正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
敵対の決定的な瞬間。その直後のロックス海賊団は騒然としていた。
「──あ、あいつらやりやがった!?」
「やっぱりロジャーの奴、イカれてやがる!! お頭に喧嘩を売るなんざ正気じゃねェ!!」
「“白ひげ”も吹き飛ばされたぞ!! 死んだか!?」
「バカ言え!! 吹き飛んだくらいで死ぬならおれがとっくに殺してらァ!! いいから急ぐぞ!!」
ロックスの命令を受け、逃げるロジャー海賊団の追撃へと動き出した海賊達。彼らの雰囲気は船長の命令によって一瞬で戦闘を行うそれに切り替わったが、僅かにいつもと違う。
それはやはり、船長を殴った。あのロックスを吹き飛ばしたという視覚的ショックによるものだ。これまで、ロックス海賊団が戦ってきた敵──海軍、海賊、政府の刺客……誰が相手でも無傷で、余裕の勝利を見せたロックスが、不意を突かれたとはいえ吹き飛んだのだ。
ロックス自身がそれほどダメージを負った風に見えずとも、それを行ったロジャーに対する評価は今までの敵とは少し違う。いつもなら彼ら自身も余裕を見せた戦い振りで相手を惨殺するような好戦的な雰囲気を纏わせるのだが、今回、それが出来ているのは一部の船員のみで、多くの船員達は僅かな緊張感を持って戦闘に臨んでいた。
だからだろう。ほんの僅かに動きが鈍い。いつもと違い、判断が少し遅れた。有り体に言って──動揺している。
その隙を突いて、ロジャー海賊団は真っ直ぐに島から出ようとしていた。ロックス海賊団には、指揮を行う者が少ない。おおよそ、全ての者が個人プレイで戦闘を行うのがロックス海賊団の戦闘だ。問題はあるが、それでも勝てる者がいないのがロックス海賊団が最強と呼ばれるに足る所以。
だが中には、自由だからこそ指揮を行う者もいる。それは、今しがたロジャーに吹き飛ばされて立ち上がった“白ひげ”で、
「くっ……おい!! 半数はあっちだ! 船を出して先回りしろ!!」
「っ……! 言われなくてもわかってんだよ! 命令すんじゃねェ!!」
「おい野郎共! 喧嘩してる場合じゃねェ、船を出すぞ!! 万が一逃したら船長になんて言われるか……!!」
「お、おお!!」
白ひげの言葉が切っ掛けで、全員がロジャー達を馬鹿正直に追いかけようとしていたロックス海賊団の船員達が、ロジャー達とは反対側──自分たちの船がある方向に走り、船を出して先回りしようとする。
だがその指示を出した白ひげの方は、険しい表情をしながら敵の方を見た。
「この状況で、おれと船長を吹き飛ばして開戦……噂に聞いてた以上にバカヤロウだな……」
油断していたとはいえ、まさか突破されるとは思いもしなかった。それを為した敵──“ゴールド・ロジャー”と呼ばれる海賊に、白ひげは悪態をつく。
だが、その言葉とは裏腹に……白ひげは何故か胸がすくような気持ちを覚えてしまっていた。
自身は吹き飛ばされて木に直撃した直後だったが──あの、誰もが勝てる筈がないと諦めた怪物……ロックス。自分たちの頭に啖呵を切り、一撃を与えた瞬間、その気持ちが浮かんできた。
──だが同時に、こんな絶望的な状況でそれを行った相手への憤りと、そんな筋の通らない気持ちを浮かばせる自分自身に怒りが覚え、白ひげは拳に力を込める。
「こんなことをしでかして……ここから逃げ切れるつもりでいるってェのか……!! あいつは……!?」
そんなこと、出来る筈がない。──仮に自分なら? 難しいだろう。誰でも難しい筈だ。不可能に近い。
「……っ!! ──ふん!!!」
白ひげは薙刀を一度地面に刺し、宙を両手で掴んで、まるでその掴んだ部分を引き倒すように思い切り引っ張った。それで起きるのは、グラグラの実の災害の如き力。大地を、島を揺らすことだ。
「っ!? これは!!?」
「地面が傾いて……!! こりゃ白ひげだ!!」
「クソッ!! あの野郎!! こっちも立ってられねェじゃねェか!!?」
突如として大地が真っ直ぐではなく傾斜に動く。まるで池に浮かべた小舟を激しく揺らすかの如く、島そのものがグラグラと揺れていた。
それを行いながら、白ひげは告げる。再び薙刀を手に取り、ロジャー達に向かって告げるように、
「逃げれるもんなら逃げてみやがれ……!!! おれ達は……そう簡単に逃げられるほど、半端じゃねェぞ……!!!」
複雑な怒りを込めて、白ひげはそう叫んだ。やれるものならやってみろ、と。おれはお前に負けやしない──白ひげにとって、初めてとも言える感情の芽生えは、今はまだ、白ひげ自身にも分からないものであった。
「おわっ!!? 地面が傾いて──!!?」
「っ……!! これは……“白ひげ”の力か……!!」
「とんでもねェな!! だが気にしてる場合じゃねェ!! いいから走れ!! モタモタしてると追っつかれるぞ!!」
「お、おお!!」
ジャングルの如く生い茂る木々の間を、駆け抜けるようにロジャー海賊団は真っ直ぐ自分たちの船に向かって走る。
彼らの実力は新世界の海賊達の中でも上位。ロックス海賊団のクルー相手でもやり合うことの出来る実力を持っていたが、それでも多勢に無勢だ。ロジャー海賊団が総勢、数十名に対して、ロックス海賊団は本船だけで1000名近くの船員を抱えている。それに加えて、傘下の海賊すら存在するのだ。レイリーやギャバン。一部の実力者であれば多数の敵を薙ぎ倒し、幹部級の敵の相手も出来るだろうが、中にはそれが厳しい者だっている。
そして何より──自分たちが逃げなければ、船長が逃げることが出来ない。
古参とも言える船員達はそれが分かっているが故に、出来るだけ多くの敵を薙ぎ倒しながら、真っ直ぐに船に向かう。そして苦渋とも言える表情を浮かべた。最後尾で足を止めたロジャーを見たのだ。
「──お前ら行け!! しばらく、おれが敵を食い止める!!」
「っ!? そんな──船長!!!」
「っ……いいからお前達は走れ!! ロジャーにはおれ達も援護する!!」
一部の船員が追いかけてくる敵を前に立ち塞がるのを目の当たりにして声をあげる。
そしてその船長の判断をギャバンが後押しするように告げた。せめて、逃げ道は作ってやると敵を薙ぎ倒していく。
だがそんな彼らを上から見下ろし、悪辣な笑みを浮かべる者もいた。
「ジハハハハ!! 逃げられると思うか!? バカな奴等だ!!」
「逃がしゃしないよォ!! ハーハハハマママママ!!」
「! あいつらは……!!」
ロジャー海賊団を追撃するのは何も地上からではない。“金獅子”のシキ。“ビッグ・マム”ことシャーロット・リンリン。2人とも、悪魔の実の力によって空を飛べる能力者だ。彼らは空からロジャーを飛び越えて、逃げる者達に追撃を行おうとする。武器を構えて、
「──“獅子・千切谷”!!!」
「──“威国”!!!」
両者共に行ったのは、斬撃を飛ばす技。乱れ撃たれる斬撃の嵐と、軍艦に風穴を空けてしまうほどの巨大な斬撃がロジャー海賊団を襲おうとする。
だがそれを、寸前で止めた者がいた。それはやはり、
「──てめェらの相手は……!!!」
「あァ!?」
「何!?」
覇気を込めたカトラス──黒刀となったそれで斬撃を弾き、宙に向かって跳躍した男……ロジャーの行動にシキとリンリンは目を疑う。並の海賊では束になっても敵わない。立ち向かうことすら躊躇する相手に向かって、ロジャーは全く恐れることはなく、剣を振るい、
「──このおれだァ!!!!」
「ぐっ!!?」
「ッ!!?」
2人を連続で、地上に向かって叩き落とした。
それは仲間を守るための行動。シキとリンリンにとっては予想外のパワーだったが、ロジャー海賊団の面々──それと、彼しか見てないとある男にとっては、想定内の行動だった。
「くっ……あの野郎……!! なんて力だ……!!」
「っ……!! マママママ……!! いい度胸だ!! 褒美として魂を奪ってやる……!! おまえの魂を奪い、屈強なホーミーズにしてやるよ!! ハ~ハハハマママママ!!!」
だからこそ、そうやって頭に血が上った2人に対しても、声を上げた。強大な覇気の籠もった声で、
「──シキ!! リンリン!! てめェらは逃げた奴等を追いな!!!」
「!! お頭……!!」
「っ……!! チッ……船長……!!」
その声は──ロックスのものだった。既に剣を抜き、肩に抱え、臨戦態勢になって迫るその男の声には、さすがのシキとリンリンも逆らうことが出来ない。──邪魔をすれば、殺されるのは自分たちの方だと分かっていた。
そして、ロジャー海賊団の面々も、ロックスに追いつかれれば殺されるのは同じ。彼を相手に出来る者は存在しないのだ──船長を除いて。
「……!! 止まれ、ロックス!!!」
「ギハハハハ!! ロジャー!!! 止めれるもんなら止めてみなァ!!!」
今度のロックスは先程と違い、油断はしていない。その剣は既に黒刀となっており、相当の武装色の覇気が込められ、全身から覇王色の覇気を立ち昇らせ、ロジャーに向かってそれを振るう。
そしてロジャーも、同じく、強大な覇気を込めてそれを受け止めた。お互いの刃が、接触する──その直前、刃が宙で止まり、
「!!!」
世界を統べる王の器。100万人に1人の素質と呼ばれる覇王色同士の激突。
強すぎる武装色は刃の外にまで到達し、刃が触れていないのに覇気同士の衝突を起こし、幾重にも重なった雷のような轟音と嵐を凝縮させたかのような衝撃波を周囲に発生させる。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「ギハハハハ!!!」
──だが、その拮抗しているように見えるそのぶつかり合いは、やはり……ロックスに分があった。
ロジャーの全力の一撃に対し、ロックスは未だ笑みさえ浮かばせる余裕さでロジャーを押し返す。やがてロジャーが後方に飛ばされ、息を乱しながら地面に着地すれば、一歩も引いておらず、息も体勢も乱れていないロックスとの差が浮き彫りになっているようで、
「どうしたロジャー!!! おめェの力はそんなもんか!? だとしたら……期待外れも良いところだ!!!」
「ッ……!! うるせェよ、ロックス!!! おれァ負けねェ!!! ここでお前を倒す!!!」
「ギハハハハハハ!! おれとの実力差を感じ取ってなお言い切るとはなァ!! 威勢だけは大したもんだ!!! だがわかってるよなァ……それだけじゃこの海は渡ってはいけねェ……!! おめェにおれは
「やってみなきゃ分からねェ!!! だから海に出んだよ!!! 最初から勝敗がわかってる喧嘩なんざつまらねェ!!! てめェもそうじゃねェのか!! ロックス!!! 海賊が……まだ勝ってもいねェのに勝ち誇ってんじゃねェぞ!!!」
「! ──ギハハハハ……!! クソ生意気な……このおれに“海賊”を語るか……!! だがそう言うなら教えてみるんだなァ!! このおれが未だ知らねェ……敗北って奴をよォ!!!」
お互いの強い意志、気迫、信念のぶつかり合い。“自由”を掲げる海賊──ゴール・D・ロジャーと、“支配”を掲げる海賊──ロックス・D・ジーベックの戦いは……今ここに、最初の幕を開けた。
覇王色の覇気の衝突は、島全体にまで及び、想像以上の嵐を生んでいた。
そして当然、それは空を飛ぶ私とカイドウにまで及び、
「っ……!! あはは!! 見て、カイドウ!! 島が揺れてる!! とんでもない戦いだよ、これ!!」
「ウォロロロ!!! ああ、凄ェ!! 震えが止まらねェぜ!! こんな最高の戦争に参加出来るなんてなァ!!」
動物系の獣状態、龍となったカイドウと共に島を、地上を見渡し、思わず大笑いしてしまう。白ひげの能力で島が揺れているが、その状態にも関わらず、ロックス船長とロジャーの一騎打ちはそれを凌駕する破壊と衝撃をもたらしている。
まるでこの世の地獄だ。天変地異。島は揺れ、木々は吹き飛び、波は荒れはじめ、突風が吹き、稲光が走り、大地が燃える。常識では考えられない現象が多数起きるほどの本気の戦いは、ロックス海賊団という圧倒的な戦力を持つ自分たちならではでありながら、だからこそ、中々これだけの戦いは見られないものだった。カイドウの言う通り、武者震いが止まらない。可笑しくて堪らない。ふざけた力だ。こんな力を、普通の人間が振るい、ぶつかり合ってる現実はどんな物語や空想よりも面白い。
「あはははは……!! あっ、いたよカイドウ!! あれがロジャー海賊団!!」
「おお……!! なら行くぞ、ぬえ!! 奴等をぶっ殺す!!!」
「イェ~イ!! ぶっ殺~す!!」
もう我慢出来ない──そんな様子でカイドウが高度を下げてロジャー海賊団に向かっていく。
私も同じで、カイドウの声に腕を上げて意気揚々とロジャー海賊団に突撃していく。この数ヶ月、一緒にいて見知った顔ばかりだ。その強さも知っている。私やカイドウではこの戦いで満足に戦い抜けるだけの力は未だないだろう。
でも、だからこそ、面白いと挑みかかってしまう。私は特にだ。彼らの強さを知ってるからこそ、戦えばどれだけ楽しめるかが分かってしまう。
だからやがて船へと到達しようとするロジャー海賊団に、私とカイドウは挑みかかった。まるで特攻隊だが、今の私とカイドウにはそれくらいの役回りが丁度いい。機動力はあるし、誰よりも先に敵に挑みかかっておいしいところを持っていく役。敵が未だ消耗してないからこそ、その楽しみを存分に味わえるのだと、
「“レッド”、“ブルー”、“グリーン”!! そして~~~“虹色”!!」
私は作り出せるようになった4つの色のUFOを生み出し、それらと共にロジャー海賊団に上空から奇襲をかける。カイドウも一緒だ。龍形態となったカイドウは炎や雷、氷などを発生させて攻撃出来る。それらでまずは敵を遠距離から攻撃するのだ。
「──追いついたよ!!」
「──ウォロロロ!!! 逃さねェぞ!!」
「!! ぬえ!! それに──そっちがカイドウか!!?」
「! これは……ドラゴン……!!?」
追いついたロジャー海賊団に向かって声をかけ、同時に攻撃を仕掛ける。ギャバンやレイリーも含めて、彼らが私達に気づいたが、その多くは見知った私の力より、龍に変身したカイドウの方に驚いているようだ。
だがまあそれもそうだろう。動物系の中でも龍ってだけで珍しいのに、その大きさは数十メートルと言ったところで、動物系の獣形態の中でもかなり巨大だ。
しかもこれでも、カイドウの成長に合わせて大きくなってきているのだから凄い。今はまだ小さい方なのだ。これから成長するに連れて、きっと立派な化け物になるのだろう。私も頑張らないとね。
その為にも、今は頑張って戦わないといけない。相手はロジャー海賊団。相手にとって不足なしだ。
「驚いた!? カイドウは龍よ!! そして私は正体不明!! という訳で皆! まずは私達が相手よ!!」
「ウォロロロ!! おれの兄妹分が世話になったみてェだな!! その分、思いっきりやってやるぜ!!!」
「! 悪いが今は見習いのお前達の相手をしてる暇はないんだよ! ぬえ!!」
「そうだな。怪我をしないうちに引いてくれると助かるが……どうやらそういう気もないようだな?」
ギャバンとレイリーが走りながら私達に向かって告げる。相手をしてる暇がない。引いてくれると助かる。それはそうだろうが、レイリーの確信を持った問いが示すように、私達は止まる気はない。
「嫌でも相手になってもらうよ!! 行け!! 私のUFO!!」
「ウォロロロ!! くたばりやがれ!!!」
カイドウの攻撃と合わせて、私は4種のUFOで攻撃を行う。赤が炎弾。青がレーザー。緑が特殊弾で、虹色はそれら全てを発射し、目標を設定すれば自動で移動し攻撃する。
だがそれだけではなく、私自身も肉薄して攻撃する。遠距離攻撃は楽で、それはそれで楽しいけど、今はやっぱ近接戦だろう。弾幕に合わせて攻撃した方が強いしね!
──だが、
「!!」
「おらよっ!!」
「グ、オオ……!!?」
「うぐ……っ!!?」
空から襲おうとした私とカイドウは、レイリーとギャバンによって呆気なく撃墜される。レイリーの剣でカイドウが叩き落され、私もギャバンの斧を受けて苦悶の表情で地面に這い蹲った。……やはりまだ敵わない。その強さはしっているため、そう簡単に勝てるとは思っていないが、やはりこうなった。特にカイドウは大きいだけに、的がデカくて格上には不利だったりする。
しかし、だ。人型に戻ったカイドウと共に、私は立ち上がる。
「っ……まだだ……まだ終わってねェぞ……!!」
「ふーっ……ハァ……手加減した一撃くらいじゃ、私とカイドウは倒れないわよ……!!」
「……! ぬえのタフさは分かっていたつもりだが……立ち上がるか……」
「さすがにそっちのカイドウも含めてタフだな……!! だが相手にしてる暇はねェっつったろ!! じゃあな、お前ら!!」
「くっ……待ちなさい……!!」
「逃さねェ……!!」
私とカイドウは満身創痍になりながらも逃げようとするロジャー海賊団を追いかけようとする。レイリーとギャバンにはそう言って別れを告げられたが、冗談じゃない。まだ全然戦えてない。
三叉槍を持って構える。気がつけばUFOもロジャー海賊団の面々に撃ち落とされていた。やはり耐久力がまだ足りない。ましてや覇気使い相手じゃすぐに破壊される。
カイドウも金棒を持って、一緒に突撃するが、そう何度も耐えられないだろう。相手は、おそらくこちらの幹部と同格のレイリー。私もギャバンに向かって行く。見聞色と武装色を使って相手の攻撃を見切って一撃を与えるつもりで──
「!!!」
「ぁ……!!!」
──それが通用することはなく、私は相手の一撃を喰らって……いとも容易く、意識を失ってしまった。
「……なんとか、船にまでは辿り着けそうだな……!」
「ああ……!! まったく、あの2人、マジで無駄にタフで困るぜ……最後、半分マジで殴っちまった」
「峰打ちにはしたがまだ立ち上がってきそうな雰囲気ではあったな……ともあれ、あれでしばらくは動けまい。それよりも、これからのことを考えないとな……!」
逃げるロジャー海賊団の最後尾を務めるレイリーとギャバンは、見えてきた船を見て僅かに息を入れる。未だ、追手は止まないが、ロジャーが残って敵を食い止めてくれたおかげか、何とか船を出すことは出来そうだ。
もっとも、船を出したところで逃げ切れると決まった訳でもない。相手も船を出すだろう。数でも負けてる上に、向こうに能力者がいる分、海戦はこちらの不利だ。
それに、だ。何よりも、どこかでロジャーを回収しなければならない。
無論、ロジャーがロックスに勝って自力で戻ってくるのが1番良いが、あのロックスを相手にそれが出来るのかと、ロジャーに絶大な信頼を寄せている2人であっても、確信は持てず、むしろ最悪の想像をしてしまっていた。
だからこそ、副船長の肩書を持つレイリーはこう告げる。古参のギャバンに向かって、
「──ギャバン。仲間を連れて先に船を出せ」
「!! ──レイリー!! お前まで残る気か!?」
「ああ。こうするしかない……! 少し様子を見て、ロジャーを回収してくる……!!」
レイリーは立ち止まり、ギャバンにそう言付ける。当然、ギャバンはそのことに異を唱えようとして──しかし、そんな余裕がなかった。森から敵の攻撃が飛んできたのだ。
「逃さねェよォ~~~!! ハ~ハハハマママママ!!!」
「チッ……あの野郎をブチのめしたかったがしょうがねェ。仲間の方で我慢するとするか……!!」
それは先程、ロジャーが叩き落とした“ビッグ・マム”に“金獅子”。ロックス海賊団の幹部級が空を飛んで追いついてきたのだ。
彼らに対し、対処を迫られた2人は呑気に相談している余裕がない。レイリーがシキに対し、鋭い斬撃を飛ばし、同時にリンリンに対して割って入ると、叫ぶように告げた。
「早く行け!! 長くは留められんぞ!!」
「っ……!! くそっ!! ああ、わかったよ!!」
一瞬、歯噛みをしたギャバンだが、実際、空を飛べる2人をこの場所に留め続けることは難しい。直ぐに船の方にも追いついてくると分かったため、悪態をつきながらも即座に船の方に走る。
対するレイリーの方は、リンリンと鍔迫り合いを行い、
「ん~~~? お前、レイリーだねェ!? ハハハ、ママママ……そこをどきなァ!! じゃなきゃ殺すよォ!!!」
「悪いがそれは出来ないな……!! しばし付き合ってもらうぞ……!!」
「あァ!? ふざけんじゃないよォ!!! おれを止められるつもりかい!?」
「現に止まっている……!! 悪いが聞いていた程の力はないな、お嬢さん……!!」
「ッ……!! そうかい……だったら試してみなァ!!!」
レイリーの挑発により、その場で怒れるリンリンとレイリーの戦いが始まる。それを見下ろしてシキは眉間に皺を寄せた。
「おいリンリンてめェ!! 安い挑発に乗ってんじゃねェよ!! 今はあいつらを追っかけるのが先だろうが!!」
「おれに指図すんじゃないよ金獅子ィ!!! 次に命令したらお前から殺すからねェ!!!」
「ぐっ……クソが……ああ、そうかよ!! まあお前の力なんていらねェさ!! 残った雑魚を潰すくらい、おれ1人で充分だ……!!」
そう言って、シキはフワフワの実の力を発動し、近くにあった巨大な岩石をそのまま浮かせると、それをロジャー海賊団の船の方に向かって、
「
「!!?」
それを巨大な獅子の形に変えて、ぶつけようとした。その力と狙いを見て、ロジャー海賊団の者達は、マズい、と瞠目する。
「ジハハハハ!! 船さえ潰せば逃走もクソもねェだろ!!」
「チッ……確かにそうだが……あんまりおれ達を舐めんなよ!!!」
「!!」
だがその直前、跳躍したギャバンがその巨大な石の獅子を両手の斧で4つに切断する。
能力の制御が外れた石が地に落ち、ギャバン自身も着地して船の上で立ち塞がると、それを見てシキが驚きから一転、笑みを浮かべた。
「ジハハハハ!! スコッパー・ギャバン……!! やるじゃねェか!! 面白ェ!! どうだ? おれの部下にならねェか!?」
「断る!! 悪いがおれが船長として担ぐのはあの放っとけねェバカ1人って決めてんだよ!! おととい来やがれ、金獅子!!」
「ジハハ、残念だ!! それなら船長に倣って……殺すしかねェなァ!!!」
そうして今度は金獅子が船を出すロジャー海賊団を追撃し始める。ギャバンを含む何人かの船員は空からの攻撃に対応出来るように武器を構えて上を睨み続けた。
──だがそんな時だ。船員の1人が、沖の方を見て、
「──おい、やべェぞ……!!」
「! どうした!?」
船員がそれを見て、驚愕の声を上げる。そしてその声は、上空にいるシキにも届き、そして他の船員達よりも上空にいる彼だからこそ、先にそれを視認して気づいた。
「ッ!!? ありゃあ──海軍じゃねェか!!?」
「……!! しめた……!! おい、船を出せ!! どうにか囮にして逃げるぞ!!」
ギャバンが同じく沖に浮かぶ海軍の旗を掲げる軍艦を見て船員に向かって告げる。
彼らにとって、海軍の出現は、敵でもあるが、場を引っ掻き回すための絶好の助けともなり得た。
“新世界”。とある島の海域で、その一団を発見した海兵は上官に報告の声を飛ばした。
「──ガープ中将!! いました!! やはりロジャーとロックスです!! どうやら既に接触し、交戦が始まっている模様!!」
「チッ、少し遅かったか……!! お前達、戦闘準備だ!! 奴等を牽制し、上手いこと数を減らしてとっ捕まえるぞ!!」
「はっ!!」
一糸乱れぬ動きで、上官の命令に従って船を動かし、戦闘準備を整える海兵達。そんな彼らを従えるのは海軍本部中将──“ゲンコツ”のガープこと、モンキー・D・ガープだった。
彼は腕を回し、島に見えるロックスとロジャーの船を覚悟を決めた瞳で見据える。
「待ってろよ、ロジャー……!! 特にロックス……!! お前らをとっ捕まえるために、また山を幾つか殴り潰してきたんだからな……!! その成果、存分に見せつけてやる……!!」
その報告は、数分後に島の中心にまで届いた。
「お頭!! 海軍の艦隊だ!! しかもガープが乗ってる!!!」
「! ギハハ……そうか。なんとも今日は客人が多いじゃねェか。まるでお祭り気分だぜ……!!」
「っ……ど、どうするんで!?」
「慌てるんじゃねェよ。ギハハ……まァ、相手してやってもいいが……無駄に兵を消耗することもねェだろ。逃げるとするか」
「わかりやした!! ではそのように!!」
と、そうしてさっさと半ば更地となりかけた島の中心部からいそいそと去っていく部下を見送り、ロックスは告げた。その僅かに汚れた服や、返り血を拭い、
「──という訳だが……おめェはどうするよ? ええ、ロジャー……?」
そうして声を掛ける先にいるのは、紛れもないゴール・D・ロジャー。その人だ。
しかし何故か返事はない。そんな彼の姿を見て、ロックスは剣を鞘に納めながら口の端を歪める。自分が為した惨状を見て、
「──まァ……
「…………」
──そう、そこにいたのは……白目を剥いて気を失い、全身から大量の血を流して仰向けに倒れている……ロジャーだった。
戦闘終了。次回はこの続きからですが、戦闘はほぼ終わりかな? 多分。次回からはまたロックス海賊団の色々をやりつつ、残り2年の期間、ゴッドバレーまでを書いていく感じです。地味にイベントが残ってるのよね。見習いの期間ももうちょっとです。
という訳で次回をお楽しみに。明日は、ひょっとしたら投稿休むかも。出来たらするけど、出来ない可能性が高いので先に言っておくスタイル。
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