正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
──“
ワノ国で光月スキヤキが死去し、黒炭オロチが将軍代理として国を治め始めたこの頃、世界の海では海賊達があいも変わらず多くの事件を起こしていた。
「元気そうだなロジャー!!」
「何年振りだろうなニューゲート!!」
「「身ぐるみ置いてけ!!」」
「ジハハハハ!! イカれっぷりは相変わらずだなリンリン!! どうだ!? ガキ共と一緒におれの部下にならねェか!!?」
「ハ~ハハハマママママ……!! 黙りなシキ……おれは今苛ついてんだ……!! あのロジャーに大切な物を奪われたばっかりでね……!! 何か甘い収穫がないと腹の虫が収まらないのさ……!! だからお前の寿命で満たしてやるよォ!!!」
新世界では金獅子海賊団とビッグ・マム海賊団の小競り合いも起こり、これもまた世界各国に緊張感を走らせた。
「うざってェ……!! この砂野郎が……!!」
「随分とタフだな合体人間……だがおれはたった1人のてめェを相手にするほど暇じゃねェ。殺すのはまた今度にしといてやる。クハハハハ……!!」
また、ロジャー海賊団から独立した“鬼の跡目”ダグラス・バレットがとある大物ルーキーの海賊と戦い、引き分けたという噂も立った頃。
新世界の凶悪な海賊として真っ先に名が挙がるようになった百獣海賊団もまた、人知れず勢力を拡大させようと行動していた。
ワノ国で武器工場は順調に稼働していた。つまり、オロチ政権は順調ということである。
オロチがワノ国の各郷に武器工場を建て、各郷の男達を働かせるといった政策も、当初は多くの侍、各大名からの反発はあったが、私達百獣海賊団という武力に屈するしかなかった……のだが、それだけが大人しくしている理由ではなく、オロチ側に理があることも大きな理由だろう。
ワノ国では将軍は絶対。その将軍だった光月スキヤキが、他の大名や侍の目の前で、黒炭オロチを将軍代理に指名しているのだ。スキヤキの息子、おでんが帰ってくるまでの間とは言うが、逆に言えばおでんが帰ってこない間はオロチがワノ国の将軍である。そして、将軍には逆らえない。
それでも私達がいなければ、あるいはおでんという希望がなければ大名達は決起し、謀反を起こしたかもしれないが、おでんが帰ってくれば状況が変わるという希望こそが、彼らに耐え忍ぶという選択を選ばせたのだろう。──実際、人知れず集まった各郷の大名達による話し合いでも我慢することを皆で選んだと、私達は優秀なスパイからの情報でそれを知った。やっぱり内通者がいる時点でイージーモードだよね。相手からするとハードモードだ。可哀想。思わず笑っちゃう。
しかし全然逆らってこないのはつまらない。私達はオロチ政権をオロチ配下の侍達と共に守りながら、相変わらず戦力を整えるべく海賊活動や闇取引に精を出していた。
「やっぱりワノ国の武器は精度が良くて良いよね~。使って良し、売っても高値で売れて良し。取り引きも捗るでしょ? ジョーカー?」
「そうね。戦争状態にある国や雇われた傭兵は勿論、テロリストにも大人気よ。私達が使ってるのより型落ちの品でもこれだし、政府が手を出してくるのも時間の問題かしらね」
「フン……金が入ってくるなら何でも構わねェが、くれぐれもしくじるんじゃねェぞ」
「わかってるわよ。お金のことはきちんとしないとね」
「わかってるなら良い……どれ、そろそろ良い頃合いだ……」
ワノ国、鬼ヶ島は私達百獣海賊団の本拠地であり、現在はその島の洞窟内に屋敷を建設中であった。
だから私達はまだ別の場所に泊まったりしてるし、宴会をする時は相変わらずそこらで適当にやっている。今も、私達は鬼ヶ島の広場で多くの焚き火を焚いて大量の料理と酒を用意してのどんちゃん騒ぎを行っていた。
そんな中、私は酒の席の話として軽くシノギの話もする。相変わらず上品に飲んでいるジョーカーことステューシーにそう声を掛けてみれば、何十メートルとある巨大な肉の塊を焼いているキングがその腰の刀を抜いて肉へと刃を通してスライスした。百獣海賊団一の剣士であるキングにはこれくらい朝飯前である。──だがそんなキングを見たステューシーが何とも言えない表情を浮かべて口に出した。
「……キング。あなたって、ここの料理長だったかしら?」
「あァ!? てめェ、フザけたこと抜かしてんじゃねェぞ!! このおれのどこがコックに見えるってんだ!! あァ!!?」
「ねー、キングー、まだー? お腹空いたー」
「すまねェぬえさん、もう少し待っててくれ……──それで話を戻すが……てめェジョーカー、このおれを料理人扱いするとはお前も偉くなったもんだな……!! 一体どこがそう見えるのか言ってみろ!!」
「……ごめんなさい。私が間違ってたわ」
「──そうか。分かればいい……さて、今のうちに次の拷問……調理に取り掛かるか……」
「…………」
あっ、ステューシーが何かを諦めた顔になった。諦めて酒を飲んでる。うん、別に良いんだけどステューシー。ワインはちゃんとグラスに入れて飲みなよ。美女のラッパ飲みは一周回って魅力的に見えなくもないけどさ。他は全部上品なのにそこだけなんかおかしい気がするのは気のせいかな?
ちなみに今日の宴会は2体の新し……くはないけど、新たに戦力として2体が追加された。それが、クイーンのショーを間近で見て酒を飲んでる3体の内の2体で、
「
「ジュキキ!!」
「ジュギ~!!」
「ギギャッ!!?」
「って、うるせェよ!! 何目の前で喧嘩してんだ!! おい、酒溢れてんじゃねェかやめろ!!」
「ジュキキ~♪」
「おいこのドアホ共!! 大人しく見てらんねェのかよ!! 酒癖悪ィなおい!!」
宴会の席で必ず設けられるステージで、クイーンがいつも通り踊っていたが、それを見ていた彼ら──“ナンバーズ”が酒を飲んで料理を食べて、そして何故か殴り合ったかと思いきや酒の入った樽を零して笑っている。クイーンが自由過ぎる彼らにツッコむが、ナンバーズはやはり獣らしく自由だった。普段は言うこと聞くいい子たちなんだけど酒を飲むとちょっとだけメチャクチャになる。新しく加入した丸っこくて鋭い牙の子もノッポな子も皆楽しそうで良いことだ。あんまりやりすぎたら注意しないとだけどね。今は宴会だし多少は良いだろう。見てて面白いしね。
「ウォロロロ……ひっく。おいそういやオロチの奴はどうしたァ!!? 来るっつったのに来てねェじゃねェか!!!」
「あ、忘れてた。確かに来てないねー。どうしたんだろう。誰か知ってるー?」
「いえっ、特に連絡は受けていませんが……」
「鳥居からの報告も特に無しで……」
カイドウがオロチが来てないことに軽く怒りながら問いかけ、私もそういえば来てないことに気づいて部下に問う。しかし誰も知らない様子だった。鬼ヶ島の前にある海の上に建てられた巨大な鳥居にも、最近は見張り用の要塞でも作ろうかと一応土台を完成させたところであり、誰かが来たらそこからの報告が来るようにしてある。だがそこからの連絡もないらしい。
「ワハハ、オロチの奴、寝坊でもしてんのか? それとも花魁遊びに夢中か!?」
「何でも構わねェが来ると言ったのに来ねェとは……ウチを舐めてるのか? ──ぬえさん、ステーキが出来た」
「わーい!! さっすがキング!! こんなにデカいお肉もしっかり焼き加減!! いただきまーす♡」
「何かトラブルでもあったんじゃないかしら。スマシで確認してみたら?」
「はぐもぐ……それがいいかもね~」
「──おい!! 誰か確認してこい!!!」
「は、はっ!! すぐに!!」
カイドウが怒声で確認を取るように命令すると部下達がすぐに動く。宴会とはいえ下っ端はこういう時辛いよね。私も昔はよく雑用してたことを思い出す。──それはそうと、ステーキが美味しい。あんなバカでかい生き物だと大雑把な味がしそうだなぁ、とかイメージしてたけど、食べてみたら何だろう。野性味があって美味しい。食べごたえもあるし、歯応えがしっかりしている。でもブヨブヨしてる訳ではなく、脂身は少ない。初めて食べるお肉は基本ステーキにしてるから今はステーキだけど、この肉は煮込み料理とかに使うと味が染み渡って美味しいかもしれない。
しっかし、オロチが来ないのはどういう訳だろう。良い関係を築いているとはいえ、さすがに私達の誘いを断るほどバカじゃない筈だ。大手取引先主催の飲み会に誘われてるのに来ないとか、これがオロチじゃなかったり、カイドウの機嫌が悪かったら滅ぼされてもおかしくない。キングも面子を気にして若干眉をひそめているしね。私は別に良いけどね。代わりに何か代償さえ払ってくれるなら。……しかしホントになんだろう? UFOでも飛ばして確認しようかな? とか思っていると、
「──あ、連絡来ました!!」
「噂をすればね。遅刻の連絡かしら?」
「あ、そうだ。遅刻の罰としてお肉ロシアンルーレットでもさせよっか!! 色んなお肉を焼いて用意して、見た目は私が偽装して順番に選んで食べる。楽しそう!! 試しにやってみよっかクイーン!!」
「何でおれ!!? つーかぬえさんにとってはハズレがハズレじゃなくねーか!? そのゲーム!!」
「黙ってろクイーン……言い訳が聞こえねェだろうが」
「おれのせいじゃねーよ!! 節穴か!!」
あはは、相変わらずクイーンは反応が良くてからかいがいがあるねぇ……まあそれはそうと、部下から渡されたスマシをカイドウが受け取って出る。すると直ぐにオロチが慌てた様子で謝罪した。
「──おう、オロチか?」
『遅れてしまってすまねェ!! もう少しで到着する!!』
「ああ? 何かあったのか?」
『いや、ちょっと城に誰かが侵入したみたいなんだが……どうやら勘違いだったらしい。すまない』
「……侵入者?」
オロチのその発言に私は首を傾げる。侵入者が入ってきた。それが勘違いだとは言うけど、私としてはどうにも気になるというか、勘違いじゃないんじゃないかと思ってしまう。ステューシーも似たような感想を抱いたのか頬杖を突きながらもそれを口にした。
「勘違いじゃなかったりして。ほら、ワノ国には忍者がいるわ」
「それならどこかの大名が裏にいるってことになるな……」
「冗談だろ? もしそうだとしたら随分と度胸があるな。おれ達が怖くねェのか?」
ステューシーに続いてキング、そしてクイーンも軽く所見を述べた。うーん、確かに大名だったらバカだなぁ。もしバレたらそれを口実に皆殺しにするだけなんだけど。大名もさすがにそこまでバカじゃないと思いたい。やっぱり勘違いなのかな?
『後は……そうだ。これは侵入者騒ぎとは無関係だとは思うんだが伝えておこうと思う』
「どうしたってんだ。また生意気な侍でもいやがるってんなら勿体ぶってねェでさっさと言え。すぐに殺してやる」
『いやそうじゃねェんだが……どうやら数時間前に海賊が九里にやってきたらしい。それでその海賊が──ん? な、何だと!!?』
「あ!? 何だ!! 海賊がどうしたってんだ、早く言え!!」
オロチが突然、会話の途中で驚いた様子の声をあげた。スマシが模した顔も口を開けて驚愕している。どうやら何かあったみたいだけど……というか、海賊? ……えっ、まさか──
『い、いや……今新しく情報が入ったんだが……どうやらその“ロジャー”という海賊はもう国を出ていったらしい……しかもその船にはおでんが乗ってたと……』
「あァ!!? ロジャー!!? ロジャーがこの国に来てたってのか!!」
「え~~~~!!? ロジャー海賊団が来てたのかァ!!? というかおでんって奴は白ひげの船に乗ってた筈じゃ!!」
オロチの情報にカイドウが怒り、クイーンが口をあんぐりと開けて叫ぶ。そして私も思い出す──あっ。そういえばロジャー達って一度はこの国に寄るのよね、と。いや、忘れてたっていうか……って、見張りは何してるのよ!!
「──おい!! 見張りは何してた!!?」
「は、はいっ!! それが……どうやら見逃してしまったようで……」
「っ……何してやがるバカ共!!!」
「っ!!」
あー……うん。そりゃカイドウも怒るよね。オロチの部下の侍かウチの部下か誰かは分からないけど、各郷にはそれぞれ部下を置いていて、何かあったらスマシでオロチか私達に知らせる手はずになってる筈だし。大名がいきなり決起したり、おでんが人知れず帰ってくるとも限らないからね。だというのに見逃してたとかさぁ……いや、ロジャー達が凄まじいレベルの隠密行動でさっさと用事を済ませて出ていったにしてもだ。どちらにせよ言い訳にしかならない訳で。
「フン……使えねェバカ共が……おい。後で見張りしくじったバカを連れてこい。ケジメつけさせてやる……」
「わ、わかりました」
キングが静かにドスの利いた声で部下に命じる。あーあ、誰か分かんないけどご愁傷さま。私が言うのも何だけど、キングにケジメつけさせられるとか1番キツい制裁だよね。
そして実はこの場にいてカイドウに怒りのまま殴られるのがある意味1番楽だったりする。だって一瞬で終わるし。この場にいないし、お仕置きを別の誰かがやるってなるとキングは当然拷問するし、クイーンはウィルスの実験台。ステューシーは若さでも奪う。百獣海賊団だと誰もが知っている制裁方法。まあ滅多に身内にやるものじゃないけどね。ウチは基本楽しくて、上下関係さえしっかりしてれば割と緩いところもあるし。ただそういう緩い失敗は殺すことはないにせよ、お仕置きしてケジメつけないとね。結局私とカイドウの気分によるところもあるけど。ちなみに、私は何をするか分からない。正体不明。その時の気分で何をするか決める。ただ──噂だと食事に誘われるとか言われてるみたいだけどね。うーん。さすがに部下にそんなことはしないけどなぁ。拷問くらいはするけど。私は割と優しい方だと思う。
それにロジャーが来てたことに気づいてたとしたら……中々私達にとってはしんどいことになってたかもしれないし、もしかしたら結果オーライな可能性もある。おでんもそのまま戻らなかったみたいだし、そのことでオロチはちょっとホッとしてるらしい。
『だ、だがおでんもそのロジャーとやらももう国から出たという。目的はこれから調査するとのことだ』
「っ……ロジャーの野郎……おれのシマに勝手に入りやがって……!! どういうつもりだ……!!?」
「
「あァ!?
「……え?」
「……あ?」
私はカイドウの間で時間が止まる。共に相手の言葉に対して間の抜けた声を出してしまっていた。──え、あれ? 私、何かおかしなこと言った? ロジャーの目的は歴史の本文だった筈だし、カイドウもそれを知って……あれ?
「……カイドウ。
「あの訳わかんねェ石のことか!? ……確かに
「ウソ!! 私言ったよ!! なんか大昔の歴史の事とか、最後の島への行き方とか、古代の兵器の事とか書いてあるって!! ──多分!!」
「ウソつけ!! 聞き覚えねェぞ!! ──多分!!」
「酔ってたから憶えてないだけでしょ!! 酒の席だったとは思うけど言ったもん!! だからてっきり知ってて放置してるのかと思って……って、オロチ!! あんた、カイドウにもちゃんと歴史の本文の事伝えたんでしょうね!? 前に城の地下で見つけた時にカイドウにも後で伝えとくって言ってたでしょ!?」
『あ、ああ、そういや…………言っ──いや、すまねェ……忘れてた』
「「大ボケかてめェ(あんた)!!!」」
『ヒィ!!? す、すまん!! てっきりもうあんたが伝えてんのかと思って!!』
私とカイドウは同時に怒声を響かせる。オロチは通話越しに怯えていた。そして周囲の部下達も怯えている。──だが、私達は止まらなかった。
「ロジャーの目的は世界一周よ!! その為に赤い石、“ロード
「ぬえてめェ!! そんな大事な事はもっと早く言いやがれ!!」
「だから言ったわよ!! そしたらあんた確か“どうでもいい”って言ってたでしょ!!? 歴史には興味がないって!!」
「確かに興味はねェが知ってたら邪魔出来ただろうが!!」
「だからあんたが忘れてるだけでしょうが!!」
そう言って、私は三叉槍を手に持って構えると、カイドウもほぼ同時に金棒を取って構える。お互いに非を認めない場合、もうこうするしかない。このバカを、殴らないと気が済まない。
「やめてくれよ、カイドウさん!! ぬえさん!! お、お前らも止めろ!! あのままじゃまた暴れちまうぞ!!!」
「無茶言わないでくださいよクイーン様!! おれ達が止められる訳ないでしょう!?」
「そうですよ!! 一瞬で挽き肉にされちゃいますよ!! クイーン様が止めてください!!」
「ば、バカヤロウ!! おれにチャーシューになれってのか!? 止めるっつったって……ああ、そうだ。今日はおれ、花の都を視察しようと思ってたんだったな……ということで、ここはお前らに任せたぞ!!」
「逃げる気満々じゃないですか!!」
──なんだか部下が揉めている気がするが、今の私にはカイドウしか見えていない。覇気を込めてお互いに武器を叩きつけ合う。
「「おおおお!!!」」
『ぎゃああああ~~~~~!!? 天が割れたァ~~~~!!?』
「頭達の喧嘩だ~~~~!!! 鬼ヶ島から脱出しろ~~~~!!!」
「ロジャーどころじゃねェな……!!」
「とりあえず巻き込まれないように船や大工も連れて逃げるしかないわね……」
金棒と三叉槍が直前でぶつかり合い、衝撃波を撒き散らす。相変わらずのパワーだが、私だって負けない。それにこっちはスピードにも長けているのだ。久しぶりのガチ喧嘩だが、今回こそカイドウをボコボコにしてやる!!
──鬼ヶ島の宴会中、ロジャー海賊団の来訪と『言った言ってない』という何てことのない言い争いから始まった百獣海賊団の船長と副船長、カイドウとぬえの喧嘩は鬼ヶ島だけではなく、周囲の天候すら荒れ狂う凄まじい戦いであった。
鬼ヶ島が砂浜から確認出来る距離にある兎丼などでは、鬼ヶ島上空の空を指して、民衆たちがそれを恐れる。
──それは天に舞う2つの巨体。怪物同士の喧嘩だった。
「な、なんだあれは……!?」
「ば、化け物だ……!!」
「夢でも見てるのか!? 龍と妖怪の喧嘩なんて……!!」
そう──鬼ヶ島で一週間にも渡って行われたその喧嘩は当然、兎丼の住人にも目撃されていた。……もっとも、その現実感のない光景──雷や炎が吹き荒れ、大量の空飛ぶ円盤が宙を飛び回っている光景から、当初は夢か幻か疑う者も多かったが、何時間も、ましてや一週間も続けば誰だって現実だと気づく。
それにカイドウとオロチの部下達が言っていたのをどこからか耳にしたのか、それが百獣海賊団の船長のカイドウと副船長のぬえだという情報まで漏れ、より一層住民達を怯えさせた。
「いつになったら終わるんだ……?」
「さァな……とにかく、今は巻き込まれねェことを祈るしかねェ」
「おれ達の畑が……」
「凄い落ち込みっぷり……大丈夫ですか……?」
そしてカイドウとぬえの部下達、百獣海賊団が兎丼まで逃げて待機し、その喧嘩がいつ終わるのかと眺めること一週間だ。……何故か一部の船員が膝と手を地面について落ち込んでいたが──それはともかく、唐突に2人の喧嘩は終わった。
波が静かになり、絶え間なく響き渡っていた轟音もピタッと止まる。鳥や魚、動物達が怯えて逃げ去っていたが、それも戻ってくる。
そこで百獣海賊団の船員達はキングやクイーンらの指示で鬼ヶ島へ戻った。そして知っている。こういった喧嘩の後の2人というのは、大量の酒と食事を所望してくるのだ。
まるで神へのお供え物か何かのようにそれらを持って行くと、ボロボロとなった岩場の中心で、2人は既に酒を飲んでいた。
「──ウォロロロ!! よし、ぬえ!! 全部壊してやろうぜ!!」
「──あはははは!! 当然よカイドウ!! 世の中をメチャクチャにしてやりましょう!!」
「うお……既に飲んでやがる……どこから酒を持ってきた……? 肉は……まあどこからか調達したんだろうな……」
広場にはカイドウとぬえが身体に傷を作りながらも酒と食事を楽しんでいた。しかも既に出来上がっていた。一体どこから持ってきたのかと頭に疑問符を浮かべるが、ぬえの能力ならUFOを飛ばして酒や食料を調達することも可能なので深くは考えないことにする。
そして先頭に立つキングとクイーン、そしてジョーカーなどの最高幹部を前にしても、カイドウとぬえは笑いながら酒を飲んでいた。しかし彼らにはちゃんと気づくと、部下達が持ってきた食事を手に取りながら声を掛ける。
「オイおめェら喜べ!! ウォロロロロロ!!」
「そうよ喜びなさい!! あはははは!!」
「なんすか」
2人の言葉というか、あれだけの喧嘩の後だというのにご機嫌な2人に半ば呆れながらクイーンが応答する。酔っぱらいの相手は面倒だが、この2人の場合は余計にそう思うのだ。だが子分としての役目を全うして一応聞く姿勢は取る。
すると2人は酒を浴びるように飲みながら告げた。
「世界を取るための鍵の1つは既に持ってたんだ!!」
「後3つ集めれば世界は私達の物だし、それ以外の石でも集めれば世界を破壊出来るかもしれないんだから!!」
「世界を取るための鍵……?」
「
「……確かに、
百獣海賊団の最高幹部達がその内容を耳にして眉根を寄せる。だがジョーカーことステューシーだけはその機密を確信ではなくともある程度知っていたため、その言葉に頷く。そして同時にホッとする──喧嘩に巻き込まれなくてよかったと。何せステューシーも歴史の本文について、カイドウは既にぬえから教わっていると思っていたのだ。こっちも教えなかっただろうとか追及されたら地獄を見るところだった。だから胸を撫で下ろして続きを聞く。2人はやはり上機嫌だった。
「ふふん!! 今の私達には過ぎたる物かもしれないけどね!! でもいつか絶対手に入れるわよ!!」
「そうだ!! おれ達は最強の海賊団になってそれを手に入れて全部ぶっ壊すぞ!! 焦る必要なんてねェ!!」
「何だ……? よくわかんねェが、喧嘩が収まっただけ良かったか……」
「……おいステューシー。説明しろ」
「ええ。とはいえ、私が知ってることに限るけど」
今度はクイーンが安堵する。そしてキングがステューシーに説明を求めた。……だがステューシーはこうも思う。
もしかしたらこの2人がどういう訳か知っている情報は、政府の諜報員であった自分の知る情報より深いものなのではないかと。彼らの経歴から考えると、それも十分にあり得ると知っていたステューシーは、それも確認するべく、自分の知っている歴史の本文についての情報と見解を最高幹部を含む百獣海賊団の面々に説明した。
だがその間もカイドウとぬえは酒を飲んで騒いでおり、
「おい、オロチの奴も呼べよ!! 今日は記念日だぞ!!」
「は、はいっ、ただいま……」
「後で石も貰っとかないとね!! そんで屋敷が出来上がったらどこかに保管しましょう!!」
「いい考えだ!! それもオロチに言っとけ!! 石を寄越せってよ!!!」
「それもすぐに……!!」
「ウォロロロロロ!!!」
「あはははははは!!!」
鬼ヶ島にはカイドウとぬえ。世界にとっての災厄とも言える危険な2人の笑い声が響き渡る。今日この日、彼らは前々から手に入れたも同然だったとはいえ、“ロード
──そしてそれはゴール・D・ロジャーが世界一周を達成する……僅か一年前のことであった。
ナンバーズ→また増えそう
武器工場→順調
鬼ヶ島→耐久値は普通の島よりも高い
ロジャー→時間がないからか珍しくオロチやカイドウにも気づかれず盗み取ったっぽい
歴史の本文→半分言った。どっちも合ってて間違い
畑→焼けた
そんな感じです。次回は今回でトキや犬猫が帰ってきてるので、イベント発生です。あれですね。お楽しみに
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