正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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新世界の声

 ──そこは、多くの船乗り……海賊達が目指す世界の後半。

 多くの海賊たちがその航路に至るため、リヴァース・マウンテンで半数が沈み、航路に至ってからも生き残って半周するまでの間に、また半数が脱落する。

 さらに中間地点である海底1万メートルの島、“魚人島“に辿り着ける者は3割程度。残りの7割は魚人島に辿り着くことすら出来ない。

 そうした熾烈なサバイバルレースを乗り越え、ようやく辿り着くことが出来る海が、“偉大なる航路(グランドライン)”の後半の海……“新世界”であった。

 

 

 

 

 

 ──“新世界”。

 

 この海は政府や海軍の影響が薄い海でもあった。

 勿論、世界政府加盟国やG-支部は存在するので無法地帯という訳でもない。国はきちんとした軍事力を備えているし、海軍の助けだって場合によっては求められる。そもそも海賊だって、何もやたらその島々を滅ぼすほど襲うことはないのだ。

 だが政府は民間人のためには動かないし、海軍もまた同じ。新世界に根付く凶悪な海賊達が幅を利かせる新世界では、海軍などただの一勢力くらいの存在感しかないのだ。

 それゆえ、海賊にとっては天国。まさに楽園と思われるが……そんなことはまったくない。

 確かに、力ある海賊にとって、新世界は天国だろう。広大なナワバリを持ち、その一帯の王のように君臨することも夢ではないのだ。

 だが新世界に辿り着いた海賊の半数は、何もかもを奪われて死ぬか、本物の“楽園”……偉大なる航路(グランドライン)の前半の海に逃げ帰っていく。

 冒険を求め、あるいは名声や力、富を求めてやってくる多くの新顔の海賊達は多いが、新世界でそれらを手にして生き残ることが出来るのはほんの一握りだ。それらのものは全て、新世界の大物海賊達が独占しており、何かを手に入れるには切り崩して奪い取るしかない。そして、その闘争の結果、何もかもを失ってしまうのだ。

 生き残るには既に新世界に名前を轟かせる大物海賊達の下につくしかない。

 たとえば、“金獅子”。彼は何十もの海賊艦隊の大親分として新世界に君臨し、世界の支配を狙っていると言われている。

 たとえば、“ビッグ・マム”。彼女は新世界で国を統治し、領海(シマ)を広げてその勢力を少しずつ拡大している。

 たとえば、“白ひげ”。彼は未だシマは少なく、規模としては前者2人に及ばずとも、圧倒的な船長の強さと盃を交わした仲間達の強さによって強大な戦力を持っており、多くの大物海賊が彼を畏怖しているとされる。

 そして中には、“ロジャー”のように、新世界に限らず世界の海を航海し、特定のシマを持たず、一船に乗り切れるだけの仲間たちと自由な冒険を繰り広げる海賊団もあるが、その強さは圧倒的で、多くの凶悪事件を起こし、大物海賊を撃破してきた。敵うとすれば“白ひげ”以外にはいないとされ、彼らもまた新世界の覇者に数えられるだろう。

 彼らを始めとする新世界の覇権争いは激しく、新参者の参入を許さない。

 だが、これだけ荒れ狂う海にまったくの隙がないかと言えばそうではなく、時には新参かつ小規模ながらも新世界の海賊として名を馳せる者もいる。

 そういった者達は台風の目とも称され、大物海賊達の目にも留まる。まさしく──今日の新聞の様に。

 

「ジハハハハ……とうとう来やがったか、()()見習い共が……!」

 

 背の高いヤシの木が見えるその新世界の夏島は、“獅子の髑髏”を掲げる大海賊の拠点でもあった。

 葉巻を咥え、腰に2本の業物を差すその男はまるで獅子のような金色の荒々しい髪を持つ、世界で知らない者がいない程の大海賊。海賊艦隊提督、“金獅子”のシキだ。

 彼は今、その新聞の記事を見て悪い笑みを浮かべる。そこにはこう書かれていた。

 

 ──百獣海賊団、新世界に大討ち入り!! 

 

 ──国1つを滅ぼすほどの脅威!! 

 

 と、どうやら新世界に入ってすぐに事件を起こしているらしい……が、シキはそれを笑う。あいつららしい、と。

 そしてその上でどうするかと考え込んでいると──慌てた足音と部下の声が響いた。

 

「親分!! 大変です親分!!」

 

「おう、そんなに慌ててどうした」

 

「それが……! 先日、新しくウチに入った連中を乗せた一船が、百獣海賊団って奴等に沈められたと報告が──」

 

「! ……ジハハ……相変わらずイカれてやがるな。ウチの旗にビビりもしねェか」

 

「は、はっ? それはどういう……」

 

「何、ちょっとした昔馴染みだ。そのうち面でも拝みに行こうと思ってる……だから今は放置してな」

 

「親分が直接ですか……わかりました」

 

 そうして金獅子のシキはあっさりと自分の船が一隻沈められたことを流す。それくらいで崩れるほど脆い勢力ではない。怒らず水に流し、こう思った。──こいつらも、いずれおれの配下に加えてやると。

 

 

 

 

 

 ──新世界、とある島。

 

「カイドウにぬえ……!! ハ~ハハハマママママ……随分と来るのが遅かったじゃないか……!!」

 

「相変わらずイカれてやがるぜあの2人は……」

 

 建設途中の巨大な城の前でお茶会をするその女海賊は、部下や子供達と共にその記事を見て愉快かつ不敵な笑みを浮かべていた。

 彼女こそ、お菓子のためなら国すら滅ぼす大海賊“ビッグ・マム”、シャーロット・リンリンその人であり、かつては記事に載る2人と同じ船に乗っていた凶悪な女傑である。

 前々から百獣海賊団は新聞を賑わせていたし、暴れていることは知っていたが、新世界で事件を起こしたのはこれが初めて。つまりとうとう新世界入りを果たしたということだ。

 そのことに、シャーロット家の長男であるペロスペローなどは露骨に顔をしかめるが、そういった反応を見せるのは彼だけではない。上の子供達は誰も彼も似たような表情を浮かべていた。子供ながらに憶えているし忘れられる筈もない。カイドウもそうだが、特にぬえは彼らがもっと小さい時に散々お世話、もとい……遊ばれていた相手でもある。

 そしてそれは、未だ未成年でありながら賞金首。シャーロット家の最高傑作として前線に出続けている彼もそうだった。

 

「っ……とうとう新世界に来るのか……」

 

「? カタクリ兄さん、どうかしたの?」

 

「……いや、なんでもない……」

 

 その少年、カタクリは頭痛でもしたかのように右手で頭を押さえ、普段はまったく動じず表情も変えないというのに、僅かに眉間に皺を寄せてそこはかとなく嫌そうだった。

 

 

 

 

 

 ──更に“新世界”。とある海域では、

 

「国が滅びたんだってよ!!」

 

「へー、とんでもねェな。船長達みたいだ」

 

「バカ! 船長や副船長の方が強いに決まってるだろ! ──そうだろ!? ギャバンさん!」

 

「ああ、カイドウとぬえの記事か……さて、こう言ってるがどう思うよ?」

 

 その船の甲板で、麦わら帽子を被った赤い髪の少年と、赤く丸い鼻を持つ少年が新聞を手に騒いでいる。そんな2人の問いに斧の手入れをしているサングラスをかけた男──スコッパー・ギャバンは近くにいるこの船の副船長と船長に話を振った。

 

「最後に会ってからもう何年も経つが……懸賞金の額から見ても、相当成長してるだろうな」

 

「ああ……! これは戦りあうのが楽しみだぜ……!! わはははは!!」

 

 新聞に挟まれていた手配書を手にしながら冷静に分析するのは“冥王”シルバーズ・レイリー。

 そしてもう1人、いずれ相見えることを呑気に楽しみにしている男が、今この海で最も自由かつ凶暴な海賊として世間から認知されている大海賊、“ゴールド・ロジャー”こと、ゴール・D・ロジャーだった。

 

 ──そして、またもう1人。その新聞の記事を見て眉をひそめている大海賊がいる。それは、

 

「──オヤジ!! こいつら……!!」

 

「ああ……ったく、あいつら、全然懲りてやがらねェ……!」

 

 白い鯨を模した船、モビー・ディック号の甲板で息子達と共に新聞を見た大海賊、“白ひげ”エドワード・ニューゲートは頭を抱える。とうとう新世界にまでやってきたと。

 新聞の裏面記事に掲載されていた世界政府加盟国の王族が多数の魚人、人魚と共に失踪した事件と合わせて、どうにもきな臭いことが多く、最近の白ひげは基本的に楽しく航海をしているが、気を揉むこともそれなりにあった。

 

 ──そして海賊達と同じく、百獣海賊団という凶悪な一味の存在を知った新世界の多くの民間人が思った。せめて自分達は同じ様なことになりませんようにと。

 

 

 

 

 

 新世界の海は過酷だ。

 火の海。雷の雨。空に浮く島。逆さまの島。理解不能な現象、気候。謎かつ凶悪な生き物など、命を奪う脅威は幾らでも存在する。

 ……だけど私達にとっては慣れたものだった。かつて何度もこの海で暴れたことがある。

 そしてその時は、相手は皆強く、いつも死にかけるくらい楽しい場所だったのだ。これこそ最強の海に、本物の海賊に相応しい場所だと。

 だが少なくとも入りたてに出会う連中は、どれも期待外れだった。

 

「た、助けてくれ……!! おれ達はあんたらに逆らう気はねェよ……!!」

 

「──フン……と言ってるが、どうする? カイドウさん」

 

 薄暗い海の上で、そんな腑抜けた言葉が木霊する。声を発したのは私達の船の甲板。そこで縛り上げて絶賛拷問している相手の海賊達であった。

 そしてウチの仲間で拷問好きの幹部──キングは私達の船長に向かって処遇をどうするのかと問いかける。

 すると私の横にいる相棒が強く睨みつけながらその海賊達の首を掴んだ。

 

「腑抜けたゴミが……てめェは先に死ね。弱ェ奴はいらねェ」

 

「っ!!? や、やべろ!! おれだちを殺しだら、金獅子の親分がだまっでねェぞ……!!」

 

「そ、そうだ……だからやめろ……! おれ達はまだ新入りとはいえ、あの海賊大艦隊の一員だぞ……!! 逆らったら──」

 

「逆らったら? 逆らったら──なんだってんだ!!! あァ!!!?」

 

「ひっ……ァ……アァ……!!」

 

 その海賊達が自分達の親分である“金獅子”のシキの名前を出して私達に制止を求める。手を出したらどうなるのか分かってるのかと。

 まあ勿論、わかってはいる。元仲間のことだ。シキは変な眉毛だけど強いし、脅威だ。今の私達では敵わないだろう。

 しかし、だからといって、こんな下っ端連中の脅しに屈する筈もなかった。私も、私の隣で海賊の首を万力のような力で締めるカイドウも、

 

「シキの野郎のことは知ってるさ……!! 上から目線のムカつく野郎だ……!!」

 

「面白おじさんだよね~。──というか、別に新入りとその船が一隻沈んだくらいで大規模な報復とか、あのシキがするとも思えないし~~~……んー、まあ、どっちみち襲っちゃった時点で取り返しつかないんだから死んでいいよ♡」

 

「っ!!? ば、ばが……やめ──」

 

「ムハハ!! 死刑執行~~~~~~♪」

 

 と、クイーンが部下達と共に縛り付けた海賊を次々に殺していく。やり方は様々だ。クイーンの作った絡繰による一風変わった処刑もあれば、キングの火炙りで死んでいく奴もいる。それを横になった状態で見ながら、私は面白くて笑った。

 

「あはは! すっごーい♪ でもあまりにも三下過ぎていつも通りだからねー。正直、戦闘の方で楽しみたかったってのが本音かなぁ。あ~むっ♡」

 

「新世界の入り口付近だとまだそれほどレベルは高くないことも多いのよ」

 

「逃げ帰る連中も多いらしいって聞くしね。──あっ、肉まん食べる?」

 

「遠慮するわ」

 

 え~、と私はさほど残念そうでもなくステューシーの膝を枕にしながら肉まんをはむはむと食べる。温かくて美味しいのになぁ。普通の豚肉だけどホクホクで旨味がすごい。何を勘違いしているのか、私の食べてる物を勧めても誰も受け取ってくれないんだよね。精々カイドウくらいだ。まあカイドウは私のことを大体分かってるから食べるものと食べないものは理解して見極められてるしね。というか、何度も言ってるけど動物系で肉食動物の能力だと消化器官とか味覚もその動物のもののいいとこ取りで強化されるから、多少身体に悪いものとか毒性のものとか食べても何ともならないんだけどね。試したから知ってる。こういう生きるための力は基本的に強化されるのが動物系の良いところだ。かなりタフネス。多少の無茶も利く。だからという訳ではないが、新世界にやってきてすぐに私とカイドウは無茶をした。それは私を見下ろすステューシーが言うように、

 

「まさか最初の島でいきなり国を滅ぼすなんてね……大丈夫なの?」

 

「へーきへーき! あれくらい大したことないから!」

 

「ああ、思ったより手応えはなかったな……暴れられたのは良かったが、つまらねェ国だったぜ……海軍支部を襲った時の方がよっぽど手応えがあった」

 

「……ふふふ。まぁ楽しそうで結構だけど、別の国からは感謝されてるわよ?」

 

「え?」

 

「あァ?」

 

 ステューシーがちょっぴり悪い笑みで──って、あんまり見えない。私の頭はステューシーの太腿に位置してるため、この目線の位置からだと陰になってるんだよなぁ……くそう、なんでこの世界の美女って皆ばいんばいんなのか……まあ見たり触れたりして楽しむ分にはいいんだけど、敗北感に襲われたりもする……いやでも私はこの方が可愛い。可愛いから別に悔しくない。悔しくない……。

 

「あの島にあったもう1つの国はあなた達が滅ぼした国と戦争中で、しかも負けるところだったのよ。だから、もう片方の国からは感謝されてるみたいね」

 

「なんだそりゃ……クソどうでもいいな」

 

「あ~、そうだったんだ……それだったらもう片方の国にも行って英雄気分でも楽しめば良かったなぁ」

 

「そうだぜ。そうすりゃおれもその国じゃスターとして人気が出てモテモテに……」

 

「──ああ、そういや豚が名産だったか。ならてめェはモテモテになるだろうな」

 

「どういう意味だキングてめェ!!」

 

 あ、またキングとクイーンが喧嘩してる。そして部下達は若干距離を取っている。まあ言い争い程度でもこの2人の喧嘩は怖いだろうし、しょうがない。

 でもそれより、今はこれからどうするかだ。

 

「ねぇステューシー。島ってあとどれくらい?」

 

「もう1日か2日くらいかしら。それほど遠くはないわ」

 

「ん~~~そっかぁ……それじゃ、今日のところはもう寝よっかなぁ。ステューシー、お風呂行こ~?」

 

「ええ。──それじゃ失礼するわね?」

 

「おう。──野郎共、宴会はお開きだ」

 

 と、カイドウのその言葉と共に恒例の宴会中に乗り込んできた敵海賊の処刑兼宴会は終わりを告げる。私とステューシーは立ち上がって船内に戻ろうとするが、するとキングがその言葉に反応し、

 

「! ぬえさん……少し……」

 

「ん? もしかしてまだ沸いてないの?」

 

「すまねェ……すぐに沸かせる」

 

「早めにね~」

 

 と、キングが私に謝って直ぐに船内に入っていく。私はとくに怒ることもなく、ステューシーを先導するがステューシーは私に向かって真顔かつ呆れ気味に、

 

「……もしかして、この船のお風呂って……」

 

「あ、わかった? 人力だよ~♪ えへへ、すごいでしょ?」

 

「──ええ、そうね」

 

 あ、何か言いたげだ。でも何も言わない辺りステューシーは大人というか、淑女だなぁ。クイーンとかだとこういうのはすぐツッコミを入れてくれるのに。まあいいんだけどね。ステューシーにはそういう役割は期待してないし。

 

 ──ってことでしばらくまって入浴。それを終えれば後は就寝だ。

 

「さ~て、寝よ寝よ~。ほら、お布団入って♪」

 

「ありがと。失礼するわ」

 

 私は自分の部屋の大きめのベッドにステューシーを招き入れる。客人だし女性だからステューシーは私と一緒に寝るようにと私が決めたし、カイドウも特に何も言うことはない。実際、男所帯のウチで、他の場所で寝かせるのはアレだからね。ということで私が特注で作らせたふかふかのベッドに招き入れる。ちなみに、私はちゃんと寝間着だし、ステューシーも寝間着として白いネグリジェに着替えていた。中々にセクシー。ということでベッドに2人で入るが、入るなりステューシーは私を見て、

 

「……ねぇ、ぬえ♡ 少し聞きたいんだけどいいかしら?」

 

「ん~~~? なぁに? いいよー」

 

 私は軽くその質問を許可する。そろそろなんか聞いてきたりするのかなぁ。仲良くなって気が緩むんじゃないかって。まあ別にある程度なら答えても構わないんだけどね。

 

「こうやって仲良くなれてとても嬉しいわ♡ けれど……もしかして、()()()()()()だったりする?」

 

「ん? ……ああ、なるほどね~♡」

 

 私は一瞬その質問の意味が分からなかったが、すぐに理解する。なるほど、そういう趣味かってそういうことか。ん~~~、なんと答えるべきかな? 別にもうそんな趣味はないんだけど、今もまったく理解出来ない訳ではないし、なんなら以前ならそれが正常だったし……あ、でもそんなこと聞いてくるってことはなんかそういう方面で突破口を開こうとしてるのかな? ──そういうことならちょっとノッてあげよう。

 

「ふふふ~♡ もしそうだって言ったらどうするの?」

 

「──それなら……もっと仲を深められると思って♡」

 

「……あはは。なるほどね~♪ それは確かに魅力的な提案♡」

 

 と、言いつつ私はいたずらっぽく笑みを浮かべて思う。──うわーお。本当にノッてきたし、そういうことなんだ。そりゃまあそうだよね。フィクションの世界ならともかく、これは現実だし、そういうことだって当然ある。まあ私達のシマにもそういうお店はあったもんね。まったく描かれないからわからないけど。なんか世界の裏側を覗いてる気分で楽しい。もうちょっとノッてもいいけど……でもなんか向こうのペースに持ってかれるのも癪だし、ちゃんと教えて驚かせつつ私のペースに戻そう。ということで、私はステューシーを抱きしめながら、

 

「──でも~~~、どっちかっていうと、私がこうやってスキンシップするのは、違う理由からなんだよねぇ♪」

 

「あら、それはどういうこと?」

 

 ステューシーは私を抱きしめ返しながら聞き返してくる。なので私は至近距離でその青い瞳を見つめながら言ってやる。

 

「こうやって、私みたいな可愛い女の子が可愛いものとか綺麗なものと戯れてたらもっと可愛いでしょ♡」

 

「……つまり、自分の可愛さアピールのためってこと?」

 

「ふふん。そういうこと~♪」

 

「ふふ、趣味が悪いのね♡」

 

「それほどでも~♡」

 

 私はそうやってステューシーにウィンクしてみせる。……まあそれだけじゃないんだけどね。こうやって私が近くで見張っとかないと、何するか分からないし念の為ってところだ。

 例えば魚人島に向かう途中でシャボンを割られたら最悪だし、船の中には盗まれたら困るものが結構沢山ある。まあそれらは正体不明の種で隠してあるんだけど、それでも何か盗られたり、何かされたりって可能性は0じゃないしね。女性である彼女がお風呂、もしくは就寝の時なんて一番監視の目が緩む時だから何かするかもだし、私がこうやって近くにいたら、例えば何か報告することだって出来ないだろう。

 極めつけは、一緒に寝て、こうやって抱きしめて寝れば、夜中でさえ何も出来ない。私は昔の経験もあって寝てる時に何か気配を察知すればすぐに起きれる。殺気や敵意は勿論だけど、不穏なことをしでかそうとするならこっちも起きる。

 おかげでステューシーはお風呂とか寝てる間も特に動けずにいる。まあ島に行ったらこうすることも出来なくなるけど、それはまあいい。別に監視の手を多くしたり、ちゃんと見てれば大丈夫だ。そもそも短絡的に行動を起こすことはないだろうけどね。でも船の上だと何かされたら致命傷になりかねないので見張るに越したことはない。様子を見る意味でも。

 そして美人女スパイさんの正体を見破りつつ甘えてる私は可愛いし恐ろしいし、おまけに抱き心地の良い枕で眠れて一石三鳥ってところだ。ふふん。私って頭良いね! まあステューシーもなんかそういう感じで突破口を開きたかったんだろうけど、仮にそういうことになっても私は平気だし、隙はない。

 ということで安心して仲良くお話出来るし、なんなら続けてからかってみてもオーケーだ。例えばこうやって──

 

「ふふふ~♡ でも~~~、ステューシーが可愛い私と一緒に寝て我慢出来ないっていうなら、考えてあげなくも──」

 

「──確かに、ぬえは可愛いものね♡ 食べちゃいたくなるくらい♡」

 

「えっ……え~~~♡ そうかなぁ♡ えへへ……♪ ま、まあ私は可愛いからそう思うのも仕方ないね! ほらほら、特別に私を可愛がる権利をあげるね♡」

 

「ありがと。それじゃ沢山可愛がってあげる♡ 可愛い可愛い♡」

 

「うっ……そ、そんな可愛い連呼で私が喜ぶと思ったら大間違いだからねっ♡ え、えへへへへ~~~~♪」

 

 ──く、くぅ! なんてこった、まさかの褒め殺し作戦だ!! まさかそういうやり方でくるなんて……!! で、でもこれくらいじゃ負けない! 胸に抱きしめられてメチャクチャ頭を撫でられて可愛いと褒めまくってくるけど、こんなんじゃ負けないんだからね!! だからもっと可愛いって言って!! 

 

 

 

 

 

 ──数時間後。

 

「ねぇねぇステューシ~~~♡ ウチの海賊団入りなよ~♡ それで私の専属キュートマネージャーにしてあげるからさ~♡ お給料も沢山あげるよ♡ 何か欲しいものとか殺したい相手とかいたら是非言ってね♡ もうステューシーは私のマブダチだからさぁ♡」

 

「え、ええ……ありがとね、可愛いぬえ(びっくりするくらいチョロい……これが弱点……と言っていいのかしら? でもまさか夜通し言わされることになるなんて……)」

 

 私は、沢山可愛がられた。いやぁ、ステューシーっていい人なんだね♡ まさかこんなに私の可愛さを分かってくれる人がこの世界にいるなんて……もうこれは親友とかマブダチとかで表せない。私の可愛さの理解者だ。百獣海賊団にも協力してくれるし! 惜しいのはCP0だってことだけど、そんなのは奪っちゃえばいいもんね♪ 本物の海賊は欲しいものは奪い取ればいいんだし♡

 朝日が差し込む船内で、私は今後の目的の1つを更新し──ん? こんな時間にかかってきた。

 

「──あ、ごめんね。ステューシー。電伝虫鳴ってるからちょっと出てくるね?」

 

「! ──あら、内緒話? そういうところも可愛いのね♡」

 

「えへへ~~♡ そうなの~~~♡ でもごめんね、大事な話かもしれないからさ♡」

 

「……そう。それならいってらっしゃい♡」

 

 私は自分の部屋にステューシーを置いて部屋を出る。うーん、悪いことしちゃったけど、さすがにスパイに情報を与えすぎるのも駄目だからね。カイドウやウチの海賊団が困っちゃう。ということで心の中でもステューシーに謝って聞こえない場所まで移動。そして電伝虫を取った。

 

「もしも~し。誰~?」

 

「──キョキョキョ……その声は、()()()()()()()()?」

 

「!! その笑い方と声は……」

 

 私は驚く。いつか来る可能性は高いと思っていたが、このタイミングで接触してくるとは思っていなかったからだ。その老婆の声と、電伝虫が模倣する、その老婆の姿は──

 

「如何にも……!! 久し振りじゃの……かつての見習い……今は立派な海賊をやっとるようで何よりじゃ……!!」

 

「……まぁね~。それで、何か用かな?」

 

「キョキョキョ……!! 勢力の拡大に苦労しているお前とカイドウに、良い話を持ってきたのさ……!!」

 

 ──私は、その元仲間である老婆……黒炭ひぐらしからの連絡と話を、すぐにカイドウと一緒に聞くことにした。




なんか今回、BBAが多――ピチューン ……んんっ、まあ今の時点でのBBAは1人だけだし、2人はずっと若いまま、ぬえちゃんに至ってはずっと少女! そんな2人がイチャイチャ! そんな感じの新世界編導入回って感じでした。
次回からはまたシマを持って色々活動します。お楽しみに

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