正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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力の正体

 デザイア島の劇場通り。戦闘が始まるとそこにいる人々はすぐにその場から逃げていった。

 だがどれだけ離れようとも、私達が戦うなら完全に危険から遠ざかることは不可能だ。ましてや、相手が強いなら。

 

「う、嘘だろ……!?」

 

「あの、カイドウ様とぬえ様が二人がかりで戦ってんのに……!!」

 

「攻撃が殆ど当たってねェのか!?」

 

「つーかいつまで戦う気なんだ!! もう半日は戦ってるぞ!?」

 

 ──眼下から聞こえる外野の声がうるさい。私は一瞬、意識をそちらにも向けてしまう。するとその瞬間、

 

「──よそに意識を割いている余裕があるのか……!?」

 

「!! ──!!?」

 

 目の前に武装色の覇気をまとった傘が迫っており、私はその動きを見聞色の覇気で読み、建物の屋根を蹴って横に逃れようとした──が、その瞬間にそれを更に読んでいた相手の長い足がこちらの腹に迫り、私はそれを受け止めるしかなくなる。

 痛みと共に吹き飛び、通りの反対側の大きな建物に突き刺さり、破壊を撒き散らす。だが、私の意識は途切れず、すぐさま体勢を立て直し、UFOを生み出して奴を襲った。

 

「“正体不明”……“義心のグリーンUFO”……!!」

 

「! まったく……謎な能力な上にタフだな──()()()……!!」

 

「ウオオオオオ!!!」

 

 私のUFOの攻撃──緑の光線に弾幕、光線の中から出てくる蛇を見て躱し、背後からの金棒の一撃──カイドウの攻撃をも読んで躱してみせる。先程よりも余裕があったのは、カイドウは私より見聞色が劣るからだろう。見聞色の覇気の使い手同士の戦いは、より高精度に鍛えられた者が有利となる。

 攻撃の意志を読み、躱し、それに対応する。奴は私達2人を相手にしてもなお、動きに対応出来るほど凄腕の見聞色の使い手だった。

 結果、攻撃は中々当たってくれない。それでも少しずつ一撃を加えてはいるが、攻撃がクリーンヒットした回数は明らかに向こうよりこちらの方が多い。

 カイドウも、攻撃を躱され、逆に覇気を纏った傘の一撃を喰らうが、倒れず相手を睨み、

 

「くそ!! うざってェ!!! 攻撃を躱しまくりやがって……!!」

 

「煩わしいのはこちらとて同じだ……これだけ攻撃を当ててるのに倒れないとは……呆れた耐久力だ。ストレスでしかない……!」

 

「死んでくれるか、部下になるならやめてあげるけど? ハァ……ふふふ♡」

 

「戯言を……」

 

「! っ……」

 

 再び飛んできた傘の攻撃に対し、私は空へ飛ぶことで攻撃を躱す。空中なら自由自在に移動が出来るこっちが有利だ。向こうも空中戦くらいなら対応してくるが、飛行に関して負けはしない。

 加えて、私は一部分だけ変型する。左手と踏み込む足だけを獣型の巨大な虎の手足に変えて──私の技名じゃないけど──

 

「“ハングリータイガー”!!!」

 

「!!」

 

 自分で生み出したUFOを足場に、強い踏み込みで突進する。獣の膂力、瞬発力を以て突撃し、虎の鋭い爪で切り裂き、あるいは殴り飛ばし、あるいはこのまま掴み取って噛み付く技だ。……余談だが、私の近接技は基本オリジナルなので、技名は思いついたものから適当に名付けている。別に私は能力の元となる存在そのものではないし、私は私。思いついた技はたとえ元のキャラになくても使う。一々拘る必要はないのだ。

 だがその攻撃は僅かに奴の腹を裂いただけで終わる。傷が浅い。というかやはり硬い。武装硬化で防御したか。

 だが地上に向かって叩き落とすことには成功した。正確には、私の相棒のところにまで、

 

「“雷鳴八卦”!!!」

 

「っ!!」

 

 私が吹き飛ばした奴を、カイドウが覇気と雷を纏わせた金棒でスイングし、舗装された道路に向かって吹き飛ばす。轟音が鳴り、道路が陥没し、近くの建物が次々と崩れ落ちる。

 

「うおおっ……!!?」

 

「ぬえ様の一撃とカイドウ様の一撃が当たった!!」

 

「死んだか!!?」

 

「やったか!!?」

 

 地上でわーきゃー言いながら戦いを見てる百獣海賊団の船員達が声をあげる。その声がお約束過ぎて私は苦笑いしてしまう。面白いがやめてほしい。そんなこと言われたら、本当にやってたとしても、やってないように感じてしまう。

 そして実際に、巨大な建物を砕いて出てきたのは、

 

「──ふん……さすがにあのロックスの部下……少しはやるようだな……」

 

「チッ……まだ生きてやがんのか……!!」

 

「私達が言えることじゃないと思うけどね!!」

 

 やはり……レッドだった。

 奴は口元の血を手の甲で拭い、しかし眉間に皺を寄せて真っ直ぐにこちらを見ている。……さすがにまだノックアウトとはいかないね。

 しかし2人がかりでこれはさすがだ。久し振りに歯応えがある。確かに、白ひげと比べると実力は落ちるが、手強い。こっちの耐久力の高さでなんとか勝負になっているという形だ。レッドの方は武装色も強いが、見聞色寄りだし、こちらを簡単には伸すことが出来ない。2対1でもあるしね。

 これは決着が付くまでまた長引きそうだ──と、そう思っていると不意にレッドは、

 

「──もういい」

 

「あァ?」

 

「へ?」

 

 そんな言葉を吐いて、私達に背を向けてしまった。呆気に取られる私とカイドウ。そしてそれを無視してレッドは戦意も消して、

 

「我のねぐらはここだけではない。お前達の様な面倒な獣の相手をするくらいなら、()()はくれてやる」

 

「あァ!!? 何言ってやがるてめェ!!!」

 

「こーらー!! 逃げるな、勝負しろー!! 殺し合えー!!」

 

「ふん……やはり獣だな。無鉄砲で傲慢……そして己の力を過信している……言っておくが、貴様ら程度ではこの海の頂点は取れぬぞ。ましてや四方八方に喧嘩を売る貴様らの様な獣は、すぐにすり潰されるのがオチだ」

 

 うわっ、なんか説教してきた。私は言う。挑発で向かってきてほしいので、敢えてバカにするような口調で、

 

「勝手に決めるなバーカ!! すり潰されません~~~!! 最強の海賊団になります~~~!!」

 

「逃げてんじゃねェ腑抜け野郎!! そう言うならまずはてめェが教えてみろ!!」

 

「今の戦いで分かった筈だがな……お前達では白ひげやロジャーはおろか、この我にすら勝てん。それこそあのロックスの船に乗っていて、奴等の力を知るならよく理解している筈だ。奴等の馬鹿げた力を……」

 

「知るか!! 誰だろうがいずれぶっ殺すに決まってんだろうが殺すぞ!!!」

 

「バーカバーカ!! 腰抜け~! 悔しかったらかかってこーい!!」

 

「なんとでも言うがよい。我にはお前達の相手をしている暇などないのだ──」

 

「あっ!!」

 

「待ちやがれ!!」

 

 とうとうこちらに目もくれず、レッドはその場から一瞬で去っていった。くっ……速くて追いつけない。う~、せっかくの強敵、もっと殺し合いたかったのに~!! 

 

「くっ……見失った……!!」

 

「──何してやがるバカ共!! てめェらもあの腰抜け野郎を探せ!!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 カイドウが怒り心頭といった様子で部下達にも命令する。部下達は一目散に街中に散ってゆくが、どうせ見つからないだろう。そもそも今私が見聞色で探してるのに見つからないのだ。これはもうさっさと島の外周部に逃げたか、少なくとも私が察知出来る範囲にはいないということなので、今から追いかけても間に合わない。逃げ足の速い奴だった。

 私は息を吐き、どうにもスッキリしない気分のまま部下達が集まる地上に降りる。そしてそこで怪我の治療を受けているキングとクイーンに声を掛けた。

 

「2人共大丈夫?」

 

「ああ……」

 

「大した怪我じゃねェが……くそっ、あの野郎……次会ったら出会い頭に病原体しこたまブチ込んでやる……!!」

 

「あ、大丈夫なんだ。それじゃ私と訓練でもしよっか♡ 今欲求不満だし~♡」

 

「あ、痛たたたた!! 急に怪我が酷くなった!! すまねェぬえさん!! 付き合ってやりたいがどうやら無理そうだ!!」

 

「頼むから今はやめてくれ」

 

 むっ、せっかく大丈夫だっていうから殴り合おうと思ったのに、クイーンは明らかな言い訳というか演技で断ってきたし、キングは単純にやめてくれと懇願してきた。あーあ、残念。これくらいじゃ体力有り余ってしょうがないんだけどなぁ……かといって、

 

「えー……じゃあステューシーは? せっかくだし私と戦ってみる?」

 

「……遠慮するわ。そもそも戦えないし、今はこの戦闘で受けた街の被害の集計と復興の指揮を取らないと……」

 

「……だよねー」

 

 ステューシーにもちょっと戦える前提の言葉を敢えて掛けて誘ってみるが、少し間をおいて躱される。戦えないって言うよね、そりゃあ。戦ったら政府の人間ってことバレるし。六式とか使うから。でも凄腕の六式使いとも戦いたいんだけどなぁ……ステューシーは顔には出さない程度に動じているけど、まあこれくらいではボロを出さないし、出されても困る。ステューシーはじっくりと協力関係を築き、奪うのだ。今バレたら殺さなきゃならなくなりそうだしね。

 しっかし、また復興かぁ……なんか私達、いつも新しい島に来たら破壊してるし、そのせいで自分達のシマは復興するのがお約束になってる。

 ……しっかし、逃げられたのはムカつくなぁ……私達が勝てなくても負けるまでやってくれないとスッキリしない。満足出来ない。こういう時に以前から試してるアレが役に立ちそうなんだけど、まだまだ不安定だし……しょうがないから島を見て回りがてら、もう少し探してみようかな。さすがにまだ島を出てはいないだろうし。私は皆に一声掛けてからレッドの捜索に向かった。

 

「どこだどこだ~? ここかな~? それともこっちかなぁ?」

 

 とりあえずまだ無事な街の、主に路地裏や薄暗い場所を中心に探していく。意外とこういうところに隠れてる可能性もあるしね。

 

 ──しかし捜索を続けて30分後。

 

「……飽きた」

 

 全然見つからない。そしてそのことが酷く退屈でつまらなくなり、私は欠伸を噛み殺した。そして溜息を吐き、頭の後ろに手を回しながら、

 

「はーあ……しょうがない。逃げられたのは癪だけど、お腹も空いたしもう帰ろ……どっかにレストランか、もしくは食材落ちてないかなー」

 

 レストランがあれば料理を食って帰るし、食材があれば帰ってから自分で作って食べる。お金は手元にないけど海賊だし、別に払わなくても問題ないし、そもそもウチのシマになるんだから問題にならない。まあ気が向いたら払ってあげてもいいけど、この島は儲かってるみたいだし──

 

「──()()()()()()()()()()

 

「!!」

 

「おおっと」

 

 ──私は突然背後に現れた相手に三叉槍を振って攻撃を仕掛ける。相手はそれを大きく下がって躱してみせた。……見つけた……! 私は思わず笑ってしまい、

 

「あはは~……女の子を背後から襲うとか趣味悪~。でも、ちゃんと出てきてくれたのは良いねぇ……!!」

 

「ふん、勘違いするな。戦いに来た訳ではない。貴様に質問があってきたのだ」

 

「……質問?」

 

 私は槍を構えて戦闘態勢を取るが、その相手──レッドフィールドは戦う意志はないと言ってこちらを真剣な表情で見ている。ん~? そういうまどろっこしいのは今は気分じゃないんだけどなぁ。今はとにかくぶっ殺したいし、戦いたい気分。だから私は構わず突撃しようとして──

 

「──先程の戦いの最中、貴様の()()()()()()()()()()()()

 

「っ!!」

 

 しかし……その言葉で私は動きを止める。

 記憶の片鱗に触れた──それはつまり、私の頭を覗いたということで、

 

「…………見たの?」

 

「いいや。見ようとはした……だが、一部……まるでお前のものではないような、不可解な記憶……それも膨大で異質……脳が理解を拒むようなものがあり、思わず読み取ることをやめてしまった」

 

「……戦闘中、私の頭を殴った時にでも見たってことかな?」

 

 そんなところだ、とレッドは首肯する──生まれつき強い見聞色の覇気……それも触れれば相手の記憶を読み取るほどに極まったものを持つレッドは、そうやって人の記憶を盗み見ることが可能である。

 それを戦闘中、私に対しても行い、読みきれなかったとのことだが──私はそのことに僅かに安堵しながら、同時に、強い怒りと殺意を覚えた。

 

「貴様は一体何者だ? 私はそれを──」

 

「──()()()()()()()

 

「何?」

 

 レッドが眉をひそめる。私自身、驚くほど冷たい声が出た。

 内心では強い感情が渦巻いている。それを自覚する。理由も分かる。

 私はそれを許すことが出来ない。ありえないのだ、絶対に──

 

「出会ったばかりの女の子の頭を覗くなんて最低ね。まあそこまで知られた訳ではないからまだ良かったけど……それでも……レッド……あなたは許せないなぁ……」

 

「……本当は全部覗いていた──と言ったらどうする?」

 

「──殺すに決まってるじゃん。私の秘密を知った人間は生かしちゃおけない……!!」

 

「っ……!! これは──」

 

 ──当然の答えだった。

 私の正体……いや、秘密を知っていいのは、本当に身近な、家族のような相手だけ。それ以外には絶対に教えない。私は正体不明なのだ。正体不明には正体不明なりのポリシーがある。レッドの私の頭の中を覗き見る行為はそれに反する。

 私の秘密の片鱗を覗いたこの男は絶対に殺す。殺気を思わず放出する。

 すると、見聞色の覇気が周囲の声が次々に消えていくのを拾った。それをレッドも感じたのだろう。見聞色がなくとも一身に受けてるので当然だ。レッドはそれを口に出す。

 

「やはり貴様も白ひげやロジャーと同じ覇王色か」

 

「倒したら仲間に引き入れようと思ってたけど……もう無理。どうせあなたは仲間になんてならないだろうし……ここで殺すわ」

 

「強い言葉だな。それが出来る力があれば格好はつくのだが」

 

「──出来ないとでも思ってるの?」

 

「!!? ──!!!」

 

 私はレッドの背後から攻撃を仕掛ける。ただし私ではない。私はレッドの視界の中にいる。背後から攻撃を仕掛けたのは、私の分身だ。

 

「──“紫鏡”」

 

「……フフ……なるほど。それが切り札か? だが、その程度なら──」

 

「……あなたに私の力をほんの少しだけ教えてあげる」

 

「──何? ……!!」

 

 私達は再び、レッドの背後から槍を振るう。それは私でも先程生み出した分身でもない。──その2つを映した新しい2つの分身だ。

 

「“紫鏡”……いえ、4人になったら“フォーオブアカインド”かしら? トランプとも関係するし、それでいいかもね?」

 

「くっ……貴様の能力は一体何なんだ……!!? 一個の能力でこれだけのことが出来るなど……!!」

 

「この海にありえないことなんてないのよ、おじさん♡ ふふふ……まあ少しはネタバラシするけど……あなた今──()()()()()()()()?」

 

 私は4人の私で囲んでそれを告げる。私が能力を発揮するのに最も重要なものを。

 

「恐怖だと……? バカを言うな。我は貴様を恐怖などしていない」

 

「そうかなぁ? 私の秘密を僅かに覗いただけのあなたは、今私が何なのか、何をしてくるのか、どんな存在なのかって想像する恐怖を覚えてるように感じるんだけど?」

 

「想像する恐怖……?」

 

「そう。私の能力は人の恐怖で生み出された獣になる能力。人間の恐怖心と想像力によって作り出される私はそれによってどんな姿にだってなり得る」

 

「そう。正体不明であるが故に、人は私達をそれぞれ違った認識で見る」

 

「そう。それこそが──私の力の源であると知らずに」

 

 私達が声を出す。私が能力で生み出したもの。確かな私の力ではあるが、この力は人の恐怖によって増幅する。

 一定範囲にある私に対する恐怖によって力を強化する。今、レッドが私を得体の知れない存在として認識、想像し、恐怖している限り、元からある私の力に上乗せする形で力がブーストされるのだ。

 

「バカな……それなら我は貴様の正体を僅かながらに触れた!! 力は衰える筈だ!!」

 

「ほんのちょっとしか見てないから()()()()気になっちゃったんでしょ? “警戒”だって恐怖の一種じゃない? まったく恐れずにいれば純粋な私自身の力と能力だけで済むけど……ふふふ、ここまで力が上がったのは初めてかも。ちょっとは秘密をバラしてみるものだね」

 

 これなら勝負にはなるだろう。まあ勝ち目がない勝負が、勝敗の行方が分からない勝負になっただけ御の字だ。盗み見たレッド以外の相手ではこんなことにはならないだろうし。

 

「はぁ……まあ本当は自分で力をつけてこれくらい出来るようになればいいんだけどね~。まだそこまでには至ってないから……ちょっとズルいけど、これで挑ませて貰おうかな?」

 

「私の秘密を知った人間を殺して、正体不明を取り戻さないといけないからね」

 

「私は正体不明の妖怪、鵺。正体不明こそが私の力の源」

 

 そして彼に告げる。もう諦めてしまった彼を葬ってやろうと、声が重なり、

 

『自分の器を知り、諦めてしまった人間よ!! 正体不明の飛行物体(だんまく)に怯えて死ね!!』

 

「っ……!! 少々面倒だな……悪いが逃げさせてもらうぞ!!」

 

 ──させるかっ!! と、私はレッドを殺すべく、再び追撃戦に移行した。

 

 

 

 

 

 ──その頃。戦いが繰り広げられたデザイア島の劇場通りでは、百獣海賊団の船員たちが生き残った船員達の手当てをしたり、捜索の結果を報告したり、忙しく動き回っていた。

 だがその場に留まって治療や炊事の準備をしている者達は多少の余裕がある。中には、雑談に興じている者もいた。それは、

 

「……なあ、カイドウ様とぬえ様ってよく喧嘩してるけど……実際、どっちの方が強いんだ?」

 

「はぁ? そりゃあ……カイドウ様だろ。ぬえ様との喧嘩はいつも勝負がつく前に終わって引き分けだが……それでもぬえ様の方が苦戦してるしな……」

 

「いや、でも実はぬえ様の方が強かったりしねェかな……って。ぬえ様の能力、よくわかんねェし」

 

「ああ……そりゃ確かによくわかんねェ。UFO出したり、黒い雲出したり、一部分だけ獣になったり……おまけに食べちまうしな……」

 

「バカやめろっ! 思い出させるな!! ウッ……飯前だってのに吐き気が……」

 

「す、すまねェ。いや、でも実際気になるな……まあカイドウ様の方が強いんだろうが……」

 

 と、そうやって雑談をしている2人の船員の背後に、大きな影が差した。それは人のもので、

 

「──何くだらねェ話してやがる」

 

「!!? か、カイドウ様!!」

 

「い、いいいや、あの、これはですね……カイドウ様の実力を疑ってる訳ではなくて……そ、そりゃカイドウ様の方がぬえ様より強いですよね!!」

 

「──あ゛?」

 

「え?」

 

 そこに現れたのはカイドウ張本人。船員2人は慌て、特に後者の男は必死に釈明をする。カイドウの方が明らかに強いと。

 しかし、カイドウはそう言った男の方を見て、明らかに怒った様子の声を出した。船員を睨みつけ、

 

「てめェ……今おれの兄妹をバカにしたか?」

 

「えっ!? あっ……い、いいいいや、そんなことはなくて……ひっ!!?」

 

 船員達の目の前でカイドウが獣型──龍の姿に変身していく。100メートルを優に超える巨大な龍は、民間人や敵だけでなく、船員達にとっても恐怖の対象だった。

 

「ふざけやがって……!!! てめェは消し炭にしてやる……!!!」

 

「や、やめ、ごめんなさ──ぎゃあああああっ!!?」

 

「!!」

 

 怒りに身を任せたカイドウが龍の姿でお得意のブレスを船員に向かって放つ──その直前、それとは別に船員が炎に包まれた。

 それはカイドウが龍化したのを見てか、もしくは先程の話を聞いてか、やってきたキングのもので、

 

「──カイドウさん。あんたにまた暴れられちゃ街がメチャクチャになっちまう。おれが拷問して殺しておくからここは抑えてくれ」

 

「おうキング……きっちりケジメつけておけよ」

 

「ああ、わかってる──おいてめェ……楽に死ねると思うなよ……!!」

 

「ぎ、ああっっ!! う゛がああァァ……だ、だずげ──」

 

 キングが先んじてその男を燃やし、拷問を始めたことでカイドウの怒りも収まる。理不尽極まりないが、それでもキングの行動はその場にいた船員や街の人を救ったものであったため、一様に胸を撫で下ろす……が、それとは別に響き渡る悲鳴にゾッとし、カイドウの聞いている前でぬえのことで迂闊な発言はしないようにと固く誓う。もっとも、古株の船員であれば誰もが知っていることではあるが。

 だがそんな恐れを抱かれているカイドウ自身は地上の船員達には目もくれず、別の方向を見た。

 

「──またぬえが暴れてやがる……!! ウォロロロ!!」

 

「え? って、カイドウさん!! どこ行くんすか!?」

 

「そこにいやがったのか……おれも交ぜろ……!!! ──“熱息(ボロブレス)”!!!」

 

「え~~~~~!!? 結局撃ったァ~~~~!!」

 

「街がァ~~~~~!!?」

 

「……はぁ……あちらも先に建て直さないとね……」

 

 クイーンとその部下達がカイドウの突然の行動に悲鳴じみたツッコミをあげる。──その一連の流れと、次々に破壊されていく島に、それを見ていたステューシーはさすがに溜息をつくしかなかった。

 

 ──そしてその直後。

 

「──あ~~~~~!!? ちょっとバカカイドウ!!! せっかく逃さないようにしてたのにあんたの酒臭い息に対処してる間に逃げられちゃったじゃない!! どうしてくれんのよ!!」

 

「あァ!!? おれが悪いってのか!!?」

 

「あんたが悪いのよ!!!」

 

「「オオオオオ!!!」」

 

「や、やめてくれェ~~~~~!!」

 

「カイドウさんにぬえさん!! このままじゃ街が消えちまう!! ──おいキング!! てめェ、空飛べるんだから行って止めてこい!!」

 

「なら運んでやるからてめェが説得しろクイーン!!! 止められるならとっくに止めてんだよバカか!!!」

 

「なんで誰も止められないの……? というか、何故自分達のシマを破壊するような真似をするのかしら、あなた達は……」

 

「「おれ達じゃねェよ!!! あの2人に言え!!!」」

 

「ああ……それはごめんなさい…………なるほど、これは前途多難ね……」

 

「あはははは!!! 戦うのたーのしー!!!」

 

「ウォロロロ!!! そうだ!!! 全部壊れちまえ!!!」

 

 ──カイドウとぬえの喧嘩はまた半日以上続き、地上ではキングとクイーンが慌てて被害を抑えるように動き、部下達と街の住人の悲鳴が響く……そんな中、ステューシーは百獣海賊団の面々に同情し、半壊する島に頭を抱えるしかなかった。




島が半壊しました。いつも通りのスタートです。レッドと因縁が出来ました。レッドは原作知識までは読み取ってません。戦闘中に殴ったついでに読み取っただけなので、ぬえの過去の記憶の断片をちょっと触れただけです。なのでかえって悪手でした。
ぬえちゃんの能力は戦う間など一時的に恐怖を集めて、その恐怖の感情が強いほど力を強化することが出来ます。でも恐怖してない相手だからといって能力が効かない訳でもありません。完全に正体がバレたら効かないかもだけど、それ以外はぬえちゃんの本来の実力のままです。能力も使えます。チートっぽいけど、今の時点だと強くなってもレッドにまだ敵わないし、カイドウ相手も微有利か互角程度なのでそんなに強くないです。補足終わり。

次回からはまた新世界での活動をスタート。シマでのシノギ()や海賊としての活動に取り引きに部下の強化とやることいっぱい。ということでお楽しみに

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