正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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初航海の失敗

 私達の島──もといシマ、キース島の復興は思ったより早く進んだ。

 何でも、この島で海賊が暴れることはよくあるらしく、建物を建て直したり修理したり、ということには慣れているらしい──まあそれでも、この規模のものはなかったらしいが。

 その間、私とカイドウはひたすら飲んで食って戦って。基本的にやりたい放題の生活を満喫していた。

 少しずつ金を徴収しながら、船を作らせ、復興していく街を見ながら修行してしばらく経った、そんなある日のこと。

 

「ん~~~……あっ、増えた!! ねぇみてカイドウ! UFOがまた増えた!!」

 

「見りゃわかる。……しかし、毎日戦りあう相手がお前しかいねェってのはイラつくな……船はまだ出来ねェのか?」

 

「さぁ……もうやっぱ船奪った方が早そうだけど、中々船来ないのよねぇ……来たら即奪うんだけど……その間はこうやって、修行でもするしか──」

 

「──カイドウ様!! ぬえ様!! 島の沖に海賊船が!!」

 

「──よし来た!!」

 

「──ウォロロロ!! 行くぞォ!!!」

 

 島1番の高級ホテルをアジトにしてそこで色々と退屈を紛らわせていた私とカイドウは、部下の慌てた様子の報告に跳ね起き、喜色満面の笑みでアジトを飛び出した。

 

 ──そしてその1時間後。島の港では、

 

「はーい!! これでこのイッカク海賊団は壊滅し、その船ごと私達百獣海賊団の物となりましたー!!」

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「やった……遂に解放される……!!」

 

「ああ……!! 毎日毎日、畑仕事や酒造りをする日々とはおさらばだ……!!」

 

「ああ……でも収穫くらいはしてェなァ……」

 

「おれも、作った酒の出来は確認してェ……」

 

 島に船が着港した瞬間、即殺して即略奪。一瞬で船と何十名かの部下と共に念願の船を手に入れることに成功し、私達は沸いた。毎日雑用や、私達の食料や酒を作っていた部下達も大喜びである。……若干名、農家と職人に目覚めてるのもいるけど。

 まあそれはともかく、これでようやく動き出せる。私とカイドウも船の上でニヤリと笑みを浮かべ、

 

「ウォロロロ……!! これで幾らでも略奪が出来るぜ!! この辺りの海と島を全て制覇してやる……!! ──行くぞ野郎共!!!」

 

「いぇーい!! 皆で縄張り増やして殺し放題奪い放題するぞー!!」

 

「ヒャッハー!! 略奪だー!!」

 

「無敵のカイドウ様とぬえ様に続けー!!」

 

「船に乗り込めー!!」

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 船長であるカイドウの号令の下、百獣海賊団に所属する雑魚達はノリの良い声を上げて船に乗り込んだ。どいつもこいつも、元々海賊だった無法者ばかりで、相当鬱憤が溜まってたのだろう。皆ようやくやりたい放題が出来ると息巻いている。ナイフを舌で舐めたり、武器をぶん回してる三下っぽいのしかいないのは気になるけど、まあいい。ノリが良いと楽しいからね! 昔を思い出す感じで楽しい。ひゃっはー! 

 という訳で早速船を出す。一応この島の永久指針(エターナルポース)は持ってるし、戻ってくることも簡単だ。島の磁気さえ記録させれば作れるし、ひとしきり略奪したら帰ってくればいい。まだ記録指針(ログポース)で先に進むことはしないからね。今はとりあえずこの辺りを荒らし回る。積荷を積んで、早速海へゴー。

 

 ──すると早速。

 

「船長!! 海賊船です!! どうします!?」

 

「バカヤロウ!! やるに決まってんだろ!! 戦闘だァ!!!」

 

「積荷を奪えー!! 皆殺しにしちゃえー!!」

 

「ヒャッハー!!!」

 

 幸先良く、他の海賊船を再び発見。当然、カイドウの指示は戦闘だ。血気盛んな部下たちは一斉に大砲を撃ち、船を近づけ、乗り込んで敵の海賊に襲いかかっていく。当然、私達も一緒だ。なので雑魚同士だけならどうなるか分からないが、私とカイドウがいるので、

 

「うおおおおおおお!! おれ達の勝利だ!!」

 

「やっぱ強ェ!! そこらの海賊は相手にならねェ!!」

 

「カイドウ様バンザーイ!! ぬえ様バンザーイ!! 百獣海賊団バンザーイ!!」

 

 と、あっさり勝利。ぶっちゃけ弱すぎる。やっぱ偉大なる航路(グランドライン)前半のレベルってあんまり高くないよね。そりゃ中には強い奴もいるのかもだけど、出会う海賊の大体が弱い。

 まあ略奪出来るのは良いけどね! これでこそ海賊って感じだ。楽しくなってきた。そんなところで私は皆に向かって、

 

「はいはーい! それじゃ、さっさと持ってきた永久指針(エターナルポース)近くの島に向かうわよー!! 航海士ー!!」

 

「うおおおお!! 島でも略奪だー!!」

 

「誰だ航海士! さっさと名乗りを上げやがれー!!」

 

「ヒャッハー!!」

 

 と、皆が盛り上がる中、私は航海士が進み出てくるのを待つ。待った。まだ来ないかなーと。しかし、

 

「……? 航海士? 何してるの? さっさと出てきてよ」

 

「おい、ぬえ様が呼んでるぞ。航海士はどこだ?」

 

「お前じゃねェのか?」

 

「いや、おれは何も出来ねェ。ただの戦闘員だ」

 

「おれもだ。お前は?」

 

「今まで仲間に任せてたからな……おれは戦うことしか出来ねェ」

 

 …………あれ? 

 部下達のざわつきを耳にしながら、私は笑顔のまま首を傾げる。──嫌な予感しかしない。

 いやまさか、そんな筈は……私はありえないと思いつつ、静かになった甲板で皆に問いかける。

 

「……航海士、いる?」

 

「……どうやらいないようです」

 

「…………おっけ。わかった。それじゃコックは?」

 

 私は言葉をぐっと飲み込み、次の質問を送る。すると部下達は少し囁きあい、確認を取ったところで、

 

「……どうやらいないようです」

 

「…………船医は? 後、船大工も」

 

 私は航海をする上で重要な役職を次々に問いかけていく。しかし、それすらも、

 

「……どうやら、いないようで──」

 

「──じゃあ何が出来んのよあんた達!!?」

 

「ヒッ!!? い、いや、どうやら皆戦闘員の様で……」

 

「アホかァ!! なんで乗る時に確認しなかったのよ!!」

 

「い、いやぁ……の、ノリで……」

 

「ノリで航海が出来るか!!」

 

 頭を掻いてバツが悪そうにする部下達に私は全力でツッコミを入れる。……あー、迂闊だった……というか、私も確認しとけば良かった……なんか、当然いるはずだと思って失念していた。部下に怒りはしたが、何気に私達の責任でもある気がする。いやまあそれはいい。とりあえず今はどうするかで……、

 

「──おい、狼狽えんじゃねェ」

 

「! カイドウ……」

 

 私と部下達が慌てている間、カイドウはどっしりと胡座をかいて構え、全く動じることもなくそう告げた。それはまさに、頼りになる船長の姿そのもの。さっすがカイドウ! 頼りになる! きっと何か考えがあるのだろう。カイドウも素面の時は頭が回るし常識もあるのだ。私と同じで海賊歴もそこそこだし、きっと何か手が──

 

「ぬえは全部出来るだろう。だからお前がやればいい」

 

「…………え?」

 

 ──私は、その言葉に唖然とする。衝撃は大きかった。私は思わず真顔になり、

 

「……ちょっと、もっかい言ってみてくれない?」

 

「だからお前がやれ。ある程度は出来るだろう」

 

「…………マジ?」

 

「そうするしかねェだろう」

 

「…………なんてこった……」

 

 私は思わず膝を突き、頭を垂れて落ち込んでしまう。脳内は困惑気味だ。えぇ……どんな重労働? 副船長が航海士とコックと船医と船大工を兼任するとか聞いたことがない。

 というか、航海術と料理は多少自信はあるけど、後者2つについてはあまり自信がない。医術なんて応急処置レベルのことしか知らないし、大工に至っては図工レベルのことしか出来ないだろう。専門知識はあまりない。しかしやらなければこのまま全滅だし……。

 

「……あーもう!! こうなったら、さっさと次の島に行って船員を調達するわよ!! もしくはさっさと帰って同じく調達!! さあどっち!?」

 

「次の島に行ってから戻るぞ」

 

「はいはい!! ほらっ、あんた達、さっさと働きなさい!! それ以外の仕事は全部やって貰うからね!! 後、指示に従えなかったり失敗した奴は食料庫行きよ!!」

 

「っ!!? は、はい!! 了解です副船長!!」

 

 私はカイドウの指示に投げやりに頷きつつ、部下に向かって指示を飛ばし、自分達だけでのはじめての航海を開始した。……だが、その航海は正直、あまり上手くいったとは言い難かった。

 

 ──まあ簡単に、その航海録というか、はじめての航海がどんな感じだったのか。独立してわかった、今の私達の問題点を1つずつ説明していくと……。

 

「おいぬえェ! メシはまだか!?」

 

「ちょっと待ってなさい!! 後1時間!! え~っと……今から煮込んでやれば何とかなるかな? もう皮は剥かなくてもいいかな……」

 

 まず食事についてだが……これについて、私は基本を抑えていたつもりだった。

 料理は苦手じゃないし、航海中に陥りやすいビタミン不足……壊血病なんかにならないように野菜や果物、米なんかを食べさせる必要があるのも分かってる。だから平気だとは思っていたのだが、それは甘かった。何がキツいって、作る量が膨大だということ。

 今うちの船には100人程度の部下がいる訳だが、彼ら全員の食事を用意するのは、メチャクチャ大変なのだ。それは二人分作るのとは訳が違う。

 それを1日2食程度は作らなければならない。普通の献立を考えるのは一瞬でやめた。作るのはカレーとかシチュー。鍋でひたすら煮込むだけでいいものか、もうそのまま食べれるような保存食や野菜、果物。あるいは火を通すだけで食べれるようなものばかり。充分だが、労力がヤバいのでかなり大変。1000名近い船員を支えてたシュトロイゼンを始めとする料理人達って凄かったんだなぁ……と私は思い知る。これは私達もコックの人員は確保しなければならないだろう。

 

 そして次は──戦いについてだが、

 

「よーし、これで私達の大勝利ー!! この島も制圧完了~♡ ──って、あれ? 人減ってない?」

 

「なんだ、逃げやがったのか?」

 

 数日の航海で早速とある島にやってきた私達は、即座に襲撃を掛けてその島の自警団みたいな連中をやっつけてその島を制圧した。数は多かったが、雑魚がどれだけいても私達に敵う筈もない。という訳で勝利に浮かれていたのだが、直ぐに気づく。──部下の数が減ってることに。

 それがどういうことかと問いかけると、1人の部下が何気なく、

 

「いやぁ、さすがカイドウ様にぬえ様! あれだけの大軍と戦ったのに、こっちの被害は20人程度でしたよ!! さすがです!」

 

「…………えっ? 死んだの?」

 

「えっ? ……あ、はい。結構激しい戦いでしたしね! でもこちらの大勝利ですよ!」

 

「…………あ、あ~……そっか……そりゃそっかぁ……」

 

「……チッ……軟弱な奴等だ……」

 

「……? は、はい……その、すみません……」

 

 私とカイドウはその報告を最初聞いた時、そのことを考えてなさすぎてちょっと困惑してしまった──が、それは当然のことだった。

 それは戦えば当たり前のこと。戦えば、()()()()

 海賊同士の戦いで、あるいはそうでなくとも、戦いで人が死なないなどありえないのだが、まさか普通に島を襲ってこんな大したことのない相手と戦っただけなのに、そこそこの数の人死にが出たのが、私とカイドウの感覚だとありえない……とまでは言わないが、実感として薄かった。

 別に死んだことを悲しんでるとか、その手の理解が薄い訳でなく、理由は単純。──ロックス海賊団だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 敵の海賊との戦いであっても、海軍との戦いであっても、滅多に人は死なない。大砲で撃たれようが多少刺されようが、重傷だろうが、戦いが終わって治療すれば普通に回復する。死ぬことは少ない。死ぬ時は仲間内で殺し合うのが1番多かった。

 だからちょっと撃たれたり傷ついたくらいで、気がついたら死んでることがあるとは思わなかった。同じ海賊だし、もっと丈夫なものかと。これは盲点だった。ちょっと残念だが、これは仕方ない。鍛えてない雑魚が戦ったら結構簡単に死んじゃう。憶えた。戦えば雑魚は死ぬ。……あー、なるほど。確かにこれは強い戦力が欲しくなる。雑魚を幾ら集めても戦う度に消耗するんだから多少の事じゃ死なない強い戦力はかなり貴重だし、これは戦力を強化したくなる気持ちも分かる。海賊って死ににくいもんだと勝手に思ってたけど、雑魚は死ぬんだもんね。そのことを念頭に置いておかねば。

 

「能力者の仲間とか欲しいよね?」

 

「ああ、いたら勧誘してやる」

 

 カイドウとそんなことも話す。……後、独立して分かったけど、やっぱ能力者もなんだかんだでそこそこレアだよね。まだ見たことないもん。

 

「そういやお前、間違って能力者とか食ったりすんじゃねェぞ?」

 

「ああ、それ? それはまあ平気。能力持ってたら食べる前に見て分かるし、一応気をつけてるよ。──というか、そんな頻繁に食べてないからね?」

 

「ウォロロロ、ならいいが」

 

 ……と、そんなことも言われたが、まったく、失礼しちゃう。生食はあんまりしないし、そもそも食べるのも気が向いた時くらいなのにさ。何もなければ精々ひと月に一回くらいだ。その際もちゃんと食べても問題なさそうな相手を、こんがり焼いたりして調理してから食べるようにしてるし、そもそも()()()()()はその危険性があるから食べない。腕とか足とか囓るくらいなら問題ないことは分かってるしね。能力者を食べてしまってお陀仏とかちょっと間抜け過ぎるし。

 

 ──という訳で私とカイドウ、そして百獣海賊団の面々を連れて島を襲い、再び拠点のキース島に帰ったのだが……しかし、今回の航海の中で1番ショックなのが、帰ってからの()()()()()

 

「──!? し、島が荒らされてる!? なんで!?」

 

「なんてことをしやがる……許せねェ……!! 誰だ!!? おれのシマをこんなに荒らしやがったのは!! 見ろ!! 酒場まで壊れちまってる!!」

 

 いや、その酒場はカイドウが前に壊した奴でまだ復興してない建物だからそれは違うんだけども、しかし島は明らかに、私達が島を出るよりも荒らされていた。一体誰がこんな酷いことを……いや、別に島が破壊されたことじゃなくて、厳密には縄張りが荒らされたことにショックを受けてるんだけど、考えてみれば当然だった。島の者の話では、

 

「あなた方が島を出ていった後に……また別の海賊がやってきまして……また壊されてしまいました……は、はは……」

 

 と、虚ろな目の若者が教えてくれた。うーん、さすがにちょっと可哀想。ってかムカつく!! 私達がいない間に島を襲うとか! 

 これもまた、教訓というか問題だった。分かってみれば当然のこと。縄張りというのは、守らなければならないのだ。

 つまり私達がいない間も、ここに残って守護をする人員が必要ってことである。それには、ある程度強く、指揮が出来る人材と、人手が必要だ。

 まあ私達、百獣海賊団の印がもっと有名になって恐れられるようになったら、その印にビビって襲うようなことはしないかもしれないが、今はまだ私達はともかく、海賊団としては無名のルーキーみたいなもの。この旗を見ても恐怖する者はいないだろう。

 

「ふざけやがって……!! どこのどいつの仕業だ……!?」

 

「ヤバいなぁ……このままじゃ住民が死んじゃうし、仕方ない。奪ってきた食料を……」

 

 ということで仕方なく、私達が別の島から大量に奪ってきた食料を住民に振る舞う。……本当に仕方なくだ。まさかこんなことが起きるとは思わなかったため、若干テンションが下がるが、それを何とか持ち直して部下に指示を出す。そして私自身も動き、

 

「はーい。私達百獣海賊団の炊き出しだよー。列を乱したり横入りは禁止だからねー」

 

「ありがとうございます……助かります……!」

 

「はい。いっぱい食べていっぱい働いてねー」

 

「お姉ちゃんありがとう……!!」

 

「あ、可愛いお嬢ちゃん。ふふふ、いいえー。特別に大盛りにしてあげるから頑張って生きるんだぞ~?」

 

「うん!」

 

 私は島の住人に、そして幼女に炊き出しの豚汁を振る舞う。すると予定外にも、島の住人に感謝されてしまった。いやほんと、予定とは違いすぎる……まあ別に良いんだけど、予想外ばかりだと戸惑ってしょうがない。開き直って楽しむのもいいんだけどね。別に人助けで感謝されるのも好きっちゃ好きだし。海賊的には人助けはどうかって意見もあるかもだけど、私はカイドウの方針以外は好きにやるだけだし、良い人なのか悪い人なのか分からないのも正体不明で私らしいと思う。なので小さい子供達には親切にご飯を振る舞い、横入りしようとした大人をかわりに成敗しておいた。横入りダメって言ったのに良い度胸だ。部下の憂さ晴らしに使ってやる。ということで捕らえて部下に連行させてっと……今はとりあえず、問題点を修正しなければならない。私はカイドウと合流すると、直ぐに相談する。部下もある程度集めながら、

 

「カイド~ウ。私思ったんだけど、まずは人を集めないとだから、次海賊が来たら生かして部下に──」

 

「うおおおお~~~~ん!! 大切なおれのシマが~~~~!!!」

 

「って、いつの間に泣き上戸に!!?」

 

「あ、あの……酒を飲み始めたと思ったらこの調子でして……」

 

「あ~~~……まあいいけどさぁ……」

 

 部下の報告と号泣してるカイドウを見て私は頭を抱えて軽く嘆息する。酔ってるとはいえ、ギリギリ話せないことはない。それに泣きたくなる気持ちも分かる。なんなら私も今は酔っ払いたい気分だ。まあカイドウよりもお酒強いし、酔えるのは後になるけどね。部下に命令し、私も酒を貰いながら私は木箱の上に適当に腰掛け、カイドウと話し合う。

 

「おれ達が初めて手に入れたシマを……ウオオオ!! おれ達が何をしたってんだ、ぬえぇ~~~~ん!!」

 

「島を守るための戦力がなかったからかなー。観光地的な島だってのに、まさかここまで荒らす海賊が来るなんてねぇ……まあ普段は沢山いる荒くれ者も海賊も少ないし、手頃だとでも思ったのかな?」

 

「うおおおお~~~~ん!!! そりゃこの島の海賊は死ぬほど弱ェが、あんまりじゃねェかよォ……!! せっかく金も徴収出来そうだったってのに……!!」

 

「ほんとそれ。もうちょっとだったのになぁ……まあその海賊はいつか見つけたらただでは殺さないとして、今は人手よね。足りないものも分かったし、次海賊が来たら生かして部下に──」

 

「──カイドウ様!! 沖に海賊船が!! まっすぐ、この島に向かってきている模様です!!」

 

「──あ?」

 

「──あ、ホントだ」

 

 話してる最中に、部下がやってきて海賊船がいると沖の方を指す。皆で一斉にそちらを見ると──確かに。こちらに向かってまた海賊船がやってきている様子だ。しかも3隻。全部同じ旗。おそらく同じ一団。それを遠目に、私は笑みを浮かべる。ついてる。あれを全部部下にすれば……と、カイドウの方に視線を戻し、

 

「ちょうど良かった。よし、カイドウ。あの海賊達は生かして捕らえ──」

 

「海賊だとォ……ふざけやがって……!!! ここが誰のシマだか分かってんのかァ……!!?」

 

「しかし3隻ですか……少し骨が折れそうですね……幾らカイドウ様とぬえ様とはいえ、生かして捕らえるとなると──」

 

「──あ゛?」

 

「! あ、バカ」

 

 ──しまった。部下に喋らせてしまった。それに、カイドウの変化がマズい……と思った時には時既に遅し。

 部下はそういう意味で言ってはない。生かして捕らえるなら苦労するだろうと言いたいのだろう。殺すのは楽だとは理解している。戦闘という意味では相手にならないと──だがそういう問題ではなかった。

 部下の、自分の実力を舐めたような言葉。それを耳にしたカイドウは、海賊がやってきたという報告で既に変わりかけていた表情を急速に変化させて、

 

「骨が折れる……? おれ達が……苦戦するって言いてェのか……?」

 

「……へ? あ、ああいえ、そういう意味ではなく──」

 

「……じゃあ──」

 

 部下の1人の発言に、カイドウが金棒を振り上げる。──あーあー……もうダメだ。私は他の部下に下がるようにジェスチャー。すると頭に疑問符を浮かべながら後退った部下達の輪の中心。1人となった男に向かってカイドウが、

 

「どういう意味だってんだよォ~~~~~~!!!!」

 

「ッ……!!?」

 

「ウギャアア~~~~~っ!!!」

 

 ……あ、ちょっと遅かった。というかカイドウの金棒の一撃が凄まじかった。若干衝撃波が起きてまだ離れきってない他の部下が軽く吹き飛んだ。そして、その金棒の一撃をモロに顔面に食らった男は沖合に向かって水平に飛んでいく。声が消えた。うん、即死。また部下が1人減ったなぁ、と思いつつ、カイドウの変化を見る。あの部下と沖の海賊達のせいだ。私は慌てて止めようとするが、

 

「おれがあんな奴等に苦労する訳ねェだろうがァ!!!! 見てろ!!! 今すぐ皆殺しにしてきてやる!!!」

 

「ちょっ──待ちなさいカイドウ!! 話聞け!! だからあれは部下にした方が──」

 

「オオオオオオオオオオ!!!!」

 

「突撃するなァ!!! だから、待ってって……!!!」

 

 カイドウが獣形態の龍に変化し、一直線に沖の海賊船に向かって飛んでいく。私も直ぐに追いかけるが……くっ……一応、飛行速度はほんの僅かに私の方が上だし、船に辿り着くまでに追いつけるか……!? カイドウが何もしなければ──

 

「──“熱息(ボロブレス)”!!!!」

 

「遠距離技出すなァ!!! あ~~~~!!!」

 

 カイドウが沖合の海賊船に向かって極太の熱線を吐き出した。私の方が思わず声を上げる。さすがにこの熱線には間に合わない。避けろ!! 避けて!! お願い!! 見知らぬ海賊達!! 

 

「──はははは!! おい野郎共! そろそろ島に到着する! 気合い入れろよ!!」

 

「おう! 総勢500名のおれ達ゲバル海賊団! これから偉大なる航路(グランドライン)で海賊としてさらなる高みへぎゃあああああああああああっ!!?」

 

 その海賊達は一瞬だった。一瞬で死んで、海賊としての夢が終わった。カイドウの攻撃で薙ぎ払われた。それを起こしたカイドウは海賊と船を燃やし、破壊したところで少し落ち着いたのか、

 

「あ~~~……これでいいだろう……おれのシマを破壊する奴は誰であろうと許さねェ……!!」

 

「──何やってんのよ!!?」

 

「へブ!!?」

 

 私はカイドウの横っ面を槍でぶん殴る。当然武装色の覇気を帯びてる。なんなら、内部破壊もするくらいに覇気を込めてる。こんくらいやらないとカイドウの酔いは醒めないのだ。殴られて、ようやくこちらを向いたカイドウに、私は詰め寄ると、

 

「人手が欲しいから部下にしようって提案してたでしょうが!! なのに何全員、船ごと殺しちゃってんのよ!! これ、生きてる人殆どいないじゃない!! 多分良くて10人くらいよ!! きっと!!」

 

「……部下? ──ああ、部下は欲しいな……今思いついたんだが、次に海賊が来たら部下にしちまおう」

 

「さっきからそれを言ってんのよ!!!」

 

「ブっ!!? っ……おいぬえェ!! さっきからボコスカ殴ってんじゃねェ!! やるってのか!! ああ!!?」

 

「上等よ!! 今日こそはコテンパンにしてしばらく酒が飲めないようにしてあげるわ!!」

 

 殴られまくったことで怒ったカイドウに対して私もキレて武器を構える。カイドウもそれに応戦する構えだった。この島に来てから初めての喧嘩だ。いつも模擬戦の殺し合いはやってるので珍しくはないが。ということで、海に落ちたらいけないので島に戻って戦うことにする。

 

「よォし!! 来い!!! ぬえ!!!」

 

「行くわよカイドウ!!!」

 

「うわああああああ!!? や、やめてくれェ~~~!!?」

 

「あ、ありゃ前に聞いた覇王色の衝突だ!! やべェぞ!!」

 

「止まってくれ船長!! 副船長も落ち着いてくれェ!!」

 

「ダメだ!! もう止まらねェ!! 島の住人を連れて避難するぞ!!」

 

「お、おお!!」

 

 ──そんな訳で、私とカイドウは海賊としての沢山の失敗を起こし、問題が出てきたその日の終わりを、盛大な喧嘩で締めくくった。そして後にカイドウと誓った。……まずはそれなりの時間を掛けて、自分達のシマと勢力を整えようと。




順調過ぎて怖いくらいだね。ということで、次回はまた時間を進めつつ、百獣海賊団の前途多難な日々です。そしてとうとう、あの人が出るとか出ないとか……? 後、能力者を食べて破裂するかどうかは、囓るくらいなら大丈夫な筈で、脳味噌か心臓が怪しい感じです。じゃないと動物系の能力者が敵の能力者を噛んで攻撃したりするシーンで死んじゃったりするからね。原作でもそれやっても別に死んでないし、おそらくはそんな感じ。心配してる人も多かったのでちょっとだけ言及しておきました。ということでまた次回をお楽しみに

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