正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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頂点

 

 黄金の島グラン・テゾーロはドレスローザから離れてゆく。

 それは亀さんのせいだ。グラン・テゾーロの動力源であるギガントタートルをお玉のキビキビの実で操って命令したのだろう。ちょっと前に気配があったからわかる。

 それはまあちょっとやっかいだけどそれはいい。それよりもだ。私がまずやることは目の前の敵をやっつけること。

 なので私は続ける。私の“愛神の化身(カーマ・アヴァターラ)”に相応しい理想の振る舞いを。どこかで誰かが見てること前提で。

 

「──はわわ~! 私、封獣ぬえ☆ かなり強くて可愛い普通の海賊! 趣味は草野球! 得意なことは化けることと殺しで好きな食べ物は焼肉だよ♡ 嫌いな食べ物は虫さん……うぅ……虫さんは苦手~……! そして実は魔法少女でもあるのだ~♡ “黒ひげ”を殺して現実世界に戻ってきた私の前に現れたのは凶悪なこわ~いおじさん3人衆☆ ふえ~みんな強そうだよぅ……私勝てるかなぁ……!? だけど私自身の夢とカイドウのためにも私、頑張ります! 頑張って皆殺しにします!! なんたって私は──海賊で魔法少女なんだからね!! うじゅじゅ~♡ ──さ、続きやろっか

 

「狂ってんのかてめェ!! ゼェ……ゼェ……」

 

「自分にむかっ腹が立ちやす……ハァ……ハァ……」

 

「ま、さか……これほど……とは……」

 

 魔法少女としての振る舞いをしっかりとしてから向き直るもなぜかクザンは大声をあげるしイッショウもマゼランも苦悶に満ちた表情だ。失礼だよね。せっかくこんな可愛い姿をお披露目してあげてるのに喜ばないなんて。私のファンなら大喜びなんだけどなぁ。

 

 ま、でも仕方ないか。この姿の私にボコボコにされたわけだし。マゼランはもう瀕死だしイッショウは左腕を噛み千切ってあげたからこっちも重傷。クザンは唯一大きな傷こそないけどそれでも結構なダメージを与えてあげたので息が荒い。

 

「あはは、苦しそうだね? ──だけどあなた達は弱くはないから待ってあげないよ!!!」

 

「!! また来るぞ……!!」

 

 私は槍であり今は魔法少女のステッキでもある得物をくるくると振り回し、それを頭上に掲げる。クザンが反応して注意を呼びかけるが、注意したところであなた達に対応できるかな? 

 

「“愛の息吹(カーマ・プラーナ)”!!!」

 

「!!?」

 

 先ほどと同様に技を放てば、槍の先から黒みがかったピンクの光子が噴出し、それらが雪のように舞って周囲へと拡散する。

 クザン達が強く警戒をしているのがわかった。それもその筈、先ほどこの技のせいでイッショウは左腕を失い、マゼランは瀕死になりかけたのだ。

 とはいえ物理的に相手を傷つける技ではないんだけどね。問題はこの光子の正体とそこからの派生だ。

 

「次はどこから来やがる……?」

 

「──あはは! ここだよー!!」

 

「!!? っ……!!」

 

「キャー!?」

 

 ──突如として耳元に聞こえたであろう言葉。そこに現れた存在にクザンは反応し、その小さな存在を氷を纏った拳で殴りつける。

 そうすればそこにいた小人のようなサイズの私は消え去った──が、一体倒したくらいじゃ何の意味もないし、そもそも倒してもあんまり意味はない。

 

「うわー! やられたー!」

 

「このー! 敵を取ってやるー!」

 

「また噛み千切ってやるー!」

 

「次は脚かな? 腕かな?」

 

「それとも内臓かな? 脳みそかな?」

 

「あはは! 全部食い千切るー!」

 

 なぜなら──辺り一面に漂い、這い回り、隠れ潜むのは()()()()()()()()()

 正確には私に化けた弾幕。先ほど放った光子の正体は全て私が化ける際に使う“正体不明の種”であり、それによって空気中の塵や辺りに散らばる小石や何かを変化させ小さい妖精のような私の姿を取らせている。それらが何百か何千体とクザン達の前に立ち塞がる。

 

「それじゃもう一度エクストラステージ開始~♡ 次はコンテニューできないだろうから気を付けてね!!」

 

「「「「「「「「「「食い尽くせー!!」」」」」」」」」」

 

「……!! “氷河時代(アイスエイジ)”!!!」

 

 だがその正体なんて相手は知る由もない。正体不明の種のことも、私のこの“愛神の化身(カーマ・トリシューラ)”が特殊能力特化であり、相手を化かし惑わす形態であることも初見で見抜くことは不可能だ。

 ゆえにクザンはそれらに全て対応しようと地面を一気に凍らせるが、地に足をつけていない妖精にそれは通らない。

 

「うわー! 危ない!」

 

「よくもやったなー! こっちも弾幕開始ー!!」

 

「死ね死ね死ねー!!」

 

「っ……!! イッショウ……マゼラン……!! 避けろ……!!」

 

 妖精達が一斉に大量の弾幕を3人へと放つ。自然(ロギア)系であるクザンはこの技をある程度避けることもいなすこともできるが、そうじゃない2人にとってはこの弾幕の量は致命的だ。彼らへ直接攻撃しようとする妖精も含めて。

 

「“毒の巨神兵(ベノムハーデス)”……!!」

 

「キャー!?」

 

「槍で突きさせー!」

 

「自爆特攻だー!」

 

「──その意気だよ妖精さん達!! 私も手助けしてあげる!! 愛の息吹(カーマ・プラーナ)”!!!

 

 マゼランが殺到する弾幕と妖精達の攻撃を防ごうと毒の巨人を操って妖精達を潰すが、傷を負っているためか少し力がない。それでも脅威であることには違いないので私は再び“正体不明の種”を大量に飛ばして毒の巨人を化けさせる。向こうの覚醒による影響だから操ることまではできないけど使い物にできなくすることはできる。──こんな風にね!! 可愛いお人形になっちゃえー!! 

 

「名付けて……メディスン・メランコリーってところかな♡ あはは、可愛く変身できたねー!!」

 

「!!? “毒の巨神兵”が……!!」

 

「今だー!!」

 

「隙ありー!!」

 

「刺し殺せー!!」

 

「噛み殺せー!!」

 

「……!!」

 

 毒の巨人が形を変え、私の知るキャラクターの可愛い像へと変化すると毒の巨人は本来の攻撃性を忘れて、あるいは戸惑って辺りをきょろきょろと見渡す。その間に私似の妖精達は一斉にマゼランに向かって槍で特攻した。複数人の妖精達による攻撃。その威力は生易しいものではない。

 

「“愛の終修羅(カーマ・トリシューラ)”!!!」

 

「!!!」

 

「……!!」

 

 数百もの槍がマゼランの身体に突き刺さり、マゼランは血を吐いて白目を剥く。本体の私の放つそれと比べれば1つ1つは弱いが、それが数百も集まれば普通の人間は穴だらけになる──筈だけどそこはさすが大将まで上り詰めただけはある。何とか貫通はせず大量の刺し傷を受けただけだ。──ま、それでもほぼ串刺しなんだけどね!! 針山の刑と言い換えてもいい。しかもそこから更に妖精達はマゼランに噛みついてその身体を噛み千切ろうとする。

 

「今だー!」

 

「毒だからまずーい!」

 

「それでも食べちゃえー!!」

 

「っ……はな、れろ……!!」

 

「おお、やるねー。まだ抵抗できるんだ。それじゃあ本体の私が直接やっちゃおうかな!!」

 

 そうしてマゼランが死にかけながらも妖精達を振り払おうと必死に抵抗している。可哀想で可愛いけどそろそろ終わらせてあげようと私は脚に力を込めて距離を詰めようとした。──その瞬間に背後に気配を感じる。

 

「“重力刀(グラビとう)”……!!」

 

「と思ったけど邪魔者登場!! アイドルのお尻を狙うなんて最低だね!! そういう変態にはお仕置きだよ!!!」

 

 背後からイッショウが刀を振るおうと高速で近づいて来ていた。見聞色の覇気でそれを読み取った私は生えている猫風の尻尾を、凶悪な蛇の姿に変化させる。それも4体だ。4体の蛇が背後のイッショウに向けて口から弾幕を、レーザーを放つ。

 

「“四尾対応(しおたいおう)”!!!」

 

「!!!」

 

「ぐっ……!!?」

 

 イッショウの身体にレーザーが当たって貫通する。当たったのは2本。致命的なところには当たってないが迎撃するには十分だ。

 

「アイドルだからガードは固いよ!! 私の不意を突きたいならもっと精進するんだね!! ほらお返し……!!!」

 

「……!!」

 

 くるりと振り返り、槍を構える。躱そうとしても無駄無駄!! 背中の羽を伸ばしてイッショウの手足を捕まえる。そしてとっくに射程範囲だよ!! 

 

「“雷獣八卦”!!!」

 

「!!!」

 

 雷を纏い高速でイッショウの腹に槍を突き刺す。背中まで貫通したね。良い感触だ。ソーセージにフォークを突き刺した時の快感に近いね。それよりも当然気持ちいい。

 だけど突き刺した後も攻撃は終わらない。私は槍をそのまま持ち上げて振るう。そうして槍に突き刺さったままのイッショウの身体を持ち上げて地面に何度も叩きつけた。

 

「あははは!! ほらほらどうしたの!!? 早くしないと死んじゃうよ!! 私を殺しに来たんじゃなかったのかな!!? あはははは!!!」

 

「……!!」

 

「やめろ……ぬえ……お前……!!」

 

 ガン、ガン、とグラン・テゾーロの大地に何度もイッショウの身体を叩きつけてるとさすがに味方の命の危機でも感じたのか。クザンがイッショウを助けるため妖精達を潜り抜けて私に肉薄してくる。攻撃の気配を感じた私は槍を振ってイッショウの身体を投げ捨てて対応した。

 だがクザンは想定以上に全力で私の隙を突いてきた。足元を氷にして加速したのか。凄まじい速度で距離を詰めてきたクザンは更に強い覇気を込める。しかもその姿は──

 

「“最終氷期(ラストアイス)”……!!!」

 

「!!?」

 

「ぬえ……!! お前だけは……絶対に許さねェ……!! おれの命に懸けても!! お前の命を取る!!!」

 

 ──昔見た全盛期の……ガープのようだった。

 その薫陶を受けたであろう拳が私に迫る。ヒエヒエの実の覚醒で周囲を、空気すら凍らせ私を硬めた。私でも抜け出すのに一瞬。そう、一瞬動けなくなる。

 だからこそ、その隙にクザンの拳は私の顔面に到達した。クザンの全力の覇気を込めた一撃が──殺意を持って私を殴りつける。

 

「“拳骨氷床割(ギャラクシーディバイド)”!!!」

 

「!!!」

 

 衝撃。痛み。身体に感じる確かなダメージ。

 私は氷の大地を粉々に砕く程の威力の一撃を受けて黄金の大地へ激突する。衝撃だけで周囲の氷に亀裂を走らせ砕け散る。グラン・テゾーロ全体が大きく揺れた。下手をすれば島全体が割れかねない程に。かなり効く一撃だった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 そしてクザンは荒い息を吐いて私を倒せたのか一瞬逡巡したのだろう。体力と覇気を消耗していて追撃ができなかったのかもしれない。

 だから私は立ち上がる。顔を押さえつつも溢れ出る笑みが止められない。

 

「……ガープ仕込みの技……中々効いたわよ……!!」

 

「……!! まだか……!!」

 

 ちゃんとしたダメージを受けて楽しくなった。本当に、よくここまで強くなってくれたと。

 マゼランもイッショウもかなり重傷だしやっぱりクザンが1番強いしタフだし粘ってくれる。大将時代よりも確かに強い。

 それだけにちゃんと戦って殺してあげたい。私は先程よりも更に力を込め、全力でクザンとの接近戦に臨む。

 

「あはは!! 新政府の元帥になっただけはあるねクザン!! そっちの2人よりかなりやるじゃん!!」

 

「お前らを殺すために磨き続けてきた……!!」

 

「そうみたいだね!! だけど今日でそれも終わりだよ!!!」

 

 氷と覇気を纏った拳と私の槍が何度も交差する。自然(ロギア)系には弾幕は効果が薄いとはいえこの手数に加えて私の槍にちゃんと対応してくるのはさすがだ。元帥になって一皮剥けたのかもしれない。イッショウやマゼラン。そして2年前に戦ったサカズキやボルサリーノより強い。

 

「私達と戦ったのが運の尽き……!! どんな立派な正義も善人も必ず報われるわけじゃない!! それこそが人間も獣である証明だ!! 結局は力ある者が繁栄するのがこの世界!!」

 

「!?」

 

 覇気を纏わせた私の羽がクザンの手足を捕まえる。

 そう、確かにクザンは立派だ。あれだけダラケてたのに新たに立ち上げた新政府軍の元帥を立派に勤め上げ、その名に恥じぬほどの強くなった。私達を倒すための準備も怠らなかった。2年もの間私達を留め続けた。こうして私達を倒すために全力で策を練って挑んできた。

 クザンに敬意を払う。クザンは紛れもない強者だ。だが、それだけに。

 

「そしてその世界を獲るのは……他の誰でもない!! 私とカイドウよ!!!」

 

 ただ残念なのは──それでも私たちよりも弱いってことかな。

 私は特殊能力特化の“愛神の化身”からより力の強い“終末の化身(カリユガ・アヴァターラ)”に変型して槍を振るう。クザンの拳を掻い潜り、覇王色の覇気を纏った上でお返しとばかりに──。

 

「“梵我一如終修羅(ブラフマートリシューラ)”!!!!」

 

「!!!」

 

「……!!」

 

 黒い雷と覇気を纏った全力の私の槍がクザンの実体を捉えた。身体に突き刺さり、血液が零れ落ちる。重要な臓器を傷つけているかは相手が自然(ロギア)系であるため分からないが、クザンは血を吐きながら吹き飛んだ。死んではないけどダウンしたかな? 覇王色を纏った全力の私の槍はそれこそカイドウくらいじゃないと防げない。クザンの強さを認めてかなり強い一撃をお見舞いした。

 私は化身を解除して地面に降り立つ。私が化けさせた妖精もいなくなり、辺りに静けさが訪れた。

 

「……あーあ。こんなもんかー」

 

 地面に倒れる3人の男達に向けて。そして独り言でもある言葉を呟く。残念さを隠さずに笑みを浮かべて。

 

「あなた達は確かに強くなってるみたいだけど……残念ながら強くなってるのは私たちも同じ。むしろ今が1番成長期、みたいな? あはは……それだけに惜しいよ。私とカイドウみたいにもっともっと殺し合いを楽しめてればもっとずっと良い勝負ができたかもしれないのにね……!!」

 

 私は彼らの強さを認めながら敗因を教えてあげる。結局のところ彼らは私たちに勝てるほど強くはなれなかった。敗因と呼べるほどのものじゃないけど、結局この世の全ての事柄はそこに終始する。

 

 「どんなに立派な大義を掲げていても弱ければ踏み潰されるだけ……あらゆる生物はこの自然の理で生きてる……結局のところあなた達には力が足りなかった……!!! ただそれだけのことよ……!!」

 

 私は意志を言葉にし、それから見聞色で辺りを感じ取る。グラン・テゾーロは今も動いている。随分とドレスローザから離れてしまった。私の見聞色の範囲外だし島も見えない。さすがにクザン達に集中してたからね。いつの間にかこれほど離れてしまっているとは思わなんだ。

 私は遠くに吹き飛んでしまったクザン達を回収するために動き出すが、その前に電伝虫に連絡が来たので私は移動しながら連絡を受けた。

 

「もしもーし?」

 

『──ぬえ様。こちらメアリーズです……!!』

 

「おーどうしたの?」

 

『はっ!! 既にご存知かと思いますが……!! 先ほどドフラミンゴとテゾーロが敗北してしまい……!!』

 

「ああ、うん。それでジョーカーは? まさかジョーカーやジャックまでやられてないでしょ?」

 

『ジョーカー様は現在、“麦わらのルフィ”と交戦中で……ジャック様もムサシお嬢様と交戦中です』

 

 ふんふん。なるほどねー。メアリーズからの報告に私は感心する。ハンコックはともかくローもやるなぁ。しかもルフィまでジョーカーがすぐに仕留められないくらいには成長して善戦してるっぽいし……戦況は若干こっちの不利かな? 私が今はいないわけだし。少なくとも向こうの士気は上がってるはずだよね。

 

「ふーん……ならこっちも誰かしら殺して死人を出すといいよ。全軍に伝えといて。──ハンコックとロー。それと“麦わらの一味”とその協力者を殺した人には“飛び六胞”への昇格の権利をあげるって。それとクザンとイッショウとマゼランも私が倒したから。それも伝えて敵に降伏勧告しといて」

 

『……! はっ!! 了解しました!!』

 

 とりあえずの指示を伝えて私は電伝虫を切る。戦争を指揮してたジョーカーはルフィの相手で忙しいみたいだしジャックもムサシの相手に手こずってるらしいので副総督として部下をちゃんと統率しないとね。

 

「さーて……とりあえず3人の始末を付けようか。今頃カイドウもドラゴンを殺すか捕えるかしてるだろうし、これで新政府軍も終わりだね」

 

 電伝虫をしまってから無人の筈のグラン・テゾーロを歩いてクザン達を片付けるために動き出す。それからもう一度ドレスローザに戻って更にお掃除だ。

 つまるところこの戦争は私達の勝ちで終わる筈。そう決まっていた。

 

「だけどその前に──」

 

「!!!」

 

 私はその言葉を口にし終える前に──刹那の速さ。一瞬の内に私までの距離を詰めて放たれた斬撃を槍で防ぐ。

 私が見聞色の覇気でその存在に気づいてからコンマ数秒ってところかな。謂わば神速の辻斬りだったけど残念。見聞色が死ぬほど得意な私に不意打ちは通用しない。

 だけど速かったので気づいてから防いでようやくその相手を視認した。私が即座に背後に振り向いてガードしたため、再び私の背後に回ったその相手を流し目で見る。

 

「──あれー? 誰かと思えば……態々出てきてくれるなんてね……!! もしかして私に殺されに来てくれたの? 今はただの()()寿()()()()♡」

 

「……!! 元奴隷風情が……戯言を……!!」

 

 どうやら今日はとっても良い日みたいだ。

 “黒ひげ”。“新政府軍”。それに続いて──“五老星”まで相手してくれるなんてね♡ これはドレスローザにはまだしばらく戻れそうにないかなぁ。ま、そこは部下を信頼して任せればいっか。

 

 

 

 

 

 海賊帝国と新政府軍。そして海賊帝国に敵対する海賊達の戦争が続くドレスローザは、ドフラミンゴとテゾーロの敗北によって騒然としていた。

 

「若がやられるなんて……!!」

 

「テゾーロ様……!!」

 

「おれ達押されてんのか……!!?」

 

 主に動揺するのはドンキホーテ海賊団とテゾーロ海賊団の両組織。

 頭が取られたことで両組織に属する戦闘員、構成員は自分達の敗北を想像させる。戦争において“将”を討たれるというのは士気を下げることになる。

 

「“鳥カゴ”が消えた!!」

 

「中将!! “海賊女帝”とトラファルガー・ローが仕留めたとの報告が!!」

 

「海賊に助けられたか……お前達も意地を見せろ!! 残りは幹部達だ!!」

 

「ウオオオオオオ~~~~!!」

 

「海賊帝国の兵を討ち倒せ~~!!」

 

 そして反対に、“将”を討ち取ったことで士気を上げる新政府軍に海賊達。

 長年ドレスローザとグラン・テゾーロという2つの島を支配していた暴君らの打倒はそこに住んでいた民ですら迷わせる。既に海賊帝国に付いた筈の民達が強く動揺していた。

 

「だ、大丈夫なのか……!?」

 

「人を殺してまでこっちに付いたのに……!!」

 

「おれ達どうなるんだ……!?」

 

 ドレスローザで新政府軍の兵士の足止めを行っていた民達が不安を声に出す。家族や隣人。そして自分の命を守るために誰かを殺してきた彼らはどよめき惑う。このまま万が一にも海賊帝国が負けてしまえば自分達もまた敗戦した側の兵として処理されてしまうのではないか。そんな考えすら頭によぎる始末だった。

 それゆえに戦場の趨勢は新政府軍側に傾くかと思われたが……そうはならなかった。

 

『戦場各地の海賊帝国全軍に報告!』

 

「!」

 

 ドレスローザと神の大地の全域には百獣海賊団の諜報・偵察部隊であるメアリーズが散らばっている。

 彼らの役割は諜報活動だけでなく戦場における連絡、情報伝達の手段としても使われる。改造されたメアリーズ達はそれぞれ音声を拡散モードに変えて海賊帝国の全兵に。そして敵にも聞こえるようにその情報を告げた。

 

『今しがたグラン・テゾーロにてぬえ様が新政府軍の最高戦力である元帥クザン!! 及び2名の大将を倒したと情報が入りました!!!』

 

「!!?」

 

「まさか……!?」

 

「嘘だろ……!?」

 

「元帥達が……!!」

 

「狼狽えるな!! 敵が勝手に言ってるだけだ!! 確認を急げ!!!」

 

 その聞こえてきた声に、特に新政府軍の将兵らはどよめく。比較的冷静な中将らは兵士をなだめるために声を飛ばすも、広がる動揺は抑えきれない。

 

『延いては我々百獣海賊団に敵対する新政府軍!! 並びに海賊達に勧告を行います!! ただちに降伏し、服従するのであれば救命を受け入れましょう!!』

 

「そんな……!!」

 

『ただし!! 降伏しないのであれば殲滅を行います!!』

 

「っ……!!」

 

 メアリーズからの声によって士気を下げられる新政府軍の兵士達。彼らにとって元帥に大将達の参戦はこの戦いにおける希望だった。

 

「嫌だ……殺されるのは……!!」

 

「またやられるのか……!? 2年前のあの時みたいに……!!」

 

「おい!! しっかりしろ!!」

 

 だがその希望が敗北した。そのことは現在の新政府軍の兵士達。2年前は海軍に所属し、頂上戦争における敗戦を体験した者達にとってはトラウマを想起させる。

 味方の屍を踏み越え、仲間達の悲鳴。苦痛。嘆きの声が遠ざかる。それらを尻目に彼らは逃げ出したのだ。未来に賭けるために。命令に従って。

 ただそれでも大勢が死んだ。他ならぬ海賊帝国。百獣海賊団。そして──カイドウとぬえの手によって。

 その時の恐怖体験を呼び起こし、彼らの動きは鈍る。元帥も大将もいないのなら、誰があのぬえの相手ができる? 誰が倒せる? 誰が抵抗できる? 

 もう1人の大将もトップであるドラゴンもこの場にはいない。更に言うなら、本部とも連絡は取れない。ゆえに不安を止める手立てはなく、反対に勢いづくのは頭を消された訳でもない百獣海賊団の者達。

 

「当然だ!! ぬえさんが負ける訳ねェ!!」

 

「元帥や大将如きで止められるわきゃねェんだよ!!」

 

「ぬえさんはカイドウさんに並ぶ最強だ!!」

 

「そしておれ達は最強の海賊団!! 降伏しないのなら全員殺してやる!!」

 

「ドフラミンゴやテゾーロがやられたからどうした!!? こっちの“将”は全然削れてねェぜ!!」

 

「しかも聞いたか!? 手柄を立てれば空いた飛び六胞の席に座れるかもしれねェんだとよ!!」

 

「ああ聞いた!! そりゃやるしかねェよな!!」

 

 神の大地の一段目に布陣し戦う百獣海賊団の真打ち達。ギフターズらが敵を次々に押し飛ばす。彼らの言う通り、事実として百獣海賊団の将兵は殆ど削れていない。

 ただの兵士でしかないウェイターズやプレジャーズは倒せてもそれ以上の者達の被害は殆どなかった。人造とはいえ500人以上の能力者。そして50人以上の本物の悪魔の実の能力者である実力者である真打ちは質の上でも数の上でも脅威でしかない。

 

「駄目だ!! ギフターズに……真打ち達が止まらない!!」

 

「ハァ……ハァ……敵が減らねェな……!! クソ……ようやく工場を壊せるって時に……!!」

 

「──当然よ……♡ 私達を誰だと思っているの?」

 

 そんな中、“神の大地”の1段目の東側に位置していた“SMILE”製造工場。そこを守っていたドンキホーテファミリーの幹部。セニョール・ピンクを激戦の末に倒した麦わらの一味の船大工、フランキーは新たに現れた敵に攻め立てられていた。相手は身長3メートルほどの長身で見た目は銀髪の美形で濃い化粧をした女性的なフォーマルな制服にケープを身に着けている。

 そして頭部には角が生えていてオネエ口調の──オカマだった。

 

『百獣海賊団真打ち(元飛び六胞 カマバッカ王国出身)ポープ・ジュリアス 懸賞金5億6000万ベリー』

 

「私達は世界最強の百獣海賊団……!! ドフラミンゴやテゾーロ。その幹部がやられたところでその総戦力からすれば損害は微々たるものよ……♡ そのくらいの戦力は幾らでも用意できるわ……!!」

 

「っ……どうやら……そうみてェだな。だからといって諦める気もねェが……!!」

 

「ええ♡ それにあなた達を消せばローちゃんがついていた“飛び六胞”の席が手に入るとぬえさんから通達もあった……!! 本当は昔私を追放したあのムカつくイワンコフにお礼参りをしようと思っていたけど……せっかくだから消しやすい貴方から狙わせてもらうわ♡」

 

「ハッ……情けねェ理由だな」

 

「なんとでもおっしゃいな。約10年ぶりの飛び六胞の座……頂かせてもらうわ!! “ニューカマー拳法”!!

 

「!!?」

 

「“九連迅狐拳(クレンジングけん)”!!!」

 

「っ……!!」

 

「フラランド!!」

 

「こっちも加勢を!!」

 

「はいれす!!」

 

「ウフフ!! 幾らでもかかってらっしゃい!! その分手柄が増えて助かるわ!!」

 

 動物(ゾオン)系の人獣型──恐竜の能力が混ざりゴツくなった巨漢のオカマに襲いかかられ、フランキーは近場にいたトンタッタ族らと共に何とか耐え凌ぐ。セニョール・ピンクと戦った後のフランキーでは戦うというより何とか気合いで耐えるような戦闘しかできずにいた。

 

 そしてこの光景は戦場の至る所で見られた。立ちはだかる真打ち達に蹴散らされる新政府軍の将兵達。そしてその真打ち達は積極的に敵の命を刈り取ることを目的としていた。

 

「チッ……マズいな……士気が下がってやがる」

 

「これだから外海の男共は情けない……!! 本来ならば見捨てるところじゃが……ルフィのためじゃ。このわらわが加勢して兵を削って……!!」

 

 “神の大地”の頂上でドフラミンゴとテゾーロを倒したローとハンコックは眼下の戦場を見下ろす。そして新政府軍の将兵らの情けなさに愚痴を零すも、加勢しようと参戦を試みようとしたその時だった。

 

「──そうはさせん!!」

 

「!?」

 

「くっ……!!」

 

 不意にその場に現れた声は2人のいる場所に飛び蹴りをかまし、地面に振動と亀裂を走らせる。咄嗟に飛び退いて躱したハンコックとローだが、その攻撃の鋭さに驚きながらもその相手を視認した。

 

「何者じゃ……!?」

 

「せからしか!! ハンコックにトラファルガー・ロー!! ぬえさんば裏切るなんてなんばしよっと!! 絶対に許さんけん!!」

 

「“超人シスターズ”か……!!」

 

「なんじゃそれは!?」

 

お前も百獣にいたろ!! なんで知らねェんだ!! ──“超人シスターズ”はこの1年で発足、デビューしたアイドルグループでぬえ直属の遊撃部隊。人数は47人でそのほぼ全員が超人系(パラミシア)の悪魔の実の能力者だ……!!」

 

「ふん……知らんな」

 

「だから何故知らないんだ……敵の情報くらい知っておけ。そこのスカートは超人シスターズの中でも強さ・人気共にトップの1人……“暴力少女”、“堕落少女”、“殺戮少女”の3人はファンの間では“神3(ゴッドスリー)”の通称で呼ばれ、TDセールスランキングにおいても常連で流行りの配信活動も頻繁に──」

 

「にしてもそなたは詳しすぎじゃろう!!?」

 

「常識の範囲内だ。とにかく油断するな。結構やるぞ」

 

「わらわを馬鹿にしておるのか……!! あのような小娘、一捻りにしてくれるわ!!」

 

「できるかどうか……試してみぃ!!!

 

「!」

 

 その場に現れたのは“超人シスターズ”のスカート。その情報を知らないハンコックにローは真面目な表情で彼女達の説明を行い、気をつけるように告げるもその注意はハンコックを不機嫌にさせ、彼女が駆け出すきっかけとなる。

 反対にスカートもまたそれに一切怯まずにモアモアの実で自身の速度を速くした上でハンコックと激突する。

 

「!!」

 

「っ……こやつ……!!」

 

「っ……!! ふん!! さすがは元七武海なだけはあるっちゃけど……!! それでも裏切り者は消すのみばい!!」

 

 両者の覇気を纏った拳と蹴りがぶつかり合い相殺される。どちらもその感覚を得たのだろう。ハンコックは思ったよりも強かったことに睨みを強くし、スカートもまた自身の攻撃を見切られ防御されたことで更に敵意を強くする。

 

「確かに……トラファルガー・ロー。そなたの言うように……少なくとも取るに足らない雑兵ではないようじゃな」

 

「そっちは任せるぞ。おれは……どうやら()()()()()()()()()……!!」

 

「──休ませる筈ねェだろう……!!」

 

「!!?」

 

 背後のローに話しかけたハンコックだが、反対側を向いて身構えているローを見て少し遅れて気づく。背後に突如現れた巨漢。その正体は──瞬間移動を行ってきた百獣海賊団の大看板“旱害のジャック”だった。ジャックの肩の上に乗っかっているバニーガールのような少女、“超人シスターズ”のシュミアの仕業であることにローはすぐに気づく。

 

「それじゃこれで配置換えは完了ピョン!! シュミアはもう行くウサよ!!」

 

「ああ……ご苦労だった。ムサシの相手を切り上げちまったのは残念だが……!! 先にここで裏切り者共を消してやる……!!!」

 

「ジャック……!!」

 

「さあ2回戦だ……このまま無事に終われると思うなよ……!!」

 

「元飛び六胞に元七武海ば消してあたしが次の“飛び六胞”になっちゃる!!」

 

 ──そうしてドフラミンゴとテゾーロを倒して休めたのは一瞬のこと。ハンコックとローは目の前に現れたスカートとジャックを相手にする2回戦目を強いられることになった。

 

 そして“神の大地”1段目では──

 

「そこをどけ……!! どかねば斬るぞ……!!」

 

「できない相談じゃな……!! こっちもキツイが……上からの指令じゃからのう……!!」

 

「ムサシお嬢様……お前にも抹殺許可は出ている。手加減は期待するな……!!」

 

「こっちの台詞だ……!! 我の邪魔をするなら死んでも文句は言えんぞ……!!」

 

 同様にジャックの相手をしていた筈のムサシの前には、クザンとの戦いで一度やられたものの少し休んで復帰したメアリーズのルッチとカクが立ちはだかり、“神の大地”での戦闘はより一層の激しさを増し、より混沌とすることになる。

 

「ふん……こっちより別のとこが先に取り返しのつかない事態になるだろうがな……」

 

 こっちまで移動してくる際にメアリーズによる戦況を耳にしていたルッチの呟き。既に夜明けも近く決着も近いと見ていた彼の判断は正しい。どちらが勝つにせよ──決着はそう遠くはない。

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”3段目。

 

 頂上に最も近い黄金とドレスローザの大地の一部が混じったその場所で大地が蠢く。

 その理由は大地の部分を操っているドンキホーテファミリーの最高幹部。イシイシの実の能力者であるピーカが移動したことによるものだ。

 

「うわァ~~~~!!?」

 

「大地が動いたぞ!!」

 

「ピーカ様だ!!」

 

「しかもそれだけじゃねェ!!」

 

「なんだこの穴!?」

 

「わかんねェ……!! だが飛んできた何かに当たって腕を持っていかれた……!!」

 

「頭上に注意しろ!!」

 

 3段目の影響により1段目や2段目においても落石や流れ弾による被害が出る。

 3段目でピーカを追いかける”麦わらの一味”の操舵手。元七武海の“海侠のジンベエ”は周囲の被害を確認しながら心配を口にする。

 

「反対側まで来てしまったが……こっちまで流れ弾が来るとは……これはゾロでも苦戦は免れないじゃろう……!! 他の仲間が心配じゃな……!!」

 

 ジンベエは移動するピーカの本体を見聞色の覇気で正確に追いかけながら他の仲間達を心配する。ルフィやゾロに関しては心配ではあっても信頼できる。ドフラミンゴやテゾーロが倒れたことで戦いは僅かではあるが優勢にはなったことだろう。

 だがそれでもまだ敵の戦力は強大。グラン・テゾーロがドレスローザから離れていったことで何とかぬえがこの場で暴れる事態は防げたものの、大看板や飛び六胞という戦力はまだまだ健在だ。

 その1人を相手にしているゾロもおそらくは死闘に臨むことになる。それを思い、ジンベエは自らも自分の任された分をきっちりこなさなければと気合いを入れた。

 

 ──そしてジンベエが3段目の西側まで移動する中、東側では周囲の被害を顧みない、破壊が撒き散らされる戦闘が行われていた。

 

「ぐあっ!?」

 

「“海賊狩り”!?」

 

「……!!」

 

 大勢のギフターズに囲まれ、更にはテゾーロ海賊団の最高幹部であるダイスとも戦うデュースやイスカ。そしてたしぎは吹き飛ばされた麦わらの一味……“海賊狩りのゾロ”を心配してしまう。それほどの激しい戦闘だった。彼らには割り込むことが出来ないほどに。

 

「ハァ……くそ……姿が変わったら力も速さも強くなりやがって……!! 気に入らねェな。今まで手を抜いてたってのか……!!」

 

「悪かったな。お前らみたいな木っ端海賊団は前座だと思ってたが……!! ドフラミンゴやテゾーロの野郎がやられたせいでこっちも遊んでる場合じゃねェんだ……!!」

 

 吹き飛ばされながらもすぐに体勢を立て直し、構えを維持。猛獣のように強い睨みを効かせて敵を見るゾロ。

 だがその相手は正真正銘の猛獣であり、更にその潜在能力を引き出した存在だった。羽衣のような何かを纏わせる人と獣の混合状態。動物(ゾオン)系の人獣型。だがその更に先の姿となっているのがゾロの戦っている相手。

 

『百獣海賊団“飛び六胞”フーズ・フー ネコネコの実(古代種)モデル:サーベルタイガー 覚醒フォルム』

 

「これがおれの本気だ……!! 恐怖したか? 悪魔の実の覚醒……!! その選ばれし領域にいるおれの強さによ……!!!」

 

 それが百獣海賊団の真打ち500人の中の頂点。最強の飛び六胞に属するフーズ・フーの本気の姿。動物(ゾオン)系悪魔の実の覚醒フォルム。能力を極め、心身をも鍛え上げ能力に追いついた者だけが辿り着くことができる境地。

 もしそれがなく覚醒すれば能力に人格を取り込まれることもあるその危険な試練を乗り越えた強者。その自負を持つフーズ・フーはゾロの返答を──それも生意気なものを聞いた。

 

「生憎と動物の化け物には慣れてんだ……!! お前らのおかげでな……!!」

 

「ハッ、ササキのことか? 確かに報告じゃお前はササキを出し抜いたそうだが……!! それは運が良かっただけさ!! おれ達飛び六胞や大看板が本気を出せばお前らは手も足も出ねェんだよ!!」

 

 ゾロの発言にフーズ・フーは舌戦に付き合い、見下ろしながら言い返す。覚醒を習得した自分達には勝てやしない。出し抜けたのも運が良かっただけであり、これからお前達は死ぬのだと言動でそれを匂わせる。

 だが相手は生憎とそれに恐れをなす男ではなかった。

 

「だったら見せてみるんだな……できるとは思わねェが……!!」

 

「言われなくとも見せてやるさ……!! もうそろそろ死人を出さなきゃ士気も下がる……この3段目にいる奴らは──全員おれが噛み殺してやる!!! “鉄塊”!!」

 

「!」

 

 互いの舌戦が限界に達したところで先に動いたのはフーズ・フーだった。旧世界政府に属する者達の戦闘術“六式”。身体を鋼鉄のように硬くする武装色の覇気。いわゆる武装硬化で全身を硬めたフーズ・フーが低い体勢で足に力を込めた。

 

「“三刀流”……!!」

 

 それを見て相手の攻撃が来ることを読み取ったゾロもまた三刀の刀を振りかぶった。互いに覇気を己の牙に込めた上で。

 

「“牙閃”!!!」

 

「“極”……“虎狩り”!!!」

 

「!!!」

 

 足に込めた力を一気に解放し、爆発的な加速でゾロの元に迫るのは太古の猛獣。その鋭く伸びた牙がゾロを噛み殺そうとゾロの放った技と激突し、周囲に衝撃を走らせる。

 

「グ、ギ……!! (っ……押される……!!)」

 

 その攻撃を受け止めたゾロは全力でその噛みつきに抗いながらもフーズ・フーの爆発的な加速と牙のパワーに僅かに負け、背後へと足裏を引きずりながら押されていく。ゾロの背後に衝撃が走り抜け、最終的にゾロは何とかそのパワーを流すことで背後に吹き飛ばされるだけで済み、致命傷を避けることが出来た。

 

「……!! (やっぱりあの牙がやべェな……!!)」

 

「ハハハ!! どうしたロロノア!!? 受けることしかできねェか!!? “牙銃(ガガン)”!!」

 

「言ってろ……!!」

 

 近距離での直接の噛みつきから逃れたゾロの元に今度は牙を飛ばすフーズ・フーのオリジナルの体技が連続して殺到する。

 それらもまたゾロは刀に覇気を込めて振り回して捌き切ろうとするも、それが出来てもまだフーズ・フーに先があることをゾロは理解していた。だからこそそれに備えている。

 

「飛ぶ攻撃がお前だけの専売特許だと思うなよ……!!」

 

「!」

 

「“三刀流”……!!」

 

 フーズ・フーの飛ぶ牙を受けきった後はゾロもまた飛ぶ斬撃をお見舞いするために構えを取った。狙いは当然フーズ・フー。その極大の大砲にも匹敵する一撃。先ほどはピーカの巨大な石像を真っ二つにしたほどの斬撃。ゾロの奥義の1つが放たれる。

 

「“千八十煩悩鳳”!!!」

 

「“剃”!!」

 

「!!?」

 

 ──が、その必殺技のお返しにフーズ・フーは付き合わなかった。その場で高速移動を行い、ゾロの飛ぶ斬撃を躱したフーズ・フーはその大技の隙を突くべくゾロの背後に移動して攻撃を行った。ゾロはそれをすんでのところで防御することに成功する。

 

「っ……てめェ……!!」

 

「ハハハ!! ムカついたか!? だが攻撃の対処法はおれの自由だ……!! 受けるのも躱すのも難しくねェがお前の攻撃が遅すぎたもんでなァ!!」

 

「……!! よく喋る化け猫だな……!!」

 

「その化け猫にこれからてめェは殺される!! 見てろ……!! 次は受けることも難しくねェって言葉を証明してやる!!! “月歩”!!」

 

「!」

 

 大技を躱されたことにゾロは文句をつけない。海賊の戦いで出し抜かれ、卑怯だ何だのと口にすることは恥の上塗りにしかならない。ゆえに敵意だけを目と刀に込めて対応するも、フーズ・フーはそれを再びいなすように空中へと跳び上がった。ゾロの刃が届かない空中。そこから放つのは先ほどの“牙銃(ガガン)”や更にその先の“牙々銃(ガガガン)”よりも力を込めたフーズ・フーの奥義。

 

「“牙餓々銃(ガガガガン)”!!!」

 

「!!!」

 

「!!?」

 

 ──フーズ・フーの口から放たれるのはその口の何十倍以上もある大きさの巨大な牙の衝撃波。

 それはゾロの身体ごと“神の大地”の3段目。その広大な壁や地面の1、2割かをえぐり取るほどの巨大な攻撃かつ威力もまた先程のゾロの大技にも勝るとも劣らないものだった。

 

「うわァ~~~~!!?」

 

「これは……フーズ・フー様の“牙銃”か!!?」

 

「危ねェ!! 離れろ!!」

 

「暴れてるわね……せっかちなんだから♡」

 

 3段目にいる百獣海賊団の下っ端や2段目にいるブラックマリアがその攻撃の余波を感じて言及する。

 そしてそれを受けたゾロは致命傷はやはり避けながらも傷を作り、抉られた黄金の大地の上で荒い息を吐いていた。

 

「ハァ……くっ……!! (確かに桁違いの威力……!!)」

 

「苦しそうだな!! そろそろ死んだ方が楽なんじゃねェか!!?」

 

「生憎と“楽”は求めてねェ……!! 今おれが求めてんのはお前の首だ……!!」

 

「!」

 

 だがそれでもまだ折れることはない。戦いはフーズ・フーの優勢で進み続けていてゾロは防戦一方。誰が見ても敗色濃厚な戦い。

 だがゾロは自分が勝つことを一切疑うことなくフーズ・フーに鬼気迫る覇気をぶつけ続ける。その覚悟の決まった生意気な態度にフーズ・フーが思わず苛立ちを感じるほどに。

 

「ハッ!! 威勢だけはいいじゃねェか……!! だがお前じゃどうやったっておれを殺すことはできねェ!! 死ぬのはお前とお前の仲間だけだ!!」

 

「ハァ……ハァ……(獣の能力だけじゃねェ……やっぱり鍵は()()()()()……!!)」

 

 フーズ・フーが更に言葉で相手を威圧する中、ゾロは呼吸を整えようとしながら相手の強さと自分に何が足りないかを掴み始めていた。──おしゃべりな相手だが、言うだけはある。こいつらは弱くない。能力だけでなく覇気も鍛えてある。それはパンクハザードで戦ったササキも同じだったと。

 そしてその戦闘経験を現在進行形で積んでいるからこそゾロは意識を集中させる。きっかけは掴んでいる。なら後は自分に実力があるかどうかでしかないと──

 

「おれは殺しのプロだ……!! どんな状況でも任務をこなすためには最適な判断を下す……!! 判断ミスはねェ……!! 今からそれを見せてやる……!!」

 

「何……!?」

 

 そう気合いを込め直した直後だった。フーズ・フーのその言葉がぶつけられた後の行動にゾロは面食らうことになる。

 何しろそれはある種、戦いを一度放棄する行動だったからだ。

 

「──()()()!! 少しの間こいつを抑えてろ!!」

 

「──イエェェェス!!」

 

「なっ──!!? てめェ!!」

 

 少し離れた距離。フーズ・フーの背中側に位置し、そこで戦っていたテゾーロ海賊団の最高幹部のダイスがフーズ・フーの呼びかけによりゾロの前に跳び上がって移動し、立ち塞がる。

 そして咄嗟に放ったゾロの斬撃は、ダイスのキラキラの実の能力によるダイヤモンドの身体によって受け止められた。

 

「ンンン……!! キモティィぜェ……!! テゾーロ様がやられたことは気がかりな今、この斬撃は効くなァ……♡」

 

「……! 何のつもりだてめェ!!?」

 

「しばらくそいつと遊んでな、ロロノア……!! お前じゃダイスの能力は突破できねェ。その間に……おれは他の奴を殺してから戻ってくるからよ……!!!」

 

「!!?」

 

 ダイスにゾロを任せ、背中を向けるフーズ・フーは口端を吊り上げて笑みを浮かべながらその非情な企みを告げる。

 

「待て……!!」

 

「待たねェよ……!! だが見聞色で感じ取るくらいは構わねェぜ? そこで味方の声が消えていくのを無力さを噛み締めながら感じてろ……!!」

 

 ゾロの怒りの声に一切付き合わず、フーズ・フーは“剃”を使ってゾロではなく別の相手の前に一瞬で立ち塞がった。その相手は……ダイスが先ほどまで遊んでいた相手。

 

「よう……たしぎ……!! まずはてめェからだ……!!!」

 

「っ……!!? フーズ・フー……!!」

 

 元海軍本部の少尉であり、頂上戦争で敗北した後は戦闘奴隷として百獣海賊団のギフターズとなったたしぎの前に上司であり仇でもあるフーズ・フーが立ちはだかる。突然の来襲にたしぎは驚きながらも刀を構えて戦闘体勢を取るが……。

 

「“指銃”!!」

 

「っ、あ……!!」

 

 高速で移動したフーズ・フーがたしぎの刃を見切り、その上でたしぎの腹に自らの指を突き刺す。覇気を纏った鋭い爪で身体を貫かれる痛みと衝撃にたしぎは流血しながら背後へと逃れるしかない。

 

「いっちょ前におれと戦う姿勢なんざ見せやがって……!! 相変わらず弱い上に馬鹿な女だ。おれ達についたままでいりゃあ少なくとも痛い目に遭わずに済んだのによ……!!」

 

「はぁ……はぁ……!! 何が……痛い目……!! あなた達はどちらにせよ……!!」

 

「おいおい……まだ反抗的な目をしやがって……!! そんなに痛い目に遭いてェかよ!!」

 

「ウッ……!!」

 

 フーズ・フーによって地面に倒されたたしぎが今度は蹴り飛ばされる。すぐに殺さないのはたしぎが裏切り者だからだ。たとえ扱いが悪かったとしても、一度はギフターズとして部下として置いてやっていた。奴隷の時と比べればマシな環境でいさせてやった。それを裏切られたからこそ。

 

「く……!! 助けに行きたいが……!!」

 

「おっと! フーズ・フー様の処刑の邪魔はさせねェぜ!!」

 

 それを見ていた二代目白ひげ海賊団の参謀と隊長であるデュースやイスカは加勢に向かいたい思いを強くするも、フーズ・フーの部下のギフターズに阻まれて苦い表情になる。ドフラミンゴやテゾーロが倒れても百獣海賊団の兵力は未だ膨大な数を誇っていた。

 

「絶望しろ……!! お前はこれから死ぬ!! 助けも来ねェ……!!」

 

「っ……!!」

 

「ハハ!! 悔しいか!!? そうだろうな……!! お前の慕ってた上司もおれに殺され……今度はおれに殺されるんだ。泣きたくなるくらい自分の無力さを思い知っただろう!!」

 

 たしぎを見下ろしながらフーズ・フーは更に絶望させる言葉を続けた。たしぎはそれを必死に耐えようとして唇を噛みしめる。この敵が憎い。自分の手で倒したい。仇を取りたい。己の弱さを克服したい。その覚悟は決めている。

 それなのに、それでもなお相手の方が圧倒的に強い──その自分の弱さが不甲斐なく、怒りと悔しさを覚えてたしぎは表情を歪める。

 

「おまけにその上司が食べていた“モクモクの実”も他の自然(ロギア)系の悪魔の実と同様に()()()()()()()()()()()……!! 反対にお前は“SMILE”を食べてギフターズになった……!! その姿を見たらあいつはなんて言うか……ハハ!! 死んでなきゃ見せてやりたかったんだがな!!」

 

「……!!」

 

 そしてその死ぬほど悔しそうな様を見下ろしてフーズ・フーは愉悦する。高笑いをする。これから死ぬ人間を絶望させ自らの鬱憤を晴らす。それくらいの時間の余裕はあるとフーズ・フーは判断していた。

 

「だから代わりにお前が自分で報告するんだな……あの世で再会してからよ……!!」

 

「!?」

 

 とはいえフーズ・フーもそれほど長々と拷問をする気もない。たしぎを早々に殺すことを決めたフーズ・フーはたしぎとの距離を更に縮めて首を掴む。たしぎは驚き、それを回避しようとするも叶わない。苦しそうな呻きを喉から漏らしながらじたばたと情けなく抵抗する。

 

(悔しい……!! こんな男にいいようにされて……!! 大切な人を馬鹿にされても何もできない……!!)

 

「お前とは何だかんだ思い出が色々あるが……それもそろそろ終わりだ。最期に無様にも負けちまったドフラミンゴの言葉をお前に送ってやるよ──弱い奴は死に方も選べねェ」

 

(なんて弱い……!! なんて情けない……!!)

 

「──じゃあな。弱い()()()()

 

(私は今まで何を……!! ごめんなさい……!! スモーカーさん……!!)

 

 たしぎが悔しさで涙を流す中、フーズ・フーは武装色で硬化した腕で、鋭い指先で心臓に狙いを定める。

 意地悪い笑みを浮かべたフーズ・フーは最期の言葉を送った後、“指銃”を放った。人を殺すのに鉛玉はいらない。身体全てが凶器と化している百獣海賊団の超人。フーズ・フーにとって……たしぎを殺すことなど簡単なことだった──

 

「フーズ・フー様!!」

 

「!」

 

 ──筈だった。

 フーズ・フーの指がたしぎの胸を貫く寸前、ギフターズが注意を呼びかけてそれにフーズ・フーは気づくも間に合わない。──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!!!」

 

 フーズ・フーの右腕が、飛んできた斬撃によって肉を裂いて流血を起こした。

 

「ギャアア~~!!!」

 

「フーズ・フー様!?」

 

 その鋭い痛みと出血にフーズ・フーは思わず叫び声をあげ、同時にたしぎのことを放してしまう。解放されたたしぎが地面へと落ちて首を押さえて必死に呼吸を行う中、ギフターズたちもフーズ・フーの身を心配し、同時に驚いていた。

 いや、驚いていたのはこの場の誰もがそうだった。特にフーズ・フーが自分の斬られた腕を見て。

 

「クソ!! 何が起こった!!? おれの武装色を斬り裂くだと……!!? ありえねェ!! 一体どこのどいつだ……!!」

 

 斬り傷を負わせられたフーズ・フーは一体誰が奇襲を仕掛けてきたのかと思考する。自分の武装色を斬り裂くほどの刃の使い手などそういない。この戦場には誰1人存在しないと思っていた。

 だからこそ振り返ってその正体を確かめようとする。そうして見えたのは、味方の姿。能力によって肉体をダイヤモンドと化していたダイスの背中だった──が、それがどのような状態であったことに気づいて再びこの場にいる誰もが驚愕する。

 

「キモ……ティ……い……」

 

「!!!?」

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ダイヤモンドと化していた身体の前面の部分に赤い線が走り、多量の血を流し、白目を剥いていたダイスは最後に快楽を感じていると思われる言葉を呟きながらゆっくりと前に巨体を倒していく。

 そうしてその巨体で隠れていた相手が露わになった。ダイスを斬り、斬撃でフーズ・フーの武装色で硬化した腕に傷をつけたその相手が。

 

「馬鹿な!!? ロロノア……!!? てめェがダイスを……!! いや、おれの武装色を……!!?」

 

「──ああ……感謝するぜ。()()()()()()()()

 

「!?」

 

 ──“海賊狩りのゾロ”。

 麦わらの一味のNo.2であり、戦闘員。“最悪の世代”の1人である億超えルーキーである彼が、刀に異様な覇気を纏ってそこにいた。

 そしてその覇気は、フーズ・フーの纏っている武装色と同じだった。

 

「おかげで練習ができた……!! これでようやく……お前らを気持ちよく斬れる……!!!」

 

「!!!」

 

 そう──その正体は高度な武装色の覇気であり、内部へと浸透する纏う覇気。

 その覇気を習得している百獣海賊団の強敵と何度も刃を合わせ、そのきっかけを掴んでいたゾロはフーズ・フーとの戦闘でついにそれを習得し、そしてダイスにそれを試した。

 ダイヤの肌も内部に斬り込めば通用しない。尋常じゃなくタフで硬い相手でも同じこと。

 

「それがお前らの本気だって言ってたな……覚悟しろよ。もう負けの言い訳はできねェからな……!!!」

 

「……!! 調子に乗るんじゃねェよ!! だったら見せてやる!! “大看板”に最も近いこのおれの強さをなァ!!!」

 

「それもただの通過点だ!!!」

 

「!!!」

 

 互いに覇気を纏った攻撃が激突する。

 今度こそ拮抗し、互いに本気を出したその勝負に、言い訳が介在する余地はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 ──“神の大地”の頂上。そこで行われているこの戦場の頂点。最も強く最も激しい戦いは、他と同じく決着の時に着実に近づいていた。

 

「不思議な感じだ……」

 

 そしてそれを同じく頂上で見ているのは“最悪の世代”の海賊であるジュエリー・ボニーだった。

 彼女は物陰に半壊したバーソロミュー・くまを寝かせて隠しながら月明かりと黄金の照らす夜空を見上げる──そこには月をバックに激突する“麦わらのルフィ”と“戦災のジョーカー”が映っていた。

 

「“麦わら”のあの戦ってる姿を見てると……昔お父さんが教えてくれたヒーローを思い出すんだ……そんな訳ないのにね……」

 

 そして誰も見ていない。聞いていないからこそボニーは意識のないくまにそう呼びかける。未だ予断を許さない状況であるため完全に気を抜くことはできない。

 だがその姿を見てつい思ってしまった。父であるくまが教えてくれた存在のことをボニーは思う。

 

 ──だがそのボニーの呟きは届く筈もなく、その存在もこの戦いには関係ないと多くの者が思っていた。実際に戦っているジョーカーですら。

 

「どこまでも……!! 無駄な足掻きをしてくれるわね……!!」

 

 長身の吸血鬼の姿。覚醒フォルムのジョーカーは先ほどまでとは違い、確かなダメージを受けた様子でそう口にする。ルフィを空中で蹴飛ばし、更に傷を負わせた。明らかに優勢なのはこちらで傷ついてるのは向こう。

 それなのに未だ戦う意志が折れず、力が衰えることもなく全力で戦い続ける“麦わらのルフィ”にジョーカーは言葉を尽くさずにはいられなかった。

 

「いい……!!? 暴力と恐怖から逃れる最善の手段は……早々に諦め降伏することよ……!! どれだけ意地を張って戦ったところで貴方も貴方の味方も……この戦場で私たちに敵対する者達も……!! 誰も私たちには勝てやしない……!! なぜそれがわからないの……!!? 抗い続けても苦しんで死ぬだけ……!! だけど降伏すれば……やり方によっては自分の身や大切なものだって守ることができるというのに……!!」

 

 それは苛立ちも含めた様々な感情が込められたジョーカーの本心だ。“麦わらのルフィ”がなぜここまで懸命に歯向かうのはわからない。理解できなかった。

 何しろどれだけ戦ったところで未来はないのだ。仮にここで自分を倒したところで何の意味もない。むしろより命を狙われて苦しむことになる。それをジョーカーはよくわかっている。

 なんなら“麦わらの一味”が降伏していれば、大人しくジョーカーに捕まったままでいれば得られた未来はマシなものだった。誰も死なず、恐怖に怯えることもない。暴力で大切な人が傷つけられる心配もない。

 この世で最強の存在につくこと。それが“暴力の世界”で身を守る唯一の方法であることは誰もが知っている筈。力さえ認められれば少ないが人を救うことだって認められる。

 昔馴染や友達……恩人でさえも救うことができる。そのことを()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからこそ降伏することが1番良い未来を選べるのだと本心から言えたし、今はもう手遅れだとしても言わざるを、問わざるを得なかった。このどこまでも無謀な反攻を続ける“麦わらのルフィ”に対して、激しく攻撃しながら。

 

「──そんなやり方……おれは知らねェしわかりたくもねェ……!!!」

 

「!」

 

 ──だが、どれだけ強い攻撃をお見舞いされようと、ジョーカーの言葉を受けようと、ルフィの目は死ななかった。強い意志の乗せられた言葉がジョーカーへと届く。

 

「負けたら同じだ……!! 負けを認めたら結局お前らはおれの大事なものを壊しちまう!!! だからおれは諦めねェ!!! お前たちがおれの仲間を傷つけるってんなら──カイドウだろうがぬえだろうが……おれはブッ飛ばしてやる!!!」

 

「!!」

 

 そして返ってきた言葉は……どこまでも無鉄砲な大言壮語だった。

 きっとジョーカーだけでなく誰もがそう思うだろう。たった1人が、多少力があろうが百獣海賊団の総戦力と比べればちっぽけな海賊が、この世で最も強いカイドウとぬえを敵に回し、なおかつブッ飛ばすとのたまっている。

 きっと聞けば誰もが笑い飛ばす。それなのに笑えないのは──“麦わらのルフィ”の意志がどこまでも本気であるからだ。

 本気でカイドウとぬえすらもブッ飛ばしてみせるなどと言うから笑えない。正気を疑う。イカれてると思う。理解できない。

 無知であるならともかく、少なくともあの頂上戦争で。そしてここまでの戦いでどれくらい強大な力の持ち主であるかは正確でなくとも理解している筈だ。どう考えても足りない。足りない。勝てない。互いの情報を並べて比較する。どう分析しても勝ち目は0だと判断する。だからジョーカーはありえないと切り捨てた。

 

「本当に……本当におバカさんね……!! 力の差は歴然よ。それなのにあの人たちをブッ飛ばすなんて馬鹿げてるわ……!!! そもそも貴方はここで死ぬ。あの人たちの元には辿り着けない……!!!」

 

「だからお前の計算なんておれは知らねェ!! お前をブッ飛ばして……まずはこの戦いを終わらせてやる……!!」

 

「救いようもない馬鹿ね……!! ここまであなたの攻撃は殆ど私に見切られている。覇気が成長しようと結局私には勝てない。たとえあなたの最大の形態である“ギア4”を使ってもね……!!」

 

 ルフィの言葉に鼻白み、現実を教えてやるもそれを聞かないルフィに怒りを通り越して呆れる。そして不敵な笑みを浮かべるジョーカー。彼女の頭にはルフィのこれまでの情報が全てインプットされている。どんな技を使おうと対応できる。確かに覇気は向上したがそれでも戦力は圧倒的にこちらが上回っているとそう分析した。だから──

 

「次に使うのは“バウンドマン”じゃねェ……!!」

 

「!? 何を……」

 

「お前も何でも知ってるわけじゃねェし、知ってても関係ねェ……!! これで倒してやる……!!!」

 

 ──そう教えられた時、ジョーカーは素直に驚愕する。

 ジョーカーの頭に入っている“ギア4”の情報は“バウンドマン”とクイーンのウイルスで発現したイレギュラーな“オーガマン”のみ。

 だからこそ“ギア4”はバウンドマンと呼ばれるそれと結びつくものだと思っていた。今この時までは。ルフィは自らの腕を武装色で硬化しながら変身する。

 

「“ギア4”……“スネイクマン”……!!!」

 

「──その、姿は……」

 

 ジョーカーは変身したルフィの姿を見た。確かにバウンドマンとは違っていた。バウンドマンよりも小柄で小さい。だが手足が硬化しているのは同じで、なおかつ髪は逆立ち羽衣にも似た空気を纏っている。

 

「ゼェ……ゼェ……ここからは……躱させねェ……!!」

 

「! (何をしてくるか分からないけど……!! 基本は腕を伸ばしての攻撃……!! その軌道を見極めれば問題はないわ……!!)」

 

 ジョーカーは空中へ飛び上がり、ルフィの新形態。未知の技をまずは分析するべく距離を取って躱そうとする。バカ正直に受ける必要はない。ただ腕が伸びてくるだけならどんな威力だろうが対処できるとジョーカーはそう自信を持って──

 

「“ゴムゴムの”……!!」

 

(よし……やっぱり避けられそうね……!!)

 

「“JET大蛇砲(ジェットカルヴァリン)”!!!」

 

「!!!」

 

 ──ジョーカーはルフィに殴られる。

 

 躱したと思った筈のルフィの拳が、どういうわけか横からやってきた。

 それに意味が分からずジョーカーはルフィの武装色を纏った拳を受けてしまう。続けてまた左からも。

 

「!!?」

 

「どう逃げようが無駄だ!! 伸びても加速する!!!」

 

「……!! これは……!!」

 

 ジョーカーはルフィの拳を受け続けながらそれを必死に理解しようと努めた。そして、こちらに攻撃が当たる理由をすぐに理解はするも……。

 

(わかっているのに……避けきれない……!!?)

 

 だがそれでもなお“スネイクマン”の攻撃の軌道は読みにくく──そして何よりも速かった。ジョーカーの速さを以ってしてなお躱しきれないほどに。

 

「これが最後だ!!! もう倒れるまで攻撃はやめねェ!! 覚悟しろジョーカー!!!」

 

「……!!」

 

 そうしてルフィの啖呵と共に再び攻防は始まり、ルフィとジョーカーは互いに全力の形態で激突した。

 

 

 

 

 

 ──空の上を雲を掴んでいくその龍は、一度大地へと降り立った。

 

 世界を分断する“赤い土の大陸”。今は海賊帝国が支配するその土地の上で、その頂点に君臨する最強生物──“百獣のカイドウ”は懐から電伝虫を取り出す。

 

「──どうした? ぬえ」

 

『ああ、カイドウ。もう終わってる?』

 

「こっちは問題ねェ。新政府の参謀とアラバスタの王女も捕らえてきた……お前の方はどうなってやがる?」

 

『そのことで連絡したんだよね。今さ、目の前に“五老星”の1人がいて──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私達と話がしたいってさ

 

「……何だと?」

 

 そして兄妹の声を聞いてカイドウは驚く。そのことを世界を塗り替えたカイドウやぬえが知らない筈がない。

 2年前の頂上戦争で見つからず、討ち損じた存在。

 それが“神の騎士団”。“五老星”。そして──

 

『──()()()()()……カイドウとぬえだな……?』

 

「!!?」

 

 ──イム。

 

 ぬえの電伝虫越しに、ナス寿郎聖が掌に乗せた電伝虫越しに。カイドウとぬえは2年越しに自分達が殺そうと目論む世界の頂点だった者と邂逅を果たした。

 




神の大地→まだまだ海賊帝国優勢。
フランキー→セニョール・ピンクを原作通り激戦の末に撃破。しかし敵が多すぎて戦闘継続。
ポープ・ジュリアス→元飛び六胞のオカマ。名前はやはりトランプゲームのポープ・ジョーンの別名。10年程前にうるティと入れ替わった。リュウリュウの実(古代種)モデル:アンキロサウルスの能力者。過去に事件を起こしてカマバッカ王国を追い出され百獣海賊団に入った。趣味は宝石の精錬で鉱業担当だった。原作海軍中将のように本作の百獣はこういう強いモブもいっぱいいますって感じで登場。
ハンコック&ロー→あくまで傘下なので内情にそこまで詳しくないハンコックと飛び六胞だったので内情に詳しいローの違い。ローは海賊帝国の戦力を他の協力者からの情報交換もあって殆どは把握してます。
超人シスターズ→全部で47人でほぼ全員が能力者と判明する。ちなみにスカートはその中でも特に強い娘の1人。
ジャックやルッチ達→ワプワプの実で対戦相手変更。覚醒してるのでルッチやカクは復活しました。
フーズ・フー→覚醒済み。更にパワーとスピードが増した。判断ミスは御愛嬌。
たしぎ→シンプル可哀想。ちなみにフーズ・フーには本当に色んなものを踏みにじられました。
ダイス→覇気を成長させたゾロに斬られる。
ゾロ→武装色がレベルアップ。フーズ・フーとの決戦に。
ジョーカー→現実主義者。大看板になった特権はちゃんと今も活きてる。
ルフィ→スネイクマン発動。体力的にはいつものことだけど満身創痍。
マゼラン→1番重傷。全身を千切られてる。生死不明。
イッショウ→左腕切断。身体を刺されてその上で地面が揺れるほどのぬえの力で何度も島に叩きつけられて捨てられる。まだ一応死んではいない。
クザン→ぬえに真正面から挑んで吹き飛ばされる。ダウンしてるけど意識あり。
愛神の化身→特殊能力特化の形態。周囲のものを化かし、認識を誤認させる力が強まる。
愛の息吹→正体不明の種を大量に飛ばして変化させる。相手にも作用するが制限あり。
愛の終修羅→小さい分身のぬえが一斉に相手を串刺しにする。ちなみにぬえのシングルに同じ曲名がある。
四尾対応→塩対応。尻尾を蛇に変化させてその口からレーザーを放つ。
梵我一如終修羅→ぬえの技の中では最強クラスの一撃。覇王色を纏って全力で槍を突き刺す。
ナス寿老聖→辻斬り防がれる。五老星とぬえのあれこれは次回。
カイドウさん→新政府軍本拠地からワノ国に帰還中。
ぬえちゃん→最強で最恐。クザンと大将2人を一蹴して次はVS五老星戦。大暴れでかわいい。
イム様→カープ女子……ではない。ネロナ・イム聖なので多分男。でも結局正体不明。カイドウさんとぬえちゃんの初会話。

今回はこんなところで。なんだかんだバトル書くの楽しい。特にぬえちゃんとゾロ。本当にもう少しでドレスローザ&グラン・テゾーロ編も終わりです。あと2話くらいかな。
次回はぬえちゃんが大暴れ。他のVS麦わらの一味も終わらせたい。原作で活躍中の神の騎士団についても言及します。グロいです。世界の頂点同士のやり取りもあります。そんな感じなので次回もお楽しみにね。

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