正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
ということで本編どうぞ
海賊同士の決闘、戦い、喧嘩、戦争は──常に、生き残りを賭けた戦いである。
故に一度剣を抜き、引き金に手を掛ければ、容赦のない本気の殺し合いが始まる。
大砲を撃ち合い、接舷し、直接矛を交え合う。
だが海賊同士での戦いは……そのような常識で縛られるようなものではないのだ。
「グララララ……!」
「! なんだ!? あいつ、何をしてやがる……!?」
こちら側の船に乗る白い付け髭の大男が不意に、眼の前の空を殴った。
一体何を、と驚くのは知らなければ当然。普通の人間ならば空気を殴ったところで何も起こりはしない。
だが──
「!!? 大気にヒビ!?」
「! おい馬鹿!! 避けろお前ら!!」
「へ……、ッ!!?」
敵の船員の注意虚しく、白ひげが殴った大気の前方にいた複数の敵が、突如として衝撃を受けて身体をくの字に曲げ、武器や鎧を粉々にして、白目を剥きながら後方へ吹き飛ぶ。
白ひげを知る者、そして知らない者もその現象を見て誰もが理解する──“悪魔の実”の力だと。
「っ……早く接舷しろ!! このままじゃ一方的に攻撃されるぞ!!」
「!」
「!? くっ、また来るぞ!! 避けろ!!」
「つっても攻撃が何処から来るか……!?」
再び白ひげが大気を殴ってヒビをいれれば、敵の船から、うぎゃああああ、という複数の悲鳴、吹き飛ぶ人影がやはり複数。
「グララララ……! 気をつけろよヒヨッコ共……!! おれァ今、虫の居所が悪ィんだ……!!」
白ひげは、ニィ、と不敵な笑みを浮かべて拳や薙刀を振るい、振動や衝撃波で敵を倒していく。先程まで機嫌は良くなかったようだし、今も仲間を見て時折引き攣った笑みを浮かべ、同時に額に青筋も見える。可哀想。戦闘は好きだが、味方の所為でイラッとしてしまう複雑な感情を浮かべているのだろう。
そんな白ひげが先程から起こす不思議な力の正体は……
“振動”のエネルギーを自在に操り、あらゆるものを揺り動かす──“振動人間”だ。
その能力によって大気を震わせ、あるいは揺らし、敵を威力絶大な衝撃波で破壊し、吹き飛ばす。
白ひげのその力は、未だ接舷していない状態でも敵を倒していき、敵船の内1つは、白ひげの手によって騒然としていた。
「! 撃て撃てェ!! 数はこっちが上だ!! とにかくあらゆる方向から撃ち続けろ!!」
しかし敵船は複数。白ひげが船を1つめちゃくちゃにしたとしても、敵はまだまだ余力がある。
だがそれはこちらも同じ。強者は白ひげ1人ではないのだ。
「──ハ~ハハマママママ……!!」
「っ!? あの女、海上を進んでくるぞ!!」
「乗っているのは……雲!!?」
敵船の1つに高速で近づく美女。顔のある不思議な雲に乗って近づく彼女に、敵は気づいた。
雲の上で笑う彼女──シャーロット・リンリンは、その雲と、傍らの小さな太陽の形をした顔のある炎と話している。
「
「バカ! ゼウス! こっちに決まってるだろ!」
「ママママ……そうだよゼウス。お前はおれを乗せる役目があるだろ? 攻撃するのはプロメテウスの方さ……ハ~ハハハマママママ……!! 準備はいいかい!!?」
「「ハーイ、ママ!!」」
雲をゼウス。炎をプロメテウスと呼び、リンリンは凶悪な笑みを向けて右手にプロメテウスを掴む。
すると敵船にまでとうとう近寄り、
「てめェ!! リンリン!! 1人でこんなとこまで……! くたばりやがれ!!」
「ハハハ! 馬鹿だね! 死ぬのはお前らさ……!!! 」
と、リンリンを知っている敵とのやり取りの後、右手の炎を船の甲板に向かって振り下ろし、
「──“
「ギャアアアアアアアア!!?」
甲板にプロメテウスが──広範囲の炎が、敵の船ごと船員達を焼き尽くす。
全滅ではない。が、一度火がついた船は早く消火しなければならない。
そしてリンリンが乗り込んだということは……敵に消火をする余裕はない。
「ぐあっ!! てめェ~~~……!! くそ……ぶっ殺してやる!!」
「ハ~ハハハマママママ!! おれを殺す? 出来もしねェことをほざくんじゃないよォ!!!」
リンリンは腰の剣を抜き、そして傍らにゼウスとプロメテウスを伴って戦闘を始める。
彼女の扱うその強大な能力──それも悪魔の実。超人系……ソルソルの実。
魂を操る力であり、相手の寿命……魂を奪ったり、魂を無機物や動植物に入れて人格を与えることも出来る。
そうして出来た存在は“ホーミーズ”と呼ばれ、あのゼウスやプロメテウスの様に、リンリンの命令に従い、戦闘などにも使うことが出来る。
自身の魂を分けて作った“雷雲ゼウス”に“太陽プロメテウス”。彼らの様な特別で強力なホーミーズを操るが故に、彼女は“天候を操る女”としても、恐れられていた。
ここまで2人とも、あらゆる超能力を扱える超人系悪魔の実の能力者だが、強力な能力者はまだ他にもいる。
「うあああああああああああ!? 何だ!?」
「船が浮いて……!!?」
それはまた別の敵の船。
彼らが騒いでいる理由は単純……船が、海面から離れて浮き始めているからである。
「っ……この能力は……!! 金獅子か!!」
「ジハハハハ……!! 正解だ。おれも有名になっちまったようで困るぜ!」
1人の敵海賊が空を見上げ、そこにいた黄金の髪の海賊──“金獅子”のシキを見て睨む。
彼は“空飛ぶ海賊”として知られている。その異名がついた理由はやはり、その彼の能力に因るものだ。
「悪魔の実超人系、フワフワの実だ。ジハハ……沈める前に教えといてやるよ。これですっきりしただろ?」
「っ!! クソ野郎……!!」
空中に何十メートルも浮いた船が、今度は横向きになって遂には逆さまになり、海に落下していく。
そう、敵の海賊が言ったように、これがシキのフワフワの実の能力。
自身と自身に触れた物を自由自在に浮かばせる“浮遊人間”。
その能力によって彼は空を飛び、また自分の乗り込む船を浮かせたり、今のように敵の船を浮かせてから能力を解除し、海に落としたりする。
海戦をするにあたってこれほど凶悪な能力はないかもしれない。事実、そんなことをされては敵はシキと戦うことすら出来なかった。
「あいつらばっかりにやらせてたまるかァ!! おれも乗り込むぞ!!」
「おれもだ!! へっへっへ、全員ぶっ殺してやらァ!!」
「っ!! 気をつけろ! 能力者が乗り込んでくるぞ!!」
そして、能力者は彼ら3人だけではない。
また数名、能力や何らかの手段によって敵船に乗り込める者が我先にと敵船に飛び移っていく。
加えて、乗り移れない能力者や船員らも、その能力や大砲などで敵を攻撃し、また敵の砲撃などを撃ち落としていく。
だが敵も馬鹿ではない。こちらの攻撃になんとか対処しながら、遂に接舷することに成功する。
……だが成功と言っていいかは微妙なところだ。
「よし! これで敵を直接──へぶっ!!?」
こちらの船に乗り込もうとした敵船員が即座に殴り飛ばされる。
それを行ったのは、敵を殺り合いたくてしょうがなかったであろう、遠距離攻撃手段を持たないロックス海賊団の船員達だった。
「ウヘヘ……!! ようやく敵を直接ぶった斬れるぜェ!!」
「オラオラ! 死にたくねェ奴から殺してやらァ!!」
「ウォロロロロ!! 最高の戦争の始まりだァ!!」
「ヒャッハー! 敵も味方も皆殺しだぜ!!」
……いや、味方は殺したら駄目でしょ……後、この殺り合いたくてしょうがない連中に見習いのカイドウが交じっているけど、別に全然違和感ないから困る。馴染み過ぎてるんだよなぁ。
──まあ、そういう訳でロックス海賊団、海賊見習いの私も、ヤバすぎる味方と一緒に海戦に参加していた。いやほんと、こいつらが味方で良かった。敵だとしたらゾッとする。
何がヤバいって、こうやって接舷して乱戦し始めるとうちはとても酷いことになるのだ。周囲で起きてるような感じで、
「!? おいてめェ!! おれごと攻撃してんじゃねェよ!!」
「あァ!? 知らねェよ! 避けれなかった方が悪い! なんなら一緒に死んじまえ!!」
「死ねェ!!!」
「ぐあっ!?」
──と、まあ、うちの海賊団は味方が巻き添えを喰らうこととか殆ど考えないような奴らばっかりなので、敵を攻撃してはいるものの、普通に味方にも被害が出たりする……というかカイドウも気づいているのかいないのか、間違えて味方を金棒で殴っていた。
しかしそれでもなお、戦闘は常にこちらが有利で、敵をどんどん蹴散らしていく。全員が個人プレーで戦闘をしているが、それでもどいつもこいつも強い所為でそれが上手くいってしまうのだ。
……でもまあ、このまま終わってくれれば楽だし、それでいいかな。はぁ、しばらくここでのんびり──
「おら! ようやくこっちも船につけたぜ!! まずは……そこのガキ! てめェからだ! 死ねェ──!!」
「!!? い~~~や~~~!?」
船の後方。帆の合間に隠れるようにして飛んで観戦に徹していた私はとうとう敵に見つかって狙われてしまう。いや、ほんとやめてほしい。さすがにこんなガチの海賊とはまだやり合えない。
「! “ダーククラウド”!!」
「!!? なんだこの黒い霧!? こいつも能力者か!?」
「教えない! じゃあね!」
と、私は能力を発動して敵の目をくらます。ふぅ……これで一安心。今のうちに私は黒雲に紛れて敵の集団から離れていく。
しかしそれを見ていたのか、カイドウや他の味方海賊達が、
「ウォロロロ!! いいぞ、ぬえ!! これでぶっ殺すのが楽になる!!」
「あァ? 見習いの能力か? ははは! 気が利くじゃねェか!!」
「中の敵をぶっ殺してやるぜ!! 行くぞ!!」
「あ、待っ──」
「おお!!!」
と、私が止める間もなく、カイドウやロックス海賊団の面々は目を眩ませているであろう敵がいる黒雲の中に突っ込んでいった。
それから間もなくして、敵が吹き飛ばされるのが私には見えるが、
「……ま、いっか。覇気とかで見えてたりする人もいそうだし。このまま敵を倒してくれればいいかな。よーし、後は応援でもしてよ。ほら、頑張れー! 行け行けー! サポートだけなら私が──」
「おおお!? なんだてめェ!? いきなり攻撃しかけてきやがって! さては敵だな! 死ねェ!!」
「うるせェ誰だてめェ!! 霧で誰か分かんねェが殺すぞ!! 死ねェ!!」
「って見えてないんかい!!!」
黒雲の中で普通に殺し合いを始める味方に思わずツッコミを入れる。見えてないなら入らないで欲しい。
「──全く……こっちの見習いは味方同士の殺し合いを応援するなんて、思ったより
「あっ……いや、違っ──」
「別に誤魔化さなくてもいい。この船の中じゃ可愛いものだわ。──さて、それじゃあ私も行ってくる! 待てロックス!」
「いやだから……あ~~~……」
──突然、後ろから話しかけてきたロックス海賊団の仲間……グロリオーサさんが何やら盛大な勘違いをしてこちらにウィンクをすると、黒雲の中に飛び込んで、敵を倒していく。いや、私はあくまで敵を倒すのをアシストしてる筈なんだけど……というかグロリオーサは見えてるんだ……やっぱ覇気なのかな?
黒雲の中の戦闘を見ながら思う。……いや、そうか……よく考えたらこれ、敵を倒したアシストポイントだけじゃなくて、仲間殺しをアシストしてることにもなるね……しかも、それを今笑顔で応援していた訳で……──うん、後で誤解を解いておこう。このままじゃ同士討ちを助長しながら、自身は被害が当たらない場所で愉しそうに応援するっていう極悪少女になってしまう。完全に妖怪だわ、私。
しかしこれ、よく見たら味方が入ってきたことで、敵の方も襲われていると応戦し始め、結果敵も敵で同士討ちし始めるという、意外に有用な感じになってるような……あ~……うん。ちょっと、これは保留。なんか使えそうな気もするので。
「それに私だけは見えるんだから、ひょっとしたらこっそり近づいて暗殺とか……──」
あ、また悪いこと思いついた。ヤバい。なんか、昔は思いつかなかった様な事を色々思いついてしまう。
そりゃ見習いとはいえ海賊になったんだから悪いことではない……いや、うん、悪いことだけど、私にとっては悪いことじゃないんだけど……あれだね。たった1週間なのにもうロックス海賊団の雰囲気に毒されてきてるのかなあ……?
「──“
「うわァ~~~!? なんだ!? 船がクリームに!?」
「ヤベェ!? 海に沈むぞ!!」
って、そんなこと考えてる隙にまた一隻沈んでいってる。うっわエゲツない……あれはロックス海賊団の料理人になった“美食騎士”シュトロイゼンのククククの実の能力だ。確か、超人系で、ありとあらゆる物を食材に変えることの出来る能力。
シュトロイゼンはシャーロット・リンリンと海賊をやってた人で、凄腕の料理人でもある小柄な男性だ。どれくらい小柄かって、私と殆ど変わらないくらい。私がこれから成長したら確実に追い抜けそう。
とはいえその戦闘力は他のロックス海賊団の面々に全く引けを取らない。サーベルを使って敵を斬り、船を食材に変えて沈めてしまうというえげつないことをしてるし。……能力で変化させた食べ物、そんなに美味しくないんだよね……料理は滅茶苦茶美味しかったけども。
とはいえシュトロイゼンの能力は最初からいきなり大所帯になったロックス海賊団にとっては有用だ。何があっても食うものがなくなることはない。……まあ普通の食材が無くなることなんて、この船には無さそうだけども。
「くたばれェ!!!」
「うォ!? 龍がいきなり!?」
あ、カイドウも龍に変化して頑張ってる。応援しとこう。頑張れー。敵はそんなに強くないよー、多分。はぁ、これでよし。
「ん~……なんかもうちょっとで終わりそうだけど──」
「──舐めるなァ!!!」
「──ギャアアアアアアア!?」
「!!?」
不意の大声が、別の轟音と共に前方甲板の方から聞こえてきて、私は身体をビクッと跳ねさせる。
何だろう、とちょっと飛んで覗いてみると、そこでは意外にもうちの船員が結構な数やられていて、
「──ロックス!! てめェを殺せば、後はどうにでもなる!!!」
「──ギハハハハ……うちの仲間も舐められたもんだな? お前ンとこの船員はもう結構やられちまってるが……今更盛り返せるとでも夢見てんのかァ!?」
「うっわ……あれ、敵の船長……?」
そこでは敵の旗と同じマークの海賊帽を被った大柄な男と、ロックス船長が対峙していた。
周囲にはあの敵にやられてしまったのか、倒れているうちの船員達。
その船長は怒りに表情を歪ませており、対してロックス船長は相変わらず凶暴な笑みを浮かべたまま敵を煽っている。
ていうか今回の相手、やっぱ結構強いんだ……前に2回ほど別の海賊と戦ったけど、どっちも一瞬で終わったし。
ここまで長引き、そして船長同士で相対出来るだけでも凄い。ロックス船長、2回とも戦うことすらしなかったしね。
「黙れ!!! おれが長い間集めてきた大事な仲間達に船……それらを全て奪いやがって……こんな理不尽が許せるかァ!!!」
「ギハハハハ! お前、何言ってやがる!! この海で“理不尽”なんて幼稚な言葉を使ってんじゃねェよ!! 理不尽! 予想外!! 不条理!! そんなものはこの海にありふれてる! 降りかかる不運が嫌なら最初から海に出るんじゃねェよ!! ここはその不運を楽しむ海賊の海だぜ!?」
「っ……!! ロックスゥ……!!」
うっわ……ロックス船長容赦ないね……舌戦強すぎない? いや、これは相手が弱かっただけなのかな? まあ、そもそも迫力が違う気がするけど。
しかし敵の船長も諦める気はないらしい──って、あっ!?
「……なんと言われようがてめェだけは道連れにしてやる……!!」
「へェ……? 面白ェもん食ってるじゃあねェか……
ロックス船長が敵の変化する身体を見て言う。私もびっくりした。あれは悪魔の実の中でも最強種と名高い自然系。しかも──
「──そうだ、おれはメタメタの実を食べた液体金属人間。ロックス……てめェにおれが倒せるか!?」
「ギハハハハ……お前、自然系が無敵だとでも思ってんのか?」
「覇気があってもおれの有利は変わらねェ……覇気が使えるのは、こっちも同じだ!!」
「そうか……それなら──精々試してみなァ!!!」
身体を水銀に変えた敵と剣を抜いて前方に駆けるロックス船長。そうして──船長同士の戦いが始まる。
私はその凄まじい戦いや見知った能力に釘付けだった。
……自然系はその名の通り、自然現象を司る能力で、その最大の特徴は──自身の身体を、自然物そのものに変化させること。
つまり、砂なら砂。炎なら炎。雷なら雷に、身体を変化させられる。
そうすることによって物理攻撃をすり抜けることが出来るのだ。
そんな自然系の能力者にダメージを与えるには、その自然物に相性の良い何か……もしくは、“覇気”で攻撃するしかない。
そしてこの“覇気”こそが、悪魔の実だけではない。この海に跋扈する……規格外の海賊の戦闘方法なのである。
「!!!」
「ッ……!!?」
「ひあっ!?」
大砲の音を何十層にも重ねて大きくしたような轟音に、私は間の抜けた声を上げて後方へ後退った。
それは他の者達も同じで、誰もが自分達の船長の実力……ロックス船長の禍々しくも強力過ぎる覇気に畏怖してしまっている。
そして私は確かにその瞬間を見た。敵の船の船長が、悪魔の実の力で身体を硬質化させ、その上から更に覇気を重ねて黒く変色させたのを。
そしてその次に……ロックス船長の覇気を纏ったカトラスの一撃が、その覇気を纏った自然系の身体を……そう。文字通り、一撃で斬り裂いたのだ。
「ギハハハハ……危ねェ危ねェ……もうちょっと力を入れてたらうっかり殺しちまうとこだったぜ……!! 痛ェだろうが我慢出来るよな? 弱すぎるとはいえ、一船の船長ならよォ……! ギハハハハハハ!!!」
「く……そ……! ハァ……ハァ……!!」
しかも、まだ本気を出していないみたいだ……つ、強すぎじゃない? うちの船長……味方だから頼もしいし、勝ってるからまだ楽しく見れるけど、それでも今のはちょっと鳥肌が立った。2つの意味で。怖気が混じったわ。
それに、やはり殺さなかった……ということは、また船長は
「──何してんだ? ぬえ」
「ひゃあっ!? って、カイドウ!? もうっ、驚かせないでよ!!」
「お前が勝手にびびっただけだろう。おれは後ろから話しかけただけだ」
「そういう行為を、驚かせるって言うのよ──って、それよりほら……船長がまた……」
と、私は後方での戦闘が一段落したのか、あるいは別の理由か、とにかく後ろから話しかけてきたカイドウに、視線と言葉の向きだけで、これからロックス船長がやることについて差す。
するとカイドウも分かっていたのだろう、こちらと同じ──ロックス船長の方を見て笑みを浮かべながら言った。
「ウォロロロ……“勧誘”か」
そう……勧誘だった。
倒れて身体から血を流し、息も絶え絶えな敵の海賊に向かって、ロックス船長は屈んでから相手を見下ろす。
「……さて、それじゃあ聞くが……お前、おれの部下になる気はあるか?」
「……! 誰が……ハァ……てめェの部下なんかに……ハァ……!」
「…………ギハハ……そうか……まあ、だったらしょうがねェ……海賊としてのその意地……判断を尊重してやらァ……」
「……?」
あ……断っちゃった……あれはもう駄目だ。前に2回あった海戦、そのうち1回もそうだった。
ロックス船長は勧誘をすげなく断られると、少しの間無言となり、ややあって乾いた笑いを響かせる。船員はもう誰も声を出せない。
その口ぶりは見逃してくれるのかと思ってしまうもの。だが、
「──!!?」
──
聞こえたのは数発の銃声。撃ったのはロックス船長。撃った先は当然……勧誘を蹴った敵の海賊。
「ギハハ……断ったな……!? おれの……“支配”を!!!」
「ぐ……あっ……ロックス……てめ──がああああああああああああああ!!!?」
「っ……!」
ロックス船長の凶相が今まで見たどの表情よりも色濃く深まっている。
その船体が震えるほどの迫力……覇気は、ロックスの“怒り”を現していた。
だが同時に、船長は楽しんでもいる。
カトラスを海賊の腹に突き立て、力を込めながらロックスは言った。
「おれァおれの“支配”の中で生きねェ奴が大嫌いなんだよ!!! ──なァ! 分かるか!?」
「が、あ……! や、め……!!」
そこでようやく、敵の海賊はやめてくれと懇願するが……ロックス船長はやめない。やめる訳がない。
勧誘を断った者が辿る末路は……惨殺と皆殺しだ。
「おれの配下になって支配を受け入れるってんならある程度の自由は認めてやる……寛大にも接してやるさ……! だけどなァ!! 支配を受け入れねェってんなら話は別だ!!! ──おい野郎共!!」
「!」
ロックスの、船長の呼びかけに誰もが耳を傾ける。傾けない訳にはいかない。だからロックス海賊団の誰もが……ロックス船長のその言葉を聞いて、実際に実行に移した。
「残った敵は皆殺しだ!!! 敵におれの支配を受け入れなかったことを後悔させてやれ!!!」
「おおおおおお!! 今回は皆殺しだァ!!」
「そうと決まればさっさと殺しちまおう!!」
その号令にロックス海賊団は沸き立つ。自分達との戦いで生き残るほどの敵は生かされる筈だったのだ。船長の勧誘さえ受ければの話だが。
しかしそれを敵の船長が断った今、その部下達も含めて運命は決まった。
「うああああああっ!? 分かった、なる!! 部下になるからやめ──ぎゃああああああああ!!?」
「た、助けてくれ……これ以上戦う気は──ぐああああああああああ!!!」
「っ……!! やめ、ろ……部下は関係ねェだろ……!!」
至るところから敵の海賊達の悲鳴……断末魔が響いた。
敵の船長があまりの仕打ちにやめてくれと涙ながらに訴えるが、ロックス船長は笑みを絶やさずに彼に告げる。
「ギハハハハ!! そういう訳にはいかねェなァ!! 船長が断ったなら部下も同じ末路を辿って貰うぜ……!! 見逃したら復讐されるかもしんねェだろォ……!? ……それに──」
「……っ!?」
暴力と支配が吹き荒れる中心で、ロックス船長は一拍置き、怯える敵に顔を近づけながら、一息で告げた。
「おれァおれの支配を受け入れねェ奴は嫌いだが……だからこそ──
「!!? が、あ……──」
ロックスが覇気を纏わせたのか、それともやはり、敵にもう身体を変化させる体力が残っていないのか──ロックスの左手が敵の船長の左胸に突き刺さり……そのまま、そこにあるものを握り潰した。
そうして敵を殺し、腕を引き抜き……敵の血で赤く染まった左手と、同じく敵の血で汚れたカトラスを引き抜き、ロックスは立ち上がり、今までで最高の嗤いを響かせた。
「ギハハハハハハハハ!!! さァ、楽しい“支配”の時間だ!!! 従わねェ奴らに“死”という“支配”を贈ってやる!! 地獄でおれの支配を楽しみなァ!! ギハハハハハハハハハ────!!!」
「…………」
──そして、それを見ていた私は言葉を発せず、しかし眼が離せずに釘付けになっていた。
極悪非道、邪智暴虐、傲慢極まりないロックスという危険な人物。
しかしそこには確かに……覇王としての素質が見て取れる。
これがロックス。あらゆるものを支配しようとし、支配を受け入れないものを排除する──最悪の大海賊。
船を出してからの2回の海戦の内、1回はこれと全く同じ結果になり、もう1回は敵が勧誘を受け入れたため、生かされ、今もうちの船に乗っている。──そういう奴らは勧誘を受け入れなかった今回の末路を見て、血の気が引いてしまっているが。
そんなロックスを見た者は、誰もが口々に言う──あれは“悪魔”だ、と。
それは彼の手配書に付けられた“異名”と同じだ。
『“海の悪魔”──ロックス・D・ジーベック、懸賞金……19億6900万ベリー』
それは彼が海賊団を立ち上げる以前……単独で海賊をやっていた頃につけられた金額である。
つまりこれは、ロックス単独の脅威度。これから自身の海賊団を立ち上げたことが世界政府に知れた際の上がり幅は計り知れない。
そしてこの時代に於いては……彼を超える懸賞金額は
彼を知る者が彼を見れば、同じ海賊でも震え上がる。
だがそれを見て──私は、冷や汗を掻きながらも
それは“ロックス”という海賊に魅せられたのか、恐怖で笑顔が引き攣ってしまっているのかは、まだ判断はつかない。
「相変わらずすげェな……」
「そうね……さすが船長」
隣のカイドウと一緒に、ロックスという自分達の船長を見て言葉を作る。やはりカイドウも、ロックス船長の強さ、恐ろしさには冷や汗を掻きながら笑みを浮かべていた。
「あのよくわからねェ力……どうなってんだ?」
「あー……覇気のこと?」
何気なくカイドウの問いに答えてから、あっ、と思ってしまった。これは聞かれる。
すると予想通り、カイドウがこちらを向いて、
「何だぬえ、知ってるのか?」
「あ~……いや、うん、知ってるよ。前に聞いたからね」
嘘のような本当のような事を言う。聞いたのは間違いないし。
それにまあ、知っていたからとしても問題はない。問題はこの後のカイドウの応答だ。
「──なら教えろ」
「そう言うと思った……まあ後で詳しく説明したげるけど……えっと、人間が持つ“意志”の力? 生命エネルギー? そんな感じですごく強くなれる技術みたいな感じ」
「……よく分からねェが何でも良い。おれも使えるのか?」
「……そりゃ誰もが持ってるらしいし使えるんじゃない? 私は出来なかったけど」
「……? 意味が分からねェ。何でだ?」
って、この話の流れならそうなるよね……まあ別にいいけど。
純粋に疑問を抱いているカイドウに私は覇気について答える。そして私自身の経験も、
「……覇気って誰もが持ってはいるけど、使うには鍛錬とかが必要で、誰でも使えるって訳じゃないのよ。私は……あはは、ちょっと鍛えようとしてみたけど出来なかったから諦めたんだよね~……」
「…………」
カイドウが黙って私の話を聞く。何を考えているか分からないけど……そう、私は昔、色々試してみたけど特に進展はなかった。
悪魔の実の能力の方は多少、ほんと、僅かに鍛えられただろうけど、覇気については全然引き出せなかった。
まあ子供だししょうがないと自分に言い聞かせてたけど……やっぱ才能がないと駄目なのかな? とも思う。
「でもまあ、カイドウなら頑張れば使えるんじゃない? 戦ってる内に覚醒したりするらしいし──」
「──ならやるぞ」
「うん、いいんじゃない? …………ん?」
あれ? なんか話というか認識に齟齬がある気が……私、能力使ってないんだけどな?
そうやって人差し指を頬に当て首を傾げていたが、カイドウの返答で、その疑惑が確信に変わった。
「
「………………は、い?」
ニィ、と悪い笑みを浮かべるカイドウに対して、私は首を傾げた笑顔のまま固まり、この後の展開に嫌な予感を覚えた。
という訳でロックス海賊団の海戦でした。ほぼ全員個人プレーだけどどうにでもなるやつ。覇気使いも能力者も多数。誰が勝てんねん、こんなの(白目)
ちなみに、モブのメタメタの実は一応ちゃんとある奴です。ONE PIECEのドラマティックステージで出た奴。一瞬で死んだけど。
次回はまた覇気についてだったり、船員と交流したり。そんな感じです。お楽しみに
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