正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
「ようロジャー!! それにカイドウ!! ぬえ!! 久し振りだな!! 遥々新世界へとやってきたところ悪いが、お前ら全員、おれの部下になれ!! お前達は強ェ!! お前達の強さはおれの完璧な計画の助けになる!! だから昔のことは水に流そうぜ!! 特にロジャー!! お前はさっさと世界を滅ぼす兵器のことを教えな!! おれと一緒に世界を支配しようぜ!!」
「何十回めの勧誘だ、シキ!! おれは何と言われようが支配なんてしねェよ!! 海賊は自由だ!! お前が支配がしてェなら勝手にやってろ!! ただし──何をしようがおれはお前の支配を受けねェ!!!」
「黙れ、シキ……!! てめェの支配になんざ興味はねェ!! おれは最強の海賊団を作って世界をメチャクチャにぶっ壊してやりてェだけだ!! てめェのムカつく面も、そこのロジャーも海軍も、全部おれがぶっ壊してやる!!!」
「そうよ!! 世界は私達の物にするんだからね!! あんたみたいな変な眉毛のおじさんの部下になんてならないわよ!! そんなに部下にしたいなら、まず眉毛を永久脱毛してから出直してきなさい!!」
「その啖呵の切り方はおかしくねェか!!?」
──その海は荒れていた。そこに集う者達の意志にかき乱されるように。
集ったのはまず、ロジャー海賊団。百獣海賊団。金獅子海賊団。彼らは誰もが自分の意志を言葉にして相手にぶつける。この海では自分の信念を口に出来ない者が死ぬ。海賊の戦いとは自分が海賊旗に掲げた信念を誇り、相手の信念を折るための戦いだ。
その信念より自分の命を大切にするような半端な海賊はそもそもこの海では生きていけない。生きていけたとしてもそれは信念と牙を折られている。
本物の海賊とは、自分の命よりも何よりも、自分の信念を大事にする者のことだ。だからこそ、本物の海賊には“死”さえ脅しにならない。彼らは命よりも大事なものを掲げてこの海で生きているのだ。
だが同時に、信念を守り切るには強さも必要だ。それも含めて、この場に集った海賊達は、本物の海賊である条件を満たしているものばかり。
「おれの誘いを断るってことがどういう意味か……分かって言ってんだろうなァ!!?」
「ああ、分かってるぜ!! ──おれがお前を叩き潰すって意味だ!! 金獅子ィ!!!」
「てめェこそ、次同じこと言ったら殺すって言ったよなァ!!!」
「いぇーい!! もういっそのこと全部壊れちゃえー!! ──あ、お腹空いてきた。誰かー、ご飯ちょうだーい」
「さっきから緊張感ねェなぬえさん!!」
「この状況で落ち着いてやがる……それはそうと飯だ、ぬえさん」
「てめェは盲目か!!」
「わーい♡ ありがとキング~!」
信念を言葉にし、ぶつけ合う度に、波が大きくなる。──若干1名、おかしい者もいたが一応波は揺れる。
だが何も信念を持つのは海賊だけではない。
正義の軍隊……海軍もまた、自らの心に自分だけの正義という名の信念を掲げている。
「おいロジャー!! おれ達を忘れるな!! お前ら全員、このおれがとっ捕まえてやる!! 覚悟しろ!!」
「ふざけた事を抜かしおって……!! 海賊にこの海は支配などさせん!! 我々海軍が、この海に君臨する限り!! この世に悪など栄えさせん!!」
この世界を支配する世界政府。その彼らの尖兵たる正義の軍隊“海軍本部”。
その艦隊を率いるのは現海軍でも最強と称される戦力だ。さすがの本物の海賊達も、彼らを無視することなど出来はしない。
「わっはっは……ガープにセンゴク!! 勿論お前達も相手してやる!!」
「邪魔な海軍共が……!! いいだろう、お前達も一緒に消してやる!!」
「誰だろうと関係ねェ!! 全員殺してやる!!」
「って言っても、一応今だけはロジャー達に手を出さないって話は済んでるから駄目だよカイドウ? また挑むなら、シキと海軍を振り切ってからね」
「っ……わかってる!! 一々言うんじゃねェ!! 行くぞ野郎共!!!」
「こっちは動ける者が数名……まだ戦えるのはカイドウさんにぬえさんにおれと……お荷物が1人か」
「あァ!!? 誰がお荷物だ変態野郎!!」
「てめェ以外に誰がいるんだ……言われたくなきゃ死ぬ気で働けバカ野郎……!!」
「てめェもな!!」
「こらこら、面白いけど喧嘩は後にして。先にやらないといけない相手も多いんだからさ」
──それぞれの海賊団に海軍。その誰もが信念を持つ戦いが、この新世界で始まった。
「イ~~~~~ヤ~~~~~~!! やめましょうロジャー船長!! 金獅子と海軍を同時に相手するなんて無茶だって!! それに百獣海賊団の奴らも信用できねェしよ!! もしかしたらあいつら、戦いの最中に後ろからおれ達をやっちまうつもりじゃ……!!」
「わはは!! まあ大丈夫だ!! 何かあったらおれが守ってやるからよ!!」
「う……まあロジャー船長がそう言うなら──」
「その赤い鼻を食べてやる~~~~~!!!」
「ぎゃああああああ~~~~~~~!!!?」
私はほんの僅かに弛緩したその気の緩みを突くように、バギーを後ろから脅かした。すると期待通りの反応が返ってきて愉快な気持ちになる。かなり叫んだ後にロジャー達の後ろに隠れてしまい、その陰からこちらを見てくる。
「ほら船長!! あいつやべェって!! あんなもんに背中預けてたら殺されちまう!!」
「ん? ぬえ。お前バギーを食べるのか?」
「食べない食べない。信用していいよ♪ ──じゅるり」
「よだれ垂れてるっ!!? こ、こっち見るんじゃねェよ!!」
あらら、すっかり嫌われちゃった。冗談なのにね。悪魔の実の能力者は食べたらまずそうだし。ちなみにバギーはバラバラの実の能力者で、斬っても斬れないバラバラ人間。斬撃に対しては無敵の能力だ。だから食べるなら……まずすり潰してから食べないと駄目かな? 噛めない可能性もあるし。すりおろしたり煮込んで食べよう。うん、そういう問題じゃないけど。──あ、それともう1人。
「あれ? そっちの子は私のこと、怖がらないの?」
「……!! お前なんて怖くねェよ!!」
「……ふ~ん、そう。可愛くない子ね」
もう1人の見習い、シャンクスにも声を掛けてみるも、こっちは勇敢にも私に怯えなかった。警戒はしてるみたいだったけどね。その反応がからかいがいがなくて微妙。もっとビビリだったら可愛がってあげたのに。……まあ、こういう芯の強そうな子を無理やりブチ折るのも楽しそうだけど……今は出来ないし、やったらさすがにロジャーに殺されちゃうだろうしなぁ。今は諦めるしかないか。
「んぐっ。ごちそうさま。──さーて、それじゃある程度回復したところで、もう一戦やるかー!」
「なあ、ぬえ。それより久し振りにアレやらせてくれよ」
「え? ──ああ、アレね……まあ別にいいけど」
「あァ? なんだアレってのは……」
私が軽い食事を終えて身体を伸ばすと、ロジャーが悪巧みをするように私に顔を近づけてそんなことを言う。アレね。10年以上前にロジャーの船に乗ってた時にロジャーが気に入ってたアレだ。まあ確かに、有効だしやった方がいいね。
「まずは海軍よりも近くの金獅子かな」
「おう。それじゃあ乗せてくれ!!」
「はいはい……“虹色UFO”!!」
「お、よしよし!! それじゃあ行くぞ!!」
と、私はロジャーの催促に応えてお望みのものを出してやると、早速ロジャーは足を乗せた。──私の生み出したUFOの上に。
「それじゃあ──いってらっしゃい!!」
「わはははは!! これで船に乗り込めるぞ!!」
私はUFOを操作してそのままシキの船にまで連れて行ってあげる。アレとはつまり、UFOに乗ること。乗って相手の船に直接襲撃することだ。昔、ロジャーはよくUFOに乗りたがってたからね。仕方なく乗せてあげてからはこの方法を取る事もあった。まあ今でも部下をこれで乗せることもなくはないけど、大体はやりたがらない。怖さが勝るだろうしね。
そうして私はさっさと自分達の船に戻り、キングとクイーンらの動ける面子に向かって、
「よし、それじゃロジャーが金獅子を相手してる間に、私達は適当に当たって逃げよっか。かなり勿体ないけどねー」
「……ああ。それはいいが……」
「……カイドウさん。もう行っちまったんだが……」
「え……って、こらぁ──!!? また先走って行ってんじゃないわよ!!」
「死ね……シキ……!!!」
いつの間にかカイドウは空に昇ってシキと空中戦を展開しようとしていた。くっ……バギーなんかと遊んでる場合じゃなかった。ホント一瞬でも目を離すとこれだ。まあ普段は良いんだけど、私もやるし。だが今回はちょっと、さすがに注意した方がいい。どうにか連れ戻して──
「っ!! あーもうっ!!」
「うおっ!!? 砲弾!?」
クイーンが突如、私が三叉槍で弾き飛ばして爆発したそれに驚く。ま、当然だろう。それは大砲であって、大砲を凌駕する速度で撃ち出された砲弾だ。
更には、
「……!!」
「今度は衝撃波か……!!」
今度はキングが忌々しく海軍の軍艦の方を睨む。私も睨みたい気持ちでいっぱいだし、実際に叫ぶ。その艦に乗ってる2人に、
「ちょっと!! こんないたいけな少女虐めるなんて鬼畜よ鬼畜!! 私達だけじゃなくてロジャー達も狙いなさい!!」
「本当にいたいけな少女なら今の攻撃を防げはせんだろう!!」
「あれがぬえか……なるほど。実際にこの目で見ると確かに普通の少女にしか見えんが……アレは脅威だな。すぐに、芽を摘み取る必要がある……!!」
海軍の軍艦に乗っているのは海軍本部中将“英雄”ガープに、海軍本部大将の“仏”のセンゴク。どちらも海軍本部の最高戦力と言っていい2人だ。
ガープは相変わらず“拳骨メテオ”がえげつない速度で飛んでくるし、センゴクの方はその姿を金色の大きな大仏に変化させてなんか衝撃波撃ってきた。チートだチート。確かヒトヒトの実モデル“大仏”。私やカイドウと同じ動物系幻獣種の悪魔の実だが、大仏ってよく分かんない。生き物……? まあ幻獣種に細かいこと言ってもしょうがないんだけどね。そもそも私が言ったらブーメランが飛んできそうだし。というかこの2人がいるのやっぱキツいよね!
「大の大人が雁首揃えてこんなちっちゃな娘のお尻追いかけて恥ずかしくないの!! 海軍に通報してやる!!」
「ムハハ、実年齢少女じゃね──ブフ!!?」
「次言ったら殴るからねクイーン!!」
「もう殴られてるんだが!!?」
「なんか騒いどるみたいだが、都合の良い時だけ子供ぶっても無駄だからな!! お前もう大人だろう!!」
くっ……やっぱりガープにはバレてる……!! 私のことよく知らない海兵は口では躊躇しないとは言っても、無意識レベルで手加減するような甘っちょろい相手が多いものだし、ガープも昔のこともあって多少手加減してくれると思ったが、そこまで甘くはないらしい。センゴクもおふざけが通用する相手じゃないし、悔しいけどここは全力を尽くそう。
「はー……ほんとは戦いたいけど、今回は逃げるからね!! ──“平安のダーククラウド”!!」
「むっ……目眩ましか!!」
「チッ……おれ達は問題ねェが、操艦が面倒だな……!!」
私はまず黒雲を私達の船と海軍の軍艦の間に目一杯出して目眩まし。ガープやセンゴクといった見聞色の覇気持ちには見破られるけど、見張りや操舵手、操艦には他の海兵が携わっている。ガープやセンゴクに逐一指示を出させることである程度は手を削れる。
だがまだまだだ。
「お次は私の名物!! “正体不明”……“恐怖の虹色UFO襲来”!!」
「!!」
「うわぁぁぁ!!? センゴク大将!! UFOが空から弾幕を……!!」
「敵の能力だ!! 恐れるな!! 落ち着いて対処しろ!!」
「ぬえの奴、また能力が向上したみたいだな!! “
「キング!! 砲弾任せた!!」
「ああ……!!」
お次は再びUFOの群れを海軍に突っ込ませる。これで更にガープとセンゴクを掛かりっきりに出来ればそれでいい。他の艦隊まで守れるかな? 守れるものなら守ってみればいい。こっちはガープの砲撃をキングに任せつつ上空へ。
そして逃げるためのダメ押しの一手として“種”を飛ばしておき、カイドウとシキ、そしてロジャーの下へ。
「“斬波”!!」
「“神避”!!」
「グ、オオオオ……!!」
「!! カイドウ!!」
あ、カイドウがやられてる。っていうか、シキはともかく、ロジャーにもやられてるって、結局ロジャーにも喧嘩売ったのかな? いやまあ協力者だったとしても、ロジャーくらいだったら関係なく攻撃しそうだから分からないけど。とにかく、海に飛ばされるカイドウを必死に追いかけて受け止める。
「ぐっ……!! あいつら……!!」
「はぁ……さすがにロジャーと戦った後にシキ、それにセンゴクにガープ相手はキツいねぇ……!!」
「ハァ……おいぬえ……まさか逃げようってんじゃねェだろうなァ……!?」
「そうだぜぬえ!! 海軍ばっか相手してねェでこっちにも向かって来いよ!! 嫉妬しちまうぜ!!」
「うっさいシキ!! 変な眉毛の癖にこっち見るな!!」
「変な眉毛に人権無し!!? お前おれの眉毛嫌いすぎだろ!!」
いや、別に嫌ってはない。ただネタにしてイジってるだけだ。こっちの方が酷いかも──って、危ない! シキってば海水浮かして飛ばしてきた。相変わらずフワフワの実は海戦だと反則レベルで強い。シキが止められないと船も簡単に沈められるし分が悪すぎる。
未だカイドウなんかはやりたがってしょうがないみたいだが、今は撤退した方がいい。幸いにもロジャー海賊団がかなり頑張ってるし、私もUFOだけならこの場に残してある程度戦わせることも出来る。
「……今回は一発かますだけで我慢しときなさいよ。さすがにガープとセンゴクに捕まったら逃げられないわよ?」
「っ……クソッタレが……」
カイドウは口端から血を流しながら息も絶え絶えの状態。まあロジャーと半日も戦って負けた後でシキを相手にするのなんて無理に決まってる。私だって、さっきからご飯食ったりちょっとだけ休んだりして頑張ってはいるけどキツい。気を抜いたらいつだって気絶出来るし、このまま戦ってもまず勝てない。
さすがのカイドウもそれは理解しているだろうし、酒もロジャーの戦いの時にはもう抜けてたから頭は回るだろう。ギリギリと音が鳴るほどの歯噛みはしていたがやがて、
「……一発与えて軍艦沈めたら帰るぞ……!! ぬえ、お前の能力も使え」
「そう言うと思ったから、ちゃんと先にやっといたよ」
「……なら行くぞ……!!」
「オッケー船長~……!!」
私はカイドウの、船長命令に従って小細工の後に2人で一撃を与えることにした。
金獅子海賊団にロジャー海賊団。それに百獣海賊団を同時に相手にする海軍側は、まず初めに瀕死の状態である百獣海賊団を狙った。しかし、
「……!! 気配が……!!」
「これは……!!」
海軍の艦隊を指揮する手練の覇気使いである2人は黒雲の中でも見聞色によって大まかな船の位置や敵の位置、UFOの攻撃を読んでそれを対処していた。
だがそれよりも、先程まで見えていたぬえと思わしき気配が消えたことを2人は敏感に感じ取り、同時に警戒した。
見聞色の射程範囲から消えた。それ自体は普通のこと。至って単純な手だが、この視界が利かない状況ではその単純な手こそが最も厄介だ。
遠距離攻撃の手段を持たない相手であれば無視すればいいが、それを持つ相手ともなると無視出来ない。攻撃の意を読めず、攻撃が来たことに気づくのが遅れればこちらにも被害が出てしまう。
しかもそれが、自分達の乗っていない軍艦ともなれば、2人の力では抑えることは難しい。
「っ……ガープ!!」
「わかっとる!! 来るぞ!!」
だが2人は動いた。──否、
仮に後方の艦を狙われていれば対処は不可能で、2人は前の船の連中。別の海賊に攻撃を続けた。他の艦に乗っている海兵を信じて。
だが2人は動けた。それは何故なら、
「!!」
「むゥ……!!」
攻撃を受けたのが、
熱線に弾幕。2つの攻撃はそれぞれ、ガープとセンゴクが分かれて対処し、覇気を纏った攻撃で防御、あるいはそれを逸らした。
しかしやはり、その間には攻撃をしてきたであろう2人の海賊、カイドウとぬえは自分達の船と共に逃げ去っていく。
だが2人が思ったのは、逃げられたということよりも別のこと。彼らの脅威の再認識であった。
「……逃げはしたが、殺意に敵意は一切衰えずか……想像以上に危険だな……」
「とはいえ、ここで向かってくる程度ならブチのめして終いだったが……だがまさかあのカイドウが撤退を選ぶとはな……」
センゴクは報告の上でカイドウと百獣海賊団の危険度について聞いている。どれだけの艦隊相手でも突っ込んできて、多大な被害を出し、捕まっても大暴れした上で脱走すると。そしてだからこそ、今回は偶然ではあったが好機でもあったのだ。もしかしたらいつもの様に突っ込んできて、捕らえられるかもしれないと。
だがそうはならなかった。ロジャーとの戦いで酷く消耗していたという不運もあった。……だが百獣海賊団が万全であれば、海兵の犠牲も多かったと予測出来るため、ある意味では幸運とも言える。
そしてガープは報告の上だけでなく、カイドウとぬえの脅威をよく理解している。
何しろ彼らが所属していたロックス海賊団と戦ってきた伝説の海兵であるからだ。それにどちらも、一度は見逃がしてしまった因縁もある。
だが瀕死だというのにあの覇気の強さは、もう手加減出来る領域を超えてしまっているし、ここで賢くロジャー達を囮にして逃げたことも昔のままであれば選択しえなかった策だろう。ぬえの影響か、はたまたただのチンピラから一船の船長としての素質を発揮し始めたか……どちらにせよ、海軍や民衆、そして政府にとっては良い事ではないのは確かだ。
「とんでもない奴らを逃してしまったな……」
「──おいガープ!! 気を抜くなよ!! 金獅子とロジャーがまだ健在だ!! UFOの脅威も去っていない!!」
「ああ……百獣海賊団はついでだ。本命はまだ残っとるからな……!!」
そう、百獣海賊団と遭遇したのは偶然で、海軍としてはロジャーと金獅子の接触に待ったを掛けに来たに過ぎない。優先順位は下なのだ。
だが……もしかしたらこれが瀬戸際だったのかもしれないとガープは思わざるを得ない。
百獣海賊団が未だ勢力として乏しい今こそが、次世代の脅威を確実に摘むことの出来る──最後のチャンスだったのだと。
──その新世界で行われた海戦の報は、知る人ぞ知る戦いであった。
ロジャー海賊団に百獣海賊団。金獅子海賊団に、海軍大将センゴクと、英雄ガープ率いる海軍艦隊の激突は、どの勢力も明確な収穫もなく、戦いの規模に反して影響は少なかったと言えるだろう。海軍にとっては危険ではあるが、またとない機会でもあった。とはいえロジャーと金獅子、どちらかが倒れたり、手を組むような結末が避けられただけでも任務は成功。現場の海兵こそ、不満を燻ぶらせてはいたが、それでも成功は成功だ。
だがしかし、そんな海軍や、勧誘が失敗した金獅子よりも苛立ちを抱え、それが失敗だったと強く敗北を叩きつけられた者がいた。
「クソが……また負けちまった……!! なんておれは弱ェんだフザケやがってェ!!!」
「はいはい。いつものこといつものこと。あんまり引きずらないのー」
──新世界、“デザイア島”。カイドウの屋敷、百獣海賊団のアジトであり、カイドウの部屋でもあるそこで、私とカイドウは帰ってきて早々、一対一で飲んでいた。
というのも負けると基本的に一回は荒れるのがカイドウだ。そういう時は私が飲みに付き合うようにしている。……この状態のカイドウに余計なことを言うと、普通に殺されたりするからね。部下が。私は大丈夫だけど、他の者達はどうなるか分からないし、また少なくなった貴重な部下を守るためにはこうした方がいいのだ。
……とはいえ、私も負けた時は若干苛立ちというか、悔しさはあるし、それで飲みたい気分にはなるので一石二鳥だ。──ということで酒を呷りながらカイドウの語りに相槌を打っていく。
「あんな甘ェロジャーに負けて、情けまでかけられたんだぞ!! お前は悔しくねェのか!!?」
「いやまあ悔しいけどね。まあ負けたことは受け入れて進まないとだし。次はぶっ殺すでいいじゃん」
「ああ!! 次は絶対に殺す!! そのために、おれはもっと強くならなきゃならねェ!! ……だが──」
お? いつもならもっと強くなる。ぶっ殺す。みたいな結論で終わるカイドウが、言葉を止め、何かを考えるように間を取った。なんだろう。また何かメチャクチャなことでも言うのかな? まあカイドウなら何を言っても驚かないけどね。酔ってる時はほんとにメチャクチャで話が通じなかったりするし。私の言葉は比較的聞いてくれるけども。
そんなカイドウは酒をグビグビと呑むと、怒り上戸でも泣き上戸でもない真面目なトーンで言い始めた。
「……やっぱり兵が足りねェな」
「え?」
「負けてばっかりじゃ兵がいつまで経っても増えねェじゃねェか。分の悪い戦いは回避して勝てる戦いをしていかねェと海賊団はデカくならねェ……おれやお前、キングやクイーンだけが生き残ってもしょうがねェだろ」
「……今更? え、今更それ気づいたの?」
カイドウの突然の正論というか、至極まともな意見に私は面食らう。てっきり、わかってやってるものだとばかり思っていたが……いや、まあそうだよね。カイドウだってバカな行動はするがバカじゃない。無茶な戦いも無理やり勝ってきたし、結果的には何とかなってはいるが、私達だけが負けるならともかく、海賊団として何度も壊滅するのはちょっとそろそろ問題があることに気づいていたのだ。……いやまあ私もわかった上でやってるから同じ穴の狢かぁ……でも良い機会だから久し振りにカイドウと海賊としての計画でも立てよう。後で計画書に書こうかな、と思いつつカイドウの声を聞く。カイドウは声を荒らげて、
「面子を大事にしてただけだ!! だが……そうだな。舐められた“返し”は最後にやっちまえばいい……結局は最後まで生き残ってた奴が勝者だ……!!」
「おお……酔ってるのに酔ってない時以上に真面目な事言ってる」
「茶化すんじゃねェ。お前もそう思うだろ?」
「ごめんごめん。──でもまあ、そうだと思うよ。海賊の戦いに卑怯なんてないし、時には逃げることだって戦略の1つよ」
カイドウからの意見の確認に私も同意する。実際、そうやって海賊団を大きくしてきた様を私達は見ている。
私達も、あの人程とは言わずとも多少は考えた方が良いのかも知れない。怪物達との強さは確実に縮まっている。全力全開であれば勝てずとも、辛うじて負けない戦いが出来るくらいにはなってきた。
だがそれは、部下の差でこちらが不利になることで覆されてしまうのだ。カイドウもそれを理解しているからこそ、真剣な表情で告げた。
「おれ達が強くなるのはいいが、戦力が少ねェとあのムカつく野郎共に対処出来ねェ……お前の能力で数を補うにも限界がある」
「まあ集団戦には強いけど、一定以上の実力者には普通に破壊されるからね、私のUFO」
「そうだ……面倒くせェが、船に兵器、兵力をもっと集めねェと話にならねェ。そうすりゃ、あのムカつくロジャーやニューゲート、リンリンの奴とも一対一かそれ以上に持ち込める。そうなれば後はおれの強さだけの問題だ。問題ねェ……」
確かに、と頷く。しかし、一対一であの化け物達より強くなるとはっきりと豪語出来る辺りはさすがだ。そこらの海賊なら、怪物を倒すには戦力が重要だとか、策を弄すればいいとか、そんな小細工で対処しようとする。
だがカイドウは違う。策は弄するが、最後に頼りにするのは自分の力。純粋な強さだ。これらの策も、世界最強の海賊団になるため。そして他の宿敵を自分の力で潰すための方策でしかない。
高潔な武人ではない。だが戦いを楽しむ戦闘狂であり、同時に現実主義者でもあり、自分の信念……やりたいことを我慢せず、それを乱す者を許さない。海賊らしい──いや、カイドウらしい。他の奴らはどう思うか分からないが、私としては好ましい。面白い。楽しいと思う。
「ふ~ん? それじゃあどうするの?」
「……海賊団をデカくする。あのババアの言う通りにするのは癪だが、兵と武器に船を集めるぞ。最強の軍隊を作るために必要な物は全部集めなきゃならねェ」
「それじゃあメチャクチャな突撃は無し?」
「おれやお前だけなら構わねェだろう。部下の消耗さえ抑えられればそれでいい。──暴れられねェのはムカつくしな」
……それって結局、前と変わらないのでは……? ……いやいやまあ部下を大勢連れて無茶な突撃はしない。うん。これだけでも進歩だね!! 1人2人で突撃して暴れる分には部下も減らないから問題ない!! 理に適ってるね!!
「とりあえず今いる部下の強化とスカウトも強化するぞ。そこそこやれる幹部を増やす。強い奴は殺さねェで極力部下にするぞ。後でキング達にも伝えとけ」
「りょうか~い。まあこれもやることは今までとそんなに変わってないけどね~」
「今まで以上にだ!! 拷問でも何でもして心を折れば良い戦力になる!! ガキでも素質ある奴は幾らでもいれるぞ!! ガキの頃から教育すりゃリンリンのガキ共みたいに強くなるかもしれねェ!!」
「それはそうだけど……素質ある奴だけでしょ? 今までも子供は入れてるけど放置して死ぬような子はいらない訳だし……まあ私的には脅かしがいがあって楽しいからいいけど。子供好きだし」
子供って純粋だからいいよね。無限の可能性もあるし……いや、変な意味じゃないけどね。カイドウが悪い笑みを浮かべていたから心の中で否定しておく。実際、私は子供は嫌いじゃないのだ。街なんかを襲う時も、好き好んで子供を狙ったりはしないからね。必要があったり、目的があれば別だけど。──って、んん? カイドウが顎に手を当てて首をひねって何か考え込んでいる。どうしたんだろう。私のことをじっと見て。
まだバカなことでも考えているんだろうかと、首を傾げつつカイドウの言葉を待っていると、やがてカイドウは真顔で、
「……そういやリンリンのガキ共は全員そこそこは強ェな」
「? まあ……あのリンリンの血が通ってるんだからそりゃね。少なくとも、そこらの子供よりは皆強いはずだし」
突然わかりきったことを何を……でもまあカイドウだし、また理不尽なキレ方でもするんだろうか。大嫌いなリンリンの事だし。まあ私は頷いていればいい。驚くこともないよくある話題だし。
「……ならおれのガキも強ェ筈だな?」
「うん? まあ……理屈的にはそうなんじゃない? 白ひげだろうとロジャーだろうとガープだろうと、その子供は皆強くなるでしょ」
カイドウの質問に酒瓶を傾けながら相槌を打つ。実際、血筋はあまり争えない。まあたまには争うけどね。それでも親の強さや能力が遺伝しやすいのは生物として当然だろう。どんな獣だってそうだ。優秀で強い雄と雌の子供を作り、生存競争に勝ち抜く。それが目的で争う動物だって多く存在する。人間だって同じ。才能を受け継げていない子供もそりゃいるだろうが、それでも血が繋がっているなら何かしらは受け継いでいる筈。受け継いだのが親の短所である可能性があるだけ。あの怪物達の子供は皆とんでもない大物になるのだから信憑性は十分だろう。
──だからもしカイドウに子供がいたら……。
「……ならお前のガキも強くなるな?」
「んぐんぐ……ぷはぁ。ん~~そりゃ私の子供も強いんじゃない? ……というかさっきから何? どうしたの?」
「……なら、おれとお前のガキなら最強のガキになるんじゃねェか?」
「え? ……あはははは!! ふふ、くく……確かにね!! そりゃ私とカイドウの子供ならメチャクチャ強くなりそうだけど……く、あはは!! 面白い冗談ね!!」
「──
「ああ、うん! 面白いし良いんじゃ──…………ん?」
──その瞬間、私の思考は停止した。
言われた言葉を脳で処理出来ない。完全に、笑顔のまま固まる。
……ん? 気のせいかな……なんかとんでもないことを言われた気が……しかも頷いてしまった気が……とにかく、確認してみようと、私は笑顔のまま首を傾げ、
「……え~~~っと……今なんて──」
「──作るぞ!! 物は試しだ!! おれとお前で…………
「……………………」
……聞き間違いじゃなかったんだけど……え? え?
「え~~~~~~~~~~~~~~~!!!?」
──この世に生を受けてから最大最強の衝撃を受けて、私は腹の底から声を上げた。
最新話を見て真っ先に修正した。頭の中ですもも○もものOPが流れた。反省してません。あんな事判明したら作品的にこれしか思いつかないじゃん!! だからおれは悪くぬェ!! 閉廷!!
次回はステューシーとかワノ国行く前の色々とか。次次回くらいからワノ国に行く予定です。それと飛び六胞も原作次話でとうとう出そうですし、上手いこと調整していきます。
ちなみにカイドウとの関係は兄妹分のまま変わらないし、すぐに子供が出来る訳でもない。いつ出来ててもおかしくないようにしたかっただけです。つまり遊びの無責任……最低かな? そもそもまだやってもないしね
感想、評価、良ければお待ちしております。