正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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敗北と船出

 戦いの開幕。開戦の号砲は互いの船長同士の得物のぶつけ合いによって打ち鳴らされた。

 

「!!!」

 

「うわああああ~~~っ!!?」

 

「ホテルが崩れるぞ!!」

 

「覇王色の衝突だ!!」

 

 白ひげの持つ薙刀とカイドウの金棒が合わさり、赤黒い稲妻のような衝撃波が周囲に走る。

 そのエネルギーの奔流。大地を揺るがすほどの衝撃は周りの人や物、果ては建物を崩し、島全体に激震を与え、空はいつの間にか暗雲が立ち込め始めていた。

 その一撃の、王の素質のぶつかり合い──それだけを見れば拮抗しているかのように見えるが、劣勢なのはやはり……カイドウだった。

 

「ぐっ……おおおおおお!!!」

 

「! チッ……相変わらずタフだな……!」

 

 白ひげの覇気を込めた一撃に吹き飛ばされるカイドウだったが、即座に体勢を立て直し向かっていく。さすがに一撃でやられる程ではないようだ。それに一先ず安心しつつ、私は私で部下に指示を出しつつ戦闘に入る。

 

「広くなって戦いやすくなったわね! ほら、突撃突撃ー!!」

 

「行くぞ!! おれに続け野郎共……!!」

 

「カイドウさんや白ひげ、ぬえさんならともかく……そこらの部下如きがおれに勝てると思わねェことだ!! おら行くぞ!! ショータイムだ!!」

 

「ヒャッハー!!! ぶち殺せー!!」

 

 私達百獣海賊団の先鋒は私にキング、クイーンといった幹部で、その後ろから数だけは勝るウチの部下達が白ひげ海賊団に迫る。──だが、やはり白ひげが集めた部下達だ。その質はかなり高く、

 

「あはは!! まず1人──」

 

「──させねェよ!!」

 

「止まりな、ぬえ!!」

 

「! あはは!! ラクヨウにベイ~!! 久し振り~!!」

 

 私が誰かも分からない白ひげのモブを三叉槍でぶち殺そうとした瞬間、その槍を止めてきたのは覇気付きの鉄球を投げ込んできたラクヨウに、そこに追い打ちを掛けるように剣を振るってきたホワイティベイだった。その2人が私を止めてきたことに高揚する。なにせ彼らもかつての仲間だ。白ひげ海賊団には幾らかそういう者達がいるが、こうやって昔の仲間と殺し合うのは、それこそ昔を思い出して楽しくなってくる。

 ただ相手の方は楽しくないようで、眉を立てて敵意を見せてきている。笑顔など浮かべていない。私の久し振りという言葉にも歯噛みしつつ、

 

「相変わらず怖ェガキだな……!!」

 

「こっちは出来れば会いたくなかったけどね……!!」

 

「え~? そんなこと言わずに昔みたいに仲良くやろうよぉ!! ほら、一緒に仲良くお酒も飲んだし……こうやって、殺し合いもしてたじゃん!! 昔はさぁ!!」

 

「っ……くそ……!!」

 

「昔とは大違いね……!!」

 

 私はもっと覇気を込めて2人に槍を振るう。おやおや? これは力関係逆転してるかな~? 私も成長したと思うと嬉しくなるなぁ。こうやって白ひげ幹部相手に有利に戦えるんだもん。

 ……ただ一対一ならともかく、二対一や三対一が全然ありえるのと、他の部下が心配なんだよねぇ……白ひげの部下はやっぱ平均値が高いというか、皆結構強いみたいだし。なんでこういうロジャーとか白ひげとかって数は少なくても平均値高い奴等仲間に出来るのかなぁ。どこで拾ってくるのか。秘訣を教えてほしいくらいだ。

 ただこっちの部下にも優秀な者はいる。たった2人だけではあるが、

 

「仲間はやらせねェよい!!」

 

「──雑魚はどいてろ……!!」

 

「! ──ぐあっ!!?」

 

「マルコ!!?」

 

 青い炎を纏った鳥──不死鳥になった向こうの見習いのマルコが向かってこようとしたところを、ウチの優秀な部下である幹部──キングが片手で吹き飛ばす。さすがの古代種パワーだし、キングは既に覇気も武装色に関してはそれなりのレベルで体得している。

 年頃はマルコとそこまで変わらないし、相手の幹部は大体年上か同世代だが、それでもキングは能力を合わせたその炎と剣技で相手を押していた。

 

「何だこいつ……!! 燃えてやがる……!!」

 

「熱ィ!! クソ! 炎の能力者か……!?」

 

「炎に変型……!? マルコみたいな特殊な動物(ゾオン)系か!!」

 

「これから殺すお前らに教える義理はねェ……さっさと──燃え死ね!!!」

 

「くっ……炎が厄介だ……だが、剣士なら負けたくねェ!!」

 

 キングが炎を発生させながら刀を振り下ろそうとすると、若い男が二刀の剣でそれを防ぐ──あれは、ビスタかな? キングの剣を止めるなんてさすがだ。歳もキングより若く、白ひげ海賊団の中でも見習いを除けば最年少くらいだろうに。だが格上なのはキングの方だ。あのままでは遅かれ早かれキングが勝つ──が、この戦いはタイマンではない。

 

「助太刀するぜビスタ!!」

 

「ッ……てめェ……!!」

 

「! フォッサ!! 助かる!!」

 

 キングを横から斬りつけようとしたのは葉巻を咥えた刀を持ったオッサン──フォッサと呼ばれる男。キングはそれを忌々しそうに見るが、そこで悪態を吐くほどの余裕も理もない。海賊の勝負なのだ。横入り不意打ちは上等。多対一だって当然。これはスポーツではない。命を懸けた殺し合いなのだから。

 ──そしてだからこそ、こっちだって非道なやり方をしても相手は文句は言えない。この海賊の世界に反則負けは存在しないのだから。

 

「──エキサ~~~イト!!」

 

「ぐああっ!!? な、なんだ、身体が痛ェ!!」

 

「! 気をつけろ!! あいつの武器、何かおかしいぞ!!」

 

 白ひげ海賊団をその巨体と能力のパワーで吹き飛ばし、同時にその武器の性能で苦しめるのは頼りになるタイプのFUNK。クイーンだ。彼はお得意のウイルス兵器を容赦なく白ひげ海賊団に撒き散らす。いいぞー! もっとやれやれー!! 

 

「ムハハ!! どれだけ強かろうがおれのエキサイトな傑作には耐えきれねェだろう!? どんな悪党も疫病には敵わねェ!! ジワジワと痛みと苦しい思いをしながら死んでいくのさ!!」

 

「っ……アイツの攻撃を受けた奴を連れてけ!! 船医に診させろ!!」

 

「良い判断だな!! だ~~~が~~~♪ おれがそれをさせねェし、させたとしても間に合わせねェ♪ 医務室をパンクさせてやろうか!!」

 

「やめろ……!!」

 

「おおっ!!? なんだてめェは!!?」

 

 と、クイーンが次々に武器を振るって病原菌を相手に感染させようとしたが、その武器はとてもキラキラした身体──ダイヤの身体に受け止められる。ジョズだ。まだ見習いでかなり若い。

 だがそのダイヤの身体はクイーンの絡繰武器を受け止めることには成功した。だが、

 

「生意気な~~~!! おれのエキサイトを邪魔するんじゃねェよガキ!! 踏み潰してやる!!」

 

「っ……!!」

 

「ウチの見習い虐めてんじゃねェよ!!」

 

「させるか!!」

 

「! あ~~~!!? どいつもこいつも群れて邪魔しやがって!! 鬱陶しいんだよてめェら!!」

 

 クイーンの純粋なパワーはその重量も合わさってジョズを吹き飛ばすものと思われたが、その前に他の白ひげ海賊団──あれは多分アトモスと……誰だっけ? 忘れた。金髪おかっぱのガントレット使いがクイーンの攻撃を防ぎ、逆に攻撃を仕掛ける。クイーンは苛立ったように武器を振るって暴れたが、さすがに複数人相手ってのは中々厳しそうだ。というかそもそも……。

 

「つ、強ェ!! 白ひげ海賊団ってこんな強ェのか……!?」

 

「怯むんじゃねェ!! 数はこっちが上だ……!!」

 

「ぐあああっ!!?」

 

 ……ウチの部下達が弱い。いや、白ひげ海賊団が強いと言うべきか……やはり平均的な船員のレベル差は如何ともし難い非情な現実があった。私やキング、クイーンなどはやれてるが、それでも幹部複数を突破出来るほど隔絶した力がある訳ではない。一応キングは炎。クイーンは疫病という厄介な力で相手を苦しませることは出来るが、悪魔の実の力の方は動物系なのもあって、特に絡め手で強引に突破したり倒せる感じでもないのだ。幹部同士の戦いなら長引けば体力のあるこっちが有利だが、長引いたところで先に部下達を倒されて結局不利になるのはこっち。戦況は良くなりようがない。

 好転させることが出来るとすれば私の能力だろう。ってことで私は飛び上がり、

 

「! 空に逃げた!!」

 

「気をつけな!! 何かしてくるよ!!」

 

「何もしない訳ないよね!! ってわけでいくよ……!! “正体不明”……“哀愁のブルーUFO襲来”!!」

 

「!!!」

 

「何だあれっ!! 青いUFO──熱っ!!?」

 

「アイルワン!!」

 

 私は技名を宣言して空に青いUFOを生み出して攻撃させる。青いUFOはレーザーを射出する。複数のUFOは数の利を覆して敵を減らし、分散、対処させることが出来る集団戦に於いて有利な戦法だ。そもそも、私の力は集団戦において基本有効なものばかりである。なので続けて、

 

「続いて~~~!! “アンディファインドダークネス”!!!」

 

「っ、黒い霧……!!」

 

「くっ!! 何か飛んできてるぞ!!」

 

「前が見えねェ……!!」

 

「くそ、これじゃ迂闊に攻撃が出来ねェ……!!」

 

 ふふふ、どうやら上手くいってる。私は黒い霧を発生させて敵の目眩まし、同士討ちを促しつつ、こっちはUFOと弾幕で空から敵を狙っていく。向こうは同士討ち出来ないもんね~? 攻撃出来ないよねェ? でもこっちは──

 

「死ね……!!」

 

「ぐああっ!!?」

 

「うぎゃあ~~~!!? き、キング様……こっちは味方……!!」

 

「ムハハ!! こりゃいい!! さすがぬえさんだ!! 今のうちに~~~~“疫災(エキサイト)弾”、発射!!」

 

「う、ああああっ~~~!! 痛ェ……!!」

 

「く、クイーン様ぁ~~~!! おれ達まで喰らって……!!」

 

「バカヤロウ!! だったらおれの戦闘範囲に来るんじゃねェよ!! 躱せねェ奴は前に出てくんじゃねェ!!」

 

「っ……あいつら、味方ごと攻撃を……!!」

 

 あーあー、白ひげ海賊団、動揺してるねぇ。でも別に味方ごと攻撃してる訳じゃなくて、味方に攻撃してもいいやって精神で攻撃してるだけだ。だってこの状況だと躱せない方が悪いんだもん。別に躱せない訳じゃないんだから弱い方が悪い。

 そして……これはゲームじゃないのだ。私は複数の技を使うし、何なら近づいて近接戦闘だって出来る。こうやって戦えば状況を打破出来るのだ。

 

「いやぁ~、思い出すなぁ。昔もこうやって戦ったよねぇ──」

 

「──ああ、そうだな。昔と同じ……クソッタレな戦法だぜアホンダラァ!!!」

 

「っ!! きゃあっ!!?」

 

 あっ──ぶなぁ!!? 私は間一髪でそれを読み取って飛んできた衝撃……震動を躱す。

 それはやはり、放ってきた声と同じ──白ひげのグラグラの実の力だった。おそらく空気を殴ってこちらに衝撃を飛ばしてきたのだろう。しかもそのせいで、

 

「弾幕が薄くなったぞ!!」

 

「霧も若干晴れた!!」

 

「オヤジがUFOと霧を吹き飛ばしたんだ!!」

 

「今のうちだ!! 奴等を討ち取れェ~~~!!」

 

 グラグラの地震パワーを込めた攻撃によって私がせっかく作り出したUFO軍団が数機を除いて破壊され、霧も吹き飛ばされる。それによってまた勢いを取り戻した白ひげ海賊団。私は思わずむっとして、

 

「あーもう! せっかく有利にしたのに、相変わらず化け物なんだから……!! カイドウ平気!?」

 

「ぐ……ニューゲートォ……!! まだやれるぜおれは……!!」

 

「以前よりも凶暴化しやがって……!! 言ったよなァ、カイドウ!! ぬえ!! おれは仲間に手を掛けるような奴は──絶対に許さねェってよォ!!!」

 

「!!」

 

「!! やばっ──」

 

 白ひげが薙刀に地震と覇気の力を込めてカイドウを叩き切ろうとする。私はこっちにも被害が来ると読んだが何も出来ず、またカイドウもそれをヤバいと感じ取ったのかそれを空中に飛んで躱した。そして直ぐに獣形態に変化する。

 だが地上では──いや、島は、その白ひげの一撃で大変なことになっていた。

 

「な、なんだぁ~~~!!?」

 

「くっ……立ってられねェ……!!」

 

「うわああああああ~~~!!?」

 

「オヤジの地震だ!! お前らバランスを保て!!」

 

 白ひげがカイドウに打ち込もうとした一撃が島を叩き、それによってキース島とその近海はグラグラと左右に揺れた。それによって私達百獣海賊団の海賊の多くが地面で転げるが、白ひげ海賊団はそれを多少慣れているが故か、何とかそこに留まって、無理な者も何かにしがみついて地震に対処していた。というか分かってたけど敵にすると厄介過ぎるというか、やっぱ数の利ってあんまり意味がない。簡単に蹴散らされる。私やカイドウ、キングみたいに飛べる者でないとこの地震も対処出来ないし、個人だけ逃げても雑魚達を助けることが出来る訳でもないし、地震も止められない。いやほんと化け物……というか、さっきの一撃を喰らってたと思うとゾッとする……どんな攻撃力なんだ。やっぱ昔よりも威力が上がってるし……! 

 

「──“熱息(ボロブレス)”!!!」

 

 と、空に飛んだカイドウが今度は白ひげに向かって熱線を放つ。だがこれは躱されるだろう。簡単な攻撃だし、カイドウにとってもこれくらいで白ひげがやられると思ってもいない。あくまで戦闘における掛かり、応酬の1つの筈だ。

 だがしかし白ひげはその一撃を見て、

 

「──おお!!」

 

「オヤジ!!?」

 

 白ひげ海賊団の連中がその所業を見て心配する──白ひげはそのカイドウの“熱息”を直接武装色で硬化させた薙刀で受け止めてしまった。

 それは別に白ひげほどの男なら可能な防御だが、私はほんの少し違和感を覚える。あれ? 躱せるタイミングだったと思うんだけど……って……あー、まさか──。

 

「……カタギに当たったらどうすんだバカヤロウめ……!!」

 

「!」

 

 ──やっぱり。その発言とこちらに向けられる敵意に確信する。

 確かに白ひげがカイドウの“熱息”を躱せば、その背後にある町やホテル周辺にいたまだ逃げている最中の人が犠牲になったかもしれないのは確かだ。だから白ひげは敢えてそれを受け止めたのだろう。なるほど。確かに白ひげはそういう男だ。民間人、カタギへ手を出すことを嫌っていた海賊。実際、本気ならこの島ごと私達を沈めることは出来るが、味方や島の住人がいるからこそ、それをしない男。

 そしてだからこそ……私の相棒はそれを嫌うのだ。

 

「フザケやがって……!! おれとの戦闘中に島の奴等を気づかう余裕があるってのか……!!?」

 

「てめェくらいのヒヨッコならこんくらい訳ねェんだよハナタレがァ!!」

 

「っ……!! 相変わらず……甘くて、ムカつくぜニューゲート……!!! てめェは強い癖に弱ェ奴ほど気にかける……昔からそうだった……!!」

 

 カイドウが雷雲を生み出し、白ひげに向かって放ちながらそう吠える。そう──カイドウは昔から白ひげのそういうところが嫌いだった。

 白ひげはロックスに所属する海賊の中でも、仲間を大事にし、民間人──特に女子供には手を出さない。殺すのは敵の海賊と海兵、政府の息がかかった人間くらいで、どうしても手を出す時は大抵、船長の命令だった時だけで、その時もかなり顔を曇らせていた。

 そして弱い相手を気にかけ、守ろうとする癖がある。そうなのだ──私やカイドウが殺しに掛かった時でさえ、白ひげは一度も本気を出さず、そして死ぬような怪我を負わせることもなく、適当にのしてあしらっていたのだ。

 カイドウにとってはそれが我慢ならなかった。実際、カイドウは白ひげの強さにはいつも一目置いていたし、今でもそうだろう。だからこそ、一度は相手にしないことに迷ったし、結局は勝負に拘って勝てるはずもない戦いに挑んだ。それも結局、白ひげという男を忌々しくは思っても、その強さを認めているからだ。この辺りの思いは好きや嫌いで表せるほど単純なものではない。かつてロックスに所属していた私達や全ての海賊にとって、白ひげという男は異端で、時に忌々しく思い、苦々しい思い出を抱える男ではあるが──誰もがその強さと生き様に一目置いていた男でもある。相容れなくとも認めていたのだ。この辺の感覚はロックスの旗に集い、白ひげを見てきた私達元ロックス海賊団の海賊だからこそ。噂でしか聞いたことのない者や、関わりが薄い者には分からないだろう。あの我が強く、白ひげとは今や敵同士のシキやリンリンだって同じだ。誰も白ひげのことを弱いと言う者はいないだろう。嫌ってはいてもだ。むしろ、白ひげを弱いとどこの馬の骨とも分からない奴が言えば、ムカついて殺すかもしれない。実際シキなどはそれをしたことがあるし、カイドウも白ひげなど大したことないという下っ端を逆にぶん殴ったことがある。おそらく、ただ単にご機嫌取りをしただけだろうが、まあ私もその時はちょっとお仕置きしようかと思った。冗談でもありえないのだ、そんなことは。

 今こうやって戦っていても分かる。──誰が()()()()()を弱いと言えるのか。

 

「クソッタレが……ニューゲートォ……!! おれを、誰だと思って、やがる……!!」

 

「うるせェぞ小僧!! お前如きの名におれが怯えるとでも思ってんのか!!? ──おれァ“白ひげ”だ!!!」

 

「グ、オオ……!!」

 

「っ……ハァ……ふざけた力ね……!」

 

 悪魔の実の力も覇気もその身体能力も武器の使い方も海賊としての生き方も、どうあっても認めざるを得ない。甘かろうが本物の海賊なのだ。

 だからこそシキは何度も彼を勧誘してきたし、リンリンやカイドウは嫌ってどうにか倒そうと目の敵にしている。ただ甘いだけの男ならこだわりはしない。甘いのに強いからムカつくのだ。

 そして彼を弱いと言えば、それと競っている自分達も軽んじられているように感じるのも当然。だからこそ白ひげを弱いと罵った奴を、シキもカイドウも殺したのだろう。リンリンはどうするのか見たことないが、おそらく良い気分にはならない筈だ。

 ──そしてだからこそ、私やカイドウはこの男に挑むのだ。強く好き勝手に暴れたい私達にとって、この男がいることは何よりの障害で、相容れない存在……仇敵そのものなのである。

 かつてロックスを……誰もが一目置いていた大海賊を倒したロジャーにしてもそう。ロジャーを甘いバカだと思っても軽んじる者など、もはやこの時代には存在しない。……少なくとも、それと実際に競おうとしている()()()()()には。

 

「──カイドウさん!! ぬえさん!! やべェぞ!! このままじゃ──」

 

「クソ……!! 群れやがってうざってェ奴等だ……!!」

 

「数が減ってきたぞ!! このまま押し切れ!!」

 

「強ェのはあの4人だけだ!! 囲んで倒せ!!」

 

 ──たとえ、大勢の部下が死のうとも。

 

「ハァ……うブッ……まだ、だ……!! ぶっ殺してやる……!!」

 

「あはは……ウッ……やっばい、死にそうなの久し振り……!! でも、まだまだ……!!」

 

「っ……いい加減にくたばりやがれ!!!」

 

 地震と覇気の力を込めた一撃を喰らい、骨が砕け、死にかねないほどの重傷を負おうとも……戦い、挑まずにはいられないのだ。

 

「“平安のダーククラウド”……!!」

 

「今更そんな目眩ましが通じると思ってんのか!!?」

 

 私は暗雲を生み出し、白ひげの視界を封じる。──が、これが通じるとは勿論思っていない。

 もう既に体力も限界に近い。戦いが始まってまだ2時間か3時間くらいだというのに、こっちの部下はほぼ全滅。残ってるのはキングとクイーンくらいで、残りは死にかけの私達。耐久力には自信があっても、さすがに白ひげと戦って何日も戦ってられるほどの体力はないのだ。一撃喰らう度に気を失いそうになるくらいだし。

 だからそろそろ決着をつけなければならない。私は正体不明の種を自分に仕込み、相手に見える姿を変化させる。視界が一瞬封じられてる間に、

 

「くたばれ……!! ニューゲート……!!」

 

「くたばるのはてめェだ、カイドウ!!!」

 

「っ……!!! っ、はっ……!!!」

 

 私は片手で槍を振るい、白ひげにのされる。凄まじい拳の一撃。それを受け、腹の中の空気が抜ける。骨や内臓が砕けるような気がした。──だが白ひげは……()()()()()()()()()()。カイドウの口調と仕草を真似た私を。私は口端をニヤリと歪める。私はちゃんと、カイドウに見えているかと。

 

「ふ、ふ……」

 

「!!? てめェ、ぬえ……!!」

 

 そして、その隙に本物のカイドウは本気の人獣型になって白ひげの背後から金棒を振り被り、

 

「オオオオ……!!!!」

 

「っ!!!」

 

「危ない!! オヤジっ!!?」

 

 その全開の覇気で白ひげに一撃を与えた。

 未だ1人では敵わないからこそ、私のサポートを受けた一撃。私は血を吐き、地面に倒れながらも、その瞬間を見た──白ひげが、一撃を喰らって歯噛みしながらも、膝すら突くことなく返しの拳を振るって、

 

「……終わりだ……!!!」

 

「っ……!!!」

 

 カイドウが、白ひげの拳で吹き飛んだ。白目を剥いて、血を吐き、強制的に人型に戻されながら──海に向かって吹き飛んだ。

 ……これで、私達の負けは決まった。だが、

 

「た……すけ……なきゃ……」

 

 私は地を這い、なんとかカイドウを助けようとする。幾らカイドウでも海に沈んだまま何時間も耐えきれるかは分からない。

 だからこそ、私は動いてそれを助けなければならなかったが、

 

 ……う……ヤバい……もう、体力が──。

 

 ──私は砂浜に仰向けのまま、それ以上は進むことは出来ずに、意識を消してしまう。

 

「…………」

 

 そしてその直前──白ひげが私に向かって拳を振り上げるところを最後に見たのだった。

 

 

 

 

 

 ──白ひげは百獣海賊団を叩きのめし、戦いは終わった。

 

 敵の海賊は殆ど倒れて殆どが死んでいるだろうし、カイドウも海に吹き飛ばした。

 そしてぬえもしばらくもがいていたが、砂浜に倒れてしまった。

 つまり……後はとどめを刺すだけ。

 だから白ひげは拳を振り上げた。仰向けの、倒れた少女に向かって。

 ……だが、

 

「…………」

 

 ──拳を、振り下ろすことが出来なかった。

 白ひげは理解している。かつては仲間だったとはいえ、ここで殺しておくことが無難な選択だと。

 何しろ今はまだ白ひげに敵わないとはいえ、未来はどうなるか分からない。カイドウもそうだが、今でさえ、息子達では敵わないほどに覇気も仕上がっているし、この成長速度を考えると、10年後はどうなるか分からない。これから先、白ひげの家族、息子達を危険に晒すことになるかもしれないのだ。

 だからこそ、殺しておいた方がいい。それは理解していた。頭では。

 

「……悪ガキが……」

 

 だが──その脳裏にかつてのことが思わず浮かび、拳を振るうことを躊躇わせた。

 かつて同じ船に乗っていた時、見習いとして己に生意気にも不意打ちを仕掛け、教えを乞い、悪さばかりしていた少女である。

 その頃と全く見た目が変わらず、その性根も変わっていない──良くも悪くも変わっていない少女を見て、白ひげは歯噛みする。

 そして結局は、その拳を振り下ろすことなく背を向けてしまい、

 

「……()()()()()

 

 白ひげは言う。かつての仲間。あの殺伐とした船の中で、僅かながらも楽しく過ごした。その借りを返すように、

 

「──オヤジ」

 

「──ああ。負傷者の手当てを急げ。そんで島を出るぞ」

 

「えっ! もう出るんですか?」

 

「というか記録(ログ)は……」

 

「前に敵船で奪った永久指針(エターナルポース)があったろう。それを使え」

 

「あー、了解です。……でもオヤジ」

 

「なんだ?」

 

 部下に指示を出し、自身も負傷者を確かめながら船へと向かおうとしたところで声を掛けられる。ここ数年で仲間になった息子が、砂浜に倒れる少女を見て、

 

「……そいつ、結局何なんすか?」

 

「……さァな。おれにも分からねェよ」

 

 と、白ひげはその得体の知れない、しかし自分はよく知る少女のことをそう口にし、その場を家族と共に去った。

 

 

 

 

 

 ──途切れた意識が目覚める時は、少なからず動ける時であることを理解している。

 

「ん……あ……」

 

 だから私は起き上がり、まずは自分の状況を確認するのだ。

 だがこういう時は大体パターンが決まっている。牢に入れられているとか、護送中とか、拷問中とか。まあ大体そんなところだが、共通しているのは、

 

「……あーあ……負けちゃったか……」

 

「……目覚めたか、ぬえさん」

 

「ん……何とか」

 

 そう、大体負けてること。当然だ。

 戦いに負けたからこそ気絶しているし、殺されてないからこそ生きて目覚めている。……まあ周囲の仲間は少なからず死んでいることが多いが、今回の目覚めは人に抱えられた状態だった。

 私より先に目覚めたのだろう──キングは私を抱えて歩いていた。おそらくは白ひげ辺りにやられたのだろう。彼自身も血塗れで、背中の炎は若干弱まっているように見えるが、さすがに私と同じでタフで、ルナーリア特有の防御力があるおかげか私よりも傷は浅いのか動けはするようだった。──というか、さすがの気遣いと言うべきか、背中に背負うと炎で燃えるため、ちゃんと前に抱えてくれてる。というかこれは……!! 

 

「ふふふ、お姫様抱っことはやるじゃん。役得だね~?」

 

「……動けるなら降りてくれねェか、ぬえさん」

 

「えー……疲れたからしばらくこのままで。それより部下の確認して船を出して。カイドウを早く拾わないと」

 

「そっちはクイーンのバカが確認してまとめてる。……それと、おれ達が倒れてると見て、襲いかかってきた──」

 

「──あ、島の住人でも襲いかかってきた? まあ恨まれてるだろうからねぇ~……私達」

 

「……ああ。そいつらはもう、()()()()()()

 

「さっすが」

 

 さすがキング。色々と対応してくれてるみたいだ。後クイーンも、起き上がってなんだかんだで動いて生き残った部下や私達の荷物を確認してくれてるらしい。──確かに感じる限り、生き残ってる面子はキングにクイーンも含めて十数人くらいはいそうだしね。荷物が無事かまでは分からないけど、多分無事かな? 島のどこがアジトかも分からないだろうし、そもそも貴重なもんはちゃんと隠してあるし。後はカイドウが無事かどうかだね。

 

 ──と、私はキング達と一旦船を出し、あらかじめ作っておいたカイドウのビブルカードを辿ってカイドウをサルベージした。すると、やはりだ。カイドウは──

 

「──ぐっ、げほっ……ウグ……」

 

「うっわ……さすがカイドウ……普通に生きてたねぇ……」

 

「カイドウさん、今怪我の手当てを──」

 

「ああ……てめェらもちゃんと生きてたか……」

 

 サルベージしたカイドウは普通に息を吹き返していた。いやほんと、耐久力がおかしい……これは不死身というか無敵だわ。何時間海の底に沈んでたんだろう。見たところ6時間くらいは少なくとも経ってると思うんだけど。まあカイドウだし、そこは良いとして。

 

「はぁ……負けちゃったし、部下も大勢死んだねぇ……これからどうする? まずはクイーンのショーでも見る?」

 

「任せてくれぬえさん!! FUNK(ファンク)!! ──って、どう考えてもそんな場合じゃねェ!!」

 

「さすがのノリツッコミ。ナイス。──で、真面目にどうするの?」

 

 と、私はクイーンにギャグを振りつつ、カイドウに今後のことを尋ねる。またこの島で態勢を整えるのか、それとも──

 

「──もういい加減、うだうだとここで縮こまってんのは飽きたぜ……!!」

 

「ほう。ってことは?」

 

 私は確信しながら敢えて聞く。カイドウが怒りやら何やらを込めた気迫で、私達に向かって、

 

「行くぞ……“新世界”に……!!」

 

「わお」

 

「!」

 

「! って、いきなり~~~……」

 

 私達は三者三様に驚いてみせる。私はわざとらしいかもだけど。

 とうとう、カイドウが“偉大なる航路(グランドライン)”後半の海。本物の海賊だけが生き残れる海……“新世界”へ行くことを決意したのだ。

 白ひげに負けて衝動的に決意したものではあるだろうが……それを聞いて臆したり躊躇うような奴はウチの部下にはいない。いたとしてもカイドウの命令ならどんなメチャクチャなものでも従うだけだ。

 そしてカイドウは更に命令した。気絶して辛うじて生きているか、目覚めてはいるが重傷の部下達が転がる私達の船の上で、

 

「拠点を新世界に移す……まずは島から根こそぎ金と食料を奪っていくぞ……!!」

 

「ま、部下は減っちゃったし船出をするなら辛うじてそれくらいは持っていかないとね。ってことでさっそく行こうか」

 

「ああ……さっき襲われたお礼参りもある……!!」

 

「島の連中を襲うのに体力はいらねェしな」

 

「そうだ……全部奪って、逆らう奴等は殺していい……!! いや、好きにやりやがれ……!! 気に入らねェもんは全部壊しちまえばいいんだ……!!」

 

「まあやられる方が悪いからね~」

 

「ああ……全部始末してやる……!!」

 

「良い島だったが……手放すってんなら壊すのも惜しくねェな♪」

 

「こんなところで終わらねェ……次は新世界で、もっと暴れてやるのさ……!!!」

 

 カイドウの指示に従い、私達はまた数人で島で略奪と破壊の限りを尽くし、敗北と新たな船出──百獣海賊団の新世界行きを祝い、そしてこの場の誰もが、新世界で大暴れすることを誓った。




負けました。ということで次回からは新世界へ向けて船を出します。シャボンディと魚人島を通ってから新世界入りってことで新世界編かな。通り過ぎる島の人達は覚悟してください。
ということで予定通りにはいかないことばかりですがさっそく次回からそんな感じで動いていきます。お楽しみに

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