正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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世界の海から

 世界の海の勢力図は、ここ数年で大きく変わろうとしていた。

 今や語り継がれるものとなった伝説の“ロックス海賊団”。船長ロックスが亡くなり、ロックスの旗印は無くなれど、その残党達は未だ健在。新しい仲間達を集め、個々に名を上げ始めていた。

 

 ──“偉大なる航路(グランドライン)

 

「──親父、こいつです!! このガキが、積荷を盗もうと……!!」

 

「離せよい!! くそっ……!!」

 

 世界政府非加盟国。騒乱の絶えないその荒れた島では、とある海賊団と、その一団の前に縛られ、突き出された1人の少年がいた。

 そんな少年の前に立つのは薙刀を持った身長5メートルは超えようという大男がいた。海賊帽を被り、白い付け髭がトレードマークのその海賊は、少年を険しい目つきで見下ろす。

 

「……どうしてうちの船の積荷を狙った?」

 

「っ……うるせェよい!! そんなもん、生きるために決まってる!!」

 

「……親はいねェのか?」

 

「親なんてとっくに死んじまってる! 生きるためには悪党だろうと食い物にしねェとやっていけねェんだ!」

 

「!」

 

 少年はそう叫び、身体を青い炎の鳥に変化させて縄から抜けつつ襲いかかる。

 しかしそれは、あっさりと白い付け髭の海賊に取り押さえられ、

 

「……動物(ゾオン)系、幻獣種か」

 

「知らねェよい!! 小さい頃に変な果物食ってからこうなんだ!! こうなって、おれは家族が死ぬ中1人で生き残っちまった……!! そのせいで島の奴等から嫌われ、こうやって盗まねェと生きていられねェ!」

 

「……そうか」

 

「殺すなら殺せ! おれにはもう、行く場所なんて──」

 

「──名前は?」

 

「っ……!」

 

 その時、その白い付け髭の海賊から名を問われ、少年は怯んでしまう。その男の、底知れない何か……迫力に怖気づいてしまったのだ。だからという訳ではない。もう1つ、その海賊は不思議な気を纏っていた。おおらかな、まるで海のような厳しくも優しい気を。その気に何を見たのか、その少年は名乗った。身体を人のものに戻しながら、

 

「……マルコ」

 

「マルコか。それで……行く場所がないと言ってたな」

 

「っ……それがどうしたよい」

 

 確認の為に問われたその事実に、少年は苛立ちを憶える。自分で言うのはいいが、他人から言われたい言葉ではない。言われて、バカにされてきたのだ。

 だからこの海賊も、自分をバカにし、あるいは同情しながらも何もしてくれない。そんな奴だと少年は思った。

 ──だが、そうではなかった。海賊は、少年を解放し、手を差し伸べる。

 

「──なら、おれの“息子”になれ」

 

「……!!」

 

 ──その男、海賊“白ひげ”は各地で孤児や行くあてのない者、嫌われ者だが不器用な海賊達を集め、少しずつ、“白ひげ海賊団”の仲間……“家族”となる者達を集めていた。

 

 ──また、“新世界“。とある島では、

 

「ママママ……生まれたよ。もうお前は用済みさ」

 

「そんなっ……! 捨てないでくれリンリン!!」

 

「おい、誰かそいつを捨ててきな」

 

「はい、ママ」

 

「リンリン~~~っ!!」

 

 その女海賊は、新たな我が子の出産を終え、その子の父親に当たる男を部下に命じて外に捨てさせ、子を抱きながら悪どい笑みを浮かべた。

 外の音。それを耳にして部下に問いかける。

 

「それで? 戦いはどうなってる。終わってねェならおれが行くが」

 

「ああ、ママ。問題ない、()()()()()

 

 そう告げたのは小柄なコック。彼は船長である女海賊にそう答え、他の部下達と共に外の港の様子を見る。するとそこでは、

 

「ハァ……ハァ……!」

 

「く、くそっ!! 何なんだこのガキ!!? ぐあっ!!」

 

「メチャクチャ強ェぞ!?」

 

「ビビってんじゃねェ!! 強ェとはいえガキだ!! どこかに隙が……ぐああっ!!?」

 

「お頭!?」

 

 外の港で行われていたのは、海賊同士の戦い。相手は小規模の数十人程度の海賊達だったが、女海賊側の戦力はもっと少ない──たった1人だ。

 その1人は子供。口元をファーで隠したその子供は、血に染まった三叉槍を手に持ち、息を乱しながらも敵の船長を倒し、冷たく睨みを利かせた。

 

「隙……隙なんて見せねェよ……!! 一方的な恐怖と、敗北をお前達に与えてやる……!!」

 

「う……あ……!」

 

「!!」

 

 その子供は、子供らしからぬ隙のないやり方で敵を屠り、出産中の母親に代わって味方に勝利を与えた。すると船内から子供達が現れ、

 

「やったのかカタクリ!」

 

「すげェ!! カタクリの兄貴、すげェよ!!」

 

「カタクリ兄さん!」

 

「……ああ、終わった」

 

 その少年──カタクリは自分の能力で船の甲板へと自力で戻る。多くの弟、妹に称賛を浴びせられながらもクールで落ち着いた様子のまま、報告の為に声を掛けた。一団の長は当然、母親だ。

 

「……ママ、敵は全員殺した」

 

「ハ~ハハハマママママ……そうかい、よくやった! さすがはカタクリ! それでこそ、おれの息子だよ♡」

 

「……ああ」

 

「ママママ……さあ、カタクリの勝利と新しい家族の誕生の祝いにお茶会を始めるよ!! 今日も、島中の甘いものが食べられる……楽しみだねェ……!!!」

 

「…………」

 

 ──30人以上の子供達と共に部下を集め、海賊団を結成した女海賊の名は──“ビッグ・マム”シャーロット・リンリン。ビッグ・マム海賊団の船長であり、子供を生み、血縁関係により勢力を徐々に拡大させる甘い物好きの怪物だった。

 

 ──そして、その他にも、

 

「コング大将!! “新世界”で、ロジャー海賊団と金獅子海賊団が小競り合いを……!!」

 

「っ……始まったか……現場には誰が行っている!?」

 

「はっ! ガープ中将! それにセンゴク中将も!」

 

「そうか……一先ず、あいつらに抑えて貰うしかない……か。今は人手が圧倒的に足りん……!」

 

「ゼファー大将も、応援に行くと仰っていますが……」

 

「それは助かる……“白ひげ”には思ったほど大きな動きはない……監視として別の中将を寄越し、一時的に戦力を集中させるか……いや、だがもしこの機に動き出してしまえば──」

 

 各地の海賊達の報告が相次ぐ海軍本部も慌ただしく、海賊達の勢力図に注意を払っていた。

 特に危険視されているのはやはりロックス残党。“白ひげ”、“金獅子”、“ビッグ・マム”、“キャプテン・ジョン”、“銀斧”、“王直”。それぞれ違った特色を持つ凶悪な海賊達。

 それに加えて“ロジャー“。海軍本部はそれに対抗するため、空いていた大将の席を埋め、戦力の強化に力を入れていた。

 そんな中、とうとうとある海賊の報告も上がってくる。

 

「コング大将!! “偉大なる航路”G-3支部が、百獣海賊団と名乗る海賊団に襲われたようです!!」

 

「っ……何だと……!?」

 

 “百獣”という名に歴戦の海兵の顔も苦虫を噛み潰したような表情になる。

 これでまたひとつ、世界の海にロックス残党の海賊達が暴れ始めた。そのことに、海兵達はより一層の緊張感を高め、人知れず息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)、キース島。

 

 酒と果物が有名な治安の悪い観光業の盛んな島であり、多くの海賊達も訪れるそこは、とある海賊の拠点でもあった。

 

「ほう……中々いい島じゃねェか」

 

「街は海賊だらけか? だが活気がある。おれ達には過ごしやすい島だ……!」

 

 島を訪れた海賊はその島の酒場やレストランに行き、ホテルに滞在して偉大なる航路の激しい航海の疲れを癒やす。記録が溜まるには3日の時が必要で、最低でも2泊。少し延長して滞在する海賊も多い。

 だがそんな彼らは一様に、島の至るところに掲げられた海賊旗を見て首をかしげるのだ。

 

「! あの海賊旗は……どこのどいつのもんだ?」

 

「さァ……だが海賊旗を掲げてるってことは、この島は誰かのナワバリってことだろう」

 

 船に海賊旗を掲げて自分達の海賊船であることを主張するように、島に海賊旗を掲げれば、そこはその海賊の“シマ”だということになる。

 故にこの島が誰かのナワバリであることを、海賊達は誰もが理解するのだ。

 だが客とはいえ海賊。島に訪れる全員が必ずしも大人しくしているとは限らなかった。

 

「……おい、この島を仕切ってる海賊、ぶっ飛ばしたらもしかして丸ごと乗っ取れるんじゃねェか?」

 

「ああ、確かに。そりゃいい考えだ……!」

 

 島に訪れたとある海賊達も、そんな島を奪おうとする海賊の1人。偉大なる航路に足を踏み入れ、高みを目指す海賊達は血気盛んだ。自力の過信に満ちている。おれ達ならそこらの名も知らない海賊に負ける筈がない──そんな根拠のない自信を抱いて。

 

「──おい、やめとけよ余所者」

 

「ひひひ……ここはおれ達、百獣海賊団のシマだ。手ェ出す奴は死ぬぜ……?」

 

「! なんだお前らは……!」

 

「百獣海賊団……? どこかで聞いたような……」

 

 島を奪おうと企む海賊達の前に、数十人の海賊達が立ち塞がる。彼らは名乗った──百獣海賊団だと。

 聞いたことのあるようなないような、と海賊が頭に疑問符を浮かべるが、そんな彼らに対して、百獣海賊団に所属する海賊達は告げた。ニヤニヤと笑みを浮かべながら、

 

「ははは……お前らどこの田舎もんだ? ウチの名前を知らねェとは」

 

「全員弱っちそうだぜ。お前ら懸賞金懸かってんのか? かかってんなら言ってみろよ、田舎海賊!」

 

「っ……なんだとてめェら!」

 

「おい落ち着けよ……うちの頭の懸賞金聞いたらこいつらビビって戦意を失うに決まってんだからよ」

 

「ほう? 面白ェ。言ってみろ、幾らだ?」

 

「後悔すんなよ! ──4800万だ!!」

 

 海賊達は堂々と、船長に掛けられた懸賞金の額を声に出す。懸賞金は海賊にとって勲章のようなものだ。額が高ければ高いほど、名を上げた海賊として上と見做されるし、その一団の格にも繋がってくる。海賊が己の懸賞金を上げようとし、それを誇りや自慢にするのもよくある話なのだ。

 そして4800万といえば、大金である。高額である。4つの海ではかなりの高額賞金首として怖れられ、偉大なる航路(グランドライン)でも決して悪くはない程度の金額である。そこらの海賊であればビビってしまうことだってあるだろう。

 だが彼らの反応は──大笑いだった。

 

「ぎゃはははは!! 4800万か!! なるほど!! やるじゃねェか!!」

 

「多少は頑張ってるようで安心したぜ!! こりゃ御二方にいい報告が出来そうだ!! 新しい部下が増えましたよってな!!」

 

「っ……!!」

 

 今までいた海では持て囃され、怖れられた。──だからこそ、4800万という数字を出して大笑いされたことのない彼らは一様に驚き、屈辱に顔を歪める。このままでは遠からず、怒りが爆発し、戦闘に発展するだろう。

 だが火に油を注ぐ──あるいは頭に冷水を浴びせるかのように、彼らはその情報を告げた。

 

「ぎゃはは……ムカついてるようだから教えてやるぜ。我らが百獣海賊団船長!! “百獣”のカイドウ様に掛けられた懸賞金額は──4億1110万ベリーだァ!!!」

 

「そしてその片腕にして副船長!! “妖獣”のぬえ様は3億8010万ベリー!! お前達とは格が違うんだよ!!」

 

「よ、4億に3億8010万……!!?」

 

「ちょ、ちょっと待て……!! “百獣”のカイドウにぬえって言ったら確か、あのロックスの生き残りじゃなかったか……?」

 

 その数字は、彼らの気勢を一瞬で衰えさせた。事情通の海賊の情報もそれに拍車をかける。あの伝説のロックス海賊団の生き残りで、4億と3億を超える賞金首。懸賞金の数値はその者の戦闘力を必ずしも表すものではないにしろ、戦闘力も含めた危険度、政府に対する脅威度は確実にその数字に表れており、金額が大きければ大きいほどある程度戦闘力が高いのは当然であり誰もが理解していることだ。

 1億を超えれば海賊としての箔が付き、立派な悪党に。3億を超えれば簡単には値が上がらなくなり、誰もが震え上がる大悪党だ。

 事実、その海賊団は萎縮してしまっており、逆に百獣海賊団のクルー達はそんな名前と数字に怯える海賊達を下卑た笑いで見下し、勝ち誇っていた。大勢で彼らを囲みながら誰もが下に見る。

 

「なんだ、知ってる奴もいるじゃねェか!! だったらわかったろ!! この偉大なる航路のレベルの高さをな!!」

 

「だが安心しな、この島の客である限りは手を出さねェ。今は船長も副船長も生憎と不在だ。おれ達はこの島の防衛を任されている」

 

「まあそれでも相手になるってんならしてやるが……戦力はおれ達だけじゃねェぞ──ベントラー、ベントラー、応答を願います」

 

「……? なんだあいつら、突然変な呪文を……っ!!?」

 

 ──百獣海賊団の船員がそう声に出した時、空に集まってきたそれに海賊達は瞠目した。

 それは誰も見たことのない……それでいて、誰もが存在は知っている物体。

 その正体は誰も知らず、得体の知れない飛行する物──未確認飛行物体。

 赤、青、緑。それぞれが集まり、海賊達を囲む。その物体の名を、彼らは声に出した。

 

「ゆ、UFOだと!!?」

 

 そう、それは……UFO。

 ざっと見て20機を超えるUFOの群れが、海賊達の上空でふわふわと浮かんでいた。

 

「ぎゃははは!! どうだ、驚いたか!!? これこそ我らが副船長、“妖獣”のぬえ様が生み出した正体不明のUFO軍団!!」

 

「島の防衛用にと残してくれたおれ達の秘密兵器だ!!」

 

「その強さは並の兵器を凌ぐ!! 何をしてくるかは実際戦ってみてのお楽しみだァ!!」

 

「どうだ!!? 戦ってみるか!? 仲間になるなら許してやるぜェ!!」

 

「くっ……悪魔の実か……!? だがどんな能力だこれは……!!」

 

「せ、船長!! 完全に囲まれてます!!」

 

 地上は百獣海賊団。空中をUFO。特に後者の脅威は未知数であり、なにより不気味だった。何故かずっと見られているような感じすら受ける。

 せめて海賊達だけなら、と思うが、百獣海賊団は更に彼らに絶望を叩きつける。

 

「どうだ!? UFOを撃ち落とせるかァ!? 言っとくが、並の攻撃じゃUFOは落ちねェぜ!?」

 

「そうとも!! あのUFOは物理的な破壊以外だとぬえ様が気絶しなければ消えることのない不落の兵器!」

 

「そしてぬえ様自身も怪物だ!! 生半可なことでは気絶すらしねェのさ!!」

 

「さァどうする!!? 従属か死か!! 選択肢は2つに1つだ!!」

 

「悪夢だ……!!」

 

 海賊達は絶望し、空を見上げる。まさかこんな状況に追い込まれるとは思いもしなかったからだ。

 もはや天に祈るしかないが、そうしても状況が好転する訳ではない。故に、海賊達は苦渋の決断を行おうとし──

 

「…………ん? あれ?」

 

「……? おいどうした、さっさと──」

 

「……あれ? ゆ、UFO……()()()()()?」

 

「…………は?」

 

 1人の海賊が気づく。空に浮かぶUFO。それが突然──()()()()()()()()()()

 誰も攻撃はしていない。なのに消えた。そのことに敵も味方も関係なく呆然と立ち尽くす。だが状況を先に理解したのは百獣海賊団の方だった。

 攻撃もしてないのに、UFOが消えた。ということは、理由は2つの1つで実質1つ。

 ありえない方の1つは、ぬえ自身がUFOを消したこと。だが、これはおそらくないと思われる。

 だから必然的に理由はもう1つの方となる。

 それは、ぬえが気絶してしまったということで……。

 

「え~~~~~!!!?」

 

 百獣海賊団は声を揃えて絶叫した。一体何が起こったのか、彼らには知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 半覚醒状態の意識の中では、現在の状況を理解するための時間がある。

 今の私はそれだった。気を失い、何が起こったのかと全身の痛みと過去の記憶から推察する。

 私の頭に残る記憶。それは、戦いに次ぐ戦いだった。

 

『もうこうなったら──奪われる以上に奪ってしまえばいいのよ!!』

 

『ウォロロロ!! そうだ!! 全部奪っちまえ!!』

 

 ──初航海の失敗。それを踏まえて反省した私とカイドウは自分達のシマを守るため、戦力の強化とさらなる略奪を目論んだ。

 だがそのまま航海に行けば前とまた同じ。だから今度は先に部下を増やし、ある程度は島に残していくことにした。

 しかしそれでも失敗した。弱すぎる部下ではシマを守りきれない。

 だから今度は色々考えた。いろいろ考えた結果、私やカイドウが残ることも考えた。だけど私も嫌だしカイドウも嫌がったせいで、喧嘩になってまた街の一角が吹き飛んだため、考えた末に、私は前から試していた能力の併用により、それを解決することを思いついた。

 

 ──それはUFOを、シマに置いていくことである。

 

 私の作り出すUFOは私が細かく操っている訳ではない。ある程度のところは操作しているが、基本は簡単な命令を出して操る方式だ。

 移動や攻撃、収集を命令し、後はその対象を指定する。私が近くにいればもっと細かく操作は出来るが、複数同時操作で個別の操作は、少なくとも今は難しい。

 だから私は考えた。──自律させればいいのだと。

 普段出してる命令をシステム化し、一定の行動を取らせながら、特定の行動やパターンを組み込み、その際に移動や攻撃、収集を行うようにすればいいと。

 だが簡単にはいかない。私はひたすら試した。カイドウとの殺し合いの時も、航海の最中も、敵との戦いの時も当然、能力の研磨に努めた。難しいが私の能力だ。悪魔の実の力は可能性に満ちている。鍛え、研ぎ澄ませればその能力の概念、出来そうなことは大抵出来る。だから信じて極めるのだ。

 その結果、僅かながらの成果として、移動パターンの組み込みに成功した。

 普段は島の上空に潜み、部下からの特定の信号を受信した場合のみ、召集される。攻撃命令も出すことが出来る。単純なものではあるが、今はそれで充分だ。

 まあ半分は虚仮威しみたいなものだが、鍛えればもっと自在に動き回り、()()()()()()()()()が可能となる。気分はプログラマー。UFOの行動パターンを組み込んでやるだけで出来る。これももう少しで完成する。

 そして更に、以前から試して鍛えている、能力に覇気を纏わせるのが万全になれば、さらに恐ろしいことになる。これが成功すれば、私の異名に恥じない。私1人で“災害”となり得る。その規模が遥かに拡大する。

 故にそれを鍛えながら、私とカイドウは部下達と海に出まくった。部下の収集に数ヶ月。島の復興に半年、たまに現在進行形。そして能力を鍛えながら戦いを繰り返し、金と部下を集めた。これによって百獣海賊団の戦力は300名の海賊達。うち100名程度は島に残し、200名は私達と略奪と戦闘の日々……未だに部下が戦闘員ばっかりで私の仕事の量が酷いが、なんとか海賊としてやっていける様になってきた。

 そんな時か。おそらく先程、私とカイドウは──

 

「──……どうだ? 様子は」

 

「気を失っているようです……しかし、こっちの大男はともかく、こんな少女がまさか……」

 

「甘く見るなよ……どちらもあのロックスの残党だ……部下達は大したことなかったが、この2人は3000名いた海兵のうち2000名を倒し、中将4人と丸一日以上戦ってなお倒れないどころか3人を倒し、麻酔弾数十発を受けてようやく倒れた怪物だぞ……!! 死刑が執行されるまでは気を抜くな……!」

 

「っ……はい……しかし、不気味ですね。これだけの重傷を負いながらまだ生きているとは……」

 

「動物系の能力者だ。タフなのは当然だが……このタフさはもしかすると──」

 

 ……あー、そうだった。私、負けたんだったなー。あ~、悔しい。楽しかったけど、まさか麻酔弾の一斉掃射で気絶するなんて情けないよね。反省。次はもっと耐久力と耐性を付けて強くなる。──よし、反省終わり。

 

「──カイドウ~、起きてる~?」

 

「っ!!? 目覚めていたのか!!?」

 

「……あ~~~……ぬえか……んん……? なんだこの鎖は……」

 

「!! こっちの男も……!!」

 

「私達、捕まっちゃったみたい。だからそろそろご飯食べてから逃げよ。んっ、まあ拷問されるのも乙だけどさ」

 

「ああ……クソッタレ……また負けちまったのか……イラつくぜ……弱ェってのはよォ……!」

 

「っ……!!? 何をする気だ!! 動くんじゃない!!」

 

 相手の……海兵? 看守? まあどっちでもいいが、その男が銃を撃ち込んで私達を止めようとする。うーん、中々思い切りが良くていい。痛覚を刺激されて中々良い感じだ。

 しかし、既に私とカイドウの体力は回復している。してない訳がない。だったら目覚めてないしね。目覚めるってことは回復してるってことだ。

 

「ウッ……オオ……!! クソヤロウ……撃ちやがったな……!!? 殺してやる……!!!」

 

「んっ♡ あ~、効くねぇ……! 目覚めて直ぐの鉛玉はさすがに刺激が強いかな……よいしょっと」

 

「ヒッ!!? 鎖が……!!」

 

「マズい!! 応援を呼べ!! このままでは……ウッ……!!?」

 

 カイドウが力任せに鎖を引き千切って相手を殴り倒してしまう。なので私も、鎖を千切ってもう1人を掴んで壁に叩きつける。白目を剥いた。一応死んでないかな? まー今はいいか。先にここ潰して逃げないとね。

 

「ほら、カイドウ。行くよ。とりあえず、武器とか探さなきゃ。後部下とか船の無事の確認も」

 

「ああ……全部、ぶっ壊してやる……!!!」

 

 私とカイドウはそうして牢屋から出ていく。牢から抜け出すのには別に何の感慨もない。だっていつものことだしね。

 

 

 

 

 

 ──1時間後。

 

「クソ弱ェ……おれァこんな奴等に負けたってのか……」

 

「体力が切れて油断しちゃったせいじゃないかな。やっぱりもっと体力付けた方が良いんじゃない?」

 

 私とカイドウはとある島の裏手、燃えている街を背後に奪った食料で腹ごしらえをしていた。別に数日食べなくても全然平気だけど、それはそれとしてご飯は食べたい。お腹も空くといえば空くしね。骨付き肉ウマー。焚き火を囲み、皆で夕食。一応部下も残ってて良かった。たった10数人だけどね。

 

「あーあ、まーた部下集めしないとなぁ」

 

「おれの部下をこんなに殺しやがって……憶えてやがれ海軍……にしてもお前ら、もう少し頑張れねェのか?」

 

「む、無茶言わないでくださいよ……!」

 

「そ、そうです! イテテ……こんだけ傷を負って動ける方がおかしいんです……」

 

「軟弱だな。おれが見習いの頃は毎日死にかけて、それでも雑用してた」

 

「雑用は私に任せっきりだったでしょうが。あんたは酒飲んでただけで、死にかけでも雑用してたのは私のほうよ」

 

「あ、あはは……そうっすか……(化け物だ……)」

 

「すごいっすね……(怪物だ……)」

 

「……ん~? 怖いだけじゃなくて可愛いって思ってくれてる?」

 

「っ!!? も、勿論ですぬえ様!!」

 

「せ、世界一の美少女はぬえ様です!!」

 

「え~~~♡ 世界一なんて照れるなぁ♡ いやいや、さすがにそれは言い過ぎだよね~♡ まあ可愛いのは事実だし、厳密には世界一可愛いかもだけど~~~♡」

 

「──酔ってんのか?」

 

「素面よ!!!」

 

 カイドウのふざけた問いにツッコミを入れる。まったく……カイドウはいつまで経っても私を可愛いと認めないというか、まあカイドウだからしょうがないんだけど、微妙に悔しい……まあ部下達は見聞色で軽く読み取ったけど、怖がってるみたいだしいっか。若干怖れが勝ってるからそのうち教え込まないとだけどね。可愛さ5:恐ろしさ5が私のイメージを構成する黄金比だ。実際には色んな一面がある正体不明だけどね。それすら不確かなのが私である。これぞ正体不明。

 

「──カイドウ様!! ぬえ様!! 今戻りました!!」

 

「あ、お帰り~」

 

「おう。ちゃんと奪うもん奪ってきたんだろうな?」

 

 と、色々話してるうちに街の方から数人の部下が戻ってきた。物資の略奪と情報の収集に行かせていた部下達。……あっ。私が気絶したってことはUFO消えてる。今思い出した。それなら物資の収集はUFOでもやれば良かったかな……ま、いっか。代わりに労ってあげよう。

 

「食べる?」

 

「あ、はい、いただきます。……ちなみにですが、なんの肉ですかね……?」

 

「? 普通のお肉だけど? 見れば分かるでしょ?」

 

「……え、遠慮しときやす……」

 

 あらら、何故か遠慮しちゃった。残念。何を思ったのか知らないけど、結構良い牛肉なんだけどなー。ふふふ、残念。そんなに私の渡すものは得体が知れないかー。それはそれで面白いからいいけどね。

 

「おい。さっさと報告しろ」

 

「あっ、へい!! え~っとですね。ちょっとこの辺りの島々で評判の凶悪海賊の情報なんですが……」

 

「おっ、スカウト情報か~。いいねぇ。私も聞く聞く~」

 

 私はカイドウの隣に戻って報告を聞くことにする。街で集めてきた情報だ。どうでもいいけど、よくこんな騒ぎになってる街で情報集めてきたなぁ。普通の人は逃げ惑ってると思うんだけど。蛇の道は蛇って奴だろうか。それとも私達が捕まってる間に色々集めてたのかな? 牛肉をもぐもぐしながら私はその情報を聞いた。

 

「え~っと。まずは懸賞金2900万ベリー、“棘顎”のヴィアン。何でも、人並み以上に尖った顎を持つ海賊で……」

 

「ふざけてんのか」

 

「い、いえっ、そんなつもりは!」

 

「尖った顎で人殺したりするのかな? ちょっと面白そうだけど」

 

「いらねェ。次は?」

 

「そうですね……あっ! こいつは良いですよ! 懸賞金4800万ベリー、“ナメクジ博士”、ヌメロン。見た目は普通ですが、この辺りの海賊の中では一番の賞金首で、残忍で通った海賊。異名の由来もそれはもう怖ろしく……」

 

「聞かなくても分かるなぁ……」

 

「いい加減にしやがれ!! もっとマシな奴はいねェのか!!?」

 

「す、すみません!! しかし、懸賞金で言うと後はこれ以下でして……後は、信憑性が薄いものしか……」

 

「信憑性が薄い?」

 

「なんだ、あるなら話せ」

 

 私とカイドウは微妙なスカウト候補の情報を聞きつつ、信憑性が薄いと言う話を聞くことにした。部下は迷っていたが、カイドウが話すよう促したため、恐る恐る話し始める。部下の男は喉を鳴らし、

 

「2つありまして……1つは、()()()()()()()()()

 

「! 拷問好き?」

 

「──なんだ、ぬえのことか」

 

「私な訳あるか! ……あ、でも信憑性が薄いっていうなんか噂っぽい感じはいいかも……ちょっとミステリアスというか正体不明感が……」

 

「拷問されて喜ぶ海賊なんざお前以外いねェからな」

 

「べ、別に喜んでない!!! ちょっと楽しい気分になるだけよ!!」

 

「……えっと、続きを話しますが……」

 

「なんだ、ぬえのことじゃねェのか」

 

「だったら話さないでしょ……それで、なんで信憑性が薄いの?」

 

 私は若干期待しながら問いかける。すると部下はメモを見ながら、

 

「なんでも、常に燃えているらしくて……」

 

「! へぇ! いいじゃない!」

 

「悪魔の実の能力者か。どこが信憑性薄いんだ馬鹿野郎」

 

「あっ……なるほど。そういう可能性が……」

 

 今納得する部下に私は若干笑みが引き攣る。え……私達、今までこんなバカにスカウト情報集めるの任せてたの……? 悪魔の実の能力の可能性だってあるのに……というか私とカイドウが身近にいるってのにこいつらはさぁ……次ミスったらお仕置きだね。

 しかし私的には期待出来るというか、ほぼ正解なので良い気分だ。ワクワクしながら続きを聞く。部下に促し、

 

「それで? どういう相手なの? 他の特徴は?」

 

「えっと……何でも、つい最近海賊になったばかりで、懸賞金は無し。ただ、政府の実験施設から逃げ出し、所有する巨大監獄船を丸ごと奪って乗っていた船員を皆殺し、罪人も激しい拷問の末に殺し、海賊としての狼煙をあげた凶暴な男で、近々懸賞金も懸けられるだろうと……」

 

「面白ェじゃねェか。今までの中では悪くねェ」

 

「出会ったら仲間にする?」

 

「ああ、そいつはいい戦力になりそうだ。──他には?」

 

「あっ、はい。もう1つはまた奇っ怪で……なんでも、とある島でパンデミックを起こし、変わった武器を使って残忍なショーを行う海賊が誕生したとか……」

 

「パンデミックだと?」

 

「しかもショーだって! 楽しそう!!」

 

「これも真偽は怪しいんですが……毒薬か何かを使ったり、病を生み出すイカれた男らしく……衆人環視の中で処刑ショーを行うとのことで……」

 

 またしても良い報告だった。多分、こっちも当たり。私はニコニコしながらカイドウに顔を向ける。するとカイドウもニヤリと悪い笑みを浮かべており、

 

「ウォロロロ……面白ェ、そいつも使えるな」

 

「じゃあ2人とも仲間にしに行く?」

 

「ああ。場所は分かってんのか?」

 

「え、ええ、大体は。しかし、何分海賊なので、着いた時にそこにいるかはわかりませんが……」

 

「構わねェ。──よし野郎共!! さっさと行くぞ!!」

 

「新たな部下を求めてレッツゴー♪」

 

「はいっ!!」

 

 ──そうして、私達はまた船を出した。私達の新たな仲間、強力な戦力を求めて。

 

 

 

 

 

 ──そこは鉄格子が多く並ぶ牢獄だった。

 

「ぐ……アァ……!」

 

「こ、殺してくれ……!!」

 

「こんな、仕打ち……あんまりだ……!」

 

「…………」

 

「グアアアアアアア!!?」

 

 鎖に繋がれるのは老若男女問わず、全てが血塗れで、苦痛に塗れたうめき声を上げる者達。

 彼らは一様に拷問を受けていた。罪人ではない。罪なき民衆。だが彼らは鎖に繋がれ、あらゆる拷問をここで受け続けている。

 解放される方法はたった1つ。この牢獄の支配者の赦しを受け、炎で焼き殺されることだけだった。

 

「……フン、つまらねェ。もう壊れたか」

 

「ァ……ァ……」

 

「しょ、少佐あああ……!!? っ……ハァ……ハァ……き、貴様、よくも私の部下を……この化け物め……!!」

 

「……次はお前か?」

 

「ッ……!!?」

 

「その調子がいつまで続くか見ものだな……」

 

 燃やされ、殺された男は繋がれた海兵の部下だった。彼が無残にも焼死したことで、咄嗟に声をあげたが、その支配者に視線を向けられ、思わず怯んでしまう。

 その男は恐ろしかった。

 年はまだ若い筈──だが実際の年齢は不明。全身が黒尽くめで黒いガスマスクの様なものを顔に付けた男。腰には刀。──だが真に恐ろしいのはそこではない。

 男は背中から黒い羽を生やし、同時に背中に炎を背負っていた。その炎は身体から吹き出ているように見える。そして、その炎は先程、男の全身から吹き出て、掴んだ海兵をそのまま焼き殺してしまった。

 ここにいる者は皆、彼に負け、捕らえられ、終わりの見えない拷問を受け続けている。終わる時は死ぬ時。それを理解しているため、ベテランと思われる海軍将校も顔から戦意の色が消えつつあった。

 それを知ってか知らずか、男は近づいてくる。近くの拷問器具で海兵を痛めつけ、

 

「ぐ、あああああ~~~っ!!」

 

「…………フン」

 

 男はある程度痛めつけたところで、海兵に何も言うことなく鼻を鳴らしてその場を離れる。この拷問に意味はない。特に聞きたいこともないのだ。ただ、男が気晴らしでやっているだけである。彼は拷問に精通していた。拷問に狂気は必要ない。ただ淡々と、身体と心に苦痛を与え続けるだけの冷徹さとそれを淡々と行える精神。それに知識と腕があればいい。

 ただ一方で、それを完璧に行える者は狂人でもあった。少なくとも、この男は常人とは違う。彼は過去の経験から拷問の心得を、()()()()()()()()()()

 

「──せ、船長……」

 

「──何だ?」

 

 そんな彼の下に、部下からの報告が届く。部下すらも怯えていた。失態を犯せば、次に鎖に繋がれるのは自分かもしれないと。だが覆面から見えるその鋭い眼光を見れば報告しない訳にはいかない。部下は簡潔に告げた。

 

「その……島の砂浜に、不審な男女が……」

 

「……不審な男女?」

 

「は、はい……大男と少女の二人組なんですが……その、これを……」

 

「! ほう……」

 

 部下が差し出したその2枚の紙を見て、男の声色が僅かに期待のものに変わる。その変化はわかりにくい。だが確かに、興味を示したものだった。

 

「……砂浜ということは流れ着きでもしたか」

 

「あ、はい。どうやら気絶していて……一応、鎖で繋いで船まで連れてきましたが……どうします?」

 

「ここに連れてこい」

 

「! は、はい。わかりました……」

 

 命令を受け、部下はいそいそとその場を去っていく。

 牢獄に1人、その男は受け取った2枚の手配書を再度見ると、

 

「“百獣”のカイドウ……それと“妖獣”のぬえ……面白い。おれが試してやる」

 

 ──世界最強、伝説のロックス海賊団。

 その残党が新しい仲間を集め、勢力を広げる……そのはじまりの時はまた、刻一刻と近づいていた。




地味に時が経ちました。相変わらず強さはともかく、海賊団としては微妙な位置を彷徨っています。
さて、そろそろ大看板のターンですね。知らない人の為に紹介すると、

初登場時は破壊を好むイカれた大海賊。しかしその真の姿は上司と部下に振り回されてやたら怪我をしたり、無茶な任務を頼まれたり、酷いパワハラを受けて胃を痛めてそうな男――労災のジャック
大好きな花魁である小紫が死ぬ。大好物のおしるこを食べられる。ビッグ・マムに自分も自分の管理する施設もボロボロにされる。自分に落ち度は殆どないのに、酷い目に遭う男――災難のクイーン
今はまだ無事。これから無事かは保障出来ない。頑張ってほしい男――息災のキング

これが災害と呼ばれる男達――え、違う? いやいやそんな。

という訳で次回は拷問好きの変態野郎です。お楽しみに

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