正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる   作:黒岩

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変災

 ──ワノ国。

 黒炭オロチが代理の将軍の座についてから既に2年以上の月日が経っていた。

 この頃になると良くも悪くも大名も民衆もオロチの支配に慣れ始めた。どれだけ文句を言おうが将軍の座についているのはオロチであり、他の大名や民衆に理はなく、力で何とかしようにもオロチのバックには百獣海賊団。既にワノ国では知らぬ者はいない程の怪物、カイドウやぬえがいる。その恐ろしさや打って出た際の犠牲を考え、人々は反逆の選択肢を取りづらくなる。

 武器工場の労働は過酷で、更に賃金は雀の涙程度。暮らしてゆけぬ程の賃金しか貰えず、多くの人々が以前よりも貧しくなった。

 例外と言えば花の都くらいのもので、花の都はオロチの居城もあり、ワノ国の命綱でもある。自身や配下の侍達が生活することを考えると花の都だけは労働を免れ、以前と変わりなく栄えていた。──とはいえ、貧しくなってきた者を徐々に追い出すようになってはいたが。

 逆らってもしょうがないのだから逆らわない。オロチやオロチ配下の役人、そして百獣海賊団がどれだけの蛮行を重ねようとも我慢するしかない。将軍への謀反は大罪だ。確実に倒せるならまだ良いが、それが無理なら相手に反撃の口実を与えてしまうことになる。

 オロチ側もまだ大名や侍を利用したい思惑があるのか、それとも耐え忍び屈辱を受けるワノ国の住民を敢えて見続けたいのか、未だ問題を起こさない反乱分子をある程度放置はしている。──あるいは逆らった時に叩き潰され、処刑される彼らを楽しみに待っているのか。オロチの思惑は他の大名や侍、民衆には分からない。ただ単に暗君なのか。それともカイドウの傀儡なのか。オロチに苦しめられる人々は様々な推測を行うが、考えても分かるはずもなく、結局は被害と犠牲を最小限にするべく動くのみであった。

 ただ唯一希望があるとすれば──正式な跡取りである光月おでんの帰還。

 彼は今、外海に出て海賊をしており、いつ帰ってくるとも知れぬ男であり、破天荒で強い男ではあったが、為政者に向いているかはわからない。

 だがそれでもオロチよりはマシな筈と希望を持っている。おでんを昔から知る者、昔まだおでんがワノ国にいた際、おでんとその立派な侍達の姿を見て聞いている者達なら誰しもが思うことだった。

 それでも、大名や次期将軍としての責任を放り出して海に出た事を責める声は少なくなかったが、それも九里においては変化しつつある。

 その理由は1人の女性にあった。

 

「おトキさん、毎日ありがとうね~」

 

「いえ、これくらい全然! 困った時はお互い様ですから!」

 

「でも少し前まで身体が悪かっただろう? 大丈夫かい?」

 

「大丈夫ですよ! 長旅で少し疲れが溜まってたみたいで、もう治りました! それにこれくらいでへばってたらおでんさんに怒られちゃいます」

 

 綺麗な花柄で上質な生地の、しかし何度も縫った跡のあるボロボロの着物を着ながらも、町の仕事を明るい笑顔で手伝い、汗を流す美女がいた。

 その光景は様になってはいるが、彼女は町1番の美女である平民……という訳ではない。むしろその逆。

 彼女こそ、ワノ国の次期将軍にして今は海外に出て海賊をやっている九里大名、光月おでんの妻、光月トキだった。

 彼女は数ヶ月前におでんに付いていった家臣の内2人と、おでんとの間に産まれた子供2人を連れてこの九里に帰ってきたのだ。

 

「それでおでんさんったら、話も聞かずにすっ飛んじゃって──」

 

「ははは!! そりゃまいったね!!」

 

 だが大名の妻だからといって偉ぶることもない。気品はあるが気位は高くない。むしろ親しみやすく、国の現状、民の生活の苦しさを知ると、病が治ってすぐに町人の仕事を手伝い始め、その合間におでんの冒険の日々を楽しそうに話すのだ。

 そうして自分達の為に働いてくれながら、常に明るいトキと接する内に、九里の城下町におでんを悪く言う者はいなくなった。

 そしてそれを見続ける家臣達もまた、おでんに仕えたのは間違いではなかったと己の忠義を更に厚くし、今は国や人々、そして主君の為に一層努力する。

 

「トキ様。そろそろ……」

 

「ありがとうネコマムシ。それじゃ悪いけれど……」

 

「ああ、今日もありがとなおトキさん!!」

 

 しかしトキも大名の妻であり、実質的に今九里で1番の権力者でもあり、常に町人の仕事の手伝いをしている訳にもいかない。それでも今こうやって何かあった時に呼ばれたりお迎えが掛かるまでは精一杯手伝ってくれていた。2人の子供の世話だってあるというのに。

 だからこそ、町人もまた顔を明るくする。そう、まだ絶望でも何でもないのだ。苦しいのは自分だけではない。それでも、精一杯生きて笑顔を浮かべる人もいる。

 貧しいとはいえ頑張れば生きていける。楽しいことだってある。そして何より希望がある。──ならもう少し、なんとか頑張ってみようじゃないかと、九里の人々は互いに助け合いながらその時を待ち続けることにした。即ち、正当な跡取りの帰還を。

 

「ネコマムシ。皆は?」

 

「今日はアシュラや傅ジローも帰ってきとるき。皆でモモの助様や日和様と遊んどるぜよ」

 

「なら良かった。それじゃ今日の夕飯は皆一緒にいただきましょう!」

 

「それは楽しみぜよ!!」

 

 トキはこの苦しい状況の中でも笑顔を失わない。息子のモモの助や娘の日和。一緒にワノ国に戻ってきたイヌアラシにネコマムシや、留守を預かってくれていた錦えもん達家臣に、九里の住人達。

 そして何より、おでんのことを思えばこれくらいの苦難は乗り越えてみせると強い意志を持ち続けていた。自分達はおでんの弱みじゃない。私達には私達に出来ることが、救えるものがあるはずだと。

 

「トキ様! お帰りなさいませ!」

 

「イヌアラシ──あら、モモの助はイヌアラシに遊んで貰ってるのね」

 

「母上! ネコマムシ! くるしゅうないでござる!!」

 

 そしておでん城に帰れば、ネコマムシと同じくミンク族の侍、イヌアラシがトキとおでんの息子であるモモの助を背中に乗せて遊んでいた。お殿様ごっこなのだろうか。まだまだ、モモの助には国の状況を理解するには幼すぎるのもあって、モモの助の顔には何の不安もない笑顔が浮かんでいた。

 

「お帰りなさいませトキ様!!」

 

「錦えもん。あっ、アシュラに傅ジローもお帰りなさい。皆で日和と遊んでくれてたのね。長旅で疲れてるでしょうから休んでいてもいいのに」

 

「いやいや、むしろ息抜きになって良いですよ!!」

 

「こちらの方が休憩になりますんで構わんでも平気です!!」

 

 国中を回って金を貸したり返したりしていた傅ジローや、九里の山賊やヤクザの棟梁となって彼らが暴れないようにと見張っているアシュラもまた、今日は城に帰って皆との団欒を楽しんでいた。

 彼らはオロチに反抗することなくどうにか今の生活を守ろうとしている。後もう少しでおでんは必ず帰ってくる。だからそれまで待ち続けると決めたのだ。帰ってくれば、おでんを旗頭にしてオロチもカイドウも必ず討ち倒せると信じていた。

 それまで何があろうと我慢し続ける。──そう思っていた彼らは、遂に起こってしまった凶行に、あっさりと刀に手をかけるのだった。

 

 ──九里の武器工場で労働を拒否した男と、()()()()が処刑された。

 

 トキや錦えもん達がそれを知ったのは、オロチの役人が武器工場にその男の家族を連れ出し、実際に処刑した後であった。そして、その事件は彼らの顔を青褪めさせ、あるいは怒りで額に青筋を浮かばせた。

 労働を拒否した男の処刑。これだけなら、もしかしたら彼らは我慢したかもしれない。無論、怒りは覚えるし、結局は刀を手にとっていたかもしれない。

 しかし家族とはいえ工場の労働とは無関係の妻や子供まで処刑されては、さすがの彼らも我慢の限界だった。

 一家丸ごと処刑。撫で斬りにするなど、鬼畜外道のやることだと誰もが憤る。これまでの積み重なる蛮行を辛うじて耐えてきた彼らは、その事件で完全に痺れを切らし、怒りのままにオロチの下へ乗り込んでいった。

 そしてそれを、トキもまた止めることが出来なかった。一応の備えとして城の番に残ったイヌアラシと河松を置いて、彼らは花の都へと向かったのだ。

 

 ──だがその安易な行動がまたしても彼らを傷つけることになる。

 

 彼らの情報は全て、最初から……敵に筒抜けだったのだ。

 

 

 

 

 

「──え~? まさか本当に攻めてきたの? あはは、度胸あるね~♪」

 

『本当じゃ。キョキョキョ……!! だから今の隙に刺客を送ってくれ。頼んだぞ……!!』

 

「はーい。デリバリー承りました~。じゃあね~~~……っと。さてさて、それじゃあ近くの部下を向かわせよっか」

 

「はいっ!! すぐに連絡してきます!!」

 

 と、私はスマシで伝えられた報告を聞いて、鬼ヶ島から九里にいる百獣海賊団の船員に連絡をさせた。九里の城を適当に襲ってやれと。

 オロチがいる城の方はひぐらしにせみ丸がいるし、問題はない。あの侍達じゃせみ丸のバリアは突破出来ないし、今からカイドウが城へと向かう。オロチを討つことは不可能だ。そう思い、私は浮き上がって──部下から声を掛けられる。

 

「ぬえ様!! どこへ行くんですか!?」

 

「ちょっと私も九里で遊んでくる~。何かあったらキングかクイーンに指示よろしくね~♪」

 

「ぬえ様自らが……!! は、はいっ、了解しました。御二方に伝えておきます」

 

 お願いね~、と部下達に手を振って私は鬼ヶ島から九里へと向かうことにした。これもちょっとした暇潰しでありお楽しみだ。最近は反抗的な奴が少ないし、ワノ国を支配する必要があるし、オロチ側の指示もあって以前程自由に暴れられてもない。だからたまには暴れておかないとね。自分の鬱憤もそうだが、そうしないと相手も必要以上の希望を持っちゃうし。いや、持ってても良いんだけど、それはほら、叩き落とすための準備みたいなものだ。

 高度が高ければ高いほど、そこから墜ちた時のダメージは高いもの。今だと完全には墜ちずに踏みとどまるだろうけど、見せしめをしない訳にはいかないからね。逆らわれると楽しいが鬱陶しくもあるので、ここはほんのちょっと痛い目を見て貰おう。

 

 ──そうして自然と悪い笑みを浮かべてしまうのを自覚しながら、私は九里の部下達を追いかけるようにおでん城へ向かった。

 

 すると見上げ、私に気づいた船員達がぎょっと驚いた。

 

「ぬえ様!!?」

 

「何故こんなところに……!!」

 

「暇潰し~♡ 私も行くから皆指示に従ってね?」

 

「え、ええ。はい。それは勿論……!!」

 

「へへへ、ぬえ様が来るなんて、あいつらついてねェなァ」

 

「でもぬえ様!! まさか九里を滅ぼしたりはしませんよね!?」

 

「ん~? そうね~……」

 

 私はその部下達の質問に顎に手を当てて考える。まあ滅ぼすことはしない。

 とはいえだ。見た限り、九里の城下町に住む人々はまだまだ貧しいとはいえ余裕があるように見える。これじゃただ貧しいだけだし、その貧しさも生温い。それと面白さを加味して、私は答えた。

 

「やだなぁ、滅ぼす訳ないでしょ? これからやるのは見せしめ♡ だから必要以上にやりすぎちゃ駄目だからね~?」

 

「了解です!!」

 

「あ、それなら城に行かせた部下は──」

 

「それは全然オッケー。今から私も行って、ちょっと楽しんでくるから、あなた達はここで待機よ」

 

「はっ!!」

 

 と、部下達が良い返事をしてくれたところで、私は飛んで城の天守。彼女達、犬と魚も含めた彼らを覗き見る。それは今まさしく、部下達が部屋に押し入って矢を放ったところで──

 

「ギャハハハ!! 死ねェ~~~~!!」

 

「っ!!? くっ……!!!」

 

「っ!!! トキ様!!!」

 

「トキ様!!! 矢が足に……!!!」

 

「……!! 私は大丈夫だから……あなた達は敵を……!!」

 

 おおー!! 矢が綺麗な太腿にぐっさり刺さっちゃってる!! ウチの部下、さすがに容赦ないねぇ!! グッド!! 家臣達の青褪めた顔と光月トキの痛みに耐えて気丈にも強く言葉を発するその表情は中々に嗜虐心を刺激する。中々良いワンシーンだ。カメラがあったらシャッター切ってたね。持ってくれば良かったかな。まだ何が起こったのかイマイチ分かっていない子供達の驚き顔も悪くない。初めて見る殺意と敵意を持った敵に、初めて見る親が傷つく様。ロジャー海賊団時代はロジャー達がバカみたいに強いし、絶対に守ってただろうからそういうところは見たことがなかっただろう。おでんも傷つくことはなかっただろうし。うんうん。こうやって子供からちょっとずつ大人になっていくんだよね。良いことだ。

 

「ゆガラら……!!!」

 

「一生の不覚……!!!」

 

「ぐああっ!!?」

 

「うおおっ!! こいつら強ェぞ!?」

 

「怯むな!! 相手はたった2人だぞ!! やっちまえ!!」

 

 そして次はイヌアラシと河松がウチの船員を怒りと後悔の狭間の中で蹴散らしていくワンシーン。うーん。この怒りっぷりも中々だし、見ていたいのは山々だけど、下っ端とはいえウチの部下達がやられまくるのもなんかなー。ってな訳で、私参上。イヌアラシと河松の間に割り込んで剣を受け止めてやる。

 

「どうも~、おじゃましてま~す♡」

 

「っ……お前は……!! ぬえ……!!」

 

「!! まさか、本当にこの様な少女が……!!」

 

「少女じゃなくて美少女!! そこら辺ちゃんとしないと……ぶっ殺しちゃう──ぞ!!」

 

「!!!」

 

「ぐ、ゥ……!!!」

 

「イヌアラシ!! 河松!!」

 

 槍を振るってイヌアラシと河松を壁に叩きつける。相変わらず2人とも強い。ウチに入ってくれないかなー。無理なのは分かってるけど、ミンク族と魚人の侍。しかも私が気絶させるつもりで殴っても気絶しない2人なんて貴重だ。これは強い。

 しかし今はそういう空気でもないらしい。別に読む気もないが、光月トキが子供達2人を抱き抱えてそれを守るようにしながらも、イヌアラシと河松の身も案ずる声を上げている。うーん。せっかくだし自己紹介しておこう。短い付き合いだけど。

 

「はーぁーい♡ あなたが光月トキね!! 私は百獣海賊団の副船長にして、新世界一プリティでチャーミーなアイドル海賊、封獣ぬえ!! よろしく~!!」

 

「あなたが……あの……!!」

 

「ん? もしかして知ってくれてる? ……まあ私は有名だもんね!! それにロジャー達とも知り合いだし、そりゃ皆知ってるか。──とはいえ、今日は見せしめに来たからね!! 手加減しないよ~?」

 

「……子供達には、指一本触れさせません……!!」

 

「トキ様……逃げてください……!!」

 

「左様……!! ここは我らが足止めを……!!」

 

 おっと。イヌアラシと河松が起き上がってきた。さすがだ。うーん、ウチの部下にもこれくらいの根性が欲しい。いやまあないとは言わないけどね。そりゃいるにはいるけど、当たり前だが殆どの船員は雑兵だからこういう部下達は幾らいてもいいのだ。ここに来てる私の部下達なんて今も私の後ろでやんややんやと囃し立ててるだけだしね。

 

「ぎゃはは!! 笑わせる!! ぬえ様から逃げられるとでも思ってんのかァ!!?」

 

「諦めるんだな!! てめェらは今日ここで死ぬのさ!!」

 

「精々優しく殺してくれるように今のうちに頼んでおいた方がいいぜェ!!? ぬえ様は容赦ねェからよォ!!」

 

「っ……」

 

 ──で、それを聞いたトキちゃん達は歯噛みすると……うーん、この清々しいくらいの悪人感。悲劇一歩手前って感じ。このまま私が敢えて母親の命だけ奪ったりしてみれば、後で凄まじい悪人として回想されちゃったりするんだろうなぁ。ふふふ。それはそれで楽しそうなんだけどねー。

 だが生憎と、

 

「ん~? 私、別にあなた達を殺す気はないんだけどなぁ。皆何を勘違いしてるの?」

 

「!!?」

 

「え……ええっ!!? そうなんですか!?」

 

「見せしめって言ったでしょ? だから私達は恐怖を与えにきたのよ。舐められないようにね」

 

 そう。私は別に、この光月の連中を殺す気で来た訳じゃない。少なくとも今は。

 それを伝えると部下達は驚き、顔を見合わせながらも納得して頷いた。しかし彼女たちは警戒を解くこともなく、私をじっと睨んでみせる。あー、可愛いねぇ♡ そういう顔されると曇らせたくなっちゃうなぁ。思わずニコニコと微笑ましい笑顔を浮かべてしまう。

 

「……信用出来ません……!! ならあなたは一体何をもって見せしめにすると言うのですか……!?」

 

「それはほら、これから見てると良いよ。──ほら、()()()()()()よく見えるじゃない」

 

「えっ……」

 

 私は天守からの景色……そこから一望出来る九里の城下町を指して告げる。トキは足に刺さった矢の痛みに耐え、子供達を守ろうと警戒しながらも、それを見た。イヌアラシや河松も。そして私の部下達も見た。

 

 九里の城下町。その空に現れる──無数の未確認飛行物体(UFO)の姿を。

 

「な、なんだあれは……!!」

 

「鳥じゃない……!! 一体何が……!!」

 

「あら。あなた達、UFOを見るのは初めて? なら楽しんでいくといいわ。私のUFOによる正体不明で素敵な──恐怖のショーを!!」

 

「っ……まさかあれ全部……!!」

 

 初めて見るUFOに恐れを抱く彼らに、私は続く恐怖を見せつける。城下町に住む大勢の人々もまた、上空を見上げ、理解不能で正体不明の恐怖を感じて心を震わせている。

 それらを感じ取りながら、私はUFOに指示を出した。一斉に、特定の目標に向かって、

 

「“正体不明”……“絶望のUFO軍団襲来”……!!!」

 

「!!!」

 

 その瞬間、赤、青、緑、虹色。それぞれのUFOが一斉に、町の破壊を開始した。

 

「何……これ……!!」

 

「っ!! モモの助様!! 日和様!! 見てはなりません!!」

 

「いやいや、せっかくやってるんだから全員で見てよ!! 私のショーは年齢制限無しのオールフリー!! 誰でもウェルカムなんだから♪」

 

「貴様……!!」

 

「メチャクチャだ……!!」

 

 私は是非見ていってほしいと敢えて見やすいように、多くの悲鳴が聞こえるように狙ってそれを行う。

 今城下町で起きているのは、正体不明の飛行物体による大規模な空襲。理解不能、摩訶不思議。理解出来ない力が実害を撒き散らし、人々に恐怖と死を振り撒く。島1つをいとも容易く滅ぼしてしまう──“変災”だ。

 

「なんだあれは!!?」

 

「逃げろ!! よくわからねェが逃げなきゃ死んじまう!!」

 

「お、おれの家が燃えてる……!!」

 

「畑にクレーターが……!!」

 

「井戸も破壊されたぞ!!」

 

「だ、誰か……助けてくれ……!!」

 

「ぶ、武器を取って守らないと……!!」

 

「バカ!! あんな空に浮かぶ訳の分かんねェ物とどうやって戦えって言うんだ!!?」

 

「ぎゃああ~~~!!」

 

「町が燃えてく……!!」

 

「ど、どうすりゃいいんだよ……こんなの……!!」

 

 悲鳴とは不思議なもので、それが決死のものとなり、それが連続すれば数里先にいても感じ取れる。

 城から見下ろしてみればそれはまさしく絶景だ。町は燃え、人は傷つき、悲鳴は連鎖する。彼らの恐怖はきちんとこの場所に届く。

 そして当然、実際に実害を受けずとも、この光景を見た人間には強く動く感情があるだろう。善人であれば、当然義憤にでも駆られる筈だ。

 

「っ……これを……今直ぐやめて……!! あなた、自分が何をしてるかわかってるの!!?」

 

「ん~? わかってるけど、それがどうしたの? たかだか町を破壊してるだけじゃない。人だってそんなに殺してないけどなぁ」

 

「えっ……!!?」

 

 と、なんか糾弾されたけど私はよく見てよと城下町を見渡し、見聞色で感じながらも言う。きっと彼女達も、よく目を凝らして見れば分かる筈だ。その──死者の少なさに。

 というか何度も言っている。これは見せしめだ。皆殺しにして破壊の限りを尽くしに来たんじゃない。もう一回詳しく言わないと分からなさそうなのでもう一度説明してやる。

 

「大切な労働力を殺しちゃったら意味ないじゃない? だから今やってるのは町の破壊よ。まあそりゃ多少は怪我人も出て死ぬだろうけど、別に九里そのものを滅ぼしはしないわ」

 

「っ……何故、こんなことを……!!」

 

 あ、今恐がったね~? 私にはわかるよ。恐怖には敏感だしね。タイミング的に、やろうと思えば九里くらい滅ぼせることを脅威にでも思ったかな? でもそれくらいで怖がられてもなぁ。ただの人間がどれだけいようが、国土がどれだけ広かろうがそこにいるのが雑魚なら滅ぼすくらい難しくはない。ロジャーやおでんも出来ただろうに。私でもそりゃそれくらい出来るよ。それとも出来ないとでも思った? それだったら失礼しちゃうけど。──とまあ分析は置いといて、私はちゃんと説明してあげる。

 

「ん~? だから見せしめだって言ってるでしょ。だってほら、あなた達オロチ将軍に逆らったしね。それにここに来る途中で見たけど、ここの町の人、随分と笑顔に溢れてて余裕ありそうだったじゃない? だから町を破壊しても、まだギリギリなんとか生活は出来るんじゃないかなーって思ったの♪」

 

「……!! そんな訳は──」

 

「ないって? いやいや、楽しめてるうちは貧しくとも何ともないでしょ? ()()()()()()()()()()()()。──それにそういう余裕があるからこそ、謀反も起こす。だからまあ……笑えなくなるくらいの恐怖を与えたら、嫌でも従うようになるよね♡」

 

「っ……!!」

 

 あ、良い顔。歯を食いしばってる。これ、もうちょっと虐めたら泣くかな? え~? どうしよう。私、トキちゃんの泣き顔見たいなぁ~……でもこれ以上虐めると可哀想だしな~……でも見たいから虐めちゃうもんね~♪ 

 

「そもそもさぁ、あなたの夫がちゃんとワノ国に残ってればこんなことにはならなかったのよ? そういう自覚ある? ほらほら~、人が死んでるよ~? これからもいっぱい死ぬよ? 生活出来なくなって餓死かな? それとも衛生面が悪くて病気になっちゃうかな? 想像すると楽しいね~♡」

 

「っ……」

 

「黙れ外道が……!! ゆガラ達が……ゆガラ達とオロチがいなければ……!!」

 

 おおっと。ここで横からインターセプト。イヌアラシ選手が私の口撃に反論してくる。いいねぇ! よーし、それじゃ舌戦開始だー!! 

 

「ん~? 私のせいじゃないよ? 私はやりたいことをやっただけ。それを防げなかったのは弱いあなた達のせい。だから今死んだり苦しんだりしてる人も皆自分のせいだと思うけどな~」

 

「っ……ゆガラは……!!」

 

「災害は災害……人にあらずか……!!」

 

「あ、言っとくけど私は狂ってもないからね。至って平常。可愛い美少女よ。普通に考えたら分かるでしょ? 自分の不幸を他人のせいにするなんてナンセンスよねー。あなた達、海に出て海賊やってたのにそんなこともわからないの? ロジャーに教えて貰わなかったのかな~? この海で自由にやりたかったら、それなりの力がないとね!!」

 

 と、言いながら私は更に破壊を続ける。私にとっての正論を突きつけながら、彼らに自分たちが守るべきものがただ破壊されていく、弱者の屈辱と私達の恐怖を刻み込む。

 

「でもやっぱり~~~それは私の考えで、世間一般的に考えると、その国の住人が死んだり苦しんだりするのはそこを治める為政者のせいだと思うなぁ。だからやっぱり、為政者として責務を放ったらかしてるおでんや、その家臣なのにクソ雑魚でおまけにバカなあなた達が悪いよね♪ あはははは!!」

 

「っ……!!」

 

「あ、泣いちゃう? あはは、泣くほど悔しい? いいねぇ、その表情!! それが見たかったんだよね~!! ぶっちゃけ誰が悪いとか悪くないとかどうでも良かったし。私はこうやって自分が楽しめればそれでいいの。自分の考えを他人に押し付けるとかやっちゃ駄目なんだからね~!!」

 

「ゆガラ……黙れ……!!」

 

「あー、怖い怖い。怖いワンちゃんでちゅね~~~? そんなに睨んでも私は殺せませんよ~? 弱い自分が悪いんだよ~? あはは!! まったくさぁ。弱いなら弱いなりに大人しくしたり、もうちょっと頭使えばいいのにさ。弱いのに下手な行動取るからこうやって痛い目見るって分からないかな~? あ、でもあなた達が私達百獣海賊団に入るならやめてあげるけど……どうする?」

 

「っ……ふざけるな……!!」

 

「誰がお前達の仲間になどなるか……!!」

 

 と、私は俄然楽しくなりながらUFOを何機か動かして、人間を宙に浮かせる。それを指しながら、

 

「ふーん。それじゃ、もっと一緒にショーを楽しもっか!! 安心してね~~あなた達にはこれから指一本触れないし、絶対に傷つけないから!! 城に行った侍達も無事に帰してあげる。皆強くて期待出来そうな戦力ばかりだしね! だから傷つけるのはあなた達が守らなきゃいけない人々だけ♡ お茶菓子とお茶でも飲みながら楽しんでね!! あ、雑談しながらでもいいよ!! ロジャーの話とかで花を咲かせてみる? もしかしたら仲良くなれるかもしれないし、私も仲良くしたいからね~♪」

 

 私は部下に言いつけて、本当にお茶とお茶菓子を持ってこさせながら、そのショーを実行した。何度か私を止めようと犬と河童が頑張ってたけど、何度か叩いて躾ければ嫌でも動かなくなる。そうしながら、私は彼らに話しかけてあげる。実際、仲良くなってみたいのは本当だしね。まあ、立場もあるし、見せしめと両立させるのはやっぱり無理だろうけどね。──しかしやろうと思えば姿()()()()()近づけばいいので本当にやりたくなったらそうすることにする。とりあえず、今は存分に屈辱と恐怖を味わってもらおう。

 それじゃ、最初は人間が高所から落下して死ぬ様でも見せてあげよっと。その次は解体ショーかな!!

 

「はぁーい。皆がんばれがんばれー♡ 泣いても叫んでもやめないよー♪ しっかり自分の弱さを噛み締めて耐えてー!! ほらほら、出来る出来る絶対出来るよー!! あー、雑魚だねぇ♡ 弱いねぇ! 敵に情けをかけられて悔しいね~! あはははは!!」

 

 ──そうして1時間後。私は九里の城下町をある程度破壊してあげると、きちんと約束通り、トキやその子供達には一切手を出さずに、部下と一緒に鬼ヶ島へ引き上げた。しかも死にかけの連中やトキちゃんの足の治療もしてあげた。ちゃーんと、足の傷が見えなくなる()()()()()♡ その謎の親切もあって、今頃は私のことを得体の知れない化け物だの妖怪だの思ってくれてるんだろうなぁ~。良いことだね!! 

 

 

 

 

 

 ──後日。鬼ヶ島にて。

 

「ウォロロロ!! おいそれ、やりすぎじゃねェのか!?」

 

「え~? でも今も何とかギリギリの貧しい生活してるし、人も殺してないから見せしめにはちょうどよくない? 楽しいショーも見せてあげたし。──もっとも、笑顔は少なくなったけどね!!」

 

「ワハハ!! そりゃ面白ェな!! ならその分おれ達が笑ってやろうぜ!!」

 

「フッ……あの生意気な侍共には良い薬だな」

 

「あら、酷い人達。笑うなんて可哀想よ」

 

 私達の輪ではその侍の反抗やその見せしめの話もあって、笑いが絶えない宴となった。

 




ワノ国の住人虐め→死者は少ない
労働拒否の家族→オロチが見せしめに。オロチの境遇を考えると皆殺しはむしろ優しい
謀反→侍は無事に帰ってきた。謀反したのに極刑じゃない。優しい
UFO軍団→本気じゃない
犬と河童→まだ弱い(ぬえちゃん基準)
そもそもこの話→実はコピペミスで全部消えたので一回全部書き直した。最初の方がもうちょっと言葉責めが酷かった気がする。
今日のぬえちゃん→邪あ……今日も楽しそうで可愛いね!

百獣海賊団は今日もピースメイン! 次回はとうとう、海賊王の誕生です。お楽しみに

感想、評価、良ければお待ちしております。

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