正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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百獣海賊団強化計画

 世界を2つに分かつ巨大な壁“赤い土の大陸(レッドライン)”のその起点であるリヴァース・マウンテンから入ることの出来る航路、それを“偉大なる航路(グランドライン)”と呼ぶ。

 そこは海の楽園とも呼ばれ、幾つもの冒険記で語られるような不思議な島、気候、人種など、他の場所では見られない未知なるものの宝庫であり、海賊にとっての楽園でもあった。

 だが反対に“海賊の墓場”と呼ばれてもいる。その理由は様々だが、概ね生存率が低いことがあげられる。

 まず“偉大なる航路(グランドライン)”に入る時、半数はリヴァース・マウンテンを駆け上がることが出来ずに脱落し、海の藻屑となる。この時点で、海賊とも呼べないような未熟な者や、運の悪い者は弾かれる。

 次に偉大なる航路に入ってからも、まずは今までの海の常識が通用しないことを理解しなければならない。普通の航海術では偉大なる航路(グランドライン)の不安定な海を渡ることは出来ず、海で遭難するのがオチであり、情報力が足りていない者、無知な者や慎重さが足りない者、運が悪い者はそこでまた脱落する。

 “記録指針(ログポース)”を持ち、偉大なる航路の海を渡ることの出来る船と船乗りを持つ一人前の海賊のみが、偉大なる航路での航海を始めることが出来る。

 だが、そこでも油断してはならない。一歩、偉大なる航路(グランドライン)に足を踏み入れれば海賊も海軍もそこにいる者達の実力は一段も二段も上をいく。何しろ海賊であるならば、最低限同じ様にリヴァース・マウンテンを乗り越え、不安定な海を乗り越えてきた強者であるからだ。つまり、偉大なる航路(グランドライン)の最低レベルこそがそれなのである。海で出会う海賊達は皆最低限は海賊としてやっていけるはずの強者であり、懸賞金なども1000万ベリーを超える程度では誰も恐れてはくれない。この海で一端の海賊として周囲に恐れられるなら、3000万から4000万程度は必要だ。何しろ、偉大なる航路(グランドライン)のその前半の海で強豪と呼ばれる海賊は5000万ベリーの大台を超えてくる強者の中の猛者達だ。

 当然だが、他の海では珍しいとされる悪魔の実の能力者でさえ、偉大なる航路(グランドライン)では珍しくはない。希少であることは確かだが、能力者ともなれば偉大なる航路で1年も航海を続けていれば少なくとも何人も見ることになるだろう。

 つまるところ、偉大なる航路(グランドライン)で多くの海賊達を阻む壁とは、その気候に加えて、敵対者のレベルが高いことがあげられるのだ。

 

 ──だがしかし、偉大なる航路(グランドライン)で島を2つ3つ越え、数ヶ月も航海を続けもすれば、そんな地獄と思われるような環境にも慣れ、海賊としては順風満帆、快適な航海を送ることが出来る。懸賞金も船長なら3000万を超え始めることも珍しくなく、名も売れる。行く先々で恐れられながらも海賊として存分に楽しめるのだ。

 そして……だからこそ、増長し、凶悪化する海賊も増えてくる。自分達は海賊の中でも選ばれた強者。海賊の中の海賊であり、向かう先に敵はいないと勘違いをする。

 偉大なる航路の始まり、7つの航路の1つから島を4つか5つ程越えれば、高い確率で──他の島に磁気を奪われさえしなければ──その島に辿り着く。

 

 その島の名前を“キース島”と言う。偉大なる航路でも世界政府非加盟の小さな常夏島であり、治安も海賊や無法者が闊歩しておりあまり良くはない。

 だがその島は青い海に白い砂浜、美味しいお酒に果物、海の幸などが有名なリゾート地でもあり、偉大なる航路の航海を続けてきた海賊達はこの島での記録が溜まるまでの3日間を快適に過ごし、旅の疲れを癒やす。

 そうして海賊達が落としていくお金によって生活をする。それがこの島のビジネスであり、生き延びるための知恵でもあった。

 そうやって上手く海賊達との共存を成し遂げている島である。海賊達も、もてなす者がいなければつまらないため、よっぽど凶悪な海賊でもなければ、多少暴れることはあっても、島を襲ったりはしない。

 しかし意気揚々と順調に航海を続けて増長していた海賊は、例外なくこの島で叩き潰される。その理由は──今、この島をナワバリにしているとある海賊団にあった。

 

 ──キース島、湾港区。

 

 そこは島にやってきた海賊達が船を停め、積荷を運んだり、島の大工に船の修理を頼んだり、島の漁師が汗水垂らして仕事をしている島の玄関口とも言える港だ。

 そこにはこれから島に入る海賊達と、これから島を出る海賊達がいる。

 だが、3日間の滞在を終えて記録が溜まり、島を出航しようとする海賊達は今現在、港で揉めていた。

 

「──何だ出島料って!!?」

 

「それに高すぎる!! 1人100万ベリーだと!!?」

 

「そんな金額払えねェよ!!」

 

 彼らは口々に島を出ていく時のお金──出島料1人100万ベリーというメチャクチャな決まりに対する文句をとある人物に向かって口にするが、その文句には勢いがない。

 何しろ彼らが文句を言う先──港の倉庫の前に作られた交渉用のスペースに腰掛けている男は、男達の数倍はある巨漢だった。

 右腕に“QUEEN”と“二本角の髑髏”の刺青を刻んである男は葉巻を咥えながらサングラスの奥で海賊達を見下ろす。そして徐ろに嘲笑うかのような笑みを浮かべた。

 

「何、払えない~~~? バカヤロウ、そんなお前達の都合なんざこっちは知ったこっちゃねェんだ! 島を出るってんなら金を払ってから出ていけ。もしくはウチの海賊団に入るか? そしたら許してやる!」

 

「ヘヘヘ……」

 

「っ……!」

 

 その男の答えは取り付く島もないものだった。その部下達も皆、海賊達を見て悪どい笑みを浮かべている。海賊達は怯むしかない。

 何しろこの男はこのキース島をナワバリにする“百獣海賊団”の幹部の1人。“疫災”のクイーンだ。その首に懸けられた懸賞金は1億2000万ベリー。この前半の海では滅多に見ることの出来ない億超えの怪物である。

 勿論、この島までやってきた海賊達も弱くはない。強者の中の猛者であることには違いないのだ。

 だが彼は……いや、彼らは、そんな猛者の中の怪物である。勝てる筈もないし、戦いたくもない。彼らはこの3日間の滞在で、存在するだけでも恐ろしい怪物達の親玉を目撃していた。

 あんな化け物に襲われるくらいなら安全に島で滞在し、さっさと島を出ていった方が良いと考えたのだが……その結果が法外な値段の出島料である。

 そこでようやく、彼らは気づいた。そもそも、こいつらは島から誰も出す気はないのだと。

 金を払ったところで素直に出航させるかどうかも怪しいし、払わなければ海賊団を丸ごと吸収してその金品と船を奪う。そして逆らえば……実力行使に出るのだろう。

 それを理解し、先頭に立つ海賊団の長は拳を震わせた。──だが、すぐにその手から力が抜け、クイーンに対して顔色を窺うような愛想笑いを浮かべて近づいた。

 

「わ……わかりました。それなら入らせていただきます……」

 

「おう、そうか。それなら早速お前らの金と船を寄越せ。それから──」

 

「ただし…………お前を殺してからなァ!!!」

 

 と、その船長は懐から短剣を取り出し、クイーンに向かって襲いかかった。だが、

 

「…………」

 

「へ……? げぶっ!!!?」

 

「せ、船長!!!」

 

 クイーンは無言で、全く動じることもなくその手を受け止め、男の身体を浮かせると、そのまま硬い地面に男を叩きつけた。船員達が船長があっさり叩きのめされたことにどよめく。だが逆に百獣海賊団の面々は当然だろうと言ったような表情でニヤニヤと笑みを浮かべていた。そんな中、クイーンは血塗れとなった男の頭を掴んで持ち上げると、

 

「……刃を向けたってことは、死ぬ覚悟は出来たってことでいいんだよな?」

 

「ヴァ、やべで……!! ぢ、ぢが……げぐっ!!?」

 

「ムハハ、何が違うんだ? ──ま、いい。おれはお前らみたいな雑魚にナイフを向けられたくらいで怒るほどの器量じゃねェのさ♪ ということで許してやる」

 

 クイーンのその言葉に海賊達が僅かに期待の色を見せる。……が、やはりそんな上手い話はないのだとすぐに気づいた。周囲の百獣海賊団の部下達が銃を構えていて、

 

「ただ~~~~し! 行き先は文字通り──地獄だがな!!」

 

「っ!!! ウギャアアア~~~~~~ッ!!!」

 

 湾港区に銃声と悲鳴が響き渡る。島の住人達は聞こえていても気づいていないようにしながら仕事を進める。これは日常だからだ。こんなことで一々足を止めていられない。自分達も、自分達の生きる糧と、彼らに納めるみかじめ料を稼がなければならないからだ。

 そんな地獄の出入り口である港で、海賊を締め上げたクイーンは部下からアイスクリームを受け取り、それを食べながら上機嫌に笑った。

 

「ワハハ、間抜けめ。海賊団にも入らねェ。金も払わねェ奴を助ける訳ねェだろう。──おいお前ら。さっさと金品と船を運んじまえ」

 

「はっ。今日は確かアガリの集計日ですからね」

 

「! そうだった……嫌なこと思い出しちまったぜ……って、おい? そろそろ時間じゃねェか? 今何時だ?」

 

「はっ! 約束の時間を大幅に過ぎています」

 

「え~~~~~~!!? って、それを先に言えよアホンダラァ!!!」

 

 クイーンは部下の報告にオーバーに驚いてツッコミを入れると、アイスクリームをかっこんで立ち上がった。だが、すぐに何かを思いついたように落ち着いて部下達や港を見渡す。

 その様子をおかしく思った部下が頭に疑問符を浮かべてクイーンに話しかけた。

 

「あの……行かないんですか?」

 

「……何かトラブルや異常はないか? 見回りは?」

 

「いえ、今は問題なく……見回りも、ちょうど今から交代を終えて行くところで……」

 

「──たまにはおれが直接見回ってやろう。何か変わったことがあるかもしれん」

 

「なんか露骨に留まろうとしてる!!」

 

「きっと行きたくねェんだこの人!!」

 

「いえ、必要ありません」

 

「そして断られた!!」

 

 クイーンは決め顔のまま周囲を見渡していたが、何も異常がなく、何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。端的に言って、嫌そうだった。そんなクイーンに向かって部下が再び、

 

「そうか……」

 

「はい。今は本当に異常はありませんので、クイーン様は早く報告に出向かれた方がよろしいかと……」

 

「異常あれ」

 

「クイーン様っ!!」

 

 もうメチャクチャ行きたくない様子で、とうとう港の異常を望み始めたクイーンだったが、ややあって何もないことを受け止めると、覚悟を決めて島の反対側に向かっていった。海賊達をさっさと叩きのめしたことを、若干後悔しながら。

 

 

 

 

 

 ──キース島、商業区。

 

 そこは島の中心である。

 その場所は良くも悪くも賑わっており、活気のある場所だ。多くの店、露天商なども軒を連ね、キース島の名物であるキースカクテルを出す酒場や新鮮な海の幸と果物が楽しめるレストランなどが多く存在する。

 だがそれだけに、この町は荒くれ者が闊歩している治安の悪い区画でもあった。とはいえ、店で暴れる者は以前から少数派であり、精々酒場の中での喧嘩や、通りでの殺人やスリが行われる程度である。

 しかし今となってはその町で暴れる者などほぼ存在しない。少なくとも、この島の住人や、他所からやってくる海賊なども揉め事は起こさない。

 その理由はやはり、町の中心の見張り台に掲げられる“二本角の髑髏”にあった。それはこの町、この島が百獣海賊団のシマであることを示すものである。

 当然、この島にある全ての経済活動は百獣海賊団がケツモチをしており、毎月多額のみかじめ料を支払うことが義務付けられている。

 だがそれを支払うに当たって、一応、百獣海賊団は店の用心棒なども含めた島全体の防衛を請け負っていた。故に彼らは納得した。せざるを得なかった事情があるにしろ、治安だけは異常に良くなったのだ。それを理由に多額の金を払うことに島全体が納得したのだ。

 それはあの恐ろしい百獣海賊団を敵に回さなくていいと考えれば安いものだと、多くの住民が思ったからこそである。普段、偉大なる航路に入ってくる海賊達など、百獣海賊団と比べれば怖くも何ともない。それほど認識を改められた存在がこの島に巣食う海賊達だった。

 だから島で争いや揉め事が起これば、例外なく百獣海賊団に叩き潰され、酷い拷問を受け、心も体も破壊される。

 そして、この商業区を仕切り、主にみかじめ料の徴収や揉め事の仲裁とみせしめ、拷問の責任者でもある男が、表通りにある中規模のレストランの中にいた。

 

「──おい。今月はこれだけしかねェのか?」

 

「も、申し訳ありませんキング様……」

 

 レストランのVIP席。その個室のソファーに背中を預けずに座るその大男は、()()()()()

 その男は見るも恐ろしい男だった。黒尽くめの服に黒いガスマスクのような覆面。右の腰に大太刀。眼光は鋭い三白眼で、背中からは黒い翼と赤い炎が轟々と音を立てながら燃えている。

 百獣海賊団の幹部。“火災”のキング。懸賞金は1億3000万ベリーであり、その辺りの海賊ならどれだけ束になっても敵わない怪物である。

 そしてその炎はキングの苛立ちを表しているかのようだった。周囲の部下でさえ、苛ついた様子のキングには僅かに距離を取っている。ただでさえ暑い島だ。キングの周囲は特に熱気が漂っている。

 だがキングの目の前で、キングに睨まれているレストランのオーナーである男は、そうでなくとも冷や汗をかいていただろう。それくらい、キングは威圧感を出している。彼は平謝りすることしか出来ない。今月のみかじめ料を手渡し、キングが数え始めてそれをシルバーのスーツケースに収めながら、

 

「随分と少ねェが……払えねェってんなら、どうなるか……分かってんだろうなァ……!!?」

 

「ひっ……はっ、はい……!! わかっております……で……ですが……その……」

 

 キングに至近距離で凄まれ、胸ぐらを掴まれるオーナー。彼は今にも泣きそうだった。長年荒くれ者を相手に商売をしてきた彼でさえ、これほど恐ろしい相手はいなかったし、彼の背後にすらより恐ろしい存在がいるのだ。逆らう気など毛頭ない。

 だがどうしても言い訳をせざるを得なかった。普段より少ないのにはちゃんと理由があるのだと。

 それを感じ取ったのか、キングも僅かに目を細めながら声を落とす。とはいえ、ドスの利いた声は健在だが、

 

「……何だ? 理由があるなら言ってみろ」

 

「は、はいっ。ありがとうございます……その、ですね……最近、島にやってくる海賊の数が減っておりまして……全体的に客足が先月より少なく……」

 

「……それで?」

 

「それで……一応、納められるだけの金額がそれなのです……これ以上は、店の経営にも支障をきたしてしまう程なので……で、ですから何卒……何卒、今月だけは待って頂けると……」

 

「…………フン」

 

 キングはオーナーの言い分を聞き終えると、僅かに気勢を落とし、鼻を鳴らした。その態度にオーナーは助かったと僅かに安堵する。納得してくれたかと。

 だが、そうではなかった。キングは一度落ち着いてソファに座りはしたし、一度は納得の言葉を口にはしたが……、

 

「……ならいいだろう。今月の足りない分は来月まで待ってやる」

 

「は、はいっ! ありがとうございます!!」

 

「ただし……来月、きちんとアガリを納めるまでは、てめェの()()()()()()()()。──おい!!」

 

「は、はい!」

 

「え……?」

 

 キングの一言で、キングの連れてきた百獣海賊団の部下達が店の二階……家族が住む部屋に押し入っていく。

 それを一瞬、間の抜けた表情で見ていたオーナーだったが、すぐに状況を理解して血相を変えた。

 

「ま、待ってください!! それは、それだけは……!!」

 

「何だ? 来月払うなら問題ねェだろう。払えばきちんと返してやる。安心しろ」

 

「そ、それは……」

 

 ──安心出来る訳がない。そう思ったが、それを言うことは憚られた。当然だろう。

 百獣海賊団に妻と娘を人質に取られて無事であるとは思えないし、それを言うことも恐ろしくて出来ない。来月払うなら問題ないというのは、確かにその通りでもあるのだ。メチャクチャではあるが、彼らは彼らなりのルールに沿っているだけなのだ。

 このままでは妻と娘を連れて行かれてしまう。──そう思ったオーナーの行動は早かった。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!!」

 

「あ?」

 

 オーナーは直ぐ様店の金庫からお金を取り出し、それを持ってキングの前に行き、それを差し出す。それは差額の払えない分のお金だった。

 

「は、払います!! かなりキツいですが、払いますので……妻と娘だけは──ぶっ!!?」

 

 そうして嘆願しようとした瞬間、金は奪い取られ、オーナー自身はキングの手で顔を掴まれ、まるで干しイカの様に吊り下げられた。

 そして万力のような力で締め付けられてオーナーは空中でジタバタともがく。そんなオーナーを見て、キングは怒りを見せていた。

 

「払えるんじゃねェか……舐めやがって……!! おれの言葉が聞こえなかったのか……!!?」

 

「あ、ぐ、あああっ!! や、やべで……!!!」

 

「いいか……もう一度言ってやる……払えねェならどうなるか──わかってんだろうなァ!!!」

 

「っ、ぎゃあああああああああ~~~~っ!!!」

 

 キングが怒声を放った瞬間、オーナーは発火した。

 キングの炎に包まれ、宙吊りのまま火炙りにされて、じたばたともがく。暴れる。それは必死の抵抗だったが、そんな火事場の馬鹿力であってもキングの腕から逃れることは出来ない。

 そしてやがて、全身が黒焦げとなって口から煙を吹き出すほど焼いてしまうと、キングはそのままオーナーを床に投げ捨てる。死んでいるかいないかはどうでもいい。だがどちらにせよ使いものになりそうにはないと判断した。だからキングは近くで震えて腰を抜かしていた料理人に顔を向け、

 

「──おいお前」

 

「ひ、ひいいいいいい!!? な、なんで、なんでございましょうか……!! な、なんでもするので命だけは……!!」

 

 その男はお店の副料理長である年若い男だった。オーナーの娘と婚約し、料理の腕も悪くない。ただ海賊達を相手にするにはほんの少し、ビビリな一般人でもあった。

 そんな彼に向かってキングは言う。金を再びスーツケースに収めながら、

 

「今日からお前がこの店のオーナーだ」

 

「は……はい……?」

 

「来月もまたアガリを徴収しに来る。精々稼げ。規定の金額を納められねェなら……()()()()()()()

 

「っ!!?」

 

「行くぞ」

 

「へいっ」

 

 オーナーに指名された副料理長は、その場にへたり込んで泣きそうになっていた。オーナーになれた喜びなどない。あるのは、来月、もし店の経営などをしくじり、みかじめ料を納められなかった時は……自分もあのように死んでしまう。その恐怖だけだった。

 そうして、金を徴収したキングは店の外へ部下達を連れ添って出る。キングは目立つため、町に出れば道行く人がキングの姿を見てぎょっとするが、すぐに見ないように目を逸らしたりする。

 キングはそういった畏怖の視線に慣れているため特に気にすることはない。むしろ恐れられているということは好ましいことだ。だから特に気にせず、部下の声に耳を傾ける。

 

「あの、キング様」

 

「なんだ?」

 

「……今日は集計日です。ですが、その……あの、いつもよりも……」

 

「……わかってる。分かってることを一々言うな」

 

「す、すみません」

 

 部下の非常に言い辛そうな様子とその報告に、キングは怒りはしなかった。溜息もつかない。だが、心は僅かに憂鬱である。キングはかなり頑張ったが、これでは足りないことは理解していた。そしてだからこそ、報告に行ってなんと言われるかは理解していた。していたが、こうなったのは自分のせいだ。ゆえに甘んじて小言を受けるしかない。

 

「お前らはこのまま町でも見回ってろ。おれは報告に行く」

 

「はい……わかりました」

 

「フン……」

 

 キングは短くそれだけを部下に命令し、鼻を鳴らして町の南側に向かう。そちらにあるのは島のリゾート区であり、同時に、百獣海賊団のアジトがある場所だった。

 

 

 

 

 

 ──キース島、リゾート区。

 

 ここはキース島の中でも最も美しく、快適な場所だった。

 立ち並ぶ高級ホテルに高級レストラン。白い砂浜に青い海。まさしくリゾートであり、その場所は旅の疲れを癒やすには最高級の場所である。

 だが、その中でも1番の名所であるオワオワビーチとそのビーチを有する島1番のホテルは……今や百獣海賊団の物となっていた。

 そのビーチは貸し切りである。普通の客は誰もない。

 白い砂浜にパラソルとビーチチェアーがあり、そこには1人の少女が黒い水着──ビキニ姿で寝そべっていた。黒のボブカットの髪を軽く後ろで結び、額にレンズの大きいオレンジ色のサングラスを掛けたりなどオシャレをしている。傍らには透き通るような青い色の液体に果物が入ったカクテルがあり、それを赤いストローで時折口に含んでいる。それを提供しているのはほんの少し離れた場所にいる島1番のバーテンダーであり、側には百獣海賊団が根城にしているホテルの料理長が直々に料理をしていた。料理は当然、この島で採れるものの中でも最高級品質の食材を使った料理ばかりで、今はちょうどロブスターを使った料理が出来上がり、それは水着を着たホテルの従業員、本来この島にやってきた金持ちの相手をもてなすための美女たちが少女の下へ運んでいく。勿論、内心は戦々恐々としながらだ。

 そしてこの場の全てはこの少女と、とある男のためのものであり、今は男の方がいないため、少女が1人でこの最高の環境を独り占めしていた。一応、近くに彼女の部下である百獣海賊団の船員達はいるが、今はただ待機しているだけである。一応、食事時なのか何人かが食事をしながら談笑しているため、雰囲気は悪くない。おそらく、少女がある程度楽しむ許可を出しているのだろう。

 そしてそんな少女は、出来上がったばかりのロブスターの身をフォークで刺して口に含みながら、

 

「ん~~♡ 美味しい! は~、やっぱこういうビーチだとバカンスに限るよねぇ……」

 

 少女は束の間の休息中だった。というのも、彼女は忙しいのだ。

 今でさえ、こうやって部下に仕事を任せることも出来ているが、任せられない仕事も存在するし、やることは多岐に渡っている。

 だからこそ、こうやって美味しい食事とお酒を最高の環境で嗜むという大人の楽しみを満喫していた。──その見た目や楽しみ方は、見た目相応の少女のものでしかなかったが、

 

「──ぬえ様!」

 

「ん~? な~に~?」

 

 ホテル側から走ってやってくる部下の声にその少女──百獣海賊団副船長、“妖獣”のぬえは応答する。その気の抜けた姿は、懸賞金4億8010万ベリーという高額賞金首に見合わないものだった。

 だが周囲の部下達やこの島の住人はそんなぬえの姿を見てもそういう年頃の少女としては扱わない。彼女の恐ろしさを知っているから。だから部下も顔色を覗いながら告げるのだ。

 

「キング様にクイーン様が到着しました!!」

 

「……ん~。そう。それじゃさっさとこっちに通して~」

 

「はい!!」

 

 一瞬、僅かに目を細めたぬえだが、特に声色を変えることなく部下に命令する。キングにクイーン。どちらも百獣海賊団の幹部であり、ぬえの部下でもあった。

 ぬえは部下が行った後もマイペースに料理とお酒を楽しみながら待つ。するとややあって、ビーチには2人の巨漢が姿を表した。

 

「ぬえさん。金の徴収が終わった」

 

「おう、こっちもだ……確認してくれ」

 

「ん~、お疲れ~」

 

 とろけきった甘い声を出しながらやってきたキングとクイーンを労い、その手に持つスーツケースを受け取り、確認し始める。確認は少し時間が掛かった。

 その間、キングとクイーンは口を開かない。普段なら顔を突き合わせれば直ぐに喧嘩を始めるくらい仲の悪い2人なのだが、今はそういう気配はなかった。

 代わりに──今は金の確認を終えたぬえが、笑顔を浮かべ、

 

「……ねぇ、クイ~ンにキング~?」

 

「…………お、おう」

 

「…………ああ」

 

 ぬえの声にクイーンとキングがいつもより大人しい様子で返事をする。その様に、誰も声を上げることが出来ない。ぬえの、笑みの裏に隠れる僅かな怒りを感じているからだ。

 

「アガリ、ちょっと悪くない?」

 

 ぬえは今月の島のアガリ、みかじめ料を見てキングとクイーンに向かって問い詰める。

 それはまさしく、怒っており、他の船員達からすると恐ろしい光景でもあった。

 

「私達が今、何を取引しようとしてるか……ちゃんとわかってるよねぇ~?」

 

「すまねェ……ぬえさん」

 

「悪ィ……!」

 

(キングさんとクイーンさんが怒られてる……)

 

(あのキングさんとクイーンさんが……)

 

 部下達が内心、恐々とするその光景。キングとクイーンは百獣海賊団の多くの船員達にとって怖くてしょうがない怪物だが、その怪物2人もぬえを相手に謝ることしか出来ない。

 見た目だけならぬえという少女に見た目も恐ろしい巨漢2人が怒られて、気まずそうにしているという異様な光景だが、百獣海賊団にとって、それは当然の光景だった。

 ぬえが軽く溜息を吐き、

 

「まぁいいけどさー……カイドウがちょいちょい町を壊すからアガリが減るのはわかるしねぇ」

 

「──あァ!!? なんだとぬえ!! おれが悪いってのか!!?」

 

「! カイドウさん……!」

 

 そうしてぬえがアガリが減った原因を口にすると、そのタイミングでビーチに1人の大男が現れる。角の生えた大男であり、金棒を持ったその男は百獣海賊団船長、“百獣”のカイドウであり、この島の支配者である。

 懸賞金6億1110万ベリーの怪物であり、前半の海にいる海賊達の中では間違いなく1、2を争う海賊であった。

 そんな彼は、兄妹分であるぬえの一言に反応し、軽い怒りを見せている。が、誰もが恐れるその怒りを、ぬえは難なく受け流すどころか対抗し、

 

「だって見せしめならともかく、町を必要以上に破壊されたらアガリは減るのは事実でしょ!! だから暴れるのは私達に任せろって言ってるのに、いつも酔って被害を撒き散らすんだから……!」

 

「飲みてェ時に飲んで、暴れてェ時に暴れて何が悪いってんだ!! 少しくらいはいいだろ!!」

 

「少しで済んでないから注意してんのよ!! ──はー……とにかく、わかった? カイドウが暴れる分、もうちょっとアガリの徴収は頑張らないとダメなんだからね!!」

 

「……ああ」

 

「……おう」

 

 キングとクイーンは何とも言えずに目をそらしながら頷く。船長であるカイドウと副船長のぬえの喧嘩など、巻き込まれるのはごめんだった。

 だがどうやら今回は一応、カイドウに非があることはカイドウ自身、わかっていたのか、ドカッと砂浜に座り、黙って酒を飲み始める。そしてぬえの方はそんなカイドウを見て溜息を一度吐くと、切り替えた様子で今度はちゃんとした笑顔をキングとクイーンに向け、

 

「ま、それじゃこの話はおしま~い! 怒ってごめんね~? ほら、2人も食べる? 美味しいよ?」

 

「……おれはいい」

 

「……おれも食べてきた」

 

「え~? 二人共素っ気ないなぁ。まあこの後訓練があるから気持ちは分からなくもないけどね。でも食べた方が体力は付くのに。はむ、もぐ、んぐ……」

 

 そう言ってぬえは身を食べ終えたロブスターの殻をバリバリと咀嚼して飲み込む。少女の口から聞こえる音にしてはちぐはぐだった。それを船員達が何とも言えない表情で見ていると、最後にカクテルも飲み干して、ぬえは立ち上がる。

 

「──よし! それじゃあ始めよっか!!」

 

 と、ここのところ続けている修行の始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 お気に入りのビーチで休憩を終えると、やることはまず部下の強化であった。私は部下達の前で明るい声を出す。題して、

 

「封獣ぬえの~~~ドキドキ! これをやればあなたも億超え! ビーチで強くなろう! 血塗れ殺し合い海賊講座~~~~!!」

 

「い、イェーイ!!! ……おい、てめェらも盛り上げろ……!」

 

「い、イェーイ!!!」

 

「う、ウオ~~~!! ぬえ様~~~!!」

 

「…………」

 

 クイーンの拍手と大声を皮切りに初参加の部下達が盛り上げてくれる。若干戸惑いがちだけど、それはまあいい。最初だから戸惑うのは当然だもんね。キングが無言なのはしょうがない。きっと訓練のための精神統一をしているのだろう。真面目だからね。というわけで、

 

「という訳で私達百獣海賊団はこれから最強の海賊団を目指して頑張ってる訳だけど~~~戦力を集める、武器を集める、お金を集める以外にも、新世界でやっていくには足りないものがあります! それはなんでしょうか!? ──はい、キング!!」

 

「……強さだ」

 

「はい、そういうことで~す!! なので、これからあなた達には強くなってもらうからね!!」

 

 私は部下達を前にそれを告げる。すると概要を聞いた部下達はざわついた。軽く困惑気味の表情である。そのうち、1人の部下が恐る恐る手を挙げて、

 

「あの~……強くなるって、どうすれば……」

 

「それは今から私が教えま~す!! という訳で、私の水着姿に見惚れるのはしょうがないけど、ちゃんと話も聞いてね♡」

 

「あ、水着なのはそういう……」

 

「お前が水着着てても何にもならねェだろう」

 

「うっさいカイドウ!! これも士気をあげるためよ!! ちょっとしたサービスがあった方が長く続けられそうだし! 後、ビーチなんだから着ないともったいないしね!!」

 

(絶対自分が着たかっただけだ……)

 

 カイドウの後方からのヤジに私は怒る。ん? なんか部下達から失礼な感じがするけど……まあいい。とにかく、これは彼らを強くするための授業であり特訓なのだ。前々から、キングとクイーン相手には行っているが今日からは適当な部下達も参加させる。実験的にも。

 というのもウチの海賊団もそろそろ400名近くになり、そこそこの大所帯になってきたはいいのだけど、相変わらずキングとクイーン以外は何とも言えない奴等ばかり。まあ若干何名か、見どころがありそうなのはいるけど、それだけだ。それにしても今は原石でしかない訳だし、新世界に足を踏み入れるならもっと強くなって貰わないと困る。私が金を集めて行うとあるブツの取引も強くなるための近道ではあるけど、数は限られてるだろうし、何が手に入るかも未知数。そして何より高い。どんなのでも1億はくだらないのは今の私達にはかなり痛手なのだ。過去の縁から取引の口が確保されてるだけ恵まれているが、それだけである。今月のアガリは少なめだったし、来月はもっと集めるとして……それだけに頼る訳にはいかない。言ったように数は限られてるし、誰にあげるかも重要だ。それの見極めの為にも特訓は必須である。

 なので私は皆を見渡して、再び声を張り上げる。歳は皆20代程度で、中には何を思ったのか、まだ10代程度の見習いだっている。この島や航海で行き着いた島で海賊になりたいと言ってきた子供、いわゆるガキだが、ガキンチョなのに百獣海賊団に入ろうとする辺り、危険な匂いがするのでカイドウと私は普通に入れてやった。この中に将来の幹部がいると信じて。まあ死ぬなら死んだでそこまでってことで、別にいいしね。ということで、

 

「それじゃまずちょっと説明から入るけど……まず! あなた達に伝えるのは~~~~人間の可能性を、自分の可能性を信じろ! 人間はそう簡単に死なない!! ってことね」

 

 私は、個人的な見解だが、私が重要視していることを伝える。皆に自信をつけさせるために、

 

「いい? 海賊はフィジカルよ!! 肉体の強さが正義!! そこにちょっと技術なり能力なり変化を付ければいいのよ!! そうすればあなたもキングやクイーンみたいに億超えの賞金首になることも夢じゃないわ!!」

 

「え、ええ!? そ、それは……」

 

 私の言葉に部下達がそんなの無理では? みたいな困惑気味の表情になる。そこでクイーンが、

 

「そうだ!! 頑張っておれを楽に──じゃなかった、おれみたいに強くなるんだな!!」

 

「フン……まあ確かに、クイーン程度なら大したことない。おれに追いつくことは不可能だろうがな」

 

「あァ!!? 黙れキング!! お前の方が大したことねェよ!!」

 

「……1億2000万がうるせェな」

 

「あァァ~~~!!? てめェふざけんな潰すぞ変態野郎!! あれはたまたまてめェの方が変態だったから金額が上だっただけだろうが!! もしくは海軍の間抜け共に見る目がねェのさ!!」

 

「確かに……見る目はないな。おれとこのバカの差がたった1千万? ──1億の間違いだろう

 

「な~~に~~~!!? このキングのカスが~~~!!」

 

「何だ? やろうってのか……!! お荷物のバカが……!!」

 

 懸賞金の差で言い争い、クイーンとキングはほぼ同時に人獣型に変化して威嚇し合う。あ、ちょうどいいや。私は()()()()()を持ってきて、

 

「キングにクイーン、ちょっとそこに突っ立っててね~~~」

 

「えっ……うごおお!!?」

 

「っ……」

 

 と、私は大砲の弾をセットし、キングとクイーンに向かって撃ち出す。直撃。ギャグっぽい声をあげるクイーンと、僅かに顔をしかめたキング。まあキングの方は耐性もあって全然効いてないだろうけど、私はクイーンの方を指して言った。講義の様に、

 

「──と、こんな感じで、人間は大砲が直撃したくらいじゃ死にません」

 

「えっ!? おれ今その説明のためだけに大砲撃たれたのか!!?」

 

「面白ェ、おれにも撃たせろ」

 

「まさかの二発目!? ま、待ってくれカイドウさん!! 幾ら平気とはいえ心の準備ってもんが──ぐぶっ!!?」

 

「く、クイーン様ァ~~~~!!?」

 

「あ、顔に当たった」

 

 カイドウが大砲をもう一発、クイーンの顔面に向かって撃ち込む。う~ん……どうでもいいけど、知らない人が見たらこれ、船長と副船長が失態を犯した部下を処刑している光景にしか見えないよねぇ……まあそう見えたら見えたで面白いし、こんくらいじゃお仕置きにもならないんだけどさ。本当にお仕置きするなら私やカイドウが殴った方が大砲なんかより全然痛いし重傷になる。という訳でこれはただの戯れだ。水場で水の掛け合いでじゃれ合うような可愛いもの。という訳で気にせず、

 

「はい。説明を続けま~す。今見てもらった通り、人間は鍛えれば、銃や刀は効きません。貫かれません、刺さりません。大砲でも死にません」

 

「い、いやいやそれは……」

 

「基本的に鍛えれば大抵のことはなんとかなります。毒は危ないけど慣れます。爆発くらいじゃ死にません。雷に打たれても死にません。溺れても……う~ん、なんとか耐えましょう!」

 

「そ、そんなメチャクチャな!!」

 

「そういう化け物が沢山いるのが新世界で、億超えの平均レベルです。億を超えるような輩は基本、その手の攻撃を喰らっても死にはしません。死ぬのは相当軟弱な奴か虚弱体質。ましてや動物系の能力者なら大抵の攻撃は耐えるし、ノビても割とすぐに回復します──ということで、この場にいる皆に朗報~~~!!」

 

「え……? 朗報……?」

 

「なんだってんだ……?」

 

 講義口調をやめて皆に明るい声で朗報を告げると、誰もが困惑した。してないのは面白そうに酒を飲みながら見ているカイドウと、無言のキング。顔についた汚れを拭き落としているクイーンだけである。

 そんな中、私は告げた。この特訓を生き残った者にあげる特典を。

 

「見事、この特訓を受けて私達最高幹部に認められた暁には~~~~」

 

「ダラララララララララ──」

 

 と、クイーンが盛り上げ用のドラムロールを行ってくれる。口で。ということで私はそれに合わせて言った。

 

「ジャン♪ なんと!! これから取引で手に入れる()()()()と、()()()()()()()()()をプレゼントしま~~~す!!」

 

「!!」

 

 その私の言葉に、誰もが驚き、戸惑い、そして……野心の色を何人かが覗かせる。百獣海賊団で成り上がってやろうという野心だ。まあそりゃそうだろう。幹部になれて悪魔の実を貰えるなんて、未だ下っ端でしかない彼らには何より欲しいものに違いないのだ。

 

「そ、それってマジですか……?」

 

「マジよ。まあ別に特訓を受けなくても、強い奴にあげるかもだけどね? 要は弱いあなた達に与えるチャンスって感じかな?」

 

「ウォロロロ……そういうことだ。精々強くなって一端の戦力になってみろ。そうしたら立場と力をくれてやる」

 

「立場と力……」

 

 船長であるカイドウがそれが本当であることを念押しする。誰かが喉を鳴らした。幹部の座と悪魔の実の力。それがあれば、もっと欲望のままに暴れられて、好き勝手出来るのだ。ウチのバカで凶暴な、そしてカイドウの強さに憧れた部下達には何よりも欲しいものだろう。

 そしてこれは勿論、嘘でも何でもない。近々、金がまとまれば悪魔の実の取引にも手を出すことは決まっているし、そのための取引先も幾つか確保している。

 だから要は……これは獣達の奪い合いであり蹴落とし合い。ちょっとした蠱毒の様なものだ。特訓を受けた者やそうでない者も含めて、一般の部下の中で最強の存在に、力を与える。歳も性別も人種も関係ない。強ければそれでいいのだ。

 何しろカイドウや私を筆頭に、キングにクイーン。今確かな戦力として数えられるのはこの4人しかいない。それと全員、悪魔の実を既に食べている。

 だからキングとクイーンには単純に強くなって貰うために色々教えているが、今から始める部下達は、それこそ新しい戦力の発掘の為と、船員の強さの底上げの為に行うのだ。

 ……ま、結構な無茶はさせるけど、そこで死ぬようならそもそもウチの船にはいてもいなくてもどっちでもいい存在だったってことだ。補充は容易だし、惜しくもない。

 

「──さ~て……良い感じに皆の目がギラギラしてきたところで、そろそろ始めよっか♡」

 

 と、私は部下達に特訓の始まりを告げる。

 既に多くの者達が最初の戸惑いよりも、手に入る力と立場に目が眩んでいた。ま、これだけ野心があるなら、死んでも後悔しないよね! 私は三叉槍を握り込んで、思わず笑みを深くした。




ということでぬえ~ズブートキャンプが始まりました。百獣海賊団で名を挙げたいということはこぞってご参加ください。え、死ぬ? いやいやそんな……精々死にかける程度で死ぬのは少数ですよ?
そんなこんなで次回はまた色々と。キース島も相変わらず賑わっています。次回をお楽しみに

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