正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
世界中の善良な一般市民は、その年に起きたロックス海賊団壊滅のニュースに胸を撫で下ろし、これから平和な時代が訪れるのだとおおよそ殆どの人が希望を抱いていた。
だが、その人々は知らない。ロックス海賊団の壊滅、その実情は船長ロックスの死により、船員達が離散したことにより生じたものだということを。
ロックス海賊団という一大勢力は無くなった。世界中の多くの海賊達は傘下から解放され、自由に海を行くようになる。そしてやはり何よりも、ロックスの船に乗っていた凶悪無比な残党達が独立したこと。
つまり実情として、海賊の脅威は健在であるのだ。それが世界の海の治安を維持する正義の軍隊、海軍の頭を悩ませていた。
──“
「おいロジャー!! 今日こそお前をとっ捕まえて牢屋にブチ込んでやる!! 覚悟しろ!!」
「おお、上等だ!! やれるもんならやってみやがれ!! ──あっ、やっぱりちょっと待て!!」
「……? なんだ!!? 海兵であるおれに、海賊のお前の待ったを聞く理由は──」
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「ふぎゃあ! ふぎゃあ!」
「!!?」
今や海軍の英雄──モンキー・D・ガープは、再びロジャー海賊団の担当としてひたすらにロジャーを追いかける日々に戻ったのだが……何故かそのロジャーの船から、2人の赤ん坊の声が聞こえてくることに眉をひそめた。
その直後、
「おいロジャー! また泣きやがった! これどうすんだ!?」
「わはは!! 元気な赤ん坊だな!! おしめか!? それとも腹が減ったのか!?」
「いや……ただ単に、大きな音にびっくりしているだけだと思うが……」
「む~~~……そういや赤ん坊のおもちゃとかもねェな。よし、買いに行くか! ──ということで悪い、ガープ!! おもちゃを買いに行くから今日は帰ってくれ!!」
「──フザケてんのかァ!! いや、そもそもなんで赤ん坊がいるんだ!!?」
今や海賊として知らない者はいないと言われるほどの大海賊の1人となったロジャーに怒声を浴びせるガープ。
その他にも、現在はあの事件に関わった海賊達の対処で、海軍は手一杯であった。
──“海軍本部”マリンフォードでは、
「……船長ロックスがゴッドバレーで死亡し、ロックス海賊団が壊滅して一ヶ月以上が経ちましたが、未だロックス残党の脅威は健在。今やそれぞれの海賊団を率いて、次々と各地で活動を開始している模様です」
「“白ひげ”エドワード・ニューゲート、15億4600万ベリー。“ビッグ・マム”シャーロット・リンリン、14億8800万ベリー。“金獅子”のシキ、16億4400万ベリー。……その他にも幹部、名だたる凶悪な海賊はいますが、その中でも並の戦力では相手にならない旧ロックス海賊団の主力達。彼らは今や、自身の海賊団を率いています」
「この中で最も危険なのは金獅子だな……奴はロックス海賊団に所属していた海賊達の多くを部下として引き連れているという……戦闘力では僅かに“白ひげ”や“ビッグ・マム”に劣ると言われているが、ここにきて頭角を現したな……」
「ロジャーは引き続き、ガープ中将が追っていますが、この3人にはそれに次いで、特に注意を払う必要があるでしょう。既に実害も出てしまっています」
「ふむ……今の担当は?」
「はっ。それぞれ精鋭……ガープ中将とも実力が近い同期、センゴク中将が“金獅子”を。次いで、ゼファー中将が“白ひげ”を。そして“ビッグ・マム”はコング大将が行く手を探っています。……ですがやはり、全てのロックス残党を追討するには圧倒的に手が足りず……確認が取れない者達が多く存在するのが現状です」
「……ままならないものだな。だがやはり、ここは現実を見なければならないだろう。少々、ガープの言っていた
「はっ! ではそのように!」
上官の指示に対し、敬礼を返して退出する海兵。彼らにとって、今の海の状況は油断ならないものだ。
ロックスの死によって生じた海賊達の活発化は、非常に海を不安定にしている。政府が必死に隠蔽を行っているからこそ、民衆には公にはなっていないが、既にロックス残党による被害は出てしまっているのだ。
ともすれば、未だ政府の目が行き届いていないどこかの島でも、多くの被害が出てしまっているかもしれない──いや、確実に出ているだろう。少し前に、元ロックスの海賊を2人ほど捕まえたと報告があったが、護送中だった監獄船は突如として連絡が途絶えた。おそらく、脱走されて、そして沈められたのだろう。
それを為したであろう海賊にも警戒が必要だが、今すぐに対処することは出来ない。
だがいずれ頭角を現したなら……その時にこそ、全力で対処するべきだろう。正義の軍隊として。
そこは人口3万人程度の小さな島だ。本当はもっと人がいたらしいが、それはいいだろう。大事なのは今の人口だ。昔の人口ではない。
まあ世界政府非加盟国……というか、そもそも国ですらない。島には町があるがその島の町長がこの島の一応の長であり、代表だったのだが、それはうっかり死んでしまったらしいので今はもう島の代表はいない。
海賊や無法者が集まる島であるらしく、観光業が盛んだ。島にやってくる海賊達を相手にするため、ホテルやレストラン、酒場などが多く存在し、武器屋もそこそこ。名産品は果物と魚、後は酒、カクテル。なんでも島で採ることの出来る様々な果物を使ったキースカクテルというものが有名らしい。種類が多く、度数は強くて甘くも辛くも出来るため、酒が好きな海賊相手にはそこそこ売れるのだとか。
そして治安はかなり悪い。海賊が多く滞在するため、そこらで喧嘩や殺人などの犯罪が横行している……という話だったが、今は驚くくらい平和だ。誰も喧嘩なんてしたりしない。うんうん。良いことだ。
そんな島の中心で、私はその旗を見て満足気に頷いていた。
「よく出来てるね! やるじゃん! やっぱプロに任せて正解だったわ!」
「は、はい……ご満足頂けたようで何よりで……へ、へへ……」
私は島の中心にある高台に掲げられた海賊旗……私達、百獣海賊団の印を見上げ思わず上機嫌になってしまう。やっぱ染物職人に任せて正解だったわ。私もカイドウも絵心なんてないからね。だから適当にカイドウの注文を受けて作らせたのだ。
「ウォロロロ……これでわかりやすく、この島はおれ達の物になった訳だ」
「やっぱ旗が出来て掲げてみると違うね! やっと海賊になったって気分!」
私とカイドウは2人して海賊旗を見上げて笑う。ドクロにカイドウの角を模したそれが、私達、百獣海賊団の印だ。私達の信念の旗。死の象徴。最強の海賊団になるという意志を込めた海賊旗。
その旗の下に集うのは私とカイドウ。だが、それだけではない。
島を制圧して数日。私達は大々的に部下を集めたのだ。
「それでー……今からあなた達は、百獣海賊団の一員になる訳だけど……覚悟は出来てるかな~!!?」
「へ、へいっ!!」
「出来てますっ……! 船長、副船長……!!」
広場に集まった荒くれ者や海賊、約100人。これが百獣海賊団に入ることになる者達。カイドウと私の部下だ。
島に来てる海賊達や島の住人から入りたいという人を集めた形だが、思ったより少ないのは相当怖かったのか、もしくは殺しすぎてしまったか。まあでも元々これくらいで収めるつもりだったし、別に構わない。どうせ島ごと全部私達のものにしたので、全員百獣海賊団の部下みたいなものだし、あれだけやって入りたくないと言う奴等なら逆にいらない。海賊をやる覚悟がない、なくなったということだからだ。そんな腑抜けはいらないし、いたとしても使い捨てにするくらいが関の山だった。
「ウォロロロ、とりあえず頭数だけは揃ったな」
「こらこら、事実でもそういうこと言わないの。せっかく入ってくれたんだからまだマシだし、これから強くなるかもしれないじゃん」
「だといいがな。一応は期待してやる」
「うんうん。うちは完全実力主義でいくって決めたもんねー。だから強い人は即幹部にするから強くなるよーに! あっ、私やカイドウより強いなら挑みかかってきてもいいからねっ?」
「あ、あはははは……そ、そっすね……」
「頑張ります……」
あらら、なんか思ったより士気が低いというか、何故かどんよりしてしまった。小粋な冗談のつもりだったのに。えー、結構面白いと思ったのになぁ。それにやっていいのは本当だし。強い相手ならむしろ歓迎したいくらいだ。白ひげくらい強いのが来たらさすがにNGだけど。勝負にならないしね。訓練にはなるけども。
「さーて、それじゃカイドウ。次はどうする?」
「決まってるだろ。部下と拠点は手に入れた。次は船だ。船がない海賊なんざありえねェからな」
「そうだよね。ってことで、じゃあ船は作る? それとも貰う?」
「まずは誰かの船を寄越せ。作るのはまた今度だ」
カイドウが船はこの島にある物を貰うと告げる。方針は基本、カイドウが決めるし、当然だが私が何か提案したり、こうしたいとかああしたいっていうのも、カイドウには一応聞かねばならない。独断でやってもいいことと悪いことがあるのだ。今は海賊団を起ち上げるための大事な話し合いだし、基本カイドウにお伺いを立てるのが筋。幾ら姉弟分だからといっても、船長を立てられない一味なんてものはありえないのだ。別に海賊に限った話じゃない。組織なら絶対にそう。まあ組織がでかくなれば一任したり、私が決めることも多くなるだろうけど、それでも指針や大事な決断は船長であるカイドウのもの。そこだけは絶対に曲げてはならないし、命令だとすれば何者も逆らってはならない……まあそれはそれとして、あんまりバカなことをやりだしたら止めるつもりでもいるけどね。そこの線引きは難しいが、まあ大体は分かってる。もう10年くらいの付き合いだ。カイドウにとって何が良くて何が駄目かもわかってるし、カイドウも私に任せるべきところは任せようとしてる。そして私が、その何でも物申せる立場に胡座をかかなければ大丈夫だろう……と思ってる。
まあ今は他の部下もいるのでカイドウが基本、決めて指示した方が良い。私はサポートだ。カイドウがそう言ったなら、そうさせる。細かい指示を出してやる。カイドウと一緒か、カイドウの代わりにね。ということで、
「それじゃ、適当な船貰おっか。じゃ、まずは港に──」
「あ、あの……そのことなんですが……」
と、私がさっさと皆で港に向かって船を物色しようと発言するところで、1人の海賊が恐る恐ると言った様子で声を掛けてきた。他の皆も同じ。何やら気まずそうにして怯えている。
「? 何? どうかしたの?」
「ああ? なんだてめェ……まさかあげたくねェって言うつもりじゃねェだろうな……?」
「ち、ちちち違います!!
「……ん?」
「……あ?」
カイドウが険しい顔で睨んだのにビビって、必死に否定した海賊の言葉に、私とカイドウは頭に疑問符を浮かべる。あれ、どういうこと? まさかとは思うけど……。
「……え、何? 船ないの? 海賊だったのに?」
「な、ないと言いますか、その……」
「おい、なんだってんだ。はっきり言いやがれ」
「う……そ、それは……」
カイドウに更に命令され、気まずそうに言いよどむ部下の男。んー? なんかおかしい。カイドウに言われてなお、こうも言いよどむってよっぽど言いたくないことなんだろうか。このまま黙りこくってるとカイドウに殴られる可能性だってあると言うのに。怒らせたらどれだけ怖いかはもう思い知ってる筈。それなのに言えないこと? …………え? ほんとにわからない。何?
私が頭を捻っていると、部下が決心した顔になった。やっと言ってくれるらしい。私とカイドウはその部下の発言に意識を向ける。すると、
「み、港の船は……全て、こ、壊されてしまいました!!」
「! ──何だと!!?」
「……え?」
その発言にカイドウが立ち上がり、凄まじい形相になる。完全に怒っていた──が、私は逆に間の抜けた声をあげてしまう。ちょっと待て、と。
「いやいやいや!! 私達が来た時はあったじゃん!! え、何? その後で壊されたの? 私達が島を襲った時も船だけは壊さないようにしてた筈なんだけど。事前にそう言ってたし!」
「い、いや……あの……その……た、確かに、副船長は壊してなかったと思うん……ですが……あの……」
そうやって非常に言いづらそうにして、そしてちらりと視線を斜め上に向ける──カイドウの方へ。……は?
私は一瞬、思考が固まる。ん? もしかして……そういうこと?
私はカイドウの方に顔を向ける。いやいや、そんなまさか、と笑顔を浮かべながら、
「ねぇカイドウ? 船壊してないよね? あんだけ言ったんだもん。そりゃあ──」
「──ああ……
「やっぱあんたのせいじゃない!!!」
「ブ!!?」
私はカイドウに全力でツッコむ。もとい、殴る。何やってんのこのバカ船長。私は全力で問い詰めた。
「全部!? ねぇ全部壊したの!? 港の船、結構あったのに!! バカなの!?」
「……落ち着け、ぬえ。──船がねェなら作ればいい。違うか?」
「なくしたあんたが言うな!!」
今度はもう少し軽めだが、カイドウの頭をひっ叩く。まったく、アホすぎる……やっぱ酔わせたのが失敗だったかな……もっとちゃんと見とけば良かった。まさか船まで壊してるなんて……ん?
「……ねぇ? なんでそんなに皆離れてるの?」
「い……いや……なんて言うんですかね、その……」
「また暴れるのかと……」
「え? あー……なるほどね。巻き添え食らうかもしれないから逃げたんだ」
「へ、へい。すいやせん……」
私とカイドウのやり取りに肝を冷やしたのだろう。部下たちが広場から離れて陰に隠れていたが、そういう雰囲気でないことを読み取ると戻ってくる。それを見て、私は頷いた。部下に向かって、
「でもそれは賢明ね」
「え?」
「私もカイドウも、戦う時なんかは周りのことあんまり気にしないから。特にカイドウはね。だから私とカイドウが戦うってなったら、そうやって自分で身を守ってもらわないとむしろ困るから、まあ頑張ってね?」
「……えっ?」
「おい、ぬえ。バカにすんじゃねェ。幾らおれでも態々部下に攻撃なんざしねェよ」
「酔ってる時はやるでしょーが! あんた昔、間違えて敵の船じゃなくて私達の船襲って全員に袋叩きにあったじゃない!」
「……あれは……ムカつく連中を見かけたから皆殺しにしてやろうと思っただけだ。白ひげやリンリンが乗ってたのが悪い」
「……いやまぁ、多少は良いけどさぁ……さすがに酔ってる時でも味方に攻撃はしないよう気をつけてよ?」
「わかってる。自分の部下は攻撃しねェ。
「ふー……よし! それじゃ、気持ち切り替えてどうするか決めよっか! 船がないなら作らせないとね!」
「は、はい……」
私は再び明るい笑顔を浮かべて話を次にすすめるのだが……おかしいな? こんだけ可愛い美少女が明るく次の話題にいこうと言ってるのに、何故か皆、さっきよりもげんなりしてる気がするな? ──まあでも、それは一旦無視するとして、
「船を作るなら大工に頼む? 後、お金も一応必要だよね」
「ああ? 金はいらねェだろ。ここはおれのシマだ。無理やり作らせればいい」
「バカ。金は一応出さないと大工が死んじゃうでしょ? 作った後ならどうでもいいけど、作るには時間がかかるし、その間も大工は生活があるじゃない。金を出さないなら働いてる間は私達が面倒見なきゃだし、それよりはどうせ、アガリは徴収するんだからそこから金払ってあげればいいのよ。──まあ勿論、普通より安くはしてもらうけどね。手抜きされる可能性もあるけど……」
「そん時は殺す」
「──ま、拷問して殺せばいっか。あんだけ恐怖与えたんだから大丈夫でしょ──ってことで決定かな」
「チッ、しょうがねェ。なら先に金だな」
結局、そこに戻ってくる。金を集めて船を作るところからだ。なんか色々予定外だけど、まあこれはこれで楽しいし、いっかな。別に急いでる訳じゃないし、船を作らせるくらいは構わないだろう。そう思ってまずは金のことをどうするかと話を進めると、
「お金かぁ。とりあえず、どんくらい徴収するかだよね」
「月の収入、半分くらいか?」
「う~ん……さすがにどれくらい取るもんなのかはわかんないよねぇ……半分取ったら死にそうだけど、まあ死んでから考えればいっかなぁ……」
「その時になってから減らせばいいからな。それでいくぞ」
「それじゃ、しばらくはこの町で適当にやろっか。ってことで、皆はこれから──」
「あ、あの……それについても……」
「またぁ? 今度は何?」
部下がまたしてもバツが悪そうに声を掛けてきたので私は対応する。いやいやいや、船はともかく、お金がないなんてことはないでしょ。じゃあどうやって生活してんのって話だし。でもまあ、さすがの上納金が高すぎるって話なら聞いてあげなくも──
「──今この島の殆どは……復興中でして……それほど金を納める余裕はないかと思われますが……」
「……え?」
「あ……?」
私とカイドウは再び、不意を突かれて頭に疑問符を浮かべた。……金を納める余裕がない? 復興中?
「……いや、全部は破壊してないし。無事な店とか場所もあるでしょ?」
「それはそうですが……街の殆どが崩壊してるので、そもそも客が激減してますし……」
「その、海賊が大量に死んだのもあって、品物を買いに来る客も同じで……ホテルなんかも、今はガラガラ……」
「農業なんかも盛んだったらしいんですが……あの、焼かれてしまったと嘆いてるところを見ました……」
「…………ふ~~~ん……なるほどね~~~……」
私は思わず笑みが引き攣る。……今の状況を整理するとこうだ。
まず、仲間が約100人。雑魚ばっかり。人手としては使える。
船は全滅。海賊達の船とかは全部カイドウが壊した。作るには金が必要。
お金を徴収するにも、島は半壊。どこもかしこも復興中。0ではないが、売上は激減。アガリも期待出来ない。
そもそも食料が怪しい。畑は燃やしたらしい──多分カイドウだ。後で殴る。というか、カイドウ1人くらいは何とかなるし、私も食料については何とか出来るけど、部下達の飯も調達しないといけないし……。
「……あはは。今……ひょっとして結構詰んでる?」
「ま、街を復興すれば色々と解決すると思われますが……? どうします?」
「……って、言ってるけどカイドウ。どうしよっか?」
「なんて面倒な島なんだ……ふざけやがって……」
「──うん! まあ、私達のせいなんだけどね!!」
よし、よくわかった。理解した。この島を文字通り半壊させてしまったことを理解した。よし考えよう。対処法を考えよう。大丈夫。私はこれでも見習いも含めてとはいえ海賊歴も10年近い。どうせカイドウは覚えないだろうからと色んなことを学んできたし、過去の経験、知識によって物知りである。ここで天才的な解決策を口にして──“ぬえちゃんすごい! 天才! 可愛い! 正体不明! ”と称賛されるのだ。よし、何があるかなぁ。う~ん……。
「解決策その1! 全部無視してとにかく船を作らせる!!」
「船が出来る前に大工が死ぬかと……」
「おれはそれでもいいがな」
「よくない! ──解決策その2! 別の島に拠点を移す! 私とカイドウは飛べるしね!」
「そ、それではおれ達が取り残されてしまいます!!」
「あーもう! じゃあ解決策その3! 人手だけはいるから急速に復興を進めて金を集めて船を作らせる!!」
「そ、それしかないんですか……?」
「うっさいわね!! じゃああなた達が考えなさいよ!!」
「おれ達、頭良くないんで……」
「じゃあ文句言うな!! 食うわよ!!?」
「ヒッ……そ、それだけは!!」
怯える部下達を前に私は頭を抱える。くっ……なんてことだ……使えない部下に半壊した拠点……これはやるしかないのか……私とカイドウで外海に出て適当な船を襲って船を奪う方法もあるけど、船を傷つけずに奪うのって苦手な上、そもそも船を動かすのに2人はキツい。ここ“
後は、この島にやってくる海賊を待って襲うという良い方法はあるけども……それも海賊がやってくるまでは何も出来ないという消極的な案だ。どちらにせよ、それまでに何かしら行動した方がいい。
「あー……島の住人は生きようが死のうがどうでもいいけど、うーん……せっかく手に入れた拠点を手放すのもなぁ……復興さえ済めば快適そうなんだけど……」
「クソ……もう……やるしかねェのか……!!!」
「まあ“やる”っていうか“やらせる”だし、私達は待ってるだけで楽だけど……そこまで長くはならない筈だし……」
カイドウの言うように、もうやるしかないのだろうか。とりあえず、様子見としてやらせるか。どうせしばらくは仲間集めしながら金集めに船を手に入れるって話でまとまってたし、別に船があったからといって直ぐに島を出て先に進んでやろうという気もなかった。まだ実力が足りてないのは明白だし、もうちょっと、自分達の実力も含めて色んなものが揃ってからにしようとも。カイドウはこう見えて慎重さもあるのだ。まあ酒に酔って台無しにすることも多いからバカに見えるし、実際バカな時もあるけど、素面の時は常識もあるし、頭も回る。今も、なんだかんだで部下を放って島を出るという選択肢を即座に取らない辺り、色んなことを考えてるのだろう。実際、この島は色々と都合が良いことには確かだしね。酒も美味しいし。まさかその理由で悩んでたりはしないだろうけど、手に入れた島を手放すのは実際惜しいだろうし。とにかくカイドウがどう判断するかだ、と私は待っていると、
「……いいだろう……だが、復興が終われば大量の金に武器に酒。それに船を貰ってく……それでおれ達がここを出ていく時は、また島をぶっ壊して、今度は全てを奪い去ってやる……!!」
「あはは、えげつな~い。まあでも与えた以上は奪わないとね。良い人で終わらないところがカイドウらしくていいね!!」
「せっかく手に入れた島だ……捨てるにしろ、利用するだけしてからじゃねェと勿体ねェ……それまでは、ここで海賊として必要なもんを蓄えるぞ……!!」
「おっけ~♪ ──皆聞いた? そんな感じの方針でいくから、今日からよろしくね!!」
「は──はい!!」
百獣海賊団のクルー達。──まあ
「──はーい、ダメ~♡」
「──えっ!? うわあ!!?」
私は飛び上がり、瓦礫の後ろに隠れてる住人を捕まえる。いや~、バレない訳ないよねぇ? 見聞色の覇気でちゃんとこの場にいる人の気配は感じてたし。でも子供かぁ……まあ子供は味わったことないし、味わっとくかなぁ。
「よーし捕まえた~!! この子、悪い子だねぇ~? なんか今の話、盗み聞きしてたみたい。どうしちゃおっか?」
「ウォロロロ……なんだ、
「う~ん、そうでもないけど、子供は何気に味わったことないんだよねぇ。別に態々子供を狙うこともなかったし。でもこうなったら、ちょっと試しとこうかな~って思うんだけど……」
「好きにしろ。どの道殺すんだからな、ウォロロロ……!」
「やった♡ それじゃあボク~? お姉さんの部屋行こっか♡」
「や、やめろ……離せ……!」
「……あ、あのカイドウ様……あれってやっぱり……?」
「ウォロロロ……気になるなら見に行けばいい。面白ェもんが見れるぞ?」
「……あ……あはは……結構です……」
私は子供を捕まえたまま飛び上がり、寝泊まりする部屋として使ってる島のホテルまで移動することにする。別にそのまま頂いてもいいんだけど、今回はまた色々と試したいし、出来たばかりの部下にはショッキングだろうからやめておく。敢えてボカした方が怖いしね。これもまた正体不明の恐怖という奴だ。実際に何をしたかは分からないけど、想像出来る恐怖。人の恐怖を感じるのもこれまた中々の快感なのだ。という訳で、一旦お昼休憩だね。
相変わらず前途多難。部下は手に入れたが、お金も船もまだない状況で、とりあえずの方針は決まった。そしてこの島での楽しいような難儀な様な生活を思いながら、私はこの島で採れた新鮮な食事に舌鼓を打つのであった。
今回は海賊旗と約100人の部下を手に入れました。順調……順調だな! 必要なものをちょっとずつ手に入れていきます。そしていらなくなれば捨てる。当たり前だな()
ということで次回はまた年月経ちつつ、色々手に入れていきます。失うこともあります。序盤はあんまりうまくいかないし、予定外のことばっかり起こります。強い部下が手に入るのは数年後です。最大で50歳くらいかなと見てるので、それくらいは必要なのです。
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