正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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ゴッドバレーの戦い

 戦いの火蓋は切られた。

 両軍共に戦意を、覇気を込めて敵を迎え撃ち、邪魔者を屠ろうとする。島の中心に向かっていくみんなにとって、立ち塞がる者は全員敵だ。海賊だろうと海兵だろうと奴隷だろうと全員殺す。それが私達の仕事。

 こちらも手練だが、相手も手練。海兵の一兵よりは強いだろうが、私達はまだまだ弱い。

 しかしだからと言って、怖気付くようなことはない。私もカイドウも。空へ飛び上がり、カイドウは獣型──龍に変型しながら、真っ先に攻撃した。

 同じく、私も合わせるように、

 

「なんだァ!? 龍にUFO!!?」

 

「気をつけろ!! 仕掛けてくるぞ!!」

 

 ロジャー海賊団の面々がそれぞれ私達の姿や技に驚き、身構える。それに構わず、私とカイドウは自らの技を放った。

 

「──“熱息(ボロブレス)”!!!」

 

「──“忿怒のレッドUFO襲来”!!!」

 

「!!?」

 

 龍となったカイドウの口から炎が凝縮されたような熱線が放たれる。龍となったカイドウの基本的な技であるが、船の1隻や2隻くらいなら簡単に消し炭にしてしまう程の威力があった。

 それに加えて私は、何気に今初めて成功させた技を使う。8つのレッドUFOを作り出し、炎弾を相手に向かって降り注がせる技。ついさっきまで7つまでしかUFOは出せなかったが、とうとう8つまでは生み出せるようになった。自分の成長を感じて嬉しくなる。これで普通のUFOは8つまで。3つを作り出す力を使って作る虹色は未だ2つまでだが、それでも後一つで3つは作り出せる。

 やはり戦いというのは成長の1番の友だ。特に、こんな極限の戦いならもっと強くなれるかもしれない。いや、なれるだろう。

 まあこの攻撃で海兵は沢山やられてしまうかもしれないが、それは運が悪かったと思って諦め──うわっ!? 

 

「──今は友軍だからな。あまり海兵を虐めてくれるなよ……!!」

 

「──前よりも確実に強くなっとるな……ぬえ、カイドウ……!!」

 

「レイリーにガープ!!」

 

 そこそこ敵を減らせると思った私とカイドウの攻撃は、それぞれ、レイリーの剣で熱線を逸らされ、またガープの拳によって防がれ、叩き落されていく。やっぱり一筋縄ではいかないかぁ……それにしても、拳一発でUFO壊されるのもへこむなぁ。大砲の一発くらいなら普通に耐えるんだけど、もっと耐久性も上げないとね。今後の課題だ。

 ただそれでこそやりがいがあるのだ。私は自然と笑みを浮かべてしまう。

 

「ふふん。まだまだ成長期なんだからねっ!! 強くなるのはこれからよ!!」

 

「ウォロロロ……!! 止めれるもんなら止めてみやがれ!!」

 

 カイドウと一緒に、再び突撃していこうと私は槍を構える。──しかし、

 

「──邪魔だよォ!!」

 

「きゃっ!?」

 

「っ!?」

 

 私達を押しのけるようにして、前に割り込んできたのは、右手に太陽“プロメテウス”を纏わせたリンリンだった。彼女は不敵な笑みを浮かべ、私達のことなんて気にもせず、その技を繰り出す。

 

「こっちの炎は防げるか!!? ──“天上の(ヘブンリー)”~~~“(フォイア)”ァ~~~!!!」

 

「!!!」

 

 圧縮された炎の塊。リンリンが自分の魂を分けて作った特別なホーミーズであるプロメテウスの一撃は、また確実に戦場に炎を撒き散らした。危なっ!? 

 その炎は確かに敵にも被害を与えたが、それは敵と肉薄していた味方のロックス海賊団も同じで、

 

「ぎゃああああ~~~っ!!?」

 

「ぐあっ!? てめっ、リンリン!! ふざけんな!!」

 

「被害がこっちにも……!!」

 

「ママママ……!! おれの攻撃範囲に近づくからさ!! 躱せねェ間抜けは今直ぐ敵と一緒に死になァ!!」

 

 リンリンが味方の怒声に対して、嗜虐心に満ちた笑い声を響かせる。

 すると今度はリンリンの更に頭上から苛立ったような声が聞こえた。

 

「チッ……()()()()()()()()()……!! ──ならてめェも同じだよなァ!!?」

 

「!!?」

 

 リンリンや他の者達が上を見上げ、驚愕する。頭上には、“金獅子”のシキ。彼が近くの岩壁を削って浮かせ、それを今にも敵味方関係なく落とそうとしていた。私達は空を飛んでるため、直ぐに退避して躱すことが出来るが、地上で接敵している者達はそうはいかない。

 

「やべェ!! 落ちてくるぞ!!」

 

「総員、退避~~~!!」

 

「うわああああああ!!?」

 

 ロジャー海賊団や海兵達も自分達にいる場所全体を影にしてしまうほどの大きさの岩石に慌てる。

 だがそれが落とされることはなかった。

 

「っ……いつもそうだが……仲間を巻き込むような戦いをすんじゃねェよアホンダラァ!!」

 

「っ!!?」

 

「白ひげ!!?」

 

 それはロジャーと剣戟を行っていた白ひげだった。薙刀で一度、ロジャーを弾き飛ばすと、そのまま地震の力を薙刀に込めて、頭上の岩石に向かって振るう。

 衝撃波が起きるほどの力の籠もった一閃。その斬撃は岩石に到達すると、震動によってひび割れ、砕け散った。

 だがそれでも止まらず、白ひげの一撃は遠くの岩山まで破壊してしまう。そのパワーと能力の規模はとんでもない。それだけならロックス船長をも上回るのではないかと思うほどだ。

 ただそれによって細かい石の破片が降り注いでくる。確かな被害は出ないものの、戦場は僅かに動乱し、もはや敵味方入り乱れた状態──それもこちらは味方同士でもこうやって巻き添えにするような攻撃を乱発する。

 だがこれがロックス海賊団の戦い方だった。圧倒的な個人の強さによるスタンドプレーの連発。連携する気など微塵もない。誰もが好き勝手に暴れまわり、それでも勝ってしまう。

 ただ今回の相手は、それだけでは中々押しきれず、

 

「っ……おいおめェら!! いい加減にしやがれ!! 敵だけを攻撃しろ!! 味方に手出してちゃ勝てる戦いも勝てねェぞ!!」

 

「黙れ白ひげ!! おれに命令すんじゃねェよ!!」

 

「あァん!? 何命令してやがる!! おれ達はおめェの部下じゃねェぞこら!!」

 

「先に殺されてェのか!!」

 

「……!! このバカ共が……!!」

 

 白ひげが味方同士で連携することを唱えるが、それに対し返ってくる言葉は反抗。命令をするなという怒りに満ちた声だった。ロックス海賊団の面々はロックス以外の言うことを聞くことはない。凶悪な連中ばかりであり、たとえ幹部と明言された連中の言葉でも、その場にロックスがいなければ平然と逆らったり、そうでなくとも不満そうにするような連中ばかりである。特にその幹部連中の仲は非常に悪い。誰もが隙あらば殺してやろうと機会を窺っている連中ばかりである。その証拠に、リンリンやシキも、

 

「てめェ、シキィ……!! おれに攻撃するってことは、もう命はいらねェってことだよな……!?」

 

「うるせェ黙れ!! おれァ忙しいんだよ!! あいつらをぶっ飛ばして、おれの部下に勧誘しなきゃならねェからなァ……!! それとも何だ? まずはお前からブチのめしてやろうか!?」

 

「おいリンリン!! シキ!! おめェらも争ってる場合か!! 敵も来てんだぞ!!」

 

 白ひげの再三の注意。それと同時にリンリンとシキは白ひげにも敵意を向けようとしたが、その前にロジャー海賊団の面々が動いていた。

 

「仲間割れか。悪いが、それを見逃すほどこちらも余裕はないぞ……!!」

 

「今のうちだ!! 奴等の数を減らせ!! 向こうは強ェがバラバラだ!!」

 

「おお!!」

 

 レイリーやギャバン、彼らを中心にマムやシキ、他のロックス海賊団の主力に当たっていくロジャー海賊団。

 そして中でも白ひげを相手にしているのは、

 

「わはは……!! お前、強ェな!! ニューゲートって言ったか!! お前ほど強い奴がロックスの部下か!!」

 

「っ……戦いの最中に笑ってんじゃねェよ!!」

 

 白ひげの一撃を止めるのは、向こうの最高戦力と言っていいロジャーだった。

 先程からロジャーと白ひげは他の連中が近寄れない程の凄まじい戦いを繰り広げている。白ひげの地震攻撃を真正面から防ぐのはさすがだ。昔も強かったが、今は更に強い。それは周囲に撒き散らされる破壊の跡からも見て取れる。

 白ひげも相当に強い筈だが、ロジャーは笑っていた。白ひげが思わず怒りを見せるが、それでもその不敵な笑みは消えることはなく、

 

「いいやおれは面白ェ!! お前ほど強い相手と戦えてんだからな!!」

 

「く……余裕ぶりやがって……!!」

 

「──そういうおめェは余裕がなさそうだぜ!? 海賊だってのに()()()()()()()()!! 大丈夫なのか!?」

 

「……!!」

 

 ロジャーは笑みのまま、白ひげをそう評し、大丈夫なのかと問いかけてみせる。

 それに対し、白ひげは一瞬言葉を詰まらせた。思い当たる節というか、ある意味で急所を突かれた気分なのだろう。

 だが白ひげは歯を食いしばり、敵であるロジャーを睨む。

 

「……敵の心配をしてんじゃねェよ!!!」

 

「──おお、そうだ! おれァあの野郎を追いかけなきゃならねェんだった!! だから悪いがどいてくれ!! お前との戦いはまた今度にしようぜ!!」

 

「~~~っ!! そんなふざけた提案聞けるかァ!!!」

 

「駄目か! わはははは!!」

 

 白ひげの攻撃が激しくなり、応酬するロジャーの剣も鋭くなっていく。

 その戦闘は凄まじい技術や身体能力、覇気など色んなことが参考になる宝の宝庫であり、同時に見て楽しめる最高の一戦でもあったが、向こうで巻き起こっているレイリーにギャバン、リンリンやシキなどの入り乱れた戦闘も見逃せないし、そして何より、こうやって観戦することもかなりギリギリでスリルある行動だった。

 

「子供とはいえ懸賞金が懸けられるほどの悪党だ!! 油断するな!!」

 

「おお!!」

 

「ああ、もう! 海兵は数だけは多いなぁ!!」

 

「ぎゃあっ!?」

 

 私は三叉槍を振り回して海兵を少しずつ蹴散らしながら、戦いを楽しみ、この凄まじい戦いの渦中にいて体験出来ることを楽しむ。炎や雷が落ち、地面が揺れ、様々な能力で不可思議な現象が起き、空には龍に、私のUFO。

 まるでこの世の終わりのような光景だ。1秒毎に何処かで誰かの声が消える。私も命を奪うし、油断すれば私だって死んでしまうかもしれない。何もかもが面白いのだ。

 

「“平安のダーククラウド”!!!」

 

「っ!!? 前が……!!」

 

「ぐあっ!!? な、何か飛んできてるぞ……!!?」

 

 黒い雲を出して弾幕とレーザーで敵を倒していく。海兵とはいえ、こうやって戦うことは楽しいものだ。

 ──しかしここまで厳しい戦いだと、ただ一方的に虐めることも出来ない。

 

「──ウォ……!!?」

 

「! カイドウ!?」

 

 突如、カイドウが苦悶の表情を浮かべ、龍状態を解除して地上に落ちてくる。

 口元から血を流すカイドウに近寄り、周囲の海兵を倒していくと、その前に見知った顔が現れた。

 

「ふん……デカいと良い的になるだけだ……!!」

 

「! ガープ!!」

 

 武装硬化で黒く変色した拳。それで叩き落としたのだろう。そこにいたのはガープだった。

 私は咄嗟に、同じく武装色の覇気を込めた槍をガープに向かって振るう──が、それは簡単に拳でガードされ、

 

「ぬえ……覇気など使いおって……お前とカイドウも、もう立派な海賊だな……」

 

「まだ見習いだけどね!! でもここから立派になっていくのよ……!!」

 

 うぐぐぐぐ……! 力を込めても全然動かない。ピクリともしない。見聞色で動きを読んでも上回られるし、ちょっとさすがにマッチアップ悪くない? ガープなんて私とカイドウが相手にするべきじゃない。ちょっと! 誰か手助けしなさいよ! 

 

「ぐぐ……レベル差が酷い……!!」

 

「……ふん」

 

「きゃあっ!?」

 

 拳であっさりと吹き飛ばされる。うぐぐ、くそう……化け物め……!! 

 

「ウオオオオオ……!!!」

 

「! まったく……このガキ共は凶悪に成長しおって……!!」

 

 黒雲がダメージで消えてしまい、私が体勢を立て直そうとしてる間に、カイドウは既に立ち上がって金棒をガープに向かって振り下ろしていた。並の相手──それこそ、覇気の使えない相手の鉄塊くらいなら容易に叩き潰せるカイドウの武装色と腕力だが、やはりガープ相手には通用していない。こちらも拳であっさりガードされており、

 

「この野郎……!! おれは負けねェぞ……!! おれは最強の海賊になるんだからなァ……!! ウブッ!!?」

 

「カイドウ!!」

 

 ガープの拳が腹に突き刺さり、カイドウが再び吹き飛ぶ。マズい。あれくらいじゃ死なないだろうけど、さすがにガープとこれ以上戦うのはよろしくない。私はカイドウの下に駆けつけようとして、

 

「うおおお!! ここで止めてやる!!」

 

「大人しくお縄につけ!!」

 

「っ……このっ……邪魔……!!」

 

 海兵達に囲まれて、行く手を阻まれる。数だけは多いから本当に面倒だ。ちょっとイライラする。これは面白さより面倒さが勝った。三叉槍を振るっても振るっても切りがない。あー、もう! 

 

「いい加減に……どきなさいよっ!!!」

 

「っ……!!」

 

「む……!?」

 

 私は叫び、そして槍を振るう。すると一瞬、私に注目が集まった気がした。え、何? ──でもしめた! 

 

「隙あり!!」

 

「あっ!?」

 

 私は跳躍し、空を飛んで、一気にカイドウの下へ。

 そして周囲の海兵に再び攻撃を仕掛けながら、ガープと対峙し、敢えて笑ってみせる。

 

「大人げないわね! 子供に向かって寄ってたかってないで、もっとヤバい奴等のところに行きなさいよ!」

 

「……それもそうだが……それより、今のはお前か?」

 

「ん? 今のって?」

 

 何故か急に質問された。だが意味が分からず私は頭に疑問符を浮かべる。いや、ほんと何? 何もしてないけどな? 

 

「……覇王色……まさか()()()()使()()()()()()

 

「……ふぇ?」

 

 ……ん? …………えっ!? 覇王色!? 覇王色ってホント!? え!? いや、でも……? 

 

「……いやいやいや、誰も気絶とかしてないじゃん」

 

「……そりゃお前がまだ弱いからだろう。実力差が離れてないと気絶させるようなことは出来んからな」

 

「……え。なにそれ、恥ずかしい……」

 

 え、えー……いや、覇王色? 今のちょっと怒ってみた感じのが? ……うーん……嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、それでも恥ずかしさの方が勝る……覇王色を地味に発動したのに、周囲の人が僅かに気づくくらいで、まだ誰も気絶させられないとかダサくて……そんなのない方がマシじゃん!! 

 

「……誰か1人くらい気絶してくれてもいいじゃん!! さすがに海兵よりは強い筈なのにさ!!」

 

「──何人かはふらついていたがな。見ろ」

 

「ぐ……危ない……意識が飛びかけた……」

 

「ギリギリだったな……でもなんとか耐えられた……」

 

「あれ……? たまにガープ中将のうっかり覇王色をくらって気絶してばっかりのおれが耐えられた……? もしかして、それほど実力差はないのでは……?」

 

「──なんでどいつもこいつもギリギリなのよ!! ふざけんな!! 私のカッコいい覇王色覚醒シーンを返せ!!」

 

 く、くぅぅ……なんてことだ……覇王色の覚醒って、もっとこう……何か許せないこととか、大切な何かを失いそうなシーンで思わず発動してしまい、周囲の雑魚がばったばったと倒れて皆が驚愕してあいつはヤバい……凄い……!! って讃えられるシーンの筈なのに、なんでもない時に発動して、しかも誰も倒れず、それどころか気づいたのは一部の人達だけで、向こうにいるロックス海賊団の面々とかは殆ど戦ってて気づいてないとか……誰からも恐れられないし褒められない覇王色なんてある!? 王の素質ないじゃん! 

 

「く、屈辱ぅ……! 褒められたかったぁ……!!」

 

「ぬえ……お前の覇王色、なんて弱ェんだ……さすがだぜ……」

 

「褒めてない!! というか、覇王色が弱いんじゃないから!! 覇王色は鍛えるものじゃなくてコントロールするものだし! 効いてないのは私と実力差のある弱い敵が偶然いなかっただけだから!! 自分で言ってて悲しいけどね!!」

 

「……もう戦ってもいいのか?」

 

うるひゃいガープ!!  ……まだもう少し……くっ……待って…………い、今のはわざと噛んだんだからねっ!!」

 

(そのまま流しとけばいいのに自分から言った……)

 

 くっ……ヤバい。なんか生温かい目で見られてる気がする。このままじゃ私の恐怖が薄れる。可愛さと正体不明の恐怖がモットーなのだ。あまり情けないところを見せては舐められてしまう。覇王色についてはまた今度だ。

 

「……とりあえず、気を取り直して戦うわよ!! ほらカイドウ!!」

 

「おお……!! 行くぞぬえ……!!」

 

 と、私とカイドウは再び得物を持って戦いを続けようとする。海兵達も身構えた。

 

 ──その瞬間。

 

「──ショ~~~トケ~~~キ~~~~!!!」

 

「うぎゃああああああああああああっ!!?」

 

「!!?」

 

 その聞き覚えのある声と、大勢の人間が吹き飛んだその絶大な威力の攻撃。

 それらを聞いて、何が起こったのか見当がつかない者はロックス海賊団にはいない。まさか、このタイミングで──

 

「やべェ!! リンリンが食いわずらいを起こしたぞ!!!」

 

「何やってんだバカヤロウ!!!」

 

「おいシュトロイゼン!! さっさとショートケーキを作れ!! おれ達まで危ねェんだよ!!」

 

「──今やってる!! 少し待てリンリン!! ……いやまてよ……! ──おい! ケーキは向こうにあるかもしれねェぜリンリン!! あの海兵共の方だ!!」

 

「は?」

 

 突然起こったリンリンの食いわずらいに戦場が大混乱。こうなると見境なく暴れる化け物と化すため、本気で手に負えないのだ。

 なのでコックのシュトロイゼンに頼んで注文の品を作って貰うしかないのだが……そのシュトロイゼンが何を考えたのか、ケーキは海兵達が持ってると言ってみせた。

 するとリンリンは、僅かに残った思考から、海兵達の方……私達がいる方向を向くと、

 

「──ショートケーキを寄越しなァ~~~~!!!」

 

「!!?」

 

 そのゼウスに乗ったままの状態で海兵達の中に突っ込んできた。あーもう! 意図は分かるけどメチャクチャだよ!! こっちまで巻き込まれかねない!! 

 

「しょうがない……一先ず離れて──」

 

「ショ~~~トケ~~~キ!!!」

 

「うわっ!? こっち来た!!?」

 

「んなもんおれ達が持ってる訳ねェだろババア!!!」

 

 さすがのカイドウも食いわずらいのリンリンにはそうツッコむ。ただ話が通じないからこそ“食いわずらい”なのだ。

 

「──“威国”!!!」

 

「今日一の大技撃つなぁ!!!」

 

「いい加減にしねェと殺すぞリンリン!!!」

 

 いやほんと……まだ出来ないけどどうにかしてほしい。斬撃を何とか躱してみせるが、その衝撃は周囲を破壊し、

 

「やべェ!! 崖が崩れるぞ!!」

 

「誰か早く止めろォ!!!」

 

 戦場の脇に聳え立つ崖がリンリンの一撃で崩れていく。相変わらずとんでもな威力だなぁ……って、感心してる場合じゃない! 

 

「ショ~~~トケ~~~キ!!!」

 

「っ……!!」

 

 とうとうリンリンの攻撃が仲間を捉える──だがその瞬間、割って入ったのは、

 

「ぐっ……!!」

 

「! 白ひげ!!」

 

 逃げる仲間を庇い、白ひげはリンリンの一撃を受け止め、左腕に傷を受ける。リンリンのプロメテウス──炎を纏ったサーベルが原因だ。

 だがそれくらいで倒れる白ひげではない。返す刃の如く、武装硬化した腕でリンリンの胸ぐらに向かって、

 

「──大人しくしてやがれってんだ!!!」

 

「!!!?」

 

 地震の力と覇気を込めた拳をお見舞いする。

 するとさすがのリンリンも、白目を剥いて悶絶し、崖に向かって大きく吹き飛ぶ。うっわ、容赦ないなぁ……地震パンチはヤバい……どんくらいヤバいかって、今の一撃の衝撃で地面がものすっごい揺れて、地割れが若干起こってるレベル。まあ飛ぶから私は平気だけど、周りが平気じゃない。

 

「ハァ……ハァ……あのバカ女が……!」

 

 そしてさすがの白ひげも傷を負ったし、ちょっと疲れている様子だった。なんだろう……ちょっと不憫になってきたなぁ……いやまあこのドタバタした規模のでかすぎる戦いが面白いからいいんだけど、白ひげの苦労は察して余りある。──今不意打ちとかしたら如何に私でもさすがにキレられるかな……危ない思考を直ぐに消しておく。

 だが白ひげはやはりさすがで、それを終えて直ぐに薙刀を手に向き直るとロジャーに向かって、

 

「……待たせたな……!! さァ来やがれ!!!」

 

「…………」

 

 再び勝負をつけようと啖呵を切った。

 その姿を、ロジャーは黙って見ていたが、ふと何を思ったのか、ニヤリと口端を歪め、

 

「──よしわかった!! ()()()()今は戦わねェ!!!」

 

「──はァ!!?」

 

 その言葉に白ひげが予想外と言わんばかりに驚愕する。ロジャー海賊団の面々も驚いていた。……また今度はどういうつもりなんだろう、あのバカ海賊……。

 どんなメチャクチャな言い分を今度は炸裂させるのだろうかと、私はそれを耳にする。するとロジャーは白ひげに屈託のない笑みを見せて、

 

「お前は嫌いじゃねェし、殺し合うにもケチがついちまった!! だから勝負はおあずけにしようぜ!!!」

 

「っ!! 何をバカなことを言ってやがる!! こんくらいの傷で情けを掛ける気か!!? バカにするのも大概にしやがれ!!」

 

「そうじゃねェ!! 全力で戦えねェお前と戦ってもおれが楽しくねェんだ!!! だからまた今度だ!!! それにロックスを追わねェとならねェしな!! ──おい行くぞ!! ガープ!!」

 

「はァ!? おいロジャー……!! ──って行くの早ェんだよ!!! 待ちやがれ!!!」

 

「……!! 待て……!!」

 

 そのロジャーが言い放った言葉に、白ひげは一瞬だが動きを思わず止めていた。何を思ったのか。足を止めて、去っていくロジャーを険しい表情で見つめている。すぐに追撃を行うけど……どうやら白ひげは複雑な思いを感じているようだった。

 だがそうやって迷っている隙にロジャーは全力ダッシュでその場を離脱しようとし、ガープも去っていくロジャーに怒りながら追いかける。すると宙にいたシキが、

 

「!! ──おい待ちやがれ!! 行かせねェぞ!!」

 

「わはははは……!! お前も殺し合ったら楽しそうだがまた今度だ……!!! じゃあな!!」

 

「っ!!? ──ぐ……だから行かせねェよ……!!」

 

 追いすがり、両手の剣を振るったシキだが、それもロジャーに弾かれ、背後に下がらされる。その隙にロジャーとガープが島の奥に向かっていくが、更にシキは追いかけようとして、

 

「──悪いが、ここは通行止めだ」

 

「!!? てめェ……レイリー……!!!」

 

 今度はレイリーがシキに斬撃を飛ばして釘付けにしてしまう。シキも悟ったのだろう。レイリー程の相手に背後を見せるなど自殺行為でしかないと。

 結局、ロジャーとガープに突破されたことを見たロックス海賊団の、特に下っ端でロックス船長に恐怖している面々は、途端にざわつき、

 

「おい行っちまいやがったぞ!!?」

 

「やべェ……お頭に殺されねェか?」

 

「これ以上抜かせるな……!! おれ達の命も危ねェぞ……!!」

 

 口々にロックス船長の命令を遂行出来なかったことに恐怖を感じている。……逆に私などは面白いことになってきたとワクワクし始めてきた。あ~~~気になる!! ロックス船長とロジャー、ガープの戦いとかすっごい見たい!! でもここでレイリー達とやり合うのも楽しい!! どうしよう!! 

 

「こうなったら……私達も行くよ!! カイドウ!!」 

 

「……! ああ、当然だ!! ロジャーの野郎が行っちまったからな!! おれ達も追いかけるぞ!!」

 

 私とカイドウは声を掛け合って島の中心に向かって移動する。他のロックス海賊団の中心メンバーもロジャー海賊団の主力に合わせて同様に。戦いはまだ続く。

 ──だがそんな中、

 

「……あの野郎……」

 

 白ひげが谷の方を見て僅かに逡巡し、しかし筋を通す為に再び薙刀を取り、追手を食い止めるべく少し遅れて私達に続いて戦いを再開した。

 

 

 

 

 

 ──ゴッドバレーという島の中心地には、その名前を表すように、巨大な谷が存在する。

 左右に聳え立つ断崖、そして谷の高さは最深地点で2000メートルにも及ぶ大峡谷だ。

 普段はその王国にとって重要な祭壇が存在するそこは現在、天竜人の催した先住民一掃大会のための会場となっており、景品となる幾つもの宝箱が置かれている。

 そして天竜人もまた存在していた。その周囲には海兵達が彼らを守るために必死に動いている。

 だがその谷には今──神とは反対の“悪魔”が足を踏み入れていた。

 

「──どけCP0!! そんなんじゃおれは止められねェぜ!!」

 

「くっ……!!」

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 その島の中心に息も絶え絶えになりながら立ち塞がるのは天竜人の盾となる世界最強の諜報機関。CP0の2人。

 だがその2人であっても、この大海賊相手には時間稼ぎが精一杯であった──もしかしたら時間稼ぎすら出来ていないのかもしれない。

 何故ならその悪魔……ロックスは敵を目の前にしながら周囲を見渡し、気配を見聞色で感じ取りながら別の場所に意識を割いていた。

 CP0など片手間で相手に出来る。そう言外に態度で示しながら、ロックスは突撃してくる。

 

「宝と天竜人の奴らはその奥だな!! 行くぞ野郎共!!」

 

「おお!!」

 

「っ……止めきれん……!!」

 

「このままでは……!!」

 

 CP0はロックスを止められないこと。この場を通してしまうことを懸念し、しかし大勢の海賊たちを前に何も出来ない。普通の天竜人達は下がらせた。だがこの悪魔を倒さなければいずれは追いかけて殺される。たとえ天竜人が逃げられたとしても、宝は根こそぎ奪われてしまう。

 だから倒さなければならない。必要以上に情報を与えず、悪魔に向かって身構えたが、ロックスは笑みを崩さず、

 

「ギハハ……!! そうかよ!! なら答えなくても構わねェ。情報を得る方法なんざ他にもあるからなァ!!」

 

「っ!! “(ソル)”!!」

 

「“剃刀(カミソリ)”!!」

 

 ロックスが凄まじいスピードで動いたのを見て、CP0の両名も高速移動を行う。地上を走る(ソル)に、空中を剃のスピードで移動する月歩の派生技、剃刀(カミソリ)

 同時に捉えられないように距離を保ち、どちらかがロックスの背後を取れるようにした。

 だがロックスにはそんなことは関係なかった。ロックスはいとも容易くCP0の1人の胸に剣を突き立て、もう1つの手で頭を掴む。

 

「──()()()()()()? ギハハ、分かりやすい手だが……そんなもんはこのおれに通用しねェんだよ!!」

 

「っ……!! ぐ、は……!!」

 

 読まれた──いや、違う。未来を読まれた。

 極まった見聞色の覇気により、何をするかを見られたが、それで何を対処するでもなく、ロックスは2人のCP0を一蹴する。

 

「ギハハハ!! 呆気なく死んだか!! そのまま最期の時まで後悔してな!! このおれに逆らったことをよォ!!!」

 

「っ……!」

 

 笑みを浮かべて見下ろしてくる男に、背筋が凍りつき、その男の異名にもなっている二文字が頭に浮かぶ。

 ──“悪魔”だ。

 この男はまさしく悪魔。そうでなければ怪物。化け物。人外の何か。

 六式を極め、超人と呼ばれたくらいでは敵わない。超人でも、人は人だ。悪魔に勝てる道理はなかった。

 

「相手がおれだったのが運の尽きだ!!」

 

「!!!」

 

 パン、と気がつけばロックスは銃を引き抜き、倒れるCP0に向かって追い打ちの覇気を込めた銃弾を放っていた。

 それは致命傷だ。もう助からない。即死ではないものの、いずれは意識が消える。もはや助からない束の間の意識の中。

 

「──安心しな。“死“はおれの支配下だ。そこでなら苦しむことはねェ。全てから解放されて……おれの“支配”の中で“自由”に過ごしな……!! ギハハハハハハ……!!!」

 

 ──そうして、悪魔の嘲笑う声を最期に、彼らは意識を闇に溶かした。

 

 だがその時間稼ぎは決して無駄ではない。破竹の勢いで猛突するロックスに、彼らが辛うじて間に合ったのだから。

 

「私に続け!! 神の騎士団!!」

 

「あァ?」

 

 逃げる気配ではなく、向かってくる気配。そして目視もする。

 ロックスは自分から逃げる天竜人ではなく、剣や銃などの得物を持って向かってくる強い気配の天竜人の集団を見て訝しむ。

 その瞬間、その集団の戦闘に立っていた青年が凄まじい速度でロックスに向かって距離を詰め、剣を振りかぶった。

 

「死ね……下界のゴミが」

 

 その剣の鋭さは並の海賊や海兵──いや、実力のある者であっても沈めることの出来るほどの威力が籠もったものだった。

 そしてそれは他の天竜人達も同じ。彼ら、神の騎士団は天竜人にあるまじき強さを持っている集団である。

 だが、

 

「ほう……? これは驚きだぜ……()()()()()天竜人がいるとはなァ……!!」

 

「!?」

 

 その決して弱くはない攻撃を、ロックスはいとも容易く覇気の籠もった剣で防ぐ。

 そしてその悪魔の名に恥じない笑みをその攻撃を放った天竜人──フィガーランド・ガーリング聖を含む神の騎士団の面々に向けた。

 

「だがおれの前じゃ等しく狩られる者だ……!! ギハハ……!! 運がいいぜ……そっちから殺されに来てくれるとはなァ──ギハハハハハ!!!」

 

「っ!? 下がれ!!」

 

「ギハハ!! 神の座はおれの物だ!!! 神殺しを見せてやる!!!」

 

 ロックスの剣に、凄まじい量の悍ましい覇気が充満する。

 それは周囲に影響を与えるほどだった。まだ技を放っていないにも関わらず、周囲に黒い稲妻のような余波が走り、地面や建物に亀裂を走らせる。

 そのありえないほどの覇気の気配にガーリング聖は思わず指示を出した。

 ロックスの全身から放出され、そしてその剣に纏っているそれはただの武装色の覇気だけではない。

 王の素質である覇王色の覇気。それを剣に纏ったロックスは、天竜人を皆殺しにするためにその剣を振った。

 

「“レーヴァテイン”!!!」

 

「!!!?」

 

 覇王色の覇気を纏った凄まじい剣の一撃。

 言ってしまえばそれだけの技が、周囲を破壊するほどの凄まじい衝撃波を余波でもたらし、その剣の先にあるあらゆるものを破壊する。

 

「うわあああ~~~~!!?」

 

「谷が……!!?」

 

 それは直撃していない神の騎士団を吹き飛ばし、巨大な谷の一部を削り取るほどの威力だった。

 

 その威力にさすがの天竜人、神の騎士団も口には決してしないがその強さを感じ取り、怖れを心中に浮かばせた。

 

「ギハハハハ!! さァ!! 審判の時だ豚共!! “運命”とやらはおれとおまえら……それにあいつら!! 誰を生かすのか!! 答え合わせの時だ!! 精々このおれを楽しませてみろ!!! ギハハ、ギハハハハハ──!!!」

 

「……! 野蛮なゴミが……!!」

 

 ガーリング聖は頭から血を流しながらその下界の人間、海賊を強く睨みつける。

 

 ──そうして“悪魔”の襲来によって、“神”もまたこの乱戦に参加する中、悪魔は期待していた。

 ロックスにとって初めての“敵”となり得るあの2人だけではない。待ち望んだ答えを知れると思い、彼は悪い笑みを浮かべていた。




改訂しました。主にロックスの戦闘場面です。技やら神の騎士団やらの描写を追加。

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