃバリアの外に出て……って、いねェべ!!?

 

 このままでは埒が明かないとバルトロメオが攻勢に出ようと意思を固める──が、その対峙していた相手であるアプーはそこにはいなかった。居場所は遠くへと変わり続けており、

 

「アッパッパ~~~~!! お前らの相手は面倒くせェ!! おれは別の場所に向かうとするぜ~~~~!! 好きなだけバリアの中に籠もってな!!!」

 

「! てめェ!! 待つべ!! ──ぐっ!!」

 

「ザギ!! ザギギ!!」

 

 その場から逃走を始めたアプーに気づき、追いかけようとするバルトロメオだが、その場には三鬼が立ち塞がる。

 失敗作とはいえ古代巨人族の戦闘員であるナンバーズは神の大地1段目の戦場において未だ脅威であった。

 

「フガガ~~~~!!!」

 

「うわあ~~~!!? き、錦えもん!! もっと早く!! このままでは踏み潰されてしまう!!」

 

「しょ、承知!! (くっ……せめてモモの助様を守りながらでなければ戦いようもあるのだが……!! いつの間にかカン十郎や日和様とははぐれてしまったし……!!)」

 

 1段目の戦場をモモの助を抱えて走る錦えもんもまた、ナンバーズ“二牙(フーガ)”に追われて苦虫を噛み潰す表情を浮かべていた。戦うにしてもモモの助を安全な場所に置かなければ難しいと。

 

「ハァ……ハァ……さすがにキツイわねい!!」

 

「バカ共GA……!! この大地は未だ我々に有利な戦場だぞ!! の“G”~~~!!!」

 

「上へは行かせん!! 昇ってくる奴らは全員ここで始末する!!!」

 

「むゥ……!! やはり数の不利は如何ともし難い……!!」

 

「巨人族のおれよりもデカい奴がいるとは……!!」

 

「イビビビ~~~~!!!」

 

 そして新政府軍の兵士達──それをまとめていたMr.2ボン・クレーや奴隷から解放されたことでゴッド・ウソップへ恩義を返すために動き出した海賊達──“偽りの殺戮冒険野郎”オオロンブスや新巨兵海賊団のハイルディンといった面々もまたラオGやグラディウスといったドンキホーテファミリーの幹部や百獣海賊団の真打ち達との戦いを行っている。

 神の大地の麓から上がってこられる兵士はまだ少ない。ゆえに彼らは不利を強いられていた。

 

「!!!」

 

「うおお!!? また来たぞ!!!」

 

「離れろ!! あっちの戦いには近づけねェ!!!」

 

 ──だが、そんな危険極まる戦場において戦う強者達にとっても距離を取らざるを得ない戦いが1段目に存在した。

 黄金で出来た神の大地を揺るがす振動。吹き荒れる突風。遠巻きにすら感じるそれらの異常に、人間である戦士達は恐れ声を上げる。

 

「ジャックさんとムサシお嬢様の戦いに近づくな!!! 死ぬぞ!!!」

 

「まさに……“災害”だ……!!!」

 

「!!!」

 

 瞬間、黄金の大地が砕け、金色の粉塵が宙を舞う。

 その振動で転び、黄金の崖を砕いてみせたその異形の巨漢の姿を兵士達は見た。それはこの戦場において最も危険な相手である1人。

 

「くっ……!! 覚悟はしておったが……やはり我相手には最初から本気か……!!」

 

「当然だ……!! ムサシ……!! お前も麦わらの一味ももはや手加減する必要はねェ……!!! おれが皆殺しにしてやる!!!」

 

 ──百獣海賊団の大看板。“旱害のジャック”。

 その災害と称される男は、本気となる人獣型のその先──“覚醒フォルム”を解放し、戦場で暴れていた。

 その様はまさしく“災害”であり、ジャックとムサシの戦う周辺の大地は材質が黄金であるにも関わらず、大地が陥没し、ひび割れ、砕けて瓦礫状になっているなどその凄まじいパワーが窺える有様となっている。

 

「なるほど……よくわかった。ならばやはり、お前をここで留め置くのが我の役目!!!

 

「──なら踏み潰すだけだ」

 

「!」

 

 ジャックの巨大なマンモスの足が持ち上がる。

 それを見たムサシは反応した。周囲もまた恐怖を以て。

 

「おいやべェ!! 逃げろ!! また来るぞ!!」

 

「衝撃に備えろ!!」

 

 百獣海賊団の船員たちは誰もがその場から離れ、あるいは衝撃に備えて地面へ屈む。退避しないのは対峙するムサシただ1人。

 

「“(だん)()……()……”!!!」

 

 それはまるで相撲の四股踏み。

 振り上げた足に自らの覇気と力、体重を全て乗せて踏み潰す圧倒的な破壊の一撃。

 大きな溜めを作り、声にも力を入れたその足を──ジャックはムサシ目掛けて振り下ろす。

 

「“(ぞう)”!!!」

 

「!!!」

 

「ギャアアア~~~~!!?」

 

「また大地が……!!」

 

「地割れに気をつけろ!!」

 

「くっ……どんなパワーなんだ……!!」

 

「これが“大看板”か……!!」

 

 その踏みつけは、黄金の大地すら砕いて揺らし、破壊する暴虐の一撃。

 世界を支配する百獣海賊団。カイドウとぬえの懐刀である“災害”。“大看板”の強さを証明する馬鹿げた力だった。

 通った土地は旱魃でも来たかのように朽ち果て()()()──たとえそれがどんな土地で、誰が立ち塞がろうとも一切合切を踏み潰して均す。

 “旱害のジャック”の異名に偽りないその一撃は、黄金で出来た大地を陥没させ、一部地割れを起こした。その一撃を喰らえば、普通の人間ならば豆腐のようにグチャグチャになってしまうだろう。

 

「……躱したな……!!」

 

 だがジャックは上を見上げていた。自身がもたらした破壊の痕や周囲の被害には目もくれず、踏み潰すつもりだって敵を睨みつける──そう、そこにいる翼の生えた虎のような人獣。

 

『“狂獣のムサシ” ネコネコの実(幻獣種)モデル“窮奇” 覚醒フォルム』

 

「我はお前たちとは違う……!! 躱せる攻撃にバカ正直に当たってやると思うな!!!」

 

 風を操り空を飛ぶ虎のような幻獣。その能力を覚醒させ、より疾く、より強くなった力をムサシはジャックに向かって振るう。

 

「“狂風”……!! “風刃”!!!」

 

「!!!」

 

 風を操る力によって生じた竜巻。その中心にいるジャックに対し、風に乗ったムサシが二刀の刀で斬撃を浴びせる。

 常に移動を続けてジャックを撹乱しながらの攻撃は効果的で、事実ジャックにも細かい傷を負わせていた。

 

「“宝印(ほういん)……()……”!!」

 

「!?」

 

 だがジャックもまた見失うばかりではない。その目は正確にムサシの姿を捉え、拳を振り上げていた。

 

「“(ぞう)”!!!」

 

「!!!」

 

 ジャックの拳が、再び黄金の大地を、二段目に続く土台の壁を破壊する。

 

「グオ!!」

 

「!!」

 

 しかしそれもまたムサシは紙一重で躱していた。ジャックの懐に素早く入ったムサシはジャックを再び斬りつけることに成功する。

 だが攻撃に成功したのはムサシだけではなかった。

 

「──鬱陶しい!!」

 

「!!?」

 

 ジャックの巨大な鼻。その一振りが宙を往くムサシを叩き落とす。

 地面に叩きつけられ、血を流すムサシだがそれしきで気絶したりダウンすることもない。再び素早く立ち上がってジャックの追撃を躱すと刀を油断なく構えて対峙する。

 

「ハァ……ハァ……さすがにパワーでは分が悪いか……!! だが速さはこちらが上だ!!!」

 

「多少速い程度で“災害”は止められねェ……!!! 全部踏み潰してやる!!!」

 

 ジャックとムサシ。2人の戦いは神の大地を震撼させながら継続される。その地にいる大勢に影響を与えながら。

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”二段目。

 

 ドレスローザから運んだひまわり畑が中心の二段目はそこに辿り着いた数少ない戦士たちの戦場だった。

 

「足場が危なっかしいな!! おれの能力でヒラヒラしてなくても揺れてたなこりゃ!!」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ドンキホーテファミリー最高幹部“ディアマンテ”とキュロスの戦い。

 ひまわり畑で対峙する2人はディアマンテのヒラヒラの実の能力で揺らされた不安定な大地の上で戦っていた。

 だがその影響を受けるのはその場にいる他の者も同様だ。

 

「大丈夫ですかロビンさん!!」

 

「ええ、なんとか……そっちこそ大丈夫?」

 

「足場の方はなんとか!! それよりもあの2人が厄介ですね……!!」

 

 ひまわり畑で敵と対峙するのはキュロスだけではない。麦わらの一味のブルックとニコ・ロビンもまた厄介な敵の妨害にあっていた。

 それは異なる能力でひらひらとはためく大地の影響を受けていない2人の女性。

 

『テゾーロ海賊団最高幹部“VIPコンシェルジュ”バカラ ラキラキの実』

 

「往生際が悪いわね……早いところ諦めた方が賢明なのに。なにせ、あなた達の“運”はもうとっくに尽きてる……!!」

 

 1人はそのはためく大地の上で、なぜかその影響を受けずに立つことが出来ている褐色の女性、バカラ。

 そしてもう1人は、二段目から三段目に続く壁に“巣”を張っていた。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”ブラックマリア クモクモの実(古代種)モデル:ロサミガレ・グラウボゲリィ』

 

「さっさと捕まってほしいところね。抹殺許可が出たとはいえ……“麦わらの一味”はぬえさんのお気に入り……!! 捕まえた方が手柄になるわ」

 

 下半身を蜘蛛にして自身の張った壁面の蜘蛛の巣に引っ付いている百獣海賊団の飛び六胞ブラックマリアは、麦わらの一味の2人を余裕そうに見下ろしている。

 神の大地2段目における主な敵はその3人であり、未だ多くの戦力がこの先に進むことのできない障害となっていた。

 

「壁面のお嬢さんはともかく……なぜあちらの方は平然と立っているんでしょう……?」

 

「おそらく……悪魔の実の能力」

 

「──その通りよ」

 

 バランスを取るブルックの質問にロビンが推測し、そしてその当人が答えた。その手に持ったコインを宙に放り投げながら。

 

 ──そしてそのコインは偶然そこを飛びかかった鳥に当たり、その鳥が偶然飲み込みかけていた餌の毛虫を吐き出し、その毛虫が偶然下にいた虎を驚かし、その虎が吠えたことで驚いた兵士が間違えて引き金を引き、そこから射出された鉛玉が跳弾によって跳ね返り、偶然ブルックの後方から飛来する。

 

「ウ!!?」

 

「ブルック!!」

 

 そうして銃弾が肩を掠めたのを見て、運良く敵が傷ついたバカラは微笑を浮かべた。それこそが、自らの能力だと。

 

「私はラキラキの実の能力者……!! 他人の運気を吸い取り、自らの物とする私にとって……敵を倒すことなんて簡単なこと。ここから一歩も動く必要もないのよ!!」

 

「今のコインを投げただけで……!! なんという偶然……!!」

 

「触られた時に運気を吸われたのね……!!」

 

 ロビンは戦闘の最中で隙を見計らってブルックに触れたバカラのことを思い出す。それすらも運が良かったのは他の誰かから吸い取った運気のおかげなのだろう。そうして不運になったブルックはバカラの幸運と合わさってあらゆる行動が失敗し、ダメージを負っている。

 

「だったら……!!」

 

「!」

 

 幸運状態のバカラに不運状態のブルックでは戦いにならない。

 なら自分がとロビンはハナハナの実の能力で腕を生やしてバカラに攻撃を仕掛けた。

 

「私があなたを仕留めればいい……!!」

 

「……っ……そうね。それが最善よ。ただ……それができる状況であればの話だけど」

 

「──そうよ。私を無視しないでちょうだい」

 

「!!」

 

 バカラに攻撃を仕掛けようとしたロビンだが、すんでのところでバカラの身体が後方へ引き上げられる。

 その正体はブラックマリアの指先から吹き出した粘着性の糸。その糸によってバカラを助けたブラックマリアは代わりにロビンの相手を引き受ける。

 

「世話が焼けるわね……」

 

「助かるわ」

 

 そうしてバカラを後方へ下がらせると同時に、ブラックマリアはその糸をまた別の場所に伸ばした。それは上方、三段目の戦闘の余波で落ちてきていた巨大な岩石で。

 

「気をつけてくださいロビンさん!! きっとあの岩石を叩きつけるつもりです!!」

 

「フフ♡ ただの叩きつけなんて芸のないことはしないわよ。あなた達もご存知の通り、ロサミガレ・グラウボゲリィは火吹きや幻惑能力を持つ多彩なクモだけど──」

 

「──いえ、知りません」

 

「──知らないわ」

 

「──聞いたこともない……」

 

(知らねェ……)

 

(知らないわ……)

 

「!!?」

 

 ブラックマリアが自身の能力である古代の蜘蛛、ロサミガレ・グラウボゲリィのことを説明しようとした時、神の大地2段目にいる彼らの心が1つになる。ブルックやロビン、キュロスは言わずもがな、口には出さずともディアマンテやバカラですら心の中でツッコミを入れた──そんな生き物は知らねェ、と。

 

「……!! フ、フフ……!! ならば無知なあなた達は身を以て知るといいわ!!!」

 

 全員に知らないと言われて僅かに動揺したブラックマリアだったが気を取り直して攻撃を再開する。その岩石に巻き付けた糸が、黒く変色していった。

 

「!!? 糸の色が変わって……!!」

 

「“私の糸(ハードガム)”は私の身体から離れるまで私の身体の一部……毒液や炎だけでなく“覇気”すらも纏わせることが出来る……!!! そして糸に触れている無機物であれば……覇気を通すことだって出来るのよ!!!」

 

「!!? マズい……躱せ!!!」

 

 キュロスが叫び、味方2人に躱すように告げた直後。ブラックマリアは糸を黒く硬化させ、更にはその糸を巻き付けた岩石すらも黒く硬化させる。

 それは即席の鈍器であり武器だった。硬化した巨大な岩石を糸で持ち上げたブラックマリアはそれを振り回し、麦わらの一味に向けて思い切り上から叩きつける。

 

「“黒色(ブラック)マリアージュ”!!!」

 

「!!!」

 

 ひまわり畑の中心にブラックマリアの攻撃が落ちる。

 

「世界最強の百獣海賊団……!! その飛び六胞をナメんじゃないよ……!!!」

 

「ムチャクチャしやがる……このおれが天才マタドールじゃなきゃこっちまで巻き込まれてるところだ……!!」

 

 ひらひらはためく大地に穴を空け、粉塵が撒き散ったのを見て味方であるディアマンテやバカラもまた戦慄する。敵であれば恐ろしいが、味方であればこれほど頼もしい相手はいない。やはり百獣海賊団に、海賊帝国に与したことは正しかったのだと確信する。

 

「さて、このまま適度に痛めつけて縛ってあげる♡ なんとか躱したみたいだけど……いつまで続くかしらね!!」

 

「……!!」

 

 攻撃を回避して逃れたロビン達を見てブラックマリアが更に追加の攻撃の準備を行う。それに対応しようとロビンとブルックもまた構えた。

 だがその時。

 

「“緑星”……!!」

 

「え……?」

 

「“ドクロ爆発草”!!」

 

「きゃっ!!?」

 

 突然、横から飛んできた飛来物がブラックマリアに激突し、ドクロ型の爆風を撒き散らす。

 

「誰だ!!? 今の攻撃!!」

 

「──ウソップ!!」

 

 その不意打ちの攻撃の正体に敵はそれを見定めようと視線を動かす──だが、ロビン達にはそれが狙撃手の物であることにすぐに気づいて名前を呼んだ。見る先、離れた場所には確かにウソップの姿があって。

 

「大丈夫か!! お前ら!!? ハァ……ハァ……よし、直撃だ。さすがに今の攻撃で……」

 

「……やってくれるじゃない……!!」

 

「ギャー!!? 全然効いてねェ!!?」

 

 攻撃が直撃したことでそれなりのダメージを与えたと確信したウソップだったが、すぐにその確信は軽く立ち上がったブラックマリアに裏切られる。ウソップの方を苛立ちを覚えた表情を浮かべて向き直ったブラックマリアに対し、ウソップの取った行動は早かった。

 

「ギャー!! すまんロビン!! ブルック!! また後で戻ってくるからそいつら頼んだ!!」

 

「えェ~~!!? って、それは構いませんがどこに行くんですかウソップさん!!」

 

()()()()だ!!」

 

「増援阻止……?」

 

 ──ウソップは仲間に短く言うべきことだけを告げて逃げ出した。その去り際の言葉によって味方を含む多くの者達に疑問を残しながら。

 

「なんだったのかしら……?」

 

「ウハハハハ!! 逃げやがった!! 麦わらの一味ってのはどいつもこいつも腰抜けかァ~~~!!?」

 

「……!! あの先は……!!」

 

 そうして逃げていったウソップを不思議に思うバカラに嘲笑するディアマンテ。その反応は、何も知らない者にとっては当然のもの。

 だがブラックマリアのような、知る者にとっては違った。ウソップの逃げた先。神の大地の内部に続くその横穴は飛び六胞以上の幹部や作戦に関わる一部の者にしか知らされていない作戦の重大な()()が隠されている部屋に続いている。この作戦の要であり、何をどう転んでもこの戦況をひっくり返すことの出来る重要なものが。

 

(まさか……気づいているというの?)

 

 先程の増援阻止という言葉と合わせてブラックマリアは険しい表情を浮かべる。どこから情報が漏れたのか。その疑問も頭に浮かぶ。

 だが今はそれよりも──その動きを念のために止める方が先だ。

 

「──待ちなさい!!」

 

「ブラックマリア様!!?」

 

 バカラの声を無視してウソップを追いかけようと地面に降り立つ。内部の護衛など信用できない。万が一の可能性を潰すためにブラックマリアは目の前のロビンやブルックを無視して動き始めた。

 

「“巨大樹”!!」

 

「!!」

 

 ──だが、今度はその相手がブラックマリアを捉えて逃さなかった。

 

「“スパンク”!!!」

 

「!!」

 

 地面から生えた巨大なロビンの手が、ブラックマリアの顔を思い切りはたきつける。

 焦ってロビンから注意を逸したブラックマリアはそれに直撃した。そして、今度はそのウソップの行った先に立ち塞がるようにロビンとブルック、そしてその動きに呼応したキュロスが対峙する。

 

 

「……逃げた仲間を庇おうってワケ?」

 

「そうじゃないわ。ウソップが何をしようとしているかわからないけれど……彼は必ず私たちの助けになってくれる人。その彼が私たちを信頼して頼んだ以上……」

 

 ブラックマリアの真意を悟らせない言葉にロビンと、そしてブルックたちは答える。仲間を、戦友を信頼して。

 

「──ここは通さない」

 

「──この場は通行止めです!!!」

 

「──共に戦う君たちの仲間を信じよう!!!」

 

「……!! ナメられたものね……!!!」

 

 地上に降りたブラックマリアが先程までの余裕を保ったものとは違い、真面目な戦闘態勢を取る。

 それに並ぶディアマンテにバカラもまた再び戦う構えとなると──ひまわり畑の戦いの死闘は再び、より激しくなって始まった。

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”内部。

 

 そして神の大地2段目の横穴から中に侵入を果たしたウソップはトンタッタ族の戦士長レオと共に先を急いでいた。

 

「こっちであってんのか!!?」

 

「間違いないれす!! ひまわり畑横の何の変哲もない横穴……!! 仲間から聞いた話と一致するれす!!」

 

「よし!! なら急ぐぞ!!」

 

「はいれす!!」

 

 2人は共に、マルコと仲間のトンタッタ族から聞いた話──敵の企みを阻止するために動いていた。

 それはすなわち神の大地内部にある“鏡”の破壊。その内部にある“鏡世界(ミロ・ワールド)”から現れる強敵の出現を阻止するために。

 そのために2人は後方を味方に任せ、前だけを向いていた。その迷路のように入り組んだ内部を、敵から盗み聞いたトンタッタ族の情報を元に真っ直ぐに突き進んでいく。

 

 ──だがその少し後方では。

 

「ゼェ……ゼェ……!!」

 

「ここまで……ね……!!」

 

「レオ……すまん……!!」

 

 横穴の入り口。そこに立ち塞がっていた小さな戦士たち。その最後の2人が、ゆっくりと白目を向いて倒れる。

 ずっと追って追われてそして戦って。ウソップとレオの2人を行かせるためにここで敵を食い止める役目を負ったトンタッタ族の戦士たち。カブとビアンを中心とする彼らは懸命に戦った。

 

「ハァ……ハァ……ゴミ共……!! ムシケラ達のせいで時間を取られたれす……!!」

 

 だが、彼らは追いかけてくる百獣海賊団の同族相手の多くを倒すも、その最後の1人によって打ち破られる。その能力、オオカマキリの人獣型でカブとビアンという2人の屈強な戦士や大勢のトンタッタ族を切り刻んだ百獣海賊団の真打ちダウトによって。

 

「ウソランド……!!! 逃さないれすよ……!!!」

 

 少なからず傷を負うも戦うのに支障はない。その表情に殺意と敵意を漲らせ、ダウトはウソップ達の後を猛然と追っていった。

 

 

 

 

 

 ──そして、その“神の大地”の内部。

 

 未だウソップ達が辿り着いていない。しかし、たしかに近づいているその奥の広間では、1人の男のバカ笑いが響いていた。

 

「──ワーッハッハッハッ!!! 外は激戦のようだがここは安全!! 誰にも気づかれず、勝利の時を待つのみだ!!!」

 

 部屋の中央の台座に置かれた巨大な鏡。その前で、その男。百獣海賊団の真打ちであるスパンダムは既に勝利を確信して愉悦していた。

 作戦を──この鏡から出てくる予定の“最恐生物”の参戦を知っているスパンダムにとって、外の戦いは予定調和であり茶番。これから始まる蹂躙劇を彩る演出でしかない。

 

「だが万が一がないとも限らねェ!! おいお前ら!! 気を緩めるんじゃねェぞ!! 万が一誰かが来るようなら働いてもらうからなァ!!!」

 

「わかってます!! スパンダムさん!!」

 

「ぬえさんの登場を邪魔する奴はおれ達が許さねェ!!」

 

「ウオオオ~~~!!」

 

 そしてスパンダムの仕事がこの鏡を死守すること。そのために、鏡の周囲には少なくない数の百獣海賊団の戦闘員に囲ませている。普段、ぬえの配信をサポートするスタッフを兼ねた部隊でもあった。

 その彼らの戦意。咆哮のような返事を聞いてスパンダムは満足する。

 

「まァとはいえ……億が一!! この鏡が壊されようとも直すだけだがな!!! 分かってるよなァ!!? ()()()()()()!!!」

 

「……うう……」

 

 スパンダムは大仰な仕草で演説でもするかのように作戦が完璧であることを口にする。そうして振り向いた先。地面に近いところにいるその小人族の姫に大声を浴びせた。

 

『トンタッタ族 トンタ長の娘(王女)マンシェリー』

 

「なんで……こんなことするれすか……? もうやめてくらさい……!!!」

 

「……あァ?」

 

 その世界一小さい種族の可憐な姫は、目に涙を浮かべて百獣海賊団の行う暴虐をやめてほしいと懇願する。

 だが、それを聞き入れる筈もない。スパンダムは不機嫌な表情を浮かべてマンシェリーの身体を手で掴んで持ち上げる。

 

「黙れ!! 誰がてめェに口答えを許した!!! お前はおれ達の言うことを素直に聞いてりゃいいんだよ!!!」

 

「うっ……!!」

 

 唾がかかるほどの距離で怒声を浴びせるスパンダムに、その手の力も相まって苦しそうにするマンシェリー。

 それだけでも小さくか弱い、気も弱いマンシェリーにとっては拷問に等しいが、それ以上に彼女を傷つけるのは物理的な痛みではなく彼らの脅しによる精神的な痛みだった。

 

「おいマンシェリー……てめェ、忘れたワケじゃねェよな? お前が抵抗するならお前の同族の命は保障しねェ……!! 何十人、何百人、何千人でも磔にして酷い拷問の末に殺してやるってよォ!!!」

 

「!」

 

 スパンダムは告げる。マンシェリーを従わせるために一度聞かせた脅迫を再度、理解らせるように口にした。

 

「で、でも……他の人たちは……!!」

 

「そんなもん無視すればいいだろうがよ!! お前が大人しくおれ達の言うことを聞くってんなら誰も殺さねェって言ってんだ……それとも実際に仲間の磔でも見なきゃその気になれねェか?」

 

「それは……」

 

「まあお前らの小ささじゃ磔っていうより標本みたいになりそうだがな!!! わはははは!!! ……って、ん? 標本、か……おいこれもしかして配信のネタになるんじゃねェか?  タイトルは“トンタッタ族の標本を作ってみた!! ”だ!! おいどうだカメラマン!!」

 

「へ、へぇ。確かに……絵にはなりそうっすね」

 

「そうだろそうだろ!! わはは!! こりゃ良い企画思いついたぜ!! 早速まとめて後日ぬえさんに提出だ!!! さすがおれ様!! 天才か!!? ワハハハハ!!!」

 

「……!!」

 

 その残虐な企画内容を嬉々として口にするスパンダムに、マンシェリーは言葉を封じられる。ここで異を唱えれば百獣海賊団は間違いなくその企みを実行に移すだろう。

 ゆえに黙って言うことを聞くしかない。マンシェリーの持つチユチユの実の能力はかなり有用な使い道のある力であり、大人しく従っているうちは自分の身も仲間の身も無事だろう。そう信じて他のことには目を瞑るしかない。

 

「やめて……!! マンシェリーを離して……!!」

 

「!」

 

 ゆえにその行為を非難できるのはまた別の人間だった。その声の持ち主。この場にいる反抗的なもう1人の女を思い出してスパンダムは口端を吊り上げた。

 

「ああ……そういやもう1人いたな……!! 反抗的な姫様が……!!」

 

 海楼石の手錠で縛られ、囚われているその黒髪の美女は、スパンダムの言うようにこの国の姫だった。

 

『ドレスローザ王女ヴィオラ(元ドンキホーテファミリー幹部ヴァイオレット)』

 

「…………!!」

 

「なあ“ヴァイオレット”!! てめェも随分反抗的だ……!! まだ痛めつけられてェか!?」

 

 かつてのドレスローザの第二王女。ドンキホーテファミリーの幹部でもあったその女、ヴィオラは血を流しながら弱々しい姿でスパンダムの怒声を受け止める。その手が髪を掴んで引っ張りあげられてもヴィオラは痛みに呻くだけで抵抗できない。

 

「もっともてめェの場合は()()()()()死が決まってるがな……!! だが少しでも長生きしたきゃ反抗的な態度はしねェことだ。ぬえさんの機嫌次第ではお前も奴隷として救われるかもしれねェな!!! ワハハハハ!!!」

 

「っ……!!」

 

 その言葉にヴィオラは歯噛みしながらも何度目かになる不可解が頭によぎる。今日の今朝になって突然、殺されるためにドフラミンゴから百獣海賊団に売られたこと。その理由がヴィオラには分からない。

 無論、こんな戦いが起きるのならばヴィオラもまた反抗に加わったかもしれないが……今朝の時点ではそんな気はまったくなかった。それなのに。

 あるいは自らの持つギロギロの実の能力を欲してのことかもしれないが、実際のところは分からなかった。そしておそらく、この下っ端達では答えを持っていないだろうとヴィオラは読んでいる。そう、おそらく全ての糸を引くのはドフラミンゴでもテゾーロでもジョーカーでもない。これからこの場に現れるという──

 

「さあ幾らでも善戦してみろ!!! 何をどうしようと結果は変わらないと知れ!!! “最悪の世代”に“七武海”……!! “大将”や“元帥”だろうと……!!! ぬえさんには敵わねェんだからな!!!」

 

 ──“妖獣のぬえ”が全てを握っているのだろうと。

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”3段目。

 

 1段目やそれより下の激戦が遠くに聞こえるその上層では、更に上の戦いに匹敵する規模の戦いが繰り広げられていた。

 

「おいやべェ!! 離れろ!!」

 

「向こうの戦いに巻き込まれたら死ぬぞ!!」

 

 ある能力者のために黄金ではなくその大部分が岩で出来た大地の層。その上で戦う百獣海賊団のギフターズたちは、一定の距離を取りながら敵対者を囲んで追い詰めようとしていた。

 そしてその輪の中心にいるのは2人。

 

「ハァ……ハァ……ジンベエの強さは知ってたが、あの剣士も強ェ……さすがはエースの弟の仲間……!! 頼もしいな……!!!」

 

「あっちの元海兵もね。とにかく横槍は入れさせない!!! だから思う存分戦え!!!」

 

 白ひげ海賊団の参謀のマスク・ド・デュース。そして3番隊隊長のイスカは大勢のギフターズを足止めしていた──強敵相手に真正面からぶつかる3人の邪魔をさせないため。

 

「エースさんの……白ひげ海賊団の幹部が雑兵を食い止めてくれておる……!!」

 

「助かります……!! 雑魚に構っている余裕は正直ありません!!」

 

 その3人のうち2人。麦わらの一味の操舵手であり元七武海“海侠のジンベエ”と元海軍本部の曹長であり百獣海賊団のギフターズを経て再び正義を背負うことを決めたたしぎは背中合わせで敵の攻撃に油断なく備えていた。

 

「調子に乗るな……!! 雑魚の邪魔がなければ勝てるつもりか!!?」

 

「来るか……!!」

 

 その時、壁面の大地から甲高い声が発せられる。

 巨大な岩石の顔。イシイシの実の能力者であるドンキホーテファミリー最高幹部のピーカは、その巨大な顔の大口開けて2人を押し潰そうと迫りくる。

 

「“噛石(バイトストン)”!!!」

 

「“魚人空手”……!!」

 

 その質量はそれだけで脅威。並の戦士ではひとたまりもないだろう。

 だがそこにいる戦士は並ではなかった。魚人にして初の元王下七武海を務めたその男の拳が、迫りくる顔面に向けて炸裂する。

 

「“五千枚瓦正拳”!!!」

 

「!!!」

 

 岩石で出来たピーカの顔面が、それこそ瓦割りのように深い亀裂が入って割れていく。

 だがそれでもピーカにダメージを与えることは出来ていないことに、ジンベエは気づいていた。その厄介さこそ、中々仕留めきれない原因だと。

 

「また逃げたか……!!」

 

「バカ正直に受けてやる必要はない……!!」

 

 またどこかの岩石からピーカの声が響く。この大地全てがピーカの武器であり鎧であり隠れ蓑。ジンベエらの攻撃の射程外に居続けながら攻撃を繰り返すピーカの質量攻撃は実力者であっても苦労する。

 そして一方で、正面から攻撃を受け止め続ける敵も存在した。

 

「んんん~~~!! そうか? バカ正直に受けるのもキモティイ~ぜ!!?」

 

「……!!」

 

 テゾーロ海賊団の最高幹部。VIPディーラーのダイスが身体の半分をダイヤに、そしてもう半分も含めて武装色の覇気で硬化させながら突進してくる。その狙いはジンベエの背後──すなわちたしぎだった。

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫です!! 足手まといにはなりません!! 対処してみせます!!」

 

 ジンベエの気を使った言葉にたしぎは気丈に答える。自らの愛刀である“時雨”を構え、武装色の覇気で硬化させる。そして、息を深く吐いて呼吸を整えた。

 

「元海兵の女ァ……!! おれの身体を受け止めきれるか!!?」

 

「ふー……(覇気は信じる力……!! この程度……!!)」

 

 迫りくるダイスに対し、たしぎはこの2年間で培ったものを思い出しながら刀を振るう。奴隷に、海賊に身を落とし、泣きたくなるほどに不甲斐ない日々を過ごした。

 だがその日々も完全に無駄だった訳ではない。戦いの機会には困らなかったし、この身に宿った人造悪魔の実の力でさえ、受け入れてしまえば自らの力。糧とすることが出来る。

 そう黒猫のSMILEで得た身体能力。特に、素早さ。身体の身軽さは以前のたしぎにはなかったもの。

 

「私はもう……立ち止まらない!!!」

 

「イェェェェス!!!」

 

 ゆえにたしぎはその場で立ち止まって受け止めるのではなく、自らそこに突っ込んでいった。足に力を込め、一瞬で最高速に加速。その加速をそのまま力と一緒に刀に込める。

 

「“ブリリアント・ダイス”!!!」

 

「“宵時雨”!!!」

 

「!!!」

 

 ダイスのダイヤと化した巨体から繰り出されるタックルとたしぎの刀が激突し、凄まじい衝撃が周囲に広がる。

 それは一時的にでもダイスの凄まじい一撃とたしぎの一刀が拮抗した証だった。

 だが。

 

「ウッ……!!」

 

「んんん~~!! 中々のキモティ良さだが……まだ足りねェなァ……!!!」

 

 足で地面を引きずりながら押されるたしぎに、ダイスはニィといやらしい笑みを浮かべた。

 そのままパワー差で押され、吹き飛ばされる未来を誰もが幻視する。さすがに分の悪い勝負だと。

 だが、こんな程度で諦める訳がない。

 たしぎは知っている。この海では、駆け上がらなきゃ死ぬしかないということを。

 それは他ならぬかつての上司に教えられたことだ。

 そして皮肉にも、身を落とした海賊の世界においても教えられた──力こそが正義だと。

 その力はみっともなく泣き腫らすことではない。絶望して打ちひしがれ、諦めることではない。

 自らを信じ抜く。覚悟して進むこと。

 

「これしき……!!」

 

「?」

 

 この程度で負けて死ぬなら、自分の正義はそれだけの力しかなかったということ。

 ──そんなことを認める訳にはいかない。

 

「──大したことありません……!!!」

 

「!?」

 

 たしぎの後退が止まる。そして一瞬後、ダイスの身体が弾かれた。

 

「ンン!!?」

 

「ハァ……ハァ……!! 大したこと……ないんですよ……!!! あなた達のくだらない暴力の思想に比べたら……!!」

 

 たしぎは口にする。意志を込めて、刀を構え。

 

「──私の正義の方が強いに決まってる!!!」

 

「……!!」

 

 覇気を込めた黒い刀で反撃の連撃を行う。

 攻撃の手は緩めない。たとえ相手が、ダイヤの如くどれほど硬くとも。

 

「ほう……!! 中々……キモティイ~~~!!」

 

「はあああああ!!!」

 

 ダイスがたしぎの剣撃に気持ちよさを感じ始める。それはすなわち、たしぎの攻撃が強くなっていることと同義だった。

 

「信じられねェ……!!」

 

「あの奴隷女がダイスさんを気持ちよくしてやがる……!!」

 

 それを見ていたギフターズ。たしぎを知る面々はその成長に驚愕する。

 ダイスの実力は百獣海賊団においてもそれなりに知られている。裏社会でも元々有名な男であり、その強さは真打ちに換算すれば上位に位置するだろう。

 白ひげ海賊団3番隊隊長のダイヤモンド・ジョズのキラキラの実の能力を得たダイスに満足にダメージを与えるには、それこそ“飛び六胞”以上でなければ不可能で──

 

「“牙銃(ガガン)”!!!」

 

「!!? ぐっ!!」

 

 ──それゆえに、未だダイスに勝てないたしぎではその飛び六胞の攻撃を満足に防ぐことは叶わない。

 横合いからの攻撃でたしぎは吹っ飛ぶ。なんとか刀でガードしたものの、その衝撃までは殺しきれなかった。

 

「フン……!! 奴隷の頃より強くなれて良かったじゃねェか……!! それでこそおれの方も殺しがいがあるってもんだ……!!!」

 

「フーズ・フー……!!!」

 

 百獣海賊団飛び六胞フーズ・フー。ネコネコの実の古代種。サーベルタイガーの能力を解放したその飛び六胞屈指の実力者が、たしぎに狙いをつけていた。

 

「生憎とウチは裏切り者は許さねェんだ……!! 抉れて死ね!!!」

 

「くっ……!!」

 

 体勢を急いで戻して攻撃に備えようとするたしぎ。だが、それより早く攻撃は来た。

 

「“牙銃(ガガン)”!!!」

 

「……!! この、程度……!!」

 

 迫りくるフーズ・フーのオリジナルの六式。サーベルタイガーの鋭い牙の噛みつき。それが銃弾の如く高速の衝撃として射出される。

 その一撃はピーカやダイスの攻撃よりも強く、生半可な力、武装色の覇気では防ぐことは難しいが──

 

「──おれを無視してんじゃねェよ化け猫野郎!!!」

 

「!」

 

「!?」

 

 間に割って入ってきたその三刀流の男はそれを防いでみせる。海賊“麦わらの一味”の二番手。“最悪の世代”の1人としても知られる凶暴な剣豪が。

 

「ロロノア・ゾロ……!!!」

 

「他の奴の首はおれの首を取ってからにしな……!!!」

 

「チッ……!! 確かにな……お前をさっさと消した方が仕事はしやすそうだ……!!!」

 

「だったらもう2度と仕事は出来ねェよ──お前じゃおれを消すことは出来ねェからな!!!

 

「抜かせ!!!」

 

 フーズ・フーの“牙銃”が再び“海賊狩りのゾロ”に向かって放たれ、ゾロもまたその攻撃を正面から刀で受け止めていなしてみせる。

 そうして再び始まるのは“神の大地”3段目の頂上決戦である“飛び六胞”フーズ・フーと“麦わらの一味”ゾロの死闘だ。フーズ・フーの得意技を防いだゾロは口でも相手を攻撃する。

 

「確かに強ェがその曲芸はもう見きった……!! 次はこっちの攻撃の番だ!!!」

 

「曲芸とは言ってくれるじゃねェか!! だったらこの先も受けきれるんだろうなァ!!!」

 

「! (来る……!!)」

 

 言葉で煽りながらダッシュでフーズ・フーに肉薄しようとしたゾロだが、怒りと共に放たれようとする再びの攻撃の気配に警戒の色を強くする。構えは同じ。先程の“牙銃”だ。そう判断する。

 

「“牙々銃(ガガガン)”!!!」

 

「!!!」

 

 だがその技の威力は、先程の比ではなかった。

 先程の”牙銃”よりも一回り以上大きくなった牙の衝撃がゾロに襲いかかる。

 

「グ、ギ……!!」

 

 そして今度はゾロが後退する番だった。なんとか正面から、歯を食いしばって受け止めるゾロだが、その攻撃を相殺しきれずに10メートル以上後退してしまう。そこまで威力を減衰させたところでようやく弾くことに成功した。

 

「ハァ……ハァ……強ェな……!! さっきのより威力は倍以上……!!!」

 

「お前こそやるじゃねェか……!! 躱さず正面からおれの“牙々銃(ガガガン)”を受け止めるとはよ!!!」

 

 ゾロが息を整えながらその技の強さを分析し、フーズ・フーはその技を受け止めてみせたゾロを褒め称える。

 しかしそれでもフーズ・フーには余裕があった。なぜなら。

 

「だがまだまだこんなもんじゃねェぞ!!! おれの“牙銃(ガガン)”は4段階まで進化する!!! 2段階目で苦戦するようじゃ先が思いやられるな!! ロロノア!!!」

 

「……!! なるほど……曲芸と言ったのは謝るよ……!! だがな──」

 

 フーズ・フーの告げた事実にゾロは先程の自分の言葉を撤回して謝罪する。もっとも、当然だがそれでも戦意は一切衰えない。むしろ燃え上がっていた。その勢いのままにゾロは突撃する。

 

「それでもお前が勝てる理由にはならねェ!!!」

 

「口だけは達者だな!! だったら証明してみろ!!! どこまで出来るか試してやる!!! ──“牙々銃(ガガガン)”!!!」

 

 巨大な牙を武器に噛み殺そうとするフーズ・フーと三刀の刀で同じく相手を喰い殺そうとするロロノア・ゾロ。その2人を中心とする3段目の戦いもまたより激しさを増していった。

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”頂上。

 

 ドレスローザとグラン・テゾーロ。2つの島に跨る黄金の居城“神の大地”。

 その頂点。月明かりと黄金の輝きの明かりで照らされる黄金のビル群で戦うのは老化から一時的に解かれた海賊“麦わらの一味”の船長である“麦わらのルフィ”と百獣海賊団の大看板“戦災のジョーカー”だった。

 

「“ゴムゴムの”……!!」

 

「“麦わらのルフィ”……老化が解けたところであなたじゃ私には──」

 

 ギア2やギア3はデメリットなしで使えるルフィにとって、戦闘の大部分はそれらをメインの戦闘手段。技として使うことになる。

 ゆえに素早いことを知っているジョーカーに対し、ルフィは高速の連撃を行った。

 

「“鷹銃乱打(ホークガトリング)”!!!」

 

「“紙絵”……“残身”」

 

「!!」

 

 だがその全ての攻撃が容易に躱される。

 残像を見せてルフィの背後に移動したジョーカーは囁くように間近で告げた。“指銃”によって再びルフィの血液を吸い取ろうとしながら。

 

「危ねェ!!?」

 

「フフフ……話は最後まで聞くものよ。麦わらのルフィ……あなたじゃ私には勝てない。情報がそれを証明しているわ」

 

「……!! うるせェ!! お前におれの何が分かるってんだ!!! “ゴムゴムの”……!!!」

 

 巨大にした腕で間近にきたジョーカーを吹き飛ばす。ルフィは通常時より的の大きくなっている人獣型のジョーカーに対し、天性のセンスと見聞色の覇気によって攻撃を取捨選択していた。

 だが一方でジョーカーは──

 

「“象銃(エレファントガン)”!!!」

 

さっきのが“ギア2”……血流を加速させて運動能力を高める技。そして次は“ギア3”ね……骨に空気を取り込んで膨らませて密度を上げることで攻撃力を増大させる……“鉄塊”」

 

「!?」

 

 ──ルフィの戦闘スタイルに合わせて最適な技を選んでいた。

 

「“紅玉(コウギョク)”!!!」

 

「!!!」

 

 ルフィのギア3の覇気を纏わせた一撃に対し、ジョーカーは掌底をぶつける。

 そうして相殺され無傷に終わる──だけではなかった。

 

「……!! 痛ェ~~~!!?」

 

 攻撃を防御され、拳を引き戻したルフィが一瞬後、衝撃によって痛がりながら仰け反り宙に吹き飛ぶ。それを見てジョーカーは嗜虐的な笑みを浮かばせた。

 

「フフフ……痛いでしょう? ゴム人間の打撃耐性は覇気を用いれば貫通可能だけど……そう、例えば()()()()()()()()私はあなたにダメージを与えることが出来るわ……!!!」

 

「!」

 

 宙へ吹き飛んだルフィを追いかけるように、ルフィの頭上へ高速で移動したジョーカーはその長い脚を振り上げていた。ルフィは躱しきれないと腕を交差させて覇気で硬化してガードしようとする。

 

「こういう技を知っているかしら? 防御不能の衝撃……!! “嵐脚”──」

 

 だが、ジョーカーはそのルフィの安易なガードをあざ笑うかのように足を振り下ろした。覇気だけでなく、ある武術の要素も取り入れた上で。

 

「“紅一点(コウイッテン)”!!!」

 

「!!!」

 

「……!!」

 

 上からルフィの腹にその蹴りをお見舞いする。

 そうして黄金の大地に叩きつけられたルフィは血を吐き出して悶絶した。その威力。ダメージの正体はただの覇気というだけではない。

 

「またの名を……“八衝拳”奥義……“錐龍錐釘”……!!!」

 

「八……!? ゲホッ、ゲホッ!! なんだか分からねェけど痛ェ!!」

 

「“西の海(ウエストブルー)”花ノ国に伝わる武術よ。衝撃を自在に操り、極めれば氷の大陸すら割ることも出来る。それに魚人空手や他の武術や私なりのエッセンスを加えてるの♡ どう? 効くでしょ?」

 

「魚人空手……!!? ジンベエの技じゃねェか……!! なんでお前が使えるんだ!!?」

 

「何でも使えるわよ。知っているものなら何でもね……!!!」

 

 ルフィの驚愕と疑問に答えたジョーカーはルフィと同じ地面に降り立つと人獣型を一度解いた上で構えを取る。

 それは知る者が見れば何かの武術に近い構えでありながら全く違うもの。

 

「“情報”は力……!! 元諜報員の私はかつて……百獣海賊団に与して鍛え直されるにあたって世界中のあらゆる武術、拳法、戦闘スタイルの情報を集めた……!!!」

 

 世界最強の諜報機関。CP0の一員でありながら百獣海賊団に所属し、怪物によって強くなることを求められたジョーカーはそうして自らの戦闘スタイルを確立した。悪魔の実の能力だけではない。覇気だけではない。素の身体能力だけでない。情報を知識に、多くの技を取り込み、生み出し、編纂し、自らの物とする。そうして得た“戦災”の名は伊達ではない。

 

「私は千を超える技を持つ戦闘の天才……!!! “戦災のジョーカー”!!! 知識も経験もない……勢いだけの子供じゃ手に余る相手なのよ……!!! おバカさん……♡」

 

 ただ諜報員として有能に働くだけで“大看板”の座は得られない。百獣海賊団は弱肉強食。力が全ての実力主義。必然的に暴力にも優れているのだと。

 

「……! 技が多いからなんだってんだ!!」

 

「フフ……本当におバカさんね……!! 相手の技を、情報を知り尽くし、それに対応が出来るなら戦闘は負けようがない。“麦わらのルフィ”……あなたの技は“ゴムゴムの(ピストル)”に始まり……つい先日魚人島でジャック相手に使った“ギア4バウンドマン”やクイーンの“氷鬼”を利用した“オーガマン”まで全て情報収集済みよ……!!!」

 

「!?」

 

 ジョーカーの口からすらすらと語られる情報に少なからずルフィは驚く。ハッタリではない。不気味な雰囲気を漂わせ、ジョーカーはルフィを誘う。

 

「当然、その対処法も合わせて確立済み。嘘だと思うなら試してみればいいわ」

 

「知ってるだけで対応出来るか!!! だったらやってみろよ!!!」

 

 再びルフィが腕を伸ばした攻撃。しかし遅くもなく小さくもない。ギア2とギア3の複合攻撃は、決してバカにできる攻撃ではなかった。

 

「そう。たとえ知っていても対応出来なきゃ意味がない……!! だけど残念ながら……パワー……スピード……テクニック……タフネス……戦闘に必要なあらゆる要素であなたが私に勝っている要素は1つもないわ……!!!」

 

「!」

 

 瞬間、ジョーカーは麦わらのルフィの攻撃を躱した──だが、ただ躱しただけじゃない。そのジョーカーの身は幾重にも分かれる。

 

「“影絵”!!!」

 

「!!?」

 

 それは六式の“剃”と“紙絵”の複合技。高速に動き、幾つもの残像を作り出すスピード重視の技。

 それによってルフィの攻撃をたやすくいなしたジョーカーは宙から再び足を振った。

 

「“嵐脚・群狼部隊(ヴェアヴォルフ)”!!!」

 

「ウ!!?」

 

 無論、ただの蹴りでもなければただの嵐脚でもない。ジョーカーの蹴りによって生じた斬撃は狼の形──それも無数のものとなってあらゆる方向からルフィを斬り刻む。

 

「グ……!!? 姿も斬撃も多い……!!」

 

「技巧を極めればこういうことも可能よ」

 

「だったらパワーだ!! “ゴムゴムの”ォ!!」

 

 狼型の斬撃から逃れたルフィは両腕を背後に伸ばし、武装硬化した上で力を溜める。それを見たジョーカーは人型から人獣型に戻った。

 

「フフフ……!! 嫌ね。女性相手にそんな怖くて大きな腕で溜めちゃって……とはいえせっかくだから挑戦を受けてあげる。パワー勝負でも勿論負けないわ──」

 

「! 血!?」

 

 ジョーカーの取った行動。指先から滴らせたその血が膨れ上がって拳の形を成していくのを見てルフィは驚いた──が、すぐに攻撃に意識を集中する。覇気と力を込めて引き伸ばした腕をその反動のままに相手に向けて放った。

 

「“灰熊銃(グリズリーマグナム)”!!!」

 

「“血手銃(ケッシュガン)”!!!!」

 

「!!!」

 

 そしてジョーカーの作り出した血で出来た拳と激突した。

 その結果は──麦わらのルフィが押され、激突し、背後に吹き飛ばされることで終わった。

 

「勿論覇気でも悪魔の実の能力でも負けないわ……!!!」

 

「……!!」

 

 そうして吹き飛んで地面に倒れるルフィを見下ろし、自らの手から滴った血を舐め取るその姿は──正に夜の王である“吸血鬼”そのもの。

 

「さあ次はそろそろ“ギア4”かしら? “バウンドマン”を出したいなら好きにしていいわよ。もしくは──()()()()()()()()()()であってもね……!!!」

 

 ──海賊“麦わらのルフィ”VS“戦災のジョーカー”。その戦いの序盤は、そうしてジョーカーの圧倒的な有利から始まった。

 

 

 

 

 

 ──“鏡世界(ミロ・ワールド)”。

 

 そして現実で覆うの激戦。死闘が繰り広げられている中──その異空間では遂にその戦いに決着がついた。

 

「ハァ……ハァ……さすがに疲れた……けど──」

 

 瓦礫と粉々に割れた鏡の破片だらけとなった“鏡世界(ミロ・ワールド)”。その破壊の中心に立つのは……異形の少女。そうその名は──

 

「──あは♡ あはは……あははははは!!! そう、もう終わりよ!!! 海賊……“黒ひげ”!!!」

 

「フー……フー……!!」

 

 ──百獣海賊団“大トリ”副総督……“妖獣のぬえ”。

 

 分身のぬえの槍で四肢を貫き、地面に磔になった“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチの前で、ぬえは笑う。辛うじて息のあるだけのその男を見下ろして。

 

「さあここからはご褒美の……楽しい解剖タイムよ……!!!」

 

「……!!」

 

 鏡世界(ミロ・ワールド)”の戦い──勝者“妖獣のぬえ”




過去話→シキに頼まれて持たせてた宝をぬえちゃんが忘れてた話。普通にぬえちゃんが悪い
終末の化身→詳しい描写は今後(というか多分ラストバトル付近)で
源三位頼政の弓→原作とは違って躱せるように作ってない最強弾幕技。ぬえが止めるか気絶するまで続く。
真羽・修羅鵺終→ぬえちゃんの人獣型における最強技。マハー・シヴァラートリーの意味は偉大なシヴァの夜の意。詳しくはググってウィキって。
アプーVSバルトロメオ&カリーナ→能力を封じられてもアプーって強いよねって話
ジャック→覚醒フォルム初登場。パワーとタフネスが更に強化。技名は全部六地蔵から。
ムサシ→同じく覚醒済み。風力アップでスピード重視。
ディアマンテ→相変わらずだけどヒラヒラのフィールド効果は普通にめんどいと思う
バカラ→チート超人系能力。こいつの倒し方って普通に限られてて困る。
ブラックマリア→新技披露。覚醒は出すまでもない。能力のモデルの蜘蛛はきっと誰も詳しく知らない。
ウソップ→マルコと別れて重要ポイントに。正直この戦いの行く末はウソップにかかってる。
スパンダム→マンシェリーとヴィオラを捕らえつつ悦に入ってる。
マンシェリー→チート超人系その2。こいつが百獣に味方すると大変なことになる
ヴィオラ→チート超人系その3。ぬえちゃんの抹殺対象。その理由は……
ダウト→オオカマキリはカブトムシやスズメバチより強い。多分。
ジンベエ→ぶっちゃけピーカに負ける気しないけど勝ち切るのが難しい相手だからねって
たしぎ→地味に覚醒中。原作だと可哀想なんで本作では活躍してくれたらいいなって。
ダイス→素でも硬いのにダイヤ化するともっと硬い。普通に強くて困る。
フーズ・フー→全体的に強化されてる。特に牙銃はまだ2回の変身を残してるぞ!
ゾロ→安定の覚悟ガンギマリ剣士なんで特に言うことない
ジョーカー→遂に本格的な戦闘シーンのお披露目。頭脳派でデータ主義で武術家で吸血鬼。
ルフィ→さすがにギア2と3だけじゃ大看板にはまだ歯が立たないよねって
黒ひげ→次回、遂に……
ぬえちゃん→最強技出したけど体力はまだまだ残ってます。かわいいね

今回はこんなところで。原作で色々分かるたびに過去回を追加したくなってくるやつ。最近やりたいのはぬえちゃんVS黄猿を更に加筆することだけどもっと後でも遅くなさそう。
次回はまた戦闘回。あと2、3でドレスローザ&グラン・テゾーロ編は終わらせて次の話に行きたい。とはいえ気長にお待ち下さい。次回もお楽しみに。

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