正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──“
そこは世界政府に加盟する国どころか……まとまりを持たない荒くれ者達が集う島だ。
だが辛うじて、秩序を維持するために、その島には古くから顔役や元締めといった者が存在する。
ドクロの形をしたその岩。中をくり抜いて出来たその建物は、巨大な酒場が存在し、取引を行う為の部屋や、何のためか……処刑場すら存在する。
そしてその建物は、この島──海賊島ハチノスの、顔役の住処でもあった。
「ハーハハハマママママ……!! ゼウス! プロメテウス!」
「っ……たく、面倒臭ェ女だ……!」
だがしかし──誰もが避けるその男の住居である酒場の入り口で、争い合う者が2人。
1人は薙刀を振るい、振動を発生させている白い付け髭の大男。
1人はサーベルを振るい、雷雲と炎を操る美女。
おそらく、どちらも悪魔の実の能力者。
海賊島に暮らす、または訪れるような荒くれ者達はそれが直ぐに分かった。
しかしその趨勢は彼らには分からない。
だが敢えて説明するなら──戦いはほぼ互角だが、僅かに大男の方が押していた。
「うおっ!? また揺れが!?」
「なんだあの女!? 変なもん連れてやがるぞ!?」
その見ているだけで、被害に遭わないようにするので精一杯なハイレベルな戦いに、周囲の者達は離れて見ていることしか出来ない。
──極一部の者達を除いては。
「──ジハハハハ! おれも混ぜろよ!」
「っ……!?」
「あァ!?」
大男と美女が戦闘を繰り広げるその場所に、暗い影が差す。
両者が同じタイミングで空を見上げ、そして直ぐに背後に跳躍してその場所を退くと、
「うァあああああああああ!?」
「な、なんだこりゃあ!?」
「船長! 空から建物が落ちてきました!!」
「!!? どいつの仕業だ!? ふざけやがって……!」
その場所に一軒の建物が、引っこ抜かれたような形でそのまま落ちてきた。
周囲の荒くれ者、海賊達は突如として起こった不可解な攻撃に周囲を見渡す。
だがそれを行った者は戦闘を行っていた2人の視線の先──空中にいた。
「! てめェ……シキ!! 何しやがる!?」
「あァ!? 誰だいあんたは!?」
シキ、と大男がそう呼んだ先にいたのは、二本の剣を腰に差す金色の髪をした眉毛が特徴的な男で、
「ようニューゲート!! そっちの嬢ちゃんは手配書で見たな……確かリンリンだったか? 初顔合わせだな、ジハハハハ……喧嘩なら、おれも混ぜろよ!!」
「……ハ~ハハハマママママ!! おれの喧嘩に割り込むなんていい度胸だね!! 気に入った! お前も一緒に殺してやるよォ!!」
「どいつもこいつも……!! 出会った先から買う気のねェ喧嘩仕掛けてきやがって……! 特にシキ!! てめェはいい加減沈めるぞ!!」
空中に浮きながら不敵な笑みで下を見下ろすシキが、大男をニューゲート。美女をリンリンと呼ぶ。
対してリンリンも見る人を震え上がらせる笑みを浮かべてシキとニューゲートを睨み、ニューゲートは鬱陶しいと言わんばかりの表情を隠そうともせず、声を張り上げた。
それを見ていた周囲の荒くれ者はその隠しきれない“覇気”に、ジリ、と僅かに後退った。
──そう、彼らはこの場にいる海賊たちの中でも名の知れた賞金首達なのだ。
「おいやべェぞ! ありゃ“白ひげ”だ……!」
「あっちは“シャーロット・リンリン“!!」
「あいつは“金獅子”じゃねェか……!!」
彼らは口々に異名を発して鳥肌を立たせる。
そんな中、幾つかの手配書を手にし、彼らとその顔を眺め、口の端を歪める男がいた。
「ウヘヘ……こいつァすげェ……! 賞金首の見本市じゃねェか……!! おれが賞金稼ぎなら、是非とも首を取りたいねェ……!!」
男が見るその手配書は当然、世界政府及び海軍が発行したものであり、そこには
『“白ひげ”エドワード・ニューゲート、懸賞金──8億4600万ベリー』
『“シャーロット・リンリン”、懸賞金──9億8800万ベリー』
『“金獅子”のシキ、懸賞金──6億6600万ベリー』
無論、懸賞金の額がその者の強さを表すものではないことは誰もが知っている。
だが、政府が定めた“危険度”を示す数値であることには変わりない。
そしてこの場に集った、賞金首も少なくない海賊たちの中でも、彼らの顔と名前はそれなりに有名であった。
「アハハハ、元気ねェ、いきなり喧嘩なんて」
「あれが“白ひげ”……中々良い男じゃないのさ」
「く、くくくく……! いきなりロックスに喧嘩を売りに行くと言い出した時は肝を冷やしたが……そいつらなら別に構わねェ! やっちまえリンリン……!!」
中には彼らほどではないにしろ、肝も実力も据わった海賊たちがいたが、その喧嘩に割って入るような者達はいない。
──だが、危うい者ならいた。それは、衆人の中に混ざっていた大柄な少年と、歳相応とも言える少女で、
「ウォロロロロ……! すげェ喧嘩だ……! 面白ェ……!! おい、ぬえ! 混ざりに行くぞ!!」
「──命知らずか!! 絶対にやめときなさいよ! 見てるだけで面白いんだからそれでいいでしょ!?」
「お前……ついこの間まで死にたいって言ってなかったか?」
それを言うな、と少女──封獣ぬえは傍らのカイドウを止めながら思う。
確かにそうだが、いや、確かにそういう手もなくはないかもしれないが、それでも今はこの戦いから目が離せなかった。
「この面子はちょっとヤバすぎる……」
ぬえは先程から度々、背筋を震わせていた。
それも仕方がないだろう。彼女にとって、この状況はまるで夢の──いや、悪夢の様な状況だ。
それに例え、知らなかったとしてもこの彼らの戦い振りを見れば、嫌でも理解する。どいつもこいつも怪物で、割って入ることは“死”を意味すると。
……いやまぁ、カイドウなら頑丈だし死なないかもだけど……私は普通に死ねるなぁ……。
普通の子供よりは強く頑丈だとは思うが、それでもこんな戦いに参加出来るほどでも、大気を震わせるような攻撃を耐えれるほどでもない。
だからここは大人しく、観戦に徹するのがいい。見ている分には面白いし。
──と、そう思っていると不意にぬえの身体が浮いた。
「~~~っ!! 駄目だ! 我慢なんて出来ねェ!! 行くぞ、ぬえ!!」
「へ?」
気がつけば、ぬえの身体はカイドウの空いた左手に服の背中部分を掴まれて、浮いていた。
まるで猫か何かのように捕まってしまったぬえは、そのままドシドシと歩いて、やがて駆け足になっていくカイドウを見て、その事態を察する。
「ちょっ、待って!! せめて私は置いていって──」
「よし!! おれはあの男2人をやる!! ぬえ!! お前はあの女をやれェ!!!」
「やれェ、じゃないわよ!! 出来るかァ!?」
一瞬で死ぬわ! カイドウあんた、あの女がどんなにヤバいか知ってんの!? と内心でツッコミを入れる。
というか何気にカイドウもヤバい2人を同時に相手にしようとしてる辺り、イカれている。
「おお……! 行くぞォ!!」
「話聞け!!」
声を上げながら人の輪を飛び出し、3人に向かって走っていくカイドウ。薄々思ってたけど、ひょっとしてまだ酔いが残ってるのかと、またしてもぬえはツッコミながら心で思う。
だがそんなことを考えている暇はない。突っ込むカイドウと、その大声に3人が気づかない筈もなく、
「ん? なんだあのガキ共……」
「おいおい、ガキが──って、にしては片方はでけェな……」
「ん!? あれはどこのガキだい?」
──あっ、見られた。
もうこれは死んだ。いや無理でしょ。これは死ねる。
頼みの綱はカイドウだが、カイドウもまだ若く、それほど強くはない。少なくとも、この3人に勝てるほどではない。でも頑張ってくれ、カイドウ──私はここで終わりだがな!(遺言)。
そうして、ぬえは白目を剥きながら近づいていく三者を感じて、どうにも出来ないと諦めた。
──だがその時。
「────ギハハハハ……! お前ら、随分と血気盛んじゃねェか……!! ええ……?」
「!!」
「あっ……」
その瞬間、全員の動きが止まる。衆人や喧嘩をしていた三者だけではない。あのカイドウも酔いが醒めたかのように立ち止まり、その声の聞こえてきた先を見た。
──いや、これは私にもわかった。感じる。
声が聞こえてきた先……酒場の奥から、その影はゆっくりと姿を現した。
「ロックス……」
「ロックスだ……」
「あれが……ロックス……!」
「ロックスさん……!!」
海賊島ハチノスを根城にする海賊達の誰もが口にするその名前──ロックス。
どんな化け物が現れるのかと、知らない者達はその姿を初めて見て、一瞬意外に思い──しかし、直ぐにその認識を改めた。
ロックス。彼は思ったより小柄であった。
それでも身長は2メートルを越えているが、強い者程体格は通常のそれらを凌駕しているもの。
事実、この場にいる白ひげやリンリンは3メートルの後半に達しており、例外だが、カイドウも3メートル近い肉体を持っている。
だが小柄であっても……その身に纏う、大物かつ凶悪な気配は隠しきれない。
「ろ、ロックスさん!! こいつらが酒場の入り口でいきなり喧嘩を……!」
ロックスの部下。あるいは手下、子分。言い方はそれぞれだが、彼を担ぐ者の1人がそう告げ口する。
だが彼は、ロックスは……その逆巻く髪を揺らしながら、それでもゆっくりと歩みを進め、不敵極まりない笑みを崩さぬまま、ギロリと視線を周囲に向けた。
「ギハハ……そんなもん見りゃ分かる……それに、別に構いやしねェだろう!!」
部下からの報告を男は口の端を歪めたまま一蹴する。
そして不思議と全員に聞こえるような通る声で軽く右手を腹の辺りまで挙げながら言った。
「海賊が集まってんだ……! 喧嘩の1つや2つ、起こらねぇ方がどうかしてるぜ!! なァ、そうだろう!?」
そう言い切り、衆人に問いかけた彼こそが──“ロックス”こと、ロックス・D・ジーベック。
海賊島ハチノスの顔役、元締めにして、10億を超える懸賞金をかけられた……政府にとって“最悪の海賊”である。
「それに喧嘩ってのは悪いことじゃねェさ……喧嘩はどちらが“上”か、どちらが“正しい”かを決める神聖な行為だぜ……! なァ、ニューゲート、お前もそう思わねェか?」
「……まあ、嫌いではねェが……」
ロックスが白ひげに親しげに話しかける──海賊としては穏健な質として知られ、筋の通らない悪人を嫌う傾向にある白ひげだが……ロックスに対して、強く出ることはなかった。
「ギハハハハ!! そうだろう! 喧嘩は海賊の嗜みだ! 喧嘩の1つも出来ねェような奴は海賊じゃねェ!! ちゃんと分かってるようで安心したぜ……!」
そしてその返答を受けて、ロックスは両手を挙げて大声でそう言う。
周囲はそんな彼に異を唱えることが出来ない。彼の言葉、一挙手一投足には、不思議と荒くれ者共を惹きつける何かがあった。
そんなロックスはひとしきり笑った後に、周囲の、集まった海賊たちに向かって続ける。やはり、不敵な笑みは崩さないまま、
「──だが、喧嘩ばかりで腕っぷしがあるだけでもいけねェ……海賊ってのは宝に対する嗅覚と、他者を出し抜く知恵も必要だ……ギハハ……お前らも、
「!」
その問いかけに、今度はまた一部の海賊たちの表情が僅かに崩れる。
ここに集まった彼らは一様にロックスの言う“儲け話”の誘いを受けてやってきた……または、その噂を聞いてやってきた海賊たちばかりだ。
だがその話に乗っかろうと誰もが思って来た訳ではない。中には、それを横取りしてやろうと目論む者もいた。
故にその言葉を聞いて少なくない数の海賊達……リンリンやシキを初めとする、ロックスを知らない海賊達が押し黙る。
彼らとて、まだ若くも死線を乗り越えてきた強者達。とうてい人に従うような者達ではない。
だが彼らは感じ取ってしまう。ロックスには、底知れない何かがあるのだと。
少なくとも、不用意に喧嘩を売っていい相手ではないと本能で感じ取る。
「……まァ腹の中はどんなことを考えていても構わねェさ……とりあえずお前ら、中で話そうぜ? 早く聞きてェだろ? 儲け話……ギハハ、おれも早く話したくて仕方ねェんだ……!」
「…………」
そう言って酒場に入っていくロックスの背後を、誰もが無言でついていく。背中を向けた今は絶好の闇討ちのチャンスだが、そんなことをする馬鹿はこの場にはいない。誰もが実力の差を感じ取っていたからだ。
そして、続々と酒場に海賊たちが足を踏み入れていく中、未だ海賊ではない2人も後に続いていた。
……ロックス、ヤバい……なんなのあの人……。
カイドウと共に並んで歩くぬえも、無言のまま、しかし内心ではロックスという男の底知れなさに驚愕していた。
怖ろしい。おそらく、絶対に強いであろう。
が、ただそれだけでもない。どこか人を惹きつけるものを感じる。
凶暴そうな、如何にもな海賊であるにも関わらずこうも思わせるのは、やはりカリスマ性があるのだろうかと。
高い確率で──いや、ほぼ確実に、人の上に立つ器……覇王としての力を持っているだろうなと察してしまう。
「──さて……それじゃ単刀直入に、“儲け話”がどんなものかを口にしてやろうか……」
と、そうこう考えている間に、ロックスやその他の海賊達、荒くれ者達は異常に広い吹き抜けとなった酒場の中心に集まっており、ロックスはその真ん中にぽっかりと空いた人混みの穴の中で、彼専用のソファに腰掛けながら──それこそ、隠れて儲け話や悪巧みを持ちかけるような抑えた声で、彼らにこう告げた。
「────お前ら…………“国”は……いや、“世界”は欲しくねェか?」
「!!?」
──それは、彼らの想像を絶する“儲け話”であった。
「く、国……いや、世界だと……?」
「どういうことだ……?」
ロックスの魔性を秘めた言葉に、誰も彼もが虚を突かれて絶句した。
そんな彼らを見渡してロックスは言う。予想通りの反応なのだろう、全く動じずに、
「なァに……簡単な話さ……お前ら、欲しいもんややりてェことがあるだろ?」
「そ、そりゃあ……」
「……だから何だって言うのさ」
それはそうだ。誰にだって欲しいものややりたいことはある。
だがそんなことを聞いて何の意味があるのかと誰もが思い、その中で魅惑的な唇を持つ女の海賊が問いを投げた。
「ギハハ……分からねェか? まァ分かる訳ねェよな……そりゃあそうだ……お前ら今、“掴まされたか?”とでも思ってんだろ。このおれに騙されたかもってな」
思った。確かに、あまりにも突拍子が無さすぎる。
ここにいる海賊はきっと、誰しも財宝の在り処だとか、具体的な取引の話を期待していた筈だ。
だがそれを裏切られた。故に騙されたと一瞬、考えた。
それが一瞬で済んだのは、ロックスのその雰囲気が嘘を言っている様に見えなかったからだ。
それすらも計算の内なのか、それは分からない。だがロックスは確かに、その騙されたかもしれないという疑いすら裏切った。
「だが生憎とそうじゃねェ……そこに至る為の道筋は色々あるが……確かなことは、おれについてくれば、お前達に海賊の天下って奴を見せてやるってことだ」
「海賊の天下……つまりそれは──」
海賊の天下。それが意味するところは──
「そうさ……! 今世界を治めているクソッタレな世界政府……そいつらを引きずり下ろすって話だ……!!」
「……!!?」
「なっ──」
その言葉の響きと共に、周囲に驚きが伝播する。
目を剥き、口を開き、額に汗を垂らす……誰もがロックスの壮大過ぎるその儲け話に言葉を失ってしまっていた。
本当なのか? やはりありえない──その二択が彼らの中で行ったり来たりと選択を迷わせる。
「そんなことが……本当に出来るのか?」
「ああ……そのための算段はもうついている……! 用意周到な計画ってのは大事だろ? 金獅子のシキィ……! ギハハハ……!」
「…………」
怪訝な顔で疑いの言葉を掛けたシキに、ロックスは余裕の表情でそれが出来ると笑う。
だが次に問いを投げたのはまた別の海賊。白い髭を付けた男──険しい表情を浮かばせるニューゲートだった。
「……そんな大層な野望に、おれ達を誘う理由はあるのか……?」
「ギハハ……そりゃそうさ。必要なのはそれなりの“時間”と一定の“戦力”……! それさえあれば天竜人を地に引きずり落とすくれェ訳ねェことだ……! ニューゲート、お前だって引きずり下ろせるなら下ろしてェだろ? あの傲慢な世界政府を、おれ達海賊だけじゃねェ……! カタギすら苦しめる天竜人を……!」
「…………」
ニューゲートはロックスの誘い文句を聞いて、歯を密かに噛み締めながらも無言となる。
それを見て満足そうな笑みを浮かべたロックスは、再び周囲に語りかけるように手を広げ、
「お前らだって欲しいだろ? 宝箱いっぱいの金銀財宝……! それを凌駕する宝の山……! 世界を手に入れればそんなチンケなレベルじゃすまねェ、島1つ分の財宝をお前らにくれてやるぜ」
「……!」
ロックスの大言壮語に、しかし彼らは喉を鳴らす。
どういう訳か、やはりロックスにはそれを可能だと思わせるような、不思議な説得力があった。
それは真実、彼が確信を持って話しているからなのだろう。
一体どういう計画かは分からないが、それでもこの男ならば……そう思わせてしまう魅力があった。
「だ、だがよ……財宝が手に入るつったって時間が掛かるんだろ……?」
「ギハハハハハ!! 安心しろ!! 確かに世界を手に入れて一人頭島1つ分の財宝……ってのは時間がかかるが、それまでにも財宝は幾らでも集められるだろうぜ? このおれと、お前らという“戦力”があればどんな海賊も賞金稼ぎも、どの国の軍隊だろうと海軍だろうと目じゃねェ!! 小遣い程度、道すがらついでに奪って稼いでやるさ! ギハハハハ!!」
「……マジなのか……?」
周囲の海賊たちは気がつけば、その具体性も何も聞かされていない話を前のめりで聞いていた。
ロックスは本当に、自分達の欲しいものをくれるのか?
誰もがそう思い、そして、求める答えをロックスは立ち上がり、全ての海賊達に告げた。
「お前らも海賊なら欲しいもんややりたいことが沢山あんだろ!? それは何だ!? 莫大な富か!? 誰もが傅くような名声か!? 誰も逆らえねェような圧倒的な力か!?」
ロックスは言う。そして問いかけ、海賊達に向かって不敵に告げる。
「ひりつくようなスリルある殺し合いか!? それとも大事な奴が安心して暮らせるような平和か!? 憎き相手への復讐か!? 恋い焦がれる女か!? 男か!? 自分の血を引くガキか!? 支配か!? 自由か!? それ以外のなんだろうと構わねェ! 欲しいもんがある奴は全員、おれの船に乗り込め!! おれが世界の王になった暁にはおれの船に乗った奴全員に“国”をくれてやる!! それで欲しいもんを手に入れ、やりたいことをやっちまえばいい!! 野望を叶えるための邪魔な世界政府、海軍はおれが潰してやる!!」
「……!」
気がつけば、その場にいる全ての者に、ロックスのその“熱”が伝播していた。
それは──彼や彼女も同じだった。
「……さあ、セールストークは以上だ。おれの船に乗り込むのに必要な賭け金はてめェの命だけ。弱ェ奴は死に、強ェ奴は生き、全てを手に入れる。だが弱ェ奴も、おれの下にいりゃ関係ねェ。強制的に“勝ち組“にしてやる──」
と、ロックスは腰元のサーベルを引き抜き、それを頭上に上げながら声を発した。
「そら、おれの船に、“儲け話”に乗りてェ奴は声を上げな!! 声を上げた奴は全員、1人残らず連れてってやるぜ!?」
「お、──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ホールが、酒場が、海賊島ハチノスが──揺れた。
それはロックスの儲け話の熱に当てられた海賊達の雄叫び。
これから野望を叶えんとする男達の船出の声だった。
「ギハハハハハハハハハハ!!! そうだ、それでいい!! そうと決まれば船出の準備だ!! 行くぜ野郎ども! ロックス海賊団の旗揚げだァァ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおお! ロックス! ロックス!!」
「ロックス船長ォ!!」
……その光景はまさしく、“伝説”の始まりだった。
少女が知る伝説ではない。一昔前に始まった、知らない伝説の始まりの瞬間。
その場に立ち会い、少女は言いようのない想いを胸に浮かばせていた。
──これが……ロックス。これが……海賊。
創作上のお話なんていう、現実感の乏しいものではない。
自分の身で体験する、紛れもない現実の話。
鼓膜が痛くなるほどの声。男達の熱狂。野望への情熱。欲望。渇望。
そこで初めて……ぬえは、本物の海賊というものを目の当たりにした。
その野望の為なら命をも惜しくはないと騒ぎ出す海賊達。
「うおおおおおおおおおおお!! やってやるぜェ!!!」
「…………」
自分の目と耳、五感全てで感じるその瞬間にぬえは、隣で他の海賊たちに負けない大声を上げるカイドウに一切の反応を寄越さず、
「……面白い……」
小声で呟き、しばらく、笑みを浮かべたままじっとその場から動かなかった。
──かくしてロックス海賊団は結成され、船長ロックスを筆頭に名だたる悪党がその船に乗り込んだ。
思うところがあるのか、ギリギリまで悩んでいた“白ひげ”エドワード・ニューゲート。
ロックスが掲げる海賊の支配に賛同し、経験を積むために船に乗り込むことにした“金獅子”のシキ。
夢の国を作る野望を持つシャーロット・リンリン。野望を後押ししたシュトロイゼンに、まだ幼い何人かの子供達。
その他にも……“王直”、“銀斧”、“キャプテン・ジョン”など……将来、名を上げることになる海賊たちが続々と船に乗り込んでいく。
そして勿論、その中には、この2人も──
「──えっ、乗せてくれるの?」
「ウォロロロ!! これでおれも海賊だァ!!」
カイドウ。そしてぬえは、ロックス海賊団の船長、ロックス本人の前で片方は凶悪で楽しそうな笑みを浮かべ、片方は“マジ?”と確認を取っていた。
するとロックスはカイドウに担がれている私を見上げ、
「ギハハハ……ああ、別に構わねェ。ガキだろうと乗りてェ奴は乗せてやる」
もっとも、その歳じゃ海賊見習いとしてだけどな──とロックスは凶暴な笑みでロックス海賊団入りを許してくれる。
……ていうかロックス……近くで見るとこっわ……もう雰囲気が怖い。絶対化け物じゃんこいつ……。
ずっと笑みを浮かべているし、割と普通に接してくれてる気もするが、何を考えているか分からないし、ちょっと機嫌損ねたらあっさり殺されそうな雰囲気もある。
というか、ロックス本人もそうだが、船員がまずおっかない。
「──なんだとてめェ!? 航海士はおれがやるに決まってんだろ!? てめェは死んでろ!!」
「うっ!!」
「!? おいこらてめェ!! いきなり人死に出してんじゃねェよ!! ぶっ殺すぞ!!」
「あァ!? てめェも殺してやろうか!?」
「──ギハハハ……航海士の座を争って殺し合いか。悪くはねェが、殺し合いの続きは沖に出た後にしな。一々殺し合ってたら日が暮れちまうぜ」
「! は、はい! すみませんロックス船長!!」
積荷を船に運ぼうと港に集まるロックス海賊団だが、その途中でいきなり仲間殺しが発生していた。
しかも、船長のロックスが別にそれを止めたりしない。……いや、一応止めてるんだけど、別に仲間殺しを許さないといった感じではなく、あくまで続きは後でにしろ、と今は仕事を優先することを命令している。
……前途多難だなぁ……これ、私……生きてられるのかなぁ……。
でもまあ、考えていても仕方ないし、頑張って強くなるか、もしくはカイドウに隠れて大人しくしていれば──
「おいぬえ!! あっちで殺し合いだ! 混じるか!?」
「──混じる訳ないでしょ!!?」
「ギハハハハ! さあ、野郎ども!! 準備は出来たか!? そろそろ出航するぞォ!!!」
「はい! 船長!!」
──船長ロックスの“儲け話”によって集められた個性の集団、ロックス海賊団。
彼らがどんな旅路を歩むのか、どんな結末を迎えるのか。
それはまだ、誰にも分からない。
どうも鯱です。というわけでこんな感じでロックス海賊団加入で。
次回からはロックス海賊団の海賊見習いとしての日々が始まります。船員にやべぇ奴らばかりなので、まあ色々とネタがある。懸賞金は、ビッグマムが子供の頃から暴れてて5億とかついてたりするから今の所は1番高いかなって感じで考えました。危険度的にも
というわけで次回をお楽しみに
感想、評価、良ければお待ちしております。