正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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新世界の大事件

 新世界の国同士での戦争は珍しくはないが、それは同じ島である場合に限られる。

 “偉大なる航路(グランドライン)”の島々を行き来して戦争をするのは、あまり現実的ではない。航海は過酷で、必ずしも上手くいくとも限らない。新世界の海には海賊だって多い。国と国との関係が悪くなったからといって、戦争をするにはよっぽどのことがなければ割に合わないことなのだ。それこそ島と島同士の戦争など海賊同士か、海賊と海軍の間くらいでしか起こらない。

 

 ──だが……他国の“天上金”に手を出したとなれば、それはよっぽどのことに当てはまる。

 

「我が国の天上金を奪い返せ!!!」

 

「あれがないと世界政府から除名されてしまう!!」

 

「戦争だ!! これほどの暴挙、断固として許し難い!!! 何より黙っていては国家としての面子が立たん!!」

 

 その日の朝刊は世界中を驚かせた。

 とある国が天竜人に納める筈だった“天上金”を輸送する船を、他国の船が襲い、乗っていた護衛も含めた船員を皆殺しにした上で天上金を奪っていくというありえない暴挙に出たのだ。

 このニュースは直ぐに世界中を駆け巡った。無論、それよりも先に天竜人にも。

 

「わちきらが受け取る筈の金を奪うとは……許さんえ!!」

 

「金が払えないというなら除名してやればいいえ! どうせ直ぐに泣きついて来るはず!」

 

「……今はまだ、様子を見るか……」

 

 天竜人の反応は、概ね不快感を感じたといったところであった。下界の民が自分達のものとして捧げようとした金を横から奪っていったのだから怒りは当然。

 しかし金が払えないのであれば除名は必然。ゆえに冷淡に、放置していれば金を再び払うか、どうせ海賊に荒らされて地獄を見る筈だと突き放す者もいる。

 そして世界政府最高権力で天竜人のトップである五老星も、早急に海軍を動かすことはなく、今は両国がどうなるか、様子を見ることにした。

 すぐに戦争になる。誰もがそう思っていたが……寝耳に水だったのは、その天上金を奪ったとされる国の方だった。

 

「なんだこれは!! 我が国は身に覚えがないぞ!!?」

 

「抗議しましょう!! このような虚言を世界中にばら撒くとは、許し難い!!」

 

「相手はもう武器を取り、今にもこちらに攻めかかろうとしています!! ご決断を!!」

 

「くそっ……これは悪夢か……!? やるしかないが……一体何が起こってるのだ……!!」

 

 その国は、天上金を奪っていない。まったく覚えがない謂れのない罪で戦争を仕掛けられることとなり、誰もが困惑と燻る苛立ちのまま、戦争へと突入してしまう。

 だがいきなり戦争だと言っても、それを行うための用意がまだ整っていない。

 戦争ともなれば兵を動員する必要だってあるし、船も必要だ。そして何より、多くの武器がいる。武器がなければ戦争は出来ない──いや、正確には負けてしまう。

 今から生産していても間に合わない。どうすればいい、とその国の首脳陣が頭を抱えている時に……その電伝虫は鳴り響いた。

 

「っ……誰がこんな時に!!」

 

『……随分と荒れてるみたいね』

 

「……? 貴様、一体誰だ……!! 何故この番号を知っている!?」

 

『私が誰かなんてどうでもいい。──それより……武器が欲しくない?』

 

「! 武器……!? ……もしや、武器を売ってくれるのか!? 武器商人か」

 

『……ええ、そんなとこ……戦争に必要な武器が欲しいのなら売ってあげる。少々割高にはなるけど……』

 

「……いや構わん!! この際素性の詮索も後回しだ!! とにかく今は武器がなければ国が滅んでしまう!! ありったけの武器をくれ!!」

 

『ええ、勿論──では、商談を始めましょう』

 

「ああ……!! ……それと、貴様のことは何と呼べばいい? 武器商人として、本名ではないだろうが通り名くらいあるのだろう?」

 

『……私の名は──“JOKER(ジョーカー)”。そう呼んでくれればいい』

 

 ──新世界の裏社会、闇取引を行う素性不明のその取次人(ブローカー)……JOKERが初めて現れたのも、この頃だったという。

 

 

 

 

 

 ──新世界、“デザイア島”。

 

 かつて半壊したその島は、すっかり復興を終え、以前と変わらず、歓楽街として大いに賑わっていた。

 一日中が夜の夜島であるそこは、ネオンの光がそこら中で派手に煌めき、夢と欲望に塗れた人々が成功の証とも言える高価な身なりで街を闊歩し、酒と食事を楽しみ、あるいは女を侍らせ、劇場を観覧する。

 だが反対に、その街で失敗した者などは街の裏であるスラム街に入り浸り、安い酒を片手に、痰壺に唾吐きながら愚痴を呟いて、自分の不幸を他人や環境のせいにして盛り上がる、シケた野郎共の巣窟だ。

 人々はこの島を、“夢と欲望の島”と呼ぶ。新世界随一の歓楽島であり、その島を訪れる者も多い。裏社会の住人もそうだが、中には政府に属する者達も、この島にお忍びでやってくる。

 海軍がこの島にやってこないのは、その政府筋に仲介を頼み、袖の下を渡しているからだとも噂されていた。

 何しろ、だ。この島をナワバリに治めるのは、凶悪な海賊達がひしめく新世界において、最もイカれた凶暴な海賊団なのだ。

 

「──おい!! 何すんだ!!?」

 

 デザイア島の歓楽街“ラグナ”。

 島の中心とも言えるその街は高級レストランにホテル。オシャレなバーに劇場など、多くのお店が建ち並ぶが、その中でも最も人気のスポットが──カジノだろう。

 お金をチップに替えて、勝って富を得るか、負けて富を失うかの勝負をする大人の遊戯の場。

 どんなに貧相な老人だろうと、ヒョロヒョロの若者だろうと、チップを賭ければこの場では誰もが勝負師だ。他の勝負師やディーラーを相手に自らの運と実力でのし上がることが出来る。ある意味、世界一平等な場所が、こういった賭場だ。

 高級なスーツやドレスを着て、酒を片手にギャンブルを楽しむ多くの者達。毎日が盛況だが、時にはトラブルも起きる。

 その1つのテーブルで起きた騒ぎは、僅かに人々の注目を集めた。──1人の男が、黒い服の男に肩を押され転ばされたのだ。黒服はこのカジノの用心棒だ。ディーラーではない。このカジノの元締めに雇われた屈強な男だった。

 

「貴方は今イカサマしましたね?」

 

「あァ!? してねェよ!!」

 

「当店でのイカサマはご法度となっています。裏に来て貰いましょう」

 

「だからしてねェっての!! 言いがかりつけてくんじゃねェ!!」

 

「……しらを切るつもりですか? では、そのスーツの内側、見せてもらっても?」

 

「ああ!? 何だってそんな……!!」

 

 客の1人がイカサマをしたと言い、黒服が問い詰める。こんなことはカジノに毎日通っていれば、1日に数回は見られる光景だ。

 賭場でのイカサマはご法度。それは当然だが……バレなければ、罪に問われないのもまた事実。ゆえにイカサマを行う者は一定数存在した。

 だが……バレれば、相応の罰を受けるのもまた周知の事実。この島をナワバリにする海賊は、特に恐ろしい。

 それは男も理解していた。だからこそ、軽く手を挙げ、

 

「……ああ、いや、わかった。それじゃ身体を調べてくれていい……」

 

「……では失礼します──」

 

 と、黒服がその男の身体検査を行おうとしたその瞬間、男は素早く動いた。

 

「──って、言うわけねーだろ!!」

 

「ぐっ、貴様……!?」

 

 男は黒服を掴み、押し倒すと、そのままカジノから逃走を図ろうとする。

 その動きはそれなりに俊敏で、ただの客とは違った。元賞金稼ぎや海賊、それとも現役か、とにかく修羅場には慣れている様子だった。

 

「へへっ、ここもチョロいな。さっさとトンズラこいて──うおっ!?」

 

 背後の黒服から逃走し、人混みの間を縫うように駆けていく男は、背後の黒服達を確認してほくそ笑み、再び前を向いたところで、壁にぶつかった。

 思わず床に尻もちをついて、何故こんなところに壁がと見上げようとする。だがしかし、

 

「──ウチのシマで何やってんだ……!!?」

 

「へ? ──うぎゃあっ!!?」

 

 その壁に顔面を掴まれ、そのまま吊り上げられ──そこで男はようやく気づいた。

 周囲に黒服とは少し違う、荒っぽい格好をした海賊達を従えるその男は、4メートル近い巨体を持った黒尽くめの大男。

 その背に炎と翼を背負った三白眼。見るも恐ろしいその海賊に、男は顔を青褪めさせた。

 

「い、命だけはだすけてぐれ……!!」

 

「命? ……フン、そうだな。お前がおれ達の拷問に耐えきったら助けてやる。──連れて行け」

 

「はっ!」

 

「っ!! い、嫌だァ!! 助けてくれェ~~~~!!!」

 

 男は海賊達に縛られて連れて行かれる。行き先は地獄だ。この島で、彼ら──百獣海賊団に逆らったり、意にそぐわないことをすれば命はない。

 特に幹部以上のメンバーは誰もが恐ろしい怪物だ。この男、百獣海賊団の最高幹部である“火災”のキングも、懸賞金4億3000万ベリーの化け物であり、この島の住人や常連であれば、何度も彼が人を燃やしたり、斬り殺したりしてる部分を何度も見ている。カイドウやぬえの命令ならどんな事でもする冷酷な殺戮マシーン、それがキングだ。

 百獣海賊団には彼と同じくらい恐ろしい男がもう1人いる他、配下にも能力者が複数存在する。それだけでも恐ろしいが、船長と副船長は彼らのさらに数倍は恐ろしい。逆らうなどただの自殺行為だった。

 今では誰も百獣海賊団に逆らおうとしないし、なんなら取り入ったり、彼らを称える者もいる。強く恐ろしい海賊達だが、島が守られていることは事実だし、強い存在というのはそれだけで人々を惹きつけるものだ。

 

「キング様だ……!!」

 

「キング様~~~♡」

 

「相変わらずとんでもない威圧感だな……!」

 

 そしてキングも、その例には漏れない。畏怖されている。百獣海賊団の最高幹部であれば当然だし、世間的にも有名になってきている。

 だがキングは、馬鹿にしているもう1人の最高幹部のように浮かれたりノリが良かったりはしないので、クールにそれを受け流す。舐めた真似をするならそれ相応の報いを与えるが、そういった支持の声を潰す理由はない。ゆえに何も言わずに立ち去ろうとした。

 

「あ、キング様? どちらへ……?」

 

「──ぬえさんに呼ばれてる」

 

「!! そ、そうでしたか……ではぬえ様によろしくお伝えください!!」

 

「フン……」

 

 騒ぎを聞いて駆けつけてきたお店のオーナーがキングを歓待しようと手揉みしながら近づくが、キングはさっさと騒ぎを収めるとカジノを去っていってしまった。オーナーも“ぬえ”と名前を出されたら引き止める訳にもいかず、店を出る彼らを見送り、後始末をつけることしか出来なかった。

 

 ──そうしてキングは数名の部下を連れて大通りから別の建物に向かう。

 

 歓楽街の大通りにある劇場。そこはいつにも増して盛況だった。

 普段からミュージカルやショーが楽しめるそこは、百獣海賊団の最高幹部、“疫災”のクイーンが取り仕切るようになっている劇場でもあり、キングはあまり立ち寄らない場所でもある。

 しかし呼ばれたからには行かない訳にはいかない。キングは堂々と表から2階のVIP席に向かう。途中の人混みは問題とならない。キングの名と姿は知れ渡っている。視界に入れば誰もが自然と道を空けた。

 そうしてVIP席に辿り着くと、そこには大きなソファが2つ、間にテーブルを置いた応接用の席があり、そこにはこの島をナワバリにする自分達の船長が既に出来上がっており、話しかけることを躊躇われたが……キングは話しかけるしかなかった。

 

「──カイドウさん」

 

「! キング!! 来やがったか!! お前もこっち来て飲め!! 今日は客もいる!!」

 

「……どうも」

 

「……ステューシーか……それと……」

 

 キングは自分達の船長である大男。自分を超える5メートル近い巨漢の海賊、百獣海賊団船長、“百獣”のカイドウに飲め、と直に言われる。近くにはこの島の元締めで“歓楽街の女王”と呼ばれる女、ステューシーがおり、カイドウに付き合わされて辟易しているようだった。

 だがもう1人、知らない男がいる。どうやら今日の客。取引相手なのだろう。キングは特に言うこともなく、自分を呼びつけた相手を探すが、いない。いるのは百獣海賊団の船員である部下達と、鎖で捕らえられた動物のような見た目の種族のみ。やはりいない。そして何故かあのバカも。

 

「……ぬえさんは?」

 

「あそこよ」

 

「! ……()()()

 

 キングはカイドウの隣が空いてることに気づき、どこにいるのかと問いかける。すると答えたのはステューシーだった。彼女は視線をステージの方に向けてそう答えたので、キングは軽く嘆息する。いつものことであるため、少し待つしかないようだと、彼も他の者達と同じくステージの方を向く。

 するとそこでは、今まさにショーが始まるところだった。ドレスを着たコーラスの女性に何人ものバックダンサーを背後に、リズミカルな音楽でキュートに歌い、踊りだすのはキングを呼びつけた張本人。

 だが最初に声を出したのはクイーンだった。ショーを度々行う彼だが、今回は引き立て役らしい。太く張りのある声で盛り上げる。

 

「来るぜ野郎共~~~!!! 合言葉は~~~~!?」

 

CUTE(キュート)UNKNOWN(アンノウン)!!』

 

「イエ~~~イ!! 新世界へようこそ♫ 地獄の海を彩る可愛いアイドル♡ その名は──」

 

『ぬえ様~~~~!!』

 

「神出鬼没で正体不明♫ 見つけきれたあなたはラッキー♫ 何故なら私は賞金首♫ でも堂々と出歩いても大丈夫! 何故なら私は正体不明♫ 素敵なイリュージョンで姿を隠すわ~♫」

 

UNKNOWN(アンノウン)!!』

 

「でも私は可愛すぎるから目立っちゃう♡ 新世界に来たなら一度は目にして♫ ファンなら大歓迎♫ 下僕や部下も大歓迎♫ でも敵には容赦はしないわ♡ 拷問は大好き♡ 何をしても許される♫ だって私は♫」

 

CUTE(キュート)!!』

 

「イエ~~~ス♡ それじゃ──イッツ・ショータイム♫」

 

 ステージの中心でスポットライトを浴びて、三叉槍を振り回しながら歌って踊るのは、百獣海賊団の副船長である“妖獣”のぬえ。見た目は確かに可愛らしい少女である海賊だ。

 しかし実年齢はキングよりも上でクイーンとほぼ変わらないカイドウの兄妹分。その能力も含めて得体が知れない凶悪な海賊。三色のUFOを飛ばしたり、現れたり消えたりを繰り返し、客席を盛り上げるその能力を見てもそれは理解出来る筈だが、最近は百獣海賊団の船員や、この島の住人にもファンがいる。恐れられているのは事実だが、それとは別に彼女のショーを楽しむ連中もいるのだ。そのコールはかなり訓練されていた。

 そのまま数分間のショーを終えると、ぬえはそのまま二階のVIP席に飛んできた。

 

「──お待たせ~!! それじゃ取り引き、始めよっか!!」

 

 と、ぬえの言葉でようやく取り引きが始まる──のかと思いきや、ステューシーが少し言い辛そうに、

 

「…………もうとっくに話はまとまったわよ?」

 

「えっ!!? そうなの!?」

 

 ──どうやら取り引きは既にまとまり、終わっていたようだった。

 

 

 

 

 

 ショーを終えてから取り引きの席に着くと、しかしステューシーに取り引きは既にまとまったと言われて、私はショックを受けた。

 

「酷い! せっかく無理難題を押し付けて脅したかったのに!!」

 

「……いじめられたら話が拗れるわ」

 

「拗らせたかったのに~~~! ステューシーの分からず屋~~~!!」

 

 むぅ、せっかく交渉相手を虐めて大物ぶってみる遊びをしようと思ったのに。どうやらそれは叶わないようだ。仕方ない。私はカイドウの隣に座って、お酒と料理を楽しむことにする。

 

「──ま、いいけどね。それよりお腹空いちゃった~♡ いただきま~す!! はむっ」

 

「……よく交渉相手の前でそんなことが言えるものだな……」

 

「んぐんぐ……あれ? まだいたんだ。じゃあ飲む? それとも一口食べる? 結構美味しいよ? このお肉」

 

「……遠慮させてもらおう」

 

 そっか、と私は話かけてきた対面の交渉相手の渋い顔を見て特に気にせず食事を再開する。彼はいわゆる運び屋さんだ。裏社会の住人で、私達が仕入れた武器をとある国に卸してくれることになっている。今日はその取り引きの内容をまとめる予定だったのだが、どうやらステューシーが上手いことまとめてくれたみたいだ。後で確認するとして、まあそれは良い。どう動いてもボロ儲けが出来るうまい話だ。ステューシーにも旨味があるのだから下手なこともしないだろうしね、と。私はもう1つ仕入れてもらった者を見る。それは、

 

「──あ、ちゃんと仕入れてきてくれたんだ! ありがとね~!」

 

「うむ……仕事だからな。しかし……ミンク族の奴隷など一体何に使うのだ?」

 

「んー、それは秘密~♡ そもそもそういうこと聞くのはちょっとマナー違反じゃない?」

 

「……そうだな。これは失敬……」

 

「別にいいけどね。──それじゃキング~、裏で連れてってやっちゃって~」

 

「ああ」

 

 運び屋さんが素直に謝ったが、まあ特に気にしてもいない。私は複数のミンク族の奴隷をキングに連れていかせる。ちなみに、ミンク族というのは主に新世界のとある島に生息する動物を模した半獣人みたいな種族のことだ。“生まれながらの戦闘種族”とも呼ばれ、結構強い種族なのだが、私が仕入れたのはそういった理由ではない。単純な興味によるものだ。そのために牛のミンクとか豚のミンクとか色々仕入れてみた。色々実験してみたいしね。まあそれとは別に部下になるようなミンク族とかもいればいいけど。それはまた今度だ。

 

「ん! ごちそうさま! それじゃあ次は~……ステーキとトンカツ。後はハンバーグが食べたいな♡」

 

「はい! 伝えてきます!」

 

「お願いね~」

 

 私は側に控えていた部下に食べたいものを注文する。ショーの後はお腹が空くのだ。取り引きがまとまったなら後は存分に食事を楽しませてもらおう──とか思ってるとカイドウが私の注文を聞いてからかうように、

 

「肉ばかりだな」

 

「あ、そういう差別は良くないんだからね! 女の子だってお肉や脂っこいものは好きよ! それにこの間にサラダを食べるんだから」

 

「そういうもんか」

 

「まぁ……そうね」

 

「──おいぬえさん! ショーが終わったからってさっさと行かねェでくれよ!! おれ達飛べねェんだから!!」

 

「あ、クイーン! お疲れ! ご飯食べる?」

 

「ん? ああ……まあ普通の材料が使われた料理なら──って、サラダしか残ってねェ!? 女子か!?」

 

「美少女よ!!」

 

「うぐ!?」

 

「クイーン様がサラダ責めにっ!!?」

 

 私はショーが終わって遅れてやってきたクイーンの口に大量のサラダを突っ込んで黙らせる。ドレッシングは無しだ。カロリー少なめ。野菜の自然な甘味を思い知れ──あ、そうだ。

 

「そういえばステューシー? 最近の裏ニュースは? ランキング形式で教えて! クイーン!」

 

「シャクシャク……ごくっ……ちょ、待ってくれ……! サラダが……よし。──ダラララララ……!!」

 

「──そのセルフドラムロールいる?」

 

「いる! はい! 第3位は!?」

 

 私はクイーンにドラムロールを口ずさませ、ステューシーに恒例の裏情報を聞く。料理が運ばれてくるまでの暇潰しも兼ねてだ。ステューシーはカップに入った紅茶に口付けながら、軽く息を吐いて、

 

「そうね……天竜人の一家が死んだとか?」

 

「え~~~~~~!!? 何だそりゃ!! おれ達はやってねェぞ!?」

 

「──ふ~ん……じゃあ第2位は?」

 

「……ある国の天上金が盗まれたことを発端に戦争が勃発」

 

「ムハハ! それは知ってる!! まったく酷ェことしやがるぜ!! 天上金を盗むなんてよ!!」

 

「ウォロロロ……もしくは、どこかの誰かに盗まれたのかもな? 運の悪ィ連中だ」

 

「ほんと可哀想よねー。ああ、可哀想。可哀想過ぎてサラダでご飯が進んじゃうねー」

 

 ステューシーから伝えられる情報を聞いて私達は一様に悪い笑みを浮かべる。──勿論、天上金を奪ったのは私達、百獣海賊団だ。

 ビッグ・マム海賊団との抗争に敗れたため、またお金が欲しくなったので、運良く見つけた天上金輸送の船を襲った。私の能力で他国の船に偽装した上でだ。そのことで、二国間で戦争が始まった。

 今回の取り引きはそのための武器を卸すためのものでもある。無論、幾つか情報が漏れないように工夫したりした上でだ。

 おかげで私達は笑いが止まらない。天上金が手に入って懐は潤うし、二国間の争いで更に大儲け。そして直に世界政府から除名されるだろうし、その島を最後には丸ごと奪ってやっても良いかもしれない。骨の髄までしゃぶり尽くすような旨味たっぷりの手だ。カイドウが船を襲おうと言うので、即席で私が考えた手だが、かなり上手いこといってる。

 これで手に入れた金でまた武器や船を増やして勢力を拡大しよう。私達に必要なのは戦力なのだ。部下は勧誘しまくればいいが、武器や船は金で手に入れるか、作らせなければ手に入らないし、悪魔の実なども手に入れるには金が必要。

 私達は世間から何でも奪って襲うイカれた海賊団だと思われているらしいが、そんなことはない。ちゃんとお金を払って手に入れることだってあるのだ。海賊とはいえ文明人。野蛮なだけでは務まらないのだ。ふふん。これは知的。知的で可愛い私は情報収集だって怠らないのだ。

 

「それで、1位は?」

 

「──ロジャー海賊団が再び新世界入り」

 

「──よし、今直ぐ襲いに行くわよ!!」

 

「え~~~~~~~!!? 急過ぎねェか!!? 止めてくれよカイドウさん!!」

 

「──ロジャー……!! 殺すしかねェな……!! おい野郎共!! 船を出すぞ!! 急げ!!」

 

「って、カイドウさんまで!!? おい、ステューシーちゃんも止めてくれ!!」

 

「……私が止められる訳ないでしょ」

 

「キングー!! キングのカス野郎~~~!! お前からも何か言え!!」

 

「あァ!!? うるせェぞデブ!! おれは今、ぬえさんの為に揚げ料理……じゃなかった。今は拷問中だ! 静かにしやがれ……!! お前もトンカツにされてェか!!」

 

「それどころじゃねェんだよ拷問好きの変態野郎!!」

 

「あァ!!?」

 

 ──ということで、私達は騒がしくもロジャー海賊団に喧嘩を売りに行くことにした。……あ、ステーキとトンカツ、ハンバーグは美味しくいただきました♡

 

 

 

 

 

 ──新世界、とある海。

 

「──UFOは存在する!!」

 

「──UFOなんていねェ!!」

 

 新世界を航海するその船の甲板の上では、2人の少年がお互いの顔を突きつけて言い争いをしていた。彼らは2人ともこの船の海賊見習いで、幼い頃からこの船に乗っている。

 そんな2人を見て、船員達は可笑しそうに笑う。この光景は日常茶飯事であった。

 

「シャンクスとバギーの奴、またケンカしてやがる!!」

 

「あっはっはっは!! 面白ェ!! やれやれェ!!」

 

「どっちも負けんじゃねェぞー!!」

 

 船員達は皆屈強で一癖も二癖もある名のある海賊達だったが、気の良さそうな者ばかりだった──最近入った新入りの少年を除いて。

 

「……下らねェ」

 

 甲板の隅で無愛想に腕を組んでその騒ぎを見る少年は、そのケンカをくだらないと吐き捨て、武器の手入れを優先した。

 だが船員達は次第に2人の見習い──麦わら帽子を被った赤い髪の少年、シャンクスと、赤い鼻を持つ少年、バギーのケンカを囃し立てて盛り上がる。

 ──ちなみにUFOがいる派がシャンクスで、いない派がバギーだった。

 

「いるに決まってんだろこのヤロウ!!」

 

「いる訳ねェだろバカシャンクス!!」

 

「──いい加減にしろ!!」

 

「いっ!!?」

 

「うっ!!?」

 

 しかしその騒ぎを見かねて、副船長の男が2人の頭を両手で小突く。勿論、本気ではない。ケンカを止めるためだけのものだ。“冥王”とまで呼ばれた男だ。本気なら、2人の頭は粉々に砕けている。

 だがシャンクスとバギーにとっては威力は十分だったようで、2人は頭を押さえて尻もちをつく。とても痛そうに表情を歪めていた。男はそんな2人の前に立ち、

 

「ケンカばかりしやがっててめェらは!! まったく……UFOがいるとかいねェとか……」

 

「いてて……だってよ、UFOなんていねェってこいつが……」

 

「く……でもよ副船長! UFOなんていねェに決まってるだろ!? あんなのインチキに決まってる!!」

 

「まだ言うか……だがUFOは……まあ()()()()()()()()()……」

 

「ええ!!? そんな、副船長!!」

 

「ほら見ろ!! レイリーさんが言うなら間違いないぜ!!」

 

 まさかの最古参の副船長、シルバーズ・レイリーすらUFOがいると真面目な表情で告げたことでバギーがショックを受け、シャンクスは反対に喜ぶ。そんな2人の背後に、ちょうどやってきたのはこの船の船長である大きな口ひげを持つ男で、

 

「──UFOか!! 懐かしいな!! 昔はよく見せてもらったぜ!!」

 

「え~~~~~!!! 嘘だろ、船長まで!!?」

 

「見せてもらった!!? 宇宙人でも乗ってたのか!?」

 

「くくく……ああ。ちょっとの間乗ってた奴がいたぞ。今もきっとこの海にいる」

 

「「え~~~~~!!?」」

 

「おい、ロジャー……あまりからかうな」

 

「わはは!! すまん!!」

 

 見習い2人に笑顔でそんなことを言うこのロジャー海賊団船長──ゴール・D・ロジャーを、レイリーがたしなめる。だがロジャーは全く悪びれもせずに言葉だけで謝った。その言葉を聞いたシャンクスとバギーは驚きを沈めてしまい、

 

「えっ、嘘なのか!?」

 

「な、なんだ……びっくりしたぜ。脅かさないでくれよ船長!」

 

「──いや、嘘じゃねェぞ。UFOはいるし、UFOを見せてくれる奴がいることも事実だ!!」

 

「ええっ!!? どっちだよ!!」

 

「UFOを見せる……!? なあロジャー船長!! そいつってどんな奴なんだ!? やっぱ足が八本あったりするのか!?」

 

 しかしまたしてもいると言われ、バギーは混乱する。だがシャンクスは好奇心が勝ったようで、それを尋ねた。するとロジャーは笑い、

 

「わははは、足は八本もねェし、見た目は普通の可愛い女の子だ!! だがまあ……結構強ェし、おっかねェからな。UFOを見かけたら気をつけろよ!!」

 

「ああ、お前ら2人くらい、簡単に拐われて食われちまうかもな!!」

 

「こ、ここ怖ェこと言わないでくれよギャバンさん!!」

 

「へー……って、ああっ!!? それじゃ、あのUFOは!!?」

 

「ああ? なんだシャンクス。そういうイタズラがしたいお年頃か? まったく、そんなの引っかかる訳──」

 

 突如、シャンクスは感心から表情を一変させ、脅かしたギャバンやロジャーの背後にある空を指差して大声をあげた。

 その迫真の演技に笑い、でも一応は見てやろうとギャバンや他の者達も何気なく空を見る。──ほら見ろ。何もいない。あるのは雲にカモメに赤いUFO──……。

 

『って、え~~~~~~!!!』

 

「っ……!!?」

 

「お、おいマジか!!? 噂をすればなんとやらか!! 船長!!」

 

「……おいレイリー。()()()()()になってきたぞ……!!」

 

「ワクワクしてんじゃねェよ……ったく……まさかこんなに早く、噂の百獣海賊団に見つかるとはな……」

 

 船員達は空にふよふよと浮かぶ赤いUFOに声を揃えて驚く。声は出さないまでも、新入りの少年すらそれには驚いていた。

 そんな中でロジャーは不敵な笑みを浮かべて来訪を楽しみにし、レイリーはそんな呑気なロジャーに呆れつつも、真面目に戦闘準備を整えたのだった。

 

 ──そしてそんな中、ロジャー海賊団と赤いUFOが遭遇した場所から数海里は離れた海に浮かぶ船のマスト上で、あぐらをかいて座る1人の少女がいた。

 

「──見つけた♡」

 

 そしてその少女はその気配を察知し、船員達に指示を出しつつ、自身も先んじて標的のいる海域へと向かっていった。




??「フッフッフッ……えっ?」

ということで次回はロジャー海賊団と一戦です。色々起きそうです。また壊滅しそうでもある。ロジャー海賊団は船員達の名前も最新刊で公開されたねって。

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