正体不明の妖怪(になった男)、情緒不安定な百獣の腹心になる 作:黒岩
というわけで本編どうぞ
──遭遇した5隻の海賊艦隊との海戦の結果、ロックス海賊団は船3隻を沈め、1000名を超える船員を船長も含めて皆殺し、残った船2隻から物資を根こそぎ奪い、死体を全てその船に乗せてそのまま海に放置した。
「ジハハ……そういやァ略奪するって話だったのに沈めちまったな」
「ママママ、こいつらが弱すぎるのが悪ィのさ!」
「てめェらもうちょっと後先考えて動け! 仲間も無駄に殺しやがって……船長命令も聞けねェのかアホンダラァ!!」
甲板では積荷を船内に運び込む船員ら……それと、白ひげが船を真っ先に沈めてしまって笑う仲間に怒声を響かせていた。略奪が好きな訳ではないのに、船長の目的を考え、忖度して船を沈めないようにしていた白ひげからすれば、何も考えずに暴れ回る連中には腹が立つのだろう。その怒りは白ひげの恐ろしい強さも相まって、多くの船員は一旦だが多少は大人しくなる。
だが、それでも船員達の意見は“どうでもいい”というのが大多数だった。
「ギハハ! 荒れてるな、ニューゲート」
「っ……船長……」
そしてそこに、船長であるロックスが現れたことで、船員達が悪い笑みを浮かべる。船長は仲間殺しを認めてくれてるのだ。当然それを分かっているため、白ひげがバツが悪い表情を浮かべる。それが非常に小気味いいのだろう。
だが、
「仲間殺しをする仲間がそんなに気に入らねェか?」
「…………おれァこの船の船員だ……船長の方針には逆らわねェ……」
「ギハハ、よく言うぜ! 顔にはっきり不満だって書いてあるじゃねェか!! でもそれならはっきり言って、
「……? はっきり言って、やる……?」
言葉の意味がよく分からず、白ひげが言葉を疑問形で反復する。他の船員達もおおよそ殆どの者達が頭に疑問符を浮かべていた。
だがその意味は直ぐに分かった。ロックスが口の端を吊り上げ、言ったのだ。
「ニューゲート! お前は強ェ! 仲間殺しが許せねェってんなら、その強さでぶん殴ってでも黙らせちまえ!!」
「!!」
「!!? えっ!? せ、船長……?」
その意外な言葉に、白ひげを含む多くの船員達が困惑してしまう。だが白ひげ以外の彼らを、ロックスは見渡しながら告げた。
「何勘違いしてやがんだ? おめェら……おれァ仲間殺しは確かに認めたが、
「……!!」
そこでようやく……彼らは気づく。
ロックスが定めたこの船のルールは、基本自由。
最低限、与えられた仕事をこなし、絶対的な船長の命令さえ守るなら、彼らの抑えきれない個性を許し、それらがぶつかり合うことすら許す。
つまるところそれは……自己責任だ。
己の我を通すなら、己の力でやれ。仲間を殺してもいいが、殺されても知ったことではない。
良いことも悪いことも好きにしろ。己の正義と価値観に基づく行動を自由に取ればいい。それが海賊の道理だ。
──だがそれらがぶつかり合うなら……より強い方が勝つのが道理だと、
「ギハハハハ……! お前ら精々気をつけな……! 怒れるニューゲートに殴り殺されたところでおれは関与しねェ。弱ェ奴は強ェ奴のご機嫌取りでもした方が利口だぜェ……? ギハハハハ!!」
「船長……」
「ッ……!」
船員の……白ひげより弱いおおよその連中が僅かに表情を歪め、舌打ちをする者もいる。
ロックス海賊団の面々は誰もが好戦的で如何にも海賊らしい海賊だが……それでも馬鹿ではない。
敵の強さや実力差を見極める感覚くらい、当然の様に持ち合わせている。そう、当然だが、どれだけ人殺しが好きだろうと、ロックスを狙う者はいないし、他の強者達……リンリンやシキを狙う者もほぼいないし、いたとしてももう死んでいた。
それは白ひげも然り。彼の強さもまた、海賊達には知れ渡っているのだ。
つまり仲間殺しがしたいなら、白ひげの怒りを買わないよう、目の届かない場所で殺るか、それこそ実力に自信がある者だけが殺ればいい。
もっとも仲間殺しを嫌う白ひげだ。殺されはしないかもしれないが……仲間を殺す者にそんな保証がある筈もない。
そしてそれを理解した船員の僅かな動揺を見て、ロックスはやはり笑う。
「弱ェ奴は強い奴に淘汰されるか、支配されるしかねェ……! “弱肉強食”がおれの船のルールだ! お前らもおれに文句があるなら、いつでも掛かってきて構わねェぜ? ……だがそん時は、ちゃんと“覚悟”してから来いよ……? さっきの雑魚共みてェに、負けてからグチグチ言い出す様じゃ海賊としてみっともねェしなァ!! ギハハハハ!!」
「…………」
そしてそのロックスの言葉に、文句を言える者など誰もいない。──そんなことは、誰もが海賊になった時から分かっていた。
──強き者は生き……弱き者は死ぬ……この世はただ……それだけなのだ。
「──それで、“覇気”ってのはどう使えばいい?」
敵船の物資を略奪……まあ運搬を終えたところで、カイドウはそう尋ねてくる。
そこまで疲れてないにしろ、一応一戦終えて、一働き終えたのだからゆっくりしたいところなのだが、カイドウがそれを聞く筈もないし、しつこく聞いてくるに決まってる。
……まあ早く私に聞こうと、積荷の運搬を手伝ってくれたしいいかな、と私は諦めて一息入れると、その問いに答えた。
「えっと、まず“見聞色”と“武装色”。それに“覇王色”の3つがあって……あ、さっきも言ったけど、覇気は“気配”とか“気合”とか“威圧”とかその意志による体内に流れる見えないエネルギーで──」
「──長ったらしい説明はごめんだぞ」
「はいはい、注文が多いわね……まあ要するにそれぞれ戦闘に使える凄い力よ。まず“見聞色”の覇気は、相手の気配とか生物の感情とか心の声を読み取る力。それで攻撃の気配を読んで躱したり……後は、さっき船長がやってたみたいに、遠くの状況なんかも読み取ったり出来るの。凄い使い手だと、数秒先の未来まで見えたりするみたい」
ほう、とカイドウが頷く。うん、多分説明に間違いはないはず。ちゃんと伝えられてるようで良かった。
ちなみに、私は見聞色の覇気を鍛えようとして目隠ししながら1日を過ごしてたらその日に食べ物とか色んなものを盗まれて大変だった。結局それどころじゃなくなったし。
私は過去の苦い思い出を振り返りながら、立てていた指を1つから2つにして告げる。
「次に“武装色”の覇気。これは見えない鎧を身体に纏う感じで、体内の覇気を引き出して身に纏える力で、攻撃を強めたり出来るのよ。武器にも纏わせられるし……悪魔の実の能力者の実体を捉えて攻撃出来るから、それこそさっきの身体が変化する能力者の身体も、船長がやったみたいに殴ったり斬ったり出来るってことね。頑張れば身体の外にも出して触れずに相手を弾き飛ばしたり、相手の身体の内側も破壊したり出来るらしいわ」
「……意志の力ってことは……要は、ムカつく奴をぶっ殺すっていう殺気だろう。それならいつもやってる。いつも殺す気で殴ってるからな」
「それはそれは、海賊の勘で頼もしいわ……まあ、それで間違ってはないんだけど……うーん……でももうちょっと修行して鍛えないと使えないんじゃない?」
「──より殺す気で殴れってことか」
あっ、はい。もうそれでいいわ……と、私はカイドウの脳筋っぷりにげんなりする。殺気高すぎる。
でもカイドウなら本気でその感覚で覇気使っちゃいそうだから困る。今も「次からは1回で2回……いや、10回殺す気で殴るか」と言って金棒をぶんぶん振ってるし。怖い。そんなん当たったらぬえちゃん死んじゃう。
しかし武装色は実際、どう鍛えたらいいかいまいち分かんなくて、昔は色々と無茶をしようとして失敗した。硬い石を見つけてきて殴って割ろうとしてみたり……とにかく色々叩いてみたけど怪我をするばかりで一向に上達しなかったなぁ。
ちょっと懐かしさすら覚えつつ、3本目の指を立てる。最後は、
「最後は……“覇王色”の覇気ね。相手を威圧して、それだけで相手を倒したり出来るんだけど……これは鍛えてどうにかなるものじゃなくて……素質がある者しか使えないのよね。……ま、カイドウなら大丈夫だろうけど」
「ウォロロロ! 当然だ!!」
素質があるに決まってるとカイドウを褒めると、カイドウは口を開けて大笑いしてそれを誇った。可愛いところあるじゃないのって。
しかし私は……まあ、これも試したは試したことあるけど、当然出来なかった。そもそもどうすればいいのか分からない。凄んでみても私じゃ可愛いだけだ。まあ覇王色に関してはカイドウが使えるだろうし、それで──
「よし、大体分かった。それじゃ全部覚えるぞ、ぬえ」
「あ~……やっぱそうなる?」
カイドウのその発言に私は頬を掻きながらバツが悪そうに苦笑し、目を横にそらす。
正直、私が修行したところで……素質を引き出せないまま終わる大多数の人になるだけな気がして、
「──バカ野郎! やるに決まってんだろう!! 他の奴が出来て、
「!」
──だが、カイドウの方はそうは思っていないようだった。
大声で何気なく言ったその言葉に、私は思わず面食らう。
しばらく、その発言を頭の中で噛み砕き、それを脳に落とし込むと私は息を漏らした。
「……まったく、無責任に言ってくれちゃって……」
「? 何か言ったか?」
「~~~っ! なんでもないっ! 強いて言うなら、野郎じゃないってのよ私は!!」
「……? それなら構わねェが……お前もちゃんとその覇気って奴を使えるようになれよ。おれについてくるのに弱いままなんざ許さねェ。お前も強くなれ」
「…………あー、もう! わかった! やるわよ! 私もやる! これで文句ないでしょ!!」
「ウォロロロ!! そうだ! それでいい!! それで強ェ奴やムカつくことを片っ端から壊しちまおう!!」
と、上機嫌になるカイドウとは裏腹に、ふん、と私は腕を組んでそっぽを向いてみせる。
やっぱカイドウは酔っていなくても馬鹿だ。話が通じない。私が出来ないって言外に態度で示してるのに、何の根拠もなく私まで出来るとか言っちゃうし。無茶苦茶だ。
でも……いいわ。やるだけはやってやる。どうせ嫌だって言ってもカイドウに付き合わされるだけだし、そもそもこの船にいる以上、覇気の習得の可否に関係なく少しでも鍛えとかないと酷いことになる気がする。
だから私は久し振りに気合いを入れることにした。よし、やったるぞー!
「ならさっそくやるわよ!」
「よし! それならおれにいい考えがある!!」
「……いい考え?」
やる気を見せた私に、カイドウもやる気を見せて勢い良く発言する。いい考え?
……まあ、今の私の覇気についての説明を聞いて、何か思いついたのだろう。実際、カイドウなら覇気を使えるようになるのだから、そのカイドウの考えたことならいけるかもしれない。
ということで私は感じた嫌な予感を頭から追いやり、それに耳を傾けた。カイドウが1つずつ説明する。
「まず、おれがお前を殺す気で、いつもより“
「うん! それで──…………ん?」
「お前はおれの攻撃の“気配”を読み取って避ける」
「…………それで?」
「それをしながらお互いに“威圧”しあう。お前もおれを殺す気で攻撃しても構わねェし、おれもそれを読み取って避ける。──これで行くぞ!!」
「…………」
私は絶句する。嫌な予感が当たった──これが見聞色の覇気か。違うけど。
カイドウが好戦的な笑みを私に向けて金棒を構える。うん、これってさ……要するに、
「…………実戦ってことじゃない!!? ──ひゃっ!?」
私は咄嗟にその場から飛び退く。金棒が顔の横すれすれで通り過ぎ、その風圧が私に寒気を引き起こした。カイドウはそれを見て、ニヤリ、と笑うと、
「やるじゃねェかぬえ!! 今のが見聞色か!!」
「当てずっぽうよ!!! って、いや待ってカイドウ!? ちょ──待っ……!」
「なんだ嫌なのか!? ──なら避けなくても構わねェ!! おれに殴られろ!!!」
「アホかァ!!! それじゃただのリンチでしょ!! 死ぬっつーのよ!!!」
「ならおれを殴り続けろ!!!」
「──変態か!!! どんな提案よ!! って危なっ──」
私は叫ぶようにツッコミながら攻撃を躱す──が、さすがにツッコミを入れる余裕がなくなってきた。床に激突して木の破片が飛び散るのを見てゾッとする。
「ああ……覇気覚える前に死ぬんじゃない? 私……」
「おおォォ!!!」
「っ! ぎゃあああああ!? はぷっ!? うっ……ぐっ……あーもう! せめて手加減しなさいよ!! 死ぬほど痛くて気絶しそうになったじゃない!!」
「! ウォロロロロロ!! 意外と頑丈だな、ぬえ!! もっと楽しもうぜ!!」
「~~~! このっ……! “ダーククラウド”!!」
「っ、あァ!?」
話をまったく聞いてくれないカイドウに、私は咄嗟に能力で黒雲を生み出してカイドウを撹乱する。そして身体がめちゃくちゃ痛い。カイドウの金棒はやはり、想像した以上の重さと痛さだった。うぶっ、吐きそう……!
だがそうやって気を失いかけるのを拷問で培った耐久力と精神力で耐えるのと同時に、私の堪忍袋の緒が切れた。もっと正しく言うと、やけくそ気味に、
「っ、もうどうなっても知らない!! 殴られるくらいなら私が一方的に殴り続けてやるわ!! 無茶苦茶すぎて一回くらい殴っておきたかったし!! 喰らえカイドウ!!」
「!! ……ウォロロロ!! 面白ェ!! やっぱりお前は最高だぜ、ぬえ!! こっちも行くぞォ!!! もっとお前を殴らせろォ!!!」
「嫌よ!! ずっと空を殴ってなさい!!!」
──そうしてしばらく、私とカイドウの修行というか、カイドウにとってはそうではないが、私にとっては初めての喧嘩を行った。
そして覇気も特に使えた感触はなく、最終的には、私の方が殴られて気絶したのは言うまでもないことだった。
──海戦から1日が経ち、ようやく船員達も落ち着いた頃。
甲板では、ロックス海賊団に所属する全ての海賊達が集められていた。
「それで船長……次の目的地は──」
「ギハハハハ……まァ、頃合いか。そろそろ行き先とこれからのことを教えておいてやる……お前ら、耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ……! ここにいねェ奴らにも後で全員に一言一句そのままで伝えてやれ……!!」
白ひげの質問。これまでロックスが伏せ続けてきた目的地と、ここからの具体的な行動について、ロックスが頃合いだと甲板中央に置かれた赤い装飾のついた船長椅子──玉座に座りながら笑い、船員達に向かって宣言する。これから向かう先とその行動は、
「ギハハ……おれ達は今から世界政府加盟国のある島に行き…………そこでその国と
「!!?」
ロックスが発したその言葉の内容に、船員達の誰もが驚愕した。
薄々、それを行うと察していた者もいる。だがそれを聞いて、やはり本当に、とロックスのその本気度を感じ取り、やはり額に汗を垂らしていた。
部下の驚いた様子を見て、ロックスは大袈裟に身振り手振りを行いながら茶化すように続けた。
「おいおい!! おれの話を聞いて船に乗ったんじゃねェのかよおめぇら!? ギハハハハ!! それだけ驚かれるとこっちも困っちまうぜ!!」
「……それで? 海軍をぶっ殺してどうするんだい?」
「……まさか正面からぶっ潰すとは言わねェ……よな? 船長……」
リンリンが笑みのまま問いかけ、シキもその行動の理由を問いかけながらも、この船長なら自分の言ったことをやりかねないと引き攣った笑みを浮かべている。ロックスも、そんな彼らに答えてやろうと顔を向け、
「ギハハハハ!! まァ、いずれ全部ぶっ潰してはやるが、さすがに正面からいきなり戦争仕掛けることはしねェ」
「……じゃあ何の目的で?」
白ひげが問う。彼は腕を組みながらも真顔だ。それはやはり、彼が民間人を襲うことを好まないからであろう。世界政府加盟国とはいえ、何の罪もない一般人。彼らを傷つけたくはない。
だが船長命令を聞かないほど、筋の通らないことを白ひげはしない。そもそもそれらを覚悟して、この船に乗ったのだ。気は乗らなくても、やれと言われれば手を汚す覚悟は出来ている。
だがせめて理由は聞かせてほしい。そうじゃないと自分を納得させられない。そんな思いを白ひげは抱いていた。
そしてロックスはそれを知ってか知らずか、その理由を順番に、他の疑問と合わせて船員皆に答えるように説明を始めた。変わらない悪い笑みを浮かべ、
「ギハハ、そりゃ幾つか理由はあるが……まずは、名を上げるためだ」
「名を上げる……?」
ロックスは頷く。まずはそれだ、と、
「そうだ……! 海軍基地を襲撃してぶっ潰せば、嫌でもおれ達、旗揚げしたロックス海賊団のことが世界政府と海軍に伝わるだろ? ……『“
「……そんなことしなくても、勝手に名はあがるんじゃない?」
また質問が船員から上がる。そちらにロックスは顔を向けた。
「素直な質問だな、グロリオーサ……だが当然の疑問だ。まァ、答えてやる。それはな……海軍の馬鹿共におれ達の居場所を一時的に誤解させ、これからやることの邪魔をさせにくくするためさ」
「……どういうこと?」
再び続く疑問。意味を問う言葉に、ロックスは答えた。
「ギハハハハ……教えてやる。いいか? おれ達は海軍基地を襲撃して暴れ回った後…………“
「!!? ぐ、“
「出る……!!?」
「どういう事だ船長!?」
そう──“偉大なる航路”を出る。
言葉にすれば簡単なことだが、海賊達にとっては、その脱出方法も含めて衝撃を受ける発言だった。
船員達がざわつく中、ロックスはニヤニヤとしながら船員達に言う。
「ギハハ、落ち着けよお前ら。別に驚くことはねェさ。世界政府加盟国や海軍の基地、
「っ……!」
その言葉を徐々に理解していく海賊達。なるほど、と。確かに“偉大なる航路”にこだわる必要はないのかもしれない。
だが“偉大なる航路”で立派に海賊をする彼らにとっては、“偉大なる航路”を出ることは考えつかないことだった。
まさに盲点とも言うべきものだ。海軍も、まさか偉大なる航路の海軍基地を襲った後すぐに、偉大なる航路から出るとは思わないだろう。脱出方法も普通ではないので尚更捕捉されにくくなる。
だがその脱出方法についての疑問が今度は出てきた。
「……“凪の帯”をどうやって越える気なんだ……?」
「ギハハハハ! まさかお前からその質問が出るとはなァ、ええ? “金獅子”のシキ!! “空飛ぶ海賊”って言われてんだ! 分かるだろォ!?」
「……つまり、おれのフワフワの実の能力を使って“凪の帯”を越えるのか」
その答えに皆が得心する。シキのフワフワの実の能力で船を浮かして進めば、凪の帯を安全に越えられるからだ。
そもそも偉大なる航路は“赤い土の大陸”と凪の帯によって入ることすら困難だが、出るのもまた難しい。
偉大なる航路を挟む凪の帯は、その名の通り、風がまったく吹かない海であり、嵐なども発生しない。帆船が海を進むには困難な海だ。
だがそれよりも、凪の帯は大型海王類の巣ともなっており、それが凪の帯を抜けるのに最も難しい理由と言われている。
しかしシキの能力ならその問題を全てクリア出来るのだ。
「……初めから、おれの能力を当てにするつもりで……」
「ギハハ……いいや。別にお前がいなけりゃいないで普通に抜けるさ。幾つか安全にするための方法はあるし、海王類の数匹くらいなら、
「…………」
海王類すら恐れていないロックスという男に、シキを含めた殆どの船員達が言葉を失う。この男ならやってしまうのだろうと。
「ギハハハハ!! まァ、そういう訳だ!! おれ達は今から文字通り……世界の海を股にかけるのさ……!! “
「……!!」
ロックスの発言に、ロックス海賊団の面々の誰もが息を呑んだ。
ところどころ、まだ分からない部分はある。ある程度は方針や指針は明かされたが、一部の明かされた情報には新たな疑問が浮上する。
──だが、それでも誰もが感じ取る……この男は“本気”だ。
あの海賊島ハチノスで語った“儲け話”に嘘偽りはない。このロックスという男は、本気で世界政府を転覆させ、世界の王になろうとしている。
「ギハハハハ……! なァに、難しく考える必要はねェ……! 作戦は全部おれが考えてあるし、おれに最初についてきたお前らには存分に良い思いをさせてやるさ……! ギハハ、働き者で部下思いの船長を持って幸せだろ? アホ面晒して、奴隷を虐めることしか能がねェ天竜人なんかより、よっぽど良い王になると思わねェか? ──なァ、野郎共!!!」
「は──はい!! ロックス船長!!!」
もはや疑う余地はない。自分達の船長はまさしく……世界をひっくり返す存在であった。
「──凄ェな」
「……そうね……」
そして──船員の1人として、それを目の当たりにした私は、隣にいるカイドウの言葉に頷く。
ロックスという男の凄まじさ。その身体から自然と漏れ出る……覇気だろうか。その迫力には相変わらず息を呑まされる。
「これはおれもさっさと覇気を覚えるしかねェ……!!」
「……昨日みたいな実戦は──」
「やるぞ。当然じゃねェか。ウォロロロ……!」
──嫌だって言おうとしたんだけどなぁ……。
頭や腕などに巻いた包帯と全身の鈍い痛みにうんざりしながら私は息をつく。
そして、ロックス船長が以前から言い続けているその事を思い、呟いた。
「……天竜人、か……」
──この怪我の痛みも、カイドウとの模擬戦染みた修行も、あの時の痛みと恐怖に比べたら……。
私は怪我とは関係なく、震えてしまった右手を左手で押さえ……誰にも気づかれないように顔を下に向けて表情を隠した。
今回はこんな感じで。お話も進めながら船員との交流もやります。次回からはちょいちょい時間が飛んだりする感じで。一気に飛ばしたりはしないけど、テンポ良くいきたい。次回は明日。次期四皇の誰かと絡むかな。というわけでお楽しみに。
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