正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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白ひげ海賊団

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”。

 

 その船は白い鯨を模した巨大な船だった。

 比較的安定した気候、徐々に暑くなってきた海の上で、世界的に有名なその大海賊は“息子”達の相手をしていた。

 

「うおおお!!」

 

「オオ!!」

 

 2人の少年が戦意を表す声を上げ、それぞれ“親父”に殴り掛かる。敵──という訳ではない。この船において、正式に仲間になった者、船長と盃を交わした者は皆、船長である彼の“息子”となり、親子の関係を結ぶのだ。

 今世界で話題になっている金獅子海賊団やビッグ・マム海賊団とは違って、拠点を定めず王道の海賊らしい冒険を行っている大海賊。“仁義”を何よりも大切にする海賊こそが、その白い髭がトレードマークの大男──白ひげ海賊団船長。“白ひげ”エドワード・ニューゲートだった。

 

「グララララ! まだまだだな! マルコ、ジョズ」

 

「いっっっ──ってェ~~~~!! この野郎オヤジ!! 少しは手加減しろよい!」

 

「うぐぐ……頭にタンコブ出来た……」

 

 2人の見習い。小柄なパイナップルのような髪型をした元気な少年であるマルコに、大柄だが気弱な表情で頭を擦るジョズ。そんな2人が軽く捻られたことに対して、周囲の船員達は陽気に笑った。

 

「ははは!! おいおいマルコ! お前“不死鳥”なんだろ!? ちょっと殴られるくらいなんてことないだろ!!」

 

「うるせェよいビスタ!! 回復するっていっても痛いもんは痛いんだ!!」

 

「ジョズ! お前、能力使えば硬ェんだからずっとキラキラしてたらどうだ!?」

 

「変化させると動けない……」

 

 見習いである2人は他の船員達──二刀流の若き剣士ビスタや、鎖付きの鉄球を武器にするドレッドヘアーのラクヨウ。おかっぱ頭のキングデューや、牛の角を思わせる兜を被った厳つい顔のアトモス。葉巻を咥えた荒くれ者のフォッサに、年齢不詳の女海賊、ホワイティベイ。エポイダ、アンドレ、アイルワンなど、癖があるが気の良い海賊達に囃し立てられていた。その輪の中、2人を相手にしていた白ひげは尻もちをつく2人の見習いに、ニイッ、と海賊らしい気の良い笑顔を浮かべ、

 

「まだまだだな。この分じゃ後数年は見習いだ」

 

「え~~~!! なんでだよ!! 強けりゃいいんだろ!?」

 

「弱ェじゃねェか。それにそんなに焦っても直ぐには強くなれねェぞ? お前らどうせ──」

 

 と、白ひげが2人の見習いのバレバレな思考を読んで告げようとする。見聞色を使うまでもないことだった。他の船員にすら分かっている。

 だがマルコは白ひげに先んじて言った。若干不貞腐れるように胡座を掻いて手を頭の後ろに回すと、一転してワクワクを表情に現し、

 

「だってこれから“新世界”に向かうんだろ!? ならそれまでに見習い卒業してェんだよい!」

 

「駄目だ」

 

「なんでだよい!?」

 

「まだ年齢がな。16か17になったら一人前として扱ってやるからそれまで我慢してろ」

 

「……まあ、親父がそう言うなら」

 

 マルコやジョズは若干不満そうではあったが、白ひげの親しみを感じる言葉には逆らわない。何より“親父”の言葉だ。子供である彼らにとっての文字通り親である白ひげには船長であるという以外にそういった意味合いがある。親父の言葉に子供は逆らわない。

 ……とはいえ、それほど上下関係に厳しくない白ひげ海賊団では他の船員が親父である白ひげに文句を言ったりすることも少なくなかったが、それも家族同士、軽い親子喧嘩のようなもので雰囲気は決して悪くはなかった。

 

「グラララ。まあ新世界に行くつってもまだ島を何個か先に行かねェと辿り着かねェし、今から楽しみにしすぎると気持ちが保たねェぞ? 今は次の島のことでも考えてな」

 

「そうだった!! なあ、次の島はいつ着くんだよい!?」

 

「さあなァ……だが気候も大分安定してきた。ってことはそろそろ──」

 

 と、白ひげがマルコの言葉に答えようとしたその時だ。

 

「──オヤジ!! 島が見えた!!」

 

「そら来たぞ。──おいお前達!! 上陸の準備だ!!」

 

「了解!!」

 

「へへへ、今回は夏島か?」

 

「確かに暑ィな。冷たいもんが食いたくなってきた」

 

 見張りの声を聞いて白ひげが船員に指示を出す。確かに船縁から先を見てみると島が見えてきており、船員達は次なる島の未知の冒険に誰もが胸を躍らせた。

 徐々に島に近づき、どこかの岬や砂浜にでも船を停めようとする。海賊船が港に船を停めることは少ない。何しろ海賊。その島や国の人に歓迎されるとは限らないし、海軍や政府だってそこにはいるかもしれないのだ。

 だがその島の港が見えてくるに連れて、気づいた。

 

「あれ? 親父。港に海賊船が幾つも停まってますぜ?」

 

「ってこたァ加盟国じゃねェ荒っぽい島か。なら態々停める場所を探すことはねェな。船を港につけろ」

 

「へ~い!」

 

 そうして白ひげ海賊団はモビー・ディック号を港に停める。だが錨を下ろし、帆を畳んで上陸しようとしているところで、更に別の者が気づいた。

 

「ん? なんか旗が立ってるな……ありゃどこの旗だ?」

 

「海賊旗……? ってことは誰かのシマなのか……?」

 

「親父! あれ、誰の旗か分かるか?」

 

「ん? どれだ?」

 

「あれだあれ! “二本角の髑髏”!!」

 

「!」

 

 港に掲げられている髑髏を見て海賊経験がそこそこある船員達は、この場所は誰か他の海賊がナワバリにしているのだと気づく。が、それが誰のシマなのか、その旗がどこの海賊団のものか分からずに首を傾げる。

 だから1番海賊経験が長く知識も豊富な海賊である船長の白ひげに聞くのは当然だった。また白ひげも、下手に揉め事を起こさないようにと思った上でその旗を確認する。他所のシマを荒らしたともなれば、それは戦争の合図ともなるのだ。

 だがその旗を……島に掲げられた“二本角の髑髏”を見て、白ひげは僅かに眉根を寄せる。見覚えはなかった。だが……、

 

「親父? 見覚えがあるんすか?」

 

「……いや、見たことねェ旗だ……だがもしかすると──」

 

 と、白ひげが嫌な予感を感じ、言葉を迷わせる。船員達もその様子に頭に疑問符を浮かべた。──その直後だ。

 

「っ!! お前ら下がってろ!!」

 

「え!? 一体何が──」

 

「──()()()~!!」

 

「!!?」

 

 白ひげが何かを感じ取って船員達に声を掛けた直後、白ひげは後方からの一撃を薙刀で防いだ。それを見て船員達は驚愕する。気づけた者は少なかった。

 だが一撃を受けた直後、続いて白ひげにその三叉槍を振るって攻撃を仕掛けまくるその姿に、続いて誰もが驚く。その姿は大柄な白ひげとは似ても似付かない相手で、

 

「お、女の子!?」

 

「大丈夫か親父!?」

 

「なんだお前!! 急に親父を狙いやがって……!!」

 

 それは得体の知れない赤と青の羽を持つ少女だった。小柄で自分の身の丈を超える三叉槍を軽々と扱い、白ひげに武装色の覇気で攻撃を仕掛ける少女に誰もが殺気立つ。

 だが白ひげはその槍を難なく捌きながら、怒声を響かせた。

 

「──やっぱりお前か!! ぬえ!!」

 

「あはは! 久し振りだね白ひげ~!!」

 

「えっ!? 知り合い!!?」

 

「って、あれは……」

 

「あいつはロックスの……」

 

 白ひげに奇襲を仕掛けた少女。その名を白ひげ自身が呼んだことで船員達の多くは驚きを見せる。

 だが中にはその少女の姿を見て顔をしかめる者もいた。彼らは白ひげ海賊団発足時からいる者達である。それも、白ひげが前の海賊団にいた時から彼を慕っていた海賊達。そんな彼らの誰もが顔をしかめる相手。それが、ぬえ、と呼ばれる少女だった。

 そして彼女を知らない船員達はその見た目と、見た目に似合わない戦闘力の高さに舌を巻き、誰だあいつはと困惑する。

 だが白ひげはそれらの視線を受けながら、楽しそうな少女の槍を抑え、少女を薙刀を持っていない逆の手で捕まえると、

 

「……相変わらず、手癖の悪い悪ガキめ……」

 

「あーあー……負けちゃった。ちぇ~、今日こそは傷を付けてあげようと思ったのになぁ」

 

「誰がお前みたいなヒヨッコに負けるか。……いやそれよりだ……お前がいるってことは、この島は──」

 

「あ、気づいちゃった? それじゃあ改めて、知らない人もいるみたいだから紹介するね? ──っと」

 

 白ひげに取り押さえられ、勝負がつくと、その少女は不満そうに唇を尖らせ、白ひげの方は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。そして周囲が驚く中、白ひげが自身の危惧したことを口にしようとすると、それより先に白ひげもやる気がないと見て力を抜いたのか、拘束から解かれたぬえが皆の前で告げた。その場で不思議にも浮き上がり、

 

「白ひげ海賊団御一行様、ようこそキース島へ!! ここは私達──百獣海賊団のナワバリで、私は百獣海賊団副船長で世界一可愛くて正体不明の海賊、封獣ぬえ!! 白ひげとは()()()()()()!! ってことでよろしくね♡」

 

「百獣海賊団……って、あの……?」

 

「親父のかつての仲間……?」

 

「…………」

 

 その言葉に、白ひげ海賊団の多くは困惑しながら、歓迎と友好の言葉を掛けてくるぬえという少女に不可解さを覚える。百獣海賊団という名称を知る者。白ひげのかつての仲間という部分に引っかかる者。または単純にぬえという少女の得体の知れ無さに疑問を覚える者。様々だった。

 だが白ひげは、その少女との久し振りの邂逅に──何とも言えない複雑な気持ちを覚え、人知れず歯噛みした。

 

 

 

 

 

 島の南にある島1番のホテル。

 その中にある畳張りの宴会場は今や百獣海賊団のアジトとして使われていた。

 そして今は大勢の部下の他、上座に座ることの出来る4人中3人がそこにいた。その中で部下に囲まれて島名産のアイスクリームを食べながら喋るのは丸々太った巨漢の大男だった。彼は言う。幾つかの手配書を前に並べながら、

 

「──白ひげ海賊団と言えば、かつてカイドウさんやぬえさんが所属していた()()()()()()()()()のNo.2として恐れられていた怪物、“白ひげ”エドワード・ニューゲートが船長を務める海賊団。その強さはロジャーに並び、金獅子、ビッグ・マムを凌駕するって噂だぜ」

 

「そ、そんな奴等とまさか一戦やり合うつもりじゃないっすよね?」

 

「お頭達がロックス出身ってのも驚いたけど、あの“白ひげ”が島に来てるなんて……どうするんですか? クイーンさん」

 

 百獣海賊団の幹部。“疫災”のクイーンの話を聞いていた部下達はその存在に露骨に怯えまくる。彼らとて海賊だ。“白ひげ”の名やロックスの名を知らない筈がない。

 たった数年前まで──“偉大なる航路(グランドライン)”を含めたこの世界の海は、ロックスが支配していたと言われるほどの大海賊。その腹心とも恐れられる海賊が“白ひげ”だ。彼と同格の存在と言えば、それこそ新世界にいる海賊達。そう、もう1人の幹部である男──“火災”のキングが言うように、

 

「一々ビビってんじゃねェ……確かに今や新世界はロックスの残党が勢力を拡大してるとはいえだ。白ひげはまだ“勢力”としちゃそれほどでもねェんだ……それにたとえ相手が“金獅子”だろうが“ビッグ・マム”だろうが、カイドウさんがやるといえば、おれ達はやる……その覚悟だけは決めとけ……!!」

 

「う……」

 

 まるで抜き身の刃の様にギラギラと戦意を研ぎ澄ませているキングは、自らの得物である刀の手入れをしていた。そのどっしりと構えた風格は頼もしい限りではあるが、同時に恐ろしいものでもある。今ここで、白ひげと戦争するのが怖いと言おうものならその場で殺されそうだ。彼らは自然と、キングから一歩後退ってしまう。だがそんな彼を見てクイーンは、

 

「けっ。1人で熱くなりやがって。とはいえ、この変態の言うことにも一理ある。ボスがやるって言うならおれ達は後に続くだけだぜ、野郎共」

 

「く、クイーン様はさすがに落ち着いてますね……」

 

「あの白ひげ相手に……怖くないんですか?」

 

「怖い? ──ワハハ、怖がる必要がどこにある。おれ達は無敵の百獣海賊団だ。それに、てめェらにはおれがついてるだろ?」

 

「く、クイーン様……!!」

 

「ウオ~~~!! QUEEN!!」

 

「──それに白ひげの相手をするのはカイドウさんとかぬえさんだろうしな。船長同士の戦いを邪魔するほど俺は無粋じゃねェ」

 

「え? あっ……じゃあ白ひげがこっちに向かってきたらどうするんですか?」

 

「そんなもん立ち向かうに決まってんだろ腑抜け野郎!! ──だがおれは敵の幹部を蹴散らさなきゃならねェからな。白ひげの相手をしてる余裕はねェかもしれねェが……」

 

「ええっ!? そんなこと言って元からやる気ないんでしょうクイーン様!!」

 

「そんなことはない。本当ならおれが白ひげの首を取ってやりてェくらいだ。……だが残念だ……おれは今一部下だからな。おれが船長なら相手にしたかもしれねェが……」

 

「理由をつけてカッコよく戦いを避けようとしてるっ!!」

 

「ずるいですクイーン様っ!!」

 

 部下達がクイーンの腰が引けてることに対してツッコミを入れる。──実際に戦いになればクイーンも戦うのだろうが、それでも戦いを避けたがるくらい、白ひげという男は恐ろしかった。そしてまたクイーンを見てキングが鼻を鳴らす。

 

「フン……底が知れたな」

 

「あァ!? じゃあてめェ白ひげの首取れるってのかよ!?」

 

「やれと言われりゃやるだけだ……腑抜けのお前と違ってな」

 

「何だとてめェ!! おれだってやれと言われりゃやってやんだよ!!」

 

「ちょっ、やめてくださいキング様、クイーン様!!」

 

「そ、そうです!! 今はこんなことしてる場合じゃ──」

 

 キングとクイーンがいつもの如く些細な言い合いで睨み合い、部下達が怯えながら何とか宥めようとする。

 だがその場で2人を止められるのは1人だけだった。上座の中央に座る角の生えた大男で、

 

「──クソッタレェ!!!」

 

「!」

 

「うおっ!!? って、どうしたんすか!?」

 

 いきなり中身が空になった酒瓶を叩き割り、大声を出すその男──百獣海賊団船長。“百獣”のカイドウの姿にさすがにキングとクイーンも喧嘩をやめて顔を向ける。周囲の部下達も驚きながらそちらを見た。するとカイドウは最初の報せからずっと変わらない、怒った様子のまま告げた。

 

「やっぱりムカつくぜ……!! なんでこのおれが、あの野郎を目の前にして我慢しなきゃならねェんだ……!! おい、どうなんだ言ってみろお前ェ!!!」

 

「はっ、はいいいっ!! いえ、あの……ぬえ様との話し合いで、今は手を出すのは得策ではないとのことで……」

 

「い、一応ぬえ様が様子を見て、情報を持ってくると……その間に、カイドウ様はどうするかを考え、ぬえ様の情報を聞いた後に、最終的にやり合うか否かを決めると、そういう話だったかと……」

 

 部下達がカイドウの怒りっぷりにしどろもどろになりながらも一応伝え終える。先程カイドウやぬえがキングやクイーンも交えて話し合い、出た結論だ。一先ず様子見である。

 実際にやるかどうかは白ひげ側の戦力なんかを見て決めようとそういう話だった。まあこれはぬえが言った案で、普段からぬえの案ならカイドウもそれを採用することも多いのだが、今回は相手が白ひげということもあって、終始不満そうであったのだ。──そして、遂に爆発したのだ。

 

「ああ、そうだった……!! 確かにそうだ……!! ニューゲートは強ェ……!! 昔っからあいつは強かった……!! 強ェ奴等しかいねェ()()の船の中でも特に強ェ男……だが一々口うるせェ男で、だからこそおれはあいつを殺したかった……!!」

 

 カイドウは酒を飲みながら昔を思い出すように語る。誰かに話しかけている風でもない。独り言の様に、その時のことを思い出しながら口に出して怒っていた。

 

「だが奴には一回も勝てなかった……おれも、ぬえも、あの時は弱すぎた……!! だからしょうがねェ、いつか独立してぶっ殺してやると考えた……なのに戦わずに見逃すってのかおれは!!」

 

 カイドウはそう言って金棒を持って立ち上がる。その姿はかつての見習い時代よりも遥かに大きく屈強な肉体を持っており、覇気も能力もかなり鍛えられた状態だった。

 そして敵意も殺気も凄まじい。そんなカイドウを見て、クイーンが思わず声を掛ける。

 

「ええっ!? もう仕掛けるんすかカイドウさん!? まだぬえさんも戻ってきてねェってのに──」

 

「──うるせェ!!! こっちから迎えに行く!! 久し振りにニューゲートの面拝んで……その後は奴の面に一発叩き込んでやる……!! ──てめェら行くぞ!!! 今日、おれは白ひげの首を取ってやる!!!」

 

「お……おおおお!!」

 

 カイドウの、船長の号令に下っ端は従うしかない。あの“白ひげ”を相手にする。だがカイドウもまた怪物であり、部下達は今まで見た中で最強の存在であるカイドウには、あの白ひげも勝てない──と、そう信じた。

 戦力も、先んじて送られた報告だと、数の上では勝っていると。ならばいけるとそう思い、カイドウは部下達を連れてぬえと白ひげ海賊団がいる──その場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「──はいは~い!! それじゃ久し振りに飲もっか!! あ、皆今日はここに泊まっていってね~♡ ホテルのオーナーには話つけてるからさ!!」

 

「……親父、どうする?」

 

「……泊まりはしねェぞ。おれ達は船で寝る」

 

「え~~~!! せっかく用意してあげたのになぁ。……でもまあいっか。それじゃ飲も! ほら、かんぱ~い!!」

 

「……ああ」

 

 白ひげ海賊団御一行を、島の北にある大きなホテルに丸ごと案内した私は、大きなパーティ会場を丸々貸し切ってそこに白ひげ海賊団を招待した。ということで目の前には沢山の食事に大量の酒。全部この島の名産や美味しいもの。定番のものも含めてご馳走ばかりだ。

 私は久し振りに会った白ひげを前に酒で喉を潤しつつ話しかける。

 

「ぷはぁ! ほらほら、他の人達も遠慮しないで。ノリが悪いよノリが! ご飯もお酒も美味しいよ~?」

 

「……ええっと、親父? 食べていいのか?」

 

「……別に構わねェが……お前、毒とか仕込んでねェだろうな?」

 

「えっ、酷い!! そんなことする訳ないじゃん!! 心配なら私が先に食べよっか? はぐ、もぐ……んっ、ほら美味しい!!」

 

「……はぁ。お前ら、食べていいぞ」

 

「おう……それじゃあ……いただきます」

 

 白ひげの警戒しているような普段と違う対応と、私が信用ならないのか、どう対応するべきか悩んでいた白ひげ海賊団の人達も一応食べ始める。うんうん。別に今は仕掛ける気もないんだからリラックスした方がいい。じゃないと損するよ? と内心だけで告げて私も料理と酒を楽しみ始める。

 

「ん~美味しい♡ ほらほら、白ひげも食べなよ! この島の食べ物って美味しいからね! 特にお魚が絶品で──」

 

「……お前、変わらねェな」

 

「ん?」

 

 と、私が白ひげ相手に料理を勧めようとしたところで、白ひげは眉根を寄せた表情のままそんなことを言ってきた。私は思わずムッとして、

 

「変わってないって……ひどーい! いやいやメチャクチャ変わったでしょ! ほら、昔よりもうんと可愛くなってるでしょ? ふふん」

 

「はぁ……おめェと話してるとこっちの調子が狂う。大体お前、どういうつもりだ? カイドウはどうした?」

 

「カイドウは今アジトかな。まあもしかしたらもうちょっとでこっちに来るかもだけど。それと、どういうつもりかって質問の答えに関しては~~~……今は単純に元仲間の様子が気になっただけかな~? なんか面白そうな部下もいっぱいいるしね!」

 

「どうだかな……それと、おれの息子たちに余計なことを話すんじゃねェぞ」

 

 白ひげは頬杖をついて素っ気ない態度で私と会話する。うーん、なんかほんと素っ気ないなぁ。もしかして私達の噂とか聞いてるのかな? それなら警戒してるのも頷けるけどね。──まあそれは良いとして、私は他の白ひげの仲間に目を向けた。

 

「わかってるわかってる。昔のことは話して欲しくないんでしょ? ってことで──ほらほら、そっちの子達も飲みなよ! って、飲めないかな? まあどっちでもいいけど良かったら話さない?」

 

「は、はぁ? いや、なんで子供扱い……オヤジ! こいつはなんなんだよい!?」

 

「……ただの昔馴染みだ。あんまり深く関わると頭がイカれるから注意しろ」

 

「うっわ酷くない? 君たちのオヤジさん。というかオヤジってことは息子ってことだよね? 白ひげ、いつの間に結婚したの~?」

 

 と、私は見どころある見習いの子供に声を掛けつつ、わかっていながら白ひげにそんな質問をからかい混じりに投げかけた。すると白ひげは更に顔をしかめ、

 

「別に結婚はしてねェ……こいつらは皆、盃を交わした息子達だ」

 

「へぇー……なるほどね。大方気に入った相手を家族として集めて一緒に航海してるって感じ? ──さっすが白ひげ! やることが他の海賊と違うね!」

 

「…………」

 

「……オヤジ?」

 

 私が正確にそれを表現して褒めてみたが、白ひげはそれに対して何の反応も寄越さなかった。あれあれ? おかしいな。もっと喜んでくれると思ったのに。息子たちもオヤジの様子がおかしくて怪訝そうにしている。うーん、せっかく楽しく飲みにきたんだけど、こうなって来ると困らせるのも楽しいよねぇ。ま、次は息子達にでも話しかけてみよっかな? 特に理由はないけど興味本位で、

 

「ねぇねぇ、そこのパイナップル頭~!」

 

「誰がパイナップル頭だよい!!」

 

「じゃあ名前は? ほら、おねーさんに教えてみなよ」

 

「……マルコだ。……というか一体なんなんだよい、お前は……」

 

「私~? 私はなんて言えば良いかなー……うーん、まあ白ひげの元仲間で白ひげの元弟子って感じ? ──って、そんなことより私はそっちの話を聞きたいんだよね!」

 

「……おれ達の?」

 

「そうそう。マルコはさー、白ひげの船にいて楽しい? 海賊楽しめてる?」

 

 私がそう問うと、僅かに答えるのを迷ったものの、マルコは真面目な表情で、

 

「……楽しいよい。オヤジや仲間達との冒険は今まで見たことないものが沢山見れるし、面白くて、スリルもあって……」

 

「ほうほう。それでそれでー?」

 

「それで──」

 

「──おい、ぬえ。あんまりウチの見習いを弄ろうとするんじゃねェ。引っ叩くぞ」

 

 と、私がマルコ相手に色々聞いて、色んなことを曝け出させて楽しもうとしてると、白ひげがそれを読み取ったのか厳しい言葉を向けてくる。むぅ……相変わらず隙がない。まあいいけどね。私は笑みを浮かべて、相手を白ひげに戻す。

 

「え~? 別に弄ろうとしてるつもりはないんだけどなー。……というか白ひげ、なんか冷たくない? 昔はあんなに可愛がってくれたのにさ~」

 

「今は敵だろうが……それに、味方ならともかく、敵にしたお前は厄介だ。気を抜いて息子達を危険に晒す訳にはいかねェ」

 

「……へぇ? 私が強くなったって認めてくれるんだ?」

 

「少なくとも弱くはねェ。覇気も上がってるからな……」

 

 ふむふむ、これは意外というか普通に嬉しいことを言ってくれる。まさかあの白ひげに褒められるとは。覇気の修行してる時も滅多に褒めてくれなかったのに、敵になった途端褒めてくれるってのも中々にツンデレだね。まあ別にいいけど。褒められるのは嫌いじゃないし。

 

「なーんか随分信用が無くなってる気がするなぁ……私は変わってないのに、白ひげは変わったんだね?」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()

 

「?」

 

 白ひげは険しい表情で呟くようにそう言った。どういう意味かな? と私は小首をかしげていうと、白ひげは続けて、

 

「……ここに来るまで、町の様子を見たが……住人がお前を見て怯えてたな……それに、お前らからは悪い噂しか聞かねェ……まだ()()()()()()()()を続けてるんだろう」

 

「……ふふふ、昔みたいなって言われると照れるけどねぇ。別にそこまでじゃないよ。船内で仲間殺しが横行する程じゃないし、平和な場所ばっかり狙って人殺してる訳じゃないしさ。精々逆らう奴とか敵を殺して、後はまっとうにシノギをやってるくらいだし、全然優しいでしょ? 昔に比べたらさ」

 

「っ……やっぱりな。別にお前とカイドウがどんな海賊になろうがもう知ったこっちゃないが……ウチに手出したら沈めるぞ」

 

「うーん、沈められるのは嫌だなぁ……ま、別にいきなり手は出さないけど……やっぱ白ひげはそういうの昔っから嫌いだったもんね~? とはいえ仲良くしてくれても良いと思うんだけど。──それとも、()()()()()()()()()()()()()()とは、もう仲良く出来ないかな?」

 

「……そういう訳じゃねェよ。今こうやって話して酒飲んでやってるだけでも十分だろうが」

 

「うーん、言われてみればそれもそっかぁ。確かに、もう白ひげも一船の船長だし、私も副船長だしね~」

 

「そういうことだ。わかったら手出すなよ、悪ガキ。代わりにおれ達もこの島にいる間は手を出さねェ。記録(ログ)が溜まったらすぐに出ていく」

 

 ふむふむ。どうやら白ひげは船長として色々考えた結果こんな感じの対応をしてるらしい。ま、確かに私は一応この島をナワバリにする海賊団の副船長な訳だし、その誘いをいきなり断って喧嘩腰になるとそれはそれで問題だし、かといって仲良くしすぎるのも私達の評判を聞いたらやりにくいってことで、微妙なテンションで接してるって感じか。うーん、白ひげも色々考えてるんだねぇ。でももっと楽しんだらいいのに。私と会って昔のことを思い出したせいで楽しめないのかな? 気にしすぎだと思うんだけど。過去は過去のことで流したらいいのにね。でもそれが出来ないからこそ“白ひげ”って感じもするし、悩ましいところだ。

 しかし久し振りに話すと面白い。もっと他の話や、部下達ともお話したいんだけどなぁ。──生憎と、それは出来無さそうなのが残念だった。私はグラスに入ったカクテルを飲み干し、

 

「──ま、私達もそうするつもりだったんだけどねぇ~……でも、ウチの船長が()()()()()()()()()()♡」

 

「! ──来やがったか……」

 

「え? オヤジ、それはどういう……、っ!!」

 

 私と白ひげがそんな言葉を交わしてからややあって。ホテルの壁が、いきなり轟音と共に破壊されたことで、白ひげの部下達は驚き、衝撃波から顔を腕で守り、白ひげもその存在を感じて眉を立てる。そして私は飛び上がってそちらに戻りつつ、

 

「もう来たんだ。やっぱやる気?」

 

「──ああ……ニューゲートの野郎が近くにいるってのに我慢なんか出来るか……!!」

 

「カイドウ……」

 

 白ひげが立ち上がって壊れた壁の中から出てきた私達の船長、カイドウの名を呼ぶ。私はその隣というか斜め上で浮かび、後に続いてくるキングにクイーン。部下達を見て思う。──ま、知ってた。カイドウが我慢出来る訳ないよね。やたらやりたがってたし。今も思い切り白ひげを睨んでいる。ずかずかと近づいて、

 

「久し振りだなニューゲートォ……!!」

 

「──何年ぶりだイカれ小僧。また見ないうちに随分と凶暴になりやがって……」

 

 至近距離でカイドウと白ひげは言葉を交わし合う。カイドウは思い切り威圧しているが、白ひげはそれに落ち着いた様子で対抗していた。それはまるで昔の再現だが──昔とは違って、カイドウの背は白ひげの5メートルを超えた体躯に迫っており、ほぼ変わらない。視線は見上げることも見下げることもなく合わさっている。そして昔は私とカイドウだけ。相手も白ひげだけだったが、今はその背後にそれぞれの仲間がいる。

 

「あれが“百獣”のカイドウか……!!」

 

「まだ若そうだが……オヤジの言う通り、凶暴な覇気だぜありゃあ……」

 

「チッ……結局こうなるのかい。まあ、あのカイドウなら当然か……」

 

 カイドウを見たことのない見習いや若手の海賊。年上で海賊経験も長いが、しかしカイドウとその身から出る覇気を感じ取って警戒する海賊に、かつて同じ船に乗っていたカイドウを知る者達も、皆一様にカイドウを只者ではないと感じ取っているように見えた。

 そしてこちらも、あの“白ひげ”を目の当たりにして、

 

「あれが“白ひげ”……!!」

 

「お、おい……カイドウ様と変わらねェ巨漢だぜ……」

 

「ムハハ……数の上では勝ってるみてェだな」

 

「フン……あれが“白ひげ”……だが部下はそれほどでもねェようだ……」

 

「あんまり甘く見ちゃ駄目だからね! 白ひげはホンっっっっトに化け物だから! 後、部下達も弱くはないし! でもやれない相手ではないから頑張るように!!」

 

 私は甘く見ている部下も怖がりすぎてる部下も同時に注意し、部下を鼓舞する。ぶっちゃけ厳しい戦いになりそうだけど、それを態々言ってもしょうがない。せっかくやるんだし、出来るだけ頑張って楽しんでいかないとね……!! 

 と、私が覚悟を決めてる間に、カイドウと白ひげは得物を手にする。白ひげの方は歯噛みしていたが、カイドウの方は笑みを浮かべていた。凶相とも言うべき笑みだ。そして白ひげは戦いが避けられないと知って矛を取ったという形で、再度の確認を取る。

 

「本当にやる気なんだな……!? 昔と違って、加減は出来ねェぞ……!!」

 

「必要ねェよ……!! ニューゲート……てめェの首はおれが取る!!! ──行くぞ野郎共!!!」

 

「うおおおおおおおおおお!!! カイドウ様に続け──!!!」

 

「チッ……バカが……!!! ──おいお前達!!! 迎え撃て!!!」

 

「おお!! やっちまえ~~~!!!」

 

 カイドウの号令で私達、百獣海賊団が突撃し、白ひげがそれに応じるように号令し、白ひげ海賊団が迎え撃つ形となる。

 ──こうしてその日、私達百獣海賊団は今までで最大の強敵……白ひげ海賊団との厳しくも楽しい戦いに、身を投じた。




我慢出来ずに特攻です。まあ結果はお察しください。まあまだ若いので我慢出来ませんでしたねって。次回はこの続きとなりますのでお楽しみに
それとやっぱ皆あのキャラがまさか紫髪とは思わなかったのね……まあアニメで確認するまで自分も黒だと思ってたけど。

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