正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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海賊と海兵

 ──ゴッドバレーには現在、10万人の狩られる側の人間がいる。

 

 ゴッドバレーの先住民達に奴隷。彼らは皆、天竜人の主催する先住民一掃大会の“脱兎”であり、それぞれが点を付けられた上でこの島の中を逃げ回っていた。

 最初に紹介された“SR脱兎”であれば1万点が貰えるし、それには劣るが“R脱兎”の点も高い。一発即死で“エクセレントボーナス”が貰えるなど、ゲームを盛り上げるための悪辣な仕掛けが幾つも盛り込まれていた。

 ただ3ヶ月の間、生き残れば彼らは解放される──そんな建前によって希望を植え付け、天竜人は楽しんでいた。

 

「そっちは大丈夫キャブル!?」

 

「アニキ!! こっちの道が手薄だ!!」

 

「よし! よくやったジニー!! ヴォレにについて来いくま!!」

 

「うん!!」

 

 そしてそんな中、その絶望の事実を知る数少ない奴隷達はこの島から脱出するために覚悟を決めて作戦を実行しようとしていた。

 そんな彼らの中心にいる3人の奴隷──彼らをまとめる顔のデカさが特徴的なイワンコフに盗聴や窃盗、通信のプロでありこの島で行われる情報を島の外に流した張本人である少女ジニー。

 そしてこの大会の目玉である特殊な種族。バッカニア族の奴隷であるくまは、イワンコフやジニーの言葉に奮起し、島の中心にある“宝”の内、この島の脱出に使うことの出来る宝を手にするために物陰に隠れながらそこを目指していた。

 

「最優先はニキュニキュの実!! 次いでもうひとつの悪魔の実だ!! ヒーハー!!」

 

「うん!! 頑張って!!」

 

「ヴォ前こそおれ達がなんとかするまで耐えろよ!!」

 

「わかってる!!」

 

 イワンコフの言葉にくまが明るく笑って答える。

 それは彼らを、この場にいる奴隷達の気持ちを少しでも明るくするために。心配をかけないように。希望を見せるためのものだ。

 作戦通り、これから囮になる。死ぬ可能性は高い。だがそれを感じさせない幼いくまの表情はそれを感じさせない。

 かつてくまの父親がそうしたように、教えてくれた“伝説の戦士”のように。彼は人々を解放するためにあえて死地に飛び込もうとしていた。

 

 ──だが。

 

「敵襲ー!!」

 

「東の海岸だ!! 急げ!! ロックス海賊団だ!!」

 

「……! なんだろう……!?」

 

「海賊!? もしかして……チャンスッキャブル!?」

 

 覚悟を決める彼らの救世主──彼らを助けようとしてのことでは決してない──この場を大混乱に陥らせる今の時代の名だたる怪物達が現れる。

 

「ギハハハハ!! おい政府の犬共!! おれの宝はどこだ!!? おれの獲物はどこだ!! 教えなくても構わねェぜ!! 教えなくても殺して奪い取るからなァ!!! とにかく前進だ!!!」

 

 ──それは海の“悪魔”であり……。

 

「借りを返しに来たぜロックス!! ついでに宝も奪わせてもらう!! 海賊としてな!!!」

 

「待てロジャー!! お前1人で突っ込むんじゃねェ!!」

 

「海兵だけじゃない。海賊も無数にいる……これは荒れるぞ……!!」

 

 ──それは“鬼”であり……。

 

「着いたぞ!! ロジャーはどこだ!!? ロックスもいるらしいな!!?」

 

「ガープ中将到着っ!!」

 

「うおおおお~~~!!」

 

 ──それは“英雄”であった。

 

 それぞれの目的を持つ様々な勢力がこの島、ゴッドバレーに集う。

 そしてその中には──

 

「行くぞ、ぬえ!! 大暴れだ!!」

 

「うん、カイドウ!! やれるだけやるよ!!」

 

 ──2人の海賊見習いもまた存在した。

 

 

 

 

 

 ──混乱に陥るゴッドバレーの中で、最初に相対したのは海賊と海兵だった。

 

「──よォ……久し振りだなァ……ガープ……!! まさかお前がこの島にいるとは思わなかったぜェ!!」

 

「ロックス……!! 貴様……何をしに来た!!?」

 

「何をしに来た、か……ギハハ、一々教えてやる義理はねェが……考えうる限り最悪の想像をしてみな。それから大きく外れてはねェ筈さ……!!」

 

「っ……!! やはり狙いは──!!」

 

「ギハハハハ!!! 想像して顔が青褪めてやがる!! 理解したか!! ──だが思ったより戦意が薄いみてェだが……ギハハ、やっぱ天竜人の為じゃ戦う気が起きねェか?」

 

「……!! バカを抜かすな!! お前はここで捕まえる!! お前に負けてからおれは……強くなったんだよ!!!」

 

「! ギハハハハ……なるほど、良い覇気だ……!! だが、それくらいでおれを止められると思うな!!! ──野郎共!! 叩き潰せ!!! 

 

「っ……応戦しろお前ら!!! ロックスが来るぞ!!!」

 

 ──それはかつて出会った時の再現。

 ロックス海賊団の旗揚げから間もなく、ガープ率いる海軍の艦隊とロックス海賊団は戦った。

 あの時は軍艦を3隻沈め、多くの被害を与えたロックス海賊団の勝利。私達は捕まったが、脱走し、結果的には大きな被害もなく、大した痛手を受けていない。

 今はあの時の再現に近い……が、あの時とはどちらも、強さは違う。

 6年の月日で拡大し、船員達もより強く凶悪に成長したロックス海賊団は、もはやただの海兵では止められるものではなかった。

 ガープや将官。中将達は食い下がる。特にガープの強さだけは、あのロックス船長に迫るほどであり、相手に出来るのは白ひげやリンリン、シキなどの一部の幹部くらいのもの。

 この島にいた天竜人の護衛である政府の兵や海兵達の数も未だ無数にいるが……それでもロックス船長を止めるにはまだ足りない。

 

「──惜しい……惜しいぜガープ……! 確かに、おめェは以前より強くなった……おれには届かないまでも、戦いを成立させるには充分だ……」

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 島の外周部。布陣していた多くの海兵達を無惨に屍の山とし、対峙するのは私達──ロックス海賊団。

 相手は未だ何百名の海兵がいるが、前に出て戦っているのは、息を荒くし、細かい怪我を負っているガープ1人だった。

 そんな惨状とガープの戦い振りを見て、ロックスは笑い、嘆くように告げる。多くの部下を従え、それらを見せつけるように手を広げながら、

 

「だが──お前1人じゃどうにもならねェだろうよ!! なァ、ガープゥ!! お前におれ達を止められる程の力はねェ!! 自分でも分かってんだろ!!?

 

「っ……!! うるせェよ……!!!」

 

 ガープは短く答え、正面の丘に立つロックスを睨みつける。未だ覇気は衰えていない。拳を黒く硬化させ、いつ襲いかかってきても対応出来るように身構えていた。

 私では打ち込む隙が見えない相手だが、しかし相手は1人。そんな健気にも戦おうとするガープにロックス海賊団の面々の殆どは、周囲の敵を蹴散らしながら可笑しそうに笑った。

 

「ハ~ハハハマママママ!! 随分と可哀想だねェ……!! 寄ってたかって虐めてるみたいで心が痛んじまうな!! ママママ……!!」

 

「ジハハ……とんだ貧乏くじ引いちまったな、ガープ!! てめェは中々強かったが……どうやらここで終わりみてェだ!! 残念だぜ!!」

 

「ウォロロロ!! 良い戦いだ!! 今日は最高の1日になりそうだぜ!!!」

 

「う~~~ん。ガープもここまでかな? えらくあっさりだけど……それとも、ここから覚醒するみたいな面白展開見せてくれるの? おっと!」

 

「…………」

 

 私も含めて、船員達は戦いながら口々にガープに向かってバカにするような皮肉や軽口を叩く。まあ私は純粋な気持ちなんだけどね。本当にどうなるんだろうって思いながら身を投じてるし。

 後は白ひげや、白ひげと仲の良い一部の船員は特に何も言うことはなく、僅かに眉をひそめただけの表情で相手を見ている。だが、手を休めるつもりもない。彼らは彼らなりに覚悟しているのだろう。白ひげを筆頭に、自分達の為にロックスの儲け話に乗っている筈だ。

 逆に、向こうの海兵は可哀想になるほど、悲痛な声を漏らしていた。

 

「が、ガープ中将……やめてください……!」

 

「勝ち目なんてねェよ……! このままじゃ、幾らあんたでも死んじまう……!!」

 

「ガープ中将は護衛に向かってください!! わ、我々が奴等を食い止めますっ……!!」

 

 1人、部下を庇いながら戦うガープに海兵達は誰もがガープの身を案じて、必死に声を出す。

 だがガープは下がることはない。目の前の悪党ども──私達のことを睨んで、離さない。

 

「くっ……黙っとけお前ら……!! ハァ……ハァ……まったく、悪党どもが偉そうに、好き勝手言ってくれる……!!」

 

「そういうお前は大変そうだなァ、ガープ……!! なにせあのゴミクズ共を守るために戦わなきゃならねェんだからよォ……ギハハ! まったく、お前には同情しちまうぜ!!」

 

「っ……おれは……海兵だ!!! だから命令に従う義務がある!! 不満などない!!」

 

 ガープはまるで、自分に言い聞かせるように大声でそう言ったが、私でもそう感じてしまうほどだ。ロックス船長に見抜けない筈はなく、ロックス船長は口端を歪めた。

 

「──嘘だな。お前は自分の正義に自信を持ててねェ。天竜人という海賊と大差ない──いや、見方によっちゃそれ以上のクズ共を守る価値があるのかと悩んでる。……どうだ? 良い推理だろ」

 

「お前には関係ない!!!」

 

「さて、どうだろうなァ……だがお前の様な悩みをもって海賊に身を移した奴だっているんだぜ? ──そこでどうだ? モンキー・D・ガープ。お前も海兵なんざやめて、()()()()()天竜人をぶち殺さねェか?」

 

「!!?」

 

 ロックス船長はガープの心の隙間に入り込むように、そんな悪辣な勧誘を皆の前で行う。天竜人が嫌いなんだろ? なら海賊になって奴等を倒せ。それも“正義”の一つだと言うように、

 

「天竜人なんざいない方が良いに決まってるだろ? 奴等を地に堕とせば、多くの人間が救われる。その地位まで辿り着いてんなら知ってるだろ!! それに何よりこの島で起きていることが答えだ!! 人を人とは思わねェ皆殺しゲーム!! やつらの奴隷に対する仕打ちは外道なんて言葉じゃ収まらねェ!! 守る価値なんてあるのか!!?」

 

「っ……! 海賊が……もっともらしいことを抜かすな!! そんな名分を掲げれば、今まで行ってきた悪行が許されるとでも思ってるのか!!?」

 

 天竜人の催す残酷な大会。今もなおこの島の先住民や奴隷達が逃げ惑っているところを目の当たりにしているためか、ガープは歯噛みする。ロックス船長の言葉に肯定を返すことこそないが、それが葛藤の現れであることは明らかだった。私にも分かる。だからロックス船長に分からないはずはない。

 

「おいおい……今更そんな初歩的なこと聞いてきてんじゃねェよ。10年以上海兵として世界を見てきたお前が分からない筈はねェんだ。“正義”ってのは価値観の違いでしかねェ。正義や悪なんてものはこの世に存在しねェんだよ……!!」

 

「……っ! なら言ってやる!!! 血を流させないことがおれの正義だ!!! 流れる血を減らすために、おれは海兵としてここにいる!!」

 

「──だとしたら覚悟が足りてねェな。もしお前がその自分の正義に完璧に殉じてるっつうんなら、天竜人を守ることを迷ったりはしねェ筈だ。そこで迷うってことは……ギハハ、未だ割り切れてねェ証拠だ!!!」

 

「……!!!」

 

 ロックス船長はガープの内心を暴いてしまったのだろう、ガープの表情が酷く険しいものとなる。歯を強く噛み締め、拳をギリギリと音が聞こえそうなほどに強く握りしめる。拳が震えているのがその証拠だ。──しっかし、ロックス船長も厳しいこと言うなぁ。ガープもちょいちょい正論を言ってくるんだけど、ロックス船長は微塵も堪えた様子もなく、的確にガープの心の急所を抉ってくる。天竜人がどうこうとかも、チラッと私の方を見てたし、ガープも私に配慮したのか知らないが、奴隷のことについては口に出そうとはしない。むしろ、もっともだと、半ばロックス船長の言を認めている節すらある。まあ優しくて良いとは思うんだけど、別に私はもう過去のこととして割り切ってるからそこまで気を使わなくてもいいんだけどなぁ……今は全然楽しくやってるし、なんなら過去のことは気にしてない。──まあそれはそれとして天竜人を見かけたら殺したりするかもしれないけど、それはほら、リベンジって奴なので別に怒りはない。昔のことは私が弱かったのが悪いのだ。うんうん。私って割り切り上手だね。

 私が1人、ロックス船長とガープの問答を聞いてそんなことを考えていると、とうとうロックス船長が剣を抜き放ち、剣を肩に担ぎながら言った。

 

「さァて……もう一度、改めて問おうじゃねェか。──モンキー・D・ガープ!! 海兵をやめて、おれの部下になれ!! そうすりゃおめェの望みも叶えてやる!!!」

 

 言って、相手の海兵達が息を呑んだ。そしてロックス海賊団の面々は悪どい笑みを浮かべる。誰もが分かっていた。

 この誘いに乗らなければ、ガープも海兵達も、本気のロックス海賊団に潰されるであろうことを。皆殺しにすることを。

 ガープだって分かっている筈だ。勝ち目は薄い。嘘でもここでロックスの誘いに乗ることが、唯一の生きる道であることを。

 ──だが、やはり……ガープという男は、それに乗るような男ではなかった。

 

「──断る!!!」

 

「…………ギハハハハ……そうか。──だったら……ここで殺すしかねェなァ!!!」

 

「!!」

 

 ロックス船長が張り上げるような声を皮切りに、その特大の覇気を震わせながらガープに肉薄していく。ガープが両足を広げて拳を構え、襲いかかってくるロックスを相手に汗を見せた。

 海兵達も同じ。白ひげが薙刀を構え、リンリンが両手にゼウスとプロメテウスを、シキが浮き上がって両手に剣を、多くの船員達が己の得物を手にし、私とカイドウもそれぞれ、三叉槍や金棒を持って更に強く勢いづいて彼らに襲いかかる。

 戦闘から地続きのこれから始まる蹂躙。しかし──その瞬間だ。

 

「!!?」

 

 覇気を込めたロックス船長の剣と、()()()()()()()()()()、鋼と雷音を混ぜたかのような凄まじい音が鳴り響いた。

 当然だが、ガープの戦闘スタイルは徒手格闘。“ゲンコツ“のガープの異名から分かる通り、素手だ。剣など使えないし持ってもいない。

 しかしロックス船長の剣を受け止められ、なおかつ覇王色の激突を起こすような人物はこの場にはいない。──たった今、現れたのだ。

 その海賊は、ロックス船長を前にして、敵意をむき出しにしていた。

 

「ロックス~~~~~!!!」

 

「!! ……ギハハハハハハ!!! ここでおめェが来るかよ……!! ──ロジャー!!!」

 

 そう──そこにやってきた男の名は……ゴール・D・ロジャー。

 この場に現れた3人目の“D”であり、唯一、“悪魔”を止めることが出来る海の“鬼”だった。

 

 

 

 

 

 ……うわぁ……ほんとに来た……!! 

 運命の島、ゴッドバレー。私達ロックス海賊団とガープ率いる海兵の戦いに割って入ってきたのは、どこか怒った様子のロジャーだった。

 その予想外の男の参上に誰もが驚き、瞠目する。唯一笑みを見せているのはロックス船長のみだ。

 

「あいつは……ロジャー……!」

 

「なんでここに!?」

 

「あいつも宝を……それか天竜人を狙ってんのか……!?」

 

 海賊も海兵もざわつく。今のロックス船長の一撃を止めたことも含めて、ロジャーという男は目を惹きつけるような存在感があった。

 そしてロジャーの到着から僅かに遅れて、

 

「1人で突っ走りやがって……! おいロジャー!! 少しは足並み揃えやがれ!!」

 

「だが……中々厄介なところに居合わせたようだな……!」

 

 ギャバンやレイリー、その他の船員……ロジャー海賊団のクルー達がやってくる。いや……タイミング良すぎだなぁ!! びっくりした! 面白っ! もうちょっと遅かったらガープは分からないけど、海兵いっぱい死んでたよ! 

 私は思わずテンションが上がる。敵とはいえ、なんかそれっぽい展開に心を躍らせる。

 

「すごいすごい!! 見てカイドウ!! また敵来たよ!! しかもロジャー!! すっごいタイミング良い!! びっくりだね!!」

 

「おお……!! これであの時の借りが返せるぜ……!! 覚悟しやがれロジャー!!」

 

 私とカイドウは未だ驚きから醒めない海賊達や海兵の中でもかなり早く正気になって戦意を見せる。すると、その声に気づいたロジャーが、

 

「──ん? おお、ぬえ!! 久し振りだな!! まだこんな奴等の船に乗ってんのか!! おれの仲間になれ!!」

 

「べ~!! ならないも~ん!! 私はこれでもロックス海賊団の最古参なんだからねっ!! ……見習いだけど!!」

 

「わはは! そうか!! それがお前が選んだ道ならおれは止められねェ!! だが、今度また……──って、いやそうじゃねェ!! ロックス!! おれはお前をぶっ潰しにきたんだ!!」

 

「1人ではしゃぐな!! 情緒不安定か!!」

 

 ロジャーが1人で笑ったり怒ったりする様に、ロジャー海賊団の面々がツッコミを入れる。うわ……ちょっと懐かしい……ロジャー海賊団って感じだ。シリアスな場の筈なのにわちゃわちゃ騒いでる感じが。自由過ぎる。

 それを見てロックス船長はしばらく無言のままだったが、ロジャーに名指しされてからややあって、ようやく口を開く。

 

「……ギハハ、久し振りだな、ロジャー!! どうだ? おれが与えた傷はさすがに癒えたか!?」

 

「うるせェ!! おめェ、何おれのライバル殺そうとしてんだ!! 許さねェぞ!! 後、そこのぬえをくれ!! 肉と酒……は駄目だ。魚やるから!」

 

「くれじゃないわよ!! さっき諦めるみたいなこと言ってたでしょうが!?」

 

 またロジャーがメチャクチャなことを言い始める。……というか、よく仲間に誘えるなぁ……私が普段ロックス海賊団でやってること、知らないんだろうか? 教えた気もするんだけどな……ロジャー的に嫌いそうだと思うんだけど、やっぱそういう一面見れてないから良い奴だと勘違いしてるんだろうか。

 私が久し振りのロジャーのノリに若干翻弄されてると、ロックス船長が不意に、私の頭に手を置く。え? 何? 

 

「ギハハハハ……悪ィが、ぬえはおれの可愛い部下だ! 魚如きじゃ交換は出来ねェなァ!!」

 

「! 船長……!」

 

 船長の仲間想いな言葉に少し感動。いやまあ別にそんな感じじゃないんだろうけど、一応部下として重宝されてるのはわかるので誇らしい。ふふん。どうだロジャー。私の価値は魚如きじゃ代えられない。幾ら船長の好物が、海王類の肉だとしても──

 

「くそっ……さっき食った海王類のステーキ、死ぬほど美味かったからいけると思ったんだが……」

 

「…………ギハハ、残念だったな。それくらいじゃ交換出来ねェ……が、一応聞いといてやる。──どんな奴だ?」

 

「──あれ!? ちょっと揺らいでない!?」

 

 まさかのロックス船長の返答に思わず、ツッコミを入れてしまう。やめろォロジャー!! 船長を揺らがせるな!! これじゃまるで私の価値が海王類と同等みたいじゃない!! ……結構価値あるなぁ!! 

 

「ギハハ……まァ、冗談はこのくらいにしといてやる……しかし……そうか」

 

「……?」

 

 一応言うように冗談だったようでロックス船長は私の頭から手を離す……のだが、その時、ロックス船長にしては珍しく歯切れの悪いような、何かを考えるような間の悪い声を発していたので、私は首を傾げてしまう。何だろう。ロジャーの処遇でも考えてるのかな? 前に殺さなかったし、かなり気に入ってるみたいだし。また仲間に誘ったりするんだろうか。

 そうやって考えていると、次にガープがロジャーに向かって語気を荒くした。

 

「……おいロジャー!! やっぱりお前も来たか!!」

 

「わはは、久し振りだな、ガープ!! 間一髪だったじゃねェか!!」

 

「うるせェ!!! 海賊のお前が海兵のおれを助けてどういうつもりだ!!?」

 

「水臭ェ事言うな!! 何度も殺し合った仲じゃねェか!! なら助けるのも当然だろ?」

 

「っ……当然じゃねェ!!!」

 

 ガープの怒りにロジャーは友人を相手にするように気安く接する。だが、その言葉にガープが一瞬怯み、その上で怒りに吠えた。さしものロジャーも一度言葉を止める。するとガープは再び拳を構え、

 

「おれは海兵だ……!! 海賊を見つけたなら倒して捕らえるのがおれの役目なんだよ……!!」

 

 と、ガープは海兵として当然の事を告げる。どちらも等しく海賊で、目の前に現れたのなら捕らえるために努力しなければならない。──たとえ、どんなに不利な状況でもだ。

 ロジャーとロックス、どちらも相手にする覚悟があるのだろう。ガープの目は覚悟と決意に満ちている。やりたくないことであっても、海兵としての責任感、その職務を何よりも優先するのが海兵にとっての筋であった。

 それを見て、ロックス海賊団はバカな奴だと笑みを浮かべ、海兵達はやはり心配し、不安な表情を浮かべる。

 そんな中、ロジャーはその言葉を聞いて言った。笑みを浮かべ、

 

「──よし!! なら、まずは一緒にあいつらを倒そうぜ!! おれ達の殺し合いはその後だ!!」

 

「……!!」

 

「なっ……!!?」

 

「……ギハハ」

 

 ガープが唖然とし、他の連中も多くが驚く。何を思ったのか、小さく笑うロックス船長の声も聞こえた。

 すると周囲の反応を無視して、ロジャーは動く。剣を構えて勝手に話を進め、

 

「それでいいな!? よし、それじゃあ行くぞ!!」

 

「っ……そんなバカな話があるか!! 殺し合いはその後だと……! こっちが不利だからと同情するな!! そんな情けをかけられるくらいなら……さっさと決着を──」

 

「うるせェガープ!! おれは不利なお前と戦って決着をつけたくねェんだよ!!! しかも負けたら死ぬだろ!? おれァお前と()()()()()()()()()()()()()!!! だからここでは絶対に敵対しねェ!!! おれを敵に回したかったら──先にあいつらを倒しやがれ!!」

 

「!!」

 

 ガープの表情が今度こそ固まる。私達も何とも言えない表情で見守るしかない。何よりロックス船長が動かないのだ。動けないとも言える。

 ……だがそれにしてもだ。あまりにもムチャクチャな話だった。自分勝手にも程があるだろう。万全な状態で殺し合いをしたいとか、敵に回したかったら敵を倒してみろとか、どんな提案なんだ。言ってることがおかしすぎる。──しかも、最後に付け加えるように、

 

「──あ、でもロックスはおれが倒すからな」

 

「自分勝手か!! っ……ああ、くそっ……!!」

 

 さすがのガープもツッコミを入れる。怒りに満ちたツッコミだ。

 しかし、その後に頭を掻く。悪態をつき、ロジャーへの怒りを見せながらも、何処か覚悟を決めたような雰囲気を纏わせたガープは再び拳を握り、隣のロジャーに向かって……その隣に、並んでみせた。そして2人して、

 

「……ああ、クソ!! この戦いが終わったら殺し合うからな!!」

 

「わはははは!! おう!! そうしようぜ!! 楽しみだな!!」

 

 ガープとロジャーが並んで、ロックス海賊団を相手に対峙する。

 そのまさかの光景に息を呑んだのは誰も彼もだった。困惑した者は多い。隣にいる白ひげなどもそうだ。理解出来ないと言う風に歯噛みしている。

 ロジャー海賊団などは苦笑し、既に戦闘態勢に入っており、海兵は戸惑いながらも副官の「一時、ロックス海賊団のみを標的とする!!」という命令により、ロジャー海賊団の方にも向いていた海兵達が、再びロックス海賊団だけに視線と敵意が集中する。

 そんな中、ロックス船長だけは唯一、この状況で楽しそうな笑みを浮かべており、

 

「──ギハハハハ……!! なるほど……この展開は唆る……!!  ──だが」

 

 不敵な発言を発し、先程までよりも遥かに強い覇気を纏わせる。今にもロジャーとガープに向かっていきそうな迫力。仲間の私達でさえ、怖ろしく思えるほどの覇気に、敵も身を固くしたのを確認する。

 だが、ロックス船長は言葉を止め、その圧力を一度は抑えた。その上で、

 

「──おいおめェら!! あいつらをちょっと抑えてろ……!!」

 

「!」

 

「何……、っ!!?」

 

 命令を聞いたロックス海賊団の面々と、疑問に思ったロジャー海賊団と海軍の兵達。

 その両方、誰もがロックス船長に視線を向ける中……ロックス船長は、一瞬で2人を飛び越えてその場から離れた。

 すると当然、ロジャーやガープもそれを追いかけようとするが、それを白ひげやリンリン、シキ達が得物をぶつけて止める。判断が早い。人の下につくような者達ではなくても、目の前でロックス船長が発した命令に逆らったり戸惑うようなことはないのだ。一瞬で、白ひげ達はロジャーと鍔迫り合いを行い、それを一時止めてみせる。

 すると岩山の上に立っていたロックス船長はロジャー達を見下ろした。ロジャーが文句を発し、

 

「おい!! まさか逃げる気か!!? 降りてきやがれ!!」

 

「ギハハハハ……いいや、逃げる気はねェさ……どの道、この島にいる連中は海賊だろうと海兵だろうと天竜人やその奴隷だろうと……おれの部下以外は全員、皆殺しにするつもりだからな……!! ただ──」

 

 と、身の毛がよだつような恐ろしいことを口にしながら、ロックス船長は一度言葉を区切り、告げる。島の中心部、聳え立つ巨大な谷間の方に視線を向け、

 

「あんまりモタモタしてるとゴミクズ共が逃げ隠れちまうかもしれねェからなァ……おれは先に行かせてもらう。野郎共!! 半数はおれについて来い!! 半数はお前らはおれのやることが終わるまで、そいつらを片付けときな……!!」

 

「……おお!!」

 

「っ……ああ……!!」

 

 大勢の船員達が声を上げて命令を了承。鍔迫り合いを行う白ひげも相手のロジャーから目を離さずに頷いた。すると相手のロジャー、そしてリンリンに止められているガープが、

 

「くそっ、中々強ェな……!! ──おいロックス!! 待て!!」

 

「待てロックス……!! 貴様、天竜人を殺す気か!!? 何をするつもりだ!!?」

 

 声を張り上げ、岩山の上のロックスに追いすがろうとして──出来ない。

 そんな中、ロックスはニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、ロジャーとガープを見下ろし、

 

「ギハハ……そんなもん決まってんだろうが!! あのプライドが高く、赤い土の大陸(レッドライン)より下の島々を下界って呼ぶような高慢ちきな天竜人共の鼻を明かしてやるのさ!! おれの宝を奪ったことも含めて、やり返してやる!! 全部奪って殺す!! この世界はおれの物だ!!!」

 

「くそ……!! 待て!!」

 

「逃げんじゃねェよ!!」

 

 ガープとロジャーがそれぞれ声を大にする。だがロックスは背を向け、横目で彼らを見ながら、

 

「ギハハハハ!! 先に行くぜ!! おれとやりあいたきゃおれの部下を突破してついてくりゃあいい!! おれの前に立ち塞がるようなら、否応はねェ!! おれ直々に相手をしてやる……!!! 精々、死ぬ覚悟を決めてから足を踏み入れるんだな!! ギハハハハハハ!!!」

 

 その言葉を最後に、ロックス船長は島の中心部に向かったのだろう、その場から消えた。

 残されたそれ以外の面々は騒然とする。それを皮切りに、激しい戦闘が始まり、指示が飛び交ったからだ。

 

「くそ……逃げられた……!! お前達!! 奴等を止めろ!!」

 

「はっ!! 総員、掛かれェ~~~!!」

 

「う、うおおおおおおお!!!」

 

「おいレイリー!! あの野郎、行っちまった!!」

 

「ああ、わかってる!! さっさと片付けるぞ!!」

 

「海兵共に先を越されんなよお前ら!! 行くぜ!!」

 

「ああ!!!」

 

 ガープ率いる海兵達、それに加えてロジャー率いるロジャー海賊団。レイリーやギャバン、他の船員達が結託してロックス海賊団に襲いかかる。

 だがそれを見て怯んだり怖気づくような連中はここにはいない。

 

「っ……おめェらァ!! 船長命令だ!! 別れてやるぞ!!」

 

「ハ~ハハハマママママ!! 一々言わなくてもやってやるさ!! おれはロックスを追うよ!! 向かってくるなら全員、寿命を奪ってやるだけさ!!!」

 

「おう、そうさ! おれに命令してんじゃねェよ白ひげ!! 命令すんのはおれだ!! 行くぞ野郎共!! ジハハハハ!! 

 

「ウォロロロロロ!!! 最高だ!!! 全部ぶっ壊れちまえばいい!!! 最高の戦争の始まりだァ!!!」

 

「よーし!! 盛り上げてこー!!! 無謀な戦いに挑み、恐怖を忘れた人間よ!! 正体不明の飛行物体(だんまく)に踊らされて死ね!!」

 

「ヒャッハー!!! 止めるなんてまどろっこしい!! 全員ぶっ殺すぞォ!!!」

 

「道を作るぞ!!! 野郎共!!!」

 

 ──神の名を持つ島……ゴッドバレー。

 世界最強の海賊団……ロックス・D・ジーベック率いるロックス海賊団に対し、ゴール・D・ロジャー率いるロジャー海賊団と、モンキー・D・ガープ率いる海軍本部の海兵数百人が一時的に手を組み、相対する。

 それだけでなく、島の中心には未だ大勢の天竜人に海兵……神の騎士団もまた待ち構えていた。

 この戦いの結果、何が起こるかは分からない。

 

 ──だが……誰がが勝ったとしても……一つの時代が終わることだけは、確かだった……!! 

 




改訂しました。会話とか諸々修正したり、くまやらイワンコフやらジニーを追加してます。

感想、評価、良ければお待ちしております。
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