正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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災害

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”、キース島近海。

 

 紆余曲折の航海を経て、私達百獣海賊団はとうとう自分達のシマに辿り着くところであった。

 

「ウォロロロ!! 戦力も増えて船も増えた!! 今日は記念日だ!!」

 

「イェーイ!! ってことで帰ったらしこたま飲むわよ~!!」

 

「ウオ~~~!! ぬえ様~~~!!」

 

 私とカイドウは2人して船の甲板でご機嫌である。それはそうだろう。部下の総数は減ったが、戦力として見れば格段に上がっている。キングの部下13名に、クイーンの部下120名。それに加えてキングとクイーンの船が百獣海賊団のものとなったのだ。

 周囲には元々残っていた百獣海賊団の部下達20名に加えて新しく仲間に加わった連中が騒いでいる。ノリの良いクイーンの部下が多めなため、私のコールにも良い歓声をあげてくれた。中々に気持ちがいい。

 そんな中、私とカイドウの前にいる百獣海賊団の2人の幹部──キングとクイーンは顔を突き合わせて言い争っていた。

 

「てめェが下だ!! クイーン!!」

 

「黙れ、キング!! おれの方が上だ!!」

 

 ……と、2人はどうやらどっちが上か下か、上下関係で言い争っているようである。私とカイドウ的には同格、実際組織としては同格で考えているのでそれ以上でもそれ以下でもないのだが、ウマの合わない2人にとって、それは超重要事項らしい。

 

「フン!! バカが……そもそもおれの方が先に入ってんだ。後から入ったてめェは下に決まってんだろ。そんなことも分かんねェか能無し!!」

 

「ほぼ変わんねェよ!! それを言うならおれの方が連れてきた部下が多い!! より貢献してんのはどっちだカス野郎!!」

 

「2番が1番に偉そうにしやがって……雑魚どもばかり連れてきてるお前とおれの部下は違う。おれの部下の方が精鋭だ!! 分かったら分を弁えろ!!」

 

「黙れ拷問好きの変態野郎!! そもそもおれの方が強ェ!!」

 

「あァ!!? 斬るぞてめェ!!」

 

「あァ!!? 潰すぞクソが!!」

 

 そうして最終的には怒って今にも戦闘態勢に入ろうとする……けども、さすがに船の上での喧嘩はダメだ。私とカイドウですらやらない。まあ2人も本気で戦う気はないだろうけど、

 

「あはは、あんた達、ホントに仲悪いんだ! 面白いね!」

 

「フン……こんなバカと仲良くなれるか」

 

「そりゃこっちのセリフだ!! ──なあ、ぬえさん。おれはこんなカスより役に立つぜ? 今に見ててくれ!!」

 

「どっちも期待してるよー? ──まあ役に立たなかったとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「えっ……」

 

「…………」

 

 あ、クイーンとキングが若干怖がってる。良いねぇ。まあどっちみち教育するんだけどね。皆で強くなりたいし。

 とまあそんなこんなで新しい仲間と和気あいあいと楽しいやり取りをしていると、

 

「船長!! 島が見えてきました!!」

 

「──着いたか」

 

「よーし、着港準備~!!」

 

『アイアイサー!!』

 

 マストの見張り台からの報告でそろそろキース島に着くとのことで、私は簡単に指示を出す。部下達が良い声を上げて動き出す中、再び私はキングとクイーンから声を掛けられ、話をした。まずクイーンが、

 

「おれ達のシマか。どういう島なんだ? ぬえさん」

 

「ん~、夏島だから常に結構暑くて、でも砂浜とか海が綺麗で、でも荒くれ者とか海賊が沢山いて、お酒と果物と魚が美味しい良い島だよ!! 金回りも良いからね!!」

 

「なるほど……悪くなさそうだ」

 

「へェ、ならおれのショーでもっとエキサイトさせてやるぜ!!」

 

 キングとクイーンも徐々に見えてきた島を見ながら、過ごしやすそうだと悪くはない感情を覗かせる。まあ見たらきっと驚く……とまではいかないかもしれないが、そこそこ良い島にはなったので紹介してあげよう。何せ、復興したのは私達なのだ。壊したのも私達だけど、破壊と再生は紙一重って言うし別に良いだろう。壊れてたところから復興したのが凄いのだ。

 まさか島にやってきた海賊があんなに暴れるとは思ってなかったため、島に防衛のための戦力を残さざるを得なかったのは困ったが、これからはもう少し楽になるだろう。港の防衛なんかも──と、そろそろ港が見えてきた。港には当然、私達百獣海賊団の海賊旗が…………。

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

「ああ?」

 

 私、クイーン、キングがそれぞれ港を見て間の抜けた声をあげた。あれ? と。皆で目を丸くしてしまう。

 港に掲げられた海賊旗。それに港にある見覚えのない海賊船と、港に簀巻きにされて転がされている海賊達。今にも海に落とされるのだろう。可哀想に……と、そう思った瞬間、

 

「──た、助けてくれェ~~~お頭~~~~!!!」

 

「カイドウさ~~~~~ん!! ぬえさ~~~~~ん!! このバカ達がとんでもないことをしやがりました~~~~!!」

 

「──って、シマが奪われてる~~~!!?」

 

「あァ!!? なんだと!!?」

 

「え~~~~~~~!!? じゃあ港にいる奴等は……!」

 

「…………百獣海賊団の、いや……おれ達の部下か……」

 

 私達が驚き、怒り、戸惑う中、キングが僅かに呆れた様子で溜息をついていた。港に転がされているのは百獣海賊団に所属する海賊達。島の防衛を任せていた者達だが、それが今や別の海賊達によって奪われ、処刑されそうになっている。

 しかしどうやら私達の船を見つけて大声で助けを求めているようだった。う~~~~ん……負けちゃったかぁ……いやまあ確かにUFO消えちゃったしなぁ……やっぱり島1つ守るならもうちょい戦力はいるかな。その辺りの配分が分からないんだよね、正直。まあ強い奴1人残せば大丈夫なんだろうけども。

 とはいえ、いい度胸だ。ムカつく。私達の海賊旗を下ろした意味、ちゃんと理解しているのだろうか? 

 ちょうど私達の姿と敵の海賊達の顔が見える。そして、向こうの船長やその周囲の海賊達はこっちを見て挑発するように告げた。

 

「ぎゃはははは!! あれが弱っちいお前らの本隊か!?」

 

「随分と数が少ないようだが大丈夫か!? こっちは船10隻!! 総兵力1000人の海賊艦隊だ!!」

 

「この島はおれ達、アニマル海賊団の物だァ!!! この島を奪うため、船長を食い殺してやる! さあ船長はどいつだ!! 億超えなんだろ? こいつらの船長なら本当に強いかどうか疑わしいけどなァ!!」

 

「せっかくの“偉大なる航路(グランドライン)”入りの記念となる初戦だ!! まあ逃げたきゃ逃げてもいいんだぜ? 臆病者らしく尻尾を巻いて逃げてみなァ!!!」

 

『──あ゛?』

 

 その時、私達の声が揃った。勿論私も。その……こちらを完全にバカにしている、命知らずの海賊達の声を聞いて、頭の中の何かがキレた。

 そしてそれは、他の者達も当然、同じ思いだった。今の声は当然、クイーンやキングにも聞こえていたし……最も聞こえてはならない男にも聞こえていた。

 

「お、おおおおい!! バカヤロウてめェら!! そんなに挑発すんじゃねェ!!!」

 

「あ? 何だてめェら。何故そんなに怯えてやがる。死ぬのが怖くなったか?」

 

「ああそうだよ!!! ただしてめェらじゃなくてお頭達にだけどな!!!」

 

「ああ、もうダメだ……! 絶対に聞こえてる……!! もうこの港はおれ達ごと粉微塵にされるんだ……!!」

 

「は、はぁ? 何言って……」

 

 港の方で部下達と敵の海賊達……確かアニマル海賊団とかいう連中が何やらやり取りをしていたが、申し訳ないがもう遅い。ここまでわかりやすく喧嘩を売られたら、やることはただ1つなのだ。

 

「……おい、てめェら……!!」

 

「!」

 

 その号令を、私達の船長、カイドウが告げる。

 カイドウは怒りに震えていた。幾ら取るに足らない雑魚海賊とはいえ、ここまでされて黙っている筈もないし、こうなってはしょうがない──また島の一角が吹き飛ぶだろう。海賊達が固まっているだけマシだし、もうそこは割り切るしかない。私は冷静にそう計算し終えると、私自身も暴れる気持ちを固め、カイドウの言葉を聞いた。

 

「後悔させてやれ……おれの旗を虚仮にしやがったクソッタレの海賊共を…………皆殺しにしろ!!!」

 

「お──オオオオオ!!!」

 

 そのカイドウの空気を震わせるほどの号令に一瞬たじろいだ部下達だったが、直ぐに全員が雄叫びをあげる。

 海賊旗を傷つけることは海賊の世界では宣戦布告と取られる。加え、シマを奪おうとし、度重なる挑発もあれば、さすがのカイドウも部下にしようなどとは考えない。海賊は面子が大事なのだ。舐められたら終わりとも言う。そんなこと──本物の海賊は許さない。

 

「舐めやがって……!!! あの野郎共は全員燃やしてやる……!!!」

 

「あ、キングてめェ!!! 先に行くんじゃねェよ!!! おいお前らさっさと船を近づけろ!!!」

 

「了解しました!! クイーン様!!!」

 

 真っ先に動いたのはキングだった。彼は船から跳躍すると、獣形態に変化して炎を纏ったプテラノドンの姿で港へ突撃していく。キングも明らかに怒っていた。既に背中に纏った炎が膨れ上がり、全身を覆っていた。燃えている──2つの意味で。

 そんなキングを見てクイーンは飛べないため、部下達に指示を出しながら戦闘準備を整えていた。何をしているのかと思えば、部下達に様々な武器やら疫災弾を装備させているし、自身も何やら棍棒のような武器を持ち出していた。それもまた何やら危ない匂いがして気になる。

 だが私も空に飛び上がって、獣形態に変化しつつあるカイドウよりも先に、

 

「それじゃ、私も行ってちょっと恐怖を与えてくるね~」

 

「おう、待ちやがれ……!! おれも行く……!! あいつらを直接ぶち殺さねェと気がすまねェ……!!」

 

「いや、心配しなくても獲物は沢山いるけどね。まあいいけど。──ということでクイーンは部下の指示よろしくねー!」

 

「って、カイドウさんにぬえさんも!!? クソ、おれだけ飛べねェ!! お前ら本格的に急げ!!」

 

 1人、幹部以上のメンバーの中で取り残されて焦るクイーンを尻目に島へ向かう。まあクイーンと他の部下達も直ぐにやってくるだろうし、私はカイドウやキング同様にやることは同じだ──地獄を見せる。

 そうして、私達百獣海賊団の大暴れは始まった。

 

 

 

 

 

 ──唐突だが、何も世界政府非加盟国とはいえ、海兵が全くいないとは限らない。

 海軍本部は民衆のための組織ではない。あくまでも、世界政府のための組織であり、守るのは世界政府の秩序。世界政府の息がかかる国とその民であり、世界の海を駆けて治安維持に努めるのは、海賊があらゆる場所に潜んでいるからである。

 だからその多くは世界政府加盟国とその周辺海域にいるとはいえ、海賊を追いかけて様々な島に向かうことだって全然あることなのだ。

 ……だがその海兵がその島にいたのは、あくまで偶然であった。

 その海兵はどちらかというと戦闘、鎮圧用の部隊ではなく、情報処理を専門としていた。海軍には幾つかの部署が存在する。有名なのは海賊を捕まえる現場の海兵だが、組織である以上、事務方などの地味とも言える部署に所属する海兵だって多い。故にその海兵は少佐とはいえ、戦闘能力はそこそこでしかない。彼はあくまでも情報処理……海賊達の脅威度を見定めてそれを報告し、懸賞金などを定めるのが仕事だった。

 現場の海兵が海賊達の手配書用の写真などを撮り、それをどんなことをしでかしたかなどの情報と一緒に本部に送る……時には民間人や記者に扮して写真を撮らせてもらうことだってあるのだ。

 “CP”などの諜報機関に近いが、あちらは世界政府直属の機関。こちらは海軍本部内の一部門であるため、厳密には別。こちらは主に海賊相手の仕事だった。

 そしてそんな彼は今日、とある非加盟国の島でとんでもない連中を見つけてしまった。彼は街の住人に紛れて、そのとんでもない海賊達を見て、同じ様に怯えてしまう。

 

「な、なんと恐ろしい……」

 

 彼はカメラを構え、1つずつ、確実に写真を撮っていく。フレームに写すのは海賊同士の抗争だ。

 だがそれは抗争だが抗争とはいえない。何故なら、一方的な虐殺だからだ。

 虐殺されているのは、千人の兵力を持つ海賊達で、虐殺をしているのはその怪物達が所属する中規模程度の海賊団──百獣海賊団だった。

 海兵は唾を飲み込む。百獣海賊団といえば、あのロックス海賊団の残党が結成した海賊団の1つ。

 船長は“百獣”のカイドウ。副船長は“妖獣”のぬえと呼ばれており、どちらもまだ若いが億を超える懸賞金を懸けられた凶悪な2人である。

 ……だがお世辞にも、組織として大きい訳でもなく他のロックス残党の様に際立ったものもないため、問題解決の優先度は低めだった。今はロジャーを筆頭に、“金獅子”や“ビッグ・マム”などの凶悪かつ勢力を拡大している脅威度の高い連中を止めるのが先決。だからこそ、百獣海賊団は比較的には軽んじられているのだが……海兵は思う。それは、間違いかもしれないと。

 ──海兵は写真を丁寧に撮っていきながらも、ある程度撮り終えたところでメモを取り出し、一つ一つ、震える手をなんとか抑えながら丁寧にペンを走らせる。そのメモは彼らの脅威度を示すものだ。

 

 まず一つ。百獣海賊団は“百獣”のカイドウと“妖獣”のぬえの2トップによる、ワンマンともいえる海賊団だと思われていたが、それは誤りである。

 カイドウには新たに2人の危険な部下が加わった。まず1人が、

 

「エキサ~~~~イト!!!」

 

「っ!! うわあああああああっ!!?」

 

「な、なんだこりゃ、腕が溶けて……!!」

 

「やめろ!! 近づくな!! 触れたら感染っちまう!!」

 

 敵の海賊達が次々に何らかの症状を発症して苦しみ死に絶えていく。銃弾に何らかの病原体を埋め込んでいるらしく、その男の持つ武器にも何らかの仕掛けがあり。どれもその男が作ったものであるらしい。

 病気になって死んでいく者達を嘲笑い、愉快に踊りながら戦闘を続けるその男は凶悪そのものだった。

 

「ムハハ……助かりてェみたいだが、そんな甘ェ話はないと分かってるよなァ?」

 

「わ、わかったからやめてくれ!! 降参だ!! 負けを認める!! だから──ガッ……ぁ……!!!」

 

「うるせェよ!!! こっちは楽しんでんだ!! ショーを途中でやめるバカがどこにいる~~~~~♪」

 

「く、くそ……!! せめて道連れに……!!」

 

「そうだ!! 全員でかかれ!! あいつ1人だけでも……!!」

 

 100人はいる海賊達は一斉に死なば諸共の精神でその太った男に襲いかかる。だが──

 

「おれ達に勝てると思ってんなら……夢見てんじゃねェよ雑魚共!!!」

 

「ぎゃあああっ!!?」

 

 ──その太った男は体型に似合わず機敏な動きを見せ、更には建物数棟を丸ごと吹き飛ばすほどのパワーも持ち合わせている。

 

「お前達は残らず死ぬ!!! おれ達に喧嘩を売りやがったんだ……全員、苦しみ、絶望しながら死ぬんだよ!!! お前らはなァ!!!」

 

「っ!! きょ、恐竜……!!」

 

「ば、化け物だ……もう、助からねェ……」

 

 更に特筆すべきものとして、動物(ゾオン)系古代種の悪魔の実の能力者であるということ。動物系の中でもかなりの巨体を誇り、本人の戦闘力も本部大佐程度であれば一蹴してしまうと思われる。

 そして何よりその疫病を周囲に撒き散らして戦い、敵だけでなく民間人すらその場にいれば関係なく殺してしまう残忍さ、その凶悪性。

 その容姿と能力、殺害のやり口からとある島の住民を全て疫病の実験体にして殺してしまった海賊と一致し、断定。先の事件と合わせ、早急に懸賞金を懸けられたし。

 ──その男が通った土地は疫病を撒き散らされ、人も動物も作物も、まるで大規模感染でも起こったかのようにあらゆるものが病原体に侵され死に絶え、滅ぶ。小さな島一つを滅ぼしてしまう程の脅威度。それら全てを加味し、男に懸けられた賞金は、

 

 ──百獣海賊団幹部“疫災”のクイーン。懸賞金……1億2000万ベリー。

 

 彼と敵対した海賊は当然、その全てが疫病にさらされ、あるいは本人に直接叩き潰されて殺された。

 だが脅威はこれだけではない。続いて、その男が暴れる場所とは別のところでは、

 

「フン!!!」

 

「うぎゃああああああっ!!!」

 

「熱いィィ!! 誰かこの炎を消してくれェ~~~!!!」

 

「ハァ……ハァ……い、息が出来ねェ……煙で……もう……」

 

 その光景は、まさしく地獄であった。

 街の一角が炎の海に沈んでいる。建物から建物に移っていく大規模な火災。海賊達はその炎に囲まれ、逃げることすら出来ずに炎の熱気に汗ばみ、次々と燃やされていく仲間達を見ていた。

 その炎の海の中心は、1人の男だった。黒い翼を持ち、彼自身も燃えている。彼こそが、この大規模火災を引き起こした張本人だ。

 

「おれ達の海賊旗を燃やしたんだ……なら、てめェらが燃やされても文句はねェよな?」

 

「ち、違う!! お、おれ達は命令されて……!!」

 

「そうだ!! そこまでする気はなかった!! だから助けてくれ!! 何でもする!! だから──ぎゃああっ!!!」

 

「何でもするって言うなら……苦しみながら死ね。全員、火炙りの刑にしてやる。生き残ったからって助かると思うんじゃねェぞ……生き残った奴はおれが拷問して、極限の苦しみを与えてやる……!!」

 

「や、やめ……うあああっ!!!」

 

「く、くそ……逃げろ、勝てる訳がねェ……!!」

 

「炎に飛び込んででも逃げるんだ……!!」

 

 敵の海賊達は皆一斉にその場から逃げようと企む。だが──

 

「逃がすと思うか……!!?」

 

「ぎゃあっ!!!」

 

 男はその左手に持った大太刀を振り下ろし、斬撃を放って海賊達を斬り殺す。剣の腕前は達人級。直接の戦闘でも隙がない。

 だが更には、

 

「腰抜け共が……逃げるくらいなら最初から喧嘩売ってきてんじゃねェ……!!!」

 

「っ!!? ぷ、プテラノドン!!?」

 

「く、くそォっ!! あいつも化け物かよ!!」

 

「な、なんなんだアイツ!! 炎の能力者じゃねェのかよォ!!?」

 

 ──そう。特筆すべきことに、その男は炎の能力者ではなく、動物系古代種の能力者であり、自由自在に空を飛ぶことが出来る。

 その悪魔の実の能力による戦闘能力も脅威だが、おそらく、偉大なる航路(グランドライン)に存在する()()()()()()()であるとの疑いがあり、本部に照合を求む。能力を介さない炎による攻撃と炎の耐性は極めて脅威であり、拷問と放火を好むその凶悪性も凶悪そのもの。

 少し前に巨大監獄船を乗っ取り、海賊となった凶悪犯と一致する。情報に拠れば、囚人達をその炎と拷問で苦しめながら、立ち寄ったとある島を丸ごと燃やしてしまった凶悪な男である。こちらも早急に懸賞金を懸けられたし。

 ──その男が通った土地は、人も物も何もかもを燃やし尽くし、まるで大規模な火災でも起こったかのように焦土と化して、滅ぶ。島一つを燃やし滅ぼしてしまうその力。先程挙げた海賊と同等か、それ以上と思われる戦闘力。剣の腕前に能力も含めたその力と、拷問を好むその凶悪性。その全てを加味し、懸けられた懸賞金は、

 

 ──百獣海賊団幹部“火災”のキング。懸賞金……1億3000万ベリー。

 

 新たにこの2人が百獣海賊団に加入したことを確認。至急、総合賞金額を更新されたし。

 そして加えて……あの2人が健在であることもここに記しておく。

 

「ぎゃあああっっ!!?」

 

「クソッタレ……あんなUFOとどうやって戦えってんだ……!!」

 

「こっちは蛇が……!!」

 

「あァ!? お前誰だァ!!」

 

「ま、待て……ぐあっ!! ……お、おれは味方、だ……」

 

 その惨状は……摩訶不思議。

 空に浮かび、様々な弾幕を撒き散らすUFOの群れ。地を這う緑の蛇。敵と味方の区別が付かず同士討ちを始める者達。

 その全てが得体の知れないものであり、未だどのような能力によるものなのか不明。当然、空に浮かぶその少女は悪魔の実の能力者であると思われるが……。

 

「あはははは!! ほらほら、逃げないと死んじゃうよ~? このままじゃ助からないよ~?」

 

「や、やめてくれ~~~!!」

 

「あんた達を狙ったことは謝る!! ぶ、部下になっても構わねェ!! だから──ぐっ!!?」

 

「あ、ごめ~ん♡ なんて~? 調子の良い言葉が聞こえた気がしたけど、間違えて殺しちゃったぁ♪」

 

「っ……ぐ……この悪魔め……!!」

 

「わっ、褒められちゃった。う~ん、それじゃちょっとだけ手心加えてあげるね? ──よいしょっ」

 

「ぎゃあああッ!! あ、足がぁ……おれの足がァあああああ……!!?」

 

「ふふふ、ほら足だけ取って見逃してあげる。これであなたのけじめは終わりだから逃げていいよ? 私は手を出さないからさぁ、()()

 

 その少女はまるで、本当に無邪気な少女の様に、場違いな振る舞いでその悲鳴が渦巻く惨劇の中心にいた。

 UFOに人を襲わせ、蛇に人を襲わせ、自身の手でも三叉槍で敵を刺し殺し、そのまままるで屋台の買い食いで串焼きでも食べるかのように三叉槍に刺さったままの死体を口にしている。フォークに刺さったウィンナーを食べる子供の様にほっぺたを膨らませながら、人間の手足を力任せに引き千切り、その場に放置してしまう残酷さ。そして逃がすのかと思ったその相手すら、

 

「こ、こっちに来るなァ……や、やめ──ぎゃああああああああああっっ!!!?」

 

「あ~、蛇さん達もお腹空いてたんだねぇ。これはしょうがないなぁ。私は手出す気なかったんだけど、偶然お腹を空かせた蛇に見つかっちゃうなんてね~。おじさん、運がなかったね?」

 

 数十の緑の蛇達が足の千切れた男を噛み殺していく様を眺め、楽しそうに笑うその少女は、残虐非道にも程がある。見ているだけで吐き気を催すような光景を作り出しながら、少女は周囲に災厄を振りまいていく。相変わらずその能力は不明。おそらく、動物系幻獣種であることは本部の見解でもわかっているが、その能力の多様性から未だ断定出来ず。写真を送り──

 

「──ピース♡」

 

「っ!!!?」

 

 ──カメラのシャッターを切った瞬間、背筋が凍り、生きた心地がしなかった。その少女が、カメラに向かって小首をかしげ、ウィンクと頬に右手を近づけたピースサインを行ってきたからだ……いや、実際にはそのポーズは問題ではなく、気づかれたことが問題だった。その瞬間、思わず逃走してしまった。

 だが追いかけてはこない。一瞬、鳥のような何かが視界の端に映った気がしたが、気のせいだった。

 カメラで写真を確認してみると、その写真はまるでアイドルのブロマイドのように酷く可愛く撮れていた。一瞬、これをあの恐ろしい少女の手配書に使っていいものかと悩むが、ただでさえ謎の現象で写真入手に失敗してしまう相手な上、この姿も少女の確かな姿であるため、正確さを求められる手配書には適していると判断し、その写真を使うことにする。

 だが……実際に見れば、その恐ろしさは想像以上であった。一見、可愛らしい少女の容姿をしていることが油断にも繋がり、後から思えば尚更恐ろしい。

 戦闘能力は海軍本部の中将クラスを倒してしまう程。先日も、船長と共にG-3支部とその島で暴虐の限りを尽くし、脱走してG-3支部に残った最後の中将すら殺してしまった。

 丸一日戦っても体力の衰えが見えず、数多の傷を受けて敗北した後も、1日足らずで回復してしまったそのタフさと回復力はおそらく、能力の覚醒に至っていると思われる。また、卓越した覇気使いでもあり、見聞色と武装色の練度も中将クラス。さらには覇王色の覇気をも持ち合わせている。そしてあの、ロックス海賊団に所属していた経歴を持ち、真偽は不明なものの、あのロジャー海賊団の船に乗っていたこともあるという。

 ──その少女が通れば、その土地には不思議な異変が多数起こり、予測不可能、思いがけない災厄を撒き散らして、滅ぶ。戦闘力の高さに、人が苦しみ、恐怖する様を喜ぶその危険な性格。あのロックス残党という経歴も含め、さらなる懸賞金の増額を要請する。

 

 ──百獣海賊団副船長“妖獣”のぬえ。懸賞金……4億8010万ベリー。

 

 これらが百獣海賊団の主なメンバーだが、その凶悪な連中を束ねる男こそが……何よりも恐ろしい存在なのは言うまでもない。

 

「オオオオオオ……!!!!」

 

「ぎゃああああああああああああああ!!?」

 

「た……助けて……くれ……」

 

「敵う訳がなかったんだ……か、帰らせてくれ……偉大なる航路(グランドライン)から……!」

 

 その男は……存在すること自体が恐ろしかった。

 このメモを記す海兵は、情報処理が専門とはいえ、正義の軍隊である海兵には違いなく、戦うことだって辞さない覚悟はある。

 だが……この空に浮かぶ巨大な龍と戦うことを思えば、足が震えてしまう。

 その男は弱者を見下す。敵対者には容赦をしない。破壊を一切躊躇しない。

 

「弱ェ……弱すぎる……!! てめェら……おれに喧嘩を売ってきたからどれほどのもんだと思ったが……恥ずかしくねェのか? そんなに弱ェ癖に海賊なんか名乗りやがって……!!」

 

「う……ぁ……」

 

「ひ、ひィ……に、逃げろ……!!」

 

 その光景は、海賊である彼らに思わず同情してしまいかねない程のものだ。

 敵対者は殺される。その龍の巨体に潰され、あるいは焼き殺され、雷を落とし、氷塊に激突し、人型で殴られ、殺されることもある。

 その姿はまさしく怒れる龍──百獣の長そのものであり、化け物も良いところだった。

 何よりそのパワーとタフネス。耐久性は異常の一言であり、瀕死の重傷だろうが多数の拷問を受けようが決して死なず、回復しては巨大監獄船を沈め、己を負かした相手にすら再び挑み、今度は倒してしまう。こちらもおそらく、既に覚醒に至っているだろう。でないと、この不死身っぷりは説明がつかない。動物系覚醒者の中でも際立った力を持っているのだ。

 更には覇王色の覇気も含めた三種類の覇気を使い、既に中将クラスの海兵を倒してしまうほどの強さを持つ。これで先の少女同様にロックスでは見習いであった年若いルーキーであり、これから先、さらなる成長すら考えられる。

 凶悪極まりないその性格も脅威だが、その個人の圧倒的な強さで部下を集める一種のカリスマ性を持ち、放置すればかの金獅子やビッグ・マムに並ぶ大勢力になる可能性がある。なにせ、()()()()()で1000人の海賊達を殺し尽くしてしまったのだ。その海賊達の船長である。故に、早急な対処と賞金額の増額を要請する。

 

 ──百獣海賊団船長“百獣”のカイドウ。懸賞金……6億1110万ベリー。

 

 ……そしてこのメモと写真を“偉大なる航路”……島から海軍本部へ報告する。そして早急に、応援を──

 

「──え……?」

 

「ふふふー……報告は終わった? それじゃ、もう用済みだね~」

 

 自分の腹に刺さった三叉槍。そこから流れる自分の血液。そして少女の楽しそうな笑い声。

 それらを感じて、海兵はゆっくりと地面に膝をつく。

 そして前を見れば……その少女が、妖しくも可憐な笑顔でこちらを真っ直ぐに見つめており、

 

「態々こんな辺境の島までお疲れ様♪ もう仕事はいいでしょ? 後はー……この島でゆ~っくりと、観光でもして……楽しませてあげる♡」

 

「う……あァ……ああああああああああっ!!!」

 

 海兵はその場で倒れ、卒倒する。

 その時仰向けで見た曇り空と少女の笑顔が……彼の見た、最後の光景だった。

 

 

 

 

 

 ──海賊達は島の一角丸ごと……1時間足らずで全滅した。

 

「ちゃんと偽装は出来てるかなー? あっ、大丈夫そう」

 

「おい、ぬえ。何やってんだ?」

 

「ん、ちょっと海軍がこの島に来ないように島の名前を偽装したところ~。という訳でお祝いのお酒~♡」

 

「さらっととんでもねェことやってねェか!?」

 

「……偽装か……確かに、海兵に気取られると面倒だからな」

 

 私は偽装を終えると路地裏から出て、広場に戻ってお酒の瓶を手に取る。クイーンのツッコミとキングの納得を受けながらカイドウの隣に立ち、

 

「──ということで!! キングとクイーンの正式な加入を祝って……かんぱーい!!!」

 

「うおおおお!!! かんぱーい!!」

 

「キング様バンザーイ!!」

 

「ウオオ~~~!! QUEEN(クイーン)!!」

 

「カイドウの親分にぬえの姐御ォ!!!」

 

 その完全に崩壊した街の中心で、私達百獣海賊団はキングとクイーンの正式な加入──カイドウや私と直接盃を交わして正式に子分、直参の幹部になったのだ。

 血と硝煙、惨劇の中で盃を交わすのは中々に異常な光景だが、これも私達らしくてとっても楽しいし、とても喜ばしい。キングとクイーンの部下だった者達もこれで正式に、キングとクイーンを通じて私達の子分になった訳で、大盛り上がりだ。

 だが一つだけ、大揉めしたこともある。というか、今も若干揉めている。それは、私とカイドウの隣で喧嘩している2人の幹部で、

 

「これで正式にてめェが下になった訳だ。次からは口の利き方に気をつけやがれ」

 

「あァ!!? 誰がいつてめェの下になった変態野郎!! てめェが下だろうが!!」

 

「実力も上で先に入ったのもおれが先だ……!! てめェが下に決まってんだろうがバカが……!!」

 

「盃交わしたのは同時だろうが!! 頭湧いてんのかキングてめェ!!」

 

 ……と、盃を交わしたことで、どっちが上かで揉めているキングとクイーン。しょうがないので私は間に入って、

 

「五分でいいじゃん。別にどっちが下でも上でもさ。それより飲も飲も♪」

 

「いや、ぬえさん……このバカには上下関係ってのを叩き込まねェとならねェんだ」

 

「そうだ。この変態野郎が勝手なことをしたらおれが叱ってやらねェとならねェ。だからしょうがねェんだ」

 

「ん~? まあその時は私が虐めるから別に良いんじゃない? あっ、このお刺身貰い~~~!」

 

「そりゃ怖ェが……って、おれの刺し身がねェ!!?」

 

 間を取り持ちつつ、私は堂々とクイーンの目の前にあった刺し身を掻っ攫っていく。う~ん♡ 人から奪ったご飯って美味しいよねぇ! 

 と、私が新鮮な魚に舌鼓を打っていると、私の言葉を耳にしたキングが胡座を掻いたまま何やら納得し、

 

「……拷問か。確かに、ぬえさんの拷問なら悪くはねェだろうが……」

 

「拷問されてェのか……変態め」

 

()()()()()()で言ってねェよ!! 燃やすぞ!!!」

 

 クイーンの引き気味の言葉にキングが怒ってツッコミを入れる。うーん、キングも中々愉快だね。からかうと面白いかもしれない。クールだからこそ楽しいのだ。まあ今はやめとくけどね。今は楽しんで英気を養って欲しい。何せ明日からは仕事を任せるのだ。

 

「とりあえず、2人には幹部として部下をまとめつつ、島のシノギとかみかじめ料、アガリの徴収とか、色んなことを任せるから頑張ってね!」

 

「おお、任せてくれぬえさん。おれのショーで島の興行を盛り上げてやるからよ~~~~♪」

 

「……この島は無法者が多いみてェだが……従わないバカは好きにしても構わねェのか?」

 

「ん、客じゃなかったり島で暴れたり、私達の言うことを聞かない奴は皆殺そうが何をしようがいいよね? カイドウ」

 

「ウォロロロ……好きにしろ。シマの維持には面子が大事だ。舐められるようなことはすんじゃねェぞ?」

 

「……当然、舐めた真似する奴は誰であろうとケジメをつけてやる……」

 

 あ、キングが楽しそうだ。顔は見えないけど不敵な笑みを浮かべてる気がする。多分、他の人から見たら怖いというか、若干怒ってるようにも見えるからアレだけど、私としては、怒ってもいるし楽しめもするって感じと分析した。敵対する相手を生かしはしないし、加えて海賊ライフが合っているのだろう。あるいは私達と行動するのが純粋に楽しいか。……まあカイドウの言うように、面子は大事だからね。今日の相手みたいに舐めた真似する相手はちゃんと見せしめておかないとダメだ。これは大事。旗の威信を高めることが海賊として成り上がるには何よりも大事だって昔教わったしね。

 まあ今までは私とカイドウが行くことが多かったけど、これからはキングとクイーンにも任せられる。今日の暴れっぷりは島中に伝わるだろうし、住民も快く2人を受け入れてくれるだろう。2人とも見た目からして普通の人からしたら怖いしね。どっちもまだカイドウ程ではないけど、3メートルくらいはある巨漢だし、キングに至っては炎を背負ってて黒い翼まであるのだ。見た目的な威圧感は強い。変型して獣形態とか人獣形態になって威圧も出来るしね。私とカイドウもそうだけど、動物系は見た目的に化け物になれるから威圧や脅迫、恐怖を与えるには凄い便利だ。視覚から来る圧倒的な恐怖は何よりも住民の心を折る。事実、今となっては誰もカイドウに逆らおうなどと思わない。ま、私なんかは敢えて獣形態を見せずに、与し易いと向かってきたり、舐めてきた相手を返り討ちにするのが楽しいんだけどね。とっても驚いてくれるし。それでも最近はこの姿でも怖がる人が増えてきてるけど──あ、そうだ。

 

「後、2人には明日から訓練してもらうからね?」

 

「物凄く初耳なんだが!?」

 

「……訓練?」

 

 驚くクイーンと冷静に聞き返してくるキングに私はにっこりと笑って頷く。それは、

 

「もっと強くなるための訓練♡ 2人は強制だから楽しみにしといてね~? うふふふふ……」

 

「……嫌な予感しかしねェんだが?」

 

「……奇遇だなクイーン。おれも、嫌な予感しかしねェ……」

 

「ほらほら、気にしないでもっと飲め飲め~! 私の酒が飲めんのか~?」

 

「ウォロロロ!! そうだ!! もっと飲みやがれ!! おれの酒が飲めねェのか!?」

 

「ちょっ、力強ェ!!? そんな叩かないでくれよカイドウさん!!」

 

「…………酒癖も不安だな……」

 

 私とカイドウはキングとクイーンの肩をバンバンと叩きながら宴会を楽しんだ。いやぁ、明日からがまた楽しみだね!!




1日休んで考えると最初考えてた展開よりも内容が良くなる……気がする!(休んでたことに対する気休め)
ということで次回から本格的に百獣海賊団が海賊として活動していきます。まあとはいえ、シノギとか修行とかだけどね! ちなみに、今回で島の収入は20%ほど落ち込みました。うん、復興が捗るな!!

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