正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
その日の朝刊はそれを見た全ての人を、にわかにもざわつかせた。
その日の新聞の一面、見出しにはこう書かれていた。
──百獣海賊団、ビッグ・マム海賊団に敗北!!
──“百獣”のカイドウ、“妖獣”のぬえ、捕まるもまたもや脱走!!
それは新世界で起きたビッグ・マム海賊団と百獣海賊団の戦争と、その結末について書かれた記事であった。
名のある海賊同士の戦いはそれだけでニュースになる。特に新世界の4強と呼ばれる大海賊、ビッグ・マム海賊団と、凶悪な事件で世間を度々騒がせる百獣海賊団の戦いともなれば、一面記事になるのも当然だ。
そしてその記事にはこう書かれていた。──ビッグ・マム海賊団のナワバリで勃発した両海賊団の戦争は、丸一日の長期戦の末に、ビッグ・マム海賊団の勝利。
そして偶然にも現れた海軍の艦隊によって百獣海賊団の船長、“百獣”のカイドウと副船長、“妖獣”のぬえは捕らえられ、厳正かつ公平な裁判の結果、死刑を言い渡され、同日の内に執行された。
──しかし、死刑は失敗。都合4度の死刑を両者に言い渡し、執行するもその全てが失敗に終わり、果ては大暴れの末に巨大監獄船を沈め、脱獄したという。
このニュースに当然、民衆は愚痴を募らせた。
「死刑執行に4回も失敗……? 何やってんだ海軍は……」
「おまけに脱獄だと……? しっかりしてくれよ……」
「何度逃げられれば気が済むんだ……!」
凶悪犯の度重なる処刑失敗に脱獄に、民衆は不安を感じる。
だが不安だけではない。
このニュースに、最も不満を募らせるものがいた。それは、
「余計なことをして……!! 先走って手を出した挙げ句逃げられるなんて、どれだけ役立たずなのかしら……!!」
──新世界、“デザイア島”。
件の百獣海賊団のナワバリ、本拠地でもあるこの島の顔役、“歓楽街の女王”ことステューシーは、自分の屋敷の自室で新聞を持つ手を震わせていた。
それは普段、彼女が滅多に見せることのない苛立ち、怒りの感情だった。
彼女には裏社会の帝王の1人という表の顔の他に、裏の顔を持つ──“CP0”に所属する諜報員。政府の人間という顔だ。
世界政府、及びにCP0総監の命令の下、ステューシーは百獣海賊団と繋がりを持ち、情報を流すことを主とした任務を行っていた。
ゆえに百獣海賊団のことは政府の人間の中で誰よりも知っている。彼らと付き合い始めてもうそれなりの月日が経つ。
彼らの凶悪さ、異常性、性格、どんなことを好むか等、様々な情報を頭の中にインプットし、政府にとって有益な情報は秘密裏に流していた。
……正直、普段の任務よりもかなりハードな仕事ではあったが、ステューシーはプロとして今の所完璧にやり遂げている。最近は彼らの催す宴くらいなら楽しめるくらいの余裕はあった。……もしかしたらそれは余裕とは違うのかもしれないが。
ともあれ、ステューシーの仕事は順調だった。百獣海賊団がビッグ・マム海賊団のナワバリを荒らすことも事前に掴んでおり、当然情報を上にあげていた。
だがこれを利用し、海兵等を動かすのは早急過ぎる上、上手くいく保証はなく、加えて自分の素性がバレる可能性があると報告書には記した筈だ。
そしてそんなことを言わなくとも、自分の上官ならそれを理解していると思っていた──が、それは間違いだった。
「彼らを甘く見たのね……!! まったく……あれほど書いたのに……!!」
そう、ステューシーは百獣海賊団の脅威を正確に報告した筈だ。
船長のカイドウ、副船長のぬえや幹部連中も含め、甘く見ていい相手ではない。勢力としてはビッグ・マムや金獅子に及ばないが、下手に手を出せば少なくない犠牲が出ることになる。
だが彼らは放置し、あるいは情報を逆に与えれば、大海賊相手でもそれなりの損害を与えうる高い可能性があり、同士討ちを狙うには的確な当て馬でもあると。
市民への被害は甚大だが、それに目を瞑れば海賊を減らすという目的には適している。しばらく泳がせた方がよい。もし叩くなら、万全を期さなければならないだろう。
……それは共通の認識だと思っていたが、違った。政府は百獣海賊団を、未だ軽く見ていた。
軍艦を数隻派遣すれば、問題なく捕らえられると。──バカな。確かに捕らえること自体は成功するだろうが、あの化け物2人はそこらの将校程度なら難なく突破して逃げられる。
だからもし叩くならばバスターコール。もしくは海軍大将の派遣が確実だと進言した。勿論、1つの意見、彼らを知る者の意見としてだ。
CP0は高い権限を持ってはいるが、海兵や軍艦の派遣などはまた別の話だし、そもそも天竜人の意見に異を唱えることなどありえない。自分達は、謂わば彼らの犬のようなものなのだ。忠実な盾であり下僕でしかない。
だが五老星を筆頭に、政府の高官は普通の天竜人と違って無能ではないし、理解してくれていると思ったのだが、そうではなかったのだ。他の諜報員も然り。認識が甘い。甘すぎる。ここまで認識が乖離しているとは思わなかった。ムカつく。一度、自分と役目を代わってみればいい。あの地獄の様な訓練を受けたり、酔った勢いで街を破壊した挙げ句命の危機に晒されれば直ぐに認識を改めるだろう。だからもっと給料上げろ。休暇を寄越せ──そう言いたい気分だった。
「……はぁ……現実逃避してもしかたないわね……」
溜息をついて、苛立ちを何とか収める。この苛立ちを持ち込む訳にはいかない。
なにせもう少しでこの島に百獣海賊団の面々が帰ってくる。電伝虫で連絡があったのだ。
だから一応、あくまで一応だが、何か聞かれた時の言い訳でも考えておく。──いや、ボロは出していないし、もうそこそこに関係の構築は出来ているが、1番の仲良しとも言える相手に、1番怪しまれているような気がしてならないのだ。
「──ただいま、ステューシー♪」
「! あら、ぬえ。おかえり。もう帰ってたの?」
「うん、ちょっと先にお風呂でも入ろうと思って、船停める前に飛んできた感じ~」
──そんなことを思ってみれば、その世間を賑わせている張本人のご登場だ。
百獣海賊団副船長、“妖獣”のぬえ。懸賞金8億8010万ベリー。今回の事件でまた懸賞金の上がったこの怪物が、1番の仲良しでありながら、1番の不確定要素である人物だ。
見た目は可愛らしい少女で、性格も少女らしい……まあ、良くも悪くもだ。善悪の概念というか、倫理観がおかしい感じはあるが、その一方で常識を持ち合わせてはいるような、だが敢えてそれを逸脱するような、しかし何かチョロい部分がある……とにかく、情報を集めてなお、得体の知れなさが損なわれない正体不明の少女だ。こんな少女だからと甘く見ると痛い目を見る。動物系幻獣種の能力者だが、その能力には謎が多い。身体能力もあのカイドウに迫る程だ。
「ステューシー、一緒に入ろー」
「ええ、今用意するわ」
手を引かれ、一緒に入浴。これも別に珍しいことではない。友人関係なのだから食事、入浴、就寝辺りは何度も一緒してるし、個人的に街をお出かけすることもある。……まあお出かけは何かの仕事のついでだったりするが。それはともかく、腕を取られるとなにかの気まぐれに引き千切られたりしないだろうかと、そんな想像が時折脳裏に浮かぶ。ぬえなら……「あ、小腹空いちゃった♡ 指しゃぶっていい?」──とか言って指を食べちゃうことだってありえる。そのまんまの意味で。いや、さすがに友人や仲間にそんなことはしないだろうとは思っているけど、突拍子もないことを言い出すのはよくあることなので何が起きても動じないようにしたい。正直、この任務に従事し始めてからかなり心が強くなったと思う。
「……あ、そういえばステューシー。聞きたいことがあるんだけどいい?」
「? ええ、いいけど何かしら?」
そう、昔と比べてもポーカーフェイスが増した。もう生半可なことでは動じることはない。何を聞かれても──
「──もしかして私のこと、
…………ど、動じはしない!! 絶対に!!
私は帰ってきて早々、ステューシーの可愛い反応を楽しんでいた。私が何気なく小首を傾げる彼女の顔を見上げながらそう尋ねると、ステューシーは常人では分からない程度に眉をピクリと動かし、
「……何のこと?」
と、上手くとぼけてみせた。う~ん、このなんとも言えないビクビクっぷりが見聞色で伝わってきてたまらない。航海終わりのこの恐怖感情が身に染みるね♡
だけどあんまり虐めるのも可哀想だしね。私はちょっと溜めた後にそれを告げる。服を脱ぎ捨てながら、
「──私が寝る前に、こっそり胸周りのマッサージをしてること」
「……ああ、そのこと?」
あ、あからさまに安心したね。そういうところも中々可愛い。これだから弄りがいがある。ステューシーは心からの笑みを取り戻して告げる。浴槽のお湯を確かめながら、
「言ってないわよ」
「え~ほんと~? なんか部下が噂してたからどっかから漏れたのかな~って思ったんだけど……まあステューシーが秘密を漏らす訳ないもんね!! 疑ってごめんね!!」
「ふふ、気にしてないから大丈夫♡ ……それより、今回の航海は大変だったみたいね? 新聞にも載ってたわよ」
「ん~? まあ確かにリンリンは強敵だったなぁ。次やるときまでにもっと強くなっとかないとね~♪」
私は浴室でシャワーの栓を開いてお湯を浴びながら言う。ステューシーからその話題を出してきたが、まあ出さない方が不自然だからね。新聞にも載ってるし、裏社会の人間がその情報を仕入れてない筈もない。だから特におかしくないんだけど……スパイだって分かってるとその魂胆というか、狙いが見え見えだから楽しいのだ。──ま、今は特にツッコむこともしないけどね。
「……それだけ? 捕まって処刑されかけたんでしょ?」
「あー、そうそう! ちょっと聞いてよ! あいつらさー、全然なってなくてさ~」
「なってない? どういうこと?」
と、ステューシーが私の後ろで泡立てしながら純粋に疑問を口にしてきたので、私は髪を洗って貰ってる間に話してあげる。処刑を失敗したときの話を簡潔に。
──3日程前のことだった。私とカイドウは海軍に捕まり、巨大監獄船で死刑を言い渡され、ギロチン刑に処された。しかし、
『──な、何故だ!!? 何故刃の方が砕ける!?』
『切れ味が悪くなってたのか……!?』
『い、いえ!! 触れれば斬れるほどの切れ味です!!』
『それじゃあ一体何があったというのだ!?』
『お、おそらく……この2人の肌が硬すぎるものと……!!』
ギロチンの刃が、私達の首とぶつかって折れた。たったそれだけのことに驚愕し、慌てふためく裁判長に看守、処刑執行人や現場に居合わせた海兵達。
それらを見て、私とカイドウは鼻白む。私は軽く頬を膨らませ不満を示すように、
『あー、ひどーい! こんな美少女の柔肌を硬いだなんて! そっちのギロチンが脆すぎるんでしょ!!』
『そうだぜ……!! こんなチンケな刃でおれが死ぬとでも思ってんのかァ!!?』
『っ……!! な、なら首を吊れ!! 刑は首吊り刑に変更だ!!』
『は、はっ!!』
私とカイドウが文句を言うと、裁判官はビビリまくっていたが、何とか威厳を保って刑の変更を命令する。
──そしてすぐに海兵や看守達が動き、刑は首吊りに変更される。私達の首には鎖が巻きつけられ、高台に乗せられた。
『よし!! それでは死刑執行!!』
『はっ!!』
その合図によって今度は私達は首を吊られる。しかし直ぐに、
『なっ……鎖が千切れた!!?』
『どんな首してやがんだ……!!?』
『首吊り程度でこのおれを殺そうってのか……!!? 殺せる訳ねェだろうが……!!』
『そうよ!! こんなのちょっと楽しいだけじゃない!! ほら、私なんてブランコ状態よ!! もしくは首根っこを掴まれる猫みたいな感じ!! どうせやるならもっとちゃんとやって!! どうせ効かないけどムードってものがあるでしょ!!』
『な、何を言ってるんだこいつらは……!!?』
『え、ええい!! 狂人の戯言になど耳を貸すな!! 首吊りが駄目なら串刺しだ!! 槍を持て!!』
『は、ははっ!!』
私達が二度目の失敗に文句を言うと、今度はまた地上に降ろされ、執行人が槍を持って私達の前に立つ。執行人はとても弱そうだ。具体的に言うと、私達が加減に加減を重ねて殴っても死にそうなくらい。こんなひょろっとした覇気の欠片もない執行人を使うとか、本気で殺す気あるんだろうか。もっと最低でも5メートルはあって、天を割れるくらいの化け物を連れてこないと。さすがに白ひげに死刑執行されたら死ぬ自信がある。多分。まあカイドウ辺りはそれでも耐える可能性もあるけど、まあ何度もやれば死ぬと思う、さすがに。明らかにわかりきってるんだけどなぁ……と呆れた視線を彼らに向けつつ、一応大人しくは串刺しの刑を受けてみる。だがやはり、
『っ!!? こ、今度は槍が……!!?』
『あ、ありえん……!! どんな肉体だ……!! 海楼石で弱まってる筈だろう!!?』
『そ、その筈ですが……!!』
『弱ェ……弱すぎて欠伸が出るぜ……!! 所詮死刑なんてこんなもんだってのか……!!?』
『むー、槍の使い方がなってないなぁ……せっかくだし教えてあげよっか? ほら、もうちょっと腰を落としてみて。それで身体の軸を──』
『こ、こんな感じですか?』
『あ、そうそう! ちょっとは良くなった! ほら、やれば出来るじゃない!!』
『あ、あはは、それほどでも……』
『死刑囚と談笑するな馬鹿者ォ!!!』
『す、すみません!! つい……』
『くそっ……いいから次だ!!』
『次はもうちょっとマシなのでお願いね~』
『黙れ!!』
キレキレの裁判官の指示で、今度はしばらく待つことに。
ややあって現れたのは、鉄釜の中で煮え滾る赤い液体。これは……!!
『おお……もしかしてこれ……!!』
『ははは!! 気づいたか!? ──そう!! これはかの海底の大監獄、インペルダウンのLEVEL4、“焦熱地獄”を模した血の池!! これで貴様達を熱し、地獄に叩き落とし……!!』
『わぁーい!! お風呂だー!! 入ろ入ろー♪』
『ウォロロロ……気が利くじゃねェか。それに中々の湯加減だ……一時間も入ってたらのぼせそうだな』
『って、自分から入ったァ~~~!!?』
『しかも平然としてるぞ!!?』
『熱くねェのか……!!?』
私とカイドウは揃って100度は優に超えるであろうお風呂へ入浴。若干力が抜けるけど気持ちいい。まあちょっぴり熱いは熱いけどこれくらいなら全然問題ない。
『ほら、パシャパシャ~♪』
『うぎゃあっ!!? 熱ゥ!!』
『お、おいやめろ!! 風呂みてェにはしゃぐな!!』
『しっかしつまらねェな……そろそろ逃げるか、ぬえ』
『あ、逃げる? オッケー♪ それじゃあ──えーい!!』
『ぐああああ~~~~っ!!?』
『っ!!? 奴等、鉄釜を……!!』
『海楼石で力は弱まってる筈なのに、どんな力してんだ!!?』
私とカイドウはしばらく入浴を楽しんだ後に、そこから出るとその鉄釜を持ち上げて適当に周囲にぶっかけ、そして投げる。周りの人達はオーバーに熱い熱いと熱がって倒れるが、やっぱり大したことない。私は倒れた執行人から適当に槍を奪うと、そこらに転がった看守や海兵らを1人1人串刺しの刑にしていった。
『えいっ♡ えいっ♡ ほらほら、串刺しの刑のお手本を見せてあげるね~!』
『今度はおれ達が死刑を執行する番だ……!! ウォロロロ……!!!』
『なっ……!!? だ、誰か奴等を止めろ!!! 撃って構わん!! 殺せ!!』
『それが撃ってるんですが……き、効いてません!! ──ぐあああっ!!』
『そ、そんなバカな……!!』
『本当に人間なのか……!!?』
『か、怪物だ……!!』
私が槍でチクチクと殺してる間に、カイドウもまた1人ずつ殴殺していく。まあなんというか、恐れてくれるのはいいんだけど、そんなことする暇があればもうちょっと気合い入れて戦えばいいのに。生きるか死ぬかの瀬戸際なんだからさ。だから死んじゃうんだよ。誰のせいでもない。弱い自分のせいだ。それをこいつらはわかってない。弱い人間はいつ殺されたっておかしくないってのにさ。
『それじゃ海楼石の鍵でも探そっかな。それまで沈めないでよね、カイドウ』
『ああ、わかってる!! 全部壊しちまえばいい……!!!』
『わかってないじゃん!!! まだ沈めるなっての!!』
──そうして、私達は海楼石の鍵を解いて、自分達の得物を回収すると、監獄船を沈めて自分達の船に戻って仲間たちと合流し、それからなんやかんやで島へと戻ってきた。
「──おしまい! こんな感じであっさり戻ってきた感じでさ~。呆気ないよね、処刑って」
「……随分と破天荒な脱獄なのね」
「脱獄には慣れてるから大したことないんだけどね。でも死刑執行なんてさすがにされたことないからどうなんだろって思ったけど、やっぱり効かなかったし、感想としては楽しいのは周りの反応くらいかなー。まだ拷問の方が楽しめるから私はそっちの方が好き~♡ ──あ、ステューシーはどっちが好き?」
「私は……する方ならどっちでも。される方はごめんね」
「へぇ~! じゃあ私もするの好きだから今度一緒にしようね! まあでもステューシーはやられる方も似合いそうだよね♡」
「……やらないでよ?」
「え? やると思ったの? やだなぁ、友達にそんなことする訳ないじゃん! スパイだったり裏切ってたりしたらわかんないけど、そんな訳ないもんね!」
「──あら、怖い。精々期待を裏切らないように努力するわ」
そう笑顔で言ってあげると、背中から感じるステューシーの鼓動は……おお、凄い。耐えてる。これはあれかな? “生命帰還”とやらで抑えてるのかな? でもちょっぴり恐怖の感情を感じる。ふふふ、バレバレなのに隠してて可愛い~♡ バレたら拷問の末に殺されちゃうって怖くなっちゃったかな~? ふふふ……あ、そうだ。これとは別に言っておくことがあったんだった。
「そういえば話は変わるけどさ。ステューシーはウチに入らないの?」
「もう、またその話? 何度も言うけど、私は海賊に向いてないわ。こうやって陸の光を浴びてる方が性に合ってるもの」
「え~、向いてると思うけどなぁ。しかも入ってくれたら即幹部待遇だし……それにすっごい良い物もあげるよ?」
「……すっごい良い物?」
あ、食いついてきた。ま、そりゃそうか。ステューシーはしばらく付き合って分かったけど、なんだかんだお金とか地位とか俗っぽいものも意外と好きだもんね。後、結構サディスト。たまに私達の宴会に付き合って、余興の拷問とかに参加するステューシーはそれはそれで魅力がある。普通に楽しんじゃってるしね。うん、やっぱり向いてると思うなぁ。戦力としても、その立場としても有益だし、やっぱ本格的に抱え込みにいかないとね。──ということで、私はそのすっごい良い物を言ってあげた。
「ふふふ……とっても珍しい──
「! 悪魔の実……!? それも珍しいっていうと……
「ん~、もっと珍しいかなぁ~♪ そ・れ・に♡ かなり良い能力なんだよ~?」
「……どんな能力なの?」
おおっと? 更に食いついてきたぞ? んー、興味はあるっぽいなぁ。とはいえ、情報だけ手に入れて流すか奪うか。まあそれはさせないとしても、口だけ入ると言っておいて悪魔の実だけ貰う? まあそういうのもありえるかな。
──まあそんな甘いこと、どれもさせるつもりなんてないけどね。あげてもいいのは本当だけど、私はいたずらっぽく目を細めながら口の両端を吊り上げて笑う。
「にひひ~、教えな~い♡ この先は有料で~す♡」
「……ふふ、さすが“妖獣”さんは意地悪ね。でもそれじゃ考えることも出来ないわよ?」
「ダメ~! 教えない~♪ ヒントだけ~♪」
「結局教えるのね……」
「いやほんとヒントだけ。まあ……美貌を保てる能力かな?」
「……美貌を、保てる……?」
「ふふふ……これ以上はダメ! 百獣海賊団の最高機密で~す! 教えて欲しかったらウチに入れ~!」
「……そうね。考えとくわ」
ステューシーはもうこれ以上は聞き出せないと思ったのか、あっさりと話を打ち切った。だがこれは……中々に興味を持ってはいるみたい……かな? 断定は出来ないけど、少なからず欲しいとは思ってる筈だ。いらない筈ないもんね、女性としてもそうだけど、ステューシーみたいなタイプなら、そういう悪魔の実は政府に献上するより、自分で食べたい筈だ。もしかしたら結構好感触かもしれないし、後はメリットを提示しつつ、不信感を煽れば完璧だね。
「──あ、それともう1つ伝えとくことが」
「今度は何? 毎回ぬえは驚かせてくれるけど、さすがに今日はもう驚かないわよ?」
「あ、そう? じゃあ簡潔に言うね」
と、ステューシーが驚かないというので、驚きそうな言い方でそれを言ってあげた。
「ここに戻ってくるつい1、2時間程前に“天上金”を輸送する船を襲って資金回収してきたんだけど、その罪を別の国に被せたから多分国が2つくらい滅びるし、適当に暗躍して武器とか売って儲けたいと思うんだ~♪ ──ってことで、
「…………え?」
今度こそ、ステューシーが固まった。ふふふ……さーて、また部下もかなり減っちゃったし、船も修理しなきゃだし、お金も稼がないとってことで、ステューシーにも働いて貰わないとね!!
ステューシー虐めの回でした。これは災害入り待ったなし……あ、胃薬置いときますね
次回はまた時間が経ちつつ、シノギだったり、色々と。年数的には30年前ってところかな? お楽しみに
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