正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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死刑

 新世界に根を張る大海賊、ビッグ・マム海賊団と、ここ最近になって新世界入りし、急速に勢力を広げ始めている百獣海賊団の一戦はそこらの海賊達がやる戦いとはレベルが違う。

 

「──よーし、開戦の号砲だ!! 一発ぶちかましてやれ!!」

 

「──おい来るぞ!! こっちも撃て!!」

 

 互いに岸につけている船で大砲を撃ち合う。それは海戦でもよく見られる光景だが、主戦場はその岸側──島の方だった。

 

「“モチ突”!!!」

 

「ん~、威力はそこそこ。でも覇気の練りがいまいちかなぁ」

 

「っ……!! 一々おれの批評をするな……!!」

 

 その戦場の中心にいたのはシャーロット家の次男にして子供達の中でも最も強い完璧な男──シャーロット・カタクリ。

 だがその槍捌きはその相手に通用しなかった。必殺の一撃もあっさりと同じ形状の槍で払われる。

 槍は防がれた。普通の攻めで崩せる相手ではない。普段の余裕さは一切垣間見えず、カタクリは自分より小さい見た目の少女の様な相手に向かって、右足を振り被ると、その足を増やして攻撃を加えた。

 

「“柳モチ”!!」

 

「! やるねぇ~♡ 昔は全然使いこなせてなかったモチモチの実の能力も、そこまで鍛えたんだね!!」

 

「当然だ……!! おれは完璧な強さを手に入れる必要がある……!! 完璧に勝利するために……!!」

 

 カタクリのモチモチの実の能力は超人系(パラミシア)。餅を自在に生み出し、操り、また自分の身体すらも餅に変化させる特殊な超人系だ。

 それ故に自然(ロギア)系の様な流動する肉体を持ち、普通の物理攻撃を無効化することも出来る。

 しかし相手は覇気使い。原型を留めない肉体を持とうと、その実体を捉えられてしまうため、的確に回避しなければダメージは避けられない。

 更にこちらの攻撃もやはり通用しない。当たればどうか、と思いはしたが、全てを紙一重で避けられ、あるいは力の差を示すようにあっさりと受け止められた。

 今までにない苦戦。完璧な勝利を求める無敗の男、カタクリが汗を流して戦う姿は彼に憧れる弟、妹達にとっては衝撃だった。カタクリ兄さんは、無敵の男じゃないのかと。

 

「そ、そんなカタクリ兄さんが……!!」

 

「くそ……だったらおれも加勢して……!!」

 

「!! おい! 下の弟、妹達を下がらせろ!! ぬえが狙ってるぞ!!」

 

「おい!! 前に出るんじゃねェ!! 死──ぐあああああっ!!?」

 

 カタクリと戦う百獣海賊団副船長──“妖獣”のぬえの視線に気づいた長男、ペロスペローがそう命令し、小さい子供達のお守りをしていた少年、シャーロット家19男、モンドールは空からの攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 ぬえを知らない世代の子だが、彼もまたその恐ろしさと強さを感じ取って、下手に前に出ない方がいいと気づいていた。

 ──しかし、ぬえには意味を成さなかった。

 

「モンドール!!? くそっ……あの野郎……!!」

 

「兄貴!! こうなったらカタクリの兄貴だけに任せてられねェ……!! おれ達も加勢しよう!!」

 

「ああ、そうだ!! 一斉に掛かれば、あいつ1人くらいどうにか──」

 

「──どうにかなるって? あはは、私も随分と舐められたものね、オーブン?」

 

「っ……!!?」

 

 4男オーブンが一斉に掛かるようにと兄弟達の連携を画策するが、それはぬえの先を読まれた言葉によって威圧され、言葉を差し止めた。ぬえはいとも容易くカタクリの放った拳を蚊でも払うかのように手でいなし、10数メートル程吹き飛ばしてしまう。

 そして彼女の知る兄弟、姉妹達を見て、愛嬌たっぷりの恐ろしい笑みを向けた。

 

「小さい時のことを忘れちゃったのかな~? ──それなら、ちゃんと思い出させてあげないとね~~~♡」

 

「ヒッ……!!?」

 

「っ、お、おい!! 怖がるな!! そうやって恐がるのは奴の思う壺だ!!」

 

「で、でもよペロス兄……!!」

 

 ペロスペローが自分自身のトラウマも抑えつけながら、兄弟達に心を強く持つように言う。

 しかし、ぬえはそういった彼らの頑張りを嘲笑うかのように、空に幾つものUFOを生み出し、それを彼らに向かって突撃させた。

 

「忘れたなら思い出させてあげる!! ──“正体不明”……“恐怖の虹色UFO襲来”!!!」

 

「!!!」

 

「うわぁ~~~!!? ゆ、UFOだァ~~~~!!!」

 

「しかも虹色……!! 下がれ!! 弾幕が降ってくるぞ!!!」

 

 空に浮かぶのは光り輝く虹色のUFO。

 赤なのか青なのか緑なのか。正体の分からない不安定でどっちつかずの色のUFOは、ビッグ・マム海賊団を文字通り、UFOの突撃と弾幕の嵐によって恐怖のどんぞこに叩き落とす。

 カタクリがそのUFOの特性に気づいて、兵達に下がるように告げ、自身は空のUFOを少しでも少なくしようと攻撃を放つ。──UFOの数が少なくなれば、それだけ弾幕も少なくなり、回避が容易になり、被害も減らせる。

 しかし……それを黙って見ているぬえではない。UFOで攻撃している間も、彼女は自由なのだ。

 

「UFOの相手をしてもいいけど……私を放置しても駄目だよ~?」

 

「!!」

 

 カタクリはその瞬間、見聞色でぬえの攻撃を読み取り、顔を青褪めさせる。すぐに手を伸ばして兄弟達を吹き飛ばした。その瞬間、

 

「“スピア・ザ”~~~~~」

 

 ぬえは空中から槍を構え、地上の兵達に狙いを定めた。力を込めて、槍を投擲する。

 

「──“グングニル”!!!」

 

「!!!」

 

 ──覇気とぬえの全力を込めただけの槍の投擲は、大気を貫き、衝撃を放ち、そして……島に亀裂を入れて破壊を撒き散らした。

 

 

 

 

 

「んー……ちょっとやりすぎたかな?」

 

 大地を砕いた槍の一撃。借り物の技名を自分の物にしつつ放ったその槍を地上に降りて回収しつつ、思ったより人が死んでないことに驚く。

 さすがはカタクリと言うべきか。攻撃を読んで味方を守った。未熟な見聞色にしてはよくやってる。私の攻撃も、本気じゃないにしろきちんと受け止めていたしね。

 

「な、なんて破壊力だ……!!」

 

「あ、あいつ……やっぱ前より強くなってる……!!」

 

「かなりキツいわ……!!」

 

 子供達もちゃんと生き残っていた。とはいえ、UFOの攻撃もあるし、かなり辛そう。見どころありそうなのは……まだ小さいながらもビスケットの盾を使って必死に防御して逃げ回っているクラッカーとかかな。あの歳にしてはやる方だろう。まあただのビスケットの盾くらい、あっさり砕いちゃうんだけどね。うーん……弱い時の能力って可哀想になるなぁ……哀れんでしまう。

 ……でも鍛えればどんな能力も弱くはない。そう──彼みたいに、

 

「──()()()()()()。しかも後ろからだなんて、さすがカタクリ~!」

 

「っ!!!」

 

 私は見聞色でカタクリの背後からの奇襲を読んで躱す。そして続き様にラッシュを掛けてくるが、これくらいなら目を瞑ってでも躱せる。

 

「同じ見聞色でも、より精度の高い極まった使い手には敵わない──これじゃ完璧には程遠いね?」

 

「黙れ……!! おれは情けない姿を見せる訳にはいかねェ……!! おれはお前を倒す……!!」

 

「……ま、目標が高いのは良いことだけどね。でもまだまだ私の相手には相応しくないかなぁ……ってことで、じゃあね~~~♡」

 

「!! 待て、逃げるな……!!」

 

 私は別の相手をしようとカタクリを叩き落とし、そのまま空へと浮かび上がる。カタクリはすぐに私を追いかけようと槍を向けるが……それはこちらの頼もしい味方が阻止してくれた。鋼の合わさる音が鳴り響き、対峙するその相手は、

 

「!!! ──お前……そこをどけ!!」

 

「──あァ……!!? 誰に命令してやがるお前……!!!」

 

 黒尽くめの、カタクリの倍はある巨漢の男──キングだ。

 彼はその刀を既に抜き放ち、カタクリの槍を受け止めていた。──まあ私対全員じゃないから当然だ。これは百獣海賊団とビッグ・マム海賊団の戦い。船から降りて島に上陸した連中が戦いに参加し始めるし、キングなどは空を飛んでさっさとやってくる。

 まあキングなら大丈夫だろうと、私は声を掛けた。

 

「キング~~~!! そっちは任せたからね~~~!!」

 

「ああ……こんな奴等、おれ1人でも十分だ……!!」

 

「随分と甘く見積もってくれるな……!!」

 

 そのままキングの刀とカタクリの槍の技の応酬が始まる。う~ん。見たところ、さすがにキングの方が強いかな。ただ、見聞色に関してはカタクリの方が上っぽい。一合目のキングのパワーと武装色の強さを感じ取ったのか、カタクリは直ぐに相手の攻撃に関しては躱すか受け流す方にシフトし始めた。その対応力はさすがだが、フィジカルの強さに押されているし、キングとて技がない訳ではない。

 だがキングの背後から他の者も攻撃を放とうとしていた。

 

「カタクリ!! こいつはおれが……! ──熱風拳(ヒート・デナッシ)”!!」

 

「!! 待て、オーブン!!」

 

 オーブンがその手を高熱化──ネツネツの実の能力で熱くした拳をキングに打ち込む。カタクリはそれに何かを読み取って制止の言葉を放ったが、それは正しい。

 キングはその拳を武装色であっさりと受け止めた。そして、熱に関しては、

 

「──そんなチンケな熱がおれに効くとでも思ってるのか……!!? 死ね……!!!」

 

「何っ……ぐああっ!!?」

 

「オーブン……!!」

 

「オーブンの兄貴!?」

 

「なんだあいつ……炎に、翼……!?」

 

 キングはオーブンの顔面を右手で鷲掴みにし、そのまま地面に向かって叩きつけた。向こうの子供達が驚愕しているが、こちらからすれば当然だ。キングに炎の攻撃は通用しない。このままじゃオーブンが殺されると思ったのか、カタクリがそれを拳で止めに入る。キングはそちらも武装色で受け止め、

 

「フン……そんなに弟とやらが心配か……!? 安心しろ、お前もちゃんと灰にして葬ってやる……!!」

 

「黙れ……!! よくもオーブンを……!! お前はおれが始末する……!!」

 

 相手を挑発し、キングとカタクリの戦いにも熱が入る。おーおー、中々熱くて見応えがある。優勢はキングだけどちょっと読めない勝敗なだけに面白そうなカードだった。

 だがキングとカタクリの戦いだけではない。殺し合いはそこらで起こっている。

 

「きゃあーーー!!?」

 

「兄さん!!」

 

「チッ……戦えねェ奴等は下がってろ!! “魔人(マジ)”──」

 

 3男ダイフクが自分の腹を擦り、真っ黒の魔人を召喚する。ホヤホヤの実のランプ人間。ランプの魔人を召喚することの出来るダイフクの魔人が、その手に持った矛でこちらのUFOを破壊しようとする。──だがそれに割って入ったのは、歌って踊れるこちらのムードメーカーだ。

 

「──エキサ~~~~イト!!!」

 

「っ!!? ぐおおっ!?」

 

「な、なにあのデブ!! ダイフクの魔人を吹き飛ばした!?」

 

 あ、長女コンポートが突然現れたこちらのデブに驚いてる。でもそっちもデブじゃん……ってツッコんだ方がいいのかな? ──ああ、いや、心の中で皆ツッコんでるみたい。長女だし、気を使ったのかな? しかしこっちのデブはノリノリのご様子で、

 

「ムハハ!! さあおれのエキサイトなショータイムの始まりだぜ~~~~♫ 覚悟しなビッグ・マム海賊団!!」

 

『FUNK!!』

 

 クイーンが部下達と共に戦いに参加する。その巨体とパワーで相手の兵を吹き飛ばし、その手に持った絡繰武器で相手を苦しめていた。

 

「ビッグ・マムの子供達に~~~おれの“疫災(エキサイト)弾”を撃ち込んでやる!! ハハハ、自分のガキが病気で苦しみ死ぬ様を見せつけてやるぜ!!!」

 

「はっ!! ──疫災弾放て!!」

 

「っ、お逃げを──ぐあああっ!!?」

 

「!! くっ……なんだこれは、毒か……!?」

 

 クイーンが部下に指示を出して疫災弾を発射する。ビッグ・マム海賊団の兵達が次々に撃たれ、病気となってその場で悶え苦しむ。うーん、何気にこの量産兵器はエグいし役に立つ。あっちでめっちゃ燃えて火の海を作ってるキングも敵からしたらかなり地獄だが、量産可能でクイーン本人がその場にいなくても放てるのは中々にヤバい。どうやら子供達には当たってないみたいだけどね。ダイフクは魔人でガードしていた。

 ──うん、大体こっちが有利にも思えるが、ビッグ・マム海賊団はさすが4強と呼ばれるだけあって層は厚い。というか能力者がかなり多い。しかも大体が超人系で、特殊な力を使ってこちらの兵を苦しめてもいる。まあ向こうは小さい子供達は下がらせてるみたいで、これでも戦場に出てる能力者は少ないっぽい。──ウチとは大違いだった。

 

「ふふふ、子供達は出さないんだねぇ? でもこっちは……出し惜しみなんてしないからね♡ ──行きなさい!!」

 

『──ギャオオオオオ!!!』

 

「!!? なんだあの影……!!」

 

「獣か……!!?」

 

 私が指示を出すと、幾つかの影がその雄叫びと共に戦場に出ていく。──さあ驚け。まだまだ数は少ないが、何年も掛けて集めた……動物(ゾオン)系集団だ。

 その中でも、先頭に立つのは、ただの動物ではない。その姿を、ビッグ・マム海賊団は驚愕の表情で声に出す。それは、

 

「あれはまさか……恐竜!!?」

 

「バカな……恐竜が今の時代にいるはずが……!!」

 

「っ……バカかお前ら!! 悪魔の実の能力に決まってるだろう!! あれも人間だ!! 恐れず迎え撃て!!」

 

「──あらら、さすがに驚いてるけど、あんまり動じない子もいるね。──ほら、あなた達!! もっと気合い入れて怖がらせなさい!!」

 

「おお……!! 全員噛み殺してやる……!!」

 

「ヒヒヒ……死にたくねェ奴は逃げ出しな!!」

 

「ギャハハ!! おれ達の力、見せつけてやろうぜ!!」

 

『オオオオ~~~~!!!』

 

 先頭に立つ二名の恐竜の能力者に、続けて他の10名程度の様々な動物系能力者が続く。彼らは皆、百獣海賊団の上位戦闘員という肩書で平船員よりは地位の高い幹部としている部下達。

 手に入れた悪魔の実を食べさせたり、あるいは既に能力者だった者をスカウトしたりして戦力に加えた者達だ。……しかし、獣状態では分からないだろうが、彼らは皆とっても若い。まだ10代の少年もいるし、中には10歳以下の子供だっている。

 しかし能力者だ。戦力になるならウチは年齢なんて関係なく迎え入れるし戦力として数え、戦場に出す。そして未だ見習いと言える年齢の子でさえ、それを望んでいるのだ。肉食獣の悪魔の実の影響で凶暴性も増してるし……だったら、出さない手はないよね? 

 まあ彼らを出そうが出すまいが、戦力としてはこっちが有利なんだけどね。何しろこっちには──私とカイドウがいる。

 

「消し炭になれ……!!!」

 

「!! マズい!! 避けろ!!!」

 

「──“熱息(ボロブレス)”!!!」

 

 空に浮かぶ巨大な龍であるカイドウは地上を熱線で焼き尽くす。一撃で船が無くなり、ただでさえキツいであろう地上の戦況が、大きくこちら側に傾く。

 カイドウ1人抑えきれず、私も抑えきれない。そうなれば当然、勝つのはこちらなのだが──おおっ!? 

 

「──っと! 誰かと思えば……シュトロイゼンじゃん! また懐かしいねぇ?」

 

「……随分力をあげたな……ぬえ……!! あの頃からは考えられん……!!」

 

 小柄な爺さんが空に浮かぶこちらにむかって斬撃を放ってきたので、私はそれを躱す──が、その斬撃に当たった弾幕やUFOが何かの食材になって機能を停止する。──ビッグ・マム海賊団総料理長、“美食騎士”シュトロイゼンのククククの実の能力だ。あらゆるものを食材に変えてしまう能力で、中々に厄介。

 というかそもそも、シュトロイゼンが結構強いんだよねぇ。伊達にロックス海賊団で料理長をやってただけではないし、剣士としての技量も中々だ。──とはいえ、力関係は既に逆転してるようだ。

 

「私を止められるかなぁ~~~? ふふふ♡」

 

「時間さえ稼げばこちらの勝利だ……!! 止めてやる……!!」

 

「……まあ来たら来たで相手するだけだけど……それまで戦力を減らしておくに越したことはないのよね!! ──“弾幕キメラ”!!」

 

「っ……!!!」

 

 私は特殊な動きをする弾幕を放ち、シュトロイゼンを仕留めるべく動く。シュトロイゼンはその手に持ったサーベルで弾幕を斬って、食材に変化させることで凌いでいるが……さて、それがいつまで続くか。UFOだってまだ生きてるのだ。

 

「さーて、下剋上開始~♡」

 

 私はかつての仲間に弾幕の雨を降らせ、槍を振るった。

 

 

 

 

 

 その戦場はまるで地獄の様な火の海だった。

 空には巨大な龍とUFOの群れ。地上は燃え盛り、様々な能力と砲弾が激しく行き交う。

 数で大きく勝るビッグ・マム海賊団だが、百獣海賊団の主力、想定以上に力をつけていた凶悪な海賊達に苦戦を強いられていた。

 船長であるシャーロット・リンリンがやってくるまでに、ビッグ・マム海賊団は耐え抜かなければならない。そもそも、ビッグ・マムがやってくれば勝利は確実だとビッグ・マム海賊団の誰もが思っているが、それでも戦いがすぐ終わる訳ではない。出来る限り戦力を減らしておきたい。

 そんな彼らの中、最も頼りになる男もまた、強大な敵と激しい戦いを繰り広げていた。

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

「随分と息が上がってるみてェだな……スタミナ切れでもう戦えねェんなら……さっさとくたばれ!!」

 

 炎の熱気が充満する戦場で、カタクリは百獣海賊団の主力──“火災”のキングとの一騎打ちを行っていた。

 キングの炎を纏った上段からの振り下ろしを槍で受け止める。力では敵わず押し負けるが、しかしカタクリもただやられるだけではない。能力の応用と見聞色の覇気で相手の攻撃を読んで躱し、一撃を与えることも出来る。拳に覇気を纏い、身体を変化させ、

 

「誰が戦えねェと言った……!!」

 

「っ!!」

 

 キングの腹にカタクリの拳が突き刺さる。僅かにキングが地に足つけたままの状態で後退、押されるが、しかし明らかなクリーンヒットも、キングの圧倒的な耐久力と武装色の覇気によって受け止められ、反撃の拳を放つ。だがそれはカタクリに躱され、

 

「軽いパンチだ……その程度の武装色がおれに効くとでも思ったか……!! 餅野郎……!!」

 

「見え見えのパンチだ……その程度の見聞色で攻撃が当たると思ったのか……!! 脳味噌まで遅れているな、恐竜人間……!!」

 

「良い度胸だ……焼き餅にしてやる!!!」

 

「やれるものならやってみろ……!!!」

 

 キングの斬撃の連続をカタクリが槍と身体の変形で躱し、時折一撃を貰い、しかしカタクリも反撃でキングに着実にダメージを与えていく。

 体力を削り、しかし精度を高めていく死闘に、周囲の者達はそれを遠巻きに眺め、別の者と戦うことしか出来なかった。

 

「キング様が人獣形態で暴れてるぞ……!! 何なんだあの相手……!!?」

 

「カタクリの兄貴が倒せねェ相手……!! どんな化け物だありゃあ……!!?」

 

 手助けは出来ない。そんな余裕はどちらにもない。

 百獣海賊団が有利ではあるが、かといって敵の、特にビッグ・マムの子供達の厄介な能力は雑兵を食い止めるのに有効な能力が多く、中々突破を許さないものだった。

 だがそんな戦いが始まってしばらく、とうとう均衡が崩れて、

 

「ぐっ……!!?」

 

「料理長!?」

 

「マズい……ぬえの奴に……!!」

 

 ビッグ・マム海賊団の総料理長であり、腕利きの実力者でもあるシュトロイゼンが弾幕に貫かれ、地に背中をつけてしまう。

 それを為したのはUFOに腰掛ける少女であり、

 

「はーい、下剋上成功~♪ 思ったより呆気ないけど、もうお歳なのかな~? ふふふ♡」

 

「!! やべェ、あのままじゃ死ぬぞ!!」

 

「くっ……“キャンディウォール“!!!」

 

 ぬえが三叉槍を煌めかせ、飛びかかるようにシュトロイゼンにとどめを刺そうとする。そのシュトロイゼンを守ろうと、ペロスペローが巨大な飴の壁を作り出した。鉄にも匹敵しようという硬度を持つ飴の壁だが、それを見てもぬえは余裕の笑みを崩さない。槍を一振りし、それをいとも容易く破壊する。

 

「なっ……!!?」

 

「ペロペロの実のキャンディ人間……悪くない能力だよね~~~甘くて美味しそうだし♡」

 

「っ……この化け物め……!!」

 

「ふふふ、褒め言葉をありがとねペロス~♪ それじゃさっさと──」

 

「──“クラッシュビスケット”!!」

 

 と、今度はぬえの背後からビスケットの塊が押し寄せてくる。だがぬえはそれにも全く動じず、その能力を見てペロスペローの方が焦りを見せる程だった。

 

「駄目だクラッカー!! 逃げろ!!」

 

「もう遅いよー!! あはは、全然成長してないねぇ、泣き虫クラッカー!!」

 

「──っ、ぎゃああ~~~っ!!?」

 

 ぬえの槍がビスケットを簡単に貫き、その奥にいたクラッカーを傷つける。右胸を軽く抉られ、クラッカーは地面にもんどりを打って絶叫する。その様をぬえは砕け散ったビスケットの破片をつかみ取りながら楽しそうに見下ろし、

 

「頑張っても勝てないもんは勝てないんだよ、クラッカ~? 実力がないとね~? あ~むっ……んー、ビスケットの味だけは一人前だけどね~♡」

 

「ち、ちくしょ~~~痛ェ~~~~~!!!」

 

「……!! クラッカーのビスケットまで……!!」

 

 ビスビスの実のビスケット人間、クラッカーはまだまだ未熟だが、それでも彼が戦闘用に生み出すビスケットの硬さは兄弟達の中でも定評がある。濡らせば脆くなるが、濡らすことなく、しかも普通に噛み砕いて食べているのは開いた口が塞がらない。どんな歯と顎の力をしているのか。

 頼みの綱のカタクリはキングに手一杯。シュトロイゼンは戦闘不能で、もうぬえを抑えられる戦力はいない。

 その上、空にはUFOと、巨大な龍となっているカイドウがおり、

 

「そろそろガキ共も消しちまうか……!! どいてろぬえ!!」

 

「ん~~~、しょうがないね!! リンリンがあまりにも遅いのが悪いんだし!!」

 

「!! ──くそっ……!!」

 

 カイドウが再びブレスを吐いてビッグ・マム海賊団を消し炭にしようとする。巨大な熱のエネルギーが口の中で収束し、地上に向かって放たれる。防げる人間はいない。

 

「間に合わねェ……!!」

 

「ここまでか……!!?」

 

 カタクリやペロスペローも何も出来ず、カイドウの一撃が放たれるのをただ見ていることしか出来ない。

 ──だがそんな時だ。ぬえやカタクリはその気配を感じ取り、それぞれ違った意味で瞠目した。

 カイドウの“熱息”を止められる者はビッグ・マム海賊団にはいない……ただ、()()()()()()

 

「──カイド~~~~ウ!!!」

 

「!!! ──来やがったな、リンリン……!!」

 

 カイドウの“熱息”を突如として割って入った影が受け止め、逸らしてみせる。雷雲に乗り、太陽を従え、剣を振るうその女海賊は、子供達が待ち望んでいた恐怖の存在。この場においては、救世主とも言える存在だった。

 

『──ママ!!!』

 

「ハ~ハハハマママママ……よくも、おれの可愛い可愛い子供達を可愛がってくれたねェ、カイドウ……ぬえ……!!! たっぷりとお礼をしてやるよォ!!!」

 

 ──ビッグ・マム海賊団船長、“ビッグ・マム”シャーロット・リンリン。懸賞金24億8800万ベリー。

 

 新世界の4強に数えられる大海賊であり、お菓子のために国すら滅ぼしてしまう怪物が到着し、ビッグ・マム海賊団は沸き立つ。

 

「これでウチの勝利だ……!!」

 

「やっちまえ、ママ!!」

 

「おれ達も続くぞ!!」

 

 やられかけていた彼らの士気が再び復活し、気勢を取り戻す。

 反対に百獣海賊団はその化け物を目の当たりにして気圧されかけた。

 だが、それは配下だけだった。百獣海賊団のトップ2は全く恐れもせずに武器を構え、

 

「これで勝っただなんて思ってんじゃねェぞ……!!?」

 

「そうよ!! 元からリンリンに喧嘩を売りに来たんだからね、私達は!!」

 

「!!!」

 

 人型に戻ったカイドウが金棒を振り上げ、リンリンに向かって振り下ろす。ぬえも同じ様に得物を構え、UFOの標的をリンリンに変えた。

 その落ちることのない戦意にリンリンは僅かに驚いたが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、自分の得物である特別なホーミーズ。“ナポレオン“に覇気を纏わせ受け止める。そうして起きるのは、大気を震わせるほどの王の素質の激突だ。

 

「っ……覇王色の激突だ……!!」

 

「あの戦いに近づくな!! 巻き込まれるぞ!!」

 

「ウッ……なんて覇気だ……!!」

 

 黒い雷にも似た衝撃波が戦場を駆け抜ける。覇王色の覇気の持ち主がこの場に、今判明しているだけでも3人。それらのぶつかり合いは凄まじいエネルギーを発し、大気や、果ては天を打つ。

 その拮抗……いや、二人がかりとはいえ僅かでも拮抗せしめたその成長振りをリンリンは認め、しかしそれでもまだまだ格下だと嘲笑う。強い覇気を込めて不敵な笑みで見下ろすように、

 

「マママ……そうかい!! だったら今度は海賊として、死ぬ覚悟をしてきなァ!!!」

 

「死ぬのはてめェだ、リンリン……!!!」

 

「というか、死ぬ覚悟なら毎回してるってのよ!!!」

 

 そして怪物達の戦いが幕を開け、ビッグ・マム海賊団と百獣海賊団の戦争は更に激しさを増した。

 

 

 

 

 

「あと一歩だ!! 押し潰せ~~~!!!」

 

「なんとか耐えろ!! もう少しだ!!!」

 

『オオオオ!!!』

 

 ──戦いの激化は、その周囲の天候にも表れていた。

 

 嵐と落雷が連続し、その下で海賊達の雄叫びが木霊する。

 だがその趨勢は確実にどちらかに傾いていた。それは、トップ同士の実力の差によって。

 

「このババアが……さっさとくたばれ……!!!」

 

「ハ~ハハハ!! この死に損ないがァ~~~!! おれに勝てると思ってんじゃないよォ!!!」

 

「っ……まだ、まだ……!!!」

 

 戦いは丸一日続き、そこでようやく両軍に疲弊の色が見え始めた。

 だが本来、丸一日戦った程度では疲れることはない私とカイドウは、強大な“ビッグ・マム”という敵を前に、明らかに体力を削られ、傷や汚れが目立つようになっていた。

 無論、ビッグ・マムも無傷ではないし、体力は削れている。しかし──戦いに途中参加したことが災いし、それほど体力は削れていない。

 元から参加していたビッグ・マムの子供達は既に多くが戦線離脱しているが、遅れてやってきたビッグ・マム海賊団の援軍によって、百獣海賊団は次々に数を減らしていった。動物系の能力者を中心に、未だ戦い続けている者達もいるが、それでも崩れるのは時間の問題である。

 これを覆せるとすれば、トップを、ビッグ・マムを打ち倒すしかない。

 だがどうやっても崩せない。死線によって既に限界を突破し、新たな壁を乗り越えた私とカイドウだが、乗り越えてなおビッグ・マムはその先にいた。

 

「そろそろ……ちょっとは削れなさいよ!!」

 

「マママママ……このおれとここまで戦りあえるだけでも大したものさ……!! だが、まだまだ足りないねェ~~~!!! 実力不足って奴さ!!!」

 

「まだ勝ってもねェのに……勝ち誇ってんじゃねェよ!!!」

 

 何度目かになる武装色の覇気を纏った得物の激突。両者の得物自体は触れてないが、それは大きく纏わせた覇気によるもの。武装色の覇気の発展型。内部破壊すら可能にする覇気を体外に纏わせる技術によるものだ。

 当然、とっくに私とカイドウはそれに至っているが、ここに来て、覇気は更に覚醒し始めていた。そう──覇気を能力に纏わせることだって、

 

「“正体不明”……!!」

 

 私はUFOを生み出し、それに覇気を纏わせ武装硬化を行い、黒く変色させるその新たな技を放った。

 

「──“殺意のブラックUFO襲来”!!!」

 

「!! ──黒いUFO……覇気か!!」

 

 リンリンが不敵に、しかし確かに驚く。そう、武装色の覇気を纏わせたUFOの群れ。その突撃は鉄をも砕き、弾幕はさらなる破壊力をもたらす。

 そして何より簡単には壊れない。耐久力は普通のUFOの比ではない硬さだ。大砲くらいじゃびくともしないし、生半可な攻撃じゃ壊れることも墜落することもない。

 だが、

 

「ハ~ハハママママ……くらえよ……“エルバフの槍”……!!」

 

 リンリンが剣を構え、覇気を込める──ヤバい、来る……!! 

 

「──“威国”!!!」

 

「!!!」

 

 剣から放たれる衝撃が宙を走り抜け、そこにある全ての物を貫く。ブラックUFOが何機か破壊されながらも、私はそれを何とか躱した。

 

「どいてろぬえ!!! ウオオオ──!!!」

 

 だがカイドウは受け止める気満々で──実際にそれを受け止めた。

 しかしその威力はカイドウのパワーと覇気でも受け止めきれず、

 

「マママ!! 吹っ飛びな、カイドウ!!!」

 

「ぐ、おおお……!!!」

 

「カイドウ!!?」

 

 カイドウがその一撃で民家や岩石、突き出た大地なども貫通して吹き飛ぶ。

 死ぬことはなく、未だ意識はあるが、それでも今のはかなり効いただろう。マズい。カイドウが吹き飛ばされたこともそうだが、戦場では勝敗が決しようとしていた。

 

「諦めろ!! 百獣海賊団!! お前達の負けだ!!」

 

「新世界の洗礼を受けさせてやる!!」

 

「っ……ああ、もう……!! これじゃあ海賊団としてはほぼ負けじゃん!!」

 

 戦える者がかなり少ない。キングやクイーンや、能力者などのタフな者達は残っているが、既に戦うというより耐えているような状態だ。

 それに私とカイドウもそろそろヤバい。このままじゃまた全滅だ。

 何とかしなければ……と、そう思った私の前に、

 

「お前もくらいなァ~~~!!!」

 

「!! くっ……!!」

 

 リンリンが剣を構え、今にも振り下ろす。しかもプロメテウスまで纏わせてるし、本気だ。

 受け止めるのは無理。直撃だけは避けなければと、私は身を捩って回避に専念する。

 

「──ママ!!!」

 

「あァ!!? なんだい!!?」

 

 ──そんな時だ。リンリンの部下か息子か、誰かの声で攻撃が止まったのは。

 

「──ママ、()()()()()()()()!!」

 

「何だって!!?」

 

 その報告にリンリンが驚き眉を立て、戦場にどよめきが走る。誰もが沖合を見て、そしてそれを見た。

 

「海軍の艦隊だ……!!」

 

「なっ、こんな時に……!!」

 

「マズいぞ!! 今はあれだけの艦隊とやりあえるだけの状況じゃ……!!」

 

「……!! ふざけやがって……!!」

 

 さすがのビッグ・マム海賊団も、これだけ激しい戦いの後で海軍の艦隊を相手にしたくはない。リンリンがいるため、勝ち負けは分からないが、それでも多数の犠牲が出る筈だ。

 タイミングとしては最良であり最悪。私達も危ない。このままここに残って戦う選択肢は賢くないだろう。

 

「ママ!! 早く撤退しよう!! このままじゃおれ達も……!!」

 

「っ~~~~!!! ──とどめは刺しきれないが……クソ……!! 許さねェぞ海軍……覚えてろよ……!!!」

 

 リンリンも、普段ならともかく、子供達や部下の状態を見て忌々しそうに歯噛みしながらこちらに背を向けて去っていく。リンリンがそうやって撤退を姿勢を見せれば、直ぐに他の部下達も戦場から脱していき、

 

「ハァ……ハァ……くっ……撤退させて……貰うぞ……!!」

 

「粘りやがって……!! てめェはいつか殺すぞ、覚えとけ……!!」

 

 カタクリとキングの戦いも痛み分け──どうやらキングが判定勝ちくらいの状態で、どちらも状況を察してどうにか戦意を収める。

 カタクリなどは一瞬、こちらを見ていたが、直ぐに視線を切って船へと走っていった。

 そして気づけばクイーンが部下達をまとめており、

 

「生きてる奴だけ運んで船に乗れ!! 島を出るぞ!! 今から海軍と戦争なんざしてられねェ!! 急げ!!」

 

「は、はっ!! クイーン様!!」

 

「よし!! ──ぬえさん!! カイドウさん!! 早く逃げちまおう!!」

 

「……はぁ……しょうがない。さすがに逃げた方が──」

 

 と、私が溜息と共に逃げる気持ちを固めようとしたところで、吹き飛ばされたカイドウが戻ってくると、沖合の海軍の艦隊を見て、

 

「──良いところだったってのにふざけやがって……!!! ぶっ殺してやる……!!!」

 

「って、カイドウ!!」

 

「か、カイドウ様!!?」

 

 カイドウが龍に変化し、空に昇ると、そのまま艦隊に向かって突撃していった。あまりにも突然過ぎる行動に私も止められない。部下達も驚愕する。慌てたクイーンが焦った様子で、

 

「ど、どうすんだぬえさん!! またカイドウさんが……!!」

 

「あーもう!! こうなったらやけくそよ!! あんた達は先に逃げてなさい!! ちょっと暴れて、あのバカとっ捕まえてくるから!!」

 

「って、ぬえさんまで~~~!!?」

 

「さすがに無謀過ぎますって!!!」

 

 うるさい。もうこうなったらリンリンに負けた腹いせに、カイドウと一緒に海軍の艦隊を沈めて憂さ晴らし、もとい、少しでも収穫してやる。体力は削れてるが、私とカイドウも成長した。あんな艦隊如きに負ける筈が──

 

 ──数時間後。

 

「──百獣海賊団船長、“百獣”のカイドウ!! 同じく百獣海賊団副船長、“妖獣”のぬえ!! この二名を多くの罪状により“死刑”にする!!!」

 

 ──私達は2人で軍艦を6隻程沈めたが、結局は捕まり、巨大監獄船に捕らえられ、とんでもない凶悪犯だからとその場で死刑を言い渡されて即座に執行された。ギロチンの刃がカイドウと私の首に落ちてくる。──あー、もう!! 次は勝つし捕まらないんだからね!!




あーあ、死刑にされちゃった。もうこれで終わりかー(棒)
ということでVSビッグ・マム海賊団は敗北。多くの船員を失いつつも、次回は帰還してまた頑張ります。

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