正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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修行と日常

 指針と行き先を決めたところで、航海が上手くいくとは限らない。

 むしろ殆どの航海にはイレギュラーが付き物である。急な嵐に見舞われたり、敵船や海軍の船を見つけたり、時には大型の海王類に襲われたりすることだってある。“偉大なる航路(グランドライン)”でなくともそれらの事態は起こりうるのだ。行き先やその海の難度を考えれば、計画を立てるだけで留まらず、ありとあらゆる事態に対処出来るように想定し、その時に備え、そのための能力を鍛えたり、人や物を揃えることが重要であろう。

 その中で、知識であれば割と順調だと言えるかもしれない。一応、航海の為に必要な航海術や簡単な医術、料理なども実は結構こなすことが出来る。

 それも空いた時間にそれらの本を読み耽っているからだろう。正直、見習いの仕事は慣れてしまえばそれなりに楽というか、暇は沢山出来るので、特訓や酒盛りの時間などを除けば暇であり、本を読む時間など幾らでもある。

 しかし、長い航海だからといってあんまり悠長にしている時間もないのかもしれない。この海のレベルは高い。自らを研鑽する時間は幾らあっても足りないものだ。だからこそ、効率の良いやり方があればいいな、と常々思っているのだが、

 

「う~~~ん……強くなるための良い方法、何かないかな~~~……どう思う?」

 

「痛たたたたた!! か、関節技掛けながら聞くな!! 知らねェよ!!」

 

「またカタクリお兄ちゃんがいじめられてる……」

 

 ──とまあ、私は暇だったのもあってシャーロット家の子供達、特にカタクリと遊んであげながらそのことを考えていた。ちなみに、近くで何とも言えない表情でそれを見ているのはシャーロット家8女のブリュレちゃんだ。9女のブロワイエちゃんとは双子の姉妹。何でもいいけど、リンリンの子供達は数が多くて中々憶えるのが大変である。双子とか三つ子も多いし。ちょっとどれだけ憶えてるかざっと復習するけど──えー、長男ペロスペロー、長女コンポート、次男カタクリ、3男ダイフク、4男オーブン、次女モンデ、3女アマンド、4女アッシュ、5女エフィレ、5男オペラ、6男カウンター、7男カデンツァ、8男カバレッタ、9男ガラ、10男クラッカー、6女カスタード、7女エンゼル……えーっと……あっ、11男ズコット、8女ブリュレ、9女ブロワイエ、12男が……えっと、ヌストルテ、13男バスカルテ、14男ドスマルシェ、15男ノアゼット、16男モスカート、10女マッシュ、11女コンスターチ!! よし、何とか憶えてた。最初の方はさすがに分かりやすいし覚えやすいんだけど、後半はかなり怪しくなる時がある。申し訳ないんだけど、ヌストルテ達三つ子はいつも誰が上なのか下なのかを度々忘れそうになるから困る。名前も似てるしね。

 まあという訳でリンリンの子供達は全部で27人。既に多すぎる。そりゃ“ビッグ・マム”なんて異名を付けられるよね。未だに妊娠しながら戦ってるし……ただ母親としてはアレだけど。まあたまに母親らしいところを見せたりはするんだけど、だからといって家事とか子供の面倒を見たりってことをしないので、母親としては微妙なところだ。子供の面倒は大体、その時だけの夫とか、上の兄や姉、後はシュトロイゼンなどが見ていたりする。一応私もなんとなく。こういう環境で育ってるからか、意外としっかりしてる子が多いのよね、歳の割に。上の姉妹達は今もちゃんと子供達の面倒見てくれるし。なので27人いるとはいっても、今私が相手にしているのは少ない。今は上の男兄弟達が多いかな。カタクリなんかはいつも自ら挑みかかってくるので相手してあげている。こうやってチョークスリーパーとかかけながら、

 

「海賊としてやっていくなら、やっぱ優秀な部下がいるよね。ということでどう? 私の子分になる?」

 

「ならねェよ!! アホか!!」

 

「じゃあ敵ってことね。敵は倒さないと」

 

「くっ……! このっ……!!」

 

「おっと」

 

 私が関節技を掛け続けていると、カタクリが手を伸ばして私に掴みかかろうとしてきたのでそれを避ける。危ない。さすが餅人間。ぶっちゃけ、関節技もあんまり効かないのよね。こうやって覇気を込めながらガチで首折るくらい伸ばさないと痛がらないし。こうやって手とか足伸ばして抜けられるし。でも数年前はまだ能力を使いこなせてなかったのもあってこういう抜け方は出来なかったけど。うんうん、成長しているようで何よりだ。

 

「おー、なんとか抜けたねー。それじゃここまでってことで。──ペロスー、お茶」

 

「誰がお茶なんて出すか。おれはパシリじゃ──」

 

「──お茶」

 

「はい……」

 

「もうすっかり暴君だな、ぬえ……」

 

 カタクリとのお遊びが終わり、子供部屋に備え付けのソファに腰掛けると、そのまま近くにいたペロスペローにお茶を出させる。一回は嫌がって断ってたが、さすが私と言うべきか、可愛いスマイルでお願いしたら快くお茶を入れてくれた。カタクリはツッコミすら入れずに微妙な表情をしていたが、まあこれもいつものことだ。はー、紅茶美味しい。たまにはお酒以外も悪くないよね。

 

「あ、クッキーあるんだった。食べる?」

 

「……またなんか変なもん仕込んでるんじゃ……」

 

「ないない。これ、私が食べる用で持ってきた奴だから」

 

「……ふん! どうせならドーナツ持ってこいよ!」

 

 生意気にもそんなことを言って、私が差し出したクッキーを貪りはじめるカタクリ。うーん、大分信用されてる気がするなぁ……毒とか入ってるとか思わないんだろうか。やろうと思えば簡単にそういう良からぬことも出来る。まあ大体はリンリンが怖くてやらないんだけどね。この船の海賊達ですら。

 ……まあ将来のことを考えるとそういうのも手段の1つだけど……そうすると面白くないんだよねぇ……。

 将来の敵となり得る人物を今のうちに消す──なんていうのはまあ賢いっちゃ賢いのだが、面白みで言うとかなり微妙だ。子供だし、弱いし、そもそも将来強くなるであろう相手を見れないのは面白くない。仮にカイドウがやれって言うならしょうがないけど、そのカイドウだって強い相手を欲しがっている。歯ごたえのありそうな者ほど、殺さない方が楽しめるし、戦力になる可能性だってあるのだ。

 それに普通に気に入った相手とか仲の良い相手を殺す理由としては足りない。まあ、単純にムカつく奴とか気に障る相手なら関係なく殺すのも良いんだけど、そういう相手でもないのだ。

 

「うわぁぁぁ!! 痛い、痛ェよ~~~!!」

 

「! あーあー……クラッカー君はほんと泣き虫だね~。ちょっとコケたくらいで男の子が泣かないの」

 

「っ、う、うるせェ! おれは痛いのが嫌いなんだよ!!」

 

 と、そんなことを考えていると、他の兄妹と遊んでいたクラッカーがこけてしまったので軽くからかいながらちょっと見てやる。言葉は強いが、言ってることは弱い。涙目だし。ちょっとコケたくらいで痛いって情けないにも程がある。擦りむいてるけど、血は出てない。こんなの治療するまでもないのだが、

 

「ほら、ガーゼあげるから貼っときなさい」

 

「ぐ……お、覚えてろよ……!!」

 

「そこはありがとうでしょ? あんまり生意気言ってると拷問するわよ」

 

「ひっ……!?」

 

 三叉槍を手にそう言うと顔を青褪めさせるクラッカー。うーん、冗談なのになぁ……それだけで怖がっちゃうんだ。本当に拷問したら死んじゃいそう。ちょっと試したくなるけどさすがに可哀想だしやらない。まあ大人になって敵になったら考えよう。ちょっとでも痛いの我慢出来るようになるといいね。

 

「それで、話を戻すけどなんか強くなるための良い方法知らない?」

 

「知るか!! そんなに強くなりたいならママにでも挑んでこいよ!!」

 

「それ、もうやったんだけど普通に死にかけたなー……まああれはあれでいいけど、全然戦いにならないからちょっとなー。かといって、海賊達とは毎日殺し合ってるし……」

 

「もう挑んだのか……」

 

「……もうおれ達にはお前がわかんねェよ……ペロリン」

 

 クラッカーの発言にもうやったと何気なく答えると、カタクリとペロスペローが呆れた表情でげんなりしている。気持ちは分かるけど、やってみれば意外と……いや、相当怖いし本気で死ぬかと思ったけど、私も鍛えられてるおかげか、カイドウと同じく死ぬことはなかった。大分重傷になったけど。さすがに挑むには早かったけど、カイドウがやられてたので思わず……『やめなさいよ!! この妖怪ババア!!』──って言ったら私もボコられた。うん……今考えるとよく殺されなかったな……死にかけただけだし、その後でお菓子を要求されたけど一応許された。許されたっていうか、別に怒ってはいなかったみたいだけど、それはそれで不気味である。ただの人間で動物系の悪魔の実を食ってる訳でもないのに、私よりも妖怪みたいなんだよね、あのババ──リンリンは。

 しかし、やっぱりこうなってくるとやっぱ地道に実戦経験を積んだり、訓練で覇気や能力を鍛えるしかないのかな。まあやってるんだけどね。というか、そろそろ──

 

「──ん、もう時間じゃん。行ってくるね」

 

「? 何か用事なのか?」

 

「訓練があるのよ!! じゃあね!!」

 

 そういう訳で、シャーロット家の子供達がいる部屋から出て甲板へ向かう。今日は約束があるのだ。日課というほどでもないが、結構な頻度でやっていることが。

 

「──討ち取ったり!!」

 

「取れねェよ。つーか、なんだその変な言い回しは……」

 

 そうして出会い頭に背後から奇襲。しかしいつもの如く、あっさりと躱されてしまう。巨体なのに結構身軽なんだよね……と見上げた先にいるのは“白ひげ”ことエドワード・ニューゲート。

 今日はまだ島にもつかないこともあって、覇気の訓練の時間だ。この訓練ももう3年くらいはやってるんだよね。だから正直やることは分かっているし、慣れている。それもあって、奇襲もそろそろ上手くいくかと思ったのだが、

 

「む~~~……見聞色で動きも読んだつもりなのに、全然当たらない……」

 

「……まァ、確かに上達はしてるが、たった数年で当てられてたまるかバカヤロウ。おれァこれでもガキの頃から数えて20年近くは鍛えてんだ」

 

「あ、珍しく褒められた。ふふん、そうでしょ? 武装色も上手になったし、これなら見習いももう卒業出来ちゃう?」

 

「自惚れすぎだヒヨッコ。武装硬化だけが武装色じゃねェぞ。身体の外に放出したり、能力に纏わせたり、お前ができねェことはまだ沢山ある」

 

「えー!? いやいや、普通の海賊はそこまで出来ないって。絶対私の方がそこらの海賊より強いし、というか勝ってるし、ちょっとくらい自信もってもいいじゃん。ケチ!」

 

「文句があるならやめるか?」

 

「──お願いします師匠!!」

 

「お前な……」

 

 白ひげが私の変わり身に呆れているが、そりゃそうなるだろう。ノリ的にも。──まあ多分、白ひげは過信し過ぎるなって言いたいんだろう。私のことを心配してるっぽいし、あんまり無茶をやらないようにという思いも込めてそう言ってるのかもしれない。まあこういう優しさって気づかれないのが王道だと思うけど、残念ながら気づいてしまう。というか、白ひげの場合は不器用というか、根本的に嘘をつけない性格なのか、そういう嘘とか気づかれないようにするっていうのが下手くそだ。私が少女で、しかも過去に何かあるんだろうと薄々察してるのもあって憂いてる感がマシマシだ。まあ若干余計なお世話な部分もあるけど、気遣いとか優しさは嬉しいし、こうやって訓練もつけてくれてるから敢えて黙ってはいるし、何か言うつもりもないけどさ。

 と、そんなことを考えながら私は白ひげの指導のもと、覇気の訓練を開始する。一応、数ヶ月は船を離れていたけど、そこでもレイリー辺りに奇襲がてら覇気のアドバイスとかを貰ってたし、実戦は欠かしてなかったため、昔よりも上達してる。

 例えば、覇気を覚えたての頃は見聞色も武装色もちょいちょい失敗してたけど、今は切れることはあっても失敗することはない。基本的な事は大体出来る。見聞色は元より結構使えたけど、その精度も範囲も増しているし、武装色は武装硬化──私の持つ三叉槍に覇気を纏わせたりも出来る。まあ、まだ体外に纏わせて内部破壊したり、能力に纏わせてあれこれ……ってのは出来ないけど、取っ掛かりくらいは掴めてきてるかな? ──というか、カイドウは地味に内部破壊とかは出来てるっぽいから、早く追いつかないとキツい。威力が段違いというか、攻撃当たった時のダメージが二段階くらい増した気がしてこっちも身体の外側で防御しないと拮抗出来ないのだ。さすがカイドウって感じだが、カイドウはカイドウで見聞色が若干苦手──って訳でもないが、私の方が上手なのでそこは面目躍如というか、ちょっと自慢に思っている。躱すことで何とか拮抗出来るのだ。ふふん。

 ……しかしこうやって考えてみると覇気の習得スピードが早いように感じるが……全然そんなことない。だってこの環境で毎日死にかけるような思いをしてやっとここまで来たのだ。3年という期間が長いか短いかは人それぞれかもしれないが、3年間死地に身を置いてようやく基本とちょっと応用なので、やはり覇気は難しい。それでも白ひげとかリンリンに全然敵わないし、やっぱ鍛えれば鍛えるほど強くなるので、追いつくには相当頑張らないといけないのだろう。

 

 ──そんなこんなで、覇気の訓練を始めて数時間。

 

「ふー、今日も頑張ったなぁ。でももうちょっと出来るよ? 続けない?」

 

「おれにはおれの時間があんだよハナタレ。今日はこれで終わりだ。これ以上やりたきゃ自主練でもしてろ」

 

「む……はーい」

 

 一通りの訓練を終えて日も落ち始める。しかし、私の体力は有り余っていて、もっと続けようと言って見るもすげなく断られたので、渋々私は返事をした。

 だがそこで、白ひげは私をじっと注視すると、

 

「……前々から思ってたがお前……体力だけはあるよな」

 

「体力と耐久力、そして回復力が私の長所よ! ふふん! カイドウには負けるけどね!!」

 

「いや……カイドウもそうだが……おめェら、ひょっとして──」

 

 と、そこまで言って、白ひげは黙り込む。え、何? そんな意味深に黙られると気になるんだけど!! 

 

「ひょっとして?」

 

「……いや、やっぱ何でもねェ」

 

「え~~~!! その引きはないって! その感じで何でもないって言う人って絶対何かあるに決まってるじゃん!!」

 

「何でもねェっての。……そうだ、ぬえ。前々から思ってたがお前……“覇王色”の適性もあるかもしれねェぞ」

 

「何でも無くない!! 何かあるなら言って!! 覇王色とかどうでも…………え?」

 

 私は問い詰めようとしていた言葉を止めて、思わず固まってしまう。……ん? なんだって? 覇王色? 覇王色ってあれだよね、数百万人に1人が持ってるって言われる、相手を威圧して気絶させたり出来る、いわゆる“王の素質”みたいなもので、カイドウとか白ひげ、リンリンやシキ、もちろんロックス船長とか、ロジャーやレイリーも持ってるあの──

 

「──え~~~!!? それ、ほんと!? そんな強キャラの証みたいなの、私も持ってるの!?」

 

「声がでけェ! ……あるかもって話だ。まだあるかは確証が持てねェ。たまにそんな気がするだけだ。おれの気のせいかもしれん」

 

「え~~~……なにそれ……ぬか喜びしちゃったじゃない。私も大海賊の風格漂わせた~い。ぶーぶー」

 

「知るか。早とちりするからだ。……とはいえ、才能はある。覇王色じゃなくてもな。大海賊になりてェって言うなら死ぬ気で鍛えろ。それで充分だ」

 

「……さっきから褒めたり厳しい言葉掛けたり……やっぱ私のこと好きなの? ツンデレ?」

 

「バカ言ってねェでさっさと行け!!」

 

「はーい。それじゃ、またよろしくね~」

 

 あんまりからかうとまた小突かれそうなので退散する。しかし照れ屋だ。少しくらい素直になってもいいのに。私の可愛さならしょうがない。可愛いは正義なのだ。

 ──しっかし覇王色かー……あればいいけどねぇ。たまに見るけど凄い便利そうだし、使えるに越したことはない。カイドウは、まだコントロールが出来てないっぽいけど、そのうちそれもこなすだろうし、私もどこか別の部分で役に立てるように鍛えたり、色々考えないと。

 まあその他にやれることと言うと──やっぱ悪魔の実の力を鍛えることかな。こっちも模擬戦とか戦闘とか、普段の日常でも色々試してるから、徐々に使いこなせてはきてると思う。技も増えてきたしね。種類だけはなんとなく分かるのはデカい。イメージは出来てるからね。“弓”は全然出来ないけど、それ以外なら弱体化版というか、基本の事は出来る。大技として出せるのはまだ4つだけど、応用的なことは色々出来ているし、確実に成長していることは確かだ。

 後は……なんだっけ。確か、“覚醒”ってのもあるんだよね。それもいつか出来たらいいなぁ。悪魔の実の能力を一段階上に上げるらしいけど、確か動物系は、異常な耐久力と回復力を得るんだっけ? ……それだけ聞くとカイドウは覚醒してそうだけど、意外とまだだったりするんだろうか。何気に確かめようがない。まあどっちにしろ鍛えるんだからあんまり関係ないかもだけどね。私ももっと頑張らないと。

 

「──ギハハ、何してんだ?」

 

「! あ、船長!」

 

 内心で意気込み、そろそろ船倉に戻ろうかな、と思ったところで外に出てきたロックス船長に話しかけられる。相変わらず凄いオーラというか、見るからにヤバそうな悪人だけど、結構気さくに話しかけてくれるんだよね。私はもう完全に慣れた。平常時であれば普通に接することは出来る。

 

「白ひげに覇気の修行をつけてもらってたの。それで、もっと強くなるにはどうしたらいいかなーって色々考えてて……」

 

「ほう? そりゃ結構なことだ……よし、なんならちょっと()()()()()()

 

「え? 攻撃?」

 

 突然、しかもめっちゃ軽い調子でそんなことを言われたので私は戸惑う。しかしロックス船長は自身の左胸を差して、

 

「武器に纏わせることくらい出来んだろ? その槍でおれの胸、刺してみろ。どんくらい出来てるか直々に確認してやらァ」

 

「え、えー……いいの?」

 

「安心しな。お前くらいの覇気じゃ、無防備に受けても傷1つつかねェからよ」

 

 ほらやってみろ──と、そう言わんばかりに腕を広げてみせるロックス船長。いや、マジっすか船長。多分、船長の言うように刺さりもしないんだろうけど、何かの間違いでやっちゃったら殺されるな……と思いつつ、私は好奇心に勝てずに槍を構え、武装色を流し込む。そして、

 

「──とりゃっ!!」

 

 本気でロックス船長の左胸目掛けて一撃。しかし──

 

「……なるほどなァ」

 

「うっわぁ……本当に止められてる……!」

 

 ロックス船長の胸の手前で、私の槍は止められてしまっていた。──やっぱ船長、化け物過ぎない? こんなのもう鎧じゃん。それとも海楼石で出来てるの? 船長の身体。硬くてなんならこっちの方が痛い。この人に傷をつけたロジャーってやっぱ強かったんだ……と、私は少し前のことを感心していると、

 

「……悪くはねェなァ。おれからすればまだまだだが、覇気の基本は出来てる。後は応用を覚えつつ鍛えることだ」

 

「! ……あ、ありがとうございます!」

 

「ギハハ、まあここにいれば嫌でも死にかける。そうすりゃ覇気はどんどん上達する。精々、死なずに死にかけろ。極限の状況が力を強くする。これは覇気に限ったことじゃねェぞ。悪魔の実の能力もそうだって聞くしなァ」

 

「なるほど……それじゃ、もっと頑張って瀕死になれば……」

 

「コツを教えるなら常に勝つ気でやることだな。出来るって信じりゃ出来んだよ。この世に不可能なことなんてねェんだからなァ……!」

 

 ふむふむ、とロックス船長からの言葉を取り出した紙にメモする。後でノートに貼り付けておこう。貴重なロックス船長、世界最強の海賊からの教えだ。どんな書物や教えよりも参考になる。

 ただ、それを書きながら気になったことがあるので聞いてみる。ちょっと聞きづらいかもしれないが、大丈夫だろうと何気なく、

 

「船長にも極限の状況とかってあった?」

 

「……ギハハハハ……! 面白ェこと聞くな、ぬえェ……!!」

 

 え、あれ? 聞いちゃ駄目だった? ちょっと圧が強くなった気がする。もしかして地雷だった? 

 ただ殺気は感じないし、笑みが深まっただけだ。ロックス船長は相変わらず楽しそうに言う。

 

「そんなもんは知らねェな……だから是非おれも遭ってみてェもんだ……!! ある意味、他の雑魚どもが羨ましいぜ。張り合いのねェ人生ってのはつまらねェからなァ……!!」

 

「えー、私はロックス船長の方が羨ましいけどなぁ」

 

「ギハハ、そりゃそうだろうな!! 強くなって好き勝手出来ることほど楽しいことはねェだろうよ!!」

 

 そう言って何のツボに入ったのか、ロックス船長は可笑しそうに笑った。

 そして私の頭をぐしゃぐしゃにすると、

 

「ああっ!? ちょっと! 髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでよ船長!!」

 

「ギハハ、相変わらず面白ェ! おれにそうやってビビらず接することの出来る奴なんざそうはいねェ。──まあ精々気張りな。お前とカイドウ程、有用性のあるガキはそうはいねェ。精々鍛えておれの役に立つんだな……!!」

 

 と、最後にそう言って、ロックス船長は去っていく。いやぁ、褒められたけど、なんかなー。私達、将来独立することにしてるからなんとも……嬉しいけどね。なんだかんだで認められてるってのが。

 ──ただほんと、ロックス船長と接してると迷うけど……やっぱり、優先するのはカイドウと私、私達のことなんだよね。

 私がその気になれば──いや、その気にならなくても、運命を変えることは出来るだろうが……これに関しては、私は成り行きを見守ると決めている。

 自分の力で出来ること以外は、()()()()()

 それはつまり……このまま進めば、高い確率で、ロックス船長の野望が潰えることになるのだ。

 それまでの時間は後2年もない。そして、お世話になった人を見殺しにするというのに、罪悪感というのを覚えてない自分に対して、思わず面白く思ってしまう。──私ってほんと畜生だなぁ、と。




色んなフラグを乱立中。後、おそらく気づかないと思うんだけど、前話から続けて普段の1話分の1万文字よりちょっと少ない9000文字前後なので、若干読み応えは薄い可能性があるけど、そこはお許しください。まあそこまで気にすることじゃないけどね!
次回はカイドウとまた色々。多分。ということでお楽しみに

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