正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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大口取引

 海賊に必要なのは何よりも“強さ”である。

 私は10年以上海賊をやって、よりその考えを強固にした。やはり間違ってない。楽しむことは大事だが、普通の人はまず強さがあって好きに出来なければ楽しめないし、私であっても強くなければ好き勝手することは出来ない。

 またカイドウの目的を達成するに当たっても、海賊としての強さを何よりも求める必要があった。それは基礎体力、筋力などもそうだが、生き残る力、非情な手段を取れる力、武器や道具。剣術や砲術などの武術。悪魔の実の能力や覇気など様々だが、私としてはやはり──生命力。

 どんな状況にも耐えうる力と、獣や人間にも必ず存在する生存本能の強さを大事にしていきたい。

 何しろ、強さは極限状態。ギリギリの死の淵で覚醒するのだ。

 ならば何度も死にかければそれだけ強くなるのは道理である。だからこそ、特訓とはいえ普通の人間なら死ぬと思われる特訓をしなければ意味がない。

 

「いやぁ、思い出すね! 私とカイドウもこうやって見習いの時から()()()()()()()()もん!」

 

「ああ懐かしいな!! まったく、あの頃は楽しかったぜ!! いつどこにいても殺してェ相手がうじゃうじゃといて、気を抜けばいつでも殺されかけた!!」

 

「そうそう! 毎日が命懸けだったもんね!! でもまぁ、さすがにあんな状況にいつもいるなんて部下が可哀想だし、やっぱ多少は手心を加えてあげないと! 大切な仲間だし!」

 

「ウォロロロ!! そうだ!! お前らはおれの大切な戦力だ!! だからもっと強くなれ!! わかったか!!?」

 

 私とカイドウは2人してお酒を飲みながら笑い合う。とっても気持ちよくて楽しい時間だった。殺し合い、美味しいお酒や料理が楽しめて、自分達の海賊団で、その仲間達とこうやって一緒に楽しめて、盛り上がる。

 いや、でも少し盛り上がりは足りないかな? 何しろ──

 

「ねーねー! ほら起きて!! 特訓はもう終わりなんだから一緒に飲もうよ! ()()()()()()()()()!」

 

「っ……う……あ……」

 

 私は砂浜に血塗れで倒れる仲間をお酒に誘ったが、どうやらお酒を口に入れる余裕はないみたいだった。私は首を傾げる。

 

「うーん。ちょっと手加減ミスったかなぁ。でもあんまり手加減しすぎると緊張感ないし、特訓する意味もないしなぁ」

 

「ウォロロロ!! 死にてェ奴には死なせとけ!! 誰にでも死に場所を選ぶ権利はあるもんだ!!」

 

「ん~~~、でも毎日これじゃ海賊としての活動も怪しいなぁ。やっぱ1日で回復出来るくらいに抑えとくのがいいかな?」

 

 私が頬に指を当てて、夜の砂浜に立てられた椅子に座って考え込んでいると、焚き火の向こうから人がやってきた。それはウチの大事な幹部の1人で、

 

「……ぬえさん……もう少し抑えねェと、部下が保たねェ……」

 

「あ、キング~♪ もう回復したんだね! さっすがぁ! それでこそ幹部だよね!」

 

「おう、やるじゃねェかキング!! まったく頼もしい部下だ!! 褒めてやるぜ!!」

 

「……多少は慣れてきたもんで……」

 

 と、百獣海賊団の幹部、キングはゆっくりと歩いてきて疲れを覗かせながらも椅子に腰掛ける。ちゃんと夜のバーベキュー。宴会に参加出来るほどの余裕はあるみたいだ。

 そして続けて、立ち上がってこっちにやってくるのは、

 

「また今日もビーチが血塗れだぜ……部下共の血で」

 

「あ、クイーンもお疲れ~♪ ほらほら、こっち来て一緒に飲も!! 料理も好きなだけ食べていいからね!!」

 

「そうだ!! 好きにしやがれ!! なんなら余興にショーをやっても構わねェぞ!!」

 

「いや、カイドウさん……ちょっと今は勘弁してくれ。今はとりあえず飯を食べねェと……」

 

 と、もう1人の幹部であるクイーンも椅子に腰掛け、疲れた身体を回復させるために食事に手をかける。うんうん。食事は大切だ。寝て食べれば大体回復出来るからね! 

 

「2人とも、覇気も上達してきたね~! まあ元から才能はあったけど、どっちも良い感じだよ! 特に武装色はどっちも上手だよね!」

 

「ああ……少なくとも、このバカには負けねェ」

 

「それはこっちのセリフだぜ、キング。てめェには負けねェからな……! 覚悟しとけ……!!」

 

 相変わらずキングとクイーンはお互いに罵り合い、良く張り合っている。この2人は他の部下達と違って最初から覇気の訓練もしてるからね。どちらも武装色がとっても上手で良い感じだ。お互いに張り合ってるのが良い刺激になっているのかもしれないと勝手に推測する。実力はそこまで変わらないけど……あ、でも僅かにキングの方が上かなぁ? これ言ったらクイーンは怒るかもしれないけど、事実としてはそうだ。なのでしょうがない。私だってカイドウと喧嘩する時もあるけど、さすがにカイドウには劣るもんね。カイドウは耐久力が段々、本格的におかしくなり始めてるし、力も覇気も増してる。それは勿論私もだけど、元々カイドウより弱いんだから同じ速度で強くなっても追い越せないんだよね。まあ最強はカイドウだって思ってるからそれでいいけど、だからといってそれに胡座をかいてちゃいけないし、私も頑張らないとなー。最近は能力に覇気を纏わせて色々と実験中だ。これが中々難しいが楽しい。新しい技や工夫が出来そうでそれを使ってカイドウや仲間の力になれたりしたら嬉しいし、他人に恐怖を与えたり人を殺せると想像すると子供のようにわくわくしてしまう。単純に強くなれるのも嬉しいしね。そう思って私は適当にUFOを動かしながらお酒を飲んでいると、“プルルルル”と音が鳴ったので、私はそれを取る。それは側に置いていた私の電伝虫だ。

 

「何だ報告か?」

 

「聞いてみるね~。──はぁーい♡ もしも~し! 何かあった~?」

 

『あ、副船長ですか!? こちら湾港区ですが』

 

「うん、そうだよ~。で、何かあったの? トラブル~?」

 

 受話器を取ってみると案の定、部下からの連絡だった。それも港からだ。ということは十中八九トラブルかなにかの報せだが、なんだろう。私は若干酔った状態だがそれに問いかける。すると部下は若干戸惑った様子で、

 

『いやそうではなく……その、港に客が──』

 

「客?」

 

 客と聞いて私は首を傾げる──が、それを聞いて直ぐに表情を一変させた。早い。もう来たんだ、と。

 

「あー、なるほどね~。それじゃこっちまで通していいよ~!」

 

『畏まりました。ではすぐにそちらに案内します』

 

「おっけおっけ~! じゃあね~♡」

 

 ガチャ、と電伝虫の通信を切る。するとカイドウが飲み干した酒瓶を放りながらこちらを見て、

 

「何だ、もう来たのか?」

 

「うん、そうみたい。──あー、こっちも無くなってる~、おかわりちょうだーい!」

 

「はっ、ただいま!」

 

 私は料理と酒を提供している従業員にそう言いつけ、ツマミを口に放り込んでいく。するとクイーンが同じ様に飯を飲み込んでから、

 

「客って誰っすか? ぬえさん」

 

「いつもと毛色が違う相手のようだが……」

 

「あー、うん。そうねぇ。今回の客は──」

 

 私は言う。ウェイターが持ってきた酒を再び口に含みながら、笑顔で、

 

「──()()()()()♡」

 

 

 

 

 

 ──客人がやってきたと報告を受けて10分程。その客人は百獣海賊団の部下と何名かの側近を連れてビーチにやってきた。

 それはアフロヘアーで色黒のひょうきんな男。サングラスに海賊コートを身に着けているが、海賊にしては小柄な男であった。百獣海賊団の幹部陣、約1名を除いて比較すれば小さく、見下ろすような形になり、威圧感は多分に感じている筈だが、その男は堂々と笑みを浮かべて両手を挙げた。

 

「──マーベラス!! 来てやったぜ百獣海賊団!! 熱狂してるか!!?」

 

「あ、戦争屋さんどうもお疲れ~♪」

 

「ウォロロロ!! 相変わらずうるせェ野郎だ!!」

 

「……フン。戦争屋と言うから誰かと思ったが……」

 

「なるほどなァ。“戦争仕掛け人”か……面白ェ。中々にイカれてそうだ、ムハハ」

 

 キングとクイーンもその顔を見てようやく誰が来たのかを理解したようだった。まあ私とカイドウは知ってる相手だから割と気軽である。そして周囲の無事な部下などもその顔を見て驚いていた。まあ海賊ならそりゃ知ってるだろう。海賊としてというか、裏社会の大物だもんね。この“最悪の戦争仕掛け人”──ブエナ・フェスタは、

 

「おいおい!! “祭り屋”と呼べよ!! その異名は裏のもんなんだからよ!!」

 

 そう──“祭り屋”とも呼ばれる海賊であり、裏社会の情報屋や取次人、武器商人などとも縁深い男であり、海賊達を熱狂させる祭りを開催する一方、戦争を祭りと称して仕掛けまくる中々にイカれた男だ。

 しかしこの男の人脈などは使えるし、取引先としても、取引先の紹介としても使えるため、以前に連絡を取っていたのである。とはいえ、こんなに早く来るとは思っていなかったけどね。それをまさしくカイドウが酒を飲みながら問う。

 

「来るのが早ェな。せっかちな野郎だ」

 

「ハハハ!! 何、あのロックスから独立したイカれた見習い共の面を見てやろうと思ってな……! 中々凶悪そうな奴等が揃ってやがる。敵の海賊が不憫になるぜ、こんな連中に狙われて──」

 

「──あ、ビーチで血塗れになってるのはウチの部下だから気にしないでね?」

 

「ええっ!!? 部下かよ!! 敵かと思ったぜ!! 思ったよりイカれてんなお前ら!!」

 

「えっ? そうかな? ちょっとやりすぎたくらいでそんなイカれてるって言われる程じゃないと思うんだけど……」

 

「そうだぜ。こんくらいでイカれてると言われるのはありえねェ!! そうだろ、お前ら!!?」

 

「……ああ」

 

「おう……」

 

 あ、キングとクイーンがすっごい微妙な表情になってる。まるで飲みの席で上司の言葉を内心否定してるけど否定したら面倒そうだから思考停止で頷いた中間管理職みたいだ!! 面白い!! 私はクイーンに手をマイクを持つような形で近づき、

 

「──本当は~?」

 

「そう、イカレてる──って、言わすな!! 言っちまった!!!」

 

「このっ……バカが……!! こんな時までノッてんじゃねェよ……!!」

 

「いぇーい!! 本音が聞けた~!! ということでもっと飲めー!!」

 

「うおっ!! 飲むから叩かねェでくれよぬえさん!! ……怒ってねェのは助かるが……」

 

「お、おお……すげェ熱狂っぷりだ……いや、ただ酔っぱらいに絡まれてるだけか……」

 

「酔ってねェよ!!」

 

「酔ってないから!!」

 

 私とカイドウは揃ってフェスタの発言を否定する。そうそう。酔ってない酔ってない。少なくとも私は。酔ってたらこんなもんじゃ済まないからね。しかし部下達が無事な者もあまりお酒を飲みたいテンションではないようなのでちょうどよかった。私はフェスタに酒を投げ、

 

「それじゃ、かんぱーい!!」

 

「おう……いやまあ構わねェけどよ。……それにしても……くくく、随分と成り上がってきやがったな、お前らも……やはりあのロックスの船に乗ってただけはあるぜ……!!」

 

「こんなもんじゃないけどね!!」

 

「そうだ!! おれ達は最強の海賊団になるんだからな!! そのためにてめェとも取引してんだ!!」

 

「それは光栄だぜ。くくく、いやまったく……あの殺しても死ぬ筈がねェロックスの野郎が死んだと聞いた時は自分の正気を疑ったがよォ……今やそのロックスを倒したロジャーと、ロックスの残党共の時代だ……!! これだから海賊の世ってのは面白ェぜ……!!」

 

「ロックス……世界最強と呼ばれた海賊団か……」

 

「カイドウさんとぬえさんが見習い時代を過ごしたって場所だな……」

 

 フェスタの悪どい笑みと共に呟かれた言葉にキングとクイーンも興味深そうに目を細める。まああんまり昔話はしないもんね。たまーに昔は楽しかったって私とカイドウが言うくらいだし。まあ私は別に話してもいいんだけど、カイドウの方は苦い思い出も多くて話すと怒っちゃうから聞かない方が良いと思うけど。

 だがフェスタはそれを告げる。ただ、昔ではなく今の情報だ。フェスタとの取引には情報も含まれるため、こうやって教えてくれたりもする。私が投げた酒を一杯飲みながら、

 

「“新世界”じゃ今や“金獅子”が海賊艦隊を結成してナワバリを拡大し、“ビッグマム”はガキ共と自身の国を持ち始めた。ロジャーの野郎は相変わらず新世界に限らず色んなところを行き来してやがるが……その他にも“銀斧”や“赤の伯爵”、ワールド海賊団も暴れてやがるし、最新の情報だと“西の海”の最高賞金首、花の国のギャング、八宝水軍の“首領”チンジャオも新世界を行き来してると聞く。新世界は今や群雄割拠のお祭りだぜ……? ええ、おい。お前らは新世界に行かねェのかよ?」

 

「へ~、楽しそう! でも今は準備中ってところかなぁ?」

 

「そうだ!! だがいずれ全員殺してやる!!」

 

 カイドウと私はその話を聞いて若干うずうずしたが、まあ時期尚早だ。少なくとも後半年か1年くらいは準備したい。それが私とカイドウが話し合って決めたことだった。

 それを聞いたフェスタは僅かに眉尻を下げたが、笑みのままで続ける。

 

「そうか。だが前半の海も最近は荒れてやがるぜ? “王直”や“キャプテン”・ジョンはこっちで活動してやがるし、海軍本部も動きが活発だ。“英雄”ガープに“仏”のセンゴク。“大参謀”おつるに海軍大将になってから活発に活動をしている“黒腕”のゼファー……後はお前らもか。くくく、お前らは上手に活動してるみてェだけどなァ?」

 

「ぬえのおかげだ!!」

 

「そう!! 私がやりました!!」

 

 カイドウが上機嫌にそう告げてくれたので私も胸を張って自慢気になる。ふふん。私の能力で偽装したかいがあったってものだ。

 しかし色んな情報を教えてくれて助かる。助かるが……ちょっとまだ聞いてない名があることに私は気づいた。

 

「──あっ、そういえば“白ひげ”は?」

 

「! そうだ!! 白ひげの野郎はどこにいやがる!!?」

 

 おっとカイドウが若干怒り気味になった。まあ白ひげとビッグマム……特にリンリンのことは大嫌いだからね。カイドウは。さっきは色んな相手と一緒に聞いたからまだ良かったけど、白ひげの情報がないことに気づいて怒り始めた。そして周囲の部下は若干怯えて引いた。さすがに学習したのだろう。カイドウが酔ってる時に怒るととばっちりで被害を受けたりする可能性があるし、離れるのが賢明だ。──ま、カイドウが本気で暴れたら距離とかあんまり関係ないんだけどね! それこそ島1つ分くらいは離れないと確実に安全とは言えないし。

 と、部下の怯えっぷりを肴に楽しんでいると、フェスタはニヤリと笑みを浮かべた。何だろう。白ひげの情報に何か面白い要素があるのかな? と思っていると、

 

「──くくく……“白ひげ”は……今、この島の近くで航海してるらしいぜ?」

 

「!」

 

「何だと!!?」

 

 その情報に私は驚き、カイドウは怒声と共に立ち上がる。キングはそこに留まっているが、クイーンは若干距離を取っていた。さすがにヤバいかもしれないと思ったのだろう。これも見聞色……じゃなくて、単純な経験則だった。だけどまだ甘い。さすがにまだ暴れない。私の見立てではそうだ。カイドウ相手の経験則はこっちの方が上だからね。ふふん。……まあそんなことはさておき、フェスタに真偽を聞くことにする。

 

「それって本当?」

 

「ああ──とはいえ正確な位置までは分からねェがな。まあ極小の確率だが……もしかしたら、近いうちにこの島にもやってくるかもだぜ?」

 

「全面戦争だァ!!! 気合い入れろよてめェら!!!」

 

「え~~~~~~!!? 決断早すぎねェか!!? カイドウさん!!」

 

「……やるなら打って出て沈めちまった方がいい。島に踏み入れさせるとシノギにも影響が出る」

 

「お前もやる気になってんじゃねェよ、キング!!」

 

「ビビってんならてめェは出なくていいぞ」

 

「あァ!!? ビビってるって誰が言った!! 白ひげなんざ怖くもなんともねェよ!!

 

 おーおー、ウチの幹部達は頼もしい限りだね。カイドウもなんかいきなりやる気になってるし。う~ん……まあ、やるならやるでもいいんだけど、私は一旦皆を落ち着かせる。

 

「とはいえ、来ると決まった訳じゃないんだし~、来てから決めたらよくない?」

 

「まあ期待させたとこ悪いがその通りだな。──まあおれとしちゃあ戦争してくれた方が面白ェが……」

 

「期待させてんじゃねェよバカ野郎が!!!」

 

「うおおおっ!!!?」

 

 カイドウがフェスタの胸ぐらを掴んで至近距離で凄む。いいね! さっすがカイドウ! 裏社会の大物とか取引先相手とか微塵も関係無しにキレてるのはさすがだ。さすがのフェスタもびっくりしてる。まあ強さ的には全然大したことないしね。それといきなり胸ぐら掴まれるとは思ってもなかっただろう。取引先だし。普通ならどんなに怒っても手は出さないが……しかしカイドウは違う。怒ったら関係なくぶち殺してご破産にしかねない。いやまあちゃんと取引してるうちはまだ話が通じたりするんだけど、そこで機嫌を損ねたり、取引で何か失敗しようもんなら言い訳も聞かずに殺したりするのだ。だから取引に向いてるんだか向いてないんだかわからないというか、不安定なところがある。まあ強ければ大体は勧誘されるので命は助かるんだろうけど……って、さすがにこの取引にケチつけるのはアレなので私は割って入ってあげることにした。見てみるのも面白そうだったけど、

 

「ほら、カイドウ。今日は良い話持ってきてくれてるんだからそんなに脅かしたら可哀想じゃない。──ね? 戦争屋さん?」

 

「その通りだ!! だからちょっと待て!!」

 

「あァ? ……ウォロロロ!! それならそうとさっさと言いやがれ!!」

 

「うぐっ……!」

 

 カイドウは私の言葉と、フェスタの必死の言葉を受けると、ややあってそれを理解して笑ってフェスタを離す。砂浜に落ちて声をあげるフェスタは四つん這いで少し距離を取り、

 

(クソ……このイカレ小僧め……!! おれに手出ししたらどうなるか分かってんのかよ……!)

 

 あ、なんか大分焦ってた感情が読み取れる。きっと心の中で悪態でもついているのだろう。うん──ごめ~んね♪ まあカイドウだし許してよ。カイドウは基本的に容赦ないし怒ったら誰だろうとどんな障害があろうと殺したらマズいことになろうと殺しに来るので、怒らせないのが正しい取引のやり方だ。いやまあ取引って普通、もうちょっと交渉とかしたり、相手の足元みたり、色んな駆け引きがあるものだけど、カイドウ相手に下手な駆け引きや下心を見せると、取引の失敗じゃなくて命に関わるので、これからウチ相手に取引する人達は気をつけようね!! この前も値切りを断っただけで殺された取引先とかいたから!! ──それで私が苦労したんだけどね!! だから面白いは面白いんだけど止める時は止める。副船長だしフォローしてあげないとね。

 

「ほらほら、早く良いもの見せて~♪」

 

「っ……ああ……そうだな。お前ら、持ってこい」

 

「はっ! ──どうぞ」

 

 と、フェスタが息を整えて立ち上がり、もう一度座ると、部下から黒いケースを受け取る。

 その中身は勿論、私達が所望した──

 

「これが……今回の取引する──()()()()()

 

「わっ! 久し振りに見た!! このヤバそうな果実!!」

 

「マジであるのか!! だけどクソマズいんだよな~~~食った時の衝撃を思い出すぜ……」

 

「フン……だが、これで得られる力は大きい」

 

「ウォロロロ!! 良いじゃねェか!! 何の実だ!?」

 

 私達は久し振りに見た悪魔の実にそれぞれ反応を見せる。実際、能力者は見ても実そのものを見ることは少ないからね。能力者である私達も基本は一回、自分が食べる時に見たくらいだろうし。こうやって改めて見るとレア物感が半端ない……と、カイドウが喜んで何の実かを質問する。するとフェスタは口端を吊り上げ、

 

「ああ、世にも珍しい動物系の古代種さ……!! くくく、手に入れるのに相当苦労してんだぜ……?」

 

「いいねぇ!! ──でもお高いんでしょう?」

 

「いやそれがなんと今なら──って、安くなるわきゃねェだろ!! 高ェよそりゃあ!! 5億ベリーだ!!」

 

「たっか!! ねぇもっと安くしてよ~♡ あっ、私の水着ブロマイド上げるから1億まけて♪」

 

「どんだけ自分に自信あるんだ!!」

 

 ちぇっ、ダメかぁ。私の水着写真ならそれくらいの価値あると思うんだけどなぁ。

 

「はーあ。しょうがないけど払ってあげようか。ね、カイドウ?」

 

「おう。本当ならぶっ殺して奪ってやってもいいんだが……お前は便利だしまた取引するかもしれねェ。だからきっちり払ってやる!」

 

「……まあそれならいいがよ……」

 

 という訳で一応取引は成立。部下に命令した金を持ってこさせる。うーん。でもこれで大分お金減っちゃったなぁ……かなり頑張ってかき集めたのに……しばらくは大きな取引は難しそう。お金の管理が1番難しいんだよね~。別に専門家でもなんでもないしさ。やっぱ好きに使って足りなくなったら奪うくらいが私達にはちょうどいい。もっとシノギが大きくなればまた違ってくるんだろうけど。

 

「──はい。確かにお金は渡したし、悪魔の実も受け取った。もう帰ってもいいよ」

 

「おいおい冷てェな!! ってかもう夜なんだから一泊くらいさせろよ!!」

 

「うそうそ。冗談だってば。──ということで朝まで飲むぞー!!」

 

「ウォロロロ!! 悪魔の実を手に入れた記念日だ!! てめェらも気合い入れてたらふく飲みやがれ!!」

 

「いや、部下共は今傷の手当で酒どころじゃねーんすが……」

 

「……それより、酔い潰れた隙に奪われねェようにしっかり見張ってねェとな……」

 

「任せたわよキング! ──さあそれじゃ皆でトランプ大会でもしよっか!!」

 

 と、いうことで私達は倒れるまで飲むことにした。悪魔の実の見張りはキングに任せてるので心配ない。まあ誰かが勝手に食う可能性もないとは言い切れないからね。まあキングに任せてれば安心だ。明日また起きたらきちんとした場所に保管することにしよう。

 

 ──しっかし……今回手に入れたのがリュウリュウの実ってことは……もしかして今いる見習いとかの中にいたりするのかな? 将来の幹部くん。いてもまだ若そうだから見た目じゃ分からないけど……ま、どっちでもいっか。いてもいなくても強い奴に食べさせるだけだし。

 

 そんな訳で、百獣海賊団の大口取引を終えて一息ついた私は、カイドウや部下達を巻き込んだ大宴会を行い、いつの間にか眠りについた。

 

 

 

 

 

 ──百獣海賊団の幹部陣が宴会を行っているすぐ近く。血に染まったビーチでは傷の手当を受けて休んでいる百獣海賊団のメンバー、約100人がいた。

 その多くは若者。そして見習いとして拾ってきた少年である──が、見習いの少年の8割は最初の訓練で命を落とし、残った者達も虫の息だった。

 なにせ大人でさえ重傷になる訓練である。ただ船長達の攻撃を受けるなり躱すなりして耐えるだけの訓練。

 だがぬえやカイドウが手加減をしているとはいえ、それでも怪物達の攻撃を子供が耐えきれる筈がないのだ。

 だがそんな中生き残った数人は、大人に交じって怪我の治療をし、一応食べることの出来る食事を口にしていた。

 残った少年達も息も絶え絶えになりながらも必死に食事を口にしながら野望を口にする。

 

「クソ……おれはこんなとこでは死なねェぞ……強くなって暴れてやるんだ……!!」

 

 百獣海賊団という凶暴極まりない海賊──特にその船長カイドウを筆頭に暴れる幹部陣の強さと凶悪さに憧れて海賊を志したその少年は、想像以上の過酷な日々に文字通り血反吐を吐きながらも、この中から抜きん出てやると、人知れず気合いを入れ、強さを求めていた。




という訳で最近の映画キャラが登場しました。そして後の幹部くんも。人獣型好きです。地味に部下達の中に将来の幹部とかが交じってるかもねって話でした。本誌で飛び六胞とかナンバーズが出たら良い具合に調整出来るようにっていうセコさも交じってます。という訳でお楽しみに。そして、そろそろ白ひげが……

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