正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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JOKER

 ──新世界、“デザイア島”。

 

 今日もまたその島に、大量の略奪した物資と財宝を手に百獣海賊団は帰ってきた。

 この島をナワバリにする彼らの強さ、凶悪さはこの島の住人にも世間にも有名になってきている。

 

「おい聞いたか? あの戦争してた二国とも百獣海賊団のシマになったんだってよ……!!」

 

「まじかよ。やべェな……あいつら、どれだけ暴れれば気が済むんだ……」

 

「この間も海軍に捕まって拷問や死刑を受けたけど逃げてきたって……あの2人が」

 

 民衆は積荷を降ろし、アジトに向かって運び込む百獣海賊団の船員を見ながら内緒話をする。特にここ最近のニュースは物騒なものばかりだった。

 百獣海賊団の幹部以上の戦闘力については特に有名だ。最近だと新入りの幹部や能力者も話題だが、やはり凶悪なのは“疫災”のクイーンや“火災”のキングといった島1つを滅ぼしてしまう程の連中だろう。彼らは見た目も凶悪で、この島の住人にとっては心強くもあり、畏怖すべき対象でもあった。

 そんな中、百獣海賊団のトップ2であるその少女は小さめの宝箱を手にしながら何やら考え込んでいた。港の木箱の上に座り、珍しく悩んでいるようにも見える。

 そんな少女──“妖獣”のぬえに対し、巨漢の男、クイーンが声を掛けた。部下達を引き連れて、

 

「ぬえさん。ウチに入りてェっていう女が挨拶してェと言ってるが通してもいいか?」

 

「んー、女?」

 

「おう。何でもこの島の出身らしくてよ。ぬえさんに憧れてるらしい。しかも能力者だし、期待出来そうだぜあれは!!」

 

「ふ~ん。まあいいけどね。でも今はちょっと無し。私も、これから用事があるのよね」

 

「用事?」

 

 新入りを紹介したいというクイーンだったが、ぬえには一旦断られる。用事、と聞いて何も把握していないクイーンは一応その内容を教えて貰おうと問いかける。

 するとぬえは悪い笑みを見せた。手の上の宝箱を見ながら、

 

「──私も、ウチに入ってくれそうな有望な新入りに……心当たりがあるの♡」

 

 そう言って、ぬえはその宝箱を手に自分達のアジトで待っているであろうその相手の下へと向かった。

 

 

 

 

 

 その屋敷の一室で、今日も彼女は悩んでいた。

 原因は彼女と協力関係にある海賊団が起こした事件と、彼女が所属する組織の上司からのお叱りのせいだ。

 

「アイツ……こっちの苦労も知らないで……私だってこれでも上手くやってるでしょう……!? 話にならないわ……」

 

 女性らしいその部屋で溜息をつく彼女の名前はステューシー。デザイア島の元締めにして、“歓楽街の女王”と呼ばれる裏社会の帝王の1人である。

 そしてまたの顔を、“CP0”。世界貴族直轄の諜報組織の一員である。

 彼女は数年前から表の顔を使ってこの島をナワバリにする海賊、百獣海賊団と繋がりを持ち、裏社会で政府の有利なように立ち回り、情報も含めた様々な成果を世界政府に献上してきた。

 だから今回もステューシーは裏の取り引きによって莫大な金を手に入れ、それを世界政府へと納めた。

 だがしかし、政府は彼女の働きを評価するどころか叱責してきたのだ。

 

『そもそも何故止められなかった? 彼らのことを知るならもっと早く手を打つことが出来た筈だ』

 

『これは君の責任だぞステューシー。世界政府に加盟する国が落ちたのは君のせいだ』

 

『あまり言いたくはないが……最近の君は少しばかり、働きが悪い。もう少し気を引き締めたらどうだ?』

 

 言われたのはこれがほんの一部であり、まだ言い方を考えた良識のある方。天竜人からはもっと口汚く罵られてしまった。

 ステューシーはそれらに黙って頷き、謝罪や反省の言葉を述べることに努めた──だが、腹の中は煮えくり返っていた。ふざけるな、と。

 そもそも誰がどうやって防げる。百獣海賊団の行動は突拍子もない。特に船長と副船長がメチャクチャなのだ。マイナスをプラスに変えてみせただけでも十分だろう。どうすれば良いと言うのか。あいつらは口だけだ。もっと良くしろと言いながら具体的な方策を口にはしない無能だ。弛んでいるのはどちらだ。私はこれでも、この海賊団と接している影響か、以前よりも格段に強くなってきている。あの無責任な同僚だって上司だって、一対一なら私の方が上なのだ。

 なのに私はあいつらに見下されている。そこが気に入らない。

 業腹にも今ではこの島で好き勝手している方が楽しい気すらする。そうやってバカな連中を騙して生きているのは痛快だが、こうも不自由だとフラストレーションが溜まってしょうがない。非常にストレスだ。

 何かこう……ストレスを発散出来るような方法はないかと思ってしまう。こういう時は百獣海賊団の面々が羨ましい。私も、あんな風に好き勝手暴れられれば……。

 

「! ──どうぞ。開いてるわ」

 

 と、部屋がノックされたのはそんな時だった。相変わらず呼びつけた割には神出鬼没で驚かせてくれる。中に入ってきたのは、

 

「やっほ~、ステューシー♪ 来たよ~!!」

 

「……こんにちは、ぬえ」

 

 やはり、ぬえだった。百獣海賊団の副船長である封獣ぬえ。私の友達でもある。偽りの。

 少女としか思えない見た目だが、実年齢は少なくとも大人で、実力に関しては私よりも相当上。仮に戦えば無事では済まないだろう。逃げ切れたとしても腕の一本くらいは覚悟した方がいい。

 だがそんなぬえは良くも悪くも少女らしい純粋なものだ。今も部屋に入るなりベッドに飛び込んでいったし、こちらに向ける顔はそれこそ同性の友人に向ける友愛の表情に見える。

 だが油断すれば食い殺されるかもしれない。それがありうる化け物なのだとステューシーはいつも心に留める。わかっていても油断しそうになるのが恐ろしいのだ。そう思いながら、ステューシーはぬえに呼び出した理由について尋ねた。

 

「今日はどうしたの?」

 

「いや~ちょっと報告と話があってね~」

 

「報告と話? 何かしら」

 

 百獣海賊団としての仕事の話か、それとも個人的な話なのか。どちらとも考えられる。だが手にもった宝箱や、百獣海賊団が今しがた島を襲ってきたことも考えると、仕事の話だろうと思い、自然体で身構える。

 するとぬえは明るい笑みを浮かべ、

 

「そろそろ私達、別の島に拠点を移そうと思ってね。まずは1つ、その報告かな」

 

「! それは……寂しくなるわね」

 

「そうだね~。でもナワバリから外す訳じゃないし、これからも会えるでしょ?」

 

「そうね……」

 

 と、頷きながらもステューシーは考える。百獣海賊団が拠点を別の島に移す。地味だが、確かに一大事だ。

 自分が今こうやって百獣海賊団の内情を探れているのは、自分の庭とも言えるこの島に、彼らを引きずり込んだからこそでもある。別の島ならそれほど上手くはいかないだろうし、そもそも会いに行くにも手間が掛かる。スパイ活動が難しくなる。

 そうなると自分も付いていくべきかと考えるが、それはない。他の仕事だってある。無理という程でもないが、この島を離れるのは少し不便だ。それでも百獣海賊団に付いていくメリットもあるにはあるだろうが……そこの判断は中々難しく、今答えを出せる程でもない。

 そうやって考えながら、ステューシーは思い直す。報告がそれだとしたら、もう1つ話がある筈。するとその話はやはりあの話かと思って疑問をぶつけた。

 

「……わかったわ。なら、もう1つの話は?」

 

「もう1つの話はあれ。前の勧誘の答えを聞かせてもらおうかと思ってね~♡」

 

「ああ……」

 

 ──やっぱり。話は勧誘だった。

 私を百獣海賊団に入れようとする。このぬえは少し前から度々私に百獣海賊団に入るようにと誘ってきていた。

 だがそれをのらりくらりと躱し続けているのが現状。何かをくれるとは言うが、それはまだ厳密には何かは分からない。

 しかし今ぬえの手には宝箱がある。……つまりそれが、私に対する報酬。百獣海賊団に入る見返りなのだとステューシーは気づいた。

 

「……もしかしてそれが?」

 

「うん。今回、運良く手に入れたんだ~!! やっぱ私って持ってるね!! そう思わない?」

 

「ええ、そうね……それで、その悪魔の実は……なんていう実なのかしら?」

 

「ふふふ♡ これはね──」

 

 と、ぬえはその宝箱からその悪魔の実をステューシーに見せつける。その唐草模様のついた、紫色のトマトにも似た悪魔の実。その名は──

 

「動物系幻獣種──バットバットの実……モデル“バンパイア”よ」

 

「!! な──」

 

「あはは、驚いた!? 良い顔するねステューシー!! さすがのあなたでもこの実には驚くんだ!!」

 

「ええ……その実は……」

 

 ステューシーは思わず息を呑む。動物系幻獣種。カイドウやぬえが食べているであろう悪魔の実と同じ種類であり、自然系よりも希少な悪魔の実だ。

 仮に売れば、最低でも数十億。しかし……その実に限っていえばそれ以上の値段がつけられる。

 動物系の悪魔の実はそのモデルとなった動物に変身することが出来る。だから当然、その実を一口囓るだけでなれてしまうのだ──不死のバンパイアに。

 まさに禁断の果実である。さすがのステューシーも手に汗が滲む。欲望に目が眩みそうになる。その悪魔の実を食べれば、手に入る力は絶大で……そして何より、永遠の若さが手に入るのだ。

 

「……あなたが言っていた美しさを保つというのは、そういう意味だったのね……」

 

「そうそう。これを食べれば、永遠の若さが手に入っちゃいま~す!! まあ不死って言うには大袈裟だけど、十分にチートな能力だよね!! さすが幻獣種!! ──ってことで、どうかな? これを食べて、百獣海賊団に入る気はある?」

 

「……そう、ね……」

 

 喉が乾く。思わず言葉を濁した。そこらの悪魔の実であれば断るか、受け入れるにしてもどうやってその実を奪って世界政府に献上するかを考えたかもしれない。

 だが今は、ステューシーの政府への不満と、その悪魔の実の誘惑の強さによって、酷く揺らいでしまっていた。つまり──自分がそれを得ることを考えてしまっている。

 表の裏として百獣海賊団に入るのもありか……だが政府にはどう説明するか。そもそも許可がもらえるのか。……だが許可を貰うために報告すると当然、その悪魔の実が明るみに出てしまう。

 そうなれば政府がこの実を逃す訳がない。確実に政府の誰かが食す。そうなれば、自分が食べられる可能性は0だ。

 自分の鼓動が大きく聞こえる。時計の針の音もだ。

 だがそんな中……ぬえはステューシーに近づき、その顔を近くで見上げながら言ってみせた。

 

「あはは、ステューシー。迷ってるの?」

 

「……ええ……」

 

「も~、迷わなくてもいいのに。だって──」

 

 口端が大きく歪み、まるで悪魔のような愛嬌たっぷりの笑顔で、

 

「あなたがCP0だってこと。私はとっくに気づいてるんだから♡」

 

「────」

 

 その瞬間、心臓を握られたかのような寒気がした。

 ステューシーは動けない。バレたら即座に動き、逃走を図るべき。なのに動けない。

 誤魔化しの言葉も吐けない。完全に固まってしまった。しかし、ややあってステューシーは言葉をようやく絞り出した。

 

「……いつから……気づいていたの? 私の正体……いえ、私の素性を」

 

「ん~、最初からかなぁ。何故気づいたのかは教えない。ご想像にお任せしま~す♪」

 

 そう言ってぬえはケタケタと楽しそうに笑った。それは見る人が見ればイタズラが成功しただけの少女の笑みでしかない。

 しかし今のステューシーには正しく、そのぬえの脅威が理解出来る。やはり、この少女は得体の知れない怪物。海賊だ。

 ステューシーには何故気づかれたのかすら分からない。ボロなど出してない。自分がCP0であることは知り得ない筈だ。

 その場合、考えられるのは誰かが情報を売ったことだ。自分がCP0であることを知るのは政府の人間などの一部の者だけ。

 天竜人はありえない。少なくとも可能性は低い。

 ならば同僚の誰かだろうか? こうなった今、思い返してみると、確かに同僚の振る舞いには違和感がある……気がする。確証はない。だが、そう思ってしまう。

 まさか自分が売られたのか。そうとは限らないが、そうとしか思えない。情報が漏れるということは身内が1番怪しいのだ。

 ──そしてその想像を後押しするように、ぬえの言葉がステューシーの耳元から脳に浸透していった。

 

「ねぇねぇ、もういいじゃん。政府なんてバカばっかりだし、目先の欲しか考えない自己中ばっかりだよ? そんな奴ら、別に裏切ってもよくない? 私達は歓迎するよ?」

 

 ……確かに。味方の情報を売りかねない奴らの集まりではある。

 だから自分も裏切っても構わないのではないか? やり返すだけだ。先に裏切ったのは向こうなのだから。

 

「ステューシーだって楽しく好き勝手して生きたいでしょ? 私達の仲間になれば全部、何もかも手に入るよ? 悪魔の実の力も手に入れて、スパイを続けながら、私達の仲間になって楽しく生きられる。欲しいものは何でも手に入る……そう、これは──“儲け話”よ」

 

「“儲け話”……」

 

 ……それは魅力的な提案であった。あまりにも魅力的で、いっそ悪魔的にも感じられるほどの儲け話。

 だがステューシーはまだ迷う。声を震わせて、

 

「……でも、あなたはよくても……カイドウは許すかしら……?」

 

「カイドウはそんな狭量じゃないよ? 仲間になるなら水に流す。だってステューシーはCP0で強いし、情報だってこれからは手に入る。勢力拡大を目指す私達にとっても美味しい話なんだよ? 許さない訳がない」

 

 ……そう、確かに、百獣海賊団にとってもこれは美味しい話だった。

 私が完全に裏切れば、これからは政府筋の情報を百獣海賊団は手に入れることが出来るし、悪魔の実の力を得た私という戦力も手に入る。

 最強の海賊団を作ると豪語するカイドウの目的に合致したものだ。確かに、カイドウからしても受けない手はない。

 そして私はバンパイアの力が手に入り、百獣海賊団の幹部として……政府としての立場のまま、あのバカな連中を騙して生きることが出来る。

 

「……はぁ……」

 

「どう? 心は決まった?」

 

 そこまで考えたところで、急激にステューシーは心を落ち着かせた。

 そして、深いため息を吐く。歯を見せた満面の笑みのぬえを見て、

 

「……最初から私の内心を見透かして楽しんでたのね……趣味が悪いわ……」

 

「ああ、ごめんごめんステューシー。だってバレてるのに隠してるのって面白いんだもん。ステューシーならわかるよね? その感覚」

 

「ええ、まあ……確かに、バカな連中を騙すのはとても面白いのはわかるわ……」

 

 ステューシーは思う。……このぬえには敵わない。

 カイドウにも敵わない。百獣海賊団には敵わない。勝てやしないのだ。

 ……もしかしたら、強大な力を持つ世界政府でさえ──

 

「……海賊になるなんて考えたこともなかったわね」

 

「とっても楽しいよ!! 毎日が日曜日!! 好きなことだけしてハッピー!! 他人の都合や不幸なんて無視無視!! 自由に生きてられるよ!!」

 

「……ふふ。まあ……そうね。それで、今よりも良くなるなら確かに──悩む必要なんてないわ」

 

 ステューシーは覚悟を決める。思えば、自分が楽しむためだけに政府の犬として働いてきたのだ。

 仕える相手が変わるだけ。それだけでいい。それだけで、自分は楽しめるのだ。

 その意志を感じ取ったのだろう。ぬえはステューシーの前に果物を掲げ、

 

「それじゃあ特別にあ~んってしてあげる♡ はい、あ~ん♡」

 

「ええ。それじゃあ──」

 

 と、ステューシーはとうとうその差し出された果物を一口齧り、

 

「うっ……!!」

 

「あー、うん。すっごい不味いよね~。不味すぎて未だに覚えてるもん。おえ~」

 

 確かに、ぬえの言うように酷い味だった。口に含んだ瞬間思わずえずいてしまう程。吐き気がする。

 だがそれをぐっと呑み込んだ。そして、それだけで身体に確かな違和感を感じる。

 自分の手を見て、身体を見て、何の変化もないことを確認する。

 だが確かに──何かが変わった。そしてわかる。私はこの瞬間──新たな能力者になったのだと。

 

「おめでと~!!! これでステューシーは能力者!! そして百獣海賊団の幹部となりました~~~!!!」

 

「──ええ。確かに……とても良い気分だわ。悩んでいたことが、バカバカしくなるくらいに♡」

 

 身体に力が溢れる。六式を極めた超人であるステューシーだが、動物系幻獣種の力を得て更に強化されれば、それ以上の全能感を得られた。

 だがそれでもなお、目の前の少女に対しては敵う気がしないのだから恐ろしい。本当にこの少女は何者なのか。

 ……百獣海賊団に入った今、正面切って聞いてみても良い気がした。その答えが得られないことを理解しながらも。

 

「……ねぇぬえ? あなたって何者なの?」

 

「私? 私の正体は~~~~……ひ・み・つ♡ 誰にも教えな~い♪ なんてったって……正体不明だからね!!」

 

「……そうね」

 

 やはり答えは得られない。そのことが以前は酷く恐ろしかったし、今も恐ろしくはあるが……味方だと思えばこれほど頼もしい存在はない。

 あの無敵のカイドウと得体の知れないぬえが味方であれば、怖いものなど殆どないように感じられる。私の得た力でさえ絶大なのに、この海賊団は更に強大な怪物達がひしめき合い、多くの獣を巻き込んで大きくなろうとしているのだ。

 

「さーて、それじゃあステューシー入団祝いの宴会をしたいところだけど~~~……ちょーっと、ステューシーに頼みたい仕事があるんだよね~♡」

 

「あら、何かしら? 副船長」

 

 ステューシーは友人であり、新たな上司でもある少女の声を聞く。この立場になってみれば、前よりも不安や苦労は感じない。こんな気持ちが得られるのならもっと早くこうしておけば良かったと思う。

 そしてぬえはステューシーを見て、おねだりをするように、

 

「前に……ほら、身体で……仲良くなるためにそういうことをしても良いって言ってたじゃない?」

 

「ええ、確かに言ったわね。もしかして──そういうことがしたいの?」

 

「う~~~ん、まあそんな感じ!! だからちょっとお願いしてもいいかなぁ?」

 

 どんな残酷な命令を言われるのかと思っていたステューシーだが、思わず拍子抜けする。

 このぬえが最初に命令するのは何かと思えば、そういうことだとは。

 つまりそういう趣味だと言うことでもある。

 ……可愛いところあるじゃない♡ と、少し楽しくなってしまう。

 構わない。こういう可愛い少女が相手ならむしろ今なら大歓迎だった。今は気分が良いし、それが望みならたっぷりとお礼をしてあげよう。今の私には怖いものなど何もない。どんな命令にだって応えてみせよう、と、ステューシーは快く頷き、

 

「ええ、いいわ。私はもうあなた達の部下。やれることなら何でもするわ♡ ふふふ……それじゃあベッドに──」

 

「ありがと♡ 何でもするんだね!! それじゃあベッドに──()()()()()()()()()!!」

 

「…………え? きゃあっ!!?」

 

 ──しかしベッドの方を向いたその瞬間、その部屋の景色が変わって……女性らしい部屋から男らしい無骨な部屋に一瞬にして変化する。

 そしてステューシーの背後に現れたのは、

 

「──ウォロロロ……!! まさかステューシーが政府の犬だったとはな……だがウチに入るなら歓迎するぜ!!」

 

「え、は……か、カイドウ……!! いや、カイドウ様……かしら。その……これからお世話になるわ」

 

 背後から声を掛けてきた男──“百獣”のカイドウの声に虚を突かれる。未だに何が起こったか理解出来ないまま、ステューシーはとりあえず船長に向かって挨拶をした。するとカイドウは酔っているのか上機嫌な様子で、

 

「ウォロロロロロ!! 構わねェ、お前は今日からおれの子分だ!! これで政府からの情報も伝わって動きやすくなる!!」

 

「……ええ、ご期待以上の働きをしてみせるわ」

 

「それでいい──なら、()()()()()()()()

 

「ええ、了解し…………えっ?」

 

 ステューシーはその瞬間、思考が完全に固まる。そして横から、とても良い笑顔のぬえがステューシーの手を掴み、

 

「へーきへーき♪ ちゃんと同じ部屋で見ててあげるからさ!! ──ということで、カイドウのお相手よろしくね? 私の相手はまた今度で♡」

 

「えっ…………ええ、そうね…………えっ?」

 

「ウオオオオ!!! 行くぞォ!!!」

 

「!! ちょっ、待っ──」

 

「……さーて。私は鑑賞しながら今のうちに仕事しよーっと。送られてきたワノ国の永久指針(エターナルポース)もあるし……あ、そうだ。電伝虫でちょっと聞かないと──」

 

「今はやめなさいよっ!!?」

 

 ──そうして、ステューシーは百獣海賊団の幹部として迎えられた。最高幹部しか知らない謎の幹部……“JOKER(ジョーカー)”として。……だが、苦労しないというのはステューシーの誤りであり、得た力は絶大で気分も良かったが、その日は今後の苦労を思わせる凄まじい1日でもあった。

 そしてステューシーはその日、天が2つに割れる様を幻視しながら、ぬえが何を考えているのかが余計に分からなくなり、

 

「いや~、楽しい催しだったね!!」

 

「どこがっ!!!」

 

 そして最後には、ぬえの正体について考えることをやめることにした。




はい。つまりどういうことかって言うと、正体不明ってことです。これで原作のカイドウの息子が義理の息子だろうと本物の実子だろうと、妄想の産物だろうと、どう転んでも問題ないようになりました。仮にカイドウの息子が実子じゃない場合、子供はその原作キャラの1人ともう1人になるかもしれません。さて、将来出てくるであろう子供は果たして誰の子なのか。ぬえちゃんかステューシーか、はたまた別の誰かか。今はまだ原作でもこちらでも正体は不明なので悪しからず。最低でも原作息子が出てこないと出しようがないので、子供に関しての判断は本誌待ちですね
次回からはワノ国に行きます。どっかの伯爵様は泣いていい。JOKER枠は苦労人。どうでもいいけど、ステューシーの帽子って某吸血鬼姉妹のものに似てるし、実質スカーレットでは?(暴論)
それではお楽しみに

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