正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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シャボンディ諸島

 ──“偉大なる航路(グランドライン)”に足を踏み入れ、この場所に辿り着ける者はそう多くはない。

 

 はじまりの7つの航路から一本を選び、常識の通用しない過酷なこの海に巣食うあらゆる困難を越え、時には同じ様な困難を越えてきた同業者との戦いに勝ち、海軍本部の追手から逃れ、そうしてようやく辿り着くのは、世界を分かつその巨大な大陸──“赤い土の大陸(レッドライン)赤”。

 偉大なる航路の前半と後半を結ぶ中間地点、“魚人島”はその大陸の真下、海底1万メートルの深海にあり、まずはそこに辿り着かなければならない。

 そうしてさらなる危険な航海を越えることで、偉大なる航路の後半の海……本物の強者だけが生き残る世界最高峰の海である──“新世界”に入ることが出来るのだ。

 

「──って、色々怖がらせるけど、新世界には何度も入ってるからねー。そんなに心配しなくても大丈夫よ」

 

「何だ、なら魚人島やここには何度も足を踏み入れて──」

 

「いや、いつも“凪の帯(カームベルト)”から入ってたからここに来るのは初めてだけど」

 

「え~~~~~!!? なら心配じゃねェか!!」

 

 と、相変わらずノリの良いツッコミを入れてくれるのは私達百獣海賊団の最高幹部の1人である丸い身体が特徴的な大男、“疫災”のクイーン。

 今私はこれから新世界入りするに当たっての注意事項や説明などを私達の部下──総勢100名程の百獣海賊団の部下達に語っていた。ちょうど、船を諸島の奥に停めているところで、

 

「まあでも知識はあるから平気よ。魚人島に行くためには、まずこの“シャボンディ諸島”で船のコーティング……この諸島を構成するヤルキマン・マングローブの根から分泌される天然樹脂で船をコーティングして、それで海の中を航海出来るようにするから、それまでこの島で最低3日間は滞在しなきゃいけないって訳」

 

「──なら後3日間は海軍と、このバカ共みたいな連中を殺さなきゃならねェ訳か……」

 

「そんな感じね!」

 

 と、私が笑顔で頷いた先にいるのはもう1人の最高幹部。全身黒尽くめで炎と黒い翼を背中に持つ大男、“火災”のキング。

 彼は相変わらずクールな様子で、地面に倒れた凶悪な人相の男達を足裏で踏み潰しながら告げる。その手には私達の手配書。つまるところ、彼らはこの島に住み着く賞金稼ぎだ。

 

「この島って新世界に向かう海賊なだ誰もが通らなきゃならないし、少なからず滞在しなきゃならない場所だから、賞金稼ぎとかも多いし、何なら海軍本部も近くて、本部の海兵が出入りする駐屯所もあるし、人攫いもいる。まあ1番気をつけないといけないのは海兵だけど、島は広いからねー。相当騒ぎを起こさなきゃバレはしないと思うけど」

 

「──やってきたところで殺すだけだがな」

 

「さすがカイドウ。──ま、それは確かにね。出くわしたら出くわしたで相手するだけかな」

 

 と、海兵がいるという危険性をあっさりと殺せばいいと過激な方針を告げてくれるのは私達の船長──“百獣”のカイドウだ。カイドウは右手に血塗れとなった金棒を手にし、左手に賞金稼ぎの頭を掴んでいた。まだギリギリ生きてるかな? まあどっちみち殺すんだけどね。船の場所がバレたらヤバいし。私は部下達を見る。キース島を出て、この島にやってくるまでに集めた部下達だ。まあ10名くらいはその時から生き残ってる部下だけど、彼らにも向かって、

 

「でも船が襲われる可能性もあるから半分は待機ね。それで1日毎に交代で」

 

「了解した」

 

「わかりました」

 

「は、はい」

 

 私が指示を出すと皆快く頷いてくれる。うんうん。良い部下達だ。まあ入ってきた時期とか、強さによって若干差はあるけどね。キース島から生き残ってる部下は割と慣れてきてるし、逆に新入りはまだまだ私達にビビっている。まあ分かりやすくて結構だよね。

 

「おい、ぬえ。強ェ奴でも探して引き入れようぜ。ここにはマシな奴がいるんだろ?」

 

「多分ね。まあ勧誘は確かに楽しそうだけど、私はそれより普通にお買い物と観光がしたいな~。オークションとかで人身売買もしてるらしいし、ちょっと見てかない? ──あ、賞金首見かけたら殺さずに捕まえて報告ね。仲間にするか、取次人に引き渡して懸賞金貰うかするから。もしくはそれこそ人身売買しても良さそうだしね♡」

 

「ああ」

 

「ムハハ……今島にいる海賊は災難だな。運が悪かったと思って諦めて貰うしかねェが」

 

 私はカイドウとやり取りを行いつつ、キングとクイーン。それと部下には賞金首を見つけたら捕まえて報告するように告げておく。今まで散々やってきたことだが、この島は特に賞金首が多いだろうし、新人も多いから改めて告げておかなければならない。カイドウが気に入って仲間にするかもしれないし、ならないならならないで、賞金首を装って懸賞金を受け取る取次人でも使ってお金稼ぎだ。殺すのは勿体ない。

 後はまあコーティング職人は腕の良いのをちゃんと伝手で選んでるし、まあ平気だろう。問題があるとすればこの3日間。この島で私達が大人しく出来るかってことだ。特にカイドウ。私は……ま、バレずに暴れることも出来るから大丈夫だけどね♡

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路、“海軍本部マリンフォード”。

 

「何!? 百獣海賊団が!?」

 

「は、はっ! どうやら現在、シャボンディ諸島に滞在しているようで……!!」

 

 正義の二文字を掲げるその部屋は報告に騒然とした。

 この海の治安を守る彼らにとって、かのロックス残党は何よりも危険な存在である。

 

「っ……白ひげ海賊団との戦いで壊滅したとの情報は嘘だったか……それとも再起を果たしたか……!!」

 

「──再起だろうな……百獣海賊団の……特に“百獣”のカイドウと、その兄妹分のぬえはかなりタフだ」

 

「! ──ガープ中将!!」

 

「も、戻っていらしたので!?」

 

 シャボンディ諸島からの報告を受け取った海軍本部少将とその部下らが険しい顔つきを浮かべるその部屋に、声と共に入ってきたのは海軍の英雄──“ゲンコツ”のガープだった。今や本部よりも海に出て海賊達と戦っている時間の方が長い彼が戻ってきていることに彼らは驚く。だがガープはニヤリと笑みを浮かべ、

 

「補給のついでによってみた──が、また悩ましいな。これから白ひげとロジャーの争いに乱入してやらにゃならんのに……あの百獣海賊団までもが新世界入りか。これはまた政府の悩みのタネになるだろう!」

 

「白ひげとロジャー……」

 

 不敵に笑うガープのその言葉に下っ端の海兵が喉をごくりと鳴らし顔を青褪めさせる。今や新世界の覇権を奪い合う4人の大海賊。そのうちの2人であるロジャーと白ひげが争うなど、尋常ならざる事態だ。

 政府は特にロジャーを危険視しているし、それに次ぐ強さと器を持つ白ひげも同様に脅威である。

 しかしだからといって国を治めてナワバリを形成しているビッグマムや、海賊艦隊を作りその大親分として君臨するシキも放置は出来ない。

 海軍は今や猫の手も借りたいほどに忙しい。戦力が足りていない状況だった。強い海兵はガープやセンゴク、ゼファーを始めにそこそこいるが、ロックス残党は偉大なる航路の各地で暴れている。とてもではないがそれら全てに対応出来はしない。

 だからこそ、百獣海賊団が白ひげ海賊団に壊滅させられたとの情報がもたらされた時、政府も海軍も僅かに肩の荷が下りた気分だったが、どうやらそれは一時のものでしかなかったらしい。再びのしかかってくる脅威に対し、海兵は険しい顔を崩すことが出来なかった。

 だがガープだけは気楽に言う。せんべいをバリバリと食べながら、

 

「安心せい! 道中、見かけたら相手しとく! ──それに……どうやら政府の方も動いとるようだしな」

 

「政府の!? ということは──」

 

「ああ。どうやらスパイを潜り込ませるらしい。ただでさえ、百獣海賊団の動きは掴みにくい。その原因と思われるぬえの意味不明な力は未だ判別しておらんしな。それも含めて探る気だろう。──まあ、上手くいくかは微妙なところだがな! ぶわっはっはっはっ!!」

 

「ええ……笑うところですかそれ……」

 

 部下の呆れ気味のツッコミを受けながら、ガープはせんべいを口に馬鹿笑いした──が、その内心は神妙なものである。とうとう百獣海賊団も新世界に入る。それはまた、この世界に小さくない嵐を巻き起こすであろうと。

 

 

 

 

 

「へ~……奴隷売買って結構面白いねぇ。可愛い子か面白い子でもいたら買ってこうかな?」

 

「賛成だがなんで可愛い子なんすか」

 

「バカねクイーン。お世話してもらうなら可愛い子の方がいいじゃない」

 

「男みてェなこというな、この副船長……」

 

 シャボンディ諸島滞在の一日目。軽くお買い物でもしようと思って部下達を連れて島の中を見て回る。若干残してきたカイドウが不安だが、まあキングがついてるし平気……と限らないが、まあ一応信じておく。

 それよりも今はお買い物だ。牢の中に入れられた首輪をつけられた奴隷達を適当に見て回る。うーん、なんかペットショップにいる気分。でも皆表情とか目が死んでるなぁ。まあ気持ちは分かるけど、弱いから悪いんだよね。強ければこれくらい逃げ出すのは簡単だし。

 

「──如何でしょう? 気に入った者がいれば是非ともお買い求めください。どれも健康状態は良好で長持ちしますよ。うちはそこだけは気をつけていますので」

 

 と、私やクイーンが見て回っているとそんなことを手揉みしながらニコニコと営業スマイルで言ってくる店の店長。うん、確かに健康状態は良さそうだね。精神的にはかなり参ってるみたいだけど。

 

「私的には、精神的に余裕ある子の方が楽しみがいありそうなんだけどなぁ」

 

「やべーこと言い出したぜ。──すまねェなオーナー。ぬえさんはこういう趣味なんだ」

 

「ははは……左様ですか。ならそういう商品も──」

 

「うーん。でも貰っていくには別にいいかな? お金も溜め込んでそうだし。──ってことで、全部ちょうだい♡」

 

「……は?」

 

 ──と、唖然とする店長を無視して私は牢屋をぶち割って適当に奴隷を連れて行く。そしてクイーンや部下にも指示を出し、

 

「クイーン。金目のもんは適当に奪ってってねー」

 

「おう──ってことでおめェら!! 略奪ショーの時間だぜ~~~~♪」

 

「ウオ~~~~ぬえ様~~~~!! QUEEN~~~~!!」

 

 そしてクイーンと部下達もこぞって色んなものを奪っていく。するとようやく店長や周囲の店員が動き、

 

「な──何をする!!?」

 

「ごめんね~、私達海賊だし、こうやって襲っても海軍が呼べないようなお店で金払う気もないの。まあ余裕があったり、これからも使うなら払ってあげてもいいんだけど、多分あまり来ないだろうし、持ってる物全部奪ってくから。だから悪いけど──死んで♡」

 

「っ!! やめ──ぐあああっ!!!」

 

 ということで私は三叉槍でそこらにいた店長や店員、用心棒も含めて適当に殺しておく。いやぁ、やっぱ略奪するのが1番楽でいいよねぇ。こういう店はかなり儲かってるだろうからやりがいもあるし。ついでに人間すら調達出来るとか一石二鳥だよ。

 

「え~っと、この子とこの子は持っていこうかな? あ、後の子達は逃げてもいいよ~。別に用もないからさ」

 

「えっ……?」

 

「に、逃げられるのか……?」

 

「逃げられるよ~。ってことで精々私に感謝してね?」

 

 適当に牢から奴隷を持っていって、いらない奴等は放置する。まあ鍵でも奪って逃げればいいだろう。たまには人助けだ。ふふん。私って結構優しくない? 別に奴隷じゃなくてもこうやってたまーに人助けをして恩を売りつつ感謝されるのもそれはそれで楽しいのだ。なので結構出会う人や道行く人に親切にしたり助けることは結構ある。──ま、反対に苦しむ姿が見たくて殺したり拷問したりとかってすることもあるけど、どっちも楽しいから仕方ない。やりたいことをやるだけだ。やりすぎると凄いことになるから多少は考慮するけど。

 

「それじゃあなた達は私の荷物持ちね~。──さて、手に入ったお金で皆でレストランでも行ってパーッと騒ごっか!!」

 

「さっすがぬえさん!! ──ということでお前ら、帰りにパーッとやってくぜ~~~~♪」

 

「ヒャッハー!! さっすがぬえさんだ~~~~!!」

 

 クイーンとクイーンの部下達が盛り上げてくれる。まあ昔いたクイーンの元々の部下はもう殆どいなかったりするんだけど、クイーンに部下与えると基本的にノリが良くなるんだよねぇ。中々面白い。反対にキングの部下なんかはかなり残虐になるんだけど、それはそれで楽しいというか、まあどっちも海賊らしく楽しんでいるのでいいかな、と思う──そんなこんなで、一日目はお買い物と適当に宴会をして終わった。

 

 

 

 

 

 ──シャボンディ諸島、滞在2日目。

 

 この島にやってくる海賊というのは基本、前半の海を渡ってきた強豪海賊で、かなり大物な感じの海賊も多い。懸賞金も億超えは珍しいにしても、それに迫るくらいの海賊がゴロゴロやってくるしね。

 

「ぎゃああああ~~~~っっ!!」

 

「もうやめてくれ~~~っ!!」

 

「た、助けてくれ……!!」

 

 ──だから期待出来ると思ってたんだけどなぁ……と、私は目の前で拷問に苦しむ海賊達を見て嘆息した。そして拷問を行う部下達をまとめているキングに声を掛ける。

 

「ね~キング~~~? 今どれくらい仲間になったっけ~?」

 

「仲間になったのは20人程度。逆らって拷問を受けてる連中はその10倍ってところだ」

 

「思ったより骨のない海賊ばっかりだね? カイドウも言ってたよ。『こんな雑魚共がこれから新世界に行こうっていう海賊だと……ふざけんじゃねェ!!!』──って、ちょっと見どころありそうな奴殺してた」

 

「……だからあれほど酒は控えてほしいとお願いした筈なんだがな……」

 

「まあ、コーティング終わるまでは暇だし、カイドウもあれでも我慢してる方だと思うよ。普段ならもっと暴れて、79本あるウチの3分の1くらいは消し飛ばしそうだし」

 

「……ぬえさんの方から止めるよう言えねェのか?」

 

「仲間の件なら言ってもいいけど……ま、本当に優秀なら酔ってても殺さないだろうから良いんじゃない? マングローブの方は別にどうでもいいかな。んぐ、はむ……」

 

 そこらで奪ってきたビーチチェアーに背中を預け、海賊達の拷問を肴にご飯を食べながら私はキングとこの島に来てからの仲間集めについて回顧する。正直、上手くいってるとは言い難いというか、シャボンディに来てる海賊は中々我の強い奴等が多いので、首を縦に振ってくれることがあまりないのだ。

 まあそれでもボコボコにしたら直ぐに手下になると言う奴もいるが、そういう奴等は骨のない雑魚だし、カイドウも私もあまり気に入らないというか、弱い奴を重宝はしない。逆に強い奴は信念を持ってるというか中々しぶとくて1日くらいの拷問では心が折れないのだ。

 だから3日間の滞在で仲間に出来る海賊はそこまで多くないと思う。──まあ少しは有能そうな奴もいるんだけどね。ただ本当に有能かどうかはこれからの航海で見てみないと分からない。あっさり死んじゃう可能性だってあるしね。

 

「新世界用の記録指針は手に入れたし、情報も集まってきてるけど……やっぱり仲間が心許ないなぁ。どこかに優秀な仲間落ちてないかな~?」

 

「……落ちてたら苦労はしねェが……」

 

「──ウォロロロ!! おい、お前ら!! ちょっとこっちに来い!!」

 

「ん~? どうしたの、カイドウ」

 

「どうかしたのか? カイドウさん」

 

 そうやって何とも言えないやり取りを交わしてると、何故か上機嫌のカイドウがこっちに来いと船の方から大声で呼んできたので、私とキングは一旦カイドウの下へ。確か相変わらず酒盛りをしていた筈だが、と行ってみて──私はドキリと心臓を強く跳ねさせた。それは何というか、顔には出せない驚きだったのだ。そこにいた人物の顔を見て、私は白々しく首を傾げて、

 

「……ん? そこの綺麗な女の人は誰?」

 

「ウォロロロ!! 聞いて驚けぬえ!! この女が、おれ達に新世界でのシマをくれるんだとよ!!」

 

「──ウフフ♡ まあそういうことになるわね。正確には、旗と貸してもらって防衛して貰えれば、私達はアガリとして資金や物資を提供する……そういう契約よ」

 

「……へぇ~! それは良い話だね! ──で、あなたは?」

 

 私はにっこりと笑みを浮かべつつも、その相手に名を問う。白い帽子を被り、ウェーブがかった金髪のミディアムヘアー。スラリと伸びた長身とスタイルの良い身体つきを赤いドレスに身を包んで隠している美しい女性で、見れば百獣海賊団の男共、クイーンなども見惚れて目がハートマークになっていた。──だがまあそれも頷ける。確かに綺麗だ。可愛さでは私の方が上だけど。そんな彼女は、私に向かってニコリと笑いかけ、

 

「──ステューシーと言います。新世界のとある島……歓楽街の顔役を務めておりまして──」

 

 と、私やキングにも向かってその名を名乗り、美人の可愛らしい笑顔を向けてきた。……が、私は思う。いやいやいや……絶対スパイか何かじゃん!! 昔ならともかく、今のステューシーは政府の人間だし!! 

 

 

 

 

 

 ──“CP(サイファーポール)”という政府直属の諜報機関がある。

 CP1からCP8までは基本的な部署で世界中で諜報活動をする普通のスパイみたいなものだが、“CP9”になれば政府に都合の悪い者や非協力的な市民すら殺して構わないという物騒な集団となり、メンバーは海軍本部の将校も扱うあの“六式”という超人的体技を修めている。

 更に“CP0”となれば世界貴族直属の組織となり、世界最強の諜報機関。海軍を飛び越えて任務に従事することから非常に厄介な連中なのであるが──さて、今の彼女はどのポジションに位置するんだろう? 

 

「──つまり、私達百獣海賊団に島を守ってほしい……その代わりに、島をナワバリにして貰って様々な物を提供するのね」

 

「はい。新世界は海軍の影響も薄く、そこに住む人々は皆自分達で軍隊を持つか、他の海賊の庇護を受けて暮らすのが常識……なんて、あなた方の様な名を馳せる海賊ならば当然知っているとは思いますが」

 

「ん~~~、まあ分かるけどね~~~……」

 

「何か疑問がありますか? それなら幾らでも尋ねてくれれば。隔たりがあるのなら少しでも解消したいです。──これからの良き関係のためにも♡」

 

 いや……疑問というかだってスパイなんだもん……さすがに対応に困るんだよねぇ……しかもカイドウなんかは乗り気みたいだし。後クイーンとか部下達も。まったく……こんな可愛い子がいるのに美人にやられるとか駄目な部下達だ。その点、キングなどは強く睨みを効かせ、

 

「……信用ならねェな。何故おれ達にそんなことを頼む……しかもまだ新世界に辿り着いてもいない時点で。他の海賊に頼めばいいだろう」

 

 そうだそうだー! もっと言ってやれー! 私は相手のこと知ってるせいで怪しまれないように質問を吟味してる最中だから代わりに聞いてけー! そうやって心の中で応援しているとステューシーは、設けられた席に綺麗な姿勢で腰掛けたまま、やはり微笑を浮かべ、

 

「その疑問はもっともですが……何分、新世界の海賊には横暴なものも多く……金獅子海賊団やビッグマム海賊団は理不尽な代価を要求してきますし、白ひげ海賊団は違法な物も扱う私達の街をあまり良く思っていません。ロジャー海賊団はナワバリを持つことにあまり関心がなく、選択肢が少なくて困っていますの。名のある海賊団に守っていただかないと荒らされてしまいますし……そこで、悪名高い百獣海賊団に旗を貸してもらえればと思いまして」

 

「ウチも結構横暴だけどいいの? メチャクチャ暴れるよ?」

 

「──海賊ですもの。多少はそういうこともあるでしょうし、その辺りは理解しています。それに……ワイルドな男の人も好みですし♡」

 

「ウオ~~~~♡ 最高だぜ~~~~!!」

 

 ウチの部下達が荒ぶってる。まあそれは良いんだけど~~~……これは分かってないなぁ。ウチのカイドウはそっちが想像してる百倍くらいメチャクチャに暴れるよ? まあ主要な場所くらいは壊さないようにする配慮はあるけど、それ以外の場所は保証しないよ? いやほんと、ちゃんと分かってるのかなぁ……? まあ罠なら簡単な話なんだけど、なんか罠にしてはやり方がしっくり来ないというか……多分だけど、情報を集めたり暗躍するのが目的なのかな? 見たところ、カイドウや私達を倒せるほど強くはなさそうだし。かといって弱くもなさそうだし……いやほんとどうしようかなぁ? 面白いっちゃ面白いんだけどこれを受け入れていいものか。そんなことを考えてるとクイーンが、

 

「おれは賛成だぜ、ぬえさん! 新世界に入る前から拠点になるシマも手に入って最高じゃねェか!!」

 

「まー、シマが手に入るのは良いことだよねぇ、確かに」

 

 確かに新世界で活動するならナワバリは必須なんだけど、最初のシマが明らかに裏のある場所でいいものか。──まあ本拠地は後に移すから良いとしても……。

 

「……それにしても──」

 

「ん、なぁに? 言っとくけど、私もまだちょっと半信半疑で──」

 

「──巷を騒がせる“妖獣”のぬえが、本当にこんなに可愛らしい女の子だったなんて思わなかったわ♡ 手配書よりも実物の方が可愛いのね?」

 

「えっ? そ、そう? え、えへへ~~~♡ いやぁ照れるなぁ♡ 確かに良い人そうだし、別にいいかもね~♡ あ、ぬえって呼んでいいよ♡」

 

「あっさり堕ちた!!?」

 

「…………」

 

 あ、部下からのツッコミはともかく、キングが何とも言えない表情になってる。いやいや、冗談だって冗談。別にこれで信用することはないけど、単純に褒められて嬉しかっただけだから、ほんとに。……でもまあカイドウは乗り気だし、私としても面白そうだから、警戒はしつつもちょっと乗ってみて様子を見てもいいかもしれない。

 

「ウォロロロ……!! シマが手に入んのなら願ったり叶ったりだ!! お前の提案、受けてやろうじゃねェか!!」

 

「! ありがとうございます、カイドウさん♡ これで私達の街もより繁栄するわ♡」

 

「ウォロロロ!! 気にするな!! 金や物が手に入るんなら良い!! 良い女だぜまったくよ!!」

 

 ステューシーが上機嫌に笑って受け入れるカイドウに露骨──とも言い切れない対応で交渉成立を喜ぶ。う~ん、まあいっか。本当に出すもの出してくれるならそれでいいし、逆に利用も出来そうだしね。そして、もし何かあったとしても──

 

「だが──裏切ったらてめェもてめェの島の奴等も皆殺しにするぞ」

 

「! ……ええ、それは勿論。裏切ったのなら当然の報いよね?」

 

 一瞬溜めて、カイドウはステューシーを見下ろして凄まじい凶相で脅しを掛ける。並の人間じゃこれだけでビビってボロを出すような脅しだ。カイドウはやるといったらやる。仮に彼女がスパイでCP0と分かったなら、例えマリージョアに逃げようとも襲撃を掛けて殺しに行くだろう。それくらいの危うさがカイドウにはあるのだ。

 しかしステューシーもさすがと言うべきか、殆ど動揺を顔に出すことはなかった。ほんの一瞬驚いたが、直ぐに頷き、裏切ったのなら当然と言い切る。まあこれなら物騒な言葉に多少驚いただけということで済ませられる。ビビらないのもそれはそれで不自然だしね。カイドウがそれを見破れるかは分からないけど、しかし、その返答にカイドウは気が済んだのか、再び大笑いした。

 

「……ウォロロロ!! ならいい!! よし、今日は飲んでいけステューシー!! 今日はおれとお前の取引が成立した記念日だ!!」

 

「……ええ、そうね。そうさせてもらうわ」

 

 カイドウは喜び、ステューシーもその誘いに乗る──が、私としては御愁傷様って感じだ。カイドウと付き合うのは大変だって、長年付き合ってる私が1番知ってる。まあ私はそれを面白がれるけどね。ただこれはこれでホント面白くなってきた。これで彼女が……現時点ではどうか分からないが、カイドウの大嫌いな人物とも通じてるとなると、露骨に機嫌が悪くなるどころか、それこそ島が1つ消えるくらいには暴れかねないだろうし。──ということで私も、

 

「いえーい!! そうと決まったら飲も飲もー!! それじゃ飲み比べね~!」

 

「あら、ぬえもお酒が好きなのね?」

 

「あったりまえでしょ!! ほらほら、ステューシ~、私の酒を飲め~!」

 

 と、私はステューシーのグラスに酒を注いでやる。しっかし私達みたいな海賊団の中心にこの上品な美人さんは似合わないなぁ。──ま、とにかくカイドウも私も……舵取りが出来るような人物ではないということを思い知って貰おうかな。




なぜかシャボンディ諸島の話が消えたけど再投稿しました。

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