正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

30 / 173
百獣海賊団副船長編
本物の海賊


 ──世界を震撼させた最悪のロックス海賊団が壊滅した“ゴッドバレー事件”から数ヶ月。

 

 “偉大なる航路(グランドライン)”にあるとある夏島は、世界政府非加盟国の荒れた島だった。

 

「──おい聞いたか……? “ロジャー”がまたやったらしいな……」

 

「あいつはいつもさ。昔っからイカれてるクソ野郎……それより、あのロックスの残党だ。“金獅子”は既に海賊団を立ち上げて“新世界”で暴れてる……次はあいつらの時代だろうな!!」

 

「どうかな。“ビッグ・マム”も相当やべェと聞く。お菓子の為に30人の子供達を連れて国を滅ぼしたとかなんとか……」

 

「強さってんなら“白ひげ”さ……! ありゃ怪物だよ。ロックスや他の奴等が起こす事件の陰に隠れちゃいたが、“金獅子”も“ビッグ・マム”も“白ひげ”を警戒してる。あいつに対抗出来んのは精々ロジャーくらいのもんだろ」

 

「ハッ……ロジャーなんざ今や“英雄”のガープ様にでも挑んでさっさと捕まっちまえよ……ムシャクシャする。おれァ昔アイツに煮え湯を飲まされてんだ!!」

 

「ロックスの残党はどいつもこいつも化け物揃いだって聞くぜ? まだ誰が幅を利かせるかは分かんねェだろうよ」

 

「ロックスに比べりゃ誰でもいいさ……アイツが生きてた頃に比べれば今は相当やりやすい……」

 

 非加盟国の無法地帯の様な島であっても、最低限の治安や規律は存在する。海賊や悪人が多く立ち寄るような島であっても、島には島の住人がおり、生活があり、家族だっている。子供も逞しく育つし、大人は海賊相手の商売に精を出すのだ。

 特に酒場は悪党の憩いの場。酒を飲み、賭け事を行い、手配書や新聞を見ながら巷の話題を肴にする。取引や儲け話などの話もあれば、他愛のない悪口や笑い話だって飛び交う。海賊に決まった行動などない。彼らは自由だった。

 だが海賊に限らず、今島の話題は壊滅したロックス海賊団が殆どだった。それ以外だと、“ロジャー”。もしくは“英雄”ガープ。もっと言うならこの島に限らず、きっと世界中がそうだろう。

 だが今、この酒場でのみ話されていることもあった。例えば、そう。この街に立ち寄ったばかりの海賊が持ち寄った情報で、

 

「それより聞いたか? この島の近くで、海軍の監獄船が一隻沈んだんだとよ」

 

「おいおい、そりゃマジかよ! 面白ェな……くくく、罪人運ぶつもりが、そいつと一緒に心中か。笑えるぜ」

 

「だろ? さっき聞いたんだ。──でもそいつ、何故か妙に怯えててよォ……なんか夜中に化け物を見たとかなんとか……」

 

「はァ? なんだそりゃ。酔っ払いすぎて幻覚でも見たんじゃねェか?」

 

「違いねェ!! うははははは!!」

 

 酒場のカウンターでバカ笑いをする海賊達。笑い話は安いラム酒によく合う。気軽に笑えて気持ちいい気分になれる最高の一時だ。

 だが、そんな酒場に突如として似つかわしくない高い声が響いた。

 

「──すっご~~~~~い♡」

 

「ウサウサウサ……!! そうだろう!? おれァ最強なのさ!!」

 

 それは少女の無邪気な声と、酒場内の荒くれ者共が知る特徴的な男の笑い声だった。

 

「ん? ありゃあ……」

 

「! おいバカ……! 目合わせんな……!!」

 

 酒場内の荒くれ者達は、その奥のソファーが掛けられた席に目を向けることはしない。目を向けるのはこの島に来たばかりの者だけだ。

 

「あ、あいつは……?」

 

「この島を仕切ってるラビット海賊団船長、“血染め”のラビットだ……!!」

 

「おいおい……なんだあの命知らずの小娘は……殺されるぞ……」

 

「ああ……ラビットの野郎はイカれてる……」

 

 その奥のVIP席には、ソファに腰掛け、左右に女を侍らせて寛ぐうさ耳を付けた海賊──ラビットという男がいた。

 彼はこの無法地帯の島を仕切っている海賊であり、残酷無比かつ確かな実力を持つ海賊である。

 ここ2年で偉大なる航路に足を踏み入れ、頭角を現した海賊であり、この島の者達は皆、彼に逆らえないでいた。

 そんな凶悪な海賊に、その黒髪赤目の少女は笑顔で話しかける。ボブカットで黒い服を身に着けた年頃の可愛い少女。彼女は、ラビットに対して、目をキラキラとさせてその話を期待に満ちた笑顔で聞いていた。

 

「懸賞金8000万なんだ! すご~~~い! ねぇ、今までどんなことをしてきたの? 教えて!」

 

「ウサウサウサ……おれは今まで、500人は殺してきたのさ……!! 海賊だろうが海兵だろうが民間人だろうが、関係なくな……!!」

 

「えっ!? 500人!?」

 

 少女はラビットの、500人は殺してきたという発言に驚きを隠せないようだった。無理もないだろう。少女にとって、それは驚愕に値する数字だったのだ。

 

「……そっかぁ……」

 

「恐ろしいか……!? おれはガキだって容赦しねェからよ……! この街でおれに逆らう奴は痛い目見るぜ……! なんなら食っちまうかもなぁ……!! ウサウサウサ!!」

 

「……ふーん……」

 

「……? おいあのガキ……なんか……妙に落ち着いてねェか?」

 

「放っとけ。ビビってんだろ。ガキがあのラビットと話して怖がらねェ方がどうかしてる」

 

「…………いや、でもどっかで見たことあるような……?」

 

 とある1人の海賊が少女を見て首をかしげる中、少女はラビットをじっと見回していた。

 心なしか先程よりも落胆したような、だがそれでも何か品定めをするような目つきで男の全身をじっくりと見ている。そんな態度に、ラビットも頭に疑問符を浮かべた。

 

「……? おいガキ……ジロジロと見てんじゃねェよ気持ち悪ィ……大体てめェ、このおれに何の用だ?」

 

「……うーん、でも……まぁ……いっか! よし、決定!!」

 

「あ?」

 

 少女はラビットの言葉など意にも介さず、顎に手を当て、1人でブツブツと何かを考えていたかと思うと、突然、明るい笑みを浮かべて少女は告げた。ラビットに向かって、

 

「おめでと~!! あなたは、栄えある私達、“百獣海賊団”のクルーに選ばれました~!! これからは、船長と副船長の私に忠誠を誓って、馬車馬の様に働くこと! でもそこそこ美味しい思いもさせてあげるから、沢山頑張るようにっ!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 その無駄に大きい声が店内に響き渡った時、店内は静寂に支配された。

 誰もが固まる。音が鳴らない。誰もが、その発言を頭に落とし込むまでに時間を要し、ようやくそれを理解した瞬間、

 

「ぎゃあはっはっはっはっはっは!!!」

 

 店内は、大勢の笑い声に包まれた。

 それは少女の発言が、どうしても可笑しかったから。

 

「なに海賊団だって? くくく、海賊団に入れてやるとか、何言ってんだあのガキ!!」

 

「おい言ってやんなよ!! ぎゃはは、きっとガキの間で海賊ごっこでも流行ってんのさ……!! 可愛らしいこった!」

 

 店内の海賊達は、その最も恐ろしい男に対する発言であることを差し引いても、笑うことを止められなかった。

 そして何より、それを言い放たれた男が笑っており、

 

「ウサウサウサ……何を言うかと思えば、海賊ごっこの誘いか?」

 

「…………ふふ……んーん、そうじゃなくて、海賊として誘ってみたの。()()()……海賊として♡」

 

「ふっ……その度胸だけは認めてやるが……遊びだとしてもあんまり舐めんじゃねェぞ、ガキ……誰がそんな海賊ごっこに付き合うか」

 

「え~? 結構お得だと思うけどなぁ。本当にいいの? 私が副船長で、私の姉弟分が船長。入っといた方がいいと思うけどな~。今ならまだ心変わりも許してあげるけど──」

 

「──おいガキ」

 

 その時、ラビットは立ち上がり、懐からナイフを取り出して、少女の顔の横にナイフを突きつけた。

 そのドスの利いた声とその行動に店内の空気が一変する。再び静かになった酒場の中で、ラビットは少女に怒りの形相で告げた。

 

「もう一度言うぞ。──()()()。誰がてめェみたいなひ弱なガキと、どこの馬の骨とも知れねェゴミ船長の下になんて付くか。いい加減にしねェと……殺すぞ?」

 

 少女であることなど関係なく、ラビットはナイフを手に少女を脅す。周囲は息を呑んだ。やっちまうのかと。

 そして誰もが、少女が泣き顔を晒し、惨めに命乞いをするか、その場から逃げるか……とにかく、少女が醜態を晒すのだとそれぞれが予想した。

 ──だがそうはならなかった。

 

「……海賊ごっこしてるのは()()()()()()?」

 

「…………あ?」

 

 その不意をつく言葉に、ラビットは間の抜けた声を出す。何を、言ってるんだと。

 だがそこで気づく。少女の顔が泣き顔どころか、楽しそうな笑みを浮かべていることに。

 

「こんなナイフで脅しなんて、本物の海賊が怖がるとでも思ってるの? バカみたい。本物の海賊には“死”も脅しにならない。しかも明らかに怒ってるのに脅しで済ませるつもりだし……まあ500人殺したって自慢気に言った時点で期待はしてなかったけど、見るからに三下の小物だしさぁ……」

 

「っ……!!! てめェ……!!!」

 

 はぁ、とつまらなそうに溜息をついた少女に、あまりの怒りに震え、何も言えなくなるラビット。周囲は遠くない未来で起きるであろう惨劇に息を呑んだ。

 だが少女はなおも言葉を止めず、

 

「はぁ……ま、いいか。もう一度だけチャンスをあげる。私達、百獣海賊団の三下になるって誓うなら助けてあげる。でも断るなら殺す。──はい、どっち?」

 

「!! こ、の……ガキがァああああ!!!」

 

「!!」

 

 ラビットがナイフを少女に向かって振り下ろす。とうとう、酒場が血に染まった。誰もがそう思った。

 だが、血を流したのは、

 

「……あはは、ナイフの使い方、へたっぴ~♡」

 

「なッ……!!?」

 

 血を流したのは……少女ではない。ラビットの方だった。

 少女はそのナイフをあっさりと手で掴んで受け止めると、そのままナイフを奪い、彼の手にナイフを突きつけたのだ。

 一瞬、何が起こったのか分からず痛みも忘れて呆然とするラビットは、その嗜虐心に満ちた笑みを浮かべる少女を見て、

 

「子供の頃の私の方が上手かったなぁ~。駄目だよ、もっとこう……体重をかけないと──ねっ!」

 

「っ──ぎゃああああああ~~~!!?」

 

 酒場にラビットの悲鳴が響き渡る。

 同時に酒場は騒然とした。ただの少女が、この街を仕切っている海賊に手を出したのだ。

 だが不思議と彼らは誰も手助けしなかった──いや、出来なかった。

 

「ん~、本当に断るとは思わなかったなぁ。残念だなぁ、悔しいなぁ。あはははは!!」

 

「そ、その足をどけ──ぐ、あああ……!!」

 

 この街で最強の海賊の手を踏み続け、抑え込む……その得体の知れない少女に恐怖してしまったから。

 体格差は倍以上。だというのに、ラビットは文字通り、手も足も出ない。ただの少女にだ。

 その視覚的な衝撃は、想像を絶するものである。

 

「う、嘘だろ……あのラビットが……!」

 

「懸賞金8000万の男だぞ……!! この街で、ラビットより強い海賊なんざいねェ……!!」

 

「こんなことがありえるのか……!? あんな小娘が、あんな笑顔で……最強の男を……!!」

 

 少女は一方的に、ラビットを虐め続ける。

 それは戦闘ではない。ただ遊んでいるように見えた。

 まるで子供が笑顔で小さく弱い生き物を、子供の純粋さが故の残酷さで虐める……その光景はそれに酷似していた。

 だが、彼らの衝撃と恐怖は、それで終わりではなかった。

 恐怖が蔓延する酒場に、突然足を踏み入れたのは、

 

「ウ~~~……おいぬえェ!!! お前、いつまで仲間探ししてやがる!!」

 

「!」

 

 その男は、まだ若く……しかし、大柄な男だった。

 右手に金棒。左手に酒瓶を持ち、酔っ払った様子でやってくる角の生えた男は、何やら怒っている様子で、その少女のことだろう。ぬえ、と少女を呼びつける。

 すると少女もまるで親しい人を見つけた子供の様な表情で、

 

「あ、カイドウ!! ちょっと聞いてよ!! せっかく仲間に誘ってあげたのに、この男ってば酷いこと言ったのよ!! この島を仕切ってるって言うから誘ってあげたのにさ! 海賊ごっことか、ひ弱なガキとか、カイドウのこともどこの馬の骨とも知らないゴミとか、好き放題言ってくれちゃって!! だからちょっと殺す前に憂さ晴らししてたの!!」

 

「……何だとォ……?」

 

「ヒッ……!?」

 

 少女は確信犯なのか、それともただ純粋にそのカイドウという男や自分達が貶められたのを怒っているのか、ラビットを蹴りつけて、そのことをカイドウに告げ口する。

 するとカイドウは、その凶悪な瞳を男に向け、

 

「そんなことを言いやがったのか、てめェ……!!」

 

「い、いや……それは……!!」

 

 そこでようやく、ラビットは気づく。

 この男と少女。この2人は、自分より圧倒的に格上なのだと。

 その身に纏う凶悪な殺気や、得体の知れないその恐怖。人を殺すことなど何とも思わない──獣の様な価値観。

 それらを無意識に悟り、ラビットは後退った。

 だがカイドウの怒りはどんどんとボルテージを上げていき、

 

「ムカつくぜ……兄妹(きょうだい)をバカにしやがって……しかもこのおれが……海賊ごっこをしてるゴミだと……!!?」

 

 青筋が浮かび上がり、両の拳をギリギリと音が鳴るほどに握り込み、歯をギリギリと噛みしめると、

 

「ッ……ウアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

「っ!!!?」

 

 その男、カイドウは──雄叫びを上げた。

 正確には……咆哮を上げた。

 その表現が正しい理由。それは、カイドウの変わっていく姿にあった。

 

「な……な……!!?」

 

「ひっ……あ、ァ……」

 

「きゃあああああああっ!!?」

 

 カイドウという男の身体が青く変色し、同時に形を変え、徐々に巨大になっていく。

 それは酒場を容易に突き破り、それでもまだ大きくなる。

 

「な、何が起こった!!?」

 

「なんだあれは……!!」

 

「ば、化け物か……!?」

 

 酒場の外の者達……いや、島の住人が気づかない筈もない。

 それほどまでに大きくなり続け、空に浮かんだその男は──龍だった。

 

「──おいてめェ……!!」

 

「あ……ぁ……!!」

 

 100メートルを超える巨体を持つ、巨大で長い身体を持つ龍。それに睨まれ、怒りをぶつけられているラビットは、もはや腰を抜かし、満足な言葉も発せないでいた。

 ただ呆然と見上げることしか出来ない。文字通り、スケールの違う怪物だ。

 島の空にカイドウが現れた──ただそれだけで、島の住人の殆どはパニックになるか、腰を抜かして怯えるか、それしかない。戦うような選択肢を取れるような者はただ1人としていなかったし、誰もがその龍から逃げたかった。

 だがそんな中で、その少女──ぬえだけは、

 

「あーあー、せっかくこの島を旗揚げ準備のための拠点にしようと思ったのになぁ……あ、でもこうなったら恐怖で支配した方がいいかな? ──ねー! どうするー! カイドウ~!!」

 

「っ!!? あの小娘も、羽で空を飛んで……!!?」

 

「ど……どっちも能力者だってのか……!?」

 

 赤い鎌の様な羽と、青い矢印の様な羽で飛び上がり、龍となったカイドウに軽い調子で話しかけるぬえ。その客観的に見れば命知らずとも取れる行動に誰もが戦慄したが、龍は怒らなかった。

 

「おう……それはいい……!! なら、そうすることにしようじゃねェか……!!! 一々手下を勧誘してくのも面倒だ……!! 全員、島ごと支配してやる……!!!」

 

「おっけー! それじゃ()()()()()()()()?」

 

「好きに暴れろ……!!! おれァ今、ムカついてんだ……!!!」

 

「まぁ、独立していきなり捕まって拷問されちゃったからねー。船沈めたくらいじゃ収まんないか。酔ってるし。──それじゃ、いっちょやりますか!!」

 

 と、ぬえは空に飛び上がったまま、とある物を作り出した。それは島の住人には見慣れないもの。見慣れる筈のないもの。

 

「ゆ、UFO!!?」

 

 そう──それは赤、青、緑の三色のUFO。

 それらがざっと10機。ゆらゆらと動く得体の知れない飛行物体の姿に、再び住人達は青褪める。

 龍と謎の少女にUFO。そしてその話している内容──嫌な予感しかしなかった。

 そしてそんな中、とある海賊……先程、酒場でぬえのことを見覚えがある気がしていた海賊が、ハッと瞠目すると、

 

「お……思い出した……!! あ、ありゃあ“ぬえ”に“カイドウ”だ……!!! ロックス海賊団の残党の……!! イカれた見習い……!!」

 

「あっ、なんか知ってくれてる人もいるみたい。どうする? ファンサービスでもする?」

 

「どうでもいい……おれァそこの男を殺し、暴れるだけだ……!!!」

 

「……う……ぁ……!」

 

 ぬえの軽口にすら付き合わず、男を見下ろすカイドウの言葉は、謂わば死刑宣告にも等しかった。

 そんな中、ぬえは告げる。街全体に聞こえるように大声で、

 

「はーい!! それじゃあ今からちょっとした“カーニバル”を開催しまーす!!!」

 

 それは絶望の宣告だった。

 ただ2人の憂さ晴らし、目的も兼ねたただのストレス解消に、島の住人は付き合わされる。

 そして逆らうことも出来ない。2人が現れた瞬間から、この島はもう、2人の物になってしまったのだ。

 

「今日から私達──“百獣海賊団”がこの島を仕切ることを祝い……もとい、そのための見せしめとなるからね~♪ あ、抵抗したかったらしてもいいよ? まあしたら殺しちゃうかもだけど♡」

 

「ウォロロロ……!!! 今日からここはおれの島だ……!! 逆らった奴はどうなるか……これからたっぷりと教えてやる……!!!」

 

「う……嘘……だろ……?」

 

「あんな化け物に……暴れられたら……!!」

 

「こんなの……もはや災害だ……勝てる訳がない……!!」

 

 その言葉に恐怖するしかない。

 誰もがこの日、知らない者も、その姿と名前を憶えた。

 壊滅したロックス海賊団の残党。巨大な龍になる凶悪な男と、見た目は可愛らしい、しかし得体の知れない恐怖を醸し出す少女。

 この島にやってくるような並の海賊では相手にならない、圧倒的な強さを持つ2人の海賊。その男と、女の名は──

 

 百獣海賊団船長、“百獣”のカイドウ──懸賞金、4億1110万ベリー。

 

 百獣海賊団副船長、“妖獣”のぬえ──懸賞金、3億8010万ベリー。

 

 ロックス海賊団時代から、イカれた見習いとして有名だった2人。最強の海賊を目指すというそんな彼らは、遂に始まった本物の海賊達の時代に、そのとある島を一先ずの拠点として、今まさに……海賊の旗を揚げようとしていた。

 

 

 

 

 

「いやぁ~……まさかいきなり偉大なる航路(グランドライン)に入ることになるとは思わなかったなぁ……あはは」

 

「クソッタレが……海軍の野郎……! いつかまたぶっ殺してやる……!!」

 

 適度に破壊した島の中心地で、私とカイドウは辛うじて残っているソファに腰掛け、食事をしながらここまでの事を回顧し、悪態をついていた。

 というのも至極簡単。私達はゴッドバレーの後、“西の海(ウエストブルー)”のとある島から、海賊として独立しようと出発しようとしたのだが……そこで、海軍に捕まってしまったのだ。

 まあ運悪く……相手は強い上に数も多くて……気がついたら気絶して監獄船の牢屋の中。しばらく拷問を受ける生活を送り、気がつけば偉大なる航路(グランドライン)に運ばれてしまっていたのだ。

 まあ拷問もあって力を出しにくい上、何故か前よりも頑丈に鎖で繋がれていたため時間は掛かったが、なんとか脱出し、ついでに監獄船を沈めて、近くのこの島に偶然辿り着き……そして今度はこの島で仲間でも探そうかと思い……現在に至る。

 という訳で実は色々と計算外というか、いきあたりばったりみたいな経緯でこの島を拠点にした。なのでカイドウは若干イラついていて、少し目を離している間に酒を飲んで怒っていた。まあ今はもう醒めている様子だが、

 

「それにしても、もう懸賞金更新されてるし……でも額が結構上がったのは嬉しいね!!」

 

「おお。だがおれ達の危険度はこんなもんじゃねェ。これからもっと暴れて、嫌でも上げさせてやる……!!」

 

「まー勝手に上がるだろうしねっ! ──って、ちょっとー。さっきからなんか料理が微妙なんだけど、もっとマシなの出せないの~?」

 

「す、すすすみません……!! そ、その……ちょ、調理場がないもので……」

 

 上がった懸賞金についても話しながら、私は近くに控えていた使いっぱしりの男に注文をつける。酷く怯えていたが、まあしょうがない。私達の暴れっぷりをさっきまで身を以て体験していたし。だから例えば、こんなことを言うと──

 

「え~? 微妙な料理しか出せないの~? そういうことなら……あなたを食べちゃおっかな~♡」

 

「ひっ──!!? い……今すぐ作り直してきますっ!!!」

 

 可愛く小首を傾げながら男の顔を覗き込むように言うと、男は顔を酷く青褪めさせて、その場から急いで去っていった。なんだ、出せるんじゃん。死に物狂いでやれば出せるのに、冗談言わないと出さないなんてちょっと舐められてる気がする。本当に食べてやろうかな? まあでも見せしめはさっきので充分だろうし、今はまだいいか。そんなにお腹空いてないし。

 

「それより、まずは船と部下を集めるぞ」

 

「船と部下かぁ……うーん、船はなんとかなると思うけど、部下はどうする? まあ雑魚なら幾らでもいるだろうけど……」

 

「強ェ奴の評判でも聞いて、集めればいいだろう。それとも、他になにか良い方法でもあんのか?」

 

「ううん。それでいいと思う。この島、荒れてて結構そういう情報集まってきそうだしね」

 

 カイドウの提案に私は頷く。船も必要だが、重要視するのはやはり部下──戦力だった。

 最強の海賊団を作るという目的に最も重要なのは当然それ。金や船、武器なども必要だろうが、やはり個人として強い奴にはそのどれもが敵わない。だから私もこの島に来てまずは、一番強い海賊を探して実際に勧誘しようとしてみた……まあ雑魚だったしもういないから失敗だったけど。やっぱ憶えられるほどの数しか殺してないような奴は駄目だね。元ロックス海賊団の連中なら全員答えられないもん。殺しすぎて憶えてないし気にしたこともないしね。

 

「それに加えて、私達ももっと強くならないと。このままじゃ新世界に行っても白ひげとかシキには敵わないだろうし」

 

「ああ……最強になっていずれはぶっ殺してやる……お前も、もっと強くなりやがれ」

 

「当然! いずれ新世界一、可愛くて強くて正体不明の海賊になるんだから!!」

 

 そして何より、自分達の強さが必要だ。私達は今でもそこそこ強いかもしれないが、それでも白ひげやシキ、リンリンには到底敵わない。

 カイドウは最強を目指してるし、私も強くならないといけない。最強の美少女海賊って感じで。リンリンとかいうヤバいのがいるけど、あれを女の子にカウントするにはちょっと……だから例外とする。まあ対抗出来るくらいにはならないとだけど。

 

「後必要なのは何だ。金か?」

 

「お金は海賊貯金に加えて、とりあえず今はこの街からアガリでも徴収したらいいと思うけど。後は適当にやってきた海賊から奪う」

 

「それでやれ。細かいことはお前に任せるぞ、ぬえ」

 

「アイアイ、船長(キャプテン)~♪ あはは、一回こういうヤクザじみた商売やってみたかったんだよね~♡ 自分達で好きに出来るから楽しそう! だからあんま暴れて壊したりしないでよ? もう見せしめは終わったんだから」

 

「一々言われなくてもわかってる。暴れる訳ねェだろう。これから大切な拠点にしてやるんだからな──」

 

 ──次の日。

 

「きゃあああああああああっ!!?」

 

「や、やめてくれェ~~~……!!」

 

「こ、このままじゃ島が……!」

 

「ウォロロロロロ!!! さっさと酒ェ持ってこォい!!! ヒック……」

 

「…………」

 

 その島では、再び暴れ回る龍……カイドウの姿があり、私は思わず無言になる。そして飛び上がり、三叉槍に覇気を込めて、

 

「──壊すなって言ってんでしょうが!!!」

 

「──うブ!!? 何すんだぬえェ!!?」

 

「う、うわああああ!! またあの2人が暴れだした~~~~!!?」

 

 私はカイドウをぶん殴り、以前から度々行っていた殺し合いを行う……あーあ……街からお金を徴収するどころか、まずは復興するところから始めないとじゃん……私とカイドウの海賊人生は、独立して初めから、またしても前途多難だった。




百獣海賊団副船長編、始まりました。まずは拠点、荒れた島(物理)を手に入れたようです。しかもとっても平和になりました。ピースメインですね。ここからお金集め、仲間集め、船調達など、ちょっとずつ海賊として必要なものを手に入れて上り詰めていきます。内政シミュレーションじみてるけど、やっぱこうやって地道に活動していくのが大事。
という訳でまた次回。世界で同じ様に、新たに活動を始めた残党達や、カイドウとぬえちゃんのドタバタ海賊生活、始まります。まずは冷静沈着な変態かな……多少年月は経つけどね。推定年齢的に

感想、評価、良ければお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。