正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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神と奴隷と悪魔

 島の中心から少し外れた北側にて、怪物同士の戦いは激しさを増していた。

 

「ギハハハハ!!」

 

「っ……!!」

 

 強大な覇気の籠もった斬撃、あるいは銃撃が島を穿ち、そしてその怪物を傷つける。

 不敵な笑いを崩さず、攻撃をひたすらに続けるロックスに対し、攻撃を受けて反撃を行いながらも再生を続けるサターンの戦いは、おそらく誰にも理解が出来ないものだった。

 もう何度目かになるはずの致命傷。それを与えながらも傷を直して立ち上がってくるサターンに、ロックスはくつくつと笑いながら告げる。

 

「どういう絡繰かは知らねェが、その能力と再生力は大したもんだ!! だが……それだけじゃこのおれを止めるには至らねェ!! ガッカリだぜ!! 五老星!! ようやくおれの敵になりえる奴が現れたと思ったのによォ!!」

 

「……!!」

 

 もはや人間ですらない気配と目を見せながらも、ロックスは怯むことなく押し続ける。そして、サターンはロックスに対して有効打を与えられないでいた。

 その能力と再生力で留めることは出来ていても、その戦闘は一方的にも等しいものである。

 まさしく“海の悪魔”であり“神の天敵”とも言える強さ。その強さは正体不明の力を振るう五老星であっても太刀打ちが敵わない。

 

「ただ再生するだけじゃあ面白味はねェぞ!! ギハハ!! とはいえ厄介には変わりないが……なるほどな。お前らの正体にそろそろ見当が付いてきたぜ……!! お前らを殺す方法にもな……!!」

 

「……!!? 貴様、まさか!!」

 

「ギハハハハ!!! 報告を読まなかったか? それとも油断してたか? 戦闘中だろうが触れさえすりゃ読み取ることぐらいワケねェんだよ……!! このおれの覇気を甘くみたな!!」

 

「っ……!!」

 

 しまった、とサターンはそこで自らの失態に気づく。戦闘中の頭上への打撃。そこから読み取られた情報は、あるいは知られてはいけないものも孕んでいるかもしれないと。

 

「ギハハ……ギハハハハ!!! 面白ェ!! 知りてェことがまた増えたぜ!! 知れば知るほど知りてェことが増える!! この謎は唆るぜ!! 五老星……!! 天竜人……!! 神々の頂点……!! この世界!! まだまだ知らねェことが山程ある!!」

 

「ロックス……貴様……!! (やはり何としても消す必要が……!!)」

 

「やはりおれの目には狂いはなかった!! お前らを皆殺して全ての謎を解き明かせば、このおれが世界の支配者になれる!!!」

 

 ロックスは断片的な情報を読み取り、有頂天にも達したような気勢を露わにする。ロックスの野望。その成就のために、目の前の怪物を殺すことはやはり間違いではなかったと。

 そして反対にサターンはロックスの危険性が更に跳ね上がったことを危惧していた。そして迷う。ロックスを消すにはどうすればよいか。()()()()()()()()()()()()()()()、あるいはここで()()()()()()()()()()()()

 それでもロックスを消せるかどうかは分からない。分からないが、このまま手をこまねいていてはそれこそ取り返しのつかない事態に陥る可能性があった。

 

「……やむを得ん、か」

 

「ギハハ……何かするつもりか? だったら見せてみろよ!! おれはその何もかもを踏み越えて支配してやる……!! このおれが……お前らにとっての死神だ!!!」

 

 サターンが迷いながらも覚悟を決めると、ロックスもまたその気配を未来視で読み取りながら全てを殺し尽くしてやると更に覇気を込めて相手にしようとして──そこで気づいた。

 

「ム!?」

 

「! この気配は……」

 

 こちらに近づいてくる者達。相当大きな気配。自分に匹敵しかねない2人の人間の気配だ。

 それを感じて、ロックスは笑った。これでまた引っ掻き回される。神殺しも後回しだと残念に思いながら、

 

「──ギハハ……!! 随分とお早い到着じゃあねェか……ロジャー。それにガープ……!!」

 

「──追いついたぜェ~~~!!! ロックス~~~!!!」

 

「──ロックス!!! 貴様の命運もここまでだ……!!!」

 

 ロックスの下に辿り着いたのは、ロックスに近しい2人の男──海賊ロジャーに、海兵ガープ。

 この場にいるロックスと目の前のサターンを含む“神”達の宿敵とも言える存在。そんな彼らが集ったことに、ロックスは口の端をこれ以上ないほどに釣り上げた。

 

 

 

 

 

 島の中心部に空中から移動すれば、そこにいたのはどういうわけか子供だった。

 いや、というか奴隷か。そりゃ奴隷なら子供もいるよね、と私は納得する。だけどどこかで見たことあるような……もしかしてだけど、私が知ってる相手かもしれない。

 

「誰だか知らないけど……それを渡しなさい!!」

 

「!!」

 

「渡さないなら殺すしかないんだからね!!」

 

 身体の大きい子供が私にビビって下がるが、私が飛び蹴りをかました顔の濃い子供が声を張り上げた。

 

「食え!! くま!! 考えるな!!!」

 

「くま……ふーん?」

 

 その顔の大きい、先程「イワちゃん」と呼ばれていた子供の言葉を聞いて私は内心でやっぱりと驚きを感じる。え、なんでこの2人がここにいるの!? と。

 とはいえ私が知っている範囲にないことだからそういうこともあるかと納得するしかないのだが。ふむふむ、この2人この頃から知り合いだったんだねぇ……それはなるほど、面白い。だからといって手心を加えるつもりはないけどね! 

 

「よく分かんないけど、せっかくだし私の相手をしてもらうよ!!」

 

「そいつを食って助かれくま!! 1人でも助かりゃあ!! ヴォレ達の!! 勝ちだ!!!」

 

「……!!」

 

 私の視界の中でくまがその手に持っていた果実を口にする──ってことはそれはニキュニキュの実かな? それとも別の実だろうか。興味はあるも、すぐに能力を発揮出来るとは限らないし、私は槍を振るうことにする。

 

「同じ子供同士!! 戦いには子供も大人もないからね!! ってことで死んでもいいよ!!」

 

「うっ……!!」

 

 私の放った槍が、くまの肩の肉を突き取る。うーん、やっぱり弱い。まあ覇気も使えない鍛えてもないただの奴隷の子供であればこんなものなんだろうけどさ。さっきまでロジャー海賊団やらガープの部下の海兵と戦ってたから余計に弱く感じる。

 というか宝の1つを食われちゃった以上は別に相手をする必要もないんだけど、それはそれとして興味があるから追撃をする。死んでも死ななくても構わない。私としては、自分の楽しみが最優先だ。

 

「ほら追撃行くよ!! 反撃してもいいからね──ん!?」

 

「逃げろ……くま……!!」

 

 と、そうして追撃を行おうとすると決死の覚悟でイワンコフが私の足に飛びついてきた。さすがだけど、それでも弱い。

 

「邪魔!! おりゃ!!」

 

「っ……!!」

 

「イワちゃん……!!」

 

 飛びついてきたイワンコフの顔をもう1度蹴り飛ばす。そうして心配の声を上げたくまに、今度はUFOの弾幕を放った。

 

「反撃してみなって!!」

 

「う、うわああああ!!」

 

 そして悲鳴。私のことがそんなに恐ろしかったのだろうか。失礼な。ロックス海賊団じゃ1番か弱い女の子で通ってるのに。

 まあでもいきなりUFOから攻撃されたりすりゃ声の1つも上げるだろうと思いながらも、私は追撃をしようとして──

 

「まだ宝が……!!」

 

「あ──って、こらこらこら!! そりゃ駄目だって!!」

 

 ──しかし、私の背後で他の宝を奪おうとしていた奴隷達を見つけて私は急停止。そしてすぐに踵を返す。知っている人とやり合うのは楽しいけど優先すべきは私の手柄!! 

 

「死ねっ!」

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 なので普通に槍を突き刺して奴隷達を殺す。今度はくまと違ってクリーンヒット。身体の中心に槍が刺されば人は死ぬ。当然のことだ。槍の良いところだよね。

 

「弱肉強食!! 恨むんなら自分の弱さを恨みなさい!!」

 

「──おいぬえ!! 宝はどこだ!!? ロジャーは!!?」

 

「遅いよカイドウ!! こっちこっち!! ほら、お宝いっぱい!! 金品ちょっとくすねても余るくらい!!」

 

 そうして何人かの奴隷を容赦なく殺したところで私を追いかけてきていたカイドウが到着する。ちょっと遅いのはどうせ一々立ち塞がる誰かを相手にしていたからだろう。さっさと潜り抜けてくればいいのにと思いつつも、カイドウだからしょうがない。私は宝の中から適当な金品を手にとってUFOに収めながら──

 

「──誰の宝に手を出している……?」

 

「──うわっ!!?」

 

「ぬえ!!」

 

 と、ウキウキで宝を回収していこうとしたところで背後からの声掛け。それと共に斬撃が来たので私はそれを防御。退避。衝撃を感じながらも何とか避ける。カイドウの声が聞こえたが、そちらに振り返る余裕はない。私の目の前には、なんか変な髪の剣士らしき男が立っていたから。

 

「誰よあんた!! 変な髪の不審者!?」

 

「下等なゴミ……ハイエナが。神の持ち物に手を出すとは……万死に値する」

 

「うっ!!」

 

 誰かは知らない。知らないけど、その口ぶりには覚えがある。分からないけど……もしかしたら天竜人かもしれない。

 いや、というかそんなこと考えてる場合じゃない! こいつ変な髪の癖に強い! 

 

「カイドウ!! 2人でやるよ!!」

 

「おう!!」

 

「──おっと! こっちの奴も活きがある獲物だね!」

 

「!?」

 

 カイドウに声を掛けて相対しようとして、しかしそこに参戦してくるまた別の敵。今度もまた海賊でも海兵でもないっぽい連中だ。その女にカイドウが止められ、続々と敵が参戦してくる。

 

「手伝うか!? ガーリング!!」

 

「不要だ……それより宝を回収し、ゴミの駆逐を優先しろ!! “神の騎士団”!!」

 

「ああ!」

 

「誰がゴミだ!! 死ね!!」

 

「っ……こいつも中々……!」

 

 神の騎士団、そう呼ばれた連中がそのガーリングと呼ばれた男の命令で動く。カイドウが暴れ始めるも、カイドウ相手に戦闘が行えていることから結構やるみたいだ。

 そしてその中で1番強いっぽいのが、目の前のガーリング。なんか見覚えある気もするけど思い出してる余裕ないんだよね! 

 

「“平安のダーククラウド”!!」

 

「む……!」

 

 まずは目眩まし! 私の十八番。どんな強者にも一定の効果が見込める黒雲を生み出し、そうしてUFOからも弾幕を放つ。

 

「! このゴミ……見覚えがあるな……もしや……」

 

「ブツブツ呟いてる暇があったら私に殺されてちょうだい!!」

 

 そして攻撃を行うが、何やらガーリングは私を見て何かをブツブツと呟いていた。……もしかしてだけど向こうも私に見覚えがあるんだろうか。天竜人であればそれはありうることだから何の不思議もないけど……だったらちゃんとやり返さないとね! 

 

「……いや、どちらにせよ斬るべきだな」

 

「うげっ!? 止められた!?」

 

 黒雲の中に隠れて槍で串刺しにしてやろうとしてみたけど、それを難なく止められる。それどころか弾かれる。隙が出来てしまった。なので急いで防御。武装色を使って防御で致命傷を回避! 

 

「勝手に突っ込んで起きながら隙を晒してんじゃねェよアホンダラ!!」

 

「!」

 

「……! 白ひげ!!」

 

 ──が、そこでガーリングの剣が私に振り下ろされる前に、私の前に出てその剣を防いでくれる。

 そうして私を守ってくれたのは白ひげだった。薙刀を振るい、ガーリングを下がらせると私に向けて声だけを向ける。

 

「宝の回収を優先しろって言わなかったか!!?」

 

「みんなが遅いから先に来て遊んでただけだよ!! それにそこそこ宝は回収したし、そこにもまだ──うわ!!」

 

「おいこっちだ!! 宝がある!! 白ひげにぬえの奴もいるぞ!!」

 

「海賊に容赦するな!! ロックス海賊団を最優先! それ以外は後回しにしろ!!」

 

 そして白ひげが来て少しして、今度はロジャー海賊団。そしてガープの部下と思われる海兵達もやって来て当然ながら攻撃が飛んでくる。またしても乱戦だ。それも今度は、神の騎士団とかいう天竜人の武芸クラブ? 的な人達も混ざっていて。

 

「宝を寄越せ!! それはおれ達のもんだ!!」

 

「それは出来ねェな!! 船長命令だからな!!」

 

「大人しくしろ!! 海賊共!!」

 

「こんなにもゴミが集まるとは……!!」

 

 戦いは合図を待たずに続く。

 もはや誰が誰を相手にするか。その境目さえ曖昧だ。とにかく自分の味方以外の全てを相手にして立ち塞がる者を相手にする大乱戦。

 

「ウォロロロ!! 楽しくなってきたぜ……!! 行くぞ、ぬえ!!」

 

「ええ!! やるよ!! ──うわっと!!」

 

 飛んできた攻撃を回避して空中に逃れる。やっぱり地上に居続けるとどこから攻撃が飛んでくるか分かりづらくてキツイ。強い人ばっかりだからね。

 そんな中でやり合うとすればこっちも隙を狙ったり、工夫をしたり。色々と趣向を凝らす必要があるのだ。カイドウは楽しそうだし私も楽しいけど、弱者であれば生き残るために色々と考えた上で戦わないといけない。

 後はロックス船長達の戦いを見に行きたいし、どっちを選んでも楽しそうなんだよね。さて、どうしようかな──

 

「──ん? あれ、は……」

 

 ──と、そう思ったところで私はそれを見つけてしまう。

 少し離れた場所島。少し入り組んだ岩山の地形に、隠れるようにして、1人の目立つ格好をした──()()()()()()()()()()()

 

「……………………ふふ」

 

「! おいぬえ!! どこに行きやがる!!」

 

「ちょっと良い獲物見つけたから行ってくる!!」

 

 その瞬間、私の行動は決定してしまった。声を掛けてきた白ひげに告げながら私は飛んでいく。

 戦いに参加するか、見物するか。普通に考えたら前者で、後者も危険だがなくはない選択肢。

 だが、私は久し振りに彼らを見て、どうしようもなく疼いてしまう──そんな嗜虐心を自覚し、口端を歪ませてしまいながら、私は真っ先にそちらに向かうことにした。

 

 

 

 

 

「チッ……逃げやがったか」

 

「今のはなんだ? おい、ガープ」

 

「五老星……か。いや、だがさっきの姿は……」

 

 そして島の中心部から少し離れた谷底。

 そこではロックスとロジャー。そしてガープが、彼らが現れるなり逃げていった怪物──サターンのことに疑問しながらも、

 

「ギハハ……こうなりゃ仕方ねェ。先にお前らから片付ける必要があるが……その前に聞きたいことがある。なあお前ら、世界とは……何だと思う?」

 

「──知るか! 死ね!!」

 

「おい!! 気持ちは分かるがちょっと待て!! ──どういうことだ!?」

 

 ロックスの何気ない呟きに、微塵も気を惹かれることはなく構えるロジャーに、逆に敏感に反応するガープ。そんな対照的な2人に、ロックスは同意した。

 

「ああ、そんな反応になる筈さ。おれだって知らねェし気になる……だからこそ、海に出たのさ……おめェらは違うか?」

 

「わはは! それはそうだ!! 海にはロマンがある!! 世界をひっくり返すためにおれは海に出た!!」

 

「……違う。おれは、この海を平和に……悪党共を野放しに出来なかっただけだ」

 

 ロックスの言葉に、ロジャーが笑い、ガープは険しい顔でそう答える。ロックスの笑みが深まった。巨大な谷の奥底で、それを見上げながら、

 

「ギハハ……まァ、なんだっていい。──だが、因果としか思えねェなァ……あの神々の内の一体の前に……“悪魔”と呼ばれるおれ達3人が集うなんてよ」

 

「……何?」

 

「は……?」

 

 それは不意を突かれた言葉だった、

 ロックスが発した“悪魔”という呼称。それは、ロックスだけの物の筈で、

 

「“D”の意志……そのバカでけェ壮大な意志は一体誰が継ぐ? おれか? お前らか? それとも別の誰かか?」

 

「何を……言っている……?」

 

「……“D”……そりゃ確かにおれの家名だが……」

 

 だが、ロックスの言葉を眉唾だと思えない。

 何か確信を持った様子でロックスは告げている。その世界の禁忌を、触れてはならない何かを。

 

「おれァ今までの旅で、色んなものを見てきて気づいた……このおれの大きな目的、野心には、何か根源のような何かが存在するってことを……!!」

 

 世界の王になるという野望を掲げるロックス。世界最強の海賊団を結成した男は、自身の一族の秘密を感じ取っていた。

 

「おれはそれを知り、世界を“支配”する……世界政府を討ち取り、神を地に堕とすことで、おれの野望も世界の謎も全てが明らかになるのさ……!!」

 

 ロックスはそう言って剣を抜く。彼の得物。運命を切り開く海賊としての武器。海賊旗に“信念”として掲げた意志を貫くための、己の身体に次ぐ武器。海賊として好きに生きるために必要な“力”。その象徴となり得るものだ。

 

「ここにお前らが来たことで……おれァ答えの1つを知り、そしてようやく道に立ち塞がる“敵”を得ることが出来る……!!」

 

「何訳分からねェことばっか言ってんだてめェ!! いいから戦うぞ!! おれの目的は宝だけじゃねェ!! お前にリベンジして、世界一の海賊団を作るためにここに来たんだからな!!」

 

「……それより、他の天竜人共はどうした!? まさかもう殺したのか!?」

 

 ロジャーが自分勝手に話す横で、ガープが聞くべきことを問いかける。するとロックスは周囲に視線を向け、

 

「ああ、安心しな。まだ殺せてねェ。ちょうどこれからやるところだったんだがなァ……やっぱあんなゴミ共を守りてェのか?」

 

「っ……海兵のおれの義務だ!! おれはお前をぶっ潰して部下と罪のない奴等を守るんだよ!!」

 

 ガープの答えは、相変わらず苦渋に満ちたものではあった。

 だが先程よりははっきりとした“意志”に、ロックスは笑ってみせる。

 

「ギハハハハ……!! そうか、それがお前の答えかよ、モンキー・D・ガープ!! ──だがそれじゃあ……ゴール・D・ロジャー!! おめェはどうだ!? おれの下に付き、海賊の世を作る気はねェか!?」

 

 ロックスはロジャーを勧誘する。

 かつてそう誘い、断られながらも期待し、そして期待した通りに強く成長してこの場にやってきた男に、ロックスは答えを知りながらも敢えて確認する。

 するとやはり、ロジャーは強い意志を秘めた瞳で強く答えた。

 

「おれァ“自由”だ!! 支配に興味はねェ!! おれはてめェをぶっ潰しにきただけなんだよロックス!! お前をここで叩き潰さねェと、おれの仲間や友達もどうなるか分からねェ!! だからその世界一の座から降りてもらうぜ!!!」

 

「……そうかよ、ギハハハハ……まあそう言うとは思っていたが……そうなりゃ、お前たち2人はおれの敵ってこったな……」

 

「最初からそう言ってるじゃねェか!! おれ達はお前の敵だ、ロックス!!!」

 

「お前を倒さねェと、また大勢の人間の血が流れることになる!! 阻止させて貰うぞ、ロックス!!!」

 

 ロジャーが剣を抜き、ガープも拳を握って構える。確かな覇気と敵意を滲ませ、ロックスだけを真っ直ぐに睨みつける。

 常人では耐え難い2人の視線を受け、ロックスは震えながら笑みを浮かべた。──ようやくだ、と。

 

「──おめェら……時に……()()()()()()()()()?」

 

「──は?」

 

「──あ?」

 

 張り詰めた戦闘の空気。それを弛緩させるようなロックスの荒唐無稽な発言に、まんまと2人は間の抜けた顔を浮かべ、間の抜けた声を発した。

 それを見たロックスは可笑しそうに笑い、

 

「おれァ……お前ら2人とこのゴッドバレーで戦い……そこで負けることになる……()()()()()()()()()()()()()()()()()、信じるか?」

 

「な……何言ってんだてめェ!! よくわかんねェが、お前はおれがぶっ潰す!! 予言とかそんなことは知らねェ!!!」

 

「そんな予言があったとしたら有り難い話だな、ロックス!! 自分の終わりを告げられるんだ、覚悟は出来てるんだろ!?」

 

「ギハハ……そうさ。覚悟は出来てるし、おれァそんな予言なんて信じねェ。そんなのはどちらにも転び得ることなのさ。だからおれはおれの手で──お前達2人を叩き潰し!! そのふざけた運命を塗り替えてやるんだよ!!!」

 

 ロックスはそう言い放ち、全身から覇気を昇らせる。

 そう──彼にとって、2人は初めての、自分の敵となり得る存在。

 生まれてこの方、強大な力を持ち、大した苦労もなく好きに生きてきた男が待ち望んでいた、自分に打ち勝つことが出来るかもしれない敵だ。

 世界政府を敵に回す過程で現れる筈だと思っていた敵は自分の期待とは少し違っていた。

 だが代わりに、彼らが今こうして現れ、男に初めての勝負の“機会”を与える。

 強い力を持つからこそ、退屈で仕方がない。何の苦労もない生活など、死んでいるも同然だ。

 戦いは相手を支配する快感を得るものであっても、強い相手と戦って楽しめるものではなかった──そう、今までは。

 ゴール・D・ロジャー。そしてモンキー・D・ガープ。

 自分と同じ“D”の名を持つ者。その謎の答えを教えてくれるかもしれない男達だ。

 彼らは自分を打ち倒せるだけの力を備えて、ここまでやってきた。2対1ではある。だが、勝負としてこれほど面白いものはない。

 勝てば世界の王になれる。もう自分を阻める者はいない。後は時間の問題だろう。

 だが負ければ全てを失う。海賊の戦いだ。負ければ死ぬ。それは当然のことだ。その運命を偶然知ってからも、自分はその覚悟を決めながら、なおかつ、勝利の為に自分を鍛えてきた。力を漲らせてきた。

 だからむしろ、()()()()()()()()()()()に感謝し、そして教えてやる。

 未来は1つじゃない。幾つも枝分かれし、無限の行き先があり、誰にだって変える権利がある。

 だからこそ、運命という強い流れも万能ではない。必ず変えることが出来る。それを自分の手で、証明してやると──男は人生で初めての“宿敵”との決闘に挑んだ。

 

「!!!!」

 

 彼らの剣と拳がぶつかり合い、天と地に亀裂を走らせる……三者の強大な覇王色の激突。その開戦の号砲代わりの一撃を以て、世界の命運を決める伝説の戦いは、幕を開けた。




改訂及び追加シーンを入れた新しい28話です。なのでこれで見習い編は全29話になりました。主にサターン聖との戦闘やらぬえちゃんとくまとイワンコフやらガーリングやらと会っている設定に。
この先の話に色々と関わってきますので良ければ24話から29話までを確認しておくといいかもしれません。

そんなわけで見習い編の改訂は終わりましたので次に投稿する時はまた最新話からの続きになります。お楽しみに。

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