正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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QUEEN

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”とある島の海域。

 

 私達はあれからすぐに部下達と合流し、その噂の島へ向かった──頼もしい仲間を連れて。

 

「あ~、とっても楽~~~♡ 航海士がいるから私、何もしなくていい~~~♡」

 

「……今までは一体どうやって航海を?」

 

「え? 全部私が1人でやってたけど? 航海士もコックも船医も船大工も」

 

「ウォロロロ!! ぬえは色々出来るからな!! うちのバカ共は戦闘以外役に立たねェからぬえがやるしかなかった!!」

 

「…………よく今まで生きてこられたな……」

 

 そう呟いたのは甲板で飯を食う私とカイドウの前に立つ黒尽くめで翼と炎を持つ男──キングだ。

 彼は私達、百獣海賊団の幹部となり、その船と少数の部下と共に加わってくれたおかげで若干人手不足が解消された。具体的には航海士とかその辺りが。

 まあ一悶着があったんだけどね。キングが百獣海賊団入りするに当たって、部下達の前でそれを宣言した時のことだ。それは、

 

『──おれは今日から、この御二方が船長と副船長を務める百獣海賊団に入る……そこでてめェら、今直ぐ決めろ。この船を降りるか、おれと共に百獣海賊団に入るか。選択肢は2つに1つだ』

 

『え、ええっ!!? そ、そんな!!』

 

『そんな急に言われても……!』

 

『と、というか……そっちの大男はともかく、そんな弱っちそうな女なんかが副船長を務める海賊団なんて……』

 

『──何だとてめェ?』

 

『へ? ──うブっ!!?』

 

 ──戸惑う部下達の中に1人、カイドウや私のこと……特に私のことを指してバカにした船員を、キングがその巨体に見合った太い腕で掴み上げる。周囲の部下達がざわめいた。だがそれに構わず、キングはそいつを掴み上げたまま船の縁まで行き、船から腕を突き出すとドスの利いた声で、

 

『おいてめェ……口には気をつけろ……!! おれァもう百獣海賊団の“キング”だ……!! カイドウさんとぬえさんをバカにする奴は許さねェ……!!』

 

『わ──わ、わかりましだっ!! だ、だがら、やべで……!!』

 

『許さねェ、と言ったのが聞こえなかったか……!?』

 

『っ──ぎゃあああああああああっ!!?』

 

『てめェは“死刑”だ……!!』

 

 そう言ったキングが部下を炎で包み、そのまま船の縁で焼き殺してしまう。絶叫──断末魔が船の上に響き渡り、10秒足らずで焼死体となったかつての部下を、キングは一切の情を見せずに海に投げ捨てる。私とカイドウは思わず笑ってしまった。

 

『ウォロロロ……容赦ねェな』

 

『あらら、手間が省けちゃった。せっかく今日の“気まぐれランチ”の材料にしてあげようと思ったのにな~』

 

 あんまり舐められるのもあれだし、キングの部下だった者達に私の恐ろしさでも教えておこうかなと思ったが、先んじてキングが粛清してしまう。まあそういうのは後からでもいいかな、と思いながら、キングが振り返り、部下達が萎縮したのを面白がって見物する。キングは部下達に向かって首をしゃくり、

 

『──今ここで、カイドウさんに忠誠を捧げられねェ奴は……さっさと船を降りろ』

 

『は……はい……』

 

 今度は何も文句は出なかった。さすがのキングも部下だった連中を何もなく殺すことはしない。選択権だけは与え、残った奴だけは生かす。船を降りた人間は……殺した。まんまとその行間を読み取れなかったバカが何名か、船を降りる時にキングに殺された。私達的には別に殺さなくても良かったんだけど、キング的には“ケジメ”が必要だったらしいのと、百獣海賊団に入らないのなら今からは敵だということ。かつての部下であっても殺すという覚悟を自ら見せつけたような形だ。

 

 ──まあそんなことがあった結果、キングの持っていた巨大監獄船一隻と、キングの部下、航海士を含む13名は百獣海賊団入り。……え? 数が少ない? まあそれはカイドウが殺しちゃったから……ほんとは後数十人はいたんだけどね……、まあそのことを言ってもしょうがないので気にしない。とにかく今は、新しい仲間が加わったことを喜ぼう! 

 

「──それでぬえさん。次の仲間候補があの島にいるというのは確かで?」

 

「多分ね~。何でも疫病を撒き散らしたりちょっと変わった処刑を楽しむイカれた海賊らしいよ? 期待出来そうだよね!」

 

「……使いものになる奴ならいいが……ならないならおれに任せてくれ……拷問で、そいつの戦意をへし折ってやる」

 

「あ~~~、まあ、ならないなら良いんじゃない? ね? カイドウ」

 

「ならねェと抜かすなら好きにしやがれ」

 

「ああ、そん時はおれがやる……!!」

 

 カイドウの許可を得て、気合いを入れた様子のキング。やっぱ初めての航海、仕事とあってやる気が有り余ってるのだろうか。

 まあ血気盛んなだけとも言えるかも。キング、かなりの武闘派っぽいというか、それこそなんか武闘派ヤクザっぽい感じがするしね。普段は冷静なんだけど、やっぱり凶暴性はある。ウチに向いてる感じだ。私と同じ理由で拷問も得意みたいだし。これから誰かを捕らえて尋問とか拷問で情報を聞き出したりとか、そういうのはキングに任せても良いだろう。ぶっちゃけ私やカイドウからしたらアレだけど、普通の人にあの拷問は十分過ぎる。

 ……ただなぁ、これから仲間になる予定の相手……ちょーっと気になるんだよねぇ……色んな意味で、楽しそうだし……どうしよっかなぁ~。

 

「うーん……」

 

「……何か食事に不満が? それならコックを呼びつけて──」

 

「え、何? クッキングパフォーマンスでも見せてくれるの?」

 

「──()()()()

 

 キングが言ったその言葉に、ちょうど甲板に出てきていたコックが“ひっ……!?”と声を漏らして怯えていた。その様は見てて面白い。でも、

 

「う~~~ん。面白そうだけど、今はステーキの気分じゃないんだよねぇ~。悪いけど、また今度ね」

 

「フン……残念だ」

 

 本当に残念そうだった。え、何? キングがやりたかっただけ? それはそれで若干どころかかなりヤバいんだけど、まあ頼もしいし面白いからいい。今度、真面目にキングに拷問ショーでもやらせてみようか。シマの住人に見せたら大盛況間違いなしだろうし。

 まあそれは置いといてだ。もうすぐ島に到着する。というか見えてるし。後は適当な場所に船を停めて錨を下ろすだけだ。

 ──うーん。ここはやっぱり、

 

「カイドウ、ちょっと先行って見てきていい?」

 

「何だ? お前も暴れたくなったのか?」

 

「そんなところ。だからちょっと噂のイカれた奴を見てくるね!」

 

「……おれはどうすれば?」

 

「キングはカイドウと一緒にゆっくり来ていいよ! あっ、私の代わりに部下もまとめて適当に指示出してね!」

 

「……わかった」

 

 私は船から飛び上がり、カイドウの許可を取ってから先んじて島へ。キングにも部下をまとめるように指示を出しておく。カイドウが大まかな命令は出すんだけど、細かい指示なんかは普段私がやってたからその代わりはキングにやらせるのがいいだろう。私達、カイドウが船長で私が副船長な以外は戦闘員ばっかりで特に役職がなかったため、部下のまとめ役がいなかったが、キングになら任せられる。彼と、もうひとりがいれば、百獣海賊団もようやく組織として回り始めそうだ。それに期待しながら、

 

「──さ~て、私もエキサイトしに行こっと」

 

 私は陽気な音楽に釣られるように島の中心へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ダンスステージは大盛況だった。

 ステージの中心で踊る太った大男──クイーンのショーは島中に恐怖を与える。

 

「エキサ~~~イト!!」

 

QUEEN(クイーン)!!」

 

QUEEN(クイーン)!!」

 

 部下達のコールを受けたクイーンはいつも通り、大盛り上がりの周囲を見渡して満足そうにする。どいつもこいつも病気で苦しみ、しかしそれでも従うしかない──そんな絶望に支配されている。それを引き起こしているのが自分。こんなに惨めで面白いことがあるだろうかと。

 気分が良くなり、クイーンは続けて歌い出す。ショーはまだまだ始まったばかり。再びステージに出てアンコールを始める。数人の部下達と共に踊りだし、

 

「やせちまったらモテすぎるから♫ あえてやせないタイプの♫」

 

『“FUNK(ファンク)”!!』

 

「丸く見えるが筋肉だから♫ 歌って踊れるタイプの♫」

 

『“FUNK(ファンク)”!!』

 

 ──そう。自分は太ってはいるが、人気者。周囲を沸かせるタイプの“FUNK”だ。思いを込めて踊り、歌い出す。コーラスが気持ちいい。もっと歌って踊った。続けて、横の少女に合わせて、

 

「可愛い子ぶったら可愛すぎるから♫ あえてこわがらせるタイプの♫」

 

『“CUTE(キュート)”!!』

 

「怖く見えるが美少女だから♫ 歌って踊れるタイプの♫」

 

『“CUTE(キュート)”!!』

 

「「エキサ~~~イト!!」」

 

 共に合わせてポーズを取る。不思議といつもよりエキサイトしてるショーだ。クイーンは気持ちよく、額の汗を腕で拭い、

 

「ムハハ!! そうそう、これだこれ!! ショータイムは可愛くキュートに限るぜ!!」

 

「いやいや、あなたのエキサイトなショーも良かったけどね!!」

 

「いやいや、やっぱ美少女が歌って踊るのは最高だぜ!!」

 

「えっ? そう? いやぁ、照れる~~~♡」

 

「照れる必要なんてねェ! もっとその可愛さを見せつけて…………誰だお前!!?」

 

「あ、やっと気づいた」

 

 クイーンはいつの間にか隣にいる謎の少女に全力で驚いた。

 

 

 

 

 

 私はひとしきり踊って歌ったところで汗を拭った。はー、良かった、ちゃんと歌えたし踊れた。ボイスレッスンやダンスレッスンをちゃんとやってきたかいがあったね!! 

 そうしていると遂に気づいたその男。クイーン。彼は私を見て目玉が飛び出るようなオーバーな驚愕の表情を浮かべると、気を取り直し、

 

「どこのガキだ!!? おれのショータイムに入り込んでくるとは……!!」

 

「でも歌も踊りも良かったでしょ? おまけに美少女だしね!!」

 

「ああ、確かに良かったぜ。美少女なのも──じゃねェ!! おいお前ら!! 何故誰も言わねェ!! おかげで予定にないゲストを迎えちまったじゃねェか!!」

 

「す、すみません、ショーの邪魔をする訳にはいかなかったので……」

 

 ステージの裏から海賊──海賊なんだけど、ライブスタッフみたいな人が出てくる。さっきちょっと見て回ったけど、ちゃんと裏方もしっかりしてるところに好感触。裏方をおろそかにすると良いライブは出来ないからね! あっ、ショーだった。まあそれはともかく、その報告を聞いたクイーンはしばし無言になりながらも、怒りはせず、

 

「……まァ、確かに。大したことになってねェし、ショーは盛り上がったからな。許してやろう」

 

「あっ、ありがとうございます!! それと、ショーの準備で後回しにしていた報告があるのですが……」

 

「ムハハ! よし、聞こう。後回しにしてたってことは大したことない事だろうがな! ──それで?」

 

「はい──島の沖に、海賊船を発見しました」

 

「え~~~~~~~!!? その海賊船は?」

 

「既に島に停泊している模様。そしてこの少女も、おそらくそこの船からやってきた模様です」

 

「え~~~~~~~!!? じゃあ言えよアホンダラァ!!!」

 

 部下からもたらされる重要な報告を聞いて驚き、全力のツッコミを入れるクイーン。うん、ナイスツッコミだね! というかノリが良すぎる。これは中々楽しめそうだし、いじりがいがありそうだ。是非ともウチに入ってほしい。

 ということで早速話を進める。クイーンが気を取り直して私を見下ろして話しかけてきたのでそれに返答する形で、

 

「……ってことは海賊か?」

 

「うん。はい、私の手配書あげる。ついでに船長のも」

 

「ほう? 懸賞金懸けられてるのか、どれどれ……ムハハ!! 懸賞金3億8010万! 大したこと──え~~~~~~!!? 高ェ!! 船長も4億超えてんじゃねェか!!?」

 

「ふふん、凄いでしょ!!」

 

「凄いじゃねェよ!! こんだけ懸賞金高ェ奴がなんで前半の海なんかにいやがる!! 新世界行けよ!!」

 

 うわっ、なんか凄いまともなツッコミされた。というかクイーン、そこそこに情報通だね。多分海賊なったばかりとかだろうに、新世界のこととか知ってたりするし。やっぱ色々とスキルが高そうだ。

 

「ということで仲間にならない? ──今なら入って即幹部! 未経験者歓迎! 実力主義! 成長出来る海賊団です! アットホームな海賊団です! 最強を目指したい奴、集まれ!!」

 

「悪徳会社の常套句ばかりじゃねェか!! 誰が入るか!!!」

 

「え~~~~~、入ってよぉ。甘いもの食べ放題とレクリエーションやり放題も付けるからさぁ」

 

「うるせェ!! そんなの、許可されなくとも好きに──」

 

「あれ? どうしたの?」

 

 私が執拗にふざけながら勧誘をしていると、クイーンがふと固まり、何かを考え込む。あれ? もしかしてほんとにこのまま勧誘成功しちゃう? 迷ってるのかな? 

 そう思い、首を傾げながらクイーンの返答を待っていると、クイーンは笑みを浮かべた。何を思ったのか、私を見て、

 

「──いいだろう! お前のとこの海賊団に入ってやる!」

 

「え、ホントに!? やったぁ!!」

 

「え~~~~!!? クイーン様!!?」

 

 その言葉に私は両手をあげて跳び上がって喜び、クイーンの部下達は驚いている。部下達もノリ良いなぁ……。私は一旦そう喜んだが、同時におかしくも思う。クイーンからはそんな気配を感じないからだ。だから私は僅かに何をしてくるのかと注意しつつ待っていると、案の定、クイーンは続けて、

 

「ただし! それはお前がこのおれに勝ったらの話だ!!」

 

「あ、そんなことでいいの? じゃあ早速──」

 

「え!? 余裕!!? ──って、待て!! 勝負といってもただの勝負じゃねェぞ!!」

 

「あ、そうなんだ。なんか盛り上がる系?」

 

「そう! このおれが考えた盛り上がるやつ~~~~~♪ どうだ? お前にそれを受ける覚悟があるか!?」

 

 クイーンが歌っぽくそう言って私に問いかけてくる。……うーん、十中八九、私に不利かつギミックのある勝負なんだろうなぁ……まあでも、楽しそうだからいっか!! 

 

「楽しそう! やる!!」

 

「即答!? ……いやまあいいが……ムハハ、だったら準備だ! おい野郎共!! あれのセッティングだ!!」

 

「ウオ~~~!! “QUEEN(クイーン)”!!」

 

「運べ~~~!!」

 

 その号令の下、クイーンの部下達がいそいそとステージに何かを組み立て始める。結構大きい。ステージいっぱいに置かれる正方形の何か。あっ、なんか見たことある! 組み立て段階だとまだ分からないけど、これは……。

 

「──ムハハ! これから始まるお前とおれとの死闘!! その名は~~~~~!!?」

 

 ──やがて準備を終え、私はその広々としたリングの上に立つ。やはり、普通のものよりかなり大きいが、これは正に……!! 

 

「クイーン様の絡繰公演(カラクリライブ)!!」

 

 クイーンの部下達が大盛り上がりで告げる。照明で照らされた私とクイーンが立つそこは、四方にポスト、それらを縦3本のロープで結んだステージ。そのステージで行われる勝負を、私とは違う言い方で彼らは告げた。

 

「“電撃ロープデスマッチ”~~~~~!!!」

 

 ──プロレスだ……!! 

 

「ここでおれとお前はタイマンする! だが~~~当然、このロープはただのロープじゃない。見ろ」

 

「!」

 

 と、クイーンは私に見せつけるように、どこからか連れてきた若い男。おそらくこの島の住人をロープに向かって投げる。すると、

 

「や、やめてくれェ……!! ──ぎゃあああああああああっっ!!?」

 

「わっ、すごい」

 

 バリバリと凄まじい音と共に男が黒焦げになって死ぬ。中々の電撃だった。それを指してクイーンは、

 

「このように~~~触れれば電撃!! つまりは即死だ!!」

 

「なるほどね! じゃあ触れないように戦えばいいと!」

 

「ムハハ! 大した自信だな……!! だが、おれの強さを前にいつまでそんなことが言えるかな~~~!? ──レフェリー!! 始めろ!!」

 

『それでは無制限1ROUND!! 電撃ロープデスマッチ~~~~!! ──FIGHT!!!』

 

 マイクを持ったレフェリーが試合のはじまりを告げる──って、さすがにリングにはあがらないのね。まあどう考えても危険だから仕方ないか。でもそこは拘りたい。次やるなら私がレフェリーやりたいなぁ。それでいつまで経っても最後のカウント取らないあれをやりたい。めっちゃ溜めるやつ。それで結局言わないみたいな。中々楽しそう。……まあそれは置いといてと、

 

「さて……自信があるって言われたけど、そっちも随分と自信があるみたいね? 私の手配書見たのにさ」

 

「当然、お前が弱くないことは分かってる。甘くは見てない~~~が!! だからこの仕掛けを用意したのさ……!!」

 

「!!」

 

「あっ!! クイーン様が変型を使ったぞ!!」

 

 姿が変わっていくクイーンに部下達が沸く。なんなら私も沸いた。その姿は、まさしく恐竜界でも屈指の巨体と重量を持つ生物。長い首が特徴的なその姿は……!! 

 

「──ブラキオサウルス!!」

 

「ムハハ……!! さすがに知ってるか! だが珍しいだろう。リュウリュウの実、古代種! モデル“ブラキオサウルス”~~~♪ これがおれのイカした姿だ!!」

 

「あ、この間入った私の仲間も古代種だよ。プテラノドン!」

 

「え~~~~~~!!? いや人のこと言えねェけど!! くそ……まあそいつも後で殺すとして……今はお前の番だ!!」

 

「!!」

 

 クイーンが私に向かってその長い尾を振り回して攻撃してくる。あっ、なるほど! だからこのバカでかリングなのね! クイーンが変型してもリングに触れないように! ってか、中々の重量とパワーだ。別に効かないけど、これは……! 

 

「うわっ!?」

 

「おれの攻撃で吹き飛ばねェ奴はいねェ~~~♪ ──さあ電撃を喰らって死ね!!」

 

 さすがのブラキオサウルスのパワーだった。効かないにしても吹き飛ぶ。──あ~、これは電撃喰らうなぁ。ま、いいけどね、と。私はなすがままになって、ロープに身体を受け止めさせる。

 

「っ……!!!」

 

「ワハハハ!! いきなり過ぎて盛り上がらねェか? だがしょうがねェ、数億の賞金首に手加減してる余裕はねェからな!! さあ黒焦げになったお前を──」

 

「あ~~、ビリビリ、結構来る~~~~~♪ この間も喰らったばっかりなのに~~~~♪」

 

「って、え~~~~~~~!!? 何故ピンピンしてんだァ~~~~!!?」

 

 うわ、物凄く驚かれる。って言われてもなぁ。カイドウの雷よりは全然弱いし……この前の拷問もそうだったけど、なんなら物足りないくらいだ。いや、勿論どっちも多少のダメージはあるんだけど、私の感覚的にはもっと強い方が楽しい。

 

「チッ……しょうがねェ……こっちも本気だ……!!」

 

「あら、まだ本気じゃなかったんだ……って、あれ?」

 

 クイーンが本気になって向かってくる……かと思いきや、私とは反対方向、ロープに向かってダッシュし、身体を預けて勢いをつけようとしている。電撃が流れている様子はない。私は驚いて、

 

「あれ、電撃は!?」

 

「さっき着替えてきた……おれの衣服は絶縁体だ……!!」

 

 絶縁体。つまり電気を通さない物質、ゴムとかで出来てるってことか。あー、道理でさっきと格好が違うと……って気づけよ私ィ!! 

 って、そんなことよりクイーンが反動をつけて突進してくる。どうしよう。躱すか? ──いや、ここはやはり、仲間にするために格の違いを見せつけてやろう。

 私は迎え撃つ姿勢を取った。クイーンが物凄い速さで向かってくる。私は躱すことはせずに真正面からそれを受けた。

 

「“無頼男爆弾(ブラキオボムバ)”!!!」

 

「!!!」

 

 その重量とパワーにスピードを乗せた一撃。おそらく岩石や地面も砕き、鋼鉄すらも凹ませるであろうその威力を私はまともに喰らったが……。

 

「──っと……さすがに結構威力あるねぇ……!」

 

「!!? う、ウソだろ!!? おれの一撃を真正面から受け止めやがった!!?」

 

「ど、どんな怪力してんだあのガキ!!?」

 

「クイーン様の一撃が……!!」

 

 私が攻撃を受け止めたことをモブ共がすっごい騒いでる。クイーンも驚いていた。いや、実際クイーンの今の一撃は凄い強い。そこらの海賊じゃこれは耐えられない。カイドウの一撃に慣れてる私でも腕が痺れたし、これは中々だ。うん、合格。

 

「──それじゃ、次はこっちの番ね?」

 

「っ……!! おい野郎共!! 加勢しろ!!!」

 

「えっ!? で、でも……!!」

 

「いいから攻撃しろ!! これはショーじゃねェ、生き残りを懸けた戦いだ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 おっ、私の実力を感じ取ってなりふり構わず倒そうとしてきた。うん、そういうのも良いよね。なんてたって海賊だし。勝てればいいのだ。これは卑怯でもなんでもない。当然の手段だ。むしろタイマンでは敵わないと見て真っ先に集団戦に切り替えられるのは褒めたい。

 ただまあ、雑魚が幾らいてもあまり相手にならない。そもそも、私を囲もうとすることが不可能なのだ──と、私は上へ飛び上がり、

 

「っ!! お前も能力者か……!!」

 

「そうそう、動物(ゾオン)系でお仲間~♪ ──ってことで、今からショータイムを始めま~す!!」

 

 私は空からクイーンとその部下達に向かってそれを発動する。さあ、躱せるかな? 弾幕ごっこのスタートだ。

 

「──“鵺的”……“スネークショー”!!!」

 

「!!!」

 

 発動し、撃ち出すのは大量のレーザーで出来た緑色の蛇。当たれば人体を容易く貫いてしまう歴とした弾幕の1つだ。

 ただしそれは当然──まっすぐに飛ばない。蛇の如く、くねくねと左右に揺れて相手へと向かっていく。

 

「な、なんだこれ!!? 緑の蛇が……ぐああっ!!」

 

「ひいいっ!! 助けて、助けてくれ……!!」

 

 クイーンの部下はそれを躱せず、次々と弾幕の餌食になっていく。──ちなみに、その場にいた島の住人も犠牲になっていたがしょうがない。弾幕は基本無差別攻撃だ。そこにいたのだから皆が私のショーの参加者。助かりたければ頑張って弾幕を避ければいい。別に避けられない筈はないのだ。それなりの腕は必要だが、避けられる人はいるのだから避けられないのが悪い。ほら、リング上で人型に戻ったクイーンの様に、

 

「クソ……!! 舐めんじゃねェ!! このおれは──歌って踊れるクイーン様だ!! これくらい躱すのは訳ねェ!!」

 

「わっ、凄い凄い!! 初見で躱せるなんてさっすが~♪」

 

「うるせェ!! さっさと降りてきやがれ!!」

 

「うわっと」

 

 その体型に似合わず、くねくねと動く蛇の動きを見切って左右へ機敏に動いて躱しまくるクイーン。当たり判定大きいのによくやるねぇ! さすが歌って踊れるタイプのFUNK。その歌詞に嘘偽りなしだ。しかも懐から何かを取り出して撃ち込んでくる。これは……毒かな? 

 

「毒弾かな?」

 

「毒なんてチャチなもんじゃねェ!! これはおれが作り上げた“疫災(エキサイト)弾”!! 中には病原体(ウイルス)が大量に詰め込んである!! 当たればタダじゃすまねェ代物だ!!」

 

「いいねぇ!! 楽しそう!! 仲間になったら私にも使わせて!!」

 

「だからなんねェよ!! 早く降りてきやがれ!! 今度こそおれが踏み潰してやる!!」

 

 クイーンはその疫災(エキサイト)弾を何発も私に向かって撃ち込んでくる。うーん、まあ当たってみるのも良いんだけど……そろそろこっちに来るみたいだし、終わらせよっかな──

 

「あっ! あんなところにUFOが!!」

 

「嘘つけ!! そんな古典的な手に引っかかるバカが――って、え~~~~~!!? 本当にUFOが浮かんでる!!?」

 

「──それじゃ、降りるね」

 

「!!? しまっ──」

 

「腹に力入れた方がいいよ──すーっ……えいっ!!!」

 

「!!!」

 

 UFOに気を取られて隙を見せてくれたので、私は武装色の覇気を三叉槍に込めて思い切りクイーンの腹に向かって両手でフルスイング。割と本気で殴る。

 するとクイーンはリングとステージを越えて100メートル程先の岩壁にぶつかる。さあ、これでダウンしたかな? 別にどっちでもいいけども。戦闘が終わり、私は槍を肩に乗せて、その先を見る。

 

「……やっと来たかぁ……さて、どうなるかな?」

 

「う、うわぁ~~~~!!? クイーン様がァ~~~~!!?」

 

 それほど衝撃だったのだろう、クイーンの部下達が絶叫する中、私は見物することにした。……やってきたうちの頭のことを。

 

 

 

 

 

 クイーンは凄まじい威力の攻撃に吹き飛び、壁に激突した。

 たった一撃で体力がもっていかれ、瀕死状態。だがしかし、

 

「っ……ハァ……ハァ……くそ……なんて馬鹿力だ……!! このおれを吹き飛ばすとは……!!」

 

 クイーンは起き上がっていた。腹を押さえ、口から血を吐きながらも立ち上がっている。それはクイーンの持ち前のタフさ。実力故だった。

 

「あの小娘はやべェ……3億の懸賞金は伊達じゃねェってか……? この分じゃ、船長の方も──」

 

「──お前が“クイーン”か……?」

 

「!! ──は!?」

 

 その時だ。クイーンは見た。気づいた。死んだと思った。

 急に声を掛けてきたその相手。それは……宙に浮かんでいた。

 

「な……なんだ……あの化け物は……!!」

 

「ど、ドラゴン……? い、いや、龍か……!?」

 

「そ、それよりあの龍、今喋って……!!」

 

 そう──部下達が腰を抜かし、声を震わせて言うように……それは巨大な青い龍だった。

 身体の大きさには自信がある己の何倍もデカい龍。おそらく、100メートルは軽く超えているだろう。正確な大きさは想像がつかない。

 だが……思わず見上げ、戦うことを諦めてしまうほどの存在だった。

 迫力が、スケールが違う。ひと目で敵わないと分かる。戦うまでもない。この怪物には勝てないだろう。声を掛けられた。クイーンは震える声で聞いてみる。

 

「そ、そうだが……あんたは……?」

 

「カイドウだ。クイーンというイカれた男の評判を聞いてな……ウォロロロ……勧誘しに来たぞ……!!」

 

「そ、そうっすか……」

 

 思わず敬語になってしまいそうになる。内心では完全に終わったと思ったが、どうやらそのカイドウは自分を仲間にしに来たらしい……そういえば、先程の“ぬえ”という少女の所属する海賊団、その船長がカイドウだったことを思い出し、クイーンはなんとも言えない気分になる。

 

 ……あの小娘……いや、あの化け物と、この怪物が頭を張る海賊団……勝てる訳はねェが……。

 

 そう思い、どうすべきかと悩む。助かるためには仲間になると一時的にでも口にするのが正しいだろう。実際、クイーンはカイドウを見た瞬間、すぐにそうすべきだと判断した。──だが、そうしなかった。

 それは何故なのかと考える。その怪物、カイドウを見上げながら、

 

「──舐めんじゃねェよ……!!」

 

「……?」

 

 怪物は相変わらずこちらを見下ろし続ける。凄まじい威圧感。だが、クイーンはそれでも構わず言う。

 

「仲間になれと言われて“はいそうですか”と言うとでも思ってんのか……!? おれは好きにやりたくて海賊やってんだ……好きに出来ねェ部下になるってんなら、おれは死んでも──」

 

「暴れてェなら好きに暴れさせてやるが……後、おれとぬえの命令以外は好きにしても構わねェ。おれが欲しいのは優秀で強ェ凶悪な海賊だ……!! 海賊ごっこしてるようなそこらの雑魚じゃねェ、本物の──」

 

「──よし!! そこまで言うなら入ってもいい!! よろしくな!! カイドウさん!!」

 

「え~~~~~~!!? クイーン様ァ~~~~~!!?」

 

 ──クイーンは一瞬で部下になることを決めた。別にカイドウが怖くて入った訳じゃない。いや、本当に。別に最初見た瞬間からこの男はやべェと本能的に思ったし、好きにやれないなら部下になるのは嫌だと思ったのは本当だ。

 だが、この怪物の下なら悪くはないと直感的にそう感じてしまったため、クイーンは自分の本音を出しつつ、カイドウに幹部待遇で好きにしていいと言われたため即座に部下になると言ってみせた。確かに、部下になることを断った瞬間の圧力は怖くてヤバかったが、別にそう言う前から悪くはないと思ったのも本当だから嘘じゃない。クイーンは自分の欲や気持ちに正直なのだ。後、ノリも重要だった。エキサイト的に。

 ……それに、あのぬえという少女の強さと、それを上回るこのスケールの違う怪物に……尊敬というか、どこか凄まじさというか……そう、“リスペクト”を憶えたのは本当だ。仲間になることを決めた理由はまさしくそれ。リスペクトだ。

 

「──すっごくあっさり決めたねぇ。あはは、さすがの私もこれは読めなかったなぁ~」

 

「おう、ぬえさん! これからよろしく!!」

 

「か、軽~~~!!? く、クイーン様!? 正気ですか!? さっきまで敵だった相手ですよ!?」

 

「何をいう、おれは最初から仲間にはなろうとは思ってた!!」

 

「ええっ!? ずるいですクイーン様!! ならおれ達も入ります!!」

 

「──いいだろう。ならおれがカイドウさんに掛け合ってやる」

 

「入って一分も経ってないのにもう幹部が板についてる!!」

 

「──雑魚共はいらねェ」

 

「しかも断られた!?」

 

「いやいや、人手必要なんだから入れない手はないでしょ?」

 

「──そうだった。なら入れ。入らねェ奴は殺す」

 

「お、おお……は、入らせていただきます」

 

 クイーンの部下もまた、クイーンに似てノリは良かった。一度は反射的に断ったカイドウだが、ぬえの言葉を受けて今度は入れと命令される。元から入るつもりだったが、入らないと殺すと言われると怖ろしくてちょっと逆に入りたくないような気もするが、結局死ぬのは嫌だし入るつもりだったので部下達は頷いた。

 そうやってまとまりかけたその時だ。ぬえとクイーンの下に遅れてやってきたのは、

 

「フン……信用ならねェな」

 

「ああ!? 誰だてめェ!! 幹部のおれになんて口利きやがる!!」

 

「クイーン様!! 多分……というか確実に相手の方が先輩です!!」

 

「口の利き方に気をつけるのはお前の方だ。おれはキング。百獣海賊団の幹部だ」

 

「キングだとォ~~~!! ムカつく名前しやがって……!!」

 

「てめェこそ、クイーンだと? なぜそう名乗ってるのかは知らねェし興味もねェが、名前負けもいいところだな」

 

「あァ!!? 潰すぞクソ野郎!!」

 

「あァ!!? なんだやろうってのか……!!」

 

 やってきたキングとクイーンが売り言葉に買い言葉で睨み合う。そしてそれを、ニコニコと笑顔で見ていたぬえが2人の間に入り、

 

「やるなら私とカイドウも交ざるけどいーい?」

 

「──今日のところは勘弁してやる」

 

「フン……命拾いしたな」

 

 一瞬で喧嘩は終息した。さすがのキングもクイーンも龍になったカイドウが見る前で、しかもぬえまで交ざってくるとなると戦う気にはならない。特にクイーンはかなりダメージが残っており、殆ど意地で立っているような状態だった。そんなクイーンを見てキングが小馬鹿にするように鼻を鳴らし、クイーンがキングのことを睨む。明らかに、今はやめたがいつかは喧嘩し合うことになるだろう2人だったが、そんな2人を見てカイドウは楽しそうに笑ってみせた。

 

「ウォロロロ……!! 血気盛んで頼もしいじゃねェか……!!」

 

「ね! これでウチの戦力も格段にアップしたね!!」

 

 カイドウの声にぬえも反応して同じ様に喜ぶ。それを見たキングとクイーンは大人しくなり、

 

「……それでカイドウさん。これからどうするつもりで?」

 

「そういや何か目的があんのか?」

 

 そんな当然の疑問を2人は問いかける。幹部とはいえ新しく加入したばかりの2人だ。これから百獣海賊団が何をするのか、それを理解している訳ではない。

 だからこそ、カイドウもぬえも改めて告げた。この百獣海賊団の目標は、

 

「世界最強の海賊団を作る……!!! それがおれの目的だ……!!!」

 

「!」

 

「!」

 

「もっと噛み砕くと、カイドウは世界最強になって、海賊団も最強の戦力を整えて最強の海賊団になるって感じかな? あ、ちなみに私は世界一可愛くて怖くて正体不明の海賊になって楽しむことが目的だからよろしくね!!」

 

 ──最強になること。

 これ以上ない分かりやすい目標を伝えられたキングとクイーン。それと、その場にいる部下達。それを聞いたキングとクイーンはややあって、その目標に不敵かつ……凶悪な表情を浮かべた。

 

「なるほど……悪くねェ目標だ……」

 

「ワハハ!! メチャクチャにエキサイト出来そうじゃねェか!!」

 

「そういうことだから頑張ってね!! 細かい指示なんかは後々伝えるというか、ある程度は任せるけど──」

 

「一先ず、おれ達の“シマ”に戻るぞ。──さあ出航だ!!! 野郎共!!!」

 

『おお!!』

 

 キングとクイーン。2人の大きな戦力を加えた百獣海賊団は、着実にこの“偉大なる航路(グランドライン)”の海賊として成長してきていた。

 

 ──だが彼らはまだ知らない。この海の……“偉大なる航路(グランドライン)”という海の、果てしない壁の高さを。

 

 

 

 

 

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”。とある航路。

 

「──親父。この記事……」

 

「……百獣海賊団……どうやら、随分と暴れてるみてェだな……」

 

 その海賊は、各地で“家族”を集め、少しずつ着実に、海賊団としての名をあげていた。

 そんな海賊団の長であるその大男は、旧知である彼らが載った新聞の記事を見て、眉間に皺を寄せる。

 彼にとって、その海賊団──いや、その海賊は昔から気にかけてしまっている相手だった。

 その海賊としての性質は間違いなく彼が嫌いな類。それは昔から理解していた。

 だがそれでも少女であることと、普段はそれこそ、ただの少女の様に接してくる彼女を嫌いきれないでいた。

 しかしそれは仲間であったからこそ。仲間想いである彼は仲間を完全に嫌うことは出来ない。

 だが今は仲間ではない。しかし……それでも未だ複雑な相手であることには変わりなく、

 

「どうします?」

 

「……どうもしねェよ。海賊として鉢合うなら戦闘になるだろうがな」

 

 家族の問いを彼は流す。別にどうもしない。他の海賊相手とやることは変わらないと。

 だからこそ、会ったらただ話すだけ、もしくは一緒に酒を飲む……なんてこともあるはずなのだが……そうはならないだろうと彼……“白ひげ”は予想する。あいつらの性格上、戦わないで済むということはないだろうと──。




これにて大看板2人が仲間に。次回からはまたドタバタします。話を進めつつ百獣海賊団の日常も。ということで次回もお楽しみに。……そろそろ飛び六胞も出したいなぁ……(切実な悩み)

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