正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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ワノ国

 “偉大なる航路(グランドライン)”の島々は、その航海の困難さゆえに島同士の交流も少なく、それぞれが独自の文明を築き上げている。

 近年の航海技術の発達により、昔よりは交流はあるとはいえ、やはり培ってきた文化の違いは大きく、初めて来た島では未知の物、動物、食べ物、衣服など、初めて見るものばかりで船乗りは圧倒されるものでもある。

 特に後半の海“新世界”であればそれは顕著で、世界政府非加盟国ともなれば、政府ですら与り知らぬ不思議な島も存在する。

 その新世界の島々の中でも、特に有名かつ、内情が知られていない鎖国国家。

 海風を凌ぐ松の木が根付き、狛犬や狒々といったその国でしか見られない動物達。

 木造で瓦屋根、柱は細く、天井が低めで、畳や障子、襖などの独自の建築様式で建てられた多くの建物。長屋や、天守を備えた城。鳥居と呼ばれる宗教的な意味合いを持つ赤い門や、神社、寺院。外の海でも有名な料理、寿司や天麩羅、蕎麦など多くの料理はこの国から伝わったとされ、米を中心に、旬の食材と素材の味を重視する食文化がある。酒も当然、この国独自のものだ。

 そして国中の人々が和服、着物とも呼ばれる独自の衣服を身に纏い働き、生活している。

 特にその国の職人は世界でも高い技術を持つとされ、海のエネルギーを発する特殊な石、海楼石の産出国でもあり、それらを加工する技術も持っている。

 そうやってあげれば切りのない独自の文明を築いたその国だが、何よりも有名なのは……その国の武人である“侍”。

 帯刀することを許された屈強な武人である彼らの強さは世界中でも有名で、海軍本部という一大勢力ですら、その国には近寄れないとしている。

 何せその近海は荒れ狂う悪天候。波は激しく、選ぶ急流を間違えると国に近づくこともなく船は大破する。

 そしてその国は断崖絶壁に囲まれており、入国方法を知らねば入国は困難なのだ。まさに──天然の要塞。だがその断崖絶壁の先、滝の上にこそ、かつて“黄金の国”とも呼ばれた侍の国がある。

 

『あの事件からもう10年が経つが……実際に出会って更に確信した。あんたは“武力の化身”だ──カイドウ』

 

 そしてそのことを彼らに教えた元仲間、黒炭ひぐらしは少し前にその怪物達の元に姿を現すとこう口にした。

 

『そしてあんたは“恐怖の化身”だ──ぬえ』

 

 キョキョキョと特徴的な笑いを口にして、ひぐらしは成長した怪物たちを前に誘い文句を口にした。以前から話はつけていたが、その時期がようやく来たのだと、それを説明する前に。

 

『人類の歴史上……“武力”は世界中のあらゆる問題を解決してきた……そりゃそうさね!! 人間は“動物”だ!! 弱肉強食こそ自然の姿!!!』

 

 この世の真理。少なくとも、彼らはそう信じている。ひぐらしはその理に同調出来る存在である彼ら……恐ろしい獣の軍勢に更に告げる。

 

『そして“恐怖”はあらゆる生き物を屈服させる……人間も動物である以上、生存本能からは逃れられぬ!! 自らを脅かすかもしれない存在への恐怖が動物を闘争へと駆り立てる!! ゆえに争いあう事こそ人間の自然な姿!!!』

 

『全くその通りだ!!』

 

『うんうん、その通りだね!!』

 

 そしてひぐらしの前にいる2人はその言葉に力強く同意を返した。

 この力が物を言う時代。いや、世界で彼らは更にそれを強調するべく活動していく。その第一歩。ひぐらしは彼らを自らの故郷に呼び込むことで、自らの野望と彼らの理想の世界を叶えるための一歩を踏み出したのだ。

 

 ──そうして数年後。その彼らはそこにいた。

 

「──“ワノ国”へ入国だ~~~~~~!!!」

 

「うおおおおお!!」

 

「ヒャッハー!!」

 

「ぬえ様~~♡」

 

 悪天候の急流を越え、滝を登り、やってきたその国の名前は“ワノ国”。

 余所者を一切寄せ付けない鎖国国家であり、この国では入国も出国もどちらも違法。破れば強く罰せられるし、侍が総出で余所者を追い出すだろう。

 だがそんな国にやってきた一団がいる。それは、数年前にも“九里(くり)”にやってきた連中と同じ、海賊であった。

 

「ど、どうする!? 城に伝えるか!?」

 

「でも……前に九里に来たっていう海賊達みたいに、害のない人達かも」

 

「スキヤキ様が亡くなったばかりのこんな時にか……話が通じる者達であればよいが……」

 

 その海賊達がやってきたのはワノ国の6つの里、大きな川で区切られた里の1つ、“兎丼(うどん)”にある港、“常影(とかげ)港”であり、兎丼を治める大名“風月家”の管轄下にある港である。ワノ国の正規の港は“白舞(はくまい)”にしか存在しないが、こちらも漁師や海女が潮風に吹かれながら働く兎丼の港であることには違いない。

 そこには大勢の人がいた。誰もが和服を身に着け、ワノ国独自の髪型である髷を結っていたり、中には刀を持つチンピラや武士もいる。誰もがその港に降り立った海賊達を見ていた。……彼らは知らない。外の情報が一切入らないワノ国の住人には、外の海賊や犯罪者の顔を知る筈もない。

 だからこそ、彼らは悠長に眺めてしまっていた。彼ら……“百獣海賊団”が、一度見れば誰もが逃げ出すような恐ろしい海賊団であると知らずに。

 

「あ、あんた達は一体……?」

 

「あァ? おれ達か? ははは、見りゃ分かるだろ、海賊だ!!」

 

「おらおら、散れよ民衆共。ウチに逆らったら怪我するぜ? ぎゃはは!!」

 

「今のうちに媚びへつらってみな!! そうすりゃ後で優しくしてやるかもだぜ? へへへ……」

 

「何だと貴様ら!!」

 

「黙って聞いていればあれは……どうやら畜生の類の様だな。直ぐに城に報告を!!」

 

「御意!!」

 

 港にいた風月家の侍達は、その凶悪な人相ばかりの荒くれ海賊達の下卑た笑いや挑発に直ぐに怒りの表情となる。侍が“忍者”に命令して報告をするように告げた。侍たちは今にも刀を抜かんとする構え。一触即発の様相を呈している。

 だが、彼らは目撃する。船から降りてきた、その一味の頭とその側近、懐刀と言えるであろう人物たちを。

 

「なっ……なんだあの巨漢は……!!」

 

「お、おい!! あっちの刀を差した大男、背中に黒い翼が……!! しかも燃えてるぞ!!」

 

「あっちの女は……日傘を差して……それで……!!」

 

「何だってんだい!?」

 

「…………すげェ別嬪だ……♡」

 

「見惚れてる場合か!!!」

 

「……あっちの少女は……う、浮いてる……と、飛んでるぞ……!! あの羽は何だ……?」

 

「妖怪の類か……!? 信じられん……!!」

 

「さ、最後の大男が頭か……? め、メチャクチャでかいぞ……!!」

 

 港で彼らを目撃した人々は、一様にその数人の男女を見て言いようのない不安と恐怖を覚える。男達は皆、5メートルを超える大男で、女2人は体格こそ普通だが、纏う雰囲気が男達と同じで、明らかに只者ではない。妖しい雰囲気を纏っている。

 そして、彼らの怖れは正しかった。人間であり、獣である彼らにとって、自分達よりも強い獣を目の当たりにすれば、どれだけ平和ボケしていようとも、生存本能が警鐘を鳴らすのは当然である。何せ武士もそうだが、外の海で戦う海兵ですら、彼ら百獣海賊団の幹部陣を目にすれば、恐れを抱かないことは難しい。

 

「ここがワノ国か!! ムハハ、面白ェ、どいつもこいつも変な髪型してやがる!!」

 

「──てめェも十分変だろう」

 

「あ!!? 何だとカス野郎!! てめェみたいな変態におれのイカした髪型を貶される筋合いはねェよ!!」

 

「黙れクイーン!! 誰が変態だ……お荷物のバカが……!!」

 

 その中の2人、サングラスを身に着けた金色の辮髪と髭の太った大男と、全身黒尽くめで黒い翼と炎を背負った剣士と思わしき大男が睨み合い、言い争いを始める。

 それを見て、横の日傘を持ったスタイルの良い美女が少し呆れたような表情で、視線だけを2人に向けた。

 

「よしなさいよ!! もう少し余裕を持てないの?」

 

「黙ってろ……それともお前までおれに喧嘩を売るってのか?」

 

「先に喧嘩売ってきたのはてめェじゃねェか!!」

 

「あァ!!?」

 

「喧嘩するならここではやめてよね……はぁ……それにしても喉が乾いたわね……」

 

 そう言って喧嘩を止めようとした美女だが、止めても無駄であることを悟って溜息をつく。そして上空の太陽の位置を確認しながら憂鬱そうな表情を見せた。

 そして大男2人も含めて、3人は百獣海賊団の最高幹部であり、美女以外はその顔も素性も内外で知られる凶悪犯である。

 

 ──百獣海賊団最高幹部、“戦災”のジョーカー。懸賞金2億ベリー

 

 ──百獣海賊団最高幹部、“疫災”のクイーン。懸賞金5億2000万ベリー。

 

 ──百獣海賊団最高幹部、“火災”のキング。懸賞金6億3000万ベリー。

 

 その誰もが、たった1人でも島を1つ滅ぼしてしまえる程の強さを持つイカれた連中だった。

 だが周囲の者達に恐れられるこの3人でさえ、恐れる2人がいる。それが不思議な羽で空を飛ぶ美少女と角の生えた大男だった。

 

「ふんふ~ん♪ いやぁ~、ここがワノ国か~♪ いいねぇ、最高!! 私ここ好き!!」

 

「ご機嫌だな。美味そうな肉でも見つけたか?」

 

「ずっと来たかったからね!! あぁ、早く本場のお寿司や天ぷら、すき焼きとかお蕎麦とか食べたーい♡ これがまたお酒と合うんだよね~♡」

 

「酒か。酒はいいな、ウォロロロ……!! 奴の情報だと里は6つもあるって話だ。()()()()()()()()()奪ってくか?」

 

「それは楽しそうだけど、さすがに今やっちゃ怒られるんじゃない? どっちでもいいけど。──ま、とりあえずは案内でもしてもらおっか!!」

 

「そうだな──おい!!」

 

「っ……な、なんだ……!?」

 

 その2人の気安いが物騒な会話に、侍や民衆達が顔をしかめる。刀に手を掛けて今にも抜きかねない緊張状態だったが、その2人は全く警戒することもなくおもむろに1番近くの侍に話しかけた。

 近くで見ると更に恐ろしい大男と、何故かそれに追随出来る得体の知れない少女に恐怖と不安を覚えながら答える。

 するとその2人はありえない事を口にした。

 

「おれ達は将軍代理の()()()()()に呼ばれて来た。さっさと案内しろ」

 

「お願いね~♪ あ、もしここで刀を抜くってんならそれでもいいけど~~~その時は、あなた達を食べちゃうぞっ♡」

 

「は──は……!!?」

 

 風月家の侍達も民衆も、その名前を出されて驚く。“オロチ”といえば、つい先日、ワノ国の将軍“光月スキヤキ”から、跡取りで現在は国外に出奔中の息子、“光月おでん”が帰ってくるまでの将軍代理を任された男だった。

 つまり現在のワノ国での、最高権力者と言っていい。──何故海外の海賊に繋がりが? そもそも何故呼んだ? 

 

「ほらは~や~く~!! 早くしないと食っちゃうぞ~!!」

 

「……し、しばしお待ちを……」

 

「早くしやがれ」

 

「っ……はい」

 

 少女と大男に促され、侍は懐から“スマシ”という国内専用の電伝虫の亜種、スマートタニシを取り出して確認を取ることにする。海賊達がホラを吹いている可能性も考えたが、この国にやってきたばかりの者達が、オロチの名を知ってるのも違和感がある。

 それにやはり……この2人の底知れない圧に屈してしまったのだろう。それもその筈、彼ら2人は先の最高幹部が束になっても敵わない……正真正銘の怪物だからだ。

 

 ──百獣海賊団副船長、“妖獣”のぬえ。懸賞金10億8010万ベリー。

 

 ──百獣海賊団船長、“百獣”のカイドウ。懸賞金15億1110万ベリー。

 

 ワノ国ではない海外であれば、彼らを見た瞬間に逃げ出し、許しを請う者すら現れる。……だが彼らはまだこの時、事の重大さが分かっていなかった。

 

「はーあ……待ってる間退屈だし、()()()()()()()()?」

 

「そうだな。後5分経って確認が取れなかったら殺し合おうぜ!!」

 

「──おい、早くしねェか!! 燃やされてェのかこのノロマ共!!!」

 

「早くしろ早く!! 疫災(エキサイト)弾撃ち込むぞバカヤロウ!!」

 

「悪いことは言わないから早くしなさい……5分以上掛かったら地獄を見るわよ……!!」

 

「え、あ……は、はいっ!!」

 

 分かる筈もない。……これからワノ国が、彼ら百獣海賊団の手によって……海外のそれと同じ様に、明けることのない永遠の夜が始まるのだとは、思いもしなかったのだ。

 

 

 

 

 

 ワノ国の首都。中心は“花の都”だ。気候は春。桜の花びらが舞い散るそこは花見には最適な場所だろう。

 条坊制に近い網目状の左右対称の町並みを城から見下ろすのはまさに絶景。巨大な鳥居もあるし、どこかしこを見てもその“和”の生活はまさにワノ国って感じだ。何しろ今いる場所だって城だし、天守閣だし、畳の上だしで良い感じ。

 

「はふはふっ……あむっ! ん~♡ やっぱすき焼きは美味しいわね!! 来てよかったわ!!」

 

「ああ、酒も美味ェし、中々悪くねェ場所だな」

 

「キョキョキョ……気に入ったのなら幸いじゃな!!」

 

 私達百獣海賊団は、その将軍の居城でもある城の一室に招かれ、軽い歓待を受けていた。今は幹部以外はこの部屋にいないが、下の階では連れてきた部下達も軽く酒や料理を振る舞われて楽しんでいるだろう。

 そして私とカイドウも、酒を楽しみ、私はすき焼きの鍋の前で卵を溶いてはふはふとすき焼きに舌鼓を打っていた。白菜に白滝、ネギに春菊、豆腐に、そしてお肉!! さすがワノ国。どの食材も品質が良くて美味しいね!! お酒とも合うし最高だ。

 これを振る舞ってくれた彼らにも感謝である。今私達の前にいるのは、かつての仲間のババアの黒炭ひぐらしと、琵琶法師の格好で琵琶をべんべん引いているジジイ、黒炭せみ丸。そして、

 

「お前達が百獣海賊団か……!! よく来てくれた!! 歓迎するぞ!!」

 

 そう言って私達を城に招いて歓待してくれるワノ国の将軍代理──黒炭オロチだ。そう……私達はとうとう、彼らからある程度準備は整ったとの報を受け、ワノ国に拠点を移しに、そして国盗りを協力しに来たのだ。

 そのためオロチ……目の前の小柄に見えてそこそこ背のある一見小物っぽい男は上機嫌である。だがこう見えてどす黒い想いを抱えているのだから凄いよね。中々私達好みの相手だ。カイドウも今は機嫌良く酒を楽しんでいる。

 

「ウォロロロ……将軍代理か。だがそこまで昇りつめたならもう国盗りは終わったも同然じゃねェか? さっさと将軍になって命令すりゃいいだろ」

 

「!! ああ……それはそうだが……そうもいかねェんだ!! 将軍になったところでまだおれに従う侍は多くねェ!! 各郷の大名と侠客共が何するか分からねェし、何より……」

 

「キョキョキョ……そうさ!! まずは恐怖と力を見せつける必要がある!! お前の、黒炭家の背後には海賊カイドウがついていると思わせないとならないのさ!!」

 

「武器工場を増やし、郷の男達を無理やり働かせるのも……力があってこそ。謀反でも起こされたら水の泡だ……」

 

 オロチ、ひぐらし、せみ丸はそれぞれ説明を引き継いで行くように自分達の現状、ワノ国乗っ取りの推移を説明してくれる。──あ、ちなみに周囲に忍はいない。私が見聞色で見たし、軽く脅かして追い払った。壁に耳あり障子に目あり。天井には忍びがいるもの。誰が聞いてるか分からないから警戒はしといた。それを耳にするのは私達だけでいいからね。

 何でも、計画は10年以上前から。それこそ、私とカイドウがロックス海賊団で見習いをしてる時から始まっていたらしい。ワノ国を手に入れるために、ひぐらしとせみ丸はオロチに力と知恵を授けたのだ。

 力とは、悪魔の実。ヘビヘビの実の幻獣種。モデル“八岐大蛇”だ。ちょっと親近感を感じる。こっちも蛇は出せるしね。

 そして知恵とは方策そのもの。ワノ国の中枢に潜り込んで、私達と手を組み、国を乗っ取るための計画そのものだ。

 オロチは6つの郷の1つ。“白舞”を治める大名の“霜月家”で下人として働き、人知れずお金を盗み、そしてとある人物からお金を借りまくって、ワノ国の職人に武器を生産させる。それを私達に贈ることで、手を組むことに成功した。……実際武器の性能は良くてびっくりするし、これだけでも手を組む価値はあった。

 そしてオロチはやがて、ひぐらしのマネマネの実の力で花の都の将軍家にも潜り込み、人知れず将軍、光月スキヤキを誅殺。その際に顔を触り、以降のスキヤキをひぐらしが演じることで一芝居を打ち、スキヤキは危篤、跡取りが戻るまではオロチに将軍代理を任せると告げて、その地位を手に入れた。スキヤキは不憫だったね。それはそうと、すき焼きって美味しいよね。他意はないけどさ。うまうま。

 とはいえ私達からも質問はある。カイドウが酒を飲みながら、オロチらに向かって、

 

「面倒だな。だったらもっと早く呼べばいいのによ。そんな便利な力があるならもっと早くその地位につけただろう」

 

「跡取りの息子をどうにかしなきゃならなかったんだ……!! あいつがいると、おれ達の計画は進められねェ……あいつはイカれてるからな……!!」

 

「キョキョ!! そうさ!! あの男……光月おでんさえいなければ、とっくに国盗りは成っていた!! あいつの強さは怪物級……決して甘くみちゃならない……この国に“白ひげ”の奴が来た時は気が気じゃなかったが、おでんを連れて行ってくれた……!! キョキョキョ……今は白ひげに感謝してやりたいくらいだ!!」

 

「おでんが国を顧みないイカれたバカであったからよかった。もしそうでなかったら面倒だっただろう……出来ればこのまま外で海賊を続けて、ぼっくり死んでくれればいいが……」

 

「あァ!? ニューゲートの船に乗ってるってのか!?」

 

 カイドウがその言葉に驚く。まあ白ひげは私達とも元仲間。前に敗北した縁もある。

 そんな中、“ジョーカー”ことステューシーが教えてくれる。……ちなみに彼女はもう立派な私達の仲間。盃を交わした間柄である。部下達も政府もその正体に気づいてはいないけどね。私の認識操作に掛かればこんなものだ。まあ念の為、仮面を被ったりする時もあるけど、今は顔も出している。ワノ国は情報が外に漏れない。漏れにくいから助かるよね。

 

「少し前に、白ひげの一団に加入した侍、光月おでんの情報が新聞に載ってたわ。その際に彼の手配書もね。何でも、5つ作られた隊の内の1つ、二番隊の隊長を任されているとか」

 

「そんだけ強い上に白ひげの船に乗ってるなら死ぬのは望み薄だねー。仲間の死なんて許す訳ないし。ちょっと私達も手出せないかなー、残念だけど」

 

「そう……だから帰ってこないのが1番良いが、そういう訳にもいかない!! 奴は帰ってくる!! “九里”には奴の築き上げた郷と手強い家臣もいるからね……!! こいつらもまた厄介なのさ……!!」

 

「九里?」

 

「美味しそうな名前だね」

 

「……ぬえさん、食べ物から離れねェか?」

 

 クイーンが微妙な表情でツッコミを入れてくる。──と、おふざけは置いといて、カイドウや皆と共にその情報も共有しておく。

 なんでも九里はその昔、黒炭家の治める郷だったらしいが、黒炭家が凋落してからは将軍家はそこを管理せずしばらく放置し、その結果九里は無法地帯となったらしい。元から各郷から追放された罪人や浪人が訪れる土地だったらしいが、それでも黒炭家がいる間は辛うじて人里の体を成していたという。

 だがそんな凶悪な土地を、若き日のおでんがならず者達を倒してまとめ上げ、活気ある郷を作り上げたことで、スキヤキの方から絶縁を撤回し、“九里大名”の地位を与えられたとのこと。彼の家臣は彼を慕って集まった曲者揃いの侍達で、一筋縄ではいかない者も多いとか。

 

「ふーん……でもそれくらいならまだ大したことないし、さっさと潰しちゃう?」

 

「今は駄目じゃ。各大名の権力はまだ利用出来る……!! 武器工場を作らせるにも人足は必要だからの……!! まずは儂らと共に力を、兵力を蓄え、確実に叩き潰す時を待つのが吉じゃ!!」

 

「おでんは人望も厚く、今なお国中の侍、人々から人気がある。将軍代理でおでんが帰ってくるまでの代わりという建前は、今はまだ捨てるべきではない……」

 

「ああ。そのためにお前達の力が必要だ……!! あいつらに、恐怖を叩き込んでやってほしい……!!」

 

 ババアにジジイ、オロチがそれぞれ意見を具申し、私達に頼み込む。

 正直、それくらいは朝飯前だ。なんなら、今直ぐ国中を地獄に変えることだって出来る。……が、侍を全員敵に回すのはさすがに効率が悪いってレベルじゃない。そもそも今からこの国は私達の“シマ”になるのだ。完全に滅びてもらっても困る。

 

「──ならおれに任せてくれ……カイドウさん。侍の強さの程度を、このおれが推し量ってやる」

 

「おいおい、てめェの炎だと無駄に建物が燃えちまうだろうが!! ここはおれがエキサイトに恐怖を植え付けてやる!!」

 

「皆やる気ね……私も、やれと言われればやるけど、どうするのかしら?」

 

 3人の最高幹部はそうやって自分に任せてくれと言ってくれる。頼もしい。自然と笑みが溢れる。彼らなら確かに、綺麗な地獄を見せて恐怖を植え付けてくれるだろう。

 だがせっかくのワノ国だ。ここはやはり──

 

「はいはい!! 私がやる~~~!!! 人々を怖がらせた~い!!」

 

「──ならぬえが町だな。おれは城の侍をやる」

 

「え~~~!! ズルくねェか、2人して!!」

 

「黙れクイーン。カイドウさんとぬえさんの希望が絶対だ」

 

「なら私はこの国にいる諜報員……忍者でも警戒してようかしら。ふふふ……どんな手を使ってくるか楽しみね♡」

 

「……しょうがねェ。おれも別の仕事で我慢するか──それにしてもこの肉は美味ェな……なんの肉だ?」

 

「あ、それ、()()()()()()()だよ!! 美味しいよね~♡」

 

「いやぬえさん。すき焼き食ってんだからすき焼きの肉ってことはわかって…………えっ?」

 

 私達はそれぞれ、新天地での支配と企みに悪い顔でやる気を見せる。料理と酒を堪能し、誰もが立ち上がった。

 

「行くぞ野郎共……!!! この国に、本物の海賊の恐怖ってものを教えてやれ!!!」

 

「待ってくれカイドウさん……この肉の詳細を──」

 

「よーし、行くわよー!!! ワノ国での妖怪デビュー!!! いつもより気合入れてやらなきゃね!!!」

 

「話聞いてくれねェ!!」

 

「聞かない方が良いんじゃない?」

 

「フン……さっさと行くぞ」

 

「おれは今からお触れを出すから頼んだぞ!!」

 

「ニキョキョキョキョ!! 頼もしい限りじゃ!!」

 

「幕開けだな……」

 

 せみ丸の琵琶の音が室内に響き渡る。そうして──私達はワノ国で黒炭オロチ率いる黒炭家と手を結び、ワノ国の侵略へと乗り出したのだった。




ワノ国編開幕です。というかこれからは拠点がワノ国なのでワノ国編というか侵略編というかおでん編というか。まあそんな感じで。ぬえちゃんは妖怪として暴れられそうでウッキウキです。可愛いね!
ということで次回からワノ国で百獣海賊団が楽しみます。お楽しみに

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